• 幻想

【幻想】愚者の黄金

マスター:電気石八生

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/02/23 07:30
完成日
2019/02/24 16:52

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●間劇
「アフンバル。向こうもいろいろ考えるわよねぇ」
 石墨の依代に宿った怠惰ゴヴニアは、東へ急ぐ青木 燕太郎の横に黒き翼はためかせて飛びつつ、器用に肩をすくめてみせた。
「……貴様も怠惰ならば王がために尽くせ。金屑の詰まった頭から絞り出してでも」
 鋭い視線でゴヴニアを撫で斬る青木。
 自分は武辺だ。オーロラをアフンバルの縛めより放つには、強大な精霊をも弄する知謀の力が不可欠であることを、先のイクタサとの対峙で痛感していた。
「言われなくてもやるわよ。それがあたしとビッグマーの約束だからね」
 その応えに、青木は小さく眉根を落とす。
 この石塊はことあるごとに誓約だの約束だのと口にするが、いったいなにがおもしろくてそんなものに拘り続けるものか。
 しかし、問題はゴヴニアがオーロラではなく、ビッグマーとの約定で動いているということだ。考えるまでもなく、ビッグマーを吸収した自分に対して含むものもあるだろうが、しかし。
 それがどうだという? 石塊がオーロラを取り戻すきざはしとなるならば、俺はその背を踏んで行くだけだ。
「オーロラを捕まえて、人間側は今「時間ができた」って思ってるわ。そのへんつついてイクタサの“手足”を腐らせましょ。精霊が強いっていっても、頭だけでできることなんてたかが知れてるからね」
 ま、腐らなくてもそれはそれでいいけどね。言い終えた途端、ゴヴニアはぼろりと崩れ落ちて地へ転がり、土に紛れて芥と化す。
 それを見た青木はさらに足を速めた。
 あの石塊、寸毫も信用できん。成すべきを為し、急ぎ戻らねば。

●愚者の黄金
 辺境部族会議。
 現在、首長バタルトゥ・オイマトは、ファリフ・スコールと共に不在であるが、彼らがイクタサに助力し、オーロラを一時的ながら封印したとの報は早馬にて届けられていた。
 集まった部族の者たちはうなずき合う。これで当座はなんとかなるだろう。次は勇者ふたりの帰還を待ち、対策を練らなければ。
 皆が申し合わせたように息をついた、その間に。
「汝らが思うよりも早く封印は解けるぞ? 10日後か、5日後か、ともすれば明日か」
 重々しい言葉を紡いで場へ“生じた”ものは、黄金の体を持つ女性型歪虚。
 この場に在る誰もがその正体を察していた。鉱石の肢体を持つ歪虚など、他にいようはずはないのだから。
「怠惰ゴヴニア!」
 部族の者たちは一斉に立ち上がり、得物を構えた。知者としてこの場にある彼らだが、辺境で生き延びるために必要な武力はそれぞれが備えている。この人数でかかれば、少なくとも傷くらいは――
「明察だな」
 両手を挙げたままゆるやかに座し、ゴヴニアは言葉を継いだ。
「怠惰王を征かせる路を敷いた我が、汝らがため警告を贈ったこと聞き及んでおろう? ……もっとも、汝らの逸りにて我が心尽くしは無に帰したわけだが」
 場の空気から猛りが退いていく。ゴヴニアの無防備と気怠い言の葉にあてられて少しずつ、少しずつ、少しずつ。
 その様を気にする様子もなく、ゴヴニアはこの場の誰かがくわえていたのだろう木製の長煙管を取り上げ、詰めた刻み煙草へ火を点けた。
「して、此度も心尽くしに来やったのだ」
 次いでそのあたりにあった杯を取って呷り、茶を飲み下す。
 鉱石の体でどれほど味わえるものかは知れなかったが、ためらいのないゴヴニアの行動は微妙な共感を生み、部族の者たちから敵愾心を減じていった。
「ま、この場で争おうという気はない。汝らも座すがよい」
 かくていくらかの間を空け、ゴヴニアは紫煙と共に言の葉を吐き出した。
「ハンターと称する流れ者どもは先と同じく、封印をただ見やってはおらぬぞ。自らに人を超えし力があると自賛し、オーロラを滅さんと攻めかかる。其は人の世のためにはなるやもしれんんが……辺境へ与えられし時をいたずらに減じ、再び踏み出せし怠惰王の“ニガヨモギ”をより濁らせよう」
 煙管から灰を落とす音で間を作り、一同の顔を見渡した。そして。
「いや、かようなことはよいのだ」
 場の視線がもれなく自らへ注がれていることを確かめて。
「そも、此の地が先を定めるは、精霊の使い走りでも流れ者でもない。ましてや――」
 ぎちりと薄笑んだ。
「汝らを、国などという囲いへ追い込み、荒野ならぬ異界の法にて縛めんとする不心得者でもな」
 なぜ部族会議を国家へ昇格させようという動きを、怠惰が知っている!?
 部族の者たちの驚愕は、そのままゴヴニアの語りを招く間となった。
「此の地を治むるべきは、辺境に生まれ生きる汝らの矜持であろうがよ」
 辺境を治めるべきは、なにに濁らされることない辺境の民の矜持。
 その言は言い訳を与えることとなる。バタルトゥやファリフが推し進める国家化――辺境の民がこれまで守り伝えてきた伝統を捨て去ることに疑問を抱いていた者たちへ。
 愛する故郷の先を、祖先からこの地を受け継ぐ自らで定めるのだ。それこそは私心ならぬ、辺境の民としての矜持!
 ゴヴニアではなく、同胞であるはずの者らへすがめた目をはしらせる者たち。
 それに気づき、あわてて構えを取る者たち。
 両者の狭間にてゴヴニアはとろりと紡ぐ。
「さて。汝らは其の矜持をもっていかにする?」

●都合
「部族会議で騒ぎが起きてるわ!」
 ゲモ・ママは緊急招集したハンターたちと共に駆けながら状況を説明する。
 反バタルトゥ・ファリフ派(反対派)の部族が親バタルトゥ・ファリフ派部族(親派)と真っ向からぶつかり、傷つけ合っている。
 ハンターは極力彼らを刺激せぬように騒ぎを収め、バトルトゥとファリフの帰還を迎えられるようにせよ。
「反対派はゴヴニアに煽られてるわ。あの金物女の口塞ぐか、反対勢力説得するかしないとダメね」
 ゴヴニアは自ら戦うことはせず、反対勢力にいくらかの助力を与え、騒ぎを大きくしている。しかも両陣営に死者を出させることなくだ。
「誰か死んだら自分に敵意が向くってのがわかってるんでしょうね……そのへんは抜かりなしってとこかしら」
 だとすれば、ゴヴニアが人間の敵であることを証明することも一手となるか。この状況では困難と言うよりないが。
「とにかく、説得するにも反対派を抑えないと。加減が難しいとこだけどねぇ」
 実力行使で抑えるなら、反対派の部族の矜持を損ねぬやりかたなり言葉かけが不可欠だ。
「どっちにしても厳しい任務になるけど、しくじったらこの後、アタシたちは怠惰王と青木ちゃんへ集中できなくなる。気合入れてなあなあに済ませんのよ!」

リプレイ本文

●弄言
「殺気立ってんなぁ」
 部族会議の場へ到達したゾファル・G・初火(ka4407)は、抱えてきた酒瓶で自分の肩をとんとん、コリをほぐして息をついた。
 ここは死者こそ出ていなかったが、すでに多くの血が流れ落ちている修羅場の端。こりゃあ思ってたようにはいかねーじゃん?
 後ろからゾファルの肩に触れたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が、ハンターたちにだけ聞こえるよう潜めた声で。
「話し合いに持ち込むまでは任せた。私はその後、話し合うための要を確保に行く」
 部族の者たちの目と、なにより場の中心に座すゴヴニアの目がこちらへ向いていないことを確かめて、隠の徒とナイトカーテンを発動。音もなく喧噪の向こうへと抜けて行った。
「気合入れてなあなあにってすげえ表現だよな。……とにかく、しかけるきっかけが欲しいとこだ」
 相方たる星神器「エクスカリバー」の柄ではなく、リュート「ムーン・ナイト」の棹をその手に握るリュー・グランフェスト(ka2419)が言い。
「武力で解決する問題ではないことをお知らせするためにも、まずは落ち着いていただかないといけませんね」
 夜桜 奏音(ka5754)がうなずいた。
 占術によれば友情と努力が勝利を呼ぶらしいのだが、努力はいいとしても友情のほうはどうしたものか。
 ここで進み出たのは百鬼 一夏(ka7308)である。
 彼女は燃えている。石路で新怠惰王オーロラと対峙し、先にゴヴニアが残した言葉の意味を知らされてからずっと。
「びっくりさせちゃえば、ちょっとだけでも止まりますよね?」
 方法は不明ながら、彼女がきっかけを作ろうとしていることは知れた。かくて一同がうなずいた、次の瞬間。
 ぶつかり合う両派の先陣をアースウォールが押し分け、場に押し詰まった殺気を強引に両断。さらに。
「はい、注目~」
 2年間の実践によって身につけた“極度ぶりっ子”口調で割り込んだ星野 ハナ(ka5852)がぱんぱん、手を打ち鳴らして部族の者たちの目を奪った。
「今現在ぃ、ここにいる30人すべての部族長さんたちがぁ、ご自分たちの部族民から1000年の憎悪を受けるか受けないかの瀬戸際ですのでぇ、それを止めに参りましたぁ」
 大仰な言葉がいい具合に作用している、今。
 土壁の上へ跳び乗ったリューがムーン・ナイトの弦を掻いて明るくやさしい音を奏でて言葉を継ぐ。
「争いに来たんじゃないだろ? だってここは、辺境をどうするかって話をする場だ。俺の言ってること、なにかまちがってるか?」
 完全に場の空気が持って行かれたことを確かめた奏音は慈愛の祈りを込め、言の葉を紡ぎ上げた。
「あなたたちの焦りも不安もわかります。でも、この場にいない人たちの不満を振りかざしても、結局は顔を合わせて、腹を割って話さなければ納得はできないと思いますよ」
 ここで土壁に登ったゾファルは「おっちゃんたち、まずは座んない?」、酒瓶を壁の上へどんと置き。
「手土産持ってきた客人の前でケンカとか無礼じゃん? それにさぁ、ゴヴちゃんだって心尽くしに来たってハナシだし、おもてなししてあげなくっちゃオトコがすたるぜ」
 殺気が、急激に萎えていく。
 と。当のゴヴニアが悠然と紫煙を吐き出し、かぶりを振った。
「辺境の志士よ、力持て汝(なれ)らを圧せんと凶悪なる武具と武技とで身を固めしよそ者どもが押し寄せたぞ?」
 ハンターの訪れた理由を察した親派は当然ながらそれを否定したが。
「ほう。ならば其のよそ者どもはなにゆえ汝らの首魁を奪いに駆けた?」
 ざわり。反対派の者たちが一斉に顔を一点へと振り向けた。
 場の後方には、反対派が捕らえた親派の中心たる部族長ふたりがある。ふたりはゴヴニアの依代に繋がれ、確保されていたはずだったのだ。
 それを、真っ先に奪い返したハンターはつまり、憂いを断ちに行ったということではないのか。親派を守り、反対派を圧倒的武力で押し潰すがために。
 ゆるやかにうなずいたゴヴニアは半眼を巡らせて言葉を継ぐ。
「屈するは容易きことなれど、気概を躙られるをよしとするか?」

 ――ゴヴニアが語り出すわずか前。
 アルトは気配を辿り、会議場に併設された待機用テントのひとつに潜り込んでいた。
「なにをさておき捕虜を奪いに来やったか」
 親派の部族長ふたりを監視するゴヴニアがアルトへ言うが。
「怠惰と戯れてやる気はない」
 依代は同時に複数体存在できるのか。眉根に込もりかけた力を抑え、思考を読ませぬよう平らかに言い切ったアルトは、左に佩いた試作法術刀「華焔」の柄に手をかけた。
「我に其の刃に抗する術はない。斬るも奪うも、汝が思うままよ」
 怠惰の余裕の根にあるものは知れない。しかし、斬り伏せてしまえばそれを逆手に取られることは知れている。
 ならば。
 踏鳴の加速でゴヴニアを置き去り、部族長たちを左右に抱えてテントを突き抜けた。
「賢しい振る舞いであれ、彼の鉄火場は覆せぬよ」
 ゴヴニアの笑みを背に受け、アルトは胸の内で返す。
“人”を見くびるな、怠惰。

●難題
 このままでは、反乱の咎を着せられ、命どころか名誉までもを失う。
 突き上げられるまま、反対派は得物を構えなおし、じりじりと親派へ、そしてハンターへにじり寄る。
「彼奴らは妖しの業を使う。心を据えよ、二度とその決意侵されぬよう」
 先に奏音が発した祈りを論うゴヴニア。それはただの言葉でありながら、追い詰められた反対派の心を頑なに引き締めさせる。
「歪虚の手を借りて精霊を取り戻したとしても、そんなあなたたちと共に歩んではくれません。精霊を穢す歪虚の論に惑わされて信仰を捨ててしまっては、なにを得ることもできませんよ」
 いつでも地縛符を発動させられるよう身構える奏音に続き、ハナはゴヴニアを指差して告げた。
「みなさんアレがなにに見えてますぅ? 歪虚ですよぅ? 認識阻害でもかかってますぅ?」
 ふたりの指摘は正しい。当の怠惰が認めるほどに。
「正に。が、其をして立たねばおれぬ情理が、彼の者らにはある」
「……こんなことして、おまえになんの得があるんだよ」
 反対派を刺激しないよう、親派の前ではなくカバーできる横合いに位置取ったリューが、紫煙を吐くゴヴニアに問えば。
「怠惰として語らば、精霊と其に組みする極一部の者の力を弱めるが任よ。遠からず怠惰王の封印は解けようが、其の時を迎えるまでにわずかなりともな」
「封印がもうすぐ解ける? そりゃあありがたい話だ。本当ならな」
 視線に込めた気迫で反対派の前進を阻み、リューは次に語るべき言葉を探る。
 部族の民であれハンターであれ、これ以上斬らせてしまったら反対派は今度こそ止まれなくなる。ここからは誰の血も流させず、ゴヴニアの戯言を遮って場を収めなければならないのだ。
「我が語ったとおり、彼の者らは封印を見過ごせぬ。其の蛮勇は辺境を疾く滅ぼそう」
 一夏は伸び出した犬歯を噛み締めた。
 ゴヴニアは嘘をつかない。今もあっさりと怠惰の真意を語ってみせたが、しかし。
 人の揚げ足取って自分に都合のいいことばっかり言い返すとか、誠実じゃないでしょ!
「確かにあの路が壊れてニガヨモギ発動しちゃったときはやっちゃったー! って思いましたけど! 放置してたらまっすぐオーロラはここまで来ちゃってて、結局辺境だって滅んだんじゃないですか!」
「怒らせておけばさようなことにはならぬ。……彼の娘がなにを失うこともな」
 ぐっ、一夏の喉が押し詰まる。怠惰の大感染“ニガヨモギ”はおそらく、オーロラから記憶を奪うのだ。
 ゴヴニアが誠意からそれを防ぎたいわけではないと確信している。それに。
「でも、それって別に私たちのためじゃないですよね。今回だって辺境のためなんかじゃない」
「語ったとおりに都合はあるが、辺境が辺境の有り様を保つことこそ正道と思うているばかりよ。二者が他の上に立つ今、王なる一者が統べる先に“平等”など有り得ぬがゆえに」
 奏音は思考を巡らせる。
 実際、反対派の論の軸はそれだ。そしてゴヴニアは、そこへ練り込まれた我欲を大義という錦で塗り固めていた。対する親派の情に偏った論では対抗しようがないほどに強く、美しく。
 でも、このまま歪虚に人々の心を弄ばせはしませんから。
 再生の祈りを発動させた彼女は、傷ついた人々を癒した後も姿勢を保ち、祈り続ける。誰かを傷つけるのではなく、誰も傷つけさせないことを示して。
「これもまた“妖しの業”かもしれません。でも、私たちがけして力をもって鎮圧をしに来たのではないことだけは信じてください」
「そーだぜ。見ろよ」
 ゾファルが大きく手を拡げ、ぐるりと回ってみせた。
「俺様ちゃん、ハナっから丸腰なんだぜ? そんな相手に武器向けるとか、ちょっとかっこ悪すぎじゃね?」
 張った意地へ直接訴えかける、ケンカ屋だからこそのゾファルのセリフ。
 反対派ばかりでなく親派の気迫も削ぎ落とされた、そのとき。
「そうですよ! それに平等って言いますけど! 武力でそれを通しちゃったら結局、一方的な支配になるだけじゃないですか!」
 一夏の声音が場を揺るがせた。
 ゴヴニアの論に見いだした、隙。武力ではなく、言葉で怠惰の戯言を押し返すのはここしかない。
 さらに。
「星の友たる同胞へ伸べるべき手でなぜ、歪虚の魔手を取る? その手は、精霊と共に父祖が守り抜いてきたこの地の未来へと繋いでいくためにこそある。そうではないのか」
 奪回した部族長ふたりをかばいながら場へと踏み入ってきたアルトが、強く声を張った。
「本当に大切なものは、己が矜持だけなのか?」

●問い
 ハナがまた手を叩いた。
「もう1回、注目~」
 充分に意識を引いたところで、低く声音を紡ぎ。
「ここであなたがたが争って死ねばぁ、お互いの部族の民はこう思いますぅ」
 まずは親派を指し。
「正論を吐くだけで、道を踏み外そうとした仲間を救えなかった無能ぅ」
 次いで反対派を指し。
「怠惰の口車に乗って、精霊様を独占しようとした裏切り者ぉ」
 眉根をきゅうと引き下げて怖い顔を作り、ぷんぷん、という顔を作り。
「部族同士で憎み合って争えばぁ、怠惰は楽々と辺境を征服できますぅ。そしたら精霊様は他の部族全部へぇ、怠惰1体に躍らされたお馬鹿さんたちがいるって伝えますよぅ」
 そして。
「それだけの罪と憎悪を自分たちの同胞に残しちゃってぇ、場合によってはあなたたちの残した恥を雪ぐぅって自害されたりしてもぉ、ほんとのほんとに平気ですぅ?」
 鋭い視線を巡らせた。
「部族会議の理をここで問うことはしない」
 後を継いだのはアルトである。現実を突きつけるのはハナがしてくれた。しかし、それだけでは反発を招くだろう。ここからは妥協を探らせるべきだ。
「だが、自らの矜持が正しいと思うのならば、それだからこそ真っ向から論を戦わせることこそが赤き大地の理ではないのか?」
 そして全員に見えるよう剣を置き。
「それでも誰かを傷つけずにいられないというなら、私を斬るがいい。ここで果てるつもりはないが、おまえたちの気持ちはすべて受け止めてみせる」
 今度こそ、ここだよな。
 一旦楽器を置いて、リューは両手を下げたまま進み出た。
「俺たちは別に、どっちかの味方をしようってんじゃねえよ。反対派だって、不満があってもわざわざここまで来てるんじゃねえか。それ、辺境の先ってのを考えてるからだろ」
 反対派の我欲には目をつぶり、うなずく。
「あとはヴァレンティーニが言ったとおり、代表のふたりに正々堂々、それにふさわしい場所で、自分の矜持をぶつけろよ」
 さて、仕上げってやつじゃん。
 ゾファルはずいずい重い空気を押し分けてゴヴニアのとなりへ胡座をかき。
「結局んとこ、腹割ろーぜってハナシじゃん」
 そのへんに落ちていた杯を拾い上げ、酒瓶の中身を注いで呷った。
「まずは俺様ちゃんとケンカしようじゃん。体ん外に血ぃ流すんじゃなくて、体ん中に酒入れる“のみっくら”でさ」
 どんどん杯を拾って注ぎ、置いて行く。
「まさか、挑まれといて逃げるとかねーよな? ……ゴヴちゃんもさぁ、お話合いに来てんだし? まさかお断りーなんてヤボ言わねーだろ」
 黄鉄の肩を抱き込んでささやきかけた。な、空気読もーぜゴヴちゃん。
 だがゴヴニアは、肩を抱かれたまま苦笑を左右に振る。
「無粋は好かぬ。我が意もすでに果たされたがゆえにな」
 手を逃れるようにぼそりと崩れ落ち、消え失せた。
「怠惰は逃げ出しましたよー!!」
 ことさらに大きな声で告げた一夏は、親派も反対派も問わず手を取って引っぱった。
「お酒のお供といえば宴会芸ですよね。心得のある人、私と踊りで勝負ですよ!」
 朗らかに笑んで、流麗でありながらワイルドな、辺境に伝わる舞を踏み始めた。
「もう傷ついている人はいませんね? では、お酒を飲んでも大丈夫ですよ」
 部族の者たちの表情から険が抜けたことを確かめ、奏音はゆるやかに、一夏の舞に挙動の拍を合わせて言う。
 彼女にも舞踊の心得はあるが、ここは踊りに加わるより、いい空気を育てることに尽力しておくところだろう。
「あんたらも行ってくれよ。ここで収めときたいのは俺たちといっしょだろ?」
 人々の踊りに合わせてリュート奏でる合間、リューが捕らえられていた親派の部族長ふたりを促した。
「頼む」
 アルトもまたうなずき、ふたりは人々の輪へ混ざっていった。

「オイマトに不満があるならオイマトに直接言えですぅ」
 キャラをわざと忘れてつぶやくハナ。
 その目はゴヴニアの残した黄鉄の欠片へ向けられている。
 さっき意は果たされたぁって言ってましたよねぇ。不信の種は植えられた、ってことでしょうかぁ? それにしても……勤勉な怠惰ほど始末の悪い歪虚もないですぅ。

●余韻
「さて、揺るがすには至らずとも、いくらかは揺らせたことだろうよ」
 アルトが置き去ってきた依代に存在の主導を移したゴヴニアは薄笑む。
「して、オーロラが放たれるは必定。一枚岩ならぬ陣容を背負いながら、ニガヨモギと白百合――汝らはどちらと対する?」
 そして今度こそ崩れ落ち、気配のすべてを風に散らした。

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参加者一覧

  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/21 01:38:13
アイコン 相談卓
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/02/22 21:53:57