ある日、帝都の街角で

マスター:ことね桃

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/02/18 19:00
完成日
2019/03/07 14:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

オープニング

 それは空がとびきり美しく晴れた休日のこと。
 殺風景な部屋に何か飾るものをと考え外出した英霊フリーデリーケ・カレンベルク(ka0254)は帝都の大通りをゆく人々の雰囲気がいつもと少し違うことに気がついた。
 カップルらしき若い男女が手を繋いで歩く姿。また、めかし込んだ女性が贈り物を手に男性に何かを告げる姿も時折見かける。
『……何か今日は街の雰囲気が華やかだな。祭りでもあるのか?』
『リアルブルーの方から流れてきた文化で「バレンタインデー」とかいう奴だってさ。女が好いた男にチョコレートで出来た菓子を渡し、好意を伝える。もっとも友人や知人に義理で渡すパターンもあるらしいけどねェ』
 首を傾げるフリーデに同行するローザリンデ(kz0269)が告げる。どちらも思いっきり武力に振り切れた武闘派の精霊――バレンタインデーには全く縁のない存在だ。
『何故チョコレート菓子なのだ? 菓子なんぞ渡さなくとも好きだというだけで十分だろうに』
『それはアタシも知らないよ。……まァ、実際は菓子業界の販売戦略ってやつじゃないかい。菓子のような嗜好品はこれといった機会でもないと買わないしねェ』
『なるほどな。私の時代では大きな戦の前に教会で高価な護符を買いつけては部隊の仲間と交換しあったり敬愛する上官に渡したものだが、それと似たようなものか』
『いや、それとは根本的に違うんじゃないかねェ。……それよりもアンタのあの監獄みたいな部屋の方をどうにかしないとね。せっかく友達から花や護符を貰って飾ったんだろ? それならそれにあう家具を置いたりラグを敷くなりして楽しまなきゃ損ってもんだよ』
 何となくすれ違いを感じる話を無理矢理切り上げ、ローザが家具店のショーウィンドウを覗き込む。
 だが、その時――複数の荷馬車がふたりの間を割るように駆けて行った。どうやら今日は劇場で人気の歌劇が行われるらしく、幌にその劇団の紋章が誇らしげに描かれているのがローザの目に映った。
『あっぶないねェ。後であの劇団に苦情のひとつでも言っておいた方がいいんじゃないかい。ねえ、フリーデ……フリーデ? ……全く、仕方のない子だねェ』
 振り返ったローザの前に、あの巨体の英霊の姿はなかった。

 その頃、フリーデは大通りの片隅で。
『怪我はないか、良かった。……これからはきちんと父君と母君と一緒に歩くのだぞ。人混みの中を歩く時は余所見をするな、気になるものがあるのならお二人へ声をかければ迷うこともないだろう』
 そう言うと、抱きかかえた子供を両親へ引き渡した。丁度迷子になっていた子供が馬車に撥ねられそうになっていたところを助け、親を探していたのだ。
「ありがとうございます、旅の方」
『いや、大したことではない。それよりも佳き休日を楽しまれよ』
 傷だらけの顔を僅かに笑ませてフリーデは後ろ手を小さく振る。だがその時気づいた。ローザが傍に居ないことに。
 もっともフリーデ自身がローザのいた街道から離れたのだから仕方がないのだが……。とりあえず、彼女の強烈な光のマテリアルの気配はしっかりと感じられる。それを辿れば再会できるに違いない。
 フリーデは賑やかな街角にどことなく心が浮き立つ自分を感じながら、誰かに贈り物をするのも良いかもしれないと考え始めていた。

リプレイ本文

●はじまりの日の朝に

 少しずつ日差しが柔らかくなってきた2月14日の朝。
 小鳥の羽音で目を覚ましたキヅカ・リク(ka0038)は寝ぐせのついた髪を直しながらカレンダーを見ると、静かに呟いた。
「……ああ、今日はバレンタインデーか」
 そう、今日は彼にとって特別な日。
(今日はもうこの世界にはいないあの子との始まりの日だ。何もしないでいるのは……)
 激戦が続く中での貴重な休暇。身体を休めるべきなのに、この日ばかりは何もしないでいると複雑な感情が波のように押し寄せてくる。一人だとどうしても……心が騒めく。
 賑わいの中に身を置けば気持ちが収まるかもしれない。リクは夜着を脱ぐと、いつもの服を身に纏った。


●期待と不安

 ここは大通り。歌を愛する白樺(ka4596)は広場に看板を見るなり小さくため息を吐いた。
(歌劇……お歌かぁ……。帝国で歌劇って珍しいよね。王国か同盟の劇団がこちらに来たのかな。今日ぐらいしか見られないみたいだし、気になるけど……)
 彼は可憐な姿によく似合う、小花柄の袋の口をぎゅっと握り呟いた。
「シロはローザ達に会いに行くって決めたんだもん! だから歌劇は今度にするの!」
 彼とて年頃の少年だ。決めたことは曲げないと決心し、歩き出す。帝都近郊の自然公園へ。
(あそこなら会えるかな。チョコ……頑張って作ったけど、物を食べられないローザには迷惑かな?)
 彼が気にかけている精霊ローザリンデ(kz0269)はいわゆる自然精霊。しかも動物由来ではないため物を口にできない。そのことが白樺を不安にさせる。
(でもでも信仰がローザの力になるならコレだってちょっとは! ちょみっとは! ローザの力になるかもなのっ!)
 そう、信仰こそが自然精霊の力の源。心を込めた捧げ物として渡せばきっと悪くないはずだ。
 ――白樺の足はいつのまにか小走りになり、自然公園へと向かっていた。


●英霊と朝食を

 リクは大通りに出た途端、頭を抱えた。
 何しろ、今日は恋人たちの日。本来はリアルブルーの聖人が貧困に苦しむ人達へ施しを行ったという日を菓子業界が「片思いの相手に贈り物をし告白する日」と魔改造して広めたため、今や質実剛健たる帝国にも恋人達が溢れている。
(あの子が今も傍にいてくれたら……なんて、僕が言ってはいけないことなんだけど。でも、それでも……)
 心の傷は昔に比べればずっと浅くなった。それでも大切なことだから。忘れることはできない。
(ああ、落ち着いて食事できる店ってこの辺にあったかな)
 そう考えて周囲を見回すと、遠くに常人よりも頭ひとつ以上高い何かが見える。筋骨隆々とした剣呑なそれは人間山脈……じゃなくて。
「フリーデ!」
 リクが親しみをこめて声を上げる。そして近づくと、英霊フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)が巨大な斧を出現させた。
『貴様……武装しているということは、またやるのだな?』
 彼女の低い唸りに周囲が騒めく。
(何、ここで喧嘩?)
(いや、あんなデカい斧持った女と武装したハンターが全力でぶつかったら俺達も巻き込まれんぞ。ハンターオフィスに行かないと!)
 そう、今のリクはフル装備。甲冑を纏い、腰に剣を挿し、腕には盾を着けている。いつでも出立できる姿だ。
「あ、違う違う! これはつい、いつもの癖で着てしまっただけ! 今日は一時休戦だよ。第一、人混みの中で武器を振り回したら危ないだろッ!?」
 慌てて首を横に振り、ハンズアップする。
 どうやら昨年末の酒場での一件は血の気の多いフリーデに大きな衝撃だったようだ。しかし何とか状況を把握したらしく、斧は消えた。
『ほう、それでは何用だ?』
「食事だよ、食事。僕、起きたばかりなんだ。どうせ君も肉か酒か芋しか食べていないんだろ? 今日ぐらい少しいいもの食べようよ」
『宿敵同士で食事だと? 正気か?』
「なんでそんなに喧嘩腰なんだよ……。ま、たまにはいいだろ。付き合ってよ」
 フリーデの腕を遠慮なく引くリク。それは彼が己よりずっと力のある証で……フリーデは少し悔しかった。
『了解した。ただし、今日かぎりだぞ』
「はいはい」

 リクがフリーデを案内したのは裏通りの喫茶店。ここなら恋人たちが押し寄せることもない。
 そこで彼はランチと紅茶を2つずつ注文した。出来立ての料理の数々をフリーデは不思議そうに眺める。
『この時代では多様なものを食せるのだな』
「ああ、今の帝国は他国と交流を広げつつあるからね。芋料理は相変わらずだけど、少しずつ食文化も発展してるんだよ。……それより、最近はどうなの?」
『どう、とは?』
「最近の生活」
『……相変わらず歪虚を狩っている。全盛期の力を取り戻すまでもう少しなんだが、虐殺者の印象が強いのか民に恐れられていてな』
「そっか……難しいね」
 リクは紅茶を啜りながら目を伏せた。英霊の中でもとびきり強面なフリーデは民からの畏れを拭う術を持っていないのだ。
 だがフリーデはその話題を断ち切るように、窓の外を眺める。
『それにしても今日はとりわけ人が多いな』
「ああ、バレンタインね。リアルブルーの日本では女の子が好きな人に贈り物をして、告白する日なんだ。その文化がこっちまで伝わったのかな、この日はとにかくカップルが多いんだよ。皆、変わるきっかけが欲しいんだろうね」
『変わる、きっかけ?』
 フリーデが問う。しかしリクは即答できなかった。スープを飲み干したところでようやく決心したように口を開く。
「僕も例外じゃなかったんだ。昔ね、1個だけ貰ったことがあるんだ。本命チョコ。それが僕を変えてくれた。……訳あって、もうその子はこの世界にいないけれど」
 フリーデはそれ以上の事情を尋ねるほど無粋ではない。
 だからいつの間にかふたりはランチを食べ終わっていて。デザートの小さなチョコレートをリクが口に放り込む。――甘みの少ないほろ苦さは彼の想いに重なるものがある。
「……その子がくれたチョコレート。それが僕を変えてくれた。だからさ、その子が何処にいても誇ってもらえるように英雄になんかなれなくても走り続けていたいんだ」
『そうか……だからお前は戦い続けているのだな』
 毎日ハンターオフィスに蓄積されていく報告書。その中にキヅカ・リクの名が多く記録されている。それはただ――大切な女性の想いを守るために結果的に綴られたものなのだ。
(キヅカ・リク……認識を改めるべき男だな)
 だがリクは冷めた紅茶を飲み干すと、困ったように眉尻を下げて笑った。
「ごめん、今のは忘れて。何より、今は邪神から世界を守るための戦いもあるからね……それじゃ、また」
『行くのか』
「少し吐き出したら、やらなきゃいけないことを思い出した。……ああ、君が全盛期の力を取り戻していないのなら、僕との決着はまだついていないってことだ。だったらそれまで消えないでよ。それまでに僕ももっと強くなる予定だけど」
 彼は支払いを済ませるなり、再び雑踏に紛れていく。
 残されたフリーデは――不思議と彼への対抗心が薄くなっていくのを感じていた。


●豪胆な先輩と清貧な僕

「ほれ、アル。次はあちらの店に行きやがりますよ。女の買い物はなげーんです。気合入れてついてきやがれっ♪」
 見た目は清楚で豊満なエクラ教修道女シレークス(ka0752)は最近囲ったエクラ教信徒の後輩アルフレッド・キーリング(ka7353)を連れて大通りを歩いていた。
 今日の彼女は旅装束やの道具を求めている。それゆえに造りの良いものが多く、華奢なアルフレッドには重い。
 沢山の袋を提げ、紙箱を重ねて持てばそれを支えるのに精いっぱいだ。
「その……色々と買われる、のですね……。僕はその、修行生活にあまり物が必要なかったので、ちょっと新鮮な感じ……です」
「修行は共同生活。高価な品は皆で使いまわすし、師弟や兄弟間で祭具や衣類などのお下がりを貰うこともあったはず。単に個人で物を買わずに済む機会が多いだけでやがります。ハンターは手前で装備や道具を用意しないといけねーんですよ」
「なるほど、ハンターは経済的にも自立が必要と」
「そーゆーことです。……あ、あの靴も良さげでやがりますね。アル、この店にも寄りやがりますよ」
 靴屋のショーウィンドウに小麦色の脚に映えそうなアイボリーのブーツが飾られている。早速ブーツを試着すると彼女の引き締まった美脚が露出し、アルフレッドの胸が大きく高鳴った。
(綺麗だな……普段と違って今日はワンピースドレスを着てるから尚更そう思うのかな。……いやいや! 僕は敬虔なエクラ教信徒。尊敬する先輩相手にそんな邪念を持つなんていけないんだ!!)
 アルフレッドは煩悩を追い出すべく、己の太腿をつねった。
「っ! し、シレークスさん。靴の具合はどうですか?」
 太腿の痛みで一瞬煩悩は消え去るものの、目の前の風景は変わらない。とりあえず履き心地を尋ねてみると、先輩の顔は満足そうだ。
「ふむ。つま先に革と金属を重ねて補強してある。踵も頑丈と……少し重いけれど覚醒時には問題ないでやがりましょう。気に入った! 購入決定でごぜーますっ」
 店員が喜び、早速ブーツを梱包する。そしてシレークスが「ほれ、アル。荷物追加でやがりますよ」と大きな箱を預けると、その重みに耐えきれずアルフレッドが軽くよろめいた。
「……っ!」
 慌てて棚に手をついて事なきを得る。その瞬間シレークスは「ほっ」と小さくため息をついたものの、たちまち真剣なまなざしを彼に向けた。
「なぁ、アル。実はおめー、今まで無理して荷物持ってやがったでしょう」
「えっ」
「過度の我慢を強要する教えはエクラにはねーんです。キツいなら正直に言いやがれ。苦難の折の助け合いも教えのひとつだと教会で習ったんじゃねーんですか?」
「すみません。でも、僕は男ですから。シレークスさんに重い物を持たせるわけにはいきません」
「……本当に、仕方のない男でやがりますねえ。こういう時に野郎の意地を見せるなんて。恥をかかせるわけにいかなくなるじゃねーですか」
 そう言うと、シレークスはアルフレッドの両腕の袋を奪った。シレークスの腕力はアルフレッドより遥かに強く、アルフレッドのもとに紙箱だけ残される。
「他の紙箱は軽くとも、ブーツだけは重いでやがりましょう? こっちもそれなりの重量がある。これで5対5、アルが気にすることはねーですよ」
「ありがとうございます。でもシレークスさんの手を煩わせないよう、これからも鍛錬します。シレークスさんにはその……いつも笑っていてほしいから」
 そんな彼にシレークスは笑いながら「生意気言うんじゃねーですよっ、まだ行くべき店はありやがるんですから。おめーはにはまだ頑張ってもらわねーとっ」と背中を叩いた。
「いてて……はい、頑張りますっ」
 溌溂と前を行くシレークスと後を追うアルフレッド。その姿は周囲にどのように見えるだろうか。
 ただ、アルフレッドの中にはひとつだけ確実な想いが芽生えていた。
(これは恐らく世間でいうところの『デート』……になるのでしょうね。僕はただついて回るだけですけど、こういうのも……なんだか楽しいです)と。


●幼馴染とのひと時

「「乾杯」」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)とツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は帝国の老舗レストランでグラスを静かに掲げた。
 ふたりは幼馴染であり、酒場での一件以来久しぶりの再会となる。
 幼き日は無邪気に遊んだが、今やアウレールは守護者という大役を賜り、ツィスカもひとかどの帝国軍人。多忙を極める中、ようやく休暇が重なったところでツィスカがアウレールを食事に誘ったのだ。
(ツィシィとの外出か……久しいな)
 彼等は美食を楽しみながら互いに近況報告をする。どちらの話も物々しいが、それだけ邪神との決戦が迫っている証でもある。ツィスカは敬愛するアウレールの言葉を聞き逃すまいと、真剣なまなざしを彼に投げかけた。
 一方、アウレールも目の前の女性を見つめる。自分より年長に見える容姿、身長もすらりと高い。いつの間にここまで成長したのか――しかし帝国生まれの者に珍しい濡羽色の髪はシンプルなピンで留められており、服もシックだ。折角美しく成長したというのに……勿体ないと彼は思う。
 その時、傍の席で男女が愛を語かい指輪を互いに嵌め合った。めでたいことだ、そう遠い目でアウレールが考えた時――ふとあることを思い出した。
(ん、そういえば今日はリアルブルーの例の催しの日か? ということはこれはツィシィなりのデートなのだろうか。ならばそれに応じるのが男の作法というものか?)
 思わずツィスカの顔を真顔で見つめるアウレール。彼女の表情は軍人のものでも昔を懐かしむ遠いものでもない。その視線の先にあるのはあくまでも今の自分にある。彼は覚悟を決めた。
「ツィシィ、食事が終わったら大通りへ行こう。今日はリアルブルー由来の祭日だ、何か興味を惹くものがあるかもしれぬ」
 すると食後の紅茶を半ばまで飲んだツィスカが静かにカップをソーサーに戻し、微笑んだ。
「ええ、喜んでお付き合いいたします」


●親友との休日

 高瀬 未悠(ka3199)は大通りの角で待ち合わせをする最中、儚げな美女をみつけると大きく手を振った。青銀色の髪を揺らし、彼女が駆けてくる。
「ああ、高瀬さん! お待たせしてごめんなさい」
「ううん、大丈夫。待っていたのはほんの少しだから」
 未悠が笑顔を向ける相手はユメリア(ka7010)。未悠の手に重なる繊細な指には空色の花を象った水晶の指輪が嵌っている。
「その指輪、着けてくれているのね。嬉しいわ」
「ええ、だって高瀬さんからの大切な贈り物ですから……」
 ――美しく優しい旋律と言の葉で謳う貴女は私の花。
 指輪に彫られた文字は未悠の心からの賛辞。吟遊詩人のユメリアに癒しと勇気を与えてくれる言葉だ。
「今日はユメリアと行きたいお店が沢山あるの。さあ、行きましょう」
 目を細めて未悠がユメリアに手を差し出す。大勢の人で賑わう通りで迷わぬように、離れぬようにと。
「はい」
 ――ユメリアの手は迷うことなく未悠の柔らかな手に包まれた。

 それからしばらく大通りでウィンドウショッピングを楽しむ未悠とユメリア。バレンタインの文化は各地に定着したようで、どの店も賑わっている。
「ユメリアだったらどういうのが好き? 今日は街がとりわけ華やかだから、買い物ひとつにも悩んでしまうわ」
「そうですね、私はあのチョコレートが素敵だと思います。繊細な薔薇やお花の形……優しい桃色をしているのも可愛らしくて」
「ああ、本当ね! ありがとう。貴女ってセンスがいいのね。これから買ってくるわ」
 ユメリアが示したものは手のひらサイズの可憐な贈り物。硝子細工の瓶は口が透明だが底までに淡い青に至るグラデーションが施されており、チョコレートが詰められている。そのひとつひとつが薔薇やマーガレットといった様々な花の形に象られているのが何とも愛らしく、楽しい。
(これならユメリアと一緒に分け合えるし、彼女に気を遣わせることもない。いいものを教えてもらったわ)
 そこで早速購入し、未悠がユメリアの元へ戻ろうとしたところ――先ほどまでユメリアがいたはずの場所から彼女の姿が消えていた。
「ユメリア、ユメリアっ!?」
 突然の友人不在に心を大きく揺らす未悠。周囲の様子から事件が起きたようには見えないが……。
(ひとりにしてしまったのがいけなかったのね。私ったら!)
 未悠が後悔と共に駆けだそうとした瞬間、その手を控えめに引く者がいた。――ユメリアだ。
「ごめんなさい、高瀬さん。お出かけ中に、行商の方から素敵なものを見せて頂いたのです。それで……」
 彼女の手には未悠が持つものと同じ大きさの赤い袋が提げられている。
「何故でしょう……高瀬さんと一緒に街を歩くと、色々なものが輝いて見える気がします。そんな時にこれを見かけて」
「ううん、いいの。ユメリアが無事なだけで私は安心したわ。それよりも互いにそろそろ小腹が空いてきた頃じゃない? よかったら今評判の喫茶店に行ってみましょうよ。王国風のお洒落なお菓子と紅茶を出してくれるそうよ」
 安堵した未悠はユメリアとの外出を余程楽しみにしていたのだろう。手帳に書いた地図をもとに親友の手を引き他愛のないお喋りを繰り広げる。
(高瀬さん……一緒におしゃべりして歩くだけで幸せ……)
 ユメリアは決して饒舌ではなく、相槌をうちつつ時折言葉を返すので精一杯。それでも友人の笑顔を眺めながら話を聞くだけで十分すぎるほどの幸せを感じていた。


●心知る者同士、色を染めて

「ニャふふ、今日は大好きな灯ちゃんをミア色に染めてやるニャス!」
 ここは大通りの中でも一際大きな洋品店。ミア(ka7035)は親友の灯(ka7179)を隣に指をびしっと天に向かって突き上げて宣言した。
「ミアさんの色? どんな色かしら。楽しみだわ。私もミアさんに似合う色を選んであげる」
 そう悪戯めいた笑みを浮かべた灯の髪にはエンゼルランプの髪飾りが留められている。
それは灯の大切な人からの贈り物。ミアはその髪飾りを活かしながら、彼女をより魅力的に見せるコーディネートを考え始めた。
 普段はのんびりしているのに理不尽や悪には敢然と立ち向かう性格、印象的な大きな目と艶やかな唇。素材が優れているだけに、華やかな服を選ぶよりも自然な――そう、柔らかなベージュ色のニットワンピースが似合いそうだ。
 そして元ピアニストという過去から袖には悩んだが、お洒落ならデザイン優先でも構わないだろうといわゆる「萌え袖」をチョイスする。
 色白な美脚を惹きたてるように白レースのペチコートも入れて――極めつけは翡翠のピアス。アッシュグレーの髪の合間で揺れる翡翠はきっと髪ごと鮮やかに魅せてくれるだろう。
「灯ちゃーん、こっちは決まったニャスよー♪」
 そこに灯もコーディネート一式をそろえて駆け付けた。
「私もミアさんに似合いそうな服を選んできたわ。あとね、メイクも試してみましょう? 気になるものがあったのよ」
「えっ、メイクも!? ふニャ、灯ちゃんは手際が良いニャスな。凄いニャス……」

 数分後、灯はミアのコーディネートを着こなし、早速それを購入した。ピアニスト時代には着ることの少なかった萌え袖。それにふんわりしたペチコートの感触はこれから風で靡くたびに心地よさを届けてくれることだろう。
 それに――何よりも、翡翠のピアスが気に入った。
「……ニャふふ。ミア色よりも、翡翠色の方が似合うニャスな♪」
 今、灯の髪飾りの下では翡翠のピアスが揺れている。それは色の相性も良く、エンゼルランプを彩る一対の飾りのようだ。
「ありがとう、ミアさん。新しい私を見つけた感じがするわ。組み合わせ次第でここまで変わるのね」
「うんうん、良かったニャス! それじゃあ、灯ちゃんが見つけてくれた服も来てみるニャスっ!」
 試着室に鼻歌まじりで入っていくミア。灯が彼女に選んだのはアッシュピンクの髪に相性の良さそうな可憐な赤のワンピースと、繊細なレースで編み込まれたミニ丈のチュチュ。そして彼女の無邪気さを象徴するようなニーハイソックスと、白の耳付きファーコート。
(白とピンクと赤……幸運を招く白猫のような印象になったけれど、喜んでくれるかしら)
 灯が手元に残した髪飾りの箱に触れたその瞬間、試着室のカーテンが開いて試着完了したミアが灯に抱き着いた。
「灯ちゃん、ありがとニャス! こんなに可愛い服は久しぶりニャスゥウウウ」
「え、ええ。気に入ってもらえてよかったわ。でもまだこれでは完成形じゃないの。少しだけじっとしてて?」
「ふニャ?」
 灯は小首を傾げるミアのツインテールに彼女の象徴である彼岸花の髪飾りを挿した。それだけで今までの甘い雰囲気がミアらしく引き締まる。
「あと、これも。ミアさんの目はとて印象的なんだから、ノータッチじゃ勿体ないわ」
 そう言って灯はミアの睫毛を巻き、パールのアイシャドウを瞼に散らした。それはレッドスピネルの瞳の上に舞い降りた煌めく小雪のようで……鏡を見たミアが思わず「ふニャああんっ!?」と喜びの悲鳴を上げる。
「ふふ、とびきり可愛いわ。デートに誘ってみたら? 天邪鬼な“彼”を」
「ニャ、ニャあ……」
 ミアは想い人の顔を思い出すと、その白い頬を真っ赤に染めた。


●ほろ苦くて、甘い……手作りの味

「チョコレートリキュール……作るのは案外簡単なものなのですね」
 フィロ(ka6966)は調理器具を片付けながらこう呟いた。
 調理台の上には1~2口分の小瓶がいくつも並んでいる。小瓶の首に細く愛らしいリボンが飾られているのはこれが自宅用ではなく、贈り物である証。
(あの方はワインがお好きだから、きっとチョコレートよりもこちらの方を喜ばれるはず。後は仕上がり次第……)
 オートマトンであるフィロはリキュールを小皿にほんの少し垂らし、口に含む。機械の身体であるがゆえにそれは直接的な味ではなく、データ化されて脳に伝わるのだが――どうやら味付けに成功したようだ。
「度数は高め、甘さは抑え目……あの方好みの味わいと認識します。気に入っていただけるとよいのですが」
 そう言って、彼女は小瓶にリキュールを詰め込んだ。コルクで栓をして、小さなバスケットに入れて……すると、思ったよりも作り過ぎてしまったことに気づく。
(1~2回分の食後酒用として小瓶に詰めていたら思ったよりも本数が出来てしまいましたね。それならば、あの方の元へ向かう前に知人や友人に会うことあらばお裾分けすることにいたしましょう)
 フィロはリキュールの出来に満足すると、軽やかな足取りで外に出た。

 一方、澪(ka6002)もチョコレートを手にしていた。今年はラッピングで自分なりに工夫している。鮮やかな青に紅白の紐を結い、そこにメッセージカードを挟んだ。
「……これで、いいよね」
 これから渡しにいくチョコレートは3つ。でも本当はもっと、渡したい人が彼女にはいた。だが――今はここにはいない。
(居場所がわかるならと思ったけど、今は彼女にとって大切な時だから。だから私は……)
 澪はいつも通りを装うために髪を纏め、羽織を纏う。そして外に向かうと――風の暖かさに驚き、早足で目的地に向かうのだった。


●姉妹、いろいろ

 バレンタインといっても外出する相手は恋人だけとは限らない。
 氷雨 柊(ka6302)は妹の氷雨 柊羽(ka6767)を連れ出し、大通りを西へ東へ忙しなく移動しながら買い物を楽しんでいた。
「カップルが沢山だ……。姉さん、はぐれないように手を」
 柊羽が後ろにいるはずの姉に手を差し出す。しかし忽然と柊の姿は消えている。
「あら、これも素敵……そうですねぇ……あ、チョコの香り。どこからでしょうかぁ……はにゃっ!?」
 露店から漂うチョコレート菓子の匂いにふらふらと惹かれる柊。それに気づいた柊羽は慌てて彼女の腕をがしっと掴んだ。
「……手を繋ごうね? 絶対話さないようにね? 迷子になるから」
「だ、大丈夫ですよう。しっかり握ってますってー」
 そう言う柊の視線が左右に泳ぐ。
(……大丈夫かなぁ)
 柊は成人女性としてはかなり小柄で、柊羽より頭ひとつ小さい。しかし姉としてのプライドがあるのか、愛らしい唇をつんと尖らせ、左右を見た。
 ――すると、若い女性向けの洋品店で愛らしい服を着た店員がバレンタインフェアと題した紙を掲げ、客寄せをしている。
「あ、しゅーちゃん見てくださいよぅ! お洋服ですってー。見ていきませんかぁ?」
「服? うん、良いけど」
 店員の着ている服や客層から判断するに、この店は柊羽が好む動きやすいボーイッシュなものではなく。むしろ柊好みの可憐なデザインが主流のようだ。ほんの少し、不安になる。
 そんな彼女に追い打ちをかけるように柊が楽しそうに呟いた。
「さてさて、しゅーちゃんに似合うものはどれですかねぇ?」
「……ん? いやいや、僕はいらないって。そりゃ姉さんみたいに可愛い服は持ってないけど……少しくらい?」
「はいっ、そうですよぅ! 可愛いお洋服も少しぐらいあったっていいとおもうんですー、ね?」
「……仕方ないなぁ。少しだけだよ? 着るかもわからないけど」
 肩を竦め、やれやれとため息を吐く柊羽に柊は嬉しそうに手を叩いた。
「ふふ、それじゃあ着て貰えるようなとっておきを見つけないとー」
 柊は意気揚々と妹の手を引いて店内をスキップするように歩き回る。次々とあてがわれるフリル付きのロングスカート、胸元にレースが飾られているニット、花柄のショートブーツ。
「動きやすいのがお好みであればミニスカートにパニエを入れて、ニーハイソックスを」と次々と店員にも勧められる。
(姉さんなら似合いそうだけど……僕には可愛すぎるよ、やっぱり)
 可愛い可愛いと連呼する姉と店員に反し、柊羽は姿見の前で顔を真っ赤にした。
 仕方なく試着室で元の服を着ると(やっぱり僕はこういうのがいいんだなぁ)と安堵する。
「ごめん、やっぱり僕は男物が好きみたい。でもこのストールは色が綺麗だから……これだけ包んでもらおうかな」
 淡紫から淡青にかけてグラデーションがかったシンプルなストールは静かな雨を思わせる。名に雨の字を持つせいか、彼女はほんの少し親近感を覚えていた。
「うん、しゅーちゃんが気に入ったものがあればそれでいいです」
 柊は可愛い服を妹にコーディネートしきれなかったのを残念に思いつつも、それでもこれから少しずつ慣らしていけばいいと満足そうに頷いた。
 早速雨色のストールを身に着け、再び姉妹は歩き出す。
(そういえば姉さんは何も買わなかったな……僕のために時間を割いてくれたんだな)
 そう思うと柊羽の胸がちくりと痛くなる。
 そこで彼女は先ほどから甘味を求めてふらふらしていた姉のために喫茶店に向かうことにした。
「ねえ、姉さん。喫茶店に行こうか。今日は変わり種のスイーツや飲み物が販売されるらしいよ。明日になったら食べられなくなっているかもしれないし……行ってみようか?」
「うんっ、しゅーちゃんは良い子なのですっ。実は私、美味しいお店を先にチェックしてたんですよー」
 じゃーん、と言って大通りの地図を開く柊。そこにはびっしりと店の傾向やおすすめメニューが書き込んである。
「さ、さすがだね……。それじゃあ人酔いしかけていることだし、この一番近い店で一休みしようか」
「おおっ、ここはココアに定評があるお店なのですー。丁度風が冷たくなりましたし、熱々のココアを飲みたいですねぇ……♪」
「それじゃあ僕もココアにしよう。そうしたら今度は散策がてら、姉さんに似合う服も探そう」
「しゅーちゃんったら……、優しい子!」
 ぎゅむーと妹の首に抱き着く柊。その姿は姉妹逆にしか見えないほどの無邪気さだ。
 ――何はともあれ。姉妹揃って楽しい一日を過ごしたことは間違いない。


●陽光の中で

 白樺は自然公園に到着すると早速目的の精霊を探した。
(ローザは光の精霊だから日陰の方にはいないと思うの。リンは並木道の方かなぁ)
 とてとてと歩き、日向の多い交流スペースに向かうとベンチの上で素肌を露わにしたローザが手すりにもたれてうたた寝をしている。
(わ……このままじゃ風邪ひいちゃうの! あ、でもローザは光を浴びるのが好きだからこのままにした方がいいのかな?)
 管理小屋から毛布を借りるべきか悩んでいると、そこでローザが目を覚ました。
『……ん、白樺かい?』
「うん! 今日はお祝いの日だから来ちゃった」
『お祝いって……あぁ、バレンタインか。あんたには何度も助けられてるからねェ、何か贈らなきゃいけないね』
 すると白樺は「ううん、いいの」と、その華奢な身体をローザの横にぴったりと寄せた。
「それよりも、シロも一緒に日向ぼっこしていい?」
『いいよ、このベンチは大きいしね』
 そう言って、ローザは白樺に膝枕をする。いつの間にか甲冑が柔らかなドレスに変わっていた。それが少しこそばゆくて、気持ちいい。
「ぽかぽかのお日さま。ローザみたいに優しくってあったかいの♪ ……ところで、リンは? 最近会えなくて寂しいの」
『……実はね、リンは故郷に帰ったのさ。アンタに挨拶できないのが心残りだって言ってね』
「え、リンはまだちっちゃいのに、あんな危険なとこに戻ってしまったの!?」
『森の浄化が進んだからね。何の力も得られないここにいるより、あっちで暮らした方がリンの成長に繋がるんだよ。あの子はラズビルナムの木漏れ日の欠片だから……その方が体に良いんだ。幸い力の強い精霊達と一緒だし、ハンター達があの森を調査している間はそうそう歪虚に襲われることもないだろ』
「そう……寂しいね」
『でも次に会う時はきっと立派な精霊になってるはずさ。それがアタシの今の楽しみなんだ』
 そうして笑いながら白樺のブロンドを悪戯っ子のように弄るローザ。本当はきっと寂しいはずなのにと、白樺は思う。
「これ……ほんとはね、ローザとリンとわけっこするつもりだったの。物が食べられなくても、きっと少しは力になるよねって思って」
 彼が小花柄の袋から出したのは大きなハート形のチョコレートだった。
『ありがとう、白樺。それではこのチョコレートはアタシとアンタとこの公園の皆でわけっこだ。リンがラズビルナムで立派な森の護り手になると信じて食べればきっと想いが繋がるはずさ』
「あ、そっか。信じる心が精霊の力になるのならリンのことを皆で信じればいいんだよねっ!」
 がばっと起きてチョコレートを少しずつ削りながら皆に配る白樺。心持ちローザのものが大きいのは気のせいだろうか?
 それはともかく、精霊達はそれぞれの手段でチョコレートを食す。軍人や獣の精霊は直接味わって。ローザをはじめとした自然精霊達は御供え物として。
 どうか、リンや森に帰った精霊達がいつまでも元気でまた会えますようにと願う。
 その中で指を組み願うローザに白樺は背中から被さり――こう言った。
「……前にローザがシロに辛い事があったら言ってねって言ってくれたよね……。シロはローザが悲しいお顔してると辛いの。リンが悲しいのも辛いの……。だからこれからも皆の笑顔を護るお手伝い、させてね?」
『ありがとう。実はアタシは今でもラズビルナムの奥地へ浄化に行くことがあるんだ。その時にもしリンに会えたら、白樺が会いたがっていたと伝えておくよ』
「うん。でもできればシロもいつか一緒に行かせてね?」
『ああ、約束する。いつか必ず……大きくなったリンに会いに行こう』
 こうしてふたりは指を絡め合い、笑いあった。


●英霊との再会

「フリーデ様! お久しぶりです、お元気でしたか。こちらはお裾分けですが、どうぞ」
 偶然街をぶらつくフリーデを見かけたフィロはバスケットを手に駆け寄ると、茶色の小瓶を3本差し出した。
『ああ、フィロ。いつも世話になっているな。傷も完治したようで何よりだ。ところでこれは?』
「チョコレートリキュールを自作してみました。食後酒ですが、アイスやクレープにかけても美味しいと思います」
『ほう……それはありがたい』
「いえいえ。実は同盟のワイン好きの精霊様のところへ今度持っていこうと思いまして。人間好きの優しい方なので……フリーデ様をご紹介できなくて残念です」
『同盟の精霊、か。帝国以外の地にも精霊はいるのだものな……。酒好きならば気も合おうが、残念だ』
 そう俯くフリーデにフィロは微笑んだ。
「しかし今、確実に情勢は変わっています。いつか各地の精霊が逢える日が来るかもしれません。私はそれを信じております」と。
 そんな優しい彼女の心の籠った一滴は同盟の精霊の心を温め、さぞ喜ばせたことだろう。

 一方、澪もフリーデに再会するとチョコレートを手渡した。
「少し遅くなったけど、直接渡す方が良いと思った」
『気遣い、感謝する。こうして戦友とも日常で友誼を深められるのは嬉しいものだな。……ところでお前の親友は? 最近顔を見ていないのだ。身体を壊していなければいいのだが……』
 その問いに澪は少しだけ目を伏せると、はにかみながら答えた。その言葉は自分に言い聞かせるように。
「いつかまた会えるから、必ず一緒になるものだから。私達はそういうものなの。だから平気、だよ」


●贈り物に心を込めて

 食後、大通りを歩みながらアウレールはツィスカを連れて女性向けの店を覗いた。今日は意外と女性向けの商品も多く、デートでの贈り物の提案に事欠かずに済むのはアウレールにとって幸いだった。
 しかしツィスカは控えめに微笑み、困ったような表情をするだけ。
 それならばと前線に立ち始めた彼女のためにハンターオフィスへ立ち寄ったが、それでもツィスカの答えははっきりせず――デートというとマニュアル思考に奔りがちな朴念仁のアウレールが袋小路に陥ってしまう。
(何故だ、何故ツィシィは色よい返事を返さない!? 衣服、アクセサリー、化粧品といった定番から、実用性を重視した武具まで見て回ったというのに!)
 実際は本人に欲しいものを尋ねれば良いのだろうが、ツィスカは名家の生まれゆえに敬愛する先輩に甘える術を知らない。むしろ――ツィスカもまた、悩んでいた。
(アウレール殿に似合う帽子があれば良いと思っていたのですが……女性向けの店ではなかなか見つかりませんね。彼の期待と礼節に応えられるよう、私の審美眼を以て慎重に選ばないといけないのですが)
 どうもこのふたりは互いを想うがためにすれ違っている。
そこでここが最後だと、高級衣料品店に足を運んだ。この店は高位の軍人や貴族を相手に商いを扱っている。とはいえ基本的に職員を顧客の家へ派遣し、気に入った商品を届ける形で営業しているためほとんど客はいない。
 そこでアウレールが「邪魔をするぞ」とツィスカを連れて入ると店員が慌てて立ち上がった。
「こ、これはブラオラント家のご当主様とアルトホーフェン家のお嬢様! ここまで来られずとも、ご連絡いただけましたらすぐにご自宅まで伺いましたのに」
「いや、それは構わん。それよりも商品を見せてほしい」
 すぐさま周囲に並べられた服を眺めるアウレール。ツィスカも「もしかしたら」の思いで帽子の並ぶエリアを見回した。
 ――すると、あった。紺色の美しい礼装用の帽子が。アウレールの纏うサーコートは紺色に銀の紋章が刺繍されたもの。今日は帝国の紋章が刺繍された黒い帽子を被っているが、いつか来る日のためにサーコートに合わせた色の帽子があっても良いのではないかと彼女は感じていたのだ。
「あの、アウレール殿、このお帽子を試着していただきたいのですが」
「ああ、構わないが」
 彼は躊躇せず紺の帽子を被る。金の髪に深い紺が良く似合う。――だが、何かが足りない。黒は艶やかな色香があるのに、紺は実直すぎるのだ。
「ああ、もう少しなのですが……何が足りないのかしら」
 先ほどまで大人しかったのに突然色めきだしたツィスカにアウレールが内心驚く。
(もしかして、私からの贈り物よりも私への贈り物を気にしていたのか? だからあそこまで控えめだったと? 女性とは何とも複雑なものだな)
 だがその間に聡明なツィスカは答えを見つけ出したようだ。紺の帽子に銀のブローチを合わせ、じっくりと選んでいく。そして。
「アウレール殿、こちらはいかがでしょうか」
 彼女が差し出した帽子は先ほどと同じものだが、今度は銀の翼が飾られている。
「いいだろう、これはまた楽しみだな」
 彼女に微かに笑い、帽子を被るアウレール。銀は破邪の力を表し、翼は飛躍と自由を象徴する。その姿にツィスカはようやく安堵の笑みを浮かべた。
「ああ、よくお似合いで! アウレール殿をはじめした皆様のお力が邪神を破り、無事にお戻りになられるよう何をお渡しすべきかずっと悩んでいたのです」
「ツィシィ……」
「私は……本当はアウレール殿に追いつきたい。戦いだけでなく、心も。……例え守護者のような特別な存在になれなくとも、大切な人の心を支えられる者になりたいのです」
 静かなフロアに響く、ツィスカの囁き。本当は最前線で大切なこの人と世界を守りたいと思う一方で、今までのブランクを埋めるには時間が必要だ。その事実が悔しくて、切ない。
店員は気を利かせたのだろう。いつの間にか店の奥に姿を消したようだ。だからアウレールは躊躇せずツィスカを抱きしめた。
「いいんだ、ツィシィ。焦らないで。私は守護者こそになったが、それでも貴女があの日私にくれた言葉を忘れてはいない。剣魔との戦で救いはたしかにあったのだと。この世界は無情だが、貴女の言葉が私の心に希望を与えてくれた。そのことに感謝している」
「……」
「それよりも、私も貴女に渡したいものを見つけたぞ。これだ」
 アウレールが銀の髪飾りをツィスカの髪に飾り付けた。それは礼装の場でも使われる繊細な品で、大人の女性に似合う艶やかな大輪の花を模している。
「ツィシィの髪は帝国人に珍しい濡羽色。こういう清らかな輝きこそが貴女によく映えるのだよ。髪が金や茶ならば眩しすぎてここまで映えはしない。……貴女はいつかきっとこの花のように大きく花開く。私はそう信じているから今は後輩として、友として……待っている」
「ありがとうございます。なんて綺麗な髪飾り……大切な日に飾らせていただきますね」
 ツィスカはその清楚な美貌を満開の花のように笑ませた。
(私は幸せ者です。こうしてこの方と共に特別な日を過ごし、贈り物をいただいた。そして逆に私が彼へ贈り物をし、喜んでいただいた。……喜びが重なれば、心もより温かくなるものなのですね)


●潜む者

「わふー。今日はいい天気です。日向ぼっこにでも行くですー♪」
 今日も元気よくアルマ・A・エインズワース(ka4901)が外出する。彼の服は鮮やかな青色で、人混みの中でもとりわけ優雅だ。
 その様子を遠くから見る者がいた。彼の友人キャリコ・ビューイ(ka5044)だ。
(折角の休日、たまには心身ともに休めるのも悪くない。それに猟撃士は常に精神を研ぎ澄ませる身。目を休める意味でも気ままに友と過ごすのも良いだろう)
 そこでキャリコはアルマに声をかけようとしたが……ふと、にやりと口角を上げた。
(そういえばアイツ一人でがどう過ごすのか見たことがなかったな。少し追ってみるか)
 キャリコがフォッグローブを頭から被る。そして人混みに紛れつつ、隠の徒を発動すれば――姿はどこにでもいる民間人だ。
(奴のことだ、もしかしたら面白いものが見られるかもしれん。魔導スマホの撮影音やフラッシュ機能は無効化して……と)
 これで万全とばかりにアルマを追うキャリコ。その姿はいつもの沈着冷静な戦士ではなく、ただの悪戯好きの少年のよう。
 しかし、アルマは街並みをのんびり歩くだけで、これといった買い物や待ち合わせをする様子はない。
(……つまらん。本当にただの散歩なのか? それなら声をかけるか、今からでも……)
 キャリコがアルマに声を掛けようとしたその瞬間――アルマが突然「わっふー!」と叫んで駆け出した。その先にいるのは紙袋を抱えた大巨人……ならぬ、フリーデで。
「わふー! フリーデお姉さん、おひとりです? なら、僕と遊ぶです!」
『お前も散策していたのか。いいだろう。今日は色々な催しがあるようだし、物見遊山と洒落こむのも悪くない』
 そう言ってフリーデが大通りへ向かおうとすると――突然、アルマの顔が大人の男に変わった。男としてエスコートしようと、自分より頭半分以上大きいフリーデへ手を差し出す。
「それじゃ行きましょうか、フリーデさん」
 たちまち顔を真っ赤にし、言われるがままアルマに手を引かれるフリーデ。そんな彼女に振り返り、アルマは大人びた微笑みを見せる。その表情は普段全く見せないものだ。
 ――その様子にキャリコは驚愕し、まず1枚目の画像を魔導スマホに収めた。
(何、奴のあの顔は本気でフリーデとデートする気だな!? まさか今日は……)
 まだ見るべきものがあるかもしれないと、彼は慎重にふたりの背を追っていった。


●ずっと親友

 未悠とユメリアは喫茶店でバレンタイン限定スイーツを注文すると、まずはフォークで一口分互いに掬い取った。
「「はい、あーん」」
 ユメリアは優しいミルク味のフルーツミルフィーユ、未悠は甘酸っぱいベリーのムースケーキ。その味は甲乙つけがたく、至福の表情を浮かべる。
「とっても美味しいわ。いつもこういった商品が定番になるといいのだけれど」
「帝国は軍事に大きく傾いていましたからね。でもこれから民主主義に向かっていくのでしょう? ……そうなれば少しずつ、他国の食事文化も取り入れられて、きっとおいしいものが食べられる国になると思います」
「そうね、ユメリアの言う通りだわ。ハンターが各国を行き交うようになってから少しずつ変わってきたし、私もそう信じる!」
 未悠がにっこりと笑う。その時――ユメリアが先ほど手にしていた赤い袋を机に乗せた。
「未悠さん……これを私から贈らせて、ください」
 ユメリアの贈り物はオルゴールの小物入れ。金色の箱に硝子がはめ込まれ、中にはポプリが詰められている、中心には未悠の瞳をイメージしたのだろうか? ルビーチョコが一粒愛らしく乗っている。
「素敵……いい香り。これを買うために歩いてくれたのね……ありがとう、ずっと大切にするわ!」
 感激する未悠。するとユメリアが店員に「こちらで歌ってよろしいでしょうか?」と尋ねた。店員が頷くと、ユメリアはオルゴールの螺子を巻き――歌い出す。
 それは大切な者を守ると誓いの歌。例え世界を敵にまわしても、貴女を守るために生きると――丁度バレンタインデーということもあってか、喫茶店のカップルたちは感動し、拍手を惜しみなく送った。
「高瀬さんはいつも輝いていて、温かくて、強くて。いつも支えてもらっています。支え合うには私は体が細すぎて。でも、支え合えられなくても。あなたを……守りますね」
 その言葉に未悠は「ありがとう。でも私も貴女を守りたいと思っていること、忘れないで」と、一対の箱をテーブルに並べる。
「これはローダンセをモチーフにしたプレスレットなの。ユメリアはピンクで私は赤、デザインはお揃い。ふふっ、花言葉は『終わりのない友情』よ。私達にぴったりでしょ?」
「高瀬さんとお揃い……! 嬉しいです、ずっと大切にします!!」
 早速互いの腕にブレスレットを着ける。その温もりにふたりは思わず微笑みあった。

 一方、ミアと灯もカフェで一息ついていた。ふたりは気兼ねなく相談ができる間柄で、揃ってホットチョコレートを堪能する。
 そんな中――。
「そういえば、彼にチョコを渡せましたか?」
 灯がミアに尋ねると、ミアは顔を赤らめ「……秘密ニャス」と答えた。
 その反応に灯はテーブルに肘をつき、指を組むと静かに微笑む。
「ということは、きっと渡せたのね。私には、ミアさん達は強い絆で手を繋いでいるように見える。彼もきっと喜んだわ」
「……そうだといいニャスけど」
 恥じらうミアはなんとも愛らしい。しかし表情を一転させ、今度は灯に活き活きとした表情で問うた。
「そういう灯ちゃんは彼のどこにビビッときたニャス?」
「えっと、それは秘密。ミアさんが黙秘権を使ったんだもの、私もそうするわ」
「むー」
 そう言って納得いかない様子でむくれるミアに灯は静かに続けた。
「それでは答えの代わりに。……チョコの香りは私にとって安らぐもの。翡翠の瞳の彼にとって、“安らぐ”存在でいられたら……なんて図々しいわね」
 するとミアはホットチョコレートをスプーンで一掻きして、ぽつりと呟いた。
「そんな控えめで優しい灯ちゃんだからこそ、いつかきっと彼の心を救うんじゃないかニャぁ」
「そうだといいのだけれど」
「ミアも色々思うニャスよ。サーカスの一員も嬉しいニャスけど……いつか、“家族”の一員にもなれたらニャぁ……なんて」
 ミアの『家族』への想いは強く、切ない。
 灯は「ミアさんは魅力的よ、必ず願ったものを手に入れられる……私はそう信じているわ」とカップを包むミアの手をそっと両手で包み込んだ。


●告白

 それは、陽が暮れ始めてからのことだった。
 これといって買うもののないふたりはフリーデの希望で帝国軍人を祀る霊廟で香を焚き、互いに生き抜けるよう加護を願った。
 どうかこれからの戦の最後が幸福な結末で迎えられるようにと。
 そして辿り着いた公園で言葉少なく、二人はただ並んで歩く。
「……本当はフリーデさんに何か、似合うものを贈りたかったんですけどね」
『気にするな、私の身体では身に着けられる物が限られている。それにお前から贈られたものを傷つけられるのは嫌でな』
「それなら、これは? 僕からの誕生日プレゼント、着けてくれているですよね。その意味、僕はどう捉えればいいんでしょう」
『こ、これはっ!』
 愛らしい瞳に浮かぶ意地悪な色。それが突然まっすぐな視線となってフリーデに投げかけられる。
「……まあ、フリーデさんが不器用なのは知ってますし追及しません。その代わりに僕には言いたい事あるです。僕、フリーデさんの事、好きです」
 するとフリーデの顔が「女」のものになった。
『それは何度も聞いている。そして……それは私も同じだ。今、生前に抱いたことのない感情が私を支配している』
「実はそう言うと思ってましたです。でもお友達の『好き』と違うやつですけど、お返事ほんとにそれでいいです? 返事は今でなくても構いません、嫌われないかぎりは僕だって男の子ですから!」
 思いがけぬフリーデの返答にアルマが慌てて手を前に突き出し横に振った。選択権は彼女にもあると考えて。
しかしその腕をフリーデが強く握る。
『それは構わん。私とて考えた末の結論だからな』
 フリーデは袋の中からフィロのチョコレートリキュールを1本出すと、一気に口にした。
 そして自分より繊細なアルマの身体をかき抱くと、彼の唇を一瞬にして奪う。
『世の恋人はこうして契約するのだろう? お前の魂と直接契約はできないが、元人間として時に情に身を任せるのも悪くない』
 傷で割れた唇がアルマの唇を浅く吸う。ほんの一瞬のライトキス。
 だが次の瞬間、アルマがフリーデの唇を啄むように吸い、リキュールを味わった。驚くフリーデに彼が淡く笑う。
「これは仕返しですよ。……それにしても、僕で本当にいいのですか? フリーデさん」
『ああ。私とお前は対等で、契りも交わした。お前をひとりにはしないとな』
「本当に? ずっと、傍に……?」
 ふたりが座るベンチが軋む。その陰に潜むキャリコは内心錯乱しながらふたりのシルエットをスマホに収めていた。
(魔法使いエルフと筋肉達磨英霊のカップル爆誕だと! な、何なんだ、この展開はっ)
 その時突然、ベンチが鈍い音を立てて割れた。アルマの身体にフリーデが圧し掛かった瞬間、重みに耐えきれず旧い板が圧し折れたのだ。
「うおっ!!?」
 目の前に倒れてきたふたりに思わず絶叫し、後ずさりするキャリコ。当然、隠の徒の効果が消え去ってしまう。
「あ、あれ? キャリコさん、なんでここに?」
「あ、愛銃のアルコルをこの辺で紛失してな。もし子供や悪人が手にすれば危険なことになりかねん。それで……」
「アルコルは約2mの大型銃でしょ? こんな公園に持ってきたんですか? というか大きすぎて紛失しようがないです!」
 ぷりぷりと怒り出すアルマ。キャリコは下手な言い訳により追い詰められていく。
 そこでフリーデは煌々と画面が点灯している魔導スマホを拾った。
『ん、キャリコ。これはお前のものか? 画面が……ん?』
 そこにはアルマがフリーデに会ってからの一部始終が記録されている。
「キャリコさん」
『貴様……!』
 その後、キャリコがどうなったのかは――諸氏の想像にお任せする。


●感謝のしるし?

 陽が落ちた公園で、アルフレッドは大きく息を吐くと抱えた箱を全てベンチに一旦並べた。
 いずれもシレークスのもので、これからの戦いに必要なものが十分に揃っている。
(シレークスさんの物を見極める力、凄かったな。僕も熟練のハンターになったらああいう風になれるかな。必要なものをズバッと選んで、装備して、すぐに人を助けにいけるような……そうなれたらいいな)
 ベンチに座るシレークスはそんなアルフレッドに鞄から手のひらサイズの包みを出した。どうやら手作りらしくシンプルな紙で包まれており、甘い香りが漂っている。
「ほれ、アル。これを受け取りやがるですよ」
 突き出された菓子にアルフレッドが目を白黒させた。
「……! これは、バレンタインのチョコ、でしょうか。……その、良いのでしょうか、僕なんかに?」
 彼の戸惑いの声にシレークスはすぐさま唇を尖らせた。せっかく作ったのに、と小さく呟いて。
「いらねーならいらねーでいいですよ。わたくしが食うだけですからね」
「そんなことは決して! ……本当に嬉しいです。シレークスさんからの贈り物……ですから」
 その返事にシレークスは満面の笑みを浮かべ、アルフレッドの肩を力強く叩いた。
「そうそう、後は今日頑張ったおめーにご褒美をやらねぇとですねっ♪」
「いたっ……え、ご褒美ですか?」
「今日は知り合いの酒場が料理を格安で提供するっつーんです。飲んで食べて、また明日から頑張っていきやがるですよ!」
 今度は軽々と袋どころか箱も全て持ち上げて歩き出すシレークス。アルフレッドは「に、荷物ぐらい僕に持たせてください!」と慌てて彼女を追い始めた。――きっとこの人には生涯かなわないなと苦笑いしながら。

 その頃、澪はローザとフィー・フローレ(kz0255)のもとを訪れ、チョコレートを渡した。
 ローザは休息の時間のため澪に深く一礼するとチョコレートを抱いたまま管理小屋のランタンの下で姿を消す。
 一方、フィーは元気いっぱいだ。
「ワワ、アリガトナノ! ……綺麗ナ青イ箱……澪ノ髪ノ色ニ似テルノネ」
「ありがと。中のチョコも美味しいはず」
「ワア! ソレジャ一緒ニ食ベルノ! ソウスレバ2倍オイシクナルノヨ!」
 フィーはチョコレートを割ると澪と分け合い、ぺろぺろと舐めては幸せそうに笑った。
 澪も「……ん、やっぱりおいしい。友達と一緒だと本当に」と呟いた。
 その瞳の遠さにフィーは切なくなる。2度と会えないわけじゃないけれど、それでも……2人にとってあの鬼の少女は大切な人だったから。
 だが澪はほんの少し笑顔を作って、フィーに問いかける。
「フィーはこの前、依頼で外に出ていたんでしょ? 何かあった?」
「ウン、リアルブルーノ子達トオ星様ヲ観ニ行ッタノ。ソシタラリアルブルートコッチノ星ノ並ビガ全然違ウカラ……リアルブルーハ本当ニ遠イ所ニアルノネッテ。デモネ、オ星様ノオ話デ似テル所ガアルカラ、昔カラ転移現象ハアッタンダロウネッテ難シイオ話ヲシテタノヨ」
「夜空を……綺麗だった?」
「ウン! 光ノナイ所ダトチッチャナオ星様モ見エルノヨ!」
 ニコニコ顔のフィーの頭を澪はチョコレートを齧りつつ、優しく撫でた。
「それは良かった。私は星のこと、旅に必要な程度の知識しかないけど……全く違う星空って想像がつかない。リアルブルーで何もない山とかに行ったら迷子になるかも」
「ウン、私モキット迷子ニナルノ。デモネ、本当ニ夜空ガ綺麗デ……アノ子モコンナ星空ノ下デ寝テルノカナッテ思ッタ」
「そう、だね。きっとあの子も同じ星空をどこかで眺めているはず。この世界のどこかでこうして同じものの下にいると思えば……寂しくなくなるよね」
 そう呟いて澪はフィーをぎゅっと抱きしめた。
「ミ、澪?」
「しばらくこうさせて……フィーの匂いで、ほっとするの」
 するとフィーが澪の髪をそっと撫でた。彼女の寂しさが和らぐようにと……。その様を星々は見守るようにいつまでも輝き続けていた。

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  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 一握の未来へ
    氷雨 柊(ka6302
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 白銀のスナイパー
    氷雨 柊羽(ka6767
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • 花車の聖女
    灯(ka7179
    人間(蒼)|23才|女性|聖導士

  • アルフレッド・キーリング(ka7353
    人間(紅)|14才|男性|聖導士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
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2019/02/17 18:02:50