ゲスト
(ka0000)
荒野を走るダンゴムシ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/01/31 19:00
- 完成日
- 2019/02/07 01:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●南海の向こう、南方大陸。
扇型に突き出た岬の近くに、とあるリザードマンの集落がある。
集落は高床木組みの住宅で構成されているのだが、その一角に、それらと全く雰囲気の違う家屋があった。
四角い窓、四角い入り口がついた砂色の立方体。
その中には枯れ草が一面に敷き詰められ、多数の卵が置いてある。
この箱みたいな建物は、孵化場だ。リザードマンにも色々あるが、この部族は卵から産まれてくるのである。
卵のうちの幾つかは動いていた。中から、コツコツという音が聞こえてくる。
本日の見守り担当たちは(この部族では、大人全体が交替で卵の世話をする慣習がある)気もそぞろ。
「ドウダ。モウ出テキソウカ?」
「ヒビガ大キクナッテキテイルノガ、4ツアル。アレハ今日中ニ出テクルト思ウゾ」
「オオ、ソウカ。前回ハ皆駄目ニナッテシマッタカラナ。今度ハ全部ウマクイクトイイ」
そんなこんなで集落全体がそわついているまさにその時、よその部族から使いの者がやってきた。
「ナニゴトダ。コノ忙シイ時ニ……」
と言いつつ族長『大きな山』は、応対に出る。
やってきた使いは、奥地に住むリザードマン部族からのものだった。
「一体何用デアルカ」
尋ねる族長に使者は言う。
「浜ノ部族ニ助力ヲ頼ミタク参上イタシマシタ。実ハ我ラノ部族ガ治メル地ニ、巨大ナ歪虚ガ現レマシテ」
「ナニ、ドンナ歪虚ダ」
「口ノ大キサハ、家ヲ呑ムホド。足ハ数エキレナイホド。体ハ硬ク鎧ノヨウ。目玉ハ4ツ、ソノ1ツガ潰レテイマス」
「ソレハドウイウ悪サヲスルノカ?」
「手当タリ次第ノモノヲ踏ミ付ケ、破壊シテユクノデス。我ラノ集落モ襲ワレマシタ……」
そこで言葉を切った使者は、上下から瞼を閉じ、開く。
「幸イ部族ノ者ハ全員隠レ谷ニ避難出来タノデスガ、歪虚ハマダウロツイテオリマス。完全ニ息ノ根ヲ止メテシマワネバ、我ラハ集落ニ戻レズ、再建モ出来ナイ……ドウカ、力ヲ貸シテモラエマスマイカ」
部族は違うが同じリザードマンである。そしてお隣さんである。彼らの部族に災難が起きたとすれば、それは遠からず自分たちの部族にも降りかかってくる。
異常のことを考えて長は、力を貸すことを決めた。
「ウム、分カッタ」
ちょうどその時である。以前この地にやって来て箱を置き去って行った精霊が、急に出現してきたのは。
●ユニゾン島→南方大陸
常夏の空の下。
マゴイは新しく市民になったアスカとジグに、ソルジャー必需品であるインカムを渡す。
『……市民登録おめでとう……それでは早速これを……』
「これ、何?」「パイロットインカムみたいだな」
『……これはソルジャーインカム……撹乱電波にも……高濃度の負マテリアル汚染にも耐え……クリアな通信が可能……破壊対象のスキャンも出来るし……自分の健康状態も把握出来る……脈拍や血圧や体脂肪率や……現在位置の情報も……他には……』
噛んで含めてインカムの操作説明をしたマゴイは、アスカとジグをユニゾンの見回りへと送り出す。
『……それでは……行ってらっしゃい……気をつけて……就業時間を守り……ワーカーを保護してちょうだい……』
それが済むと、ウォッチャーの上に腰掛ける。
『……マテリアル炉が出来たし……保養所も出来たし……ソルジャーも来てくれた……これでユニゾンはますます安心安全……』
満足感にしばし浸った彼女は、ふと思い出す。
『……そうだわ……リザードマンたちは……どうしているのかしら……置いて来た簡易住宅を……ちゃんと活用出来ているかしら……』
これまでユニゾンの環境整備が忙しかったが、今はそれらが一段落した。確かめにいく暇が作れそう。
『……見に行ってみましょう……座標は分かっているし……』
マゴイはいそいそと市民生産機関の転移セクションに向かった。
そして以前訪れた南方大陸の一地点、リザードマン集落がある場所へ出現する。
するとリザードマンたちが何やら色めき立っていた。手に手に槍や弓を持ち、どこかへ出掛ける様子。
『オオ、白イ精霊』
『白イ精霊ガ現レタ』
『サテハゴ助力ニ来テクダサッタカ』
何のことやら分からなかったので事情を聞いてみれば、この付近に危険な歪虚が現れたのだとのこと。
これは自分が彼らへ直に力を貸していい事案なのかどうか考えてみたマゴイは、どうも違うのではないだろうかと判断した。
なので、ハンターオフィスに救援を要請した。急を要する事態であるようなので、ユニゾン転移扉の使用を自分の監視下において認めるという旨も伝えて。
●南方大陸到着
カチャは感動していた。船酔いに悩まされる事なく海を隔てた場所に来られたことに。
「船じゃない交通手段があるっていいですよね……いつもこうだったらなあ」
しかしいつまでも感動してはいられない。他ハンターと同様、歪虚退治の依頼を受けてここに来たのだ。
同行者はリザートマンの族長と、えり抜きの戦士たち15名。それと近隣部族の使者1名。
マゴイは扉の番をするからといって、同行してくれなかった。ゆらゆら手を振って見送るだけだ。
『……行ってらっしゃい……』
向かう先には、壁のような山がそびえている。その山のお陰で雲が出来、海岸一帯には緑が多いのだという。逆にそこを越えればからからに乾いているのだとか。
歪虚は荒野を驀進していた。
杭のようなものが突き刺さって潰れた目から、体液がどくどく噴き出している。
歪虚の中には痛みに対する逆上しかない。砂ぼこりを巻き上げ、乾いた大地を揺るがし、ひたすら、目茶苦茶に進んでいく。目につくもの全てに当たり散らしながら。
隠れ谷に潜んでいるリザードマン部族は、息を殺すようにして、遠方に霞むその姿を窺っている。
扇型に突き出た岬の近くに、とあるリザードマンの集落がある。
集落は高床木組みの住宅で構成されているのだが、その一角に、それらと全く雰囲気の違う家屋があった。
四角い窓、四角い入り口がついた砂色の立方体。
その中には枯れ草が一面に敷き詰められ、多数の卵が置いてある。
この箱みたいな建物は、孵化場だ。リザードマンにも色々あるが、この部族は卵から産まれてくるのである。
卵のうちの幾つかは動いていた。中から、コツコツという音が聞こえてくる。
本日の見守り担当たちは(この部族では、大人全体が交替で卵の世話をする慣習がある)気もそぞろ。
「ドウダ。モウ出テキソウカ?」
「ヒビガ大キクナッテキテイルノガ、4ツアル。アレハ今日中ニ出テクルト思ウゾ」
「オオ、ソウカ。前回ハ皆駄目ニナッテシマッタカラナ。今度ハ全部ウマクイクトイイ」
そんなこんなで集落全体がそわついているまさにその時、よその部族から使いの者がやってきた。
「ナニゴトダ。コノ忙シイ時ニ……」
と言いつつ族長『大きな山』は、応対に出る。
やってきた使いは、奥地に住むリザードマン部族からのものだった。
「一体何用デアルカ」
尋ねる族長に使者は言う。
「浜ノ部族ニ助力ヲ頼ミタク参上イタシマシタ。実ハ我ラノ部族ガ治メル地ニ、巨大ナ歪虚ガ現レマシテ」
「ナニ、ドンナ歪虚ダ」
「口ノ大キサハ、家ヲ呑ムホド。足ハ数エキレナイホド。体ハ硬ク鎧ノヨウ。目玉ハ4ツ、ソノ1ツガ潰レテイマス」
「ソレハドウイウ悪サヲスルノカ?」
「手当タリ次第ノモノヲ踏ミ付ケ、破壊シテユクノデス。我ラノ集落モ襲ワレマシタ……」
そこで言葉を切った使者は、上下から瞼を閉じ、開く。
「幸イ部族ノ者ハ全員隠レ谷ニ避難出来タノデスガ、歪虚ハマダウロツイテオリマス。完全ニ息ノ根ヲ止メテシマワネバ、我ラハ集落ニ戻レズ、再建モ出来ナイ……ドウカ、力ヲ貸シテモラエマスマイカ」
部族は違うが同じリザードマンである。そしてお隣さんである。彼らの部族に災難が起きたとすれば、それは遠からず自分たちの部族にも降りかかってくる。
異常のことを考えて長は、力を貸すことを決めた。
「ウム、分カッタ」
ちょうどその時である。以前この地にやって来て箱を置き去って行った精霊が、急に出現してきたのは。
●ユニゾン島→南方大陸
常夏の空の下。
マゴイは新しく市民になったアスカとジグに、ソルジャー必需品であるインカムを渡す。
『……市民登録おめでとう……それでは早速これを……』
「これ、何?」「パイロットインカムみたいだな」
『……これはソルジャーインカム……撹乱電波にも……高濃度の負マテリアル汚染にも耐え……クリアな通信が可能……破壊対象のスキャンも出来るし……自分の健康状態も把握出来る……脈拍や血圧や体脂肪率や……現在位置の情報も……他には……』
噛んで含めてインカムの操作説明をしたマゴイは、アスカとジグをユニゾンの見回りへと送り出す。
『……それでは……行ってらっしゃい……気をつけて……就業時間を守り……ワーカーを保護してちょうだい……』
それが済むと、ウォッチャーの上に腰掛ける。
『……マテリアル炉が出来たし……保養所も出来たし……ソルジャーも来てくれた……これでユニゾンはますます安心安全……』
満足感にしばし浸った彼女は、ふと思い出す。
『……そうだわ……リザードマンたちは……どうしているのかしら……置いて来た簡易住宅を……ちゃんと活用出来ているかしら……』
これまでユニゾンの環境整備が忙しかったが、今はそれらが一段落した。確かめにいく暇が作れそう。
『……見に行ってみましょう……座標は分かっているし……』
マゴイはいそいそと市民生産機関の転移セクションに向かった。
そして以前訪れた南方大陸の一地点、リザードマン集落がある場所へ出現する。
するとリザードマンたちが何やら色めき立っていた。手に手に槍や弓を持ち、どこかへ出掛ける様子。
『オオ、白イ精霊』
『白イ精霊ガ現レタ』
『サテハゴ助力ニ来テクダサッタカ』
何のことやら分からなかったので事情を聞いてみれば、この付近に危険な歪虚が現れたのだとのこと。
これは自分が彼らへ直に力を貸していい事案なのかどうか考えてみたマゴイは、どうも違うのではないだろうかと判断した。
なので、ハンターオフィスに救援を要請した。急を要する事態であるようなので、ユニゾン転移扉の使用を自分の監視下において認めるという旨も伝えて。
●南方大陸到着
カチャは感動していた。船酔いに悩まされる事なく海を隔てた場所に来られたことに。
「船じゃない交通手段があるっていいですよね……いつもこうだったらなあ」
しかしいつまでも感動してはいられない。他ハンターと同様、歪虚退治の依頼を受けてここに来たのだ。
同行者はリザートマンの族長と、えり抜きの戦士たち15名。それと近隣部族の使者1名。
マゴイは扉の番をするからといって、同行してくれなかった。ゆらゆら手を振って見送るだけだ。
『……行ってらっしゃい……』
向かう先には、壁のような山がそびえている。その山のお陰で雲が出来、海岸一帯には緑が多いのだという。逆にそこを越えればからからに乾いているのだとか。
歪虚は荒野を驀進していた。
杭のようなものが突き刺さって潰れた目から、体液がどくどく噴き出している。
歪虚の中には痛みに対する逆上しかない。砂ぼこりを巻き上げ、乾いた大地を揺るがし、ひたすら、目茶苦茶に進んでいく。目につくもの全てに当たり散らしながら。
隠れ谷に潜んでいるリザードマン部族は、息を殺すようにして、遠方に霞むその姿を窺っている。
リプレイ本文
奥地へ向かう道中ハンターたちは、海浜のリザードマンから、卵のことを聞かされた。
鞍馬 真(ka5819)と天竜寺 詩(ka0396)はその喜ばしき知らせに、弾む声で返す。
「へえ、もうすぐ生まれそうなんだ。だったら、早く歪虚を片付けて立ち合いたいよね!」
「なら全員生きて新しい命の誕生を祝わないとね。しっかり傷の回復するからね!」
マゴイがスムーズに助力を求めてきた理由はこれか、ルベーノ・バルバライン(ka6752)は思った。
卵をまとめて温め孵すというやり方に彼女は、親近感を抱いているのだろう。
(ユニオンはウテルスで、デザインヒューマンを量産していたからな……確かに社会形態は近い。人で言うところの母の役割もなさそうだしな)
ジルボ(ka1732)はゴースロンの手綱を引いてやりながら、額から噴き出し続ける汗を拭く。この地においては木漏れ日さえ熱い。
「相変わらず地獄のような環境だな」
フライングスレッドを負うルカ(ka0962)は、卵から出てくる赤ちゃんを想像し、ほんわかする。
「拝見できたら嬉しいです……無垢な命はとても愛らしいですし……」
一方マルカ・アニチキン(ka2542)は、ひそかなる野望を燃やす。
(……最近の知育は赤子から始まりますよね?……)
眼前が開けた。頂上に出たのだ。カチャが声を上げる。
「あ! あれじゃないですか、歪虚って!」
見下ろした先にあるのは、巨岩がぽつんぽつんと点在する赤茶けた荒野。
ドーム型の目をつけた巨大なダンゴムシが土埃を巻き上げ爆走している。
「うわ、あれ集団で来たら青い衣の少女がいないと対処できないやつっぽい?」
詩の呟きにレイア・アローネ(ka4082)は、首をひねる。
(その話、なんかどこかで聞いたことあるような……)
多由羅(ka6167)が浜部族の族長へ手を差し出した。
「貴方達と共に戦うことになろうとは思いませんでした。協力しましょう。貴方達につけられたこの名に報いるためにもね」
「カタジケナイ」
族長は力強く彼女の手を握り返した。
●戦闘 序
「ゆけ! ハンター! 戦え! リザードマン! 我らの敵を討ち果たせ♪」
詩の勇壮なファセットソングが荒野に響き渡る。
茨の祈りを受けたリザードマンとハンターたちが動く。
まずルカがフライングスレッドで、マルカがマジックフライトで飛んだ。
ゴースロンに跨がったジルボがダンゴムシに近づいて行く。重機関銃ラワーユリッヒNG5の射程距離に相手が入ったところで狙いを定め、引き金を引く。
乾いた大地を揺るがす大音量の銃声。
弾が当たった。ダンゴムシが向きを変えた。ジルボ目がけて突進してくる。目を真っ赤に燃え立たせて。
ジルボはゴースロンの首を返し、荒野のただ中へ走りだした。
ダンゴムシが追う。口に生えた牙を無数の足と連動させ、上下に動かしながら。
ジルボは馬上一人ごちる。
「あれ、ちょっと、マジで早くないかコイツ」
ジルボとダンゴムシとの距離を開けるため、マルカとルカが妨害に入った。
マルカは集中でマテリアルを練った後、アブソリュートゼロを発動する。地と水の力がダンゴムシの足を打ち、速度を落とさせる。
続けてルカがプルガトリオを発動した。
ダンゴムシが一瞬動きを止める――そしてまた走りだす――また一瞬動きを止める。
ジルボは馬を走らせ続ける。目の前に巨岩が迫ってきた。ぶつかる手前ギリギリで急激な方向転換。
ダンゴムシは巨体ゆえ急な方向転換がかなわず、そのまま岩に激突する。
そこに2部族のリザードマン戦士たちとハンターが襲いかかった。
初手は多由羅。
「皆様、巻き込まれませんようご注意を!」
斬魔刀・祢々切丸から繰り出される次元斬は、力の届く範囲にあるものすべてを巻き込み破壊する。
ダンゴムシの堅い装甲に一筋の傷がついた。と同時に巨岩も半壊。岩の塊が多数ダンゴムシの上に降り注ぐ。
リザードマンたちは勇猛果敢にあるいは刀であるいは槍で、あるいは弓で、戦士の名に恥じぬ積極的な攻撃を行った。
度重なる刺激に一層猛り立たったダンゴムシは、いななく馬のごとく不器用に上半身を持ち上げる。そのままどすんと落とし、周囲にいるものを踏み潰そうとする。
その攻撃をルベーノが、練気『龍鱗甲』を使って受けた。マテリアルを込めた拳が、超重量級の体当たりを弾き返す。
はね返って来た衝撃にダンゴムシが巨体をよろめかせ、後退した。
その機を逃さずレイアと真が同時に斬りかかる。二ふりの魔導剣カオスウィースが息を合わせ、交互に目を狙う。
既に潰れている1つに続きまた1つ目が潰れた。それによってダンゴムシは片側の視界が全く効かなくなった。
リザードマンの戦士たちはその死角となった側から突きかかり、斬りかかる。ハンターに続けとばかりよじ登り、目を狙いにいく者もいる。カチャはフォローのため彼らと一緒に行動した。目玉に痛覚があると推測し、思い切り竹刀で打ち伏せる。
そのときダンゴムシが体を大きく傾けた。見えない側を巨岩の壁に押し付け、そのままずりずりと体を擦り付けるようにして前進する。カチャは逃れたが、リザードマンの戦士たちが何名かそれに挟まれ潰される。
詩はまだ目が残っている側に飛び出した。天使の片翼と両手を広げて。
「止まれ!」
テンプテーションが効いた。ダンゴムシは詩を凝視する以外の行動を一時停止する。
その間にカチャが挟まれたリザードマンたちを引きずり出し、ルカが回復に当たる。
ジルボはダンゴムシの見えている側から再度銃撃を行い、注意を引く。
向かってきたのを見計らい、巨岩から離れるよう誘導する。マルカがそのフォローをする。
●戦闘 破
ダンゴムシが岩から離れたところで、多由羅が紅蓮撃を仕掛けた。
火焔の軌跡を引いた一閃が残り2つの目のうち1つを潰す。これでダンゴムには1つの目しかなくなった。
視界が格段に狭まったダンゴムシは、その見えている方向だけにしか進めなくなった――自分でそうと分かっていないのだろうが、大きな円を描いてぐるぐると回り始める。
ルベーノとレイアはダンゴムシの進行方向に飛び出した。相手に自分の存在を認知させるために。
彼らは攻撃対象となった際の対応スキルを持っている。だから受けたダメージを、のしつけて返してやることが出来る。
ルベーノはダンゴムシの関節目がけ金剛不壊を入れた。鉄爪インシネレーションが分厚い脚部の装甲を砕きはがし取る。
剥き出しになった繊維質を、多由羅の刃が断ち切る。
「彼らの子達を害する事だけは見過ごす訳にはいきません……!」
ルカにより戦闘可能な状態まで回復したリザードマンは、一層奮起して戦いに加わってくる。ジルボは妨害射撃で、彼らの支援をする。またぞろ押し潰されたりしないように。
レイアはガウスジェイルで、彼らに向けられるべき攻撃を引き受ける。
頭部にガツンと衝撃が来た。
目の上に滴り落ちてくる血も拭わず、ソウルエッジを放つ。
「リザードマン達の暮らしを守る為にもここを通す訳にはいかない!」
装甲に刃が突き立つ。
真は立体移動で、ダンゴムシの体に駆け上がる。残り1つの目を突き潰す。
完全に視界を塞がれたダンゴムシは、闇雲に直進し始めた。皮肉なことであるが目当てを失ったことによって、堂々巡りから抜け出せるようになったのだ。
運悪くというのか、そのときカチャはダンゴムシの進行方向にいた。
回避が間に合わない。体を踏み付けられる。重量級の牙が急所の心臓を貫く。
「カチャ!」
フルリカバリーをかけようと駆け寄る詩。
しかしカチャは地べたに伏したまま、手を振った。
「私はある程度自己回復出来ますから、後でいいです――それより前衛の方を先に――」
意識が飛ぶ前に、自身でマテリアルヒーリングをかけることが出来たようだ。
●戦闘 急
マルカはアブソリュートゼロをダンゴムシに向け炸裂させた。来た方向へ戻らせないために。
ダンゴムシは刺激を受け体を反転させる。
レイアによって傷つけられていた脚部の足が、その拍子にもげる。青黒い体液が吹き出す。
ジルボは巨体に乗り攻撃を加え続けているリザードマン、真、ルベーノ、多由羅に当たらぬよう配慮し、潰れた目のひとつに照準を合わせる。そこが一番効きそうだと、直感したのだ。
移動しながらの射撃には命中率の低下が伴うが、彼はそのハンデをターゲッティングによってカバーした。
弾丸が傷口を抉る。
彼の勘は当たった。ダンゴムシの速度は大幅に落ちた。のみならず、間欠的な跳ね上がりを始める。運動を司る部分に損傷を受けたらしい。
その動きがあまり激しいので、リザードマンたちは次々落ちて行く。
真は突き刺した剣を手掛かりに足を踏ん張り、星神器カ・ディンギルをかざした。ヤルダバオートを発動させた。せっかくなら全員無事で帰りたい。新しい命がこの世界に生まれいでようとしている時なのだから。
多由羅はダンゴムシから飛び降り、正面から切りつけた。
下段から跳ね上げた刃が牙を砕く。口の中が露になった。毒々しい紫色の鞭毛がびっしり生えている。
そのとき彼女の意識が、ふうっと一瞬遠のいた。度重なる負傷のダメージによって。
前進してくるダンゴムシを前にしながら膝をつく。
ルカは残りのプルガトリオ全てを使い、ダンゴムシの動きを制する。
その間に後から追いついてきたカチャが、多由羅を脇に避けさせる。
ジルボが再び銃撃。
剥き出しの口中へ弾丸と轟音が吸い込まれる。
ダンゴムシがくの字に体を曲げ、横倒しになった。しかしまだ死んでいない。足が動いている。
真は頭頂部目がけ刺突一閃を見舞う。刃がダンゴムシの体内までも深く穿つ。
ダンゴムシはようやく動かなくなった。
体の継ぎ目から体液が漏れ始める。装甲が溶けていく。突き刺さっていた杭のようなものも消えていく。まるで、役目を終えたとでもいうように。
詩とルカは残りの回復魔法を全部つぎ込んで、負傷者の傷を可能な限り回復させる。
無事、誰も死なずにすんだ。
そのことに詩は安堵し、にっこりほほ笑む。
「これで全員で赤ちゃんの誕生を祝えるね♪」
真とマルカは周囲を見て回り、他の歪虚や卵などがないことを確認した。そしてそれをリザードマンたちに伝えた。
「単体で良かったね。群で襲われたら流石に対処できる気がしないよ」
「その想定は恐ろしい限りですね……」
ジルボは額に手を当て、遠くを眺める。
「にしてもこのでかいダンゴムシはどっから来たんだろうな」
その疑問はルカも感じている。
リザードマンたちの今後のために調べておいた方がよさそうだ。
ということで彼女はフライングスレッドに乗り、もう一度上空に上ってみた。
荒野の東方に続くのは、茫々とした砂漠。その果ての一角、ルカの視力が感知出来るギリギリの距離に、何やら柱のようなものが見えた。やや斜めに傾き、ぽつんと一つだけ突っ立っている。あまりに真っ直ぐであまりにも整ったその形から鑑みて、人工物以外にはありえそうもない。
降りてきてそのことを報告すると、奥地のリザードマンたちが妙な顔をした。
「ソンナ所ニソンナモノガアルナド、コレマデ聞イタコトモナイガ」
「砂漠、メボシイ獲物ナイ。住ム部族モイナイハズナノダガ」
どうもあやしい。
あるいはそれが今回の騒ぎに何か関係しているのでは。
怪しむハンターたちであったが、本格的な調査をするには準備も時間もない。
「とりあえず、今後東の方角を警戒しておくって事にした方がよさそうだな。まあ、面倒ごとが起きたら連絡してくれよ。俺たち駆けつけるから。今回のことで信用出来る奴らだって、分かったろ?」
と述べるジルボに奥地リザードマンの長は、重々しく答えた。
「アア。オ前達ハ我ラニ引ケヲ取ラヌ戦士。浜ノ部族ハ、マコトニヨキ縁ヲ持ッタモノヨ。羨ムゾ」
レイアも言った。そこまで褒められると照れるなと思いながら。
「また何かあったら呼んでくれ」
多由羅は改めて浜の部族に向き合う。
「卵が生まれるのを私達も見守らせて貰ってもよろしいでしょうか?」
「モチロン」
●ようこそ、世界へ
ひびが入った卵から、真っ黒な目をしたリザードマンの赤ん坊たちが顔を出す。眩しそうに瞬きし、揃ってピイピイと鳴く。
カチャは微笑ましげにその姿を見やった。
「ひよこみたいですね」
ジルボがハーモニカで祝いの曲を奏で始めた。
真は、ほうっと息を吐き出した。世界はバタバタしているが、それでもこうして新しい命は生まれてくる……。
「新たな命の誕生は、本当に嬉しいことだね」
赤ん坊たちの前にマルカが、燃える目をしたジルボのポートレイトを差し出す。
「見えますか? これが世紀の英雄、ジルボさんですよ。大きくなったらFCに入ってくださいね」
ルカは彼女の熱意あふれる姿に呆れるやら感心するやら。
「マルカさん……熱意といいますか……愛なのか……いろんな意味で凄いですね……」
赤ん坊たちはポートレイトの匂いを嗅ぐ。そしてすぐよそを向く。
その視線の先には、マルカのパルムが他のパルムと遊ぶ姿。
動くものの方が興味が持てるのだろう。卵の殻をつけたままよちよちそちらに向かおうとし、こける。
レイアと多由羅がそれを抱き上げ、元の位置に戻してやる。
「もう歩き始めるとは、たいしたものだな」
「きっと健やかな子が育ちます」
詩は胸がいっぱいになり思わず涙ぐんでしまった。
リザードマンたちに断りを入れ、小鳥の雛のような子供たちの写真を撮る。
(後でお姉ちゃんにも見せてあげなきゃ)
自然な命の誕生に対しマゴイにも何か感じる所があればいいが。思いながらそちらを見れば彼女は、喜びに顔をほころばせていた。
『……ここは出生セクトのよう……みんな一緒でとてもよい……とてもかわいらしい……』
一応感じるところはあるらしい。自然な命の誕生だからというわけでは無さそうだが。
とりあえずハンターの任務は完了した。
帰還する前にマルカは浜の族長へ、童話「人魚の恋」を贈っておく。
「読み聞かせにぜひ。人魚は実在しており、今後ユニゾンにいらっしゃる場合は友好的に交流いただければ、と……」
マゴイはユニゾンを経由し、ハンターたちを西方大陸へと送り返した(その際ジルボはアスカたちに会い、軽く挨拶しておいた。今度ここに来る機会があったら案内よろしく、と)。
それからまた南方大陸に戻る。リザードマンとの宴を楽しむルベーノが、まだそこに残っていたので。
杯を汲み交わしている彼の元へ行き、首に白い花のレイをかける。
「μ、なんだ、これは」
『……あなたへのお礼にとワーカーが作ったのよ……彼らにいつもよくしてくれてありがとう……私にもね……』
ルベーノの頬に口付けがなされた。ふわりとした感触の。
鞍馬 真(ka5819)と天竜寺 詩(ka0396)はその喜ばしき知らせに、弾む声で返す。
「へえ、もうすぐ生まれそうなんだ。だったら、早く歪虚を片付けて立ち合いたいよね!」
「なら全員生きて新しい命の誕生を祝わないとね。しっかり傷の回復するからね!」
マゴイがスムーズに助力を求めてきた理由はこれか、ルベーノ・バルバライン(ka6752)は思った。
卵をまとめて温め孵すというやり方に彼女は、親近感を抱いているのだろう。
(ユニオンはウテルスで、デザインヒューマンを量産していたからな……確かに社会形態は近い。人で言うところの母の役割もなさそうだしな)
ジルボ(ka1732)はゴースロンの手綱を引いてやりながら、額から噴き出し続ける汗を拭く。この地においては木漏れ日さえ熱い。
「相変わらず地獄のような環境だな」
フライングスレッドを負うルカ(ka0962)は、卵から出てくる赤ちゃんを想像し、ほんわかする。
「拝見できたら嬉しいです……無垢な命はとても愛らしいですし……」
一方マルカ・アニチキン(ka2542)は、ひそかなる野望を燃やす。
(……最近の知育は赤子から始まりますよね?……)
眼前が開けた。頂上に出たのだ。カチャが声を上げる。
「あ! あれじゃないですか、歪虚って!」
見下ろした先にあるのは、巨岩がぽつんぽつんと点在する赤茶けた荒野。
ドーム型の目をつけた巨大なダンゴムシが土埃を巻き上げ爆走している。
「うわ、あれ集団で来たら青い衣の少女がいないと対処できないやつっぽい?」
詩の呟きにレイア・アローネ(ka4082)は、首をひねる。
(その話、なんかどこかで聞いたことあるような……)
多由羅(ka6167)が浜部族の族長へ手を差し出した。
「貴方達と共に戦うことになろうとは思いませんでした。協力しましょう。貴方達につけられたこの名に報いるためにもね」
「カタジケナイ」
族長は力強く彼女の手を握り返した。
●戦闘 序
「ゆけ! ハンター! 戦え! リザードマン! 我らの敵を討ち果たせ♪」
詩の勇壮なファセットソングが荒野に響き渡る。
茨の祈りを受けたリザードマンとハンターたちが動く。
まずルカがフライングスレッドで、マルカがマジックフライトで飛んだ。
ゴースロンに跨がったジルボがダンゴムシに近づいて行く。重機関銃ラワーユリッヒNG5の射程距離に相手が入ったところで狙いを定め、引き金を引く。
乾いた大地を揺るがす大音量の銃声。
弾が当たった。ダンゴムシが向きを変えた。ジルボ目がけて突進してくる。目を真っ赤に燃え立たせて。
ジルボはゴースロンの首を返し、荒野のただ中へ走りだした。
ダンゴムシが追う。口に生えた牙を無数の足と連動させ、上下に動かしながら。
ジルボは馬上一人ごちる。
「あれ、ちょっと、マジで早くないかコイツ」
ジルボとダンゴムシとの距離を開けるため、マルカとルカが妨害に入った。
マルカは集中でマテリアルを練った後、アブソリュートゼロを発動する。地と水の力がダンゴムシの足を打ち、速度を落とさせる。
続けてルカがプルガトリオを発動した。
ダンゴムシが一瞬動きを止める――そしてまた走りだす――また一瞬動きを止める。
ジルボは馬を走らせ続ける。目の前に巨岩が迫ってきた。ぶつかる手前ギリギリで急激な方向転換。
ダンゴムシは巨体ゆえ急な方向転換がかなわず、そのまま岩に激突する。
そこに2部族のリザードマン戦士たちとハンターが襲いかかった。
初手は多由羅。
「皆様、巻き込まれませんようご注意を!」
斬魔刀・祢々切丸から繰り出される次元斬は、力の届く範囲にあるものすべてを巻き込み破壊する。
ダンゴムシの堅い装甲に一筋の傷がついた。と同時に巨岩も半壊。岩の塊が多数ダンゴムシの上に降り注ぐ。
リザードマンたちは勇猛果敢にあるいは刀であるいは槍で、あるいは弓で、戦士の名に恥じぬ積極的な攻撃を行った。
度重なる刺激に一層猛り立たったダンゴムシは、いななく馬のごとく不器用に上半身を持ち上げる。そのままどすんと落とし、周囲にいるものを踏み潰そうとする。
その攻撃をルベーノが、練気『龍鱗甲』を使って受けた。マテリアルを込めた拳が、超重量級の体当たりを弾き返す。
はね返って来た衝撃にダンゴムシが巨体をよろめかせ、後退した。
その機を逃さずレイアと真が同時に斬りかかる。二ふりの魔導剣カオスウィースが息を合わせ、交互に目を狙う。
既に潰れている1つに続きまた1つ目が潰れた。それによってダンゴムシは片側の視界が全く効かなくなった。
リザードマンの戦士たちはその死角となった側から突きかかり、斬りかかる。ハンターに続けとばかりよじ登り、目を狙いにいく者もいる。カチャはフォローのため彼らと一緒に行動した。目玉に痛覚があると推測し、思い切り竹刀で打ち伏せる。
そのときダンゴムシが体を大きく傾けた。見えない側を巨岩の壁に押し付け、そのままずりずりと体を擦り付けるようにして前進する。カチャは逃れたが、リザードマンの戦士たちが何名かそれに挟まれ潰される。
詩はまだ目が残っている側に飛び出した。天使の片翼と両手を広げて。
「止まれ!」
テンプテーションが効いた。ダンゴムシは詩を凝視する以外の行動を一時停止する。
その間にカチャが挟まれたリザードマンたちを引きずり出し、ルカが回復に当たる。
ジルボはダンゴムシの見えている側から再度銃撃を行い、注意を引く。
向かってきたのを見計らい、巨岩から離れるよう誘導する。マルカがそのフォローをする。
●戦闘 破
ダンゴムシが岩から離れたところで、多由羅が紅蓮撃を仕掛けた。
火焔の軌跡を引いた一閃が残り2つの目のうち1つを潰す。これでダンゴムには1つの目しかなくなった。
視界が格段に狭まったダンゴムシは、その見えている方向だけにしか進めなくなった――自分でそうと分かっていないのだろうが、大きな円を描いてぐるぐると回り始める。
ルベーノとレイアはダンゴムシの進行方向に飛び出した。相手に自分の存在を認知させるために。
彼らは攻撃対象となった際の対応スキルを持っている。だから受けたダメージを、のしつけて返してやることが出来る。
ルベーノはダンゴムシの関節目がけ金剛不壊を入れた。鉄爪インシネレーションが分厚い脚部の装甲を砕きはがし取る。
剥き出しになった繊維質を、多由羅の刃が断ち切る。
「彼らの子達を害する事だけは見過ごす訳にはいきません……!」
ルカにより戦闘可能な状態まで回復したリザードマンは、一層奮起して戦いに加わってくる。ジルボは妨害射撃で、彼らの支援をする。またぞろ押し潰されたりしないように。
レイアはガウスジェイルで、彼らに向けられるべき攻撃を引き受ける。
頭部にガツンと衝撃が来た。
目の上に滴り落ちてくる血も拭わず、ソウルエッジを放つ。
「リザードマン達の暮らしを守る為にもここを通す訳にはいかない!」
装甲に刃が突き立つ。
真は立体移動で、ダンゴムシの体に駆け上がる。残り1つの目を突き潰す。
完全に視界を塞がれたダンゴムシは、闇雲に直進し始めた。皮肉なことであるが目当てを失ったことによって、堂々巡りから抜け出せるようになったのだ。
運悪くというのか、そのときカチャはダンゴムシの進行方向にいた。
回避が間に合わない。体を踏み付けられる。重量級の牙が急所の心臓を貫く。
「カチャ!」
フルリカバリーをかけようと駆け寄る詩。
しかしカチャは地べたに伏したまま、手を振った。
「私はある程度自己回復出来ますから、後でいいです――それより前衛の方を先に――」
意識が飛ぶ前に、自身でマテリアルヒーリングをかけることが出来たようだ。
●戦闘 急
マルカはアブソリュートゼロをダンゴムシに向け炸裂させた。来た方向へ戻らせないために。
ダンゴムシは刺激を受け体を反転させる。
レイアによって傷つけられていた脚部の足が、その拍子にもげる。青黒い体液が吹き出す。
ジルボは巨体に乗り攻撃を加え続けているリザードマン、真、ルベーノ、多由羅に当たらぬよう配慮し、潰れた目のひとつに照準を合わせる。そこが一番効きそうだと、直感したのだ。
移動しながらの射撃には命中率の低下が伴うが、彼はそのハンデをターゲッティングによってカバーした。
弾丸が傷口を抉る。
彼の勘は当たった。ダンゴムシの速度は大幅に落ちた。のみならず、間欠的な跳ね上がりを始める。運動を司る部分に損傷を受けたらしい。
その動きがあまり激しいので、リザードマンたちは次々落ちて行く。
真は突き刺した剣を手掛かりに足を踏ん張り、星神器カ・ディンギルをかざした。ヤルダバオートを発動させた。せっかくなら全員無事で帰りたい。新しい命がこの世界に生まれいでようとしている時なのだから。
多由羅はダンゴムシから飛び降り、正面から切りつけた。
下段から跳ね上げた刃が牙を砕く。口の中が露になった。毒々しい紫色の鞭毛がびっしり生えている。
そのとき彼女の意識が、ふうっと一瞬遠のいた。度重なる負傷のダメージによって。
前進してくるダンゴムシを前にしながら膝をつく。
ルカは残りのプルガトリオ全てを使い、ダンゴムシの動きを制する。
その間に後から追いついてきたカチャが、多由羅を脇に避けさせる。
ジルボが再び銃撃。
剥き出しの口中へ弾丸と轟音が吸い込まれる。
ダンゴムシがくの字に体を曲げ、横倒しになった。しかしまだ死んでいない。足が動いている。
真は頭頂部目がけ刺突一閃を見舞う。刃がダンゴムシの体内までも深く穿つ。
ダンゴムシはようやく動かなくなった。
体の継ぎ目から体液が漏れ始める。装甲が溶けていく。突き刺さっていた杭のようなものも消えていく。まるで、役目を終えたとでもいうように。
詩とルカは残りの回復魔法を全部つぎ込んで、負傷者の傷を可能な限り回復させる。
無事、誰も死なずにすんだ。
そのことに詩は安堵し、にっこりほほ笑む。
「これで全員で赤ちゃんの誕生を祝えるね♪」
真とマルカは周囲を見て回り、他の歪虚や卵などがないことを確認した。そしてそれをリザードマンたちに伝えた。
「単体で良かったね。群で襲われたら流石に対処できる気がしないよ」
「その想定は恐ろしい限りですね……」
ジルボは額に手を当て、遠くを眺める。
「にしてもこのでかいダンゴムシはどっから来たんだろうな」
その疑問はルカも感じている。
リザードマンたちの今後のために調べておいた方がよさそうだ。
ということで彼女はフライングスレッドに乗り、もう一度上空に上ってみた。
荒野の東方に続くのは、茫々とした砂漠。その果ての一角、ルカの視力が感知出来るギリギリの距離に、何やら柱のようなものが見えた。やや斜めに傾き、ぽつんと一つだけ突っ立っている。あまりに真っ直ぐであまりにも整ったその形から鑑みて、人工物以外にはありえそうもない。
降りてきてそのことを報告すると、奥地のリザードマンたちが妙な顔をした。
「ソンナ所ニソンナモノガアルナド、コレマデ聞イタコトモナイガ」
「砂漠、メボシイ獲物ナイ。住ム部族モイナイハズナノダガ」
どうもあやしい。
あるいはそれが今回の騒ぎに何か関係しているのでは。
怪しむハンターたちであったが、本格的な調査をするには準備も時間もない。
「とりあえず、今後東の方角を警戒しておくって事にした方がよさそうだな。まあ、面倒ごとが起きたら連絡してくれよ。俺たち駆けつけるから。今回のことで信用出来る奴らだって、分かったろ?」
と述べるジルボに奥地リザードマンの長は、重々しく答えた。
「アア。オ前達ハ我ラニ引ケヲ取ラヌ戦士。浜ノ部族ハ、マコトニヨキ縁ヲ持ッタモノヨ。羨ムゾ」
レイアも言った。そこまで褒められると照れるなと思いながら。
「また何かあったら呼んでくれ」
多由羅は改めて浜の部族に向き合う。
「卵が生まれるのを私達も見守らせて貰ってもよろしいでしょうか?」
「モチロン」
●ようこそ、世界へ
ひびが入った卵から、真っ黒な目をしたリザードマンの赤ん坊たちが顔を出す。眩しそうに瞬きし、揃ってピイピイと鳴く。
カチャは微笑ましげにその姿を見やった。
「ひよこみたいですね」
ジルボがハーモニカで祝いの曲を奏で始めた。
真は、ほうっと息を吐き出した。世界はバタバタしているが、それでもこうして新しい命は生まれてくる……。
「新たな命の誕生は、本当に嬉しいことだね」
赤ん坊たちの前にマルカが、燃える目をしたジルボのポートレイトを差し出す。
「見えますか? これが世紀の英雄、ジルボさんですよ。大きくなったらFCに入ってくださいね」
ルカは彼女の熱意あふれる姿に呆れるやら感心するやら。
「マルカさん……熱意といいますか……愛なのか……いろんな意味で凄いですね……」
赤ん坊たちはポートレイトの匂いを嗅ぐ。そしてすぐよそを向く。
その視線の先には、マルカのパルムが他のパルムと遊ぶ姿。
動くものの方が興味が持てるのだろう。卵の殻をつけたままよちよちそちらに向かおうとし、こける。
レイアと多由羅がそれを抱き上げ、元の位置に戻してやる。
「もう歩き始めるとは、たいしたものだな」
「きっと健やかな子が育ちます」
詩は胸がいっぱいになり思わず涙ぐんでしまった。
リザードマンたちに断りを入れ、小鳥の雛のような子供たちの写真を撮る。
(後でお姉ちゃんにも見せてあげなきゃ)
自然な命の誕生に対しマゴイにも何か感じる所があればいいが。思いながらそちらを見れば彼女は、喜びに顔をほころばせていた。
『……ここは出生セクトのよう……みんな一緒でとてもよい……とてもかわいらしい……』
一応感じるところはあるらしい。自然な命の誕生だからというわけでは無さそうだが。
とりあえずハンターの任務は完了した。
帰還する前にマルカは浜の族長へ、童話「人魚の恋」を贈っておく。
「読み聞かせにぜひ。人魚は実在しており、今後ユニゾンにいらっしゃる場合は友好的に交流いただければ、と……」
マゴイはユニゾンを経由し、ハンターたちを西方大陸へと送り返した(その際ジルボはアスカたちに会い、軽く挨拶しておいた。今度ここに来る機会があったら案内よろしく、と)。
それからまた南方大陸に戻る。リザードマンとの宴を楽しむルベーノが、まだそこに残っていたので。
杯を汲み交わしている彼の元へ行き、首に白い花のレイをかける。
「μ、なんだ、これは」
『……あなたへのお礼にとワーカーが作ったのよ……彼らにいつもよくしてくれてありがとう……私にもね……』
ルベーノの頬に口付けがなされた。ふわりとした感触の。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 マルカ・アニチキン(ka2542) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/01/31 18:22:56 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/30 16:14:25 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/01/31 18:31:02 |