• 陶曲

【陶曲】その手を貸して

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2019/02/10 19:00
完成日
2019/02/15 01:25

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ペリニョン村。


 英霊ぴょこの祠の前にもこんと、土の大山が出来ている。
 いや、よく見たら大山ではなかった。大地の精霊もぐやんだった。
 季節にふさわしい水仙の花を頭に咲かせた彼は、ぴょこと話をしている。

『――というわけでなあ、自由都市同盟界隈は大変なんだんべ。おらたち地の眷属はアメンスィさまのために力を尽くす所存だども、それだけでは心もとねえかなあとも思うべよ。なにしろ同時期に傲慢王、怠惰王、おまけに邪神なんちゅうものもわいてきとるらしいでなあ……』

 正直戦力が足りないと思う。だから同盟界隈に住んでいる精霊はその由来、属性を越えて力を貸してほしい――という意味のことをもぐやんは、のんびりした口調で切々とぴょこに訴えた。
 それに対しぴょこはシンプルに賛同の意を示した。

『うむ、よいぞ! ペリニョン村を守るついでに力を貸すのじゃ、のじゃ!』
 
 生前も現在もソルジャー一直線な彼女には願ったりかなったり、渡りに船なお誘いである。
 もぐやんは大きな顔の小さな目を細めて喜んだ。

『おお、ありがてえ。感謝するべ』

 そのまま巨体を地面に沈めていく。が、すぐにまた出てくる。

『あ、そうだべ。ぴょこどんに頼みたいことあったんだべ』

『なんじゃな?』

『ぴょこどんは、まごいどんという英霊を知ってるべ?』

『うむ、知っておるぞ』

『仲良しだべ?』

『うむ、前は全然そうではなかったが、今はそうでもないのう』

『それなら、まごいどんにもこの話を伝えてくれねえべか。本当はおらが直に会うて話したらええんだが、まごいどんのおるところは海の向こうだべ? おら泳げねえだでなあ、とてもそこまで行くことが出来ねえべよ』

『そうか。あい分かった。伝えておくのじゃ』



●ハンターオフィス・ジェオルジ支局。



 マリーは集まってきている依頼を整理した後、壁にかかっているカレンダーを見た。
 何度も指折り数えて顔をしかめる。それから同僚のジュアンに言う。

「……ねえジュアン、4月にアレックスと結婚するんだったわね?」

「そうだよー」

「……それ、来年に延ばせない?」

「やだよ。なんでだよ。人の幸せにどういう趣旨で文句つけてるのさ」

「いや、別にジュアンの幸せに文句があるわけじゃないのよ。ただ」

「ただ?」

「カチャの方も春あたりに結婚するらしいのよ。祝い事が続くと出費重なるなって思ってね」

 そこにコボちゃんが入ってきた。マリーを指さして、一言。

「けち」

「三食昼寝付きの居候にそういうことは言われたくないわね」

 マリーから睨まれたコボちゃんはふふふんと鼻を鳴らし、胸を反る。

「こぼ、いそーろ、ちがう。しきょくのますこーと。こうしきますこーと。そしてうにぞんしーぜんたいし」

「は? ユニゾン親善大使? いつからそんなもんになったのよ」

「さいきん。とにかく、もうさんじ。おやつよこせ。けち」

「黙りなさい。入るときはマットでちゃんと足を拭いて。おやつはそれからよ。全く、口ばっかり達者になって」

 そこでジュアンもカレンダーを見上げ、眉をひそめる。

「そういえば、オフィスの次期総長は誰になるんだろうね」

「え? ジュアン、ナディア総長が死ぬと思ってるの?」

「いや、そこまでは――だけど、この先邪神が倒されたとしても――これまで通りにやれるのか疑問じゃないかなって。交替が必要な時期に来てるんじゃないかと思う。私的な意見だけどね」

「……あんた、意外にシビアなのね」

「そう?」

「うん。総長がいないハンターオフィスって、私にはちょっと想像つかないわ。ていうか、あの人以外に適当なまとめ役っているかしら」

 コボちゃんが焦れて地団駄を踏み、吠えた。

「おやーつう!」



●魔術師協会



 スペットは結界つきのケースをのぞき込む。
 中にあるのはオートマトンの腕。
 皮膚はない。金属部品とコードが剥き出しになっている。指は何かを掴もうとするかのように曲がったまま。

「切断部分がえらい変形しとるで。ものごっつい力でもぎ取られてんなあ」

 しげしげと腕を観察した彼は、脇にいる人物に顔を向けた。

「しかしなあタモンはん、せっかく呼んでもろうてなんやけど、これはちょっと分からんわ。一般労働用なのか、特殊作業用なのか、戦闘用なのか。部品、ごっちゃになってるさかいな」

「ごっちゃ?」

「寄せ集めのパーツで作られてんねん。言わば自作オートマトンや。せやからこれ見ただけでは、性能とかについてはまるきり見当がつかん。聞いた話から推測するに、戦闘用オートマトンの要素が大やとは思うけど」

「そうなんですか……」

「そもそもなあ、俺オートマトンにはそんな詳しうないで。ユニオンでは禁制品やったんやから。ハンターオフィスに言うて、トマーゾに連絡つけてもろたらどないや?」

 スペットの提案にタモンは、横方向の首振りで返す。

「それが出来れば言うことはないですけど、とてもそんな余裕は。邪神への対策で手一杯ですよ」

「邪神て、リアルブルーの大精霊が地球と一緒に凍結封印したて言うてなかったか?」

「はい。ですがあれは、永久的に効果が続くものでないんだそうです。遅かれ早かれいずれは溶かされてしまう、と。ナディア総長も昏睡状態が続いていて……場合によっては……」

「死ぬんか?」

「はい。そうならないで欲しいのは山々なのですが」

「なんや、俺が刑務所で岩塩掘ってる間に、色々どえらいことになってんねんな」

「なってますね」

「刑期があける前に世界滅亡とか、勘弁してほしいねんけどな。俺、ペリニョン村に移住するちゅうことにしてんねんから。ブルーチャーかて出所したらもっぺん会社立ち上げるて言うてんねんで」

「私だって勘弁して欲しいですよ。もうそろそろ昇進したっていい時期なんですから。世界が終わるまでヒラだったなんて真っ平です――」

 憤懣やる形無しに愚痴るタモンは、直後身をすくめた。
 結界から火花が上がったのだ。腕の指が一瞬ぴくっと、微かに動く。

「なんや、こいつまだ力が残ってんのんか」

「のようですね。負のマテリアルがとれていないことは分かっていたのですが……いや、すごい執念です。心底人間を憎んでいるんでしょうが、それにしても……」

 しばし思索に耽ったタモンは、スペットに聞いた。

「オートマトンは人間に害をなさないよう作られていたんですよね?」

「そら、もちろん。そのための安全回路が組み込まれとる」

「しかし戦闘用オートマトンもいるわけですよね?」

「ああ、おったなあ。ぎょうさんと。うち以外のどこでも」

「それらには、安全回路が組み込まれてないわけですか?」

「いいや。組み込まれてるはずや。人間を襲うことだけはせんように。まあそれでも結局は暴走してもうたわけやけど……」








リプレイ本文

●腕についての考察



 一度動きを見せた機械の腕はすぐ動かなくなった。結界に連動しているマテリアル感知器の値が0になる。
 そこに軽快な足音。
 扉がバンと開き、ディーナ・フェルミ(ka5843)が顔を出す。
 スペットの姿を見るや駆け寄り、頬をスリスリ。何を隠そう彼女は無類の猫好きだ。

「猫さん久しぶりなの、元気だったの~」

「猫ちゃう言うてるやろ」

 肉球ではない手で頭をペイとはたかれ、ハの字眉で我に返る。

「……あ。ごめんなさい失礼したの」

 はたかれた箇所を撫でながら閉じ込められている腕に、穏やかならぬ視線を注ぐ。

「腕から負のマテリアルを感じるなら、中に捩子歪虚かそれに類する歪虚が居る可能性が高いの。ここは歪虚自体を検証する場所じゃないの、浄化を強く勧めるの」

 そのいきなりの提案に、タモンが慌てた。

「い、いや、それは困ります。出来る限り解析するということで預かっている品ですから。浄化するには、もう少しデータを取ってからでないと。負のマテリアルと言っても、点滅を繰り返しているような状態ですし、それほどの危険はないかと思われますが……」

 確かに今、負の気配は感じられない。しかし油断はならないとディーナは思う。
 彼女はこの腕を持っていたオートマトンの素性を、大方見抜いていた。
 あの特徴的な口調は以前モンキチ、現在サイゴンと名乗っている嫉妬の雑魔そっくりだった。もとになっているのは、多分、歪虚王ラルヴァが選んだ、人の廃棄物。
 ――そんな話をしているところに、天竜寺 舞(ka0377)が入ってきた。スペットのムショ友であるブルーチャを伴って。それから、百鬼 一夏(ka7308)も。
 ディーナ同様彼女らも、腕の様子を確認しに来たのだ。どうしても気になって。
 舞はまずブルーチャーに尋ねる。腕を指さして。

「これのこと、なんかわかんない?」

 ブルーチャーはお手上げのポーズを取った。

「無茶言わんでくだせえよ。オートマトンなんて、わしの知識の守備範囲超えた代物ですぜ?」

 そのやり取りを見た一夏はタモンに、やはりトマーゾに連絡をつけるべきではと進言する。

「敵は寄せ集めのパーツで自作オートマトンを作れる上に、安全回路を無効化する方法を知っているんですよ。今後人間を憎むように作り変えられたオートマトンが、一般人を盾にした戦法を使ってくる危険性があります!」

 ディーナも重ねて危険性を指摘する。彼女は安全回路について、一夏と異なる見解を持っていた。

「物には想いが宿るの。清浄ならいつしか精霊となり、不浄なら歪虚となる――ただの物になってしまえば歪虚が動かすなら、動力回路に安全のための防御機構を組み込もうが働かない、それだけの話だと思うの」

 舞が再びブルーチャーに尋ねた。

「サイゴンのベースになった玩具、おっさんが作ったらしいじゃん。制作時、何処か構造的に強度の弱い部分とかなかった? 或いは変形中でもいいよ。見た限りモンキチのCAMみたいなバリアはなかったし」

 ブルーチャーは考え込む。

「強度の弱い部分ですかい? うーん……多少乱暴に扱われてもいいように作りましたからねえ……特に弱い箇所なんかは……うーん……」

 そこにバーンという効果音を付け現れたのが、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。

「話は色々聞かせて貰っちゃいました、私もマゴイさんを説得するのに、協力させて貰います!」

 まだ話されていないことを何故か彼女は知っているようだ。

「……所でサイゴンって何ですか?……ベトナム??」

 しかし話されていることについては全然知らないらしい。
 不意にブルーチャーが、自身の禿げ頭をぴしりと叩いた。

「ああ、思い出しましたぜ。確かあのおもちゃ、防水加工してなかったんでさあ」


 ひとまず腕は、今後二重に結界を施すとされた。


●マゴイさん聞いて



 ユニゾン島。港湾。

(……そう言えばこの英霊とは初対面だったかしら?)

 マリィア・バルデス(ka5848)は、白のシルクスカーフを肩にかけたマゴイをしげしげ眺めてから、最近発行された恋愛本を広げて見せた。
 彼女に連れられてきたコボちゃんは、仲間と一緒にルベーノ・バルバライン(ka6752)から貰った、ドッグフードの試食中。
 マルカ・アニチキン(ka2542)はその近くで、ノーチソーンを吹いている。その妙なる調べが気に入ったのか人魚たちが集まり、曲に合わせ歌っている。

「これってここのコボルド達のことよね? 嫁取りに協力してあげないの? コボルドならワーカーとして働く資質は充分なんでしょう? それとももうウテルスでコボルド達が産まれるようになったのかしら」

 マリィアの質問にマゴイが答える。一つ一つゆっくりと。

『……それは嫁取りなどという不道徳な風習ではなくて……共同体への勧誘……そこのところ間違いのないよう……該当者が勧誘に応じ市民候補者となるならもちろん歓迎する……コボルドという種族は共同体社会への適合性が高いものが多いので……すぐにでも市民生活が営めると思われる……そしてウテルスの稼働はまだ……生殖細胞の採取が終わっていないので……』

 マリィアは、マゴイがコボルドを高く評価していることを好ましく思った。彼らの生活向上を願う立場から。
 島にいる群れのほかにも穏やかなコボルドたちはいること、そして帝国にコボルド型をした花の妖精がいることなどを、彼女に教えてやる。

『……それは是非……一度ユニゾン見学をしてもらいたい……』

 とマゴイが呟いたところで、ぴょこが本題を切り出した。

『のうマゴイよ、今同盟、強くて悪い歪虚に狙われておるそうなのじゃ。そんでもって、そいつをやっつける人手が足りんそうなのじゃ。じゃからしてわし、村を守るついでに手を貸すことにしたのじゃ。おぬしも是非、そうしてくれんかの?』

『それは出来ない』

 間髪入れぬ即答。
 ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が理由を聞き確かめる。

「何故です?」

『……ユニオン法は……他の主権国と軍事同盟を組むことも……軍事行動を行うことも……軍事品の共同開発をすることも……禁じている……市民の幸福の観点から……紛争に巻き込まれることは断固拒否……』

(いや、これ紛争とかそういう話じゃないんだけど)

 心の中で反論しながら、舞が話に割り込んだ。

「島の外にここの保養所があるんでしょ? けど世界がダメになったらそこも使えないし再建もまぁ無理だね。そしたらユニオンのシステム的にまずいんじゃないの?」

『…………その場合は……保養所をこちらに転移させる……それなら使用を継続出来る……』

「……いやいやいや、それかなり無理筋じゃない? ていうか、それ以前に世界が滅ぶって時にこの島だけ無事なんて事は考えられない。よしんばユニオンの技術で島民の命は救えたとしても、島を放棄しないといけない可能性の方が高いんじゃない? 市民にとってはそれぞれの故郷の他にユニゾン島って第二の故郷も失う事になる。それは市民の幸福度を著しく下げる事になると思うけどね」

 今は帰れぬ故郷のことが舞の頭をかすめ、表情を曇らせる。
 彼女の言葉を引き継ぐように、小夏が言った。

「マゴイさんが島の人たちを優先したいという思い、適材適所の姿勢。大切な人を守るためにそういう姿勢をとるのは当然だと思います。あっちこっち手を伸ばしたら。自分のすぐ近くが疎かになって、大切なものを失っちゃう。今まではそれでよかったかもしれないけど、たくさんの王が動いていて、今手を伸ばさなきゃ全部失っちゃうんです」

 ルンルンがその援護射撃を行う。

「世界が滅ぼされちゃったら、ユニオンの人々やその理念だって無くなってしまいますよ。せっかく再建したのに。それを守る為にも、有事の際には力を貸して欲しいんです。エバーグリーンの様な出来事はもう絶対繰り返したくないから……。私達も前にユニオン市民の視察の付き添い手伝って上げたじゃ無いですか、こういうのを餅ついた胃もたれって言うんですよ」

 スペットが突っ込んだ。

「『持ちつ持たれつ』ちゃうんかい」

 続いてツィスカが畳み掛ける。しかとマゴイの目を見て。

「マゴイさん、小夏さんがおっしゃられたように、王と称される強力な歪虚が動いています。そして多数のハンターたちが、それと戦っています。彼らは確かに強い。ですが決して万能の存在ではありません。人間なんです。衣食住がなければ生活出来ず、命を保つことが出来ないのです。その衣食住を作り出す存在が無辜の民なのです。民なくばどんな勇者も、どんな国も、立つことは出来ない。文明や社会が危機に晒されれば、世界中の縁が断たれ、民達にとっての故郷が失われる――そして、民そのものも失われる。エバーグリーンやリアルブルーの二の舞になりかねない。今は生きとし生ける者全てが、己に出来得る事を以って闘わねばならないのです」

 三者三様、筋の通った言い分である。
 だがマゴイは首を縦にしない。かたくなに『……軍事協力は出来ない……』と繰り返す。場は一種膠着状態に陥った。
 そこで折よく、昼休みを告げるチャイムと放送。

【お昼です、お昼です。市民の皆さん休憩時間です。仕事をやめて休みましょう】

 マゴイは制止を求めるような仕草をして、言った。

『……私も休憩……話の続きは午後から……』

 彼女は場から立ち去る。その背中に舞が言葉を投げかけた。

「帰るべき故郷を失う辛さはあんたが一番よく解ってる筈だよ――あたしも分かってるつもりだ。もしかしたらリアルブルーも、いつそうなるかもしれないしね……」

 それは偽らざる彼女の本心であった。



●君に届け



 マゴイは山の上にある水源地に来た。
 滔々と水を吐き出す四角柱を、憂しげに眺める。
 そこにルベーノがやってきた。

「μ。休憩時間に悪いが、話をしてもいいか?」

『……いいわ……』

 マルカは2人を柱の陰から見守っている。隠の徒を使い、気配を殺して。
 口中がねっとりした甘さで満たされている。先程食べたチョコレートのせいだ。
 体が汗だくになっている。リーフフィッシュを着込んでいるせいだ。
 マゴイが協力を拒んでいることについて、彼女は特に咎めるつもりはない。マゴイさんにはマゴイさんの立場というものがあるし拒否権もあるのだから、と。

(ですけど、それでも、ここまで築き上げた島を壊されるなんて、マゴイさんもそうでしょうが、私たちもウンザリです……)

 恐らくルベーノさんはマゴイさんに、戦いに関わらず、平和に暮らしてほしいと思っているのだろう。話をするとしたら、そういう路線だろうと予測しつつ耳を傾け、言葉を拾う。

「――コボルドもソルジャーも今のユニゾンは皆外から集まった者ばかりだ。箱庭を息苦しく感じる者は多いが、その安寧を求める者もまた皆無ではない――負のマテリアルが満ちれば人は死ぬ。ウテルスも無事で済まないのは過去で追体験した。保養所のある同盟が落ちればここが落ちるのも遠くなかろう」

『……その可能性が大きいことは私も理解している……けれど……軍事的協力は出来ない……絶対に……私は市民を守ると同時にユニオン法を守らなければならない……法が守られてこそのユニオンなのだから……』

 持論を譲らない彼女にルベーノは、別の角度から切り込んだ。

「では、軍事的でない協力ならかまわないか?」

 マゴイは不意を突かれたような顔をした、それから、ほっとした口調で言った。

『……それなら……理念に反しないので可能……細かいところはこれから法整備しないといけないだろうけど……』

 その返答を受けてルベーノは笑みを見せた。
 マゴイの体に手を回す。感触があった。力を込めれば霧散してしまいそうなか細い感触。

「お前を1人にしたくない。ウテルスで命を生み出せるようになっても、世界から命を生み出す力が喪われれば全てが終わってしまう。ユニオンでの呼び方は分からんが……俺はお前を特別大事な相手だと思っているぞ、μ」

 ルベーノの言葉を受けてマゴイは彼女の中にある語彙のうちで、相手に対する親愛の情を最も表す言葉を選んだ。
 そして、それを口にした。

『……私もあなたのことを市民のように思っている……』

 マルカはスターライトロッドを振る。ここはぜひ盛り上げなくてはと。
 使う魔法はスノーホワイトを選択した。今は昼、ワンダーフラッシュでは目立つまいと。
 南国の空を背景に雪が降り始める。それは非現実的にして幻想的な光景であった。



●言質取ったり



 休憩時間の間ディーナはツィスカ、舞、マリィア、一夏、ルンルンを相手に、午後からの説得について話し合っていた。港湾地区のベンチに腰掛けて。

「マゴイさんも、このままではユニゾンが危険なことは、十分認識してると思うの。軍事協力が出来ないなら、それ以外の協力を求めてみればいいんじゃないのかなって思うの。たとえば戦いで被害を受けた一般市民への人道支援とか」

「なるほど。それもまた、民を守る一つの闘い方ではありますね」

「軍事協力が今一番欲しいんだけど」

「ところであの人、どういう能力を持ってるの? 私はいまいち詳しくないのだけど」

「えーと、空間を広げたり縮めたり……」

「閉じ込めた歪虚を圧縮したり」

 その傍らで、ぴょこがスペットの袖を引く。

『のう、β、β』

「なんや、θ」

『うむ、気づいたらマルカとルベーノがおらぬ』

「なんやて? どこ行ったんや」

 噂をすればというか、マルカが帰ってきた。
 ツィスカが聞く。

「どこに行かれていたんですか?」

「ええ、ちょっとその、お手洗いに」

 続けてルベーノが戻ってきた。両手に一杯南国フルーツを抱えて。

「暇があるならと思ってな。土産を摘んでいたのだ」

 それからしばらくして、休憩時間終了のアナウンス。マゴイが戻ってきた。
 早速のことディーナは、再度の説得を試みた。

「マゴイさん、世界が歪虚に蹂躙されたらここも負のマテリアルが満ちるの。せっかく稼働させたウテルスも動かなくなるの。簡易住宅とか避難民受入れとか、力を貸してほしいの」

 ルベーノがそれに口添えする。

「ここには空間拡張技術が、避難民が休める衣食住を与えられる技術がある。戦争が激化したら、この国の技術で人類を助けてくれないか」

 マゴイは承諾の意を示した。

『……それなら……出来る……』

『おお、そうか。協力してくれるのじゃな。ありがたいぞマゴイ。ありがたいぞ』

 ぴょこは彼女の周囲を跳ね回った。うれしそうに。
 帰り際マリィアは、ソルジャーのアスカとジグに声をかけていく。

「強欲が人の来ない土地に歪虚門を立てて進軍を開始したようよ。この前南方大陸でも見つかったみたい。貴方達も見回り頑張ってね」

「そうなのか。まあ、頑張るよ。出来る限りは」

「南方大陸に行くことがあるかわかんないけどね」


依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 18
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキンka2542
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752

重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
マルカ・アニチキン(ka2542
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/02/10 12:37:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/08 21:28:08
アイコン 質問卓だよ。
天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/02/04 22:09:02