ゲスト
(ka0000)
【王戦】【空の研究】雲織羽衣
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/07 12:00
- 完成日
- 2019/02/18 14:46
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『空の研究所』所長であるアメリア・マティーナ(kz0179)は、海風を感じながら思案の中にいた。黒いローブの裾が風にはためくが、目深にかぶったフードは不思議と外れない。
「ふーむ。どうしましょうかねーえ」
アメリアが思案しているのは、もちろん、空の魔法についてである。彼女にとって、それ以外のことは考えるに値しないと言っても過言ではない。
目の前にあるのは、巨大な船……、フライングシスティーナ号。これを「飛ばす」と言われたときには、さすがのアメリアも驚かずにはいられなかった。が。
「やりがいのある仕事ではありますねーえ」
今アメリアがすべきことはこの船を「浮かす」ことだ。そのためにはまず、この船に「雲を纏わす」魔法をかけなければならない。
「それ自体は特に難しくはありませんが……」
浮く、そして進む、ということを考えると、事はそう単純ではなくなる。
「アメリアさん、皆さんがご到着されました」
王国騎士のノセヤが、アメリアの背中に声をかけた。アメリアをここへ連れてきたのは、このノセヤである。
「ああ、ありがとうございます。皆さん、ご足労をおかけいたしましたねーえ」
アメリアが振り返るとそこには、今回の魔法の成功のために集まってくれたハンターたちがいた。
ハンターたちに、アメリアは「雲を船に纏わせる魔法」について説明を始めた。
「ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが……、霧を纏わせたことは、過去にあるのですよーお。イスルダへ向かう船を、守るためにねーえ」
あのときは、飛ばすことではなく、船を隠すことが目的だったが。
「しかし今回は浮かせることを考えなければなりませんからねーえ、霧ではなく雲を纏わせなければなりません。『戦艦白雲』という魔法がありましてねーえ。まるで戦艦にも見えるほどの雲を発生させる魔法なのですが……、今回はその応用となります」
ふむふむ、と誰よりも熱心に聴いているのは、ノセヤである。まるで取材でもしているがごとく、手帳を広げてメモを取っている。
「この魔法は実はそんなに難しくありません。雲を発生させるだけですからねーえ。しかし、それを船に纏わせる、しかも纏わせた状態で浮かせる、そして進む……、となると、雲を発生させるだけではダメなのです。戦艦白雲級の厚さの雲を、船に纏わせると、どうなるか……、わかる方はいらっしゃいますか?」
アメリアが尋ねた。ノセヤが遠慮がちに挙手する。
「前が、見えなくなる……?」
「はい、それも正解の一つですねーえ。しかし、進行方向にだけ穴を開けておくことは可能ですから、クリアできる問題でもあります。それよりも懸念しなければならないのは……、雨です。厚い雲は雨を降らします。戦艦白雲も、その雲の真下に雨を降らすことを目的に使われることが多いくらいですからねーえ。雨が降ると、雲はどうなりますか?」
「! 雲は、消える……!」
「その通りですねーえ。雲は、消えます。つまり、船に纏わせ続けることができなくなります。……そう、今回の魔法の鍵は『雲の厚さ』ですよーお」
アメリアは課題を口にしつつも嬉しげだった。未知のことに立ち向かうのは、研究者にとってたまらない興奮を生むらしい。
「ただし、厚すぎてはいけないと先ほど言いましたが、薄すぎてもダメです。その理由は?」
「えーっと……」
「……船は、進むものですよねーえ」
「! そうか、風に流されてしまう!」
アメリアが出したヒントに見事に食いついて、ノセヤが目を見開いた。アメリアが深く頷いて肯定する。
「そういうことですねーえ。繊細な調整が必要となるというわけですよーお。……私はこの魔法を、ウンシキハゴロモと名付けました」
「う、ウンシキ……?」
「はい、雲で織る、という意味ですねーえ。……さあ。このフライングシスティーナ号に、雲の羽衣を、着せてあげましょう」
目深にかぶったフードで顔は見えなかったが、アメリアが微笑んでいることが、その場の全員にわかった。
「ふーむ。どうしましょうかねーえ」
アメリアが思案しているのは、もちろん、空の魔法についてである。彼女にとって、それ以外のことは考えるに値しないと言っても過言ではない。
目の前にあるのは、巨大な船……、フライングシスティーナ号。これを「飛ばす」と言われたときには、さすがのアメリアも驚かずにはいられなかった。が。
「やりがいのある仕事ではありますねーえ」
今アメリアがすべきことはこの船を「浮かす」ことだ。そのためにはまず、この船に「雲を纏わす」魔法をかけなければならない。
「それ自体は特に難しくはありませんが……」
浮く、そして進む、ということを考えると、事はそう単純ではなくなる。
「アメリアさん、皆さんがご到着されました」
王国騎士のノセヤが、アメリアの背中に声をかけた。アメリアをここへ連れてきたのは、このノセヤである。
「ああ、ありがとうございます。皆さん、ご足労をおかけいたしましたねーえ」
アメリアが振り返るとそこには、今回の魔法の成功のために集まってくれたハンターたちがいた。
ハンターたちに、アメリアは「雲を船に纏わせる魔法」について説明を始めた。
「ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが……、霧を纏わせたことは、過去にあるのですよーお。イスルダへ向かう船を、守るためにねーえ」
あのときは、飛ばすことではなく、船を隠すことが目的だったが。
「しかし今回は浮かせることを考えなければなりませんからねーえ、霧ではなく雲を纏わせなければなりません。『戦艦白雲』という魔法がありましてねーえ。まるで戦艦にも見えるほどの雲を発生させる魔法なのですが……、今回はその応用となります」
ふむふむ、と誰よりも熱心に聴いているのは、ノセヤである。まるで取材でもしているがごとく、手帳を広げてメモを取っている。
「この魔法は実はそんなに難しくありません。雲を発生させるだけですからねーえ。しかし、それを船に纏わせる、しかも纏わせた状態で浮かせる、そして進む……、となると、雲を発生させるだけではダメなのです。戦艦白雲級の厚さの雲を、船に纏わせると、どうなるか……、わかる方はいらっしゃいますか?」
アメリアが尋ねた。ノセヤが遠慮がちに挙手する。
「前が、見えなくなる……?」
「はい、それも正解の一つですねーえ。しかし、進行方向にだけ穴を開けておくことは可能ですから、クリアできる問題でもあります。それよりも懸念しなければならないのは……、雨です。厚い雲は雨を降らします。戦艦白雲も、その雲の真下に雨を降らすことを目的に使われることが多いくらいですからねーえ。雨が降ると、雲はどうなりますか?」
「! 雲は、消える……!」
「その通りですねーえ。雲は、消えます。つまり、船に纏わせ続けることができなくなります。……そう、今回の魔法の鍵は『雲の厚さ』ですよーお」
アメリアは課題を口にしつつも嬉しげだった。未知のことに立ち向かうのは、研究者にとってたまらない興奮を生むらしい。
「ただし、厚すぎてはいけないと先ほど言いましたが、薄すぎてもダメです。その理由は?」
「えーっと……」
「……船は、進むものですよねーえ」
「! そうか、風に流されてしまう!」
アメリアが出したヒントに見事に食いついて、ノセヤが目を見開いた。アメリアが深く頷いて肯定する。
「そういうことですねーえ。繊細な調整が必要となるというわけですよーお。……私はこの魔法を、ウンシキハゴロモと名付けました」
「う、ウンシキ……?」
「はい、雲で織る、という意味ですねーえ。……さあ。このフライングシスティーナ号に、雲の羽衣を、着せてあげましょう」
目深にかぶったフードで顔は見えなかったが、アメリアが微笑んでいることが、その場の全員にわかった。
リプレイ本文
フライングシスティーナ号。高貴な名を冠したこの船に、アメリア・マティーナ ( kz0179 )が乗るのは初めてのことだった。
「フライングシスティーナ号に載るのも久しぶりだなぁ」
アメリアとは対照的に、久しぶり、と言うのはキヅカ・リク(ka0038)だ。
「楽しみですねーえ、この船を舞台にして魔法を使えるとは」
フードを深くかぶったままでも、アメリアが微笑んでいるのがわかる。
「アメリアさん、楽しそうな感じですね」
アシェ-ル(ka2983)がにこにこした。初めての場所で新しい魔法を試すことに心が浮き立つ気持ちは、アシェールにもよくわかる。
「ヤァヤァ、今回はとっても面白ソウな魔法を見せて貰えるカモと聞いたノデ、お手伝いに参上なんダヨー!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の挨拶に、アメリアは嬉しそうに大きく頷く。
「ええ、とても面白いものになると思いますよーお」
「研究のお手伝いは久しぶりな気がするね。戦争のお手伝いってのが気に入らないけど、また他の事に役立てられるかもしれないし、楽しみだよ」
これまで数多くの、空の研究所の研究にかかわっているマチルダ・スカルラッティ(ka4172)が微笑むと、マチルダと同じく空の研究に並々ならぬ思いを持つ雨を告げる鳥(ka6258)が頷きながら、確かな決意を口にした。
「私たちは成功させる。希望を乗せて、空へと旅立つ空の魔法。雲織羽衣を」
希望への第一歩が、今踏み出されようとしていた。
アメリアが説明した魔法の概要や段取りなどを聞いて、ふむふむと考え込んでいたクレール・ディンセルフ(ka0586)が軽く挙手をして提案した。
「雲の濃淡チェックですが! 濃淡表を作成してはどうかと思うんです! 実際のところ「濃淡」は感覚が大いに関わるものです。私の「濃い」がアメリアさんの「淡い」だったりしますからね! そこで、雲の最大濃度を10、雲なしを1とし、10段階評価で濃淡表を作成してはどうかと!」
「ああ、それは大変よい案ですねーえ。数値化してしまうのが一番良いですからねーえ」
「はい、だと思いまして! 対応が必要な閾値を数値化したいんです! 各段階で写真を撮れば一目瞭然ですし! 今後の為にもなりますし、アメリアさんに是非作成のご協力をいただければ!」
「もちろんですよーお」
クレールの案に、アメリアは嬉しそうに頷いた。
「それなら私も協力するよー!」
夢路 まよい(ka1328)が張り切って申し出た。
「たぶん私はマギステルの中でも魔法の制御には長けてるほうだと思うから、雲の濃淡をあえて濃くしてみたり、薄くしてみたりして、大丈夫なところと大丈夫じゃないところの閾値を探る、みたいな実験をするなら適役なんじゃないかなー、と思ってるんだけど、どうだろう? 私なら出力もそれなりに大きくできるだろうから、色々試すなら言いつけて欲しいな~って。」
「よろしくお願いします! 「前方5! そろそろ危険です! 雲の再生を!」 みたいにしたいんです!」
クレールとまよいが、笑顔を見合わせた。
「円はひとつ? 別の場所に複数?」
マチルダがアメリアに確認する。前方と後方の二か所に描くつもりだ、とアメリアが答えると、神代 誠一(ka2086)が持参したロープや筆記具を取り出しながら腕まくりをした。
「円の方は任されましょう。リアルブルーでは高校数学教諭でしたからね。絵心はなくともフリーハンドで円を描くのには慣れていますよ」
「ああ、そういえば、戦艦白雲の際にもその円を描く腕前で助けていただきましたねーえ」
アメリアがフードの下で目を細め、昔を懐かしみつつ、魔法陣の描き方を指南していった。後方の魔法陣を誠一とクレールに任せ、アメリアは前方に向かう。皆で協力して描く間にも、魔法に関する話題で活発に会話が弾んだ。マチルダがアメリアの隣に貼りつくようにして質問を重ねた。
「魔術師も同時に何人かで詠唱するの?」
「同時に、というか交代で、ですかねーえ」
「水性インクは発動条件に含む? 描き直しが大変だから布で作った円を置くだけとか、代用はきく?」
「ええ、含むと考えていただいていいでしょうねーえ。いろいろと試したのですが、このインクでないと、発動はできても濃淡をコントロールできないのですよーお。インクの改良は今後可能かもしれませんが、今回はこれでいくほかありませんねーえ。布に描くのも無理ですねーえ。布に描こうとするとその時点で滲んでしまって使い物にならないのですよーお」
「前方に穴を開けるのは、どうやってやるの?」
「特別なことは何もしませんよーお。前方に穴が開く指示は、すでに魔法陣に組み込まれていますからねーえ」
この会話を、鳥やアシェール、まよいも興味深そうに聞いていた。魔法陣の準備と同時進行で、通信環境の整備をしているのはリクだ。濃淡をチェックして伝え合うには必要不可欠である。
「今後の実装に備えて自動化できる所はしておきたいよね。過去の経験から考えて、艦上での戦闘は必ず起きる。その時にこの線の要員として人が取られると弱点箇所になるからね」
確かに、とアメリアとノセヤが頷き合った。そこも考慮しておかなければならない点だ。やはり、それぞれ着眼点が違う。やはりハンターを呼んでよかったと、アメリアは早くもそう考えていた。
前方の魔法陣を描き終え、後方の様子を見に行くと、誠一は実に手際よく美しい円を描いていた。
「クレール、悪いそっち持ってもらっていい?」
ロープを上手く使いながら、クレールと協力して甲板に印をつけ、円を描いている。
「ああ、いいですねーえ、ばっちりですよーお」
アメリアが満足げに頷いた。これで、魔法陣の準備は整った。完成した魔法陣を、リクが写真に撮っている。薄まったときとの比較をするためだ。
「では、始めましょうかねーえ。……おや、ひとり足りないようですが?」
アルヴィンの姿が見えず、周囲を見回すアメリアに、誠一がくすくす笑いながら船の外を指差した。船着き場で、アルヴィンが大きく手を振っている。
『僕は船の外側カラの観測員とシテお手伝いするヨー! 後で、上空カラも見るようにするヨ! 乗船中の皆とは短伝話で随時連絡を取る様にするネ』
通信越しにアルヴィンの声を聞き、アメリアはその頼もしさに感心した。外側からの観測記録も取れるのは研究上実に有難いことだ。
「まずは前方を私が、後方はまよいさんにお願いしましょうかねーえ」
前方の魔法陣にアメリア、マチルダ、後方の魔法陣にまよい、アシェールがスタンバイし、他のハンターたちも観測目的別に持ち場についた。
「無垢なる白き衣を翻さん……、雲よ純白の羽を織れ!」
アメリアが風雅な呪文を唱え、まよいも同じタイミングで魔法を発動させた。
「わあ……!」
クレールが思わず感嘆の声を漏らす。みるみるうちに、真っ白な雲が船全体を包み込んだ。
「うわー、何も見えないじゃん。え、これで濃度はいくつー?」
リクがぱしゃぱしゃと写真を撮りつつ声を張る。
「これで10です。戦艦白雲と同じ状態ですねーえ。このままだとすぐ雨が降り出しますから、だんだん薄くしていきますよーお」
「りょーかーい!」
まずは、濃淡表を作らなければならない、というわけで、濃いところからだんだん薄くしてゆき、「このポイントを8に」「ここを5に。5が適性でしょう、本番はこれを保つことを意識しよう」などと相談し合った。クレールが、それをしっかり記録して、表を作り上げてゆく。
「こういうのって、単位には人の名前つけるんだっけ?」
リクがそんなことを呟く。確かに、雲の濃度を表す単位など、これまで存在しない。
「魔術師の交代についてもやってみたほうがいいよね」
マチルダが声をかけ、アメリアが頷いた。交代に手間取って雲に揺らぎがでるようなことは避けなければならない。
アメリアとマチルダが交代してから、まよいもアシェールに交代をした。アシェールは緊張した様子で深呼吸をしながら魔法陣の上に立ち、ルーンソードを甲板に立て、杖代わりに魔法を詠唱した。
「私は願う。天に流れる白き天使よ。私は祈る。空に轟く黒き天使よ。矮小なる私に、天と空に渡る美しき衣を授け給え……エンゲル ヴォルゲ!」
発動させた瞬間、ぐっと雲が濃くなり、慌てて意識を集中させて濃度を調整する。
「ちゃんと、ちゃんと出来てます? 私、魔法が出来てます?」
アシェールはわたわたとまよいを振り向いた。無駄にカッコつけてしまったということに気が付いて、急に恥ずかしくなったらしい。まよいはくすくす笑いながら両手で大きく丸を作って見せた。
「おや、魔法陣が滲んできたようですね。描きなおしましょう」
前方と後方を移動しながら注意深く観察をしていた誠一がインクの滲みにいちはやく気が付いて魔法陣へと屈みこむ。
「ふむ……」
鳥はその様子を、時計を片手に眺めていた。時間経過の記録を主に取っているのである。
「後程、適切な濃度を保ち続けた状態で時間を計ってみるべきだ。私はそう考える。今は濃度を変化させている状態であるため、この時間はあまり参考にならない」
「確かに。後程、アメリアさんに進言しておこうか」
誠一が丁寧に線を描き直しながら同意する。しかし、描き直した線は、またすぐに滲んでしまった。
「私は静思する。滲んだ円を描き直すということは、描き直す場所は「濡れている」ということだ。モップなどで水分を拭き取りつつ、その後で描き直す必要があるな」
「なるほど」
鳥のアドバイスに誠一は目を見張って頷き、近くを通りかかった船員に頼んでモップを借りた。
「よーし、できた! こんな感じかな!」
だんだん薄くした雲が、すっかりなくなってしまうところまでを見守って、クレールが濃淡表を完成させた。と、外から観察をしていたアルヴィンから通信が入った。
『変化の様子はカメラで連続撮影してあるヨ。外から見ていた印象を簡単に言うト、風の影響はかなり受けてイルようだったネ。風を受けやすい前方は、濃度に特に気を付ける必要があると思うナ』
「なるほど。ご指摘、感謝いたしますよーお」
アメリアがふむふむ、と頷く。やはり中から見ているのと、外から見ているのとでは印象が違うばかりでなく、わかることも違う。
『外からの距離をイロイロ変えて、アル程度の距離毎に、船の見た目がどうかも写真に収められればと思うヨ。引き続き、観察を続けるネ』
「はい、お願いします」
一通りの濃淡を試し、ハンターたちとアメリアは次に、最適濃度を保ち続ける検証に入った。鳥は先ほど指摘していた時間の問題に向き合い、クレールと誠一は魔法陣を描きなおすための手順や伝達についていろいろと方法を試していた。
「マッピングセットで船全体をマークして、濃淡レベルを全エリア分連絡を受けプロット! 魔術師さんに詠唱が必要な箇所を伝達! これでリアルタイム修正が可能なはず!」
「ロープは常に魔法陣の近くに置いておくべきだね。あと、モップも」
「そうですね!」
マチルダ、まよい、アシェールは濃淡のコントロールにかなり慣れてきており、マチルダとまよいが交代をスムーズに行えるタイミングについて相談していた。
「別にすぐ魔法が切れるわけじゃないし、あまり慌てなくても大丈夫そうだね」
「うん! 魔法陣の外にいる間は、観察とか通信とかしたらいいし、結構効率的かも」
アシェールはというと、魔法陣の前でおもむろに鎧を脱ぎ出している。
「わわわっ! 勢い余ってインナーまで脱いじゃった……だ、誰も見てませんよね!」
そんな、ラッキースケベチャンスまで演出しつつも彼女が試してみたかったのは。
「装備に影響があるかないかわかれば、それを魔法陣に組み込む事もできるかなって」
ということだった。試してみた結果は。
「うーん、特に装備に関しては影響を受けないみたいですね……」
アシェールはふんふん、と頷きながら鎧を着なおした。
こうしてあらゆる内容が調査・検証されてゆくのを、アメリアは実に満ち足りた気持ちで確認した。
「こんなにたくさんのことを、一度に検証できるとは思いませんでしたよーお。皆さん、さすがですねーえ」
調査・検証がひと段落し、あとはこれをまとめるだけ、という段階になり、アメリアは書類や写真を眺めながらしみじみと呟いた。隣でそれを聞いていた誠一が微笑む。
「二年前は巨大な雲を作るだけだったけれど、そこから昇華させた魔法は圧巻ですね。なかなかタイミング合わずお手伝いに来れない日々でしたが、あの時の魔法は今もよく覚えてます」
「そうですねーえ。空の研究所としても、進歩を感じられる事例となって嬉しいですよーお。二年前のことを、あなたが覚えていてくれたことにもねーえ」
「あはは、これでも記憶力はいい方なんですよ? そして、今日も。忘れられない一日になりそうです」
誠一が、ゆったりとくつろいだ表情を見せた。ひと段落してホッとしたのは他のハンターたちも同じだったらしく、リクがノセヤと話し込んでいる声も聞こえてくる。「ちゃんと食べてるのー? そんな細いままだと倒れちゃうよ」というリクのからかうような心配するような言葉。鳥とマチルダ、まよいは魔術談議に花を咲かせている。クレールとアシェールは、船の外にいたアルヴィンを船上に出迎えて、アルヴィンが撮影してきたたくさんの写真を興味深そうに見ていた。
アメリアは、そんなハンターたち全員と、そして、フライングシスティーナ号を眺め渡した。
この船が、飛ぶ。
もうすぐ、飛ぶ。
たくさんの人々の想いを……、希望を乗せて。
期待にときめく誰かの鼓動の音が、聞こえてくるような気がした。
「フライングシスティーナ号に載るのも久しぶりだなぁ」
アメリアとは対照的に、久しぶり、と言うのはキヅカ・リク(ka0038)だ。
「楽しみですねーえ、この船を舞台にして魔法を使えるとは」
フードを深くかぶったままでも、アメリアが微笑んでいるのがわかる。
「アメリアさん、楽しそうな感じですね」
アシェ-ル(ka2983)がにこにこした。初めての場所で新しい魔法を試すことに心が浮き立つ気持ちは、アシェールにもよくわかる。
「ヤァヤァ、今回はとっても面白ソウな魔法を見せて貰えるカモと聞いたノデ、お手伝いに参上なんダヨー!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の挨拶に、アメリアは嬉しそうに大きく頷く。
「ええ、とても面白いものになると思いますよーお」
「研究のお手伝いは久しぶりな気がするね。戦争のお手伝いってのが気に入らないけど、また他の事に役立てられるかもしれないし、楽しみだよ」
これまで数多くの、空の研究所の研究にかかわっているマチルダ・スカルラッティ(ka4172)が微笑むと、マチルダと同じく空の研究に並々ならぬ思いを持つ雨を告げる鳥(ka6258)が頷きながら、確かな決意を口にした。
「私たちは成功させる。希望を乗せて、空へと旅立つ空の魔法。雲織羽衣を」
希望への第一歩が、今踏み出されようとしていた。
アメリアが説明した魔法の概要や段取りなどを聞いて、ふむふむと考え込んでいたクレール・ディンセルフ(ka0586)が軽く挙手をして提案した。
「雲の濃淡チェックですが! 濃淡表を作成してはどうかと思うんです! 実際のところ「濃淡」は感覚が大いに関わるものです。私の「濃い」がアメリアさんの「淡い」だったりしますからね! そこで、雲の最大濃度を10、雲なしを1とし、10段階評価で濃淡表を作成してはどうかと!」
「ああ、それは大変よい案ですねーえ。数値化してしまうのが一番良いですからねーえ」
「はい、だと思いまして! 対応が必要な閾値を数値化したいんです! 各段階で写真を撮れば一目瞭然ですし! 今後の為にもなりますし、アメリアさんに是非作成のご協力をいただければ!」
「もちろんですよーお」
クレールの案に、アメリアは嬉しそうに頷いた。
「それなら私も協力するよー!」
夢路 まよい(ka1328)が張り切って申し出た。
「たぶん私はマギステルの中でも魔法の制御には長けてるほうだと思うから、雲の濃淡をあえて濃くしてみたり、薄くしてみたりして、大丈夫なところと大丈夫じゃないところの閾値を探る、みたいな実験をするなら適役なんじゃないかなー、と思ってるんだけど、どうだろう? 私なら出力もそれなりに大きくできるだろうから、色々試すなら言いつけて欲しいな~って。」
「よろしくお願いします! 「前方5! そろそろ危険です! 雲の再生を!」 みたいにしたいんです!」
クレールとまよいが、笑顔を見合わせた。
「円はひとつ? 別の場所に複数?」
マチルダがアメリアに確認する。前方と後方の二か所に描くつもりだ、とアメリアが答えると、神代 誠一(ka2086)が持参したロープや筆記具を取り出しながら腕まくりをした。
「円の方は任されましょう。リアルブルーでは高校数学教諭でしたからね。絵心はなくともフリーハンドで円を描くのには慣れていますよ」
「ああ、そういえば、戦艦白雲の際にもその円を描く腕前で助けていただきましたねーえ」
アメリアがフードの下で目を細め、昔を懐かしみつつ、魔法陣の描き方を指南していった。後方の魔法陣を誠一とクレールに任せ、アメリアは前方に向かう。皆で協力して描く間にも、魔法に関する話題で活発に会話が弾んだ。マチルダがアメリアの隣に貼りつくようにして質問を重ねた。
「魔術師も同時に何人かで詠唱するの?」
「同時に、というか交代で、ですかねーえ」
「水性インクは発動条件に含む? 描き直しが大変だから布で作った円を置くだけとか、代用はきく?」
「ええ、含むと考えていただいていいでしょうねーえ。いろいろと試したのですが、このインクでないと、発動はできても濃淡をコントロールできないのですよーお。インクの改良は今後可能かもしれませんが、今回はこれでいくほかありませんねーえ。布に描くのも無理ですねーえ。布に描こうとするとその時点で滲んでしまって使い物にならないのですよーお」
「前方に穴を開けるのは、どうやってやるの?」
「特別なことは何もしませんよーお。前方に穴が開く指示は、すでに魔法陣に組み込まれていますからねーえ」
この会話を、鳥やアシェール、まよいも興味深そうに聞いていた。魔法陣の準備と同時進行で、通信環境の整備をしているのはリクだ。濃淡をチェックして伝え合うには必要不可欠である。
「今後の実装に備えて自動化できる所はしておきたいよね。過去の経験から考えて、艦上での戦闘は必ず起きる。その時にこの線の要員として人が取られると弱点箇所になるからね」
確かに、とアメリアとノセヤが頷き合った。そこも考慮しておかなければならない点だ。やはり、それぞれ着眼点が違う。やはりハンターを呼んでよかったと、アメリアは早くもそう考えていた。
前方の魔法陣を描き終え、後方の様子を見に行くと、誠一は実に手際よく美しい円を描いていた。
「クレール、悪いそっち持ってもらっていい?」
ロープを上手く使いながら、クレールと協力して甲板に印をつけ、円を描いている。
「ああ、いいですねーえ、ばっちりですよーお」
アメリアが満足げに頷いた。これで、魔法陣の準備は整った。完成した魔法陣を、リクが写真に撮っている。薄まったときとの比較をするためだ。
「では、始めましょうかねーえ。……おや、ひとり足りないようですが?」
アルヴィンの姿が見えず、周囲を見回すアメリアに、誠一がくすくす笑いながら船の外を指差した。船着き場で、アルヴィンが大きく手を振っている。
『僕は船の外側カラの観測員とシテお手伝いするヨー! 後で、上空カラも見るようにするヨ! 乗船中の皆とは短伝話で随時連絡を取る様にするネ』
通信越しにアルヴィンの声を聞き、アメリアはその頼もしさに感心した。外側からの観測記録も取れるのは研究上実に有難いことだ。
「まずは前方を私が、後方はまよいさんにお願いしましょうかねーえ」
前方の魔法陣にアメリア、マチルダ、後方の魔法陣にまよい、アシェールがスタンバイし、他のハンターたちも観測目的別に持ち場についた。
「無垢なる白き衣を翻さん……、雲よ純白の羽を織れ!」
アメリアが風雅な呪文を唱え、まよいも同じタイミングで魔法を発動させた。
「わあ……!」
クレールが思わず感嘆の声を漏らす。みるみるうちに、真っ白な雲が船全体を包み込んだ。
「うわー、何も見えないじゃん。え、これで濃度はいくつー?」
リクがぱしゃぱしゃと写真を撮りつつ声を張る。
「これで10です。戦艦白雲と同じ状態ですねーえ。このままだとすぐ雨が降り出しますから、だんだん薄くしていきますよーお」
「りょーかーい!」
まずは、濃淡表を作らなければならない、というわけで、濃いところからだんだん薄くしてゆき、「このポイントを8に」「ここを5に。5が適性でしょう、本番はこれを保つことを意識しよう」などと相談し合った。クレールが、それをしっかり記録して、表を作り上げてゆく。
「こういうのって、単位には人の名前つけるんだっけ?」
リクがそんなことを呟く。確かに、雲の濃度を表す単位など、これまで存在しない。
「魔術師の交代についてもやってみたほうがいいよね」
マチルダが声をかけ、アメリアが頷いた。交代に手間取って雲に揺らぎがでるようなことは避けなければならない。
アメリアとマチルダが交代してから、まよいもアシェールに交代をした。アシェールは緊張した様子で深呼吸をしながら魔法陣の上に立ち、ルーンソードを甲板に立て、杖代わりに魔法を詠唱した。
「私は願う。天に流れる白き天使よ。私は祈る。空に轟く黒き天使よ。矮小なる私に、天と空に渡る美しき衣を授け給え……エンゲル ヴォルゲ!」
発動させた瞬間、ぐっと雲が濃くなり、慌てて意識を集中させて濃度を調整する。
「ちゃんと、ちゃんと出来てます? 私、魔法が出来てます?」
アシェールはわたわたとまよいを振り向いた。無駄にカッコつけてしまったということに気が付いて、急に恥ずかしくなったらしい。まよいはくすくす笑いながら両手で大きく丸を作って見せた。
「おや、魔法陣が滲んできたようですね。描きなおしましょう」
前方と後方を移動しながら注意深く観察をしていた誠一がインクの滲みにいちはやく気が付いて魔法陣へと屈みこむ。
「ふむ……」
鳥はその様子を、時計を片手に眺めていた。時間経過の記録を主に取っているのである。
「後程、適切な濃度を保ち続けた状態で時間を計ってみるべきだ。私はそう考える。今は濃度を変化させている状態であるため、この時間はあまり参考にならない」
「確かに。後程、アメリアさんに進言しておこうか」
誠一が丁寧に線を描き直しながら同意する。しかし、描き直した線は、またすぐに滲んでしまった。
「私は静思する。滲んだ円を描き直すということは、描き直す場所は「濡れている」ということだ。モップなどで水分を拭き取りつつ、その後で描き直す必要があるな」
「なるほど」
鳥のアドバイスに誠一は目を見張って頷き、近くを通りかかった船員に頼んでモップを借りた。
「よーし、できた! こんな感じかな!」
だんだん薄くした雲が、すっかりなくなってしまうところまでを見守って、クレールが濃淡表を完成させた。と、外から観察をしていたアルヴィンから通信が入った。
『変化の様子はカメラで連続撮影してあるヨ。外から見ていた印象を簡単に言うト、風の影響はかなり受けてイルようだったネ。風を受けやすい前方は、濃度に特に気を付ける必要があると思うナ』
「なるほど。ご指摘、感謝いたしますよーお」
アメリアがふむふむ、と頷く。やはり中から見ているのと、外から見ているのとでは印象が違うばかりでなく、わかることも違う。
『外からの距離をイロイロ変えて、アル程度の距離毎に、船の見た目がどうかも写真に収められればと思うヨ。引き続き、観察を続けるネ』
「はい、お願いします」
一通りの濃淡を試し、ハンターたちとアメリアは次に、最適濃度を保ち続ける検証に入った。鳥は先ほど指摘していた時間の問題に向き合い、クレールと誠一は魔法陣を描きなおすための手順や伝達についていろいろと方法を試していた。
「マッピングセットで船全体をマークして、濃淡レベルを全エリア分連絡を受けプロット! 魔術師さんに詠唱が必要な箇所を伝達! これでリアルタイム修正が可能なはず!」
「ロープは常に魔法陣の近くに置いておくべきだね。あと、モップも」
「そうですね!」
マチルダ、まよい、アシェールは濃淡のコントロールにかなり慣れてきており、マチルダとまよいが交代をスムーズに行えるタイミングについて相談していた。
「別にすぐ魔法が切れるわけじゃないし、あまり慌てなくても大丈夫そうだね」
「うん! 魔法陣の外にいる間は、観察とか通信とかしたらいいし、結構効率的かも」
アシェールはというと、魔法陣の前でおもむろに鎧を脱ぎ出している。
「わわわっ! 勢い余ってインナーまで脱いじゃった……だ、誰も見てませんよね!」
そんな、ラッキースケベチャンスまで演出しつつも彼女が試してみたかったのは。
「装備に影響があるかないかわかれば、それを魔法陣に組み込む事もできるかなって」
ということだった。試してみた結果は。
「うーん、特に装備に関しては影響を受けないみたいですね……」
アシェールはふんふん、と頷きながら鎧を着なおした。
こうしてあらゆる内容が調査・検証されてゆくのを、アメリアは実に満ち足りた気持ちで確認した。
「こんなにたくさんのことを、一度に検証できるとは思いませんでしたよーお。皆さん、さすがですねーえ」
調査・検証がひと段落し、あとはこれをまとめるだけ、という段階になり、アメリアは書類や写真を眺めながらしみじみと呟いた。隣でそれを聞いていた誠一が微笑む。
「二年前は巨大な雲を作るだけだったけれど、そこから昇華させた魔法は圧巻ですね。なかなかタイミング合わずお手伝いに来れない日々でしたが、あの時の魔法は今もよく覚えてます」
「そうですねーえ。空の研究所としても、進歩を感じられる事例となって嬉しいですよーお。二年前のことを、あなたが覚えていてくれたことにもねーえ」
「あはは、これでも記憶力はいい方なんですよ? そして、今日も。忘れられない一日になりそうです」
誠一が、ゆったりとくつろいだ表情を見せた。ひと段落してホッとしたのは他のハンターたちも同じだったらしく、リクがノセヤと話し込んでいる声も聞こえてくる。「ちゃんと食べてるのー? そんな細いままだと倒れちゃうよ」というリクのからかうような心配するような言葉。鳥とマチルダ、まよいは魔術談議に花を咲かせている。クレールとアシェールは、船の外にいたアルヴィンを船上に出迎えて、アルヴィンが撮影してきたたくさんの写真を興味深そうに見ていた。
アメリアは、そんなハンターたち全員と、そして、フライングシスティーナ号を眺め渡した。
この船が、飛ぶ。
もうすぐ、飛ぶ。
たくさんの人々の想いを……、希望を乗せて。
期待にときめく誰かの鼓動の音が、聞こえてくるような気がした。
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雲と船に想いを載せて(相談卓) 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/02/07 07:26:17 |
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質問卓 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/02/06 20:54:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/03 12:01:53 |