• 王戦

【王戦】再来、赤の騎士

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/02/07 19:00
完成日
2019/02/18 14:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 歪虚の軍と一言に言っても統一性のある軍隊ではない。歪虚の種類によって能力も思想もバラバラでとても1枚岩と言えるものではなかった。指揮を任されたその男はまずこの事実を受け入れ、最低限の機能維持を心がけるようにした。方向性さえ定まれば、同じ歪虚である以上生きる者すべてを襲う事は共通している。その為にも全体は統制できずとも命令系統の上下は確立すべきであり、心酔までいかずとも緩やかに人望は集めておく事は大切である。彼は手始めに軍団が参集した順に血と肉を与えた。血と肉の持ち主にとっては随分と迷惑な話だった。

「やっちまった」
 歪虚の指揮官であるその大男は至る所で火の手のあがる村落の広場らしき場所で、心底うんざりした声でぼやいた。歪虚軍にローテーションで略奪をやらせたところまでは良かった。皆喜んでくれたし互いに仲間の性能を見ることも出来た。王国軍が避難誘導で村落や町を回っていたのも別にいい。想定内であったし早々簡単に避難先を用意できるわけでもない。それら軍と小競り合いになるのも想定内だ。問題は小競り合い程度の戦に、王国軍の精鋭が投入されていたことだった。数を頼みにした戦い方に慣れていた歪虚の部隊は各所で各個撃破され、一方的な狩りが一転狩られるだけの状況だ。最終的には歪虚側が数で圧倒するにせよ、何の価値もない村の制圧でこれだけの損害を出すのはうれしくない。
「これだから人の話を聞かない連中は信用できないんですよね!!」
 男の乗っていた騎馬代わりの竜、騎竜のドーピスが偉そうな口でそんな事を言い出した。いい加減イライラしていた男は完治した声帯で容赦なく罵倒することにした。
「肉食うの止めてから喋れこの駄トカゲ」
「ト、トカゲぇーーーーーーー!!!???」
 泡でも吹きそうな勢いでドーピスは目を見開いている。そんなにショックだったのだろうか。とりあえず黙ったので男は良しとした。
 部隊は既にいくつかに分け、自身の配下から何人かを事態収拾に向かわせている。しかし男には事態がそれで収まらないであろうという確信があった。今目の前にいる敵が誰なのか、消去法で考えれば候補はいくつも無い。
  男は報告を待ちながら思考を続けていたが、近づいてくる何騎もの騎士達に気づき視線をそちらに向けた。先頭で馬を操るのは黒い鎧に身を包んだ騎士の手本のような男。見知ったその顔は男の取り巻きである歪虚騎士に目もくれず、男に真っ向から向かい合った。
「久しぶりだな、ダンテ」
 騎士エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は、歪虚化したダンテ・バルカザール(kz0153)を名指しで呼びかけた。歪虚の指揮官であるダンテはにやりと、生前浮かべた事のないような邪悪な笑みをつくった。ダンテの鎧はエリオットと同じ黒で塗られた物だが、とげとげしい外装は見る者に全く別の印象を与える。
「やはりお前だったか。道理で王国軍が強いわけだ。で、俺の顔でも見に来たのか」
「ああ。俺の責任において、一度はこの目で確かめておく必要があると思っていた」
 エリオットの声は固い。この男の出す声にしては余りに寒々しくて非人間的だった。一方のダンテはその空気を茶化すかのように親し気な声で話を続ける。その笑みの歪みぶりを除けば生前とそう変わらない調子であった。
「顔を見に来ただけか? もっと積もる話もあるんじゃないのか?」
「無い。歪虚となったお前には何も話すことはない」
「そりゃそうか。もう友達でも同僚でもないからな」
 一時会話が途切れる。誰も声を発しない。視線を険しくするエリオットと笑みを深めるダンテ。二人は互いに馬と竜を進ませて距離を詰め始めた。槍の間合いのわずかに外側の位置に達したところで最後の会話が始まった。
「考えてる事、同じだろ?」
「概ねはそうだな」
「説明しなくても言いたいことは伝わるだろ」
「説明が面倒になった、の間違いだろう?」
「まあそう言うこった。ついでに柄でもないし義理もない。敵同士だからな」
 まるで会話の続き、呼吸をするかのような自然さで、エリオットとダンテは互いの槍を必殺の気迫で持って振りぬいた。瞬く間に数合打ち合い、距離を離してすぐさま詰め、再び何合も打ち合った。彼らの護衛であった騎士達もそれに遅れじと剣・槍・弓を抜き、目の前の敵へと猛然と襲い掛かっていった。

 エリオット率いる騎士隊がダンテ隊と睨みあい始めた頃、ハンター達の仕事はその大半を追えつつあった。エリオットに連れられたハンターに命令されたのは住民の避難誘導と護衛のみである。エリオットの部隊が敵の注意を引き、その隙に可能な限り住民を避難させろという命令だ。
 村の住人で襲撃時に動けた者はほぼ全て逃がしきった。村の中ではまだ住民の遺体漁りをする歪虚がいるが、生存者の救出と言う意味ではもはやすべきことはない。すべきことが済めばあとは逃げの一手だが、これだけ暴れた敵を逃がすほど敵も甘くはなかった。騒ぎを聞きつけた歪虚達が集結し、ハンター達は完全に包囲網の中にとらわれた。エリオット隊とも分断されており、このままここに居座れば全滅は間違いない。
「後から後から湧いてキリがありませんな」
 周囲の騎士達も疲労の色が強くなり始めた。ここからは消耗が加速していくばかりだ。血路を開くのは今しかないが、果たしてどこを切り開けば死地を抜けることが出来るのか。周囲は畑や林が続くばかりで遮蔽物は多くないが、馬で逃げるにはどうしても敵の足の速さが気になる。空を飛ぶ敵がいないことが唯一救いだが、数で圧倒されていては隠れて逃げるというわけにもいかない。
 取れる手は多くない。しかし諦めてしまうには早すぎる。ハンターは仲間の状況を確認し、活路を探して敵の群れへと斬り込んだ。

リプレイ本文

 この戦闘において最もハンターの頭を悩ませたのは戦場の混乱具合だった。味方はそれなりに統制をもって動いているが、敵は種族あるいは種類単位で行動しているにすぎず、各々が独自の基準で動いていた。建物や木の上から物を投げてくる者、物の陰から速度を落とさず突撃する者、動きはノロくても再生して倒れない者。一つ一つは十分対応出来るが、それも指向性がばらばらでは取りこぼしもあった。
 傷と疲弊が積みあがる中、魔導短電話を用いて待ちに待った連絡が後方より届く。全ての住人の避難が完了したのだ。ハンター達は安堵しながらも気を引き締めた。ここからが本番だ。誠堂 匠(ka2876)は敵の攻撃が緩んだ間隙を縫って、連絡してきた騎士にこちらの行動予定を説明する。
「状況はわかりました。俺達はエリオット隊と合流してから撤退します。生きてまた会いましょう」
「了解です。ご武運を」
 相手側の騎士は簡潔に述べると通信を切った。通信の終了とほぼ同時で空には目標達成の意味を知らせるマテリアル花火がルカ(ka0962)の手によって打ち上げられた。これで他の地域の騎士達も別個に退却を始めるはずだ。ハンター達は花火を横目で確認しつつ、フライングスレッドにより空中を飛ぶルカの示した方向へと移動を開始する。同時に戦場の血の匂いとは別の重たい空気が場に流れ始める。原因はルカの報告にある、ダンテ・バルカザール(kz0153)の事だ。生前の彼を知る者達の顔は一様に苦い。予見していたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)だけはやや趣の違う諦観を宿してはいたが、目の前の困難への認識は同一であった。
「こんな形で……再会したくはありませんでしたね……」
 クリスティア・オルトワール(ka0131)は悲嘆をにじませた声で呟く。その無念の言葉に央崎 枢(ka5153)がうなづき返した。
「ああ。だが、戦わなければならない。今はそういう状況だ」
 私情を語るには時ではない。リュー・グランフェスト(ka2419)や誠堂も感傷はあったが、それ以上の言葉を発する事は無かった。
「西に300m、そこが戦場です」
 ルカの誘導に一堂は密集体型を取る。ハンター達は感傷を胸の中で殺し、敵戦力の突破に意識を集中する。
 走り出す直前、ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)は高らかに唄った。溢れるほどの血の匂い、ありふれた悲劇、共有される記憶、蹂躙された願い。最中、一抹の希望を載せて彼女は歌い続ける。混沌とする戦場において誰もが自分を見失わぬように。混戦の最中、剣戟に混じり響くその歌は確かに標の役割を果たしていた。歌を媒介として光が満ちる。再び乱戦に持ち込もうとする敵の歪虚を光で押し返し、同時に光をめくらましにして戦場を駆け抜けた。





 エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)と歪虚となったダンテの一騎打ちはしばらく決着はつかなかった。必殺の一撃を割けるために牽制に終始する場も多く、スタミナ切れのほうが早いかとさえ思われた。数十合を越える打ち合いの果て、二人の手が止まったのは別の理由からだった。
「……なんだありゃ」
 槍を弾いてわかりやすく距離をとったダンテは怪訝な顔で空を見上げていた。エリオットは体の向きを変えずにちらりと視線の先を追った。視界の端に映るのは勢いよく光を噴射させながら飛ぶ平たい何か。エリオットはそれがルカの持ち込んでいたフライングスレッドと知っていたが、ダンテにとっては未知の装備だったのだろう。その勘の良さは野生の獣の如き男の強みだ。ダンテは遠方より飛来したルカの弓による狙撃を容易く切り払ってみせた。そしてエリオットが距離をとるのも構わず、近づく混戦の気配を察して巨大な槍を構え直した。
「ほれ、来たぞ怖いのが。ふんばれよドーピス。出ないと死んじまうぞ」
「うげぇーーー」
 その数秒後、血煙をまといながら一人の剣士が集団を飛び出した。剣士、アルトはダンテ目掛けて加速しつつ接近した。狙うはダンテの騎竜の足。馬上から狙われにくいように姿勢を低くし、すり抜けざまに刀を一閃。
「はぁっ!!」
 十分な速度と威力を伴った一撃ではあったが、振り抜いた刀には手応えがない。向き直るダンテの間合いから半歩引いて離脱する。
「前より速くなってやがるな」
 言葉の通りアルトは超覚醒によって更に能力を向上させている。それでもまだ届かない。アルトは土を蹴ってすぐさま作戦を変更。ダンテを飛び越えるように跳躍し、ダンテの頭上から曲芸じみた立体攻撃を繰り出す。瞬く間に数度の斬撃、対するダンテは槍の柄で受け流す。必殺と言える一撃を涼しい顔で受け流し、穂先を突き付けて牽制してアルトに距離を取らせた。アルトが一歩下がり、剣を構え直したところで銃声が響いた。
「あいたぁーーー!!??」
ドーピスが跳ねる。けたたましい声と大げさな動きに驚いて攻撃の機を逃したが、どうやらクローディオ・シャール(ka0030)が銃撃したらしい事までを理解して、アルトは連携のために円を描くように、利き手を隠すようにして真横に進む。
「ちっ。調子に乗るからだ。しかしまあ……」
 チリンチリンチリン。と、聞くものが聞いたら少々間の抜けた鈴の音が響く。この戦場でそんな音、自転車のベルを鳴らす者は一人しかいない。
「王国騎士団黒の騎士、クローディオ・シャール。参る」
 盾を構え、銃を手に取り、ママチャリ「ヴィクトリア」に跨った騎士がエリオットとダンテの間に入る。ダンテはうんざりした顔でその男を認識した。クローディオの後ろでエリオットが槍を下ろしている。それを油断とは笑えない。その盾を抜いてエリオットに届かせるのは難儀すると双方の騎士が判断していた。
「隊長、ここは我々にお任せを。私が盾となります」
「ああ。任せる」
 エリオットは頷いてクローディオの後方に位置取る。クローディオを含めてハンター達がその信頼に答えうると確信し、それ以上の指示は特に出さなかった。追いついたハンター達がその前に立ち、ダンテに対して戦線を構築する。ダンテは一騎打ちを妨害された怒りのためか、顔に浮かぶ苛立ちを隠そうともしなかった。
「数が増えたらなんとかなると思ったか? 舐めるんじゃねえぞ」
 ダンテは余裕のある笑みを浮かべて騎竜を走らせる。対応したハンター達とすぐさま戦闘が再開された。クローディオの銃撃とルカの弓矢を鎧と鱗で弾いて突進する。前衛となったリューと央崎がアルトに合流し、刃の応酬が始まった。一足飛びで間合いに飛び込める位置を維持しつつアルトがダンテの回避を牽制。クローディオの盾で前進するダンテに圧力をかけつつ、銃撃の為の射線を空けるためにリューと央崎は左右に展開。刃を携え隙を伺う中、後列のクリスティアが口火を切る。
「ライトニングボルト、行きます!」
 杖の先から雷光が閃き、ハンターの囲みの中央を抜いてダンテを襲った。ダンテは槍を前に掲げ魔法を防御。彼の直前で雷光を形作るマテリアルが真っ二つに裂かれ、強烈な光が場を埋め尽くす。雷光の残滓を目くらましに央崎がしかけた。
「ここだ!」
 ルパイントリガーを使い加速した央崎は騎竜の足を狙って斬撃を繰り出す。アルトと同じ狙いではあるが、複数の軌跡が重なるためにダンテの意識は既に十分に散っている。だがここでも騎竜は足を上げてこの斬撃を危なげなく回避する。ダンテはここで雷光を弾き返し、槍を大きく振りかぶる。一瞬だけ央崎を指向するが、再度襲来したアルトの一撃をいなすために攻撃を中止する。央崎はこの隙に態勢を立て直した。この間隙に続くのはリューだ。手に持つのは星神器「エクスカリバー」。星を救うための刃がダンテ目掛けて振るわれる。
「これで!」
 エクスカリバーが大上段より振り下ろされる。やや単調ながら速度の乗った一撃だ。この一撃にはソードブレイカーのスキルをまとわせている。受けてしまえばダンテの武器に深刻なダメージを与えることが出来る。一見だけではダンテがスキルを把握する事は出来るはずもなく、槍を操ってその一撃を同じようにーーー。
「おっと」
 寸前でダンテは槍を引く。刃が肉を裂くよりも先にドーピスが主の意をくんで後方に回避する。完全に入ったと思った一撃は空を切った。判断の変化から回避まで、異様な速度の攻防だった。
「なっ!? この!」
 リューは間合いを取られる前に再び攻勢をかける。今度は平然と武器で受け流す。異様なまでのやりにくさに、リューは攻撃の機会を見つけることができなかった。
「隊長!」「助太刀を!」
 周囲の歪虚騎士達がダンテを助けようと騎竜の首を戦闘の最中に向きかえる。彼らが走り寄ろうとする直前に、鋭い音を立てて足元に白色の棒手手裏剣が突き刺さる。誠堂の広角投射が騎士達の連携を阻害する。
「そこから前に進めると思わないことだ」
 誠堂は牽制しながらも敵の顔を見る。行方不明となった顔見知りの騎士がいないか、漠然とそんな不安を抱えながら。彼らと相対することは、ある意味で彼の償いでもあった。
「そうだぞ下がってろお前ら。お前らの手には余るからな」
 茶化すようにダンテは笑う。ダンテは1対多数である事で微塵も揺らいでいない。言葉には絶対の自信があった。騎士達は渋々ながらその指示に従った。今まで戦っていた目の前の騎士達も決して無視できない。後列にハンター達が来たことで勢いを盛り返しつつあるのだ。
 一方で彼との戦闘は違和感を深めていく。ダンテは強力な歪虚には違いないが、その強さにムラがある。近接戦闘で強いという意味とは別に、近接戦闘で不自然に対応の早さが変わるのだ。以前に一度戦闘を経験していたアルトはその差異を誰よりも感じていた。
(ならそれはどんなトリックで?)
 恐らくこれこそ余裕の正体であり、歪虚としての固有の機能だろう。だがそれをどう破れば良いのか。単純なダンテ本人の性能の高さも相まって、準備不足の現状では手が足りない。それでもエリオットが単騎で迎え撃った時と比べて手数は増えた為、ダンテが攻勢に移る回数は明らかに目減りした。膠着した状態に変化はなく、ダンテの余裕の顔も崩れない。そこに一撃、エリオットが自ら持っていた槍を投げ放った。ダンテはそれを槍で受け流し、一拍の隙が出来た。
「一度下がって態勢を立て直せ」
 エリオットの声にハンターと騎士が後ろに下がってエリオットの周囲に集まる。投げた槍はエリオットのマテリアルに引かれて彼の手に戻っていた。
「本当に良いのかそれで?」
 ダンテは槍を向けて「やれ」と一言呟いた。歪虚騎士とそれ以外の歪虚はダンテの号令で一斉に王国軍に襲い掛かる。
「回復だ! リューも頼む」
 それで多くのハンターが意図を察した。ティアンシェはヒーリングスフィアなどの回復のスキルではなくレクイエムを使用。にじり寄る敵を牽制して回復までの時間を稼いだ。
「了解だ。いくぜ」
 リューが剣を横に振ると、ナイツ・オブ・ラウンズの効果により彼の光の粒が薄く広がった。騎士達の傷が癒える。その直後に歪虚達は殺到した。結果はハンターが事前に思い描いていた作戦の通りになった。歪虚騎士は狙って討ち取り、獣のような歪虚には恐怖を与える。央崎の伝えた基本方針を達成しつつ、敵の一団を突き破って駆け抜けるにはこの一瞬こそが最大の好機だ。殺到した歪虚騎士は今まで互角以上に戦っていた騎士達に一方的に切り返されていた。突然のことに混乱が走り、歪虚騎士達の被害は更に拡大する。ハンター達の攻撃も同様の効果を受けており、瞬く間に死体の山が築かれた。
「双方手を引け!!!」
 ダンテは声を張り上げて叫んだ。剣戟のぶつかり合う中ですら聞こえるそれには歪虚特有の力が宿っていた。傲慢の歪虚の強制、そう気づいた者は身構えて目に見えない波となって押し寄せる負のマテリアルに構えた。精神への衝撃は一瞬、あっけないほどに速やかに消失した。カウンターマジックによって強制の効果を消そうとしたクリスティアは驚いて手を止めた。
「…え? うそ?」
 効力が思いの外弱かった。弱いと言っても騎士達の一部は言葉に従ってしまったが、装備の整ったハンターには大した効力はない。それも「交戦の中止」という比較的抵抗無く受け入れやすい命令でもってその程度の効果しかなかった。誰も彼もが怪訝な顔でその効果に驚いていたが、クローディオの後ろに控えていたエリオットは何事か得心の行った表情をしていた。
「そうか。そんなところは変わっていないんだな」
 ハンターの攻勢と防御によって見に徹する時間を得たエリオットは軍団長としてのダンテの弱点を見抜くに至った。意図を含んだエリオットの指摘にダンテはここにきて一番の苦々しい顔でエリオットを睨み返す。攻撃こそ最大の防御を地で行く男が慣れないスキルを使ってまで防御に専念した事が、彼の弱みの証明となった。ここまでの戦場で見た通り、彼の意思を正確に反映する為に必要な分隊長の数が圧倒的に不足しているのだろう。指揮官が揃わなければ彼の指揮能力は十全に発揮されない。それは新米騎士ばかりの赤の隊を実戦で鍛えていた頃とよく似ていた。
「今が好機です。撤退しましょう」
 誠堂の提案にエリオットは無言で頷く。「撤退する」と短く伝えたエリオットの号令一下、騎士もハンターも敵に背を向けルカの誘導するルートを信じて一斉に逃走をはかる。ダンテは追撃可能な戦力を残しながらも、周囲の部下に追撃は許さなかった。彼にしてもほどほどでも追撃はしたいのが本音だが、その結果に見合う損害で済まないと判断したのだ。
 指揮官である歪虚騎士を欠いた追撃は散漫であった。指揮の行き届かない部隊が散発的に襲撃を仕掛けてくる事はあったが、単独では数も質も劣るような寄せ集めの集団では精鋭たる騎士達の脅威になりようもない。仲間たちの支援を受けたルカの丁寧な索敵もあって奇襲を受けることは一度もなく、王国軍は大きな障害にぶつからずに無事に歪虚の囲みを突破した。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧


  • ルカka0962
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876

重体一覧

参加者一覧

  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • いつか、その隣へと
    ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/04 08:44:41
アイコン 相談卓
クローディオ・シャール(ka0030
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/02/07 17:48:33