ゲスト
(ka0000)
疑わしき街ドスガ ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/14 15:00
- 完成日
- 2019/02/27 03:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
伯爵地ニュー・ウォルターで急成長を遂げている内陸の街ドスガ。新たな交通の要所として、流通の中心地になる可能性を秘めていた。明るい将来を感じさせてくれる街のはずが、植物型雑魔の汁を原材料にした暗示の飲み薬に関連して、危険な雰囲気が漂いだしている。
傲慢の歪虚アスタロトがいなくなった現在、その隙を狙って新派閥の歪虚がニュー・ウォルターを狙っているといった噂が流れていた。
ハンター達の調査によって、実質的にドスガを支配している大商人カミネテが怪しいことが判明。アーリアの指示によって追加の調査が行われたものの、確固たる証拠は得られなかった。
マール城の執務室。領主アーリアが作戦の概要を伝えると、妹のミリアが声を荒らげた。「危険すぎる」と。
「ミリア、わかってくれ。敵の懐入る。これ以上の揺さぶり方はないのだ」
アーリアは自らドスガの街へ出向いて、大商人カミネテと会うつもりだという。
「兄様は領主ですの。会いたいのなら、マール城まで呼びつければいいですの」
「それでは意味がないのだ。何かを隠したりといった妙な動きがみられるかどうか見極めたいのだ」
「なら、私がいきますの! 兄様の身に何かあれば、どうするつもりですの?」
「わかっているが、この役目は私でなければな。わかってくれ」
数日後、アーリアの説得にようやくミリアが首を縦に振る。但し、ハンターの護衛をつけることが条件になった。
ドスガに使者を送って一週間が経過。騎士数十名も含まれての、訪問団がマールの街を出立した。
ハンター達にはアーリアの護衛と、訪問団に紛れての城内調査を任せることとなる。
往路では何事も起こらなかったが、それがかえって不気味さを募らせた。訪問団がドスガの街へ到着したその日は、雨降りの荒れた天候であった。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。
伯爵地ニュー・ウォルターで急成長を遂げている内陸の街ドスガ。新たな交通の要所として、流通の中心地になる可能性を秘めていた。明るい将来を感じさせてくれる街のはずが、植物型雑魔の汁を原材料にした暗示の飲み薬に関連して、危険な雰囲気が漂いだしている。
傲慢の歪虚アスタロトがいなくなった現在、その隙を狙って新派閥の歪虚がニュー・ウォルターを狙っているといった噂が流れていた。
ハンター達の調査によって、実質的にドスガを支配している大商人カミネテが怪しいことが判明。アーリアの指示によって追加の調査が行われたものの、確固たる証拠は得られなかった。
マール城の執務室。領主アーリアが作戦の概要を伝えると、妹のミリアが声を荒らげた。「危険すぎる」と。
「ミリア、わかってくれ。敵の懐入る。これ以上の揺さぶり方はないのだ」
アーリアは自らドスガの街へ出向いて、大商人カミネテと会うつもりだという。
「兄様は領主ですの。会いたいのなら、マール城まで呼びつければいいですの」
「それでは意味がないのだ。何かを隠したりといった妙な動きがみられるかどうか見極めたいのだ」
「なら、私がいきますの! 兄様の身に何かあれば、どうするつもりですの?」
「わかっているが、この役目は私でなければな。わかってくれ」
数日後、アーリアの説得にようやくミリアが首を縦に振る。但し、ハンターの護衛をつけることが条件になった。
ドスガに使者を送って一週間が経過。騎士数十名も含まれての、訪問団がマールの街を出立した。
ハンター達にはアーリアの護衛と、訪問団に紛れての城内調査を任せることとなる。
往路では何事も起こらなかったが、それがかえって不気味さを募らせた。訪問団がドスガの街へ到着したその日は、雨降りの荒れた天候であった。
リプレイ本文
●
昼間だというのに、まるで暮れのように辺りは暗かった。
訪問団の馬車群が、土砂降りで煙る街道をひた走る。ようやく目的の街ドスガが眺められたとき、暗い空気に似つかわしくないファンファーレが鳴り響く。
悪天候にもかかわらず、城塞門の周辺に人々が集まって出迎えようとしていた。
「ようこそ、領主様! 遠路はるばるの来訪、光栄の極みで御座います」
派手な装飾の外套を雨粒で濡らしながら、アーリアが乗る馬車の前で一人の男が跪く。
「そなたは?」
「私はカミネテと申します。病床に伏している町長に成り代わって、出迎えに参りました」
アーリアとカミネテが交わしている挨拶を、レイア・アローネ(ka4082)は傍で見守っていた。
(どんな奴かと思っていたが。浅黒い肌で、好みよっては美男子の部類だな)
レイアの見立てでは、カミネテは個性的で容姿は整っている。
アーリアはカミネテの馬車へ移るよう誘われたが、それは断った。その代わりにカミネテ自身がアーリアの馬車へと同乗する。
「美味しそうな屋台の匂いっ……アーリア、ちょっとだけ買い食いしてもよい?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は喋った直後、涎が流れそうになって掌で口を押さえる。
(腹の探り合いは得意じゃないの。それにアーリアの近くにいた方が美味しい物が食べられそうなんて、ほんのちょっとしか思ってないの)
反省の態度はわざと。事前にカミネテの前で大食漢ぶりをアピールしておく。
(この方がカミネテですか。歪虚の関係者かも知れない人物)
馬車に揺られながら、多由羅(ka6167)はカミネテと目が合う。いつでも刃を抜く覚悟を隠しなから、笑みを浮かべて軽く首を傾げてみせた。
(あぁ~。なんっで俺がこんな女みてーな格好して、エロおやじに媚び売んなきゃなんねーんだよ。顔だけはいいかも知んないけどさ)
ボルディア・コンフラムス(ka0796)もアーリアと同じ馬車に乗っている。カミネテの横に座って、身体を寄せていく。「あっ!」激しく揺れたとき、ひっそりと紙片をカミネテの掌へと握らせておくのだった。
四人のハンタ達はアーリアの傍から離れて、独自の行動を取っていた。
(かなり豪勢ね。悪いことしていそう)
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は訪問団の一員だが、ティータイム担当の使用人として同行する。
屋敷に到着するなり、シックなフリル付きのメイト服に着替えた。そして「キッチン、お貸し願える?」と厨房の一角を貸してもらう。騎士たちのお茶に関しては、彼女が一切を取り仕切った。
訪問団よりも二日先行したミオレスカ(ka3496)は、カミネテの屋敷内ですでに働き中であった。
「新入り、こいつも剥いておけ」
彼女はナイフでカゴ一杯の芋の皮剥きをしながら、厨房内を観察した。
(香辛料がいっぱい。大商人の料理となると、いろいろな食材を使うのですね)
それからしばらくして、自警団の料理班から晩餐の調理班にヘルプとして回される。ミオレスカは絶好の機会を得たのだった。
ゾファル・G・初火(ka4407)は訪問団から離れて、街の酒場へと出向く。
(荒くれものって俺様ちゃんの大好物。晩飯にちょうどいい。腹も減ってるしな)
飲み食いしていた自警団に絡んで、腕相撲でごぼう抜き。酒を酌み交わしたところで、自警団の詰め所へと誘われる。
「おめぇ、面白えな。ほら、遠慮するな」
ゾファルは少し遅めの昼食を頂いた。皿に盛られた肉料理の骨を掴んで齧りつく。
(護衛もよかったかも知れないけど、カミネテに変なことされたら絶賛殴り飛ばしちまう。こっち方面が合っているじゃん)
巡回が彼女の役目となる。屋敷内を調べるのに好都合であった。
鳳凰院ひりょ(ka3744)はゾファルとは別の形で、自警団と関わる。演じていたのは、ミスをおかしてハンター稼業を追われた流浪の身だ。ドスガなら仕事にありつけるだろうとやってきた設定である。
「ほら、魔法なら使える。雇ってくれないか?」
「なるほど。嘘はついてなさそうだな」
知り合った自警団の一人に、責任者へと取りなしてもらう。そうやって自警団の一員になった。
アーリアとカミネテが会する晩餐は宵の口からだ。まだ六時間ほどの猶予が残っていた。
●
「すげぇ豪華じゃん。この壺っていくらするのかにゃ?」
「割ったら、お前さんのこの先一年分の給金がパーだ」
ゾファルはコンビを組んで、屋敷内を巡回した。冗談を言い合いながら相棒にいろいろと教えてもらう。
(汚れ仕事をしているのなら、是が非でも歌ってもらわないといけないにゃー)
そうこうするうちに、回廊で自警団の団長とすれ違う。敬礼する相棒の真似をしていると「新入りか?」と声をかけられた。
(何だ、こいつ。やべぇよ)
態度や話し方は極普通だが、眼力の強さが異様であった。そして言葉の端々にカミネテへの忠誠心が滲み出ていた。
「これ、シモフリのお肉ですよね?」
「新入り、これを知っているのか?」
ミオレスカは調理に使われる肉の素性を言い当てて、料理長に驚かれる。カミネテの大好物で、三日に一度は振る舞われているらしかった。
調理長に気に入られて、休憩時に当たり障りのない範囲でシモフリのことを話す。そんなとき、一人の調理人が小樽を抱えて現れる。
「おい、そいつは使わないって命令がでてたろ!」
「あっ!」
怒られた調理人が料理長に謝り倒して去っていく。
「今のは?」
「ああ、下働きが食べる料理に使われる葡萄酒だ。クセありだが、元気がでるんだよ」
ミオレスカはこのことを紙片に認める。そして仲間にこっそりと知らせたのだった。
「ふーん。なるほどね。よくわかったわ」
カーミンはルージュナイフの腹を掌に当ててペチペチと鳴らす。プリムラで解錠しながらの調査中、カミネテの手下商人に声をかけられたのである。自警団員をターゲットにしようとしていたが、急遽作戦変更。部屋に連れこまれて、立場を逆転させてからいろいろと聞きだしていた。
想像の通り、借金のカタとして女性達は集めている。商人の言葉を信じるのなら、無理強いはしていないらしい。侍女として、普通の身の回りの世話だけをさせているようだ。
(でも阿漕な一歩手前って感じよね)
飲み薬について聞きだしてから、グラジオラスで認識を阻害させておくのだった。
鳳凰院はミオレスカから情報を得て、葡萄酒の樽を屋敷敷地内の倉庫で見つけだす。味見をすれば飲み薬が混ぜられていると一発でわかった。
「濃いな。半々で混ぜられているようだ」
事情を知らなければ、変わった風味の葡萄酒で通すこともできそうだ。但し、鳳凰院が探しているのは雑魔の株分けの苗であった。
屋敷の敷地内にそれらしき畑は存在していない。帳簿も調べてみたが、葡萄酒は一般的な産地ばかりである。
(足元?)
休憩中の自警団員たちの四方山話で、ある噂を耳にする。この丘の真下はかつて鉱山だったという。穴が掘られていて、地下空間が広がっているとのことだった。
●
屋敷の庭にあった屋根付きの回廊に、カミネテの姿がある。ドレス姿のボルディアは彼の右腕へと両腕を絡ませた。
「アーリア……様は、領主としてとても優秀だけど、ちょっと積極性が足りない気がするの」
抱き寄せられそうになった瞬間、ボルディアは数歩退く。
「できればもっとおれ、じゃない、私を思う存分活躍させてくれればと思うんだけどね……」
「このままずっとと言いたいのだが、この機会に君を残すと領主様に申し訳ない。こちらを渡しておこう。屋敷の門番に見せれば、いつでも私に会うことができる」
ボルディアはカミネテからブローチを受け取った。飲み薬について触れると、カミネテが笑う。「あれは少々変わった味の葡萄酒だと聞かされている」と。
さらに鎌をかけようとしたところで、鐘の音が鳴り響く。晩餐まであと十分。二人は別れて、それぞれに大広間へと向かうことにした。
(出発前に、雑魔由来の飲み薬を飲んでおいたの……。にがまずなのっ)
晩餐の席についたディーナは笑顔だが、心中では「うへぇ」と口元を歪ませていた。
アーリアに付き添う毒味役はレイアが務めるものの、ディーナは真っ先に頬を膨らます。食べだすとあまりの美味しさで、本心も笑顔に変わっていく。飲み薬らしき味はしなかった。
遅効性の毒も想定して、アーリアはレイアの十分遅れで料理に手をつけていく。
「レイアさん、お料理のお味は?」
「どの料理もとても美味しいです」
カミネテに話しかけられたレイアは、淑女を演じ続けている。そうこうするうちにカミネテの口から『アスタロト』の名が飛びだして、目を丸くした。
「――私もアスタロトの陰謀に巻きこまれて、かなりの損をだしました。そして各地で家を失った方とかで、ドスガには移住してきた方も多いのです」
「その貧しい方々に、お金を貸していると聞いたのですが」
レイアはカーミンが教えてもらったネタをカミネテにぶつける。
「利子はかなり低くしています。私は働かざる者食うべからずが座右の銘。望まれればお仕事も斡旋しています」
そうカミネテが答えたとき、アーリアが「それは強制ではないのか?」と問うた。空気が変わったと感じた多由羅が、すっと愛刀の柄へと指先をかけた。
(荒事、でしょうか。覚悟はできております)
わくわくと心躍らせながら、大広間の状況を見守った。
「そのような真似はしておりません。領主様のお心とは比べものにならないでしょうが、私もこのニュー・ウォルターを愛しております」
カミネテの感情的な言葉を聞きながら、ボルディアは涼しい顔で肉料理を食べ続ける。
(どうする? ここで飲み薬の話題でもだせば、爆弾になるかね?)
ボルディアがやるまでもなく、仲間達の仕掛けが動きだす。
「……つい飲んでしまって、ちょっと苦いの。お水下さいなの」
「んっ?」
ディーナとレイアが葡萄酒に首を傾げる。ディーナの『苦い』は、飲み薬が入っている符牒であった。
一時間ほど前、ゾファルが騒ぎを起こして自警団の目をひきつけている間に、鳳凰院が飲み薬入りの葡萄酒の小樽を外部へと運びだした。それをカーミンが受け取って調理場へ。ミオレスカがこっそりと中身を入れ替えて、晩餐のテーブルまで飲み薬入りが運ばれてきたのである。
「領内で暗示かけの薬が出回っているという。ドスガの街でも教会の施しに混ぜられていたとの報告があがっている。カミネテ殿は教会に食材を提供していると、お聞きましたが」
そう問い質したとき、給仕の一人が食器のナイフを握ってアーリアに迫った。すさかず抜いた多由羅の刃が給仕をナイフを弾き飛ばす。
さらにその給仕を、カミネテの護衛が狙う。振りおろされた太刀を、レイアが自らの剣で受けとめた。
「控えよ! 領主様の前でなんということを」
カミネテが給仕に近づいて頬を叩く。護衛と一緒に給仕を大広間から連れださせた後で、床へと跪いた。
「事情が飲み込めていませんが、どうであれ、私の失態であることは明白。どのような罰で受ける所存です」
「判断する前に、先程の二人からいろいろと訊きたい」
カミネテにアーリアがそう告げたところで、晩餐の席はお開きとなる。尋問は主に護衛を務めていたハンター達が行った。
「はぁ? すべては自分が勝手にやったことぉ?」
つい普段の喋り方がでてしまうぐらい、ボルディアはあきれる。給仕が飲み薬の入手も含めて、すべての罪を背負おうとしたからだ。
「こういってはなんだが、一介の使用人ができるはずがない」
レイアも問い詰めたが、給仕は自白を変えようとはしなかった。
「まだ外は雨が降っているようです」
「この焼き団子、おいしいの。食べないの?」
多由羅とディーナは、給仕に刃を振るおうとした護衛と雑談を交わす。共謀していると睨んでいたが、証拠は何もない。歪虚やカミネテの話題を振って、心中を探っておく。
「私はカミネテ様のために、命を差しだすことも厭わない」
ゾファルから自警団団長の忠誠心が気持ち悪いと連絡があったが、目の前の護衛も同じ。屋敷にいる古株はすべて飲み薬で洗脳されているようだった。
●
鳳凰院は自警団の仕事をこなしつつ、雑魔の苗を探した。市販されている葡萄酒に誰かが混ぜているのは確実だった。ただ自警団は直接絡んでいないようで、下っ端が借りだされることはない。
他にわかったことといえば、屋敷から街中へ繋がる地下通路の存在だ。鳳凰院もそこを通って、同僚達と飲みにでかけた。
(きっと他にも通路があるはず。倉庫もきっと――)
鳳凰院はできる限り屋敷に滞在してから、立ち去ることにした。
「シモフリ肉の扱い方、お前、すごくうまいな」
「誉めてもらえて嬉しいです」
ミオレスカは料理長に気に入られて、シモフリ肉の担当に抜擢される。カミネテからの評判もよいという。
彼女もできる限り滞在する。ドスガへ来たときには、また雇ってもらう約束を交わしてから立ち去った。
「元気になる薬で、領主様がカンカンに怒っているって聞いたんよ。だったら大変じゃん」
「毒じゃないのに、領主様もお堅いよな」
ゾファルはすっかり自警団に溶け込んでいた。自警団は、飲み薬について危機感を持っていなかった。
専門の組織で働く仲間に合わせてもらう算段をつけてから、ゾファルは自警団をお暇することにした。怪我した遠方の友人を見舞うためという適当な嘘をついて。
「そうなの。いいこと聞いたわ。ありがとうね」
カーミンは自警団の荒くれ者をナンパしては、事情を聞きだしていく。グラジオラスを使えば後腐れがなかった。そのうちに間違えて別組織の関係者も誘ってしまったが、それが怪我の功名になる。
その者は雑魔の株分けの苗を地下で育てていたが、お役御免になったという。彼がいうにはアーリアに勘づかれて、該当の組織が一時的に縮小されたらしい。ほとぼりが醒めるまで、もうしばらくかかりそうである。
三日ほどの滞在でアーリアの訪問団はドスガの街を後にした。
「もっと派手なことが起こると思っていたのによ」
そう呟いたゾファルはふて腐れて、幌馬車内でふて寝してしまう。
「和風洋風と、いろいろ食べましたの」
ディーナは美味しものが食べられて満足げだ。葡萄酒の一件を除けば、食べ物に飲み薬が混ぜられていることは一度もなかった。
「黒に限りなく近い灰色な人物だった」
レイアはアーリアに訪ねられて、カミネテのことをそのように評す。
「次の機会があれば、血の雨が降りそうな……、そんな予感がします」
揺れる馬車の中、多由羅は鞘から抜いた刀身の輝きを見つめたのだった。
昼間だというのに、まるで暮れのように辺りは暗かった。
訪問団の馬車群が、土砂降りで煙る街道をひた走る。ようやく目的の街ドスガが眺められたとき、暗い空気に似つかわしくないファンファーレが鳴り響く。
悪天候にもかかわらず、城塞門の周辺に人々が集まって出迎えようとしていた。
「ようこそ、領主様! 遠路はるばるの来訪、光栄の極みで御座います」
派手な装飾の外套を雨粒で濡らしながら、アーリアが乗る馬車の前で一人の男が跪く。
「そなたは?」
「私はカミネテと申します。病床に伏している町長に成り代わって、出迎えに参りました」
アーリアとカミネテが交わしている挨拶を、レイア・アローネ(ka4082)は傍で見守っていた。
(どんな奴かと思っていたが。浅黒い肌で、好みよっては美男子の部類だな)
レイアの見立てでは、カミネテは個性的で容姿は整っている。
アーリアはカミネテの馬車へ移るよう誘われたが、それは断った。その代わりにカミネテ自身がアーリアの馬車へと同乗する。
「美味しそうな屋台の匂いっ……アーリア、ちょっとだけ買い食いしてもよい?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は喋った直後、涎が流れそうになって掌で口を押さえる。
(腹の探り合いは得意じゃないの。それにアーリアの近くにいた方が美味しい物が食べられそうなんて、ほんのちょっとしか思ってないの)
反省の態度はわざと。事前にカミネテの前で大食漢ぶりをアピールしておく。
(この方がカミネテですか。歪虚の関係者かも知れない人物)
馬車に揺られながら、多由羅(ka6167)はカミネテと目が合う。いつでも刃を抜く覚悟を隠しなから、笑みを浮かべて軽く首を傾げてみせた。
(あぁ~。なんっで俺がこんな女みてーな格好して、エロおやじに媚び売んなきゃなんねーんだよ。顔だけはいいかも知んないけどさ)
ボルディア・コンフラムス(ka0796)もアーリアと同じ馬車に乗っている。カミネテの横に座って、身体を寄せていく。「あっ!」激しく揺れたとき、ひっそりと紙片をカミネテの掌へと握らせておくのだった。
四人のハンタ達はアーリアの傍から離れて、独自の行動を取っていた。
(かなり豪勢ね。悪いことしていそう)
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は訪問団の一員だが、ティータイム担当の使用人として同行する。
屋敷に到着するなり、シックなフリル付きのメイト服に着替えた。そして「キッチン、お貸し願える?」と厨房の一角を貸してもらう。騎士たちのお茶に関しては、彼女が一切を取り仕切った。
訪問団よりも二日先行したミオレスカ(ka3496)は、カミネテの屋敷内ですでに働き中であった。
「新入り、こいつも剥いておけ」
彼女はナイフでカゴ一杯の芋の皮剥きをしながら、厨房内を観察した。
(香辛料がいっぱい。大商人の料理となると、いろいろな食材を使うのですね)
それからしばらくして、自警団の料理班から晩餐の調理班にヘルプとして回される。ミオレスカは絶好の機会を得たのだった。
ゾファル・G・初火(ka4407)は訪問団から離れて、街の酒場へと出向く。
(荒くれものって俺様ちゃんの大好物。晩飯にちょうどいい。腹も減ってるしな)
飲み食いしていた自警団に絡んで、腕相撲でごぼう抜き。酒を酌み交わしたところで、自警団の詰め所へと誘われる。
「おめぇ、面白えな。ほら、遠慮するな」
ゾファルは少し遅めの昼食を頂いた。皿に盛られた肉料理の骨を掴んで齧りつく。
(護衛もよかったかも知れないけど、カミネテに変なことされたら絶賛殴り飛ばしちまう。こっち方面が合っているじゃん)
巡回が彼女の役目となる。屋敷内を調べるのに好都合であった。
鳳凰院ひりょ(ka3744)はゾファルとは別の形で、自警団と関わる。演じていたのは、ミスをおかしてハンター稼業を追われた流浪の身だ。ドスガなら仕事にありつけるだろうとやってきた設定である。
「ほら、魔法なら使える。雇ってくれないか?」
「なるほど。嘘はついてなさそうだな」
知り合った自警団の一人に、責任者へと取りなしてもらう。そうやって自警団の一員になった。
アーリアとカミネテが会する晩餐は宵の口からだ。まだ六時間ほどの猶予が残っていた。
●
「すげぇ豪華じゃん。この壺っていくらするのかにゃ?」
「割ったら、お前さんのこの先一年分の給金がパーだ」
ゾファルはコンビを組んで、屋敷内を巡回した。冗談を言い合いながら相棒にいろいろと教えてもらう。
(汚れ仕事をしているのなら、是が非でも歌ってもらわないといけないにゃー)
そうこうするうちに、回廊で自警団の団長とすれ違う。敬礼する相棒の真似をしていると「新入りか?」と声をかけられた。
(何だ、こいつ。やべぇよ)
態度や話し方は極普通だが、眼力の強さが異様であった。そして言葉の端々にカミネテへの忠誠心が滲み出ていた。
「これ、シモフリのお肉ですよね?」
「新入り、これを知っているのか?」
ミオレスカは調理に使われる肉の素性を言い当てて、料理長に驚かれる。カミネテの大好物で、三日に一度は振る舞われているらしかった。
調理長に気に入られて、休憩時に当たり障りのない範囲でシモフリのことを話す。そんなとき、一人の調理人が小樽を抱えて現れる。
「おい、そいつは使わないって命令がでてたろ!」
「あっ!」
怒られた調理人が料理長に謝り倒して去っていく。
「今のは?」
「ああ、下働きが食べる料理に使われる葡萄酒だ。クセありだが、元気がでるんだよ」
ミオレスカはこのことを紙片に認める。そして仲間にこっそりと知らせたのだった。
「ふーん。なるほどね。よくわかったわ」
カーミンはルージュナイフの腹を掌に当ててペチペチと鳴らす。プリムラで解錠しながらの調査中、カミネテの手下商人に声をかけられたのである。自警団員をターゲットにしようとしていたが、急遽作戦変更。部屋に連れこまれて、立場を逆転させてからいろいろと聞きだしていた。
想像の通り、借金のカタとして女性達は集めている。商人の言葉を信じるのなら、無理強いはしていないらしい。侍女として、普通の身の回りの世話だけをさせているようだ。
(でも阿漕な一歩手前って感じよね)
飲み薬について聞きだしてから、グラジオラスで認識を阻害させておくのだった。
鳳凰院はミオレスカから情報を得て、葡萄酒の樽を屋敷敷地内の倉庫で見つけだす。味見をすれば飲み薬が混ぜられていると一発でわかった。
「濃いな。半々で混ぜられているようだ」
事情を知らなければ、変わった風味の葡萄酒で通すこともできそうだ。但し、鳳凰院が探しているのは雑魔の株分けの苗であった。
屋敷の敷地内にそれらしき畑は存在していない。帳簿も調べてみたが、葡萄酒は一般的な産地ばかりである。
(足元?)
休憩中の自警団員たちの四方山話で、ある噂を耳にする。この丘の真下はかつて鉱山だったという。穴が掘られていて、地下空間が広がっているとのことだった。
●
屋敷の庭にあった屋根付きの回廊に、カミネテの姿がある。ドレス姿のボルディアは彼の右腕へと両腕を絡ませた。
「アーリア……様は、領主としてとても優秀だけど、ちょっと積極性が足りない気がするの」
抱き寄せられそうになった瞬間、ボルディアは数歩退く。
「できればもっとおれ、じゃない、私を思う存分活躍させてくれればと思うんだけどね……」
「このままずっとと言いたいのだが、この機会に君を残すと領主様に申し訳ない。こちらを渡しておこう。屋敷の門番に見せれば、いつでも私に会うことができる」
ボルディアはカミネテからブローチを受け取った。飲み薬について触れると、カミネテが笑う。「あれは少々変わった味の葡萄酒だと聞かされている」と。
さらに鎌をかけようとしたところで、鐘の音が鳴り響く。晩餐まであと十分。二人は別れて、それぞれに大広間へと向かうことにした。
(出発前に、雑魔由来の飲み薬を飲んでおいたの……。にがまずなのっ)
晩餐の席についたディーナは笑顔だが、心中では「うへぇ」と口元を歪ませていた。
アーリアに付き添う毒味役はレイアが務めるものの、ディーナは真っ先に頬を膨らます。食べだすとあまりの美味しさで、本心も笑顔に変わっていく。飲み薬らしき味はしなかった。
遅効性の毒も想定して、アーリアはレイアの十分遅れで料理に手をつけていく。
「レイアさん、お料理のお味は?」
「どの料理もとても美味しいです」
カミネテに話しかけられたレイアは、淑女を演じ続けている。そうこうするうちにカミネテの口から『アスタロト』の名が飛びだして、目を丸くした。
「――私もアスタロトの陰謀に巻きこまれて、かなりの損をだしました。そして各地で家を失った方とかで、ドスガには移住してきた方も多いのです」
「その貧しい方々に、お金を貸していると聞いたのですが」
レイアはカーミンが教えてもらったネタをカミネテにぶつける。
「利子はかなり低くしています。私は働かざる者食うべからずが座右の銘。望まれればお仕事も斡旋しています」
そうカミネテが答えたとき、アーリアが「それは強制ではないのか?」と問うた。空気が変わったと感じた多由羅が、すっと愛刀の柄へと指先をかけた。
(荒事、でしょうか。覚悟はできております)
わくわくと心躍らせながら、大広間の状況を見守った。
「そのような真似はしておりません。領主様のお心とは比べものにならないでしょうが、私もこのニュー・ウォルターを愛しております」
カミネテの感情的な言葉を聞きながら、ボルディアは涼しい顔で肉料理を食べ続ける。
(どうする? ここで飲み薬の話題でもだせば、爆弾になるかね?)
ボルディアがやるまでもなく、仲間達の仕掛けが動きだす。
「……つい飲んでしまって、ちょっと苦いの。お水下さいなの」
「んっ?」
ディーナとレイアが葡萄酒に首を傾げる。ディーナの『苦い』は、飲み薬が入っている符牒であった。
一時間ほど前、ゾファルが騒ぎを起こして自警団の目をひきつけている間に、鳳凰院が飲み薬入りの葡萄酒の小樽を外部へと運びだした。それをカーミンが受け取って調理場へ。ミオレスカがこっそりと中身を入れ替えて、晩餐のテーブルまで飲み薬入りが運ばれてきたのである。
「領内で暗示かけの薬が出回っているという。ドスガの街でも教会の施しに混ぜられていたとの報告があがっている。カミネテ殿は教会に食材を提供していると、お聞きましたが」
そう問い質したとき、給仕の一人が食器のナイフを握ってアーリアに迫った。すさかず抜いた多由羅の刃が給仕をナイフを弾き飛ばす。
さらにその給仕を、カミネテの護衛が狙う。振りおろされた太刀を、レイアが自らの剣で受けとめた。
「控えよ! 領主様の前でなんということを」
カミネテが給仕に近づいて頬を叩く。護衛と一緒に給仕を大広間から連れださせた後で、床へと跪いた。
「事情が飲み込めていませんが、どうであれ、私の失態であることは明白。どのような罰で受ける所存です」
「判断する前に、先程の二人からいろいろと訊きたい」
カミネテにアーリアがそう告げたところで、晩餐の席はお開きとなる。尋問は主に護衛を務めていたハンター達が行った。
「はぁ? すべては自分が勝手にやったことぉ?」
つい普段の喋り方がでてしまうぐらい、ボルディアはあきれる。給仕が飲み薬の入手も含めて、すべての罪を背負おうとしたからだ。
「こういってはなんだが、一介の使用人ができるはずがない」
レイアも問い詰めたが、給仕は自白を変えようとはしなかった。
「まだ外は雨が降っているようです」
「この焼き団子、おいしいの。食べないの?」
多由羅とディーナは、給仕に刃を振るおうとした護衛と雑談を交わす。共謀していると睨んでいたが、証拠は何もない。歪虚やカミネテの話題を振って、心中を探っておく。
「私はカミネテ様のために、命を差しだすことも厭わない」
ゾファルから自警団団長の忠誠心が気持ち悪いと連絡があったが、目の前の護衛も同じ。屋敷にいる古株はすべて飲み薬で洗脳されているようだった。
●
鳳凰院は自警団の仕事をこなしつつ、雑魔の苗を探した。市販されている葡萄酒に誰かが混ぜているのは確実だった。ただ自警団は直接絡んでいないようで、下っ端が借りだされることはない。
他にわかったことといえば、屋敷から街中へ繋がる地下通路の存在だ。鳳凰院もそこを通って、同僚達と飲みにでかけた。
(きっと他にも通路があるはず。倉庫もきっと――)
鳳凰院はできる限り屋敷に滞在してから、立ち去ることにした。
「シモフリ肉の扱い方、お前、すごくうまいな」
「誉めてもらえて嬉しいです」
ミオレスカは料理長に気に入られて、シモフリ肉の担当に抜擢される。カミネテからの評判もよいという。
彼女もできる限り滞在する。ドスガへ来たときには、また雇ってもらう約束を交わしてから立ち去った。
「元気になる薬で、領主様がカンカンに怒っているって聞いたんよ。だったら大変じゃん」
「毒じゃないのに、領主様もお堅いよな」
ゾファルはすっかり自警団に溶け込んでいた。自警団は、飲み薬について危機感を持っていなかった。
専門の組織で働く仲間に合わせてもらう算段をつけてから、ゾファルは自警団をお暇することにした。怪我した遠方の友人を見舞うためという適当な嘘をついて。
「そうなの。いいこと聞いたわ。ありがとうね」
カーミンは自警団の荒くれ者をナンパしては、事情を聞きだしていく。グラジオラスを使えば後腐れがなかった。そのうちに間違えて別組織の関係者も誘ってしまったが、それが怪我の功名になる。
その者は雑魔の株分けの苗を地下で育てていたが、お役御免になったという。彼がいうにはアーリアに勘づかれて、該当の組織が一時的に縮小されたらしい。ほとぼりが醒めるまで、もうしばらくかかりそうである。
三日ほどの滞在でアーリアの訪問団はドスガの街を後にした。
「もっと派手なことが起こると思っていたのによ」
そう呟いたゾファルはふて腐れて、幌馬車内でふて寝してしまう。
「和風洋風と、いろいろ食べましたの」
ディーナは美味しものが食べられて満足げだ。葡萄酒の一件を除けば、食べ物に飲み薬が混ぜられていることは一度もなかった。
「黒に限りなく近い灰色な人物だった」
レイアはアーリアに訪ねられて、カミネテのことをそのように評す。
「次の機会があれば、血の雨が降りそうな……、そんな予感がします」
揺れる馬車の中、多由羅は鞘から抜いた刀身の輝きを見つめたのだった。
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相談卓 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/02/14 04:57:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/11 23:01:32 |