ゲスト
(ka0000)
星空の煌きと冬の吐息
マスター:ことね桃

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/29 12:00
- 完成日
- 2019/02/11 13:11
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある職員の憂鬱
午後を迎えたばかりの帝都近郊にあるハンターオフィス。
そこで只埜 良人(kz0235)は同僚が淹れてくれた紅茶を飲みながら昨年の資料を読みふけっていた。
帝国の民主化の動きは民主制の国家出身の自分には好ましいものであるし、過去の戦争の禊が終わりつつある流れにも安堵している。
だが歪虚王ハヴァマールの行方や、先の戦争で共闘したアイゼンハンダーの動向など気になるものは数多くある。
(とはいえハンター達や他のオフィスから話を纏め、本部に伝えるぐらいしかできないか、今は)
彼は自分にもっと力があれば前線で高位歪虚に尋問する機会もあるだろうに、と苦い想いを抱えつつ書類をファイルに綴じた。
そんな時、軽やかにドアベルの音が響いた。そこにいるのは20代前半と思しき女性と子供達。いずれもリアルブルー由来の意匠の服を着ている。
「あの、こちらに来ればハンターの方にお仕事を依頼できると聞きましてやって参りました」
「ええ、依頼について詳細をお話しいただけましたらハンターに通達いたします。ところでどのようなご用件で?」
「私、日野原裕乃と申します。御覧の通り私達はリアルブルーから避難してきた者なのですが……私は天文学を専攻していた大学生で。それで子供達に定期的に星空観察のボランティアをしていたんですね。……でも」
「でも?」
表情を曇らせる裕乃。カウンター越しに良人が身を乗り出すと、彼女は下唇を噛んで言葉を選ぶように続けた。
「子供たちの中には親と離れて避難している子も少なくなくて……避難先の宿舎で夜中に泣く子がいるんです。ですから日常を少しでも取り戻せるように、星空観察をまたやりたいなって思っていて。でも帝都では街灯が眩しくて星が見えにくいでしょう? ですから、ハンターさんに護衛してもらって星空観察をしたいと思っているんです」
「なるほど……それはいいことですね」
良人は依頼書に要件を書きながら大きく頷いた。最近は歪虚由来の事件が減り、亜人との諍いもほぼ発生していない。天候さえよければ安全に美しい星空を観られることだろう。
「それに私もクリムゾンウェストの星空には興味があるんです。リアルブルーの星は有名なものをほとんど望遠鏡で観てきましたが、こちらでは見えるものが全然違うから。もし不思議な形や変わった色の星を見つければ子供達もきっと喜ぶに違いありません」
にこりと微笑む裕乃。探求心と子供達への愛情で満たされているのだろうと良人は思った。
「それでは行き先は帝都の外にある森で、一晩キャンプという形でよろしいですか? よろしければここにサインを」
「ええ、よろしくお願いします」
裕乃は素直にペンでさらりと自分の名前を記した。
――だが、子供たちの顔はやはり寂しげで。
「先生、お出かけよりもオレ……リアルブルーに帰りたいよ」
「うん。学校の皆に会いたい」
「私のおじいちゃんやおばあちゃん、リアルブルーにいるの……ハンターの皆に早く助けてってお願いしてよ!」
中には涙声で裕乃に縋りつく子供もいる。
(参ったな……あっちには邪神がいる分、すぐに帰れるなんて軽口を叩くわけにもいかない。だからといって厳しいことも言えないしな……)
子供とは純真ゆえに感情で動くもの。大人はそれを軽んじてはいけないと、彼は5人の弟妹を育て上げた経験で十分に知っている。
「……大丈夫、必ずハンターが皆もリアルブルーも守るから」
それ以外、言葉の掛けようがなかった。
●不思議な生き物
子供達に良人が頭を抱えたその時。ドアベルが再び鳴ったかと思うと真っ黒な二足歩行の子犬がぴょこりと顔を出した。
「オフィスノ皆、オ疲レ様ナノヨ~。コレ、新作ノチーズケーキ。皆デ分ケッコシテ食ベテネ!」
フィー・フローレ(kz0255)が大きめの紙箱を持ってトコトコと歩く。
その姿はリアルブルーのポメラニアンにそっくりだが、身体には野菊の華が無数に咲き不思議な芳香を放っている。身長は子供達と同じぐらいで、柔らかそうな毛皮は抱き着けばきっと気持ち良いに違いない。
「……犬?」
「着ぐるみよ、きっと。だって犬って人の言葉しゃべらないし。あんなにポメラニアンは大きくならないもの」
目を白黒させてフィーを見つめる子供達。するとフィーはテーブルに箱を置くなり「ムー。私ハ犬ジャナイノ! 精霊ナンダカラ!」と胸を張った。
「精霊……? 精霊って、漫画とかゲームに出てくるようなやつ? 羽の生えた綺麗なお姉さんとか、かっこいい空飛ぶ獣とか、そういうのじゃないの?」
「嘘だろー。この前、ハンターからこの世界にはコボルドっていう犬みたいな恰好の生き物がいるって聞いたぜ。お前、それだろ?」
「違ウヨ! 私ハコボルドト仲良シダッタカラ、コウイウ姿にナッンダモン! チャント悪イ雑魔ヲヤッツケルグライデキルンダカラ!」
これは半ば嘘だ。フィーは傷の治療に長けた精霊で、雑魔には僅かな土のマテリアルをぶつけて怯ませる程度の力しかない。
「それじゃキャンプに来る? もし雑魔が現れたら私達を守ってよ」
そんなませた少女の一言にフィーが肩を震わせた。
「イイヨ! 私ダッテ強イトコ見セテアゲルンダカラ!」
――いずれにせよ、フィーの登場で子供達が騒々しくなりながらも元気を取り戻したのは何よりだ。
良人は「同行者:フィー・フローレ」と書類に書き足し「気を付けて行くんだよ、君がこの中で一番のお姉さんなんだから頼りにしてる」とフィーの耳元で囁く。
フィーは「……ソレハ当然ナノヨ」と呟くと、チーズケーキの箱を彼の手に押し付けるのだった。
午後を迎えたばかりの帝都近郊にあるハンターオフィス。
そこで只埜 良人(kz0235)は同僚が淹れてくれた紅茶を飲みながら昨年の資料を読みふけっていた。
帝国の民主化の動きは民主制の国家出身の自分には好ましいものであるし、過去の戦争の禊が終わりつつある流れにも安堵している。
だが歪虚王ハヴァマールの行方や、先の戦争で共闘したアイゼンハンダーの動向など気になるものは数多くある。
(とはいえハンター達や他のオフィスから話を纏め、本部に伝えるぐらいしかできないか、今は)
彼は自分にもっと力があれば前線で高位歪虚に尋問する機会もあるだろうに、と苦い想いを抱えつつ書類をファイルに綴じた。
そんな時、軽やかにドアベルの音が響いた。そこにいるのは20代前半と思しき女性と子供達。いずれもリアルブルー由来の意匠の服を着ている。
「あの、こちらに来ればハンターの方にお仕事を依頼できると聞きましてやって参りました」
「ええ、依頼について詳細をお話しいただけましたらハンターに通達いたします。ところでどのようなご用件で?」
「私、日野原裕乃と申します。御覧の通り私達はリアルブルーから避難してきた者なのですが……私は天文学を専攻していた大学生で。それで子供達に定期的に星空観察のボランティアをしていたんですね。……でも」
「でも?」
表情を曇らせる裕乃。カウンター越しに良人が身を乗り出すと、彼女は下唇を噛んで言葉を選ぶように続けた。
「子供たちの中には親と離れて避難している子も少なくなくて……避難先の宿舎で夜中に泣く子がいるんです。ですから日常を少しでも取り戻せるように、星空観察をまたやりたいなって思っていて。でも帝都では街灯が眩しくて星が見えにくいでしょう? ですから、ハンターさんに護衛してもらって星空観察をしたいと思っているんです」
「なるほど……それはいいことですね」
良人は依頼書に要件を書きながら大きく頷いた。最近は歪虚由来の事件が減り、亜人との諍いもほぼ発生していない。天候さえよければ安全に美しい星空を観られることだろう。
「それに私もクリムゾンウェストの星空には興味があるんです。リアルブルーの星は有名なものをほとんど望遠鏡で観てきましたが、こちらでは見えるものが全然違うから。もし不思議な形や変わった色の星を見つければ子供達もきっと喜ぶに違いありません」
にこりと微笑む裕乃。探求心と子供達への愛情で満たされているのだろうと良人は思った。
「それでは行き先は帝都の外にある森で、一晩キャンプという形でよろしいですか? よろしければここにサインを」
「ええ、よろしくお願いします」
裕乃は素直にペンでさらりと自分の名前を記した。
――だが、子供たちの顔はやはり寂しげで。
「先生、お出かけよりもオレ……リアルブルーに帰りたいよ」
「うん。学校の皆に会いたい」
「私のおじいちゃんやおばあちゃん、リアルブルーにいるの……ハンターの皆に早く助けてってお願いしてよ!」
中には涙声で裕乃に縋りつく子供もいる。
(参ったな……あっちには邪神がいる分、すぐに帰れるなんて軽口を叩くわけにもいかない。だからといって厳しいことも言えないしな……)
子供とは純真ゆえに感情で動くもの。大人はそれを軽んじてはいけないと、彼は5人の弟妹を育て上げた経験で十分に知っている。
「……大丈夫、必ずハンターが皆もリアルブルーも守るから」
それ以外、言葉の掛けようがなかった。
●不思議な生き物
子供達に良人が頭を抱えたその時。ドアベルが再び鳴ったかと思うと真っ黒な二足歩行の子犬がぴょこりと顔を出した。
「オフィスノ皆、オ疲レ様ナノヨ~。コレ、新作ノチーズケーキ。皆デ分ケッコシテ食ベテネ!」
フィー・フローレ(kz0255)が大きめの紙箱を持ってトコトコと歩く。
その姿はリアルブルーのポメラニアンにそっくりだが、身体には野菊の華が無数に咲き不思議な芳香を放っている。身長は子供達と同じぐらいで、柔らかそうな毛皮は抱き着けばきっと気持ち良いに違いない。
「……犬?」
「着ぐるみよ、きっと。だって犬って人の言葉しゃべらないし。あんなにポメラニアンは大きくならないもの」
目を白黒させてフィーを見つめる子供達。するとフィーはテーブルに箱を置くなり「ムー。私ハ犬ジャナイノ! 精霊ナンダカラ!」と胸を張った。
「精霊……? 精霊って、漫画とかゲームに出てくるようなやつ? 羽の生えた綺麗なお姉さんとか、かっこいい空飛ぶ獣とか、そういうのじゃないの?」
「嘘だろー。この前、ハンターからこの世界にはコボルドっていう犬みたいな恰好の生き物がいるって聞いたぜ。お前、それだろ?」
「違ウヨ! 私ハコボルドト仲良シダッタカラ、コウイウ姿にナッンダモン! チャント悪イ雑魔ヲヤッツケルグライデキルンダカラ!」
これは半ば嘘だ。フィーは傷の治療に長けた精霊で、雑魔には僅かな土のマテリアルをぶつけて怯ませる程度の力しかない。
「それじゃキャンプに来る? もし雑魔が現れたら私達を守ってよ」
そんなませた少女の一言にフィーが肩を震わせた。
「イイヨ! 私ダッテ強イトコ見セテアゲルンダカラ!」
――いずれにせよ、フィーの登場で子供達が騒々しくなりながらも元気を取り戻したのは何よりだ。
良人は「同行者:フィー・フローレ」と書類に書き足し「気を付けて行くんだよ、君がこの中で一番のお姉さんなんだから頼りにしてる」とフィーの耳元で囁く。
フィーは「……ソレハ当然ナノヨ」と呟くと、チーズケーキの箱を彼の手に押し付けるのだった。
リプレイ本文
●道中にて
街道を一台の馬車がのんびり進んでいく。緑が広がる穏やかな風景は都会っ子には新鮮に映るようで、彼らの多くが楽しげに窓から外を覗いていた。
そんな中、ひとりの少女が同乗するシャーロット=アルカナ(ka4877)に質問した。
「シャーロットさんって本当にドワーフなの? リアルブルーの本ではドワーフはおひげの長い小柄な逞しいおじさんだった」
そんな無邪気で無遠慮な質問に彼女は気を悪くせず答える。
「ふふ、シャーロットでは呼びにくいでしょう? 気軽にシャルとお呼びください♪ えっと、その姿は男性のドワーフに多い姿ですの。女性も小柄ですがおひげはなく、体型も人それぞれですわ♪」
「あ、その、変な事聞いてごめんなさい」
「いいえ、新しいことを知るのはとても良い事ですからね」
にっこり笑うシャル。そこにお調子者の少年が食いついた。
「俺も質問! シャルって何歳? ドワーフって長生きなんだろ。もしかして」
「あら、女性に実年齢を聞くのは失礼でしてよ?」
無邪気な質問を打ち切らせたのは、とっても愛くるしい氷の微笑。彼は慌てて謝ると仲間のいる窓際へ逃げていった。
馬車の隣を歩む鞍馬 真(ka5819)はそんな車内の賑やかな声を聴き、安堵した。
(良かった。子供達は落ち着いているね。後は目的地まで無事に到着するよう警戒を続けるだけだ)
一方、リアリュール(ka2003)は先行し「カナハ、見回りをお願い」とモフロウを飛ばしてはその反応を窺い、直感視も併せて活用し周囲を探り続けている。
ジェスター・ルース=レイス(ka7050)も馬で馬車と並走し、自分のモフロウを観察している。もっとも彼らは好戦的なだけで、知能は普通の鳥と同等。しかし飛行できる彼らの反応は監視の一角を担っている。その努力が実を結ぶのはほんの1時間後のことだった。
●恐怖との戦い
旧い墓石と木々が僅かに並ぶ区域に入ってから間もなく、カナハが急に甲高く鳴いた。
「リアリュールさん!」
「ええ、おそらく。カナハ、戻って!」
真っ先に異常を感じ取った真が呼吸を整え、カナハの視線の先に大きく踏み込む。
彼は鋭く息を吐き、半身のまま駆けた。そして石の陰に潜む死体の胸を突き倒す。死体は呆気なく灰となった。
リアリュールはそれを機に死体達が動き出したことに気づくと天へ銃を撃ち、光の雨を降らせた。直感視で瞳に映った7体の死体がいずれも深い傷を負い、身動きを封じられる。
時同じくして馬車の横で護衛を務める八原 篝(ka3104)は。
「お客さんよ。馬車を止めて、念のため子供達を壁から離して中央で伏せさせて」
御者に鋭く告げ、壁歩きで馬車を駆け登った。高所なら周囲が一望できる。
「厄介な連中から片付ける。覚悟なさい!」
魔導機式複合弓から放たれた炎の矢が光の雨となり、弓や杖を持った5体の死体を撃ち抜く。その結果矢持ちが2体、杖持ちが1体土に還った。
その頃、裕乃とフィー・フローレ(kz0255)は子供達を庇いつつ身を潜めた。
「お、襲われてるの?」
声を震わせる子供達。裕乃は無理に笑い「ハンターさんがいるから。絶対大丈夫」と繰り返す。ジェスターは馬車から漏れる声にわざと明るく声を張った。
「暗い顔すると幸せが逃げるじゃん。まず落ち着いて深呼吸だぜ。絶対俺達が守っから!」
そして光の雨の落ちた中で手近な木陰に向かうと、彼は剣持ちと弓持ちの死体を発見した。いずれも負傷の身ながら武器を構えたが。
「ちびどもに怖い思いはさせねえっ、さっさと逝っちまえッ!!」
ジェスターの縦横無尽の刃が2体を原形を留めぬほどに斬り裂いた。
一方、フレデリカ・ベルゲンハルト(ka7301)は魔導銃を携え、警戒を続ける。
(もうじき大きな……私達からすれば、最後の決戦にしたい戦が始まりますものね。後顧の憂いを断てるように出来ることをやりませんと)
そこで彼女は杖持ちの死体が馬車へ向けて術を紡ぐ姿を銃越しに見つけると、すぐ指先へ意識を集中させた。
「馬車への攻撃は許しませんっ!」
アルケミックパワーで瞬時にマテリアルを銃に満たし、弾丸を放つ。すると死体の腹に風穴が空き、やがて黒ずんだ砂になり……消えた。
一方、馬車ではシャルがディヴァインウィルを展開した。
しかし好奇心旺盛な子供達が座席に上ろうとする。それを保護者組は見逃さない。
「危ないですから皆さま、フィーさまの傍に居てくださいませ!」
シャロの言葉の裏にはフィーへの信頼がある。出発前にリアリュールから聞いたフィーの過去――ある精霊の暴走事件で最後まで逃げずに癒しの力を使い続けたこと。それがシャルの想いに通じていたのだ。
(剣を振るうことだけが守るということではありませんものね。それにフィーさまの芳香とお言葉はきっと子どもたちに安心をあたえてくださいますわ)
だが人間のものではない足音が外から聞こえた。ディヴァインウィルで身体が直接侵入できずとも、もし長槍持ちの死体ならば馬車を突くだろう。
咄嗟にシャルが杖を手に窓を開く。だがその時、真が驚くべき脚力で帰還した。彼は勢いを殺さぬまま剣で死体の頭を粉砕する。そして仲間達にハンドサインを送り、周囲の安全を確認した。
その後、真は馬車の仲間達に一礼する。
「シャルさん、馬車を守ってくれてありがとう。それとフィーさん、負のマテリアルの気配はないかな?」
「ウン、モウ大丈夫。デモ後デコノ辺リノ浄化ヲ依頼シナイトネ」
そうフィーが鼻を鳴らすと、ハンターの中に負傷者がいると気がついた。労りの言葉と共に放たれる幻の花吹雪。その一枚一枚が傷を覆い、傷跡も残さず消していく。
「すごい、フィーって本当に精霊なんだ!」
馬車から降りた子供達がフィーに抱き着く。
「ごめんね、嘘つきと言ったりして」
「ずっと私達の傍にいてくれてありがとう!」
子供達にもみくちゃにされるフィー。リアリュールはその様子に深く安堵した。
●楽しい野営
目的地に到着したのはまだ明るい時間だった。
馬車から降りた子供達にジェスターが「な、皆無事に到着できただろ。こいつは夕飯までの腹の足しにしな」と笑って菓子を渡す。
「ありがとー、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんのモフロウも馬も恰好いいね。後で見せてね」
「おう、いいぜ。どっちも人に慣れてるから撫でると喜ぶだろうな。と、その前に野営の準備すんぞー。暗くなったら外に出らんなくなっからな」
こうして野営の準備を始める一行。まず篝は安全確認のため足早に森を巡り始めた。
一方、真は「力仕事は任せてほしいな。これでも立派な男なんだし」と言い、重厚な造りのテントをジェスターと共に設営する。
やがて篝が戻り「この辺りは大丈夫みたい。明るいうちなら採取もできるはず。ハンターの同行ありきで、だけど」と報告するとジェスターが張り切り出した。
「よし、ちびどもと裕乃。竈とキャンプファイヤーの準備をするぞ!」
そこにフレデリカも同行すると言い出した。
「私はエルフですが、工作面に多少覚えがありますのでお役に立てるかと。エルフの女性が積極的に雑用をこなすのは不思議かもしれませんが……」
神秘的な美女のフレデリカが頬を染める姿はなんとも愛らしい。すぐに「フレデリカお姉さんも一緒だね!」と子供達にぐいぐい手を引かれて森で小さな冒険を開始した。
その頃、リアリュールとシャロはフィーとともに夕食の下拵えをしていた。ジャガイモのポタージュを煮込み、洗米し、肉に切れ込みを入れ、野菜類の皮を剥く。
今日は子供達が主人公。彼らが造る竈で料理をすれば異世界で逞しく生きた記憶のひとつとなる。だから今は完成させない。
(子供達にとって少しでも気分転換になったら良いな)
そんなリアリュールの願いはすぐに叶うことになった。
●天を満たす星
子供達が戻ってきたキャンプ場は非常に賑やかだ。石を積み上げた竈と、シンプルなキャンプファイヤー。もちろん荒い部分はハンター達が手直ししたが、完成を迎える頃には子供達は幾分か自信を得たようだ。
料理も子供達ができる範囲で調理をし、細かい味付けや刃物の扱いはハンターと裕乃が手伝う。その光景はリアルブルーの天体観測会とそっくりで、子供達はようやく本心から笑い夕食を何度もお代わりするほどハンター達に心を許した。
やがてやってくる闇。帝都側は光が薄い霞の如く空を照らしているが、他の方向は小さな星までよく見える。
(……最近激しい戦い続きで空を見る余裕すらなかったな)
夜空の美しさに惹かれ、真は天体望遠鏡を覗き込んだ。しかしレンズに映る星が何なのかわからない。
「そういえば、ゆっくり星空を見上げる機会なんて今まで無かったかも」
レンズから目を離し呟く。だがそんな誠にシャルは瞳を輝かせた。
「でもお星さまと言ったら星座に神話がございます! ロマンでいーっぱいですわ!」
そんなシャルに篝が小首を傾げる。
「こっちの世界の星座や神話か……そういうのを意識して星を見たこと無かったわ。どんな物語があるの?」
するとリアリュールが「折角ですから今日は本を持参しました。拙いですが、星の物語を楽しんでください」と、篝や子供達を前に星の知識を纏めた魔導書「アルス・パウリナ」を広げ朗読劇を始めた。
まずは自分の名前のもとにもなった北極星の物語。南に広がる黒い森に入った少年が魔女に出会い、逆恨みによる呪いでか弱い鳥にされたことから、彼はその森に人が近づかぬよう懸命に鳴き続け、死後は北に人を輝く道標となったという。
リアリュールの演技は身振り手振りも交え真に迫っている。子供達は夢中になり「面白いお話、もっと聞かせて!」と声を弾ませた。
そんな中、篝が考え込む。
「森で男が女に会い、動物にされるという点はリアルブルーの北極星シリウスに纏わるギリシャ神話と同じね。向こうはもっと悲劇的だけど」
「ん……エクラ教と似たようなものかもしれません。昔の人が転移し、交流する間に話が形を変えて広まったのかも」
リアリュールの見解に篝がなるほど、と頷く。
一方、星の物語が中断されたことで子供達は地球を求め望遠鏡を必死に覗き込んでいた。しかしどうしても見えない。そこでリアリュールが彼らに問う。
「リアルブルーから見えるのと同じ星はある? 向こうの星空のことも知りたいわ」
「ううん。ここはすごく遠いところなんだね、知ってる星座も星もない」
肩を落とす子供達。そこで篝は彼らの目線に合わせて腰を落とすと穏やかに語りかけた。
「いい? あなた達が心細いのは仕方がないの。だけど忘れないで。地球の封印はいつ解けるかわからなかった。そんな状況で、残った皆が未来に託した『希望』があなた達なの」
「希望?」
「そう。皆が無事に穏やかな幸せを掴んでくれたなら。……あなた達は封じられた世界から広がる、希望の種なのよ」
そうでなければ命を懸け、大切な子を見知らぬ地に託すものか。篝の想いが伝わったのか子供達が涙ぐむ。
するとフィーが手持ちの箱を開いた。中には手作りの小さなシュークリームが詰められている。
「ハンターハ皆トテモ強インダカラ、キット地球モ守ッテクレルノ! 心配シナイデ甘イモノ食ベテ元気ダシテ!」
フィーは皆に3つずつシュークリームを手渡した。シャルが感激の声を上げる。
「精霊様の手作りお菓子だなんて、なんだか贅沢ですわ」
食べてみればバターの香りとカスタードの甘みが口に広がる。そこで子供の笑みを見たシャルは「せっかくですし踊りましょう! 手をつないでくるくるーですの♪」と満面の笑顔を浮かべ、ひとりの子の手を取りステップを踏んだ。すると他の子供達も手を繋いで踊り出す。寂しさを心から追い出すように。
「おお、いいじゃん。それじゃ俺はマシュマロ焼くから、疲れたら食べてくれなー」
ジェスターが踊りを微笑ましく見つめつつ、マシュマロを串に刺して竈の傍に立てた。
家族を想い、今は不器用でも明るく懸命に生きる子供達。篝は彼らを眺めて微笑む。
(ふふ、なんだか転移したての頃を思い出したわ。わたしはもっと手の掛かる子供だったわね)
そう、自分がそうだったように人は変わろうと思えば変われる。きっとこの子達は自分で未来を切り拓いていけるはずだと。
●深夜の星と想い
子供達が眠りについた中、裕乃は星の様子を記録していた。見張り役のリアリュールがアルス・パウリナを基に解説してくれるのが心強い。
しかしそんな中、女の子数人がトイレに行きたいと言う。やむなくリアリュールが木陰に連れて行った。
その時、空を静かに観ていた真が口を開いた。
「私はリアルブルーの空を覚えていないけど、やはりこっちとは違ったかな」
「そうですね、北極星と月と太陽に近い存在はありますけれど、他は全く」
「そうなんだ、どうにも難しいね。……ところで裕乃さん」
「はい?」
「こうやって子供達のために力を尽くすのは立派だけど、裕乃さん自身は疲れたり不安を感じたりしていない? もし子供たちの手前吐き出せないことがあるなら聞かせてほしいな」
「……責任は重いと正直思います。でも子供達の日々の成長は確かです。少しだけ大変かもしれないけど、大丈夫」
「そうか、それを心の支えに皆のために頑張っているんだね。凄いことだと私は思うよ」
真に褒められ、顔を真っ赤にする裕乃。
その時、シャルが湯気を立てるカップを差し出した。
「お疲れのようなので。ホットミルクはいかがですか?」
「ありがとうございます、シャルさん」
温かいミルクが体に染み渡る中、リアリュールと子供達が帰ってくる。裕乃は皆に礼を言うと、子供を連れて温かな眠りについた。
●思い出づくり
翌日、一行の目を覚まさせたのは良い香りだった。夜明けの見張り担当のジェスターとフレデリカが温かい料理を用意していたのだ。
ジェスターはスープや温かい飲み物を、フレデリカはボリュームたっぷりのサンドイッチと鳥肉の入ったサラダを。
「朝はしっかりと食べないと。健康づくりの基本ですからね」
実は大食いのフレデリカが気前よく皆の前に料理を並べる。
ジェスターは美味しそうに料理を食べる子供達を眺め、軽く微笑んだ。
「お日さん、気持ちいいよな。……実際はな、不安は皆一緒。なら今を楽しんだもん勝ちだ。辛いほど笑顔で乗り切れってな」
その声に子供達は顔を見合わせ、深く頷く。
そんな子供達の瞳に輝きを見出したリアリュールは荷物から魔導カメラを取り出す。
「ああ、そうだわ。折角だから食後に記念写真を撮りましょう。楽しかった日を忘れないように」
これは子供達に写真を渡し、家族に再会できた時に異世界でも元気に楽しく生活した証にしてほしいと願う彼女の考え。皆は快く頷いた。
今日も雲ひとつない澄みきった青空。素晴らしい写真が撮れるに違いない。
街道を一台の馬車がのんびり進んでいく。緑が広がる穏やかな風景は都会っ子には新鮮に映るようで、彼らの多くが楽しげに窓から外を覗いていた。
そんな中、ひとりの少女が同乗するシャーロット=アルカナ(ka4877)に質問した。
「シャーロットさんって本当にドワーフなの? リアルブルーの本ではドワーフはおひげの長い小柄な逞しいおじさんだった」
そんな無邪気で無遠慮な質問に彼女は気を悪くせず答える。
「ふふ、シャーロットでは呼びにくいでしょう? 気軽にシャルとお呼びください♪ えっと、その姿は男性のドワーフに多い姿ですの。女性も小柄ですがおひげはなく、体型も人それぞれですわ♪」
「あ、その、変な事聞いてごめんなさい」
「いいえ、新しいことを知るのはとても良い事ですからね」
にっこり笑うシャル。そこにお調子者の少年が食いついた。
「俺も質問! シャルって何歳? ドワーフって長生きなんだろ。もしかして」
「あら、女性に実年齢を聞くのは失礼でしてよ?」
無邪気な質問を打ち切らせたのは、とっても愛くるしい氷の微笑。彼は慌てて謝ると仲間のいる窓際へ逃げていった。
馬車の隣を歩む鞍馬 真(ka5819)はそんな車内の賑やかな声を聴き、安堵した。
(良かった。子供達は落ち着いているね。後は目的地まで無事に到着するよう警戒を続けるだけだ)
一方、リアリュール(ka2003)は先行し「カナハ、見回りをお願い」とモフロウを飛ばしてはその反応を窺い、直感視も併せて活用し周囲を探り続けている。
ジェスター・ルース=レイス(ka7050)も馬で馬車と並走し、自分のモフロウを観察している。もっとも彼らは好戦的なだけで、知能は普通の鳥と同等。しかし飛行できる彼らの反応は監視の一角を担っている。その努力が実を結ぶのはほんの1時間後のことだった。
●恐怖との戦い
旧い墓石と木々が僅かに並ぶ区域に入ってから間もなく、カナハが急に甲高く鳴いた。
「リアリュールさん!」
「ええ、おそらく。カナハ、戻って!」
真っ先に異常を感じ取った真が呼吸を整え、カナハの視線の先に大きく踏み込む。
彼は鋭く息を吐き、半身のまま駆けた。そして石の陰に潜む死体の胸を突き倒す。死体は呆気なく灰となった。
リアリュールはそれを機に死体達が動き出したことに気づくと天へ銃を撃ち、光の雨を降らせた。直感視で瞳に映った7体の死体がいずれも深い傷を負い、身動きを封じられる。
時同じくして馬車の横で護衛を務める八原 篝(ka3104)は。
「お客さんよ。馬車を止めて、念のため子供達を壁から離して中央で伏せさせて」
御者に鋭く告げ、壁歩きで馬車を駆け登った。高所なら周囲が一望できる。
「厄介な連中から片付ける。覚悟なさい!」
魔導機式複合弓から放たれた炎の矢が光の雨となり、弓や杖を持った5体の死体を撃ち抜く。その結果矢持ちが2体、杖持ちが1体土に還った。
その頃、裕乃とフィー・フローレ(kz0255)は子供達を庇いつつ身を潜めた。
「お、襲われてるの?」
声を震わせる子供達。裕乃は無理に笑い「ハンターさんがいるから。絶対大丈夫」と繰り返す。ジェスターは馬車から漏れる声にわざと明るく声を張った。
「暗い顔すると幸せが逃げるじゃん。まず落ち着いて深呼吸だぜ。絶対俺達が守っから!」
そして光の雨の落ちた中で手近な木陰に向かうと、彼は剣持ちと弓持ちの死体を発見した。いずれも負傷の身ながら武器を構えたが。
「ちびどもに怖い思いはさせねえっ、さっさと逝っちまえッ!!」
ジェスターの縦横無尽の刃が2体を原形を留めぬほどに斬り裂いた。
一方、フレデリカ・ベルゲンハルト(ka7301)は魔導銃を携え、警戒を続ける。
(もうじき大きな……私達からすれば、最後の決戦にしたい戦が始まりますものね。後顧の憂いを断てるように出来ることをやりませんと)
そこで彼女は杖持ちの死体が馬車へ向けて術を紡ぐ姿を銃越しに見つけると、すぐ指先へ意識を集中させた。
「馬車への攻撃は許しませんっ!」
アルケミックパワーで瞬時にマテリアルを銃に満たし、弾丸を放つ。すると死体の腹に風穴が空き、やがて黒ずんだ砂になり……消えた。
一方、馬車ではシャルがディヴァインウィルを展開した。
しかし好奇心旺盛な子供達が座席に上ろうとする。それを保護者組は見逃さない。
「危ないですから皆さま、フィーさまの傍に居てくださいませ!」
シャロの言葉の裏にはフィーへの信頼がある。出発前にリアリュールから聞いたフィーの過去――ある精霊の暴走事件で最後まで逃げずに癒しの力を使い続けたこと。それがシャルの想いに通じていたのだ。
(剣を振るうことだけが守るということではありませんものね。それにフィーさまの芳香とお言葉はきっと子どもたちに安心をあたえてくださいますわ)
だが人間のものではない足音が外から聞こえた。ディヴァインウィルで身体が直接侵入できずとも、もし長槍持ちの死体ならば馬車を突くだろう。
咄嗟にシャルが杖を手に窓を開く。だがその時、真が驚くべき脚力で帰還した。彼は勢いを殺さぬまま剣で死体の頭を粉砕する。そして仲間達にハンドサインを送り、周囲の安全を確認した。
その後、真は馬車の仲間達に一礼する。
「シャルさん、馬車を守ってくれてありがとう。それとフィーさん、負のマテリアルの気配はないかな?」
「ウン、モウ大丈夫。デモ後デコノ辺リノ浄化ヲ依頼シナイトネ」
そうフィーが鼻を鳴らすと、ハンターの中に負傷者がいると気がついた。労りの言葉と共に放たれる幻の花吹雪。その一枚一枚が傷を覆い、傷跡も残さず消していく。
「すごい、フィーって本当に精霊なんだ!」
馬車から降りた子供達がフィーに抱き着く。
「ごめんね、嘘つきと言ったりして」
「ずっと私達の傍にいてくれてありがとう!」
子供達にもみくちゃにされるフィー。リアリュールはその様子に深く安堵した。
●楽しい野営
目的地に到着したのはまだ明るい時間だった。
馬車から降りた子供達にジェスターが「な、皆無事に到着できただろ。こいつは夕飯までの腹の足しにしな」と笑って菓子を渡す。
「ありがとー、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんのモフロウも馬も恰好いいね。後で見せてね」
「おう、いいぜ。どっちも人に慣れてるから撫でると喜ぶだろうな。と、その前に野営の準備すんぞー。暗くなったら外に出らんなくなっからな」
こうして野営の準備を始める一行。まず篝は安全確認のため足早に森を巡り始めた。
一方、真は「力仕事は任せてほしいな。これでも立派な男なんだし」と言い、重厚な造りのテントをジェスターと共に設営する。
やがて篝が戻り「この辺りは大丈夫みたい。明るいうちなら採取もできるはず。ハンターの同行ありきで、だけど」と報告するとジェスターが張り切り出した。
「よし、ちびどもと裕乃。竈とキャンプファイヤーの準備をするぞ!」
そこにフレデリカも同行すると言い出した。
「私はエルフですが、工作面に多少覚えがありますのでお役に立てるかと。エルフの女性が積極的に雑用をこなすのは不思議かもしれませんが……」
神秘的な美女のフレデリカが頬を染める姿はなんとも愛らしい。すぐに「フレデリカお姉さんも一緒だね!」と子供達にぐいぐい手を引かれて森で小さな冒険を開始した。
その頃、リアリュールとシャロはフィーとともに夕食の下拵えをしていた。ジャガイモのポタージュを煮込み、洗米し、肉に切れ込みを入れ、野菜類の皮を剥く。
今日は子供達が主人公。彼らが造る竈で料理をすれば異世界で逞しく生きた記憶のひとつとなる。だから今は完成させない。
(子供達にとって少しでも気分転換になったら良いな)
そんなリアリュールの願いはすぐに叶うことになった。
●天を満たす星
子供達が戻ってきたキャンプ場は非常に賑やかだ。石を積み上げた竈と、シンプルなキャンプファイヤー。もちろん荒い部分はハンター達が手直ししたが、完成を迎える頃には子供達は幾分か自信を得たようだ。
料理も子供達ができる範囲で調理をし、細かい味付けや刃物の扱いはハンターと裕乃が手伝う。その光景はリアルブルーの天体観測会とそっくりで、子供達はようやく本心から笑い夕食を何度もお代わりするほどハンター達に心を許した。
やがてやってくる闇。帝都側は光が薄い霞の如く空を照らしているが、他の方向は小さな星までよく見える。
(……最近激しい戦い続きで空を見る余裕すらなかったな)
夜空の美しさに惹かれ、真は天体望遠鏡を覗き込んだ。しかしレンズに映る星が何なのかわからない。
「そういえば、ゆっくり星空を見上げる機会なんて今まで無かったかも」
レンズから目を離し呟く。だがそんな誠にシャルは瞳を輝かせた。
「でもお星さまと言ったら星座に神話がございます! ロマンでいーっぱいですわ!」
そんなシャルに篝が小首を傾げる。
「こっちの世界の星座や神話か……そういうのを意識して星を見たこと無かったわ。どんな物語があるの?」
するとリアリュールが「折角ですから今日は本を持参しました。拙いですが、星の物語を楽しんでください」と、篝や子供達を前に星の知識を纏めた魔導書「アルス・パウリナ」を広げ朗読劇を始めた。
まずは自分の名前のもとにもなった北極星の物語。南に広がる黒い森に入った少年が魔女に出会い、逆恨みによる呪いでか弱い鳥にされたことから、彼はその森に人が近づかぬよう懸命に鳴き続け、死後は北に人を輝く道標となったという。
リアリュールの演技は身振り手振りも交え真に迫っている。子供達は夢中になり「面白いお話、もっと聞かせて!」と声を弾ませた。
そんな中、篝が考え込む。
「森で男が女に会い、動物にされるという点はリアルブルーの北極星シリウスに纏わるギリシャ神話と同じね。向こうはもっと悲劇的だけど」
「ん……エクラ教と似たようなものかもしれません。昔の人が転移し、交流する間に話が形を変えて広まったのかも」
リアリュールの見解に篝がなるほど、と頷く。
一方、星の物語が中断されたことで子供達は地球を求め望遠鏡を必死に覗き込んでいた。しかしどうしても見えない。そこでリアリュールが彼らに問う。
「リアルブルーから見えるのと同じ星はある? 向こうの星空のことも知りたいわ」
「ううん。ここはすごく遠いところなんだね、知ってる星座も星もない」
肩を落とす子供達。そこで篝は彼らの目線に合わせて腰を落とすと穏やかに語りかけた。
「いい? あなた達が心細いのは仕方がないの。だけど忘れないで。地球の封印はいつ解けるかわからなかった。そんな状況で、残った皆が未来に託した『希望』があなた達なの」
「希望?」
「そう。皆が無事に穏やかな幸せを掴んでくれたなら。……あなた達は封じられた世界から広がる、希望の種なのよ」
そうでなければ命を懸け、大切な子を見知らぬ地に託すものか。篝の想いが伝わったのか子供達が涙ぐむ。
するとフィーが手持ちの箱を開いた。中には手作りの小さなシュークリームが詰められている。
「ハンターハ皆トテモ強インダカラ、キット地球モ守ッテクレルノ! 心配シナイデ甘イモノ食ベテ元気ダシテ!」
フィーは皆に3つずつシュークリームを手渡した。シャルが感激の声を上げる。
「精霊様の手作りお菓子だなんて、なんだか贅沢ですわ」
食べてみればバターの香りとカスタードの甘みが口に広がる。そこで子供の笑みを見たシャルは「せっかくですし踊りましょう! 手をつないでくるくるーですの♪」と満面の笑顔を浮かべ、ひとりの子の手を取りステップを踏んだ。すると他の子供達も手を繋いで踊り出す。寂しさを心から追い出すように。
「おお、いいじゃん。それじゃ俺はマシュマロ焼くから、疲れたら食べてくれなー」
ジェスターが踊りを微笑ましく見つめつつ、マシュマロを串に刺して竈の傍に立てた。
家族を想い、今は不器用でも明るく懸命に生きる子供達。篝は彼らを眺めて微笑む。
(ふふ、なんだか転移したての頃を思い出したわ。わたしはもっと手の掛かる子供だったわね)
そう、自分がそうだったように人は変わろうと思えば変われる。きっとこの子達は自分で未来を切り拓いていけるはずだと。
●深夜の星と想い
子供達が眠りについた中、裕乃は星の様子を記録していた。見張り役のリアリュールがアルス・パウリナを基に解説してくれるのが心強い。
しかしそんな中、女の子数人がトイレに行きたいと言う。やむなくリアリュールが木陰に連れて行った。
その時、空を静かに観ていた真が口を開いた。
「私はリアルブルーの空を覚えていないけど、やはりこっちとは違ったかな」
「そうですね、北極星と月と太陽に近い存在はありますけれど、他は全く」
「そうなんだ、どうにも難しいね。……ところで裕乃さん」
「はい?」
「こうやって子供達のために力を尽くすのは立派だけど、裕乃さん自身は疲れたり不安を感じたりしていない? もし子供たちの手前吐き出せないことがあるなら聞かせてほしいな」
「……責任は重いと正直思います。でも子供達の日々の成長は確かです。少しだけ大変かもしれないけど、大丈夫」
「そうか、それを心の支えに皆のために頑張っているんだね。凄いことだと私は思うよ」
真に褒められ、顔を真っ赤にする裕乃。
その時、シャルが湯気を立てるカップを差し出した。
「お疲れのようなので。ホットミルクはいかがですか?」
「ありがとうございます、シャルさん」
温かいミルクが体に染み渡る中、リアリュールと子供達が帰ってくる。裕乃は皆に礼を言うと、子供を連れて温かな眠りについた。
●思い出づくり
翌日、一行の目を覚まさせたのは良い香りだった。夜明けの見張り担当のジェスターとフレデリカが温かい料理を用意していたのだ。
ジェスターはスープや温かい飲み物を、フレデリカはボリュームたっぷりのサンドイッチと鳥肉の入ったサラダを。
「朝はしっかりと食べないと。健康づくりの基本ですからね」
実は大食いのフレデリカが気前よく皆の前に料理を並べる。
ジェスターは美味しそうに料理を食べる子供達を眺め、軽く微笑んだ。
「お日さん、気持ちいいよな。……実際はな、不安は皆一緒。なら今を楽しんだもん勝ちだ。辛いほど笑顔で乗り切れってな」
その声に子供達は顔を見合わせ、深く頷く。
そんな子供達の瞳に輝きを見出したリアリュールは荷物から魔導カメラを取り出す。
「ああ、そうだわ。折角だから食後に記念写真を撮りましょう。楽しかった日を忘れないように」
これは子供達に写真を渡し、家族に再会できた時に異世界でも元気に楽しく生活した証にしてほしいと願う彼女の考え。皆は快く頷いた。
今日も雲ひとつない澄みきった青空。素晴らしい写真が撮れるに違いない。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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キャンプのしおり(相談卓) 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/01/29 02:40:30 |
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質問卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/01/27 22:32:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/25 18:55:15 |