ゲスト
(ka0000)
カレーなにそれ美味しいの?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/24 09:00
- 完成日
- 2014/06/30 02:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
それは彼が幼いころの話。
――実は俺はね、リアルブルーの出身なんだよ。
その日、彼の部族に、そう言って笑う青年がやってきていた。
――リアルブルー!? すごい、ほんとうにあるんだ!
彼は顔を紅潮させながら、その青年の話を聞く。
――うん。こことは似ているけど、やっぱり違う世界だなって、そう思うよ。ときどき、無性に故郷の料理が食べたくなったりね。
青年は遠い目をしていた。
――ああ……カレーとか、何年くらい食べていないんだろう……。
カレー。
その単語は、彼の心を妙に掴んで離さなかった。
それから何年か後、サルヴァトーレ・ロッソの登場で、クリムゾンウェストはにわかに活気付く――。
●
「この間からリアルブルー人が増えてるんだってな」
その話はここしばらく世間で持ちきりになっている話題だ。
幼かった彼も今は立派に成長し、一部族を率いる族長として、若いながらも忙しい毎日を送っている。
キジャン族族長、ユーリィ・キジャン。
しかし彼は同時に、若いがゆえの好奇心もたっぷりと持ち合わせていた。
「一度、リアルブルーのハンターをもてなしてみたいな……いや、リアルブルーの話を聞いてみたいな」
彼の所属するキジャン族は、かのスコール族ともそれなりに親密な関係を保っている。あちらの族長とは年齢が比較的近いことも相まって、懇意にさせてもらっているのだ。その影響もあってか、リアルブルーにはなみなみならぬ興味を抱いていた。
もっとも、彼が幼いときに出会ったあのハンターの影響も当然ながら否定出来ない。
どちらにしろ、リアルブルーの話を聞いてみたい。
そんな思いが、彼の中には存在していた。
(そういえば……)
かつて聞いた、リアルブルーの食品の名前。
彼は当時カレーを知らなかったから、想像するだけしかできなかった。
当時から食べてみたいと思っていたが、周囲にはその作り方を知るものは生憎いない。都市部に行けば食べられるかもしれないが、族長という立場上、あまり部族から離れるわけにもいかない。
「……そっか。それなら、こちらに来てもらえばいいんじゃないか」
そして同時にリアルブルーの話を聞くことができれば、それはどんなに楽しいだろう。
よし、決めた。
彼は馬に乗ると、さっそくハンターズソサエティの支部へと向かった。
カレーパーティという名目で、ハンターたちと交流する機会を設けるために。
それは彼が幼いころの話。
――実は俺はね、リアルブルーの出身なんだよ。
その日、彼の部族に、そう言って笑う青年がやってきていた。
――リアルブルー!? すごい、ほんとうにあるんだ!
彼は顔を紅潮させながら、その青年の話を聞く。
――うん。こことは似ているけど、やっぱり違う世界だなって、そう思うよ。ときどき、無性に故郷の料理が食べたくなったりね。
青年は遠い目をしていた。
――ああ……カレーとか、何年くらい食べていないんだろう……。
カレー。
その単語は、彼の心を妙に掴んで離さなかった。
それから何年か後、サルヴァトーレ・ロッソの登場で、クリムゾンウェストはにわかに活気付く――。
●
「この間からリアルブルー人が増えてるんだってな」
その話はここしばらく世間で持ちきりになっている話題だ。
幼かった彼も今は立派に成長し、一部族を率いる族長として、若いながらも忙しい毎日を送っている。
キジャン族族長、ユーリィ・キジャン。
しかし彼は同時に、若いがゆえの好奇心もたっぷりと持ち合わせていた。
「一度、リアルブルーのハンターをもてなしてみたいな……いや、リアルブルーの話を聞いてみたいな」
彼の所属するキジャン族は、かのスコール族ともそれなりに親密な関係を保っている。あちらの族長とは年齢が比較的近いことも相まって、懇意にさせてもらっているのだ。その影響もあってか、リアルブルーにはなみなみならぬ興味を抱いていた。
もっとも、彼が幼いときに出会ったあのハンターの影響も当然ながら否定出来ない。
どちらにしろ、リアルブルーの話を聞いてみたい。
そんな思いが、彼の中には存在していた。
(そういえば……)
かつて聞いた、リアルブルーの食品の名前。
彼は当時カレーを知らなかったから、想像するだけしかできなかった。
当時から食べてみたいと思っていたが、周囲にはその作り方を知るものは生憎いない。都市部に行けば食べられるかもしれないが、族長という立場上、あまり部族から離れるわけにもいかない。
「……そっか。それなら、こちらに来てもらえばいいんじゃないか」
そして同時にリアルブルーの話を聞くことができれば、それはどんなに楽しいだろう。
よし、決めた。
彼は馬に乗ると、さっそくハンターズソサエティの支部へと向かった。
カレーパーティという名目で、ハンターたちと交流する機会を設けるために。
リプレイ本文
カレーという響きは、どうしてそんなにも心に響くものなのだろうか。
リアルブルーでは、ごく普通の料理だというのに。
……いや、ありふれているものだったからこそ、故郷を離れたこの世界で、求める人が多いのかもしれない。
●
そんなわけで。
『カレーというものを食べてみたい』という辺境部族の申し出に、多くのハンターたちが名乗りを上げたのだった。それを見た若者は喜びの声を上げる。
「おお……! すごいな、やっぱりハンターっていうのは。俺がキジャン族の族長、ユーリィ・キジャン。よろしくな!」
褐色の肌に黒い瞳、茶色い髪を長く三つ編みにしているその青年は、そう言って快活に笑った。とびきりの美形というわけではないが、中性的な容貌が妙に目を引く感じである。
ユーリィいわく、キジャン族は移動生活が多いらしい。今回も集落は少し離れたところにあるとかで、興味津々にやってきたのはそのうちの何割か、ということだった。
その中でも、こういうことはやはり子どもが好奇心旺盛なのか、半分弱は成人していない子ども達だ。
「ほら、挨拶しろよ?」
ユーリィに促されて、子ども達が明るい声で挨拶をする。
「「「よろしくおねがいしまーす!」」」
子ども達はそう言って、わっとハンターに近づこうとしたが――そこはユーリィにやんわりたしなめられた。
「これからカレーっていううまいもん作ってもらうんだから、おとなしくしてな」
さすがに若くても族長という立場だけあって、そういったカリスマ性のようなものがにじみ出ていた。
●
――さて、ハンターたちはと言うと。
集まった二十五人は、それぞれ考え込んでいた。
(カレーかぁ……むこうにいた頃はありふれてて気にもしなかったが、名前を聞いちまうとなあ)
ティーア・ズィルバーン(ka0122)は感慨深げに思う。手には持参した帝国産のじゃがいもを握って。確かに、じゃがいもはカレーに欠かせない具材のひとつだろう。Charlotte・V・K(ka0468)もまた、カレーを懐かしむ一人。軍人であった彼女にとって、カレーはよく世話になっていたものである。リアルブルーでは、曜日の感覚を忘れないようにと毎週一回はカレーを食べる……というような習慣があるのだとか。
「それに、カレー粉は肉などの臭みを取ってくれるから、随分助けられたものだ。……是非、クリムゾンウェストの皆にも味わってもらいたいな」
カレーに使われる調味料――いわゆるカレー粉は多種多様なスパイスを混ぜて作られる。この配合などで味付けもガラッと変わってしまうので、はじめて口にするであろうクリムゾンウェストの人々、特に依頼主であるキジャン族に好まれる味にせねばならない。カレーは辛いものという予備知識はあるようだが、実際にどんな味なのかというとそれを言葉で説明するのは難しい。
「ざくろもクリムゾンウェストに来てもう一年くらい経つけど、やっぱりカレーは恋しくて!」
総照れくさそうに笑うのは、少女と見まごう容姿の少年――時音 ざくろ(ka1250)。
「ざくろの故郷では、金曜日はカレーの日っていうくらい人気の食べ物だったなあ。……って、あれ? ルーはどこ?」
いつもカレールーを使ってのお手軽調理だったのだろう、普通に使っていたようなルーがなくて困惑している様子。しかしもともとカレー自体が普及していないこの世界でルーを求めるのは難しいというわけで。
一方、
「カレーというのは何やら美味しくて辛くて、痛くて、ドロドロな茶色の食べ物らしいですね……私、非常に楽しみです♪」
そんなことを笑みを浮かべて言うのはまだ幼さの残る少年常闇(ka0345)。リアルブルーの文化には興味津々だ。ここに来る前に『カレー』というもののイメージだけは聞いてあったのか、材料として使えるものがあるかあらかじめ町の人々に聞いて回り、
「何かものすごく辛いものって知りませんか? できればあの世が一瞬見られるくらいに辛ければいいのですが」
というリクエストを様々な店に願いこんだ挙句、リアルブルーで言うセイヨウカラシナの種子を見つけてきた。
「カレーは辛いものだと聞いて、こんなものを買ってきました。普段は湿布に使うんだそうですけどね♪ 美味しい料理、楽しみにしてますね♪」
実際のところそれはカレーにはあまり用いない材料ではあるのだが、何分まだ子どもであることと、善意からくる行為であること故に怒るわけにもいかない。それはありがたく受け取っておくことにした。
「ところでカレーというのは本当に美味い食べ物なのか? いや、ドワーフたちとの宴のときは兵器になっていたものだからな」
慎重にそう尋ねるのはヴァイス(ka0364)。ドワーフの宴というのは先日ドワーフ王が催したものだそうで、その時は匂いがすでに殺戮兵器とかしていたとか何とか。その際に参加していたドワーフの一人、ヴァール(ka1900)も重々しく頷く。
「うむ、あの時出されたものはあまりにも癖が強くてな。他のものはどうなのかと思って今回も参加してみたのだが」
そのときに煮込み料理の一種らしいとはわかったらしいが、何しろあまりにもあまりな出来だったらしく、今回はちゃんとした作り方も覚えて帰りたいらしい。それに対し、
「ああ――うん、普通に食べて美味しいと思うよ。まあ、辛いということもあって、多少は人を選ぶ可能性はあるけどね。味の好みや具の好みとかさ」
そう説明するのは十六夜・暁(ka0605)、リアルブルー出身の少女である。とはいっても小柄で年若いこともあって、まだまだ女性らしい体格とは言いがたいが。
「だからね、色々材料が必要なんだ。ハーブやスパイスはもちろんなんだけど、スープを作るための獣の骨や、具材としての野菜とか……あと、とろみを付けるための小麦粉や、味わいを深めるための葡萄酒なんかも欠かせないね」
もちろんそれは彼女が自作したことがあっての発言――ではないだろう。サラサラとまるで教本に書かれたままのような情報を口から出すということは、実際に作ったことがあるかというとむしろ逆であることが考えられる。
「作り方はちゃんと覚えてきてるから、大丈夫とは思うんだけど……ただ、スパイスがなかなか手に入らなくて」
暁は残念そうに言う。彼女の持ってきたのはハーブの類い、ローリエやタイム。スパイスに比べたら入手しやすい材料達だ。しかしヴァイス達にはそれでも十分すぎる情報だったのだろう、
「そういうことなら楽しみにして、料理の手伝いもさせてもらうぜ。荷物持ちとかなら十分担当できるしな」
笑って頷く。
「スパイスはもともとリゼリオでもあまり流通していないから、こればっかりは仕方ないよね」
こちらも少し残念そうに言うのは元軍人のユラン・ジラント(ka0770)。その容姿は幾分幼げに見えるが、実際のところはすでに成人済みである。
「こっちじゃ、カレー一つ作るのもほんとうに大変なのね。ふつーに食べられるようになったらいいなーとは思うんだけど……禁断症状が出る人も出かねないものね」
ユランのその言葉にぎょっとしたのはこなゆき(ka0960)。クリムゾンウェスト出身の、ごくふつう……とは言いがたいが、ハンターの女性である。
「カレーというのは、禁断症状が出るもの……なのですか?」
話に聞いたことはあっても、食べたことは当然ないわけで。だからこそ、楽しみにして今回は参加しているわけなのだけれど。
「まあ、人それぞれじゃないかしら? でもこんなことならば、もう少し生薬の知識を得ておくべきだったかもしれませんわね。とはいえ医師として、出来うる限りの協力は惜しみませんわ」
リアルブルー出身の医師――厳密にはまだ医大を卒業したばかりの研修医、ということになるが――、日下 菜摘(ka0881)はにっこりと笑顔を浮かべる。
というのも、カレーに使われる香辛料の多くが、リアルブルーで言う漢方薬の生薬と同じものなのだ。彼女はキジャン族の薬師や近隣を出入りしている商人などにも相談を持ちかけ、カレー粉作りに必要な香辛料の調達が可能かどうかを事前に持ちかけていた。
結果、菜摘は材料の一部をなんとか手に入れることができた。まるまる一揃え、というわけにはいかないが、それでも元が入手困難な品であることを考えると十分な量である。
(少なくとも、これでカレー独特の色にすることができるはず)
特にウコン――即ちターメリックが手に入ったのは僥倖であったといえるだろう。
「おや、これはいいものが手に入りましたね」
そう言いながら、天央 観智(ka0896)は横からひょいと覗きこんで頷いている。リアルブルーでは科学者の卵であった彼は、この地に転移したことで興味ある案件が魔法全般へと移っていたらしいが……。しかし、それゆえに持ちうる知識の分野は多岐にわたる。無論、カレーについても同様。おおまかな作り方などについては他人にもある程度はレクチャーできる。
「まずは玉ねぎをあめ色になるまで炒め、それから他の具材を入れたりするのですよ。そして煮こむんです、トロトロと弱火で、じっくりとね。リアルブルーではよく、野外に泊まるときに食べることの多い食べ物として、そして子どもからも好かれるメニューとして人気なんですよ」
クリムゾンウェストの人々にわかりやすく説明してやれば、おおっと声が上がる。期待の眼差しが広がる。
「なんや面白そうやな♪ もしかしたら流行るかもしれんし、チェックする価値はありそうやなぁ」
独特の言葉回しでニコニコと笑っているのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)。
(僕も思えば久々ですね……)
観智は懐かしそうに目を細めた。
「でも、」
そう言って楽しそうに言葉を紡ぐのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)。
「カレー、ってすごいんですねっ。こんなに、たくさんの人の心を惹きつけるんですから!」
わたしも協力は惜しみませんよとメリエはにっこり笑った。
「そういえば材料の仕入れに行くなら、うちも手伝うで。これでも目は肥えとるほうやし、必要なもんで手に入りやすそうなもんは仕入れることは十分できるはずや」
アカーシャはそう言って楽しそうに笑う。根っからの商人として育った彼女にとって、商いは得意分野だ。
結果として、何人かで仕入れに出かけることにした。
今ここにある材料や、個々の持ち寄ってきたものだけでは、やはり足りなかったのだ。
――結果。
ヴァイスやメリエ、アカーシャらも手伝っての買い出しは、おおむね成功したと言っていい。本来料理用として用いることのないスパイスのいくつかを薬草屋で発見し、値切って買うことも出来たので、満足な――とは行かないが、最低限の材料は揃えることが出来たのだ。
途中、メリエが迷子探しなどではぐれてしまい、少し時間を食ったけれど、これもまたハンターのなすべきことということと言えるから、別に文句をいうものもでなかった。
●
そんな中、キジャン族族長・ユーリィを見て目を輝かせているのは松岡 奈加(ka0988)。ユーリィが『(そこそこ)イケメン』という話を聞いて、
「そんな(そこそこ)イケメンにが食べたがっているものを、食べさせてあげない理由があるだろうか? いや、ないっ!(反語)」
と断言し、やってきた口である。ちなみに彼女、リアルブルー出身のようにも見えるがれっきとしたクリムゾンウェストの人間である。
しかし彼女が持ってきたのは――スプーン。手伝うよりも食べる気満々である。
(でもこういうときにイケメンとお近づきになれれば……!)
すごくわかりやすい。ちなみに他にもわかりやすい理由で今回のカレーパーティに参加した人はいる。
「なんだっていいけど、タダ飯なのよね。無料でご飯が食べられるなら行くしかないじゃない!」
エクラ教の信徒で布教のためにリゼリオ、そしてこの辺境までやってきたセリス・アルマーズ(ka1079)がそれだ。無論、キジャン族との交流や、カレーなる未知の食物の真相を知りたいという好奇心も大きい。
何しろあの屈強なドワーフたちが凄まじい兵器だと言っていたものこそがカレーなのだ。クリムゾンウェストにおいてカレーというものは当然ながら浸透していない。だから、食べ物らしいと言われても実際のところ自分の目で見て確かめたいのだ。
「あ、これはエクラ教の簡単な解説を載せたパンフレットなんですけど……」
セリスはきちんと自分の仕事もわかっている。それをキジャン族の若者に渡してみたが、彼らキジャンの民は祖霊信仰に重きをおいている一族なので、と説明された。
詳しく聞いてみると、キジャンの民はほとんどが霊闘士、あるいは聖導士としてヴォイドとの戦いに備えているらしい。族長たるユーリィももちろん戦うときは霊闘士としてその役目を果たすのだという。しかし、
「うちの部族の祖霊は実は鹿でしてね。戦うことよりも、いかにそれを回避するかに重きをおいているのですよ」
やんわりとそう説明された。昔からの信仰をそう簡単に捨てたりということはさすがにしづらいらしい。無論、複数の信仰を持つことは出来なくはないが、難しいのも事実だ。
それにしても部族というのは個々の特色があるものなのだろうが、キジャン族のそれはどうやら戦闘よりも回避を選んでいるということらしい。他にも特徴はあるのかもしれないが、わかりやすいといえばわかりやすいポリシーのようだった。
「ねえねえ、こっち来る……?」
一方で、子どもが多いということを考えて、その準備をしているハンターも何人かいる。シェリル・マイヤーズ(ka0509)は料理が苦手だから、それならばと急ごしらえの井桁のような枠をこしらえ、そこに数字を書いた板を取り付ける。そして呼び寄せた子どもたちに、言った。
「この球を、あの枠の数字にぶつける……。一緒に、あそぼ?」
同年代の――辺境で言う成人するかどうかくらいの年代の子どもたちに、シェリルは遊び方を説明する。いわゆるストラックアウトと呼ばれるものだ。ボールを投げ、板を割るようにする。細かなコントロールが求められるもので、リアルブルーではプロの野球選手ですらすべてを割り抜くのは難しいと言われているほどだ。
キジャン族の子どもたちは当然ながらそんな遊びは見たことも聞いたこともない。しかし体を動かして遊ぶのはもともと子どもの得意分野だ。一度試してみればあっという間にルールは飲み込めるし、体を動かすのを嫌がる子どもはなかなかいない。いつの間にかシェリルの作った簡易ストラックアウトには、子どもだけでなく大人も混じって遊んでいた。
(うん、子ども同士が仲良く出来るのはいいことだよね)
それを横目で見ながら、甘めのカレーをつくろうと挑戦しているのはハイネ・ブランシェ(ka1130)だ。カレーの材料としてりんごを持ち込んで、その甘味で辛い食べ物が苦手な人にも食べられるようにと工夫してみる。他の仲間がそれぞれ集めてきた材料を少しずつ使えば、それでも十分カレーらしきものにはなる。
「喜んでもらえるといいね」
少年はポツリと呟いて、そして微笑んだ。
●
ところでカレーはたいてい主食となるごはんやパンと一緒に食べることが多いわけだが。
「ちょちょ、ちょっと待ったー!?」
そんな声が響いて、思わず誰もがぎょっと振り返る。
そこでは、クリムゾンウェスト出身のお嬢様、金刀比良 十六那(ka1841)が洗剤を使ってコメを研ごうとしている真っ最中だった。顔を青ざめてそれを止めようとしているのは真田 八代(ka1751)。リアルブルー出身で、十六那のお目付け役……というよりもツッコミ役の青年である。何しろ八代はカレーについての知識はある程度あるものの、対する十六那の壊滅的な料理の実力には常々苦労していた。
何しろ野菜の切り方してヤバイ。じゃがいもの芽を取るという作業どころか、豪快にスパーンとじゃがいも真っ二つでいいのかしら、という状態なのである。本人は
「食べるのに覚悟はいらない予定よ……?」
と、なんとも不穏な発言をしていたり。自分は食べないのかというツッコミはしてはいけないらしい。
「いや、もうそんな問題じゃないからコレ。とりあえずイザヤさんは料理の手伝いは控えめに! な?」
焦った声で八代が言う。何しろ八代としては、自分の判断がカレーの結果を決めると認識していた。つまり、十六那をどうサポートするか、ということになるわけだが。しかしもうこの時点で半ば諦めの姿勢になってしまうのはどうしようもない問題であった。
下ごしらえの野菜の皮むきなどは、他にも手を貸す者が多い。
(カレーって、時折無性に食べたくなるのですよね……たくさん作れてしかも美味しい……さて、ここでのカレーは一体どんなものになるのかしら……?)
過去を多く語らぬ神秘的な雰囲気ただよう女性、白藤 黒枝(ka0695)はそんなことをぼんやり考えながら手を器用に動かしていく。また煮込み料理ということで、型くずれを防ぐための面取りを器用に行っているのはアルフェロア・アルヘイル(ka0568)。下ごしらえは任されたとばかりに、こちらもさくさくと手を動かしていく。見知らぬ料理に興味津々だが、作るのは料理を知っている人に任せたほうがいいだろう。その辺りはきちんとわきまえている。ついでに作り方を覚えられたら、とは思っているようだが。
スパイスの方は、薬師に借りた薬研を使い、菜摘と観智のふたりで必要な物を粉末状にしていく。料理なれした仲間たちで必要な量を融通し合い、つくり上げることになった。
基本的な作り方は暁の提案したものをベースに作る。
まず、ハーブと獣骨を煮込んでスープを作る。それと平行して、別の鍋では熱したバターに小麦粉を加えて丁寧にとかし、溶けきったものに葡萄酒を入れて煮こむ。これがいわゆる『ルー』だ。
さらに別の鍋でみじん切りにした野菜を炒める。よく火が通ったところで、先に作っておいたスープと先ほどの小麦粉を溶かしたルーを加え、更に煮込む。野菜がグズグズに溶けきったところでカラメルとスパイスを入れ、よくかき混ぜながら煮こむ。
こうすることで、リアルブルーでもお馴染みのとろみある『カレー』の出来上がり……となるのだ。なるはずなのだ。
スパイスの香りが鼻を刺激し、腹の底から空腹感を呼び起こす。
そしてまた別の鍋でこしらえているごはんや、ユランがメインになって作っているナンと呼ばれるパンの一種、それにティーアの提案で作っているじゃがいもとベーコンで作ったジャーマンポテトや、すりおろしたじゃがいもを使って作った『じゃがいもナンもどき』も頃合いよく完成の兆しが見えている。
また、カレーだけでは味気ないと思ったのだろうか、エルウィング・ヴァリエ(ka0814)やシャルロットは手早く作れる付け合せとしてのサラダをこしらえていた。エルウィングはクリムゾンウェスト出身なのでカレーのことはめっきりだが、それならばと立候補したのだ。子どもたちのいくらかも、その手伝いをまじめにこなしている。
作り方については、クリスティア・オルトワール(ka0131)が丁寧にメモをとっている。
(リアルブルーの料理ということでしたら、覚えて作ってあげたらあの子が喜ぶでしょうか……)
そんなことを思いながら作り方や材料をきちんとメモする。
「でも、複数の香辛料を混合して使うということなら、配合の比率などで風味も変わりそうですね。食材などの工夫次第で、自分流のカレーというものも追求することができるのでしょうか?」
クリスティアが尋ねると、十六那らのカレーの手伝いもしていたシャルロッテが手を動かしながら応じた。
「ああ、軍で食べるカレーは乗っている艦ごとに味が違うなど、よく言われていたな」
なるほど。そういえばハイネは子ども向けに辛味控えめのカレーを作っていると言っていたっけ。
食べて実際に確かめてみる、その価値は十分にありそうだ。
「そろそろメシの時間らしいな」
漂う香りに鼻をひくつかせながら、ユーリィが言えば、
「かれーってイイニオイなー」
そう言って目をキラキラと輝かせているのは黒の夢(ka0187)。スパイスの刺激的な香りがどうやらお気に召したらしい。
「ハンターたるもの栄養は付けられるときに付けねば……な! ユーリィちゃんも族長なら、力をいっぱいつけるのなー」
黒の夢は普段きのこを主に食べているため特にそう思っているらしい。
「ああ、まったくだな」
見知らぬリアルブルーの料理に興味津々なのは誰も同じ。
「あっ、私運ぶの手伝うねっ♪」
そう言いながらちゃっかりユーリィの隣をキープしたのは奈加。反対隣はといえば、
「ヘルメース商会のアカーシャっちゅうもんや。色々まけるさかい、是非是非ご贔屓に♪」
こちらは商魂たくましいアカーシャがゲットしたらしい。若い女の子二人に囲まれて、ユーリィもまんざらではない様子だが、
「まずはみんなで一口食べないとな」
そう言われ、少女たちは思わず顔を赤らめてコクリと頷く。その言い方が、妙に艶めいて見えたからかもしれない。
そうこうしているうちに全員の目の前に綺麗にカレーが並ぶ。余ったぶんはおかわり可能ということで、まだそれなりの量が残っていることを示した。
「よし、それじゃあ――」
いただきまーす!
気持ち良い挨拶が、広がった。
●
「そう言えば、ユーリィはカレーを知らないのにどうしてカレーパーティを?」
ユランが尋ねると、ユーリィは簡単に説明してくれた。かつてキジャン族の集落をたまたま訪れた転移者のハンターが、懐かしそうにカレーについて話していたということを。
「ああ……気持ちはわかる気がする」
リアルブルー出身のハンターたちは誰もが一瞬遠い目をした。遠くなってしまった故郷を思い返しているのだろうか。
「でもみんな料理上手ね。私にできることは、食べさせてあげることくらいかなっ♪」
そんなことを奈加がサラリと言うが、ユーリィはさすがにその言葉の裏の思惑に気づいたのだろう、曖昧に笑う程度でスルーしたけれど。
「でも、これは美味いな。この間のドワーフの宴のものに比べたら、随分味が違う」
ヴァールが頷くと、ヴァイスを始めとする若者たちはガツガツとかっ食らう。酒に合うかはわからないが、シャルロッテの持ち込んだビールと一緒に流しこむのはなかなか乙なものだ。
「葡萄酒よりもビールのほうがあうのか。庶民的だな」
酒好きにはありがたい話だ。
酔仙(ka1747)ももぐもぐとカレーを食べることに集中している。クリムゾンウェスト各地の酒の味を知っている彼女は、旅の先々で口にした料理と比べつつ、味わっているようで、
「うーん……これは食べたことない味わいですねぇ。この間のドワーフの殺人料理よりもずいぶんと美味しいし、使っている食材も庶民的。それに何より、羊肉のはずなのに臭みが殆ど無いっていうのが驚きです」
臭みをとっているのはカレーに用いている各種スパイスの働きだ。とはいえ、十六那の料理が危険というのは知っているのだろうか、最後に食べることにしたらしい。他の仲間達もその鍋にはなかなか近づいていないというのだから、不思議な話であるが。
ちなみに彼女の鍋を味見に果敢に挑戦した八代は――現在意識を失っていた。
「うん、懐かしい味だ」
嬉しそうに頷くのは暁。彼女の知恵が今回随分役に立ったのは事実だから、ありがたい話である。
「……」
一方のシェリルは食べてはいるものの言葉少な。
(楽しい、けど、どこか、後ろめたい……)
亡くなった両親を思い出して、ちょっとだけ鼻の奥がツンとなる。
「……いつかまた……ちゃんと、楽しいって、思える日が……」
来て欲しいのだろうか。それとも来てはいけないのだろうか。今のシェリルには判断がつかない。けれど、
「でも……人の笑顔は……いいな」
そう思うと、わずかに目を細めた。それは笑いたいからか、泣きたいからかは、わからないけれど。
「これがカレーなんやなぁ」
アカーシャは味をいちいち確認して平らげていく。独特の舌を刺激する辛さは、確かにやみつきになる人間がいるというのもわかる気がする。
(これは量産化できたら、ホンマに一儲けできるかもしれんな)
金勘定は積極的に。胸の中でほくそ笑みながら、また平らげる。いっぽう、
「エクラの教義を広めるのは難しそうだけど……でも、ここを足がかりにはしたいわね」
セリスはめげていない。この辺境の地では部族ごとの信仰というのが大事にされている――というのがなんとなくわかっただけでも儲けものだった。
「こっちのカレーのほうが食べやすいね」
キジャンの子どもたちがそういうのは、りんごの入った甘口カレー。子どもにはやはり辛さ控えめのほうが受けがいいらしい。
「まだあるから食べてね」
「うんっ」
ハイネの言葉にざくろも頷いているが、まあ気にしてはいけないのだろう。そうそう、とこなゆきが持ってきたのは家畜の乳。
「これを入れると、辛いものも少し和らぐそうですよ」
リアルブルー出身の『彼』に教えてもらった豆知識。複雑玄妙な香辛料の香りには刺激されるものの、辛いものが苦手な人には朗報だった。
「本当だ、この方がまろやかになる」
子どもたちも気に入った様子。
「……そういえばざくろちゃん、さっきはお手伝いに来なかったような気がするけど……まあ、いいわ」
アルフェロアが苦笑を浮かべているが、ざくろはやや引きつり気味。
「っ、別にざくろ、遊んでないよっ」
そう言ってみるものの、ふと頭を過るのは先程のこと。
(そう言えば、さっき子どもたちが言ってたの、どういうことなのかな?)
ざくろは子どもたちに尋ねられたのだ――
『お兄ちゃんはまだ子どもなの?』
と。
『ざくろ、男だからねっ?』
そう顔を赤らめて反論したが、そうしたら
『やっぱり子どもだ』
と言われたのだ。その根拠はよくわからないが、なんだかちょっとだけ違和感を感じたのは、たしかな話だった。
他の人が食べてから、常闇はカレーを口にする。
毒味役を他の人に任せた形だが、そのためやや冷めてしまった。それでもカレーは美味しくて、思わず少女は舌を巻く。
(こういう味もあるのですね……)
味わったことのない辛さにこくこく頷きながら平らげていく。でも決してまずくない。むしろ美味しいのだ。
「カレーというのはうまいんだなー」
黒の夢も満足そうにもぐもぐと平らげる。一口ごとがまるで初めて食べるかのように、笑顔を浮かべ、そして満足そうに頬に手を当てながら。もちろん超大盛りだ。
こっそりレシピをメモしていた黒の夢、自分でも再現できればと思っているようだが、道は険しいだろう。
それでも、と思う。
こうやって、作ることは出来たのだ。
材料の入手は困難だとしても、作れないはずがない。
だからこそ。
夢を広げるのは悪いことではないのだ。きっと。
●
「今日はどうもありがとな」
腹いっぱいカレーを喰らい、使った食器などを綺麗に洗ってから、ユーリィは感謝の礼をした。
「また今度、機会があったら会いたいものだな」
そう言って青年は、白い歯をにっと見せて笑う。こういう仕草はいかにも少年っぽさを残しており、年齢相応の雰囲気を出していた。
「おにいちゃん、おねえちゃん、またね!」
子どもたちも手を振る。
ハンター達も――手を振り返した。
願わくば、この関係が良好であり続けますよう。
ハンター達はそんなことを思いながら、キジャン族の元を後にしたのだった。
リアルブルーでは、ごく普通の料理だというのに。
……いや、ありふれているものだったからこそ、故郷を離れたこの世界で、求める人が多いのかもしれない。
●
そんなわけで。
『カレーというものを食べてみたい』という辺境部族の申し出に、多くのハンターたちが名乗りを上げたのだった。それを見た若者は喜びの声を上げる。
「おお……! すごいな、やっぱりハンターっていうのは。俺がキジャン族の族長、ユーリィ・キジャン。よろしくな!」
褐色の肌に黒い瞳、茶色い髪を長く三つ編みにしているその青年は、そう言って快活に笑った。とびきりの美形というわけではないが、中性的な容貌が妙に目を引く感じである。
ユーリィいわく、キジャン族は移動生活が多いらしい。今回も集落は少し離れたところにあるとかで、興味津々にやってきたのはそのうちの何割か、ということだった。
その中でも、こういうことはやはり子どもが好奇心旺盛なのか、半分弱は成人していない子ども達だ。
「ほら、挨拶しろよ?」
ユーリィに促されて、子ども達が明るい声で挨拶をする。
「「「よろしくおねがいしまーす!」」」
子ども達はそう言って、わっとハンターに近づこうとしたが――そこはユーリィにやんわりたしなめられた。
「これからカレーっていううまいもん作ってもらうんだから、おとなしくしてな」
さすがに若くても族長という立場だけあって、そういったカリスマ性のようなものがにじみ出ていた。
●
――さて、ハンターたちはと言うと。
集まった二十五人は、それぞれ考え込んでいた。
(カレーかぁ……むこうにいた頃はありふれてて気にもしなかったが、名前を聞いちまうとなあ)
ティーア・ズィルバーン(ka0122)は感慨深げに思う。手には持参した帝国産のじゃがいもを握って。確かに、じゃがいもはカレーに欠かせない具材のひとつだろう。Charlotte・V・K(ka0468)もまた、カレーを懐かしむ一人。軍人であった彼女にとって、カレーはよく世話になっていたものである。リアルブルーでは、曜日の感覚を忘れないようにと毎週一回はカレーを食べる……というような習慣があるのだとか。
「それに、カレー粉は肉などの臭みを取ってくれるから、随分助けられたものだ。……是非、クリムゾンウェストの皆にも味わってもらいたいな」
カレーに使われる調味料――いわゆるカレー粉は多種多様なスパイスを混ぜて作られる。この配合などで味付けもガラッと変わってしまうので、はじめて口にするであろうクリムゾンウェストの人々、特に依頼主であるキジャン族に好まれる味にせねばならない。カレーは辛いものという予備知識はあるようだが、実際にどんな味なのかというとそれを言葉で説明するのは難しい。
「ざくろもクリムゾンウェストに来てもう一年くらい経つけど、やっぱりカレーは恋しくて!」
総照れくさそうに笑うのは、少女と見まごう容姿の少年――時音 ざくろ(ka1250)。
「ざくろの故郷では、金曜日はカレーの日っていうくらい人気の食べ物だったなあ。……って、あれ? ルーはどこ?」
いつもカレールーを使ってのお手軽調理だったのだろう、普通に使っていたようなルーがなくて困惑している様子。しかしもともとカレー自体が普及していないこの世界でルーを求めるのは難しいというわけで。
一方、
「カレーというのは何やら美味しくて辛くて、痛くて、ドロドロな茶色の食べ物らしいですね……私、非常に楽しみです♪」
そんなことを笑みを浮かべて言うのはまだ幼さの残る少年常闇(ka0345)。リアルブルーの文化には興味津々だ。ここに来る前に『カレー』というもののイメージだけは聞いてあったのか、材料として使えるものがあるかあらかじめ町の人々に聞いて回り、
「何かものすごく辛いものって知りませんか? できればあの世が一瞬見られるくらいに辛ければいいのですが」
というリクエストを様々な店に願いこんだ挙句、リアルブルーで言うセイヨウカラシナの種子を見つけてきた。
「カレーは辛いものだと聞いて、こんなものを買ってきました。普段は湿布に使うんだそうですけどね♪ 美味しい料理、楽しみにしてますね♪」
実際のところそれはカレーにはあまり用いない材料ではあるのだが、何分まだ子どもであることと、善意からくる行為であること故に怒るわけにもいかない。それはありがたく受け取っておくことにした。
「ところでカレーというのは本当に美味い食べ物なのか? いや、ドワーフたちとの宴のときは兵器になっていたものだからな」
慎重にそう尋ねるのはヴァイス(ka0364)。ドワーフの宴というのは先日ドワーフ王が催したものだそうで、その時は匂いがすでに殺戮兵器とかしていたとか何とか。その際に参加していたドワーフの一人、ヴァール(ka1900)も重々しく頷く。
「うむ、あの時出されたものはあまりにも癖が強くてな。他のものはどうなのかと思って今回も参加してみたのだが」
そのときに煮込み料理の一種らしいとはわかったらしいが、何しろあまりにもあまりな出来だったらしく、今回はちゃんとした作り方も覚えて帰りたいらしい。それに対し、
「ああ――うん、普通に食べて美味しいと思うよ。まあ、辛いということもあって、多少は人を選ぶ可能性はあるけどね。味の好みや具の好みとかさ」
そう説明するのは十六夜・暁(ka0605)、リアルブルー出身の少女である。とはいっても小柄で年若いこともあって、まだまだ女性らしい体格とは言いがたいが。
「だからね、色々材料が必要なんだ。ハーブやスパイスはもちろんなんだけど、スープを作るための獣の骨や、具材としての野菜とか……あと、とろみを付けるための小麦粉や、味わいを深めるための葡萄酒なんかも欠かせないね」
もちろんそれは彼女が自作したことがあっての発言――ではないだろう。サラサラとまるで教本に書かれたままのような情報を口から出すということは、実際に作ったことがあるかというとむしろ逆であることが考えられる。
「作り方はちゃんと覚えてきてるから、大丈夫とは思うんだけど……ただ、スパイスがなかなか手に入らなくて」
暁は残念そうに言う。彼女の持ってきたのはハーブの類い、ローリエやタイム。スパイスに比べたら入手しやすい材料達だ。しかしヴァイス達にはそれでも十分すぎる情報だったのだろう、
「そういうことなら楽しみにして、料理の手伝いもさせてもらうぜ。荷物持ちとかなら十分担当できるしな」
笑って頷く。
「スパイスはもともとリゼリオでもあまり流通していないから、こればっかりは仕方ないよね」
こちらも少し残念そうに言うのは元軍人のユラン・ジラント(ka0770)。その容姿は幾分幼げに見えるが、実際のところはすでに成人済みである。
「こっちじゃ、カレー一つ作るのもほんとうに大変なのね。ふつーに食べられるようになったらいいなーとは思うんだけど……禁断症状が出る人も出かねないものね」
ユランのその言葉にぎょっとしたのはこなゆき(ka0960)。クリムゾンウェスト出身の、ごくふつう……とは言いがたいが、ハンターの女性である。
「カレーというのは、禁断症状が出るもの……なのですか?」
話に聞いたことはあっても、食べたことは当然ないわけで。だからこそ、楽しみにして今回は参加しているわけなのだけれど。
「まあ、人それぞれじゃないかしら? でもこんなことならば、もう少し生薬の知識を得ておくべきだったかもしれませんわね。とはいえ医師として、出来うる限りの協力は惜しみませんわ」
リアルブルー出身の医師――厳密にはまだ医大を卒業したばかりの研修医、ということになるが――、日下 菜摘(ka0881)はにっこりと笑顔を浮かべる。
というのも、カレーに使われる香辛料の多くが、リアルブルーで言う漢方薬の生薬と同じものなのだ。彼女はキジャン族の薬師や近隣を出入りしている商人などにも相談を持ちかけ、カレー粉作りに必要な香辛料の調達が可能かどうかを事前に持ちかけていた。
結果、菜摘は材料の一部をなんとか手に入れることができた。まるまる一揃え、というわけにはいかないが、それでも元が入手困難な品であることを考えると十分な量である。
(少なくとも、これでカレー独特の色にすることができるはず)
特にウコン――即ちターメリックが手に入ったのは僥倖であったといえるだろう。
「おや、これはいいものが手に入りましたね」
そう言いながら、天央 観智(ka0896)は横からひょいと覗きこんで頷いている。リアルブルーでは科学者の卵であった彼は、この地に転移したことで興味ある案件が魔法全般へと移っていたらしいが……。しかし、それゆえに持ちうる知識の分野は多岐にわたる。無論、カレーについても同様。おおまかな作り方などについては他人にもある程度はレクチャーできる。
「まずは玉ねぎをあめ色になるまで炒め、それから他の具材を入れたりするのですよ。そして煮こむんです、トロトロと弱火で、じっくりとね。リアルブルーではよく、野外に泊まるときに食べることの多い食べ物として、そして子どもからも好かれるメニューとして人気なんですよ」
クリムゾンウェストの人々にわかりやすく説明してやれば、おおっと声が上がる。期待の眼差しが広がる。
「なんや面白そうやな♪ もしかしたら流行るかもしれんし、チェックする価値はありそうやなぁ」
独特の言葉回しでニコニコと笑っているのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)。
(僕も思えば久々ですね……)
観智は懐かしそうに目を細めた。
「でも、」
そう言って楽しそうに言葉を紡ぐのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)。
「カレー、ってすごいんですねっ。こんなに、たくさんの人の心を惹きつけるんですから!」
わたしも協力は惜しみませんよとメリエはにっこり笑った。
「そういえば材料の仕入れに行くなら、うちも手伝うで。これでも目は肥えとるほうやし、必要なもんで手に入りやすそうなもんは仕入れることは十分できるはずや」
アカーシャはそう言って楽しそうに笑う。根っからの商人として育った彼女にとって、商いは得意分野だ。
結果として、何人かで仕入れに出かけることにした。
今ここにある材料や、個々の持ち寄ってきたものだけでは、やはり足りなかったのだ。
――結果。
ヴァイスやメリエ、アカーシャらも手伝っての買い出しは、おおむね成功したと言っていい。本来料理用として用いることのないスパイスのいくつかを薬草屋で発見し、値切って買うことも出来たので、満足な――とは行かないが、最低限の材料は揃えることが出来たのだ。
途中、メリエが迷子探しなどではぐれてしまい、少し時間を食ったけれど、これもまたハンターのなすべきことということと言えるから、別に文句をいうものもでなかった。
●
そんな中、キジャン族族長・ユーリィを見て目を輝かせているのは松岡 奈加(ka0988)。ユーリィが『(そこそこ)イケメン』という話を聞いて、
「そんな(そこそこ)イケメンにが食べたがっているものを、食べさせてあげない理由があるだろうか? いや、ないっ!(反語)」
と断言し、やってきた口である。ちなみに彼女、リアルブルー出身のようにも見えるがれっきとしたクリムゾンウェストの人間である。
しかし彼女が持ってきたのは――スプーン。手伝うよりも食べる気満々である。
(でもこういうときにイケメンとお近づきになれれば……!)
すごくわかりやすい。ちなみに他にもわかりやすい理由で今回のカレーパーティに参加した人はいる。
「なんだっていいけど、タダ飯なのよね。無料でご飯が食べられるなら行くしかないじゃない!」
エクラ教の信徒で布教のためにリゼリオ、そしてこの辺境までやってきたセリス・アルマーズ(ka1079)がそれだ。無論、キジャン族との交流や、カレーなる未知の食物の真相を知りたいという好奇心も大きい。
何しろあの屈強なドワーフたちが凄まじい兵器だと言っていたものこそがカレーなのだ。クリムゾンウェストにおいてカレーというものは当然ながら浸透していない。だから、食べ物らしいと言われても実際のところ自分の目で見て確かめたいのだ。
「あ、これはエクラ教の簡単な解説を載せたパンフレットなんですけど……」
セリスはきちんと自分の仕事もわかっている。それをキジャン族の若者に渡してみたが、彼らキジャンの民は祖霊信仰に重きをおいている一族なので、と説明された。
詳しく聞いてみると、キジャンの民はほとんどが霊闘士、あるいは聖導士としてヴォイドとの戦いに備えているらしい。族長たるユーリィももちろん戦うときは霊闘士としてその役目を果たすのだという。しかし、
「うちの部族の祖霊は実は鹿でしてね。戦うことよりも、いかにそれを回避するかに重きをおいているのですよ」
やんわりとそう説明された。昔からの信仰をそう簡単に捨てたりということはさすがにしづらいらしい。無論、複数の信仰を持つことは出来なくはないが、難しいのも事実だ。
それにしても部族というのは個々の特色があるものなのだろうが、キジャン族のそれはどうやら戦闘よりも回避を選んでいるということらしい。他にも特徴はあるのかもしれないが、わかりやすいといえばわかりやすいポリシーのようだった。
「ねえねえ、こっち来る……?」
一方で、子どもが多いということを考えて、その準備をしているハンターも何人かいる。シェリル・マイヤーズ(ka0509)は料理が苦手だから、それならばと急ごしらえの井桁のような枠をこしらえ、そこに数字を書いた板を取り付ける。そして呼び寄せた子どもたちに、言った。
「この球を、あの枠の数字にぶつける……。一緒に、あそぼ?」
同年代の――辺境で言う成人するかどうかくらいの年代の子どもたちに、シェリルは遊び方を説明する。いわゆるストラックアウトと呼ばれるものだ。ボールを投げ、板を割るようにする。細かなコントロールが求められるもので、リアルブルーではプロの野球選手ですらすべてを割り抜くのは難しいと言われているほどだ。
キジャン族の子どもたちは当然ながらそんな遊びは見たことも聞いたこともない。しかし体を動かして遊ぶのはもともと子どもの得意分野だ。一度試してみればあっという間にルールは飲み込めるし、体を動かすのを嫌がる子どもはなかなかいない。いつの間にかシェリルの作った簡易ストラックアウトには、子どもだけでなく大人も混じって遊んでいた。
(うん、子ども同士が仲良く出来るのはいいことだよね)
それを横目で見ながら、甘めのカレーをつくろうと挑戦しているのはハイネ・ブランシェ(ka1130)だ。カレーの材料としてりんごを持ち込んで、その甘味で辛い食べ物が苦手な人にも食べられるようにと工夫してみる。他の仲間がそれぞれ集めてきた材料を少しずつ使えば、それでも十分カレーらしきものにはなる。
「喜んでもらえるといいね」
少年はポツリと呟いて、そして微笑んだ。
●
ところでカレーはたいてい主食となるごはんやパンと一緒に食べることが多いわけだが。
「ちょちょ、ちょっと待ったー!?」
そんな声が響いて、思わず誰もがぎょっと振り返る。
そこでは、クリムゾンウェスト出身のお嬢様、金刀比良 十六那(ka1841)が洗剤を使ってコメを研ごうとしている真っ最中だった。顔を青ざめてそれを止めようとしているのは真田 八代(ka1751)。リアルブルー出身で、十六那のお目付け役……というよりもツッコミ役の青年である。何しろ八代はカレーについての知識はある程度あるものの、対する十六那の壊滅的な料理の実力には常々苦労していた。
何しろ野菜の切り方してヤバイ。じゃがいもの芽を取るという作業どころか、豪快にスパーンとじゃがいも真っ二つでいいのかしら、という状態なのである。本人は
「食べるのに覚悟はいらない予定よ……?」
と、なんとも不穏な発言をしていたり。自分は食べないのかというツッコミはしてはいけないらしい。
「いや、もうそんな問題じゃないからコレ。とりあえずイザヤさんは料理の手伝いは控えめに! な?」
焦った声で八代が言う。何しろ八代としては、自分の判断がカレーの結果を決めると認識していた。つまり、十六那をどうサポートするか、ということになるわけだが。しかしもうこの時点で半ば諦めの姿勢になってしまうのはどうしようもない問題であった。
下ごしらえの野菜の皮むきなどは、他にも手を貸す者が多い。
(カレーって、時折無性に食べたくなるのですよね……たくさん作れてしかも美味しい……さて、ここでのカレーは一体どんなものになるのかしら……?)
過去を多く語らぬ神秘的な雰囲気ただよう女性、白藤 黒枝(ka0695)はそんなことをぼんやり考えながら手を器用に動かしていく。また煮込み料理ということで、型くずれを防ぐための面取りを器用に行っているのはアルフェロア・アルヘイル(ka0568)。下ごしらえは任されたとばかりに、こちらもさくさくと手を動かしていく。見知らぬ料理に興味津々だが、作るのは料理を知っている人に任せたほうがいいだろう。その辺りはきちんとわきまえている。ついでに作り方を覚えられたら、とは思っているようだが。
スパイスの方は、薬師に借りた薬研を使い、菜摘と観智のふたりで必要な物を粉末状にしていく。料理なれした仲間たちで必要な量を融通し合い、つくり上げることになった。
基本的な作り方は暁の提案したものをベースに作る。
まず、ハーブと獣骨を煮込んでスープを作る。それと平行して、別の鍋では熱したバターに小麦粉を加えて丁寧にとかし、溶けきったものに葡萄酒を入れて煮こむ。これがいわゆる『ルー』だ。
さらに別の鍋でみじん切りにした野菜を炒める。よく火が通ったところで、先に作っておいたスープと先ほどの小麦粉を溶かしたルーを加え、更に煮込む。野菜がグズグズに溶けきったところでカラメルとスパイスを入れ、よくかき混ぜながら煮こむ。
こうすることで、リアルブルーでもお馴染みのとろみある『カレー』の出来上がり……となるのだ。なるはずなのだ。
スパイスの香りが鼻を刺激し、腹の底から空腹感を呼び起こす。
そしてまた別の鍋でこしらえているごはんや、ユランがメインになって作っているナンと呼ばれるパンの一種、それにティーアの提案で作っているじゃがいもとベーコンで作ったジャーマンポテトや、すりおろしたじゃがいもを使って作った『じゃがいもナンもどき』も頃合いよく完成の兆しが見えている。
また、カレーだけでは味気ないと思ったのだろうか、エルウィング・ヴァリエ(ka0814)やシャルロットは手早く作れる付け合せとしてのサラダをこしらえていた。エルウィングはクリムゾンウェスト出身なのでカレーのことはめっきりだが、それならばと立候補したのだ。子どもたちのいくらかも、その手伝いをまじめにこなしている。
作り方については、クリスティア・オルトワール(ka0131)が丁寧にメモをとっている。
(リアルブルーの料理ということでしたら、覚えて作ってあげたらあの子が喜ぶでしょうか……)
そんなことを思いながら作り方や材料をきちんとメモする。
「でも、複数の香辛料を混合して使うということなら、配合の比率などで風味も変わりそうですね。食材などの工夫次第で、自分流のカレーというものも追求することができるのでしょうか?」
クリスティアが尋ねると、十六那らのカレーの手伝いもしていたシャルロッテが手を動かしながら応じた。
「ああ、軍で食べるカレーは乗っている艦ごとに味が違うなど、よく言われていたな」
なるほど。そういえばハイネは子ども向けに辛味控えめのカレーを作っていると言っていたっけ。
食べて実際に確かめてみる、その価値は十分にありそうだ。
「そろそろメシの時間らしいな」
漂う香りに鼻をひくつかせながら、ユーリィが言えば、
「かれーってイイニオイなー」
そう言って目をキラキラと輝かせているのは黒の夢(ka0187)。スパイスの刺激的な香りがどうやらお気に召したらしい。
「ハンターたるもの栄養は付けられるときに付けねば……な! ユーリィちゃんも族長なら、力をいっぱいつけるのなー」
黒の夢は普段きのこを主に食べているため特にそう思っているらしい。
「ああ、まったくだな」
見知らぬリアルブルーの料理に興味津々なのは誰も同じ。
「あっ、私運ぶの手伝うねっ♪」
そう言いながらちゃっかりユーリィの隣をキープしたのは奈加。反対隣はといえば、
「ヘルメース商会のアカーシャっちゅうもんや。色々まけるさかい、是非是非ご贔屓に♪」
こちらは商魂たくましいアカーシャがゲットしたらしい。若い女の子二人に囲まれて、ユーリィもまんざらではない様子だが、
「まずはみんなで一口食べないとな」
そう言われ、少女たちは思わず顔を赤らめてコクリと頷く。その言い方が、妙に艶めいて見えたからかもしれない。
そうこうしているうちに全員の目の前に綺麗にカレーが並ぶ。余ったぶんはおかわり可能ということで、まだそれなりの量が残っていることを示した。
「よし、それじゃあ――」
いただきまーす!
気持ち良い挨拶が、広がった。
●
「そう言えば、ユーリィはカレーを知らないのにどうしてカレーパーティを?」
ユランが尋ねると、ユーリィは簡単に説明してくれた。かつてキジャン族の集落をたまたま訪れた転移者のハンターが、懐かしそうにカレーについて話していたということを。
「ああ……気持ちはわかる気がする」
リアルブルー出身のハンターたちは誰もが一瞬遠い目をした。遠くなってしまった故郷を思い返しているのだろうか。
「でもみんな料理上手ね。私にできることは、食べさせてあげることくらいかなっ♪」
そんなことを奈加がサラリと言うが、ユーリィはさすがにその言葉の裏の思惑に気づいたのだろう、曖昧に笑う程度でスルーしたけれど。
「でも、これは美味いな。この間のドワーフの宴のものに比べたら、随分味が違う」
ヴァールが頷くと、ヴァイスを始めとする若者たちはガツガツとかっ食らう。酒に合うかはわからないが、シャルロッテの持ち込んだビールと一緒に流しこむのはなかなか乙なものだ。
「葡萄酒よりもビールのほうがあうのか。庶民的だな」
酒好きにはありがたい話だ。
酔仙(ka1747)ももぐもぐとカレーを食べることに集中している。クリムゾンウェスト各地の酒の味を知っている彼女は、旅の先々で口にした料理と比べつつ、味わっているようで、
「うーん……これは食べたことない味わいですねぇ。この間のドワーフの殺人料理よりもずいぶんと美味しいし、使っている食材も庶民的。それに何より、羊肉のはずなのに臭みが殆ど無いっていうのが驚きです」
臭みをとっているのはカレーに用いている各種スパイスの働きだ。とはいえ、十六那の料理が危険というのは知っているのだろうか、最後に食べることにしたらしい。他の仲間達もその鍋にはなかなか近づいていないというのだから、不思議な話であるが。
ちなみに彼女の鍋を味見に果敢に挑戦した八代は――現在意識を失っていた。
「うん、懐かしい味だ」
嬉しそうに頷くのは暁。彼女の知恵が今回随分役に立ったのは事実だから、ありがたい話である。
「……」
一方のシェリルは食べてはいるものの言葉少な。
(楽しい、けど、どこか、後ろめたい……)
亡くなった両親を思い出して、ちょっとだけ鼻の奥がツンとなる。
「……いつかまた……ちゃんと、楽しいって、思える日が……」
来て欲しいのだろうか。それとも来てはいけないのだろうか。今のシェリルには判断がつかない。けれど、
「でも……人の笑顔は……いいな」
そう思うと、わずかに目を細めた。それは笑いたいからか、泣きたいからかは、わからないけれど。
「これがカレーなんやなぁ」
アカーシャは味をいちいち確認して平らげていく。独特の舌を刺激する辛さは、確かにやみつきになる人間がいるというのもわかる気がする。
(これは量産化できたら、ホンマに一儲けできるかもしれんな)
金勘定は積極的に。胸の中でほくそ笑みながら、また平らげる。いっぽう、
「エクラの教義を広めるのは難しそうだけど……でも、ここを足がかりにはしたいわね」
セリスはめげていない。この辺境の地では部族ごとの信仰というのが大事にされている――というのがなんとなくわかっただけでも儲けものだった。
「こっちのカレーのほうが食べやすいね」
キジャンの子どもたちがそういうのは、りんごの入った甘口カレー。子どもにはやはり辛さ控えめのほうが受けがいいらしい。
「まだあるから食べてね」
「うんっ」
ハイネの言葉にざくろも頷いているが、まあ気にしてはいけないのだろう。そうそう、とこなゆきが持ってきたのは家畜の乳。
「これを入れると、辛いものも少し和らぐそうですよ」
リアルブルー出身の『彼』に教えてもらった豆知識。複雑玄妙な香辛料の香りには刺激されるものの、辛いものが苦手な人には朗報だった。
「本当だ、この方がまろやかになる」
子どもたちも気に入った様子。
「……そういえばざくろちゃん、さっきはお手伝いに来なかったような気がするけど……まあ、いいわ」
アルフェロアが苦笑を浮かべているが、ざくろはやや引きつり気味。
「っ、別にざくろ、遊んでないよっ」
そう言ってみるものの、ふと頭を過るのは先程のこと。
(そう言えば、さっき子どもたちが言ってたの、どういうことなのかな?)
ざくろは子どもたちに尋ねられたのだ――
『お兄ちゃんはまだ子どもなの?』
と。
『ざくろ、男だからねっ?』
そう顔を赤らめて反論したが、そうしたら
『やっぱり子どもだ』
と言われたのだ。その根拠はよくわからないが、なんだかちょっとだけ違和感を感じたのは、たしかな話だった。
他の人が食べてから、常闇はカレーを口にする。
毒味役を他の人に任せた形だが、そのためやや冷めてしまった。それでもカレーは美味しくて、思わず少女は舌を巻く。
(こういう味もあるのですね……)
味わったことのない辛さにこくこく頷きながら平らげていく。でも決してまずくない。むしろ美味しいのだ。
「カレーというのはうまいんだなー」
黒の夢も満足そうにもぐもぐと平らげる。一口ごとがまるで初めて食べるかのように、笑顔を浮かべ、そして満足そうに頬に手を当てながら。もちろん超大盛りだ。
こっそりレシピをメモしていた黒の夢、自分でも再現できればと思っているようだが、道は険しいだろう。
それでも、と思う。
こうやって、作ることは出来たのだ。
材料の入手は困難だとしても、作れないはずがない。
だからこそ。
夢を広げるのは悪いことではないのだ。きっと。
●
「今日はどうもありがとな」
腹いっぱいカレーを喰らい、使った食器などを綺麗に洗ってから、ユーリィは感謝の礼をした。
「また今度、機会があったら会いたいものだな」
そう言って青年は、白い歯をにっと見せて笑う。こういう仕草はいかにも少年っぽさを残しており、年齢相応の雰囲気を出していた。
「おにいちゃん、おねえちゃん、またね!」
子どもたちも手を振る。
ハンター達も――手を振り返した。
願わくば、この関係が良好であり続けますよう。
ハンター達はそんなことを思いながら、キジャン族の元を後にしたのだった。
依頼結果
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カレーパーティーの相談 十六夜・暁(ka0605) 人間(リアルブルー)|12才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/06/24 03:41:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/23 23:20:48 |