ゲスト
(ka0000)
幻灯の殺人鬼
マスター:まれのぞみ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/29 19:00
- 完成日
- 2019/02/07 00:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
雑多な物がならぶバザール。
狭い界隈に立ち並ぶ数百はあろうかという露天の店先には、さまざまな品々が並び、異国から運ばれた奇妙な品や、あるいはどこかの貴族の家から流れてきたとおぼしき宝飾品の類までもが並んでいる。
良き物も、悪しき物も、あらゆる品々が並んでいるといわれるだけはある。
そして良きことも、悪しきことは人も同じ。
品の良さそうな婦人が頭からマントかぶり、隠れるようにして人ごとの中を歩いている。
懐の財布をぎゅっと握っているのは、街の守備隊の隊長をする夫からは、女ひとりでいくのはあまり感心がしないといわれている場所だからだ。
すでに、何人もの手が懐を狙って近づいてきたことがわかった。
早く去りたい――
気持ちが急く。
客を引く声が妙に耳に響く。
このような場所に婦人が足を踏み入れたのは、じきに仕事を辞し、引退をする夫の為であった。
それまでの人生に感謝として、何かを贈りたいのだ。
「そこな方――」
声がした。
「はい?」
まるで心を奪い去ろうとするような鋭い声だ。
女が振り返ると、そこには誰の姿もなかった。
ただテントがひとつ、物が一個。
箱だ。
黒い箱がぽつりとあった。
周囲の気配が消える。
婦人は手をのばすと、それを懐にしまい、女はその場を去った。
そのまなざしには生気はなかった。
●
「おや、こんなものを買ったことがあったかな?」
男が、それを見つけたのはすでに眠る支度を終えてからのことであった。
すでに毎夜のようにつづいた年末年始の――彼の公務としての――祝い事も一通り終わり、しばらくは、いやじきに静かな宵がつづくはずである。
「さぁ?」
昼間、それを手にしていたはずの女は首をかしげた。
正気を取り戻した瞳には、まるで記憶にないという困惑が浮かんでいる。
「まあ、わしが買ったまま放っておいた物かもしれんな」
中身を確認し、それがオルゴールであり、箱の中に蝋燭をつけると音に合わせて影絵があたりの壁に映し出す機械仕掛けがあることがわかる。
異界より艦が来ていらい、異世界の遊びも世間には広まってきて、幾らか変わってきたが、旧来の――あるいは古風なと呼んでいいだろうか――世界の娯楽を好む者も多い。
時代に取り残されていると若い者はいうが、最新を追い続けるというのは勢い体力と精神力がいることなのだ。すでに過去の遺物と呼ばれる身となり、この春には職を後輩に託すことに決めている男は、そう考える。
すくなくとも保守的な性格をする妻と老いを供にするには、それで十分ではないだろうか――償いの思いを抱きながら男は、そう考える。
男は新婚の頃やったように、ベットの上でオルゴールを開いた。
●
まわる、まわる――
鉄をはじきながらオルゴールが音楽を奏でる。
幻灯が回る。
周囲に羊が牧場を歩く影絵が映る。
羊が一匹、二匹、三匹――やがて――少女がそれを追いはじめる。そして、その後から狼が迫ってくる。
小さな悲鳴をあげかけて、恥ずかしそうに妻は口元を隠して夫に笑いかけた。夫も、暖かな笑みが応える。
曲がつづく。
「おや?」
曲が変わっている。
暗い、まるで葬儀のような曲だ。
影絵の動きも変わっている。
羊が消えた、少女の姿もない。
ただ、狼が、狼のみがくわっと口を開き――その巨大な歯の影は現実の刃となって夫婦を襲った。
深夜、悲鳴が館に響いた――死ヲ死ヲ血ヲ血ヲ――
●
昨日までの上司も、もはやこうなってしまっては、かつては隊長と呼んでいた物だな――と心の中では不敬なことをつぶやきながら、街の警護を担う副隊長は手ではシーツのかぶせられた死骸を前に聖印を切る。
仲むつまじかった夫婦とも――あるのならば――死後の世界で生前はなしえなかった余生を幸せに暮らしてもらいたいものである。
「それにしても惨いですね」
部下が目を見張っている。
淡い白で彩られた寝室のベットや壁は鮮血にまだらに彩られ、昨夜、寝室にいた夫婦を襲った惨劇はいかなるものであったのかを物語っている。
「そういえば、こんな風に人を殺しまくった殺人鬼がいましたね」
なにげに思い出したのは何十年前の事件。
「ああ、そういえば上司殿の初手柄の仕事だったか」
記憶の書物の端にある事件だ。
当時、まだ若かった故人が、正体不明であった連続無差別殺人犯を仲間たちとともに追い詰めたというものだ。
「最後はどうなったんだっかな?」
「世間への逆恨みを口にしながら、上司殿たちに追い詰められての自死でしたっけ?」
「死ヲ死ヲ血ヲ血ヲ……だったかな?」
「ああ、そんな言葉でしたね。よく知ってらっしゃる」
「子供時代、亡くなったバアさまが子守唄代りのつもり夜な夜な聞かされて、一時期はトラウマになったからな」
「ご愁傷様です」
「その話がらみだったら、その件での恨みということはないだろうな。それに、これは人がやったというにはどうも腑に落ちない」
「どうしてです?」
「お前、あの方に剣の練習で勝てたことがあったか? あの方がいくら寝起きを襲われたとは言え、なんの反撃もなく倒されるとは俺には思えないんだ」
ベットには柄に収まったままの剣がある。
「するとヴォイドがらみですか?」
「知らんな。ハンターズギルドにでも相談を持って行くか?」
「それも手ですね――」
いい手も浮かばず、そうすることとなる。まこと、頭を失った組織は動きが鈍いものである。
そんな中、部下のひとりが、証拠品だと言って生気のない目のまま箱を、宿舎へと運んでいった。
狭い界隈に立ち並ぶ数百はあろうかという露天の店先には、さまざまな品々が並び、異国から運ばれた奇妙な品や、あるいはどこかの貴族の家から流れてきたとおぼしき宝飾品の類までもが並んでいる。
良き物も、悪しき物も、あらゆる品々が並んでいるといわれるだけはある。
そして良きことも、悪しきことは人も同じ。
品の良さそうな婦人が頭からマントかぶり、隠れるようにして人ごとの中を歩いている。
懐の財布をぎゅっと握っているのは、街の守備隊の隊長をする夫からは、女ひとりでいくのはあまり感心がしないといわれている場所だからだ。
すでに、何人もの手が懐を狙って近づいてきたことがわかった。
早く去りたい――
気持ちが急く。
客を引く声が妙に耳に響く。
このような場所に婦人が足を踏み入れたのは、じきに仕事を辞し、引退をする夫の為であった。
それまでの人生に感謝として、何かを贈りたいのだ。
「そこな方――」
声がした。
「はい?」
まるで心を奪い去ろうとするような鋭い声だ。
女が振り返ると、そこには誰の姿もなかった。
ただテントがひとつ、物が一個。
箱だ。
黒い箱がぽつりとあった。
周囲の気配が消える。
婦人は手をのばすと、それを懐にしまい、女はその場を去った。
そのまなざしには生気はなかった。
●
「おや、こんなものを買ったことがあったかな?」
男が、それを見つけたのはすでに眠る支度を終えてからのことであった。
すでに毎夜のようにつづいた年末年始の――彼の公務としての――祝い事も一通り終わり、しばらくは、いやじきに静かな宵がつづくはずである。
「さぁ?」
昼間、それを手にしていたはずの女は首をかしげた。
正気を取り戻した瞳には、まるで記憶にないという困惑が浮かんでいる。
「まあ、わしが買ったまま放っておいた物かもしれんな」
中身を確認し、それがオルゴールであり、箱の中に蝋燭をつけると音に合わせて影絵があたりの壁に映し出す機械仕掛けがあることがわかる。
異界より艦が来ていらい、異世界の遊びも世間には広まってきて、幾らか変わってきたが、旧来の――あるいは古風なと呼んでいいだろうか――世界の娯楽を好む者も多い。
時代に取り残されていると若い者はいうが、最新を追い続けるというのは勢い体力と精神力がいることなのだ。すでに過去の遺物と呼ばれる身となり、この春には職を後輩に託すことに決めている男は、そう考える。
すくなくとも保守的な性格をする妻と老いを供にするには、それで十分ではないだろうか――償いの思いを抱きながら男は、そう考える。
男は新婚の頃やったように、ベットの上でオルゴールを開いた。
●
まわる、まわる――
鉄をはじきながらオルゴールが音楽を奏でる。
幻灯が回る。
周囲に羊が牧場を歩く影絵が映る。
羊が一匹、二匹、三匹――やがて――少女がそれを追いはじめる。そして、その後から狼が迫ってくる。
小さな悲鳴をあげかけて、恥ずかしそうに妻は口元を隠して夫に笑いかけた。夫も、暖かな笑みが応える。
曲がつづく。
「おや?」
曲が変わっている。
暗い、まるで葬儀のような曲だ。
影絵の動きも変わっている。
羊が消えた、少女の姿もない。
ただ、狼が、狼のみがくわっと口を開き――その巨大な歯の影は現実の刃となって夫婦を襲った。
深夜、悲鳴が館に響いた――死ヲ死ヲ血ヲ血ヲ――
●
昨日までの上司も、もはやこうなってしまっては、かつては隊長と呼んでいた物だな――と心の中では不敬なことをつぶやきながら、街の警護を担う副隊長は手ではシーツのかぶせられた死骸を前に聖印を切る。
仲むつまじかった夫婦とも――あるのならば――死後の世界で生前はなしえなかった余生を幸せに暮らしてもらいたいものである。
「それにしても惨いですね」
部下が目を見張っている。
淡い白で彩られた寝室のベットや壁は鮮血にまだらに彩られ、昨夜、寝室にいた夫婦を襲った惨劇はいかなるものであったのかを物語っている。
「そういえば、こんな風に人を殺しまくった殺人鬼がいましたね」
なにげに思い出したのは何十年前の事件。
「ああ、そういえば上司殿の初手柄の仕事だったか」
記憶の書物の端にある事件だ。
当時、まだ若かった故人が、正体不明であった連続無差別殺人犯を仲間たちとともに追い詰めたというものだ。
「最後はどうなったんだっかな?」
「世間への逆恨みを口にしながら、上司殿たちに追い詰められての自死でしたっけ?」
「死ヲ死ヲ血ヲ血ヲ……だったかな?」
「ああ、そんな言葉でしたね。よく知ってらっしゃる」
「子供時代、亡くなったバアさまが子守唄代りのつもり夜な夜な聞かされて、一時期はトラウマになったからな」
「ご愁傷様です」
「その話がらみだったら、その件での恨みということはないだろうな。それに、これは人がやったというにはどうも腑に落ちない」
「どうしてです?」
「お前、あの方に剣の練習で勝てたことがあったか? あの方がいくら寝起きを襲われたとは言え、なんの反撃もなく倒されるとは俺には思えないんだ」
ベットには柄に収まったままの剣がある。
「するとヴォイドがらみですか?」
「知らんな。ハンターズギルドにでも相談を持って行くか?」
「それも手ですね――」
いい手も浮かばず、そうすることとなる。まこと、頭を失った組織は動きが鈍いものである。
そんな中、部下のひとりが、証拠品だと言って生気のない目のまま箱を、宿舎へと運んでいった。
リプレイ本文
雪が散っている。
背後から追っ手がくる。
振り返れば、彼を追い詰めた警護隊の若い男と、その恋人の顔がある。
「ああぁぁ――」
なんというよい顔をした者たちだろうか。あの顔を、体を切り刻んだとき、あの二人は、どれほど素敵な悲鳴を奏で、泣き、叫び――そして絶命の絶叫を唄いながら死んでいくのだろうか。
あぁぁ――
なんという甘美な願いか。
しかし、すでに追い詰められた身にはかなわぬ願望。
目の前は崖だ。
振り返って、笑いかけてやった。
そして、嗤いながら殺人鬼は死の懐へと飛び降りた。
走馬燈のように、彼のやりとげた素晴らしい仕事の数々――殺人――が思いだされる。ああ、なんと人生は苦しみという快楽に充ち満ちた世界であったことか。やはり、死ぬのは惜しいものだ。
ならば――と心に、彼のみが聞き知った声が誘いかける。
おおぅ、歪虚よ――
(さぁ、契約をしよう)
地上に打ち付けられた激しいショック。すべてが消えていくなか――もはや痛感もない――遠くなっていく意識の中で、彼は雪の上に仕事を終えた時にいつもやったように、血で髑髏の紋を描いた。
そして、それは死んで――いつの日にか、蘇る――
●
「最近隊長さんが恨まれてたとかそういう話があったら教えてほしいの。ついでに現場と遺体の再確認もしたいから、誰かに案内して貰えると助かるの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)のそんな依頼は、すぐに受け入れられた。
「同じ事件で恨まれていそうな他の人が居たら、その人の話も聞きたいの」
「さぁな。隊長が恨まれているのならば、俺たち警護隊が全員、この街の悪党どもに恨まれているさ。あんたらハンターたちが歪虚に恨まれているのと同じだと言えばも納得してもらえるかな?」
「なるほど。殺人事件……とは言っても、警備隊が調べている最中に我々が呼び出されるという事は……その歪虚の疑いがあるという事だな?」
レイア・アローネ(ka4082)が問う。
「そうだね。あらゆる可能性が消えた時、残った可能性がどんな荒唐無稽であっても、それが真実である可能性が高いからね」
部屋の扉を開ける。
「うっ――」
荒事に慣れたはずのハンターたちさえも息を呑み、声をなくした。
●
(抵抗の間もなく殺されたとの事だが、ならばもう一つ気になる事がある。賊はどこから侵入した? そしてどこから逃げ去った?)
レイアは部屋の中を歩き回っている。
(侵入はともかく、これだけの惨状なら返り血も浴びてる筈。形跡を残さずに逃げるのは困難を極める。鍵は? 密室か?)
長年、主人に仕えていた使用人の証言では朝、主人たちが起きてこないので部屋の鍵を開けたら、このような状態であったと、なかば狂乱した状態で答えている。
(逃走経路を隠すのはまだわかるが、リアルブルーのミステリー小説ではあるまいし、屋敷から出る痕跡まで徹底的に隠す意味がない。なら犯人はまだ家にいるのではないか? 歪虚の可能性もあるならどこにでも隠れられるが……)
レイアの頭には疑問がつぎつぎと浮かんでまとまらない。それらをつないで一枚の論理的な絵図を描き挙げるには、まだ幾分か時間が必要なようであった。
フィロ(ka6966)が壁や床を、どうやってお掃除したらいいのかしらといった顔をしながら、じっくりと観察している。事実、事件解決後は此処を受け継ぐであろう親族のために清掃しようと思っていて、血の飛び散り具合や血を踏んだ跡等丹念に観察しているのだ。
どうやら、汚れているのは、この寝室のみ。
他の部屋に荒らされた形跡はない。
部屋の中に何か持ち出されたことを疑わせるような不自然な空白や血の跡が残っていない場所があるかを確認――空白?
ベットの横に血のついていない、ちょうど四角い空白があった。
「あ、そこにはオルゴールがあったみたいで詰め所の方に持って帰ってますよ。まあ、じきに戻しますがね」
「そうですか。そうなると物盗りの犯行とは思えません。且つ突然この部屋で発生し他の部屋の被害も移動痕もない以上、歪虚絡みではあるのだろうと思います。物体に依るのか時間帯で発生するのかも不明です」
ディーナが、犯人や被害者残した血文字がないか遺体の倒れていた場所や寝室の壁確認していた。
「あら?」
なぜ気がつかなかったのだろう。
部屋の隅までいって、壁を見れば、無造作に飛び散ったに見える鮮血は、あまりにも大きな髑髏であった。
見上げた隊員の顔に驚嘆が浮かぶ。
「ウソだろ……奴は死んだはず……」
●
「ありがとうございました」
エルバッハ・リオン(ka2434)がお礼を言いながら、頭を下げる。
「さて――」
次は誰に聞こうか。
あたりを見回す。
屋敷の外は、冬の日差しがさんさんと射してはいるものの、道路に伸びた枯れた枝葉が激しく揺れ、自然、マントを頭からかぶりたくなる。
仲間たちが屋敷から出て行ってから、しばらくたつが、それっきりあたりに人影もほとんどない。
こんな日は、用事もなく家の外に出る者は少ない。
あるいは――
「噂のせい?」
すでに屋敷の件は周囲の人々の知ることとなっていた。
かつて暗殺者が暴れた街であるので、それを思い出した古老も多く、それを聞き知っている子や孫たちも自然、家を出なくなっているらしい。
多由羅(ka6167)が、さきほどから、ぶつぶつと言っている。
(人の仕業と思い難い所業の数々……夜とはいえ目撃情報が全くなかったのか? 惨劇の中、犯人の足跡は?)
仲間たちからの情報はツールごしに聞いたが、やはり仲間と同じような疑問が頭をよぎる。
「ちょっと――」
「えっ?」
気がつくと、エルバッハが裾を引っ張っている。
しっ
唇に重なる指は無言を語り、目は見るべき先を語る。
屋敷のそばに怪しい影があった。
黒いマントだろうか。
頭から足まで、まっくろ。漆黒の姿は、こんな真っ昼間では目立ちすぎる。
あまりにもあからさまで、逆に怪しくないのではないかと、ふたりでひそひそ話をしてしまうほどだ。
ふいに動いた。
あわてて、ふたりは後ろを追う。
角を曲がった。
「あ、待って――」
ふたりも同じ角を曲がった瞬間、放たれた弓矢のように刃が襲ってきた
刃を避ける。
剣を抜く間もない。
反射的に蹴りを入れていた。
手応えは――ない。
はらりとマントが落ちると、そこに姿はない。
「なに?」
胸騒ぎがする。
仲間たちとはだいぶ離れた場所へ来てしまった。
「あるいは誘っている……――?!」
なにか聞こえた。
はっとする。
「多由羅さん、聞こえましたか!?」
詰め所から救援の要請がきた。
「ええ――こちらも救援を求めたいのですけどね」
そう言うと、多由羅は抜刀して、殺意を隠そうともしない、周囲の影を睨んだ。
●
時間はすこしさかのぼる――
「オルゴールは魔導器などの類はないか!?」
レイアがはじけたような声をあげたのは、頭の中にあった正体不明の答えに気がついたからであった。
天啓といっていい。
だが、同時にそれに気がついていた者もいた。
多由羅が予言を残している。
(おそらくオルゴールを持ち去った人間はそれを覚えていないでしょう。が、他の隊員が小箱を目撃しているかもしれません)
確かに、現場へ来た男が覚えていた。
いつも軽口を叩く奴が、珍しく口数もなく装飾箱のようなものを詰め所へ運んでいったから覚えていたという。
「なんでも、大切なモノだと言っていたかな」
「大切なモノ?」
「証拠品ではなく?」
「ああ、言われてみればそういうものか」
「偶然……?」
――あるいは必然。
勘がささやく。
三人は顔を見合わせ――決意した。
そして、詰め所へと戻るとすぐに保管室へと向かう。
だが、一足遅かった。
すでに持ち出された後だ。
「どこへ?」
「なんでも隊の全員に見せる必要があるとかいって持って行きましたよ」
係員が書面を確認して答える。
「まずい!」
「どこ?」
「たぶん、会議室ですかね?」
部屋へ駆け込む。
扉を開けた瞬間、ディーナの目に血しぶきがかかった。
反射的に瞼を閉じる。
「なに?」
「目を開くと鮮血の地獄、まあ開けなくても血の地獄でしょうけど? どちらがいい?」
「言うまでもないわ。想定していた最悪のケースにかち当たったってだけよ」
開眼――抜刀――窓には木の戸が立てられ、火のない部屋は漆黒。
回転する幻灯が映っている。
鉄のはじくオルゴールにあわせて不気味な音が鳴り響き、ぐるぐると回る異形な生き物が踊るように四方の壁をうごめいている。
そして、灯に照らされた壁は血しぶきに染められ、奇怪なできごとがあったことを物語っている。
そして、あの紋章もある。
「犯罪の証か――」
「なぜ、そこまでして自己をアピールするの?」
敵の目的がわからない。
が――
ふと耳をすませば、周囲のうめき声は、まだ息があることがわかる。
(救う?)
(あるいは罠?)
リアルブルーでは地雷のように敵を殺しきるのではなく、重傷を負わせることで仲間に助けださせ、結果として敵の戦力を削る――人命を救おうとしている間は、直接、戦力にはできない――という手法が存在する。
暗殺者とは、人に特化した狩人と言っていい。
どうする――
三人は目を合わせ、そして三方に散った。
戦うと救う。
できる、できないではない。
ふたつを同時にこなさなくてならないのだ。
「すぐ助けに向かいます」
フィロが横たわる隊員に駆け寄る。
倒れているのは数人か。
少なくとも廊下へ連れて行かなくてはならない。
気にくわないが、相手の狙いどうり、しばらくは戦力にはならない。
ならば、レイアが盾となるより他にない。
箱から放たれた光と影が彼女の体をなぞるように這う。
女の胸元から刃がレイアを襲った。
「なっ――」
鎧の隙間を狙った一撃。
胸を突き刺す
「くっ」
手で刃を抜き、そのまま膝をつく。
まさか――である。
鎧を手に入れたとき店員から
「ちゃちな罠や攻撃なら正面から壊して突破するという防御力に重きを置いた鎧だがな、過信は禁物だぞ」
と注意を受けていたが、それが予言の言葉になるとは思わなかった。
ディーナは箱を睨んだ。
ディーナは負のマテリアルを箱から感じているのだ。
(あるいは箱そのものが歪虚?)
鞭のようにうねる影を、頭足類の足のように動いて、守りを固めている。
箱からあがってくる、まがまがしいオーラは光か闇か。
四方に踊る、踊る、灯と影。
胸を突き破って生まれ出でた殺人鬼の影は、にやりと嗤ってステップを踏む。
レイアの一撃をかわし、踊る、踊る。
影は、まるで水間にでも潜るように、人の影から影へと沈んで、隠れて、顔をだす。
「くっ」
しかも、仲間の体に映った獣が実体化して襲いかかってくる。
あるいは、足下から足下へ移動する影は、そこから短剣を抜いて、足を狙って仕掛けてくる。
ハンターたちは、踊り子のステップのように、それを華麗に避ける。
「さすがは元殺人鬼ね」
人体の弱点を的確に狙ってくる。
これではたまったものではない。先ほどのように不意を突かれねば、なんとにでもなるが、あからさまなフェイントであることも明らかだ。
この瞬間、この場所は、壁が、床が、そして、仲間はもちろん自分の体すらも敵そのものであるし、武器だともいえる。
「卑怯者!?」
歪虚をののしってみたところで何もならないが、口汚い言葉がでてくるのは、それだけ戦闘にストレスを感じている証拠だろう。
戦いに集中できない。
床に横たわった警備隊員の体からは、いまだ血が流れている。
早く、戦いを終えて手当をしなくては命が危ない。
だが、このままで、
「まず自分たちの命がどうなったものかわからない」
強者ゆえの経験が、考えるよりも、まず動くことによって敵の一撃を回避している。自分の反射神経、あるいは運のよさを褒めるべきかはわからない。これがいつまでつづくものか――やられた!
レイアの頬から血が流れる。
かすり傷だが、女性の顔に傷をつけるとは、
「やってくれるな」
けらけらと嗤う影の殺人鬼。
背後からディーナが襲う。
見事な一撃。
だが、影はなおも哄笑をあげている。
まるで痛めつけられたことに喜びをみいだしているようだ。
「サドでマゾなんですかぁぁぁ」
「変態め」
なんとも女の気持ちを逆なでる敵だろうか。人であった生前は、さぞや嫌らしい奴であったに違いない。
「もうすこしです!」
フィロの救援が終わって参戦してくる。
前後を後退して、時間を稼ぐ。
四方から襲ってくる影の化け物相手に防御に徹する。
敵は、影で、影であって、影でしかない。
だから、こそ――
「遅くなって、申し訳ありません!」
「助太刀いたします」
窓を突き破って、傷だらけのハンターたちが飛び込んできた。
光が入り込んでくる。
まぶしい光が、部屋を包み込む。
影は光とあるが、同時に影を消すほどの強烈な光もある。
強烈な採光によって、影の動きが止まった。
影は、影で、影でしかない。
人は、人で、人であり、歪虚ではないのだ。
ならば――
アイスボルトが箱を襲い、中の機械を凍らせた。
音はない。幻灯も止まった。
唇には微笑。
声には殺意。
「血をお望みでしたら私からどうぞ。ただし、覚悟をする事です。私の血は易々とは啜れませんので……」
疾風剣の一撃が箱をつぶす。
あとは――
もはや消えかかった影のように、ゆらめく殺人鬼の影。ハンターの手にする剣先に、黒い炎のように消えていく歪虚が歪んでいた。あたかも勝者のごとく嘲笑しながら消えていく。
「復讐を成し遂げたつもりか? 生憎だが御夫婦は貴様のところにはいかない。そして貴様も二度とこちらにはこれはしない!」
●
あれから数日。
幸い隊員たちは全員、一命をとりとめた。
大工を呼んで詰め所の化粧替えをしている。
フィロは、そんな職人たちの間を抜けて出て行くと、あの屋敷へと向かった。
借りてきた鍵で扉を開けて、廊下に仮置きしている愛用の掃除道具を手にすると清掃を始めた。昨日、事件解決後は此処を受け継ぐであろう親族のために清掃しようと思い血の飛び散り具合や血を踏んだ跡等丹念に観察していた。
時間はかかったが、じきに清掃が終わるだろう。
ふぅ――
汗ばんだ額をぬぐう。
冬の中にあって、たまにある暖かな日。
陽だまりのような一日だ。
その時、扉を叩く音がした。
誰だろうか――
そう思いながら、
「お帰りなさいませ」
そう言ってしまってから恥ずかしそう頬を染めながら、あわてながら口元を隠す。入ってきた仲間たちが笑っていた。
背後から追っ手がくる。
振り返れば、彼を追い詰めた警護隊の若い男と、その恋人の顔がある。
「ああぁぁ――」
なんというよい顔をした者たちだろうか。あの顔を、体を切り刻んだとき、あの二人は、どれほど素敵な悲鳴を奏で、泣き、叫び――そして絶命の絶叫を唄いながら死んでいくのだろうか。
あぁぁ――
なんという甘美な願いか。
しかし、すでに追い詰められた身にはかなわぬ願望。
目の前は崖だ。
振り返って、笑いかけてやった。
そして、嗤いながら殺人鬼は死の懐へと飛び降りた。
走馬燈のように、彼のやりとげた素晴らしい仕事の数々――殺人――が思いだされる。ああ、なんと人生は苦しみという快楽に充ち満ちた世界であったことか。やはり、死ぬのは惜しいものだ。
ならば――と心に、彼のみが聞き知った声が誘いかける。
おおぅ、歪虚よ――
(さぁ、契約をしよう)
地上に打ち付けられた激しいショック。すべてが消えていくなか――もはや痛感もない――遠くなっていく意識の中で、彼は雪の上に仕事を終えた時にいつもやったように、血で髑髏の紋を描いた。
そして、それは死んで――いつの日にか、蘇る――
●
「最近隊長さんが恨まれてたとかそういう話があったら教えてほしいの。ついでに現場と遺体の再確認もしたいから、誰かに案内して貰えると助かるの」
ディーナ・フェルミ(ka5843)のそんな依頼は、すぐに受け入れられた。
「同じ事件で恨まれていそうな他の人が居たら、その人の話も聞きたいの」
「さぁな。隊長が恨まれているのならば、俺たち警護隊が全員、この街の悪党どもに恨まれているさ。あんたらハンターたちが歪虚に恨まれているのと同じだと言えばも納得してもらえるかな?」
「なるほど。殺人事件……とは言っても、警備隊が調べている最中に我々が呼び出されるという事は……その歪虚の疑いがあるという事だな?」
レイア・アローネ(ka4082)が問う。
「そうだね。あらゆる可能性が消えた時、残った可能性がどんな荒唐無稽であっても、それが真実である可能性が高いからね」
部屋の扉を開ける。
「うっ――」
荒事に慣れたはずのハンターたちさえも息を呑み、声をなくした。
●
(抵抗の間もなく殺されたとの事だが、ならばもう一つ気になる事がある。賊はどこから侵入した? そしてどこから逃げ去った?)
レイアは部屋の中を歩き回っている。
(侵入はともかく、これだけの惨状なら返り血も浴びてる筈。形跡を残さずに逃げるのは困難を極める。鍵は? 密室か?)
長年、主人に仕えていた使用人の証言では朝、主人たちが起きてこないので部屋の鍵を開けたら、このような状態であったと、なかば狂乱した状態で答えている。
(逃走経路を隠すのはまだわかるが、リアルブルーのミステリー小説ではあるまいし、屋敷から出る痕跡まで徹底的に隠す意味がない。なら犯人はまだ家にいるのではないか? 歪虚の可能性もあるならどこにでも隠れられるが……)
レイアの頭には疑問がつぎつぎと浮かんでまとまらない。それらをつないで一枚の論理的な絵図を描き挙げるには、まだ幾分か時間が必要なようであった。
フィロ(ka6966)が壁や床を、どうやってお掃除したらいいのかしらといった顔をしながら、じっくりと観察している。事実、事件解決後は此処を受け継ぐであろう親族のために清掃しようと思っていて、血の飛び散り具合や血を踏んだ跡等丹念に観察しているのだ。
どうやら、汚れているのは、この寝室のみ。
他の部屋に荒らされた形跡はない。
部屋の中に何か持ち出されたことを疑わせるような不自然な空白や血の跡が残っていない場所があるかを確認――空白?
ベットの横に血のついていない、ちょうど四角い空白があった。
「あ、そこにはオルゴールがあったみたいで詰め所の方に持って帰ってますよ。まあ、じきに戻しますがね」
「そうですか。そうなると物盗りの犯行とは思えません。且つ突然この部屋で発生し他の部屋の被害も移動痕もない以上、歪虚絡みではあるのだろうと思います。物体に依るのか時間帯で発生するのかも不明です」
ディーナが、犯人や被害者残した血文字がないか遺体の倒れていた場所や寝室の壁確認していた。
「あら?」
なぜ気がつかなかったのだろう。
部屋の隅までいって、壁を見れば、無造作に飛び散ったに見える鮮血は、あまりにも大きな髑髏であった。
見上げた隊員の顔に驚嘆が浮かぶ。
「ウソだろ……奴は死んだはず……」
●
「ありがとうございました」
エルバッハ・リオン(ka2434)がお礼を言いながら、頭を下げる。
「さて――」
次は誰に聞こうか。
あたりを見回す。
屋敷の外は、冬の日差しがさんさんと射してはいるものの、道路に伸びた枯れた枝葉が激しく揺れ、自然、マントを頭からかぶりたくなる。
仲間たちが屋敷から出て行ってから、しばらくたつが、それっきりあたりに人影もほとんどない。
こんな日は、用事もなく家の外に出る者は少ない。
あるいは――
「噂のせい?」
すでに屋敷の件は周囲の人々の知ることとなっていた。
かつて暗殺者が暴れた街であるので、それを思い出した古老も多く、それを聞き知っている子や孫たちも自然、家を出なくなっているらしい。
多由羅(ka6167)が、さきほどから、ぶつぶつと言っている。
(人の仕業と思い難い所業の数々……夜とはいえ目撃情報が全くなかったのか? 惨劇の中、犯人の足跡は?)
仲間たちからの情報はツールごしに聞いたが、やはり仲間と同じような疑問が頭をよぎる。
「ちょっと――」
「えっ?」
気がつくと、エルバッハが裾を引っ張っている。
しっ
唇に重なる指は無言を語り、目は見るべき先を語る。
屋敷のそばに怪しい影があった。
黒いマントだろうか。
頭から足まで、まっくろ。漆黒の姿は、こんな真っ昼間では目立ちすぎる。
あまりにもあからさまで、逆に怪しくないのではないかと、ふたりでひそひそ話をしてしまうほどだ。
ふいに動いた。
あわてて、ふたりは後ろを追う。
角を曲がった。
「あ、待って――」
ふたりも同じ角を曲がった瞬間、放たれた弓矢のように刃が襲ってきた
刃を避ける。
剣を抜く間もない。
反射的に蹴りを入れていた。
手応えは――ない。
はらりとマントが落ちると、そこに姿はない。
「なに?」
胸騒ぎがする。
仲間たちとはだいぶ離れた場所へ来てしまった。
「あるいは誘っている……――?!」
なにか聞こえた。
はっとする。
「多由羅さん、聞こえましたか!?」
詰め所から救援の要請がきた。
「ええ――こちらも救援を求めたいのですけどね」
そう言うと、多由羅は抜刀して、殺意を隠そうともしない、周囲の影を睨んだ。
●
時間はすこしさかのぼる――
「オルゴールは魔導器などの類はないか!?」
レイアがはじけたような声をあげたのは、頭の中にあった正体不明の答えに気がついたからであった。
天啓といっていい。
だが、同時にそれに気がついていた者もいた。
多由羅が予言を残している。
(おそらくオルゴールを持ち去った人間はそれを覚えていないでしょう。が、他の隊員が小箱を目撃しているかもしれません)
確かに、現場へ来た男が覚えていた。
いつも軽口を叩く奴が、珍しく口数もなく装飾箱のようなものを詰め所へ運んでいったから覚えていたという。
「なんでも、大切なモノだと言っていたかな」
「大切なモノ?」
「証拠品ではなく?」
「ああ、言われてみればそういうものか」
「偶然……?」
――あるいは必然。
勘がささやく。
三人は顔を見合わせ――決意した。
そして、詰め所へと戻るとすぐに保管室へと向かう。
だが、一足遅かった。
すでに持ち出された後だ。
「どこへ?」
「なんでも隊の全員に見せる必要があるとかいって持って行きましたよ」
係員が書面を確認して答える。
「まずい!」
「どこ?」
「たぶん、会議室ですかね?」
部屋へ駆け込む。
扉を開けた瞬間、ディーナの目に血しぶきがかかった。
反射的に瞼を閉じる。
「なに?」
「目を開くと鮮血の地獄、まあ開けなくても血の地獄でしょうけど? どちらがいい?」
「言うまでもないわ。想定していた最悪のケースにかち当たったってだけよ」
開眼――抜刀――窓には木の戸が立てられ、火のない部屋は漆黒。
回転する幻灯が映っている。
鉄のはじくオルゴールにあわせて不気味な音が鳴り響き、ぐるぐると回る異形な生き物が踊るように四方の壁をうごめいている。
そして、灯に照らされた壁は血しぶきに染められ、奇怪なできごとがあったことを物語っている。
そして、あの紋章もある。
「犯罪の証か――」
「なぜ、そこまでして自己をアピールするの?」
敵の目的がわからない。
が――
ふと耳をすませば、周囲のうめき声は、まだ息があることがわかる。
(救う?)
(あるいは罠?)
リアルブルーでは地雷のように敵を殺しきるのではなく、重傷を負わせることで仲間に助けださせ、結果として敵の戦力を削る――人命を救おうとしている間は、直接、戦力にはできない――という手法が存在する。
暗殺者とは、人に特化した狩人と言っていい。
どうする――
三人は目を合わせ、そして三方に散った。
戦うと救う。
できる、できないではない。
ふたつを同時にこなさなくてならないのだ。
「すぐ助けに向かいます」
フィロが横たわる隊員に駆け寄る。
倒れているのは数人か。
少なくとも廊下へ連れて行かなくてはならない。
気にくわないが、相手の狙いどうり、しばらくは戦力にはならない。
ならば、レイアが盾となるより他にない。
箱から放たれた光と影が彼女の体をなぞるように這う。
女の胸元から刃がレイアを襲った。
「なっ――」
鎧の隙間を狙った一撃。
胸を突き刺す
「くっ」
手で刃を抜き、そのまま膝をつく。
まさか――である。
鎧を手に入れたとき店員から
「ちゃちな罠や攻撃なら正面から壊して突破するという防御力に重きを置いた鎧だがな、過信は禁物だぞ」
と注意を受けていたが、それが予言の言葉になるとは思わなかった。
ディーナは箱を睨んだ。
ディーナは負のマテリアルを箱から感じているのだ。
(あるいは箱そのものが歪虚?)
鞭のようにうねる影を、頭足類の足のように動いて、守りを固めている。
箱からあがってくる、まがまがしいオーラは光か闇か。
四方に踊る、踊る、灯と影。
胸を突き破って生まれ出でた殺人鬼の影は、にやりと嗤ってステップを踏む。
レイアの一撃をかわし、踊る、踊る。
影は、まるで水間にでも潜るように、人の影から影へと沈んで、隠れて、顔をだす。
「くっ」
しかも、仲間の体に映った獣が実体化して襲いかかってくる。
あるいは、足下から足下へ移動する影は、そこから短剣を抜いて、足を狙って仕掛けてくる。
ハンターたちは、踊り子のステップのように、それを華麗に避ける。
「さすがは元殺人鬼ね」
人体の弱点を的確に狙ってくる。
これではたまったものではない。先ほどのように不意を突かれねば、なんとにでもなるが、あからさまなフェイントであることも明らかだ。
この瞬間、この場所は、壁が、床が、そして、仲間はもちろん自分の体すらも敵そのものであるし、武器だともいえる。
「卑怯者!?」
歪虚をののしってみたところで何もならないが、口汚い言葉がでてくるのは、それだけ戦闘にストレスを感じている証拠だろう。
戦いに集中できない。
床に横たわった警備隊員の体からは、いまだ血が流れている。
早く、戦いを終えて手当をしなくては命が危ない。
だが、このままで、
「まず自分たちの命がどうなったものかわからない」
強者ゆえの経験が、考えるよりも、まず動くことによって敵の一撃を回避している。自分の反射神経、あるいは運のよさを褒めるべきかはわからない。これがいつまでつづくものか――やられた!
レイアの頬から血が流れる。
かすり傷だが、女性の顔に傷をつけるとは、
「やってくれるな」
けらけらと嗤う影の殺人鬼。
背後からディーナが襲う。
見事な一撃。
だが、影はなおも哄笑をあげている。
まるで痛めつけられたことに喜びをみいだしているようだ。
「サドでマゾなんですかぁぁぁ」
「変態め」
なんとも女の気持ちを逆なでる敵だろうか。人であった生前は、さぞや嫌らしい奴であったに違いない。
「もうすこしです!」
フィロの救援が終わって参戦してくる。
前後を後退して、時間を稼ぐ。
四方から襲ってくる影の化け物相手に防御に徹する。
敵は、影で、影であって、影でしかない。
だから、こそ――
「遅くなって、申し訳ありません!」
「助太刀いたします」
窓を突き破って、傷だらけのハンターたちが飛び込んできた。
光が入り込んでくる。
まぶしい光が、部屋を包み込む。
影は光とあるが、同時に影を消すほどの強烈な光もある。
強烈な採光によって、影の動きが止まった。
影は、影で、影でしかない。
人は、人で、人であり、歪虚ではないのだ。
ならば――
アイスボルトが箱を襲い、中の機械を凍らせた。
音はない。幻灯も止まった。
唇には微笑。
声には殺意。
「血をお望みでしたら私からどうぞ。ただし、覚悟をする事です。私の血は易々とは啜れませんので……」
疾風剣の一撃が箱をつぶす。
あとは――
もはや消えかかった影のように、ゆらめく殺人鬼の影。ハンターの手にする剣先に、黒い炎のように消えていく歪虚が歪んでいた。あたかも勝者のごとく嘲笑しながら消えていく。
「復讐を成し遂げたつもりか? 生憎だが御夫婦は貴様のところにはいかない。そして貴様も二度とこちらにはこれはしない!」
●
あれから数日。
幸い隊員たちは全員、一命をとりとめた。
大工を呼んで詰め所の化粧替えをしている。
フィロは、そんな職人たちの間を抜けて出て行くと、あの屋敷へと向かった。
借りてきた鍵で扉を開けて、廊下に仮置きしている愛用の掃除道具を手にすると清掃を始めた。昨日、事件解決後は此処を受け継ぐであろう親族のために清掃しようと思い血の飛び散り具合や血を踏んだ跡等丹念に観察していた。
時間はかかったが、じきに清掃が終わるだろう。
ふぅ――
汗ばんだ額をぬぐう。
冬の中にあって、たまにある暖かな日。
陽だまりのような一日だ。
その時、扉を叩く音がした。
誰だろうか――
そう思いながら、
「お帰りなさいませ」
そう言ってしまってから恥ずかしそう頬を染めながら、あわてながら口元を隠す。入ってきた仲間たちが笑っていた。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 乙女の護り
レイア・アローネ(ka4082)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/29 15:04:12 |
|
![]() |
死を撒き散らす悪意を探して ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/01/29 15:08:13 |