ゲスト
(ka0000)
【王戦】門から至る者
マスター:赤山優牙
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/14 09:00
- 完成日
- 2019/02/16 17:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある森の中
純潔なる血を捧げ、悪魔と契約する。
残忍な男は魔術を続けていた。得るものは不老不死と巨万の富。
「ククク……光栄に思え、お前は贄として選ばれたのだ」
森の中で、奇妙な魔法陣が描かれ、その中央に一人の娘が縛られて転がっていた。
娘は涙を流し、何かを懇願しているようだったが、叫び続けて声が枯れているようで、呻くようにしか聞こえない。
「お前の血であれば、悪魔も満足するだろう」
狂気に満ちた目で娘を見下ろす。
男は“自称”魔術師だった。覚醒者ではない。
村に住んでいた魔術師が死んで、その家の片付けをしている間に、色々と本を読み漁った。
その中に、悪魔召喚の本があった。真偽は分からないが、野望を秘めた男にとって、縋りたいものであったのは事実だ。
「これで、これで、俺は全てを克服する。恐怖も飢えも!」
取り出したダガーの先端がキラっと光った。
「やだ! やだぁ! 助けて!」
「無駄に声を出すな。両親に言われなかったのかい? 夜更けに一人で外に出ると危ないって」
「お願いです。助けて下さい」
男は不気味な笑みを浮かべて応えると、ダガーの先端の少女の顔に撫でるように当てる。
スーと真っ赤な血が滲んだ。
「ダメだよ。お前は、贄なんだから!」
そう言って、娘の胸にダガーを突き立てた。
噴き出る鮮血。声にならない叫びをあげて、娘は跳ねる。
「痛い! 痛い! やめて!」
「やめないよ。何を言ってるんだい。これは儀式なんだから」
幾度もなくダガーを突き刺す男。
娘は絶望に満ちた瞳でただ、なすがままに刺され続ける。
「誰か……誰か、助けて……」
か細い声が惨状の中でかき消される。
そこに、突如として森の中から声が響いた。
「それはきっと、ダメだと思うよぉ~。だって、そんな儀式、ミュールは見た事ないしぃ」
男は二重に驚いた。
まず誰かに見つかったという事が一つ。そして、もう一つは、その声の主が幼い少女だったからだ。
「なんだ、君も贄になりたいのかい?」
「うーん。ミュールはどっちかというと、おじさんが願っている方の悪魔だと思うけどぉ」
「悪魔! 本当に、悪魔なのか? ついに、悪魔が出てきたのか!」
感動のあまり、血まみれのダガーを落とした男。
「悪魔よ、儀式に則り、俺の願いを!」
「おじさん、黙ってて。ミュールを呼んだのは、そこのお姉さんなんだからぁ」
スタスタと近づくとミュールは負のマテリアルを操り、娘を縛っていた縄を断ち切る。
ようやく自由になった娘だが、ぐったりとして動けないようだった。
「……お姉ちゃん、もうダメだね」
血を流し過ぎたのだろう。意識が辛うじて残っているようだが……。
ヒューヒューと虫の息でミュールを見つめる娘。
「お姉ちゃんの願い、叶えてあげられるよ。根骸の扉をお姉ちゃんの手で地面に突き刺せばいいから」
ミュールはそう告げると立札へと【変容】する。
娘は眼前に落ちた立札を掴むと最後の気力を振り絞り、杖代わりに立ち上がった。
「な、なんだっていうんだ!」
男が狼狽えながら叫ぶ。
「絶対に許さないから!」
一方、娘は血で真っ赤に染まる立札を大地に倒れるように突き刺した。
その直後、負のマテリアルが漆黒の光を放ちつつ、立札が内側から展開し、外縁部が砕けていく。
「お、おぉぉ……こ、これが、悪魔の世界!? なんと、神秘的な!」
立札が展開して出現した“門”の向こう側を見た男は感動のあまり立ち尽くした。
見た事もない建物の形状。敷き詰められた石材に描かれた精密な模様。
およそ、悪魔が住むような世界ではない。それは、まるで――。
次の瞬間、男の首が刎ね飛んだ。
“門”から出現した漆黒の幼女の姿をした歪虚が負のマテリアルの刃を放ったのだ。
男の胴体が崩れ落ちた傍、砕け散った立札には、真っ赤な字で『ジャマル』と描かれていた。
●フライングシスティーナ号にて
アルテミス小隊の執務室で紡伎 希(kz0174)は事務仕事に追われていた。
小隊の実戦部隊はハンター達に任せているが、小隊活動を支える後方支援の管理も、希の仕事だからだ。
「これは……小隊の仕事なのでしょうか……」
一枚の書類を手に取る希。
王国東南部のある村からの通報だった。
悪魔崇拝している男が怪しげな術をやっているらしいという事と、村人の一人が行方不明になっている事。
近隣の村や街道でも行方不明の話があり、真相を調べて欲しいという事だった。
本来であれば、村を治めている領主の仕事だろうが――。
「――漆黒のドレスを着た幼い少女の姿も目撃されている」
事件の概要の最後に書かれている文章を希は口にした。
頭の中を過ったのはミュール(kz0259)だった。あの幼女が目撃されているのであれば、確かに、小隊を名指ししてくるわけだ。
ミュール……正確にいうと、その分体が王国各地で目撃されている。
そして、時には“門”を開き、傲慢歪虚を出現させてくるのだ。
考え込む希に、命令書を渡しに来た騎士ノセヤが言う。
「“門”に関しては謎が多いです。調べられる機会は貴重です」
「……分かりました。つまり、ハンター達には『今回の事件』と『ミュールに関する事件』の両方を調べてもらうという事ですね」
「その通りです。ミュールと関係なければ、それはそれで構いませんので」
ノセヤはそう告げると、お願いしますねと言い残し、部屋から出て行った。
フライングシスティーナ号の改造に関する事で、彼も多忙なのだ。
「船が飛べるようになるまで“私達”も身動きが取れないみたいです」
希は【魔装】の鞘に向かって、そう呼び掛けるのであった。
純潔なる血を捧げ、悪魔と契約する。
残忍な男は魔術を続けていた。得るものは不老不死と巨万の富。
「ククク……光栄に思え、お前は贄として選ばれたのだ」
森の中で、奇妙な魔法陣が描かれ、その中央に一人の娘が縛られて転がっていた。
娘は涙を流し、何かを懇願しているようだったが、叫び続けて声が枯れているようで、呻くようにしか聞こえない。
「お前の血であれば、悪魔も満足するだろう」
狂気に満ちた目で娘を見下ろす。
男は“自称”魔術師だった。覚醒者ではない。
村に住んでいた魔術師が死んで、その家の片付けをしている間に、色々と本を読み漁った。
その中に、悪魔召喚の本があった。真偽は分からないが、野望を秘めた男にとって、縋りたいものであったのは事実だ。
「これで、これで、俺は全てを克服する。恐怖も飢えも!」
取り出したダガーの先端がキラっと光った。
「やだ! やだぁ! 助けて!」
「無駄に声を出すな。両親に言われなかったのかい? 夜更けに一人で外に出ると危ないって」
「お願いです。助けて下さい」
男は不気味な笑みを浮かべて応えると、ダガーの先端の少女の顔に撫でるように当てる。
スーと真っ赤な血が滲んだ。
「ダメだよ。お前は、贄なんだから!」
そう言って、娘の胸にダガーを突き立てた。
噴き出る鮮血。声にならない叫びをあげて、娘は跳ねる。
「痛い! 痛い! やめて!」
「やめないよ。何を言ってるんだい。これは儀式なんだから」
幾度もなくダガーを突き刺す男。
娘は絶望に満ちた瞳でただ、なすがままに刺され続ける。
「誰か……誰か、助けて……」
か細い声が惨状の中でかき消される。
そこに、突如として森の中から声が響いた。
「それはきっと、ダメだと思うよぉ~。だって、そんな儀式、ミュールは見た事ないしぃ」
男は二重に驚いた。
まず誰かに見つかったという事が一つ。そして、もう一つは、その声の主が幼い少女だったからだ。
「なんだ、君も贄になりたいのかい?」
「うーん。ミュールはどっちかというと、おじさんが願っている方の悪魔だと思うけどぉ」
「悪魔! 本当に、悪魔なのか? ついに、悪魔が出てきたのか!」
感動のあまり、血まみれのダガーを落とした男。
「悪魔よ、儀式に則り、俺の願いを!」
「おじさん、黙ってて。ミュールを呼んだのは、そこのお姉さんなんだからぁ」
スタスタと近づくとミュールは負のマテリアルを操り、娘を縛っていた縄を断ち切る。
ようやく自由になった娘だが、ぐったりとして動けないようだった。
「……お姉ちゃん、もうダメだね」
血を流し過ぎたのだろう。意識が辛うじて残っているようだが……。
ヒューヒューと虫の息でミュールを見つめる娘。
「お姉ちゃんの願い、叶えてあげられるよ。根骸の扉をお姉ちゃんの手で地面に突き刺せばいいから」
ミュールはそう告げると立札へと【変容】する。
娘は眼前に落ちた立札を掴むと最後の気力を振り絞り、杖代わりに立ち上がった。
「な、なんだっていうんだ!」
男が狼狽えながら叫ぶ。
「絶対に許さないから!」
一方、娘は血で真っ赤に染まる立札を大地に倒れるように突き刺した。
その直後、負のマテリアルが漆黒の光を放ちつつ、立札が内側から展開し、外縁部が砕けていく。
「お、おぉぉ……こ、これが、悪魔の世界!? なんと、神秘的な!」
立札が展開して出現した“門”の向こう側を見た男は感動のあまり立ち尽くした。
見た事もない建物の形状。敷き詰められた石材に描かれた精密な模様。
およそ、悪魔が住むような世界ではない。それは、まるで――。
次の瞬間、男の首が刎ね飛んだ。
“門”から出現した漆黒の幼女の姿をした歪虚が負のマテリアルの刃を放ったのだ。
男の胴体が崩れ落ちた傍、砕け散った立札には、真っ赤な字で『ジャマル』と描かれていた。
●フライングシスティーナ号にて
アルテミス小隊の執務室で紡伎 希(kz0174)は事務仕事に追われていた。
小隊の実戦部隊はハンター達に任せているが、小隊活動を支える後方支援の管理も、希の仕事だからだ。
「これは……小隊の仕事なのでしょうか……」
一枚の書類を手に取る希。
王国東南部のある村からの通報だった。
悪魔崇拝している男が怪しげな術をやっているらしいという事と、村人の一人が行方不明になっている事。
近隣の村や街道でも行方不明の話があり、真相を調べて欲しいという事だった。
本来であれば、村を治めている領主の仕事だろうが――。
「――漆黒のドレスを着た幼い少女の姿も目撃されている」
事件の概要の最後に書かれている文章を希は口にした。
頭の中を過ったのはミュール(kz0259)だった。あの幼女が目撃されているのであれば、確かに、小隊を名指ししてくるわけだ。
ミュール……正確にいうと、その分体が王国各地で目撃されている。
そして、時には“門”を開き、傲慢歪虚を出現させてくるのだ。
考え込む希に、命令書を渡しに来た騎士ノセヤが言う。
「“門”に関しては謎が多いです。調べられる機会は貴重です」
「……分かりました。つまり、ハンター達には『今回の事件』と『ミュールに関する事件』の両方を調べてもらうという事ですね」
「その通りです。ミュールと関係なければ、それはそれで構いませんので」
ノセヤはそう告げると、お願いしますねと言い残し、部屋から出て行った。
フライングシスティーナ号の改造に関する事で、彼も多忙なのだ。
「船が飛べるようになるまで“私達”も身動きが取れないみたいです」
希は【魔装】の鞘に向かって、そう呼び掛けるのであった。
リプレイ本文
●
アルテミス小隊からの調査という事で、依頼を受けたハンター達は調査場所である村に到着した。
調査拠点として借りた空き家の周囲に野次馬の気配が無い事を確認し、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が静かに告げる。
「悪魔崇拝している男が怪しげな術をやっている事、村人が一人行方不明な事、更に近隣の村や街道でも行方不明の話……そして、漆黒のドレスを着た幼い少女の姿……」
彼女は語りながら依頼の同行者を見渡しながら続けた。
「ほんとは全く何の因果もない関係かもしれないが、村周辺で起きていることが仮に一つに繋がっているのなら……」
「これも、傲慢――アイテルカイト――が絡む事件かもしれないという事か」
瀬崎・統夜(ka5046)がインカムを調整しながら応える。
傲慢王イヴに最も近いと自称するミュール(kz0259)は、漆黒のドレスを着ていた。
王国各地で目撃されるミュールの分体も基本的には同じ姿のはずだ。
「悪魔崇拝なんてオカルトめいた事件、歪虚か何かの仕業に違いないもの……退魔もニンジャにお任せなんだから!」
威勢よく宣言しているのはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)だった。
一方、その隣で十色 乃梛(ka5902)が指を口元に当てて、視線を部屋の隅へと向けている。
「人探しは……昔頑張ったなぁ……」
今回、その頑張った経験が活かされる依頼であれば良い事だが……。
一行の話を聞き、ヴァン・ヴァルディア(ka6906)が何度も頷く。
「歪虚が出てきたら、退治するが……まずは調査じゃな!」
とりあえず、不気味な事件を解決する事が先決だ。
その為に何をすべきか――それをハンター達は既に認識していた。
「儂は、まず村長を当たるとするかの!」
ヴァンがドンと胸を張って力強く宣言する。
やはり、村の事なのだから、村長から得られる情報は多いだろう。
「私も村長の所に一緒に行きます! ニンジャの話術を駆使して真相を聞き取ります!」
「それじゃ、ルンルンさんとヴァンさんは村長の所だね。私は……行方不明になった女性の家族の所かな。その後、目撃情報の確認ね」
乃梛は資料として渡された地図を手にしながら仲間達に伝える。
全員で同じ場所を調査するよりも、分担しての調査の方が効率的なはずだ。
「それなら、俺はミュールと思しき相手の調査を進めよう」
窓の外の景色――正確には自分の魔導バイク――を眺めながら、統夜は言った。
ミュールは特徴的な姿をしているので、足で稼げば何かしらの情報は得られるかもしれないと思う。
「では、私は近隣の村に行き、行方不明になった人の事を調べるさ。ある程度、調べたら、またここに集合しよう」
アルトの提案に全員が頷くのであった。
●
立場的には当然の事だろうが、村長は聞き取りに協力的だった。
「……なるほどじゃ。その男は周囲との関係が馴染めなかったという事じゃな」
村長から悪魔崇拝する男の話を聞いてヴァンがまとめるように言った。
なんでも村の中でも浮いていたようで、畑仕事をやったりやらなかったりとしていたという。
また、家の周囲に怪しげな魔法陣を描いたり、犬猫の刺殺体が放置してあったという。
「悪魔崇拝をしていると認められた時期に、村で何か変わった事が起きなかったですか?」
ルンルンの質問に村長は頭を捻りながら思い出すように唸る。
「うーん。多分、半年ほど前かな……村に住んでいた魔術師が亡くなった後位でしょうか」
「魔術師? すいません、私細かい事が気になって……」
「いえいえ。この村が気に入って住み着いた高齢の魔術師がいたのです。天寿を全うして亡くなったんですね」
村長の話しぶりを見るに、その魔術師が嫌われていたというようには見えなかった。
「男がどんな愚痴を言っておったとか、そういう事もわかると良いかの!」
ヴァンの台詞に村長がポンと手を叩いた。
「それなら、男の家を教えますよ。村の者は不気味がって近寄らないので、調べて頂けるのなら助かりますし」
「よし、行ってみるかの。ちんまい作業は苦手じゃが、何か分かるかもしれんしの!」
力強いヴァンの話にルンルンが豊満な胸を大きく揺らしながら頷いた。
乃梛は行方不明になった女性の家族の家に聞き取りに行っていた。
いつ頃居なくなったのか、どこに行こうとしていたのか、それらを確認する事で足取りを調べるつもりだった。
「数日前の夜のうちに、か……」
その女性は知り合いの家に行く予定だったという。
夜は人の出入りが少なく、目撃者もいないようだった。
「一応、悪魔崇拝している男の家の場所は分かったけど……きっと、何かあるはずだよね」
独り言を呟きながら、乃梛も男の家へと足を向けるのであった。
一方、瀬崎は魔導バイクで村近くの街道を疾走していた。
そうしては漆黒のドレスを着た幼い少女の話を聞いて回っているのだ。
(……やはり、目撃情報があるな)
数が多いという訳ではないが、10人にあたれば、一人か二人は反応がある頻度だ。
目撃者の話によると街道から外れた所を、機嫌良さそうな鼻歌を流しつつ、跳ねまわっている漆黒のドレス姿の幼女だという。
(やはり、ミュールに違いないか。すると、今回の事件はまた傲慢が絡むとみていいだろう)
キキッと魔導バイクを止め、周囲を見渡す。特に敵の気配は感じられなかった。
ミュール分体は【変容】して傲慢の歪虚を召喚する能力を持っている。
先日、古都アークエルス近くの街道で遭遇したミュールとの戦いを思い出した。
(……愉快犯とは思えないな)
何か目的があっての事なのだろう。それが何かまで分からないが……。
ママチャリで街道を爆走していたアルトも聞き取りを行っていた。
アルトの場合は、ミュールではなく、行方不明になった人を最後に見た日時と場所の聞き込みだった。
「やっぱり、夜か……まぁ、ばれないように人を攫っているのなら、当然か」
手元の地図には人が消えたという場所がマーカーされている。
飛びぬけて遠いという事はなく、それらは、拠点とした村を中心に、ほぼ同一距離圏内にあった。
「どこかに連れ去るならば、適度な距離内じゃないと運べないはず……もし、村でなければ……」
夜とはいえ、人を運んでいれば目撃されるリスクはある。
なら、リスクを冒して村には運べない……そうなると、村以外の場所という事になる。
「……村の近くに森か……」
ジッと地図を見つめながら、アルトの頭の中にある可能性が過っていた。
悪魔崇拝している男の家にヴァンとルンルン、乃梛の3人がやって来た。
村から少し外れた場所に小さく建っている家だが、村長の話通り、魔法陣が描かれ動物の骸骨が転がっていたりと不気味だった。
「……家の中にはいないようじゃな。村長の許可もある事じゃ!」
口元を緩めたヴァンがそう言いながら家の扉を開いた。
アルテミス小隊には歪虚に対する調査権限が与えられているからこそできる事でもあるが。
「うぅー。臭いが凄いです!」
ルンルンが鼻を抑えながら家に入る。
「これは酷いね……」
ジト目になりながら乃梛も言った。
長居しているだけで気が可笑しくなりそうな中、ヴァンがずんずんと家の中に進む。
「……ふむ。どれどれ……おぬしが言っておったのはこれじゃろう?」
散らかった机の上に広げてある絵を見つけ、乃梛に視線を向ける。
その絵は男が描いたと思われる森の中の魔法陣が記してあった。
「悪魔崇拝といえば召喚儀式。そういうものは大体環境に条件があるから、その条件を照らし合わせると、いくらか目処が立つんじゃないかしら?」
「特徴的な木が描いてありますね!」
ビシっとルンルンが指を差す。
幹がグネっと奇妙に曲がっている木が6本。その木々を結ぶように魔法陣が描かれていた。
●
悪魔崇拝の男の家で見つけた絵と、アルトが村の外で調べた内容から、村近くの森に目星をつけてハンター達は拠点を出た。
瀬崎がミュールの目撃情報を知らせた事もあり、一行は慎重に森の中を探索する。
傲慢歪虚が突然、襲い掛かってくる可能性は否定できないからだ。
「あれかな?」
森の中、ルンルンが何かに気が付いた。
符を向けた先に、奇妙に折れ曲がった幹が特徴の木が立っていたからだ。
「間違いないようじゃな」
「誰かいる?」
ヴァンが拳をググっと固く握りしめ、乃梛は電光楽器をすぐに演奏できるように抱え直す。
森の先、少し開けた場所に、誰か立っているように見えた。
「漆黒のドレ……違うな。全身が真っ黒な少女だ」
怪訝な表情を浮かべて瀬崎は拳銃を構える。
魔法陣の中央で、ただひたすら跳ねてぐるぐる回っている漆黒の幼女。
誰もが初めてみる歪虚であった。近くには砕けた木札が転がっている。
「……あの木札……“門”が開いたとみるべきだな」
「傲慢という事か……パッと見はミュールに似ているようだ」
瀬崎の推測にアルトは頷きながら十字手裏剣を手にする。
相手は傲慢に属する歪虚だ。【強制】や【懲罰】は特に気をつける必要があるのは言うまでもない。
誰がどのタイミングでどんな攻撃をするか、仲間との情報共有は大切だろう。
「わかりやすく突っ込めば囮位にはなれるじゃろ!」
豪快な笑みでそう告げると、ヴァンが拳を構えたまま走り出した。
その後ろを乃梛がアイデアル・ソングを奏でつつ付いていく。
ヒュンっと、2枚の符が二人を追い抜いた。ルンルンが放った符術だ。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法足元ドロドロの術!」
跳ねるように動き回っていた傲慢幼女を含むように不可視の結界が張られた。
しかし、気にもしない様子だった。向かってくるハンター達に気がついたのか、バシっと地を蹴って間合いを詰める。
「今だ!」
大空に向かってマテリアルが籠った銃弾を放つ瀬崎。
次の瞬間、光の雨が傲慢幼女に降りかかった――が、それも素早い動きで避けきられた。
しかし、降り注いだマテリアルから逃れる事はできない。それがリトリビューションの効果だ。
「やれやれ、傲慢の奴らは戦いにくいな」
アルトがそんな愚痴をこぼしながら、マテリアルを乗せた手裏剣をノーモーションで投げつける。
突然の事に、傲慢幼女は避け切れなかったようだ。グサリと刺さる手裏剣と同時に傲慢幼女から放たれる負のマテリアル。
「この程度なら、抵抗できるっ!」
襲い掛かって来た【懲罰】を跳ね返すアルト。
強度はそれなりにあるが、乃梛のアイデアル・ソングによる援護があるので、余裕での抵抗だった。
最初は様子見のつもりだったが、これなら攻勢に出ても大丈夫だろう。
「K※△O◇I○E!」
傲慢少女が何かを叫ぶと同時に、負のマテリアルが一帯に広がった。
【強制】の能力だ。抵抗できなければ、命令された通りに動いてしまうという傲慢歪虚の特殊能力。
「そんなもの、通じないよ!」
ジャジャーン! と鍵盤を力強く叩く乃梛。
この電光楽器にはアイデアル・ソングを強化させる能力を持っている。増幅されたアイデアル・ソングと各人の抵抗力によって、【強制】に掛かった者は誰もいなかった。
幾枚かの符がマテリアルの光を帯びながらハンター達の周囲を舞うと一直線に傲慢幼女へと飛翔する。
「倍返しです!」
ルンルンが放ったのは呪詛返しだった。
ビクビクっと傲慢幼女が振るえたように見えたが――交戦する様子には変わりはないようだ。
【強制】の内容が何だったのか分からないので、効果があったのか無かったのか分からない。
だが、ニンジャは諦めない。すぐさま別の符を構えるとバラまくように符を放ち、マテリアルを集中させる――相手の能力を封じ込める符術だ。
スキルが封じられた事で、傲慢幼女は接近してくるヴァンに接近戦を挑む。
「こっちのペースに持ち込ませてもらうわい!」
ヴァンは傲慢幼女の腕を受け流しつつ、相手の体勢を崩す。
不可思議なマテリアルの流れに気が付いたのが、傲慢幼女はさっと避けて間合いを取った。
「近寄らんなら、これでどうじゃ!」
突き出した拳から強烈なマテリアルが放たれる。
避けようとした傲慢幼女だったが、瀬崎が牽制で放った銃弾のせいで直撃を受けた。
スキルを封じられているのか【懲罰】は飛んでこない。
それを確認し、アルトは残像を残しながら手裏剣を投げる――マテリアルの糸を手繰り寄せ、手裏剣が突き刺さった傲慢幼女に一気に接近すると、圧倒的な速さで法術刀を繰り出す。
「甲虫型の分体より弱い、か……」
冷静に分析しながら連続して斬撃を叩き込む。
苦し紛れに傲慢幼女が反撃をしてきたが、アルトに届くはずもない。
漆黒の腕を掴むと、逆手に持ち替えた愛刀の刀先を容赦なく突き刺した。
●
傲慢幼女との戦いはすぐに終わった。
相手が弱かった訳ではない。ハンター達の準備と戦術が良かったのだ。
「傲慢との戦いに慣れてきたという事だろうな」
法術刀を鞘に戻しつつアルトは告げる。
今回、敵が単体だったというのも快勝だった要因の一つだっただろう。
「頼もしい限りじゃな! さてと……調査の再開じゃが……」
「倒れている二人が行方不明の女性と、悪魔崇拝の男だろうな」
ヴァンが魔法陣の外周に転がっている二つの遺体を見つめて呟き、瀬崎が静かに、暗く応えた。
容姿は一致するので、ほぼ間違いないだろう。
「生贄の要る儀式なんて、大抵碌な事ないのにね」
そう言いつつ、座り込んで魔法陣を確認する乃梛。
魔法陣に負のマテリアルを感じないあたり、なんちゃって儀式なのだろう。
村に戻り、遺体を丁寧に埋葬すれば――雑魔とかにはならないと信じたい。
「なんだろう?」
首を傾げてルンルンが砕けた木製の立札を見降ろす。
立札には辛うじて『ジャマル』と書かれていた。
ルンルンの疑問に対して瀬崎は立札の欠片を手にしながら言う。
「“門”から出てきた敵の名前かもな」
「という事は、ミュールの分体が居たという事か」
アルトは周囲を見渡すが……特段、歪虚の気配は無い。
心配になってルンルンも胸を揺らしながらグルっと身体を回して確認する。
「……うーん。何か、ニンジャの直感が……」
「結局、なんでこんな状態なのか、推測のしようがないみたいだね」
立ち上がりつつ乃梛が言った。
魔法陣から歪虚が出現したとは考えにくいので、歪虚が居たのは偶然……なのかもしれない。
乃梛の台詞にヴァンが何度も頷く。
「死人に聞く事が出来れば、なにか分かったかもしれんが、まぁ、こんなもんじゃろ!」
そう、依頼は無事に達成できたのだから。
こうして、ハンター達は事件の調査と現場に出現していた傲慢幼女を討伐した。
その後の調査で、悪魔崇拝の男が誘拐してきた女性を生贄にしていた所に、ミュール分体が偶然にも姿を現したのだろうと推測されたのであった。
おしまい。
アルテミス小隊からの調査という事で、依頼を受けたハンター達は調査場所である村に到着した。
調査拠点として借りた空き家の周囲に野次馬の気配が無い事を確認し、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が静かに告げる。
「悪魔崇拝している男が怪しげな術をやっている事、村人が一人行方不明な事、更に近隣の村や街道でも行方不明の話……そして、漆黒のドレスを着た幼い少女の姿……」
彼女は語りながら依頼の同行者を見渡しながら続けた。
「ほんとは全く何の因果もない関係かもしれないが、村周辺で起きていることが仮に一つに繋がっているのなら……」
「これも、傲慢――アイテルカイト――が絡む事件かもしれないという事か」
瀬崎・統夜(ka5046)がインカムを調整しながら応える。
傲慢王イヴに最も近いと自称するミュール(kz0259)は、漆黒のドレスを着ていた。
王国各地で目撃されるミュールの分体も基本的には同じ姿のはずだ。
「悪魔崇拝なんてオカルトめいた事件、歪虚か何かの仕業に違いないもの……退魔もニンジャにお任せなんだから!」
威勢よく宣言しているのはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)だった。
一方、その隣で十色 乃梛(ka5902)が指を口元に当てて、視線を部屋の隅へと向けている。
「人探しは……昔頑張ったなぁ……」
今回、その頑張った経験が活かされる依頼であれば良い事だが……。
一行の話を聞き、ヴァン・ヴァルディア(ka6906)が何度も頷く。
「歪虚が出てきたら、退治するが……まずは調査じゃな!」
とりあえず、不気味な事件を解決する事が先決だ。
その為に何をすべきか――それをハンター達は既に認識していた。
「儂は、まず村長を当たるとするかの!」
ヴァンがドンと胸を張って力強く宣言する。
やはり、村の事なのだから、村長から得られる情報は多いだろう。
「私も村長の所に一緒に行きます! ニンジャの話術を駆使して真相を聞き取ります!」
「それじゃ、ルンルンさんとヴァンさんは村長の所だね。私は……行方不明になった女性の家族の所かな。その後、目撃情報の確認ね」
乃梛は資料として渡された地図を手にしながら仲間達に伝える。
全員で同じ場所を調査するよりも、分担しての調査の方が効率的なはずだ。
「それなら、俺はミュールと思しき相手の調査を進めよう」
窓の外の景色――正確には自分の魔導バイク――を眺めながら、統夜は言った。
ミュールは特徴的な姿をしているので、足で稼げば何かしらの情報は得られるかもしれないと思う。
「では、私は近隣の村に行き、行方不明になった人の事を調べるさ。ある程度、調べたら、またここに集合しよう」
アルトの提案に全員が頷くのであった。
●
立場的には当然の事だろうが、村長は聞き取りに協力的だった。
「……なるほどじゃ。その男は周囲との関係が馴染めなかったという事じゃな」
村長から悪魔崇拝する男の話を聞いてヴァンがまとめるように言った。
なんでも村の中でも浮いていたようで、畑仕事をやったりやらなかったりとしていたという。
また、家の周囲に怪しげな魔法陣を描いたり、犬猫の刺殺体が放置してあったという。
「悪魔崇拝をしていると認められた時期に、村で何か変わった事が起きなかったですか?」
ルンルンの質問に村長は頭を捻りながら思い出すように唸る。
「うーん。多分、半年ほど前かな……村に住んでいた魔術師が亡くなった後位でしょうか」
「魔術師? すいません、私細かい事が気になって……」
「いえいえ。この村が気に入って住み着いた高齢の魔術師がいたのです。天寿を全うして亡くなったんですね」
村長の話しぶりを見るに、その魔術師が嫌われていたというようには見えなかった。
「男がどんな愚痴を言っておったとか、そういう事もわかると良いかの!」
ヴァンの台詞に村長がポンと手を叩いた。
「それなら、男の家を教えますよ。村の者は不気味がって近寄らないので、調べて頂けるのなら助かりますし」
「よし、行ってみるかの。ちんまい作業は苦手じゃが、何か分かるかもしれんしの!」
力強いヴァンの話にルンルンが豊満な胸を大きく揺らしながら頷いた。
乃梛は行方不明になった女性の家族の家に聞き取りに行っていた。
いつ頃居なくなったのか、どこに行こうとしていたのか、それらを確認する事で足取りを調べるつもりだった。
「数日前の夜のうちに、か……」
その女性は知り合いの家に行く予定だったという。
夜は人の出入りが少なく、目撃者もいないようだった。
「一応、悪魔崇拝している男の家の場所は分かったけど……きっと、何かあるはずだよね」
独り言を呟きながら、乃梛も男の家へと足を向けるのであった。
一方、瀬崎は魔導バイクで村近くの街道を疾走していた。
そうしては漆黒のドレスを着た幼い少女の話を聞いて回っているのだ。
(……やはり、目撃情報があるな)
数が多いという訳ではないが、10人にあたれば、一人か二人は反応がある頻度だ。
目撃者の話によると街道から外れた所を、機嫌良さそうな鼻歌を流しつつ、跳ねまわっている漆黒のドレス姿の幼女だという。
(やはり、ミュールに違いないか。すると、今回の事件はまた傲慢が絡むとみていいだろう)
キキッと魔導バイクを止め、周囲を見渡す。特に敵の気配は感じられなかった。
ミュール分体は【変容】して傲慢の歪虚を召喚する能力を持っている。
先日、古都アークエルス近くの街道で遭遇したミュールとの戦いを思い出した。
(……愉快犯とは思えないな)
何か目的があっての事なのだろう。それが何かまで分からないが……。
ママチャリで街道を爆走していたアルトも聞き取りを行っていた。
アルトの場合は、ミュールではなく、行方不明になった人を最後に見た日時と場所の聞き込みだった。
「やっぱり、夜か……まぁ、ばれないように人を攫っているのなら、当然か」
手元の地図には人が消えたという場所がマーカーされている。
飛びぬけて遠いという事はなく、それらは、拠点とした村を中心に、ほぼ同一距離圏内にあった。
「どこかに連れ去るならば、適度な距離内じゃないと運べないはず……もし、村でなければ……」
夜とはいえ、人を運んでいれば目撃されるリスクはある。
なら、リスクを冒して村には運べない……そうなると、村以外の場所という事になる。
「……村の近くに森か……」
ジッと地図を見つめながら、アルトの頭の中にある可能性が過っていた。
悪魔崇拝している男の家にヴァンとルンルン、乃梛の3人がやって来た。
村から少し外れた場所に小さく建っている家だが、村長の話通り、魔法陣が描かれ動物の骸骨が転がっていたりと不気味だった。
「……家の中にはいないようじゃな。村長の許可もある事じゃ!」
口元を緩めたヴァンがそう言いながら家の扉を開いた。
アルテミス小隊には歪虚に対する調査権限が与えられているからこそできる事でもあるが。
「うぅー。臭いが凄いです!」
ルンルンが鼻を抑えながら家に入る。
「これは酷いね……」
ジト目になりながら乃梛も言った。
長居しているだけで気が可笑しくなりそうな中、ヴァンがずんずんと家の中に進む。
「……ふむ。どれどれ……おぬしが言っておったのはこれじゃろう?」
散らかった机の上に広げてある絵を見つけ、乃梛に視線を向ける。
その絵は男が描いたと思われる森の中の魔法陣が記してあった。
「悪魔崇拝といえば召喚儀式。そういうものは大体環境に条件があるから、その条件を照らし合わせると、いくらか目処が立つんじゃないかしら?」
「特徴的な木が描いてありますね!」
ビシっとルンルンが指を差す。
幹がグネっと奇妙に曲がっている木が6本。その木々を結ぶように魔法陣が描かれていた。
●
悪魔崇拝の男の家で見つけた絵と、アルトが村の外で調べた内容から、村近くの森に目星をつけてハンター達は拠点を出た。
瀬崎がミュールの目撃情報を知らせた事もあり、一行は慎重に森の中を探索する。
傲慢歪虚が突然、襲い掛かってくる可能性は否定できないからだ。
「あれかな?」
森の中、ルンルンが何かに気が付いた。
符を向けた先に、奇妙に折れ曲がった幹が特徴の木が立っていたからだ。
「間違いないようじゃな」
「誰かいる?」
ヴァンが拳をググっと固く握りしめ、乃梛は電光楽器をすぐに演奏できるように抱え直す。
森の先、少し開けた場所に、誰か立っているように見えた。
「漆黒のドレ……違うな。全身が真っ黒な少女だ」
怪訝な表情を浮かべて瀬崎は拳銃を構える。
魔法陣の中央で、ただひたすら跳ねてぐるぐる回っている漆黒の幼女。
誰もが初めてみる歪虚であった。近くには砕けた木札が転がっている。
「……あの木札……“門”が開いたとみるべきだな」
「傲慢という事か……パッと見はミュールに似ているようだ」
瀬崎の推測にアルトは頷きながら十字手裏剣を手にする。
相手は傲慢に属する歪虚だ。【強制】や【懲罰】は特に気をつける必要があるのは言うまでもない。
誰がどのタイミングでどんな攻撃をするか、仲間との情報共有は大切だろう。
「わかりやすく突っ込めば囮位にはなれるじゃろ!」
豪快な笑みでそう告げると、ヴァンが拳を構えたまま走り出した。
その後ろを乃梛がアイデアル・ソングを奏でつつ付いていく。
ヒュンっと、2枚の符が二人を追い抜いた。ルンルンが放った符術だ。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法足元ドロドロの術!」
跳ねるように動き回っていた傲慢幼女を含むように不可視の結界が張られた。
しかし、気にもしない様子だった。向かってくるハンター達に気がついたのか、バシっと地を蹴って間合いを詰める。
「今だ!」
大空に向かってマテリアルが籠った銃弾を放つ瀬崎。
次の瞬間、光の雨が傲慢幼女に降りかかった――が、それも素早い動きで避けきられた。
しかし、降り注いだマテリアルから逃れる事はできない。それがリトリビューションの効果だ。
「やれやれ、傲慢の奴らは戦いにくいな」
アルトがそんな愚痴をこぼしながら、マテリアルを乗せた手裏剣をノーモーションで投げつける。
突然の事に、傲慢幼女は避け切れなかったようだ。グサリと刺さる手裏剣と同時に傲慢幼女から放たれる負のマテリアル。
「この程度なら、抵抗できるっ!」
襲い掛かって来た【懲罰】を跳ね返すアルト。
強度はそれなりにあるが、乃梛のアイデアル・ソングによる援護があるので、余裕での抵抗だった。
最初は様子見のつもりだったが、これなら攻勢に出ても大丈夫だろう。
「K※△O◇I○E!」
傲慢少女が何かを叫ぶと同時に、負のマテリアルが一帯に広がった。
【強制】の能力だ。抵抗できなければ、命令された通りに動いてしまうという傲慢歪虚の特殊能力。
「そんなもの、通じないよ!」
ジャジャーン! と鍵盤を力強く叩く乃梛。
この電光楽器にはアイデアル・ソングを強化させる能力を持っている。増幅されたアイデアル・ソングと各人の抵抗力によって、【強制】に掛かった者は誰もいなかった。
幾枚かの符がマテリアルの光を帯びながらハンター達の周囲を舞うと一直線に傲慢幼女へと飛翔する。
「倍返しです!」
ルンルンが放ったのは呪詛返しだった。
ビクビクっと傲慢幼女が振るえたように見えたが――交戦する様子には変わりはないようだ。
【強制】の内容が何だったのか分からないので、効果があったのか無かったのか分からない。
だが、ニンジャは諦めない。すぐさま別の符を構えるとバラまくように符を放ち、マテリアルを集中させる――相手の能力を封じ込める符術だ。
スキルが封じられた事で、傲慢幼女は接近してくるヴァンに接近戦を挑む。
「こっちのペースに持ち込ませてもらうわい!」
ヴァンは傲慢幼女の腕を受け流しつつ、相手の体勢を崩す。
不可思議なマテリアルの流れに気が付いたのが、傲慢幼女はさっと避けて間合いを取った。
「近寄らんなら、これでどうじゃ!」
突き出した拳から強烈なマテリアルが放たれる。
避けようとした傲慢幼女だったが、瀬崎が牽制で放った銃弾のせいで直撃を受けた。
スキルを封じられているのか【懲罰】は飛んでこない。
それを確認し、アルトは残像を残しながら手裏剣を投げる――マテリアルの糸を手繰り寄せ、手裏剣が突き刺さった傲慢幼女に一気に接近すると、圧倒的な速さで法術刀を繰り出す。
「甲虫型の分体より弱い、か……」
冷静に分析しながら連続して斬撃を叩き込む。
苦し紛れに傲慢幼女が反撃をしてきたが、アルトに届くはずもない。
漆黒の腕を掴むと、逆手に持ち替えた愛刀の刀先を容赦なく突き刺した。
●
傲慢幼女との戦いはすぐに終わった。
相手が弱かった訳ではない。ハンター達の準備と戦術が良かったのだ。
「傲慢との戦いに慣れてきたという事だろうな」
法術刀を鞘に戻しつつアルトは告げる。
今回、敵が単体だったというのも快勝だった要因の一つだっただろう。
「頼もしい限りじゃな! さてと……調査の再開じゃが……」
「倒れている二人が行方不明の女性と、悪魔崇拝の男だろうな」
ヴァンが魔法陣の外周に転がっている二つの遺体を見つめて呟き、瀬崎が静かに、暗く応えた。
容姿は一致するので、ほぼ間違いないだろう。
「生贄の要る儀式なんて、大抵碌な事ないのにね」
そう言いつつ、座り込んで魔法陣を確認する乃梛。
魔法陣に負のマテリアルを感じないあたり、なんちゃって儀式なのだろう。
村に戻り、遺体を丁寧に埋葬すれば――雑魔とかにはならないと信じたい。
「なんだろう?」
首を傾げてルンルンが砕けた木製の立札を見降ろす。
立札には辛うじて『ジャマル』と書かれていた。
ルンルンの疑問に対して瀬崎は立札の欠片を手にしながら言う。
「“門”から出てきた敵の名前かもな」
「という事は、ミュールの分体が居たという事か」
アルトは周囲を見渡すが……特段、歪虚の気配は無い。
心配になってルンルンも胸を揺らしながらグルっと身体を回して確認する。
「……うーん。何か、ニンジャの直感が……」
「結局、なんでこんな状態なのか、推測のしようがないみたいだね」
立ち上がりつつ乃梛が言った。
魔法陣から歪虚が出現したとは考えにくいので、歪虚が居たのは偶然……なのかもしれない。
乃梛の台詞にヴァンが何度も頷く。
「死人に聞く事が出来れば、なにか分かったかもしれんが、まぁ、こんなもんじゃろ!」
そう、依頼は無事に達成できたのだから。
こうして、ハンター達は事件の調査と現場に出現していた傲慢幼女を討伐した。
その後の調査で、悪魔崇拝の男が誘拐してきた女性を生贄にしていた所に、ミュール分体が偶然にも姿を現したのだろうと推測されたのであった。
おしまい。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/11 12:17:23 |
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相談卓 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/02/13 10:38:44 |