イノセント・イビル 付け焼き刃に焼入れを

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/02/20 07:30
完成日
2019/03/01 02:28

みんなの思い出

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オープニング

 歪虚『庭師』の活動はダフィールド侯爵領だけに留まるものではなかったらしい。
 ニューオーサンの町のハンター事務所出張所── 資料室に籠ってパルムの報告書を調べた侯爵家四男ルーサーは、その事実に眉をひそめて疲れ目を指で解した。
 調べてみれば似たような事件──闇色オーラの人外の出現──は王国のあちこちで起こっていた。発生した時期や地域はバラバラで、それぞれ単独の事件として資料の中に埋もれていたが、事情を知るルーサーからすれば『庭師』の関与は明らかだった。
(思っていたよりも長い期間、王国の広い範囲で『庭師』は動いていたらしい)
 『庭師』はハンターたちによって倒された。が、事件は今も発生し続けていた。『種子』が『発芽』するまでの時間は『力』の使用頻度などでかなり差があるようだった。つまり、今も埋め込まれたまま『発芽』を待ってる『種子』が多数あると思われた。
 ルーサーは資料を纏めると、『後見人』たるクリスとマリーを伴い、現当主・長兄のカールの元に赴いた。執務室にはなぜか末兄のソードが先にいたが、もう用は済んだとのことで、ルーサーはカールに『彼ら』を救う旅に出る許可を求めた。
「……当てはあるのか? 闇雲に国中を回ったところで、まだ『発芽』してない人間を見つけ出せるとも思えんが」
「はい。資料を調べた結果、事件は地域ごとにある程度纏まった範囲で発生する傾向があることが分かりました。『種子』に浄化の力が効くことは判明しています。調べて回ればまだ助けられる者がいるかもしれません」
 ルーサーは熱弁を振るった。もし、今も『庭師』の『種子』に苦しんでいる人がいるのなら、それを救って回りたい、と。これは、これまで人生の目標をどうしても見いだせなかった僕の心の中から、初めて湧き上がって来た衝動なのだ、と。
「先の結婚式の戦いの折、主の為に人外と成り果ててまで戦い、死んでいった者たちを目の当たりにしました。彼らは歪虚の力を得ていた。でも、彼らが『悪』だとは僕にはどうしても思えなかった。むしろ、そんな者たちの想いに付け込む形で『力』を与え、命を貸し剥がすような『庭師』のやり方が許せなかった」
 なにより、庭師は父ベルムドと次兄シモンの仇── 意趣返し、というわけでもないが、『庭師』がバラ撒いていった『悪意』の『発芽』を防いで回ることで、その意図を挫いてやりたいという想いもある。
「ルーサー」
 それまで黙って話を聞いていたソードが口を開いた。
「お前のしようとしていることは、父上とシモン兄の仇を討つことになると思うか?」
「……分かりません」
 ルーサーは正直に頭を振った。自己満足であると言われてしまえば、そうとしか答えようがなかった。
「……でも、死んだ『庭師』に向かって『ざまぁみろ』と言ってやれる気はします」
 その答えに二人の兄はきょとんとした顔を向け……堪え切れぬといった風に噴き出し、笑い出した。
「フハハハハ……! ならば、ダフィールド家の当主として、弟の旅立ちを認めぬわけにはいかぬな」
「俺もついていくぜ、ルーサー。兄貴、さっきの話、よろしく頼む」
 以後の話はとんとん拍子に進んだ。
 カールは旅のリーダーはルーサーとしつつ(これはむしろ兄のソードが積極的に賛同した)も、弟二人の監督はクリスに任せた。
「はい。引き続き、お引き受けさせていただきます」
 クリスは「お互いに苦労しますね」といった微笑を一瞬、カールに向けて、恭しく頭を下げた。
「やったじゃない、ルーサー!」
 ルーサーの背中を思いっきり叩いて、マリーは弟分の頑張りの結果を彼女なりに祝福した。

 旅に出るに当たり、ルーサーたちはまずニューオーサンの広域騎馬警官隊の本部を訪れた。
「よう、ヤング。突然だが俺はルーサーの旅についていくことにした」
「は?」
「ここの隊長も辞めてきた」
「はあぁぁぁッ!??!!?」
 乳母の息子として、幼い頃から仕えて来た主・ソードの突然の申し出に、ヤングは、いったいどういうことか、と詰め寄った。
「俺は侯爵家を出るよ、ヤング」
 ソードの返事にヤングは言葉を失った。そんな事、一言も聞かされていなかったルーサーたちも驚いた。
「これまで母上の言うことを聞いて家督を継ぐために励んできたが、もうその必要もなくなった。……なに、いずれ家は出て行かねばならんのだ。少し時期が早くなっただけのことさ」
 ソード自身はむしろすがすがしい表情でそう告げた。主の苦悩を知るヤングは、それ以上何も言えなくなった。
「これまで俺みたいな奴に仕えてくれて、感謝する。……一回り大きな人間になって戻って来るさ。だから、見送りはいらねぇぜ」
 ソードはヤングと握手をし、その肩をポンポンと叩くと、後ろ手を振って本部棟を後にした。
「ソード様……!」
 ヤングが外まで追い掛けて来て、声を掛けた。ったく、見送りは要らねえってのに…… ソードはフッと息を吐くと、振り返らぬままその拳を別れの挨拶に突き上げた。
「ああ……っ!」
 ヤングがぶわっと涙を零し、痛々しそうに呼び掛けた。
「このまま振り返らずに去る俺、格好いい、と思っておられるところをすみません、ソード様! 最後にお伝えしておかねばならないことがあります……!」

「えーっ、ソード・C・ダフィールドさんですね。ええ、確かに6年前に覚醒者素質テストを受けられていますね。はい、結果は『覚醒者の素質あり』ですね」
 ニューオーサンの街のハンター事務所出張所── パルムのネットワークを使ってその事実を調べた受付嬢にそう告げられて、ソードは改めて絶句した。
 本部での別れしな、ヤングがソードに伝えた事実がそれだった。
「我が父の手記に依れば、ソードのお母上サビーナ様の指示で、ソード様には事実を曲げて『素質なし』と伝えた、と」
 ヤングの父オルダーはサビーナに仕えていた。彼女は、息子には何より兄たちとの家督争いに集中して欲しかった。覚醒者の素質があると知った息子が外の世界に飛び出していってしまう懸念や、或いは単純に親として子供に危ない真似はして欲しくないとの想いもあったのではないか、とオルダーはそうも記していた。
「あの母上がそのようなタマなものかよ……」
 ソードはギュッと拳を握った。
 彼が幼い頃から求めてやまなかった英雄の力── ずっと母の望む通りに生きて来て、最後に知らされる事実がそれか、と。自分の人生を思い返して、泣きたくなるような想いに駆られた。
「で、どうします?」
「へ?」
「覚醒者になる儀式です。やるなら儀式場を押さえておきますが」
「あ、お願いします」
 空気を読まない受付嬢がテキパキと事務を進める。
 ソードは何の感慨も抱く間もなく、ハンターとなることになっていた。

リプレイ本文

 ソードとマリーに覚醒者の素質がある── それを報せられたハンターたちの反応は様々だった。
「……は?」
 サクラ・エルフリード(ka2598)は硬直し、絶句した。
 レイン・レーネリル(ka2887)はびっくり驚いた。
「んむむむ、凄いね! 2人とも覚醒者の才能あったんだね!」
「いいんじゃない? マリーもソードさんも出会った頃は正直、不安な所もあったけど、あのお家騒動を乗り越えた今なら2人とも特に心配ないかなって」
 ルーエル・ゼクシディア(ka2473)はまたそう言って歓迎の意を示し。
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)はクリスをチラと見やって、心配そうに懸念を口にした。
「えーと、喜ばしい事ではあるのですけれど……マリーさんは大丈夫なのでしょうか? お父上に相談も無く決めてしまってもいいのか、とか、その……婚期とか」
 そんなヴァルナとクリスの肩を、シレークス(ka0752)が後ろからポンと叩いた。そして、なんか良い笑顔でグッと親指を立てて見せた。
「大丈夫でやがりますよ、クリス。わたくしでも若い燕を捕まえられたので!」
「……は?」
 シレークスが突如発した爆弾発言に騒然とするクリスたち。サクラがその場の誰よりも、マリーとソードの件を知った時よりも驚愕し、石と化す。
 その光景をどこか遠くに感じながら、ルーサーは無言で立ち尽くしていた。気づいたヴァイス(ka0364)がそっと寄り添うように並んだ。
「……複雑か? マリーにだけ適性があると知って」
「……そんな、ことは……」
 ルーサーの声には落胆があり、隠し切れてはいなかった。
「確かに、力は誰かを守る為に必要だ。でも、それだけが『守る』ってことじゃない」
「……」
「力が無くたって誰かを助けることは出来る。お前がクリスとマリーの存在に救われたように。……今のその感情を昇華できれば、お前も今よりもっと強くなれる。頑張れよ、ルーサー」
 兄貴分の言葉にルーサーは素直に頷いた。ヴァイスはわしゃっとその頭を撫でてやった。
「……まあいいでしょう。話を本筋に戻します」
 一方、シレークス追及の矛を(とりあえず)収めたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は、改めてマリーに向き直って訊ねた。
「で、ハンタークラスは何を希望するのでしょう? 私に教えられるのは聖導士としての戦い方くらい……ああ、勿論、マリーが聖導士になったら、の話ですが」
「ううん、お願い。まだ何になるのか決まってないけど、何でも聞いてみたいし、やってみたい!」
 マリーの返事に、レインは「よくぞ言ったー!」と後ろから抱きついた。そして、荷物の中から取り出した妖しげな機械群をいそいそと並べ始めた。
「こういうのは直感も大事なんだよ。ピンと来たのはまず間違いないからね! ほら、見て見て、この機械道具群! ピンと来た? ピンと来た? マリーも機導師になって戦車に手とか生やしてみたくない?」
「レインおねーさん、怪しげな方法で勧誘しないで! いや、本人が望むなら良いんだけどさ」
 暴走する恋人を、ルーエルが横から引き戻した。そして、咳ばらいと共に聖書を手にマリーへと向き直った。
「僕の方は、そうだな……聖導士に興味があるならエクラの教義について説明するよ? せっかくの機会だし主のお導きを信じてみるのもアリかも、なんて……」
「……すぴー」
「秒で寝た!」
 座学の気配を察したマリーの寝落ちの早さにガーン! とショックを受けるルーエル。それを見たレインが後ろで大笑い。
「……これまで切った張ったをしたことはないけど、運動神経はあって、そこそこお転婆、ね……」
「はい。性格的には前衛っぽいですが、考え方的には後衛っぽいですし…… 私的には聖導士と機導師はマリーに合いそうな気はします……」
 仲良く喧嘩を始めたレインとルーエルをよそに、マリィア・バルデス(ka5848)とサクラが真剣な表情でマリーの適性について話し合いを始め……
「なあ、俺にはどのクラスが向いるんだ?」
 ポツンと放置されていたソードが訊ねた。瞬間、ハンターたち全員が「は?」という表情で一斉に振り向いた。
「え、ソードさんのクラスですか? 闘狩人が合うと思います」
「というか、考えるまでなく闘狩人一択でしょう」
 即答即決。すぐに元の話題に戻るヴァルナとサクラ。一瞬、ポカンと呆けたソードがハッと食い下がる。
「なんか俺だけ雑じゃない?!」
「そりゃそうだよ! 実は魔術師に憧れてましたとか言われたらおねーさんビックリだよ!」
「ソードは武器全般の扱いに慣れているでしょう? なら闘狩人で問題ないじゃない」
 答えて、またすぐにマリーの話題に戻るレインとマリィア。色彩を失くしたソード(デフォルメ)の肩を、ヴァイスとルーエルが左右からポンと叩いてやる……
「戦えるのに後ろに庇われてる気なんてないんでしょう、マリーは? それなら、私は中衛の猟撃士、それもガンナーをお勧めするわ」
「銃……(メモメモ)」
「銃なら素人でもそこそこダメージを叩き出せる。その分、頭打ちになりやすくもあるけどね。その時は装備を整え直してアーチャーになればいい。……ある程度、臨機応変に対処できる万能を目指すなら、同じ中衛分類になる機導師も悪くないわね。ただ、貴方が大ダメージを徹底的に追求したいタイプなら、後衛の魔術師を推す。きちんとアクセサリーを準備して補助魔法を使えば、魔術師の魔法は最凶よ」
 指導教官モードで立て板に水を流すように続けるマリィア。
 更に他のハンターたちも続き……真面目にずっと聞いていたマリーはやがて頭からプシューと知恵熱の煙を上げた。
「選べない? ……なら、何の為に力を使うのか、どんな事をしたいのかで考えてみれば良いかと」
 ヴァルナの助言に、「どんな事……」と呟いてみるマリー。思案顔を浮かべたマリィアが「ふむ」と頷き、マリーに質問を投げかける。
「たとえば、貴女がソードとクリスとルーサーと旅をしている最中、雑魔に不意打ちされてソードが(!?)大怪我を負ったとする。その時、貴女はどうするかしら?」
「……まずみんなを守ろうと思う、かな? 咄嗟にそれ以外の事は考えられないと思う」
「なら、前衛の戦闘職が向いているかもね。まずソードを癒そうと思ったなら聖導士、とにかく真っ先に脅威を排除してしまおうと考えたなら、猟撃士、魔術師、機導師辺りを推したところだけど」
 マリーは頭を抱えた。
「クラス選びって大変なんだ……」
「そうだね。契約をすれば力も大きくなる。視野が広がるし、出来ることも増える──相応の責任が伴う程に、ね。将来にも関わって来るし、人生に影響を持つ選択なのは間違いないよ」
 自分もそうだった、と微苦笑を浮かべつつも真剣な口調で、ルーエル。マリーは改めてその重みを噛み締める。

「ちなみに、私が敢えて推すなら聖導士、魔術師、そして疾影士辺りです」
 契約の儀へ向かう道すがら。ヴァルナがそっとマリーの耳元に囁いた。
「どのクラスも旅の自衛という面では便利です。戦闘以外で使えるスキルも多いですし、危険から逃げる手段も多く備えていますから」
 ヴァルナはそう言うと、瞬脚や壁歩きといった疾影士のスキルを使って見せた。ピッキングも魔法鍵相手でなければ遺跡探索等で役に立つ。
「旅、かぁ……」
 マリーがポツリと呟いた。
「私の……したい事……」


 『ハンタークラスは、契約する人物にマッチしているものが選ばれる』── その原則から言っても、マリーのクラスを事前に予測することは難しかった。
 『貴族の娘』、『慈愛の精神』(!?)といった面が強く出れば聖導士、『好奇心』や『進取の気性』なら機導師や魔術師、『尚武の家系』、『お転婆』からは闘狩人や猟撃士、霊闘士すら有り得た。
 そんな中、彼女が得たクラスは『疾影士』であった。契約時に色濃く出たのが『冒険心』、『独立心』であったから……
「将来的には聖導士をサブクラスに自己完結性を高める方向で!」
 メインウェポンにはマリィアの助言通り銃を選んだ。
 ……ちなみにソードが得たクラスは、やっぱり闘狩人だった。

「とりあえず、契約したお二人には、覚醒状態で『普通に』動くとどうなるかを実際にやってもらいましょう。慣れないと危ないですからね」
 覚醒後の慣熟訓練── 最初に行ったのは、とにかく体を動かすことだった。
「覚醒者に必要なのは1に体力、2に体力! 将来、聖導士になるというなら、タフなメンタルも必須ですよ! 治療役が真っ先に倒れたり精神をやられるわけにはいきませんからね!」
 走り込みに筋トレ、剣の素振り、フル装備での登山等…… 戦闘服に着替えたアデリシアが声を上げ続ける。
「マリーちゃん、頑張れ~!」
 共に訓練に参加し、余裕綽々で先にゴールした運動着姿のレインの励ましに、マリーは奥歯を噛み締め、「……地味! でも、頑張る……!」と動き続ける。
「んん~、なかなか筋は良さそうでやがりますね」
 そんなマリー(とソード)をただただ見守りながら、ニコニコ頷くシレークス。……長い付き合いだけに、マリーにはむしろそれが怖い。
「ええ。メンタル面の訓練は必要なさそうです。……元々そんな気はしてましたが」
「マリーも何気に修羅場を潜ってきましたからねえ……」
 アデリシアに答えたサクラは、ふと手持無沙汰に見学しているルーサーに気付き、訓練をしようと声を掛けた。
 以前と同様に護身術を中心に、留学中に基礎部分が訛っていないか、その辺りを確認する。
「……ちゃんと毎日、欠かさず鍛錬は続けていたようですね。本当に見違えました。……男の子から男になりつつあるのですかね」
 言いながら、サクラはルーサーの頭を撫でた。また少し背が大きくなったようだった。
 されるがままに頭を撫でられているルーサーを見やって、ヴァイスは心中に呟いた。
(……あれだな。ルーサーは年上のおねーさんに弱いタイプだな。……サクラやマリーが年上のおねーさんに見えるかは微妙だが)
 そのヴァイスもまた、続くマテリアルのコントロール訓練では心を鬼にしてマリー(とソード)に訓練を施した。
 更にその後は戦闘訓練── ヴァイスとサクラ、ヴァルナがソードに付き、他がマリーの近接戦闘、マリィアが銃器の扱いを担当した。
「元々、基礎的な部分は出来てるはずなので、実戦形式で力の使い方を覚えた方がいいでしょう…… 本気で掛かってきてください。今、どの程度、力を使えているか試してみましょう」
 訓練刀を手にソードと模擬戦を始めるサクラ。ヴァイスと交代でとにかく数を熟させつつ、徐々に訓練強度を上げていく。
「それじゃあ、そろそろ全力で戦おう。用意はいいか?」
 覚醒後の身体能力を把握した頃を見計らってソードにそう持ち掛けて……ヴァイスはそれを全力で打ち倒した。

 夜。風呂に入って、食事を取って。寝る前にヴァルナは疾影士のスキルの使い方や武具の使い方、装備のメンテナンスの仕方を教えた。
 マリーは勉強嫌いであったが素の頭が良いことは分かっていたので、ヴァルナはマリーに細かい口出しはしなかった。彼女なりの創意工夫を妨げない為に──発想力、応用力こそが難事を突破する際の鍵になると知るが故に。

「マリーも模擬戦に慣れてきたようですね。では、今度はソードと二人、一緒に掛かってきてください」
 訓練はより高度になった。
 スキル無しのハンデ戦──しかも、2対1という状況で、2人はアデリシアに完全に遊ばれた。
「どけ、ガキンチョ、邪魔するな!」
「ガキンチョ!? 花の乙女をつかまえてなんて言い草をッ!?」
 連携も出来ずにいるところをアデリシアにマリーがワイヤーで足を払われ、孤立したところをソードがパンチを入れられ、悶絶した。
 それを見ていたサクラは大きく溜め息を一つ吐くと、自ら訓練に加わった。
「代わります、マリー。傍から私たちの動きをよく見ていてください。ソード、あなたは私の動きをよく見て合わせてください」

 そして、訓練最終日──
 ソードとマリーを相手取って模擬戦を行っていたヴァルナは、連携した二人の猛攻を前に思わず『徹閃』を使ってしまった。2人が初めて教官にスキルを使わせた瞬間だった。
「いよっし!」
 パシン! と手と手を打ち鳴らすソードとマリー。ヴァルナはむぅ、と悔しがりつつ、その成長が嬉しくもある。
 その光景を、クリスが『心配そうに』見つめていた。レインがそれに気づいてうんうんと頷いた。
「分かるよ。覚醒者になってある程度危険に対応できちゃうと、危機管理が麻痺しちゃうんだよね…… 私もよくルー君に怒られてるよ。ルー君に言わせると、私って無鉄砲なんだって。ビックリだよね!」
 口ごもるクリスの返事は待たず、レインは「ちょっと注意して来る!」と言って二人の元へ駆け出した。
「ソーどん(ソーどん?)はもう身体に染み付いているかもだけど、マリーちゃんも、言葉に出来ないイヤーな感じとか感じたら素直に逃げること。いいね? 咄嗟に感じたことは、大抵、間違っていないから」
 どんな時? とマリーが訊ねた。
 レインは「うーん……今?」と答えた。
 瞬間、2人の背後に物凄い殺気が膨れ上がった。
 彼らの背後にいたのはシレークスだった。つい先程まで浮かべていたスマイルが嘘の様に、まるで怨敵を目の前にしたかのような形相で。一切の言葉も躊躇もなく、手にした『星神器』を二人の間に剛力でもって振り下ろした。
「ヒッ……!?」
 二人の間の地面が吹き飛び、土塊の欠片が二人を叩いた。腰を抜かしてしまった2人を吹き上げるオーラと共に見下ろし……ヌッと顔を突き出したシレークスは、殺気を解いて常の表情に戻ると、ソードの肩とマリーの頭に優しくそっと手を添えた。
「……怖かったですか?」
「(コクコク)」
「覚醒者になったからって『英雄』になれるわけじゃねーです。英雄とは、結果としてそう呼ばれるようになった者たちのことを言うのです」
 シレークスはそう言うと、2人に手を貸し、立ち上がらせた。
「一人で何でもできるなんて思うんじゃねーですよ? お前たちはもう、私たちの『仲間』でやがるんですから」
 シレークスの言葉に、マリーとソードは驚き、顔を見合わせた。照れて顔を逸らしたシレークスに代わり、ヴァイスとヴァルナが笑顔で告げた。
「一人で出来ることには限界がある。仲間の大切さを知ってもらいたい、ってとこかな?」
「覚醒者の力を過信しての無茶は危険です。二人とも、決して無理はしないでください。危ない時は退けば良いですし、誰かに頼ったっていいんです。……よく分かっている事とは思いますけど、ね?」
 ソードとマリーは素直に頷いた。ルーエルは2人に手を差し出し、笑った。
「……覚醒者の世界にようこそ」

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  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/19 16:35:13
アイコン 訓練相談・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/02/20 06:15:41