ゲスト
(ka0000)
【血断】憎むがままに叫び出せ
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/25 09:00
- 完成日
- 2019/03/02 01:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●はじめに言葉があった
パルムが分樹を持って、一生懸命歩くのを、エドワード・”エド”・ダックワースは刀を抱えながらはらはらと見守っている。
「転ぶなよ」
「お前じゃないんだから簡単にこけない」
冷ややかに言うのがジョン・パタースン。
「俺がいつこけたって?」
「いつだってくだらない冗談で滑ってる」
「相手に冗談を理解する頭とセンスと教養がねぇんだよ」
「それは悪かったな」
「自覚があるんだったら改めろ。創世記からやり直せ」
「調子に乗るな」
今日、彼らは世界結界の強化のため、パルムの植林作業に同行していた。パルムには戦闘力がないから、ハンターの護衛が必要とは聞いているが、こんな小さな存在を歪虚のいるところに放り出すなんてとんでもない、とエドとジョンは個人的に思っている。
今日は二人とも、運転手として来ている。比較的早めに免許を取れる州の出身である二人は、既にドライバー歴が年単位である。もちろんやばくなったらパルムは守るし回復支援もするが、帰り道体中痛くて運転できません、と言う事態は避けたい。
やがて、二人はそれぞれが借り受ける魔導トラックとご対面した。
「オウ……」
エドが呻いた。
「右ハンドルじゃねぇか……イギリス製か? ドリンクが全部紅茶になりそう」
●アンノウン・アフィニティ
パルムが植林をするには、まず世界結界を突破してきた敵の排除が必要になってくる。魔導トラックが到着すると、ハンターたちは肌で負のマテリアルを感じた。
「……ダックワース。何かいる」
エドがトランシーバーで同行者たちに声を掛ける。泥を被った背の高い人間にそれは見えた。しかし、人間でないことは、その異様に長い手足、何よりも放たれる強烈な悪意と負のマテリアルから明らかだ。助手席のパルムも、何かを感じているのか落ち着かない。
「シェオル・ノドと報告されてたな。多分それだろう」
「シェオル・ノドね……何もわかってないけど名前だけはわかってるんだろ? 気味が悪い」
「まったくだ」
荷台が揺れた。ハンターたちが戦闘準備に入っている。
エドは歪虚の姿をじっと見つめている。
(なんだろう、なんて言うか……)
それは認めるのに勇気がいる感情だった。
(悪い意味で親近感が湧く)
その、発生する理由がよくわからない感情を探っていると……。
「それ」と目が合った。
ような気がした。
「────!!!!!」
憎しみに満ちた金切り声が、晴れた空に響き渡る。
「エド! お前何したんだ! 刺激しただろ!」
トランシーバーからジョンの怒鳴り声がした。エドは金切り声とその声に顔をしかめながら怒鳴り返す。
「何でもかんでも俺のせいにするんじゃねぇ! ちょっと目が合っただけだよ!」
「ガン飛ばしたのか!?」
「お前こそ目を離してたのかぁ!?」
二人の喧嘩を横目に、ハンターたちは次々と飛び出して行く。
「通信の邪魔になる。必要以上に喋るな」
「こっちの台詞だバーーーーカ!!!」
エドはギアをリバースに入れてトラックを後退させた。そのままトランシーバーに報告する。
「ダックワース! パルムを連れて少し離れる!」
「パタースンです。ヒールとプロテクションいけます。必要時に呼んでください」
このために、パルムはエドのトラックに乗せていたのだ。回復支援が可能なジョンのトラックに乗せては巻き込まれる可能性がある。ジョンのトラックが前進した。エドはダッシュボードにトランシーバーを放り込む。ちらり、と、前方の駆けていくハンターたちを見た。
もしこれでハンターがやばくなったら?
(俺は一度みんなを見捨てないといけない)
パルムが分樹を持って、一生懸命歩くのを、エドワード・”エド”・ダックワースは刀を抱えながらはらはらと見守っている。
「転ぶなよ」
「お前じゃないんだから簡単にこけない」
冷ややかに言うのがジョン・パタースン。
「俺がいつこけたって?」
「いつだってくだらない冗談で滑ってる」
「相手に冗談を理解する頭とセンスと教養がねぇんだよ」
「それは悪かったな」
「自覚があるんだったら改めろ。創世記からやり直せ」
「調子に乗るな」
今日、彼らは世界結界の強化のため、パルムの植林作業に同行していた。パルムには戦闘力がないから、ハンターの護衛が必要とは聞いているが、こんな小さな存在を歪虚のいるところに放り出すなんてとんでもない、とエドとジョンは個人的に思っている。
今日は二人とも、運転手として来ている。比較的早めに免許を取れる州の出身である二人は、既にドライバー歴が年単位である。もちろんやばくなったらパルムは守るし回復支援もするが、帰り道体中痛くて運転できません、と言う事態は避けたい。
やがて、二人はそれぞれが借り受ける魔導トラックとご対面した。
「オウ……」
エドが呻いた。
「右ハンドルじゃねぇか……イギリス製か? ドリンクが全部紅茶になりそう」
●アンノウン・アフィニティ
パルムが植林をするには、まず世界結界を突破してきた敵の排除が必要になってくる。魔導トラックが到着すると、ハンターたちは肌で負のマテリアルを感じた。
「……ダックワース。何かいる」
エドがトランシーバーで同行者たちに声を掛ける。泥を被った背の高い人間にそれは見えた。しかし、人間でないことは、その異様に長い手足、何よりも放たれる強烈な悪意と負のマテリアルから明らかだ。助手席のパルムも、何かを感じているのか落ち着かない。
「シェオル・ノドと報告されてたな。多分それだろう」
「シェオル・ノドね……何もわかってないけど名前だけはわかってるんだろ? 気味が悪い」
「まったくだ」
荷台が揺れた。ハンターたちが戦闘準備に入っている。
エドは歪虚の姿をじっと見つめている。
(なんだろう、なんて言うか……)
それは認めるのに勇気がいる感情だった。
(悪い意味で親近感が湧く)
その、発生する理由がよくわからない感情を探っていると……。
「それ」と目が合った。
ような気がした。
「────!!!!!」
憎しみに満ちた金切り声が、晴れた空に響き渡る。
「エド! お前何したんだ! 刺激しただろ!」
トランシーバーからジョンの怒鳴り声がした。エドは金切り声とその声に顔をしかめながら怒鳴り返す。
「何でもかんでも俺のせいにするんじゃねぇ! ちょっと目が合っただけだよ!」
「ガン飛ばしたのか!?」
「お前こそ目を離してたのかぁ!?」
二人の喧嘩を横目に、ハンターたちは次々と飛び出して行く。
「通信の邪魔になる。必要以上に喋るな」
「こっちの台詞だバーーーーカ!!!」
エドはギアをリバースに入れてトラックを後退させた。そのままトランシーバーに報告する。
「ダックワース! パルムを連れて少し離れる!」
「パタースンです。ヒールとプロテクションいけます。必要時に呼んでください」
このために、パルムはエドのトラックに乗せていたのだ。回復支援が可能なジョンのトラックに乗せては巻き込まれる可能性がある。ジョンのトラックが前進した。エドはダッシュボードにトランシーバーを放り込む。ちらり、と、前方の駆けていくハンターたちを見た。
もしこれでハンターがやばくなったら?
(俺は一度みんなを見捨てないといけない)
リプレイ本文
●開幕
仙堂 紫苑(ka5953)と言う男は、先日は陰陽師か神官か、と言う出で立ちが印象に残っていた。アルマ・A・エインズワース(ka4901)が無邪気に呼びかけながらひっついていても、エドたちはそれが彼であると気付くのに時間がかかった。
「あー、この前の蜘蛛の時の……名前なんだっけ?」
赤と黒のパワードスーツに身を包んだ彼は、気怠そうにそう尋ねた。
シェオル型の金切り声を聞いて、傭兵の如く武器を背負って飛び出したのはカイン・A・A・マッコール(ka5336)である。
「妙に響く声だな、怨嗟の声ってやつか、バカでかくて耳障りだな」
「うわぁ、アレの相手すんのか………帰ったら洗浄とメンテナンスは必須だな……」
同じような刀身の赤い剣を持って紫苑がその後を追った。
「システムオールグリーン、戦闘を開始……だりぃな……」
「どうにもこっちに殺気立ってる。要は人間嫌いとか人間が憎いとかのタイプか。要するにご同類か……じゃあ面倒を見てやらなきゃ」
彼は対物ライフルを抱えた。
「同じ憎悪で殺してやる」
「ガン飛ばしたのか!?」
「お前こそ目を離してたのかぁ!?」
「喧嘩だめです! シェオル型の歪虚さんは基本的に『人間』を優先的に狙うです! エドさんのせいじゃないです!」
アルマがトラックの間で仲裁に入る。彼はふと顔を上げた。トラックに乗っている二人はリアルブルー人だから当然人間であるわけで、同行したハンターたちの種族は……。
「つまり……あっこれ僕以外全員優先攻撃対象です!?」
「通信の邪魔になる。必要以上に喋るな」
「こっちの台詞だバーーーーカ!!!」
アルマはすぐ隣にあるトラックから、エドの怒鳴り声を聞いてひゅっと肩を竦めた。同じやりとりを聞いていた、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が馬上から、
「只者ではない相手を前にしても言い合いですか。実力もさる事ながら、その根性……今は当てにさせて貰いますよ」
「ダックワース! パルムを連れて少し離れる!」
「パタースンです。ヒールとプロテクションいけます。必要時に呼んでください」
「私達は、各々だけが出来得る事を行い、それらを調和する事も責務のうちですから」
トラックが動き出した。アルマとツィスカも、先に駆け出したカインたちに合流するべく走り出した。
●A VOID
時音 ざくろ(ka1250)はハヤテ丸で、星野 ハナ(ka5852)はバイクで、すでに戦場に突っ込んでいた。魔導バイクと馬の蹄の音が響き渡る。
「さぁ、お前の相手はざくろだ!」
パルムの乗るトラックから注意を逸らすために、カオスウィースを掲げる。シェオル型は体をよじりながら声を上げて、ざくろに詰め寄ろうとしていた。
そのシェオルを五枚の符が包囲した。ハナの五色光符陣だ。
「人間が嫌いかもしれませんけどぉ、おあいにく様、こっちもお前たちが嫌いですぅ!」
五色光符陣は、上手く行けば目くらましにもなる術ではあるが、それに抗しうる能力があっただろうか、ダメージは入ったものの、特に眩しがる様子はない。
ずかずかと前に出て、なおかつ純然たる殺意を放って挑発するカインに、アルマがアンチボディを掛けた。
「正気か?」
エドが運転しながら呻いている。下手したら両方から蛸殴りにされる。だからこそ、アルマもアンチボディで準備しているわけだが。
ツィスカが馬上から機導砲を撃った。シェオルは怒り狂ったような動きで回避。目があるならば、ツィスカを睨んでいることだろう。
「早いな」
機導剣・操牙で盾と斧を展開しながら紫苑が呟く。五色光符陣が当たったところを見ると、半減させれば回避は百パーセントを切るようだ。
「くらえ必殺、デルタエンドだ!」
ざくろのデルタレイが、二体ともを狙うが、やはり回避された。恐らく、普通に攻撃するとほぼ確実に避けられる。よっぽど相手の隙を突かないと無理だろう。
片方が、カインの殺意に釣られた。濁った金切り声が合図だ。跳躍して腕を振り上げる。カインはひとまず回避した。もう一体が殴り掛かったのはざくろだったが、クウランムールの防御力が物を言う。
「あわわ……やっぱり早いです。動きを止めないと危ないです」
アルマが進言する。彼は、紫苑にもアンチボディを掛けた。ざくろは自分と同じで頑丈な盾を持っている。ひとまず、カインと紫苑のダメージを軽減するのが良いと判断した。
回避を半減する攻撃ならハナには手数がある。御霊府「影装」で防御を固めると、バイクで一定の距離を保ちながら五色光符陣を放った。二体の巻き込みに成功する。
「それなら……制圧射撃の方が良さそうですね」
ツィスカが銃を持ち替えた。装填数十三。継戦能力を重視したベンティスカから放たれる弾幕が、吹雪の様にシェオルを襲った。カインに近い方に命中。叫び声が響いた。
依然殺意を燃やしているカインは、対物ライフル・狂乱せしアルコルを両手で構え、至近距離からシェオルに向かって撃ち放った。軋むような金属音。
「うわっ!」
その故障を疑いたくなる異音はエドにも聞こえたらしい。開いたトラックの窓から悲鳴が聞こえた。ハンターでなければ肩が吹き飛ぶような反動の威力。それを、本来の運用より遙かに近い距離から叩き込む。
だが、こちらは回避された。シェオルは、カインに向かって喚くように叫びまくる。
「うるせぇな」
毒づいたのは紫苑だった。
「でも、見えた。ざくろ」
「なにかな?」
「出るぞ」
●攻性防壁
ざくろはきょとんとしていたが、紫苑がナナカマドを指すと、その意図を察して頷く。
「紫苑さん、何考えてますか……」
ジョンが運転席から呻いた。
「殴らせる」
「えっ」
「カイン、下がってくれ」
言うや、紫苑とざくろは敢えて敵の眼前に立った。二人とも「人間」である。
この作戦に限って言えば、カインの純然たる殺意が差し金になった。恐らく、二回に一回は彼の挑発に乗る。バッドステータスが全く効かない相手ではない。だが、強度が低ければ通用しないだけの抵抗が、おそらくはある。練度の高くないジョンがレクイエムを持ってきていても、効果はなかっただろう。
「嘘だろ何考えてんだよ! 危ないよ!」
紫苑のトランシーバーからエドの喚き声が聞こえた。ますます好都合だ。
「重かったんだから、ちゃんと役立ってくんねえとなぁ……こっちだけちゃんと見てろよ……」
シェオルの爪が、紫苑の急所に向かって振り抜かれる。紫苑はグローブとナナカマドで受けた。それと同時に、雷撃の障壁を展開させる。凄まじい音がした。
紫苑もよろけたが、シェオル型の方はゆうに六メートルは飛んだだろうか。バウンドして、転がる。起き上がると、再び怨嗟の吠え声が上がった。動きが鈍い。
トラックに近づけないための攻性防壁だったが、このスキルは上手く行けば相手を麻痺させることもできる。そして、上手く行ったようだった。
「な──」
エドが絶句しているのが、トランシーバーからでもわかった。
「あ! ざくろさ──」
次に悲鳴を上げたのがジョンだった。ざくろの方は幸いにも急所は外れ、装備の整った胴部への殴打、なおかつ盾が頑丈であったため、彼自身はダメージを受けずに済んだようである。
「先へは進ませないよ、超機導パワーオン、弾け跳べっ!」
再び、雷撃。同じように吹き飛ばされた歪虚は転がって行く。
「紫苑! 無事か!? あんた正気かよ!」
エドが喚いている。紫苑は立ち上がると、胸をさすりながら応じた。
「問題ねえし正気だよ。それにしても、こいつの金切り声ほんとにうるせぇな」
「俺!?」
「お前じゃない……けど、お前も落ち着こうな」
「ふふ、うふふふふっ」
アルマが笑った。アンチボディは掛けた。ナナカマドもディスターブも持ち主を守った。攻性防壁もよく効いた。紫苑の怪我は見た目より軽く済んだだろう。
それでも。
「殺ス」
外套を翻して、アルマはシェオル型に迫った。黒い幻影はともすると怒りの具現とも呼べそうである。ざくろと紫苑から弾き飛ばされたシェオル型の周りには、味方が誰もいない。
「薪になるです?」
ファイアスローワーが怒りの如く放出された。
「避けにくい攻撃ならまったく当たらないわけじゃない。攻性防壁で麻痺してる今がチャンスだ」
態勢を立て直した紫苑が、再び操牙でニライカナイとナナカマドを操りながら言う。
「言うまでもないかもしれないけど」
目の前で相棒から燃やされるシェオルを見ながら付け足した。
「つまりぃ、五色連打ってことですねぇ? 任せてくださぁい!」
ハナが馬を走らせる。五枚の札を放った。五色光符陣そのものが避けにくい術である。
「紫苑さーん!」
ジョンが運転席からメイスを振り回している。ヒールだ。紫苑は手を挙げてそれに応じる。
「加速装置……」
強化術式・紫電を発動する。ざくろは奥歯を噛みしめながら、解放錬成、超重錬成を剣に施している。刀身が膨れ上がった。
「超重斬……刹那一文字斬り!」
シェオル型の頭が吹き飛ぼうかという一撃だった。そこに、ツィスカがまた、あの吹雪にも似た弾幕で打ちのめす。
「恨むなら恨め、でも、人間の未来をお前達に乱させはしない!」
一体がカインの挑発に乗った。飛びかかるような蹴りを、防具の頑丈なところで受ける。今度は避けない。最初にアルマから施されたアンチボディが、ここで彼を守った。障壁がダメージを緩和する。
カインは、普通に殴り掛かられただけなら、回避するだけの身体能力を持っている。だが、今度は避けなかった。
「殺してやる」
カウンターアタックの為だ。振り抜かれる、カオスウィースの刀身は、血しぶきの予感の様に赤く閃いた。
「ちゃんと面倒見てやるよ」
「丁度いいです、サービスです! 僕の最大火力見せたげます!」
アルマの左胸が青く燃え上がった。
●今際の後悔
遂に、シェオル型歪虚は二体とも消滅した。激戦だった。前衛でなおかつ「敢えて殴られる」戦法を取った紫苑、カイン、ざくろは結構な有様だった。各々、回復なり休憩なり、ハナに配られたチョコ餅を食べるなりしている向こうで、ハナが念のために、と浄龍樹陣を張って、植林場所を浄化している。パルムは分樹を持ってよたよたとそちらに向かっていた。
「転んではいけませんよ」
「ほら、足下気をつけて」
ツィスカとざくろがそれを見守ってついていく。
「カインさん、大丈夫ですか? ヒールどうぞ……ってその肩なんですか?」
ジョンは絶句した。傍から見ても対物ライフルの反動が、かなり肩に負担を掛けていたことが明らかだった。しかし、カインは何でもないようにしている。ジョンはメイスを握りしめておろおろし始めた。
「シオンー、心配しました」
「悪かったな。でも、アンチボディ効いてたから安心しろって」
「わざと殴られるとか正気じゃねぇよ……」
エドが呻く。
「俺の心臓が止まるかと思った……最悪あんたら置いて逃げなきゃいけない俺の身にもなってくれ」
「む」
すると、アルマがむっとしたような顔になる。まあそりゃお前の相方置いて逃げるぞって言やぁ怒るわ。エドが苦笑していると、ぽふんと頭に手が振り下ろされ……そのままわしゃわしゃとなで回された。
「わふふっ。冗談です、怒らないですー。むしろ、よくできました! エドさんの判断は正しいです! 一番大事なことを解ってるって言うのは、すごく大事な事ですよ」
それから、アルマは口の前で人差し指を立てて微笑んだ。小声でこっそり、とも、もう一つ大事なことだとも取れる。
「でも、ひとつだけ。お二人とも喧嘩するほど仲がいいって言うですけど、特に戦場ではおススメしないです」
「別に仲良いわけじゃ……それに、いつものことだよ」
「いつもの掛け合いだとしても……その会話が『最期』だった時、本当に後悔しないです?」
アルマは説教をするわけでも、上から押しつけるでもなく、ただ質問としてエドに告げる。
「……」
エドはそんなアルマをじろりと睨み上げた。
「ずるい」
「わふふ。僕、ずるいこと言いましたか?」
「ずるいよ」
紫苑とお互いに信頼しあって、嫉妬すらする余地のないきちんとした関係を作っているアルマにそんなことを言われたら、見栄よりも優先するものがあることは嫌でも直視せざるを得ない。エドはむくれてそっぽを向いた。
「……絶対に後悔する」
わかっている。そんな当たり前のことはわかっている。あんなこと言うんじゃなかった。相手が生きていたって後悔することがたくさんあるんだから、取り返しのつかないことになったりしたら、死ぬほど苦しむに決まっている。
「知ってるよ」
植林は順調だった。ざくろとツィスカ、ハナがかがみ込んで見守る傍で、パルムが分樹を植えている。
●誠意の形
「なぁんか酷い顔してますねぇ? 言わぬは腹膨るる業って言いますしぃ、どーんとお姉さんに話しちゃったらどうですぅ」
帰り際。トラックに乗り込もうとするエドにハナが声を掛けた。
「なにそれ」
「不平不満溜めてるとお腹いっぱいになるってことですぅ」
「燃費が良いよな」
「じゃなくってぇ」
ハナは首を傾けた。
「……ハンターは死まで含めて自己責任ですからぁ、自分が苦しいことは避けちゃってもいいんですよぅ」
多分、ハナなりに、パルムを守って逃げざるを得ない位置にいたエドを気遣っているのだろう。
「本当に傷つけた相手に必要なのは誠意で謝罪じゃないんですよねぇ。でも自己満足に過ぎなくても謝罪も人間関係の潤滑油にはなりますからぁ、言いたかったらばんばん言っても良いんですよぅ?」
「別に……気になるけど、作戦として必要なことなのはあんたたちもわかっててくれると思ってるし……」
思っているけど、それと感情面は別だ。
「難しい」
だいたい、今まで戦いと無縁の生活をしていたのだ。まだエドには「作戦」と言う物が理解できない。作戦として必要なのであなたは逃げなさい。他が死にかけていても。そう言われたところで納得なんてできない。
ハナは目を細めて笑った。
「私で良かったら話してくれて良いんですよぉ」
「……」
エドは目を逸らす。でも、言うことは決まっている。
「ありがとう」
仙堂 紫苑(ka5953)と言う男は、先日は陰陽師か神官か、と言う出で立ちが印象に残っていた。アルマ・A・エインズワース(ka4901)が無邪気に呼びかけながらひっついていても、エドたちはそれが彼であると気付くのに時間がかかった。
「あー、この前の蜘蛛の時の……名前なんだっけ?」
赤と黒のパワードスーツに身を包んだ彼は、気怠そうにそう尋ねた。
シェオル型の金切り声を聞いて、傭兵の如く武器を背負って飛び出したのはカイン・A・A・マッコール(ka5336)である。
「妙に響く声だな、怨嗟の声ってやつか、バカでかくて耳障りだな」
「うわぁ、アレの相手すんのか………帰ったら洗浄とメンテナンスは必須だな……」
同じような刀身の赤い剣を持って紫苑がその後を追った。
「システムオールグリーン、戦闘を開始……だりぃな……」
「どうにもこっちに殺気立ってる。要は人間嫌いとか人間が憎いとかのタイプか。要するにご同類か……じゃあ面倒を見てやらなきゃ」
彼は対物ライフルを抱えた。
「同じ憎悪で殺してやる」
「ガン飛ばしたのか!?」
「お前こそ目を離してたのかぁ!?」
「喧嘩だめです! シェオル型の歪虚さんは基本的に『人間』を優先的に狙うです! エドさんのせいじゃないです!」
アルマがトラックの間で仲裁に入る。彼はふと顔を上げた。トラックに乗っている二人はリアルブルー人だから当然人間であるわけで、同行したハンターたちの種族は……。
「つまり……あっこれ僕以外全員優先攻撃対象です!?」
「通信の邪魔になる。必要以上に喋るな」
「こっちの台詞だバーーーーカ!!!」
アルマはすぐ隣にあるトラックから、エドの怒鳴り声を聞いてひゅっと肩を竦めた。同じやりとりを聞いていた、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が馬上から、
「只者ではない相手を前にしても言い合いですか。実力もさる事ながら、その根性……今は当てにさせて貰いますよ」
「ダックワース! パルムを連れて少し離れる!」
「パタースンです。ヒールとプロテクションいけます。必要時に呼んでください」
「私達は、各々だけが出来得る事を行い、それらを調和する事も責務のうちですから」
トラックが動き出した。アルマとツィスカも、先に駆け出したカインたちに合流するべく走り出した。
●A VOID
時音 ざくろ(ka1250)はハヤテ丸で、星野 ハナ(ka5852)はバイクで、すでに戦場に突っ込んでいた。魔導バイクと馬の蹄の音が響き渡る。
「さぁ、お前の相手はざくろだ!」
パルムの乗るトラックから注意を逸らすために、カオスウィースを掲げる。シェオル型は体をよじりながら声を上げて、ざくろに詰め寄ろうとしていた。
そのシェオルを五枚の符が包囲した。ハナの五色光符陣だ。
「人間が嫌いかもしれませんけどぉ、おあいにく様、こっちもお前たちが嫌いですぅ!」
五色光符陣は、上手く行けば目くらましにもなる術ではあるが、それに抗しうる能力があっただろうか、ダメージは入ったものの、特に眩しがる様子はない。
ずかずかと前に出て、なおかつ純然たる殺意を放って挑発するカインに、アルマがアンチボディを掛けた。
「正気か?」
エドが運転しながら呻いている。下手したら両方から蛸殴りにされる。だからこそ、アルマもアンチボディで準備しているわけだが。
ツィスカが馬上から機導砲を撃った。シェオルは怒り狂ったような動きで回避。目があるならば、ツィスカを睨んでいることだろう。
「早いな」
機導剣・操牙で盾と斧を展開しながら紫苑が呟く。五色光符陣が当たったところを見ると、半減させれば回避は百パーセントを切るようだ。
「くらえ必殺、デルタエンドだ!」
ざくろのデルタレイが、二体ともを狙うが、やはり回避された。恐らく、普通に攻撃するとほぼ確実に避けられる。よっぽど相手の隙を突かないと無理だろう。
片方が、カインの殺意に釣られた。濁った金切り声が合図だ。跳躍して腕を振り上げる。カインはひとまず回避した。もう一体が殴り掛かったのはざくろだったが、クウランムールの防御力が物を言う。
「あわわ……やっぱり早いです。動きを止めないと危ないです」
アルマが進言する。彼は、紫苑にもアンチボディを掛けた。ざくろは自分と同じで頑丈な盾を持っている。ひとまず、カインと紫苑のダメージを軽減するのが良いと判断した。
回避を半減する攻撃ならハナには手数がある。御霊府「影装」で防御を固めると、バイクで一定の距離を保ちながら五色光符陣を放った。二体の巻き込みに成功する。
「それなら……制圧射撃の方が良さそうですね」
ツィスカが銃を持ち替えた。装填数十三。継戦能力を重視したベンティスカから放たれる弾幕が、吹雪の様にシェオルを襲った。カインに近い方に命中。叫び声が響いた。
依然殺意を燃やしているカインは、対物ライフル・狂乱せしアルコルを両手で構え、至近距離からシェオルに向かって撃ち放った。軋むような金属音。
「うわっ!」
その故障を疑いたくなる異音はエドにも聞こえたらしい。開いたトラックの窓から悲鳴が聞こえた。ハンターでなければ肩が吹き飛ぶような反動の威力。それを、本来の運用より遙かに近い距離から叩き込む。
だが、こちらは回避された。シェオルは、カインに向かって喚くように叫びまくる。
「うるせぇな」
毒づいたのは紫苑だった。
「でも、見えた。ざくろ」
「なにかな?」
「出るぞ」
●攻性防壁
ざくろはきょとんとしていたが、紫苑がナナカマドを指すと、その意図を察して頷く。
「紫苑さん、何考えてますか……」
ジョンが運転席から呻いた。
「殴らせる」
「えっ」
「カイン、下がってくれ」
言うや、紫苑とざくろは敢えて敵の眼前に立った。二人とも「人間」である。
この作戦に限って言えば、カインの純然たる殺意が差し金になった。恐らく、二回に一回は彼の挑発に乗る。バッドステータスが全く効かない相手ではない。だが、強度が低ければ通用しないだけの抵抗が、おそらくはある。練度の高くないジョンがレクイエムを持ってきていても、効果はなかっただろう。
「嘘だろ何考えてんだよ! 危ないよ!」
紫苑のトランシーバーからエドの喚き声が聞こえた。ますます好都合だ。
「重かったんだから、ちゃんと役立ってくんねえとなぁ……こっちだけちゃんと見てろよ……」
シェオルの爪が、紫苑の急所に向かって振り抜かれる。紫苑はグローブとナナカマドで受けた。それと同時に、雷撃の障壁を展開させる。凄まじい音がした。
紫苑もよろけたが、シェオル型の方はゆうに六メートルは飛んだだろうか。バウンドして、転がる。起き上がると、再び怨嗟の吠え声が上がった。動きが鈍い。
トラックに近づけないための攻性防壁だったが、このスキルは上手く行けば相手を麻痺させることもできる。そして、上手く行ったようだった。
「な──」
エドが絶句しているのが、トランシーバーからでもわかった。
「あ! ざくろさ──」
次に悲鳴を上げたのがジョンだった。ざくろの方は幸いにも急所は外れ、装備の整った胴部への殴打、なおかつ盾が頑丈であったため、彼自身はダメージを受けずに済んだようである。
「先へは進ませないよ、超機導パワーオン、弾け跳べっ!」
再び、雷撃。同じように吹き飛ばされた歪虚は転がって行く。
「紫苑! 無事か!? あんた正気かよ!」
エドが喚いている。紫苑は立ち上がると、胸をさすりながら応じた。
「問題ねえし正気だよ。それにしても、こいつの金切り声ほんとにうるせぇな」
「俺!?」
「お前じゃない……けど、お前も落ち着こうな」
「ふふ、うふふふふっ」
アルマが笑った。アンチボディは掛けた。ナナカマドもディスターブも持ち主を守った。攻性防壁もよく効いた。紫苑の怪我は見た目より軽く済んだだろう。
それでも。
「殺ス」
外套を翻して、アルマはシェオル型に迫った。黒い幻影はともすると怒りの具現とも呼べそうである。ざくろと紫苑から弾き飛ばされたシェオル型の周りには、味方が誰もいない。
「薪になるです?」
ファイアスローワーが怒りの如く放出された。
「避けにくい攻撃ならまったく当たらないわけじゃない。攻性防壁で麻痺してる今がチャンスだ」
態勢を立て直した紫苑が、再び操牙でニライカナイとナナカマドを操りながら言う。
「言うまでもないかもしれないけど」
目の前で相棒から燃やされるシェオルを見ながら付け足した。
「つまりぃ、五色連打ってことですねぇ? 任せてくださぁい!」
ハナが馬を走らせる。五枚の札を放った。五色光符陣そのものが避けにくい術である。
「紫苑さーん!」
ジョンが運転席からメイスを振り回している。ヒールだ。紫苑は手を挙げてそれに応じる。
「加速装置……」
強化術式・紫電を発動する。ざくろは奥歯を噛みしめながら、解放錬成、超重錬成を剣に施している。刀身が膨れ上がった。
「超重斬……刹那一文字斬り!」
シェオル型の頭が吹き飛ぼうかという一撃だった。そこに、ツィスカがまた、あの吹雪にも似た弾幕で打ちのめす。
「恨むなら恨め、でも、人間の未来をお前達に乱させはしない!」
一体がカインの挑発に乗った。飛びかかるような蹴りを、防具の頑丈なところで受ける。今度は避けない。最初にアルマから施されたアンチボディが、ここで彼を守った。障壁がダメージを緩和する。
カインは、普通に殴り掛かられただけなら、回避するだけの身体能力を持っている。だが、今度は避けなかった。
「殺してやる」
カウンターアタックの為だ。振り抜かれる、カオスウィースの刀身は、血しぶきの予感の様に赤く閃いた。
「ちゃんと面倒見てやるよ」
「丁度いいです、サービスです! 僕の最大火力見せたげます!」
アルマの左胸が青く燃え上がった。
●今際の後悔
遂に、シェオル型歪虚は二体とも消滅した。激戦だった。前衛でなおかつ「敢えて殴られる」戦法を取った紫苑、カイン、ざくろは結構な有様だった。各々、回復なり休憩なり、ハナに配られたチョコ餅を食べるなりしている向こうで、ハナが念のために、と浄龍樹陣を張って、植林場所を浄化している。パルムは分樹を持ってよたよたとそちらに向かっていた。
「転んではいけませんよ」
「ほら、足下気をつけて」
ツィスカとざくろがそれを見守ってついていく。
「カインさん、大丈夫ですか? ヒールどうぞ……ってその肩なんですか?」
ジョンは絶句した。傍から見ても対物ライフルの反動が、かなり肩に負担を掛けていたことが明らかだった。しかし、カインは何でもないようにしている。ジョンはメイスを握りしめておろおろし始めた。
「シオンー、心配しました」
「悪かったな。でも、アンチボディ効いてたから安心しろって」
「わざと殴られるとか正気じゃねぇよ……」
エドが呻く。
「俺の心臓が止まるかと思った……最悪あんたら置いて逃げなきゃいけない俺の身にもなってくれ」
「む」
すると、アルマがむっとしたような顔になる。まあそりゃお前の相方置いて逃げるぞって言やぁ怒るわ。エドが苦笑していると、ぽふんと頭に手が振り下ろされ……そのままわしゃわしゃとなで回された。
「わふふっ。冗談です、怒らないですー。むしろ、よくできました! エドさんの判断は正しいです! 一番大事なことを解ってるって言うのは、すごく大事な事ですよ」
それから、アルマは口の前で人差し指を立てて微笑んだ。小声でこっそり、とも、もう一つ大事なことだとも取れる。
「でも、ひとつだけ。お二人とも喧嘩するほど仲がいいって言うですけど、特に戦場ではおススメしないです」
「別に仲良いわけじゃ……それに、いつものことだよ」
「いつもの掛け合いだとしても……その会話が『最期』だった時、本当に後悔しないです?」
アルマは説教をするわけでも、上から押しつけるでもなく、ただ質問としてエドに告げる。
「……」
エドはそんなアルマをじろりと睨み上げた。
「ずるい」
「わふふ。僕、ずるいこと言いましたか?」
「ずるいよ」
紫苑とお互いに信頼しあって、嫉妬すらする余地のないきちんとした関係を作っているアルマにそんなことを言われたら、見栄よりも優先するものがあることは嫌でも直視せざるを得ない。エドはむくれてそっぽを向いた。
「……絶対に後悔する」
わかっている。そんな当たり前のことはわかっている。あんなこと言うんじゃなかった。相手が生きていたって後悔することがたくさんあるんだから、取り返しのつかないことになったりしたら、死ぬほど苦しむに決まっている。
「知ってるよ」
植林は順調だった。ざくろとツィスカ、ハナがかがみ込んで見守る傍で、パルムが分樹を植えている。
●誠意の形
「なぁんか酷い顔してますねぇ? 言わぬは腹膨るる業って言いますしぃ、どーんとお姉さんに話しちゃったらどうですぅ」
帰り際。トラックに乗り込もうとするエドにハナが声を掛けた。
「なにそれ」
「不平不満溜めてるとお腹いっぱいになるってことですぅ」
「燃費が良いよな」
「じゃなくってぇ」
ハナは首を傾けた。
「……ハンターは死まで含めて自己責任ですからぁ、自分が苦しいことは避けちゃってもいいんですよぅ」
多分、ハナなりに、パルムを守って逃げざるを得ない位置にいたエドを気遣っているのだろう。
「本当に傷つけた相手に必要なのは誠意で謝罪じゃないんですよねぇ。でも自己満足に過ぎなくても謝罪も人間関係の潤滑油にはなりますからぁ、言いたかったらばんばん言っても良いんですよぅ?」
「別に……気になるけど、作戦として必要なことなのはあんたたちもわかっててくれると思ってるし……」
思っているけど、それと感情面は別だ。
「難しい」
だいたい、今まで戦いと無縁の生活をしていたのだ。まだエドには「作戦」と言う物が理解できない。作戦として必要なのであなたは逃げなさい。他が死にかけていても。そう言われたところで納得なんてできない。
ハナは目を細めて笑った。
「私で良かったら話してくれて良いんですよぉ」
「……」
エドは目を逸らす。でも、言うことは決まっている。
「ありがとう」
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/02/23 23:43:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/22 01:48:04 |