• 陶曲

【陶曲】求めよ、さらば与えられん・1

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/02/12 07:30
完成日
2019/02/23 02:24

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 同盟の首都、極彩色の街ヴァリオス。
 同盟軍の本部もこの街にある。
 その建物の奥、特別な職種の者しか立ち入ることも許されない場所に、ひとりの老人の姿があった。
 同盟軍名誉大将イザイア・バッシ(kz0104)は椅子に深く掛け、険しい顔で正面を見据える。
「やはり会おう」
 名誉大将の前には小さなガラス窓がある。
 窓の向こうには、多少やつれてはいるものの、立派な髭をたくわえた眼光鋭い男がいた。
「閣下、現在大佐は取り調べ中です。大佐の発言はすべて軍法会議の資料となります。閣下がお会いになれば、それも記録に残ります」
 名誉大将の傍で直立不動の体勢のまま、淡々と述べたのは情報部所属のマヌエル・フィンツィ少佐。
「ワシとて無関係とも言い切れん。いずれにせよ証人としての出廷は免れんだろう」
「そうお思いなら、尚更お止め下さい。我々の目的には、閣下が必要です」
 名誉大将は深いため息をつく。
「我々の目的、か……。貴官はこの老いぼれがまだ役に立つと考えておるのか」
「勿論です。他の誰に代わりが務まりましょう」
「では貴官が聴取の仔細を確認し、後に報告せよ」
「はっ」
 杖をついて隠し部屋から立ち去る名誉大将を、フィンツィは敬礼で見送った。

 それから少し後、フィンツィは必要な手続きを経て、目的の部屋の前にいた。
 護衛の兵士のボディチェックを受け、丸腰で取調室に入る。
 背中を向けて座っているのは、かつてポルトワールの同盟陸軍で治安維持部隊を率いていたネスタ大佐だ。
 取調官がフィンツィに目礼する。
 彼の後ろにある窓には鉄格子がはまり、分厚い木の板で目張りがしてあった。
「それで、貴官はどこでその商人と知り合ったのかね」
 ネスタは堂々と椅子に掛け、前を見つめたまま質問に答えない。ずっとこの調子だという。
 フィンツィは隅に置いてあった小さな丸椅子に腰かける。
 ――その直後だった。強烈な光が部屋に弾ける。
 フィンツィは咄嗟に丸椅子を持ち上げ、目を庇うと共に次の事態に備える。
 だが視覚が戻るより先に、激痛が半身を襲う。
 床に転がり、薄眼を開いたフィンツィは、先ほどの兵士が誰かを伴って部屋に入ってくるのを認めた。
「大佐、ご無事ですか」
 低い声が呼び掛ける。
「何者だ?」
 ネスタの掠れた声。
「このまま貴方の志が費えることを憂う者です。さあ、一緒に来てください」
「待て……!」
 フィンツィは声を上げる。いや、上げたつもりだ。
 だが実際は床に倒れ、瞼を開けることすらできないまま、遠ざかる足音をただ聞いていただけだった。


 集まったハンター達を前に、メリンダ・ドナーティ中尉(kz0041)は以上の経緯を説明した。
「これが一昨日の出来事です。そして今日、ネスタ大佐らしき人物によって、ポルトワール近郊の陸軍駐屯地が占拠されたとの情報が入りました」
 依頼を受けて参加したアスタリスク(kz0234)には、どうにも腑に落ちなかった。
 迷った後に、話の区切りを待って質問する。
「中尉を疑うわけではありませんが、何故同盟軍はそのような内部事情を我々に開示する気になったのですか?」
 メリンダは表の顔である、穏やかな笑みを浮かべる。
「ハンターの皆様は軍属ではありません。命令で動かすことはできませんから、信頼関係で動いていただくべきでしょう」
「と、中尉が他を説き伏せたという訳です」
 軍服の上着をひっかけた姿でフィンツィ少佐が付け加えた。
 取調室の件で、丸腰の所を不意に襲撃されたフィンツィはギブスまみれで顔色も悪く、まだ自力で歩くには数日かかりそうな様子だ。
 彼が覚醒者でなければ、確実に死んでいただろう。椅子のお陰で頭部が守られたのも幸いだった。
 メリンダはフィンツィの言葉が聞こえなかったかのように、説明を続けた。

 現在、駐屯地とは連絡が途絶えている。
 隙を見て逃げ出した兵士のひとりがネスタ大佐の関わりを伝えたが、彼の言うことを鵜呑みにしていいのか分からないでいた。
 というのは、その説明があまりにも突飛だったからだ。
「大佐は左遷され、この駐屯地でやり直すことになったとおっしゃって。全身黒いマントで覆われた、まったくしゃべらない3人の兵士を伴っていました。その直後に近くの村に歪虚が現れて我々も大佐とその兵士のうち2人と出動したのですが、3人だけであっという間に歪虚を倒してしまったんです。信じられません。ものすごい手練れです。でもなんだか、大佐は人が変わられたようで……それになぜか通信機が全く使えなくて……どうやって歪虚の襲撃を知ったのか……」
 そこで兵士たちは話し合い、通信手段の回復と大佐の赴任の確認のため、ひとりを連絡役として送り出したということらしい。
 大佐は覚醒者ではない。兵士2人「と」一緒に戦ったのを彼が見たのなら、一般人にしては強すぎる。

「ともかく、その駐屯地との連絡が取れないこと、近くの村に出た歪虚を陸軍が対応したことまでは確認できました」
 そこで今回はハンターに駐屯地の様子を確認してほしい、との依頼が出されたのだ。
「そしてもし大佐が本当にそこにいるか、確認していただきたいのです」
 メリンダはハンターひとりひとりの顔を見渡し、最後に頭を下げた。

リプレイ本文


 説明を聞き終えたヴァージル・チェンバレン(ka1989)が、自分の考えを整理するように呟く。
「前には大佐の口封じを試みた者がいたな……今回は連れ去り、そして立て籠もりか。目的はなんだろうな?」
「以前と同じ犯人かどうかもわからない状況です」
 メリンダの表情は硬い。
「まあそうだな。連れて行ったなら、今回は少なくとも口封じではないんだろう」
 ただ大佐が『無事』かは分からない。
 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が、眉を寄せる。
「ネスタくん……軍の仲間の為にっテ言ってた。今の状況ハ、とってもヘンダヨ」
 手段はともかく、ネスタ大佐は『一般兵士を無駄に死なせたくない』と考えていた。
 パトリシアは脱出してきた兵士の言葉を、そのまま信じていいのかも迷う。
(嘘じゃないケド、ほんとのコト、見えてたかもわからないヨネ)
 だが取調室から大佐が消えたことは事実だった。
「とにかく、同盟では大きな戦いがおきてるカラ。軍が動くべきか、確認ネ?」
 メリンダが頷く。
「いずれにせよ動くことにはなりますが、駐屯地の兵士の無事を確認したいのです」
 マチルダ・スカルラッティ(ka4172)はメリンダを正面から見据える。
「見てくるだけでいいの? 大佐放り出せたら捕縛する? なんか放っておくと、また其処に戻りそうだし」
「現地の状況を把握、無理がなければ拘束という順序になります。分からないことが多すぎますので」
「ん、そうだね。まずは探りを入れないとね」
 軍がハンターに調査を任せるということは、力押しを適切ではないと判断したのだ。少なくとも、今のところは。

 パトリシアは部屋の隅のフィンツィに声をかけた。
「……お怪我、痛そう……お大事に、ネ」
 何があっても動じないフィンツィが、僅かに目を見開いた。
 だがすぐにいつもの微笑に戻る。
「お気遣い有難うございます。何か私にもご質問が?」
「んとね。……お話聞いた感じ、『めくらまし』の後に攻撃が……どんな攻撃? 他の人も『同時』に攻撃されたカナ」
「そうですね、恐らくは範囲攻撃。それも敵味方を選べる類のものでしょう」
 フィンツィが現場の見取り図を示しながら、説明する。
「使われたのはおそらく閃光弾でしょう。仮に閃光と攻撃が同時なら対処の暇もありませんから、私もこの程度では済まなかったはずです」
 フィンツィは取調官について詳しく語らなかった。それが不幸な彼の運命を物語っている。
 マチルダが続く。
「私からもいいかな。大佐と見張りの兵士は、初対面っぽい感じだったんだよね。歪虚じゃなかったの?」
「私はボディチェックも受けています。歪虚とそこまで接近すれば、一般人でも何か違和感を覚えるでしょう」
「じゃあもうひとつ。大佐の事件は、軍の中ではどんな風に周知されてるの? そんな偉い人が逮捕されたら、けっこう噂になりそうだけど」
「事実を知る者は限られています。噂としては、商人とつるんで物資の横流しをしていた、という形で広まっているでしょうね」
 他でもない、フィンツィ達がそういう形で広めたのだろう。半分は嘘ではないのがミソだ。

 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、いつもの明るさに似合わない難しい顔をしていた。
「急に強くなったネスタ大佐……果たして本人なのかな? 本人なら、なんかまずい物と取引しちゃってる気が……」
 その呟きに、部屋の空気が重くなる。
 ネスタ大佐は一般人だった。情報の通り『歪虚を蹴散らす』程の戦闘力があるとは考えにくい。
 ならば考えられるのは、ネスタ大佐の振りをした『何か』がいるか、ネスタ大佐が『何か』になってしまった可能性。
「さて、変わったのか、替わったのか」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)にも覚えがある。
 命の選択は重い。それを命じる立場なら猶更だ。
(確かにどこか、壊れるのかもね)
 ――変わってもおかしくないほどに。
 ひとつ頭を振って、資料に目を落とす。
 万歳丸(ka5665)は元のネスタ大佐に直接会ったことはない。
(軍人を守る気骨はあったハズの男が……ってか)
 だが資料と他のメンバーの様子から、なんとなく人となりが分かって来た。
(それほどまでに求めたかったのがなにかって思うと、ちィと、な……)
 とはいえ、今のところ彼がおかしな動きをしているのは事実だ。
「大佐をかっさらった奴の身元はわかってンのか?」
「ええ、そもそもあの任務に就く兵士は、身元がしっかりしたものに限られますので」
 メリンダの答えに、ヴァージルが嘆息する。
「なら、そいつから黒幕を探るのも無理ということか」
「まあ取り調べに、大佐の色がついた奴はつかわねェだろうな。で、襲撃の様子から、普通の奴がやったとは思えねェ」
 万歳丸が太い腕を組み、天井を仰いだ。
「なあ、大佐が歪虚に与しているのなら、『歪虚の被害を解決した』ってのすら自作自演できるンじゃねェか?」
 それまで黙っていたアスタリスクが、険しい表情で口を挟む。
「もし対処したのが本当に大佐自身なら、尚更急いで身柄を確保する必要がありますね。全てが有耶無耶になります」
「急がないとって、どういうことかな」
 マチルダにはおよその予測がついたような気がした。
 だが、敢えて尋ねる。互いの認識がすれ違わないように。
「非覚醒者では契約者としてあまり長くはもたないということです」
 アスタリスクの口元は、自嘲気味の笑みを浮かべているように思われた。
 また一段と、部屋の空気が重くなったようだ。


 基地から脱出したロペスという兵士が、部屋に呼ばれる。
 ハンターを前に堰を切ったように話し始めた。
「お願いです、急いでください。それと自分も連れていってください!」
 カーミンは落ち着くように言って、座らせる。
「順を追って説明してちょうだい。出来ることは協力するわ」
 ハンター達は順にロペスに語り掛け、どうにか状況を理解した。
 ネスタ大佐達がやってきた日、その異様さと急に通じなくなった通信を不審に思い、通信兵のロペスが外部への連絡役として送り出されたこと。
 だがネスタ大佐がその気になれば、点呼という形でロペスがいなくなったことを知るだろうこと。
 2日程度なら交替の都合などで言い訳がつくので、今からでも戻って、仲間の危険を減らしたいこと。
 マチルダが更に尋ねる。
「黒くて無口って、人形や機械ではないよね? 何をしてたの? それから何をさせられそうだったの?」
「わかりません。ただひとりはすぐに会議室に入り、他の2人と大佐は出動時以外は司令室に籠っていました」
 何人か気分が悪いと訴える者はいたらしい。
 大佐は管轄地の巡回こそ中止させたが、他はいつもの通りに駐屯地で勤務するように命じたという。
 当然、脱出してから後の事はロペスが知る由もない。
「大佐って、どんな風に変わったのカナ」
 パトリシアは、その変化が残された兵士たちにも及ぶことを懸念する。
 ロペスが驚いたことに、大佐は軍服を着崩し、長靴は汚れたまま。
 髪も髭も乱れ、異様に目を光らせた姿は獣じみており、まるきり別人だという。
「そっか。色々アリガトね。もちょっとダケお願いしてもいい?」
 駐屯地の見取り図や付近の地図を書いてもらい、すぐに戻ると説得し、ロペスをどうにかなだめる。
「でしたらこれを。私の身分証と裏口の鍵です」
「借りるわね。中尉、同盟軍の制服を借りることはできるかしら?」
 メリンダが女性用の作業服を調達してくれることになった。


 駐屯地が見えるぎりぎりの場所で、それぞれが役割に応じて別れる。
「小さな駐屯地だな。ここを起点に、何か目的があるのか……歪虚退治にしてもそうだな」
 ヴァージルは大佐の目的がどこにあるのかを考える。
 メリンダが調べた限りでは、力を持つ精霊や歪虚の話などもなく、駐屯地にも村にも特筆すべき点はないという。
「退治したかったのでは?」
「なんだって?」
 アスタリスクの呟きに、ヴァージルが若干気の抜けたような声を漏らした。
「少なくとも大佐については、動機は単純に思えます」
「それを利用した奴がいるということか」
「可能性はあるでしょうね。思い込みはいけませんが。……では私はここで待機します」
「じゃあ行ってくるね」
 マチルダとヴァージルが、堂々と駐屯地に向かって歩き出した。ふたりは正面から呼びかける。
 アスタリスクは駐屯地から見える位置で周囲の警戒にあたることになっていた。
 いざという場合の連絡役でもあるが、仲間と通常の方法での連絡は無理だ。
「まさにお守りですね」
 襟に仕込んだ口伝符を、そっと押さえる。

 口伝符は出発前に、ルンルンが全員に配った。
「ダメ元ですけど、ルンルン忍法ニンジャテレカ!! 1回だけですけど、相手以外の人には聞こえません」
 本当に使えるかどうかはぶっつけ本番だ。符の数にも限りがあり、いざ使ってみて無理と分かっても皆に伝える手段はない。
 ルンルン、カーミン、パトリシアは駐屯地の裏側へ向かう。
「ルンルン忍法分身の術!!」
 裏門の鉄扉の隙間から式符を送り込み、内部の様子を窺う。
 扉の向こう側はがらんとした空間で、誰もいない。
 ルンルンはあっという間に塀を乗り越え、内部から鉄扉を開放した。
「大丈夫みたいですっ」
「んではドーンといくんダヨ~!」
 魔法の箒に跨ったパトリシアが、風のように門をすり抜け、真っすぐ裏庭を突っ切って建物にたどり着く。
 そこで『生命感知』を使い、内部の様子を探った。
「誰もいナイね。兵士さんたち、どこにいるのカナ?」
 後を追ってきたカーミンは、預かった鍵で裏口を開いた。
「探すしかないわね。できれば出撃の時に残った兵士から話を聞きたいのだけど」
 3人は建物の中に滑り込む。


 ヴァージルは正門で名乗り、脇門から顔をのぞかせる兵士と会話する。
「この近くの村に何か出たとかで連絡もらってね。……え? もう退治した? そいつは早い。悪いが俺達も手ぶらで帰るわけにはいかなくてね、少し話を聞かせてもらえるだろうか?」
「その件でしたらこちらで処理しますので」
「俺達の聞いた話と同じかどうか、村で確認したいんだ。恥ずかしながら急なことで、人数が心許なくてね……。助太刀してもらえんかね」
 兵士は心底困ったという表情で、視線が不安定に彷徨っている。
 マチルダがそこで顔を出した。
「じゃあこちらの通信機を借りられないかな。本部に連絡したいんだけど、急に全部の通信機がだめになっちゃったの。貴方で判断がつかないなら、私たちから偉い人に説明するから」
 これだけ言われれば、何かこちらに訴えたいことがあれば匂わせてくるはずだ。
 だが兵士は汗を拭きながら、ダメだの一点張りである。それでもよく観察すれば、彼が背後を気にしていることがわかる。
(司令室は2階だっけ。窓から監視してるのかな?)
 ならばこちらのことも見えているはずだ。

「もう一押しってトコだな」
 万歳丸は少し離れた丘で、双眼鏡でマチルダとヴァージルの様子を確認する。
 いくらハンターと名乗っても、鬼の姿では目立ちすぎる。そう考え、別行動での支援を準備していたのだ。
「んじゃそろそろ行くか!」
 にやりと笑い、事前に掘っていた穴にマテリアル式手投げ弾「Iron mango」3つを惜しげもなく放り込むと、すぐに耳を塞いで地面に伏せた。
「発破ァァァッ!!!」
 轟音、そして高く上がる土埃。
 この辺りに爆発するタイプの歪虚がいるかは知らないが、異常事態とは認識されるだろう。
「さあ、どう出てくるか。追い掛けっこなら負けないぜ!!」
 魔導ママチャリ「銀嶺」に跨り、不敵な笑みを浮かべる万歳丸。ある意味、「何か出た」感はスゴイ。

 轟音は駐屯地にも届いた。
 パトリシアはきっと楽しそうに「おしごと」している万歳丸を思い浮かべる。
 ルンルンとパトリシアが交互に使う『生命感知』に、生命の反応が固まっている場所がかかった。
 謎の兵士がこもっているという会議室の近くだ。そして会議室には生命の反応がない。
「そこにだれかがいたら、命のない存在ってコトね」
「あ、ひとりが2階から降りてくるみたい。隠れて!」
 それぞれに気配を消し、物陰に潜んだ。長身の『3人』が降りてきた。

 正門ではヴァージルが少し大げさに騒いでいた。
「出やがった! おい、急げ。被害が大きくなる前に対処するんだ!」
 そのとき、駐屯地の正面玄関から見覚えのある男が姿を見せる。
「また会ったな、ハンターの諸君」
「よう。あんただったか。左遷されたって噂に聞いたぞ」
 不敵な笑みを浮かべるのは、ネスタ大佐当人だった。その両脇にひとりずつ、黒ずくめの兵士が付き従う。
(あとひとり、どこにいるのかな。見つからないのかな?)
 マチルダは口伝符でルンルンに知らせる。
 距離が縮まると、3人の『異様さ』は際立っていた。
 だがこの場で仕掛けると、応対の兵士が危ない。ひとまずこの場から引き離す必要があるだろう。
「一緒に来てもらっていい? 歪虚かもしれないから」
「よかろう」
 意外にもあっさりとネスタが承諾した。

 アスタリスクは3人を歪虚だと確信する。
「今のうちに、他の兵士を裏口から脱出させられませんか」
 口伝符に伝えたメッセージは、一方的にルンルンに届くはずだ。

 だがルンルンは唇を噛むしかなかった。
 最後のひとり。『生命感知』にかからない存在。
 そいつが重々しく階段を降りてきた。
 ほかの3人よりは少し小さいが、片手に同盟軍の制服を着た人間をひとり、首の付け根を掴んで、人形のようにぶら下げていた。
(嫌な予想ほど当たるわね)
 カーミンはその腕を切り落とす隙を伺うが、ひとつ間違えば兵士を傷つけてしまう。
 歪虚はゆっくりと正面玄関に向かう。

 ネスタが振り向いた。
「出てきたのか。何のつもりだ」
「あの御方の害になるなら話は別だ」
 地の底から響くような声だった。
 マチルダは密かに眠りの霧を送り込む。距離的には大佐とその脇の2人が精いっぱいというところか。
 大佐の身体がぐらりと揺れるが、脇の兵士がひとり、すぐにその体を支えた。
(効かないの?)
 眠りに誘う霧は、そもそも眠らない存在には効果がない。
(アンデッド、あるいはその仲間ってこと?)
 最後にあらわれたひとりが、これ見よがしにぶら下げた兵士を掲げて見せる。
「引け。中にいる連中もな」


 ネスタ大佐と歪虚たちは、そのまま駐屯地の建物に戻っていった。
 ハンター達は一旦その場を離れるしかなかった。
 駐屯地の兵士はほとんどが騒ぎの間に逃げ出したが、7名の生死が分からない。
 後日、近くの雑木林で、同盟軍の軍服を身につけた男がひとり見つかった。
 薄笑いを張り付けたままこときれた男は、大佐誘拐の際に手引きをした兵士と確認された。
 重苦しい闇は晴れることなく、その濃さを増していく。

<続>

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MVP一覧

  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティka4172
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレン(ka1989
    人間(紅)|45才|男性|闘狩人
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/12 00:52:10
アイコン 相談所
カーミン・S・フィールズ(ka1559
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/02/12 00:57:00