ゲスト
(ka0000)
【王戦】嵐を呼ぶ男
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/07 07:30
- 完成日
- 2019/02/13 00:06
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●刻令術式外輪船フライングシスティーナ号にて
「わざわざ港町まで足を運んで頂きまして、ありがとうございます」
青の隊騎士ノセヤが深々と頭を下げる。
水の精霊に案内されて部屋に入って来たのは『空の研究所』所長アメリア・マティーナ(kz0179)その人であった。
前回の依頼の折、あるハンターから、空飛ぶ箒についての助言を受けて、ノセヤがその開発元を確認し、繋がった結果だ。
「転移門があるからそんな苦労じゃないですけどねーえ」
「いえ、素晴らしい研究をされている偉大なる魔術師と聞いております」
ノセヤ自身も魔術師であるので、その辺り、尊敬しているようだ。
魔術に関しての研究は同盟領内に存在する魔術師協会がやはり、本流であろう。
そんな中、王国内での研究所として一線級に活動し実績を残しているのだ。
「偉大かどうかは分かりませんけどねーえ」
「早速ですが、実はこの船を飛ばしたいのです」
「またそれは突拍子もない事ですねーえ」
アメリアから見ても、その船がこれまでの王国の船と比べても巨大であるというのはすぐに理解できた。
これを飛ばすなど、普通に考えればあり得ない事だろう。
「傲慢との来るべき戦いに供え、この船に飛行能力を備えたいと思っているのです」
「それで私の研究をねーえ」
『空の研究所』の実績の一つに魔箒の存在がある。
特別なスキルウェポンを行使できるようになるアイテムだ。アイテムに込められた力を使う事で飛行能力を得られる。
「率直にお尋ねします。『空の研究所』の技術を使って、あの船を飛ばす事は可能ですか?」
「…………」
ノセヤの質問にアメリアは瞳を閉じ、幾度も首を左右に傾げる。
玩具の船を飛ばすという単純な話ではない。安定した飛行能力を必要とされるのだ。
「……残念ですが、無理ですねーえ」
「出来ない原因があるのですか?」
「『船体を浮かす』『移動する』『止まれる』という、これらの行為を一つの魔法で行う事が難しいのですねーえ」
現状、魔法で空を飛ぶ場合、覚醒者自身がそれらを操作している。
しかし、フライングシスティーナ号は覚醒者どころか人ですらない。違う命令を与えて時点で前の命令が無力化されかねない。
沈黙が続いたのを破ったのは、水の精霊だった。
「魔術については詳しくないですが、水があれば精霊達の力で長時間浮かす事も不可能ではないかもしれません」
「やってみないと分からないけど、雲なら発生し続ける事はできるかもしれませんねーえ。雲は小さい水が寄り集まった存在ですからねーえ」
「浮く為に水の大きさに制限はあるのですか?」
「水は水ですから。多分、それなら出来ると思います」
浮く事ができれば、後は推進方法を考えるだけだ。
それは刻令術を応用し、プロペラを回せばいいとノセヤの頭の中に浮かんでいた。
つまり――可能なのだ。フライングシスティーナ号を名前の通り、空に飛ばす事が。
か細い糸が繋がった事にノセヤは嬉しさにあまり、アメリアの両手を手に取った。
「やってもらっていいでしょうか? 船に雲を纏わす魔法を!」
「できる保証はまだありませんけどねーえ」
そんな訳で、フライングシスティーナ号の大改造が始まろうとしていた。
●水の精霊の試練
魔法の事は『空の研究所』に任せるとして推進に関しては刻令術式回転羽根の設置が進められた。
技術的な問題は多く残るが、推進する力と浮遊補助としての力を持つものと二種類を増設する予定となっている。
「後は、水の精霊の力ですがソルラさん一人ではできませんよね?」
ノセヤの質問に水の精霊は頷いた。
自我を与えられているとはいえ、万能ではない。
イスルダ島を強襲した時ですら他の水の精霊の協力があったからこそだ。
「多くの精霊達の力が必要になります」
「精霊の力を得るにはどうすればいいのでしょうか?」
「……水の精霊達の主である、節制の精霊プラトニス様からの試練を果たすしかありません」
水の精霊の言葉にノセヤは目を見開く。
プラトニスがどんな精霊か、その噂話はノセヤの耳に入っていた。
筋骨隆々の大男であるが、光と水を司る四大精霊の一人だ。
王国に対して好意的ではあるものの、その大精霊の性格は、ノセヤにとっては苦難のものであった。
「まさか、鍛え上げられた筋肉で空を飛ぶとか、そういう事ではありませんよね?」
「如何にプラトニス様でもそのような事は……たぶん、無いと思います」
苦笑を浮かべながら水の精霊は答えた。
ノセヤは筋肉男子とは程遠い痩せなのだ。万が一にもプラトニスに目を付けられたら、死ぬまで筋トレの試練を与えてくるかもしれない。
水の精霊がテーブルに並べたのは、アルテミス小隊を後援する商会からの書類だった。
「これは、貿易船の遭難記録ですか」
「実は、昨年の秋頃から、原因不明の遭難事故が増えているようです。商会の方ではまだ調査中ですが、精霊達の間では既に原因が判明しておりまして」
「……歪虚、ですか?」
「その通りです。それも並の歪虚ではありません。この歪虚の為に、水の精霊の多くが苦しめられています」
船旅に遭難事故はつきものだ。
遭難が増えているといっても、原因まで分からなければ、なかなか騎士団まで話は上がってこないだろう。
「つまり、その歪虚を討伐すれば、精霊達の助力を得られるという事ですね」
「はい」
最低限必要な情報は既に水の精霊がまとめてあるようだった。
これなら、あとはアルテミス小隊を通じてハンター達に討伐してもらえればいい。
「分かりました。それでは早速、希さんに伝えますね」
そろそろ、古都から港町に徒歩で到着するはずだからだ。
●王国南部沖
ハンター達を乗せた囮船は順調に航海を続けていた。
目的地は遭難事故が相次ぐ海域だ。
「だんだん、時化て来やがったぜ。情報が正しければ、そろそろ、おめぇらの出番だ」
船長がハンター達に告げると同時に、風が強くなり、海が荒れ始める。
それほど大きくない船なので激しく揺れる。最初から使い捨てでもあるので、船が古いというのもあるが。
「おい、野郎ども! 脱出の準備はぬかるんじゃねぇぞ!」
「うぃーす!」
用意しておいたボートが揺れで外れて流されないように水夫達が確認する。
歪虚が襲来してきたら、戦闘の邪魔にならないように脱出する為だ。
ちなみに、船からの脱出後は水の精霊達がフォローに入る予定になっている。
「よし。そろそろハンター以外、総員退……な、なんだ、ありゃ」
船主に飾ってある彫像の上に、青髪青瞳の好青年が見えたからだ。明らかな負のマテリアルを感じる。それも強大な……。
青年の姿をした人型の歪虚が指先をゆっくりとした動きで挙げて、ハンター達全員に向けて言い放つ。
「さぁ、贖罪の刻だ」
猛烈な嵐が噴き出した。
「わざわざ港町まで足を運んで頂きまして、ありがとうございます」
青の隊騎士ノセヤが深々と頭を下げる。
水の精霊に案内されて部屋に入って来たのは『空の研究所』所長アメリア・マティーナ(kz0179)その人であった。
前回の依頼の折、あるハンターから、空飛ぶ箒についての助言を受けて、ノセヤがその開発元を確認し、繋がった結果だ。
「転移門があるからそんな苦労じゃないですけどねーえ」
「いえ、素晴らしい研究をされている偉大なる魔術師と聞いております」
ノセヤ自身も魔術師であるので、その辺り、尊敬しているようだ。
魔術に関しての研究は同盟領内に存在する魔術師協会がやはり、本流であろう。
そんな中、王国内での研究所として一線級に活動し実績を残しているのだ。
「偉大かどうかは分かりませんけどねーえ」
「早速ですが、実はこの船を飛ばしたいのです」
「またそれは突拍子もない事ですねーえ」
アメリアから見ても、その船がこれまでの王国の船と比べても巨大であるというのはすぐに理解できた。
これを飛ばすなど、普通に考えればあり得ない事だろう。
「傲慢との来るべき戦いに供え、この船に飛行能力を備えたいと思っているのです」
「それで私の研究をねーえ」
『空の研究所』の実績の一つに魔箒の存在がある。
特別なスキルウェポンを行使できるようになるアイテムだ。アイテムに込められた力を使う事で飛行能力を得られる。
「率直にお尋ねします。『空の研究所』の技術を使って、あの船を飛ばす事は可能ですか?」
「…………」
ノセヤの質問にアメリアは瞳を閉じ、幾度も首を左右に傾げる。
玩具の船を飛ばすという単純な話ではない。安定した飛行能力を必要とされるのだ。
「……残念ですが、無理ですねーえ」
「出来ない原因があるのですか?」
「『船体を浮かす』『移動する』『止まれる』という、これらの行為を一つの魔法で行う事が難しいのですねーえ」
現状、魔法で空を飛ぶ場合、覚醒者自身がそれらを操作している。
しかし、フライングシスティーナ号は覚醒者どころか人ですらない。違う命令を与えて時点で前の命令が無力化されかねない。
沈黙が続いたのを破ったのは、水の精霊だった。
「魔術については詳しくないですが、水があれば精霊達の力で長時間浮かす事も不可能ではないかもしれません」
「やってみないと分からないけど、雲なら発生し続ける事はできるかもしれませんねーえ。雲は小さい水が寄り集まった存在ですからねーえ」
「浮く為に水の大きさに制限はあるのですか?」
「水は水ですから。多分、それなら出来ると思います」
浮く事ができれば、後は推進方法を考えるだけだ。
それは刻令術を応用し、プロペラを回せばいいとノセヤの頭の中に浮かんでいた。
つまり――可能なのだ。フライングシスティーナ号を名前の通り、空に飛ばす事が。
か細い糸が繋がった事にノセヤは嬉しさにあまり、アメリアの両手を手に取った。
「やってもらっていいでしょうか? 船に雲を纏わす魔法を!」
「できる保証はまだありませんけどねーえ」
そんな訳で、フライングシスティーナ号の大改造が始まろうとしていた。
●水の精霊の試練
魔法の事は『空の研究所』に任せるとして推進に関しては刻令術式回転羽根の設置が進められた。
技術的な問題は多く残るが、推進する力と浮遊補助としての力を持つものと二種類を増設する予定となっている。
「後は、水の精霊の力ですがソルラさん一人ではできませんよね?」
ノセヤの質問に水の精霊は頷いた。
自我を与えられているとはいえ、万能ではない。
イスルダ島を強襲した時ですら他の水の精霊の協力があったからこそだ。
「多くの精霊達の力が必要になります」
「精霊の力を得るにはどうすればいいのでしょうか?」
「……水の精霊達の主である、節制の精霊プラトニス様からの試練を果たすしかありません」
水の精霊の言葉にノセヤは目を見開く。
プラトニスがどんな精霊か、その噂話はノセヤの耳に入っていた。
筋骨隆々の大男であるが、光と水を司る四大精霊の一人だ。
王国に対して好意的ではあるものの、その大精霊の性格は、ノセヤにとっては苦難のものであった。
「まさか、鍛え上げられた筋肉で空を飛ぶとか、そういう事ではありませんよね?」
「如何にプラトニス様でもそのような事は……たぶん、無いと思います」
苦笑を浮かべながら水の精霊は答えた。
ノセヤは筋肉男子とは程遠い痩せなのだ。万が一にもプラトニスに目を付けられたら、死ぬまで筋トレの試練を与えてくるかもしれない。
水の精霊がテーブルに並べたのは、アルテミス小隊を後援する商会からの書類だった。
「これは、貿易船の遭難記録ですか」
「実は、昨年の秋頃から、原因不明の遭難事故が増えているようです。商会の方ではまだ調査中ですが、精霊達の間では既に原因が判明しておりまして」
「……歪虚、ですか?」
「その通りです。それも並の歪虚ではありません。この歪虚の為に、水の精霊の多くが苦しめられています」
船旅に遭難事故はつきものだ。
遭難が増えているといっても、原因まで分からなければ、なかなか騎士団まで話は上がってこないだろう。
「つまり、その歪虚を討伐すれば、精霊達の助力を得られるという事ですね」
「はい」
最低限必要な情報は既に水の精霊がまとめてあるようだった。
これなら、あとはアルテミス小隊を通じてハンター達に討伐してもらえればいい。
「分かりました。それでは早速、希さんに伝えますね」
そろそろ、古都から港町に徒歩で到着するはずだからだ。
●王国南部沖
ハンター達を乗せた囮船は順調に航海を続けていた。
目的地は遭難事故が相次ぐ海域だ。
「だんだん、時化て来やがったぜ。情報が正しければ、そろそろ、おめぇらの出番だ」
船長がハンター達に告げると同時に、風が強くなり、海が荒れ始める。
それほど大きくない船なので激しく揺れる。最初から使い捨てでもあるので、船が古いというのもあるが。
「おい、野郎ども! 脱出の準備はぬかるんじゃねぇぞ!」
「うぃーす!」
用意しておいたボートが揺れで外れて流されないように水夫達が確認する。
歪虚が襲来してきたら、戦闘の邪魔にならないように脱出する為だ。
ちなみに、船からの脱出後は水の精霊達がフォローに入る予定になっている。
「よし。そろそろハンター以外、総員退……な、なんだ、ありゃ」
船主に飾ってある彫像の上に、青髪青瞳の好青年が見えたからだ。明らかな負のマテリアルを感じる。それも強大な……。
青年の姿をした人型の歪虚が指先をゆっくりとした動きで挙げて、ハンター達全員に向けて言い放つ。
「さぁ、贖罪の刻だ」
猛烈な嵐が噴き出した。
リプレイ本文
●嵐の中で
叩きつけるような雨と風の中、突如として出現した歪虚に鳳城 錬介(ka6053)は懐かしい感覚を思い出していた。
(王国の海で会う敵はだいたいこんな感じだった気がします……)
頭の中にちょっと変わった歪虚が過っていった。
錬介にとって、今回の敵は殿堂入りしても不思議ではないかもしれない。
(しかし、今までの経験からするとこういう敵はかなり強かった気が……)
油断なく盾を構えながら前に進み出て、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)に並ぶ。頼もしい仲間は愛刀の先を歪虚へと向けていた。
「贖罪の刻……貴様がか?」
「罪があるのはオレではなく、貴様達の方だ」
歪虚は登場した時の姿勢のまま答えた。
嵐は徐々に強くなってくるが、歪虚の長い青髪は濡れている様子が見えない。
「貴様は、多くの水の精霊を苦しめていると聞いている。守護者、ヒトと精霊の調停者として貴様を断じ裁こう」
宣言するアルトの言葉に歪虚は感心したように声を漏らす。
「ほぉ……“守護者”か。ならば、なおの事だ」
「ハンターに罪があって、それを断罪するのなら、なぜ精霊さんや非覚醒者にまで迷惑をかけるのですっ……えっと、ワカメさんっ」
同じく守護者であるUisca Amhran(ka0754)は魔導銃を構えながら訊く。
『ワカメ』呼ばわりされた歪虚は不敵な笑みを浮かべた。
あまり気にしていない様子を見るに――本当にワカメなのか、それとも傲慢っぽいプライドは持っていないのか。
「ふぅん……まぁ、とりあえずは人の形してるのね」
「まだ、傲慢――アイテルカイト――の可能性はありますから、油断できませんよ、エニアさん」
仲間の言葉に頷く十色 エニア(ka0370)。
「そうだね。ウォーターウォークの効果があるうちになんとかしたいけど……」
戦闘で海に落とされれば、この嵐の中だ。戻ってくるのは骨が折れるだろう。
準備は出来ているはずだが……妙な不安を感じずにはいられない。
濡れたタバコを仕舞いつつ、シガレット=ウナギパイ(ka2884)が尋ねる。
「それで、一体誰なんだァ?」
「オレはさしずめ、貴様らハンター共を抹殺するダークヒーローという所だ」
その台詞にUiscaはカクっと首を傾げる。
「ハンターが悪というのなら、貴方はダークヒーローではなくて、ただのヒーローなのでは?」
「そうか、ヒーローかァ」
歪虚は大げさな身振りで両手を広げた。
嵐は強くなってきている。戦闘に影響はないだろうが……時間の問題かもしれない。
「聞こえんのか? この海の嘆きが……所詮は罪深き人間共という事か」
「海の嘆きねぇ……アンタが泣かしてるんじゃないの?」
歪虚の言葉にカチンときた様子のレベッカ・アマデーオ(ka1963)。
彼女は海で生まれ、育ったのだ。聞き捨てならなかったのだろう。
「この天候、アンタが操ってるんだとしたら、そっちの方が嘆きになるわよ。アンタの都合で風を吹かされ、雨を降らされ、波を立てさせられて!」
「そうさせているのは貴様ら人間共なのだぞ……だが、少しでも声を聞こうとする姿勢は、まぁ、好ましいぞ。小娘」
「こむ……効果の程はわかんないけど、フィールドそのものを好きにできるってんなら……」
錬金杖を掲げるレベッカ。
機導浄化術を行使して場のマテリアル汚染を浄化しようと試みる。
「愚かな事を。それでは人間共、行くぞ。嵐の中で踊れ!」
手の先に水の刃を形成すると一気に間合いを詰めて来た。
●攻勢
繰り出される水の刃は剣でもあり矢でもあった。
風の魔法を纏わせていたエニアであっても、それを避け続けるのは困難だ。
「ちょっといきなりは反則っ」
「前衛は任せて下さい。エニアさんは後衛の護衛を」
鋭く伸びてきた水刃を強引に捻じ曲げ、盾で受け止める錬介。
ズシンと盾を通じて衝撃が伝わってくる。相当の威力があるようだ。
一瞬の攻防だけでも、相手がかなりの実力者だと分かる。
「どうやら……守護者としての力を使うに相応しい相手のようだ」
超覚醒するアルトを包み込む圧倒的なマテリアルがオーラとなって炎を形創る。
水の刃で攻撃を繰り出そうとしていた敵の動きが止まった。
「これが守護者か……気に入った! 貴様の身体も心もオレに捧げさせる!」
「そんな台詞は勝ってから言いなよ」
法術刀を高々と掲げるとアルトはマテリアルを放つ。
大精霊が司る『勇気』の力を解放。大精霊の強力な加護が包み込んだ。
「これで【強制】は怖くはありませんね」
そう言いながらUiscaが魔導銃を放つ。【強制】による戦線崩壊は最も警戒しなければならないからだ――相手が、万が一でも傲慢であれば。
水属性の力が込められた弾丸は敵を直撃した。弾丸の通りは良いようにも感じられる。
「これならどうだァ!」
シガレットが放ったのは電撃の魔法。
迸った電撃は敵に直撃する直前、何かに弾かれて消滅してしまう。
「通じているようには思えねぇなァ……風は弱点じゃなさそうだぜェ」
「……大地よ、永久不滅の不屈の理りを奏で、その力で我らを守り給え!」
続けて魔法を行使したのはエニアだった。
広範囲を包み込む攻撃魔法であるが、マテリアルを操り、敵だけに効果を限定させる。
「とりあえず今出せる威力で、どれくらい効くかだね~」
行動阻害は与えられていないようだが、ダメージの通りは仲間の攻撃より通りやすいようにも見える。
もっとも、威力の違いというのもあるので、一概には判断できない所ではあるが。
「そんなものでは、このオレに宿る絶対なる身体に傷つけられんぞ」
歪虚が無駄に胸を張ってクルリと回りながら、腕を突きあげる。
いちいち、無駄な動作が多い歪虚だ。
そこを狙って、レベッカが機導砲を放つ。一筋の光が嵐の中を貫いた。
「リアルブルーの言葉で『チュウニビョウカンジャ』っていうんだっけ? アンタみたいな奴のこと」
「それは愚かな人間共が、オレのような力ある者に憧れているだけなのだろう」
レベッカが撃った光は歪虚に直撃するはずだった。
しかし、水の膜のようなものによって弾け飛んでしまう。
「どうやら、何か防御障壁みたいのがあるように感じますね。ホーリーヴェールに似ているような……」
強烈な水刃を、身体を張って受け止めながら錬介が言った。
薄い水の板のようなものが歪虚の周囲を包んでいるように見えるのだ。
「やっぱり、そんな風に見えるよなァ」
シガレットが頷きながら同意する。
「錬介さん、攻撃魔法で確認しましょう。守護者の加護が効いている今が試す機会です」
「分かりました」
二人の詠唱が重なり、歪虚の周囲に漆黒の刃が出現。
幾つも突き刺さるが……そのうちの何本かは水の膜によって弾け飛んでいってしまう。
その様子を確認して機導術の防御障壁にも似ているとレベッカも感じた。
「届いている分もあるみたいだね」
「部位によっては届いている……みたい?」
首を傾げるエニア。
魔法や射撃で届かなかったり、届いたりとこれまで一定の規則性は見当たらない。
一方で、Uiscaが銃弾を変えて撃ったのは有効性であるのが分かっていた。シガレットの銃撃と比べると、水と土の両属性はそれぞれ有効なのかもしれない。
「まだ【懲罰】を使ってこないようだから、ここで試してみるさ」
爽やかに言ってアルトが愛刀を構える。
彼女ほどの実力者になると、自身の攻撃反射が脅威となるからだ。
アルトが攻撃してくるのを歪虚が待っている可能性もある。
「【懲罰】を使ってこれば、傲慢という事は確定なんだが、な」
嵐の中、炎の様なオーラを纏ったアルトが恐ろしい程の残像を残しつつ、歪虚の背面へと回った。
その無防備な背中に刀先を突き立てる。
十分過ぎる手応え。素早く刀を引き【懲罰】に備える。
歪虚はニヤリと笑うと軽く跳躍して甲板の縁へと移動した。
「……なるほど。オレを傲慢であると思っているのか。そうだな、オレは傲慢の中にいるが、傲慢ではない」
ニヤリと笑ったその顔は戦闘にまだ余裕があるようだった。
●海の強欲
「これほどの力の持ち主とは……さぞ、名のある歪虚に違いないと思うのですが」
歪虚が間合いを取ったのもあり、錬介は回復魔法を行使しながら尋ねた。
錬介の台詞が歪虚にとっては心地良かったようで、歪虚は胸に手を当て、もう片方の手を斜め45度で天に向ける。
「その通り。大海原の覇者であるオレの名はティオリオス。偉大なる傲慢の王に仕えし者」
傲慢の王――その言葉に錬介はゴクっと唾を飲み込んだ。
「それは、王直属という事なのですか?」
「直属とかいう生温いものではない。オレの存在は傲慢の王に必要なものだ」
「それは、ミュールちゃんと同様という事?」
Uiscaは傲慢王に最も近いと自称する幼女を思い出していた。
王直属とは違うだろうが、似たようなものがあるかもしれない。
何より、ティオリオスと名乗った歪虚から発せられる負のマテリアルが強大だった。
「ほう、幼き従者を知る者か。言っておくが、同じ立場ではない。偉大なる傲慢の王に同じく仕えるが別次元だ」
とりあえず、傲慢王に近い存在であるのは確かなようだ。
他にも情報が引き出せるかもしれないとシガレットが訊ねる。
「贖罪とか言っていたが、そもそも、エクラ教になんか因縁あるのかァ?」
「ん……ある訳ないだろう。そう言った方がダークヒーローに相応しいと思っての事だ」
無駄に胸を張って応えるティオリオス。
揺れる甲板で体勢を整えるエニアが確かめるように言った。
「ダークヒーローって名乗るってことは、何か正義があるの? 海に何か思い入れでもあるの?」
「話すと長くなる……が、一言で言うと、愚かな人間共によって汚されたこの海をそのままにしておくわけにはいかないという事だ」
その台詞に、レベッカがドンっと強く甲板を踏みしめた。
ビシっと指先をティオリオスへと向ける。
「この海は誰のものでもないんだよ! 歪虚風情が思い上がんなああああつ!!」
「違うな、小娘。この海も、この世界も偉大なる傲慢の王のもの。しかし、汚された海は王に必要ない」
「アンタ……海をなんだと思っているのよ。アンタが海の嘆きの代弁者だってんなら、そこまで言うなら力見せてみなよ!」
強い眼差しを向けるレベッカに対し、ティオリオスはニヤっと笑った。
「今日は素晴らしい日だ。守護者と海を想う者と、出逢えたのだからな。そんなに言うなら良いだろう。見せてやろう」
ティオリオスが腕を回し、ポーズを取りながら叫んだ。
「へ・ん・し・ん!」
直後、全方位に発せられる水色のマテリアルの光。
その光が収縮するようにティオリオスへと包み込む。
「竜鱗のようにみえるが……ドラグーンではなく……竜……いや、強欲――ドラッケン――か」
確りと観察していたアルトが呟く。
ドラグーンと違うのは、ティオリオスの姿がどちらかというとリザードマンに似ており、直立している竜のような姿だ。
「それにこのマテリアルの強大さ……」
「オレは変身するたびにパワーが増す。その変身をもう1回、オレは残している。その意味が分かるか?」
「ちょっと、53がどうのこうの言わないでね!」
慌てるエニアの台詞を無視し、ティオリオスが掲げた両腕をハンター達に向けた。
水の渦や大波などを警戒するハンターもいたが、歪虚の力は想像以上のものになったようだった。
「海の嘆きを子守唄に、沈め!」
直後、甲板上の空間が海水で満たされた。いや、船全体を海水が包んだというべきか。
(なに、これ!)
咄嗟に息を止めるレベッカ。
真っ先に確認したのは頭上。しかし、外が嵐という事もあり、どこまで続いているか目視では確認できなかった。
次に機導浄化術を行使するが……効果は見えない辺り、負のマテリアルの汚染によるものではないようだ。
水に包まれている状況に危機感を持ちつつ、Uiscaは抵抗を増す魔法を唱えた。
(……違う。これは悪い影響を持つものではない?)
所謂、バッドステータスとは違うと分かった。
バッドステータスであれば、抵抗力で跳ね返せるが、そうではないという事は……。
(空間そのものが水に置き換わっているという事ァ)
絶対に煙草に火がつけられない状況でもあるよなとも頭の中でシガレットは思った。
仲間達と連携を取ろうにも声を出せる状況ではないので、目配せするしかない。
(短期決戦です。攻撃を集中しましょう)
そんな思いを込めながら錬介は錬金杖をティオリオスへと向ける。
後衛達の攻撃魔法がティオリオスへと襲い掛かった。
(さっきより、動きが全然違う? それに、あの障壁も!)
口を押えながらエニアが目を丸くした。
ティオリオスの動きが先程よりも早くなっているように見えたからだ。
(水中戦闘になろうが、ヤル事は変わらない!)
アルトがマテリアルのオーラを全身から噴き出しながらティオリオスへと接近する。
相手が傲慢でないと分かった以上は全力で攻撃を当てるだけだ。
(く……水の中だと足が封じられる、か)
水中での動きはどうしても地上と違って鈍くなってしまう。
敵の側面や背後に回るのは無理のようで、正面からアルトは法術刀を振るった。
「どうした? さっきまでの威勢が感じられないぞ。そうか、死の恐怖に怯え始めたか」
ハンター達は声が出せないのに、ティオリオスは何も変わっていない。
むしろ、水の中で生き生きとしているようにも感じられる。
(このっ!)
アルトの刀は届いているが、無尽蔵に出現する水の障壁によって有効打になっていない。
水の障壁は攻撃を受けるとその部位が消滅する代わりに、攻撃自体も無力化してしまうようだった。
消滅した部位はティオリオスが意図的に作り直すようだが、水の中であれば、無尽蔵に水があるようで、複数人が同じ部位を狙わないとダメージの通りが悪い。
「終わりだな。人間共にしては、まぁ、良く戦った方だぞ」
上から目線で告げるティオリオスの宣言通り、ハンター達は全員が息継ぎできず、気を失ったようだった。
覚醒者であっても“生き物”である以上、この結果は必然だろう。
「さて、まずは守護者を頂くか……あの絶大なる力。大海原の覇者であるオレが、ん?」
気絶したアルトを引き寄せようと腕を伸ばした時だった。
巨大な三角波が船に被せるように襲って来たのだ。
それはハンター達が浮かぶ空間を一瞬にして洗い流す。
「…………運が尽きてはいなかったようだな、人間共」
背中に畳んでいたヒレのような翼を広げると、ティオリオスは嵐の中、飛び去っていったのであった。
ハンター達の活躍により、嵐の中、現れた歪虚の情報を多く得る事が出来た。
また、水兵らの必死の救助活動により、海の中に落とされたハンターらは全員、引き揚げられ、帰還したのであった。
おしまい
叩きつけるような雨と風の中、突如として出現した歪虚に鳳城 錬介(ka6053)は懐かしい感覚を思い出していた。
(王国の海で会う敵はだいたいこんな感じだった気がします……)
頭の中にちょっと変わった歪虚が過っていった。
錬介にとって、今回の敵は殿堂入りしても不思議ではないかもしれない。
(しかし、今までの経験からするとこういう敵はかなり強かった気が……)
油断なく盾を構えながら前に進み出て、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)に並ぶ。頼もしい仲間は愛刀の先を歪虚へと向けていた。
「贖罪の刻……貴様がか?」
「罪があるのはオレではなく、貴様達の方だ」
歪虚は登場した時の姿勢のまま答えた。
嵐は徐々に強くなってくるが、歪虚の長い青髪は濡れている様子が見えない。
「貴様は、多くの水の精霊を苦しめていると聞いている。守護者、ヒトと精霊の調停者として貴様を断じ裁こう」
宣言するアルトの言葉に歪虚は感心したように声を漏らす。
「ほぉ……“守護者”か。ならば、なおの事だ」
「ハンターに罪があって、それを断罪するのなら、なぜ精霊さんや非覚醒者にまで迷惑をかけるのですっ……えっと、ワカメさんっ」
同じく守護者であるUisca Amhran(ka0754)は魔導銃を構えながら訊く。
『ワカメ』呼ばわりされた歪虚は不敵な笑みを浮かべた。
あまり気にしていない様子を見るに――本当にワカメなのか、それとも傲慢っぽいプライドは持っていないのか。
「ふぅん……まぁ、とりあえずは人の形してるのね」
「まだ、傲慢――アイテルカイト――の可能性はありますから、油断できませんよ、エニアさん」
仲間の言葉に頷く十色 エニア(ka0370)。
「そうだね。ウォーターウォークの効果があるうちになんとかしたいけど……」
戦闘で海に落とされれば、この嵐の中だ。戻ってくるのは骨が折れるだろう。
準備は出来ているはずだが……妙な不安を感じずにはいられない。
濡れたタバコを仕舞いつつ、シガレット=ウナギパイ(ka2884)が尋ねる。
「それで、一体誰なんだァ?」
「オレはさしずめ、貴様らハンター共を抹殺するダークヒーローという所だ」
その台詞にUiscaはカクっと首を傾げる。
「ハンターが悪というのなら、貴方はダークヒーローではなくて、ただのヒーローなのでは?」
「そうか、ヒーローかァ」
歪虚は大げさな身振りで両手を広げた。
嵐は強くなってきている。戦闘に影響はないだろうが……時間の問題かもしれない。
「聞こえんのか? この海の嘆きが……所詮は罪深き人間共という事か」
「海の嘆きねぇ……アンタが泣かしてるんじゃないの?」
歪虚の言葉にカチンときた様子のレベッカ・アマデーオ(ka1963)。
彼女は海で生まれ、育ったのだ。聞き捨てならなかったのだろう。
「この天候、アンタが操ってるんだとしたら、そっちの方が嘆きになるわよ。アンタの都合で風を吹かされ、雨を降らされ、波を立てさせられて!」
「そうさせているのは貴様ら人間共なのだぞ……だが、少しでも声を聞こうとする姿勢は、まぁ、好ましいぞ。小娘」
「こむ……効果の程はわかんないけど、フィールドそのものを好きにできるってんなら……」
錬金杖を掲げるレベッカ。
機導浄化術を行使して場のマテリアル汚染を浄化しようと試みる。
「愚かな事を。それでは人間共、行くぞ。嵐の中で踊れ!」
手の先に水の刃を形成すると一気に間合いを詰めて来た。
●攻勢
繰り出される水の刃は剣でもあり矢でもあった。
風の魔法を纏わせていたエニアであっても、それを避け続けるのは困難だ。
「ちょっといきなりは反則っ」
「前衛は任せて下さい。エニアさんは後衛の護衛を」
鋭く伸びてきた水刃を強引に捻じ曲げ、盾で受け止める錬介。
ズシンと盾を通じて衝撃が伝わってくる。相当の威力があるようだ。
一瞬の攻防だけでも、相手がかなりの実力者だと分かる。
「どうやら……守護者としての力を使うに相応しい相手のようだ」
超覚醒するアルトを包み込む圧倒的なマテリアルがオーラとなって炎を形創る。
水の刃で攻撃を繰り出そうとしていた敵の動きが止まった。
「これが守護者か……気に入った! 貴様の身体も心もオレに捧げさせる!」
「そんな台詞は勝ってから言いなよ」
法術刀を高々と掲げるとアルトはマテリアルを放つ。
大精霊が司る『勇気』の力を解放。大精霊の強力な加護が包み込んだ。
「これで【強制】は怖くはありませんね」
そう言いながらUiscaが魔導銃を放つ。【強制】による戦線崩壊は最も警戒しなければならないからだ――相手が、万が一でも傲慢であれば。
水属性の力が込められた弾丸は敵を直撃した。弾丸の通りは良いようにも感じられる。
「これならどうだァ!」
シガレットが放ったのは電撃の魔法。
迸った電撃は敵に直撃する直前、何かに弾かれて消滅してしまう。
「通じているようには思えねぇなァ……風は弱点じゃなさそうだぜェ」
「……大地よ、永久不滅の不屈の理りを奏で、その力で我らを守り給え!」
続けて魔法を行使したのはエニアだった。
広範囲を包み込む攻撃魔法であるが、マテリアルを操り、敵だけに効果を限定させる。
「とりあえず今出せる威力で、どれくらい効くかだね~」
行動阻害は与えられていないようだが、ダメージの通りは仲間の攻撃より通りやすいようにも見える。
もっとも、威力の違いというのもあるので、一概には判断できない所ではあるが。
「そんなものでは、このオレに宿る絶対なる身体に傷つけられんぞ」
歪虚が無駄に胸を張ってクルリと回りながら、腕を突きあげる。
いちいち、無駄な動作が多い歪虚だ。
そこを狙って、レベッカが機導砲を放つ。一筋の光が嵐の中を貫いた。
「リアルブルーの言葉で『チュウニビョウカンジャ』っていうんだっけ? アンタみたいな奴のこと」
「それは愚かな人間共が、オレのような力ある者に憧れているだけなのだろう」
レベッカが撃った光は歪虚に直撃するはずだった。
しかし、水の膜のようなものによって弾け飛んでしまう。
「どうやら、何か防御障壁みたいのがあるように感じますね。ホーリーヴェールに似ているような……」
強烈な水刃を、身体を張って受け止めながら錬介が言った。
薄い水の板のようなものが歪虚の周囲を包んでいるように見えるのだ。
「やっぱり、そんな風に見えるよなァ」
シガレットが頷きながら同意する。
「錬介さん、攻撃魔法で確認しましょう。守護者の加護が効いている今が試す機会です」
「分かりました」
二人の詠唱が重なり、歪虚の周囲に漆黒の刃が出現。
幾つも突き刺さるが……そのうちの何本かは水の膜によって弾け飛んでいってしまう。
その様子を確認して機導術の防御障壁にも似ているとレベッカも感じた。
「届いている分もあるみたいだね」
「部位によっては届いている……みたい?」
首を傾げるエニア。
魔法や射撃で届かなかったり、届いたりとこれまで一定の規則性は見当たらない。
一方で、Uiscaが銃弾を変えて撃ったのは有効性であるのが分かっていた。シガレットの銃撃と比べると、水と土の両属性はそれぞれ有効なのかもしれない。
「まだ【懲罰】を使ってこないようだから、ここで試してみるさ」
爽やかに言ってアルトが愛刀を構える。
彼女ほどの実力者になると、自身の攻撃反射が脅威となるからだ。
アルトが攻撃してくるのを歪虚が待っている可能性もある。
「【懲罰】を使ってこれば、傲慢という事は確定なんだが、な」
嵐の中、炎の様なオーラを纏ったアルトが恐ろしい程の残像を残しつつ、歪虚の背面へと回った。
その無防備な背中に刀先を突き立てる。
十分過ぎる手応え。素早く刀を引き【懲罰】に備える。
歪虚はニヤリと笑うと軽く跳躍して甲板の縁へと移動した。
「……なるほど。オレを傲慢であると思っているのか。そうだな、オレは傲慢の中にいるが、傲慢ではない」
ニヤリと笑ったその顔は戦闘にまだ余裕があるようだった。
●海の強欲
「これほどの力の持ち主とは……さぞ、名のある歪虚に違いないと思うのですが」
歪虚が間合いを取ったのもあり、錬介は回復魔法を行使しながら尋ねた。
錬介の台詞が歪虚にとっては心地良かったようで、歪虚は胸に手を当て、もう片方の手を斜め45度で天に向ける。
「その通り。大海原の覇者であるオレの名はティオリオス。偉大なる傲慢の王に仕えし者」
傲慢の王――その言葉に錬介はゴクっと唾を飲み込んだ。
「それは、王直属という事なのですか?」
「直属とかいう生温いものではない。オレの存在は傲慢の王に必要なものだ」
「それは、ミュールちゃんと同様という事?」
Uiscaは傲慢王に最も近いと自称する幼女を思い出していた。
王直属とは違うだろうが、似たようなものがあるかもしれない。
何より、ティオリオスと名乗った歪虚から発せられる負のマテリアルが強大だった。
「ほう、幼き従者を知る者か。言っておくが、同じ立場ではない。偉大なる傲慢の王に同じく仕えるが別次元だ」
とりあえず、傲慢王に近い存在であるのは確かなようだ。
他にも情報が引き出せるかもしれないとシガレットが訊ねる。
「贖罪とか言っていたが、そもそも、エクラ教になんか因縁あるのかァ?」
「ん……ある訳ないだろう。そう言った方がダークヒーローに相応しいと思っての事だ」
無駄に胸を張って応えるティオリオス。
揺れる甲板で体勢を整えるエニアが確かめるように言った。
「ダークヒーローって名乗るってことは、何か正義があるの? 海に何か思い入れでもあるの?」
「話すと長くなる……が、一言で言うと、愚かな人間共によって汚されたこの海をそのままにしておくわけにはいかないという事だ」
その台詞に、レベッカがドンっと強く甲板を踏みしめた。
ビシっと指先をティオリオスへと向ける。
「この海は誰のものでもないんだよ! 歪虚風情が思い上がんなああああつ!!」
「違うな、小娘。この海も、この世界も偉大なる傲慢の王のもの。しかし、汚された海は王に必要ない」
「アンタ……海をなんだと思っているのよ。アンタが海の嘆きの代弁者だってんなら、そこまで言うなら力見せてみなよ!」
強い眼差しを向けるレベッカに対し、ティオリオスはニヤっと笑った。
「今日は素晴らしい日だ。守護者と海を想う者と、出逢えたのだからな。そんなに言うなら良いだろう。見せてやろう」
ティオリオスが腕を回し、ポーズを取りながら叫んだ。
「へ・ん・し・ん!」
直後、全方位に発せられる水色のマテリアルの光。
その光が収縮するようにティオリオスへと包み込む。
「竜鱗のようにみえるが……ドラグーンではなく……竜……いや、強欲――ドラッケン――か」
確りと観察していたアルトが呟く。
ドラグーンと違うのは、ティオリオスの姿がどちらかというとリザードマンに似ており、直立している竜のような姿だ。
「それにこのマテリアルの強大さ……」
「オレは変身するたびにパワーが増す。その変身をもう1回、オレは残している。その意味が分かるか?」
「ちょっと、53がどうのこうの言わないでね!」
慌てるエニアの台詞を無視し、ティオリオスが掲げた両腕をハンター達に向けた。
水の渦や大波などを警戒するハンターもいたが、歪虚の力は想像以上のものになったようだった。
「海の嘆きを子守唄に、沈め!」
直後、甲板上の空間が海水で満たされた。いや、船全体を海水が包んだというべきか。
(なに、これ!)
咄嗟に息を止めるレベッカ。
真っ先に確認したのは頭上。しかし、外が嵐という事もあり、どこまで続いているか目視では確認できなかった。
次に機導浄化術を行使するが……効果は見えない辺り、負のマテリアルの汚染によるものではないようだ。
水に包まれている状況に危機感を持ちつつ、Uiscaは抵抗を増す魔法を唱えた。
(……違う。これは悪い影響を持つものではない?)
所謂、バッドステータスとは違うと分かった。
バッドステータスであれば、抵抗力で跳ね返せるが、そうではないという事は……。
(空間そのものが水に置き換わっているという事ァ)
絶対に煙草に火がつけられない状況でもあるよなとも頭の中でシガレットは思った。
仲間達と連携を取ろうにも声を出せる状況ではないので、目配せするしかない。
(短期決戦です。攻撃を集中しましょう)
そんな思いを込めながら錬介は錬金杖をティオリオスへと向ける。
後衛達の攻撃魔法がティオリオスへと襲い掛かった。
(さっきより、動きが全然違う? それに、あの障壁も!)
口を押えながらエニアが目を丸くした。
ティオリオスの動きが先程よりも早くなっているように見えたからだ。
(水中戦闘になろうが、ヤル事は変わらない!)
アルトがマテリアルのオーラを全身から噴き出しながらティオリオスへと接近する。
相手が傲慢でないと分かった以上は全力で攻撃を当てるだけだ。
(く……水の中だと足が封じられる、か)
水中での動きはどうしても地上と違って鈍くなってしまう。
敵の側面や背後に回るのは無理のようで、正面からアルトは法術刀を振るった。
「どうした? さっきまでの威勢が感じられないぞ。そうか、死の恐怖に怯え始めたか」
ハンター達は声が出せないのに、ティオリオスは何も変わっていない。
むしろ、水の中で生き生きとしているようにも感じられる。
(このっ!)
アルトの刀は届いているが、無尽蔵に出現する水の障壁によって有効打になっていない。
水の障壁は攻撃を受けるとその部位が消滅する代わりに、攻撃自体も無力化してしまうようだった。
消滅した部位はティオリオスが意図的に作り直すようだが、水の中であれば、無尽蔵に水があるようで、複数人が同じ部位を狙わないとダメージの通りが悪い。
「終わりだな。人間共にしては、まぁ、良く戦った方だぞ」
上から目線で告げるティオリオスの宣言通り、ハンター達は全員が息継ぎできず、気を失ったようだった。
覚醒者であっても“生き物”である以上、この結果は必然だろう。
「さて、まずは守護者を頂くか……あの絶大なる力。大海原の覇者であるオレが、ん?」
気絶したアルトを引き寄せようと腕を伸ばした時だった。
巨大な三角波が船に被せるように襲って来たのだ。
それはハンター達が浮かぶ空間を一瞬にして洗い流す。
「…………運が尽きてはいなかったようだな、人間共」
背中に畳んでいたヒレのような翼を広げると、ティオリオスは嵐の中、飛び去っていったのであった。
ハンター達の活躍により、嵐の中、現れた歪虚の情報を多く得る事が出来た。
また、水兵らの必死の救助活動により、海の中に落とされたハンターらは全員、引き揚げられ、帰還したのであった。
おしまい
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 8人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
- 茨の王
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/02 13:34:45 |
|
![]() |
相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/02/07 02:44:03 |