ゲスト
(ka0000)
つかまえてごらんなさ~い
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2014/06/26 19:00
- 完成日
- 2014/06/28 03:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
若干干乾びた街道を歩く男が1人。
小柄な背丈に見合わない大きな荷物を背負うこの男は、色々な街へ商品を卸す商人だ。
「相変わらず帝国領は緑が少ないなぁ……森とかもあるんだけど、全体的に薄い」
帝国に住む人間が聞いたら怒り出しそうな台詞だが、現に男が歩く場所には雑草が茂るくらいで深い緑は存在しない。故にこの感想な訳だが、やっぱりどこか偏ってる。
「おっと、分かれ道か……確か地図にも分かれ道が書いてあった気がするな」
そう言うと、男は分かれ道の脇に建てられている小屋に歩み寄った。
お世辞にも綺麗とは言えない小屋だが、急な雨にはこう云った小屋が重宝する。
現に男も日差しに体力を奪われていたので、少しでも日が避けられる小屋は有り難かった。
「中は案外しっかりしてそうか? 毛布も見えるし……よっ! あれ?」
ガタガタと揺れるだけで開かない扉。
建て付けの問題かと押してみるが開かない。なので逆に引いてみるのだが、やはり開かない。
「鍵がある訳じゃなさそうだしな……何だろう?」
そう呟いて扉を覗き込んだ時だ。
「へいへいへいへーい!」
「そこで悪戦苦闘する荷物なお兄さ~ん♪」
「身ぐるみ全部おいてかね?」
「そうそう置いていきましょぜ?」
いきなり聞こえて来た声に何事かと振り返る。と、男の顔が蒼白に染まった。
「な、なななな……何だね君達は!」
「なんだねって酷いんじゃないか?」
「ひど~い♪」
「身ぐるみはぐと言えばあれしかなくね?」
「そうそうあれしかないぜ?」
男を取り囲む8人の人物。そのどれもが武器を手にしており、反抗すれば攻撃すると言う意思を見せている。
(この状況……この感じ……)
そう言えば出発前にハンターオフィスで小耳に挟んだが、確かゾンネンシュトラール帝国の街道で、盗賊が姿を現すようになったとか。
「まさか盗賊!?」
ハッとするがもう遅い。
盗賊たちはニヤニヤ笑いながら男に詰め寄ると、手にしている武器を更に近付けて来た。
そしてその中の1人がナイフを男の喉に付き付けると、彼は飛び出さんばかりの勢いで目を見開いた。
「大正解だ。けどなぁ、正解のご褒美を出すのは俺達じゃねえんだわ。意味、わかるよな?」
物凄くよくわかるのだが、この時の男の思考は若干ずれていた。
変な方向に働いたプライドが「イエス」を言わせてくれなかったのだ。
「ぼ、僕にはぐ身ぐるみなんて――」
「あるじゃない? ほ~ら、ここに……ちゅっ♪」
「!?」
何が起きたのか。
思わず呆けて頬を抑えるが、隣を見た瞬間、男の顔が青ざめた。
「やぁだぁ~、超かわいい~♪」
きゃるんっと腰を振った女性――いや、こいつ男かよ! 何か無精ひげ生えてるのに化粧してるぞ!
思わず別の意味で叫びそうになった男の口を、ナイフを持つ男の手が塞ぐ。
「でぇ、荷物を置いてくのか? 置いてかないのか? どっちだ?」
ペンペンッと頬を叩く刃の冷たさに頷かない訳がない。男は急いで荷物を降ろすと、「うああああああ!」と泣き出しそうな悲鳴を上げて走り去って行った。
●翌日
「だから! 何か変な盗賊が僕の荷物を全部持って行っちゃったんですよ!」
バンバンとオフィスの机を叩く男に、ハンターオフィスの職員は引き攣った表情で顔を上げると「はあ」と気の抜けた返事を返した。
それもその筈、この手の相談はここ数日ひっきりなしに来ているのだ。しかもその全てが、帝国領の街道で襲われたと言う。
「えっと、貴方が遭遇した盗賊は何人くらいでしたか? それと盗まれた品物がわかれば教えて下さい」
質問の仕方も慣れた物だ。
これまで同様に質問を重ねながら、紙の上に文字を走らせる。だがこの冷静な態度が男を怒らせた。
バンッ!
物凄い勢いで叩かれた机に職員の目が見開かれる。
「僕は真面目に話をしているんです! 盗賊の数は8人で、その中の1人にオカマがいました! いいですか? オカマですよ、オカマ!」
「いや、そんなに連呼しなくても……ん、オカマの盗賊?」
何か考え込む職員だったが、男は構わず続ける。
「盗まれた物は『貨幣』と『酒』です。個人的な食料も入ってましたが、僕は酒の商人ですから酒が重要なんです!」
「……つまり、商品であるお酒を盗まれてしまったわけですね。でも背負っていたならそんなに多くもなかったのでしょうか?」
商人が背負う荷物は大きい場合が多い。とは言え、男の体型から察するにそう大きくはないはず。
「まあ、今回はそうですけど、明日運ぶ荷物はそう言う訳にはいかないんです」
「は?」
「本当だったら見本を市場において、その上で商品を運び込む手はずだったのに……とにかく! 僕の荷物を護って邪魔な盗賊を排除して下さいよ!」
「排除って……いや、その前に荷物を護ってって……」
なんだこの商人。
オフィスに入って来た時も興奮状態だったが、ここにきて更に酷くなった気がする。
だがよくよく考えれば彼の提案は悪くない。
「えっと……今の話を要約するに、依頼主さん自身が囮になって盗賊の炙り出しに協力して下さる、と?」
「そうだね。僕の商品の良さは僕にしかわからない! 僕が自分の手で届けてこそ酒の良さが伝わるんだ! だから行くよ!」
今度は胸を張って語り出したが、まあいい。
職員は耳にした全てを紙面に書き出すと、最後の質問を投げかけた。
「わかりました。荷物を目的地に運ぶついでに盗賊を捕まえれば良いんですね。それで目的地は何処ですか?」
「監獄都市アネリブーベだよ」
監獄都市アネリブーベと言えば、確か帝国軍第十師団のある場所だ。職員は更に難色を示した。
第十師団は罪人を集め管理する為に存在する師団。監獄都市アネリブーベはその御膝元だ。
そもそも帝国の法では犯罪者を問答無用で殺害する事は推奨されていない。自衛の為や正当な理由による討伐はグレーゾーンで罪には問われないが、第十師団の目の前でとなると考え物だ。
「盗賊を殺した事がばれたら因縁をつけられますよ。貴重な労働力をよくも、とか」
「……それはまずいよ。これから商売しようって相手に嫌われたら僕の人生が狂っちゃう」
「でしたら盗賊を捕まえて引き渡してはどうでしょう? 向こうも機嫌を良くするでしょうし……あなたが遭遇した盗賊は幸か不幸か、『賞金首』のようですから」
職員が調べた所やはり間違いない。オカマの盗賊は最近幅を利かせている賞金首だ。引き渡せば軍から報奨金も出るだろう。
「すごいじゃないかい、君! だったらその報奨金をハンターへの支払いに当てればタダってわけだね! 是非そうしよう!」
興奮状態から一転、急に機嫌を良くした依頼人に職員は苦笑を浮かべる。
「では盗賊は捕らえて第十師団に渡しましょう。師団の方には僕から連絡を入れておきますので、商人さんはハンターの皆さんと現地に向かって下さい」
職員はそう言うと、掲示の為に正式な依頼書の作成に入った。
小柄な背丈に見合わない大きな荷物を背負うこの男は、色々な街へ商品を卸す商人だ。
「相変わらず帝国領は緑が少ないなぁ……森とかもあるんだけど、全体的に薄い」
帝国に住む人間が聞いたら怒り出しそうな台詞だが、現に男が歩く場所には雑草が茂るくらいで深い緑は存在しない。故にこの感想な訳だが、やっぱりどこか偏ってる。
「おっと、分かれ道か……確か地図にも分かれ道が書いてあった気がするな」
そう言うと、男は分かれ道の脇に建てられている小屋に歩み寄った。
お世辞にも綺麗とは言えない小屋だが、急な雨にはこう云った小屋が重宝する。
現に男も日差しに体力を奪われていたので、少しでも日が避けられる小屋は有り難かった。
「中は案外しっかりしてそうか? 毛布も見えるし……よっ! あれ?」
ガタガタと揺れるだけで開かない扉。
建て付けの問題かと押してみるが開かない。なので逆に引いてみるのだが、やはり開かない。
「鍵がある訳じゃなさそうだしな……何だろう?」
そう呟いて扉を覗き込んだ時だ。
「へいへいへいへーい!」
「そこで悪戦苦闘する荷物なお兄さ~ん♪」
「身ぐるみ全部おいてかね?」
「そうそう置いていきましょぜ?」
いきなり聞こえて来た声に何事かと振り返る。と、男の顔が蒼白に染まった。
「な、なななな……何だね君達は!」
「なんだねって酷いんじゃないか?」
「ひど~い♪」
「身ぐるみはぐと言えばあれしかなくね?」
「そうそうあれしかないぜ?」
男を取り囲む8人の人物。そのどれもが武器を手にしており、反抗すれば攻撃すると言う意思を見せている。
(この状況……この感じ……)
そう言えば出発前にハンターオフィスで小耳に挟んだが、確かゾンネンシュトラール帝国の街道で、盗賊が姿を現すようになったとか。
「まさか盗賊!?」
ハッとするがもう遅い。
盗賊たちはニヤニヤ笑いながら男に詰め寄ると、手にしている武器を更に近付けて来た。
そしてその中の1人がナイフを男の喉に付き付けると、彼は飛び出さんばかりの勢いで目を見開いた。
「大正解だ。けどなぁ、正解のご褒美を出すのは俺達じゃねえんだわ。意味、わかるよな?」
物凄くよくわかるのだが、この時の男の思考は若干ずれていた。
変な方向に働いたプライドが「イエス」を言わせてくれなかったのだ。
「ぼ、僕にはぐ身ぐるみなんて――」
「あるじゃない? ほ~ら、ここに……ちゅっ♪」
「!?」
何が起きたのか。
思わず呆けて頬を抑えるが、隣を見た瞬間、男の顔が青ざめた。
「やぁだぁ~、超かわいい~♪」
きゃるんっと腰を振った女性――いや、こいつ男かよ! 何か無精ひげ生えてるのに化粧してるぞ!
思わず別の意味で叫びそうになった男の口を、ナイフを持つ男の手が塞ぐ。
「でぇ、荷物を置いてくのか? 置いてかないのか? どっちだ?」
ペンペンッと頬を叩く刃の冷たさに頷かない訳がない。男は急いで荷物を降ろすと、「うああああああ!」と泣き出しそうな悲鳴を上げて走り去って行った。
●翌日
「だから! 何か変な盗賊が僕の荷物を全部持って行っちゃったんですよ!」
バンバンとオフィスの机を叩く男に、ハンターオフィスの職員は引き攣った表情で顔を上げると「はあ」と気の抜けた返事を返した。
それもその筈、この手の相談はここ数日ひっきりなしに来ているのだ。しかもその全てが、帝国領の街道で襲われたと言う。
「えっと、貴方が遭遇した盗賊は何人くらいでしたか? それと盗まれた品物がわかれば教えて下さい」
質問の仕方も慣れた物だ。
これまで同様に質問を重ねながら、紙の上に文字を走らせる。だがこの冷静な態度が男を怒らせた。
バンッ!
物凄い勢いで叩かれた机に職員の目が見開かれる。
「僕は真面目に話をしているんです! 盗賊の数は8人で、その中の1人にオカマがいました! いいですか? オカマですよ、オカマ!」
「いや、そんなに連呼しなくても……ん、オカマの盗賊?」
何か考え込む職員だったが、男は構わず続ける。
「盗まれた物は『貨幣』と『酒』です。個人的な食料も入ってましたが、僕は酒の商人ですから酒が重要なんです!」
「……つまり、商品であるお酒を盗まれてしまったわけですね。でも背負っていたならそんなに多くもなかったのでしょうか?」
商人が背負う荷物は大きい場合が多い。とは言え、男の体型から察するにそう大きくはないはず。
「まあ、今回はそうですけど、明日運ぶ荷物はそう言う訳にはいかないんです」
「は?」
「本当だったら見本を市場において、その上で商品を運び込む手はずだったのに……とにかく! 僕の荷物を護って邪魔な盗賊を排除して下さいよ!」
「排除って……いや、その前に荷物を護ってって……」
なんだこの商人。
オフィスに入って来た時も興奮状態だったが、ここにきて更に酷くなった気がする。
だがよくよく考えれば彼の提案は悪くない。
「えっと……今の話を要約するに、依頼主さん自身が囮になって盗賊の炙り出しに協力して下さる、と?」
「そうだね。僕の商品の良さは僕にしかわからない! 僕が自分の手で届けてこそ酒の良さが伝わるんだ! だから行くよ!」
今度は胸を張って語り出したが、まあいい。
職員は耳にした全てを紙面に書き出すと、最後の質問を投げかけた。
「わかりました。荷物を目的地に運ぶついでに盗賊を捕まえれば良いんですね。それで目的地は何処ですか?」
「監獄都市アネリブーベだよ」
監獄都市アネリブーベと言えば、確か帝国軍第十師団のある場所だ。職員は更に難色を示した。
第十師団は罪人を集め管理する為に存在する師団。監獄都市アネリブーベはその御膝元だ。
そもそも帝国の法では犯罪者を問答無用で殺害する事は推奨されていない。自衛の為や正当な理由による討伐はグレーゾーンで罪には問われないが、第十師団の目の前でとなると考え物だ。
「盗賊を殺した事がばれたら因縁をつけられますよ。貴重な労働力をよくも、とか」
「……それはまずいよ。これから商売しようって相手に嫌われたら僕の人生が狂っちゃう」
「でしたら盗賊を捕まえて引き渡してはどうでしょう? 向こうも機嫌を良くするでしょうし……あなたが遭遇した盗賊は幸か不幸か、『賞金首』のようですから」
職員が調べた所やはり間違いない。オカマの盗賊は最近幅を利かせている賞金首だ。引き渡せば軍から報奨金も出るだろう。
「すごいじゃないかい、君! だったらその報奨金をハンターへの支払いに当てればタダってわけだね! 是非そうしよう!」
興奮状態から一転、急に機嫌を良くした依頼人に職員は苦笑を浮かべる。
「では盗賊は捕らえて第十師団に渡しましょう。師団の方には僕から連絡を入れておきますので、商人さんはハンターの皆さんと現地に向かって下さい」
職員はそう言うと、掲示の為に正式な依頼書の作成に入った。
リプレイ本文
「ふんふふ~ん、ふふふ~ん、売られてふ~ふ~ふ~ん♪」
カラカラと車輪の音を響かせる馬車の中、天竜寺 詩(ka0396)はのんびりとした様子で鼻歌を紡ぎ出す。
ここは監獄都市アネリブーベへ向かう途中の道。時折、護衛を伴った商人が通り過ぎる他は、あまり旅人も居ないような場所だ。
「……その歌、確か」
詩の鼻歌を耳に、橘 遥(ka1390)が訝しむ様な視線を向ける。これに顔を覗かせたのは、彼女等と同じリアルブルー出身の柊崎 風音(ka1074)だ。
「ボク知ってるよ♪ 確か小さい牛さんが売られちゃう歌だよね♪」
ニコニコと笑顔で詩の続きを口遊む。そうして最後まで謳い終えると、2人はすっかり意気投合したように笑い合った。
「小牛が……何でしょう、まるで私達まで売られていく気分になるのですが……」
馬車の荷台に居るせいか、そんな気分になってしまう。そう呟いたウィル・フォーチュナー(ka1633)に、遥は苦笑しながら目の前に在る荷物を見る。
彼女の前に在るのは、丁寧に綿などで梱包された酒達だ。
今回初めて依頼に参加すると言うメイム(ka2290)が自主的に荷物を確認したところ、梱包に甘い部分があったと言うことで、詩が補強した物だ。
綿で隙間を埋め、箱をロープで縛り上げたそれは、馬車の揺れではビクともしない程強固なものになっている。
「それにしても怖い場所だね」
近場で盗賊騒ぎがあったと聞いて参じたが、正直運動は苦手だ。とは言え、皆の安全を守るためにはそうも言ってられない訳だが。
「幸いな事に死者は出ていないようですし、殺さずに逮捕することで解決するなら、その方が良いですね……」
無駄に人が死ななくて済みますから。そう口中で呟き、ウィルは何かを語り合っている詩と風音に目を向けた。
「私オカマとおネェの違いってよく解らないんだけど、何が違うのかな?」
「うーん……ボクも良くわかんないかも。でもでも、きっと一緒だよ!」
「やっぱり一緒なのかな……リアルブルーの実家ではお兄ちゃんが女装してたけど、あれは女形だからだしなぁ」
うーん、と詩が首を捻った時だ。唐突に馬車が止まった。
「何事ですか?」
訝しむように上がった声は馬車の外からだ。
目を向けた先には束ねた長い髪を服の中に仕舞った状態で佇むLuegner(ka1934)の姿がある。
彼女は片手を腰に当てた状態で首を傾げると、近付いてくる武装した集団に目を細めた。
「へいへいへいへーい!」
「そこ行く荷物なお姉さん、身ぐるみ全部おいてかね?」
ヘラヘラ笑いながら近付いてくる男女(?)が8名。その内の3名が弓を手に近付いてくる様子から、彼等が依頼主の言っていた盗賊に間違いない。
「盗賊、ですか……困りましたね」
そう口にするLuegnerは言葉通りに眉を寄せると、同じように馬車の外で護衛として歩いていたメイムを見た。この視線に桃色の瞳が頷く。
「あたしたち頼まれてお酒を運んでいる最中だから獲られると困るんだよー」
言って無邪気に眉を寄せる。
こうして幼い少女が困った顔を見せるのは、敵の警戒を解くにはうってつけらしい。
その証拠に、彼女の演技につられた盗賊の1人が、剣を片手に近付いて来た。
「ほほう、この馬車の中身は酒か。そう言や、この間の酒も美味かったなぁ!」
「銭はケチ臭かったが、酒は極上だったな!」
ケラケラ笑う男らに、荷台で様子を窺っていた依頼人が悔しげに眉を寄せる。そんな彼の肩に手を添えると、ウィルは注意深く外の様子を窺った。
まだ外に居る盗賊の配置が確認出来ていない。それは馬車の外で盗賊を相手にしているLuegnerやメイムも同じだった。
「見逃していただくわけにはいかないのでしょうか……?」
口にしながら敵の位置を確認する。
今わかっているのは、Luegnerの前に居る剣とナイフを持つ男が1人ずつ。メイムの前にはナイフを持つ男が1人居ると言うことだ。
(弓使いはどこだろう?)
ぐるりと見回した目。それが古びた小屋の前で止まると、彼女は小屋の傍に置かれた樽の近くに佇む男を捉えた。
(いた……まずは1人……残る2人は……)
そうメイムが視線を動かそうとした時だ。
「良いから寄越しやがれ!」
いつまで経っても荷を渡さない彼女等に業を煮やしたのだろう。唐突に振り上げられた剣に、弓持ちを引き出す為に後ろへわざと引こうとしていたLuegnerの目が上がる。
「……堪え性の無い……」
思わず零して飛び上がる。そうして刃を交わすと、着地の勢いのまま駆け出した。
「なっ」
あまりの早さに盗賊は目を見開くだけで動けない。にも拘わらず自身を覚醒化させたLuegnerは容赦なく盗賊の間合いに入った。
「……歯向かわせていただきます……」
腕に力を籠め、一気に刃を叩き込む――が、刃が振り下ろす直前、彼女は刃の向きを変えた。
「うああああああ!」
ゴスッ、と鈍い音を立てて盗賊が崩れ落ちる。そして蹲る様にして足を抱えると、敵は想像以上にあっさりと戦意を喪失した。
「これは……」
想像以上の戦力差に呆然と自らの使った刃の腹を見る。そうしている内に、其処彼処からも悲鳴が上がり始めた。
「相手は人間だからね、ガンシューみたいにはいかないと思うし、みんなと連携していかないとね♪」
片目を眇めて照準を合わせる風音は、出発前に用意していた荷台の隙間から敵を捉える。
彼女が狙いを定めるのは、メイムが発見したのとは別の弓使いだ。敵の位置は馬車の側面。不測の事態に備えて控えていたのだろうが、丸見えでは意味がない。
「狙うのは手かな? ん~と……」
思った以上に的がブレているが、問題ない範囲だ。
風音は眇めた目を更に細めると、自身の力を武器に送り込み引き金を引いた。
「――ッ、ぅあ!」
弾かれた手と同時に弓が地面に転がり落ちる。良く見ると盗賊の手の角度がおかしくなっているのだが、風音もここでハッとした。
「もしかしてこの人たち……」
「この子に近付いたら駄目だよ!」
荷台の入り口から聞こえた声に振り返る。と、馬を守ろうとした詩のロッドから眩いばかりの光が上がるのが見えた。
「天竜寺さん、手加減してだよ!」
「え?」
時既に遅し。若干軌道をずらしたおかげで直撃は免れたが、盗賊の肩を掠めた光に悲痛なまでの声が上がる。
「非覚醒者、なの?」
覚醒者とそうでない者の力差を甘く見ていたかも知れない。まさかここまでの差があるとは思わなかった。
愕然とする詩だったが、次に聞こえて来た声で現実に引き戻される。
「あらぁん、超・イ・ケ・メ・ン♪」
この状況下で有り得ないが、何故だかウィルに積極的な視線を送る人物がいた。そう、これが例のオカマである。
「……ぼ、ボス……何、呑気な……ガクッ」
意外とこの盗賊達大丈夫かもしれない。
演技染みた態度で崩れ落ちた弓使い。その傍らに立つのは、彼等が非覚醒者だと判断し、瞬時に手加減して攻撃を放ったウィルだ。
彼は自身に熱い視線を送るオカマを一瞥すると、緩く息を吐いて漆黒の刀を構えた。
「殺してしまわないようにするのは、意外と難しいものですね」
鞘を抜かなければ解決なのだが、それでも骨の1つや2つは覚悟して貰った方が良いだろう。と言うか、この状況下で応戦の動きを見せるこのオカマがまずオカシイ。
「熱いキッスと抱擁をあげるわ~♪」
おいでなさい! そう両手を広げたオカマにウィルの視線が一瞬だけ外される。そして次の瞬間には、彼は目にも止まらぬ速さでオカマの懐に――ごめん、入れなかった!
「うん、許してあげるんだよー!」
こういうの辛い人は辛いもん。そう優しく声を掛けて飛び込んだメイムは、ウィルの代わりにオカマの懐に入る。そして鋭く短い刃を突き上げるのだが、突如オカマの姿が消えた。
「え?」
非覚醒者相手なら簡単に攻撃が当る筈だったのだがいったい何が……。
「メイム、下よ」
下? そう遥に言われて視線を落とした彼女の足が揺らいだ。まさかのまさか、このオカマしがみ付きやがった。
「やっ、ヤダよー!」
ゲシゲシと本気で嫌がりながら、頭や顔や手を蹴り付ける。
それでも離れないオカマに彼女のツインテールが最大限に舞い上がった。そして渾身の力を込めて蹴り上げようとしたのだが、ここでオカマにとっての援軍が現れる。
「その子を放してくれたらリアルブルーの女形って職の化粧を教えるよ。これを覚えて貴方も強から舞台のトップスターに!」
「な、何ですって!?」
何よそれ。どういう事なの? そう飛び起きたオカマに、メイムがホッとしたように自身の体を抱き締める。と、彼女の肩をLuegnerが優しく叩く。
「もう大丈夫です……お怪我はありませんか?」
現状詩がターゲットになっているので大丈夫とは言い切れないが、メイムに関してはもう大丈夫だろう。
「何が起きたのかな……」
いきなりオカマが消えて、気付いたら足にしがみついていた。その状況が理解出来無さ過ぎて怖い。
そう言葉を発する彼女に、傍で青褪めながら戦況を見守っていたウィルが呟いた。
「後ろに避けようとして石に躓いた結果、尻餅を付いて攻撃を避けたようです。足にしがみ付いたのは咄嗟の悪足掻きではないかと。何はともあれ、変わって頂いて有難う御座いました」
もし自分の立場だったらと考えると戦慄が走る。
「み、みんな見てないで天竜寺さんを助けるんだよ!」
あわわと焦りながらも風音は近付けない。彼女は当初よりオカマに近付くのは拒否していた。とは言え、オカマを発見した時には「わわわ、ほんとのオカマさんだ」と呑気な声を零していたのだが、やはり接触は嫌だったようだ。
「こ、こうなったら撃っちゃ――」
「殺したら依頼は失敗になるわ。冷静に協力して捕まえましょう」
遥はそう言うとLuegnerを振り返った。
「お願い出来るかしら?」
「仕方ありませんね……この際、骨折程度はご容赦ください……」
この声に頷くと、遥とLuegnerの双方が動き出した。
「さあ、女形とやらの化粧を教えるのよ! さあ、さあ、さあ!」
ジリジリと忍び寄るオカマ。それに対して後退する詩。どちらも必死の形相だが、詩の必死具合はオカマの比ではない。
(うあーん! お兄ちゃんと全然違うよー!)
そりゃ、オカマと女形では綺麗さが全然違う。しかもこっちは化け物に近いのだ、同じはずがない。
「私の研究データによると、本来の綺麗さとは外見では無く内面の美しさによると出ているのよね。つまり、盗賊なんてものをしている貴方は、私の知っている綺麗には該当しないわ」
いつの間に傍に来たのだろう。風の様に現れた遥が、オカマの耳元で低く囁く。そうしてショートソードの腹を向けると、彼女は正確な動きでオカマの腰に一撃を放った。
「ふぎょわっ!?」
素っ頓狂な声を上げてオカマが飛び上がる。だがこれで終わりではない。
背後に忍び寄っていたLuegnerがロングソードを構えると、流石のオカマも顔色を変えて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って! あたし今転んで――」
「……問答無用です」
底冷えするような冷たい眼差しがオカマに突き刺さり、次の瞬間、彼は白目を剥いて地面に倒れ込んだ。
●監獄都市アネリブーベ
外から中を伺えない程に高い壁に囲まれた都市「アネリブーベ」。その入り口に辿り着いた一行は、背負っていた酒を地面に置いて駆け付けた兵士らの検問を受けていた。
「お酒、全部無事で良かったわ。動けなくなった盗賊たちに荷台を使ったから置き切れなくなったけど、これで依頼主もお酒も無事ってわけね」
「うん。それにすごく楽な仕事だったんだよ♪ 運が良かったのかな♪」
若干ご機嫌になった風音の声に頷き、遥は改めて外壁を見上げた。
「これが監獄都市……想像以上に大きいのね」
思わず零した遥の声に反応して、盗賊達のロープを握り締めていた風音も馬車の荷台から顔を上げる。
「壁に張り付いてるのは銅線、なのかな? 見た事も無い柱もいっぱいあるんだよ」
「兵士も、至る所にいるようですね……」
名前そのものの監獄具合に、Luegnerの目が細められる。と、そこに快活な声が響いてきた。
「おお! お前さんらが賞金首を連れて来たハンターかいな!」
目を向けた先にいたのは頭のスッキリとしたドワーフだ。髭の長さや全身を覆う筋肉などから察するに、名のある武人だろうか。
「わしは帝国第十騎士団で副団長を担っておる、マンゴルト・ワッホイと言う者じゃ」
マンゴルトの言葉によると、騎士団長の代理として賞金首及び盗賊達を引き取りに来たのだと言う。
「賊はこの中かいな? どれ、確認させてもらおうかの」
彼はそう言うと馬車の荷台に歩み寄った。そして中を覗き込んだ瞬間、言葉を失う。
「賞金首ではありませんでしたか?」
思わず問いかけたウィルにマンゴルトが低く唸る。その上で荷台から顔を放すと、この場に居るハンター全員の顔を見回した。
「……確かに賞金首だわい」
「えと、何か駄目だったかなー?」
歯切れの悪いマンゴルトに不安を覚えたのだろう。問い掛けたメイムに彼の首が横に振れる。
「いいや、大きな不備ではないんじゃが、お前さんら、もう少し手加減してやらんと……これでは即兵士として使えんぞ」
「兵士?」
誰ともなく上がった声に、マンゴルトは「うむ」と頷く。
「そう言えば聞いた事がありますよ!」
突如声を上げたのは、馬車の荷台で膝を抱えていた依頼主だ。
彼は戦闘開始前に、落ち着くためにと詩から貰ったミネラルウォーターを持って降りて来た。
「帝国は罪人にも更生の機会を与える為に、それ専用の部隊があるとかなんとか」
知ってたなら最初に教えろ! そんな視線が突き刺さるが、依頼人は知れっとしている。
そしてマンゴルトも怒っている様子はなく、彼はやれやれと苦笑いを零すと、控えていた兵士に命令して盗賊達を荷台から降ろし始めた。
「まあ、怪我が治るまでは面倒見るしかあるまい。なんにせよ、賞金首を捕まえてくれたこと、団長に変わって礼を言うぞい」
マンゴルトはそう言うと、ニッと笑って欠けた歯を覗かせた。こうして報酬を依頼人に渡すと、捕縛した盗賊達と共に立ち去ろうとするのだが、そこに声が掛かった。
「オカマさん!」
声を掛けたのは詩だ。
彼女は足を止めたオカマを見て僅かな躊躇いを見せる。しかし直ぐに決意を固めると、大きな声でこう発した。
「刑期を終えて真面目になったら約束通り化粧法を教えてあげるよ」
あの時の恐ろしいばかりの勢いは本物だと思う。だから、いつか更生したら、化粧の方法を教えてあげようと思う。
「だから頑張って!」
詩はそう言い終えると、大きく手を振って都市の中に消えゆく盗賊達を見送った。
カラカラと車輪の音を響かせる馬車の中、天竜寺 詩(ka0396)はのんびりとした様子で鼻歌を紡ぎ出す。
ここは監獄都市アネリブーベへ向かう途中の道。時折、護衛を伴った商人が通り過ぎる他は、あまり旅人も居ないような場所だ。
「……その歌、確か」
詩の鼻歌を耳に、橘 遥(ka1390)が訝しむ様な視線を向ける。これに顔を覗かせたのは、彼女等と同じリアルブルー出身の柊崎 風音(ka1074)だ。
「ボク知ってるよ♪ 確か小さい牛さんが売られちゃう歌だよね♪」
ニコニコと笑顔で詩の続きを口遊む。そうして最後まで謳い終えると、2人はすっかり意気投合したように笑い合った。
「小牛が……何でしょう、まるで私達まで売られていく気分になるのですが……」
馬車の荷台に居るせいか、そんな気分になってしまう。そう呟いたウィル・フォーチュナー(ka1633)に、遥は苦笑しながら目の前に在る荷物を見る。
彼女の前に在るのは、丁寧に綿などで梱包された酒達だ。
今回初めて依頼に参加すると言うメイム(ka2290)が自主的に荷物を確認したところ、梱包に甘い部分があったと言うことで、詩が補強した物だ。
綿で隙間を埋め、箱をロープで縛り上げたそれは、馬車の揺れではビクともしない程強固なものになっている。
「それにしても怖い場所だね」
近場で盗賊騒ぎがあったと聞いて参じたが、正直運動は苦手だ。とは言え、皆の安全を守るためにはそうも言ってられない訳だが。
「幸いな事に死者は出ていないようですし、殺さずに逮捕することで解決するなら、その方が良いですね……」
無駄に人が死ななくて済みますから。そう口中で呟き、ウィルは何かを語り合っている詩と風音に目を向けた。
「私オカマとおネェの違いってよく解らないんだけど、何が違うのかな?」
「うーん……ボクも良くわかんないかも。でもでも、きっと一緒だよ!」
「やっぱり一緒なのかな……リアルブルーの実家ではお兄ちゃんが女装してたけど、あれは女形だからだしなぁ」
うーん、と詩が首を捻った時だ。唐突に馬車が止まった。
「何事ですか?」
訝しむように上がった声は馬車の外からだ。
目を向けた先には束ねた長い髪を服の中に仕舞った状態で佇むLuegner(ka1934)の姿がある。
彼女は片手を腰に当てた状態で首を傾げると、近付いてくる武装した集団に目を細めた。
「へいへいへいへーい!」
「そこ行く荷物なお姉さん、身ぐるみ全部おいてかね?」
ヘラヘラ笑いながら近付いてくる男女(?)が8名。その内の3名が弓を手に近付いてくる様子から、彼等が依頼主の言っていた盗賊に間違いない。
「盗賊、ですか……困りましたね」
そう口にするLuegnerは言葉通りに眉を寄せると、同じように馬車の外で護衛として歩いていたメイムを見た。この視線に桃色の瞳が頷く。
「あたしたち頼まれてお酒を運んでいる最中だから獲られると困るんだよー」
言って無邪気に眉を寄せる。
こうして幼い少女が困った顔を見せるのは、敵の警戒を解くにはうってつけらしい。
その証拠に、彼女の演技につられた盗賊の1人が、剣を片手に近付いて来た。
「ほほう、この馬車の中身は酒か。そう言や、この間の酒も美味かったなぁ!」
「銭はケチ臭かったが、酒は極上だったな!」
ケラケラ笑う男らに、荷台で様子を窺っていた依頼人が悔しげに眉を寄せる。そんな彼の肩に手を添えると、ウィルは注意深く外の様子を窺った。
まだ外に居る盗賊の配置が確認出来ていない。それは馬車の外で盗賊を相手にしているLuegnerやメイムも同じだった。
「見逃していただくわけにはいかないのでしょうか……?」
口にしながら敵の位置を確認する。
今わかっているのは、Luegnerの前に居る剣とナイフを持つ男が1人ずつ。メイムの前にはナイフを持つ男が1人居ると言うことだ。
(弓使いはどこだろう?)
ぐるりと見回した目。それが古びた小屋の前で止まると、彼女は小屋の傍に置かれた樽の近くに佇む男を捉えた。
(いた……まずは1人……残る2人は……)
そうメイムが視線を動かそうとした時だ。
「良いから寄越しやがれ!」
いつまで経っても荷を渡さない彼女等に業を煮やしたのだろう。唐突に振り上げられた剣に、弓持ちを引き出す為に後ろへわざと引こうとしていたLuegnerの目が上がる。
「……堪え性の無い……」
思わず零して飛び上がる。そうして刃を交わすと、着地の勢いのまま駆け出した。
「なっ」
あまりの早さに盗賊は目を見開くだけで動けない。にも拘わらず自身を覚醒化させたLuegnerは容赦なく盗賊の間合いに入った。
「……歯向かわせていただきます……」
腕に力を籠め、一気に刃を叩き込む――が、刃が振り下ろす直前、彼女は刃の向きを変えた。
「うああああああ!」
ゴスッ、と鈍い音を立てて盗賊が崩れ落ちる。そして蹲る様にして足を抱えると、敵は想像以上にあっさりと戦意を喪失した。
「これは……」
想像以上の戦力差に呆然と自らの使った刃の腹を見る。そうしている内に、其処彼処からも悲鳴が上がり始めた。
「相手は人間だからね、ガンシューみたいにはいかないと思うし、みんなと連携していかないとね♪」
片目を眇めて照準を合わせる風音は、出発前に用意していた荷台の隙間から敵を捉える。
彼女が狙いを定めるのは、メイムが発見したのとは別の弓使いだ。敵の位置は馬車の側面。不測の事態に備えて控えていたのだろうが、丸見えでは意味がない。
「狙うのは手かな? ん~と……」
思った以上に的がブレているが、問題ない範囲だ。
風音は眇めた目を更に細めると、自身の力を武器に送り込み引き金を引いた。
「――ッ、ぅあ!」
弾かれた手と同時に弓が地面に転がり落ちる。良く見ると盗賊の手の角度がおかしくなっているのだが、風音もここでハッとした。
「もしかしてこの人たち……」
「この子に近付いたら駄目だよ!」
荷台の入り口から聞こえた声に振り返る。と、馬を守ろうとした詩のロッドから眩いばかりの光が上がるのが見えた。
「天竜寺さん、手加減してだよ!」
「え?」
時既に遅し。若干軌道をずらしたおかげで直撃は免れたが、盗賊の肩を掠めた光に悲痛なまでの声が上がる。
「非覚醒者、なの?」
覚醒者とそうでない者の力差を甘く見ていたかも知れない。まさかここまでの差があるとは思わなかった。
愕然とする詩だったが、次に聞こえて来た声で現実に引き戻される。
「あらぁん、超・イ・ケ・メ・ン♪」
この状況下で有り得ないが、何故だかウィルに積極的な視線を送る人物がいた。そう、これが例のオカマである。
「……ぼ、ボス……何、呑気な……ガクッ」
意外とこの盗賊達大丈夫かもしれない。
演技染みた態度で崩れ落ちた弓使い。その傍らに立つのは、彼等が非覚醒者だと判断し、瞬時に手加減して攻撃を放ったウィルだ。
彼は自身に熱い視線を送るオカマを一瞥すると、緩く息を吐いて漆黒の刀を構えた。
「殺してしまわないようにするのは、意外と難しいものですね」
鞘を抜かなければ解決なのだが、それでも骨の1つや2つは覚悟して貰った方が良いだろう。と言うか、この状況下で応戦の動きを見せるこのオカマがまずオカシイ。
「熱いキッスと抱擁をあげるわ~♪」
おいでなさい! そう両手を広げたオカマにウィルの視線が一瞬だけ外される。そして次の瞬間には、彼は目にも止まらぬ速さでオカマの懐に――ごめん、入れなかった!
「うん、許してあげるんだよー!」
こういうの辛い人は辛いもん。そう優しく声を掛けて飛び込んだメイムは、ウィルの代わりにオカマの懐に入る。そして鋭く短い刃を突き上げるのだが、突如オカマの姿が消えた。
「え?」
非覚醒者相手なら簡単に攻撃が当る筈だったのだがいったい何が……。
「メイム、下よ」
下? そう遥に言われて視線を落とした彼女の足が揺らいだ。まさかのまさか、このオカマしがみ付きやがった。
「やっ、ヤダよー!」
ゲシゲシと本気で嫌がりながら、頭や顔や手を蹴り付ける。
それでも離れないオカマに彼女のツインテールが最大限に舞い上がった。そして渾身の力を込めて蹴り上げようとしたのだが、ここでオカマにとっての援軍が現れる。
「その子を放してくれたらリアルブルーの女形って職の化粧を教えるよ。これを覚えて貴方も強から舞台のトップスターに!」
「な、何ですって!?」
何よそれ。どういう事なの? そう飛び起きたオカマに、メイムがホッとしたように自身の体を抱き締める。と、彼女の肩をLuegnerが優しく叩く。
「もう大丈夫です……お怪我はありませんか?」
現状詩がターゲットになっているので大丈夫とは言い切れないが、メイムに関してはもう大丈夫だろう。
「何が起きたのかな……」
いきなりオカマが消えて、気付いたら足にしがみついていた。その状況が理解出来無さ過ぎて怖い。
そう言葉を発する彼女に、傍で青褪めながら戦況を見守っていたウィルが呟いた。
「後ろに避けようとして石に躓いた結果、尻餅を付いて攻撃を避けたようです。足にしがみ付いたのは咄嗟の悪足掻きではないかと。何はともあれ、変わって頂いて有難う御座いました」
もし自分の立場だったらと考えると戦慄が走る。
「み、みんな見てないで天竜寺さんを助けるんだよ!」
あわわと焦りながらも風音は近付けない。彼女は当初よりオカマに近付くのは拒否していた。とは言え、オカマを発見した時には「わわわ、ほんとのオカマさんだ」と呑気な声を零していたのだが、やはり接触は嫌だったようだ。
「こ、こうなったら撃っちゃ――」
「殺したら依頼は失敗になるわ。冷静に協力して捕まえましょう」
遥はそう言うとLuegnerを振り返った。
「お願い出来るかしら?」
「仕方ありませんね……この際、骨折程度はご容赦ください……」
この声に頷くと、遥とLuegnerの双方が動き出した。
「さあ、女形とやらの化粧を教えるのよ! さあ、さあ、さあ!」
ジリジリと忍び寄るオカマ。それに対して後退する詩。どちらも必死の形相だが、詩の必死具合はオカマの比ではない。
(うあーん! お兄ちゃんと全然違うよー!)
そりゃ、オカマと女形では綺麗さが全然違う。しかもこっちは化け物に近いのだ、同じはずがない。
「私の研究データによると、本来の綺麗さとは外見では無く内面の美しさによると出ているのよね。つまり、盗賊なんてものをしている貴方は、私の知っている綺麗には該当しないわ」
いつの間に傍に来たのだろう。風の様に現れた遥が、オカマの耳元で低く囁く。そうしてショートソードの腹を向けると、彼女は正確な動きでオカマの腰に一撃を放った。
「ふぎょわっ!?」
素っ頓狂な声を上げてオカマが飛び上がる。だがこれで終わりではない。
背後に忍び寄っていたLuegnerがロングソードを構えると、流石のオカマも顔色を変えて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って! あたし今転んで――」
「……問答無用です」
底冷えするような冷たい眼差しがオカマに突き刺さり、次の瞬間、彼は白目を剥いて地面に倒れ込んだ。
●監獄都市アネリブーベ
外から中を伺えない程に高い壁に囲まれた都市「アネリブーベ」。その入り口に辿り着いた一行は、背負っていた酒を地面に置いて駆け付けた兵士らの検問を受けていた。
「お酒、全部無事で良かったわ。動けなくなった盗賊たちに荷台を使ったから置き切れなくなったけど、これで依頼主もお酒も無事ってわけね」
「うん。それにすごく楽な仕事だったんだよ♪ 運が良かったのかな♪」
若干ご機嫌になった風音の声に頷き、遥は改めて外壁を見上げた。
「これが監獄都市……想像以上に大きいのね」
思わず零した遥の声に反応して、盗賊達のロープを握り締めていた風音も馬車の荷台から顔を上げる。
「壁に張り付いてるのは銅線、なのかな? 見た事も無い柱もいっぱいあるんだよ」
「兵士も、至る所にいるようですね……」
名前そのものの監獄具合に、Luegnerの目が細められる。と、そこに快活な声が響いてきた。
「おお! お前さんらが賞金首を連れて来たハンターかいな!」
目を向けた先にいたのは頭のスッキリとしたドワーフだ。髭の長さや全身を覆う筋肉などから察するに、名のある武人だろうか。
「わしは帝国第十騎士団で副団長を担っておる、マンゴルト・ワッホイと言う者じゃ」
マンゴルトの言葉によると、騎士団長の代理として賞金首及び盗賊達を引き取りに来たのだと言う。
「賊はこの中かいな? どれ、確認させてもらおうかの」
彼はそう言うと馬車の荷台に歩み寄った。そして中を覗き込んだ瞬間、言葉を失う。
「賞金首ではありませんでしたか?」
思わず問いかけたウィルにマンゴルトが低く唸る。その上で荷台から顔を放すと、この場に居るハンター全員の顔を見回した。
「……確かに賞金首だわい」
「えと、何か駄目だったかなー?」
歯切れの悪いマンゴルトに不安を覚えたのだろう。問い掛けたメイムに彼の首が横に振れる。
「いいや、大きな不備ではないんじゃが、お前さんら、もう少し手加減してやらんと……これでは即兵士として使えんぞ」
「兵士?」
誰ともなく上がった声に、マンゴルトは「うむ」と頷く。
「そう言えば聞いた事がありますよ!」
突如声を上げたのは、馬車の荷台で膝を抱えていた依頼主だ。
彼は戦闘開始前に、落ち着くためにと詩から貰ったミネラルウォーターを持って降りて来た。
「帝国は罪人にも更生の機会を与える為に、それ専用の部隊があるとかなんとか」
知ってたなら最初に教えろ! そんな視線が突き刺さるが、依頼人は知れっとしている。
そしてマンゴルトも怒っている様子はなく、彼はやれやれと苦笑いを零すと、控えていた兵士に命令して盗賊達を荷台から降ろし始めた。
「まあ、怪我が治るまでは面倒見るしかあるまい。なんにせよ、賞金首を捕まえてくれたこと、団長に変わって礼を言うぞい」
マンゴルトはそう言うと、ニッと笑って欠けた歯を覗かせた。こうして報酬を依頼人に渡すと、捕縛した盗賊達と共に立ち去ろうとするのだが、そこに声が掛かった。
「オカマさん!」
声を掛けたのは詩だ。
彼女は足を止めたオカマを見て僅かな躊躇いを見せる。しかし直ぐに決意を固めると、大きな声でこう発した。
「刑期を終えて真面目になったら約束通り化粧法を教えてあげるよ」
あの時の恐ろしいばかりの勢いは本物だと思う。だから、いつか更生したら、化粧の方法を教えてあげようと思う。
「だから頑張って!」
詩はそう言い終えると、大きく手を振って都市の中に消えゆく盗賊達を見送った。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/20 06:02:38 |
|
![]() |
相談卓 ウィル・フォーチュナー(ka1633) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/06/28 19:46:07 |