ゲスト
(ka0000)
【東幕】退かぬ戦い
マスター:電気石八生

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/03 09:00
- 完成日
- 2019/02/07 17:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●転移門
「ささ、各々方! そろりそろりと運ばれよ! 声を合わせ、心を合わせ、たとえ雨が降ろうと槍が降ろうと運び抜き、もののふの一分を立てようぞぉ!!」
ふがー!!
いかめしい甲冑姿の武者たちが勢いよく「ふがふが」言いつつ、転移門の子基を為す機械部品を恵土城へと運び込んでいく。
「ちょっとぉ! ソレすっげぇ繊細なんだから! “ふがふが”じゃなくって“ふかふか”ってカンジで運びなさいよぉ! つかアンタら、城主(仮)に影響されすぎでしょお」
ハンターズソサエティの係員たちを引き連れた元ウェルター級ボクサーで現オネェなゲモ・ママが、キーっと甲高い声をあげた。
そして、空にでっかく描かれた恵土城主(仮)、大平正頼がなにかをふがふが言っている――多分、けっこういい勘じのこと――のを完全無視、ママは抱え込んだ植木鉢を見下ろした。
「……ま、コレがあれば、ほかはなんとかなるんだけどねぇ」
植木鉢からひょろりと伸びた苗木は、神霊樹の分樹である。
この苗木を据えてあれこれし、転移門が開通できれば、恵土城は今後二度と孤立することはなくなるわけだ。
「ふぉふぉふぉ」
と、足元から声がして、ママの裾をくいくい引いた。
「ああ、大丈夫よぉ。苗木はちゃ~んとアタシが植えたげるからねぇ」
ママを呼んだものは、この苗木の司書となるらしいパルムの成体だった。どれほどの期間を生きてきた個体なのか、よいよいとして頼りなさげである。
「それにしても、ふがふがとふぉふぉふぉのコラボじゃなぁい。大丈夫なのかしらねぇ、このお城」
とりあえず苗木は、司書の希望によって日当たりがいい、それでいて湿り気の多い日陰まで完備という中庭へ植えられることになっている。樹木には日ざしが必要で、茸には日陰が必要ということなんだろう。
ちなみにせっかくの庭の景観が台無しになることを、庭師や武士たちは大層無念に思っているらしい。
「緊急事態ってことで、ガマンしてもらうしかねぇわよね」
先の虎口防衛戦を凌ぎきったことで、挟撃や内からの呼応を受けることはなくなった。しかし長江より攻め上ってきた敵の大群が南の大門前へ展開し、今もゆるやかに増殖を続けながらそこに在る。
恵土城側も、兵を置いて厳戒体制を敷いている南大門、先の戦いで馬出を破壊されたことから今は塞がれている東門以外の、北の虎口より物資や人員の受け入れを行い、南に展開した歪虚群がいつ襲い来てもいいよう身構えているのだが。
にらみ合いで消耗すんのは人間ばっかりだからねぇ。さっさと片づけて、士気落とさねぇようにしなくちゃ。
あちらこちらから降り落ちては頭の底に積もり始めた懸念を無理矢理に追い出して、ママは前を見据えて声を張る。
「ゆっくり急いで正確によぉ! 今歪虚に来られたら超やべぇんだからねぇ!」
●大門前
ゆるゆると恵土城の南大門を押し包む歪虚群、その陣奥。
「敵は北門から例のブツを持ち込みましたぜぇ」
無数の足を生やした蜘蛛さながらの下体と猿さながらの上体を備えた憤怒が、器用にその足々を折り畳んで一礼。すぐにちらりと猿面を上げて。
「持ち込ませちまいましたけど、よかったんですかい?」
「そいつがよいのだ」
伝法になりきれない、品を捨てきれない言葉で応えたものもまた憤怒である。
「こいつは遊戯だ。すべてを分捕るかやり込められるか、ふたつにひとつのな」
瓜実の優美な鬼面に薄笑みを浮かべた憤怒は、眼前で控える憤怒――クモザルへ告げた。
「てめぇもやり込められた怒りを晴らしに行きたいだろう」
クモザルは口の端を歪めて肩をすくめ。
「ナメてかかりゃあっさり返り討ちくらいますけどねぇ」
「ならば気ぃ引き締めてけ。僕は手を出さないからよ」
「そいつぁありがてぇ」
クモザルはざわりと立ち上がり、その身を翻した。
「じゃ、ハデに行かしてもらいますわ」
●判断
「西虎口より歪虚群侵入! 土井尻――中級の武士が住まう町――を抜け、外堀へ迫りつつありもうす!」
「ふが!? ふがふがふがふがふがふがふ――ふが、ふがふがふがふが」
西!? 塞いだはずではなかったか――いや、仕込まれていたか。
正頼は上下の歯茎をきりきり噛み締め、膝を打った。
「ご城主(仮)殿、敵の首領は忍であるようにござる。奇策にてこちらの転移門の設置を阻むが狙いかと」
補佐役の言葉に「ふが」、うなずいて、正頼はすぐに指示を継いだ。
「ふが――」
主力は大門から動かせぬ。そしてうぬらに敵の忍を討つ技はない。うぬらは外堀の際を固めて壁を成し、客人方を遊軍として土井尻へ向かっていただくのじゃ。
「承知!」
●挨拶
要請を受けたソサエティ側は、ママの判断で植樹と歪虚迎撃に別れて事へ当たることとなった。
「ふぉふぉふぉ」
「えっと、分樹を守ってくれって言ってるんだと思うわぁ」
ママの言葉に続き、パルムはぺこりと頭を下げた。
「アタシたち植樹班は分樹を植え終わり次第合流する――もう少しってとこだからね。アンタたちは歪虚を土井尻で迎え討って時間稼ぎしてちょうだい」
そして迎撃班に地図を示し、説明を加える。
「土井尻、地形的には屋敷と路が入り組んでるカンジよ。向こうの主力は路なりに進んでる。こないだのクモザル――ニンジャってのはまちがいないわよねぇ――ってのが出張ってきてるから、多分だけど誘いでしょうね。位置取り的に屋敷まで考えなくて大丈夫だけど、とりあえず塀とかは使われそうだから注意して」
かくて土井尻へ向かった迎撃班を待ち受けていたのは、ニヤニヤと口の端を歪めた猿面である。
「お出迎えご苦労、ってなぁ。こないだの借り、熨斗つけて返してやんぜぇ」
「ささ、各々方! そろりそろりと運ばれよ! 声を合わせ、心を合わせ、たとえ雨が降ろうと槍が降ろうと運び抜き、もののふの一分を立てようぞぉ!!」
ふがー!!
いかめしい甲冑姿の武者たちが勢いよく「ふがふが」言いつつ、転移門の子基を為す機械部品を恵土城へと運び込んでいく。
「ちょっとぉ! ソレすっげぇ繊細なんだから! “ふがふが”じゃなくって“ふかふか”ってカンジで運びなさいよぉ! つかアンタら、城主(仮)に影響されすぎでしょお」
ハンターズソサエティの係員たちを引き連れた元ウェルター級ボクサーで現オネェなゲモ・ママが、キーっと甲高い声をあげた。
そして、空にでっかく描かれた恵土城主(仮)、大平正頼がなにかをふがふが言っている――多分、けっこういい勘じのこと――のを完全無視、ママは抱え込んだ植木鉢を見下ろした。
「……ま、コレがあれば、ほかはなんとかなるんだけどねぇ」
植木鉢からひょろりと伸びた苗木は、神霊樹の分樹である。
この苗木を据えてあれこれし、転移門が開通できれば、恵土城は今後二度と孤立することはなくなるわけだ。
「ふぉふぉふぉ」
と、足元から声がして、ママの裾をくいくい引いた。
「ああ、大丈夫よぉ。苗木はちゃ~んとアタシが植えたげるからねぇ」
ママを呼んだものは、この苗木の司書となるらしいパルムの成体だった。どれほどの期間を生きてきた個体なのか、よいよいとして頼りなさげである。
「それにしても、ふがふがとふぉふぉふぉのコラボじゃなぁい。大丈夫なのかしらねぇ、このお城」
とりあえず苗木は、司書の希望によって日当たりがいい、それでいて湿り気の多い日陰まで完備という中庭へ植えられることになっている。樹木には日ざしが必要で、茸には日陰が必要ということなんだろう。
ちなみにせっかくの庭の景観が台無しになることを、庭師や武士たちは大層無念に思っているらしい。
「緊急事態ってことで、ガマンしてもらうしかねぇわよね」
先の虎口防衛戦を凌ぎきったことで、挟撃や内からの呼応を受けることはなくなった。しかし長江より攻め上ってきた敵の大群が南の大門前へ展開し、今もゆるやかに増殖を続けながらそこに在る。
恵土城側も、兵を置いて厳戒体制を敷いている南大門、先の戦いで馬出を破壊されたことから今は塞がれている東門以外の、北の虎口より物資や人員の受け入れを行い、南に展開した歪虚群がいつ襲い来てもいいよう身構えているのだが。
にらみ合いで消耗すんのは人間ばっかりだからねぇ。さっさと片づけて、士気落とさねぇようにしなくちゃ。
あちらこちらから降り落ちては頭の底に積もり始めた懸念を無理矢理に追い出して、ママは前を見据えて声を張る。
「ゆっくり急いで正確によぉ! 今歪虚に来られたら超やべぇんだからねぇ!」
●大門前
ゆるゆると恵土城の南大門を押し包む歪虚群、その陣奥。
「敵は北門から例のブツを持ち込みましたぜぇ」
無数の足を生やした蜘蛛さながらの下体と猿さながらの上体を備えた憤怒が、器用にその足々を折り畳んで一礼。すぐにちらりと猿面を上げて。
「持ち込ませちまいましたけど、よかったんですかい?」
「そいつがよいのだ」
伝法になりきれない、品を捨てきれない言葉で応えたものもまた憤怒である。
「こいつは遊戯だ。すべてを分捕るかやり込められるか、ふたつにひとつのな」
瓜実の優美な鬼面に薄笑みを浮かべた憤怒は、眼前で控える憤怒――クモザルへ告げた。
「てめぇもやり込められた怒りを晴らしに行きたいだろう」
クモザルは口の端を歪めて肩をすくめ。
「ナメてかかりゃあっさり返り討ちくらいますけどねぇ」
「ならば気ぃ引き締めてけ。僕は手を出さないからよ」
「そいつぁありがてぇ」
クモザルはざわりと立ち上がり、その身を翻した。
「じゃ、ハデに行かしてもらいますわ」
●判断
「西虎口より歪虚群侵入! 土井尻――中級の武士が住まう町――を抜け、外堀へ迫りつつありもうす!」
「ふが!? ふがふがふがふがふがふがふ――ふが、ふがふがふがふが」
西!? 塞いだはずではなかったか――いや、仕込まれていたか。
正頼は上下の歯茎をきりきり噛み締め、膝を打った。
「ご城主(仮)殿、敵の首領は忍であるようにござる。奇策にてこちらの転移門の設置を阻むが狙いかと」
補佐役の言葉に「ふが」、うなずいて、正頼はすぐに指示を継いだ。
「ふが――」
主力は大門から動かせぬ。そしてうぬらに敵の忍を討つ技はない。うぬらは外堀の際を固めて壁を成し、客人方を遊軍として土井尻へ向かっていただくのじゃ。
「承知!」
●挨拶
要請を受けたソサエティ側は、ママの判断で植樹と歪虚迎撃に別れて事へ当たることとなった。
「ふぉふぉふぉ」
「えっと、分樹を守ってくれって言ってるんだと思うわぁ」
ママの言葉に続き、パルムはぺこりと頭を下げた。
「アタシたち植樹班は分樹を植え終わり次第合流する――もう少しってとこだからね。アンタたちは歪虚を土井尻で迎え討って時間稼ぎしてちょうだい」
そして迎撃班に地図を示し、説明を加える。
「土井尻、地形的には屋敷と路が入り組んでるカンジよ。向こうの主力は路なりに進んでる。こないだのクモザル――ニンジャってのはまちがいないわよねぇ――ってのが出張ってきてるから、多分だけど誘いでしょうね。位置取り的に屋敷まで考えなくて大丈夫だけど、とりあえず塀とかは使われそうだから注意して」
かくて土井尻へ向かった迎撃班を待ち受けていたのは、ニヤニヤと口の端を歪めた猿面である。
「お出迎えご苦労、ってなぁ。こないだの借り、熨斗つけて返してやんぜぇ」
リプレイ本文
●鬼ごっこ
雑魔を率いて恵土城を目ざすクモザルは口の端を吊り上げ、迷路の先を透かし見た。
俺っちがもたもたしてりゃあ追いついてくれるよなぁ。
果たして。
「忍者の能力がおまえだけの専売特許と思うなよ!」
曲がり角を利して三角跳び、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が愛剣たる闘旋剣「デイブレイカー」をクモザルへ突き込んだ。
「あっはぁ! 会いたかったぜぇ、こないだのニンゲン!」
爪を変じさせた刃でこれを受け、跳び退く。
「てめぇらは行きな!!」
クモザルの命令で、30の雑魔が6つの塊に別れて散開した。
「わふーっ。歪虚さんたち、僕と遊びましょー?」
無邪気とさえ言える笑みを浮き立たせたアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、雑魔の一端を錬金杖「ヴァイザースタッフ」で差し。先から伸び出したアイシクルコフィンの軌跡が、回避すらできずにその内へ飲まれた3体を割り砕いた。
アルマは小首を傾げ、ぎちり。牙を剥きだして。
「僕、知ってるんです。こういうの『タワーディフェンス』って言うんですよねぇ?」
突如その有り様を変えたアルマにクモザルは舌打ち。
「まぁたニンゲン辞めてんのがいんのかよ……めんどくせぇ」
その嘆きが終わらぬうち、屋根上にある3体の雑魔が雷に貫かれ、地へ墜とされる。
「この先には行かせません」
魔箒「Shooting Star」に跨がり、上空から雑魔を撃ち抜いた夜桜 奏音(ka5754)。腕に装着したフォトンバインダー「フロックス」に装填された符を確かめた。
「ち。雑兵、もっと拡がれ! くっついてっとやられんぞぉ!」
雑魔に指示を出され続けるのは困ります。まずはクモザルの注意を引くことから――
「ハナっから奥の手使わせられたぜぇ」
突如奏音の眼前に現われたクモザルが、箒の先を無数の足で抱え込み、毒霧を噴いた。
「そんなものにかかると思わないでください!」
呪詛返しで毒性を弾き返した奏音は、クモザルが飛び退いた隙に体勢を立てなおす。
あの技はいったい!? いや、今は下からの手裏剣を避けるほうが先だ。
引き寄せの術じゃなくて、引き寄せられの術? でも、憤怒にこのまま主導を握らせない!
意志を引き結び、地へ落ちてきたクモザルを迎え討つのは時音 ざくろ(ka1250)。
魔導剣「カオスウィース」の光と闇とをまとった切っ先を、下から直ぐに突き上げた。
「甘ぇよ!」
切っ先をつまみ止めたクモザルが宙で反転、含み針を吹きつける。
これをシールド「クウランムール」で抑え、さらには攻性防壁を発動させてクモザルを塀へ噴き跳ばすざくろだったが。
弾いたんじゃない、跳ばれた!?
「はっはぁ! 壁も空も、俺っちにゃあ平らな床とおんなしだぁな」
貼りついた塀から跳ぼうと溜めるクモザル。その背に、巨大な鋼拳がめり込んだ。
「甘い甘い、夜陰に紛れるくらいで俺様ちゃんたちを出し抜こうなんてよ」
機甲拳鎚「無窮なるミザル」を突き込んだまま、パリィグローブ「ディスターブ」で鎧った片手の人差し指を立ててちちち。ゾファル・G・初火(ka4407)がクモザルを挑発してみせた。
「てめっち、あのオンナみてぇなのと前もいたなぁ。いいぜ、まとめて借り返してやんよ!」
銀嶺の前輪を蹴り退けて毒霧を吹き、即席の防御陣を敷くクモザル。
「っとぉ!」
しかしゾファルは銀嶺をウイリーさせて方向転換し、そのまま駆け抜けて避ける。
さらにはグラヴィティブーツ「カルフ」で壁に足をつけて固定し、霧をやり過ごしたレイオスの追撃で、再び大きく跳び退かされた。
「オイオイ。忍者の能力がって話、したばっかだろ。それに借りを返すより前に、渡し損ねたもんを渡すほうが先だ」
地へ戻ったレイオスはデイブレイカーを正眼に構え、一歩を踏み出した。
「今度こそ、おまえの命をな」
開幕直後からクモザルとの激戦が展開する中、雑魔どもは前進を開始している。
月の綺麗な夜だ。……なのに、どうしてクモなんかに遭うかなぁ。
「ここにいるのはクモじゃないけど」
ため息をついた南條 真水(ka2377)は先頭を行く雑魔の一団の上空を突き抜けざま、神聖剣「エクラ・ソード」を振り下ろした。
その刃から放たれたものは剣閃ならぬ光杭。リーダー格と思しき雑魔の芯を縫い止めて動きを止め。
続けて擬似的な電磁加速で加速した3本の弾体マテリアル杭を撃ち込み、まわりの雑魔を串刺した。
ここへ至るまでに、アルケミックフライトでクモザルと雑魔の位置関係を把握し、最短距離で迷路を飛び越えてきた。クモザルも気にはなるが、とりあえずは因縁のある者に押しつけ――任せておいて。
「南條さんはこの先頭集団を引き受けるよ」
彼女の下方、真水が狙った次に進行の早い一団の先を塞いだのは、ハンス・ラインフェルト(ka6750)である。
「それでは。俺は二の槍の雑魔を頂戴します」
全長180センチ……左に佩くには長すぎ、重すぎる聖罰刃「ターミナー・レイ」を脇に構えた彼は、駆け込んできた雑魔どもへ踏み込みざま斬り上げ、そのまま体ごと刃を巡らせ、振り込んだ。
遠心力を吸い込んだ重刃が当たるものを差別も区別もなくぶった斬り、叩き折り、噴き飛ばす。
ハンスはその中で体を翻して回避した雑魔と、体のあちらこちらを損なった雑魔、そして動きを止めた雑魔、すべてを見渡して。
「わざわざ来るとはいいですね、シノビ。そろそろ武士や坊主を斬るにも飽きてきたところです。とはいえしょせんは同じ歪虚ですが」
身構える雑魔だが、その後方からはうきうきとしたアルマの声音が近づいてくる。そして。
「鬼ごっこですかぁ。じゃあ、全部、捕まえなくちゃ、ね」
紺碧の流星に穿たれた雑魔は蒸発して消えた。
さらに。
「安全運転で登場じゃーん!?」
迷路の角をドリフトで抜けたゾファルが銀嶺の上からミザルでラリアート。雑魔の延髄を刈って叩き伏せた。
「もたもたしてっと轢いちまうじゃん!?」
実際はミザルで殴り倒しているわけだが、ともあれ。仲間と連動して路や塀の上を爆走し、ゾファルは銀嶺のベルをチャリチャリ鳴らす。
●手妻
「印切るヒマもねぇや」
無数の足を繰り、クモザルは地を滑り壁を突き宙をはしる。
「くっ!」
その先を予測し、アルケミックフライトで追いすがるざくろだが、足の数を利して変則移動するクモザルを捕まえきれずにいた。
「もたついてっと俺っちが捕まえちまうぜぇ?」
ぞわりと体を返したクモザルの爪がざくろを裂き、その足を強ばらせる。それでもざくろは奥歯を食いしばり、さらに飛んだ。
「逃がさない!」
「クモザルが雑魔群に近づいています! 注意してください!」
中空から通信と肉声とで報告を飛ばす奏音。
雑魔殲滅が済むまで、クモザルの足止めをしなくてはいけませんね!
そして高度を下げてクモザルの前方へ。その鼻先に雷を撃ち込んだ。
「はっ!」
落ちていた雑魔の骸を盾にこれを防いだクモザルだが、動きを止めた一瞬、レイオスの刻令式鞭「カラマル」で足の一部を絡め取られた。
「捕まるかよ!」
クモザルは足を引き抜かずに体を返して壁を走り、レイオスへ爪を振り込むと見せかけ、毒霧を吹きつけた。
擦り込まれた痺れに力を損ないゆくレイオスだったが。
「……その前に、仕事だけは済ませておくぜ」
波打たせたカラマルでクモザルの体を打ち鳴らし、その意識を乱した。
「なんだこりゃ!?」
急ぎ飛び退くクモザル。しかしその足が地へつくよりも速く――
「超機動パワーオン! 弾け飛べ!」
――先回りしていたざくろの、超重錬成で巨大化したカオスウィースがその背を袈裟斬った。
「ざくろはクモザルの上下を抑える! レイオスは左右! 奏音は支援を!」
この場でもっとも狙われやすいポジショニングにある奏音を意識しつつ、ざくろはレイオスと共に、動きを鈍らせたクモザルへと迫る。
と。その猿面がかき消えて。
撃ち落とされる危険も顧みず、高空へ舞い上がった奏音はすぐに真相を知った。
「クモザルが従魔群と合流しました!」
あまりにも唐突なクモザル襲来により、対雑魔班は混乱させられる……かと思われたが。
「捕まえる子が増えましたねぇ」
アルマのデルタレイが迎え撃つ。
対してクモザルは術を発動させてアルマの眼前へ顕われて。
「鬼さんこちら、手の鳴るほうへってな」
重ねた両手の爪を甲高く鳴らし、腕を開くようにして薙いだ。
「……元から赤いお尻を叩いてもおもしろくありませんね。焼いて消し炭にしましょうか」
アルマは自らの流した血を指先で救い上げて舌先に乗せ、艶やかに笑んだ。
「助太刀になるかはわかりませんが、推して参りますよ」
後ろ手に振り込まれたクモザルの爪を受け流し、ターミナー・レイで斬り返すハンス。直撃こそできなかったが、アルマの前からクモザルを引き剥がすことに成功する。
「なんか東にかぶれてんなぁ、キンパツ?」
「それは俺が誰より知っていることです」
こともなげに返し、ハンスは前に出した右のつま先で土を躙る。この重刃で刹那を斬り抜くことはできまいが、それでも。
1秒後の仲間の攻めへ繋げれば、悪くないでしょうよ。
真水は銀靴の羽を拡げ、迷路を形造る塀を跳び越えてショートカット。戦闘に紛れて先へ進んだ雑魔を塞ぐ。
上空から戦場を見定め、的確に雑魔の先頭を抑える彼女の働きは、地味ならず滋味に満ち満ちていた。
即座に飛んでくる手裏剣をエクラ・ソードの鎬で弾き、弾ききれなかったものは籠手で受ける。このとき、手裏剣の1枚が眼鏡の弦にも当たっていたが、南條さんのぐるぐる眼鏡はそれしきで折れたりしないのだ。
「でも赦さないけどね」
換装した錬金杖「ヴァイザースタッフ」をひと振りすれば、超高速で撃ち出されたマテリアル杭が雑魔どもへ突き立ち、噴き飛ばす。
「よぉ、こいつらぁザコなんだからよ、あんまいじめんなって」
どこからか沸き出したクモザルが真水へ迫り、その肩口へ爪を突き込んだ。
「うわ痛いより申し訳ない! 南條さん全力で平謝るからカサカサ動くクモでサルとか許してもらえないかな!?」
怖気に突き上げられ、空へ逃げ上る真水。ついでにミカヅチも振りまいて……
「どぉこが平謝りだってんだよぉ!」
すかさず回避するクモザルだが、意外に効いていたらしい。塀の上を疾走してきた銀嶺がダイブしてくるのを見逃した。
「目潰しじゃーん!?」
前カゴにぶち込んだ魔導ライト「おでこぺっかりん☆」の光を浴びせかけ、ゾファルはミザルを振り上げた。
「って、フェイントじゃん!?」
光の裏で言い放ち、なにを弄することもなく、そのままミザルをフルスイング。暴虎覇極導の一撃を猿面へ叩きつけた。
「俺様ちゃんの詭道、見たかー!?」
「てめっちゃ空気読めよ!」
折れた歯を含み針と共にゾファルへ噴きつけ、跳び退く。
「跳んでくれるのを待っていましたよ」
追いついてきたハンスがターミナー・レイで夜気を裂き、クモザルを次元斬で捕らえた。
「ち!」
しかしクモザルは、斬られた衝撃を足がかりにして跳ね、塀の上へ。さらに跳ね、跳ね、跳ね――
「狙いをおまえだけに絞れば、次の動きくらいはわかるよ!」
月夜を貫き、上空から急降下してきたざくろが、すべてを乗せた巨大カオスウィースをその背に突き込んだ。
地に墜ち、転がったクモザルは荒い息を吐き、かぶりを振って舌打ち。
「……俺っちに喰らわす代わり、結構命削ってきたみてぇじゃねぇかかわいこちゃん」
姫武者然としたその肢体へ突き立つ幾枚もの手裏剣をそのままに、ざくろはクモザルの挙動にだけ集中して進む。
「クモザル、覚悟!」
その上空から戦場を見据える奏音が一同へ告げた。
「クモザルの転移技は雑魔が攻撃を受けたときにしか発動していません! 雑魔に対応している人はクモザルの近くへ追い立ててください!」
ようやく気づいた。クモザルの転移は、雑魔を起点に発動するリアクションスキル。だからこそ距離を無視して瞬間移動したように見えたのだと。
「もう前のほうには残ってませんよぉ? 僕が全部捕まえちゃいましたから……じゅっ、てね」
にこやかに現われたアルマは両手に掴んでいた消し炭の塊を足元へ転がして。
「ああ、少しだけ塀を壊しちゃいました。忍者さんはちょろちょろ動くから、しかたありませんよねぇ?」
そこへ雑魔を斬り退け、レイオスがたどり着いた。
「前の泥魔獣と同じで、今回の雑魔にもしかけがあったか」
デイブレイカーの刃が山吹を映し、夜を押し退け、明けさせる。
「ここまで来たらもう、意味はないけどな」
対してクモザルは口の端を歪め。
「さぁて、意味がねぇかどうか、知ってるのは俺っちだけよ」
●幕引
「ここなら移動には使えないね」
真水は単独で外堀へ駆けていた雑魔をクモザルのほうへ追い立てつつ、その一部を撃ち倒した。
「じゅっ」
アルマはうそぶき、影に紛れていた雑魔をその向こうにあるクモザルごと暁の呼び声で焼き払う。
「30体、すべて倒しました!」
奏音が体を焦したクモザルへ向かう仲間を促した。
「やらせっかよ!」
クモザルが足がかりを求めて塀へ跳び上がった、そのとき。
小型飛行翼アーマー「ダイダロス」より機械の天使翼を伸ばしたハンスが横合から強襲し、腰だめに構えたターミナー・レイの切っ先を体ごと突き込んだ。
「残しておくものですね、奥の手というものは!」
体をひねって刃こそかわしたクモザルだったが、突っ込んできたハンスまではかわせない。墜ちながら、足を伸ばして着地を――
その脇をすり抜けたレイオスがソウルエッジを乗せたデイブレイカーの刃を振り抜けば。クモザルの足の半ばが斬り落とされてごぞり、地へと散らばった。
「これでおまえはもう跳べない」
「だったら遠慮なくオラオラしちゃうぜ♪」
ゾファルが銀嶺のハンドルを切りながら車体を横へ傾け、スライディング。その勢いを乗せたミザルをオーバーハンドで叩きつける。
バランスを失い、傾いだクモザルはカウンターでこれを喰らい、塀に叩きつけられた。
そこへ。
「超・重・斬――縦一文字斬り!!」
最後の超重錬成で強化したカオスウィースをまっすぐ振り上げたざくろが、クモザルの脳天から股下までを、後ろの塀ごと唐竹割りで両断した。
「終わってるぅ!? アンタたち、よくやったわねぇ!」
援軍と共に駆けつけてきたゲモ・ママが甲高い声を上げる。
「わふーっ! ママさんです? こないだご挨拶できてなかったです! お兄ちゃんがいっつもお世話になってますですー」
ころりと表情を変えたアルマがママへ突撃。
「なにアンタ血まみれじゃねぇの! でもこれはこれでっ! これはこれでぇ~!」
かくて大騒ぎへと陥る場。
その片隅、口の端を吊り上げたクモザルの骸が、じくりと地へ染み消えていった。
雑魔を率いて恵土城を目ざすクモザルは口の端を吊り上げ、迷路の先を透かし見た。
俺っちがもたもたしてりゃあ追いついてくれるよなぁ。
果たして。
「忍者の能力がおまえだけの専売特許と思うなよ!」
曲がり角を利して三角跳び、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が愛剣たる闘旋剣「デイブレイカー」をクモザルへ突き込んだ。
「あっはぁ! 会いたかったぜぇ、こないだのニンゲン!」
爪を変じさせた刃でこれを受け、跳び退く。
「てめぇらは行きな!!」
クモザルの命令で、30の雑魔が6つの塊に別れて散開した。
「わふーっ。歪虚さんたち、僕と遊びましょー?」
無邪気とさえ言える笑みを浮き立たせたアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、雑魔の一端を錬金杖「ヴァイザースタッフ」で差し。先から伸び出したアイシクルコフィンの軌跡が、回避すらできずにその内へ飲まれた3体を割り砕いた。
アルマは小首を傾げ、ぎちり。牙を剥きだして。
「僕、知ってるんです。こういうの『タワーディフェンス』って言うんですよねぇ?」
突如その有り様を変えたアルマにクモザルは舌打ち。
「まぁたニンゲン辞めてんのがいんのかよ……めんどくせぇ」
その嘆きが終わらぬうち、屋根上にある3体の雑魔が雷に貫かれ、地へ墜とされる。
「この先には行かせません」
魔箒「Shooting Star」に跨がり、上空から雑魔を撃ち抜いた夜桜 奏音(ka5754)。腕に装着したフォトンバインダー「フロックス」に装填された符を確かめた。
「ち。雑兵、もっと拡がれ! くっついてっとやられんぞぉ!」
雑魔に指示を出され続けるのは困ります。まずはクモザルの注意を引くことから――
「ハナっから奥の手使わせられたぜぇ」
突如奏音の眼前に現われたクモザルが、箒の先を無数の足で抱え込み、毒霧を噴いた。
「そんなものにかかると思わないでください!」
呪詛返しで毒性を弾き返した奏音は、クモザルが飛び退いた隙に体勢を立てなおす。
あの技はいったい!? いや、今は下からの手裏剣を避けるほうが先だ。
引き寄せの術じゃなくて、引き寄せられの術? でも、憤怒にこのまま主導を握らせない!
意志を引き結び、地へ落ちてきたクモザルを迎え討つのは時音 ざくろ(ka1250)。
魔導剣「カオスウィース」の光と闇とをまとった切っ先を、下から直ぐに突き上げた。
「甘ぇよ!」
切っ先をつまみ止めたクモザルが宙で反転、含み針を吹きつける。
これをシールド「クウランムール」で抑え、さらには攻性防壁を発動させてクモザルを塀へ噴き跳ばすざくろだったが。
弾いたんじゃない、跳ばれた!?
「はっはぁ! 壁も空も、俺っちにゃあ平らな床とおんなしだぁな」
貼りついた塀から跳ぼうと溜めるクモザル。その背に、巨大な鋼拳がめり込んだ。
「甘い甘い、夜陰に紛れるくらいで俺様ちゃんたちを出し抜こうなんてよ」
機甲拳鎚「無窮なるミザル」を突き込んだまま、パリィグローブ「ディスターブ」で鎧った片手の人差し指を立ててちちち。ゾファル・G・初火(ka4407)がクモザルを挑発してみせた。
「てめっち、あのオンナみてぇなのと前もいたなぁ。いいぜ、まとめて借り返してやんよ!」
銀嶺の前輪を蹴り退けて毒霧を吹き、即席の防御陣を敷くクモザル。
「っとぉ!」
しかしゾファルは銀嶺をウイリーさせて方向転換し、そのまま駆け抜けて避ける。
さらにはグラヴィティブーツ「カルフ」で壁に足をつけて固定し、霧をやり過ごしたレイオスの追撃で、再び大きく跳び退かされた。
「オイオイ。忍者の能力がって話、したばっかだろ。それに借りを返すより前に、渡し損ねたもんを渡すほうが先だ」
地へ戻ったレイオスはデイブレイカーを正眼に構え、一歩を踏み出した。
「今度こそ、おまえの命をな」
開幕直後からクモザルとの激戦が展開する中、雑魔どもは前進を開始している。
月の綺麗な夜だ。……なのに、どうしてクモなんかに遭うかなぁ。
「ここにいるのはクモじゃないけど」
ため息をついた南條 真水(ka2377)は先頭を行く雑魔の一団の上空を突き抜けざま、神聖剣「エクラ・ソード」を振り下ろした。
その刃から放たれたものは剣閃ならぬ光杭。リーダー格と思しき雑魔の芯を縫い止めて動きを止め。
続けて擬似的な電磁加速で加速した3本の弾体マテリアル杭を撃ち込み、まわりの雑魔を串刺した。
ここへ至るまでに、アルケミックフライトでクモザルと雑魔の位置関係を把握し、最短距離で迷路を飛び越えてきた。クモザルも気にはなるが、とりあえずは因縁のある者に押しつけ――任せておいて。
「南條さんはこの先頭集団を引き受けるよ」
彼女の下方、真水が狙った次に進行の早い一団の先を塞いだのは、ハンス・ラインフェルト(ka6750)である。
「それでは。俺は二の槍の雑魔を頂戴します」
全長180センチ……左に佩くには長すぎ、重すぎる聖罰刃「ターミナー・レイ」を脇に構えた彼は、駆け込んできた雑魔どもへ踏み込みざま斬り上げ、そのまま体ごと刃を巡らせ、振り込んだ。
遠心力を吸い込んだ重刃が当たるものを差別も区別もなくぶった斬り、叩き折り、噴き飛ばす。
ハンスはその中で体を翻して回避した雑魔と、体のあちらこちらを損なった雑魔、そして動きを止めた雑魔、すべてを見渡して。
「わざわざ来るとはいいですね、シノビ。そろそろ武士や坊主を斬るにも飽きてきたところです。とはいえしょせんは同じ歪虚ですが」
身構える雑魔だが、その後方からはうきうきとしたアルマの声音が近づいてくる。そして。
「鬼ごっこですかぁ。じゃあ、全部、捕まえなくちゃ、ね」
紺碧の流星に穿たれた雑魔は蒸発して消えた。
さらに。
「安全運転で登場じゃーん!?」
迷路の角をドリフトで抜けたゾファルが銀嶺の上からミザルでラリアート。雑魔の延髄を刈って叩き伏せた。
「もたもたしてっと轢いちまうじゃん!?」
実際はミザルで殴り倒しているわけだが、ともあれ。仲間と連動して路や塀の上を爆走し、ゾファルは銀嶺のベルをチャリチャリ鳴らす。
●手妻
「印切るヒマもねぇや」
無数の足を繰り、クモザルは地を滑り壁を突き宙をはしる。
「くっ!」
その先を予測し、アルケミックフライトで追いすがるざくろだが、足の数を利して変則移動するクモザルを捕まえきれずにいた。
「もたついてっと俺っちが捕まえちまうぜぇ?」
ぞわりと体を返したクモザルの爪がざくろを裂き、その足を強ばらせる。それでもざくろは奥歯を食いしばり、さらに飛んだ。
「逃がさない!」
「クモザルが雑魔群に近づいています! 注意してください!」
中空から通信と肉声とで報告を飛ばす奏音。
雑魔殲滅が済むまで、クモザルの足止めをしなくてはいけませんね!
そして高度を下げてクモザルの前方へ。その鼻先に雷を撃ち込んだ。
「はっ!」
落ちていた雑魔の骸を盾にこれを防いだクモザルだが、動きを止めた一瞬、レイオスの刻令式鞭「カラマル」で足の一部を絡め取られた。
「捕まるかよ!」
クモザルは足を引き抜かずに体を返して壁を走り、レイオスへ爪を振り込むと見せかけ、毒霧を吹きつけた。
擦り込まれた痺れに力を損ないゆくレイオスだったが。
「……その前に、仕事だけは済ませておくぜ」
波打たせたカラマルでクモザルの体を打ち鳴らし、その意識を乱した。
「なんだこりゃ!?」
急ぎ飛び退くクモザル。しかしその足が地へつくよりも速く――
「超機動パワーオン! 弾け飛べ!」
――先回りしていたざくろの、超重錬成で巨大化したカオスウィースがその背を袈裟斬った。
「ざくろはクモザルの上下を抑える! レイオスは左右! 奏音は支援を!」
この場でもっとも狙われやすいポジショニングにある奏音を意識しつつ、ざくろはレイオスと共に、動きを鈍らせたクモザルへと迫る。
と。その猿面がかき消えて。
撃ち落とされる危険も顧みず、高空へ舞い上がった奏音はすぐに真相を知った。
「クモザルが従魔群と合流しました!」
あまりにも唐突なクモザル襲来により、対雑魔班は混乱させられる……かと思われたが。
「捕まえる子が増えましたねぇ」
アルマのデルタレイが迎え撃つ。
対してクモザルは術を発動させてアルマの眼前へ顕われて。
「鬼さんこちら、手の鳴るほうへってな」
重ねた両手の爪を甲高く鳴らし、腕を開くようにして薙いだ。
「……元から赤いお尻を叩いてもおもしろくありませんね。焼いて消し炭にしましょうか」
アルマは自らの流した血を指先で救い上げて舌先に乗せ、艶やかに笑んだ。
「助太刀になるかはわかりませんが、推して参りますよ」
後ろ手に振り込まれたクモザルの爪を受け流し、ターミナー・レイで斬り返すハンス。直撃こそできなかったが、アルマの前からクモザルを引き剥がすことに成功する。
「なんか東にかぶれてんなぁ、キンパツ?」
「それは俺が誰より知っていることです」
こともなげに返し、ハンスは前に出した右のつま先で土を躙る。この重刃で刹那を斬り抜くことはできまいが、それでも。
1秒後の仲間の攻めへ繋げれば、悪くないでしょうよ。
真水は銀靴の羽を拡げ、迷路を形造る塀を跳び越えてショートカット。戦闘に紛れて先へ進んだ雑魔を塞ぐ。
上空から戦場を見定め、的確に雑魔の先頭を抑える彼女の働きは、地味ならず滋味に満ち満ちていた。
即座に飛んでくる手裏剣をエクラ・ソードの鎬で弾き、弾ききれなかったものは籠手で受ける。このとき、手裏剣の1枚が眼鏡の弦にも当たっていたが、南條さんのぐるぐる眼鏡はそれしきで折れたりしないのだ。
「でも赦さないけどね」
換装した錬金杖「ヴァイザースタッフ」をひと振りすれば、超高速で撃ち出されたマテリアル杭が雑魔どもへ突き立ち、噴き飛ばす。
「よぉ、こいつらぁザコなんだからよ、あんまいじめんなって」
どこからか沸き出したクモザルが真水へ迫り、その肩口へ爪を突き込んだ。
「うわ痛いより申し訳ない! 南條さん全力で平謝るからカサカサ動くクモでサルとか許してもらえないかな!?」
怖気に突き上げられ、空へ逃げ上る真水。ついでにミカヅチも振りまいて……
「どぉこが平謝りだってんだよぉ!」
すかさず回避するクモザルだが、意外に効いていたらしい。塀の上を疾走してきた銀嶺がダイブしてくるのを見逃した。
「目潰しじゃーん!?」
前カゴにぶち込んだ魔導ライト「おでこぺっかりん☆」の光を浴びせかけ、ゾファルはミザルを振り上げた。
「って、フェイントじゃん!?」
光の裏で言い放ち、なにを弄することもなく、そのままミザルをフルスイング。暴虎覇極導の一撃を猿面へ叩きつけた。
「俺様ちゃんの詭道、見たかー!?」
「てめっちゃ空気読めよ!」
折れた歯を含み針と共にゾファルへ噴きつけ、跳び退く。
「跳んでくれるのを待っていましたよ」
追いついてきたハンスがターミナー・レイで夜気を裂き、クモザルを次元斬で捕らえた。
「ち!」
しかしクモザルは、斬られた衝撃を足がかりにして跳ね、塀の上へ。さらに跳ね、跳ね、跳ね――
「狙いをおまえだけに絞れば、次の動きくらいはわかるよ!」
月夜を貫き、上空から急降下してきたざくろが、すべてを乗せた巨大カオスウィースをその背に突き込んだ。
地に墜ち、転がったクモザルは荒い息を吐き、かぶりを振って舌打ち。
「……俺っちに喰らわす代わり、結構命削ってきたみてぇじゃねぇかかわいこちゃん」
姫武者然としたその肢体へ突き立つ幾枚もの手裏剣をそのままに、ざくろはクモザルの挙動にだけ集中して進む。
「クモザル、覚悟!」
その上空から戦場を見据える奏音が一同へ告げた。
「クモザルの転移技は雑魔が攻撃を受けたときにしか発動していません! 雑魔に対応している人はクモザルの近くへ追い立ててください!」
ようやく気づいた。クモザルの転移は、雑魔を起点に発動するリアクションスキル。だからこそ距離を無視して瞬間移動したように見えたのだと。
「もう前のほうには残ってませんよぉ? 僕が全部捕まえちゃいましたから……じゅっ、てね」
にこやかに現われたアルマは両手に掴んでいた消し炭の塊を足元へ転がして。
「ああ、少しだけ塀を壊しちゃいました。忍者さんはちょろちょろ動くから、しかたありませんよねぇ?」
そこへ雑魔を斬り退け、レイオスがたどり着いた。
「前の泥魔獣と同じで、今回の雑魔にもしかけがあったか」
デイブレイカーの刃が山吹を映し、夜を押し退け、明けさせる。
「ここまで来たらもう、意味はないけどな」
対してクモザルは口の端を歪め。
「さぁて、意味がねぇかどうか、知ってるのは俺っちだけよ」
●幕引
「ここなら移動には使えないね」
真水は単独で外堀へ駆けていた雑魔をクモザルのほうへ追い立てつつ、その一部を撃ち倒した。
「じゅっ」
アルマはうそぶき、影に紛れていた雑魔をその向こうにあるクモザルごと暁の呼び声で焼き払う。
「30体、すべて倒しました!」
奏音が体を焦したクモザルへ向かう仲間を促した。
「やらせっかよ!」
クモザルが足がかりを求めて塀へ跳び上がった、そのとき。
小型飛行翼アーマー「ダイダロス」より機械の天使翼を伸ばしたハンスが横合から強襲し、腰だめに構えたターミナー・レイの切っ先を体ごと突き込んだ。
「残しておくものですね、奥の手というものは!」
体をひねって刃こそかわしたクモザルだったが、突っ込んできたハンスまではかわせない。墜ちながら、足を伸ばして着地を――
その脇をすり抜けたレイオスがソウルエッジを乗せたデイブレイカーの刃を振り抜けば。クモザルの足の半ばが斬り落とされてごぞり、地へと散らばった。
「これでおまえはもう跳べない」
「だったら遠慮なくオラオラしちゃうぜ♪」
ゾファルが銀嶺のハンドルを切りながら車体を横へ傾け、スライディング。その勢いを乗せたミザルをオーバーハンドで叩きつける。
バランスを失い、傾いだクモザルはカウンターでこれを喰らい、塀に叩きつけられた。
そこへ。
「超・重・斬――縦一文字斬り!!」
最後の超重錬成で強化したカオスウィースをまっすぐ振り上げたざくろが、クモザルの脳天から股下までを、後ろの塀ごと唐竹割りで両断した。
「終わってるぅ!? アンタたち、よくやったわねぇ!」
援軍と共に駆けつけてきたゲモ・ママが甲高い声を上げる。
「わふーっ! ママさんです? こないだご挨拶できてなかったです! お兄ちゃんがいっつもお世話になってますですー」
ころりと表情を変えたアルマがママへ突撃。
「なにアンタ血まみれじゃねぇの! でもこれはこれでっ! これはこれでぇ~!」
かくて大騒ぎへと陥る場。
その片隅、口の端を吊り上げたクモザルの骸が、じくりと地へ染み消えていった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 5人 |
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MVP一覧
- ヒースの黒猫
南條 真水(ka2377)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談場所 南條 真水(ka2377) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/02/03 00:16:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/03 00:08:14 |