ゲスト
(ka0000)
【幻想】新たなる怠惰王
マスター:電気石八生
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/26 07:30
- 完成日
- 2019/01/30 11:03
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●出立
「これにて契約は履行された。よろしいな、女王」
怠惰ゴヴニアは、黄金にて形造られた豊麗な依代を直ぐに立てたまま言う。
「貴様の不遜、見逃してやれんな……石塊」
青木 燕太郎が愛槍の穂先をゴヴニアの鼻先へ突きつけた。
ビッグマー・ザ・ヘカトンケイルを吸収した彼にただの怠惰、ましてや本体ならぬ依代を潰すことなど造作もないことだが、しかし。
「うるさいどうでもいいちょっと黙って」
苛立った高い声音に打ち据えられ、しかめ面を退かせるよりなかった。
「もうすごく長くいっぱい待ったわ。すぐに急いで出るから」
あらんかぎりの早口で重ねたのは、毛先の乱れた長い髪の頂に小さな王冠を輝かせる少女である。
彼女を知る者が見れば驚愕したことだろう。眠たげに半ば閉ざされていたはずの眼は怒りの赤を映して煌々と輝き、細い肢体の隅々にまで圧倒的な負のマテリアルを滾らせているのだから。
――彼女こそがビッグマーより玉座を受け継ぎし新怠惰王オーロラ。
幼く未完成な心に最強の力を与えられた“暴君”である。
「女王が進むべき路、すでに用意はできておる。いつなりと出られよ」
「ビッグマーを殺したニンゲン、全部みんな殺してやる」
ゴヴニアが言い終えるのも待たず、駆け出して行こうとするオーロラ。
しかしその前を青木が塞ぎ、かぶりを振った。
「俺が道中の露払いをする。おまえへ蝿どもをたからせるわけにいかん」
「うざいキモイついてこないで」
「それだけは聞けん。言っただろう、俺はおまえを守る騎士だと」
首を傾げるオーロラと、厳しくもやさしい目で彼女を見据える青木。
なんとも報われぬ有様よな。ゴヴニアは肩をすくめ、青木へ告げる。
「路を辿らば迷うことはない。ただし、路の一部は人間によって打ち壊されておる。その他に荒らされた箇所もあろう。その間は……女王に添うを控えるのだな」
「石塊がこの俺を案じるだと?」
青木は黄金の胸元に槍の石突を突き立てた。
そしてがらりと割れ砕けるゴヴニアに冷めた目線を投げ。
「いずれ貴様の本体にもその驕慢を償わせてやる」
「ふむ。ならば入念に首を洗っておこうぞ。それまでは好きにさせてもらおうが」
苦笑を混じえて言い残し、依り代の欠片は今度こそ沈黙した。
舌打ちする青木を、不機嫌な足を踏み鳴らしてオーロラが急かす。
「――なにしてるの遊んでないでもたもたしないで!」
「すぐに行く」
●覚悟
ゲモ・ママは集まったハンターたちへ、前置きもせずに切り出した。
「新しい怠惰王オーロラが南下を開始したわ。……路の意味はこっちでも予想してたけど、まさか王様が直で歩いて来るなんてねぇ」
先にゴヴニアが辺境を貫き、敷いたコンクリートの路。
それを辿り、青木を伴っただけのオーロラが森を抜け、荒野を渡ってさらにその先にある森を目ざしている。
そして。
「生き残りの戦士とアタシの個人的な情報源からのネタ合わせたとこによれば、オーロラは確実にビッグマーの“怠惰の感染”を引き継いで、進化させてる。“怠惰の大感染”って言うしかないくらい力をね」
それは勇敢なる辺境戦士たちの命を積んで得た情報だ。
彼らの死を悼みつつ、ママはそれを振り切って言葉を継ぐ。
「ただ、生き残れた戦士の中に、不思議なこと言ってる人がいるのよ。対感染結界が壊れた後、普通に逃げおおせたって、ね。基本的に怠惰の感染はパッシブみてぇなもんなのに、死んだ人と生き延びた人がいる。これってどういうことなのかしらね……」
ママは一度言葉を切り、視線を左右へ泳がせて、覚悟を決めたように息をついた。
「今回は対青木と対オーロラ、両面作戦を展開するわ。……力の有り様が少しはわかってる青木に人数を割く形にせざるをえないんだけど」
青木とオーロラ、2体が共連れている状況は、こちらにとって都合が悪いどころではない。できることならばどちらかだけでも討ちとりたいのだ。だからこそ、判明している情報量の多い青木を優先する。まったくもって当然のことなのだが……。
「森の中じゃ対青木班が展開しづらくなるから、隙間の荒野で攻撃しかけるわ。ちょうどこの前ゴヴニアとやりあったあたりだけど。……ああ、今回はアンタたちの体ひとつで行ってもらうわ。CAMも幻獣も、置いてくることになったら困るからね」
ママはハンターたちへ思いを押し詰めた視線を送り、言った。
「アンタたちの仕事はオーロラが青木と合流しないように抑えて、生きて帰ってくること。それができるだけで次の手が考えられるわ。だから、とち狂って命賭けんじゃないわよ!」
ハンターたちは、ここに集められた人数が意外なほど少ない理由を悟る。対オーロラ班は、対青木班とは別の意味で決死隊なのだと。
「ハナシが飲み込めたんなら1回解散。再集合までにやりたいことしときなさいよ」
怠惰の大感染という不可避の絶望が音もなく世界を侵しつつあることを、誰もが感じずにいられなかった。
●白百合
青木の先導でゴヴニアの敷いた路を行くオーロラ。
怒りで尖った彼女の眼は思い出したように濁り、その都度凄絶な“絶望”を撒き散らしたが――彼女にとっては不本意なことだ。なぜなら、その間はビッグマーを思い出すことも忘れ果ててしまうから。
私はビッグマーを忘れない。
絶対。絶対。絶対。もう忘れちゃった昔みたいに、忘れないんだ。
かくて彼女は手にしたものを濁り始めた眼前にかざす。
それはいつかビッグマーがくれた白百合。
怠惰の大感染のただ中にあっても朽ちぬよう、ゴヴニアに金剛石でコーティングを施させた、たったひとつの形見。
見ててビッグマー。あいつらにあなたの力、思い知らせてやるから。
「これにて契約は履行された。よろしいな、女王」
怠惰ゴヴニアは、黄金にて形造られた豊麗な依代を直ぐに立てたまま言う。
「貴様の不遜、見逃してやれんな……石塊」
青木 燕太郎が愛槍の穂先をゴヴニアの鼻先へ突きつけた。
ビッグマー・ザ・ヘカトンケイルを吸収した彼にただの怠惰、ましてや本体ならぬ依代を潰すことなど造作もないことだが、しかし。
「うるさいどうでもいいちょっと黙って」
苛立った高い声音に打ち据えられ、しかめ面を退かせるよりなかった。
「もうすごく長くいっぱい待ったわ。すぐに急いで出るから」
あらんかぎりの早口で重ねたのは、毛先の乱れた長い髪の頂に小さな王冠を輝かせる少女である。
彼女を知る者が見れば驚愕したことだろう。眠たげに半ば閉ざされていたはずの眼は怒りの赤を映して煌々と輝き、細い肢体の隅々にまで圧倒的な負のマテリアルを滾らせているのだから。
――彼女こそがビッグマーより玉座を受け継ぎし新怠惰王オーロラ。
幼く未完成な心に最強の力を与えられた“暴君”である。
「女王が進むべき路、すでに用意はできておる。いつなりと出られよ」
「ビッグマーを殺したニンゲン、全部みんな殺してやる」
ゴヴニアが言い終えるのも待たず、駆け出して行こうとするオーロラ。
しかしその前を青木が塞ぎ、かぶりを振った。
「俺が道中の露払いをする。おまえへ蝿どもをたからせるわけにいかん」
「うざいキモイついてこないで」
「それだけは聞けん。言っただろう、俺はおまえを守る騎士だと」
首を傾げるオーロラと、厳しくもやさしい目で彼女を見据える青木。
なんとも報われぬ有様よな。ゴヴニアは肩をすくめ、青木へ告げる。
「路を辿らば迷うことはない。ただし、路の一部は人間によって打ち壊されておる。その他に荒らされた箇所もあろう。その間は……女王に添うを控えるのだな」
「石塊がこの俺を案じるだと?」
青木は黄金の胸元に槍の石突を突き立てた。
そしてがらりと割れ砕けるゴヴニアに冷めた目線を投げ。
「いずれ貴様の本体にもその驕慢を償わせてやる」
「ふむ。ならば入念に首を洗っておこうぞ。それまでは好きにさせてもらおうが」
苦笑を混じえて言い残し、依り代の欠片は今度こそ沈黙した。
舌打ちする青木を、不機嫌な足を踏み鳴らしてオーロラが急かす。
「――なにしてるの遊んでないでもたもたしないで!」
「すぐに行く」
●覚悟
ゲモ・ママは集まったハンターたちへ、前置きもせずに切り出した。
「新しい怠惰王オーロラが南下を開始したわ。……路の意味はこっちでも予想してたけど、まさか王様が直で歩いて来るなんてねぇ」
先にゴヴニアが辺境を貫き、敷いたコンクリートの路。
それを辿り、青木を伴っただけのオーロラが森を抜け、荒野を渡ってさらにその先にある森を目ざしている。
そして。
「生き残りの戦士とアタシの個人的な情報源からのネタ合わせたとこによれば、オーロラは確実にビッグマーの“怠惰の感染”を引き継いで、進化させてる。“怠惰の大感染”って言うしかないくらい力をね」
それは勇敢なる辺境戦士たちの命を積んで得た情報だ。
彼らの死を悼みつつ、ママはそれを振り切って言葉を継ぐ。
「ただ、生き残れた戦士の中に、不思議なこと言ってる人がいるのよ。対感染結界が壊れた後、普通に逃げおおせたって、ね。基本的に怠惰の感染はパッシブみてぇなもんなのに、死んだ人と生き延びた人がいる。これってどういうことなのかしらね……」
ママは一度言葉を切り、視線を左右へ泳がせて、覚悟を決めたように息をついた。
「今回は対青木と対オーロラ、両面作戦を展開するわ。……力の有り様が少しはわかってる青木に人数を割く形にせざるをえないんだけど」
青木とオーロラ、2体が共連れている状況は、こちらにとって都合が悪いどころではない。できることならばどちらかだけでも討ちとりたいのだ。だからこそ、判明している情報量の多い青木を優先する。まったくもって当然のことなのだが……。
「森の中じゃ対青木班が展開しづらくなるから、隙間の荒野で攻撃しかけるわ。ちょうどこの前ゴヴニアとやりあったあたりだけど。……ああ、今回はアンタたちの体ひとつで行ってもらうわ。CAMも幻獣も、置いてくることになったら困るからね」
ママはハンターたちへ思いを押し詰めた視線を送り、言った。
「アンタたちの仕事はオーロラが青木と合流しないように抑えて、生きて帰ってくること。それができるだけで次の手が考えられるわ。だから、とち狂って命賭けんじゃないわよ!」
ハンターたちは、ここに集められた人数が意外なほど少ない理由を悟る。対オーロラ班は、対青木班とは別の意味で決死隊なのだと。
「ハナシが飲み込めたんなら1回解散。再集合までにやりたいことしときなさいよ」
怠惰の大感染という不可避の絶望が音もなく世界を侵しつつあることを、誰もが感じずにいられなかった。
●白百合
青木の先導でゴヴニアの敷いた路を行くオーロラ。
怒りで尖った彼女の眼は思い出したように濁り、その都度凄絶な“絶望”を撒き散らしたが――彼女にとっては不本意なことだ。なぜなら、その間はビッグマーを思い出すことも忘れ果ててしまうから。
私はビッグマーを忘れない。
絶対。絶対。絶対。もう忘れちゃった昔みたいに、忘れないんだ。
かくて彼女は手にしたものを濁り始めた眼前にかざす。
それはいつかビッグマーがくれた白百合。
怠惰の大感染のただ中にあっても朽ちぬよう、ゴヴニアに金剛石でコーティングを施させた、たったひとつの形見。
見ててビッグマー。あいつらにあなたの力、思い知らせてやるから。
リプレイ本文
●突撃
青木 燕太郎に護られ、怠惰ゴヴニアが敷いた路を南下し続けるオーロラだったが。
ふと青木がオーロラへささやきかけ、かき消えた。
『対青木班のみなさん、行動開始しましたぁ』
魔箒「Shooting Star」に跨がり、高空からオーロラの観察と監視をしていた氷雨 柊(ka6302)からの通信が届く。
「ひとりになったとはいえ、この人数で抑えられるか」
ドワーフらしからぬつるりとした顎を指先で撫ぜるロニ・カルディス(ka0551)。しかし言葉とは裏腹に、心はしっかと据えている。
「これだけの聖導士が集まったの! たとえ女王様にだってひれ伏さない! 負けたりしない! 私たちの癒しの力でみんなを助けるの!」
ロニの心を引き取るようにディーナ・フェルミ(ka5843)が強く紡ぎ上げ。
「ええ、そのために私たちはここへ来たのですから」
Uisca Amhran(ka0754)が錬金杖「ヴァイザースタッフ」を伸べ、標のごとくにハンターへ進むべき先を示した。
苛立ちを踵に込めて路を躙り、オーロラは進む。
そのまわりに沸き出した雑魔は、路からこぼれ落ちたコンクリートの残骸が寄り集まっただけの、かろうじて人型を保つばかりのものだったが――ともあれオーロラがそれを認識しているようには見えなかった。
オーロラさんの思い出を映したものじゃない。だとしたら、ゴヴニアさんっていう怠惰の部下?
オーロラを目ざすUiscaはざっと雑魔の有り様へ視線をはしらせ、推察する。
「だったらぶっ壊しても大丈夫そうだな!」
魔導ママチャリ「銀嶺」で横合から突っ込んだボルディア・コンフラムス(ka0796)が、ドリフトを決めながら星神器「ペルナクス」を振り込み、1体を叩き崩した。
雑魔どもは声なきざわめきを発して散開、彼女を取り囲もうとするが。
「魔導エンジンなめんなよ!」
エンジンよりもその脚力で、容易く離脱してみせる。
「うるさい黙って濁るでしょ。私は今澄んでなきゃいけないのに」
しかめ面をようようとオーロラが上げ、手にした白百合で空をひと薙ぎした途端。
「あれ!? 足が――」
今まさに星神器「ウコンバサラ」を掲げて雑魔へ踏み込もうとしていたディーナが、自らの足を見下ろした。
動かない。まるで地面に貼りついたように……いや、これはちがう。
「足が、動くのやめちゃったみたいなの」
「足が封じられただけだ! 防御に専念して機を待て!」
展開した仲間の中央へ位置したロニが鋭く指示を飛ばす。
これが怠惰の大感染――後に語られるニガヨモギであろうはずはなかったが、脚が訴える異様なほどの倦怠感は、怠惰王の力によるものであるはずだ。
ハンター同様足を止められた雑魔が吐くコンクリート弾を、万歳丸(ka5665)は改造済みの法術盾「不壊なる揺光」で受け止めた。
怠惰の王にしちゃ怒りが剥き出しだ。話に聞いてた眠てェ顔もしてねェ。だったらよ、大感染んときゃどうだ?
万歳丸の前方で片膝をついたユウ(ka6891)は上体のみの動きで敵弾を避け、オーロラを透かし見た。
踏み出す前に重ねがけたアクセルオーバーとランアウトは今も有効だ。ただ、足が動かないだけで。試しに手での移動を試みてもいたが、動こうとした途端にその手は力を失った。だとすれば。
広角投射で辺りの雑魔どもを穿った彼女は、魔導スマートフォンで仲間へ通達。
「……彼女の力、足ならず移動を封じる力のようです」
果たしてオーロラばかりが歩き行く中10秒が過ぎ。
「切れたじゃん!」
再び脚に力が戻ったことを確かめることもせずにゾファル・G・初火(ka4407)が跳び出し。
「ぶっ飛べおらぁ! ……あ、ボルディアちゃん、なんかあったらヨロシクなー」
たった今雑魔の頭部を貫いた蒼機拳「ドラセナ」のマテリアル刃をふりふり、ボルディアへ合図を送った。
ちなみに彼女の腰には長いロープが巻きつけられていて、いざとなれば危険域から引っぱり出してもらうことになっている。
「壊れた雑魔が再生してるぞ! やたらと突っ込むなよ!」
駆けながら星神器「エクスカリバー」を振るい、雑魔を斬り払うリュー・グランフェスト(ka2419)が、その残骸に視線をはしらせてふたりの少女へ警告した。同時に半壊した路も確認はしているが、それよりも。
あの手に持ってる花、あれがこのよくわからない力の源じゃないか?
「うなれ私の大腿筋とヒラメ筋ーっ!」
同時にロケットスタートを決めた百鬼 一夏(ka7308)が、魔脚「獄狼を狩りし者」を装着した脚を伸べてつま先で雑魔を押し止め、それを支点にふわりと回転、強烈な後ろ回し蹴りを叩き込んだ。拳ならぬ脚であるから、白虎神拳ではなく白虎神脚と云うべきか。
こんなにヤバイ怠惰王の足止めなんて無茶言いますけど――一歩だって退く気、ありませんよ!
「雑魔、もろすぎますー?」
援護しつつ上空から戦場を俯瞰する柊が、小首を傾げて眉根を寄せた。
仲間を支援しつつ雑魔の観察を行ってきた彼女だが、特に法則性は発見できなかった。しかし、集中して見ていたからこそ、引っかかる。
今攻撃を受けた雑魔がまったく防御をしないのはなぜだ?
あ。
「今、移動じゃなくて受けが止められちゃったかもしれませんー!」
●白百合
戦場のハンターは、今まさに柊の報告を体感していた。防具を無視して体にねじ込まれるダメージ。まるで防具が守ることをやめてしまったかのように。
先陣に立つ万歳丸へコンクリート弾が殺到する。
「盾も意味なしかよ!」
しかし彼は押し立てた揺光を放しはしない。後ろにかばった仲間のために。
「無理をするな。おまえの言うとおり、まだ始まってすらいないのだからな」
万歳丸のカバーへ入り、敵の攻めの半ばを引き受けるロニ。
――ここへ来る前、彼は生き残った部族の戦士の共通点を調べてきていた。そしてそれは、同じ場にありながら、死んだ者よりも長く立っていた事実のみである。
彼らには立っていられた理由があるということだな。もっとも今の俺にはそれがなにか、まるで思いつけないが。
「いってぇじゃーん!」
さんざんに打ち据えられながらも雑魔を殴る手は止めないゾファル。
彼女にゴッドブレスを送ったディーナは、先に同じスキルを試したときのことと併せて確信を得た。
「怠惰王の力、BSじゃないの。私たちの力を止めるスキルでもない。私たち自身がそうするのをやめちゃうようにさせてるんだと思う」
トランシーバーとスマホへ同時に語り、唇を引き結んだ。
オーロラが白百合から発する力は無差別に“怠惰”を吹き込むもの。
ならば大感染は、なにをばらまく?
「おおっ!!」
ボルディアはペルナクスを横薙ぎにフルスイング、雑魔を吹き散らす。
オーロラの力に対してラストテリトリーを試したが効果は得られなかった。だとすればこれは、範囲攻撃ではないということだ。
リューは雑魔どもの攻めをステップワークですり抜け、エクスカリバーを一閃させた。
それを一瞥すらせず、彼はイライラと歩を進めるオーロラへ視線を据えていた。
怠惰王に戦う気はなし。雑魔を気にする様子もなしか。
10秒ごとに回避、魔法命中、近接威力、抵抗を放棄させられながらもハンターたちは雑魔を蹴散らし、ついにオーロラの前へ至る。
「こんにちはオーロラ! 今日はお元気そうですね?」
荒い息を無理矢理に飲み込んで、一夏がにっこりと笑んだ。
「うるさい邪魔うざい」
オーロラが白百合で空を薙げば、ハンターと雑魔の足が止まり、釘づけられた。
今のところ、生きることは放棄させられてない。そこまでの力がないといいんだけど。
Uiscaは息をついたが、ここからの正念場でなにが起こるかはまったくの未知。心を引き締め、静かに口を開いた。
「私はビッグマーさんともこうして真正面から対しました。その王の名にふさわしい勇敢さへ敬意を表して、あなたに彼の最期を伝えに来たのです」
これはひとつの賭け。オーロラの心を揺らして、その結果がどう出るものか。
「ビッグマー」
オーロラは無表情のまま平らかに唱え、次の瞬間、怒気に染まったマテリアルを噴き上げた。
「うるさいうるさいうるさい! ビッグマーを語るなビッグマーを騙るな! 私は殺すビッグマーを殺したおまえたちを全部全部全部!!」
オーロラの激昂が白く色づき、戦場を貫いた。
雑魔へユウが放った手裏剣「八握剣」は、あらぬ方向へ飛び去り、地に墜ちた。
この程度の雑魔相手に外すはずがない。だとすればこれは。
「移動だけではなく射撃命中も放棄させられています!」
アクセルオーバーを駆使し、オーロラの力が半径40メートルの内にある者を無差別に侵すことは確認、仲間へも伝えていたが。じりじりと領域を拡げつつあるこの“白”は――
上空に縫い止められたまま傷ついた仲間へヒールを送った柊は、それが無事に発動したことへ安堵する。オーロラが特に念じなければ放棄させられる能力はランダムであり、現状の最大は二項目であることが知れた。
それにしても。あの力はオーロラさんの怒りで高まった、そういうことでしょうかぁ?
彼女は澄みゆく“白”を視線でたどり、オーロラの有り様を観察しつつ、移動放棄状態が収まるのを待つ。
守りたいものを守るために。大切な人と生き抜くために。がんばりますよー!
移動放棄が収まった瞬間、リューはオーロラへ踏み出していた。
エクスカリバーにナイツ・オブ・ラウンドを発動させながら1歩、篝火をその刃に浮き上がらせ、オーラを噴き上げさせて2歩、踏み込んだ3歩めを強く踏み止めて。
オーロラが持つ白百合へ、龍貫の切っ先を突き込んだ。
禁句はわかった。次は見せてもらうぞ、おまえが白百合に攻撃を受けてどうするのか。
「あ」
とっさに避けようとしたオーロラだが、突き抜けゆく刃の勢いで白百合を手放した。
「調べるには良手だったけど、結果的には悪手だったわね」
オーロラの背後にいた雑魔の1体が唐突に言い放った。
「ゴヴニア!」
その場で唯一、声の主の正体に気づいたのは一夏だった。しかし、雑魔はすでに爆ぜ砕けていて、なにを指して言ったものかを問い質すことはかなわない。
そしてオーロラは――なにもしなかった。
底を抜かれた壺さながら、激しい怒りがその面から抜け落ちていく。
「全員で包囲! これ以上進ませてはいけない!」
ロニがプルガトリオで雑魔ごとオーロラを突き通したことを合図に、他のハンターもまた一斉に駆けだした。
「オラオラオーロラぁ! 花1本なくなっただけで怒れまちぇんかー!?」
オーロラへ野次を飛ばしつつ、スーパーオラツキモードで雑魔の目を引きずったゾファルが突っ込んだ。
桜吹雪の幻影を舞い散らし、縦横無尽のステッピングで雑魔を討ち、オーロラを打つ。
しかし。
オーロラは揺らがない。だらりと両手を下げたままうつむいて、まるでゾファルの攻撃が届いていないかのように、動かなかった。
「ビッグマーにもらった、白百合が、ない。私が……濁る」
オーロラのうそぶきに、ゾファルがぞくりと口の端を歪めた。
こりゃマジで届いてねーしガチでやべー!
「なんか始まってるぜ! みんな気ぃつけ」
ゾファルの声が力を失くし、途絶えた。そのまますとんと両膝をつき、倒れ込む。
なんだよ立てねー。俺様ちゃん、息すんのも――
オーロラの背後、にリューはすでに崩れ落ちていた。
雑魔への対処に回っていた一夏はゾファルやリューよりもオーロラから離れていた。だからこそ体感する。気力がごそりと削り落とされ、自分が息をすることすら放棄しかけていることを。
怠惰の大感染……ゴヴニアはオーロラのやる気が問題って言ってた。路が平らじゃないと、なにかの拍子にあの白百合を手放しちゃうかもしれなかったから。そういう、こと……
●ニガヨモギ
オーロラから這い出し、白を押し退けて拡がりゆく虚無。
それに飲まれた雑魔は次々に動きを止め、崩壊して消えた。
土はなけなしの水気を手放し、ざらざらとした砂へと姿を変えた。内に潜んでいる命もまた、同じように芥と成り果てたのだろう。
そのただ中、萎えた足を繰り、万歳丸はオーロラへ向かっていた。
スキルを尽くして抗ってはいたが、その抗い自体に意味がないことはすでに悟っている。それでも。
空っぽのツラしてやがんじゃねェか、王サマよォ。
オレはここでオシマイかもだけどな。
こいつだけは、死んでも言ってくぜ。
ディーナは投げ出してしまいたくなる呼吸を必死で繰り返し、スキルをつぎ込んだ2回回復で仲間を支えていた。
「絶対、助けるの!」
それを受けたUiscaは生きることをやめようとする体を無理矢理に動かし、斃れたリューへ白龍纏歌の音を注ぐ。
一夏へリザレクションをかけたロニも、その圧倒的な倦怠感の内で自らの命が損なわれていくことを感じていた。
抵抗を上げても無意味。オーロラから遠ざかるほど、侵される時間は遅らせられるようだが……
その彼から一夏の体を預かったユウが鋭く告げた。
「心を強く結びましょう! そして彼女の怒りをもう一度呼び覚ませば、あるいは!」
大感染に晒された戦士の一部が生き延びたのは、生への執念が大感染を上回ったからではないかと彼女は推察していた。そして同時に、オーロラ自身が虚無を上回るだけの激情を覚えればと。
「任しとけ!」
銀嶺を加速したボルディアが犬歯を剥く。
ガキのカタチしたのと戦うのは気が進まねえが……そりゃあおまえにも、おまえを最後まで守ろうとしたビッグマーにも失礼だよな。
「だからよ、本気で行くぜ」
銀嶺から炎癒の軌跡を引いて跳び降りたボルディアがオーロラの無表情、その額へ額を打ちつけた。
「なんだよ、おまえは俺らをブッ殺すんじゃなかったのか!? ビッグマーは最期まで全力でぶつかってきたぞ! テメェはどうなんだ、いじけて下向いてるだけか、オーロラぁ!?」
「ビッグ、マー」
オーロラの無表情が傾ぎ。
「誰?」
虚を突かれたボルディアをオーロラから遠ざけたのは万歳丸。
「言いてェことの半分は言ってもらっちまったからな。これだけ言っとく」
力を振り絞り、下へ落ちそうになる拳を振り上げて。
「怠惰の大感染がなんなのかはわかんねェ。でもよ、どうやらてめェにも影響あるみてェじゃねェか。なのにあんだけの怒りを燃やせるなんざスゲェよ、テメェは。だからよ」
額へ叩きつけて。
「てめェの大事なビッグマーの敵にここまで来られといて腑抜けてんじゃねェ!! 根性入れて殺りにこいやァぁぁぁあ!!」
言い切って、崩れ落ちる。
と。オーロラの青白い横面へ、こつり。復活を遂げたゾファルの拳が突き立って。
「お人形さん相手じゃ燃えねーじゃん? なあ、女王サマ」
そして前のめりに倒れ伏した。
「オーロラ! あなたの怒りはこんな簡単に忘れていいものだったんですか!? 馬鹿にしないでくださいよ、私たちもビッグマーもあなたも!!」
回復した命を懲りずに減らしながら、一夏がオーロラへ迫り、突きつけた。
「私は……根性……燃え、ない……?」
その蹴りを受けたオーロラの無表情にわずかな色が灯り。
●狭間
「大感染がゆるんだの!」
回復に力を尽くしていたディーナが反転。ウコンバサラの封印を解き、その雷の力をもってオーロラを打ち据えた。
どれくらい効いてくれるかわからないけど、みんなが脱出する時間、稼がなくちゃ!
「全員、一目散なの!」
動かぬオーロラを警戒しつつ、万歳丸を抱え上げて駆けだした。
「確かに私たちはビッグマーさんを倒そうとしました。でも、ビッグマーさんにとどめを刺したのは青木さんです。頭の片隅に入れておいてください」
その身に顕現した白龍消えゆく中、Uiscaは背中越し、オーロラへ告げた。
大感染の副作用が記憶を消すことなのかは知れないが、今のオーロラに問うても答がないことだけは知れていたから。
「ったく。生き返った瞬間死ぬとか、世話かけさせんぜ」
ぶっ倒れたままのゾファルをロープで引きずり、ボルディアは銀嶺に跳び乗った。荷台に乗せてるヒマねぇし、顔が半分になっちまったらゴメンな!
しかし大感染は発動と消滅を繰り返し、ハンターたちの背へ追いすがる。
「目の前に立てば一気に生きる気力を奪われる。なにか対策ができなければ、経験も強さも関係なく斃れるだけだ」
仲間へ自身の体験を伝えながら、リューは魔箒の速度を上げた。
――大感染の起動に関わってるのはあの白百合か。それだけは掴んだぞ。
「大感染の有効範囲はオーロラを中心に50メートルです! まずはそこまで撤退を急いでください!」
ユウに続き、空の柊も通信を飛ばしてきた。
「高さも50メートルですー! これ以上拡がらないとは言い切れませんけど……!」
大感染が消滅した瞬間、ファントムハンドを伸べて徒歩の仲間を範囲外へと押し出しながら、彼女は最後まで“境目”を探り続けた。
残されたオーロラはしばし佇み。
白百合を拾い上げ、そっと胸にかき抱いた。濁っていた頭は澄み、意志が、思い出が、自我が灯る。
「私は絶対絶対ビッグマーを忘れない。行かなくちゃ早く早く早く」
再び歩き出したオーロラの目は、今まで以上の強い輝きを放っていた。
青木 燕太郎に護られ、怠惰ゴヴニアが敷いた路を南下し続けるオーロラだったが。
ふと青木がオーロラへささやきかけ、かき消えた。
『対青木班のみなさん、行動開始しましたぁ』
魔箒「Shooting Star」に跨がり、高空からオーロラの観察と監視をしていた氷雨 柊(ka6302)からの通信が届く。
「ひとりになったとはいえ、この人数で抑えられるか」
ドワーフらしからぬつるりとした顎を指先で撫ぜるロニ・カルディス(ka0551)。しかし言葉とは裏腹に、心はしっかと据えている。
「これだけの聖導士が集まったの! たとえ女王様にだってひれ伏さない! 負けたりしない! 私たちの癒しの力でみんなを助けるの!」
ロニの心を引き取るようにディーナ・フェルミ(ka5843)が強く紡ぎ上げ。
「ええ、そのために私たちはここへ来たのですから」
Uisca Amhran(ka0754)が錬金杖「ヴァイザースタッフ」を伸べ、標のごとくにハンターへ進むべき先を示した。
苛立ちを踵に込めて路を躙り、オーロラは進む。
そのまわりに沸き出した雑魔は、路からこぼれ落ちたコンクリートの残骸が寄り集まっただけの、かろうじて人型を保つばかりのものだったが――ともあれオーロラがそれを認識しているようには見えなかった。
オーロラさんの思い出を映したものじゃない。だとしたら、ゴヴニアさんっていう怠惰の部下?
オーロラを目ざすUiscaはざっと雑魔の有り様へ視線をはしらせ、推察する。
「だったらぶっ壊しても大丈夫そうだな!」
魔導ママチャリ「銀嶺」で横合から突っ込んだボルディア・コンフラムス(ka0796)が、ドリフトを決めながら星神器「ペルナクス」を振り込み、1体を叩き崩した。
雑魔どもは声なきざわめきを発して散開、彼女を取り囲もうとするが。
「魔導エンジンなめんなよ!」
エンジンよりもその脚力で、容易く離脱してみせる。
「うるさい黙って濁るでしょ。私は今澄んでなきゃいけないのに」
しかめ面をようようとオーロラが上げ、手にした白百合で空をひと薙ぎした途端。
「あれ!? 足が――」
今まさに星神器「ウコンバサラ」を掲げて雑魔へ踏み込もうとしていたディーナが、自らの足を見下ろした。
動かない。まるで地面に貼りついたように……いや、これはちがう。
「足が、動くのやめちゃったみたいなの」
「足が封じられただけだ! 防御に専念して機を待て!」
展開した仲間の中央へ位置したロニが鋭く指示を飛ばす。
これが怠惰の大感染――後に語られるニガヨモギであろうはずはなかったが、脚が訴える異様なほどの倦怠感は、怠惰王の力によるものであるはずだ。
ハンター同様足を止められた雑魔が吐くコンクリート弾を、万歳丸(ka5665)は改造済みの法術盾「不壊なる揺光」で受け止めた。
怠惰の王にしちゃ怒りが剥き出しだ。話に聞いてた眠てェ顔もしてねェ。だったらよ、大感染んときゃどうだ?
万歳丸の前方で片膝をついたユウ(ka6891)は上体のみの動きで敵弾を避け、オーロラを透かし見た。
踏み出す前に重ねがけたアクセルオーバーとランアウトは今も有効だ。ただ、足が動かないだけで。試しに手での移動を試みてもいたが、動こうとした途端にその手は力を失った。だとすれば。
広角投射で辺りの雑魔どもを穿った彼女は、魔導スマートフォンで仲間へ通達。
「……彼女の力、足ならず移動を封じる力のようです」
果たしてオーロラばかりが歩き行く中10秒が過ぎ。
「切れたじゃん!」
再び脚に力が戻ったことを確かめることもせずにゾファル・G・初火(ka4407)が跳び出し。
「ぶっ飛べおらぁ! ……あ、ボルディアちゃん、なんかあったらヨロシクなー」
たった今雑魔の頭部を貫いた蒼機拳「ドラセナ」のマテリアル刃をふりふり、ボルディアへ合図を送った。
ちなみに彼女の腰には長いロープが巻きつけられていて、いざとなれば危険域から引っぱり出してもらうことになっている。
「壊れた雑魔が再生してるぞ! やたらと突っ込むなよ!」
駆けながら星神器「エクスカリバー」を振るい、雑魔を斬り払うリュー・グランフェスト(ka2419)が、その残骸に視線をはしらせてふたりの少女へ警告した。同時に半壊した路も確認はしているが、それよりも。
あの手に持ってる花、あれがこのよくわからない力の源じゃないか?
「うなれ私の大腿筋とヒラメ筋ーっ!」
同時にロケットスタートを決めた百鬼 一夏(ka7308)が、魔脚「獄狼を狩りし者」を装着した脚を伸べてつま先で雑魔を押し止め、それを支点にふわりと回転、強烈な後ろ回し蹴りを叩き込んだ。拳ならぬ脚であるから、白虎神拳ではなく白虎神脚と云うべきか。
こんなにヤバイ怠惰王の足止めなんて無茶言いますけど――一歩だって退く気、ありませんよ!
「雑魔、もろすぎますー?」
援護しつつ上空から戦場を俯瞰する柊が、小首を傾げて眉根を寄せた。
仲間を支援しつつ雑魔の観察を行ってきた彼女だが、特に法則性は発見できなかった。しかし、集中して見ていたからこそ、引っかかる。
今攻撃を受けた雑魔がまったく防御をしないのはなぜだ?
あ。
「今、移動じゃなくて受けが止められちゃったかもしれませんー!」
●白百合
戦場のハンターは、今まさに柊の報告を体感していた。防具を無視して体にねじ込まれるダメージ。まるで防具が守ることをやめてしまったかのように。
先陣に立つ万歳丸へコンクリート弾が殺到する。
「盾も意味なしかよ!」
しかし彼は押し立てた揺光を放しはしない。後ろにかばった仲間のために。
「無理をするな。おまえの言うとおり、まだ始まってすらいないのだからな」
万歳丸のカバーへ入り、敵の攻めの半ばを引き受けるロニ。
――ここへ来る前、彼は生き残った部族の戦士の共通点を調べてきていた。そしてそれは、同じ場にありながら、死んだ者よりも長く立っていた事実のみである。
彼らには立っていられた理由があるということだな。もっとも今の俺にはそれがなにか、まるで思いつけないが。
「いってぇじゃーん!」
さんざんに打ち据えられながらも雑魔を殴る手は止めないゾファル。
彼女にゴッドブレスを送ったディーナは、先に同じスキルを試したときのことと併せて確信を得た。
「怠惰王の力、BSじゃないの。私たちの力を止めるスキルでもない。私たち自身がそうするのをやめちゃうようにさせてるんだと思う」
トランシーバーとスマホへ同時に語り、唇を引き結んだ。
オーロラが白百合から発する力は無差別に“怠惰”を吹き込むもの。
ならば大感染は、なにをばらまく?
「おおっ!!」
ボルディアはペルナクスを横薙ぎにフルスイング、雑魔を吹き散らす。
オーロラの力に対してラストテリトリーを試したが効果は得られなかった。だとすればこれは、範囲攻撃ではないということだ。
リューは雑魔どもの攻めをステップワークですり抜け、エクスカリバーを一閃させた。
それを一瞥すらせず、彼はイライラと歩を進めるオーロラへ視線を据えていた。
怠惰王に戦う気はなし。雑魔を気にする様子もなしか。
10秒ごとに回避、魔法命中、近接威力、抵抗を放棄させられながらもハンターたちは雑魔を蹴散らし、ついにオーロラの前へ至る。
「こんにちはオーロラ! 今日はお元気そうですね?」
荒い息を無理矢理に飲み込んで、一夏がにっこりと笑んだ。
「うるさい邪魔うざい」
オーロラが白百合で空を薙げば、ハンターと雑魔の足が止まり、釘づけられた。
今のところ、生きることは放棄させられてない。そこまでの力がないといいんだけど。
Uiscaは息をついたが、ここからの正念場でなにが起こるかはまったくの未知。心を引き締め、静かに口を開いた。
「私はビッグマーさんともこうして真正面から対しました。その王の名にふさわしい勇敢さへ敬意を表して、あなたに彼の最期を伝えに来たのです」
これはひとつの賭け。オーロラの心を揺らして、その結果がどう出るものか。
「ビッグマー」
オーロラは無表情のまま平らかに唱え、次の瞬間、怒気に染まったマテリアルを噴き上げた。
「うるさいうるさいうるさい! ビッグマーを語るなビッグマーを騙るな! 私は殺すビッグマーを殺したおまえたちを全部全部全部!!」
オーロラの激昂が白く色づき、戦場を貫いた。
雑魔へユウが放った手裏剣「八握剣」は、あらぬ方向へ飛び去り、地に墜ちた。
この程度の雑魔相手に外すはずがない。だとすればこれは。
「移動だけではなく射撃命中も放棄させられています!」
アクセルオーバーを駆使し、オーロラの力が半径40メートルの内にある者を無差別に侵すことは確認、仲間へも伝えていたが。じりじりと領域を拡げつつあるこの“白”は――
上空に縫い止められたまま傷ついた仲間へヒールを送った柊は、それが無事に発動したことへ安堵する。オーロラが特に念じなければ放棄させられる能力はランダムであり、現状の最大は二項目であることが知れた。
それにしても。あの力はオーロラさんの怒りで高まった、そういうことでしょうかぁ?
彼女は澄みゆく“白”を視線でたどり、オーロラの有り様を観察しつつ、移動放棄状態が収まるのを待つ。
守りたいものを守るために。大切な人と生き抜くために。がんばりますよー!
移動放棄が収まった瞬間、リューはオーロラへ踏み出していた。
エクスカリバーにナイツ・オブ・ラウンドを発動させながら1歩、篝火をその刃に浮き上がらせ、オーラを噴き上げさせて2歩、踏み込んだ3歩めを強く踏み止めて。
オーロラが持つ白百合へ、龍貫の切っ先を突き込んだ。
禁句はわかった。次は見せてもらうぞ、おまえが白百合に攻撃を受けてどうするのか。
「あ」
とっさに避けようとしたオーロラだが、突き抜けゆく刃の勢いで白百合を手放した。
「調べるには良手だったけど、結果的には悪手だったわね」
オーロラの背後にいた雑魔の1体が唐突に言い放った。
「ゴヴニア!」
その場で唯一、声の主の正体に気づいたのは一夏だった。しかし、雑魔はすでに爆ぜ砕けていて、なにを指して言ったものかを問い質すことはかなわない。
そしてオーロラは――なにもしなかった。
底を抜かれた壺さながら、激しい怒りがその面から抜け落ちていく。
「全員で包囲! これ以上進ませてはいけない!」
ロニがプルガトリオで雑魔ごとオーロラを突き通したことを合図に、他のハンターもまた一斉に駆けだした。
「オラオラオーロラぁ! 花1本なくなっただけで怒れまちぇんかー!?」
オーロラへ野次を飛ばしつつ、スーパーオラツキモードで雑魔の目を引きずったゾファルが突っ込んだ。
桜吹雪の幻影を舞い散らし、縦横無尽のステッピングで雑魔を討ち、オーロラを打つ。
しかし。
オーロラは揺らがない。だらりと両手を下げたままうつむいて、まるでゾファルの攻撃が届いていないかのように、動かなかった。
「ビッグマーにもらった、白百合が、ない。私が……濁る」
オーロラのうそぶきに、ゾファルがぞくりと口の端を歪めた。
こりゃマジで届いてねーしガチでやべー!
「なんか始まってるぜ! みんな気ぃつけ」
ゾファルの声が力を失くし、途絶えた。そのまますとんと両膝をつき、倒れ込む。
なんだよ立てねー。俺様ちゃん、息すんのも――
オーロラの背後、にリューはすでに崩れ落ちていた。
雑魔への対処に回っていた一夏はゾファルやリューよりもオーロラから離れていた。だからこそ体感する。気力がごそりと削り落とされ、自分が息をすることすら放棄しかけていることを。
怠惰の大感染……ゴヴニアはオーロラのやる気が問題って言ってた。路が平らじゃないと、なにかの拍子にあの白百合を手放しちゃうかもしれなかったから。そういう、こと……
●ニガヨモギ
オーロラから這い出し、白を押し退けて拡がりゆく虚無。
それに飲まれた雑魔は次々に動きを止め、崩壊して消えた。
土はなけなしの水気を手放し、ざらざらとした砂へと姿を変えた。内に潜んでいる命もまた、同じように芥と成り果てたのだろう。
そのただ中、萎えた足を繰り、万歳丸はオーロラへ向かっていた。
スキルを尽くして抗ってはいたが、その抗い自体に意味がないことはすでに悟っている。それでも。
空っぽのツラしてやがんじゃねェか、王サマよォ。
オレはここでオシマイかもだけどな。
こいつだけは、死んでも言ってくぜ。
ディーナは投げ出してしまいたくなる呼吸を必死で繰り返し、スキルをつぎ込んだ2回回復で仲間を支えていた。
「絶対、助けるの!」
それを受けたUiscaは生きることをやめようとする体を無理矢理に動かし、斃れたリューへ白龍纏歌の音を注ぐ。
一夏へリザレクションをかけたロニも、その圧倒的な倦怠感の内で自らの命が損なわれていくことを感じていた。
抵抗を上げても無意味。オーロラから遠ざかるほど、侵される時間は遅らせられるようだが……
その彼から一夏の体を預かったユウが鋭く告げた。
「心を強く結びましょう! そして彼女の怒りをもう一度呼び覚ませば、あるいは!」
大感染に晒された戦士の一部が生き延びたのは、生への執念が大感染を上回ったからではないかと彼女は推察していた。そして同時に、オーロラ自身が虚無を上回るだけの激情を覚えればと。
「任しとけ!」
銀嶺を加速したボルディアが犬歯を剥く。
ガキのカタチしたのと戦うのは気が進まねえが……そりゃあおまえにも、おまえを最後まで守ろうとしたビッグマーにも失礼だよな。
「だからよ、本気で行くぜ」
銀嶺から炎癒の軌跡を引いて跳び降りたボルディアがオーロラの無表情、その額へ額を打ちつけた。
「なんだよ、おまえは俺らをブッ殺すんじゃなかったのか!? ビッグマーは最期まで全力でぶつかってきたぞ! テメェはどうなんだ、いじけて下向いてるだけか、オーロラぁ!?」
「ビッグ、マー」
オーロラの無表情が傾ぎ。
「誰?」
虚を突かれたボルディアをオーロラから遠ざけたのは万歳丸。
「言いてェことの半分は言ってもらっちまったからな。これだけ言っとく」
力を振り絞り、下へ落ちそうになる拳を振り上げて。
「怠惰の大感染がなんなのかはわかんねェ。でもよ、どうやらてめェにも影響あるみてェじゃねェか。なのにあんだけの怒りを燃やせるなんざスゲェよ、テメェは。だからよ」
額へ叩きつけて。
「てめェの大事なビッグマーの敵にここまで来られといて腑抜けてんじゃねェ!! 根性入れて殺りにこいやァぁぁぁあ!!」
言い切って、崩れ落ちる。
と。オーロラの青白い横面へ、こつり。復活を遂げたゾファルの拳が突き立って。
「お人形さん相手じゃ燃えねーじゃん? なあ、女王サマ」
そして前のめりに倒れ伏した。
「オーロラ! あなたの怒りはこんな簡単に忘れていいものだったんですか!? 馬鹿にしないでくださいよ、私たちもビッグマーもあなたも!!」
回復した命を懲りずに減らしながら、一夏がオーロラへ迫り、突きつけた。
「私は……根性……燃え、ない……?」
その蹴りを受けたオーロラの無表情にわずかな色が灯り。
●狭間
「大感染がゆるんだの!」
回復に力を尽くしていたディーナが反転。ウコンバサラの封印を解き、その雷の力をもってオーロラを打ち据えた。
どれくらい効いてくれるかわからないけど、みんなが脱出する時間、稼がなくちゃ!
「全員、一目散なの!」
動かぬオーロラを警戒しつつ、万歳丸を抱え上げて駆けだした。
「確かに私たちはビッグマーさんを倒そうとしました。でも、ビッグマーさんにとどめを刺したのは青木さんです。頭の片隅に入れておいてください」
その身に顕現した白龍消えゆく中、Uiscaは背中越し、オーロラへ告げた。
大感染の副作用が記憶を消すことなのかは知れないが、今のオーロラに問うても答がないことだけは知れていたから。
「ったく。生き返った瞬間死ぬとか、世話かけさせんぜ」
ぶっ倒れたままのゾファルをロープで引きずり、ボルディアは銀嶺に跳び乗った。荷台に乗せてるヒマねぇし、顔が半分になっちまったらゴメンな!
しかし大感染は発動と消滅を繰り返し、ハンターたちの背へ追いすがる。
「目の前に立てば一気に生きる気力を奪われる。なにか対策ができなければ、経験も強さも関係なく斃れるだけだ」
仲間へ自身の体験を伝えながら、リューは魔箒の速度を上げた。
――大感染の起動に関わってるのはあの白百合か。それだけは掴んだぞ。
「大感染の有効範囲はオーロラを中心に50メートルです! まずはそこまで撤退を急いでください!」
ユウに続き、空の柊も通信を飛ばしてきた。
「高さも50メートルですー! これ以上拡がらないとは言い切れませんけど……!」
大感染が消滅した瞬間、ファントムハンドを伸べて徒歩の仲間を範囲外へと押し出しながら、彼女は最後まで“境目”を探り続けた。
残されたオーロラはしばし佇み。
白百合を拾い上げ、そっと胸にかき抱いた。濁っていた頭は澄み、意志が、思い出が、自我が灯る。
「私は絶対絶対ビッグマーを忘れない。行かなくちゃ早く早く早く」
再び歩き出したオーロラの目は、今まで以上の強い輝きを放っていた。
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【質問卓】教えてゲモママ! ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2019/01/23 22:25:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/24 06:53:13 |
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【相談卓】怠惰王との対峙 百鬼 一夏(ka7308) 鬼|17才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2019/01/25 22:36:46 |