ゲスト
(ka0000)
【東幕】東方の命運に限りはない
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/20 15:00
- 完成日
- 2019/02/24 16:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
天ノ都の危機。
それは東方の民にとっても激震であった。
しかし、敵が歪虚であるのなら、やるべき事は一つ。戦いに身を投じ、迫る骸骨兵士との戦いへ突入する。
「敵を決して砦に近付けてはなりません!」
泰山龍鳴寺の許文冠は、仲間の武僧へ呼び掛けた。
泰山は古くから幕府との盟約を結んだとされる地域であり、幕府からの保護により独自の文化が発展してきた。リアルブルーで言えば古い中国の寺を彷彿とさせる。
「はぁ!」
文冠は骸骨兵士へ踏み台にして大きく飛翔。そのまま足下にいた敵へ強烈な蹴りを叩き込む。
文冠達は、盟約に従い幕府への援軍として推参。天ノ都へと続く街道に築かれた砦『光玉砦』の守護を任された。
ここを抜かれれば天ノ都へ敵の援軍が襲来する。東方の安寧の為にも、光玉砦は絶対に死守しなければならない。
「敵の軍勢は?」
「……! 次から次へと押し寄せてくる」
仲間の言葉を聞いて顔を上げる文冠。
視界に飛び込んできたそこには骸骨兵士の背後に現れる憤怒の残党。幕府の兵士と共に戦ってはいるが、この軍勢を相手に何処まで持つか……。
「うわっ!」
突如響く武僧の声。
どうやら敵の刀を回避する際、誤って足を滑らせたようだ。
尻餅をつく武僧。
そこへトドメを刺すべく複数の骸骨兵士が刀を片手に殺到する。
「はいっ!」
文冠は大きく右足を回転させ、遠心力を乗せた蹴りを放った。
蹴りを受け吹き飛ばされる骸骨兵士。
その隙に文冠は腰を打った武僧に手を貸す。
「大丈夫か?」
「ああ。気を付けろ。敵は予想よりも手強い」
武僧の言葉に文冠は小さく頷いた。
実は文冠も武僧と同じ意見だ。
狐卯猾の手により強化された歪虚は、格闘士として名が知られた泰山の武僧でも手を焼く始末。それが大挙で押し寄せているとなれば、砦の守護は簡単ではない。
さらに……。
「なんだ、あれっ!」
武僧が指差す先には、骸骨兵士よりも大きい骸骨が数体。その体躯は三メートル程。
明らかに通常よりも強い個体。それが、ゆっくりと近付いてくる。
「まずいですね」
文冠は本音を漏らした。
普通の骸骨兵士で手を焼いている状況で、さらに強力な個体が現れた。
この事実は武僧達の士気に関わる。
下手すれば敵の軍勢に押し切られるかもしれない。
「おい。あいつ、おかしくないか?」
厄介な事はまだある。
骸骨兵士の後方には一つ目の坊主が二人立っていた。坊主達は徐々に体を大きくしていく。既に三メートルを超える体躯だが、まだまだ大きくなる気配がある。
嫌な予感が過る文冠。
だが、そこへ毛むくじゃらで少し体臭のキツい男が歩み出た。
「よぉし、ここはワシらの出番だな」
辺境ドワーフの王ヨアキム(kz0011)。
東方の危機に連合軍と部族会議も黙ってはいなかった。連合軍は部族会議へ援軍派遣を打診。辺境も窮地の最中ではあるが、部族会議は敢えて派兵の打診を了承していた。
「あなたは……?」
「ワシはドワーフの王、ヨアキムだ。安心しな。
バタルトゥの奴から頼まれてな。なんだっけかな……約束がどうとか……」
腕を組んで悩むヨアキム。
この時点で文冠はヨアキムが脳筋タイプだと気付いた。
「確か……親父がなんだとか……ああっ、もう! 思い出せねぇ! とにかく、連合軍として助けてやるよ。骸骨なんてワシの拳で粉砕してやらぁ」
「連合軍……西からいらした方々ですね。頼もしいのですが、あの大きな敵と戦う術はあるのですか? 敵は骸骨だけではありません」
「ああ。……といっても、デカい奴らの相手はワシじゃねぇ」
そう言ったヨアキムは後方を指し示した。
そこには昆虫の姿を模した奇妙な甲冑の群れが並んでいた。
「わざわざ東方までやって来たんだ。俺っちとピリカ部隊が大暴れしてやるぜぇ!」
愛機カマキリの操縦席で息巻くのは幻獣のテルル(kz0218)。
同じく古代文明の魔導アーマー『ピリカ』を引き連れての参戦。既に後方ではカブトムシ型やクワガタ型のピリカ部隊が出撃命令を待ち望んでいた。
「援軍か?」
「見たことない……西の国の兵器か?」
「何でも良い! これで戦況を変えられる!」
武僧達が湧き上がる。
そんな中で文冠は、ポツリと呟いた。
「丸い鳥が……喋ってる……?」
それは東方の民にとっても激震であった。
しかし、敵が歪虚であるのなら、やるべき事は一つ。戦いに身を投じ、迫る骸骨兵士との戦いへ突入する。
「敵を決して砦に近付けてはなりません!」
泰山龍鳴寺の許文冠は、仲間の武僧へ呼び掛けた。
泰山は古くから幕府との盟約を結んだとされる地域であり、幕府からの保護により独自の文化が発展してきた。リアルブルーで言えば古い中国の寺を彷彿とさせる。
「はぁ!」
文冠は骸骨兵士へ踏み台にして大きく飛翔。そのまま足下にいた敵へ強烈な蹴りを叩き込む。
文冠達は、盟約に従い幕府への援軍として推参。天ノ都へと続く街道に築かれた砦『光玉砦』の守護を任された。
ここを抜かれれば天ノ都へ敵の援軍が襲来する。東方の安寧の為にも、光玉砦は絶対に死守しなければならない。
「敵の軍勢は?」
「……! 次から次へと押し寄せてくる」
仲間の言葉を聞いて顔を上げる文冠。
視界に飛び込んできたそこには骸骨兵士の背後に現れる憤怒の残党。幕府の兵士と共に戦ってはいるが、この軍勢を相手に何処まで持つか……。
「うわっ!」
突如響く武僧の声。
どうやら敵の刀を回避する際、誤って足を滑らせたようだ。
尻餅をつく武僧。
そこへトドメを刺すべく複数の骸骨兵士が刀を片手に殺到する。
「はいっ!」
文冠は大きく右足を回転させ、遠心力を乗せた蹴りを放った。
蹴りを受け吹き飛ばされる骸骨兵士。
その隙に文冠は腰を打った武僧に手を貸す。
「大丈夫か?」
「ああ。気を付けろ。敵は予想よりも手強い」
武僧の言葉に文冠は小さく頷いた。
実は文冠も武僧と同じ意見だ。
狐卯猾の手により強化された歪虚は、格闘士として名が知られた泰山の武僧でも手を焼く始末。それが大挙で押し寄せているとなれば、砦の守護は簡単ではない。
さらに……。
「なんだ、あれっ!」
武僧が指差す先には、骸骨兵士よりも大きい骸骨が数体。その体躯は三メートル程。
明らかに通常よりも強い個体。それが、ゆっくりと近付いてくる。
「まずいですね」
文冠は本音を漏らした。
普通の骸骨兵士で手を焼いている状況で、さらに強力な個体が現れた。
この事実は武僧達の士気に関わる。
下手すれば敵の軍勢に押し切られるかもしれない。
「おい。あいつ、おかしくないか?」
厄介な事はまだある。
骸骨兵士の後方には一つ目の坊主が二人立っていた。坊主達は徐々に体を大きくしていく。既に三メートルを超える体躯だが、まだまだ大きくなる気配がある。
嫌な予感が過る文冠。
だが、そこへ毛むくじゃらで少し体臭のキツい男が歩み出た。
「よぉし、ここはワシらの出番だな」
辺境ドワーフの王ヨアキム(kz0011)。
東方の危機に連合軍と部族会議も黙ってはいなかった。連合軍は部族会議へ援軍派遣を打診。辺境も窮地の最中ではあるが、部族会議は敢えて派兵の打診を了承していた。
「あなたは……?」
「ワシはドワーフの王、ヨアキムだ。安心しな。
バタルトゥの奴から頼まれてな。なんだっけかな……約束がどうとか……」
腕を組んで悩むヨアキム。
この時点で文冠はヨアキムが脳筋タイプだと気付いた。
「確か……親父がなんだとか……ああっ、もう! 思い出せねぇ! とにかく、連合軍として助けてやるよ。骸骨なんてワシの拳で粉砕してやらぁ」
「連合軍……西からいらした方々ですね。頼もしいのですが、あの大きな敵と戦う術はあるのですか? 敵は骸骨だけではありません」
「ああ。……といっても、デカい奴らの相手はワシじゃねぇ」
そう言ったヨアキムは後方を指し示した。
そこには昆虫の姿を模した奇妙な甲冑の群れが並んでいた。
「わざわざ東方までやって来たんだ。俺っちとピリカ部隊が大暴れしてやるぜぇ!」
愛機カマキリの操縦席で息巻くのは幻獣のテルル(kz0218)。
同じく古代文明の魔導アーマー『ピリカ』を引き連れての参戦。既に後方ではカブトムシ型やクワガタ型のピリカ部隊が出撃命令を待ち望んでいた。
「援軍か?」
「見たことない……西の国の兵器か?」
「何でも良い! これで戦況を変えられる!」
武僧達が湧き上がる。
そんな中で文冠は、ポツリと呟いた。
「丸い鳥が……喋ってる……?」
リプレイ本文
「うぉぉぉぉ! かかって来やがれ!」
辺境ドワーフ王ヨアキム(kz0011)の声が光玉砦に響き渡る。
バンカラ姿で骸骨武者を前に拳が炸裂。
頬骨を粉砕され、骸骨武者はその場へ崩れ落ちる。
天ノ都へ通じる道に築かれた光玉砦へ殺到する骸骨武者の侵攻。
辺境の部族会議は連合軍の打診を受けてヨアキムを援軍として送り込んでいた。本来であれば父祖の約定を守る為にバタルトゥ・オイマト(kz0023)自身が部族を率いて馳せ参じたかった。しかし、辺境も怠惰王オーロラの動きもあり辺境へ赴く事は叶わなかった。
そんな想いを背負ったヨアキムだが、当の本人が理解しているかは甚だ怪しい。
「ヨアキム殿、援軍感謝します」
同じく幕府との約定を果たす為に泰山龍鳴寺より派遣された許文冠ら武僧達。
それぞれの地域から幕府を守る為に集った者達が、己の力を振るっている。
――そして。
彼らと同じく東方の未来を守るために立ち上がった者達がいる。
「やらせはしねぇよ……俺達がいる限りなぁ!」
イェジド『紅狼刃』の背に乗りながら、リュー・グランフェスト(ka2419)は骸骨兵士の集団へ突撃する。
幾度も歪虚と刃を交えてきたリューであるが、今日は背後にヨアキムや文冠の姿もある。
戦っているのは自分達だけじゃない。
すべての者が平和に向かって力を振るう。
その光景にリューは勇気付けられていた。
そして、だからこそこの光玉砦を抜かせる訳にはいかない。
これ以上、天ノ都で奮戦するハンター達の為にも。
「予定通り後方の大型から片付ける」
魔導パイロットインカムを通して仲間へ呼び掛けたリュー。
目指す先は――後方の大型歪虚。
ヨアキムや文冠が砦に押し寄せた骸骨兵士を押し止めている間に、リュー達は敵後方に現れた大型歪虚の撃破を狙う。
可能な限り早期に倒す事が、光玉砦防衛の鍵と言えるだろう。
「十二時方向に大型歪虚。大型骸骨が四体、一つ目坊主が二体だ」
仙堂 紫苑(ka5953)はワイバーン『フィン』と共に上空から戦場を見渡していた。
東方も随分と荒れている――。
相棒から聞いた話の通りだ。歪虚で溢れている。
これもすべて狐卯猾の影響なのだろうか。そうだとするなら、ますますこの砦を通す訳にはいかない。
紫苑は再びトランシーバーへ話し掛ける。
「目標の数は多い。敵が行動する前に敵を叩く必要があるぞ」
「分かった。こっちも進軍を開始するみたい。
ティオー、他のみんなと一緒に頑張ってね」
ロジィに乗ったリアリュール(ka2003)は、ティオーの乗り込んだクワガタ型ピリカに視線を送った。
辺境から送り込まれた古代文明製魔導アーマー『ピリカ』は、小柄な幻獣でも操縦可能な機体だ。リアリュールはユグディラ『ティオー』をピリカ部隊に参加させ、自身はロジィと共にピリカ部隊へ同行する。
「オラオラオラっ! いくぞ、てめぇら! ピリカ部隊、突撃だぜぇ!」
愛機カマキリに騎乗した幻獣テルル(kz0218)は、気合いが入っていた。
辺境以外で初めてのピリカ戦。後方から時折武僧達から驚きの声が漏れている。注目を集めている以上、失敗は辺境の恥にもなる。
「カブトは突撃して道を拓け。一気に大型へ攻め上がるぞ!」
テルルの号令でカブトムシ型ピリカが角の先端に付けられた回転刃による突進を開始。
骸骨兵士を吹き飛ばしながら進軍路を斬り開く。
ティオーの乗ったクワガタ型ピリカも仲間と共に進んでいく。
その勇姿を見守るようにリアリュールは満足そうに頷いた。
「こちらは大丈夫。骸骨兵士の方は順調?」
「今の所問題ありません。
久しぶりですけど頑張りましょうね、ゴーレムさん」
穂積 智里(ka6819)は傍らに立つ刻令ゴーレム「Gnome」『ゴーレムさん』の体をそっと撫でた。
智里はヨアキムや文冠の支援に回っていた。大型を優先すべきだが、長期戦に陥る事があれば砦の防衛力は無視できない。
既に光玉砦前方にはCモード「bind」を展開。前進してきた骸骨剣士を動きが止められればヨアキムや文冠の助けになる。
「ゴーレムさん、マテリアルバーストで走って。その後Cモード『wall』で自分の前面180度に壁を作って下さい」
智里は骸骨兵士を前にしてゴーレムさんを走らせる。
これだけ目立つ機体だ。骸骨兵士も放ってはおくはずが無い。
ゴーレムさんの後を走る智里。その後方からは多数の骸骨兵士が追跡してくる。
ゴーレムさんは指定ポイントで旋回。Cモード「wall」で壁を構築してみせる。
ちょうど光玉砦へ押し寄せる骸骨兵士の一団の側面に陣取った形だ。
「ゴーレムさん、右側の敵に射撃です」
ゴーレムさんの構築した壁に滑り込んだ智里。
その後に続く骸骨兵士に向けて魔導銃「トルキューンハイト」が火を噴いた。
発射される銃弾が骸骨兵士達の体を容赦なく穿った。
「ふぅ、ちょっと危なかったかしら?
でも、ゴーレムさん。ここからが本番ですよ」
壁からそっと顔を覗かせる智里。
敵の数は決して少なくはない。それでも戦わなければならない。
東方の未来を守る為に――。
●
リューの目標はがしゃどくろに定めていた。
紅狼刃の背に乗っていても視認する事ができる。
骸骨兵士と比較しても明らかに大きな高さ。三メートル程の身長の骸骨が巨大な骨を棍棒代わりに振り回している。
その数は四体――早々に黙らせる必要はあるのだが。
「入道の方はどうなってる?」
リューは魔導パイロットインカムで問いかけた。
がしゃどくろ以外にも注意しなければならない大型歪虚が存在する。
「二体は健在。リューとがしゃどくろの中間地点に一体存在する」
フィンで滑空しながら敵の位置をトランシーバーで伝える紫苑。
未知数な戦力として無視できないのが見上げ入道と呼ばれる歪虚だ。現時点では人間サイズの一つ目坊主だが、時間経過と共に体躯が大きくなる。放置すればがしゃどくろを越えて更に巨大化する事が予想される。
できれば、早めに対応しておきたい相手だ。
「そうか。だったら、目標は入場に変更だ。行くぞっ!」
リューの号令を受け、紅狼刃はスティールステップで骸骨兵士の交わす。
入道を相手にすると決めた時点で時間との勝負となる。骸骨兵士に足止めされている時間はない。人間サイズのうちに撃破したい所だ。
「もう一体はどうするんだよ?」
「……仕方ない。ピリカ部隊をがしゃどくろへ誘導する。入道はその後で俺が牽制する」
紫苑はフィンを旋回させ、ピリカ部隊の前方へ飛来する。
風を切り、頬の冷たい空気が当たる。
戦場の渇きが紫苑の肌にそっと浸透する。
たとえこの戦場が小さくとも、この戦線を支える事が東方の平和へ繋がるはず。
紫苑は、そう自分に言い聞かせながらピリカ部隊の進路上に陣取る骸骨兵士へ肉薄する。
「道を開ける、光玉砦の防衛に当たる者以外は前へ!」
紫苑の呼びかけで、フィンはチャージしたマテリアルを解き放つ。
マテリアルは無数の光線を化して周辺の骸骨兵士達へ突き刺さる。
粉砕。その攻撃がピリカ部隊の進路をこじ開ける。
「テルル! 今だ、一気に前へ突き進め!」
飛行するフィンの上で振り向いた紫苑は、魔導拡声機「ナーハリヒト」で呼び掛ける。
それに呼応するようにピリカ部隊は移動速度を一気に上げた。
「よぉしっ! 行くぜぇ!」
息巻くテルル。
それに合わせるようにカブトムシ型ピリカが突撃を開始する。
目標は指示通りにがしゃどくろだ。
「狙える奴は、ここからでも敵を狙えよ! 伊達に背中にミサイルポッドを積んじゃいねぇだろ!」
「……!」
クワガタ型ピリカに騎乗したティオーは、照準をがしゃどくろに合わせる。
そして、ロック完了のアラームが鳴ったと同時に背中にミサイルポッドが回転。次々とミサイルをがしゃどくろに向けて発射する。
「ティオー、頑張って。私も精一杯戦うから」
ティオーのピリカに視線を向けていたリアリュールは、前へ向き直る。
ロジィを迂回させて狙い撃つベストポジションを見定めようとしていた。
●
光玉砦を防衛する為には、ある程度殺到する骸骨兵士を片付ける必要がある。
ハンター達ががしゃどくろや見上げ入道を片付ければ骸骨兵士を総力で叩く事になるが、その間はヨアキムや文冠の奮戦に頼る他無い。
だからこそ、少しでも智里は彼らの支援に務めたかった。
「ゴーレムさん!」
ゴーレムさんのトルキューンハイトが唸りを上げる。
弾丸をバラ撒く事で着実に骸骨兵士達を破壊していく。
「文冠さん、これで骸骨兵士に隙が出来たと思います」
「……! ありがとうございます」
智里の呼びかけで文冠と数名の武僧が砦左翼へ回り込む。
砦防衛よりも前に出て別方向からも敵の殲滅に着手した方がいい。
そう考えた文冠は智里の声掛けに応じて攻め手へと転じる。
「はいっ!」
かけ声と主に文冠の回し蹴りが骸骨兵士の胸部へ炸裂。
骸骨兵士の体は大きく吹き飛ばされる。
「文冠さん、改めてお久しぶりです。でも、どうして泰山からこちらへ? 自衛以外はなさらないのかと思ってました」
「泰山は自治を幕府から認められる代わりに、幕府が危機の時は泰山が助ける。これは昔から定められていた事です。僧正様もご承知の事です」
智里の問いに文冠は戦いながら答えた。
泰山龍鳴寺は東方でも自治権を持ち独自の文化を維持してきた地域だ。
だが、幕府からの約定を結んでいた。
幕府が危機の時には泰山が駆けつけて共に戦う。
今回がまさにその約定を果たす時。泰山から文冠が派遣される事になったのだ。
「お。辺境と同じじゃねぇか。だったら、俺らも負けてられねぇな!」
文冠の話を聞いていたヨアキムはますます気合いを入れて骸骨剣士を殴り飛ばしていく。
士気は低くない。このままなら砦の防衛はまだまだ持ちそうだ。
一方、ピリカ部隊はがしゃどくろへ攻撃を仕掛けていた。
「さっさと土に戻りやがれ!」
至近距離からテルルのカマキリがカマによる攻撃を仕掛けた。
鋭い刃の一撃が二連続で叩き込まれる。
しかし、一撃目はがしゃどくろの手にしていた骨で受け止められ、二撃目も命中と言い切るには厳しい状態だ。
「ちっ。斬っても血が流れねぇし、表情も分からねぇ。やりにくいったらありゃしねぇな」
「ティオー!」
テルルが愚痴る横からティオーは突進。
思わずリアリュールが声を上げる。
がしゃどくろを側面から強襲して頭部のハサミで体を挟み込んだ。棍棒代わりの骨でハサミの刃を食い止めているが、同時にがしゃどくろの動きをその場で封じ込める事に成功する。
そして、その隙をリアリュールは逃さない。
「ティオーの力を乗せた一撃、これで決める!」
ロングボウ「センティール」の弦を引くリアリュール。
ティオーによる森の宴の狂詩曲で攻撃力を上乗せ。さらにコンバージェンスとサジタリウスによるマテリアル収束から放たれる強烈な一撃。
リアリュールの手から離れ、宙を突き進む矢。
それががしゃどくろの頭部を破壊するまでに時間はかからなかった。
「やった!」
リアリュール純粋に喜んだ。
ティオーとの連係プレイによる勝利。
それは敵を倒しただけでは手に入らない歓喜に満ちたものだった。
「やるじゃねぇか! こっちも負けてられねぇな! 行くぞみんなっ!」
二人の連携を目にしていたテルルとピリカ部隊も、がしゃどくろに向けて猛攻を開始。
二人の絆が幻獣達に火を付けた形だ。
だが、これで二人の仕事は終わりではない。
「こっちも負けられない。行くよ、ティオー!」
リアリュールはシャープシューティングで近いがしゃどくろに狙いを定めた。
●
「こいつ……」
フィンと共に見上げ入道を押さえ込んでいた紫苑は、ある事に気付いた。
確かに見上げ入道は時間経過と共に大きくなっている。既にがしゃどくろと並んでも変わらない身長になっている。時間経過から考えれば、決して無視はできない。
――だが。
「攻撃手段は特にないのか?」
紫苑が戦っている際に気付いたのは、見上げ入道の『攻撃方法にバリエーションが無い事』だ。
確かに見上げ入道は体が大きくなる。
しかし、攻撃方法は一切変わらない。つまり、大きさが変わろうが見上げ入道の攻撃方法は蹴りやパンチといったと攻撃方法しかないのだ。
「だったら、遠距離からの攻撃には無策だ」
紫苑はマジックアローで遠距離からの攻撃へ切り替えた。
次々と突き刺さるマジックアロー。だが、見上げ入道にそれを回避する術は無い。せいぜい腕で顔を守るのが関の山。おまけに図体が大きくなるという事は、的がそれだけ大きくなるという事だ。
見上げ入道は必死でガードを固めるが、それは紫苑にとって攻撃チャンスでしかない。
「いいのか? それだけガードを固めれば、身動きが取れないぞ」
紫苑はそっとフィンの背を擦った。
それを受け、フィンは見上げ入道に向けて真っ直ぐ飛び始める。
徐々に迫る間合い。紫苑は目を逸らさず、じっと見上げ入道を見据える。
冷たい風が紫苑の体を突き抜ける。
「!」
ここで見上げ入道が異変に気付く。
慌てながらも腕を大きく後ろへ引く。
それが拳による攻撃である事は、紫苑にも分かっていた。
それでも、フィンは真っ直ぐに飛ぶ。
(頼むぞ、フィン)
紫苑は心の中で呟いた。
回避はすべてフィン任せ。紫苑は攻撃の機会を狙う。
そして、そのチャンスは間もなく訪れるはずだ。
「フィン!」
放たれた拳をフィンはバレルロールで回避。
その先には見上げ入道の目前。紫苑は腕を前に突き出した。
「砕けろ」
紫苑の前方に向けて展開されるアイシクルコフィン。
無数の氷柱が見上げ入道を貫いていく。大きくなるが故に、氷柱によるダメージは大きくなる。それを見越して紫苑は準備していた。
氷柱に貫かれ、動かなくなった見上げ入道。
無事に紫苑は見上げ入道を撃破する事ができたようだ。
「一匹撃破。さて残るは……」
紫苑はリューがいる方向へ視線を向けた。
●
「竜貫っ!」
リューが星神器「エクスカリバー」から放った一撃は、周辺の骸骨兵士を巻き込んで見上げ入道へ突き刺さる。
大量のマテリアルは輝きとなって迸り、見上げ入道の体を通過していく。
体が巨大化しているだけあって、的中させるのは簡単だ。
実はリューも紫苑同様、見上げ入道の弱点には気付いていた。しかし、リューは敢えて見上げ入道に接近する戦い方を選んでいた。前に出る事で砦やピリカ部隊に向けられる注意を自分に向ける事ができるからだ。
「!」
倒れそうになる体を無理矢理引き起こす見上げ入道。
リューの放った竜貫でほぼ瀕死状態にも見えるが、それを支えるのは歪虚としての意地なのか。
仮にそうだとしても、ここから先を通す訳にはいかない。
「どうしても前へ行く気か? なら、こっちも相応に応えてやらないとな。
……紅狼刃!」
リューの声で紅狼刃は再び走り出す。
骸骨兵士の傍らをスティールステップで巧みに躱し、間合いを詰めていく。
見上げ入道もリューを見据えてその場から動かない。
逃げる事もせず、近づいてくるリューを待ち構えている。
握った拳へ静かに力を込める。こうしている間にも見上げ入道の体は、更に大きくなっていく。
「行け、紅狼刃」
見上げ入道が攻撃する瞬間を感じ取ったリュー。
それでもリューは紅狼刃へ前進を促した。
それに合わせて見上げ入道から放たれる拳。だが、拳は紅狼刃のスティールステップにより回避。リューの後方へ流れていく。
そして、それはリューの攻撃を叩き込む最大のチャンスであった。
「そらよっ!」
エクスカリバーの刀身に現れる紋章。
陽炎の如くマテリアルが立ち昇り、リューのマテリアルが込められた証を見せる。
紅狼刃が駆け抜けると同時に、振り抜かれるエクスカリバー。
刃が見上げ入道の体を捉え、大きな傷を刻み込む。
紅狼刃が駆け抜けた後、見上げ入道はゆっくりと背中から倒れた。
リューの一撃は見上げ入道を完全に打ち砕いていた。
●
「ぶわっはっは! さすがはハンター! やるじゃねぇか」
光玉砦へ攻め込んだ歪虚達は見事撃退。
存分に戦ったヨアキムも満足げな表情だ。
「うわ、ヨアキム王。本当に拳で戦ったのか。あの槍は飾りかよ……格闘武器の方が良くね……?」
紫苑は思わず問いかけた。
噂には聞いていたが、本当に拳で敵を殴っているとは思わなかった。
槍を手にしていたが、あの槍が飾りに過ぎなかった。
しかし、ヨアキムはそれを否定する。
「飾りじゃねぇ。チャームポイントだ」
「同じ事だ。それに、チャームポイントの意味を理解してないだろ?」
紫苑がため息を漏らす横で、テルルはリアリュールと話していた。
「ティオーだったか? やるじゃねぇか。ピリカを操縦するセンスあるぜ」
「本当? 良かったね、ティオー」
テルルに褒められたティオー。
それを見ていたリアリュールも思わず嬉しくなる。
「できれば、他のみんなもティオーとお友達になって欲しいな」
「ああ。またピリカで戦うかもしれねぇしな。……おい、みんな!」
テルルは羽をバタつかせながら、ピリカ部隊の仲間を呼び掛けた。
集まってくる幻獣達。
これがティオーと一緒に戦った戦友達。
彼らの様子を見ているだけで、リアリュールは心が温かくなった。
そこへ智里がテルルに話し掛ける。
「あの、テルル様」
「なんだ?」
「あの、虫以外の魔導アーマーはなかったんですか? 鳥とか哺乳類とか……」
「そういや、見た事ねぇな。なんでだ?」
「虫はあまり得意じゃなくて。テルル様みたいな可愛い小鳥の魔導アーマーが良かったのにって思っちゃいました」
「べ、別に俺は可愛くねぇぞ! それよりピリカは古代文明の遺跡から掘り出してるからな。昔の奴がああいう形で造っちまったから、虫型の理由も知らねぇんだ」
ピリカが虫型になっている理由は、テルルにも分からないようだ。
もし、そのような魔導アーマーがあれば――。
そんな想像を智里は拭えなかった。
「こっちの戦いは終わったな、紅狼刃」
リューは共に戦った紅狼刃の頬をそっと撫でた。
掌に触れる暖かく優しい毛並み。
確かにこの戦いは終わった。
だが、天ノ都では高位歪虚との死闘が続いている。
「だが、全部は終わってない。これからだ。すべては」
リューは天ノ都の方へ視線を向けた。
この光玉砦の先では、東方の未来を賭けた戦いが続いていた。
辺境ドワーフ王ヨアキム(kz0011)の声が光玉砦に響き渡る。
バンカラ姿で骸骨武者を前に拳が炸裂。
頬骨を粉砕され、骸骨武者はその場へ崩れ落ちる。
天ノ都へ通じる道に築かれた光玉砦へ殺到する骸骨武者の侵攻。
辺境の部族会議は連合軍の打診を受けてヨアキムを援軍として送り込んでいた。本来であれば父祖の約定を守る為にバタルトゥ・オイマト(kz0023)自身が部族を率いて馳せ参じたかった。しかし、辺境も怠惰王オーロラの動きもあり辺境へ赴く事は叶わなかった。
そんな想いを背負ったヨアキムだが、当の本人が理解しているかは甚だ怪しい。
「ヨアキム殿、援軍感謝します」
同じく幕府との約定を果たす為に泰山龍鳴寺より派遣された許文冠ら武僧達。
それぞれの地域から幕府を守る為に集った者達が、己の力を振るっている。
――そして。
彼らと同じく東方の未来を守るために立ち上がった者達がいる。
「やらせはしねぇよ……俺達がいる限りなぁ!」
イェジド『紅狼刃』の背に乗りながら、リュー・グランフェスト(ka2419)は骸骨兵士の集団へ突撃する。
幾度も歪虚と刃を交えてきたリューであるが、今日は背後にヨアキムや文冠の姿もある。
戦っているのは自分達だけじゃない。
すべての者が平和に向かって力を振るう。
その光景にリューは勇気付けられていた。
そして、だからこそこの光玉砦を抜かせる訳にはいかない。
これ以上、天ノ都で奮戦するハンター達の為にも。
「予定通り後方の大型から片付ける」
魔導パイロットインカムを通して仲間へ呼び掛けたリュー。
目指す先は――後方の大型歪虚。
ヨアキムや文冠が砦に押し寄せた骸骨兵士を押し止めている間に、リュー達は敵後方に現れた大型歪虚の撃破を狙う。
可能な限り早期に倒す事が、光玉砦防衛の鍵と言えるだろう。
「十二時方向に大型歪虚。大型骸骨が四体、一つ目坊主が二体だ」
仙堂 紫苑(ka5953)はワイバーン『フィン』と共に上空から戦場を見渡していた。
東方も随分と荒れている――。
相棒から聞いた話の通りだ。歪虚で溢れている。
これもすべて狐卯猾の影響なのだろうか。そうだとするなら、ますますこの砦を通す訳にはいかない。
紫苑は再びトランシーバーへ話し掛ける。
「目標の数は多い。敵が行動する前に敵を叩く必要があるぞ」
「分かった。こっちも進軍を開始するみたい。
ティオー、他のみんなと一緒に頑張ってね」
ロジィに乗ったリアリュール(ka2003)は、ティオーの乗り込んだクワガタ型ピリカに視線を送った。
辺境から送り込まれた古代文明製魔導アーマー『ピリカ』は、小柄な幻獣でも操縦可能な機体だ。リアリュールはユグディラ『ティオー』をピリカ部隊に参加させ、自身はロジィと共にピリカ部隊へ同行する。
「オラオラオラっ! いくぞ、てめぇら! ピリカ部隊、突撃だぜぇ!」
愛機カマキリに騎乗した幻獣テルル(kz0218)は、気合いが入っていた。
辺境以外で初めてのピリカ戦。後方から時折武僧達から驚きの声が漏れている。注目を集めている以上、失敗は辺境の恥にもなる。
「カブトは突撃して道を拓け。一気に大型へ攻め上がるぞ!」
テルルの号令でカブトムシ型ピリカが角の先端に付けられた回転刃による突進を開始。
骸骨兵士を吹き飛ばしながら進軍路を斬り開く。
ティオーの乗ったクワガタ型ピリカも仲間と共に進んでいく。
その勇姿を見守るようにリアリュールは満足そうに頷いた。
「こちらは大丈夫。骸骨兵士の方は順調?」
「今の所問題ありません。
久しぶりですけど頑張りましょうね、ゴーレムさん」
穂積 智里(ka6819)は傍らに立つ刻令ゴーレム「Gnome」『ゴーレムさん』の体をそっと撫でた。
智里はヨアキムや文冠の支援に回っていた。大型を優先すべきだが、長期戦に陥る事があれば砦の防衛力は無視できない。
既に光玉砦前方にはCモード「bind」を展開。前進してきた骸骨剣士を動きが止められればヨアキムや文冠の助けになる。
「ゴーレムさん、マテリアルバーストで走って。その後Cモード『wall』で自分の前面180度に壁を作って下さい」
智里は骸骨兵士を前にしてゴーレムさんを走らせる。
これだけ目立つ機体だ。骸骨兵士も放ってはおくはずが無い。
ゴーレムさんの後を走る智里。その後方からは多数の骸骨兵士が追跡してくる。
ゴーレムさんは指定ポイントで旋回。Cモード「wall」で壁を構築してみせる。
ちょうど光玉砦へ押し寄せる骸骨兵士の一団の側面に陣取った形だ。
「ゴーレムさん、右側の敵に射撃です」
ゴーレムさんの構築した壁に滑り込んだ智里。
その後に続く骸骨兵士に向けて魔導銃「トルキューンハイト」が火を噴いた。
発射される銃弾が骸骨兵士達の体を容赦なく穿った。
「ふぅ、ちょっと危なかったかしら?
でも、ゴーレムさん。ここからが本番ですよ」
壁からそっと顔を覗かせる智里。
敵の数は決して少なくはない。それでも戦わなければならない。
東方の未来を守る為に――。
●
リューの目標はがしゃどくろに定めていた。
紅狼刃の背に乗っていても視認する事ができる。
骸骨兵士と比較しても明らかに大きな高さ。三メートル程の身長の骸骨が巨大な骨を棍棒代わりに振り回している。
その数は四体――早々に黙らせる必要はあるのだが。
「入道の方はどうなってる?」
リューは魔導パイロットインカムで問いかけた。
がしゃどくろ以外にも注意しなければならない大型歪虚が存在する。
「二体は健在。リューとがしゃどくろの中間地点に一体存在する」
フィンで滑空しながら敵の位置をトランシーバーで伝える紫苑。
未知数な戦力として無視できないのが見上げ入道と呼ばれる歪虚だ。現時点では人間サイズの一つ目坊主だが、時間経過と共に体躯が大きくなる。放置すればがしゃどくろを越えて更に巨大化する事が予想される。
できれば、早めに対応しておきたい相手だ。
「そうか。だったら、目標は入場に変更だ。行くぞっ!」
リューの号令を受け、紅狼刃はスティールステップで骸骨兵士の交わす。
入道を相手にすると決めた時点で時間との勝負となる。骸骨兵士に足止めされている時間はない。人間サイズのうちに撃破したい所だ。
「もう一体はどうするんだよ?」
「……仕方ない。ピリカ部隊をがしゃどくろへ誘導する。入道はその後で俺が牽制する」
紫苑はフィンを旋回させ、ピリカ部隊の前方へ飛来する。
風を切り、頬の冷たい空気が当たる。
戦場の渇きが紫苑の肌にそっと浸透する。
たとえこの戦場が小さくとも、この戦線を支える事が東方の平和へ繋がるはず。
紫苑は、そう自分に言い聞かせながらピリカ部隊の進路上に陣取る骸骨兵士へ肉薄する。
「道を開ける、光玉砦の防衛に当たる者以外は前へ!」
紫苑の呼びかけで、フィンはチャージしたマテリアルを解き放つ。
マテリアルは無数の光線を化して周辺の骸骨兵士達へ突き刺さる。
粉砕。その攻撃がピリカ部隊の進路をこじ開ける。
「テルル! 今だ、一気に前へ突き進め!」
飛行するフィンの上で振り向いた紫苑は、魔導拡声機「ナーハリヒト」で呼び掛ける。
それに呼応するようにピリカ部隊は移動速度を一気に上げた。
「よぉしっ! 行くぜぇ!」
息巻くテルル。
それに合わせるようにカブトムシ型ピリカが突撃を開始する。
目標は指示通りにがしゃどくろだ。
「狙える奴は、ここからでも敵を狙えよ! 伊達に背中にミサイルポッドを積んじゃいねぇだろ!」
「……!」
クワガタ型ピリカに騎乗したティオーは、照準をがしゃどくろに合わせる。
そして、ロック完了のアラームが鳴ったと同時に背中にミサイルポッドが回転。次々とミサイルをがしゃどくろに向けて発射する。
「ティオー、頑張って。私も精一杯戦うから」
ティオーのピリカに視線を向けていたリアリュールは、前へ向き直る。
ロジィを迂回させて狙い撃つベストポジションを見定めようとしていた。
●
光玉砦を防衛する為には、ある程度殺到する骸骨兵士を片付ける必要がある。
ハンター達ががしゃどくろや見上げ入道を片付ければ骸骨兵士を総力で叩く事になるが、その間はヨアキムや文冠の奮戦に頼る他無い。
だからこそ、少しでも智里は彼らの支援に務めたかった。
「ゴーレムさん!」
ゴーレムさんのトルキューンハイトが唸りを上げる。
弾丸をバラ撒く事で着実に骸骨兵士達を破壊していく。
「文冠さん、これで骸骨兵士に隙が出来たと思います」
「……! ありがとうございます」
智里の呼びかけで文冠と数名の武僧が砦左翼へ回り込む。
砦防衛よりも前に出て別方向からも敵の殲滅に着手した方がいい。
そう考えた文冠は智里の声掛けに応じて攻め手へと転じる。
「はいっ!」
かけ声と主に文冠の回し蹴りが骸骨兵士の胸部へ炸裂。
骸骨兵士の体は大きく吹き飛ばされる。
「文冠さん、改めてお久しぶりです。でも、どうして泰山からこちらへ? 自衛以外はなさらないのかと思ってました」
「泰山は自治を幕府から認められる代わりに、幕府が危機の時は泰山が助ける。これは昔から定められていた事です。僧正様もご承知の事です」
智里の問いに文冠は戦いながら答えた。
泰山龍鳴寺は東方でも自治権を持ち独自の文化を維持してきた地域だ。
だが、幕府からの約定を結んでいた。
幕府が危機の時には泰山が駆けつけて共に戦う。
今回がまさにその約定を果たす時。泰山から文冠が派遣される事になったのだ。
「お。辺境と同じじゃねぇか。だったら、俺らも負けてられねぇな!」
文冠の話を聞いていたヨアキムはますます気合いを入れて骸骨剣士を殴り飛ばしていく。
士気は低くない。このままなら砦の防衛はまだまだ持ちそうだ。
一方、ピリカ部隊はがしゃどくろへ攻撃を仕掛けていた。
「さっさと土に戻りやがれ!」
至近距離からテルルのカマキリがカマによる攻撃を仕掛けた。
鋭い刃の一撃が二連続で叩き込まれる。
しかし、一撃目はがしゃどくろの手にしていた骨で受け止められ、二撃目も命中と言い切るには厳しい状態だ。
「ちっ。斬っても血が流れねぇし、表情も分からねぇ。やりにくいったらありゃしねぇな」
「ティオー!」
テルルが愚痴る横からティオーは突進。
思わずリアリュールが声を上げる。
がしゃどくろを側面から強襲して頭部のハサミで体を挟み込んだ。棍棒代わりの骨でハサミの刃を食い止めているが、同時にがしゃどくろの動きをその場で封じ込める事に成功する。
そして、その隙をリアリュールは逃さない。
「ティオーの力を乗せた一撃、これで決める!」
ロングボウ「センティール」の弦を引くリアリュール。
ティオーによる森の宴の狂詩曲で攻撃力を上乗せ。さらにコンバージェンスとサジタリウスによるマテリアル収束から放たれる強烈な一撃。
リアリュールの手から離れ、宙を突き進む矢。
それががしゃどくろの頭部を破壊するまでに時間はかからなかった。
「やった!」
リアリュール純粋に喜んだ。
ティオーとの連係プレイによる勝利。
それは敵を倒しただけでは手に入らない歓喜に満ちたものだった。
「やるじゃねぇか! こっちも負けてられねぇな! 行くぞみんなっ!」
二人の連携を目にしていたテルルとピリカ部隊も、がしゃどくろに向けて猛攻を開始。
二人の絆が幻獣達に火を付けた形だ。
だが、これで二人の仕事は終わりではない。
「こっちも負けられない。行くよ、ティオー!」
リアリュールはシャープシューティングで近いがしゃどくろに狙いを定めた。
●
「こいつ……」
フィンと共に見上げ入道を押さえ込んでいた紫苑は、ある事に気付いた。
確かに見上げ入道は時間経過と共に大きくなっている。既にがしゃどくろと並んでも変わらない身長になっている。時間経過から考えれば、決して無視はできない。
――だが。
「攻撃手段は特にないのか?」
紫苑が戦っている際に気付いたのは、見上げ入道の『攻撃方法にバリエーションが無い事』だ。
確かに見上げ入道は体が大きくなる。
しかし、攻撃方法は一切変わらない。つまり、大きさが変わろうが見上げ入道の攻撃方法は蹴りやパンチといったと攻撃方法しかないのだ。
「だったら、遠距離からの攻撃には無策だ」
紫苑はマジックアローで遠距離からの攻撃へ切り替えた。
次々と突き刺さるマジックアロー。だが、見上げ入道にそれを回避する術は無い。せいぜい腕で顔を守るのが関の山。おまけに図体が大きくなるという事は、的がそれだけ大きくなるという事だ。
見上げ入道は必死でガードを固めるが、それは紫苑にとって攻撃チャンスでしかない。
「いいのか? それだけガードを固めれば、身動きが取れないぞ」
紫苑はそっとフィンの背を擦った。
それを受け、フィンは見上げ入道に向けて真っ直ぐ飛び始める。
徐々に迫る間合い。紫苑は目を逸らさず、じっと見上げ入道を見据える。
冷たい風が紫苑の体を突き抜ける。
「!」
ここで見上げ入道が異変に気付く。
慌てながらも腕を大きく後ろへ引く。
それが拳による攻撃である事は、紫苑にも分かっていた。
それでも、フィンは真っ直ぐに飛ぶ。
(頼むぞ、フィン)
紫苑は心の中で呟いた。
回避はすべてフィン任せ。紫苑は攻撃の機会を狙う。
そして、そのチャンスは間もなく訪れるはずだ。
「フィン!」
放たれた拳をフィンはバレルロールで回避。
その先には見上げ入道の目前。紫苑は腕を前に突き出した。
「砕けろ」
紫苑の前方に向けて展開されるアイシクルコフィン。
無数の氷柱が見上げ入道を貫いていく。大きくなるが故に、氷柱によるダメージは大きくなる。それを見越して紫苑は準備していた。
氷柱に貫かれ、動かなくなった見上げ入道。
無事に紫苑は見上げ入道を撃破する事ができたようだ。
「一匹撃破。さて残るは……」
紫苑はリューがいる方向へ視線を向けた。
●
「竜貫っ!」
リューが星神器「エクスカリバー」から放った一撃は、周辺の骸骨兵士を巻き込んで見上げ入道へ突き刺さる。
大量のマテリアルは輝きとなって迸り、見上げ入道の体を通過していく。
体が巨大化しているだけあって、的中させるのは簡単だ。
実はリューも紫苑同様、見上げ入道の弱点には気付いていた。しかし、リューは敢えて見上げ入道に接近する戦い方を選んでいた。前に出る事で砦やピリカ部隊に向けられる注意を自分に向ける事ができるからだ。
「!」
倒れそうになる体を無理矢理引き起こす見上げ入道。
リューの放った竜貫でほぼ瀕死状態にも見えるが、それを支えるのは歪虚としての意地なのか。
仮にそうだとしても、ここから先を通す訳にはいかない。
「どうしても前へ行く気か? なら、こっちも相応に応えてやらないとな。
……紅狼刃!」
リューの声で紅狼刃は再び走り出す。
骸骨兵士の傍らをスティールステップで巧みに躱し、間合いを詰めていく。
見上げ入道もリューを見据えてその場から動かない。
逃げる事もせず、近づいてくるリューを待ち構えている。
握った拳へ静かに力を込める。こうしている間にも見上げ入道の体は、更に大きくなっていく。
「行け、紅狼刃」
見上げ入道が攻撃する瞬間を感じ取ったリュー。
それでもリューは紅狼刃へ前進を促した。
それに合わせて見上げ入道から放たれる拳。だが、拳は紅狼刃のスティールステップにより回避。リューの後方へ流れていく。
そして、それはリューの攻撃を叩き込む最大のチャンスであった。
「そらよっ!」
エクスカリバーの刀身に現れる紋章。
陽炎の如くマテリアルが立ち昇り、リューのマテリアルが込められた証を見せる。
紅狼刃が駆け抜けると同時に、振り抜かれるエクスカリバー。
刃が見上げ入道の体を捉え、大きな傷を刻み込む。
紅狼刃が駆け抜けた後、見上げ入道はゆっくりと背中から倒れた。
リューの一撃は見上げ入道を完全に打ち砕いていた。
●
「ぶわっはっは! さすがはハンター! やるじゃねぇか」
光玉砦へ攻め込んだ歪虚達は見事撃退。
存分に戦ったヨアキムも満足げな表情だ。
「うわ、ヨアキム王。本当に拳で戦ったのか。あの槍は飾りかよ……格闘武器の方が良くね……?」
紫苑は思わず問いかけた。
噂には聞いていたが、本当に拳で敵を殴っているとは思わなかった。
槍を手にしていたが、あの槍が飾りに過ぎなかった。
しかし、ヨアキムはそれを否定する。
「飾りじゃねぇ。チャームポイントだ」
「同じ事だ。それに、チャームポイントの意味を理解してないだろ?」
紫苑がため息を漏らす横で、テルルはリアリュールと話していた。
「ティオーだったか? やるじゃねぇか。ピリカを操縦するセンスあるぜ」
「本当? 良かったね、ティオー」
テルルに褒められたティオー。
それを見ていたリアリュールも思わず嬉しくなる。
「できれば、他のみんなもティオーとお友達になって欲しいな」
「ああ。またピリカで戦うかもしれねぇしな。……おい、みんな!」
テルルは羽をバタつかせながら、ピリカ部隊の仲間を呼び掛けた。
集まってくる幻獣達。
これがティオーと一緒に戦った戦友達。
彼らの様子を見ているだけで、リアリュールは心が温かくなった。
そこへ智里がテルルに話し掛ける。
「あの、テルル様」
「なんだ?」
「あの、虫以外の魔導アーマーはなかったんですか? 鳥とか哺乳類とか……」
「そういや、見た事ねぇな。なんでだ?」
「虫はあまり得意じゃなくて。テルル様みたいな可愛い小鳥の魔導アーマーが良かったのにって思っちゃいました」
「べ、別に俺は可愛くねぇぞ! それよりピリカは古代文明の遺跡から掘り出してるからな。昔の奴がああいう形で造っちまったから、虫型の理由も知らねぇんだ」
ピリカが虫型になっている理由は、テルルにも分からないようだ。
もし、そのような魔導アーマーがあれば――。
そんな想像を智里は拭えなかった。
「こっちの戦いは終わったな、紅狼刃」
リューは共に戦った紅狼刃の頬をそっと撫でた。
掌に触れる暖かく優しい毛並み。
確かにこの戦いは終わった。
だが、天ノ都では高位歪虚との死闘が続いている。
「だが、全部は終わってない。これからだ。すべては」
リューは天ノ都の方へ視線を向けた。
この光玉砦の先では、東方の未来を賭けた戦いが続いていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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ご相談 リアリュール(ka2003) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/02/18 23:48:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/16 08:28:09 |