ゲスト
(ka0000)
【血断】緒言~対歪虚陽動任務~
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/31 09:00
- 完成日
- 2019/02/04 06:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――グラウンド・ゼロ。
かつて、ラズモネ・シャングリラはこの地で紫龍と対峙。死闘を繰り広げた。
それから時間は流れ、ラズモネ・シャングリラはこの地へと舞い戻っていた。
「艦長、予定ポイントへ到着しました」
ラスモネ・シャングリラのブリッジでオペレーターの声が木霊する。
ブリッジに広がる荒野。北狄の遥か北で生物が存在する気配もない。邪神の攻撃を受けた影響で生まれた場所――まさに死の光景である。
「分かったザマス。各員、作戦通り戦闘態勢へ移行するザマス」
対異世界支援部隊『スワローテイル』所属の森山恭子(kz0216)艦長は、早々に艦内の乗組員へ指示を送る。
それを受けて各員は出撃前の最終調整を開始する。
「おいおい、バアさん。いいのか? ブラッドアウトの作戦地域はもっと先だろ?」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)からの問い。
オペレーション・ブラッドアウト。
地球凍結を解除する為、クリムゾンウェストへ新たな邪神翼と眷属達を迎撃する作戦だが、ラズモネ・シャングリラが足を止めた地点は作戦地域よりも離れた場所である。
「バアさんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス。あたくし達に下った命令は、本隊とは別ザマス」
「あ?」
「……陽動か」
山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)は腕を組みながら呟いた。
それに対して恭子は大きく頷く。
「そうザマス。あたくし達はこの地点で可能な限り敵の軍勢を倒して本隊への増援を阻止するのが任務ザマス。クリムゾンウェストで本格的な活動を開始する前のウォーミングアップには最適ザマス」
恭子によれば、軍から下った作戦は作戦地域外に存在する歪虚を可能な限り撃破する事。
本格戦闘が開始すれば、作戦地域外にいた歪虚も集まってくる。そうなれば邪神翼を破壊する障害になりかねない。戦艦であるラズモネ・シャングリラが作戦地域外でこれらの歪虚を撃破する事で作戦遂行の障害を取り除くのが狙いだ。
恭子もスワローテイルの活動を示す機会であり、友軍のバックアップで気合い十分だ。
「なんだよ……まあ、いいか。ハンターになって肩慣らしにはちょうどいい」
「戦いは、まだ前哨戦だ。ここで俺達まで戦力投入すれば、後の戦いに支障が出る。
それよりも油断するな。既にここは敵地だ。調子に乗ってこの船の防衛を忘れるなよ」
肩の力を抜くドリスキルへ八重樫が釘を刺す。
この作戦は、如何に敵の注意を惹いて多くの歪虚を撃破できるかにある。だが、旗艦であるラズモネ・シャングリラに大きなダメージを受ける事があれば、ラズモネ・シャングリラは撤退を余儀なくされる。任務を達成するにはラズモネ・シャングリラの防衛も必須事項だ。
「へいへい。さっすが八重樫。いつものようにお熱いのがお好きのようで」
「どういう意味だ?」
「いいや、何でもねぇよ」
ふいと顔を背け、ポケットから取り出したウイスキーに口を付ける。
「あ! また作戦前にお酒を! 駄目ザマス!」
「ああ、うるさいのがもう一人いたか。じゃあな。俺は先にヨルズの出撃準備する」
恭子から逃れるように足早にブリッジを去るドリスキル。
その様子を八重樫は黙って見つめていた。
「ハンターになったばかりというが、問題は無さそうだな」
●
数十分後。
ラズモネ・シャングリラは左翼にドリスキルの戦車型CAM『ヨルズ』、右翼に八重樫のR7エクスシアを配置。各員は恭子の作戦開始の号令を待ちわびていた。
「艦長。前方に敵の一団を確認」
「始まりザマスね。ラズモネ・シャングリラ、主砲発射ザマス。少しでも多く敵を誘き出すザマスよ!」
ラズモネ・シャングリラの主砲から放たれる二本の光。地平線へ向かって突き抜け、空中に幾つかの爆発を生じさせる。
同時に、前方から向かってくる歪虚多数。
ラズモネ・シャングリラの戦いは、こうして幕を開けた。
かつて、ラズモネ・シャングリラはこの地で紫龍と対峙。死闘を繰り広げた。
それから時間は流れ、ラズモネ・シャングリラはこの地へと舞い戻っていた。
「艦長、予定ポイントへ到着しました」
ラスモネ・シャングリラのブリッジでオペレーターの声が木霊する。
ブリッジに広がる荒野。北狄の遥か北で生物が存在する気配もない。邪神の攻撃を受けた影響で生まれた場所――まさに死の光景である。
「分かったザマス。各員、作戦通り戦闘態勢へ移行するザマス」
対異世界支援部隊『スワローテイル』所属の森山恭子(kz0216)艦長は、早々に艦内の乗組員へ指示を送る。
それを受けて各員は出撃前の最終調整を開始する。
「おいおい、バアさん。いいのか? ブラッドアウトの作戦地域はもっと先だろ?」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)からの問い。
オペレーション・ブラッドアウト。
地球凍結を解除する為、クリムゾンウェストへ新たな邪神翼と眷属達を迎撃する作戦だが、ラズモネ・シャングリラが足を止めた地点は作戦地域よりも離れた場所である。
「バアさんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス。あたくし達に下った命令は、本隊とは別ザマス」
「あ?」
「……陽動か」
山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)は腕を組みながら呟いた。
それに対して恭子は大きく頷く。
「そうザマス。あたくし達はこの地点で可能な限り敵の軍勢を倒して本隊への増援を阻止するのが任務ザマス。クリムゾンウェストで本格的な活動を開始する前のウォーミングアップには最適ザマス」
恭子によれば、軍から下った作戦は作戦地域外に存在する歪虚を可能な限り撃破する事。
本格戦闘が開始すれば、作戦地域外にいた歪虚も集まってくる。そうなれば邪神翼を破壊する障害になりかねない。戦艦であるラズモネ・シャングリラが作戦地域外でこれらの歪虚を撃破する事で作戦遂行の障害を取り除くのが狙いだ。
恭子もスワローテイルの活動を示す機会であり、友軍のバックアップで気合い十分だ。
「なんだよ……まあ、いいか。ハンターになって肩慣らしにはちょうどいい」
「戦いは、まだ前哨戦だ。ここで俺達まで戦力投入すれば、後の戦いに支障が出る。
それよりも油断するな。既にここは敵地だ。調子に乗ってこの船の防衛を忘れるなよ」
肩の力を抜くドリスキルへ八重樫が釘を刺す。
この作戦は、如何に敵の注意を惹いて多くの歪虚を撃破できるかにある。だが、旗艦であるラズモネ・シャングリラに大きなダメージを受ける事があれば、ラズモネ・シャングリラは撤退を余儀なくされる。任務を達成するにはラズモネ・シャングリラの防衛も必須事項だ。
「へいへい。さっすが八重樫。いつものようにお熱いのがお好きのようで」
「どういう意味だ?」
「いいや、何でもねぇよ」
ふいと顔を背け、ポケットから取り出したウイスキーに口を付ける。
「あ! また作戦前にお酒を! 駄目ザマス!」
「ああ、うるさいのがもう一人いたか。じゃあな。俺は先にヨルズの出撃準備する」
恭子から逃れるように足早にブリッジを去るドリスキル。
その様子を八重樫は黙って見つめていた。
「ハンターになったばかりというが、問題は無さそうだな」
●
数十分後。
ラズモネ・シャングリラは左翼にドリスキルの戦車型CAM『ヨルズ』、右翼に八重樫のR7エクスシアを配置。各員は恭子の作戦開始の号令を待ちわびていた。
「艦長。前方に敵の一団を確認」
「始まりザマスね。ラズモネ・シャングリラ、主砲発射ザマス。少しでも多く敵を誘き出すザマスよ!」
ラズモネ・シャングリラの主砲から放たれる二本の光。地平線へ向かって突き抜け、空中に幾つかの爆発を生じさせる。
同時に、前方から向かってくる歪虚多数。
ラズモネ・シャングリラの戦いは、こうして幕を開けた。
リプレイ本文
「ジェイミー、もしかしなくても、もう飲んでるのかしら……少し控えた方が、勝利の美酒は美味しいんじゃないかと思うけど」
「ああ? 勝ったら勝ったで飲めばいいじゃねぇか。こいつは景気づけだよ」
マリィア・バルデス(ka5848)とジェイミー・ドリスキル(kz0231)の会話が各機の通信機器を通して聞こえてくる。
これが訓練終了後の会話であるなら、好きにしてもらっても構わない。
だが――これから彼らが臨むのは、命を賭けた戦争である。
「そんな事言って、飲みたいだけなんじゃないの?」
「へっ、バレてたか」
通信機器から流れる声だけを聞いてもR7エクスシア『mercenario』の中でマリィアが口を尖らせている光景が見える。
緊張の糸が切れるような感覚。
この会話に痺れを切らせたのか、キヅカ・リク(ka0038)が一石を投じる。
「おぉぉいっ! ドリスキルのおっさん!」
キヅカの怒気を込めた声。
戦い前から酒を飲んでいる不良軍人の方だ。
「あ? なんだよ」
「今度はラブロマンスしてないで働いてよ。こっちはCAMにも乗らずに寒い中、外出てんだからさ」
魔導パイロットインカムを通して聞こえてくるキヅカの声は寒さで震えている。
ここは――グラウンドゼロ。
邪神との戦いを巡る作戦『ブラッドアウト』の支援を行う為、対異世界支援部隊『スワローテイル』旗艦ラズモネ・シャングリラへ下された任務。
それは作戦周辺宙域に存在する歪虚へ陽動を行い、可能な限り敵の目を惹き付ける事。 作戦宙域から少し離れた場所でラズモネ・シャングリラが歪虚との交戦を開始すれば、敵は作戦本隊ではなくラズモネ・シャングリラへ向く事になる。作戦本隊を支援する事で、作戦全体の成功率を引き上げるのが狙いである。
「おっ。寒空の下でモテない奴が一生懸命内職とはご苦労なこった」
「うぉぉぉい! 聞き捨てならないな。こっちは敵の襲撃を予期して罠を仕掛けていたんだよ。内職じゃない!」
憤慨するキヅカ。
ラズモネ・シャングリラでも艦長の森山恭子(kz0216)に怒られているからも分かる通り、ドリスキルは基本的にマイペース。そのせいで人の不興を買うこともしばしばだ。
今回もキヅカは刻令ゴーレム「Gnome」と共に襲来すると思われる歪虚用にCモード「bind」を設置していた。ラスモネ・シャングリラの正面へ布陣するキヅカにとって、重要な準備。それを内職と言われては堪らない。
「おっさん。ヨルズで復帰したんだし、それで撃破数が僕より低かったら夕飯のステーキはおごりだからね」
感情に任せてなのか、キヅカが持ちかけてきた勝負。
どちらの撃破数が多かったか。
戦場でイチャつくリア充に鉄槌を下すべく、キヅカは一人燃えていた。
「いいぜ。なんなら、付け合わせのパイナップルもくれてやるよ」
「あ、それはいらない」
「それより……」
唐突なドリスキルの声。
トーンが異なる時点で、顔つきも変わっているとキヅカは気付いた。
「お前。まさか誰もが幸せになれるなんて、思ってないよな?」
●
キヅカがドリスキルに勝負を持ちかけている裏で、もう一つの勝負が右舷にて申し込まれていた。
「おう、オッサンども。これ終わったら飲もうぜ。それぐらいの御褒美が無きゃやってらんねぇ」
アニス・テスタロッサ(ka0141)は各機へ響かすように叫ぶ。
やってられない。それは無理も無い。
グラウンドゼロと一言で片付けても範囲は広大。龍園より更に北。あの邪神を相手に戦う場所として選ばれているのだから、かなりの広さだ。その場所で可能な限り目立って敵の目を惹き付けようというのだから、相当な重労働な事は間違いない。
「褒美か。分からんでもないな」
右舷で守備体制を敷く山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)は、小さく頷いた。
アニスの指摘通り、この任務は一歩間違えれば敵に包囲されてあっという間に倒されるリスクを背負う。
油断は大敵。もし、誰かが倒されるような事があればそこが穴となってラズモネ・シャングリラへの損害へと繋がる。それはラズモネ・シャングリラの早期撤退を意味する。
「だろ? スコアが一番低かった奴の奢りな」
「ええ!? そんな勝負をなさるのですか?」
ワイバーン『クウ』の背中でやり取りを聞いていたユウ(ka6891)は、困惑する。
今から敵の目を惹き付けて時間を稼げば、それだけブラッドアウト本隊を助ける事になる。何としても多くの敵を惹き付けて陽動を成功させようと意気込んでいた所であった。
勝負事が悪いとは言わないが、自分との空気の違いに気圧されそうになる。
「心配するな。それぞれに役目がある。この勝負事も前線で体を張るおまじないみたいなものだ」
「おまじない、ですか」
「そうだ。賭けに勝手も負けても生きて帰る必要がある。勝利の美酒を皆で楽しむ方便と思ってくれていい」
不安そうなユウを八重樫はそっとフォローする。
今もラズモネ・シャングリラの上空で旋回すクウ。
ユウの頬に冷たい風が吹き辺り、体温を奪い続けている。
「そんなもの、ですか?」
「いいのか? 生きて帰れたら、あんたにも美味い飯が待ってるぜ? もっとも、その金は負けた奴の金だけどな」
ユウの心を支えるようなアニスの言葉。
実際、ユウが美味しい物を食べたいかは分からない。ただ、この戦いを乗り越える事が、ブラッドアウト成功の一因。その為には美味い飯を『ニンジン』にしてでも自分を奮い立たさなければならない。
「生きて帰る。私達も、ブラッドアウトで戦うみんなも。
その為には頑張らないとですよね」
「ああ。そうだ」
気合いを入れ直すユウを上空に見据えながら、アニスは視線を水平線上へ向ける。
ここは間もなく戦場になる。
負ける訳にはいかない。
勝負にも。歪虚にも。
「期待してる」
勝負を忘れたのか、八重樫はそっと一言呟いた。
●
「皆さん! 最終チェックは済んだザマスか?」
恭子の確認が各機へ流れる。
陽動作戦が開始されれば、各機は戦いに集中する事になる。
遠くにいる歪虚の一団へ攻撃を仕掛ければ、おそらく周辺から歪虚が一斉に集まってくるだろう。
「有象無象共がうじゃうじゃときりがないのう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)がダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』の機内から見る光景は、異様だった。
赤黒い空。
荒野の先に蠢く影は、歪虚の群れ。
それは悍ましく、醜く、凶悪だ。
今からミグはあの一団を相手にしなければならない。
だが、ミグに臆する様子はない。
「じゃが、ミグのヤクト・バウの限界を知るには良い機会である」
この状況においてミグは前向きである。
自らが改造し続けたこの機体の限界が何処か。
それを把握する事で、ヤクト・バウは更なる進化を遂げる事ができる。
「へぇ。なかなかな機体だな。ダンスパーティでも目立ちそうだ」
「…………」
同じ左舷に配置されていた戦車型CAM『ヨルズ』のドリスキルがヤクト・バウに視線を留める。
だが、ミグは敢えて即答を避けた。一見すれば特撮映画の怪獣とも見間違えるような改造を施されたヤクト・バウ。その改造の一端はヨルズに対抗した為、とも言われているからだ。
「あ、聞こえなかったか? これでも褒めたんだがな」
「マリィア」
ドリスキルの声をスルーしたミグは、同じく左舷にいたマリィアへ話し掛けた。
少し慌てたようにマリィアは答える。
「な、なに?」
「これからミグは戦う。ヤクト・バウの名に賭けて、決して負けん。そこの戦車にはな」
ミグから名指しのライバル視。
これいはドリスキルも心を掻き立てられる。
「歴戦の勇者からの挑戦状って奴か? いいねぇ、ヨルズの咆哮を聞いてもビビるなよ」
一方、ミコト=S=レグルス(ka3953)は魔導型デュミナスに騎乗してラズモネ・シャングリラの正面へと移動していた。
「艦長、敵の動きはどうですかっ?」
「敵はこちらに気付いて警戒しているザマスね。距離はある分、様子を窺っていると考えるべきザマス」
ミコトの問いに恭子は答える。
おそらく歪虚側も攻める切っ掛けを欲しているのだろう。目視できる位置にラズモネ・シャングリラが陣取っているが、ここから動けば距離が相応にある。もう少し他の歪虚を集めてから戦おうとしているのだろう。
だが、それはミコトには待ちわびた展開である。
「わらわらっと沸いてくる敵さん達を、バッタバッタとなぎ倒し祭り、ですっ!」
断言するミコト。
既に同じ正面に陣取るキヅカと連携して敵の動きをシミュレートしている。
うまく釣り出す事ができれば、ラズモネ・シャングリラの主砲でまとめて一掃できる。
「気合いが入るのは分かるザマスが、気を付けるザマス。敵と一緒に主砲で攻撃されるなんて駄目ザマスからね」
「大丈夫っ! 任せておいて」
軽い感じではるが、ミコトは気合い十分であった。
各機の準備が整った段階で、開戦はついに切って落とされる。
●
「始まりザマスね。ラズモネ・シャングリラ、主砲発射ザマス。少しでも多く敵を誘き出すザマスよ!」
恭子の号令で放たれるマテリアル砲。
エネルギーは一直線に伸びていき、地平線近くの影へと突き刺さる。
衝撃。一撃で小型狂気を中心に多数の歪虚を葬り去る。
だが、同時に今の一撃が切っ掛けとなり、周辺の歪虚がラズモネ・シャングリラへ目掛けて動き始める。
「……やってみるか」
早々に迎撃に動いたのはドリスキルだった。
機体の射程距離が長い事もあるが、それにしても敵との距離が開きすぎる。
それでも他よりも早く仕掛けるのは、キヅカとの勝負の為だろうか。
「折角のお客様だ。ご挨拶は大切だよな」
照準の中に収まる中型狂気の一団。
呼吸を合わせたドリスキルは、初弾を発射する。
155mm大口径滑空砲が轟音を発し、周囲の空気を震えさせる。
「おっさん!? 早い、早すぎるって」
左舷からの轟音に正面に陣取るキヅカは思わず声を掛ける。
距離があり過ぎる為か、砲弾は中型狂気へ届く前に地面を大きく抉った。
その一撃が周辺の歪虚を挑発したかのように、真っ直ぐラズモネ・シャングリラへ侵攻する。
「来るわよ。あなた達、勝負するんでしょ?」
mercenarioのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」が銃声を響かせる。
銃弾が小型狂気の群れへ突き刺さり、中心にいた敵の体を爆ぜさせる。
可能な限りラズモネ・シャングリラとヨルズへ接近させないように攻撃を仕掛けるつもりだが、敵の数は多い。何処まで敵の進軍を抑え込めるだろうか。
「ふむ。大きな作戦の露払いじゃ。見事大役を務めて見せようかのう、ヤクト・バウ」
ミグのヤクト・バウも動き出す。
両肩に装備されたプラネットキャノンを擁する砲撃仕様の機体から放たれる轟音。
機体に加わる振動は衝撃緩和機能で低減され、ミグの体に加わる負担は僅かだ。しかし、敵はそうはいかない。徹甲弾が中型狂気へと突き刺さる。
そして、ヤクト・バウの攻撃はこれだけで終わらない。
「見せてやれ、ヤクト・バウ! この巨体は伊達ではない、と!」
ミグの声と同時に連続砲撃。
次々と放たれるが徹甲弾で弾幕を形成。付近まで迫っていた小型狂気を一掃していく。「へぇ、やるじゃねぇか」
傍らにいたドリスキルもヤクト・バウの活躍に驚いている様子だ。
「褒めている暇はないのじゃ。奴ら、物量で押し切るつもりじゃぞ」
ミグの指摘通り、敵は味方の屍を乗り越えて進軍を続けている。
それだけの数がこの宙域に存在していた事を考えれば、陽動の初手は成功と言える。
「二人とも、反撃を続けて。近づかれたら厄介なんでしょ? その機体」
マリィアは弾幕後方にいる小型狂気の群れに対してフォールシュート。
弾丸の雨を降り注ぎ、多数の小型狂気を撃ち倒す。
接近されるまでの間、どれだけ敵を削り取れるか。
それが大きな課題だとマリィアは経験から察していた。
●
「戦場全体の情報が欲しい。こっちのセンサーとそっちのレーダーをリンクさせっからコードくれ」
戦闘前に恭子へ情報展開を打診していたアニス。
その判断は決して間違ってはいない。新手があればラズモネ・シャングリラのオペレーターから情報展開してくれる手筈であるが、オファニム『レラージュ・ベナンディ』で直接敵の情報を入手できるなら臨機応変に対応できる。
「釣り出されやがったな。追加オーダー来たぞ!」
プラズマライフル「ラッド・フィエル01」で迎撃していたレラージュ・ベナンディのモニターに、新手の敵影が移し出される。
新手は――右舷前方。中型狂気を取り巻くように小型狂気が群れを成して現れる。
敵の襲来に対して奇妙な空間を気にして突いた所、アニスの予想通り敵の一団が潜んでいた。
「二人はそのまま正面を頼む。俺が処理に向かう」
アニスはレラージュ・ベナンディを前へと進ませる。
後方には八重樫のR7エクスシア。上空にはクウに乗るユウの姿があった。
「作戦通り敵を所定位置に追い込めば良いのですね」
ユウはクウを大きく旋回させ、目標の一団の左側を狙う。
機動力を生かし、素早く敵に向かって飛来。
ユウの手に握られるのは魔剣「バルムンク」。
「クウ、一撃離脱を繰り返すよ……危険だけどお願い」
空気を斬るように飛行するクウ。
高度を下げながら、小型狂気との間合いが詰められていく。
そして――。
「はいっ!」
すれ違い様に振るわれるバルムンク。
小型狂気を切り裂く事に成功。
さらにクウはもう一度旋回して敵に接近、こちらへ気付いた中型狂気の遠距離ビームを掻い潜る。
「クウ、お願い」
体勢を低くするユウ。
スピードを上げたクウは、射程距離に収めた敵に対してファイアブレス。
火炎弾が地面に着弾し、小型狂気を数体吹き飛ばした。
「おっさん、敵をもっと正面へ誘導してくれ」
「了解だ」
オーダーに従い、八重樫はアニスのラッド・フィエル01に合わせる形で量産型対VOIDミサイルを叩き込んでいく。
アニスの狙いは――敵の一団を可能な限り中央へ寄せる事。
正確には、ラズモネ・シャングリラの射程距離へ収める事であった。
「艦長! 右舷側の砲塔、向けられるのを回してくれ」
「分かったザマス! 右舷砲塔、アニスさんの指定位置に向けて一斉射撃ザマス!」
ラズモネ・シャングリラから放たれる銃弾の雨。
指定位置周辺にいた敵の一団へ次々と刺さっていく。
アニスが追い込んだ歪虚の群れも巻き込む事に成功する。
しかし、敵の襲来はこれで終わる気配が無い。
それもアニスは織り込み済みだ。
「さって、稼ぎ時だ。こいつぁ元々こういう状況の為の機体なんでな……出し惜しみなしでいくぜ!」
レラージュ・ベナンディで発動するマルチロックオンが敵影を照準へ収めていく。
アニスは、いつも以上に気分を高揚させていた。
●
激戦となっていたのは、ラズモネ・シャングリラの正面であった。
敵の主力は正面から襲来する為、自ずと敵に相対する機会は正面に布陣していたキヅカとミコトに負担が掛けられる。
「うっわ! 本当にこれ、キリがないね」
ミコトは魔導型デュミナスのアクティブスラスターを使用しながら、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で敵を迎撃する。
小型狂気でも後方へ逸らせば、そのままラズモネ・シャングリラの損傷へ繋がる可能性もある。中型狂気以外に小さな敵でも決して見逃せない。
「ミコト、中型がbindに掛かった!」
キヅカからの声。
事前に設置していたCモード「bind」に中型狂気が捕捉される。動きを封じられた中型狂気は、その場で足止めされる。
ミコトはキヅカからの打診を受け、機体を反転させる。
デュミナスの手に握られるは、魔斧「モレク」。
「こっちに来るな、ですっ!」
地獄の炎を連装させる赤い光。
遠心力を乗せられた一撃が、中型狂気の頭へ振り下ろされる。
攻撃を受けた中型狂気は、力を失い地面へと倒れ込む。
「ミコト、下がれ。次の新手が来る」
キヅカは新手の襲来を察知してデルタレイ。
小型狂気を複数倒しながら、ミコトへ次なる敵の襲来へ備えるよう指示を出す。
ラズモネ・シャングリラも主砲で迎撃しているが、敵の猛攻は激しさを増している。
潮時が迫っている事をキヅカは察していた。
だからこそ、キヅカはドリスキルへ聞いておきたかった。
「おっさん」
「あん? もう打ち止めか?」
「いや。さっきの言葉の意味、どういう事だ?」。
キヅカの脳裏に引っかかっていたドリスキルの言葉。
『まさか誰もが幸せになれるなんて、思ってないよな?』
大精霊と契約する際、『誰もが生きれる明日を作る』という願いを叶えると発言していた。
それに釘を刺すかのような言葉。
そのドリスキルの発言はミコトも気になっていた。
「それ、うちも気になってたんですっ! どういう事?」
「……ああ、それか」
ドリスキルは一瞬、黙る。
そして、一呼吸を置いてから話し始めた。
「俺は軍人だ。万人を救うなんて簡単じゃないと分かってるつもりだ。
俺には全員を守るなんて真似はできねぇ。精々、自分の隣にいる奴を守ってやれるぐらいだ」
ドリスキルの視界にマリィアのmercenarioが入る。
軽く鼻で笑った後、ドリスキルは言葉を続ける。
「お前が守護者って奴になったのは聞いた。それはきっとすげぇもんなんだろ。
だが、俺はみんなの為に戦おうとして自分を犠牲にしてきた奴を多く見て来た」
ドリスキルは元教官だ。新兵教育で様々な人材と会ってきた。
そして、歪虚との戦いで教え子が次々と殺されている。
多くの死を見たドリスキルにとって、この場にいるハンター達の誰もが死んで欲しくない面々だ。
「他の連中もそうだ。お前ら……自分の理想に押し潰されるなよ」
理想は大切だ。
誰も彼も救う。それはハンターとして良くある願望だ。だが、救う対象に自分が入っていない者も多い。
簡単に自己犠牲など選んで欲しくない。ドリスキル自身が、かつて自分を犠牲にしようとしたからこそ――そのような言葉が出てきたのかもしれない。
「おっさん、俺は……」
キヅカがそう言い掛けた瞬間、各機に対して恭子からの通信が入る。
「皆さん、本隊から作戦終了の打診があったザマス。各機本宙域より撤退準備に入るザマス」
●
ホープへ向かうラズモネ・シャングリラの機内でささやかな打ち上げが催された。
アニスとの賭けに負けた八重樫が、どうせならと陽動作戦に参加したハンター達に奢ると言い出したからだ。
「くぅ~! 奢りの酒は格別だな」
「頑張ってたからな。たまには楽しむといい」
アニスは勝利の美酒を口にした。
事実、右舷を中心にしたアニスの指示は的確で撃破数はかなり上がっていた。
八重樫も負けたにも関わらず満足そうだ。
「砲撃は十分。アークスレイによる狙撃も成功したが、詰め寄られると厳しいのは最早砲撃型の宿命じゃな」
ポテトを口へ放り込むミグは今日の戦いを振り返っていた。
砲撃はヨルズよりも連射が効く分、多数の敵に有利だ。だが、物量で押し込まれるとどうしても接近戦が増える。ヨルズもそうだが、近寄られると対応に苦慮するのは致し方ない。
「大丈夫です。その為に仲間がいます。接近戦が得意とする方に助けて貰えれば良いのです」
ユウからの言葉。
そう、仲間と連携する事で欠点は補える。すべて一人で背負い込む必要はないのだ。
「…………」
ミグとユウの会話がキヅカの耳にも飛び込んでくる。
やや神妙な顔つきのキヅカにミコトがそっと話し掛ける。
「大丈夫? さっき中尉が言ってた事、だよね」
「ああ。これでも慎重にやってたんだけどな」
ラブロマンスはともかく、ドリスキルは自己犠牲を『馬鹿らしい』と考えているのだろう。だから、身近な存在――マリィアを守る事を選んだ。万人を救うのは無理でも、手が届く範囲なら守ってやれる。
もし、自分が自分の身を挺してでもみんなを守らないといけないなら――。
「ここにいる人も似たようなものじゃない? 自分を犠牲にしないといけない事ってあるかもしれないし」
「そうだな……あれ? 当のおっさんは?」
見回すキヅカ。
ドリスキルのおっさんの姿が見えない。
ミコトは軽くため息をついた後、一言呟いた。
「……ラブロマンスだよ」
●
「ねぇジェイミー、邪神戦が終わったら崑崙の公園でピクニックはどうかしら。サンドイッチでも何でも作るわ。食べたい物はある?」
他のハンターから離れた場所でマリィアはドリスキルへそう問いかけた。
マリィアからの言葉にドリスキルは軽く笑みを浮かべる。
「ピクニックねぇ。軍人の俺はどうも柄じゃなくてなぁ」
「平和になった事も考えないと駄目よ。
でも……生きていれば丸儲けっていうけれど、本当にそうかしら。自分の命を惜しんで人類が壊滅したら意味がないじゃない。最高値は付けてやるつもりだけど、賭けるべき時に命を惜しむ気はないもの」
マリィアが視線を落とす。
それはハンターとしてのマリィアがドリスキルの先程の言葉に対する回答だった。
命を賭けなければならないなら、マリィアは賭ける。
それがどんな犠牲を払っているのかも分かっている。
それでも、やらなければならない時はある。
「それが正解なのかもしれねぇ。だが、俺には無理だ……ただ、それだけの話だ」
そっとマリィアの頭を撫でるドリスキル。
何が正解なのかは分からない。
ただ、その場になった時に後悔をしない行動を取れれば良いのかもしれない。
「とりあえず初戦を生き延びたお祝いをしましょうか。今なら浴びるほど飲んだって誰も文句は言わないわ」
二人のグラスが接し、独特の高い音を奏でた。
「ああ? 勝ったら勝ったで飲めばいいじゃねぇか。こいつは景気づけだよ」
マリィア・バルデス(ka5848)とジェイミー・ドリスキル(kz0231)の会話が各機の通信機器を通して聞こえてくる。
これが訓練終了後の会話であるなら、好きにしてもらっても構わない。
だが――これから彼らが臨むのは、命を賭けた戦争である。
「そんな事言って、飲みたいだけなんじゃないの?」
「へっ、バレてたか」
通信機器から流れる声だけを聞いてもR7エクスシア『mercenario』の中でマリィアが口を尖らせている光景が見える。
緊張の糸が切れるような感覚。
この会話に痺れを切らせたのか、キヅカ・リク(ka0038)が一石を投じる。
「おぉぉいっ! ドリスキルのおっさん!」
キヅカの怒気を込めた声。
戦い前から酒を飲んでいる不良軍人の方だ。
「あ? なんだよ」
「今度はラブロマンスしてないで働いてよ。こっちはCAMにも乗らずに寒い中、外出てんだからさ」
魔導パイロットインカムを通して聞こえてくるキヅカの声は寒さで震えている。
ここは――グラウンドゼロ。
邪神との戦いを巡る作戦『ブラッドアウト』の支援を行う為、対異世界支援部隊『スワローテイル』旗艦ラズモネ・シャングリラへ下された任務。
それは作戦周辺宙域に存在する歪虚へ陽動を行い、可能な限り敵の目を惹き付ける事。 作戦宙域から少し離れた場所でラズモネ・シャングリラが歪虚との交戦を開始すれば、敵は作戦本隊ではなくラズモネ・シャングリラへ向く事になる。作戦本隊を支援する事で、作戦全体の成功率を引き上げるのが狙いである。
「おっ。寒空の下でモテない奴が一生懸命内職とはご苦労なこった」
「うぉぉぉい! 聞き捨てならないな。こっちは敵の襲撃を予期して罠を仕掛けていたんだよ。内職じゃない!」
憤慨するキヅカ。
ラズモネ・シャングリラでも艦長の森山恭子(kz0216)に怒られているからも分かる通り、ドリスキルは基本的にマイペース。そのせいで人の不興を買うこともしばしばだ。
今回もキヅカは刻令ゴーレム「Gnome」と共に襲来すると思われる歪虚用にCモード「bind」を設置していた。ラスモネ・シャングリラの正面へ布陣するキヅカにとって、重要な準備。それを内職と言われては堪らない。
「おっさん。ヨルズで復帰したんだし、それで撃破数が僕より低かったら夕飯のステーキはおごりだからね」
感情に任せてなのか、キヅカが持ちかけてきた勝負。
どちらの撃破数が多かったか。
戦場でイチャつくリア充に鉄槌を下すべく、キヅカは一人燃えていた。
「いいぜ。なんなら、付け合わせのパイナップルもくれてやるよ」
「あ、それはいらない」
「それより……」
唐突なドリスキルの声。
トーンが異なる時点で、顔つきも変わっているとキヅカは気付いた。
「お前。まさか誰もが幸せになれるなんて、思ってないよな?」
●
キヅカがドリスキルに勝負を持ちかけている裏で、もう一つの勝負が右舷にて申し込まれていた。
「おう、オッサンども。これ終わったら飲もうぜ。それぐらいの御褒美が無きゃやってらんねぇ」
アニス・テスタロッサ(ka0141)は各機へ響かすように叫ぶ。
やってられない。それは無理も無い。
グラウンドゼロと一言で片付けても範囲は広大。龍園より更に北。あの邪神を相手に戦う場所として選ばれているのだから、かなりの広さだ。その場所で可能な限り目立って敵の目を惹き付けようというのだから、相当な重労働な事は間違いない。
「褒美か。分からんでもないな」
右舷で守備体制を敷く山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)は、小さく頷いた。
アニスの指摘通り、この任務は一歩間違えれば敵に包囲されてあっという間に倒されるリスクを背負う。
油断は大敵。もし、誰かが倒されるような事があればそこが穴となってラズモネ・シャングリラへの損害へと繋がる。それはラズモネ・シャングリラの早期撤退を意味する。
「だろ? スコアが一番低かった奴の奢りな」
「ええ!? そんな勝負をなさるのですか?」
ワイバーン『クウ』の背中でやり取りを聞いていたユウ(ka6891)は、困惑する。
今から敵の目を惹き付けて時間を稼げば、それだけブラッドアウト本隊を助ける事になる。何としても多くの敵を惹き付けて陽動を成功させようと意気込んでいた所であった。
勝負事が悪いとは言わないが、自分との空気の違いに気圧されそうになる。
「心配するな。それぞれに役目がある。この勝負事も前線で体を張るおまじないみたいなものだ」
「おまじない、ですか」
「そうだ。賭けに勝手も負けても生きて帰る必要がある。勝利の美酒を皆で楽しむ方便と思ってくれていい」
不安そうなユウを八重樫はそっとフォローする。
今もラズモネ・シャングリラの上空で旋回すクウ。
ユウの頬に冷たい風が吹き辺り、体温を奪い続けている。
「そんなもの、ですか?」
「いいのか? 生きて帰れたら、あんたにも美味い飯が待ってるぜ? もっとも、その金は負けた奴の金だけどな」
ユウの心を支えるようなアニスの言葉。
実際、ユウが美味しい物を食べたいかは分からない。ただ、この戦いを乗り越える事が、ブラッドアウト成功の一因。その為には美味い飯を『ニンジン』にしてでも自分を奮い立たさなければならない。
「生きて帰る。私達も、ブラッドアウトで戦うみんなも。
その為には頑張らないとですよね」
「ああ。そうだ」
気合いを入れ直すユウを上空に見据えながら、アニスは視線を水平線上へ向ける。
ここは間もなく戦場になる。
負ける訳にはいかない。
勝負にも。歪虚にも。
「期待してる」
勝負を忘れたのか、八重樫はそっと一言呟いた。
●
「皆さん! 最終チェックは済んだザマスか?」
恭子の確認が各機へ流れる。
陽動作戦が開始されれば、各機は戦いに集中する事になる。
遠くにいる歪虚の一団へ攻撃を仕掛ければ、おそらく周辺から歪虚が一斉に集まってくるだろう。
「有象無象共がうじゃうじゃときりがないのう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)がダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』の機内から見る光景は、異様だった。
赤黒い空。
荒野の先に蠢く影は、歪虚の群れ。
それは悍ましく、醜く、凶悪だ。
今からミグはあの一団を相手にしなければならない。
だが、ミグに臆する様子はない。
「じゃが、ミグのヤクト・バウの限界を知るには良い機会である」
この状況においてミグは前向きである。
自らが改造し続けたこの機体の限界が何処か。
それを把握する事で、ヤクト・バウは更なる進化を遂げる事ができる。
「へぇ。なかなかな機体だな。ダンスパーティでも目立ちそうだ」
「…………」
同じ左舷に配置されていた戦車型CAM『ヨルズ』のドリスキルがヤクト・バウに視線を留める。
だが、ミグは敢えて即答を避けた。一見すれば特撮映画の怪獣とも見間違えるような改造を施されたヤクト・バウ。その改造の一端はヨルズに対抗した為、とも言われているからだ。
「あ、聞こえなかったか? これでも褒めたんだがな」
「マリィア」
ドリスキルの声をスルーしたミグは、同じく左舷にいたマリィアへ話し掛けた。
少し慌てたようにマリィアは答える。
「な、なに?」
「これからミグは戦う。ヤクト・バウの名に賭けて、決して負けん。そこの戦車にはな」
ミグから名指しのライバル視。
これいはドリスキルも心を掻き立てられる。
「歴戦の勇者からの挑戦状って奴か? いいねぇ、ヨルズの咆哮を聞いてもビビるなよ」
一方、ミコト=S=レグルス(ka3953)は魔導型デュミナスに騎乗してラズモネ・シャングリラの正面へと移動していた。
「艦長、敵の動きはどうですかっ?」
「敵はこちらに気付いて警戒しているザマスね。距離はある分、様子を窺っていると考えるべきザマス」
ミコトの問いに恭子は答える。
おそらく歪虚側も攻める切っ掛けを欲しているのだろう。目視できる位置にラズモネ・シャングリラが陣取っているが、ここから動けば距離が相応にある。もう少し他の歪虚を集めてから戦おうとしているのだろう。
だが、それはミコトには待ちわびた展開である。
「わらわらっと沸いてくる敵さん達を、バッタバッタとなぎ倒し祭り、ですっ!」
断言するミコト。
既に同じ正面に陣取るキヅカと連携して敵の動きをシミュレートしている。
うまく釣り出す事ができれば、ラズモネ・シャングリラの主砲でまとめて一掃できる。
「気合いが入るのは分かるザマスが、気を付けるザマス。敵と一緒に主砲で攻撃されるなんて駄目ザマスからね」
「大丈夫っ! 任せておいて」
軽い感じではるが、ミコトは気合い十分であった。
各機の準備が整った段階で、開戦はついに切って落とされる。
●
「始まりザマスね。ラズモネ・シャングリラ、主砲発射ザマス。少しでも多く敵を誘き出すザマスよ!」
恭子の号令で放たれるマテリアル砲。
エネルギーは一直線に伸びていき、地平線近くの影へと突き刺さる。
衝撃。一撃で小型狂気を中心に多数の歪虚を葬り去る。
だが、同時に今の一撃が切っ掛けとなり、周辺の歪虚がラズモネ・シャングリラへ目掛けて動き始める。
「……やってみるか」
早々に迎撃に動いたのはドリスキルだった。
機体の射程距離が長い事もあるが、それにしても敵との距離が開きすぎる。
それでも他よりも早く仕掛けるのは、キヅカとの勝負の為だろうか。
「折角のお客様だ。ご挨拶は大切だよな」
照準の中に収まる中型狂気の一団。
呼吸を合わせたドリスキルは、初弾を発射する。
155mm大口径滑空砲が轟音を発し、周囲の空気を震えさせる。
「おっさん!? 早い、早すぎるって」
左舷からの轟音に正面に陣取るキヅカは思わず声を掛ける。
距離があり過ぎる為か、砲弾は中型狂気へ届く前に地面を大きく抉った。
その一撃が周辺の歪虚を挑発したかのように、真っ直ぐラズモネ・シャングリラへ侵攻する。
「来るわよ。あなた達、勝負するんでしょ?」
mercenarioのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」が銃声を響かせる。
銃弾が小型狂気の群れへ突き刺さり、中心にいた敵の体を爆ぜさせる。
可能な限りラズモネ・シャングリラとヨルズへ接近させないように攻撃を仕掛けるつもりだが、敵の数は多い。何処まで敵の進軍を抑え込めるだろうか。
「ふむ。大きな作戦の露払いじゃ。見事大役を務めて見せようかのう、ヤクト・バウ」
ミグのヤクト・バウも動き出す。
両肩に装備されたプラネットキャノンを擁する砲撃仕様の機体から放たれる轟音。
機体に加わる振動は衝撃緩和機能で低減され、ミグの体に加わる負担は僅かだ。しかし、敵はそうはいかない。徹甲弾が中型狂気へと突き刺さる。
そして、ヤクト・バウの攻撃はこれだけで終わらない。
「見せてやれ、ヤクト・バウ! この巨体は伊達ではない、と!」
ミグの声と同時に連続砲撃。
次々と放たれるが徹甲弾で弾幕を形成。付近まで迫っていた小型狂気を一掃していく。「へぇ、やるじゃねぇか」
傍らにいたドリスキルもヤクト・バウの活躍に驚いている様子だ。
「褒めている暇はないのじゃ。奴ら、物量で押し切るつもりじゃぞ」
ミグの指摘通り、敵は味方の屍を乗り越えて進軍を続けている。
それだけの数がこの宙域に存在していた事を考えれば、陽動の初手は成功と言える。
「二人とも、反撃を続けて。近づかれたら厄介なんでしょ? その機体」
マリィアは弾幕後方にいる小型狂気の群れに対してフォールシュート。
弾丸の雨を降り注ぎ、多数の小型狂気を撃ち倒す。
接近されるまでの間、どれだけ敵を削り取れるか。
それが大きな課題だとマリィアは経験から察していた。
●
「戦場全体の情報が欲しい。こっちのセンサーとそっちのレーダーをリンクさせっからコードくれ」
戦闘前に恭子へ情報展開を打診していたアニス。
その判断は決して間違ってはいない。新手があればラズモネ・シャングリラのオペレーターから情報展開してくれる手筈であるが、オファニム『レラージュ・ベナンディ』で直接敵の情報を入手できるなら臨機応変に対応できる。
「釣り出されやがったな。追加オーダー来たぞ!」
プラズマライフル「ラッド・フィエル01」で迎撃していたレラージュ・ベナンディのモニターに、新手の敵影が移し出される。
新手は――右舷前方。中型狂気を取り巻くように小型狂気が群れを成して現れる。
敵の襲来に対して奇妙な空間を気にして突いた所、アニスの予想通り敵の一団が潜んでいた。
「二人はそのまま正面を頼む。俺が処理に向かう」
アニスはレラージュ・ベナンディを前へと進ませる。
後方には八重樫のR7エクスシア。上空にはクウに乗るユウの姿があった。
「作戦通り敵を所定位置に追い込めば良いのですね」
ユウはクウを大きく旋回させ、目標の一団の左側を狙う。
機動力を生かし、素早く敵に向かって飛来。
ユウの手に握られるのは魔剣「バルムンク」。
「クウ、一撃離脱を繰り返すよ……危険だけどお願い」
空気を斬るように飛行するクウ。
高度を下げながら、小型狂気との間合いが詰められていく。
そして――。
「はいっ!」
すれ違い様に振るわれるバルムンク。
小型狂気を切り裂く事に成功。
さらにクウはもう一度旋回して敵に接近、こちらへ気付いた中型狂気の遠距離ビームを掻い潜る。
「クウ、お願い」
体勢を低くするユウ。
スピードを上げたクウは、射程距離に収めた敵に対してファイアブレス。
火炎弾が地面に着弾し、小型狂気を数体吹き飛ばした。
「おっさん、敵をもっと正面へ誘導してくれ」
「了解だ」
オーダーに従い、八重樫はアニスのラッド・フィエル01に合わせる形で量産型対VOIDミサイルを叩き込んでいく。
アニスの狙いは――敵の一団を可能な限り中央へ寄せる事。
正確には、ラズモネ・シャングリラの射程距離へ収める事であった。
「艦長! 右舷側の砲塔、向けられるのを回してくれ」
「分かったザマス! 右舷砲塔、アニスさんの指定位置に向けて一斉射撃ザマス!」
ラズモネ・シャングリラから放たれる銃弾の雨。
指定位置周辺にいた敵の一団へ次々と刺さっていく。
アニスが追い込んだ歪虚の群れも巻き込む事に成功する。
しかし、敵の襲来はこれで終わる気配が無い。
それもアニスは織り込み済みだ。
「さって、稼ぎ時だ。こいつぁ元々こういう状況の為の機体なんでな……出し惜しみなしでいくぜ!」
レラージュ・ベナンディで発動するマルチロックオンが敵影を照準へ収めていく。
アニスは、いつも以上に気分を高揚させていた。
●
激戦となっていたのは、ラズモネ・シャングリラの正面であった。
敵の主力は正面から襲来する為、自ずと敵に相対する機会は正面に布陣していたキヅカとミコトに負担が掛けられる。
「うっわ! 本当にこれ、キリがないね」
ミコトは魔導型デュミナスのアクティブスラスターを使用しながら、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で敵を迎撃する。
小型狂気でも後方へ逸らせば、そのままラズモネ・シャングリラの損傷へ繋がる可能性もある。中型狂気以外に小さな敵でも決して見逃せない。
「ミコト、中型がbindに掛かった!」
キヅカからの声。
事前に設置していたCモード「bind」に中型狂気が捕捉される。動きを封じられた中型狂気は、その場で足止めされる。
ミコトはキヅカからの打診を受け、機体を反転させる。
デュミナスの手に握られるは、魔斧「モレク」。
「こっちに来るな、ですっ!」
地獄の炎を連装させる赤い光。
遠心力を乗せられた一撃が、中型狂気の頭へ振り下ろされる。
攻撃を受けた中型狂気は、力を失い地面へと倒れ込む。
「ミコト、下がれ。次の新手が来る」
キヅカは新手の襲来を察知してデルタレイ。
小型狂気を複数倒しながら、ミコトへ次なる敵の襲来へ備えるよう指示を出す。
ラズモネ・シャングリラも主砲で迎撃しているが、敵の猛攻は激しさを増している。
潮時が迫っている事をキヅカは察していた。
だからこそ、キヅカはドリスキルへ聞いておきたかった。
「おっさん」
「あん? もう打ち止めか?」
「いや。さっきの言葉の意味、どういう事だ?」。
キヅカの脳裏に引っかかっていたドリスキルの言葉。
『まさか誰もが幸せになれるなんて、思ってないよな?』
大精霊と契約する際、『誰もが生きれる明日を作る』という願いを叶えると発言していた。
それに釘を刺すかのような言葉。
そのドリスキルの発言はミコトも気になっていた。
「それ、うちも気になってたんですっ! どういう事?」
「……ああ、それか」
ドリスキルは一瞬、黙る。
そして、一呼吸を置いてから話し始めた。
「俺は軍人だ。万人を救うなんて簡単じゃないと分かってるつもりだ。
俺には全員を守るなんて真似はできねぇ。精々、自分の隣にいる奴を守ってやれるぐらいだ」
ドリスキルの視界にマリィアのmercenarioが入る。
軽く鼻で笑った後、ドリスキルは言葉を続ける。
「お前が守護者って奴になったのは聞いた。それはきっとすげぇもんなんだろ。
だが、俺はみんなの為に戦おうとして自分を犠牲にしてきた奴を多く見て来た」
ドリスキルは元教官だ。新兵教育で様々な人材と会ってきた。
そして、歪虚との戦いで教え子が次々と殺されている。
多くの死を見たドリスキルにとって、この場にいるハンター達の誰もが死んで欲しくない面々だ。
「他の連中もそうだ。お前ら……自分の理想に押し潰されるなよ」
理想は大切だ。
誰も彼も救う。それはハンターとして良くある願望だ。だが、救う対象に自分が入っていない者も多い。
簡単に自己犠牲など選んで欲しくない。ドリスキル自身が、かつて自分を犠牲にしようとしたからこそ――そのような言葉が出てきたのかもしれない。
「おっさん、俺は……」
キヅカがそう言い掛けた瞬間、各機に対して恭子からの通信が入る。
「皆さん、本隊から作戦終了の打診があったザマス。各機本宙域より撤退準備に入るザマス」
●
ホープへ向かうラズモネ・シャングリラの機内でささやかな打ち上げが催された。
アニスとの賭けに負けた八重樫が、どうせならと陽動作戦に参加したハンター達に奢ると言い出したからだ。
「くぅ~! 奢りの酒は格別だな」
「頑張ってたからな。たまには楽しむといい」
アニスは勝利の美酒を口にした。
事実、右舷を中心にしたアニスの指示は的確で撃破数はかなり上がっていた。
八重樫も負けたにも関わらず満足そうだ。
「砲撃は十分。アークスレイによる狙撃も成功したが、詰め寄られると厳しいのは最早砲撃型の宿命じゃな」
ポテトを口へ放り込むミグは今日の戦いを振り返っていた。
砲撃はヨルズよりも連射が効く分、多数の敵に有利だ。だが、物量で押し込まれるとどうしても接近戦が増える。ヨルズもそうだが、近寄られると対応に苦慮するのは致し方ない。
「大丈夫です。その為に仲間がいます。接近戦が得意とする方に助けて貰えれば良いのです」
ユウからの言葉。
そう、仲間と連携する事で欠点は補える。すべて一人で背負い込む必要はないのだ。
「…………」
ミグとユウの会話がキヅカの耳にも飛び込んでくる。
やや神妙な顔つきのキヅカにミコトがそっと話し掛ける。
「大丈夫? さっき中尉が言ってた事、だよね」
「ああ。これでも慎重にやってたんだけどな」
ラブロマンスはともかく、ドリスキルは自己犠牲を『馬鹿らしい』と考えているのだろう。だから、身近な存在――マリィアを守る事を選んだ。万人を救うのは無理でも、手が届く範囲なら守ってやれる。
もし、自分が自分の身を挺してでもみんなを守らないといけないなら――。
「ここにいる人も似たようなものじゃない? 自分を犠牲にしないといけない事ってあるかもしれないし」
「そうだな……あれ? 当のおっさんは?」
見回すキヅカ。
ドリスキルのおっさんの姿が見えない。
ミコトは軽くため息をついた後、一言呟いた。
「……ラブロマンスだよ」
●
「ねぇジェイミー、邪神戦が終わったら崑崙の公園でピクニックはどうかしら。サンドイッチでも何でも作るわ。食べたい物はある?」
他のハンターから離れた場所でマリィアはドリスキルへそう問いかけた。
マリィアからの言葉にドリスキルは軽く笑みを浮かべる。
「ピクニックねぇ。軍人の俺はどうも柄じゃなくてなぁ」
「平和になった事も考えないと駄目よ。
でも……生きていれば丸儲けっていうけれど、本当にそうかしら。自分の命を惜しんで人類が壊滅したら意味がないじゃない。最高値は付けてやるつもりだけど、賭けるべき時に命を惜しむ気はないもの」
マリィアが視線を落とす。
それはハンターとしてのマリィアがドリスキルの先程の言葉に対する回答だった。
命を賭けなければならないなら、マリィアは賭ける。
それがどんな犠牲を払っているのかも分かっている。
それでも、やらなければならない時はある。
「それが正解なのかもしれねぇ。だが、俺には無理だ……ただ、それだけの話だ」
そっとマリィアの頭を撫でるドリスキル。
何が正解なのかは分からない。
ただ、その場になった時に後悔をしない行動を取れれば良いのかもしれない。
「とりあえず初戦を生き延びたお祝いをしましょうか。今なら浴びるほど飲んだって誰も文句は言わないわ」
二人のグラスが接し、独特の高い音を奏でた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/01/30 21:50:22 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/27 17:51:37 |