• 陶曲

【陶曲】新人救出及び嫉妬歪虚殲滅任務

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/03/01 09:00
完成日
2019/03/07 01:56

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●嫉妬軍将のほしいもの
 また人形を貸して欲しい。下位の嫉妬歪虚、アウグスタにそう請われて、クラーレ・クラーラ(kz0225)は緩く微笑んだ。
「今までもお人形たくさん貸してもらったのに勝ててなくてごめんなさい! でもね、今度は勝算があるの! 私が今捕まえようとしているハンター、一人の司祭様のところにかくまわれているらしいから、その人を袋叩きにして連れてくるわ」
「そう言うことでしたら、構いませんよぉ。今度は硝子人形をお貸ししましょう。あなたもお気に召すと思います」
「ありがとう! ところで、私がハンターを捕まえてきたら、お兄様、使ったりする? せっかくこんなに色々貸してもらったんだもの。なんだっけ、『せんりひん』? とか言うのでしょ。欲しいならあげる」
「硝子細工なら興味はありますがねぇ」
「そんなに綺麗じゃないかな。眼鏡は掛けてたけど細工って感じじゃないし。うーん、お兄様からしたらガラクタかも」
「でしたら、興味はありませんねぇ」
「そっかぁ。じゃあ良いわ。私が予定通りもらっちゃお!」
「ええ、そうされると良いと思いますよぉ」
 くるりとパラソルが回転した。四本腕の青年と、幼い少女。サーカス舞台裏の如き二人だが、その演目は血で記されている。

●割れた鉢
 ハンクはため息を吐いた。ヴィルジーリオ司祭の聖堂に居候してから一ヶ月が経とうとしている。先日、チューリップを鉢に植えた。今のハンクには、自分がいないと死んでしまう存在が必要だ、と司祭に言われたからだ。
 日が延びて、少しずつチューリップも育っていた。枯らしたらいけないと言う使命感はあったが、成長が楽しみでもあった。そんな矢先……。
「どこから落ちたんだろう」
 外から鉢の割れる音がして、出てみたらこれだ。何故か玄関の前で鉢が砕けている。
「新しい鉢に植えたら良いのかな」
 この町の園芸主任、サンドラに聞いてみよう。そう思って、ハンクが割れた鉢を片付けようとしたその時だった。
「割ってしまってごめんなさいね、ヘンリー」
 少女の声がした。ハンクは青ざめて顔を上げる。
「アウグスタ……」
 ハンクの孤独感につけ込んだ嫉妬歪虚、アウグスタがそこにいた。
「あなたが出てきてくれて良かったわ。あの赤毛の司祭様だったらどうしようと思って」
「君が割ったのかい?」
「ええ。あなたとお話ししたくて。この前はごめんなさい。乱暴なところを見せてしまって。あのハンターたちと私、ちょっと仲が悪いのよ。でもね、私、あなたとなら仲良くなれると思うな。どう? もう少しお話ししない?」
「……君は、VOIDなんだろう?」
 ハンクは自分の手にはめているマジックリングに意識を寄せる。護身用に、と司祭からもらったものだ。威力はそこまで出ないが、アウグスタの蜘蛛くらいならどうにかなるでしょう、と。調整も済んでいる。ハンクはまだ、日常生活で杖を持ち歩くほどハンターに馴染んでいない。
「うーん、でも、種族の差ってそんなに大きいかな? 別の種族でも結ばれている人を見たことない? 私たち、きっと仲良くできる。あなたはお友達が自分の方を向いてくれなくてやきもち。私はお迎えが来てくれないからやきもち。似たもの同士だと思うんだけど」
 アウグスタは首を傾げてさみしそうな顔になる。大人の庇護欲をそそるような表情だ。
「私ね、この前お友達になれたと思った人がいたんんだけど……その人にもそっぽ向かれちゃったの」
「ハンク、どうしましたか………」
 その時だった。ハンクが戻らないのを不審に思ったヴィルジーリオが玄関を開けた。彼は、ハンクが振り返ると同時に視界に入った少女を見て顔を強ばらせた。
「ご機嫌よう、司祭様」
 アウグスタは微笑む。ヴィルジーリオが持っていたスタッフを掲げた瞬間だった。その腕に、屋根から何かが落ちてくる。
「なっ……」
 それは細い剣を持った硝子人形だった。クラーレ・クラーラの尖兵。その剣が、司祭の前腕を貫通している。
「司祭さん!」
「ヘンリーを誘い出せば出てくると思った」
 アウグスタはハンクの手を握って引っ張った。司祭を囲むように、隠れていた人形たちがぞろぞろと現れる。
「あなたにはここで死んでもらうわ。ごめんなさいね? 邪魔なの」
 だからこそ、アウグスタは人目につくかもしれないのを承知で、ハンクとの話を引き延ばしていたのだ。確実に殺すために。
「お前、ふざけるのも大概にしろ──」
 赤毛の司祭が全ての外面をかなぐり捨てたその瞬間、人形たちが次々と動いた。

●全部返り血なの
 ハンクは呆然としたままアウグスタの大蜘蛛に乗っている。その前に少女歪虚がちょこんと座って蜘蛛の手綱を引いていた。二人には、あちこちに血が付いてた。司祭の血だ。
「上手くいったわ。やっぱり、クラーレお兄様のお人形は強いのね」
 アウグスタはご満悦だ。
「クラーレ……?」
「私よりずーっと強いお兄様よ! 最近は裂け目ってところでずっと作戦を立ててるの。きっと面白いことを考えてるのね」
 ハンクには、クラーレという名前も、裂け目と言う地名もピンと来ていない。ただ、歪虚のアジトなんだろう、と言う理解はしている。
「エドがいなくなって寂しい?」
「え?」
「ごめんなさいね、私が狙ったのは、亜麻色の司祭様だけだったんだけど、エドは運悪く居合わせてしまったから……でも、私がお友達になってあげるから大丈夫よ」
(アウグスタは、アルトゥーロ司祭の生死を知らない?)
 自分の作戦の結末を確認していないのだ。エドたちも死んだと思っている。
(生きてるって知ったら……どうするんだ?)
 また殺しにくるのだろうか。エドを? 司祭を?
 マジックリングが陽光に輝いた。アウグスタはまだ上機嫌で喋っている。
「……アウグスタ」
「なぁに?」
「僕から周りの人を奪わないで欲しい」
 振り返ったアウグスタが見たものは、自分に向かって放たれる火球。
 蜘蛛の上で爆発が起きた。ハンクとアウグスタは、それぞれ反対方向に落ちる。
「うう……」
 ハンクは咳き込みながら起き上がった。向こうでもアウグスタの呻き声が聞こえる。
(早く逃げなきゃ)
 彼はよたよたと起き上がると、来た道を走って戻って行った。
 眼鏡も吹き飛んで前がよく見えない。

●ハンターオフィスにて
「ヴィルジーリオが滅多刺しにされてハンクが連れて行かれた!」
 オフィスではC.J.(kz0273)が激怒しながら概要を説明している。知らない間柄ではない司祭の重体に、怒り心頭なのだ。そこに、平坂が駆け込んで来る。
「C.J.さん続報ですぅ! アウグスタが逃げた方面で爆発が確認されましたぁ!」
「えっ、マジで? もしかして、ハンクが反撃した? よしよし。今先行してマシューが追い掛けてる。君たちも爆発の方向に向かってくれ。よろしく頼む。あの女に目に物見せてやってくれ」
 彼はそう言うとコートを取った。
「僕は付き添いに行ってくる」

リプレイ本文

●白昼のしし座流星
「ヴィルジーリオさんとかいう司祭さんが刺されて重体? ハンクさんとかいう人が、歪虚に連れ去られた? どういう人なんですか?」
 天央 観智(ka0896)は騒ぎを聞きつけてC.J.から説明を受けると、首を傾げた。歪虚に連れて行かれるとは穏やかではない。
「歪虚にたぶらかされて自分を見失ってたんだよ」
「歪虚の行動も、気になりますけれど……」
「それは救出に行って自分で確かめて欲しい。行ってくれるよね?」
「はい、勿論行きますよ」
「必ず助ける。急ごう、レグルス!」
 説明を聞くや、鞍馬 真(ka5819)はすぐにその場を離れた。相棒のイェジドの支度を始める。
「ヴィルジーリオも知った顔だから、容体が気になるけど……」
 と、慌ただしく出て行くC.J.の方へ視線を送りながら夢路 まよい(ka1328)が呟く。
「とりあえず、ハンクを見つけたから助けてあげないと!」
 知人の容体が気になるは気になるが、今まよいが救えるのはハンクの方だ。彼女はグリフォンのイケロスに乗っていくことにした。

●夢に乗って
 真のレグルスはフェンリライズにて、ただでさえ速い足が更に速くなっている。その後ろから、まよいとイケロス、穂積 智里(ka6819)とペガサス、ルカ(ka0962)と白縹、トリプルJ(ka6653)とイェジド、観智が乗るR7エクスシアが追い掛ける。
 先行した真は、ファイアスローワーの破壊エネルギーを見付けた。バイクに男性が二人乗りしている。片方は知らない顔だ。恐らく彼がマシューだろう。
「ハンクくん!」
「真さん!」
「助けに来た! 大丈夫かい!? その怪我は……」
「ファイアーボールで……僕は大丈夫です……でも、司祭さんが……」
「C.J.さんが病院に連れて行くよ! 向こうは任せよう。今は君だ!」
 真は二体いる大蜘蛛を見据えると、ソウルトーチを使用した。マテリアルが燃え上がる。蜘蛛と人形が一斉にこちらを向いた。数匹は抵抗してしまったが、概ね上手く行ったようだ。
 マシューのバイクがその隙に敵の間から逃げ出す。目論み通りだ。バイクはレグルスの後ろに隠れるようにターンする。
「今、迎えが来る」
「迎え?」
 二人は真が来た方を見て、目を丸くした。グリフォンが一頭、ペガサスが二頭、イェジドがもう一頭、CAMが一機。
「怪獣映画みたいですね」
 マシューが呟いた。そうこうしている間に、真のソウルトーチに釣られた敵は次々とレグルスに飛びかかる。イェジドはそれを全て回避した。マシューは自分に寄ってきたものを攻性防壁で弾き飛ばす。
「追いついた!」
 愛らしい声が聞こえた。グリフォンに騎乗したまよいだ。
「退けよ、てめぇら!」
 トリプルJが、イェジドの背に乗りながら、二メートルはあろうかと言う大剣を振り回して人形と蜘蛛の群れに突入した。蜘蛛よりは耐久力があった筈の人形が、呆気なく割れて砕けていく。彼はハンクを見下ろした。
「大丈夫だったか、ヘンリー。無事で良かったぜ」
「あ、ありがとう……」
「はい、では守ってますから、まよいさんのイケロスに乗ってください」
 観智はエクスシアで二人の前に立つと、ブラストハイロゥを展開した。その後ろに、イケロスが着地する。
「さ、今の内に乗って乗って!」
「さあ、ハンク乗ってください」
 マシューとまよいの手助けでマシューはグリフォンによじ登る。まよいはハンクが無事に乗り込んだのを確認してからマシューに、
「マシューはどうする? 三人までなら乗れるけど、バイクが気になるとか、残って戦いたいとかあれば……」
「いえ! 乗ります! これだけハンターが来てるのに自分が下に残る理由もメリットもありません!」
 マシューは叫ぶように言うと、バイクのアクセルを回して敵陣に突っ込ませた。人形と蜘蛛がいくつか破損する。どうやら、マシューも囲まれたことに相当焦っていたようだ。やや乱暴に彼の言葉を訳すなら、「残ってたまるか」と言ったところだろうか。
「わかった! じゃあ乗って!」
 まよいは快く席を示した。
「ありがとうございます!」
「アウグスタは……」
 ペガサスに乗って、智里が周囲を見渡しながら呟く。見える範囲にはいない。それを聞きつけたハンクは、
「た、多分逃げていきました。もういないと思います……」
「そうですか……」
 智里は彼女に言いたいことがあった。報告書で読んだ、彼女の生前。
(私達は、貴女へ繋がる手がかりを見つけたかもしれません。アウグスタ……貴女は自分を歪虚にした相手のことを覚えていますか。貴女のお母さんが貴女を迎えに行けなかったのは、その歪虚のせいかもしれない)
 聞きたいこと、話したいこと、伝えたいことはたくさんあった。なかなか行き会えない。
 マシューもイケロスに乗り込んだ。グリフォンは、まよいの指示を受けて飛び上がる。
「救出完了だよ!」
 それを受けて、智里はペガサスにエナジーレインを指示してハンクとマシューの治療を行なった。一緒に乗っているまよいとイケロスには衝撃緩和がかかる。
「まよいさんありがとう! いくぞレグルス!」
(ガラスの人形に、ブリキの蜘蛛ですか? よく判らない取り合わせ……ですけれど、嫉妬の歪虚絡みなのは、判りますね)
 観智は首を傾げながらブラストハイロゥの結界に邪魔されている雑魔たちを見ている。親玉がどこかにいるらしい。だが、どうもハンクの言葉によると親玉は逃げて行ったようである。
 ルカはまよいが無事に飛び立つのを見ると、ペガサスの白縹に指示を出してイケロスの下辺りに陣取った。真がソウルトーチで引きつけているが、万が一に備えたのだ。彼女はそのまま、真を囲むようにしている集団にプルガトリオを放った。
「気をつけてください」
 耐久力は低そうだが、攻撃力もそうとは限らない。少しでも攻撃の手数を減らした方が良いだろうとの判断だった。

●戦の咆吼
 トリプルJの初撃で、小型の敵はそこそこ数が減った。だが、まだ蜘蛛も人形も残っている。彼のイェジドが高く吠えた。ウォークライだ。
「邪魔だ!」
 真を囲むようにしている集団にラウンドスウィングを叩き込む。硝子が割れる音、ブリキの脚がへし折れる音が甲高く響いた。
 ブラストハイロゥを解除して、観智がエクスシアからライトニングボルトを放つ。ファイアーボールでは他が巻き込まれる恐れがあった。電撃に撃たれた蜘蛛は消滅するが、硝子人形は持ちこたえたようだ。
「うーん、七芒星使えるならいっちゃおうかなって思ったけど間違いなく誰か消し飛んじゃうね」
 まよいは呟くと、フォースリングの術式を用いた上で、ダブルキャストも使ってマジックアローを十本放った。光の矢が飛んで行く。耐久力のある硝子人形を優先的に狙った。このグリフォンは、自分で安定飛行が可能である。まよいが攻撃に集中しても、イケロスは飛行を続けた。
 真が歌う星影の唄が、アウグスタがいれば嫌がっただろう「ハンターの歌」が戦場に響く。彼は大鎌を構えた。小型もろともまとめて薙ぎ払う。トリプルJのイェジドが吠えたのがよく効いているようだ。人形と小型蜘蛛も巻き込む事に成功する。
「当たったは当たったけど……」
 回避しようとする動きに勢いがある。
「何度も戦った敵だけど、今日はやけに活きが良いね」
「そうか? これが普段もっと大人しいって?」
 トリプルJが眉を上げた。彼は蜘蛛と戦うのはこれが初めてだ。
「全然大人しくないけど、今日の方が、動きが激しいかな」
「明らかに素早くなっています!」
 智里が空から声を掛けた。
「多分、攻撃もいつもより勢いがあると思います! 気をつけて!」
「ああ、そうしよう」
 智里のデルタレイが、トリプルJの前にいる大蜘蛛に二本当たった。真の前にいる方は謎の反射神経を見せて飛びすさる。
 蜘蛛が真に飛びかかってくる。スティールステップを指示するまでもなかった。レグルスも張り切っている。だが、大地を滑るその勢いに、かなりの気迫を感じた。今までにはなかった勢いだ。以前と今回の違いはと言うと……。
「……こいつ、アウグスタが乗っていない方が強いんじゃないかな」
 背中に乗る少女の存在だけだ。
「乗り手に気を遣ってたのかもね」
 まよいが肩を竦めた。主を振り落とすまいと頑張っていたのだろう。トリプルJも片目を細める。
「見た目より繊細だな」
「その割に、アウグスタは結構めちゃくちゃにこき使ってるけどね」
 小型蜘蛛たちが、上空のハンターたちに向かって糸を吐きかける。もとより、手練れのハンターたちだ。この程度の糸では邪魔にもならない。
「鞍馬! 片方抑えててくれ」
 トリプルJがイェジドから降りた。白兵で出るつもりだ。
「わかった! レグルス、マウントロックだ!」
 レグルスが大蜘蛛に飛びかかった。蜘蛛は呆気なく転ぶ。ひっくり返って、亀のように脚をばたばたさせた。その度に、金属の連結部分が軋むような音を立てる。
「やかましいが、こいつは好都合だ」
 トリプルJはウェンペでカーネージーロアを振るった。大蜘蛛を二体巻き込む形になる。真がひっくり返した方は、あまりにも動けない形で転ばされたようで、回避する間もなく叩き斬られた。
「いいよいいよ! すっごく効いてるみたい!」
 まよいが上から応援と一緒にマジックアローを降らせた。マシューも、デルタレイを小型蜘蛛に放つ。ウォークライの効果範囲にいた蜘蛛や人形たちには避け損ねたものが出た。蜘蛛、人形合わせて十体を切った。観智は、生身で前に出るトリプルJにウィンドガストをかける。
「あ、あんなにいたのに……」
 ハンクが呆然として呟いた。トリプルJは、蜘蛛から視線を逸らさずに、にやりと笑う。

●殲滅
 観智、まよい、マシューの攻撃で、小型蜘蛛と人形は全滅した。あとは大蜘蛛だけだ。
「逃がさない……!」
 いつも、アウグスタは分が悪くなると撤退する。この蜘蛛たちは、指示がなくても撤退するだろうか? 二刀流からのアスラトゥーリが、大蜘蛛を叩きのめす。
 やがて、真のソウルトーチから片方が注意を逸らした。狙うのは、トリプルJだ。勢い良く糸を吐きかける。しかし、星影の唄がそれを邪魔した。強度の落ちた糸は大剣でぶった切られた。
「ブロッキング!」
 自分のイェジドに指示を出す。狼と蜘蛛のにらみ合いが始まった。そこに、横合いから突っ込んで、剣を叩きつけた。
「いくよー!」
 まよいがマジックアローを撃ち放つ。残りが二体であるなら、ダブルキャストを使うまでもない。フォースリングがあれば充分だ。
 蜘蛛は撤退しなかった。しようともしなかった。マジックアローに貫かれて、力尽きたのか、傾いて、動かなくなる。そのまま、損傷の酷い部分から塵になって崩れて行った。
「助かった……」
 イケロスの背で、マシューが息を吐く。
「すごいですね、ベテランって」
「大丈夫だよ、マシューもいずれこうなるから」
 まよいがころころと笑った。マシューは、
「いずれ、が来世にならないよう頑張ります」
 くすりと笑って返すのだった。

●大地の裂け目
 ハンクはイケロスの上でぐったりしている。自分が招いてしまった災禍に決着が付いて安心したのだ。そのまま、まよいは二人を乗せてハンターオフィスまで仲間たちと一緒に帰還する。出迎えたのはオフィス職員・平坂みことだった。
「ああ! ハンクくん! 無事で良かったですぅ! って何ですかその怪我ぁ!」
「あ、ファイアーボール至近距離で撃って……ちょっと治してもらったんですけど」
「ヴィルジーリオさんの入れ知恵ですねぇ……」
 みことが唸っている横で、ルカがフルリカバリーをハンクに施した。綺麗さっぱり治った怪我に、ハンクは呆然としている。
「こ、こんなに綺麗に治るんだ……」
「処であの人形さん達は今までアウグスタさん? が使用しなかった……もしくは自分の持ち物らしくないのでしょうか?」
 彼女は首を傾げた。観智がその隣で頷く。
「そうそう、僕も変な取り合わせだなって思ってたんです。大きいのと小さいのがいたから、普段は蜘蛛が主力なのかな」
「アウグスタは、普段は小型の蜘蛛をけしかけたりしているんです。硝子人形は、クラーレ・クラーラという嫉妬歪虚の持ち物なんじゃないでしょうか。少なくとも前連れて来た陶器人形はそうだったみたいです」
 智里が言った。彼女はそのまま、アウグスタについて簡単に説明をする。大蜘蛛に騎乗して戦うこともある外見八歳程度の少女歪虚で、「迎え」と言うものにひどくこだわっていることを。
「ねえ、ハンク、このまま事情を聞かせてもらっても良いかな? アウグスタは何か喋ったのかな?」
 まよいが手を引いてハンクをソファに座らせる。ハンクは困った様に、
「僕には全然意味がわからなかったんですけど、クラーレって言う強い人の話は聞きました」
「他には?」
「裂け目がどうとか……ええっと、クラーレが、裂け目で面白いことを……とか言ってたような気がしますけど……正直そう言ってたかどうかもちょっとよく覚えてなくて」
「無理もないよ。目の前で人が刺されたんだから」
 真が顔をしかめて首を横に振った。
「君が無事で良かった。アウグスタを拒絶してくれて、私は嬉しい。君が自分で決められたっていうことも」
「ありがとうございます……やっぱり、自分の気持ちをVOIDに利用されるのは嫌だなって思いましたし……自分の周りの人がいなくなったら本末転倒だし……」
 もごもごと言う。真はその様子を見て、柔らかく微笑んだ。
「裂け目って、大地の裂け目のことですかねぇ」
 みことが首を傾げる。
「クラーレがそこで何か企んでるってことかなぁ。今の根城なのかもね。他には何か言ってた?」
「あ、この前、アルトゥーロ司祭さんが襲われて、僕の友人二人も巻き込まれたんですけど、アウグスタはその結果どうなったか知らないみたいでした」
「アルトゥーロさんは助かったんですよね。エドくんたちと一緒に」
 みことが言うと、ハンクは頷く。
「それを、死んだと思っています」
「詰めの甘い野郎だ」
 トリプルJが鼻を鳴らした。彼はまよいを見て、
「さて、話はこんなもんで良いか?」
「そうだね。また思い出したらオフィスに教えてあげて」
 まよいが頷くと、彼はハンクの顔を覗き込む。
「見舞い、行くだろ?」

●Henry
「お前と話をしたいと思っていた。人伝てだが、ジョンが歪虚のことを詳しく知らないって言ってたって聞いたもんでな。お前もそうかもしれないと思ったんだ。歪虚はな、死や消滅によって歪んだ存在だ。何事も相手を殺すことでしか解決できねえ」
 司祭の搬送先はオフィスから聞いてある。トリプルJは、道すがらそんな話を始めた。
「傍に居るだけで負のマテリアルで蝕んで緩慢に命を殺す。憎んだ者を殺し愛した者を殺す」
「ええ……」
「今じゃねえ、少し前の話だが。撤退戦で軍を庇い全滅した騎士団があってな。そこの騎士団長は自分の父親を殺しに来た。この力があれば、老いさらばえた父上も全盛期の力を取り戻せるってな」
「ああ……」
 確かに、自分がアウグスタの様にあの大きな蜘蛛を操る能力を持っていれば、こんなにハンターたちの手を煩わせなくて済んだかもしれない。なるほど、そう言う発想になるのか。
「敬愛ですら死の動機にする。 阻む者全てを殺し目的を叶えようとする。それが歪虚だ」
「ベクトルが違うだけで、人間とも似てますね」
 人間はありとあらゆる手段で望みを叶えようとする。長生きしたい。こんなところで死にたくない。生きていて欲しい。生活の質を上げたい。そう言う望みが、医療を発達させた。
「そうとも言うか。もしお前が歪虚になったら、お前が最初に殺しに行くのは多分ジョンやエド、司祭になる。嫉妬なら理由は寂しいから、傲慢ならこの素晴らしい力を親友に分け与えたいからって理由でな」
「そうですね」
 間違いなく、二人から殺しに行くだろう。歪虚の行き着く先が「殺す」になるなら。
「あなたのことも殺しに行ったかもしれない」
 ペンシルベニアの森で助けに来てくれたトリプルJは良い意味で因縁浅からぬ相手だ。シャトルで助けに来てくれたり、聖堂の庭で自分に心を砕いてくれたりした真のことも、アウグスタに連れて行かれた時に助けに来てくれた智里のことも、もしかした狙いに行くかもしれない。
「馬鹿、その時ゃあ返り討ちだよ」
 トリプルJは笑う。
「そうですよね」
「だから俺達は、お前がアウグスタに惹かれるのを止めたかった」
「はい」
「お前が自分で決別してくれて嬉しいよ、ヘンリー」
「良かったらハンクと呼んでください」
 ハンクは笑う。
「ヘンリーって呼ぶのはアウグスタだけで良いです」

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MVP一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328

  • 鞍馬 真ka5819

重体一覧

参加者一覧

  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka0896unit008
    ユニット|CAM

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    シロハナダ
    白縹(ka0962unit004
    ユニット|幻獣
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    イケロス
    イケロス(ka1328unit002
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka6653unit002
    ユニット|幻獣
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ペガサス
    ペガサス(ka6819unit006
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/02/28 08:33:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/24 15:48:19