ゲスト
(ka0000)
【虚動】虚いつ……動くぞ!
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~9人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/16 22:00
- 完成日
- 2015/01/24 09:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●この、ろくでもない世界で
夜の大地を、吹き荒ぶ風が千切れ乱れるように流れていく。やはり王国とは空気が違うなと、馬上のヘクス・シャルシェレット(kz0015)は雑な感想を抱いた。
「……うーん」
ヘクスは小さく首をひねると、大きく伸びをした。まだ、身体が痛む。特に締め付けられた腕の回りとか。
経験上、下手な切創よりも挫傷の方が尾を引く事が多い。外に見える傷はすっかり良くなったが、今ひとつ本調子じゃないな、と分析する。だがまあ、これからする『仕事』にたいして支障はきたさないだろう、とも感じていたから、ヘクスは今、此処に居る。
――辺境に用意されたCAMの起動実験の実験場に。
ここまでの道中、色々な事を考えていた。今だってそうだ。考えるべき事は多い。
目下、最大の関心ごとは今回の動乱の中で蒔いた種がどうやら芽吹きそうだ、ということ。不確定要素は多いが……面白い方向に事が転がって来ている。
全てが上手く行った時――遠くはあるが血族である少女、システィーナ・グラハム(kz0020)がどういう表情をするかが、楽しみだった。涙するだろうか。それとも、怒るだろうか。
判断するには情報も状況も不足している。無益な空想だが、そこに幾ばくかの愉悦を覚えるのも事実だった。我ながら、趣味が悪いことだと思う、が。
「……と」
ヘクスは思索を振り払う。目当ての人物を見つけたからだ。
アダム・マンスフィールド。ゴーレムを動かすための禁術、刻令術を修めようとしている無謀なる人物。ヘクスはアダムの事を深く知っているわけではないが、その気骨に関していえば好感を覚えている。
荒涼とした大地で一人、虚空を睨むようにして立っている男には聞こえないように、小さく呟いた。
「刻令術がとうの昔に喪われた魔術でなければ、人類の敵になっていたかもしれないね、君は」
禁術に対する魔術師協会の対応は、それが重要であればあるほどに徹底している。アダムも今はCAMに対して価値が見いだせているが故に許容されているようなものだ。それは即ち、CAMの稼働実験で成果が出せなければ彼の命運自体が危うい事を示している。
なのに。こんなにも揺らがずに、立っている。
その事が、ヘクスにとっては大変好ましい。
●
「やあ、調子はどうだい」
「……ヘクス卿」
相手の浮かない顔をみて、ヘクスは笑みを深めた。
「CAM、結構な数が奪われちゃったみたいだね」
「ああ」
「幸いにも、というべきかい?」
「どういうことだ?」
「君の実験の成果について聞いてたのさ」
「皮肉のつもりか? ……まあいい」
各国や団体が多方面からアプローチした今回のCAMの起動実験。王国では、『刻令術』というゴーレムを動かすための魔術からのアプローチを行う事とした。それが禁術指定されていることも、それによって資料が殆ど残っていない事も全て了解の上で。実際のところ、実験を担当するアダムの技量や知識は、古き時代に在ったと思われるものと比較することすら躊躇われるほどにお粗末なものだ。
ヘクスは今回の実験そのものに価値を見出しているが、それはあくまでも政治的な先行投資としてに過ぎない。起動実験そのものの成否に微塵も期待してはいなかった。
だから。
「結果からいうと、だ。あのヨリシロを動かすことは出来た」
「ほーっ!」
ヘクスは、やや大げさに見えるぐらいに感嘆していた。
「ただ、それは、ヨリシロとして、だ」
「……ん?」
「CAM本来の機能として想定される行動は出来そうにもなかったよ」
「……どういうことだい?」
「現状、刻令術でヨリシロを動かす場合、『動力』と『行動』が不可分だ。一方で、今回要求されているのは、『動力』としての代替品。CAMを動かすには、内部からの命令が必須なのが現状だ。
……今回、ヨリシロとして動かすことは出来たが、CAMとして動かすことは出来なかった」
「あー、はいはい」
漸く、ヘクスの理解が追いついた。
「ちなみに、どういう動きなら出来たの?」
「ふむ。右手をあげることは出来たな」
「……」
「他にも、片足立ちぐらいなら私の刻令術でも出来たよ。あのヨリシロは素晴らしいな」
「……とても戦える感じじゃないね。『実験としては』、大失敗だ」
「そうだな」
その時、二人は笑っていた。方や愉快げに。方や、静かに。
今回の実験で、王国側が抱えているのは構造的な問題だった。
――しかし。
そんな事、『最初から解っていた』のだ。
「だが、私にとっては大きな一歩さ」
「だろうね」
●
「でも、成果無しだと君、ヤバいんじゃない?」
「……」
●
というわけで。
大型の天幕が、会議の為に誂えられた。招集されたハンター達は天幕の中で気ままに過ごしている。眼前には二人。貴族のヘクスと、厳しい顔つきを崩さない偉丈夫だ。
「と、いうわけでね」
ぐるり、と。視線を巡らせて、ヘクスは口を開いた。
「CAMが奪われちゃって、あっちこっちそっちどっちですっごく大変なんだけど」
まあ、それはそれ。頑張ってもらうしかないしね、といい添えて、続ける。
「今回、君たちには意見を聞きたいんだ。資料は手元の資料を確認してね。いちいち口で言うの、めんどくさいし」
そう言って、手元の資料を叩いてみせる。極秘とも、部外秘とも書かれていない、あまりにもあけっぴろげな資料だった。
「意見は何でもいいよ。刻令術の事でもいいし、CAMに関するものでもいい。僕達が今後どういう方向に手を広げたら儲け……じゃない、成果がでるか、について頼むよ。出来る事は凄く限られているし、実現は難しいことも多いかもね。でもまあ、それは今だけの話……かも? まあ、わからないけど、ね」
じゃ、ヨロシク、とヘクスは最後に笑って――。
「あ。忘れてたけど、こっちの図体大きい人がアダム・マンスフィールドさん。こんなナリだけど魔術師で、実際にゴーレムを作る人だよ。聞きたい事も彼に聞いて。それじゃあ、僕はあれこれしないといけないことがあるから、一度王国に帰るね!」
最後の言葉を聞いて、アダムは顔を顰めたようだった。
深い。重い慨嘆が、響いた。
「……待て、ヘクス卿」
「あれ、言ってなかったっけ。いやー、ゴメン! 忙しくてさ。それじゃあ、またね!」
「…………」
そのままヘクスはぴゅー、とハンター達の間を抜けて天幕の外へと飛び出した。直ぐに、高い嘶きと軽い足音が響く。
「…………」
しばらくの間、アダムは固く目を瞑って何かに堪えているようだった。そして。
「改めて。私はアダム・マンスフィールドという。しがない魔術師だが、今回は君たちの知恵を借りたい」
手短に、そう言うと。
「それでは、資料を読んでくれ。夫々に都合が良くなったら始めよう」
夜の大地を、吹き荒ぶ風が千切れ乱れるように流れていく。やはり王国とは空気が違うなと、馬上のヘクス・シャルシェレット(kz0015)は雑な感想を抱いた。
「……うーん」
ヘクスは小さく首をひねると、大きく伸びをした。まだ、身体が痛む。特に締め付けられた腕の回りとか。
経験上、下手な切創よりも挫傷の方が尾を引く事が多い。外に見える傷はすっかり良くなったが、今ひとつ本調子じゃないな、と分析する。だがまあ、これからする『仕事』にたいして支障はきたさないだろう、とも感じていたから、ヘクスは今、此処に居る。
――辺境に用意されたCAMの起動実験の実験場に。
ここまでの道中、色々な事を考えていた。今だってそうだ。考えるべき事は多い。
目下、最大の関心ごとは今回の動乱の中で蒔いた種がどうやら芽吹きそうだ、ということ。不確定要素は多いが……面白い方向に事が転がって来ている。
全てが上手く行った時――遠くはあるが血族である少女、システィーナ・グラハム(kz0020)がどういう表情をするかが、楽しみだった。涙するだろうか。それとも、怒るだろうか。
判断するには情報も状況も不足している。無益な空想だが、そこに幾ばくかの愉悦を覚えるのも事実だった。我ながら、趣味が悪いことだと思う、が。
「……と」
ヘクスは思索を振り払う。目当ての人物を見つけたからだ。
アダム・マンスフィールド。ゴーレムを動かすための禁術、刻令術を修めようとしている無謀なる人物。ヘクスはアダムの事を深く知っているわけではないが、その気骨に関していえば好感を覚えている。
荒涼とした大地で一人、虚空を睨むようにして立っている男には聞こえないように、小さく呟いた。
「刻令術がとうの昔に喪われた魔術でなければ、人類の敵になっていたかもしれないね、君は」
禁術に対する魔術師協会の対応は、それが重要であればあるほどに徹底している。アダムも今はCAMに対して価値が見いだせているが故に許容されているようなものだ。それは即ち、CAMの稼働実験で成果が出せなければ彼の命運自体が危うい事を示している。
なのに。こんなにも揺らがずに、立っている。
その事が、ヘクスにとっては大変好ましい。
●
「やあ、調子はどうだい」
「……ヘクス卿」
相手の浮かない顔をみて、ヘクスは笑みを深めた。
「CAM、結構な数が奪われちゃったみたいだね」
「ああ」
「幸いにも、というべきかい?」
「どういうことだ?」
「君の実験の成果について聞いてたのさ」
「皮肉のつもりか? ……まあいい」
各国や団体が多方面からアプローチした今回のCAMの起動実験。王国では、『刻令術』というゴーレムを動かすための魔術からのアプローチを行う事とした。それが禁術指定されていることも、それによって資料が殆ど残っていない事も全て了解の上で。実際のところ、実験を担当するアダムの技量や知識は、古き時代に在ったと思われるものと比較することすら躊躇われるほどにお粗末なものだ。
ヘクスは今回の実験そのものに価値を見出しているが、それはあくまでも政治的な先行投資としてに過ぎない。起動実験そのものの成否に微塵も期待してはいなかった。
だから。
「結果からいうと、だ。あのヨリシロを動かすことは出来た」
「ほーっ!」
ヘクスは、やや大げさに見えるぐらいに感嘆していた。
「ただ、それは、ヨリシロとして、だ」
「……ん?」
「CAM本来の機能として想定される行動は出来そうにもなかったよ」
「……どういうことだい?」
「現状、刻令術でヨリシロを動かす場合、『動力』と『行動』が不可分だ。一方で、今回要求されているのは、『動力』としての代替品。CAMを動かすには、内部からの命令が必須なのが現状だ。
……今回、ヨリシロとして動かすことは出来たが、CAMとして動かすことは出来なかった」
「あー、はいはい」
漸く、ヘクスの理解が追いついた。
「ちなみに、どういう動きなら出来たの?」
「ふむ。右手をあげることは出来たな」
「……」
「他にも、片足立ちぐらいなら私の刻令術でも出来たよ。あのヨリシロは素晴らしいな」
「……とても戦える感じじゃないね。『実験としては』、大失敗だ」
「そうだな」
その時、二人は笑っていた。方や愉快げに。方や、静かに。
今回の実験で、王国側が抱えているのは構造的な問題だった。
――しかし。
そんな事、『最初から解っていた』のだ。
「だが、私にとっては大きな一歩さ」
「だろうね」
●
「でも、成果無しだと君、ヤバいんじゃない?」
「……」
●
というわけで。
大型の天幕が、会議の為に誂えられた。招集されたハンター達は天幕の中で気ままに過ごしている。眼前には二人。貴族のヘクスと、厳しい顔つきを崩さない偉丈夫だ。
「と、いうわけでね」
ぐるり、と。視線を巡らせて、ヘクスは口を開いた。
「CAMが奪われちゃって、あっちこっちそっちどっちですっごく大変なんだけど」
まあ、それはそれ。頑張ってもらうしかないしね、といい添えて、続ける。
「今回、君たちには意見を聞きたいんだ。資料は手元の資料を確認してね。いちいち口で言うの、めんどくさいし」
そう言って、手元の資料を叩いてみせる。極秘とも、部外秘とも書かれていない、あまりにもあけっぴろげな資料だった。
「意見は何でもいいよ。刻令術の事でもいいし、CAMに関するものでもいい。僕達が今後どういう方向に手を広げたら儲け……じゃない、成果がでるか、について頼むよ。出来る事は凄く限られているし、実現は難しいことも多いかもね。でもまあ、それは今だけの話……かも? まあ、わからないけど、ね」
じゃ、ヨロシク、とヘクスは最後に笑って――。
「あ。忘れてたけど、こっちの図体大きい人がアダム・マンスフィールドさん。こんなナリだけど魔術師で、実際にゴーレムを作る人だよ。聞きたい事も彼に聞いて。それじゃあ、僕はあれこれしないといけないことがあるから、一度王国に帰るね!」
最後の言葉を聞いて、アダムは顔を顰めたようだった。
深い。重い慨嘆が、響いた。
「……待て、ヘクス卿」
「あれ、言ってなかったっけ。いやー、ゴメン! 忙しくてさ。それじゃあ、またね!」
「…………」
そのままヘクスはぴゅー、とハンター達の間を抜けて天幕の外へと飛び出した。直ぐに、高い嘶きと軽い足音が響く。
「…………」
しばらくの間、アダムは固く目を瞑って何かに堪えているようだった。そして。
「改めて。私はアダム・マンスフィールドという。しがない魔術師だが、今回は君たちの知恵を借りたい」
手短に、そう言うと。
「それでは、資料を読んでくれ。夫々に都合が良くなったら始めよう」
リプレイ本文
●
広漠とした実験場を覆う冬天。染み入る寒さの中、そこには確かに熱があった。
「システム、オールグリーン、問題なし、っと……流石、整備チームは優秀だわ」
――そんな私は超優秀。
遥・シュテルンメーア(ka0914)は律動の源、CAMのコクピットで計器を確認しながら嘯いた。狭いコックピット内。数字が踊る光景に元CAM整備士の血が騒いだか、その顔には笑みが刻まれている。つと、足元から、声。
「よう、遥! 俺も動かしてみていいか?」
刻令術の実験に意見を述べるため、と技官を説得してレクチャーを受けたシュタール・フラム(ka0024)であった。遥が元々交渉をしていた事もあってスムーズに話が通ったのだろう。隣では担当技官が両手を掲げて許可の合図。
「ん、オッケー」
降りがてら、期待を押し隠せないままに駆け上がるように機体をよじ昇っていくシュタールを、遥は眩しげに見送る。
――男がコクピットに乗り込んでから落ちたのは、沈黙。
技官と遥の間に苦笑が満ちた。暫し後、技官が操作方法を支持すると、緩やかにCAMが動き始める。
「おおっ」
笑いを含んだ声が、実験場に響いた。
「こいつ、動くぞっ!」
●
「おお、動いた」
「無事に残ってるのもあったんだ~」
リック=ヴァレリー(ka0614)が興味深げな声に、木島 順平(ka2738)が柔らかく笑う。緩やかに近づいてくるCAMを眺めながら、フワ ハヤテ(ka0004)はアダムに会釈。
「キミがゴーレムの核を依頼した人物か」
「そうか、その節は世話になった」
差し出されたハヤテの手に、握手が返った。その力強さを感じながらエルフは笑う。
「この研究が頓挫するのは非常にもったいない。微力ながら協力させてもらうよ」
「いいのか?」
魔術師だろう、と問う声にハヤテは笑みを深めた。刻令術。失われた魔術がすぐそこにある。禁忌だろうと構う由は彼には無く。ただ、笑みと共に強く握り返した。
●
「資料を見る限りだと結構、難題そうだな」
薄氷 薫(ka2692)は資料と立位のCAMを見比べて言った。
「実際どの程度の事ができるんだ? ゴーレムは戦闘には使えるのか?」
「あのヨリシロに大剣を持たせて振りつづけさせる事は出来るだろうが」
それだけだ、という声に薫の慨嘆が零れた。
「だよ、なあ」
ウィンス・デイランダール(ka0039)が目を細める。平時通りの顰め面に滲むのは落胆。
「獅子の心臓……などと言ったもんだが。こいつは子犬が精々か」
「いつか番犬程度にはなってくれるといいのだが、ね」
応答に、ウィンスは眉を潜めた。アダムの返答に、引っ掛かる物があった。確信にはいたらぬままに、続いて、順平が問う。
「そういえば~、アダムおじさんは刻令術を研究して、最終的にそれでどうしたいの~?」
「ふむ……そうだな。刻令術の仕組みそのものに興味がある……と、いうところだな」
「ん~?」
「ぅーん……ちゃんと動かすには他にもっと必要なものが? CAMって普通のロボットとはやっぱり違うんでしょうか」
細い唸り声が櫻井 悠貴(ka0872)から上がるや否や、皺深い顔のアダムから応答が返る。
「単純に、私の力量不足だろうがね」
「魔術を使って動くゴーレムとCAM、かぁ……一見似て非なるものだけど」
CAMを仰ぎ見ながら、リック。想起しているのはかつての光景、だろうか。彼がまだ蒼い世界に居た時の。
「二つを合わせればなんかできるんじゃねぇか?」
「ふむ?」
疑問を反したアダムに、いやに艶々しい顔色のシュタールが言葉を重ねた。
「実際、CAMと刻令術は結構似ているみたいだ。CAMはどういう動作するかという指示が用意されていて、必要に応じて選択出来るように設定されている……刻令術でも同じようなことはできるんじゃねぇか?」
操作法を想起しながらの言葉故にか。どこか熱の入った言葉だった。だが。
「ま、キリがねぇし、実現は難しいだろうがな」
両手両足に余る程にこなさねばならぬ事があり、夫々に調整を要する。それが解るくらいには彼も冷静だった。おずおずと、手が上がる。悠貴だ。
「段階的に命令をするのは、どうでしょうか……?」
「可能だよ。シュタールが言うようにこなすべき案件が多いだけで、な」
「その辺りを踏まえると、刻令術の運用で現実的なのは攻勢利用よりは防衛寄り、でしょうね」
言葉と同時、遥が資料で机を軽くはたいた音が響く。
「今のままだとこれまでのようなCAMの運用をするのには10年以上掛かるわ」
「断定的だね~?」
「解るわよ」
興味深げに順平が問えば、遥はIDカードをひらひらと振る。
「元、CAM整備士だもの。大学でもロボットを作ってたし。基礎行動のソースコードだけでもどれ程になるかを知ってるからこその、断定」
「は~……」
「CAMを奪っていたアイツらの技術が得られたらこの前提は引っ掛かるだろうけど、ね」
嫉妬の歪虚が持つという権能は、CAMを奪って行った事をさしてのことだろう。
そういえば、と。ハヤテが口を開いた。
「刻令術で今回みたいなCAM強奪を防ぐことは出来ないかな?」
「どういうことだ?」
「『動くな』とでもしておけば、その場に留まってはくれるんだろう?」
「……ふむ」
アダムは暫く検討し。
「『核』のマテリアルがヨリシロを覆う限り、多少の抵抗は出来るかもしれんな……だが、相手は歪虚だ。刻令術そのものが無に帰る可能性は否めん」
「……成程。そうなる、か」
ままならんなあ、と。ハヤテは小さく息を吐いた。
●
「核の条件はマテリアルを有すること」
頃合いと見たか。男――ジョン・フラム(ka0786)はこれまでの推移を眺めながら、言った。
「では人間でもいいわけだ。燃料となり、あるいは優れた頭脳となりうる」
アダムとジョン。視線が絡む中、ジョンは微笑を返してみせた。
「違いますか?」
「さて」
アダムの煮え切らぬ返事に、資料に書き込みをしていた薫が顔を上げた。
「実際のところ、その『核』がヨリシロに直接命令を出せればもっと高等なことはできるのか?」
「人を『核』にすることについては――可能だろうな。だが、それも十分なマテリアルがあってのことだ。命令は――さて、どう、だろうな」
「へえ……」
「それって、刻令術を人とCAMにかければCAMが人みたいに動けるかもしれない、ってことか? それなら色々出来そうだよな」
薄く、唇を引き上げるように笑う薫に、興味津々と言った様子でリックが続く。リック自身が知っているCAMの運用以外にも、様々なアプローチが出来るようになる、ということだ。
場に、にわかに熱が満ちた。
だが。
「なあ、あんた。俺に刻令術を使え」
響いた声は、沈黙を呼ぶに足るものだった。その内容もさることながら――押し隠せずに溢れた激情こそが、静寂を産んだのだろう。
ウィンスだ。
●
青年は厳しい眼差しを崩さぬままに、続ける。
「……根拠としちゃお粗末だが、勝算がないわけじゃない」
声には、昏い響きがあった。それは、次の男の名を呼んだ時に一層深まる。
「アレクサンドル・バーンズ――あのクソ野郎が奪いやがったCAMは、歪虚化した結果内部が変化し、『動力部が操縦席になっていた』」
「その結果を見た上で、核になると?」
「クソ癪だが、人類が攻撃に出る為にはこいつを動かす必要がある。なら、自分の身を可愛がってる場合じゃない」
交差する視線。ウィンスの瞳に何を見たか。アダムは視線を外さぬまま――首を振った。
「言っただろう。今君をCAMの核にしてもマテリアルが枯渇して最悪死ぬだけだ。それに」
そこまで言って、男はジョンそして薫へと視線を巡らせた。
「核そのものが命令を出す、となると――それは、私が知る刻令術とは全く異なるものだよ」
「そうでしょうね」
応答に、ジョンはまたも微笑を返した。内奥を悟らせぬ笑みだが、その両肩は愉快げに揺れている。
本気をいなされ、固く目を瞑って天上を仰いだウィンスの肩を、リックが軽く叩いた。
「まあ、さ。そんなに気を落とすなよ」
「……」
返事はなかったがリックは苦笑とともに更に一度、その肩を叩いた。
●
「よければ、いくつか刻令術について伺っても?」
「ああ」
ジョンの仕切り直しの声にアダム。
「刻令術を施すのにはどの程度の時間が掛かるのですか?」
「命令にもよる、な。簡単な命令であれば数分。複雑な動作、となると――数時間は」
どこからともなく零れた嘆息を背に、ジョンは問いを重ねる。
「一つのヨリシロに対して、異なる命令の核を組み込めるか?」
「無理、だな。命令が競合して動作が不能になる」
「……それを細かく切り替えることはどうだ?」
押し黙っていたウィンスが告げると、アダムは首を振る。
「今はまだ、ヨリシロと核を繋げるのに時間がかかる。検討課題、だな」
「えと……それじゃ、動力源に長時間・半永久的に使えるものは?」
次いで、悠貴が言う。
「そうだな。エクラの教会が有するという聖遺物が噂通りのものなら、長時間の運用は可能かもしれん」
「それは……」
「ああ。少なくとも、CAM一機程度には使えないな」
「ですよね」
はぁ、と。淡い吐息が零れた。
「ぅーん、じゃあ、機導術につかう機械を核には出来ないんですか?」
「それが有しているマテリアルを利用する、という形なら出来るが……機導術を運用したほうが効率的だろうな」
「ぅー」
考えこむ余りにうらめしい目つきになる悠貴に、アダムは渋い顔を返す。
「……唸りたいのは私の方だよ」
「そういやぁ、機導術を応用してCAMを動かせないだろうか?」
渋面に、苦笑を浮かべたシュタールが言う、と。
「……ふむ? それは帝国の錬魔院がしているのではなかったかな?」
「ありゃ、そうか?」
「さて、ね。詳細はしらないが――私は、『CAMを動かすには』機導術が最も近道だ、と思うよ」
「……CAMを動かすには、ね」
その意を汲んだ、か。ハヤテは笑みを零した。仮面ではなく、実に魔術師らしい笑みで。
その傍ら。同質の微笑を浮かべたジョンが、続く。
「では、覚醒者が核にマテリアルを注ぐ、というのはどうでしょう?」
「マテリアルを有する道具を作るのと同じ手法、かな。可能かもしれん、が」
「何か問題でも?」
「必要となる量を注ぐのに、どれだけの人間が必要になるのか、だな」
「ふむ。では――『特定人物の動作のトレース』を命令することは、どうでしょう? 感染呪術的にCAMと覚醒者をリンクさせ、類感呪術的にヨリシロにヒトの動きをトレースさせる、という形ですが」
「あ! それな。CAMのモーショントレースみたいな、やつ! ああいう細やかな動きは出来ねぇのか?」
ジョンの提案――本命に、勢い良くリックが乗った、が。
「――」
黙考が返る。応答は、独り言のように成され。
「それは……あまりに刻令術から乖離している、が」
――呪術か、と。アダムは呟いた。
●
呟くのはよいのだが、そのままアダムが黙考しはじめて、暫し後。
――埒があかねぇな。
「そういや、おたくに他の連中と協力する気はないのか?」
無遠慮な声色で、薫が切り出した。
「……私か? ご覧のとおり、だが」
周囲のハンターを示すアダムに、薫は首を振った。
「じゃなくて、な……例えばワルプルギス錬魔院、現院長のナサニエルあたりはそういう話好きそうだけどな。ゴーレムを前線に出すなら装備をつけるために、『核』の燃費を上げるならそういう機械を作ってもらうのは悪くない話だろ?」
「……ああ」
珍しい事に、アダムは苦笑を返した。
「私個人は悪くないと思うがね。噂でしか知らないが、かの御仁はやり過ぎるきらいがある」
「あー」
薫は曖昧な顔を残して頭を掻いた。魔術師協会との立ち位置を考えるとデリケートな領域なのか、と了解する。
「そういえばー……CAMそのものじゃなくて、エンジンを動かすのはどう~?」
「試してみたが、出力の調整が出来ない上に、CAMが要求する出力を達成する事が出来なかった、な」
「そっか~……腐っても新兵器、なんだね」
茫、とCAMを見上げる順平だったが、ふと、思いついたように言う。
「列車を動かすのに刻令術を使うなんてどう~?」
「列車?」
「えっとね~……」
胡乱げなアダムには通じなかったようだと知れて、順平はいくつかの特徴を告げる。特に――。
「列車はエネルギー効率が良い輸送手段だって聞いた事があるんだよ~。燃費が悪い刻令術の使い道にはちょうど良いんじゃないかな~」
「……ふむ」
このくだりが、特に効いたようだった。
「ヘクス卿が好きそうな話、だな」
後日、この件はヘクスへと伝えられる事になるのだが――それはまた、別の物語である。
●
「意見はあらかた出揃った?」
遥が辺りを見渡しながら言った。
「そろそろ、実験、しましょう」
手元には延々と試算していたか、長々と書き込まれた資料がある。
「あ! 俺も、トレースで出来る動きと刻令術で出来る動きを比較してぇな」
リックは颯爽と立ち上がると、順平が続いた。
「あ……僕も乗ってみたいんだよ~」
ふくよかな少年だ。どことなくほわほわとした足取りでCAMの足元に向かっていく。その進む先で、リックが機体を見上げながら呟いた。眼前で、技術が様々な広がりを見せるのを目にしたばかりでーーその熱が、燻っていた。
「……人の創る道具ってのは不思議だ。使い方一つじゃ人を幸せにも出来るが……不幸にもしちまう。こいつは……どっちなんだろうな?」
「おたく優秀な魔術師ってことは頭いいんだろ? 自分の命なら自分で考えて自分で守れよ」
「……ま、更に研究が進むのを期待してるよ」
薫が、質疑や覚書を書き込んだ資料をアダムに渡しながら言うと、ハヤテが続いた。
「忠告、痛み入るよ……ああ、ハヤテ。事の推移次第では、君達にも簡単な刻令術は解放されるかもしれん」
言葉に、ハヤテのみでなくジョンも食いついたようだった。
「……それは興味深いですね」
「まあ、私が消されるかの、どちらかだとは思うがね」
「それでも――逆境とは、好機の別名に他なりません。私も手伝わせていただきますよ」
続々とCAMの元へと移動する面々。その中で、ウィンスだけが足を止めていた。燻る胸中に残る澱を吐き出すように、深く息を吐く。
そこに。
「激情は人を強くする」
深奥を搖さぶる低音が、耳朶を打った。
「そのまま進めばいい」
アダムだ。通り過ぎざまに、呟くように紡がれる言葉達。
――こいつは。
声色から沁み込むのは、毒々しいまでの情動。何かが、在る。そう感じた。
「時が来て、君がもしそれを望むのならば。私は君を、望む何者かにしてやるさ」
「――上等だ」
●
こうして、刻令術とCAMの物語、その始まりが、紡がれた。
示されたのは可能性。されば、これから描かれるのは如何なる物語となろうか。
広漠とした実験場を覆う冬天。染み入る寒さの中、そこには確かに熱があった。
「システム、オールグリーン、問題なし、っと……流石、整備チームは優秀だわ」
――そんな私は超優秀。
遥・シュテルンメーア(ka0914)は律動の源、CAMのコクピットで計器を確認しながら嘯いた。狭いコックピット内。数字が踊る光景に元CAM整備士の血が騒いだか、その顔には笑みが刻まれている。つと、足元から、声。
「よう、遥! 俺も動かしてみていいか?」
刻令術の実験に意見を述べるため、と技官を説得してレクチャーを受けたシュタール・フラム(ka0024)であった。遥が元々交渉をしていた事もあってスムーズに話が通ったのだろう。隣では担当技官が両手を掲げて許可の合図。
「ん、オッケー」
降りがてら、期待を押し隠せないままに駆け上がるように機体をよじ昇っていくシュタールを、遥は眩しげに見送る。
――男がコクピットに乗り込んでから落ちたのは、沈黙。
技官と遥の間に苦笑が満ちた。暫し後、技官が操作方法を支持すると、緩やかにCAMが動き始める。
「おおっ」
笑いを含んだ声が、実験場に響いた。
「こいつ、動くぞっ!」
●
「おお、動いた」
「無事に残ってるのもあったんだ~」
リック=ヴァレリー(ka0614)が興味深げな声に、木島 順平(ka2738)が柔らかく笑う。緩やかに近づいてくるCAMを眺めながら、フワ ハヤテ(ka0004)はアダムに会釈。
「キミがゴーレムの核を依頼した人物か」
「そうか、その節は世話になった」
差し出されたハヤテの手に、握手が返った。その力強さを感じながらエルフは笑う。
「この研究が頓挫するのは非常にもったいない。微力ながら協力させてもらうよ」
「いいのか?」
魔術師だろう、と問う声にハヤテは笑みを深めた。刻令術。失われた魔術がすぐそこにある。禁忌だろうと構う由は彼には無く。ただ、笑みと共に強く握り返した。
●
「資料を見る限りだと結構、難題そうだな」
薄氷 薫(ka2692)は資料と立位のCAMを見比べて言った。
「実際どの程度の事ができるんだ? ゴーレムは戦闘には使えるのか?」
「あのヨリシロに大剣を持たせて振りつづけさせる事は出来るだろうが」
それだけだ、という声に薫の慨嘆が零れた。
「だよ、なあ」
ウィンス・デイランダール(ka0039)が目を細める。平時通りの顰め面に滲むのは落胆。
「獅子の心臓……などと言ったもんだが。こいつは子犬が精々か」
「いつか番犬程度にはなってくれるといいのだが、ね」
応答に、ウィンスは眉を潜めた。アダムの返答に、引っ掛かる物があった。確信にはいたらぬままに、続いて、順平が問う。
「そういえば~、アダムおじさんは刻令術を研究して、最終的にそれでどうしたいの~?」
「ふむ……そうだな。刻令術の仕組みそのものに興味がある……と、いうところだな」
「ん~?」
「ぅーん……ちゃんと動かすには他にもっと必要なものが? CAMって普通のロボットとはやっぱり違うんでしょうか」
細い唸り声が櫻井 悠貴(ka0872)から上がるや否や、皺深い顔のアダムから応答が返る。
「単純に、私の力量不足だろうがね」
「魔術を使って動くゴーレムとCAM、かぁ……一見似て非なるものだけど」
CAMを仰ぎ見ながら、リック。想起しているのはかつての光景、だろうか。彼がまだ蒼い世界に居た時の。
「二つを合わせればなんかできるんじゃねぇか?」
「ふむ?」
疑問を反したアダムに、いやに艶々しい顔色のシュタールが言葉を重ねた。
「実際、CAMと刻令術は結構似ているみたいだ。CAMはどういう動作するかという指示が用意されていて、必要に応じて選択出来るように設定されている……刻令術でも同じようなことはできるんじゃねぇか?」
操作法を想起しながらの言葉故にか。どこか熱の入った言葉だった。だが。
「ま、キリがねぇし、実現は難しいだろうがな」
両手両足に余る程にこなさねばならぬ事があり、夫々に調整を要する。それが解るくらいには彼も冷静だった。おずおずと、手が上がる。悠貴だ。
「段階的に命令をするのは、どうでしょうか……?」
「可能だよ。シュタールが言うようにこなすべき案件が多いだけで、な」
「その辺りを踏まえると、刻令術の運用で現実的なのは攻勢利用よりは防衛寄り、でしょうね」
言葉と同時、遥が資料で机を軽くはたいた音が響く。
「今のままだとこれまでのようなCAMの運用をするのには10年以上掛かるわ」
「断定的だね~?」
「解るわよ」
興味深げに順平が問えば、遥はIDカードをひらひらと振る。
「元、CAM整備士だもの。大学でもロボットを作ってたし。基礎行動のソースコードだけでもどれ程になるかを知ってるからこその、断定」
「は~……」
「CAMを奪っていたアイツらの技術が得られたらこの前提は引っ掛かるだろうけど、ね」
嫉妬の歪虚が持つという権能は、CAMを奪って行った事をさしてのことだろう。
そういえば、と。ハヤテが口を開いた。
「刻令術で今回みたいなCAM強奪を防ぐことは出来ないかな?」
「どういうことだ?」
「『動くな』とでもしておけば、その場に留まってはくれるんだろう?」
「……ふむ」
アダムは暫く検討し。
「『核』のマテリアルがヨリシロを覆う限り、多少の抵抗は出来るかもしれんな……だが、相手は歪虚だ。刻令術そのものが無に帰る可能性は否めん」
「……成程。そうなる、か」
ままならんなあ、と。ハヤテは小さく息を吐いた。
●
「核の条件はマテリアルを有すること」
頃合いと見たか。男――ジョン・フラム(ka0786)はこれまでの推移を眺めながら、言った。
「では人間でもいいわけだ。燃料となり、あるいは優れた頭脳となりうる」
アダムとジョン。視線が絡む中、ジョンは微笑を返してみせた。
「違いますか?」
「さて」
アダムの煮え切らぬ返事に、資料に書き込みをしていた薫が顔を上げた。
「実際のところ、その『核』がヨリシロに直接命令を出せればもっと高等なことはできるのか?」
「人を『核』にすることについては――可能だろうな。だが、それも十分なマテリアルがあってのことだ。命令は――さて、どう、だろうな」
「へえ……」
「それって、刻令術を人とCAMにかければCAMが人みたいに動けるかもしれない、ってことか? それなら色々出来そうだよな」
薄く、唇を引き上げるように笑う薫に、興味津々と言った様子でリックが続く。リック自身が知っているCAMの運用以外にも、様々なアプローチが出来るようになる、ということだ。
場に、にわかに熱が満ちた。
だが。
「なあ、あんた。俺に刻令術を使え」
響いた声は、沈黙を呼ぶに足るものだった。その内容もさることながら――押し隠せずに溢れた激情こそが、静寂を産んだのだろう。
ウィンスだ。
●
青年は厳しい眼差しを崩さぬままに、続ける。
「……根拠としちゃお粗末だが、勝算がないわけじゃない」
声には、昏い響きがあった。それは、次の男の名を呼んだ時に一層深まる。
「アレクサンドル・バーンズ――あのクソ野郎が奪いやがったCAMは、歪虚化した結果内部が変化し、『動力部が操縦席になっていた』」
「その結果を見た上で、核になると?」
「クソ癪だが、人類が攻撃に出る為にはこいつを動かす必要がある。なら、自分の身を可愛がってる場合じゃない」
交差する視線。ウィンスの瞳に何を見たか。アダムは視線を外さぬまま――首を振った。
「言っただろう。今君をCAMの核にしてもマテリアルが枯渇して最悪死ぬだけだ。それに」
そこまで言って、男はジョンそして薫へと視線を巡らせた。
「核そのものが命令を出す、となると――それは、私が知る刻令術とは全く異なるものだよ」
「そうでしょうね」
応答に、ジョンはまたも微笑を返した。内奥を悟らせぬ笑みだが、その両肩は愉快げに揺れている。
本気をいなされ、固く目を瞑って天上を仰いだウィンスの肩を、リックが軽く叩いた。
「まあ、さ。そんなに気を落とすなよ」
「……」
返事はなかったがリックは苦笑とともに更に一度、その肩を叩いた。
●
「よければ、いくつか刻令術について伺っても?」
「ああ」
ジョンの仕切り直しの声にアダム。
「刻令術を施すのにはどの程度の時間が掛かるのですか?」
「命令にもよる、な。簡単な命令であれば数分。複雑な動作、となると――数時間は」
どこからともなく零れた嘆息を背に、ジョンは問いを重ねる。
「一つのヨリシロに対して、異なる命令の核を組み込めるか?」
「無理、だな。命令が競合して動作が不能になる」
「……それを細かく切り替えることはどうだ?」
押し黙っていたウィンスが告げると、アダムは首を振る。
「今はまだ、ヨリシロと核を繋げるのに時間がかかる。検討課題、だな」
「えと……それじゃ、動力源に長時間・半永久的に使えるものは?」
次いで、悠貴が言う。
「そうだな。エクラの教会が有するという聖遺物が噂通りのものなら、長時間の運用は可能かもしれん」
「それは……」
「ああ。少なくとも、CAM一機程度には使えないな」
「ですよね」
はぁ、と。淡い吐息が零れた。
「ぅーん、じゃあ、機導術につかう機械を核には出来ないんですか?」
「それが有しているマテリアルを利用する、という形なら出来るが……機導術を運用したほうが効率的だろうな」
「ぅー」
考えこむ余りにうらめしい目つきになる悠貴に、アダムは渋い顔を返す。
「……唸りたいのは私の方だよ」
「そういやぁ、機導術を応用してCAMを動かせないだろうか?」
渋面に、苦笑を浮かべたシュタールが言う、と。
「……ふむ? それは帝国の錬魔院がしているのではなかったかな?」
「ありゃ、そうか?」
「さて、ね。詳細はしらないが――私は、『CAMを動かすには』機導術が最も近道だ、と思うよ」
「……CAMを動かすには、ね」
その意を汲んだ、か。ハヤテは笑みを零した。仮面ではなく、実に魔術師らしい笑みで。
その傍ら。同質の微笑を浮かべたジョンが、続く。
「では、覚醒者が核にマテリアルを注ぐ、というのはどうでしょう?」
「マテリアルを有する道具を作るのと同じ手法、かな。可能かもしれん、が」
「何か問題でも?」
「必要となる量を注ぐのに、どれだけの人間が必要になるのか、だな」
「ふむ。では――『特定人物の動作のトレース』を命令することは、どうでしょう? 感染呪術的にCAMと覚醒者をリンクさせ、類感呪術的にヨリシロにヒトの動きをトレースさせる、という形ですが」
「あ! それな。CAMのモーショントレースみたいな、やつ! ああいう細やかな動きは出来ねぇのか?」
ジョンの提案――本命に、勢い良くリックが乗った、が。
「――」
黙考が返る。応答は、独り言のように成され。
「それは……あまりに刻令術から乖離している、が」
――呪術か、と。アダムは呟いた。
●
呟くのはよいのだが、そのままアダムが黙考しはじめて、暫し後。
――埒があかねぇな。
「そういや、おたくに他の連中と協力する気はないのか?」
無遠慮な声色で、薫が切り出した。
「……私か? ご覧のとおり、だが」
周囲のハンターを示すアダムに、薫は首を振った。
「じゃなくて、な……例えばワルプルギス錬魔院、現院長のナサニエルあたりはそういう話好きそうだけどな。ゴーレムを前線に出すなら装備をつけるために、『核』の燃費を上げるならそういう機械を作ってもらうのは悪くない話だろ?」
「……ああ」
珍しい事に、アダムは苦笑を返した。
「私個人は悪くないと思うがね。噂でしか知らないが、かの御仁はやり過ぎるきらいがある」
「あー」
薫は曖昧な顔を残して頭を掻いた。魔術師協会との立ち位置を考えるとデリケートな領域なのか、と了解する。
「そういえばー……CAMそのものじゃなくて、エンジンを動かすのはどう~?」
「試してみたが、出力の調整が出来ない上に、CAMが要求する出力を達成する事が出来なかった、な」
「そっか~……腐っても新兵器、なんだね」
茫、とCAMを見上げる順平だったが、ふと、思いついたように言う。
「列車を動かすのに刻令術を使うなんてどう~?」
「列車?」
「えっとね~……」
胡乱げなアダムには通じなかったようだと知れて、順平はいくつかの特徴を告げる。特に――。
「列車はエネルギー効率が良い輸送手段だって聞いた事があるんだよ~。燃費が悪い刻令術の使い道にはちょうど良いんじゃないかな~」
「……ふむ」
このくだりが、特に効いたようだった。
「ヘクス卿が好きそうな話、だな」
後日、この件はヘクスへと伝えられる事になるのだが――それはまた、別の物語である。
●
「意見はあらかた出揃った?」
遥が辺りを見渡しながら言った。
「そろそろ、実験、しましょう」
手元には延々と試算していたか、長々と書き込まれた資料がある。
「あ! 俺も、トレースで出来る動きと刻令術で出来る動きを比較してぇな」
リックは颯爽と立ち上がると、順平が続いた。
「あ……僕も乗ってみたいんだよ~」
ふくよかな少年だ。どことなくほわほわとした足取りでCAMの足元に向かっていく。その進む先で、リックが機体を見上げながら呟いた。眼前で、技術が様々な広がりを見せるのを目にしたばかりでーーその熱が、燻っていた。
「……人の創る道具ってのは不思議だ。使い方一つじゃ人を幸せにも出来るが……不幸にもしちまう。こいつは……どっちなんだろうな?」
「おたく優秀な魔術師ってことは頭いいんだろ? 自分の命なら自分で考えて自分で守れよ」
「……ま、更に研究が進むのを期待してるよ」
薫が、質疑や覚書を書き込んだ資料をアダムに渡しながら言うと、ハヤテが続いた。
「忠告、痛み入るよ……ああ、ハヤテ。事の推移次第では、君達にも簡単な刻令術は解放されるかもしれん」
言葉に、ハヤテのみでなくジョンも食いついたようだった。
「……それは興味深いですね」
「まあ、私が消されるかの、どちらかだとは思うがね」
「それでも――逆境とは、好機の別名に他なりません。私も手伝わせていただきますよ」
続々とCAMの元へと移動する面々。その中で、ウィンスだけが足を止めていた。燻る胸中に残る澱を吐き出すように、深く息を吐く。
そこに。
「激情は人を強くする」
深奥を搖さぶる低音が、耳朶を打った。
「そのまま進めばいい」
アダムだ。通り過ぎざまに、呟くように紡がれる言葉達。
――こいつは。
声色から沁み込むのは、毒々しいまでの情動。何かが、在る。そう感じた。
「時が来て、君がもしそれを望むのならば。私は君を、望む何者かにしてやるさ」
「――上等だ」
●
こうして、刻令術とCAMの物語、その始まりが、紡がれた。
示されたのは可能性。されば、これから描かれるのは如何なる物語となろうか。
依頼結果
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アダムをどうにかし隊 薄氷 薫(ka2692) 人間(リアルブルー)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/01/15 00:06:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/11 23:30:12 |