ゲスト
(ka0000)
【東幕】幕府の運命に限りがあるとも
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/20 15:00
- 完成日
- 2019/02/24 16:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
天ノ都が戦場となる。
それは東方の民にとって衝撃的な出来事だ。
先の戦いでは天ノ都に危機は迫っても、天ノ都そのものが戦場にはならなかった。
しかし、今は――。
活性化した歪虚を前に天ノ都を守りきる事は叶わなかった。
それでもすべてが終わったわけではない。
天ノ都に住んでいた民は恵土城へ移転。一時的に難を逃れていた。
降り掛かった東方の民への災難。
だが、これでその災難がすべて終わった訳ではなかった。
「荷に敵を寄せ付けるな! 民が待っているのだ」
楠木 香(kz0140)は苦戦を強いられていた。
幸いにも天ノ都から逃れられた民は多い。着の身着のままで逃げてきた者も多く、家財道具はおろか、金も食料も持っていない。
いつまで続くか分からない戦を前に、民達は不安を抱く。
それに対して幕府は民に対して食料の送付を決定した。
「この食料は上様が民を思って送られた物。必ずや恵土城へ届けるのだ」
香の手に握られた薙刀が餓鬼の体を貫いた。
いつまで続くか分からない戦いで大切な兵糧を民に配っては兵の士気に関わる。だが、幕府は民が飢える方が将来に禍根を残すと判断していた。
まさに苦渋の決断。
香は、将軍の決断を無にしない為、何があっても送り届ける覚悟であった。
「楠木様、後方の荷車に多数の敵! このままでは破壊されます!」
「兵を後方の荷車へ!」
「無理です! 護衛の兵は手一杯です!」
「伝令! この先の街道で敵の一団が待ち伏せていますっ!」
悲鳴にも似た伝令の声。
恵土城への物資輸送に避けた人員は少ない。天ノ都で敵と交戦している中、それらの護衛に人手を割けるはずもない。
天ノ都から恵土城へ向かう道中、宿場などで編成を見直すが負傷者も多くなり、護衛は困難を極めた。
それでも、香は一人奮戦する。
将軍から民へ。
幕府から新たな時代へ。
繋ぐ糸をとぎれさせない為に――。
「後方には私が……!」
「いけやせんぜ」
香の傍に飛び込む黒い影。
間近にいた餓鬼を匕首で仕留めた後、傍らの餓鬼に刃を突き立てる。
三度笠を被る旅装束の男。
香には、その男に見覚えがあった。
「お前は確か、詩天の……」
「どけどけっ! 若峰一の大侠客、風待の親分と風待一家のお通りだっ!」
荷車へ集まる餓鬼に対して、風待一家の面々が姿をみせる。木槌などで叩く荒っぽいやり方だが、餓鬼を追い払うには十分だ。
「風待の親分、だったな」
「堅苦しい挨拶は後にしましょうや。
旦那より伝言です。このまま恵土城へ向けて前進しろ、だそうですぜ」
旦那。
風待の親分は、その者の指示で動いた。
なら、この指示を出して人物は香にも察しがついた。
「……あの、偏屈者め」
●
「敵の一団、前進しました!」
三条家軍師、水野 武徳(kz0196)は街道を封鎖する歪虚の後方に伏していた。
香と親分が前進、それも敵を蹴散らして進んだとなれば、街道を塞ぐ一団も香達を意識して動くはず。
武徳はそれを読んで後方へ伏し、敵が動くと同時に敵を強襲。香達と挟撃する策を進めていた。
「まったく、不甲斐ない幕府よ。議会設立まで10年。そのような時間を費やせるかも分からぬのに……」
武徳は愚痴る。
新政府をさっさと設立し、強引に議会を発足させれぱ国力増強に早く着手できる。国内の混乱を避ける為の措置なのだろうが、国の体制を変える為にはある程度の覚悟が必要だと武徳は知っている。
「甘い。手を汚す事無く、幕府を解体する気か。誰かが汚れ役を引き受けねば、いずれ何処かで歪みが出てくる。しかし……」
武徳はため息をつく。
その甘い幕府を九代目詩天の三条 真美(kz0198)は好んでいる。
それが幕府の掲げた理想が夢物語であったとしても、真美はそれを助けてしまうだろう。
だからこそ、武徳は渋々甘い幕府に手を差し伸べる。
自分自身も――甘いと分かりながら。
「我らが詩天様の命により、幕府の輸送部隊へ助太刀するのじゃ!」
それは東方の民にとって衝撃的な出来事だ。
先の戦いでは天ノ都に危機は迫っても、天ノ都そのものが戦場にはならなかった。
しかし、今は――。
活性化した歪虚を前に天ノ都を守りきる事は叶わなかった。
それでもすべてが終わったわけではない。
天ノ都に住んでいた民は恵土城へ移転。一時的に難を逃れていた。
降り掛かった東方の民への災難。
だが、これでその災難がすべて終わった訳ではなかった。
「荷に敵を寄せ付けるな! 民が待っているのだ」
楠木 香(kz0140)は苦戦を強いられていた。
幸いにも天ノ都から逃れられた民は多い。着の身着のままで逃げてきた者も多く、家財道具はおろか、金も食料も持っていない。
いつまで続くか分からない戦を前に、民達は不安を抱く。
それに対して幕府は民に対して食料の送付を決定した。
「この食料は上様が民を思って送られた物。必ずや恵土城へ届けるのだ」
香の手に握られた薙刀が餓鬼の体を貫いた。
いつまで続くか分からない戦いで大切な兵糧を民に配っては兵の士気に関わる。だが、幕府は民が飢える方が将来に禍根を残すと判断していた。
まさに苦渋の決断。
香は、将軍の決断を無にしない為、何があっても送り届ける覚悟であった。
「楠木様、後方の荷車に多数の敵! このままでは破壊されます!」
「兵を後方の荷車へ!」
「無理です! 護衛の兵は手一杯です!」
「伝令! この先の街道で敵の一団が待ち伏せていますっ!」
悲鳴にも似た伝令の声。
恵土城への物資輸送に避けた人員は少ない。天ノ都で敵と交戦している中、それらの護衛に人手を割けるはずもない。
天ノ都から恵土城へ向かう道中、宿場などで編成を見直すが負傷者も多くなり、護衛は困難を極めた。
それでも、香は一人奮戦する。
将軍から民へ。
幕府から新たな時代へ。
繋ぐ糸をとぎれさせない為に――。
「後方には私が……!」
「いけやせんぜ」
香の傍に飛び込む黒い影。
間近にいた餓鬼を匕首で仕留めた後、傍らの餓鬼に刃を突き立てる。
三度笠を被る旅装束の男。
香には、その男に見覚えがあった。
「お前は確か、詩天の……」
「どけどけっ! 若峰一の大侠客、風待の親分と風待一家のお通りだっ!」
荷車へ集まる餓鬼に対して、風待一家の面々が姿をみせる。木槌などで叩く荒っぽいやり方だが、餓鬼を追い払うには十分だ。
「風待の親分、だったな」
「堅苦しい挨拶は後にしましょうや。
旦那より伝言です。このまま恵土城へ向けて前進しろ、だそうですぜ」
旦那。
風待の親分は、その者の指示で動いた。
なら、この指示を出して人物は香にも察しがついた。
「……あの、偏屈者め」
●
「敵の一団、前進しました!」
三条家軍師、水野 武徳(kz0196)は街道を封鎖する歪虚の後方に伏していた。
香と親分が前進、それも敵を蹴散らして進んだとなれば、街道を塞ぐ一団も香達を意識して動くはず。
武徳はそれを読んで後方へ伏し、敵が動くと同時に敵を強襲。香達と挟撃する策を進めていた。
「まったく、不甲斐ない幕府よ。議会設立まで10年。そのような時間を費やせるかも分からぬのに……」
武徳は愚痴る。
新政府をさっさと設立し、強引に議会を発足させれぱ国力増強に早く着手できる。国内の混乱を避ける為の措置なのだろうが、国の体制を変える為にはある程度の覚悟が必要だと武徳は知っている。
「甘い。手を汚す事無く、幕府を解体する気か。誰かが汚れ役を引き受けねば、いずれ何処かで歪みが出てくる。しかし……」
武徳はため息をつく。
その甘い幕府を九代目詩天の三条 真美(kz0198)は好んでいる。
それが幕府の掲げた理想が夢物語であったとしても、真美はそれを助けてしまうだろう。
だからこそ、武徳は渋々甘い幕府に手を差し伸べる。
自分自身も――甘いと分かりながら。
「我らが詩天様の命により、幕府の輸送部隊へ助太刀するのじゃ!」
リプレイ本文
「決して荷車に近付けさせるな! この荷が届かなければ、幕府の威光に傷が付くと心得よ!」
叫びにも似た楠木 香(kz0140)の一喝。
戦場と化した天ノ都より恵土城へ避難した民達へ届ける物資。
それは限られた幕府の兵糧から割譲された大事な荷。
民を案じる上様に成り代わり、必ずこの物資を民の元へと運んでみせる。
香にとって、それは身命を賭すに値する任務であった。
「天ノ都からの大事な荷物、ここで奪われる訳にはいかない」
エクウスに乗り荷車と並走する鞍馬 真(ka5819)は、大鎌「グリムリーパー」を振り抜いて餓鬼の体を裂いた。
荷車に押し寄せたのは餓鬼の群れ。
通常であれば大した強さを持たない鬼の一種だが、天ノ都に出現した狐卯猾の影響だろうか。餓鬼は通常以上の能力が引き出されている。
その事はグリムリーパーを通して鞍馬に実感として伝わってくる。
「親分。敵は想像よりも厄介。その事、仲間に伝えてくれ」
「……承知しやした。お気遣い感謝しやすぜ」
エクウスの手綱を引きながら、鞍馬は風待の親分に声をかけた。
香が幕府の物資運搬中に歪虚から襲撃されるのを見越してか、風待一家が襲来。
香と荷車を守るように戦い始めたのだ。
「親分、かたじけない」
「礼は後にしやしょうや」
香が薙刀で餓鬼を払う傍らで、親分が匕首を振り抜いている。
鞍馬の記憶では大輪寺で呪詛破壊を競うように戦っていた二人。それが力を合わせて戦っている事が、少々嬉しくも感じてしまう。
「負けられないな。あの人達にも」
鞍馬は再びエクウスを走らせる。
荷車の前方では敵陣の前で滾るエリ・ヲーヴェン(ka6159)の姿があった。
「ハハハッ! またウジャウジャと! 紅いお花畑にしてあげるわ!!」
シールド「イージス」を掲げるエリ。
ガウスジェイルが強化され、餓鬼の攻撃は荷車からエリへと向かって行く。
ヤギの革を張った木製の円盾を通して、何度も衝撃が加えられる。
まるで強い鼓動のような衝撃が、エリのテンションをますます引き上げていく。
「さぁ、魅せて。血の花畑を、ここに咲かせて」
「攻撃しろって事か。……では、遠慮無く」
鞍馬はエクウスの進路を変え、荷車の前を駆け抜ける。
同時にエリを攻撃していた餓鬼の一団を背後から強襲。グリムリーパーの刃が容赦なく振り抜かれる。
刃が通過した場所から溢れ出す餓鬼の紅い花。
溢れるばかりの花弁が周囲を朱に染め上げ、エリの感情を更に引き上げていく。
「アハハハッ、咲いた! 咲いた! 紅い花が!
でも、まだ足りない。一面に広がる、紅い花の光景。甘美なる花の香り。
もっと……もっと、花を! 紅い花を!」
後方から進軍する餓鬼へエリは絶火牙「ブランゲーネ」を投擲。
同時にブラッドレインで体力を回復させる。
荷車の進路を塞ぐ餓鬼が減る度に、地面はエリの『居場所』を作り上げていく。
●
「はっはー、今日もおっちゃんに良いとこ見せてやるジャーン」
ゾファル・G・初火(ka4407)は荷車から離れた場所で待機していた。
香の窮地を早々に察し風待一家に救援を打診したのは、三条家軍師の水野 武徳(kz0196)であった。
暇を見つけては武徳の屋敷で食っちゃ寝を繰り返していたゾファルとしては久しぶりの出陣。それも敵を背後から奇襲して徹底的に叩きのめす。
まさに、お誂え向きの――『死地』である。
「いやいや死地死地、いやー、今日も死地感がBINBINするじゃんね。まだ突撃できねぇのか?」
「まだ早い。釣りと同じじゃ。敵が餌に食いつくまでじっと待たねばならん」
独特な言い回しで戦いを待ちわびるゾファルを武徳は窘める。
奇襲を成功させるには、荷車を護衛する部隊が前進して街道で待ち伏せする本隊を動かさなければならない。
既に進軍を妨害していた餓鬼を排除した荷車は進路を南へと取り始めていた。
「なんだよ、まだおあずけジャン」
「もう間もなくじゃ。釣り上げた魚は格別じゃが、一番美味い所は大事にとっておかねばな」
「そうか。待った分だけ美味くなるって言うしな」
ゾファルは胡座を書いて胸を躍らせる。
用意してきた旗指物で突撃すれば、歪虚も見逃すはずがない。
暴れ回る姿を想像しながら、ゾファルは静かに時を待つ事にした。
「水野様」
武徳の傍らに立つハンス・ラインフェルト(ka6750)は、北の方角を見つめていた。
視線の先には倒すべき歪虚の群れがある。
「うむ。おぬしももう暫し待て。斥候が戻り次第、行動を開始する」
「分かりました。
ところで水野様といると退屈しないで済みますね。私は水野様が大好きですよ」
好き。
その言葉に偽りはない。
だが、その言葉の裏には武徳が隠し持つ非情さを指摘していた。
「あまり良い意味では無さそうじゃな」
「いえいえ。
水野様は大して役にも立たず、ただ纏わり付いてくるような相手なら、顔色も変えずに死地へ送り込む事ができるでしょう?
有能さと有用さを平然と秤に掛けて人を切って捨てられる。
私は水野様のそういう所を好ましく思っているのですよ」
ハンスは想いを口にする。
嫌味ではない。本当にハンスは好ましく思っている。
しかし、武徳は怒り出す様子もない。
「ふん、そのような事は東方の地で戦いを続けた将なら誰しもが持ち合わせておるわ。
生き残り、家を存続させる事。その為にも如何なる手段も講じる。
そうやって生き残ってきた者にだけ、天は機会を与えて下さる」
「神頼みですか? 水野様はそのような方ではないでしょう」
「…………」
武徳は沈黙を守った。
生きる為の術として身につけた処世術。
戦上手も相まって三条家を守り抜いてきた。
ハンスには生に執着するが故の非情さに好感を持っているのかもしれない。
「死地など避けられるなら避けたいが……避けられぬ死地もある」
「おっ! 死地!? 出番か?」
草の上で寝転んでいたゾファルが死地という言葉に食いついた。
ちょうどそこへ斥候が本陣へと駆け込んでくる。
「殿っ! 敵本隊、動きました!」
「うむ」
武徳は小さく頷いた。
さらに振り返り家臣達へ呼び掛ける。
「これより我らは進軍する。目指すは敵本陣! 味方と挟撃して敵を殲滅するのじゃ!」
●
「邪魔だってぇんだよ!」
風待一家の侠客が木槌で餓鬼の頭を殴り付ける。
風待一家にも覚醒者は多く、荒くれ者らしく力任せの戦闘を得意としていた。
それでも餓鬼の群れは数が多い。
鞍馬とエリが前に立つ事で荷車をどうにか前へと進ませる事ができている。
「親分、一家に荷車護衛へ集中するよう指示を。深追いせぬようにも伝えて欲しい」
「へぇ。そっちはどうされるおつもりで?」
餓鬼の攻撃を開始した後、匕首を振り下ろす親分。
深々と突き刺される刃は一撃の下に餓鬼の命を奪い去る。
「敵の数を減らす事に専念する。予定通りなら敵の本隊と接触する地点だ。荷車に万一被害が及ばない為には少しでも敵の数を減らしておきたい」
鞍馬の一言に親分は頷いた。
歴戦のハンターと異なり、一家の覚醒者も対歪虚戦のプロではない。
長時間戦闘が続けば疲弊もする上、傷付きもする。
事前に敵がこの先で待ち伏せしている事が判明しているのであれば、一家に無理はさせられない。
鞍馬の言葉の裏には、そのような事情もあった。
「改めて、お気遣い感謝しやす」
「……ああ」
鞍馬は一言答えると再びエクウスを走らせる。
目指す先はエリが今も盾となっている最前線――。
「まだよ! こんなものではないでしょう!」
ガウスジェイルで攻撃を自身に向けていたエリ。
鎧受けとブラッドレインを巧みに使い分け、敵の攻撃を長時間耐え忍んでいた。
その隙に香や風待一家の支援を受けて敵の数を減らし続けていた。
「そろそろ敵の本隊が見える地点だ……耐えられるか?」
「アハハッ! もうすぐもっと大きな花が咲くの? 亡骸を養分にして咲き誇る花……きっと美しく繊細で、触れれば消えてしまいそうに可憐なのでしょうね」
敵本隊の到着。
それはエリにとって吉報でしかなかった。
さらに心を震わせる出来事。
敵は後方から挟撃される事も知らずに進軍してくる。
それは混乱と衝撃と恐怖に塗れた紅い光景。
これから起こる光景を待ちきれない。
「あれは……ハンター、来たぞ。敵の本隊だ!」
香の声が周囲に響き渡る。
顔を上げれば後方より詰めかける大量の餓鬼。
それが本隊である事は一目瞭然であった。
「来た……来た、来た来た来た! ついに咲き乱れる血煙の情景!」
歓喜に溢れたエリは、イージスを片手に前へ出る。
ガウスジェイルで再び自身へと攻撃を集中させる。
先程の比じゃない、多数の衝撃が留まる事無くイージスにもたらされる。
そして、その隙を鞍馬は逃さない。
「派手な戦いはあまり得意じゃないけど……頑張って暴れるとしようか」
エリの側面から現れた鞍馬は、旋風の唄で敵の守りを弱体化させる。
鞍馬なら餓鬼を倒すのに苦労はないが、敵本隊を正面から受けつつ注意を引くのであればより圧倒的な強さを見せ付ける必要がある。
鞍馬は敵陣へ飛び込み――魔導剣「カオスウィース」による薙ぎ払い。
鞍馬の一撃で数体の餓鬼が巻き込まれ、瞬く間に肉塊へと変貌を遂げる。
「これよ、これ! アハハっ! この花畑が見たかった……朱に染まり、鉄カビのような香りに溢れる紅い花畑!」
狂気にも似たエリの声を背景に、鞍馬はカオスウィースを振るい続ける。
暴風のような勢いで餓鬼は瞬く間に倒されていく。
――そして。
餓鬼達の不幸は、これで終わりではなかった。
●
「オラオラオラ! もっと死地を見せてみろジャーン!」
敵本隊の背後からはゾファルが突撃を開始。
餓鬼の群れにスーパーオラツキモードで突入したゾファルは餓鬼の注意を一手に引き受ける。
炎のようなオーラを纏い、背中には旗指物で『愛羅武勇』の文字。
風にはためく文字からは無骨ながらも覚悟を感じさせる。
「……!」
一瞬、餓鬼達は躊躇いを見せる。
だが、ゾファルを敵と認識した途端、一斉に襲い掛かる。
四方から襲ってくる餓鬼の群れ。
その群れを前に、ゾファルは心を躍らせる。
ついに待ちわびた瞬間――魚を釣り上げる時だ。
「逝っちまいなっ!」
奥義「エアーマンは倒せない」が敵陣で炸裂。
蒼機拳「ドラセナ」の一撃が振るわれると同時に桜吹雪の幻覚が餓鬼達を襲う。
突如、視界を遮られる餓鬼達。
その隙を突くようにゾファルの強力な一撃。
餓鬼を飛ばしてゾファルが進む道が拓かれる。
「まだまだ足りねぇジャーン! もっと本気で来ねぇと死地にはならねぇジャーン」
ゾファルは更なる死地を求めて前へと突き進む。
それを追いかけるように武徳の家臣達も一斉に餓鬼へと襲い掛かる。
「撃ち漏らすな。一匹残らず仕留めよ!」
武徳の号令が家臣達の心を更に盛り上げる。
奇襲は成功。餓鬼達は混乱に塗れた上、前後を敵に囲まれ逃げ場を失っている。
「水野様。水野様はあまり突出なさらないようにお願いしますね。ゾファルさんも乱戦に夢中になるクチですから」
「よく言うわ。おぬしも早う乱戦に混ざりたいと顔に出ておるわ」
ハンスの言葉に武徳はそう返答した。
今にも飛び出して行きたい衝動。それを押さえながら、静かに殺気を漂わせている。
鞘から漏れ出る空気。
餓鬼の血を吸いたいと滾っているのだろうか。
「始めましょうか」
ハンスは静かに鞘から聖罰刃「ターミナー・レイ」を抜き放つ。
姿を見せた刀身。
ハンスの空気を察しない餓鬼達は、獲物とばかり襲撃を開始する。
――数秒後の自身を想像しなかったばかりに。
「愚かで……あまりに儚い」
ハンスが放った次元斬は、餓鬼を両断。
瞬く間に骸を地面へと晒す。
一度ターミナー・レイを抜いたハンスは、もう止まらない。
横から攻撃を仕掛けた餓鬼を受け流し、素早く動きながら何度も斬りつける。
無数の斬撃が、周辺の餓鬼を巻き込んでいく。
「戦働きをしたいのですが、これでは単なる蹂躙です。まあ、それも構いませんか」
ハンスは再び前を見据える。
斬るべき相手は無数。これなら存分にターミナー・レイを振るえそうだ。
●
「これがすべてだ」
香の姿は恵土城にあった。
餓鬼の一団も挟撃で撃破した上、荷車もすべて無事。
物資は避難した民へと届けられた。
「これで役目は果たせたな」
安心した様子の香に鞍馬が話し掛ける。
本隊を駆逐した後も気を張っていた香だったが、これで肩の荷が下りただろう。
「本当に助かった。改めて礼を言う」
「……無事、で……良かった……」
戦いの終わったエリも落ち着いた様子だ。
恵土城周辺まで来れば周辺の歪虚も比較的落ち着いている。やはり敵は天ノ都へ襲撃を本命にしているようだ。
「家屋の建設にはうちの一家も手を貸しやす。都での戦が落ち着けば、家に帰れると皆を安心させてやりやしょう」
風待の親分も物資を民に届けるよう侠客達へ命じていた。
避難生活で不安を抱かないよう安心させる事も忘れてはいなかった。事実、恵土城でも様々な問題が発生し始めている事は、現地に来た香も把握していた。
「そうだな……時に水野殿は?」
周囲を見回して武徳の姿を追う香。
そんな香を前に親分はそっと呟いた。
「さぁ。野暮用じゃないですかい?」
武徳は香から少し離れた場所にいた。
ハンスからある提案を受けていたのだ。
「幕府が倒れる時は世間の仕組みが変わる時。詩天も今までの形は取れないでしょう。一極集中でもしない限り、詩天様もスメラギ帝と同じくただの平民に落とされる可能性すらあります。
幕府がこのまま倒れるのは構いませんが……詩天は独自の準備をしなくて良いのですか、水野様?」
ハンスが囁くように言った。
スメラギは朝廷と幕府を廃して議会政治を志した。
これは封建社会を終焉させて西方諸国と同様の民主政治へ移行する事を意味している。
では、特権階級にあった者はどうなるのか。九代目詩天を頂く三条家も決して無視はできない。ハンスはその事に警鐘を鳴らしたのだ。
「ふむ。気付いておったか。
だから手を汚さずに国を変えてはいかんのだ。無論、詩天と三条家を守るべく最善を尽くすわ。すべて幕府に任せては今までと何も変わらん。可能な限り介入して三条家と詩天を守ってみせる。それで議会政治が役に立たねば泰山のように自治領でも主張して独自に西方と商売すれば良い。
まあ、十年も時間をくれるのだ。どうとでもやる」
武徳はハンス同様、ただ見守る気はなかった。
議会体制にも可能な限り関与して利益誘導を狙う。それが叶わないなら別の方策を立てるつもりのようだ。
その様子にゾファルは思わず笑みを溢す。
「なんだか分からないけど、まだまだ楽しそうジャン。新たな死地が見られるといいジャン」
叫びにも似た楠木 香(kz0140)の一喝。
戦場と化した天ノ都より恵土城へ避難した民達へ届ける物資。
それは限られた幕府の兵糧から割譲された大事な荷。
民を案じる上様に成り代わり、必ずこの物資を民の元へと運んでみせる。
香にとって、それは身命を賭すに値する任務であった。
「天ノ都からの大事な荷物、ここで奪われる訳にはいかない」
エクウスに乗り荷車と並走する鞍馬 真(ka5819)は、大鎌「グリムリーパー」を振り抜いて餓鬼の体を裂いた。
荷車に押し寄せたのは餓鬼の群れ。
通常であれば大した強さを持たない鬼の一種だが、天ノ都に出現した狐卯猾の影響だろうか。餓鬼は通常以上の能力が引き出されている。
その事はグリムリーパーを通して鞍馬に実感として伝わってくる。
「親分。敵は想像よりも厄介。その事、仲間に伝えてくれ」
「……承知しやした。お気遣い感謝しやすぜ」
エクウスの手綱を引きながら、鞍馬は風待の親分に声をかけた。
香が幕府の物資運搬中に歪虚から襲撃されるのを見越してか、風待一家が襲来。
香と荷車を守るように戦い始めたのだ。
「親分、かたじけない」
「礼は後にしやしょうや」
香が薙刀で餓鬼を払う傍らで、親分が匕首を振り抜いている。
鞍馬の記憶では大輪寺で呪詛破壊を競うように戦っていた二人。それが力を合わせて戦っている事が、少々嬉しくも感じてしまう。
「負けられないな。あの人達にも」
鞍馬は再びエクウスを走らせる。
荷車の前方では敵陣の前で滾るエリ・ヲーヴェン(ka6159)の姿があった。
「ハハハッ! またウジャウジャと! 紅いお花畑にしてあげるわ!!」
シールド「イージス」を掲げるエリ。
ガウスジェイルが強化され、餓鬼の攻撃は荷車からエリへと向かって行く。
ヤギの革を張った木製の円盾を通して、何度も衝撃が加えられる。
まるで強い鼓動のような衝撃が、エリのテンションをますます引き上げていく。
「さぁ、魅せて。血の花畑を、ここに咲かせて」
「攻撃しろって事か。……では、遠慮無く」
鞍馬はエクウスの進路を変え、荷車の前を駆け抜ける。
同時にエリを攻撃していた餓鬼の一団を背後から強襲。グリムリーパーの刃が容赦なく振り抜かれる。
刃が通過した場所から溢れ出す餓鬼の紅い花。
溢れるばかりの花弁が周囲を朱に染め上げ、エリの感情を更に引き上げていく。
「アハハハッ、咲いた! 咲いた! 紅い花が!
でも、まだ足りない。一面に広がる、紅い花の光景。甘美なる花の香り。
もっと……もっと、花を! 紅い花を!」
後方から進軍する餓鬼へエリは絶火牙「ブランゲーネ」を投擲。
同時にブラッドレインで体力を回復させる。
荷車の進路を塞ぐ餓鬼が減る度に、地面はエリの『居場所』を作り上げていく。
●
「はっはー、今日もおっちゃんに良いとこ見せてやるジャーン」
ゾファル・G・初火(ka4407)は荷車から離れた場所で待機していた。
香の窮地を早々に察し風待一家に救援を打診したのは、三条家軍師の水野 武徳(kz0196)であった。
暇を見つけては武徳の屋敷で食っちゃ寝を繰り返していたゾファルとしては久しぶりの出陣。それも敵を背後から奇襲して徹底的に叩きのめす。
まさに、お誂え向きの――『死地』である。
「いやいや死地死地、いやー、今日も死地感がBINBINするじゃんね。まだ突撃できねぇのか?」
「まだ早い。釣りと同じじゃ。敵が餌に食いつくまでじっと待たねばならん」
独特な言い回しで戦いを待ちわびるゾファルを武徳は窘める。
奇襲を成功させるには、荷車を護衛する部隊が前進して街道で待ち伏せする本隊を動かさなければならない。
既に進軍を妨害していた餓鬼を排除した荷車は進路を南へと取り始めていた。
「なんだよ、まだおあずけジャン」
「もう間もなくじゃ。釣り上げた魚は格別じゃが、一番美味い所は大事にとっておかねばな」
「そうか。待った分だけ美味くなるって言うしな」
ゾファルは胡座を書いて胸を躍らせる。
用意してきた旗指物で突撃すれば、歪虚も見逃すはずがない。
暴れ回る姿を想像しながら、ゾファルは静かに時を待つ事にした。
「水野様」
武徳の傍らに立つハンス・ラインフェルト(ka6750)は、北の方角を見つめていた。
視線の先には倒すべき歪虚の群れがある。
「うむ。おぬしももう暫し待て。斥候が戻り次第、行動を開始する」
「分かりました。
ところで水野様といると退屈しないで済みますね。私は水野様が大好きですよ」
好き。
その言葉に偽りはない。
だが、その言葉の裏には武徳が隠し持つ非情さを指摘していた。
「あまり良い意味では無さそうじゃな」
「いえいえ。
水野様は大して役にも立たず、ただ纏わり付いてくるような相手なら、顔色も変えずに死地へ送り込む事ができるでしょう?
有能さと有用さを平然と秤に掛けて人を切って捨てられる。
私は水野様のそういう所を好ましく思っているのですよ」
ハンスは想いを口にする。
嫌味ではない。本当にハンスは好ましく思っている。
しかし、武徳は怒り出す様子もない。
「ふん、そのような事は東方の地で戦いを続けた将なら誰しもが持ち合わせておるわ。
生き残り、家を存続させる事。その為にも如何なる手段も講じる。
そうやって生き残ってきた者にだけ、天は機会を与えて下さる」
「神頼みですか? 水野様はそのような方ではないでしょう」
「…………」
武徳は沈黙を守った。
生きる為の術として身につけた処世術。
戦上手も相まって三条家を守り抜いてきた。
ハンスには生に執着するが故の非情さに好感を持っているのかもしれない。
「死地など避けられるなら避けたいが……避けられぬ死地もある」
「おっ! 死地!? 出番か?」
草の上で寝転んでいたゾファルが死地という言葉に食いついた。
ちょうどそこへ斥候が本陣へと駆け込んでくる。
「殿っ! 敵本隊、動きました!」
「うむ」
武徳は小さく頷いた。
さらに振り返り家臣達へ呼び掛ける。
「これより我らは進軍する。目指すは敵本陣! 味方と挟撃して敵を殲滅するのじゃ!」
●
「邪魔だってぇんだよ!」
風待一家の侠客が木槌で餓鬼の頭を殴り付ける。
風待一家にも覚醒者は多く、荒くれ者らしく力任せの戦闘を得意としていた。
それでも餓鬼の群れは数が多い。
鞍馬とエリが前に立つ事で荷車をどうにか前へと進ませる事ができている。
「親分、一家に荷車護衛へ集中するよう指示を。深追いせぬようにも伝えて欲しい」
「へぇ。そっちはどうされるおつもりで?」
餓鬼の攻撃を開始した後、匕首を振り下ろす親分。
深々と突き刺される刃は一撃の下に餓鬼の命を奪い去る。
「敵の数を減らす事に専念する。予定通りなら敵の本隊と接触する地点だ。荷車に万一被害が及ばない為には少しでも敵の数を減らしておきたい」
鞍馬の一言に親分は頷いた。
歴戦のハンターと異なり、一家の覚醒者も対歪虚戦のプロではない。
長時間戦闘が続けば疲弊もする上、傷付きもする。
事前に敵がこの先で待ち伏せしている事が判明しているのであれば、一家に無理はさせられない。
鞍馬の言葉の裏には、そのような事情もあった。
「改めて、お気遣い感謝しやす」
「……ああ」
鞍馬は一言答えると再びエクウスを走らせる。
目指す先はエリが今も盾となっている最前線――。
「まだよ! こんなものではないでしょう!」
ガウスジェイルで攻撃を自身に向けていたエリ。
鎧受けとブラッドレインを巧みに使い分け、敵の攻撃を長時間耐え忍んでいた。
その隙に香や風待一家の支援を受けて敵の数を減らし続けていた。
「そろそろ敵の本隊が見える地点だ……耐えられるか?」
「アハハッ! もうすぐもっと大きな花が咲くの? 亡骸を養分にして咲き誇る花……きっと美しく繊細で、触れれば消えてしまいそうに可憐なのでしょうね」
敵本隊の到着。
それはエリにとって吉報でしかなかった。
さらに心を震わせる出来事。
敵は後方から挟撃される事も知らずに進軍してくる。
それは混乱と衝撃と恐怖に塗れた紅い光景。
これから起こる光景を待ちきれない。
「あれは……ハンター、来たぞ。敵の本隊だ!」
香の声が周囲に響き渡る。
顔を上げれば後方より詰めかける大量の餓鬼。
それが本隊である事は一目瞭然であった。
「来た……来た、来た来た来た! ついに咲き乱れる血煙の情景!」
歓喜に溢れたエリは、イージスを片手に前へ出る。
ガウスジェイルで再び自身へと攻撃を集中させる。
先程の比じゃない、多数の衝撃が留まる事無くイージスにもたらされる。
そして、その隙を鞍馬は逃さない。
「派手な戦いはあまり得意じゃないけど……頑張って暴れるとしようか」
エリの側面から現れた鞍馬は、旋風の唄で敵の守りを弱体化させる。
鞍馬なら餓鬼を倒すのに苦労はないが、敵本隊を正面から受けつつ注意を引くのであればより圧倒的な強さを見せ付ける必要がある。
鞍馬は敵陣へ飛び込み――魔導剣「カオスウィース」による薙ぎ払い。
鞍馬の一撃で数体の餓鬼が巻き込まれ、瞬く間に肉塊へと変貌を遂げる。
「これよ、これ! アハハっ! この花畑が見たかった……朱に染まり、鉄カビのような香りに溢れる紅い花畑!」
狂気にも似たエリの声を背景に、鞍馬はカオスウィースを振るい続ける。
暴風のような勢いで餓鬼は瞬く間に倒されていく。
――そして。
餓鬼達の不幸は、これで終わりではなかった。
●
「オラオラオラ! もっと死地を見せてみろジャーン!」
敵本隊の背後からはゾファルが突撃を開始。
餓鬼の群れにスーパーオラツキモードで突入したゾファルは餓鬼の注意を一手に引き受ける。
炎のようなオーラを纏い、背中には旗指物で『愛羅武勇』の文字。
風にはためく文字からは無骨ながらも覚悟を感じさせる。
「……!」
一瞬、餓鬼達は躊躇いを見せる。
だが、ゾファルを敵と認識した途端、一斉に襲い掛かる。
四方から襲ってくる餓鬼の群れ。
その群れを前に、ゾファルは心を躍らせる。
ついに待ちわびた瞬間――魚を釣り上げる時だ。
「逝っちまいなっ!」
奥義「エアーマンは倒せない」が敵陣で炸裂。
蒼機拳「ドラセナ」の一撃が振るわれると同時に桜吹雪の幻覚が餓鬼達を襲う。
突如、視界を遮られる餓鬼達。
その隙を突くようにゾファルの強力な一撃。
餓鬼を飛ばしてゾファルが進む道が拓かれる。
「まだまだ足りねぇジャーン! もっと本気で来ねぇと死地にはならねぇジャーン」
ゾファルは更なる死地を求めて前へと突き進む。
それを追いかけるように武徳の家臣達も一斉に餓鬼へと襲い掛かる。
「撃ち漏らすな。一匹残らず仕留めよ!」
武徳の号令が家臣達の心を更に盛り上げる。
奇襲は成功。餓鬼達は混乱に塗れた上、前後を敵に囲まれ逃げ場を失っている。
「水野様。水野様はあまり突出なさらないようにお願いしますね。ゾファルさんも乱戦に夢中になるクチですから」
「よく言うわ。おぬしも早う乱戦に混ざりたいと顔に出ておるわ」
ハンスの言葉に武徳はそう返答した。
今にも飛び出して行きたい衝動。それを押さえながら、静かに殺気を漂わせている。
鞘から漏れ出る空気。
餓鬼の血を吸いたいと滾っているのだろうか。
「始めましょうか」
ハンスは静かに鞘から聖罰刃「ターミナー・レイ」を抜き放つ。
姿を見せた刀身。
ハンスの空気を察しない餓鬼達は、獲物とばかり襲撃を開始する。
――数秒後の自身を想像しなかったばかりに。
「愚かで……あまりに儚い」
ハンスが放った次元斬は、餓鬼を両断。
瞬く間に骸を地面へと晒す。
一度ターミナー・レイを抜いたハンスは、もう止まらない。
横から攻撃を仕掛けた餓鬼を受け流し、素早く動きながら何度も斬りつける。
無数の斬撃が、周辺の餓鬼を巻き込んでいく。
「戦働きをしたいのですが、これでは単なる蹂躙です。まあ、それも構いませんか」
ハンスは再び前を見据える。
斬るべき相手は無数。これなら存分にターミナー・レイを振るえそうだ。
●
「これがすべてだ」
香の姿は恵土城にあった。
餓鬼の一団も挟撃で撃破した上、荷車もすべて無事。
物資は避難した民へと届けられた。
「これで役目は果たせたな」
安心した様子の香に鞍馬が話し掛ける。
本隊を駆逐した後も気を張っていた香だったが、これで肩の荷が下りただろう。
「本当に助かった。改めて礼を言う」
「……無事、で……良かった……」
戦いの終わったエリも落ち着いた様子だ。
恵土城周辺まで来れば周辺の歪虚も比較的落ち着いている。やはり敵は天ノ都へ襲撃を本命にしているようだ。
「家屋の建設にはうちの一家も手を貸しやす。都での戦が落ち着けば、家に帰れると皆を安心させてやりやしょう」
風待の親分も物資を民に届けるよう侠客達へ命じていた。
避難生活で不安を抱かないよう安心させる事も忘れてはいなかった。事実、恵土城でも様々な問題が発生し始めている事は、現地に来た香も把握していた。
「そうだな……時に水野殿は?」
周囲を見回して武徳の姿を追う香。
そんな香を前に親分はそっと呟いた。
「さぁ。野暮用じゃないですかい?」
武徳は香から少し離れた場所にいた。
ハンスからある提案を受けていたのだ。
「幕府が倒れる時は世間の仕組みが変わる時。詩天も今までの形は取れないでしょう。一極集中でもしない限り、詩天様もスメラギ帝と同じくただの平民に落とされる可能性すらあります。
幕府がこのまま倒れるのは構いませんが……詩天は独自の準備をしなくて良いのですか、水野様?」
ハンスが囁くように言った。
スメラギは朝廷と幕府を廃して議会政治を志した。
これは封建社会を終焉させて西方諸国と同様の民主政治へ移行する事を意味している。
では、特権階級にあった者はどうなるのか。九代目詩天を頂く三条家も決して無視はできない。ハンスはその事に警鐘を鳴らしたのだ。
「ふむ。気付いておったか。
だから手を汚さずに国を変えてはいかんのだ。無論、詩天と三条家を守るべく最善を尽くすわ。すべて幕府に任せては今までと何も変わらん。可能な限り介入して三条家と詩天を守ってみせる。それで議会政治が役に立たねば泰山のように自治領でも主張して独自に西方と商売すれば良い。
まあ、十年も時間をくれるのだ。どうとでもやる」
武徳はハンス同様、ただ見守る気はなかった。
議会体制にも可能な限り関与して利益誘導を狙う。それが叶わないなら別の方策を立てるつもりのようだ。
その様子にゾファルは思わず笑みを溢す。
「なんだか分からないけど、まだまだ楽しそうジャン。新たな死地が見られるといいジャン」
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/02/18 21:44:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/16 12:51:59 |