ゲスト
(ka0000)
嵐の一日航海実習
マスター:KINUTA
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/02/20 19:00
- 完成日
- 2019/02/26 01:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
港湾都市ポルトワール。
港には今日も多数の船が停泊し、港湾作業員や船員が忙しく立ち働いている。船から降ろされた荷を別の場所に運ぶため、荷馬車や魔導トラックもひっきりなしに行き交っている。
活気にあふれたその界隈を過ぎると、商会や商社の本店が軒を連ねる通りに入る。
身なりのいい1人の少年がそこを歩いていた。
白地に青十字の旗が掲げられた建物の前で足を止め、石壁に打ち込まれた真鍮の表札を見上げる
『グリーク商会』
少年はきゅっとネクタイを締め直した。
それから扉を開け中に入って行く。
●学生とその後見人
グリーク商会の会長室。
革張りの椅子に座っているのはスーツに身を固めた若い女性、ニケ・グリーク。
いかにも賢そうで、抜け目が無さそう。
その前に立っているのはブレザー姿の少年、マルコ・ニッティ。
こちらも賢そうだが、ニケほど抜け目のなさが前面に出ていない。
「ニケさん。会長就任おめでとうございます」
「おや、ありがとうございます。貴重な休日なのに、わざわざお祝いを述べに来てくれるとはうれしいですね。冬休みも終わりましたが学院生活はどうですか、マルコさん?」
「まあまあ、といった所です」
「クラスの中でうまいことやっていますか?」
「ええ」
「ルイさんとは、その後仲良くしています?」
「もちろん。仲良くさせています」
ニケはマルコの回答が気に入ったらしい。銀縁眼鏡の鼻当てを押し上げ、小さく笑った。
「そうですか。それはいいことですね」
「ニケ会長、4月から学院で帆船操作の授業が始まるんですが、それをご存じですか?」
「ええ、もちろん知ってますよ。何しろ私の弟が通っていましたから。私自身もあの全寮制商船学校の卒業生ですし」
「それなら、実習に使う小型帆船は各自の持ち込みということも知っていますね? なるべく早く都合してくださるとうれしいんですが」
「これはこれは、随分気ぜわしいことですね」
「学校での授業が始まる前に予習しておきたいんです。俺はこれまで船を動かしたことないですし」
ニケが不敵な眼差しをマルコに向ける。
「大丈夫、実習船は用意はしてありますよ。もっともあなたに贈呈するのではありません。貸与です。損壊させたりした場合、修理費を払ってもらうことになります。将来あなたが稼ぐ分から。そのことは分かっていますね?」
マルコもまた、挑戦的な目をニケに向ける。
「もちろん分かっています」
「なら結構。ついでですから、コーチをつけますよ。基本が覚えられるまでね」
●姉と弟
職業ヒモ(最近はちょっとバイトもしている)美少年ナルシス・グリークは休日にいきなり姉から呼び出され、不愉快至極である。
「な・ん・で・僕が貴重な休日を潰されなきゃならないのかな姉さん? 僕さあ、働いてるんだよ。だから休みの日にはのんびりしたいんだよ」
「は? あんたの仕事なんて6時間労働で、しかも週休2日でしょう。1日休みが潰れたくらいでグズグズ言わないで」
「うっわ、何そのブラックな言い草。姉さんみたいなのパワハラ経営者って言うんじゃないのリアルブルーでは」
「ここはリアルブルーじゃなくてクリムゾンよ。とにかくあんた、操船の腕だけは一流でしょう。いろはのいだけでいいから、マルコに飲み込ませて」
「やだよめんどくさい。別の人雇ってよ」
「あっそう。じゃあマゴイさんに言ってあげるわ。弟は今の職場が気に入ったみたいだから、この先も正規雇用してくださいって。場合によっては市民にしてくれてもいいって」
「ほんっと姉さん汚いよね。僕姉さんのそういう所が大嫌いだよ」
「あら気が合うわね。私もあんたのヒモ体質が大嫌い」
何のかんのと言いながら、結局ナルシスは負ける。マルコの教育係を引き受けることになってしまう。会長になったことで、姉の権威はさらに増したのだ。
「で、船ってどこの奴使うのさ」
「ユニゾンから来た奴があるでしょう」
「……へーえ、姉さん随分マルコに肩入れしてるね。口八丁でもぎ取ってきた戦利品使わせてやるなんて」
「そりゃ、あの子にはそうするだけの価値があるもの。あんたがうちの商会で働くっていうなら、あんたにも使わせてあげるけど?」
「死んでもやりたくないね――ああ、そうだ姉さん。ついでだからハンターを手配してくれる? そのほうが手っ取り早く教えられそうだから」
●コーチと初心者
その小型帆船はごくごく普通、いや普通よりもシンプルであった。
形はいわゆるスクーナー船。前後の長さ8メートル。帆は2つ。模様も飾りもない。船体は白、帆も白。帆柱も白。すべてが白。
マルコはつい聞いてしまった。
「……これ、まだ製作途中なんじゃ」
ナルシスは肩をすくめて答えた。
「完成してるんだよ、これで」
彼は軽い身ごなしで、桟橋から船に飛び乗る。マルコがそれに続く。
操舵室はごくありふれた作り。しかしハッチの下には、全く普通でないものがあった――外側から見えている大きさの20倍、いや30倍、いやもっともっとあろうかという真四角の空間。まるで、巨大な倉庫のよう。
「――こ、これは?」
面食らうマルコにナルシスは、重ねて言った。
「説明は後。操舵室に戻りなよ。今日一日で大体のところマスターしてもらわないとね。そうじゃなきゃ僕、明日に休めないから」
船は沖に出て行く。風を一杯に受けて。
●演出する人々
沖合。小船に乗ったハンターたちの視界に、白い帆船が見えた。軽快に波をけたて、近づいてくる。
船酔い癖のあるカチャはやや浮かない顔をしながら、仲間の方を振り返る。
「来ましたよ」
「よし。じゃあ始めるか。当たらないように攻撃したらいいんだったな?」
本日彼らに課せられた任務はその持てる能力を使い、人為的な嵐を作り出すことである。
「しかし嵐の中を突っ切らせる訓練とか、初心者に対して相当スパルタだよな」
「大丈夫なんでしょうかね。沈んだら元も子もなさそうですけど」
港には今日も多数の船が停泊し、港湾作業員や船員が忙しく立ち働いている。船から降ろされた荷を別の場所に運ぶため、荷馬車や魔導トラックもひっきりなしに行き交っている。
活気にあふれたその界隈を過ぎると、商会や商社の本店が軒を連ねる通りに入る。
身なりのいい1人の少年がそこを歩いていた。
白地に青十字の旗が掲げられた建物の前で足を止め、石壁に打ち込まれた真鍮の表札を見上げる
『グリーク商会』
少年はきゅっとネクタイを締め直した。
それから扉を開け中に入って行く。
●学生とその後見人
グリーク商会の会長室。
革張りの椅子に座っているのはスーツに身を固めた若い女性、ニケ・グリーク。
いかにも賢そうで、抜け目が無さそう。
その前に立っているのはブレザー姿の少年、マルコ・ニッティ。
こちらも賢そうだが、ニケほど抜け目のなさが前面に出ていない。
「ニケさん。会長就任おめでとうございます」
「おや、ありがとうございます。貴重な休日なのに、わざわざお祝いを述べに来てくれるとはうれしいですね。冬休みも終わりましたが学院生活はどうですか、マルコさん?」
「まあまあ、といった所です」
「クラスの中でうまいことやっていますか?」
「ええ」
「ルイさんとは、その後仲良くしています?」
「もちろん。仲良くさせています」
ニケはマルコの回答が気に入ったらしい。銀縁眼鏡の鼻当てを押し上げ、小さく笑った。
「そうですか。それはいいことですね」
「ニケ会長、4月から学院で帆船操作の授業が始まるんですが、それをご存じですか?」
「ええ、もちろん知ってますよ。何しろ私の弟が通っていましたから。私自身もあの全寮制商船学校の卒業生ですし」
「それなら、実習に使う小型帆船は各自の持ち込みということも知っていますね? なるべく早く都合してくださるとうれしいんですが」
「これはこれは、随分気ぜわしいことですね」
「学校での授業が始まる前に予習しておきたいんです。俺はこれまで船を動かしたことないですし」
ニケが不敵な眼差しをマルコに向ける。
「大丈夫、実習船は用意はしてありますよ。もっともあなたに贈呈するのではありません。貸与です。損壊させたりした場合、修理費を払ってもらうことになります。将来あなたが稼ぐ分から。そのことは分かっていますね?」
マルコもまた、挑戦的な目をニケに向ける。
「もちろん分かっています」
「なら結構。ついでですから、コーチをつけますよ。基本が覚えられるまでね」
●姉と弟
職業ヒモ(最近はちょっとバイトもしている)美少年ナルシス・グリークは休日にいきなり姉から呼び出され、不愉快至極である。
「な・ん・で・僕が貴重な休日を潰されなきゃならないのかな姉さん? 僕さあ、働いてるんだよ。だから休みの日にはのんびりしたいんだよ」
「は? あんたの仕事なんて6時間労働で、しかも週休2日でしょう。1日休みが潰れたくらいでグズグズ言わないで」
「うっわ、何そのブラックな言い草。姉さんみたいなのパワハラ経営者って言うんじゃないのリアルブルーでは」
「ここはリアルブルーじゃなくてクリムゾンよ。とにかくあんた、操船の腕だけは一流でしょう。いろはのいだけでいいから、マルコに飲み込ませて」
「やだよめんどくさい。別の人雇ってよ」
「あっそう。じゃあマゴイさんに言ってあげるわ。弟は今の職場が気に入ったみたいだから、この先も正規雇用してくださいって。場合によっては市民にしてくれてもいいって」
「ほんっと姉さん汚いよね。僕姉さんのそういう所が大嫌いだよ」
「あら気が合うわね。私もあんたのヒモ体質が大嫌い」
何のかんのと言いながら、結局ナルシスは負ける。マルコの教育係を引き受けることになってしまう。会長になったことで、姉の権威はさらに増したのだ。
「で、船ってどこの奴使うのさ」
「ユニゾンから来た奴があるでしょう」
「……へーえ、姉さん随分マルコに肩入れしてるね。口八丁でもぎ取ってきた戦利品使わせてやるなんて」
「そりゃ、あの子にはそうするだけの価値があるもの。あんたがうちの商会で働くっていうなら、あんたにも使わせてあげるけど?」
「死んでもやりたくないね――ああ、そうだ姉さん。ついでだからハンターを手配してくれる? そのほうが手っ取り早く教えられそうだから」
●コーチと初心者
その小型帆船はごくごく普通、いや普通よりもシンプルであった。
形はいわゆるスクーナー船。前後の長さ8メートル。帆は2つ。模様も飾りもない。船体は白、帆も白。帆柱も白。すべてが白。
マルコはつい聞いてしまった。
「……これ、まだ製作途中なんじゃ」
ナルシスは肩をすくめて答えた。
「完成してるんだよ、これで」
彼は軽い身ごなしで、桟橋から船に飛び乗る。マルコがそれに続く。
操舵室はごくありふれた作り。しかしハッチの下には、全く普通でないものがあった――外側から見えている大きさの20倍、いや30倍、いやもっともっとあろうかという真四角の空間。まるで、巨大な倉庫のよう。
「――こ、これは?」
面食らうマルコにナルシスは、重ねて言った。
「説明は後。操舵室に戻りなよ。今日一日で大体のところマスターしてもらわないとね。そうじゃなきゃ僕、明日に休めないから」
船は沖に出て行く。風を一杯に受けて。
●演出する人々
沖合。小船に乗ったハンターたちの視界に、白い帆船が見えた。軽快に波をけたて、近づいてくる。
船酔い癖のあるカチャはやや浮かない顔をしながら、仲間の方を振り返る。
「来ましたよ」
「よし。じゃあ始めるか。当たらないように攻撃したらいいんだったな?」
本日彼らに課せられた任務はその持てる能力を使い、人為的な嵐を作り出すことである。
「しかし嵐の中を突っ切らせる訓練とか、初心者に対して相当スパルタだよな」
「大丈夫なんでしょうかね。沈んだら元も子もなさそうですけど」
リプレイ本文
●出発前の確認――メイム(ka2290)からニケへ
「マゴイが使うど●でもドアは、精霊門と違うんだろうけどさ。ひょいひょい移動出来るナルシス君って実は覚醒者だったりするー?」
「さて、どうでしょう。とりあえず私はそんな話、一度も聞いたことはないですが……気になるなら本人に尋ねてみられては? もっとも仮にそうだったとして、素直にYESと答えることはないでしょうね」
「なんで?」
「そんな能力があるならそれなりの働きをしろって言われるのが、目に見えてますから」
●実習開始
「ほらほら、さっきから西に流されてるよ。単に風受けて船進ませるだけならコボルドでも出来るんだよ?」
「はい、すいません」
ナルシスの嫌みな物言いに臆せず動ぜずマルコは、羅針盤と海路図を確認し進路を修正する。
そんな彼にレイア・アローネ(ka4082)は、姉が弟を見るがごとき眼差しを注いだ。
(全くこの子は会うたびごと、急速に大人びてくるな)
それはもちろん悪いことではない。
だがレイアとしては、今少し年相応に出来る余裕を与えてやりたくもある。
「どうだ、学校での生活は。勉強の方はうまくやれているか?」
「はい」
「友達とはどうだ?」
「まあまあってところですかね。あの後喧嘩はしてませんよ」
「喧嘩したっていい。お前が正しいと思うならな――マルコ、何か私に任せられる仕事があるなら遠慮なく任せてくれ。私もお前が他の生徒たちに遅れを取るのは面白くはないからな。今は操舵の練習に集中して欲しいのだ」
「ええと、それは――そうしてもいいですか、ナルシスさん?」
マルコに許可を求められたナルシスは、手をひらひらさせる。
「いいよ。だけど、試験のときは全部一人でやんなくちゃいけないからね。僕もいないしこのお姉さんもいない。そこ忘れないように」
「はい!」
●嵐を呼ぶ一団
揺れる小船の上。カチャがリナリス・リーカノア(ka5126)の左手を取り、その甲を指さしている。
「……結婚式の時はね、ここに刺青してもらうことになります。婚姻の形で部族入りする人の刺青は、迎え入れる人の刺青と対になる位置にするのが通例なので……」
「わ、じゃあカチャとお揃いってこと? 楽しみー♪ ねー、新婚旅行どこいこう? リアルブルーにも行けるかな♪」
「……そうですねー……行ければ……」
会話によって気をそらすよう最大限努力したが、カチャの酔いはとうとう、限界点に達した。
ふとした瞬間言葉が途切れる。ぐたりと船縁によりかかる。
「気分悪いの? じゃあ体を圧迫される服装は良くないから! ファスナー下げよ。お腹圧迫しない様トレパンもローライズ――」
それをいいことにリナリスは、やりたい放題し始めた。
天竜寺 詩(ka0396)は近づきつつある帆船を眺め、苦笑を浮かべる。
「そういえばナルシス君がマルコ君のコーチをしてるんだよね? 自分から買って出る訳ないし、またニケさんにいいように使われてるんだろうなぁ」
マルカ・アニチキン(ka2542)は本日ミリタリールック。そしてサングラス。試験演習ということなので、それにふさわしい(と思える)服装を準備してきたのだ。
(何事もまず形から入らねば……!)
ところでディーナ・フェルミ(ka5843)は、わたわたしている。
「……はっ!? うっかり回復スキルばっかり持ってきちゃったの~」
同時期に複数依頼を重複して受ける場合、このようなアクシデントは結構起こりがちだ。
どうしようかなと今更ながら考えこんだ彼女は、手持ちの武器に目をチラリ。
「……ウコンバサラやレイバシアーで船体を殴ったら、流石に穴が開くかもしれないの……」
思い直したところで今度は、船底にある錨に目をチラリ。
「……」
錨を無言で持ち上げ、重さを確かめるディーナ。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が、皆に呼びかけた。
「どなたかウォーターウォーが入り用な方、いらっしゃいますか?」
リナリスは真っ先に手を挙げ、パス宣言。
「あたしはかけてくれなくてもいいよ、この通り、ちゃんと用意してきてるから♪」
と言ってローブをパっと脱ぎ、白のマイクロビキニを開陳する。
「せくしーでしょ♪」
彼女以外のハンターは特にそういう準備をしていなかったので、そのままウォーターウォークをかけてもらう運びとなった。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法超水蜘蛛の術! これさえあれば、水面が荒れたってへっちゃらなんだからっ。皆さん、思う存分嵐を起こしちゃってください」
とにもかくにも特訓の火蓋が切って落とされる。
●試練だ少年
順調に進んでいたスクーナー船に突如、猛吹雪が襲ってきた――リナリスのブリザードだ。 船の帆が一瞬で霜だらけになる。舵も凍ったのか一気に重たくなる。
マルコは歯を食いしばり、腕ずくで回そうとする。しかし、動かない。
レイアが駆け寄り舵を握った。
「指示を出せ、と言っただろう?」
彼女の剛腕は、凍りついていた舵を動かす。
そこに直線の稲妻が走る――リナリスのライトニングボルトだ。
続けて今度は天から稲妻が落ちる――ルンルンの風雷陣だ。
「今日は戌三暴雷陣なのです! 停電コントも冴えちゃうんだからっ」
何故か周囲に雪が舞い出した――マルカのスノーホワイトだ。
急な天候の変化(見せかけだが)にマルコはうろたえ、船を止めようとする。
だが、ナルシスは命じる。
「そのまま進め」
「ええっ、でも」
「海の上で天候が変わることはよくある。そのまま進め。風は変わらず追い風なんだろ」
彼が少しも慌てていないところからマルコは、天候の急変が人為的かつ計画的なものであることを悟る。
小船の上に仁王立ちしたメイムが、剛弓ファイアクレストに矢をつがえ撃つ。
放たれた矢は船の間近を掠めた。その威力は強大だ。衝撃波で帆がビリリと鳴った。
その音が収まらぬ間にメイムは、続けてもう一本撃った。
狙うのはナルシス。
本当は服を掠めるくらいまでしてみたかったのだが、能力者という確証がニケから得られなかった以上、そこまでやるのは危険かと思われたので――1メートルくらい真横を狙う。
「まぁマルコ君もいずれ覚醒しそうな素養は見えるけど、専門職に比べて非力とはいえふつーの人ならあたしの攻撃でも重傷だろうし充てるわけにはね、ナルシス君!」
矢は狙い通りの位置を飛んだ。
鋭敏視覚に誓ってもいいが、ナルシスは矢が至近距離に到達する前にその場から飛びのいていた。
マルカがマジックフライトで飛んだ。ブリザードによる強風を避けつつ、アイスボルトを海面に撃つ。船の進行を阻害するため、氷を張らせようと。
だがしかし。
「あれ?」
氷は張らなかった。
紛らわしいのだがアイスボルトは、『氷結による阻害を敵に与える』魔法であって、『水を氷結させる』魔法ではないのである。船自体を狙えば行動阻害を与えることが出来たろうが、この使い方では、望む効果は得られなかった。
(んー、私、風を起こしたり波を作ったりするスキルを持ってないんだよね……どうしようかなあ)
ひとしきり考えた末詩は、ジャッジメントの使用を決めた。
皆の攻撃の間が空いたところで、術を発動。
移動を阻止された船はその場に釘付けされる。
不自然な急停止によりスクーナー船が傾く。だが即座に体勢を立て直す。
詩は感心しきりに呟いた。
「うーん、マルコ君なかなかやるねー」
そこでリナリスがメテオスウォームを発動する。
スクーナ船の正面、側面、後方へ立て続けに降り注いでくる火球が海面を波打たせ、船体を激しく揺り動かした――そして小船も揺り動かした。リナリス自身は小船があまり揺れないように注意して撃ったつもりだったのだが、水面が繋がっている以上、影響なしというわけにもいかない。
これにてカチャの気力は大いに減退した。
スクーナー船は斜め45度くらいに傾く。が、すんなり元に戻る。
一難去ったかと思うそこに、ゴガンゴガンという激しい音。
「でやぁ~~」
海面を駆けて来たディーナが碇つきの鎖を振り回し、ぶつけてきたのだ。
しかし船体はへこまない。傷もつかない。通常の船よりはるかに丈夫に出来ていることだけは確かなようだ。
「さすがユニオン製品、丈夫で長持ち♪」
うそぶきながらメイムは、鉄鎖ドローミーを発現させた。それを船の舳先にからめ、進路を傾けさせる。
ルンルンが式神を呼び出した。
「さぁ嵐の試練に耐えるのです……これを乗り越えた暁には、海で海坊主にあってもへっちゃらな忍耐が身につくこと請け合いです!」
ウォータウォークをかけてもらった4メートル弱の式神がスクーナー船に急接近。船体に手をかけ、ゆっさゆっさ。
「海ではどんな事が起こるかわからないもの、そのとき頼れるのは自分の技と経験なんだからっ!」
それを見ていたディーナも一緒になって、船体をシーソーのごとく揺すり始める。
これは自分が当初想定していた『対海賊訓練』に近い……というかそれ以上になってきているのでは、とレイアは思った。
ナルシスは傾く船上で器用に平均を取りつつ、舵にしがみつくマルコに言った。
「舵は生きてる?」
「はい」
「じゃあ進む」
マルコはちょっと考えた後、レイアに言った。
「レイアさん、船からディーナさんたちの手を放させてくださいますか? あれは舵捌きだけでは、どうにもなりませんので」
「いいだろう」
レイアは魔導剣カオスウィースを抜いた。
まずはルンルンの作り出した海坊主を一刀両断。
ついで側舷に立ちディーナを見下ろし、剣を構えて威嚇する。
「……悪いが、ここは一つ退いてくれないか?」
ディーナは急いで船から手を放した。
先にも書いたが、本日彼女は戦闘スキルを持ってきていない。近接での対峙は分が悪すぎるというものだ。
その様を見ていたリナリスはカチャに命綱を託しシュノーケルを咥え、海に飛び込んだ。メテオスウォーム最後の一発を海中で発動させるために。
メイムが錫で海面を打ち据え、奥義発動をした。予定ではチェイスが始まってからにするつもりだったが、そこまで待つのは難しそうだと見て。
「破滅の大地~♪」
直後大揺れに揺れた――海面がではない。彼女がよって立つところの小船が。
詩とルンルンは立っていられずしゃがみこむ。カチャは海面に転がり落ちる。ウォーターウォークがかかっているので沈むことはなかったが、この上もないBS状態。でも潜水しているリナリスの命綱だけは放さない。
小船の揺れにより一応周囲に放射状の波は起きたが、当然期待には及ばない規模であった。
直後3つの火球が上空に現れ海面に降り注ぐ――メテオスウォームは『ぶつける』のではなく『降り注がせる』魔法だ。たとえ術者が水中にいても火球は水中に出現しないし、そこで爆発することもない。
跳ね上がる飛沫を浴びるスクーナー船。
ずぶ濡れになったレイアが言った。
「どうやら敵は弾を打ち尽くしたらしいぞ」
ナルシスが不機嫌そうに濡れ髪をかきあげる。
「マルコ、そのまま進め」
マルコはスクーナー船を進める。
そこで海上に仕掛けられた地縛符に、船の一部が引っ掛かった。
船体が停止する。
仕掛け人であるルンルンが声を上げた。
「真っすぐ進まないと、暗礁に乗り上げちゃう設定ですよー! 海ではどんなことが起きるか分からないもの、そのとき頼れるのは自分の腕と経験なんだからっ」
この後も訓練は続いた。とりあえず、皆がスキルを使い果たすまで。
●実習終了
特訓を終え、皆はスクーナー船の上で一休み。
メイムはナルシスに聞いた。
「ねーナルシス君、もしかして能力者ってことはない?」
「ないない、ないよ。僕は普通の一般人」
詩はポテチとジュースを、彼とマルコに差し入れた。
「2人とも、お疲れ様ー」
ナルシスは不平たらたらだ。
「こんなこと、もう二度とやんないからね」
マルコはちゃんと礼を言う。
「皆さんもお疲れさまです。本日はご協力ありがとうございました」
そんな彼にマルカは、コイン「サダルメリク」とコイン&弾丸型チョコ「プレミアムチョコレート」を差し出した。
「この先お金に縁がありますようにと。後、これもどうぞ。何事にも初心忘るべからずと申しますので」
加えて写真も。そこには舵取をする彼の姿が写っている。
レイアは愉快そうに言った。
「いい記念だな」
ディーナはカチャに近づいた。
マルカから季節の贈答品『朝騎ウェハース』を背に乗せられ伏したきりの彼女を、ゴッドブレスで介抱する。
「船酔いって三半規管の異常で起きるらしいの。三半規管を正常にって念じればもう船酔いにかからなくなるかもしれないの。船酔いの根絶目指して頑張ろうなの」
確かに効果時間の間だけは、船酔い体質を解消出来るものらしい。
半死人と化していたカチャが、即座に蘇った。
「わ、すごく気分がいい! ありがとうございます」
そこにリナリスが飛び込んできた。毛皮マントを羽織った姿でカチャに抱き着き、服に手を入れくすぐり攻撃。
「さぶいいっ! ママに雪中裸吊りの刑にされた時みたいいいっ。カチャ暖めてー」
「ひゃはははどこ触ってんですかちょ、あはははは」
思う存分戯れた後、持ち込んできたザッハトルテを人数分切り分け、チョコドリンクを淹れる。
「みんな、どうぞー。あったかいうちにね」
ルンルンはそれを受け取り、一口含む。
「甘いものが体に染みますぅ」
詩はナルシスにこっそり耳打ちした。
「ねぇねぇ、マルコ君とニケさんどう思う? お似合いだと思わない? 前にニケさんに好みのタイプはって聞いたことあるんだけど、それにマルコ君あてはまるような気がするんだよね」
美少年は興味なさげに、しかし的確に答える。
「姉さんの理想のタイプって、とどのつまり『共同経営者になれる人間』だからね。当てはまるっちゃあ当てはまるかな」
「そっか、やっぱり♪ じゃあナルシス君も応援してよ。恋人が出来たらニケさんのあたりも柔らかくなるかもよー」
「甘いねー。恋人が出来たからって変わるような女じゃないよ、姉さんは」
皮肉たっぷりにすくめられたナルシスの肩を、マルカが叩く。
「何? お姉さん」
彼女がすっと差し出したのは、濡れ髪を掻き上げる美少年のスナップ写真。
「これをマリーさんにお届けしてかまいませんか? それが駄目ならニケさんにお届けしようかと思うのですが……」
「マリーお姉さんにはともかく姉さんにだけは絶対やめろ。何に使われるか分かりゃしない」
そんな会話がなされている片隅でリナリスは、自分とカチャの頭の上から毛皮マントをかぶせ、小さな密室を作った。
そこでカチャの口にチョコレートを押し込む。
「はい、これ♪ 市販品だけど……いま特製品にしちゃうからね♪」
それから唇を重ね――蕩けるような甘いキス。
「マゴイが使うど●でもドアは、精霊門と違うんだろうけどさ。ひょいひょい移動出来るナルシス君って実は覚醒者だったりするー?」
「さて、どうでしょう。とりあえず私はそんな話、一度も聞いたことはないですが……気になるなら本人に尋ねてみられては? もっとも仮にそうだったとして、素直にYESと答えることはないでしょうね」
「なんで?」
「そんな能力があるならそれなりの働きをしろって言われるのが、目に見えてますから」
●実習開始
「ほらほら、さっきから西に流されてるよ。単に風受けて船進ませるだけならコボルドでも出来るんだよ?」
「はい、すいません」
ナルシスの嫌みな物言いに臆せず動ぜずマルコは、羅針盤と海路図を確認し進路を修正する。
そんな彼にレイア・アローネ(ka4082)は、姉が弟を見るがごとき眼差しを注いだ。
(全くこの子は会うたびごと、急速に大人びてくるな)
それはもちろん悪いことではない。
だがレイアとしては、今少し年相応に出来る余裕を与えてやりたくもある。
「どうだ、学校での生活は。勉強の方はうまくやれているか?」
「はい」
「友達とはどうだ?」
「まあまあってところですかね。あの後喧嘩はしてませんよ」
「喧嘩したっていい。お前が正しいと思うならな――マルコ、何か私に任せられる仕事があるなら遠慮なく任せてくれ。私もお前が他の生徒たちに遅れを取るのは面白くはないからな。今は操舵の練習に集中して欲しいのだ」
「ええと、それは――そうしてもいいですか、ナルシスさん?」
マルコに許可を求められたナルシスは、手をひらひらさせる。
「いいよ。だけど、試験のときは全部一人でやんなくちゃいけないからね。僕もいないしこのお姉さんもいない。そこ忘れないように」
「はい!」
●嵐を呼ぶ一団
揺れる小船の上。カチャがリナリス・リーカノア(ka5126)の左手を取り、その甲を指さしている。
「……結婚式の時はね、ここに刺青してもらうことになります。婚姻の形で部族入りする人の刺青は、迎え入れる人の刺青と対になる位置にするのが通例なので……」
「わ、じゃあカチャとお揃いってこと? 楽しみー♪ ねー、新婚旅行どこいこう? リアルブルーにも行けるかな♪」
「……そうですねー……行ければ……」
会話によって気をそらすよう最大限努力したが、カチャの酔いはとうとう、限界点に達した。
ふとした瞬間言葉が途切れる。ぐたりと船縁によりかかる。
「気分悪いの? じゃあ体を圧迫される服装は良くないから! ファスナー下げよ。お腹圧迫しない様トレパンもローライズ――」
それをいいことにリナリスは、やりたい放題し始めた。
天竜寺 詩(ka0396)は近づきつつある帆船を眺め、苦笑を浮かべる。
「そういえばナルシス君がマルコ君のコーチをしてるんだよね? 自分から買って出る訳ないし、またニケさんにいいように使われてるんだろうなぁ」
マルカ・アニチキン(ka2542)は本日ミリタリールック。そしてサングラス。試験演習ということなので、それにふさわしい(と思える)服装を準備してきたのだ。
(何事もまず形から入らねば……!)
ところでディーナ・フェルミ(ka5843)は、わたわたしている。
「……はっ!? うっかり回復スキルばっかり持ってきちゃったの~」
同時期に複数依頼を重複して受ける場合、このようなアクシデントは結構起こりがちだ。
どうしようかなと今更ながら考えこんだ彼女は、手持ちの武器に目をチラリ。
「……ウコンバサラやレイバシアーで船体を殴ったら、流石に穴が開くかもしれないの……」
思い直したところで今度は、船底にある錨に目をチラリ。
「……」
錨を無言で持ち上げ、重さを確かめるディーナ。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が、皆に呼びかけた。
「どなたかウォーターウォーが入り用な方、いらっしゃいますか?」
リナリスは真っ先に手を挙げ、パス宣言。
「あたしはかけてくれなくてもいいよ、この通り、ちゃんと用意してきてるから♪」
と言ってローブをパっと脱ぎ、白のマイクロビキニを開陳する。
「せくしーでしょ♪」
彼女以外のハンターは特にそういう準備をしていなかったので、そのままウォーターウォークをかけてもらう運びとなった。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法超水蜘蛛の術! これさえあれば、水面が荒れたってへっちゃらなんだからっ。皆さん、思う存分嵐を起こしちゃってください」
とにもかくにも特訓の火蓋が切って落とされる。
●試練だ少年
順調に進んでいたスクーナー船に突如、猛吹雪が襲ってきた――リナリスのブリザードだ。 船の帆が一瞬で霜だらけになる。舵も凍ったのか一気に重たくなる。
マルコは歯を食いしばり、腕ずくで回そうとする。しかし、動かない。
レイアが駆け寄り舵を握った。
「指示を出せ、と言っただろう?」
彼女の剛腕は、凍りついていた舵を動かす。
そこに直線の稲妻が走る――リナリスのライトニングボルトだ。
続けて今度は天から稲妻が落ちる――ルンルンの風雷陣だ。
「今日は戌三暴雷陣なのです! 停電コントも冴えちゃうんだからっ」
何故か周囲に雪が舞い出した――マルカのスノーホワイトだ。
急な天候の変化(見せかけだが)にマルコはうろたえ、船を止めようとする。
だが、ナルシスは命じる。
「そのまま進め」
「ええっ、でも」
「海の上で天候が変わることはよくある。そのまま進め。風は変わらず追い風なんだろ」
彼が少しも慌てていないところからマルコは、天候の急変が人為的かつ計画的なものであることを悟る。
小船の上に仁王立ちしたメイムが、剛弓ファイアクレストに矢をつがえ撃つ。
放たれた矢は船の間近を掠めた。その威力は強大だ。衝撃波で帆がビリリと鳴った。
その音が収まらぬ間にメイムは、続けてもう一本撃った。
狙うのはナルシス。
本当は服を掠めるくらいまでしてみたかったのだが、能力者という確証がニケから得られなかった以上、そこまでやるのは危険かと思われたので――1メートルくらい真横を狙う。
「まぁマルコ君もいずれ覚醒しそうな素養は見えるけど、専門職に比べて非力とはいえふつーの人ならあたしの攻撃でも重傷だろうし充てるわけにはね、ナルシス君!」
矢は狙い通りの位置を飛んだ。
鋭敏視覚に誓ってもいいが、ナルシスは矢が至近距離に到達する前にその場から飛びのいていた。
マルカがマジックフライトで飛んだ。ブリザードによる強風を避けつつ、アイスボルトを海面に撃つ。船の進行を阻害するため、氷を張らせようと。
だがしかし。
「あれ?」
氷は張らなかった。
紛らわしいのだがアイスボルトは、『氷結による阻害を敵に与える』魔法であって、『水を氷結させる』魔法ではないのである。船自体を狙えば行動阻害を与えることが出来たろうが、この使い方では、望む効果は得られなかった。
(んー、私、風を起こしたり波を作ったりするスキルを持ってないんだよね……どうしようかなあ)
ひとしきり考えた末詩は、ジャッジメントの使用を決めた。
皆の攻撃の間が空いたところで、術を発動。
移動を阻止された船はその場に釘付けされる。
不自然な急停止によりスクーナー船が傾く。だが即座に体勢を立て直す。
詩は感心しきりに呟いた。
「うーん、マルコ君なかなかやるねー」
そこでリナリスがメテオスウォームを発動する。
スクーナ船の正面、側面、後方へ立て続けに降り注いでくる火球が海面を波打たせ、船体を激しく揺り動かした――そして小船も揺り動かした。リナリス自身は小船があまり揺れないように注意して撃ったつもりだったのだが、水面が繋がっている以上、影響なしというわけにもいかない。
これにてカチャの気力は大いに減退した。
スクーナー船は斜め45度くらいに傾く。が、すんなり元に戻る。
一難去ったかと思うそこに、ゴガンゴガンという激しい音。
「でやぁ~~」
海面を駆けて来たディーナが碇つきの鎖を振り回し、ぶつけてきたのだ。
しかし船体はへこまない。傷もつかない。通常の船よりはるかに丈夫に出来ていることだけは確かなようだ。
「さすがユニオン製品、丈夫で長持ち♪」
うそぶきながらメイムは、鉄鎖ドローミーを発現させた。それを船の舳先にからめ、進路を傾けさせる。
ルンルンが式神を呼び出した。
「さぁ嵐の試練に耐えるのです……これを乗り越えた暁には、海で海坊主にあってもへっちゃらな忍耐が身につくこと請け合いです!」
ウォータウォークをかけてもらった4メートル弱の式神がスクーナー船に急接近。船体に手をかけ、ゆっさゆっさ。
「海ではどんな事が起こるかわからないもの、そのとき頼れるのは自分の技と経験なんだからっ!」
それを見ていたディーナも一緒になって、船体をシーソーのごとく揺すり始める。
これは自分が当初想定していた『対海賊訓練』に近い……というかそれ以上になってきているのでは、とレイアは思った。
ナルシスは傾く船上で器用に平均を取りつつ、舵にしがみつくマルコに言った。
「舵は生きてる?」
「はい」
「じゃあ進む」
マルコはちょっと考えた後、レイアに言った。
「レイアさん、船からディーナさんたちの手を放させてくださいますか? あれは舵捌きだけでは、どうにもなりませんので」
「いいだろう」
レイアは魔導剣カオスウィースを抜いた。
まずはルンルンの作り出した海坊主を一刀両断。
ついで側舷に立ちディーナを見下ろし、剣を構えて威嚇する。
「……悪いが、ここは一つ退いてくれないか?」
ディーナは急いで船から手を放した。
先にも書いたが、本日彼女は戦闘スキルを持ってきていない。近接での対峙は分が悪すぎるというものだ。
その様を見ていたリナリスはカチャに命綱を託しシュノーケルを咥え、海に飛び込んだ。メテオスウォーム最後の一発を海中で発動させるために。
メイムが錫で海面を打ち据え、奥義発動をした。予定ではチェイスが始まってからにするつもりだったが、そこまで待つのは難しそうだと見て。
「破滅の大地~♪」
直後大揺れに揺れた――海面がではない。彼女がよって立つところの小船が。
詩とルンルンは立っていられずしゃがみこむ。カチャは海面に転がり落ちる。ウォーターウォークがかかっているので沈むことはなかったが、この上もないBS状態。でも潜水しているリナリスの命綱だけは放さない。
小船の揺れにより一応周囲に放射状の波は起きたが、当然期待には及ばない規模であった。
直後3つの火球が上空に現れ海面に降り注ぐ――メテオスウォームは『ぶつける』のではなく『降り注がせる』魔法だ。たとえ術者が水中にいても火球は水中に出現しないし、そこで爆発することもない。
跳ね上がる飛沫を浴びるスクーナー船。
ずぶ濡れになったレイアが言った。
「どうやら敵は弾を打ち尽くしたらしいぞ」
ナルシスが不機嫌そうに濡れ髪をかきあげる。
「マルコ、そのまま進め」
マルコはスクーナー船を進める。
そこで海上に仕掛けられた地縛符に、船の一部が引っ掛かった。
船体が停止する。
仕掛け人であるルンルンが声を上げた。
「真っすぐ進まないと、暗礁に乗り上げちゃう設定ですよー! 海ではどんなことが起きるか分からないもの、そのとき頼れるのは自分の腕と経験なんだからっ」
この後も訓練は続いた。とりあえず、皆がスキルを使い果たすまで。
●実習終了
特訓を終え、皆はスクーナー船の上で一休み。
メイムはナルシスに聞いた。
「ねーナルシス君、もしかして能力者ってことはない?」
「ないない、ないよ。僕は普通の一般人」
詩はポテチとジュースを、彼とマルコに差し入れた。
「2人とも、お疲れ様ー」
ナルシスは不平たらたらだ。
「こんなこと、もう二度とやんないからね」
マルコはちゃんと礼を言う。
「皆さんもお疲れさまです。本日はご協力ありがとうございました」
そんな彼にマルカは、コイン「サダルメリク」とコイン&弾丸型チョコ「プレミアムチョコレート」を差し出した。
「この先お金に縁がありますようにと。後、これもどうぞ。何事にも初心忘るべからずと申しますので」
加えて写真も。そこには舵取をする彼の姿が写っている。
レイアは愉快そうに言った。
「いい記念だな」
ディーナはカチャに近づいた。
マルカから季節の贈答品『朝騎ウェハース』を背に乗せられ伏したきりの彼女を、ゴッドブレスで介抱する。
「船酔いって三半規管の異常で起きるらしいの。三半規管を正常にって念じればもう船酔いにかからなくなるかもしれないの。船酔いの根絶目指して頑張ろうなの」
確かに効果時間の間だけは、船酔い体質を解消出来るものらしい。
半死人と化していたカチャが、即座に蘇った。
「わ、すごく気分がいい! ありがとうございます」
そこにリナリスが飛び込んできた。毛皮マントを羽織った姿でカチャに抱き着き、服に手を入れくすぐり攻撃。
「さぶいいっ! ママに雪中裸吊りの刑にされた時みたいいいっ。カチャ暖めてー」
「ひゃはははどこ触ってんですかちょ、あはははは」
思う存分戯れた後、持ち込んできたザッハトルテを人数分切り分け、チョコドリンクを淹れる。
「みんな、どうぞー。あったかいうちにね」
ルンルンはそれを受け取り、一口含む。
「甘いものが体に染みますぅ」
詩はナルシスにこっそり耳打ちした。
「ねぇねぇ、マルコ君とニケさんどう思う? お似合いだと思わない? 前にニケさんに好みのタイプはって聞いたことあるんだけど、それにマルコ君あてはまるような気がするんだよね」
美少年は興味なさげに、しかし的確に答える。
「姉さんの理想のタイプって、とどのつまり『共同経営者になれる人間』だからね。当てはまるっちゃあ当てはまるかな」
「そっか、やっぱり♪ じゃあナルシス君も応援してよ。恋人が出来たらニケさんのあたりも柔らかくなるかもよー」
「甘いねー。恋人が出来たからって変わるような女じゃないよ、姉さんは」
皮肉たっぷりにすくめられたナルシスの肩を、マルカが叩く。
「何? お姉さん」
彼女がすっと差し出したのは、濡れ髪を掻き上げる美少年のスナップ写真。
「これをマリーさんにお届けしてかまいませんか? それが駄目ならニケさんにお届けしようかと思うのですが……」
「マリーお姉さんにはともかく姉さんにだけは絶対やめろ。何に使われるか分かりゃしない」
そんな会話がなされている片隅でリナリスは、自分とカチャの頭の上から毛皮マントをかぶせ、小さな密室を作った。
そこでカチャの口にチョコレートを押し込む。
「はい、これ♪ 市販品だけど……いま特製品にしちゃうからね♪」
それから唇を重ね――蕩けるような甘いキス。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/20 18:21:11 |
||
相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/02/19 13:40:17 |