• 血断

【血断】受難~デブリ帯偵察任務~

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/02/25 15:00
完成日
2019/02/28 06:31

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 事態は常に移り変わる。
 このまま進めば良かったが、現実はそう簡単では無い。
 逐次対応しながら、事態に対応する。

 それは苦々しくもありながら、嬉しくもある。
 子の成長があるとすればこのようなものなのか。

 ――さて。
 始めるとしよう。更なる子の成長を促す為に。


 ブラッドアウトの後、ラズモネ・シャングリラは月面基地『崑崙』の宙域に姿をみせた。
 敵の襲撃を警戒して崑崙周辺宙域の防衛任務が下されていた為だ。反重力バリアを持つニダウェリールであっても、常時バリアを展開している訳にはいかない。結局は、自らの手で基地を守る他ない。
「ああ~、退屈だよなぁ」
 ラズモネ・シャングリラへ配属されたばかりの新兵、ブロックの声が通信機から聞こえてくる。
 ブラッドアウトでは陽動作戦を任されたラズモネ・シャングリラであったが、ブロックのような新兵は出撃支援や控えに回された。元強化人間のCAMパイロットであっても、一般的な新兵と扱いは変わらない。
「ブロック。そんな気の抜けた声をブリッジに聞かれたら、艦長から『弛んでるザマスっ!』って怒られるぞ」
 レオンの注意が飛んだ。
 ラズモネ・シャングリラには艦長の森山恭子(kz0216)以外にも元教官のジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉や、山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)が乗艦している。新兵達は教育の観点から厳しく指導されているが、子供の多い元強化人間だけあって幼さが垣間見られてしまう。
「平気だろ。地上ならともかく、こんな宙域に敵なんて居るわけないって。
 あ~、腹減った。これなら、ステーキの付け合わせだったパインをお代わりしておけば良かったなぁ」
「だからお前……」
 レオンがそう言い掛けた瞬間、モニターに移っていたブロックのデュミナスが吹き飛んだ。
 上半身と下半身が分離。
 それぞれがあらぬ方向へ飛んでいく。
 そして――爆発。
 魔導エンジンが搭載されていた上半身は、爆炎に包まれる。
「……えっ!?」
 計器をチェックするレオン。
 しかし、警報も出ていなければ、レーダーに怪しい敵影もない。
 ただ、目の前にはブロックの機体が突如破壊された現実だけがあった。
「なんで……どうして……」
 機体の中で震えるレオン。
 共に戦ってきた同僚の死。
 だが、戦闘中ではない状況で突如の爆発。
 機体不良?
 いや、胴体が別れるような機体不良などあるか?
 レオンのデュミナス内にある通信機からはラズモネ・シャングリラのブリッジから報告を求める声が木霊する。


「お願いします! 僕らも偵察に出させて下さい!」
「駄目ザマス! 危険過ぎるザマス!」
 ラズモネ・シャングリラのブリッジでは、新兵のレオンとシーツの懇願に対して恭子が却下を続けていた。
 仲間が殺された事実は理解もする。
 しかし、歪虚の仕業だとしてもどのように倒したのかも分からない。そのような所に新兵を送り込めば更なる被害を拡大させる事になる。
「死ぬと分かって闇雲に行かせる訳にはいかねぇんだ」
 ドリスキルが新兵を諭す。
 レオン達も頭では理解しているのだろう。だが、それを上回るような感情の渦が若さと相まってレオン達を無謀な行動へと駆り立てる。
「ですが……」
「うるせぇ! テメェらじゃ無理だって言ってるんだよ!」
 ドリスキルの怒声がブリッジ中に響き渡る。
 ブロックを殺されたという点では、ブリッジに居る誰もが同じ思いだ。迂闊な指示を出した乗艦にも、ラズモネ・シャングリラを預かる艦長も悔しいに決まっている。
 その気持ちがドリスキルの感情にも火を付けた。
 ブリッジには通信オペレーターの声だけが木霊する。
「……周辺宙域で異変は?」
 沈黙を破るように八重樫が声を上げる。
 その問いに対して背後にいたオペレーターが答える。
「関係あるかは分かりませんが……」
「何だ?」
「デブリ帯に配置していた無人タレットの反応がありません」
 崑崙周辺宙域には空蒼作戦で破壊された軍艦やCAMの残骸が漂う宙域がある。月と共に転移されたものだが、ラズモネ・シャングリラは当該宙域に自動迎撃機能付きのタレットを配置していた。
 敵と思しき存在が通過すると自動で攻撃を仕掛けるが、そのタレットの信号が途絶えているらしいのだ。
「そこだな。俺が狙撃を仕掛けるとしてもデブリ帯からだ。隠れる場所も選り取り見取り。クソッタレ野郎の巣穴としては最適だ」
 吐き捨てるように呟くドリスキル。
 見立て通りなら、あのデブリ帯に何かがいるはずだ。
「ドリスキルは艦の護衛を頼む」
「分かった。頼むぜ、ヒヨッコ共の分もな」
「俺と数名のハンターでデブリ帯を偵察する。会敵も想定される。各員、出撃準備。必ず何かを見つけ出すぞ」
 八重樫は可能な限り感情を押し殺しながら、指示を出した。

リプレイ本文

 彼らは更に成長する。
 だが、その為には相応の贄と試練を要する。

 これも皆、必要な事。
 あとは――彼ら次第だ。


 月面宙域に浮かぶデブリ帯。
 それはリアルブルーでの戦いが如何に激しかったかを物語っている。
 宇宙空間に彷徨うCAMや戦艦の残骸。これらは廃棄もされず、漆黒の闇を彷徨い続ける。
「対空警戒、密にな。陽動の可能性もゼロじゃねぇ」
 オファニム『レラージュ・ベナンディ』に乗るアニス・テスタロッサ(ka0141)は、同行するリュー・グランフェスト(ka2419)へ呼び掛けた。
 デブリ帯は月が転移する際、偶然一緒に転移された宙域だ。
 その宙域にアニスとリューが入り込んだ理由は、デブリ帯の調査に他ならない。
「被弾したCAMの位置を考えれば、もう少し先の宙域か」
 リューはR7エクスシア『紅龍』で周辺宙域を警戒する。
 すべての発端はラズモネ・シャングリラ付近で友軍のCAMが狙撃、撃破された事になる。
 敵影が確認されていない事や狙撃ポイントからデブリ帯が怪しいと睨んだラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)。彼女は、早々にハンターへデブリ帯の偵察を打診した。何が待ち受けているのか分からない宙域であれば歴戦の戦士であるハンターを派遣するのが賢明と判断したのだ。
「狙った奴が余程の馬鹿じゃない限り、移動しちゃいるだろうな……。まあ、おおよその射程が知れるだけでも御の字だ」
 冗談混じりに答えるアニス。
 だが、その心境は笑える物ではない。デブリ帯からラズモネ・シャングリラまでの距離はかなりあるそこを狙撃でCAM一機葬り去る。
 いや、そもそも本当に狙撃なのか。
「皆さん、聞こえるザマスか?」
 二人はラズモネ・シャングリラからの通信を受信する。
 独特な口調から、声の主は恭子だとすぐに分かった。
「ああ。感度は良好だ」
「こっちもだ。今の所異常は見つからねぇな」
「了解ザマス。偵察前に説明したザマスが、デブリ帯に設置していた無人タレットの場所から調べて欲しいザマス」
 恭子の言った無人タレットとは、デブリ帯宙域に歪虚が潜入する事を想定してラズモネ・シャングリラが設置した自動タレットである。敵と判断した場合、タレットが目標を自動で攻撃する。問題は、このタレットがラズモネ・シャングリラのブリッジに信号が送られていない事だ。
 デブリに衝突して破損した可能性もある。だが、設置した複数のタレットが同時に信号を停止するのは不自然だ。
「分かった。向かってみる」
 紅龍がスラスターを点火。目標地点に向かって急速前進する。
 その後を追いかけるようにレラージュ・ベナンディもスラスターに火を入れる。
 まるで意識を吸い込みそうな宇宙空間。
 アニスの心に奇妙な感覚が流れ込む。
「さて。こっちが当たりか。それとも外れか……」


 ハンター達は戦力を二つに分けてデブリ帯の調査を行っていた。
 アニス達が無人タレットへ向かう頃、別班も同じように無人タレットのポイントへ移動を開始していた。
「クリムゾンウェストの宇宙は紫龍の管轄なんじゃねぇかと思うが、実際どうなんだろうな?」
 魔導型デュミナス『ドゥン・スタリオン』の魔導レーダー「エクタシス」に視線を向けるアーサー・ホーガン(ka0471)。
 アーサーの予想で下手人は歪虚化した兵器が本命と考えている。だが、対抗馬として同行不明の紫龍及び配下の未確認飛行物体も候補に入っていた。紫龍が存在していなくても、デブリ帯なら未確認飛行物体は身を隠す事ができる。
「さぁな。だが、グラウンドゼロで戦った未確認飛行物体が犯人だとすればどうやってCAMを破壊したんだ?」
 R7エクスシアでアーサーに追従する八重樫 敦(kz0056)。
 八重樫の言う通りだ。未確認飛行物体が遠距離攻撃を仕掛けられるのであれば、先の戦いで仕掛けていてもおかしくはない。紫龍が力を溜めて未確認飛行物体に新たな個体が現れた可能性もあるが、そうであるならば早急に原因を明確にする必要がある。
「そうだよなぁ。こりゃ厄介な相手だな」
「深入りは禁物だ。会敵すれば敵の能力も分かるだろうが、この状況は敵に有利と考えた方がいい」
 アーサーの呟きに対してキヅカ・リク(ka0038)は、はっきりと釘を刺した。
 キヅカはデブリ帯に何らかのトラップがあると考えていた。仮にCAMを狙撃したとしても、現場には二機いたのだ。わざわざ一機だけを狙撃した理由は、デブリ帯に友軍を引き入れる事だと考えていた。
 ワイヤーや機雷の類が漂っている可能性に注意を向けていた。
「トラップで歓迎か。ますます滾るな」
 ドゥン・スタリオンの機内で軽く武者震いをするアーサー。
 このまま無事に偵察が終わらない。それはこの場にいる誰もが感じ取っている事だ。
 そんな状況だからだろうか。キヅカはラズモネ・シャングリラへ回線を開く。
「おっさん、いるか?」
「……どうした?」
 キヅカが呼び出したのはジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉だ。
 キヅカは以前ドリスキルに言われた言葉が気になっていた。
「おっさん。アンタ、この前言ってたよな。『理想に潰されるな』って」
「ああ」
「俺は……昔なら、おっさんと同じ風に考えていた」
 昔なら。それは今はそう考えていない事を示唆している。
「ヒトである以上、全てを救えない。けど、そんな言葉を理由に諦めたら……何も変わらないじゃん」
「諦めねぇか。だが、お前のその手で何処まで助けられる? 仲間も恋人も頼らず、たった一人でやる気なのか?」
「分からない。でもさ……」
 そう言いながら、キヅカはため息をつく。
 たっぷりと間を置いてから、心中をゆっくりと話始める。
「幸せってきっと誰かが与えるものじゃない。自分自身で手を伸ばさなきゃ、掴めない。
 ……いや、手を伸ばしても掴めないかもしれない。
 ――それでも。
 そう言い続けてみせる。この世界で神だって救ってみせる」
 それはキヅカにとって覚悟でもあった。
 守護者だからじゃない。
 誰かに選ばされたんじゃない。
 自分から進んで選んだ。自分の意志で選択したんだ。
「強いねぇ。お前は」
「おっさん?」
「そう言い切るなら、精々頑張れ。俺から言える事は……」
 その後に続く言葉を、キヅカは何となく察した。
 それがキヅカにとって羨ましくもあり、そう言い切れる大人に自分がなれるのか――。
「惚れた女を泣かせる真似はするなよ?」


「おー、こりゃ見事に壊されてるな」
 紅龍のカメラに破壊された無人タレットが映し出される。
 何かに衝突したのであれば、タレットは圧力の掛かった方向から拉げるように潰れるはずだ。
 だが、リューの眼前にあるタレットは圧力の掛けられた形跡がない。
 表現するとなれば、外部から『別の衝撃』が加えられた事になる。
「どうザマスか?」
「映像は行ってるだろ? 見ての通りだ」
 アニスの目から見ても明らかだ。
 タレットは外部から衝撃――何らかの銃器で撃ち抜かれて破壊されていた。
 射撃後にタレットも爆発したのだろう。爆発による損傷も見られるが、タレットのボディに開けられた複数の穴が証拠だ。
「明らかにこのデブリ帯に何か潜んでる。それは間違いねぇな」
 そう呟きながら、アイスは周辺の警戒を強めた。
 敵が存在する予感は現実に変わる。デブリ帯に仕掛けられているトラップや大型のデブリに隠れてこちらの様子を窺っている可能性もある。
「会敵もミッションのうち、って事か」
 魔導パイロットインカムに向かってリューは呟いた。
 リューにも分かる。敵が息を殺して奇襲のタイミングを計っている事が。
 ――そして。
 その奇襲は、想像よりも早く仕掛けられる。
「背後のデブリだ!」
 アニスがいち早く声を上げる。
 紅龍の背後にあった大型のデブリ。そのデブリから姿を見せた歪虚CAMがCAM用アックスを振り上げる。
 アニスの声に応じてリューはシールド「ストルクトゥーラ」を構えて機体を捻る。
「奇襲ってぇのは、バレたら意味がねぇんだよ。むしろ、危機になるんだって教わらなかったか?」
 アックスの刃をストルクトゥーラが受け止める。
 激しい衝撃が紅龍の腕を通してリューの体へ到達。機体ダメージは――無し。リューも敵の存在に気付いて警戒していた事から、奇襲を阻止する事に成功した。
「各機、敵のご登場だ。歪虚CAMが一機……」
 そう言い掛けたアニスだが、アニスのレーダーにはもう一つの光点。
 友軍の信号はなし。それは別の歪虚CAMである事を意味している。
「訂正だ。歪虚CAMが二機。デブリに隠れた奴にケツは取らせねぇぞ」
 レーダーに感知したデブリに向けてレラージュ・ベナンディの可変機銃「ポレモスSGS」を撃ち込むアニス。
 それに反撃するように歪虚CAMもデブリから姿を見せてアサルトライフルで反撃を仕掛ける。
「新型じゃねぇ。よくいるタイプの敵だ。早々に片付ける。救援は不要……」
 リューがそう言い掛けた瞬間、恭子から悲鳴のような通信が飛び込んでくる。
「大変ザマス! 八重樫さん達に通信が繋がらないザマス!」
「なんだと?」
 歪虚CAMの攻撃を回避しながら、アニスは恭子へ聞き返した。
 アニスの疑問に答えるようにブリッジのオペレーターが割って入る。
「別班の周辺宙域がジャミングされています。こちらから何度もコンタクトを試みていますが、反応がありません」
 ジャミング。
 それはアニスやリューの声を八重樫達に届いていない事を意味している。
 いや、それ以上に重要な点がある事をアニスは即座に気付いた。
「くそっ! 当たりはあっちの方か!
 ジャミングなんて歪虚CAMはして来ねぇ。本命と会敵してるな」
「だったら、さっさとこっちの敵を片付けて駆けつけないとな」
 アニスの愚痴に対して、リューははっきりと言い切った。
 敵は歪虚CAM二機。勝てない敵じゃない。


 時間は、アニス達が歪虚CAMと遭遇する10分程後まで遡る。
 指定ポイントに設置されていた無人タレットが射撃によって破壊されていた。
 この事実からデブリ帯周辺宙域に何らかの敵勢力が潜んでいると判断していた。
「敵一機確認だ。牽制を仕掛ける」
 アーサーはドゥン・スタリオンに装備したプラズマキャノン「アークスレイ」で発見した歪虚CAMを狙い撃つ。
 大型のデブリに体を隠しながら戦う理由は、アーサーも直感で気付いているからだ。
 ――自動タレットを破壊したのはあの歪虚CAMではない、と。
「敵の兵装はアサルトライフルだ。回り込んで側面から叩け」
 対VOID砲大盾を前に八重樫はR7エクスシアを前進させる。
 アサルトライフルの弾丸を大盾で防いでいるが、本命は八重樫ではない。
 本命は――ハイパーブーストで歪虚CAMの側面へ回り込んだキヅカの魔導型デュミナス『インスレーター・FF』だ。
「目標を視認。このまま敵との間合いを詰める」
 デブリの間を縫うようにインスレーター・FFは歪虚CAMとの距離を縮めていく。
 わざわざデブリの間をすり抜けるのは、キヅカもまた目の前の歪虚CAMがラズモネ・シャングリラに攻撃を仕掛けた機体ではないと考えたからだ。アサルトライフルでは自動タレットを破壊できても、遠距離からCAMを狙撃はできない。
「敵の注意をこちらへ引っ張る。目を逸らすなよ……」
 アーサーはデブリを利用してアークスレイを跳弾させる。
 あらぬ方向から飛来する弾丸が歪虚CAMの機体を掠める。
 それで良い。こちらに注意を向けてくれるなら、側面から接近するキヅカに意識が向けられる可能性は低くなる。
「一機相手に複数で戦うのも戦争だ。悪く思うな」
 ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」の射程距離に入った段階で、キヅカは歪虚CAMへ弾丸の嵐を叩き込む。
 命中する弾丸。
 キヅカがそのまま歪虚CAMの傍らを通過。
 一拍の間を置いてから、歪虚CAMの機体は爆炎に包まれる。
「やったか」
 八重樫は呟く。
 だが、警戒は解いていない。
 この爆発を何者かは見ているはずだ。
 見ているのなら、こちらに何らかのアクションを仕掛けるに違いない。
「おっさん、歪虚CAMを一機撃破だ。更に探索を続ける」
「……おい……き……えて……」
 キヅカの魔導パイロットインカムから聞こえてくるのは、ノイズ混じりのドリスキルの声。
 明らかなる異変。
 完全に聞き取れなくなるのに、そう時間はかからなかった。
「来やがったな」
 アーサーは大型のデブリからデブリへ移動を開始する。
 都合の良すぎるジャミング。
 通常の歪虚CAMでは考えられない対応。
 間違いない。未知の敵はこちらにターゲットを仕掛けてきた。
「各機……聞こえ……」
 異変に気付いた八重樫の声が、ノイズ混じりで聞こえてくる。
 周辺を警戒してみるが、敵の姿は視認できない。
 しかし――敵の手は確実に近づいていた。
「……ぬう!」
 突如、八重樫のR7エクスシアに激しい振動。
 対VOID砲大盾に強烈な一撃。
 その光景はキヅカのインスレーター・FFからも目にする事ができた。
「八重樫!」
 キヅカの呼び掛け。
 だが、ジャミングによりキヅカの声は届かない。
 更に――。
「……ぐっ! 今度は、背後からだと?」
 R7エクスシアの操縦席に被弾を知らせるアラームが鳴り響く。
 前面から攻撃を受けたと思った矢先、突如背面からの攻撃。
 爆発が生じ、R7エクスシアのスラスターに異常が発生する。
「……こいつは、ちょっと不味いかもな」
 アーサーは敵影を捜し続ける。
 敵は一体何処へ隠れているというのか。


「急いで欲しいザマス!」
「分かってる。こっちも全力だ!」
 恭子の要請にアニスは声を荒げながら返した。
 敵がジャミングを用いてきた。戦力を分断したが故、何者かと出会った班に危険が及んだ。
 いや、彼らも歴戦のハンターだ。そう簡単にやられるはずは無い。
 だが、敵が規格外の相手なら――。
 様々な感情がアニスの中に渦巻き始める。
「ブリッジ、別班と連絡が取れなくなって何分経過した?」
 リューはブリッジへ問いかけた。
 歪虚CAM二機を撃破して早急に目標とされるポイントへ向かったが、果たして簡単に合流できるのか。
「まだ数分ザマス」
「数分か」
 リューは自分へ言い聞かせるように恭子の言葉を繰り返した。
 数分――この数分が明暗を分ける事もある。
 敵がどのような能力を保持しているか分からない以上、最大級の警戒は必要だ。
 お互いの通信も妨害されるのであれば、紅龍と自分の能力を十二分に引き出さなければならない。
「こっちも全力力だ。死ぬんじゃねぇぞ」
 アニスはアクティブスラスターを発動してレラージュ・ベナンディを現地へと急がせる。


「……あれか」
 アーサーの目に飛び込んできたのは、ある機体だ。
 宇宙に映える純白の機体。
 鎌倉でみたヴァルキリーとは真逆。造型に至っては大きく異なる。
 感覚な印象で言えば――。
「純白のマスティマか。だが、見た目以外はどうだ?」
 プラズマキャノン「アークスレイ」の照準を純白の機体へと向ける。
 マテリアルエンジンと直結させ、マテリアル波動による遠距離射撃。射程距離ギリギリの攻撃になるが、相手が本当にマスティマクラスなら早めに攻撃を仕掛けておきたい。
(白い悪魔なんて事には、なるなよ)
 アーサーは息を大きく吐いて意識を純白の機体へと向ける。
 そして、ドゥン・スタリオンの銃口を軽く回した後に引き金を引いた。
 撃ち出されるマテリアル。
 純白の機体へと真っ直ぐに向かって行く。
「どうだ?」
 アーサーの声が漏れる。
 だが、マテリアルは純白の機体の直前で掻き消える。
 よく見れば機体の前方にビームシールドが展開されている。
「シールドを展開したのか? やはりただの機体じゃないな」
 攻撃を受けた八重樫の機体を庇いながら、キヅカは大型のデブリから様子を窺っていた。
 アーサーの狙撃を弾いたビームシールド。
 腕に装備をした訳ではなく、直前でシールドが展開されて阻まれたといった具合だ。
 敵の存在が判明した以上、これ以上の深入りは味方に損害が生じる可能性がある。
「八重樫、ここは撤退……」
 そう言い掛けたキヅカだったが、突如インスレーター・FFに激しい衝撃が加わる。
 キヅカの体に衝撃が伝わってくる。
「なんだ? ……被弾だと!?」
 キヅカの操縦席では被弾の警告が表示されていた。
 純白の機体との間には大型のデブリがあったはずだ。
 向こうの射線には入っていないのに。
 キヅカは原因を探るため、必死で周囲を調べ始める。
 そして――。
「これは?」
 キヅカの目に飛び込んできたのは球状の端末。
 謂わば無線誘導式攻撃端末であり、デブリの背面に隠れていてもこの端末が死角からビームを発射していたのだ。
 もし、この目に飛び込んできた情報が確かならば。
「まずい! デブリに隠れているのは無意味だ。敵に見つかってる!」
 キヅカは八重樫に叫ぶ。
 同時刻、アーサーのドゥン・スタリオンも純白の機体に接近を試みた所、攻撃端末からのビームを受けていた。
「そういう事か! 反則だろ、こんなの!」
 試作型スラスターライフルで攻撃端末に牽制攻撃を仕掛けて回避する。
 キヅカも攻撃端末を撃ち落とそうとガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で弾丸をバラ撒く。
 少しでも弾幕を張って攻撃端末を近付けないように試みる。
 その甲斐あって二機は必要以上に攻撃を受けるなかった。
 問題は、八重樫の方である。
「……ぐぅ。まずいな」
 八重樫の口から苦々しい言葉が漏れる。
 八重樫のR7エクスシアは重装甲な上に対歪虚砲大盾を装備した機体だった。これは万一の為に盾役としての役割を果たすためだが、この攻撃端末相手には相性が悪い。機動性が犠牲にされている上、武器はアサルトライフル程度。盾を構えても攻撃端末は背後からビームを放ってくる。
 既に八重樫の操縦席は激しい損傷を受け、アラーム音が鳴り響いている。
 そして、この壊れかけの盾を純白の機体は逃がさない。
 背面から取り回したのは、大型のライフル。
 それは軽装備なCAMであるが一撃で破壊した長距離用ライフルだと一目で分かる。
「八重樫のおっさん、スラスターで逃げろ!」
 アーサーの声。だが、ジャミングで声は届かない。
 定められる照準。
 周辺の宙域に緊張感が走る。
「させると思ってんのか!?」
 別方向から現れたレラージュ・ベナンディがプラズマライフル「ラッド・フィエル01」によるカウンタースナイプ。
 同時に発射されるマテリアル。アニスの狙撃はビームシールドで弾かれるが、純白の機体の狙撃は軌道が変わる。
「やらせるか!」
 放たれたマテリアルは紅龍のマテリアルカーテンにより防がれる。
 マテリアルカーテン越しでも敵の攻撃の威力ははっきりと分かる。
「舐めたマネしやがって……落とし前はつけてもらうぞ!」
 別班の合流により形成は大きく変わる。
 その事が分かったのだろう。純白の機体は反転。そのままスラスターを全開させて宙域から離脱する。
「……くそっ! 逃げやがったか」
「それより今は八重樫だ。ラズモネ・シャングリラへ運ぶ」
 純白の機体が撤退した為、回復した通信でキヅカ八重樫へ必死に呼び掛ける。


 ラズモネ・シャングリラへ運ばれた八重樫は、医務室へ直行した。
 命に別状はないが、R7エクスシアは大破。
 正体不明の機体はデブリ帯で確認された事から『エンジェルダスト』と便宜上名付けられた。
 おそらくこの機体と交戦する事は今後もあるだろう。
「理想に潰されず、全部背負っていくってぇなら、エンジェルダストが必ずお前の道に立ちはだかる。必ずな」
 ドリスキルに言われた言葉がキヅカに刺さる。
 エンジェルダスト。あの機体は、絶対に墜とさなければ――。

依頼結果

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MVP一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサka0141
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ファイナルフォーム
    インスレーター・FF(ka0038unit001
    ユニット|CAM
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ドゥン・スタリオン
    ドゥン・スタリオン(ka0471unit001
    ユニット|CAM
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ロート
    紅龍(ka2419unit003
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アニス・テスタロッサ(ka0141
人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2019/02/24 22:10:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/21 01:10:07