山岳猟団〜窮鼠殺猫

マスター:有坂参八

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/13 07:30
完成日
2015/01/20 18:02

みんなの思い出

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オープニング


 某月某日、曇天、辺境某所、狭い崖道にて。

「おいおいおいおい、やっべー、これマジでやべーって」
「完全に囲まれたな。こりゃぁきっと罠って奴だぜ」
「言われんでも見れば判る、私達がエサに釣られた大間抜けだとな」
「何ィ! するってぇとこれは罠だったのか!? 俺達はハメられたんだな!?」
「遅ぇ! たった今言ったじゃねぇか罠だって!」
 細い道を塞ぐかのように固まって並んだ数十人の男達が、灰色の雲の下で何かを喚き立てていた。
 並んだ顔ぶれには、人種や社会的な斉一性がない。ある者は上下不揃いの鎧を纏い、ある者は異世界の『学生服』を着て、ある者は帝国軍の鎧、ある者は辺境伝統の毛皮の外套、ある者は一目でドワーフと推せる髭面……と、てんでバラバラである。
 ただ一つだけ、誰もが戦士の空気を纏う事……それだけが、男達に共通していた。
 『山岳猟団』。それが、彼らを指す呼び名だった。帝国軍正規兵、部族出身者、ドワーフ、傭兵、ハンターをも交えた多種族混成部隊である彼らは、辺境帝国軍の擁する対歪虚部隊である。
「放っておけ。ウチのドワーフ共が脳筋な事も判りきってる」
「んだとぅ!?」
「茶番はいい。それよりも、今はこの状況をどうするか、であろう」
 帝国軍の正規兵らしき男が、怒るドワーフを差し置いて辺りを見渡した。
 彼等は今、道の前後を歪虚に塞がれ、進むも退くも能わぬ状態にあった。
 部隊の前面には、首無しの動く騎士鎧……デュラハンの隊列が押し寄せている。数は三〇程か。
 そして背面からは、石の巨人。全長六、七メートル程のストーンゴーレムが一体、地響きを上げながらこちらへ向かってきている。
「でっけーなオイ、CAM並か?」
「いや、CAMはもっとカッコよかったと思う!」
「そーじゃねェって、俺が言ってんのは」
 息巻くドワーフに溜息をついた傭兵風の男が、今度は道の左右を交互に見やった。
 一方は崖の壁面だ。垂直に近い角度で、高さもあるためこれを登って逃げるのは不可能。
 もう一方は崖っぷち。これも高さのある急斜面なので、踏み外せば堕ちて死ぬ。
 改めて、前方にデュラハン、後方にはゴーレム。いずれも、耐久力に優れた強敵だ。
「袋の鼠って奴だな」
「ああ、袋の鼠だ」
 歪虚の罠だったのだ。帝国軍から最初に知らされた敵の情報は、デュラハンがほんの十体程の筈だった。
 それで、戦力を他の戦線と分散して出撃したらこのざまだ。
「爺さんがいりゃぁこういうの、察知できたんだろうけどな」
「でも、でも蛇の爺殿は……もう、居ねぇんだ!」
「いや、死んだみたいに言うなよ! 生きてるから! 強奪事件対処の支援に行ってるだけだから!」
 CAM強奪事件の対処に相当数の戦力を割く必要があったとは言え、歪虚の陽動に掛かるとはお粗末な話である。
 だが彼らは、危機的状況に対して昂揚と緊張こそすれど、決して取り乱す事は無かった。
 無駄口を叩きながらも、一様に闘志漲る瞳で敵を見据え、得物を握り、何時でも戦闘開始できるよう身構えている。
「どうする。指示をくれ、団長代。このまま待つのも……あー……性に合わんだろ、俺らの」
 辺境部族風の青年が、隊列の中心に立つ男に言った。
 『団長代』と呼ばれたその男は、問われて初めて、口を開いた。淡々と、迷い無く。
「……全戦力を前方に集中配置。デュラハン群を撃滅しろ」
「よぉし! 一点突破だな!?」
「違う。撃滅だ。全て殺せ。背面のゴーレムは俺が一人で引きつけておく。部隊の指揮はガーハート、お前が取れ」
 沸き立つ部下達に即座に否定を入れ、団長代は帝国軍正規兵の中で最も序列の高い男の名を呼んだ。
「正気か団長代。この場を脱出するのが目的ではないのだな?」
「どのみち排除せねばならん歪虚共だ。いま、ここで殺す。皆殺しにして奴らに、下らん小細工を使えばどうなるか判らせる」
 問いに答え、山岳猟団団長代理……八重樫 敦(kz0056)は一人、踵を返してゴーレムに向き直った。
 団員達は顔を見合わせ…………互いに、頷いた。
「なるほどね、そりゃ確かに」
「そっちの方が、あれだ、スカッとするな」
「合理的といえ、合理的と」
 かつて猟団は、崩壊寸前の危機にあった。
 過酷な最前線で戦う中、補給は途絶え、異例の人事と、民族の壁が団員の連携を阻んだ。
 だが……彼らは変わった。
 補給を整え、集団で戦う意義を学び、時に血の犠牲と引換に、しかし、勝利をもぎ取る力を得た。
 ただ一つ、『歪虚討つべし』の意志の下に。
 その変化の源となったのは…
「おい、ハンター」
 八重樫は、増強戦力として随伴していたハンター達に視線を向けた。
 瞬き一つしない、むき出しの刃の様な視線を。
「お前達の行動は、各自の判断に任せる。当初の依頼の通り、遊撃して敵を各個撃破しろ」
 歪虚討伐における遊撃による支援……それが、ここに集ったハンター達への依頼だった。
 八重樫は唯ひとり、背後に迫るストーンゴーレムに向かって歩き出す。
 反対側では、すでに猟団員が雄叫びを挙げながら、デュラハンの群に対峙していた。
 そして、判断を預けられたハンター達も……すぐに各々が決断し、その足を、踏み出した。

リプレイ本文


 ガァン、ガァン…………と、重く鈍い音が、戦場に響き渡る。
 デュラハン達が、自らの鎧を叩いているのだ。
 威嚇……獲物を恐怖に引きずり込んで力を削ぐ、それは明確な攻撃行動だった。
「流石にこの状況はまずいよね。正に『前門の虎、後門の狼』って感じだよ」
 轟音に目を瞬かせつつ、天竜寺 舞(ka0377)が軽くため息をつく。
 その傍ら、元軍人である真田 天斗(ka0014)は、彼我の戦力を手早く再確認した。
「前後に挟撃、数はほぼ同数。あちらの方が防御力に優れている……セオリーならば、消耗戦でこちらが不利ですが」
「ああ、一見すれば絶対絶命……だが、これでも戦神の信徒。食い破ってみせよう」
 修道服を着たハンター……アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が言い放ち、両手に握る白鞭を強く張った。
 諦めの色など一切無いその言葉に、誰もが、頷く。
「あたしだって、妹を護るって誓ったんだから、こんな所でやられる訳にいかない。纏めてぶっ飛ばしてあげるよ!」
 舞は自分の身長に届きそうな長剣を抜き、諸手に構えた。
「此方の方が戦意は高く陣形、連携を取る事が出来る。不利をひっくり返すのには十分ですね」
 天斗は、自らの拳を固く握る。
「やりましょう。皆で、一緒に帰るんですっ!」
 美作さくら(ka2345)が叫ぶと、猟団員が咆哮でそれに応えた。
 背筋を突き抜けるびりびりとした感触を受け止め……さくらは獲物の薙刀を握りしめた。

 一方、隊列の反対側では、団長代八重樫が、背後に迫るストーンゴーレムに対峙していた。
 そこに並び立つ人影が、二つ。
「では、各個撃破と行きましょうか」
 一人は、ライエル・ブラック(ka1450)。
 隣に立ち止まった少年を、八重樫はちらと横目に見おろし、目を細めた。
「各自の判断と言われましたし」
 カミソリの様な視線を真正面から受け止め、ライエルは嘯く。
 その視線の交錯には、確かに、意思の疎通があったように思えた。
「後ろは仲間に任せて、俺らはデカブツ退治だ。気合、入れて、行くぜ!」
 その二人の間をすり抜け、駆けていくのは柊 真司(ka0705)。
 拳銃を抜き、ゴーレム目がけて一直線に走っていく。
「俺達も行くぞ」
「はい!」
 すぐに八重樫が、そしてライエルも、真司を追ってゴーレムへと駆け出した。 


「ガンコーの陣?」
 猟団の指揮権を任された帝国軍人ガーハートは、ハンターの提案をそのまま聞き返した。
「そう。前衛は前の方が崖側で、後ろの方が壁側になるように、二列ぐらいで斜めの陣形を作るんだ」
 彼に作戦を説明するのは、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 少年の様な面影を交える少女の説明は、詳細に、しかし淀みない言葉でその方針を説明する。
「これなら、相手を壁側に追いやれる。敵は全滅させるんでしょう?」
「……ロクセファランクスか」
「厳密にはちょっと違うけどね」
 はっとなったガーハートに、アルトは頷く。
「いいだろう。前衛は二列横隊斜線陣形、重装兵分隊は崖側、左翼に立て!」
 指揮官の一声で、猟団員はものの数秒で隊列を組み変える。
 かつての猟団を知るハンターにとっては、目を疑う程に鮮やかな統制であった。
「僕も左翼側に立つよ。言い出した人間が、率先しなきゃさ」
 そう言ってアルトは、腰に差した振動刀の鯉口を切った。
 アデリシアと舞も左翼側に移り、天斗は遊撃の為に後衛の射手と同じ線へ。
「これ、皆で足に巻いといて。場所が場所だから、少しでも足を踏み外さないようにね」
 舞は、所持していたロープを切り分け、最前列を除く前衛の者へと配っていく。
 準備が整った頃には、敵も味方も、一色触発の睨み合いとなっていた。
 そして……
「行くぞ! 我らに戦神の加護や有る!」
 アデリシアが叫ぶと同時、猟団とデュラハン、両者は一斉に動き始めた。


 大股で近づいてくるストーンゴーレムに対し、切り込んだ真司は魔導拳銃で機先を制した。
「おっさん、左足から潰すんだ。まずは足を壊して、動きを封じさせて貰う」
 弾丸をゴーレムの左足へと叩き込みつつ、後ろに続く八重樫へ、告げる。
 八重樫は返事をしなかったが、踏込と同時にゴーレムの左足に接近し、両手剣を振り下ろした。
「どこまで効いてるか解りませんね」
 後方のライエルはずり落ちた眼鏡を直しつつ、ゴーレムの挙動を凝視した。
 撃たれても斬られても、敵は変わらぬ動きで真司と八重樫に襲い掛かる。
 ライエルもシャドウブリッドを詠唱、黒い魔弾を撃ち込んだが、怯む様子がない。
「くそっ、無駄にタフだな!」
 振り下ろされた腕を、咄嗟、真司は防御障壁で防ぐ。
 一瞬で光の壁が形成され、そして砕け散る。次いで、鈍い音。
 次の瞬間、横合いからその腕を、八重樫が両手剣で横薙ぎに払う。
「今だ」
 言われるまでもなく真司は駆け出しており、態勢を崩したゴーレムの左足に再接近する。
「砕けろッ!」
 真司が取り出した白杖の先端に、機導剣の刀身が伸びる。
 そのマテリアルの剣を、真司は渾身の力で、石の巨人に叩き付けた。

 ――!

 轟音、次いで、ゴーレムが地に膝を付く。
「やったか!?」
 真司は手応えを感じたものの、しかし否。
 再びゴーレムは緩慢な動作で、立ち上がった。
「……長丁場になりそうですね」
 八重樫、真司の順に、プロテクションを唱えながら……ライエルは石の巨人を見上げ、ほんの小さな溜息を付いた。


 デュラハン側でも、先手を打ったのは、猟団だった。
「前衛、屈め!」
 後列に待機した猟団の猟撃士が、一斉に射撃する。
 同時に、アデリシアはホーリーライトを詠唱、先頭を走るデュラハンへと光弾をぶつけた。
「……怯んだ!」
 すかさず、光り輝く白鞭を振るう。
 ホーリーセイバーを宿した鞭が、光の残滓を飛び散らせながら、デュラハンの鎧を紙の様に引き裂いた。
「行けるぞ! 聖導士、ホーリーライトだ!」
 敵は光の力に弱い……アデリシアは直感で悟り、猟団員の聖導士に叫びつつ、自身も連続で閃鞭を振るう。
 無論デュラハンもやられっぱなしではなく、倒れた歪虚を踏み越え前進。
 直ぐに猟団と、正面から激突する。
「行きます!」
 接敵の瞬間、さくらは薙刀を突き出し、先頭のデュラハンを弾き返す。
 しかしすぐ隣では、逆に猟団員のドワーフが、デュラハンに打ちのめされ転倒した。
 隊列が崩れた箇所にはすかさず、後列に待機していた天斗がランアウトで入り、デュラハンを抑えこんだ。
「させるか!」
 スラッシュエッジで感覚を加速させ、敵の体軸の中心……鳩尾にストレートを叩き込むと、相手は仰け反り後退する。
「この勝負は気力勝負です! 山岳猟団各員、獅子奮迅せよ!」
 もとより二列陣形を取り、疲弊した団員の交代ができる態勢にしたことが幸いした。
 天斗がその交代をサポートをした事もあり、猟団員は絶え間なく前列と後列を交代させながら隊形を維持、少しずつデュラハンの戦列を押し戻していく。

 しかし、最も危険な戦いを強いられるのは、前に突き出た左側最前列だ。
 この位置では前方に加え、右側面からも敵の攻撃を受ける事になる。無論、左側は深い谷。
「予想はしてたけど、これは窮屈だな……っ」
 アルトは周囲に注意を払いつつ、大盾を前面に出してデュラハンの攻撃を受け止めた。
 反撃は、振動刀のスラッシュエッジ。鎧の脇の下に刃を突き刺して、そのままデュラハンの左腕を、胴体から斬り離す。
「舞さん、そっちは大丈夫!?」
「大丈夫だよ、こっちは心配しないで!」
 視線は向けずに問うと、横から気丈な少女の返答が帰ってきた。
 彼女達疾影士の得意とする足を使った戦い方は、閉所で大きく制限されていたが、その中でも舞は、最小限の動きで敵を翻弄する戦法を貫いていた。
「あたしの華麗なステップに見とれても知らないよ!」
 振り下ろされる剣を、マルチステップで紙一重、身体をずらして回避する。
 縄を巻いた靴に踏ん張りを効かせ、くるりと一回転してから相手の懐に飛び込んだ。
「掛かったっ!」
 フェイントアタックに惑わされたデュラハンは、舞の行動に咄嗟の対応をとれない。
 瞬間、舞は予備動作なしに飛燕の動きでクレイモアを突き出し、鎧の胴板を一息に貫いた。
 踊るように舞が剣を抜くと、デュラハンはぐらりと倒れる。
 更にその近くではアデリシアが、鞭をデュラハンの足に巻きつけ、そのまま引き倒す。
 姿勢が崩れた歪虚を見逃さず、猟団員の猟撃士達が蜂の巣にし、撃破する。
「……なぎ倒すだけが鞭の使い方ではない、ということだ」
「やるなァ、修道士さんよォ!」
 団員の歓声に、アデリシアは微かに肩を竦めて答えてみせた。
 徐々に戦況は、猟団側に傾きつつあった。
 敵の連携が皆無であるのに対し、猟団側がハンターも含め綿密な連携を持った事が大きい。
「押し込め、駆逐だ!」
 天斗の叫びに呼応して、猟団員やハンターが、デュラハンに一気に畳み掛ける。
 後はどれだけ早く、片がつくかだ。


 ストーンゴーレム側は、そう簡単には行かなかった。
 兎に角相手が、頑丈だったのである。
「おいおっさん、大丈夫か」
「……問題ない」
 ゴーレムの拳で石壁に叩きつけられた八重樫が、ゆらりと立ち上がる。
 聖導士のライエルが支援しているとはいえ、八重樫も、真司も、かなりの体力を消耗していた。
「八重樫さん。あまり無茶をしないで下さい」
 ヒールで治癒しながら、ライエルはそっと、八重樫に声を掛けた。
「いま、猟団に貴方は欠かせません。ココで万が一にも倒れてもらっては困ります」
「俺は死なん」
 傷だらけになっても、仏頂面とそっけない回答は、いつもの八重樫のそれだ。
 健康状態が判りづらいのは問題か……という感想を心中に留めつつ、ライエルは彼にプロテクションを付与した。
「気休めかもしれませんが」
「十分だ」
 再び、八重樫は駆けていく。
「くそっ、効いてない筈は無いんだが……!」
 真司が、再度の機導剣を、ゴーレムの左足に叩きこむが、破壊は出来ない。
「まさか、再生してんのか?」
 真司が最悪の想像を口にすると、八重樫は小さく首を横に振った。
「いや。動きは鈍ってきている。攻撃が効いているという事だ」
「じゃ、このまま攻め続けろって事か……上等だ」
 苦境ではあったが、真司とて簡単に折れるタマではない。
 再び純白の機杖を翳し、機導剣を展開した、しかしその時だ。
「撃て!」
 無数の銃弾、矢、光弾が、真司の背後から飛来、ゴーレムへと着弾する。
 一斉射撃を受けたゴーレムは微かによろめいて、一歩、後退した。
 真司も、八重樫も、ライエルも、背後を振り返る。
 そこには、デュラハンに対応したハンターと猟団員達が、ゴーレムに対峙する形で並んでいた。
「こっちは片付いたからさ。助けに来たよっ」
 舞が、銀色の髪を揺らして、にこりと笑う。
「先を越されちまったな」
「よく保ちこたえたというべきでしょう。この堅牢さでは」
 苦笑する真司に、天斗がゴーレムを見上げながら答えた。
 一体だけになろうとも、傷だらけになろうとも、ゴーレムは健在だ。
 逃げる気配もない。
「デュラハン側の被害は」
「皆無事だよ」
「ほう」
 胸を張るアルトの回答に、八重樫は微かに、目を見開いた。
「負傷者は、アデリシアさんが観てる。だから安心して……アイツを、片付けよう!」
 アルトの言葉に、異を唱えるものなど居はしない。
「攻撃を左足に集中させて下さい。既に相当のダメージが蓄積している筈です」
 ライエルの誘導に呼応して、猟団員の後衛が集中砲火を叩き込み、次いで飛び出した舞が、アルトが、舞うような動きでゴーレムの左足を斬り刻む。
「これでッ!」
 続く天斗はドリルナックルを突き出し、ゴーレム左足の踵付近……人間で言うアキレス腱の部分を抉った。
「終わりだ!」
 反対側からは真司が、マテリアルを限界まで集中させた機導剣を突き立てる。
 ミシッ……という鈍い音に続き、ゴーレムの足に亀裂が走り、そして、粉々に砕けた。
 足と共にバランスを失ったゴーレムは、数度よろめき、仰向けに転倒する。
 それで、勝敗は決した。
 倒れたゴーレムは、重すぎる自重から再び立ち上がる事ができず、ハンターと猟団員からの集中攻撃を受け……二度と反撃さえ敵わぬまま、四肢を粉々に砕かれ、やがて停止したのだった。


 仲間が戻って来たことに気づき、負傷兵を看病していたアデリシアは彼等へ視線を向けた。
「終わりましたか」「うん」
 覚醒を終え、アデリシアの物腰は本来の、たおやかな女性のそれになっている。
 彼女の隣に、舞がぺたりと座り込み、空を仰ぐ。
「あー、疲れた。やっぱり踊るなら広い所がいいよ」
 くすりと笑いながらも、治療を続けるアデリシア。
「俺も手伝うよ。手が足りなければ、遠慮なく言ってくれ」
「いいえ、まずは真司さんご自身の治療からですね」
 真司に対してアデリシアは穏やかに首を横に振り、満身創痍の彼を、治療し始めた。

「派遣執事、即応員の身でありながら猟団員の方々に指示を出した不敬、お許し下さい」
 天斗は徐ろに、八重樫に頭を下げた。
 デュラハン戦で、隊列の入替えについて指示を出した事を気にしていたらしい。
「結果が出ているならば、過ぎた事は問わん。前提として、指揮系統に干渉するならば最初に話を通せ」
 八重樫は、仏頂面で答えたが、それは彼の普段通りの対応でもあった。
 それから少し考えて、再び口を開く。
「……死者無し、とはな」
「前にも、団員の方が言っていましたね。死者が出なければ、上出来だと」
 ライエルの言葉に、八重樫は頷く。
 それだけ猟団が、厳しい戦況の中で戦っているという事だ。
 だからこそ、ライエルはこれまで猟団員の生命を救う行動を選び続け、結果を残してきた。
 そして、今回も。
「今回の状況、といえば……」
 と、アルトが考えこむように、口を挟む。
「ボクには、雑魔にわざわざ偽の情報を流すような知恵があるとは思えないんだけど……これって、ある程度上位の存在が噛んでたりするのかな」
 アルトの考えに、八重樫は首を振った。
「どちらかと言えば、帝国軍の情報力に問題がある」
 慣れない辺境の地にあって、帝国軍の情報網はあまり良く機能していないらしい。
 雑魔といえど、何かしらの策を弄する事自体は決して珍しくないと、八重樫は付け足した。


 今回の戦果は、大きかった。
 別れ際、八重樫はハンター達にぽつりとそう語った。
 山岳猟団が守る領域に手を出せば、悉く死が待っている。
 そう、歪虚に知らしめたのだ。
 抑止力……それは今の辺境に置いて、極めて貴重な力だった。
「次回にも、期待する」
 それは、八重樫を知る者には珍しい、彼なりの称賛の言葉。
 その八重樫に見送られ……ハンターは山岳猟団と別れ、各々の帰途へとついた。

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MVP一覧

  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 仁愛の士
    ライエル・ブラック(ka1450
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • 山岳猟団即応員
    美作さくら(ka2345
    人間(蒼)|14才|女性|霊闘士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/09 02:32:46
アイコン 仕事の時間です
真田 天斗(ka0014
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/01/13 01:04:20