イノセント・イビル 死者に決意の花束を

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
6~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/02/01 07:30
完成日
2019/02/10 19:50

みんなの思い出

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オープニング

 歪虚『庭師』に襲われて命を落としたダフィールド侯爵家前当主ベルムドとその次男シモンの葬儀は、故郷オーサンバラの村の教会にてつつがなく終了した。
 生前の権勢を思えばあまりに寂しい葬儀だった。数か月前、シモンの結婚式の際には、貴族や豪商など大勢の来客があったものだが、王家と大公家の政争に決着がついた今となっては、『敗者』側の侯爵家の為に駆けつける者も殆ど無かった。
 埋葬も終わり、人気の無くなっただだっ広い墓地の中── 侯爵家四男ルーサーは、二人の墓の前で身じろぎもせずに立ち尽くしていた。
 父と兄の遭難については王都で聞かされてはいたが、こうして葬儀が終わってようやく実感らしきものが湧いてきたところだった。まるで、自分を構成する世界の半分が欠落してしまったような、そんな喪失感と共に──
 ……分厚い曇天の下、涙雨は最後まで降らなかった。
 代わりにルーサーの目からとめどなく涙が溢れた。
 ……慰めの言葉は既になかった。クリスとマリーの二人はただずっと傍でそんなルーサーを見守っていた。

 葬儀に参加した一部の義理堅い弔問客らを見送って、墓前へと戻って来た長男カールが、小走りに駆け寄って来た部下から何かを耳打ちされて足を止めた。
 カールが頷いて許可を与えると、別の男が墓地へと入って来た。男は敬礼をすると、シモンの部下だと名乗った。
 その言葉にルーサーは顔を上げて振り返った。……離れた場所に立ち尽くした三男ソードは動かなかった。彼は父と兄に対して幼い頃からとても複雑な感情を抱いていた。或いは、その死に最も衝撃を受けたのはこの三男であったかもしれない。
「……シモン様が秘密警察の──諜報機関の長であったことはご承知のことと存じます。そして、組織がその諜報活動に、歪虚『庭師』から得た『力』を用いていたことも……」
 男の言葉にカールは頷いた。弟が歪虚の『力』に手を染めることになった一因に、個人的な感情──父に対する憎悪と確執があったことは知っていた。その事が、カールも参加したクーデター騒ぎと『結婚式』の騒動に繋がっていったのだが…… シモンと父ベルムドの和解、そして、『庭師』との手切れを経た後に、二人の命を奪う結果になろうとは、運命の皮肉としか言いようがない。
 その『庭師』も既に斃された。ハンターの皆が仇を取ってくれたのだ。
 ルーサーはチラとソードを見た。すぐ上の兄は、自分への怒りとやるせなさで今も苦しんでいた。だが、まだまだ子供のルーサーには、身じろぎもせぬ兄の背中をただ見つめる他はなく…… そして、その間もシモンの部下は話を続ける。
「シモン様はその『庭師』の『種子』の『力』を、人や犬だけではなく、大型獣にも導入しておりました。フェルダー地方の山奥から取って来た獣の卵を孵化させ、命令通りに動かせるよう調教した後、『種子』を植え込んだものです」
「知っている。『結婚式』の時に現れた大型亀がそうだな? クーデター時の対軍・対建造物戦の為に用意したと言っていた。……だが、アレはハンターたちによって倒されたはずだが……?」
 カールの問いに、シモンの元部下は沈黙した。何かを察したカールの表情が険しくなった。
「おい、まさか……」
「はい。ご想像の通りです…… 一体ではなかったのです。シモン様が用意されていた『種』付きの大型獣は」
 男の言葉にカールの顔が蒼くなった。シモンの元部下たちが『隠していた事実』を今、この葬儀の日にわざわざ報告に来たということは、何か想定していなかった事が起きたに決まっている。そして、この手の話の定番と言えば……
「……獣の制御ができなくなったか」
「……はい。大型獣たちの飼育・調教を行っていた施設は、このニューオーサンの街から三つ山を越えた先の山奥にあったのですが…… 『庭師』との手切れ以降、『種子』の手入れを出来る者もなく、先日、遂に『力』を抑え切れずに暴発しました」
「先日だと!?」
 瞬間、カールの顔が怒りに赤く染まった。常に沈着な彼にしては珍しい事だった。
「お前たちが何の為に他の大型獣の存在を隠していたのか、今は問わん。だが、なぜ今頃になって話を持って来た!?」
 ……怒り心頭のカールの元へ向かって、ルーサーが歩き出した。気付いたマリーが「ルーサー……?」と声を掛けたが、少年は足を止めなかった。
「……うちの兵隊でどうこうできる相手じゃない。すぐにハンターたちを手配して……」
「待ってください、カール兄様」
 ルーサーが長兄を呼び止めた。そして、深呼吸を一つした後…… 覚悟を決めて、こう進言した。
「その任務…… 僕に任せてください」
「は!?」
 末弟の言葉にその場にいた全員が驚いた。特にマリーが素っ頓狂な声を上げた。
「なんでルーサーが!?」
「……王都からオーサンバラへ帰って来る際、護衛に雇ったハンターたちがいる。僕ならば事態に即応できる」
 それは確かに…… と納得しかけるマリー。だが、カールは難色を示した。ルーサーの護衛として雇ったハンターを使うとは言え、ルーサーが現場に行く必要はないはずだ。
「いや、こいつは侯爵家の人間が担わなければならない問題だ」
 応援の言葉は思わぬ方からやって来た。いつの間にか立ち上がっていたソードが、長兄と末弟の傍まで来ていたのだ。
「シモン兄が残していった問題は、俺たち、侯爵家の人間が直接、片を付けなきゃならねぇ── でなければ、領民の誰が俺たちみたいなヒヨッコに付いて来るって言うんだ?」
 末っ子の肩にガッと肩を回して、ソードが兄にそう告げた。……ソードの表情が久方ぶりに生気に漲っていた。空元気かもしれない。それでも、今は自分にもやれる事がある──そう思える。
「そういうわけで、俺も行くぜ」
「しかし……」
 カールは尚も躊躇った。それを見て、マリーはクリスを縋る様な目で見上げた。……弟分たるルーサーが覚悟を決めたのだ。その決意を無にする様なことにはしたくなかった。
 そんな主の視線にクリスはやれやれと微苦笑で溜め息を吐くと、カールに向き直り、提案した。
「私がお二方を監督します。決してソード様とルーサー様に無茶はさせません」
 カールは絶句した。このクリスという侍女の胆力、判断力には彼も一目置いている。だが、その為に他家のお嬢さんを危険に晒すというのは……
「そんなこと。それこそ今更と言うものです」
 クリスの笑顔に、カールは「……分かった」と両手を上げた。マリーは「やった!」と指を鳴らした。勿論、置いてきぼりにされるつもりはさらさらなかった。
「ソード。そして、ルーサー。ハンターたちと共に件の施設に赴き、逃げ出した大型獣を討伐せよ。……最近、機械仕掛けの古代兵器が王国中をうろついていると聞く。決して無茶はせず、クリス嬢とハンターたちの指示には従う様に」

リプレイ本文

 翌朝。ダフィールド侯爵家現当主から正式に『地上竜』討伐の命を受けたルーサーは、クリスとマリー、そして、秘密警察幹部を伴い、ハンターたちが逗留している宿屋を訪れた。
「あれ? ルーサー君なの」
「本当だ。クリスにマリーも……どうしたの、こんな早くに」
 朝のお祈りを終え、配膳を手伝っていたディーナ・フェルミ(ka5843)とルーエル・ゼクシディア(ka2473)がそれに気付いて歩み寄り、改めてお悔やみの挨拶を交わす。
 事情説明は皆が揃った早めの朝食の席で行われた。アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)とヴァルナ=エリゴス(ka2651)が視線を交わし、(なんだかいつも冒頭で朝ごはんを食べてる気がする)と通じ合った。
「ほえー、デッカい隠し子がいたもんだね。16mて」
 話を聞いたレイン・レーネリル(ka2887)は、目玉焼きを端から咥えながら器用に目を丸くした。一方、シレークス(ka0752)は怒りを隠しもせずに幹部の男を睨み据えた。
「大型獣の隠匿、ね…… それはシモンの指示でやがりますか……? 違いやがりますよねぇ……? つまり、シモンに無断でおめーたちが勝手をした、ってことでやがりますよねぇ……?」
 絶対零度の視線に晒されて、幹部はその身を竦ませながらも反駁した。──全ては、クーデターに敗れて幽閉されたシモンの再起の時の為。だが、それもシモンが死んでしまった今となっては……
 バンッ! と大きな音がした。シレークスが椅子を蹴立て、テーブルを叩いた音だった。
「シモンにはもうそんな事をするつもりは無かった! おめーたちは、シモンの矜持を、魂を侮辱しやがったんですよ!?」
 視界にルーサーの姿が入って、シレークスは幹部に掴み掛るのを自制した。ルーサーはそんな彼女に黙礼すると、改めてハンターたちに向き直った。
「……そういうわけで、皆さんにはこの地上竜の討伐を改めて依頼したいのです。僕とソード兄様がダフィールド侯爵家当主の名代として、これを見届けます」
 ……どうしても行くのか? と、ヴァイス(ka0364)がルーサーに問い直した。それは暗に少年に翻意を促すものであったが、ルーサーは迷いのない真っ直ぐな瞳で兄貴分のことを見返し、頷いた。
(ルーサー……逞しくなりましたね……)
 そんなルーサーの姿に、サクラ・エルフリード(ka2598)は知らず口元を綻ばせていた。彼に様々なことを教授した姉貴分として、その成長は誇らしくあった。
 それはヴァイスもまた同様に。もしも、変に場慣れてしまったルーサーが戦いを甘く見ているようだったら、容赦なくデコピンして説教してやるつもりだったのだが……
「……分かった。ならば、これ以上、反対はしない。事前に、戦闘中に交わす合図や手信号を教えておく。マリーとクリスもしっかり覚えておいてくれ」
 ハンターたちはすぐに準備を整え、出立した。
 途中、ニューオーサンの街に立ち寄り、準備と引き継ぎの為に広域騎馬警官隊を訪れていたソードと合流してから、山へと入った。
「では、行くぞ、ルーサー。遅れるなよ?」
「兄様こそ。僕の方が絶対旅慣れてますからね」
 ソードとルーサーのやり取りを見て、ルーエルはホッとした。……オーサンバラに着いてからの二人は本当に酷い状態だった。それでも、今はやるべきことを見つけて、前へと歩き始めている。
(少しは落ち着いたみたいだね……良かった。僕もちょっと胸のつっかえが取れた感じだ)
 視線に気づいたルーサーが、年の近い友人を振り返った。ルーエルは頭を振って笑い返した。
「んーん。何でもないよ。……それより、さ、こんな山、ちゃっちゃと越えちゃって、早く『後片付け』をしに行こう。黒いオーラの地上竜とか、放っておいたら大変だからね!」


 ニューオーサンから山を三つ越えて辿り着いた目的地は、山と谷が連なった山深い山間の土地だった。
 地勢の殆どが山の斜面であり、ここに来るまでと同様に、或いはそれ以上に木々の植生は深かった。射線も視線も通り辛く、距離を取っての戦闘は不向きと思われた。
 視線を転ずると、山間の底に開けた場所が見えた。恐らくあれが幹部の言っていた大型獣の訓練・育成施設だろう。地面は平らで視界も広い。もっとも、建物などは既に地上竜に壊されてしまっていたが。
 探索を開始する。
 件の地上竜はすぐに見つかった。森深い深い山中にあっても、その巨体はよく目立った。
「あれが、地上竜……」
 誰かがごくりと唾を飲んだ。
 遠目から視認できた地上竜は、リアルブルーで恐竜と呼ばれるものによく似た大型爬虫類だった。二本足で歩行する肉食竜──『種子』の『力』の発露たる闇色のオーラをご多分に漏れず纏っている。そして、横腹から脚の上部にかかる範囲に、毒々しい色の『茸』を群生させていた。中から肉を食い破って生えて来たような感じで、地上竜の本体と完全に癒着──融合しているように見えた。
「随分と醜悪で禍々しい姿だな。こんな化け物を作り出すような奴に殺されたのでは、前当主も浮かばれんな」
「あー、おねーさん、コイツダメだわ。生理的にアウト! キモい! グロ過ぎ! 鳥肌立っちゃう!」
 突撃銃を肩に提げつつ遠目から観察しながら、眉をひそめるコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。レインとマリーもブンブン首を振りながら自身の背中を掻きむしる。
「竜と呼称されてはいますが、幻獣というわけではなさそうですね。あの見るからに怪しいキノコが『力』の源でしょうね」
「先日は『蔦』で、今回は『茸』ですか…… 結婚式の戦いでは人から『蟹』とか『火山』が生えてましたっけ。『種子』によって違うのでしょうか」
 冷静に分析を始めたヴァルナの傍らで、サクラも小首を傾げて思案する。
 ウルミラ(ka6896)はジッと地上竜を見つめていた。……彼女はドラグーンだった。地上竜は知性もないただのデカいトカゲに過ぎないが、曲がりなりにも『竜』と呼ばれるものの無残な姿に、その胸中は何を思うか……
「山の下に見えるあの育成施設跡、ですか? あの平らな地面の所まで追い込んでから、叩きたいところですね」
 山間を指差しながらアデリシアがそう言った。地上竜は今、山の中腹より少し下の辺りにいるが、足場の悪い斜面で戦うというのはどうにも旨くない。
 ウルミラは賛意を示した。彼女は主に槍を得手としている。が、この山林の中では上手く扱えるとも思えなかった。
「僕も賛成。これだけ木や草が生えていると動きに喰いし、足を取られて大変なことになりそうだ……斜面だからね。あっちは木々とか関係なしに蹴散らして来そうだし」
 ルーエルの言葉にアデリシアは頷き返した。……そう、斜面なのだ。足場が悪いのだ。そして、その条件は地上竜にも同様だ。
「坂から転げ落としてやりましょう。怒って追い掛けて来るようなら、そのまま平地に誘導できますし」
 アデリシア案で方針は固まった。シレークスはソードたちを振り返って、こう告げた。
「マリーもルーサーもクリスと一緒に近場で待機しているです。ソード、おめーはその護衛です。クリスたちを守りやがれ」
 『あの時』の言葉が嘘偽りでないことを示せ── シレークスはそう言った。ソードは以前、クリスに振られた。その際、彼はいっぱしの男になってクリスを見返してみせると誓った。……その為にも、ソードは戦いに加わりたく思っていた。だが、シレークスの言う『いい男』というのは、多分、そういうことじゃない。
「分かっている。ここは君たちの戦場だ。でしゃばるような真似はしない」
 剣の柄をギュッと握り締めながら、それでもソードは己の立場を受け入れた。
「おまかせなの! ハンターが10人集まって倒せない歪虚なんてないの。貴方たちは他に敵が来ないか、気を付けて見ていて欲しいの」
 任せて、という様に、えっへんと胸を張ったディーナが拳で胸をドンと叩いた。
(……ルーサーさんだけでなく、ソードさんも成長されましたね)
 ヴァルナはそっと微笑を浮かべた。
(であれば、私も友人として、また事情を知る者として、決着のお手伝いをさせていただきましょう)

 ハンターたちはまず、班を三つに分けた。ヴァイスとルーエルの二人を万が一の事態に備えてクリスたちの護衛に残し、残る二班は四人ずつに分かれ、山側と谷側から挟み込む様に地上竜へと接近していく。
「『茸』の『胞子』を警戒し、風上から接近します」
 サクラ、コーネリア、ヴァルナの3人は先導するアデリシアに従って谷側に回り込み、下方から地上竜への接近を始めた。
 谷風に揺れる木々が騒めき、移動の音はそれに紛れた。……にも拘らず、地上竜はピタと動きを止めて、何かを警戒するように鼻を鳴らしながらその頭を谷側へと向けた。
「ここまで、ですね……」
「始めるか」
 サクラとコーネリアは足を止めると木の陰に身を隠し、斜面の上の地上竜に立射姿勢のまま蒼機銃と突撃銃を構えた。アデリシアとヴァルナは近くに隠れ、無線機のマイクに符丁を告げる。
 銃撃が始まった。鳴り響いた銃声が木霊するより早く立て続けに放たれた銃弾は、横腹を晒していた地上竜の左側の『茸』を狙って集中的に撃ち込まれた。
 コーネリアはたっぷりと時間を掛けて狙い澄ました最初の銃撃に、『フローズンバニッシャー』を選択していた。コーネリアの周囲を舞う粉雪の様なオーラが銃口へと収束していき…… 引き金を引くと同時にマテリアルの冷気を纏った弾丸が放たれた。白い残像を曳いて飛び抜けたそれは弾着すると同時に、水をぶちまける様に冷気を飛散させ、周囲のキノコらを瞬間的に凍結させた。
 地上竜は銃声を圧するように怒りの咆哮を上げた。そして、銃手二人の方へ向かって突撃を仕掛けようとした。が……
「やあっほおぉぉぉー、なの!」
 その竜の突撃より早く、斜面を跳び下る様にしながら思いっきり駆け下りて来たディーナが、最後に「とぉ!」と敵にダイブしながら閃光──『セイクリッドフラッシュ』を放った。
 ディーナと同様に山側から肉薄し、雄叫びと共に拳鎚を振るうシレークス。口元にマフラーを上げ、ゴーグルを下げたウルミラも比較的閉所でも扱い易いカトラスを引き抜いて突進し、敵右側へと回り込んで茸部分を斬りつける。
 胞子の雲は竜に接近していた前衛3人を呑み込んだ。咳込むディーナとシレークス。ウルミラは一瞬、動きを止めると、次の瞬間、後衛のレインに向かって突っ込んだ。胞子が撒き散らした魔法的な幻覚により敵味方の識別ができなくなってしまったのだ。
「わわっ!?」
 レインは驚き慌てつつも、取り出したでっかい注射器型の機導浄化デバイスを用いてウルミラの状態異常を吸い取った。
 意識を取り戻したウルミラは一瞬、(レインが抱えたでっかい注射器もあって)何が起こったのか分からず目を瞬かせたが、すぐに「感謝する」とレインに伝えると再び地上竜へと向かっていった。
 挟撃による一時の混乱から立ち直った地上竜が、その丸太の様な尻尾を振るって前衛3人を薙ぎ払おうとする。だが、それは、「こっちです!」と谷側から飛び出したヴァルナの『ソウルトーチ』によって視線を誘導されて不発に終わった。
「後退する。このまま引き撃ちしつつ、敵を目標地点まで誘い込む」
 こちら側(谷側)のヴァルナに敵の意識が喰いついたことを確認し、コーネリアがサクラに声を上げた。それを受け、サクラはコーネリアと同じラインを維持して後退しながら、敵の注意を惹くべく銃を撃ち続けた。
 それらの動きに、竜が谷側への突撃を仕掛けた。木々を薙ぎ倒して迫る巨体に散開を強いられるヴァルナ、サクラ、コーネリア。折れた枝や木片が飛び散る中、サクラは漆黒にまで圧縮した影の弾丸──『シャドウブリット』を手を振り、放ち、更に視線を引き付ける。
「行きます……!」
 瞬間、反対側の木陰から飛び出して来たアデリシアが、そのタイミングで『ブルガトリオ』を竜へと放った。空中に出現した無数の闇の刃が竜へと喰い込み、敵をその場に固着する。
 そこに山側から突っ込んで来たシレークスが剛力で脚部に体当たりをかました。それは巨体を転倒させることはできなかったが、バランスを崩すことには成功した。
 ブルガトリオの効果が切れた。竜の身体がグラリと揺れて……谷側へ倒れようとするのをどうにか踏ん張ろうとした。そこをウルミラが『ファントムハンド』──魔法で作り出した幻影の腕でもってチョイと突いた。
「たーおれーるぞー」
 伐採された大木の様に、地上竜がゆっくりと斜面へ倒れていった。そのまま転がり、加速のついた竜の巨体は木々を薙ぎ倒しながら一気に麓まで落ちて行き…… そのまま平地へと転がり落ちた竜は、地を滑るようにしながら停まった。暫し倒れ伏したまま。起き上がろうとして、また転倒。どうやら目を回したようだ。ダメージも小さくない。
 その間にハンターたちも斜面を駆け下り、平地へと進入していった。ウルミラは自己回復術で己の傷を癒しつつ、得物を刀から槍へ替え、馴染ませる為に一つ振り。アデリシアはそんなウルミラとレインに戦神の祝福を与えてその抵抗力を強化。サクラもまたシレークスに事前回復を付与して、遮蔽物無き戦場での戦いに備える。
「燃やせ燃やせ、キノコを燃やせ!」
 ウルミラと共に敵の側方へと回り込んだレインが『ファイアスローワー』を地上竜のキノコ部分に浴びせかけた。その『炎』の傍らを駆け抜けたウルミラが、敵の側方、側方へと回り込みつつ、竜の巨体へ槍をつける。
 サクラの援護の下、正面から突っ込んでいくシレークス。ヴァルナは両手に二種の星剣を引き抜くと、右、左の順に己の魔力を流し込んで一気に肉薄。その高威力の連撃で以って竜の分厚い表皮を斬り裂いた。
 雄叫びを上げる竜。周囲へ撒き散らされる胞子── 振るわれた尻尾に薙ぎ払われる前衛組。転んだところに踏み下ろされる足を転がって躱し。状態異常に掛かった者たちを回復役たちが癒しつつ、銃手たちが後衛から着実にダメージを与えていく……
「よし」
 サクラとコーネリアが同時に呟いた。彼女たちが浴びせ続けた銃撃が、遂に左側のキノコを全て潰し終えたのだ。
「次は邪魔っけな尻尾と口元に狙いを集中し、敵の攻撃の牽制を……ッ!」
 言い終える前にコーネリアは絶句した。破壊し尽くしたはずの茸がまた新たに地上竜の身体の中からにょきにょき生えてきたからだ。
 地上竜の顔が苦悶に歪み、激痛にのた打ち回るかの様に尻尾を振るって暴れ回った。前衛後衛非生物お構いなしに目についたものへ突撃を繰り返し、八つ当たりするかのように建物の残骸を吹き飛ばした。
 破片がそこら中に飛び散り、ハンターたちの隊列が乱れた。移動しながらの戦闘を強いられ、攻撃を集中することも難しくなった。それら諸々を掻い潜って、斬りつけ、殴り、突き入れ、撃ち込み、ハンターたちが竜にダメージを与えると、中から生えて来た茸が傷を塞ぎ、それ以上の流血を防いだ。……このことから、竜の『狂化』のトリガーは茸の撃滅というより一定以上の生命力減少が条件だったと推測できた。
「まずい……!」
 竜がこちらに向かって来るのを見て、ヴァイスとルーエルが同時に呟いた。
 フォースリングで己のマテリアルを増幅しつつ、光るエネルギーの矢を5本、宙へと浮かべて並べるヴァイス。ルーエルもまた盾を構えてルーサーたちの前に立ちはだかりつつ、後ろのルーサーたちに更に後ろに下がる様に叫んだ。
(間に合わない……!)
 真正面から突っ込んで来る竜に対して、ヴァイスは躱す間も惜しんで5本の光矢を敵正面から一斉投射した。
 その隙にソードはルーサーを抱き上げて横へと飛んで、突進の効果範囲から逃れ出た。同様にマリーを抱いたクリスの方は……間に合わない!
「天使よ! 守護精霊よ!」
 ルーエルは守護精霊の力を借りて敵に渦巻く羽の幻影を敵前面に投射した。撒き散らされたその羽の雲を、まるで闘牛の様に突き抜けて来る地上竜。突進は──クリスとマリーから外れ、そのすぐ脇を通り過ぎていた。足跡の鉤爪がほんの数cm先を抉っていた。
「今の内に……!」
 突撃で通過していった竜が戻ってくる前に、ルーサーたちに距離を取らせた。彼らを再び追うべく戻って来た竜は、彼らと入れ替わる様に前に出て来た交戦組──アデリシアの闇の刃に阻まれた。
「デカい図体で無茶苦茶してくれやがってっ!!」
 剛力を発現させながら突っ込んでいくシレークス。そんな彼女を範囲に含めてサクラが前衛たちに広域回復の光を投げかけ。ディーナは胞子が肺に入って呼吸不全を起こした仲間を浄化の力で一発で治療する。
「……シモンもまた厄介な忘れ物をしていったものですね」
「早いところ無力化したいところだね。こっちの回復にも限りがあるから」
 すれ違いざま、言葉を交わすサクラとルーエル。銃を地に置き、ルーンソードを引き抜きながら、続けてサクラが独り言つ。
「同感です。なんだか嫌な予感がしますし…… 胸の大きい人たちが竜の動きを抑えている間に、生えて来たキノコを胞子を吐く前に潰してしまいましょう。敵の様子を見るに、キノコの再生でも竜にダメージ入ってますから」
 前衛に加わるサクラの横で、ディーナは自分の身長よりも巨大な斧棍をしっかり両手で抱え上げると、『トールハンマー』を起動した。瞬間、純白の斧棍がオーラの色彩を帯びていくと同時に、ディーナの身体に力が見る見る湧き上がり、まるで雷神の如き屈強な肉体へと変化した。
「このまま敵の行動を阻害するの。雷を帯びた斧棍でぶん殴って、胞子を出させないようにするの」
 普段よりも野太い声で告げて、ディーナはずおおぉぉ、と竜に近づき、一撃を加えた。インパクトの瞬間に、打撃と同時に雷撃が竜の身体を貫いた。帯電したマテリアルの電気を放電しながら竜がのたうち、たたらを踏んだ。その余りにも強力な電撃の前に、さしもの竜もその動きを鈍らせた。


「大丈夫、クリス、マリー?」
 再び安全な距離まで下がって、ルーサーが真っ先に心配したのは恩人二人のことだった。
「ななな何言ってんのよルーサー。めったにできない超レア体験よ。ワクワクが止まらなかったわよ! 平気、余裕。楽しめ、少年」
 そうルーサーにサムズアップして見せながら、しかし、マリーの身体は細かく震えていた。
 彼女のやせ我慢はルーサーの為だった。ここで自分が逃げ帰るわけにはいかない、と少女は考えていた。……せっかくルーサーが覚悟を決めたのだ。それを姉貴分の自分が台無しにするわけにはいかない。
 そんなマリーをクリスは優しく抱きしめた。ソードは、だが、そんな弟たちではなく、施設の敷地の端へその視線を向けていた。
「なあ、あれって……」
「ああ、ソードも気付いたか」
 森の端から敷地内に進入するものがあった。数は2体。金属でできた人型の何か。だが、全身鎧と言うにはスリムであり……更に言えば、関節部が人ではあり得ない方向に曲がり、しかもグルグル回っている。
「何アレ。踊り? 調子の外れた音楽が鳴ってるけど…… あれが話に合った『王国中をうろついている古代兵器』なのかな? ともかく、こっちを狙って来るなら敵だけど」
 呟くルーエルに警戒を任せ、ヴァイスは風変りな新手の接近を、背後で交戦中の皆に伝えた。比較的離脱のし易かった後衛のコーネリアとレインがこちらへの増援に駆けつけた。特にレインは『ジェットブーツ』ですっ飛んできた。
「あ! わ! 凄い! 古代兵器だってよ、ルー君! 私、初めて見た!」
「……レインおねーさん、あーいうの、好きそうだなとは思っていたけど、アレにも浪漫を感じるんだね」
「そりゃあそうだよ! キノコなんかと比べればもう浪漫しかないよ!」(をぃエルフ)
 恋人のはしゃっぎっぷりに(だからすっ飛んで来たのか)と得心が行ったルーエルは、「でも、壊すよ? これから」とツッコミを入れた。
「……うん、破壊するんだよね? 分かってるよ? 明確な敵だもんね? 分かってるヨー」
 ……そんなハンターたちの存在に、金属製の『人型』たちは気付いているようだった。チュイィィン、と駆動音をさせつつ、2体揃った同じ動きで格闘技の構えを取ってみせた。
「俺が前に出る。ルーエルはクリスやマリーたちの護衛に徹してくれ」
「了解。回復支援は?」
「都度、頼む」
 ヴァイスは先頭に立つと、レインとコーネリアと共に人型へと向かって走った。
 そんな彼らに人型たちが手の平を向けた。待て、とでも言っているのだろうか、と思ったが違った。人型たちは手の平の発射口から迎撃のビームを放ってきた。
「あっつい! 迸るビームあっつ! 凄い!」
 長射程のレーザーに晒されながら(一部レインさんは超技術に喜びながら)、接敵の為に前進を続けるハンターたち。コーネリアは敵を射程内に捉えるとその場で足を止め、突撃銃の銃口を擲弾発射機の如く仰角に構えた。そして、前進する2人の頭上を飛び越す形で発砲した。
 高濃度マテリアルを纏わせた弾丸は敵の頭上に達するや空中で炸裂し、眼下へ投網を投げかける様に幾条もの『稲妻の様な破壊光線』を振り撒いた。宙を灼き、地を乱打した稲妻の豪雨を浴びて、人型たちの機能が一瞬、阻害された。
 迎撃の光線が止んだ。その間にヴァイスとレインは全力で敵へと突っ込んだ。
「いいよ! 壊すよ! バラバラにしてから中身を見るよ!」
 レインは自身前面に三角力場を展開すると、ヴァイスの後方から人型の腕と頭を狙って『デルタレイ』を撃ち放った。
 その援護の下、ヴァイスは魔鎌の真紅の刃に己が魔力を流し込んで、その輝きを一気に増幅させた。そのまま緩やかな弧を描きながら一気に敵の傍らまで駆け抜けて、横に並んだ人型たちへ向けて一直線に、鮮烈なまでに赤い炎を纏った魔鎌を振り抜き、紅き光で撃ち貫いた。
 だが、その大威力の攻撃にも機械は怯むことはなかった。マテリアルの炎に焼かれながら、だが、痛みも何も感じずに突っ切って来た人型が、人には絶対に不可能な角度──視界外からヴァイスを殴打した。
(球形関節……!)
 金属製の拳の威力にクラリとヴァイスの視界が揺れる。その視界の中、手の平から放つビームでレインとコーネリアを狙い撃つもう一体の人型の姿が見えた。


 ディーナの雷神の鎚による打撃は暫し竜の動きを阻害し続けた。その間にハンターたちは態勢を立て直し攻勢に出た。が、地上竜との戦いはそれでも決着していなかった。
 
 ヴァルナは素早いフットワークで竜の懐へと潜り込むと、魔力の乗った星剣を振るい、修羅の如き左右の連撃から続け様にオーラの斬撃を放った。
 幅広い範囲を切り裂かれ、その斬撃に沿って体液をぶち撒ける地上竜。直後、モコモコと生えて来たキノコの群れが瞬く間にその傷を塞ぐ。
「まだ、倒れませんか……」
 撒き散らされる胞子を避けて一旦、竜から離れながら、ヴァルナは大きく息を吐いた。
 先程の一撃が最後の『アスラトゥーリ』だった。魔力の刃も今尽きた。ヴァルナは疲れた体を押して前に出ると、最後に残った二刀流で竜に対して斬りかかっていった。
 アデリシアも既に『ブルガトリオ』は使い果たしていたが、回復支援によって後衛から前衛の戦いを支え続けていた。強力な地上竜の攻撃を前に倒れかけた者らを『フルリカバリー』で全快させ、胞子を喰らってしまった者には『ピュリフィケーション』で即座に浄化した。
 『トールハンマー』の効果時間が過ぎて元の体格へと戻ったディーナも、アデリシアの手の回らぬ深手に回復を施しつつ、自ら前衛に立って竜を殴り続けていた。
「最近、レイバシアーが法術を上げるためのアクセサリーになってる自覚があるの…… だってウコンバサラの方が振り回しやすいの~……」
 疲れを隠さず、ありがたい星神器をただの鈍器にボコボコ敵を殴り続けるディーナ。
 サクラとウルミラもまた永遠に終わらぬ作業を繰り返している感覚を抱きつつ、それぞれ左右に生えてくる茸をひたすら切り続けていた。

 最初に変化に気付いたのは、そのサクラとウルミラだった。
 茸を潰し、生えて来た茸をまた潰す── それを繰り返して来た二人は、不意に出現の停止した茸に「さっさと出て来い」と苛立ちの声を上げ……不意にその事実に気付いて、一瞬、質の悪い詐欺に掛かったのかと錯覚した。
「もしかして……本当に、打ち止め、ですか……?」
 信じられない、という風に呟くサクラ。ウルミラは逆になんか元気になって、表情は変えぬまま溌剌とした動きで距離を詰めた。
「肉を突き破って生えて来た茸を削り取ってしまえば、後に残るのは剥き出しの傷だけだ」
 これまでより深く踏み込み、炎の幻影を背に野生の力をその身に宿し……
「奥へ苦痛を抉り込むにはちょうど良かろう?」
 ウルミラは目にも止まらぬ速さで連続突きを突き入れた。狙うのは茸が内から穿って竜の表面に空いた穴。茸の残骸を突き抜けその奥を抉った槍がその残骸をも抜き取って、噴き出して来た体液は今度こそ塞ぐものはない。
 地上竜が雄叫びを上げた。これまでより最も早い尾の一撃が振るわれ、槍で受けたウルミラが大きく宙を舞い……受け身を取って地面を転がったウルミラが身を起こす。
「! ヴァルナさん……!」
「はい!」
 瞬間、サクラとヴァルナは呼応して同じ側の脚へと肉薄した。胞子が存在しないのでより思いっきり踏み込めた。
 魔術紋様が刻まれた剣をおもむろに投擲し、左の脚を斬りつけるサクラ。ブーメランのようにサクラの元へ戻る剣と入れ替わる様にヴァルナが敵へと肉薄する。右に赤の直剣「アスカロン・ブレイク」、左に結晶の刃の「アルマス・ノヴァ」──箒星が如く昏い赤を明滅させる火の剣と、深海の海月の如く無数の光を帯びた水の剣とを、ヴァルナは最後の力を振り絞ってX字型に振り下ろす。
 苦痛の雄叫びと共にグラリとその身を揺らした地上竜は、まだしかし倒れない。肉薄した者たちを踏み潰さんと振り下ろされる足の底。逆にその足底が落ちる前にその下を潜り抜けたウルミラが、地上を一回転してから竜の腹に槍の穂先を突き上げる……!
「……いい加減、止めを差してやりやがります。アデ、サクラ、支援願います!」
 正面で竜と殴り合いを演じていたシレークスが、一旦、竜の眼前から距離を取った。それを追おうとした竜を、サクラが取って置きの闇の刃でその場から動けなくする。
「そちらには行かせませんよ。私の目が黒い内は勝手なことはさせません。……私の目、黒じゃなくて赤ですけども」
 その間に、シレークスは聖句の一節と共に左腕の星神器に魔力を通し、炎の様なマテリアルを収束して光の剣を形成させた。そのまま無造作に前に出るシレークスに噛みつかんとする竜の顎──そこへアデリシアがワイヤーを鞭の様に振るって竜の目を叩き。怯んだ所へ撒きつかせてそのまま全身全霊で頭の動きを抑え込む。
 シレークスの星神器が光を放ち、極限の武が解放された。右腕の巨大な拳鎚にも魔力を通したシレークスが、星神器の力により技の限界を超越し、『二つのメインスキルを同時に』発動させる。
「……てめぇの身体は一欠けらも、この世には残さねぇです…… 光よ、憐みたまえ。光よ、導きたまえ。そう、あれかし!!」
 聖言と共に、まず左のジャブが放たれた。たかがジャブ──だが、その一撃には魔法剣と鎧徹し、二つの魔力が乗せられてた。軽く叩いたと思った瞬間、竜の胸部の肉がたわんだ。敵の背後に抜けた魔力が、そこにエクラの光のシンボルを浮かび上がらせる。
 それが消え去るよりも早くワンツーで放たれた本命の右ストレート。同じく二つの力で強化された巨大な拳鎚は竜の表皮を貫いた。穴が開く、というより爆ぜるように砕けた肉と血飛沫に一切汚れることなく、新たな光のシンボルが再度、竜の背後に光り輝く。
 だが、これでは終わらなかった。シレークスは先のワンツーの時に、左右の得物に込められた魔力を解放していた。シレークスの黄金のオーラがエクラのアンクを形作り、同時に敵にもそれが浮かぶ。
 瞬間、竜の身体が骨からひしゃげた。そして、驚くほど呆気なく、地上竜は糸の切れた人形の如く大地の上に崩れ落ちた。
 ふぅー、と息を吐いて残身の構えを取るシレークス。サクラとアデリシアが顔を見合わせ、「いったい何がありましたか」と呟いた。


 球形関節によるありえない角度からの打撃にもようやく慣れて来た。と思った瞬間、敵の格闘攻撃に目から放たれるレーザーが加わった。
 出血も無く背中まで抜けて行った光の槍に、膝から崩れ落ちかけたヴァイスにルーエルからフルリカバリーの回復支援が飛ぶ。もう一体と撃ち合いながらレインがデルタレイの援護を放ち、ヴァイスに対する敵の追撃が中断する。
 そこへ警告の声と共に『稲妻の雨』を撃ち上げるコーネリア。ヴァイスが跳び退いた直後にそれが2体の人型へと降り注ぎ、再び敵の動きが停まる。
 瞬間、コーネリアは弾丸に込めるマテリアルの性質を変え、ヴァイスと格闘戦を演じる人型へ今度は直接照準で狙いを定めた。
「実に器用な動きだが……少し、見せすぎたな、君は」
 呟き、コーネリアは躊躇することなく引き金を引いた。銃弾はトリッキーな動きを繰り返していた敵の、その腹部どまんなかに命中した。マテリアルの力で更なる高速回転を加えられていたその銃弾は、敵の装甲をドリルの様に抉って貫いた。これらは全て、コーネリアの銃口から走った赤い稲妻状の閃光が消え去るまでに起こったことだった。
 ガンッ、という音と共に、被弾した人型の腰が折れ曲がった。ヴァイスは間合いを放しながら魔鎌を持つ手をクロスさせるとそれを回転させるように脇の下から背中へ振り抜いた。命を刈り取る一閃が人型の首を刈り……だが、頭部を喪ってなお人型は襲い掛かって来た。
「大丈夫! レーザーがないだけマシだから!」
 レインから良く分からない励ましの言葉が飛ぶ。
 人型との戦いはまだ続きそうだった。


 膠着は、地上竜を倒した味方が合流したことで一気に崩れた。
 人型を包囲して一斉に殴り掛かるハンターたち。てや~~~! と気合(?)の声を上げながらトトト……と走って来たディーナが、ぴょんと跳び上がりながら巨大な斧棍を振り下ろし、頭の無い人型の装甲板をべこり、とひしゃげさせていく。
 仲間が到着したことを受け、ヴァイスはルーサーたちの護衛に戻った。お疲れ様、とルーエルがヒーリングスフィアでそれを迎えた。
「激戦でしたね……」
 ルーエルが過去形で言った通り、戦闘は終わりを迎えようとしていた。
 右の星剣一本でヴァルナが敵の格闘を凌ぐ間に、アデリシアがワイヤーを使って器用に敵を投げ飛ばし。起き上がろうとしたところにサクラが影弾を撃ち込んで再び転がし、飛び込んで来たウルミラが槍を突き立て、敵の機能を停止させる。
 もう一体は、ディーナがどっか~んと打ち上げられたところを、コーネリアの『キラースティンガー』とレインの『ファイアスローワー』を十字砲火を浴びせられて爆散した。

「ねー、ルー君。この古代兵器の部品って持って帰っても良いのかな? 兵器だけに平気、とか…… ダメ? おねーさんが近代芸術に生まれ変わらせてあげるのに」
「まあ、ほっとくわけにもいかないかなぁ……?」
 消極的賛成を示したルーエルにありがとー! と抱きついて。レインが瞳をキラキラさせつつ嬉々として残骸を集め始める。
 一方、地上竜の戦闘跡では、サクラとアデリシアが念入りに倒した竜を調べていた。
「黒色の種子、砕けていますね……」
「一応、念入りにピュリフィケーションで浄化をしておきましょう。死骸もキッチリ焼いて始末しておくべきでしょうね」
 それをヴァルナが一旦、停めた。そして、ルーサーとソードを急ぎ呼んで、魔導カメラを見せつつ、言った。
「写真を撮っておきませんか? 侯爵家の人間が直接解決に出向いた証拠、というわけでもありませんが、記念と言うか……とにかく分かり易いでしょう?」

 ソードとルーサーが帰還すると、儀式の準備が整っていた。侯爵館の戦闘で犠牲となった全ての人間を弔う為の追悼式だ。
 追悼式はエクラ式の厳粛な雰囲気の下、行われた。ディーナは(ごちそう……)と当てが外れたことを後悔しながら、どこか落ち着かないように身体をもじもじさせた。
 喪服を着て祈りを捧げるヴァイスとウルミラ。シレークスとサクラは聖職者側として式に参列した。……ベルムドやシモンの元部下たちが泣き崩れていた。それをシレークスは悲しいまなざしで見ていた。
 式には関係者だけでなく、大勢の領民たちも前当主との別れを惜しむ為に集まっていた。
「直接話せたのは館を出る少しの間だったけど……街の人たちには良い領主だったみたいだね」
 献花を終えて席へと戻って来たヴァルナに、ルーエルがしんみりと呟いた。ヴァルナは頷いた。死後にこれだけの人数の領民が集まるということは、それだけ慕われていたという証には違いない。
「凄いね。物凄い変人だったのにね!」
「えーっと、その、人騒がせな人ではありましたね(汗」
 無邪気に本音を口に出すレインに、ヴァルナが慌ててそれをオブラートに包む。
「……あの人もこの地が好きだったのかもしれないね。だからこそ、これだけの領民がその死を悲しみ、別れを惜しんでる」
「中々忘れられる人じゃなかったもんね。……そう簡単には忘れないよ。ベルムドさんも、シモンさんも……」
 ルーエルの言葉に、レインがしみじみ呟いた。ルーエルもまた、同様に……
「聞くと見るとじゃ段違い──か。僕も今回は良い経験になったよ。まだまだ学ぶことが沢山あるね」
 その言葉に頷きながら、ヴァルナは遺族席の方へ目をやった。ルーサーは……泣いていた。実の父が皆に愛されていたと知って。
「ご子息たちのこれからに幸あらんことを……」
 ヴァルナの祈りに、ルーエルとレインも黙祷で応じた。
 決意を固めたソードとルーサーを、見守っていてください、と──

「私は『庭師』の事件を断片的にしか知らない。しかし、今回のようにその糸目が付いた事件をたどっていけば、或いは真の黒幕に辿り着く為の情報が得られるかもしれない」
 式後。コーネリアから伝えられたその言葉にルーサーは考え込んでいた。
「『庭師』が活動していたのは侯爵領だけではないらしい。『庭師』がバラ撒いていった『種子』が各地で芽吹いているというのなら……僕は侯爵家の一員として、シモン兄様の弟として、それを刈って回ろうと思う」

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参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 焔は絶えず
    ウルミラ(ka6896
    ドラグーン|22才|女性|霊闘士

サポート一覧

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/29 23:55:18
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/01/31 21:20:01