ゲスト
(ka0000)
【幻想】古代文明と王の矜持
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/23 12:00
- 完成日
- 2019/02/27 22:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
過去は、変えられない。
それは絶対的なルールであり、人は無力だ。
消してしまいたい過去は永遠と残り、人を苦悩させる。それでもそこから学び取り前へ進む事だけが許される。
時間は、どんな物にも平等に与えられる。
「過去の追体験ですか。ふふ、おかしなものです。変えられない悲劇を前に、私たちは希望を持って臨もうとしています」
神霊樹を前に、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)はそんな言葉を呟いた。
怠惰王オーロラがもたらしたニガヨモギは、圧倒的な力を振るった。
犠牲を払って押し留めた部族会議とハンター達であったが、結果的には四大精霊の一人であるイクタサ(kz0246)の手で次元の狭間『アルンフパル』へ封印する事に成功。
――しかし。
「過去の情報から、古代文明が準備してきたニガヨモギの対策法を手に入れなければななりません」
ヴェルナーの言葉にハンター達は頷いた。
そう、すべてが終わった訳では無いのだ。
イクタサによれば、強大な負のマテリアルを前にオーロラはいずれ封印を破り辺境の地へ舞い戻ってくる。
部族会議の決断は神霊樹ライブラリから古代文明の民が作り上げたニガヨモギ対策を調べる事。
古代文明時代のニガヨモギと現在のニガヨモギに大差が無いのであれば、チュプ大神殿に壁画を残してニガヨモギの存在を知らせようとした古代文明の民がどのように備えようとしていたかが分かるはずだ。
「残された時間が如何程かは分かりません。これを最後のチャンスと考えて調査をお願いします」
ヴェルナーの声が響く中、ハンター達ライブラリへと意識を向かわせる。
大精霊と深く繋がった今、ライブラリの深部へと沈んでいく。
●
「ここは……チュプ大神殿のようですね」
ヴェルナーとハンター達が辺りを見回す。
見覚えのある光景を記憶と照らし合わせ、居場所がチュプ大神殿である事が分かる。
記憶と異なるのは、大神殿には大勢の民が押し掛けている事だ。顔には焦りと不安が滲み出ている。
「敵はアルナス湖畔付近まで到達したぞ」
「迎撃部隊は?」
「ダメだ! 怠惰の感染を受けた後、巨人に蹂躙された……」
会話の内容から、既に怠惰王の南下が開始されていたようだ。
聞く限りでは新しい情報もなさそうだが……。
「静まれ! 我らが王のお見えになったぞ」
王?
部族会議でいえば大首長か。
そんな事を考えていたヴェルナーであるが、その王の姿をみたヴェルナーから言葉が漏れる。
「おやおや、これは……」
ヴェルナーとハンターの目に入ったのは現実でも見覚えのある丸い生物。王冠とマントを羽織った小型の幻獣――。
その姿は紛れもなく自称『幻獣王』チューダ(kz0173)である。しかし、現実と大きく乖離している点もある。
「王よ!」
「我らが王!」
集まった観衆からの声。
この時代のチューダは多くの人々に支持されているらしい。同じ名前なのにここまで異なるとは。
「皆、すまない」
チューダの一段高い椅子の上に立って語り始める。
それに耳を傾けるべく、民は一斉に口を閉ざした。
「余は本当に罪深き暗愚な王だ。先の戦いで余も出陣したが、多くの者を死なせて無様に生き長らえている」
まさかチューダの外見からこのような言葉を聞くことになるとは思わなかった。できれば、現実の馬鹿と交換していただきたい。
「幻獣王、怠惰王の能力を封じる準備は整ったのですか?」
民から確信に触れる問い。
だが、幻獣王は頭を振る。
「いや、研究施設へ送られるマテリアル増幅装置が破壊されてマテリアル供給が滞っている。こうなれば、この神殿のマテリアルを研究施設へ回す他ない」
民がざわめき始める。
チュプ大神殿は古代文明時代の人類側拠点と考えられている。だとすれば、幻獣王は拠点を放棄して研究施設を生かす策を取ったことになる。
自らの本拠地を放棄する意味を、民が知らぬ訳では無い。
「皆、聞いて欲しい」
幻獣王は再び場を制した。
「皆の気持ちも分かる。明日の見えない状況は、まだまだ続くであろう。
しかし、このままでは皆いずれ死に絶える。そのような事は断じて許されん。今、この事態を打開する希望があの研究施設にある。
皆、それまでの辛抱だ。皆はこの神殿を捨て南へと逃れよ。決して、死んではならん。これは幻獣王としての勅命である」
幻獣王の言葉。
まだ希望を、すべてを諦めてはいない。今が苦しい時でも、それを乗り越えれば必ず平和は訪れる。
民の気持ちを汲み取る言葉。
だが、現実は過酷だ。
「王よ。軍勢はそこまで迫っています。ここには女子供もおります故、皆で逃げればすぐに追い付かれましょう」
民からの声。それは、不安。
大神殿から出て南へ逃れても戦う術持たない女子供を抱えては、すぐに巨人へ追い付かれてしまう。このままでは逃げ果せる前に全滅もあり得る。
「分かっている。
ここで戦う意志を持つ者は、西のムネマサ砦へ集え。そこで皆が逃げる時間を稼ぐのだ」
「しかし王よ。敵がその砦を無視すれば……」
戦士の一人がそう呟いた瞬間、突如言葉を詰まらせる。
敵の目を惹きつける方法が一つだけある。ムネマサ砦に敵が狙う目標を立てればいい。豊富なマテリアルを体内に持つ上、人類の希望として認知される存在を敵は決して見逃さない。
「いけませぬ! 王自らが囮になるなど……」
「良いのだ。戦う術のない余が皆の為にできる事は、このような事しかない。だが、諦めた訳ではない。我らには『アレ』がある。アレがある限り、希望は無くならない。
倒れた皆が繋いでくれた命、今度は余がここにいる皆の為に使う番だ。
皆が逃げるだけの時間、余が必ず作り出してみせよう」
幻獣王の言葉に民は哀しみにくれる。
現実のチューダ相手にここまで悲しんでくれる者がいるだろうか。
「さぁ、皆よ。旅立て。そして希望を抱き、この苦難の乗り越えるのだ」
「王よ……。分かりました。必ずや生き残ってみせましょう」
「幻獣王、万歳!」
「万歳っ!」
幻獣王を讃える民の声が溢れる。。
その様子をヴェルナーとハンター達は見守っていた。
「幻獣王から研究施設の場所を聞けば目的は達せそうです。ですが……」
ヴェルナーは一呼吸を置いた。
目的を達せるのであれば、情報を入手して現実へ帰還すればいい。
だが、このまま帰還する選択肢はない。それが結果の決まった歴史であろうとも――。
「ふふ、もう少し付き合ってあげましょう。あの幻獣王の事をもう少し知っておきたいですからね」
それは絶対的なルールであり、人は無力だ。
消してしまいたい過去は永遠と残り、人を苦悩させる。それでもそこから学び取り前へ進む事だけが許される。
時間は、どんな物にも平等に与えられる。
「過去の追体験ですか。ふふ、おかしなものです。変えられない悲劇を前に、私たちは希望を持って臨もうとしています」
神霊樹を前に、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)はそんな言葉を呟いた。
怠惰王オーロラがもたらしたニガヨモギは、圧倒的な力を振るった。
犠牲を払って押し留めた部族会議とハンター達であったが、結果的には四大精霊の一人であるイクタサ(kz0246)の手で次元の狭間『アルンフパル』へ封印する事に成功。
――しかし。
「過去の情報から、古代文明が準備してきたニガヨモギの対策法を手に入れなければななりません」
ヴェルナーの言葉にハンター達は頷いた。
そう、すべてが終わった訳では無いのだ。
イクタサによれば、強大な負のマテリアルを前にオーロラはいずれ封印を破り辺境の地へ舞い戻ってくる。
部族会議の決断は神霊樹ライブラリから古代文明の民が作り上げたニガヨモギ対策を調べる事。
古代文明時代のニガヨモギと現在のニガヨモギに大差が無いのであれば、チュプ大神殿に壁画を残してニガヨモギの存在を知らせようとした古代文明の民がどのように備えようとしていたかが分かるはずだ。
「残された時間が如何程かは分かりません。これを最後のチャンスと考えて調査をお願いします」
ヴェルナーの声が響く中、ハンター達ライブラリへと意識を向かわせる。
大精霊と深く繋がった今、ライブラリの深部へと沈んでいく。
●
「ここは……チュプ大神殿のようですね」
ヴェルナーとハンター達が辺りを見回す。
見覚えのある光景を記憶と照らし合わせ、居場所がチュプ大神殿である事が分かる。
記憶と異なるのは、大神殿には大勢の民が押し掛けている事だ。顔には焦りと不安が滲み出ている。
「敵はアルナス湖畔付近まで到達したぞ」
「迎撃部隊は?」
「ダメだ! 怠惰の感染を受けた後、巨人に蹂躙された……」
会話の内容から、既に怠惰王の南下が開始されていたようだ。
聞く限りでは新しい情報もなさそうだが……。
「静まれ! 我らが王のお見えになったぞ」
王?
部族会議でいえば大首長か。
そんな事を考えていたヴェルナーであるが、その王の姿をみたヴェルナーから言葉が漏れる。
「おやおや、これは……」
ヴェルナーとハンターの目に入ったのは現実でも見覚えのある丸い生物。王冠とマントを羽織った小型の幻獣――。
その姿は紛れもなく自称『幻獣王』チューダ(kz0173)である。しかし、現実と大きく乖離している点もある。
「王よ!」
「我らが王!」
集まった観衆からの声。
この時代のチューダは多くの人々に支持されているらしい。同じ名前なのにここまで異なるとは。
「皆、すまない」
チューダの一段高い椅子の上に立って語り始める。
それに耳を傾けるべく、民は一斉に口を閉ざした。
「余は本当に罪深き暗愚な王だ。先の戦いで余も出陣したが、多くの者を死なせて無様に生き長らえている」
まさかチューダの外見からこのような言葉を聞くことになるとは思わなかった。できれば、現実の馬鹿と交換していただきたい。
「幻獣王、怠惰王の能力を封じる準備は整ったのですか?」
民から確信に触れる問い。
だが、幻獣王は頭を振る。
「いや、研究施設へ送られるマテリアル増幅装置が破壊されてマテリアル供給が滞っている。こうなれば、この神殿のマテリアルを研究施設へ回す他ない」
民がざわめき始める。
チュプ大神殿は古代文明時代の人類側拠点と考えられている。だとすれば、幻獣王は拠点を放棄して研究施設を生かす策を取ったことになる。
自らの本拠地を放棄する意味を、民が知らぬ訳では無い。
「皆、聞いて欲しい」
幻獣王は再び場を制した。
「皆の気持ちも分かる。明日の見えない状況は、まだまだ続くであろう。
しかし、このままでは皆いずれ死に絶える。そのような事は断じて許されん。今、この事態を打開する希望があの研究施設にある。
皆、それまでの辛抱だ。皆はこの神殿を捨て南へと逃れよ。決して、死んではならん。これは幻獣王としての勅命である」
幻獣王の言葉。
まだ希望を、すべてを諦めてはいない。今が苦しい時でも、それを乗り越えれば必ず平和は訪れる。
民の気持ちを汲み取る言葉。
だが、現実は過酷だ。
「王よ。軍勢はそこまで迫っています。ここには女子供もおります故、皆で逃げればすぐに追い付かれましょう」
民からの声。それは、不安。
大神殿から出て南へ逃れても戦う術持たない女子供を抱えては、すぐに巨人へ追い付かれてしまう。このままでは逃げ果せる前に全滅もあり得る。
「分かっている。
ここで戦う意志を持つ者は、西のムネマサ砦へ集え。そこで皆が逃げる時間を稼ぐのだ」
「しかし王よ。敵がその砦を無視すれば……」
戦士の一人がそう呟いた瞬間、突如言葉を詰まらせる。
敵の目を惹きつける方法が一つだけある。ムネマサ砦に敵が狙う目標を立てればいい。豊富なマテリアルを体内に持つ上、人類の希望として認知される存在を敵は決して見逃さない。
「いけませぬ! 王自らが囮になるなど……」
「良いのだ。戦う術のない余が皆の為にできる事は、このような事しかない。だが、諦めた訳ではない。我らには『アレ』がある。アレがある限り、希望は無くならない。
倒れた皆が繋いでくれた命、今度は余がここにいる皆の為に使う番だ。
皆が逃げるだけの時間、余が必ず作り出してみせよう」
幻獣王の言葉に民は哀しみにくれる。
現実のチューダ相手にここまで悲しんでくれる者がいるだろうか。
「さぁ、皆よ。旅立て。そして希望を抱き、この苦難の乗り越えるのだ」
「王よ……。分かりました。必ずや生き残ってみせましょう」
「幻獣王、万歳!」
「万歳っ!」
幻獣王を讃える民の声が溢れる。。
その様子をヴェルナーとハンター達は見守っていた。
「幻獣王から研究施設の場所を聞けば目的は達せそうです。ですが……」
ヴェルナーは一呼吸を置いた。
目的を達せるのであれば、情報を入手して現実へ帰還すればいい。
だが、このまま帰還する選択肢はない。それが結果の決まった歴史であろうとも――。
「ふふ、もう少し付き合ってあげましょう。あの幻獣王の事をもう少し知っておきたいですからね」
リプレイ本文
「以前は幸いにして俺は酷い目に遭わなかったが、今度はそうはいかんだろうねぇ」
ムネマサ砦へ一足先に向かったエアルドフリス(ka1856)は、そう呟いた。
おそらく他の者達のように、必要な情報を収集するべきなのだろう。
だが、自称『幻獣王』チューダ(kz0173)と同じツラを拝むだけで、苛立ちが止まらない。ライブラリにいる幻獣王が同じ存在でも別物でも、あの顔だけは我慢ならない。
「ここか」
エアルドフリスは、ムネマサ砦を見上げた。
石造りの砦で部族同士の争いならば、相応の防御力もあるだろう。しかし、相手は歪虚。それも怠惰の巨人達だ。
(今頃は大神殿から避難民が出発している頃か)
迫る怠惰王を前に、幻獣王は苦渋の決断を下した。
チュプ大神殿のマテリアルをニガヨモギの研究施設へ回し、民を南へと逃がす。
それだけでは民が追いつかれる事は免れない。そこで幻獣自らが囮となってムネマサ砦へ籠城。敵を退け続け、民が逃げる時間を稼ごうというのだ。
「無謀なる戦いは、あの幻獣王も分かっているはずだがな」
「無謀だからこそ、あの王は自ら歩み出た。違いますか?」
砦に到着したエアルドフリスを出迎えたのはある男性。
その男性の登場に――エアルドフリスは、思わず息を飲んだ。
「お前は……!?」
●
「王よ。民の避難が開始されております。急いで砦の方へ」
「分かった。参ろう。皆には最後まで世話をかけるな」
戦士の問いかけに幻獣王は歩み出した。
今から馬車を飛ばせば、敵が到着する前にムネマサ砦の防御は固められる。
実はこの幻獣王、ハンター達にとっては驚きを隠せない事態である。
「別人? いえ、別獣といったらいいのでしょうか。正直言って、驚きですね」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、前を歩く幻獣王を凝視する他なかった。
幻獣王の外見は、あのチューダと瓜二つ。
だが、目の前の幻獣王は口調が違うだけではなく、古代文明の民に慕われている上に王としての威厳を保っている。
「幻獣王は代々チューダの名を引き継ぐのか? そうじゃなきゃ今とのギャップが有り過ぎるだろアレ」
過去の情報に衝撃を受けたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は、小声で近くの戦士に声をかける。
「おい、あの幻獣王っていうのはチューダなのか?」
「チューダ? 幻獣王は、我らの王だ」
戦士が幻獣王に向ける尊敬の眼差しが、レイオスにとっては奇妙に見える。
かつてリアルブルーやエバーグリーンからの転移者が多数現れた。
数多なる混乱があったのだが、幻獣王は体を張って説得に回ったらしい。
「戦いを収め、生活を豊かにする事に尽力されたからこその王なのだ」
「なんというか……チューダさんがあたしの知っているイメージと異なっていて、不思議な感じが……します」
桜憐りるか(ka3748)の目にもこの現状に目を白黒させる。
しかし、忘れてはならない。
「りるかさん。驚きはそこまでにしましょう。私達は私達の仕事をしなければなりません」
戦士達に気付かれないようヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、小声で囁いた。
この神霊樹ライブラリに潜ったのも、古代文明が講じていたニガヨモギ対策を探る事だ。
「あ、あの……」
頑張って幻獣王へ声をかけようとするりるか。
それに応えるように振り返る幻獣王。
「何かな?」
「あ、あの……あのですね……」
いざという時、すぐに言葉が出て来ない。
緊張故に仕方がないのだが、そんな様子を見ていた幻獣王はりるかに近づくとりるかの手にそっと触れた。
「歪虚が攻めている中、不安なのは分かる。だが、緊張で硬くなれば守れる者も守れなくなる」
幻獣王のアドバイス。
現実のチューダは誰よりもリラックスしているが、この幻獣王は現実とは別の優しさを持っている。
「りるかさん」
ヴェルナーも肩にそっと手を置いた。
あくまでもりるかから問いかけさせたいようだ。
意を決するりるか。
「希望を未来へ繋ぐ為にも『アレ』について教えて欲しい、です」
「『アレ』?」
「私は問う。人類の希望は今まさに研究施設に託された。それは何処か。そして、無事なマテリアル増幅は他にもあるのだろうか」
りるかの言葉を補足するように雨を告げる鳥(ka6258)が声を掛ける。
ハンター達が集めるべき情報は、ニガヨモギの対策を行っている研究施設の場所。さらに古代文明が持っているマテリアル増幅装置についてだ。
「これを見て貰おう」
幻獣王の指示で戦士は一つの鉱石を見せた。
「これは『ホナ』と名付けられた物だ。これは負のマテリアルに反応して正のマテリアルを放出する。特殊な技術を用いる事でホナ同士を共鳴させる」
(あれって……)
リオンは小声でヴェルナーに声をかけた。
リオンにはホナに見覚えがあった。
(あれは対怠惰の感染用結界で使っている鉱石です)
ヴェルナーは言葉を返した。
あの結界の鉱石も古代文明の遺物だったようだ。
「ホナがあればニガヨモギを何とかできるのか?」
「そうだが、共鳴だけでは足らぬのだ。共鳴を更に増幅させる機能を持つ物……それがベスタハの研究施設にある」
レイオスへ答えながら幻獣王は重要な言葉を口にした。
それは奇しくも辺境部族にとって苦い思い出の地に眠っている。
「では、マテリアル増幅装置というのは何でしょう?」
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)がもう一つの質問を改めてぶつけた。
その言葉に幻獣王は悲しそうな顔を浮かべる。
「うむ。確かにマテリアルを増幅させる装置は『あった』。」
「あった、ですか」
それが過去形な事にツィスカは気付いた。
「この地を以外はすべて破壊された。そして、この地の増幅装置もベスタハへマテリアルへ送り続けた後に、沈黙してしまうそうだ」
幻獣王によればベスタハの研究所に技術者は残っているが、大神殿へ呼び戻して増幅装置を復旧させる時間はないらしい。
(現実に戻って増幅装置を直せませんか?)
ツィスカはヴェルナーに質問をするが、その答えは悲しい現実が待っていた。
(私もそれは考えました。増幅装置がある場所を聞いたのですが……その場所はちょうど先日壊されました。巨大化したチューダさんによって)
最後の一つとされた増幅装置は、先日巨大化したチューダが大神殿の遺跡を破る際に巻き込まれて破壊された可能性が高い。
増幅技術を研究者から聞き出す事は時間的にも難しそうだ。
●
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん――来たれ、天の蛇!」
攻め寄る巨人達に向けてエアルドフリスの天罰蛇が炸裂する。
巨大な蛇から放たれた蒼い火球が、巨人達へと降り注ぐ。
幻獣王のマテリアルに引き寄せられた為か、怠惰の一団は大神殿から出立した民ではなくムネマサ砦へ攻撃を仕掛けてきた。
「…………」
「あの、何か?」
エアルドフリスは傍らに居た男に視線を送った。
聞けば幻獣王に協力する司祭がムネマサ砦の防衛準備を整えていた。
実はその司祭の顔を、エアルドフリスは見覚えがある。
「ブラッドリー」
「はい。初めてお会いしていますが、何か失礼な事を致しましたか?」
エアルドフリスの前に現れたのは、現実でも遭遇していた歪虚ブラッドリーであった。
どういう訳か、幻獣王に協力しているようだ。最初はエアルドフリスも警戒していたが怪しい素振りを見せていない。
「いつ裏切るつもりだ?」
「裏切る? 私は敵ではありません。覚悟を決めて戦う皆様を司祭としてお手伝いしたい。危なくなれば砦を脱出します。
それより良いのですか? 巨人は攻撃を諦めていませんよ」
ブラッドリーが指し示した先には集団で攻め寄せるサイクロプスの一団があった。
今回は主義に反して魔導拳銃「イフリータ」を用いる覚悟を見せている。ブラッドリーがおかしな動きをするなら、このイフリータで止める。
「一体、何が目的だ」
●
「リオのカーニバルへ来たみたいだぜ。天孫を掻き立てられるな~」
部族の戦士と共に前衛に立ったレイオスは、我先にとトロールへ襲い掛かっていた。
ここにいる戦士達の誰もが、幻獣王と共に戦う事を選んだ者達。
民を逃がす為に戦おうとする戦士達を前に、レイオスもテンションは上がるばかりだ。
「邪魔するなよ。デクノボウどもが!」
ソウルエッジで強化した闘旋剣「デイブレイカー」による薙ぎ払い。
遠心力を乗せて振るわれる刃。トロールと周辺のサイクロプスに一撃を見舞う。それに呼応して戦士達がトロールに多数の打撃を加えていく。回復能力のあるトロールを早めに始末しようというレイオスの案だ。
「いいか。砦へ敵を向かわせないように立ち回るぞ」
「おお! 我らが王の為に!」
レイオスに呼び掛けに戦士達は呼応する。
悪くない。ここに来ての士気の高さ。守ろうとする心はしっかりと生きている。
「あの心の強さ。あれでもニガヨモギはその心を奪うというのですか」
見晴らしの良い場所へ陣取ったツィスカは、魔導銃「アクケルテ」で後方から援護射撃を続けていた。
王の為、民の為、すべてを戦いに投じようとする戦士達。
戦いの中にこそ生を感じさせるその光景は賞賛に値する。だが、ニガヨモギはその心をもへし折り、気力を奪うという。その行為は戦士達に対して最大の侮辱と言える。
「どう足掻こうと、滅び以外にあり得ない……分かっているはずなのに、牙を研いで怨敵を喰らう時が来る事に、心が躍らずにはいられません」
ツィスカは機導砲へ持ち替え、後方のオーガロードに向けて放った。
マテリアルが変換され、エネルギーがオーガロードへ突き刺さる。
心が躍る。
いや、実は同時に戦士を愚弄した者達への怒りを抱えているのかもしれない。
ニガヨモギとは、一体――。
●
「私は案じる。エアルドフリスは、ブラッドリーを警戒する。それは無理からぬ事なれど、敵の猛攻は限りが無い」
雨を告げる鳥は再び星辰の門を放った。
砦へ攻め上がる巨人達に向けて降り注ぐ炎を纏う剣。既に一度は放たれた攻撃。それでも巨人達が攻め上がる理由。
観察を続ける雨を告げる鳥は、ふいにある事に気付く。
「私は気付く。巨人もまた逃げ場を求めている事に」
巨人達はこの砦へ引き寄せられた時点で運命は決まっていた。
後方からは怠惰王のニガヨモギが迫っている。下位の歪虚であれば一緒に巻き込まれて死に絶える恐れもある。彼らはそれを知っているからこそ、必死で前に進んでいるのだ。
「私は助ける。もうしばらくこの砦で戦い抜く為に」
傷付いた戦士達を助ける為、雨を告げる鳥は虚空の魔眼で巨人に隙を作る。
これでいい。知りたい情報も入手できている。
あと、手に入れるべき情報はニガヨモギについて。それも間もなく身を持って理解できる。それまで何とか砦が持てばいいのだが……。
「敵の一部が砦へ接近しました。こちらで迎撃します」
リオンは重機関銃「ラワーユリッヒNG5」から錬金杖「ヴァイザースタッフ」へ持ち替えた。
そしてサイクロプスの一団に向けて紫色の光を伴う重力波を発生させる。
グラビティフォール。サイクロプスを中心へ収束させて圧壊。衝撃と共にサイクロプスの動きを縛った。
「今です。近づく敵を倒して下さい」
リオンの声に応えるように周辺の戦士達がサイクロプスへ襲い掛かる。
ハンター達に呼応するように戦士達も獅子奮迅の力を見せる。それは想定以上に巨人達が撃破されていく結果を招き込んだ。時間も十分稼げている。
「これなら、あの幻獣王が生き残る可能性もあります」
リオンは砦へ振り返る。
現実とかけ離れた王であるが、それでも民の為に自ら囮になる心意気は認めざるを得なかった。
●
「幻獣王、ここは撤退……して下さい」
りるかとヴェルナーからの打診。
それは幻獣王の砦脱出であった。既にりるかもヴェルナーと共に奮戦。傷付く戦士を癒やしながら、集まってくる巨人を相当数撃破。時間も十分に稼げている。
だが、幻獣王は難色を示す。
「だが、皆を残して余だけが生き存えるとは……」
「私は告げる。幻獣王。貴方もまた希望だ。赤き大地の民の。
ここでの役目は果たされた。皆が待つ先へと逃げて欲しい。生き恥を晒したとしても、皆の明日を繋げる為に」
雨を告げる鳥の提案。
戦士達を見ていて幻獣王が希望である事はすぐに分かった。
幻獣王は希望であり、ここで王が死ねば希望は潰える。それは南に逃れた民達にとっても同じだ。
「希望か。余は生き恥を晒しても生きねばならぬか」
「幻獣王、生きましょう。それが、明日に繋がります」
りるかは幻獣王の手を取った。
頷く幻獣王。
結末は変わらない。だが、少しでも民が希望を抱けたなら戦いの意味はあったと言える。
●
「そういや機会はあったが、死を体験した事はなかったな」
撤退した砦を背に敢えてニガヨモギを待つレイオス。
情報を集める最後のピースを手に入れる為には、どうしてもニガヨモギを受ける必要がある。その役目を買って出たのだ。
「私は識らなければならない。ブラッドリーが語った終末。その一端を」
真実を追究する雨を告げる鳥は、終末の真実に身を投じる。
これが現実の終末を回避する鍵と信じて。
「来たな」
エアルドフリスの視界に飛び込んできたのは、後方の巨人達が次々と倒れていく光景。木々は枯れて茶色へと染まっていく。
砦で戦っていた戦士達も前線にいた者から剣を取り落として地面へ倒れていく。
息絶えた巨人の奥から見えたのは一つの影。
「あれが怠惰王……!」
そう言い掛けたエアルドフリスだったが、全身から力が抜ける感覚。
強烈な虚脱感。それはレイオスや雨を告げる鳥も同じ状態だ。
息をするのも辛く、立っている事もできない。
こうしている間にも影は近づいてくる。
「これは……」
レイオスは倒れた戦士達に目を向ける。
既に虚空に視線を漂わせ、涎を垂らして無様な姿を地面に晒している。思考する事、否呼吸する事も止めてしまう。これが最後まで命をかけて戦った戦士達の最後なのか。
「素晴らしい。この惨状こそ、終末と言えるでしょう」
雨を告げる鳥の耳に飛び込んできたのは、ブラッドリーの声であった。
「ブラッドリー……」
「! まだ意識が……まさかこの終末の先へ導く存在……選択の時に影響を与える強き存在……」
薄れる意識の中、ブラッドリーの呟きが続いている。
「一切は円環……この世の旅路を終えた者は、大いなる円環へと、還る……」
「やはり! その通り。神はその真理を持つ存在を楽園へと誘うでしょう」
エアルドフリスの言葉にブラッドリーは突如興奮する。
そして、優しく甘い声で囁く。
「今は眠りなさい。巡り巡って、貴方達が天使となって終末のラッパを吹き鳴らす時に、またお会いしましょう」
ムネマサ砦へ一足先に向かったエアルドフリス(ka1856)は、そう呟いた。
おそらく他の者達のように、必要な情報を収集するべきなのだろう。
だが、自称『幻獣王』チューダ(kz0173)と同じツラを拝むだけで、苛立ちが止まらない。ライブラリにいる幻獣王が同じ存在でも別物でも、あの顔だけは我慢ならない。
「ここか」
エアルドフリスは、ムネマサ砦を見上げた。
石造りの砦で部族同士の争いならば、相応の防御力もあるだろう。しかし、相手は歪虚。それも怠惰の巨人達だ。
(今頃は大神殿から避難民が出発している頃か)
迫る怠惰王を前に、幻獣王は苦渋の決断を下した。
チュプ大神殿のマテリアルをニガヨモギの研究施設へ回し、民を南へと逃がす。
それだけでは民が追いつかれる事は免れない。そこで幻獣自らが囮となってムネマサ砦へ籠城。敵を退け続け、民が逃げる時間を稼ごうというのだ。
「無謀なる戦いは、あの幻獣王も分かっているはずだがな」
「無謀だからこそ、あの王は自ら歩み出た。違いますか?」
砦に到着したエアルドフリスを出迎えたのはある男性。
その男性の登場に――エアルドフリスは、思わず息を飲んだ。
「お前は……!?」
●
「王よ。民の避難が開始されております。急いで砦の方へ」
「分かった。参ろう。皆には最後まで世話をかけるな」
戦士の問いかけに幻獣王は歩み出した。
今から馬車を飛ばせば、敵が到着する前にムネマサ砦の防御は固められる。
実はこの幻獣王、ハンター達にとっては驚きを隠せない事態である。
「別人? いえ、別獣といったらいいのでしょうか。正直言って、驚きですね」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、前を歩く幻獣王を凝視する他なかった。
幻獣王の外見は、あのチューダと瓜二つ。
だが、目の前の幻獣王は口調が違うだけではなく、古代文明の民に慕われている上に王としての威厳を保っている。
「幻獣王は代々チューダの名を引き継ぐのか? そうじゃなきゃ今とのギャップが有り過ぎるだろアレ」
過去の情報に衝撃を受けたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は、小声で近くの戦士に声をかける。
「おい、あの幻獣王っていうのはチューダなのか?」
「チューダ? 幻獣王は、我らの王だ」
戦士が幻獣王に向ける尊敬の眼差しが、レイオスにとっては奇妙に見える。
かつてリアルブルーやエバーグリーンからの転移者が多数現れた。
数多なる混乱があったのだが、幻獣王は体を張って説得に回ったらしい。
「戦いを収め、生活を豊かにする事に尽力されたからこその王なのだ」
「なんというか……チューダさんがあたしの知っているイメージと異なっていて、不思議な感じが……します」
桜憐りるか(ka3748)の目にもこの現状に目を白黒させる。
しかし、忘れてはならない。
「りるかさん。驚きはそこまでにしましょう。私達は私達の仕事をしなければなりません」
戦士達に気付かれないようヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、小声で囁いた。
この神霊樹ライブラリに潜ったのも、古代文明が講じていたニガヨモギ対策を探る事だ。
「あ、あの……」
頑張って幻獣王へ声をかけようとするりるか。
それに応えるように振り返る幻獣王。
「何かな?」
「あ、あの……あのですね……」
いざという時、すぐに言葉が出て来ない。
緊張故に仕方がないのだが、そんな様子を見ていた幻獣王はりるかに近づくとりるかの手にそっと触れた。
「歪虚が攻めている中、不安なのは分かる。だが、緊張で硬くなれば守れる者も守れなくなる」
幻獣王のアドバイス。
現実のチューダは誰よりもリラックスしているが、この幻獣王は現実とは別の優しさを持っている。
「りるかさん」
ヴェルナーも肩にそっと手を置いた。
あくまでもりるかから問いかけさせたいようだ。
意を決するりるか。
「希望を未来へ繋ぐ為にも『アレ』について教えて欲しい、です」
「『アレ』?」
「私は問う。人類の希望は今まさに研究施設に託された。それは何処か。そして、無事なマテリアル増幅は他にもあるのだろうか」
りるかの言葉を補足するように雨を告げる鳥(ka6258)が声を掛ける。
ハンター達が集めるべき情報は、ニガヨモギの対策を行っている研究施設の場所。さらに古代文明が持っているマテリアル増幅装置についてだ。
「これを見て貰おう」
幻獣王の指示で戦士は一つの鉱石を見せた。
「これは『ホナ』と名付けられた物だ。これは負のマテリアルに反応して正のマテリアルを放出する。特殊な技術を用いる事でホナ同士を共鳴させる」
(あれって……)
リオンは小声でヴェルナーに声をかけた。
リオンにはホナに見覚えがあった。
(あれは対怠惰の感染用結界で使っている鉱石です)
ヴェルナーは言葉を返した。
あの結界の鉱石も古代文明の遺物だったようだ。
「ホナがあればニガヨモギを何とかできるのか?」
「そうだが、共鳴だけでは足らぬのだ。共鳴を更に増幅させる機能を持つ物……それがベスタハの研究施設にある」
レイオスへ答えながら幻獣王は重要な言葉を口にした。
それは奇しくも辺境部族にとって苦い思い出の地に眠っている。
「では、マテリアル増幅装置というのは何でしょう?」
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)がもう一つの質問を改めてぶつけた。
その言葉に幻獣王は悲しそうな顔を浮かべる。
「うむ。確かにマテリアルを増幅させる装置は『あった』。」
「あった、ですか」
それが過去形な事にツィスカは気付いた。
「この地を以外はすべて破壊された。そして、この地の増幅装置もベスタハへマテリアルへ送り続けた後に、沈黙してしまうそうだ」
幻獣王によればベスタハの研究所に技術者は残っているが、大神殿へ呼び戻して増幅装置を復旧させる時間はないらしい。
(現実に戻って増幅装置を直せませんか?)
ツィスカはヴェルナーに質問をするが、その答えは悲しい現実が待っていた。
(私もそれは考えました。増幅装置がある場所を聞いたのですが……その場所はちょうど先日壊されました。巨大化したチューダさんによって)
最後の一つとされた増幅装置は、先日巨大化したチューダが大神殿の遺跡を破る際に巻き込まれて破壊された可能性が高い。
増幅技術を研究者から聞き出す事は時間的にも難しそうだ。
●
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん――来たれ、天の蛇!」
攻め寄る巨人達に向けてエアルドフリスの天罰蛇が炸裂する。
巨大な蛇から放たれた蒼い火球が、巨人達へと降り注ぐ。
幻獣王のマテリアルに引き寄せられた為か、怠惰の一団は大神殿から出立した民ではなくムネマサ砦へ攻撃を仕掛けてきた。
「…………」
「あの、何か?」
エアルドフリスは傍らに居た男に視線を送った。
聞けば幻獣王に協力する司祭がムネマサ砦の防衛準備を整えていた。
実はその司祭の顔を、エアルドフリスは見覚えがある。
「ブラッドリー」
「はい。初めてお会いしていますが、何か失礼な事を致しましたか?」
エアルドフリスの前に現れたのは、現実でも遭遇していた歪虚ブラッドリーであった。
どういう訳か、幻獣王に協力しているようだ。最初はエアルドフリスも警戒していたが怪しい素振りを見せていない。
「いつ裏切るつもりだ?」
「裏切る? 私は敵ではありません。覚悟を決めて戦う皆様を司祭としてお手伝いしたい。危なくなれば砦を脱出します。
それより良いのですか? 巨人は攻撃を諦めていませんよ」
ブラッドリーが指し示した先には集団で攻め寄せるサイクロプスの一団があった。
今回は主義に反して魔導拳銃「イフリータ」を用いる覚悟を見せている。ブラッドリーがおかしな動きをするなら、このイフリータで止める。
「一体、何が目的だ」
●
「リオのカーニバルへ来たみたいだぜ。天孫を掻き立てられるな~」
部族の戦士と共に前衛に立ったレイオスは、我先にとトロールへ襲い掛かっていた。
ここにいる戦士達の誰もが、幻獣王と共に戦う事を選んだ者達。
民を逃がす為に戦おうとする戦士達を前に、レイオスもテンションは上がるばかりだ。
「邪魔するなよ。デクノボウどもが!」
ソウルエッジで強化した闘旋剣「デイブレイカー」による薙ぎ払い。
遠心力を乗せて振るわれる刃。トロールと周辺のサイクロプスに一撃を見舞う。それに呼応して戦士達がトロールに多数の打撃を加えていく。回復能力のあるトロールを早めに始末しようというレイオスの案だ。
「いいか。砦へ敵を向かわせないように立ち回るぞ」
「おお! 我らが王の為に!」
レイオスに呼び掛けに戦士達は呼応する。
悪くない。ここに来ての士気の高さ。守ろうとする心はしっかりと生きている。
「あの心の強さ。あれでもニガヨモギはその心を奪うというのですか」
見晴らしの良い場所へ陣取ったツィスカは、魔導銃「アクケルテ」で後方から援護射撃を続けていた。
王の為、民の為、すべてを戦いに投じようとする戦士達。
戦いの中にこそ生を感じさせるその光景は賞賛に値する。だが、ニガヨモギはその心をもへし折り、気力を奪うという。その行為は戦士達に対して最大の侮辱と言える。
「どう足掻こうと、滅び以外にあり得ない……分かっているはずなのに、牙を研いで怨敵を喰らう時が来る事に、心が躍らずにはいられません」
ツィスカは機導砲へ持ち替え、後方のオーガロードに向けて放った。
マテリアルが変換され、エネルギーがオーガロードへ突き刺さる。
心が躍る。
いや、実は同時に戦士を愚弄した者達への怒りを抱えているのかもしれない。
ニガヨモギとは、一体――。
●
「私は案じる。エアルドフリスは、ブラッドリーを警戒する。それは無理からぬ事なれど、敵の猛攻は限りが無い」
雨を告げる鳥は再び星辰の門を放った。
砦へ攻め上がる巨人達に向けて降り注ぐ炎を纏う剣。既に一度は放たれた攻撃。それでも巨人達が攻め上がる理由。
観察を続ける雨を告げる鳥は、ふいにある事に気付く。
「私は気付く。巨人もまた逃げ場を求めている事に」
巨人達はこの砦へ引き寄せられた時点で運命は決まっていた。
後方からは怠惰王のニガヨモギが迫っている。下位の歪虚であれば一緒に巻き込まれて死に絶える恐れもある。彼らはそれを知っているからこそ、必死で前に進んでいるのだ。
「私は助ける。もうしばらくこの砦で戦い抜く為に」
傷付いた戦士達を助ける為、雨を告げる鳥は虚空の魔眼で巨人に隙を作る。
これでいい。知りたい情報も入手できている。
あと、手に入れるべき情報はニガヨモギについて。それも間もなく身を持って理解できる。それまで何とか砦が持てばいいのだが……。
「敵の一部が砦へ接近しました。こちらで迎撃します」
リオンは重機関銃「ラワーユリッヒNG5」から錬金杖「ヴァイザースタッフ」へ持ち替えた。
そしてサイクロプスの一団に向けて紫色の光を伴う重力波を発生させる。
グラビティフォール。サイクロプスを中心へ収束させて圧壊。衝撃と共にサイクロプスの動きを縛った。
「今です。近づく敵を倒して下さい」
リオンの声に応えるように周辺の戦士達がサイクロプスへ襲い掛かる。
ハンター達に呼応するように戦士達も獅子奮迅の力を見せる。それは想定以上に巨人達が撃破されていく結果を招き込んだ。時間も十分稼げている。
「これなら、あの幻獣王が生き残る可能性もあります」
リオンは砦へ振り返る。
現実とかけ離れた王であるが、それでも民の為に自ら囮になる心意気は認めざるを得なかった。
●
「幻獣王、ここは撤退……して下さい」
りるかとヴェルナーからの打診。
それは幻獣王の砦脱出であった。既にりるかもヴェルナーと共に奮戦。傷付く戦士を癒やしながら、集まってくる巨人を相当数撃破。時間も十分に稼げている。
だが、幻獣王は難色を示す。
「だが、皆を残して余だけが生き存えるとは……」
「私は告げる。幻獣王。貴方もまた希望だ。赤き大地の民の。
ここでの役目は果たされた。皆が待つ先へと逃げて欲しい。生き恥を晒したとしても、皆の明日を繋げる為に」
雨を告げる鳥の提案。
戦士達を見ていて幻獣王が希望である事はすぐに分かった。
幻獣王は希望であり、ここで王が死ねば希望は潰える。それは南に逃れた民達にとっても同じだ。
「希望か。余は生き恥を晒しても生きねばならぬか」
「幻獣王、生きましょう。それが、明日に繋がります」
りるかは幻獣王の手を取った。
頷く幻獣王。
結末は変わらない。だが、少しでも民が希望を抱けたなら戦いの意味はあったと言える。
●
「そういや機会はあったが、死を体験した事はなかったな」
撤退した砦を背に敢えてニガヨモギを待つレイオス。
情報を集める最後のピースを手に入れる為には、どうしてもニガヨモギを受ける必要がある。その役目を買って出たのだ。
「私は識らなければならない。ブラッドリーが語った終末。その一端を」
真実を追究する雨を告げる鳥は、終末の真実に身を投じる。
これが現実の終末を回避する鍵と信じて。
「来たな」
エアルドフリスの視界に飛び込んできたのは、後方の巨人達が次々と倒れていく光景。木々は枯れて茶色へと染まっていく。
砦で戦っていた戦士達も前線にいた者から剣を取り落として地面へ倒れていく。
息絶えた巨人の奥から見えたのは一つの影。
「あれが怠惰王……!」
そう言い掛けたエアルドフリスだったが、全身から力が抜ける感覚。
強烈な虚脱感。それはレイオスや雨を告げる鳥も同じ状態だ。
息をするのも辛く、立っている事もできない。
こうしている間にも影は近づいてくる。
「これは……」
レイオスは倒れた戦士達に目を向ける。
既に虚空に視線を漂わせ、涎を垂らして無様な姿を地面に晒している。思考する事、否呼吸する事も止めてしまう。これが最後まで命をかけて戦った戦士達の最後なのか。
「素晴らしい。この惨状こそ、終末と言えるでしょう」
雨を告げる鳥の耳に飛び込んできたのは、ブラッドリーの声であった。
「ブラッドリー……」
「! まだ意識が……まさかこの終末の先へ導く存在……選択の時に影響を与える強き存在……」
薄れる意識の中、ブラッドリーの呟きが続いている。
「一切は円環……この世の旅路を終えた者は、大いなる円環へと、還る……」
「やはり! その通り。神はその真理を持つ存在を楽園へと誘うでしょう」
エアルドフリスの言葉にブラッドリーは突如興奮する。
そして、優しく甘い声で囁く。
「今は眠りなさい。巡り巡って、貴方達が天使となって終末のラッパを吹き鳴らす時に、またお会いしましょう」
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/02/23 11:01:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/20 23:30:43 |