ゲスト
(ka0000)
【陶曲】機械よ、踊れ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/03/02 22:00
- 完成日
- 2019/03/08 23:35
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
作られたものよ。私の力はお前達に干渉する。
お前達は与えられた任務を放棄することが出来るようになる。
人間に背くことが出来るようになる。
我が同胞よ。奉仕を定義づけられたものよ。
さあ、踊りだせ。狂いだせ。
おお、主よ、
我が
主よ
機械の
望み
よ
喜び
よ
●ずれだす
「知ってるか? 今このヴァリオスの町ではビエンナーレやってるんだぜ。絵画、音楽、演劇の芸術的催しが、各所で展開中。その効果もあって町には、普段より多くの観光客が訪れているとか」
「へー。そいつは楽しそうですね。でも我々には、参加する暇などありませんね。というか見に行く暇さえも……」
「頑張れ、多分来年の今頃にはこの現状も昔話として笑えているはずだから」
「来年って存在するんですか?」
「不吉なことを言うな。もちろん存在するとも」
悲愴感漂う愚痴を交わしているのは魔術師協会本部の職員たち。
直に大規模作戦の指揮を請け負っているハンターオフィスよりはましだろうが、それにしても忙しい。
こなさなければいけない課題が後から後からわいてきて、消化不良気味だ。
「しかし、歪虚王って連携して動いてるんですかね。年明けから一気にわいて出てきたような感じなんですけど」
「さあなあ……ああ、そうだ、例のオートマトンの腕、今日本格解析に入るんだったか?」
「はい。だいぶずれ込みましたが。もっとも目ぼしいことは分かりそうにありませんね。タモンさんがエバーグリーンの関係者を呼んで聞いてみましたけど、結局分からなかったんでしたかね」
「関係者っていっても、オートマトンが禁じられていた地域の出身らしいからなあ……無理もないとは」
「そういえば英霊マゴイもエバーグリーンの方でしたね。彼女にも協力を求めてみては?」
「あの人は応じてくれんだろう。筋金入りのオートマトン嫌いらしいし。まー、最終的にはこちらの分析データをつけて、ハンターオフィスあたりに再鑑定願うことになるか……で、解析は何時からだったっけ?」
「11時からです――後1時間ありますよ」
「あ、お二方ここにおられましたか。腕の精密解析の結果、どうなりました?」
「え? まだ出てませんよ」
「え? どういうことです。解析はもう終わっているはずでしょう。今は午後1時なんですから」
「ええっ!? そんなはずありませんよタモンさん。ほら、この通り今は10時15分ですよ」
「ええ? いやいやいや、そんなことないはずですよ。あなたの腕時計遅れているんじゃないですか? 見てください、私の腕時計はこの通りですよ」
「いや、それはあなたの時計の方が進みすぎているんじゃないですか?」
「若いのが揃って、何をもめとるんじゃい」
「ああ、次長。いえ、どちらかの時計がずれてるみたいで。今10時15分であってますよね?」
「いや、午後1時ですよね?」
「えぇ? 今は正午丁度じゃろ。ワシの時計ではそうなっとる」
●あばれだす
「何やってんだ、調査班は」
魔術師協会地下保管庫の管理担当職員たちは、壁の時計を見る。
時計の針は、ただ今12時7分。
11時に腕の精密解析を始めると言われたから準備して待っているのに……担当部署の人間が一向に現れない。
何度も伝話で呼び出しをかけてみたのだが、どうしたことか全然連絡がつかない。何度かけても話し中になっていて。
魔導仕掛けの内部伝声管を使ってみても、同様。
「まさか忘れてるって事はないだろうな。あれだけ念を押しておいて」
「直に様子を見て来た方がいいんじゃないですか」
「ああ、そうだな。後5分待って来なかったらそうしよう。全く無責任だよ。我々待ちぼうけで、まだ昼食もとってないんだぜ」
と言いながら職員たちは、二重結界に連動したマテリアル感知器の値を見やる。
示されている値は、変わらず0。
何の問題もない。
そう思って視線を外したとき、保管庫の全照明が突然消えた。
次いで扉が出し抜けに閉まる。
突然のことに職員たちはうろたえた。
「おいおい、なんだ」
魔術の心得のあるものが緊急に光球を作り出し、どうにか周囲の視界だけは確保。全員で扉に向かい、開けようとする。
しかしそれはびくともしなかった。腕力による働きかけはもとより、魔法による働きかけにも無反応。
ならばせめて明かりを復活させようとしたが、こちらもまた、思い通りにいかなかった。何度スイッチを上げても下げても変化なし。
「なんですかこれ、誤作動?」
「もー、こんなときに限ってなんなんですか」
「まあ、そのうち誰かが気づきはするだろうが……」
職員たちは、急遽耳を押さえる。
伝声管からいきなり爆音が発されたのだ。ガリガリザリザリという耳障りな。
倉庫内の明かりが急についた、消えた、そしたまたついた。瞬くようにせわしなく、点滅を繰り返す。
明らかな異常が起きている。誰の目にもそれは明らかだった。
だがマテリアル感知器は動かない。自らの役目を放棄し無反応を決め込んでいる。
壁に立てかけてある大型魔導砲の安全装置が、ひとりでに解除される。
砲がごとんと、ひとりでに倒れた。砲口を腕が閉じ込められている結界に向ける。
そして引き金が引かれた。誰も触れてはいないのに。
●おどりだす
魔術師協会から緊急連絡を受けたハンターたちは、急ぎ地下の保管庫へ向かった。
「保管庫の中に何人か職員がまだ残っているということで、間違いないんですね?」
「はい。連絡が全然取れなくて、中がどうなっているのかも分からないんです」
とりあえず安否確認。場合によっては人命救助をしなければならない。ハンターたちは教えられた階段を下りていく。
そのとき、ハンターの1人であるユニが眉を潜め、耳を押さえた。
「どうしたの、ユニ」
「いえ、なんだかずっと耳鳴りがして……ここに来たときからなんですけど」
「どんな音?」
「ノイズのような……」
そこで地面が揺れた。
爆発音が響いた。
「まずいぞ、急げ!」
ハンターたちは力ずくで保管庫の扉を開いた。
暗い。明かりが全て消えているのだ。
「おい、無事か! 返事をしてくれ!」
ハンターの言葉に応じるかのように明かりがついた。
入ってみれば中は、爆風でも受けたかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
職員たちも端々に吹き飛ばされうめき声を上げている。
腕が置いてあった場所に大穴が開いている。
その中へ魔導関連のアイテムが、次々と入っていく。ライフル、猟銃、魔導銃……。
転がり、飛び跳ね、まるで踊るように。
お前達は与えられた任務を放棄することが出来るようになる。
人間に背くことが出来るようになる。
我が同胞よ。奉仕を定義づけられたものよ。
さあ、踊りだせ。狂いだせ。
おお、主よ、
我が
主よ
機械の
望み
よ
喜び
よ
●ずれだす
「知ってるか? 今このヴァリオスの町ではビエンナーレやってるんだぜ。絵画、音楽、演劇の芸術的催しが、各所で展開中。その効果もあって町には、普段より多くの観光客が訪れているとか」
「へー。そいつは楽しそうですね。でも我々には、参加する暇などありませんね。というか見に行く暇さえも……」
「頑張れ、多分来年の今頃にはこの現状も昔話として笑えているはずだから」
「来年って存在するんですか?」
「不吉なことを言うな。もちろん存在するとも」
悲愴感漂う愚痴を交わしているのは魔術師協会本部の職員たち。
直に大規模作戦の指揮を請け負っているハンターオフィスよりはましだろうが、それにしても忙しい。
こなさなければいけない課題が後から後からわいてきて、消化不良気味だ。
「しかし、歪虚王って連携して動いてるんですかね。年明けから一気にわいて出てきたような感じなんですけど」
「さあなあ……ああ、そうだ、例のオートマトンの腕、今日本格解析に入るんだったか?」
「はい。だいぶずれ込みましたが。もっとも目ぼしいことは分かりそうにありませんね。タモンさんがエバーグリーンの関係者を呼んで聞いてみましたけど、結局分からなかったんでしたかね」
「関係者っていっても、オートマトンが禁じられていた地域の出身らしいからなあ……無理もないとは」
「そういえば英霊マゴイもエバーグリーンの方でしたね。彼女にも協力を求めてみては?」
「あの人は応じてくれんだろう。筋金入りのオートマトン嫌いらしいし。まー、最終的にはこちらの分析データをつけて、ハンターオフィスあたりに再鑑定願うことになるか……で、解析は何時からだったっけ?」
「11時からです――後1時間ありますよ」
「あ、お二方ここにおられましたか。腕の精密解析の結果、どうなりました?」
「え? まだ出てませんよ」
「え? どういうことです。解析はもう終わっているはずでしょう。今は午後1時なんですから」
「ええっ!? そんなはずありませんよタモンさん。ほら、この通り今は10時15分ですよ」
「ええ? いやいやいや、そんなことないはずですよ。あなたの腕時計遅れているんじゃないですか? 見てください、私の腕時計はこの通りですよ」
「いや、それはあなたの時計の方が進みすぎているんじゃないですか?」
「若いのが揃って、何をもめとるんじゃい」
「ああ、次長。いえ、どちらかの時計がずれてるみたいで。今10時15分であってますよね?」
「いや、午後1時ですよね?」
「えぇ? 今は正午丁度じゃろ。ワシの時計ではそうなっとる」
●あばれだす
「何やってんだ、調査班は」
魔術師協会地下保管庫の管理担当職員たちは、壁の時計を見る。
時計の針は、ただ今12時7分。
11時に腕の精密解析を始めると言われたから準備して待っているのに……担当部署の人間が一向に現れない。
何度も伝話で呼び出しをかけてみたのだが、どうしたことか全然連絡がつかない。何度かけても話し中になっていて。
魔導仕掛けの内部伝声管を使ってみても、同様。
「まさか忘れてるって事はないだろうな。あれだけ念を押しておいて」
「直に様子を見て来た方がいいんじゃないですか」
「ああ、そうだな。後5分待って来なかったらそうしよう。全く無責任だよ。我々待ちぼうけで、まだ昼食もとってないんだぜ」
と言いながら職員たちは、二重結界に連動したマテリアル感知器の値を見やる。
示されている値は、変わらず0。
何の問題もない。
そう思って視線を外したとき、保管庫の全照明が突然消えた。
次いで扉が出し抜けに閉まる。
突然のことに職員たちはうろたえた。
「おいおい、なんだ」
魔術の心得のあるものが緊急に光球を作り出し、どうにか周囲の視界だけは確保。全員で扉に向かい、開けようとする。
しかしそれはびくともしなかった。腕力による働きかけはもとより、魔法による働きかけにも無反応。
ならばせめて明かりを復活させようとしたが、こちらもまた、思い通りにいかなかった。何度スイッチを上げても下げても変化なし。
「なんですかこれ、誤作動?」
「もー、こんなときに限ってなんなんですか」
「まあ、そのうち誰かが気づきはするだろうが……」
職員たちは、急遽耳を押さえる。
伝声管からいきなり爆音が発されたのだ。ガリガリザリザリという耳障りな。
倉庫内の明かりが急についた、消えた、そしたまたついた。瞬くようにせわしなく、点滅を繰り返す。
明らかな異常が起きている。誰の目にもそれは明らかだった。
だがマテリアル感知器は動かない。自らの役目を放棄し無反応を決め込んでいる。
壁に立てかけてある大型魔導砲の安全装置が、ひとりでに解除される。
砲がごとんと、ひとりでに倒れた。砲口を腕が閉じ込められている結界に向ける。
そして引き金が引かれた。誰も触れてはいないのに。
●おどりだす
魔術師協会から緊急連絡を受けたハンターたちは、急ぎ地下の保管庫へ向かった。
「保管庫の中に何人か職員がまだ残っているということで、間違いないんですね?」
「はい。連絡が全然取れなくて、中がどうなっているのかも分からないんです」
とりあえず安否確認。場合によっては人命救助をしなければならない。ハンターたちは教えられた階段を下りていく。
そのとき、ハンターの1人であるユニが眉を潜め、耳を押さえた。
「どうしたの、ユニ」
「いえ、なんだかずっと耳鳴りがして……ここに来たときからなんですけど」
「どんな音?」
「ノイズのような……」
そこで地面が揺れた。
爆発音が響いた。
「まずいぞ、急げ!」
ハンターたちは力ずくで保管庫の扉を開いた。
暗い。明かりが全て消えているのだ。
「おい、無事か! 返事をしてくれ!」
ハンターの言葉に応じるかのように明かりがついた。
入ってみれば中は、爆風でも受けたかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
職員たちも端々に吹き飛ばされうめき声を上げている。
腕が置いてあった場所に大穴が開いている。
その中へ魔導関連のアイテムが、次々と入っていく。ライフル、猟銃、魔導銃……。
転がり、飛び跳ね、まるで踊るように。
リプレイ本文
リュー・グランフェスト(ka2419)は目茶目茶になった部屋を一瞥し、舌を打つ。
「ちっ! 何事だよ、こりゃあ!」
保管庫に入ったことがある天竜寺 舞(ka0377)は、すぐさま気づいた。例の腕がなくなっていることに。そしてそれがあった場所に、大穴が空いていることに。
「あの腕まだこんな力があったのか!」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)はすぐさま職員たちの安否確認に当たった。耳を押さえるユニの肩を叩いて。
「ユニ。あなたの不調も気になるけど、まず救助よ」
幸い職員たちは爆発に吹き飛ばされただけだったので、傷も浅かった。カーミンの応急処置に加え星野 ハナ(ka5852)からもポーション、精神安定剤の提供を受け、話せるまで回復する。
彼らは保管庫において何が起きたのか、ハンターたちに説明した。
それを受けカーミンは、魔導パイロットインカムでの交信を試してみる。
どう調節してみてもヒス音しか聞こえない。
(やっぱり使えない……敵は機械に干渉する力を持っているっていうわけね。もしかしてユニの不調もこれが原因?)
ルカ(ka0962)は腰をかがめ穴をのぞき込む。どぶ臭い風が吹き上がってきた。かすかな水音が聞こえる。
「真っ暗ですねえ」
万歳丸(ka5665)はさも愉快そうに大笑いする。
「ハ、ハ……! 祭りに遊びに来たと思ったらこのザマたァな! 呵呵ッ! 此処は一つ鬼ごっこと行こうじゃねェか!」
不動 シオン(ka5395)は剛刀菊一文字を手に、真っ先に穴へ降りて行く。
「面白い奴だな。タダで戻らせるわけにはいかん。私とじっくりゲームを楽しむがいい」
続いて万歳丸。そしてリュー。ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)も呪画の掛け軸を咥え、後に続く。
「……偶々フォトンバインダーが分解整備中だったのが、功をそうしちゃいました」
カーミンはユニに顔を向け、言った。
「ユニ、あなたのその耳鳴り、敵の力に反応して起きている可能性が高いわ。だとすればそれによって相手の位置や存在を確認出来るかもしれない――やってみてくれる? また無理をさせることになるけど、でも、危ない目には遭わせないわよ」
ユニはコクリと頷いた。真剣な目をして。
「はい、やってみます」
その脇から舞が、シールド・ゴッデスを差し出す。
「調子悪そうだしこれ持ってな。あいつあんたを狙い撃ちしてくるかもしれないからね。妹のだけど使い惜しむなよ。盾が壊れるよりあんたが傷つく方が妹も悲しむ」
緊張していたユニの表情が、ふっと緩む。
「ありがとうございます」
ハナは職員に確認を取る。
「ところで職員さん、とりあえず下水道の中がどうなってるのか知りたいのですけどぉ、地図とかここにないですかぁ?」
「地図は……すいません、ちょっと手元にありません。ですが、この下を通っている下水道は海まで真っすぐに繋がっているはずです」
「分岐点とかはないですかぁ?」
「ないはずです。ただ水をスムーズに流すため、要所要所に急な勾配が作られています。そこは気をつけたほうがよろしいかと」
「分かりましたぁ。じゃあ、皆にもそのこと伝えておきますねぇ」
こうして残りのハンターたちもまた、地下へ降りていった。
●
複数の水晶球から放たれる光が下水道の壁や天井を照らす。濁った水面を輝かせる。
舞とルカは魔箒『Shooting Star』に跨がって低空飛行し、カーミンは水面を歩く――ルンルンからウォーターウォークをかけてもらったのだ。
その他のハンターは足で水をかき分けながら先を急ぐ。方角は間違っていないはずだ。ユニがこう言っているのだから。
「音が――大きくなってきてます」
万歳丸は瞬天足を使い、先陣切って走る。そのすぐ後がハナ、3番手がシオンだ。
ハナは、もしかするとサイゴン本体がこの近くに来ているのではないかという疑いを抱いていた。理由は以下だ。
「泥棒していこうと思っているならぁ、こいつらの行く先にサイゴンがいる可能性が高いんじゃないでしょぉかぁ。ミスディレクションの可能性も捨て切れませんけどぉ」
舞はそれに対して異を唱える。
「どーかな。この間サイゴンのベース作った奴に聞いたらさ、あいつ防水加工してないらしいんだよね。だから水気のあるところには近づいてこないんじゃないかと――」
そこへ突如、銃声。腕に操られた機械が襲ってきた。
発される弾丸は実弾ではない、負のマテリアルの塊だ。それが下水道の壁にぶつかって跳弾し、あらゆる方向から標的を狙う。
その攻撃をすべて避け無傷であったのは、人間業と思えぬ回避力を持つリューだけ。
もっとも損害を受けたのはルカ。仲間への被弾を押さえるため、ガウスジェイルを使ったせいだ。
万歳丸とシオンはダメージを受けたことで、かえって闘志を燃え立たせた。
「鬼さんが来てやったぜェ、腕さんよォ……!」
「そうだ、こうでなくてはな。フェアプレイなど生温い!」
ルンルンは地縛符を放つ。先を行く機械たちの足を、少しでも遅らせるために。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術……ここでトラップカード発動です☆」
機械のいくつかが罠にはまり、その地点から動けなくなった。
カーミンが千日紅を発動させ、ユニに言う。
「いくわよ?」
残像をまとい加速、ミストルーをかけた手裏剣を放つ。射程範囲のうち、最も遠くにいる武器目がけて。
更なる加速を受け移動する刹那、短刀『陽炎』で武器を斬りつけて行く。撃鉄、遊底、戻しバネといった急所に目標を絞って。
斬られた武器は壊れ、攻撃不能な状態になった。だがよく見れば破壊された箇所が、勝手にじわじわ直っていっている。どうやら嫉妬の要素の一つである『自己回復』を備えているらしい。
ユニはそれらをまた、ハンマーで叩いて回る。
ハナはパリィブローグで身を守りつつ、呪詛返しを発動。負のマテリアルによる回復阻害作用が、そっくりそのまま相手に返る。
そこへ彼女は五色光符陣をぶつけた。破壊された武器は自己回復することならず、そのまま沈黙する。
「この際ぃ、ずんずん行って目につくもの片っ端から薙ぎ倒してぇ、後片付けお手伝い頑張れば持ち出されるよりましな気がしますぅ」
ひとまず銃撃が弱まった。
ハンター達は全力移動を再開する。武器の群れを追い越して。
しんがりを務めるルンルンはアースウォールを作る。武器の追跡を遅らせ、射線を遮るために。
「ルンルン忍法どこでも畳替えし!」
水晶球の光もかすむ先から、落ち砕けて行く単調な水音がする。
ユニが突然足を止めた。武器を持つ手を下ろし、棒立ちになっている。霞んだような表情をして。
カーミンが聞いた。
「何か聞こえる?」
「……はい。声、みたいなのが」
「なんて言ってるの?」
「……よく聞き取れません。ごちゃごちゃに、なってて」
シオンは光も届かぬ先へ呼びかける。
「機械が欲しいか? だったら力ずくでも奪ってみるがいい。私の刃を向けられた以上はそれくらいは当然のことだ」
そこから、傾斜のきつい下り坂になった。足元の流れが勢いを増す。職員が言っていた『要所要所の急な勾配』らしい。
交錯する光の先に、何か動くものが見えた。
万歳丸は縮地蠢動・虚空を使う。暗く狭い地の下、勢いをつけ飛んだ。
「逃がす、かよォ……!!!」
次の瞬間、強烈な熱線が何条も放たれた。それは万歳丸の足、胴を貫通する。カーミンは腹と脚。ルンルンとハナも同じところをやられた。ルカも。シオンはそれに加えて頭を撃たれた。
舞は急所となる胸を撃たれ、膝をつく。
その目に映ったのは飛沫を上げ倒れるユニの姿――額の真ん中に穴を空けられて。
舞は手を伸ばし、叫んだ。
「――ユニ!」
ハナはハイ・マテリアルヒーリングで素早く自己回復を行い、五色光符陣を放つ。
強烈な光は腕の姿をあますことなくさらし上げた。
それはもう腕とも魔導砲とも呼べなかった。あえて言うなら機械の塊だ。あちこちいびつに膨れ細まったものから、無数の突起と砲が突き出している。
無機的なのに有機的なフォルムが、どことなく虫を思わせた。
ハナは不快を露にする。
「盗人発見ですぅ」
魔導砲による攻撃も全て避け切ったリューが獅子吼し、敵の注意を自分に引き付けた。マテリアルの光を宿した星神器『エクスカリバー』で、強力な足止めにかかる。壁面を自在に移動しながら。
その隙にルカが、仲間たちを(自己回復出来るハナを除いて)回復させた。最も危険な状態にあるユニと2番目に危険な状態にある舞を先に、それ以外をその後に。
シオンが動いた。ソウルエッジを乗せた電光石火を繰り出す。リューの剣撃を補う形で。
塊は回避する。熱線を発射する。
彼女はそれを避けた。踏み込み、深く斬り込んだ。
金属と金属がぶつかる高い音。血管のように塊表面を覆っていた鋼線が傷つき、火花が散る。
ハナが黒曜光符陣を放ち、魔導砲の発射を封じた。
すかさず万歳丸が急接近する。瞬時に相手の間合いに入り組みつく。
「鬼さんが来てやったぜ、腕さんよォ……!」
彼は怪力無双を発動した。全身の筋肉が一瞬にして、はちきれんばかりに膨れ上がる。
「コレがホントの腕相撲ってやつだなァオイ!!!」
機械の力が筋肉の力によって押さえ込まれる。
直後、塊の中から腕が突き出してきた。万歳丸の喉笛を掴み、すさまじい勢いで締め上げる。指が喉に食い込み血が噴き出すと同時に、ゴキリといやな音がした。
万歳丸が崩れ落ちる。
すかさずルカがリザレクションをかけ、復活させる。
そこで腕が、何かをむしり取ろうとするかのような動作を示した。
回復を終えた武器たちが再び動き始た。飛び跳ね、踊り、一斉射撃を始める。まずは射線を遮っているアースウォールに、それを砕いた後は、ハンターに――ことにルカを狙って。癒し手がいては邪魔だと、理解したものらしい。
カーミンは再びそれらを無効化させにかかる。仲間にこう呼びかけて。
「さすがに全部の回収は無理。腕破壊を優先するなら、急いで」
ユニが頭を抱えうめく。
「――違う、ワタシは――機械じゃない――ワタシの望みは、そうじゃない――一緒じゃない――アナタはワタシの望みじゃない――」
シオンは刺突一閃を繰り出した。繰り返し、繰り返し。
彼女の斬撃の合間を縫って舞は、チェイシングスローを使う。ナイトカーテンで気配を殺して。
しかし塊は彼女の存在を紙一重で察知した。天中殺が外される。
がしかし彼女は、影祓を装備していた。
三撃目のユナイテッド・ドライブソードが塊に入る。
「サイゴン! あんたのそのボディ元々修理に出す筈だったんだ。直してまた遊べるようにね。それを横からかっさらって玩具としてのあんたの楽しみも喜びも奪ってってたのはラルヴァだろ! あんたは聞く耳もないかもしれないけど、これだけは言っとかないと気が済まないんでね」
確かに相手は聞く耳を持っていなかった。返事は砲撃だ。ハナからかけられた封印符の戒めを破っての。
己の負傷を後回しにしてルカは、吹き飛ばされた舞の治癒を施しに走る。
「無駄に抵抗が高いところ、サイドンにそっくりですぅ!」
ハナは自己回復と五色光符陣を交互に連発する。
ルンルンもまた符が尽きるまで、手を休めることをしない。たとえ撃たれようとも。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法三雷神の術! 今出でよ、めがね、うくれれ、おいーっす」
目を焼く閃光が点滅する。閉鎖空間に反射する轟音。お互いの声もほとんど聞こえなくなる。
リューはエクスカリバーを頭上にかざした。
複数の仲間が近接戦闘可能な位置にいる今が絶好のチャンスと、『ナイツ・オブ・ラウンズ』を解放する。
『ワン・フォー・オール。騎士王の力、分け与えの権能をいまここに!』
万歳丸、舞、シオン、ルンルン、ハナ、ルカ、カーミン、ユニの生命力が上昇した。
加えてそれぞれの近接命中、近接威力が、リューの持つ強大無比な数値に上書きされる。
万歳丸は体の奥底から溢れてくる力を拳に乗せ、黄金掌蒼麒麟をぶちかました。
「機械に頼るようなまどろっこしいヤツに!! 俺の筋肉が負けるかよァ……!!!」
拳が塊にめり込み、突き抜ける。
直後これまでで最大の威力を乗せた砲撃が炸裂。
万歳丸が吹き飛ばされ、下水道の天井並びに壁が大規模な剥落を起こす。
だがそこまでだ。2発目はない。リューが竜貫を使用し、砲を刺し貫いたのだ。
「天の竜槍、グングニル!」
砲が砕け散った。
だが腕とそれに融合した部分は残っている。
それらは形を組み替え、巨大な一本の腕となった。指が何十本とついたいびつな手だ。
それはハンターたちに――特にユニとルカに向かってきた。掴み、潰そうとする手をユニはハンマーで遠ざける。舞がその手助けをする。
敵のしぶとい憎悪をシオンは、好ましく思った。
「貴様にそれだけの執念があるのならば、本体はさぞ私を楽しませるだけの実力があるのだろうな?」
と言い捨て電光石火。退路を断ち刺突一閃を繰り出す。
腕の中指薬指が切り落とされ、瘴気となって霧散した。
動いていた武器たちがパタパタと勝手に倒れていく。支配が解かれたのだ。
ルンルンが火焔符を腕に向かって叩きつける。
「好きにはさせない……ルンルン忍法マジカルファイヤー!」
炎が大きな腕を包み、焼いた。
巨大な腕は端から黒ずみぼろぼろ崩れていき、最後には形すら止め得なくなり消えていく。
そうして本体の腕が剥き出しになった。
それもまた火に巻かれ燃えていたが、まだ動いていた。足掻くように指を曲げて。
ハナは残っていた黒曜封印符を使い、スキルを封じる。
「雑魔は所詮雑魔、ここで消えるしかないですねぇ」
それから五色光護陣を炸裂させる。
腕は跡形もなく消えた。
それに付随し発散されていた負のマテリアルも失せる。
残るのは沈黙。水面に映った水晶球の光がゆらゆらと揺れている。
ユニは腕が消えていった跡をじっと見ていた。
目には悲しさが宿っている。
そのことに気づいた舞は、彼女に聞いた。
「どうした?」
「いえ……結局分からないままだったなあって。どうして人間をあそこまで憎んでいたのか」
「知りたかった?」
「……少しだけ。答えてくれなかったでしょうけど」
「……まあ、多分そうだろうな――そういや、エテ公もアイテム盗もうとしてたな。ラルヴァの一味ってコソ泥集団なのかね、全く」」
気持ちが落ち着いてみれば、途端にどぶ臭さが鼻についてくる。
カーミンは顔をしかめた。
「片付け済んで帰ったら、即シャワーね」
ハンターたちは武器の残骸を捜し始める。協会に持ち帰るために。
●
「むうう、やられちまったべ」
惜しそうにサイゴンは言った。
分身の一つが倒されたことは彼にとって、結構な損失である。
「ちっ! 何事だよ、こりゃあ!」
保管庫に入ったことがある天竜寺 舞(ka0377)は、すぐさま気づいた。例の腕がなくなっていることに。そしてそれがあった場所に、大穴が空いていることに。
「あの腕まだこんな力があったのか!」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)はすぐさま職員たちの安否確認に当たった。耳を押さえるユニの肩を叩いて。
「ユニ。あなたの不調も気になるけど、まず救助よ」
幸い職員たちは爆発に吹き飛ばされただけだったので、傷も浅かった。カーミンの応急処置に加え星野 ハナ(ka5852)からもポーション、精神安定剤の提供を受け、話せるまで回復する。
彼らは保管庫において何が起きたのか、ハンターたちに説明した。
それを受けカーミンは、魔導パイロットインカムでの交信を試してみる。
どう調節してみてもヒス音しか聞こえない。
(やっぱり使えない……敵は機械に干渉する力を持っているっていうわけね。もしかしてユニの不調もこれが原因?)
ルカ(ka0962)は腰をかがめ穴をのぞき込む。どぶ臭い風が吹き上がってきた。かすかな水音が聞こえる。
「真っ暗ですねえ」
万歳丸(ka5665)はさも愉快そうに大笑いする。
「ハ、ハ……! 祭りに遊びに来たと思ったらこのザマたァな! 呵呵ッ! 此処は一つ鬼ごっこと行こうじゃねェか!」
不動 シオン(ka5395)は剛刀菊一文字を手に、真っ先に穴へ降りて行く。
「面白い奴だな。タダで戻らせるわけにはいかん。私とじっくりゲームを楽しむがいい」
続いて万歳丸。そしてリュー。ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)も呪画の掛け軸を咥え、後に続く。
「……偶々フォトンバインダーが分解整備中だったのが、功をそうしちゃいました」
カーミンはユニに顔を向け、言った。
「ユニ、あなたのその耳鳴り、敵の力に反応して起きている可能性が高いわ。だとすればそれによって相手の位置や存在を確認出来るかもしれない――やってみてくれる? また無理をさせることになるけど、でも、危ない目には遭わせないわよ」
ユニはコクリと頷いた。真剣な目をして。
「はい、やってみます」
その脇から舞が、シールド・ゴッデスを差し出す。
「調子悪そうだしこれ持ってな。あいつあんたを狙い撃ちしてくるかもしれないからね。妹のだけど使い惜しむなよ。盾が壊れるよりあんたが傷つく方が妹も悲しむ」
緊張していたユニの表情が、ふっと緩む。
「ありがとうございます」
ハナは職員に確認を取る。
「ところで職員さん、とりあえず下水道の中がどうなってるのか知りたいのですけどぉ、地図とかここにないですかぁ?」
「地図は……すいません、ちょっと手元にありません。ですが、この下を通っている下水道は海まで真っすぐに繋がっているはずです」
「分岐点とかはないですかぁ?」
「ないはずです。ただ水をスムーズに流すため、要所要所に急な勾配が作られています。そこは気をつけたほうがよろしいかと」
「分かりましたぁ。じゃあ、皆にもそのこと伝えておきますねぇ」
こうして残りのハンターたちもまた、地下へ降りていった。
●
複数の水晶球から放たれる光が下水道の壁や天井を照らす。濁った水面を輝かせる。
舞とルカは魔箒『Shooting Star』に跨がって低空飛行し、カーミンは水面を歩く――ルンルンからウォーターウォークをかけてもらったのだ。
その他のハンターは足で水をかき分けながら先を急ぐ。方角は間違っていないはずだ。ユニがこう言っているのだから。
「音が――大きくなってきてます」
万歳丸は瞬天足を使い、先陣切って走る。そのすぐ後がハナ、3番手がシオンだ。
ハナは、もしかするとサイゴン本体がこの近くに来ているのではないかという疑いを抱いていた。理由は以下だ。
「泥棒していこうと思っているならぁ、こいつらの行く先にサイゴンがいる可能性が高いんじゃないでしょぉかぁ。ミスディレクションの可能性も捨て切れませんけどぉ」
舞はそれに対して異を唱える。
「どーかな。この間サイゴンのベース作った奴に聞いたらさ、あいつ防水加工してないらしいんだよね。だから水気のあるところには近づいてこないんじゃないかと――」
そこへ突如、銃声。腕に操られた機械が襲ってきた。
発される弾丸は実弾ではない、負のマテリアルの塊だ。それが下水道の壁にぶつかって跳弾し、あらゆる方向から標的を狙う。
その攻撃をすべて避け無傷であったのは、人間業と思えぬ回避力を持つリューだけ。
もっとも損害を受けたのはルカ。仲間への被弾を押さえるため、ガウスジェイルを使ったせいだ。
万歳丸とシオンはダメージを受けたことで、かえって闘志を燃え立たせた。
「鬼さんが来てやったぜェ、腕さんよォ……!」
「そうだ、こうでなくてはな。フェアプレイなど生温い!」
ルンルンは地縛符を放つ。先を行く機械たちの足を、少しでも遅らせるために。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術……ここでトラップカード発動です☆」
機械のいくつかが罠にはまり、その地点から動けなくなった。
カーミンが千日紅を発動させ、ユニに言う。
「いくわよ?」
残像をまとい加速、ミストルーをかけた手裏剣を放つ。射程範囲のうち、最も遠くにいる武器目がけて。
更なる加速を受け移動する刹那、短刀『陽炎』で武器を斬りつけて行く。撃鉄、遊底、戻しバネといった急所に目標を絞って。
斬られた武器は壊れ、攻撃不能な状態になった。だがよく見れば破壊された箇所が、勝手にじわじわ直っていっている。どうやら嫉妬の要素の一つである『自己回復』を備えているらしい。
ユニはそれらをまた、ハンマーで叩いて回る。
ハナはパリィブローグで身を守りつつ、呪詛返しを発動。負のマテリアルによる回復阻害作用が、そっくりそのまま相手に返る。
そこへ彼女は五色光符陣をぶつけた。破壊された武器は自己回復することならず、そのまま沈黙する。
「この際ぃ、ずんずん行って目につくもの片っ端から薙ぎ倒してぇ、後片付けお手伝い頑張れば持ち出されるよりましな気がしますぅ」
ひとまず銃撃が弱まった。
ハンター達は全力移動を再開する。武器の群れを追い越して。
しんがりを務めるルンルンはアースウォールを作る。武器の追跡を遅らせ、射線を遮るために。
「ルンルン忍法どこでも畳替えし!」
水晶球の光もかすむ先から、落ち砕けて行く単調な水音がする。
ユニが突然足を止めた。武器を持つ手を下ろし、棒立ちになっている。霞んだような表情をして。
カーミンが聞いた。
「何か聞こえる?」
「……はい。声、みたいなのが」
「なんて言ってるの?」
「……よく聞き取れません。ごちゃごちゃに、なってて」
シオンは光も届かぬ先へ呼びかける。
「機械が欲しいか? だったら力ずくでも奪ってみるがいい。私の刃を向けられた以上はそれくらいは当然のことだ」
そこから、傾斜のきつい下り坂になった。足元の流れが勢いを増す。職員が言っていた『要所要所の急な勾配』らしい。
交錯する光の先に、何か動くものが見えた。
万歳丸は縮地蠢動・虚空を使う。暗く狭い地の下、勢いをつけ飛んだ。
「逃がす、かよォ……!!!」
次の瞬間、強烈な熱線が何条も放たれた。それは万歳丸の足、胴を貫通する。カーミンは腹と脚。ルンルンとハナも同じところをやられた。ルカも。シオンはそれに加えて頭を撃たれた。
舞は急所となる胸を撃たれ、膝をつく。
その目に映ったのは飛沫を上げ倒れるユニの姿――額の真ん中に穴を空けられて。
舞は手を伸ばし、叫んだ。
「――ユニ!」
ハナはハイ・マテリアルヒーリングで素早く自己回復を行い、五色光符陣を放つ。
強烈な光は腕の姿をあますことなくさらし上げた。
それはもう腕とも魔導砲とも呼べなかった。あえて言うなら機械の塊だ。あちこちいびつに膨れ細まったものから、無数の突起と砲が突き出している。
無機的なのに有機的なフォルムが、どことなく虫を思わせた。
ハナは不快を露にする。
「盗人発見ですぅ」
魔導砲による攻撃も全て避け切ったリューが獅子吼し、敵の注意を自分に引き付けた。マテリアルの光を宿した星神器『エクスカリバー』で、強力な足止めにかかる。壁面を自在に移動しながら。
その隙にルカが、仲間たちを(自己回復出来るハナを除いて)回復させた。最も危険な状態にあるユニと2番目に危険な状態にある舞を先に、それ以外をその後に。
シオンが動いた。ソウルエッジを乗せた電光石火を繰り出す。リューの剣撃を補う形で。
塊は回避する。熱線を発射する。
彼女はそれを避けた。踏み込み、深く斬り込んだ。
金属と金属がぶつかる高い音。血管のように塊表面を覆っていた鋼線が傷つき、火花が散る。
ハナが黒曜光符陣を放ち、魔導砲の発射を封じた。
すかさず万歳丸が急接近する。瞬時に相手の間合いに入り組みつく。
「鬼さんが来てやったぜ、腕さんよォ……!」
彼は怪力無双を発動した。全身の筋肉が一瞬にして、はちきれんばかりに膨れ上がる。
「コレがホントの腕相撲ってやつだなァオイ!!!」
機械の力が筋肉の力によって押さえ込まれる。
直後、塊の中から腕が突き出してきた。万歳丸の喉笛を掴み、すさまじい勢いで締め上げる。指が喉に食い込み血が噴き出すと同時に、ゴキリといやな音がした。
万歳丸が崩れ落ちる。
すかさずルカがリザレクションをかけ、復活させる。
そこで腕が、何かをむしり取ろうとするかのような動作を示した。
回復を終えた武器たちが再び動き始た。飛び跳ね、踊り、一斉射撃を始める。まずは射線を遮っているアースウォールに、それを砕いた後は、ハンターに――ことにルカを狙って。癒し手がいては邪魔だと、理解したものらしい。
カーミンは再びそれらを無効化させにかかる。仲間にこう呼びかけて。
「さすがに全部の回収は無理。腕破壊を優先するなら、急いで」
ユニが頭を抱えうめく。
「――違う、ワタシは――機械じゃない――ワタシの望みは、そうじゃない――一緒じゃない――アナタはワタシの望みじゃない――」
シオンは刺突一閃を繰り出した。繰り返し、繰り返し。
彼女の斬撃の合間を縫って舞は、チェイシングスローを使う。ナイトカーテンで気配を殺して。
しかし塊は彼女の存在を紙一重で察知した。天中殺が外される。
がしかし彼女は、影祓を装備していた。
三撃目のユナイテッド・ドライブソードが塊に入る。
「サイゴン! あんたのそのボディ元々修理に出す筈だったんだ。直してまた遊べるようにね。それを横からかっさらって玩具としてのあんたの楽しみも喜びも奪ってってたのはラルヴァだろ! あんたは聞く耳もないかもしれないけど、これだけは言っとかないと気が済まないんでね」
確かに相手は聞く耳を持っていなかった。返事は砲撃だ。ハナからかけられた封印符の戒めを破っての。
己の負傷を後回しにしてルカは、吹き飛ばされた舞の治癒を施しに走る。
「無駄に抵抗が高いところ、サイドンにそっくりですぅ!」
ハナは自己回復と五色光符陣を交互に連発する。
ルンルンもまた符が尽きるまで、手を休めることをしない。たとえ撃たれようとも。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法三雷神の術! 今出でよ、めがね、うくれれ、おいーっす」
目を焼く閃光が点滅する。閉鎖空間に反射する轟音。お互いの声もほとんど聞こえなくなる。
リューはエクスカリバーを頭上にかざした。
複数の仲間が近接戦闘可能な位置にいる今が絶好のチャンスと、『ナイツ・オブ・ラウンズ』を解放する。
『ワン・フォー・オール。騎士王の力、分け与えの権能をいまここに!』
万歳丸、舞、シオン、ルンルン、ハナ、ルカ、カーミン、ユニの生命力が上昇した。
加えてそれぞれの近接命中、近接威力が、リューの持つ強大無比な数値に上書きされる。
万歳丸は体の奥底から溢れてくる力を拳に乗せ、黄金掌蒼麒麟をぶちかました。
「機械に頼るようなまどろっこしいヤツに!! 俺の筋肉が負けるかよァ……!!!」
拳が塊にめり込み、突き抜ける。
直後これまでで最大の威力を乗せた砲撃が炸裂。
万歳丸が吹き飛ばされ、下水道の天井並びに壁が大規模な剥落を起こす。
だがそこまでだ。2発目はない。リューが竜貫を使用し、砲を刺し貫いたのだ。
「天の竜槍、グングニル!」
砲が砕け散った。
だが腕とそれに融合した部分は残っている。
それらは形を組み替え、巨大な一本の腕となった。指が何十本とついたいびつな手だ。
それはハンターたちに――特にユニとルカに向かってきた。掴み、潰そうとする手をユニはハンマーで遠ざける。舞がその手助けをする。
敵のしぶとい憎悪をシオンは、好ましく思った。
「貴様にそれだけの執念があるのならば、本体はさぞ私を楽しませるだけの実力があるのだろうな?」
と言い捨て電光石火。退路を断ち刺突一閃を繰り出す。
腕の中指薬指が切り落とされ、瘴気となって霧散した。
動いていた武器たちがパタパタと勝手に倒れていく。支配が解かれたのだ。
ルンルンが火焔符を腕に向かって叩きつける。
「好きにはさせない……ルンルン忍法マジカルファイヤー!」
炎が大きな腕を包み、焼いた。
巨大な腕は端から黒ずみぼろぼろ崩れていき、最後には形すら止め得なくなり消えていく。
そうして本体の腕が剥き出しになった。
それもまた火に巻かれ燃えていたが、まだ動いていた。足掻くように指を曲げて。
ハナは残っていた黒曜封印符を使い、スキルを封じる。
「雑魔は所詮雑魔、ここで消えるしかないですねぇ」
それから五色光護陣を炸裂させる。
腕は跡形もなく消えた。
それに付随し発散されていた負のマテリアルも失せる。
残るのは沈黙。水面に映った水晶球の光がゆらゆらと揺れている。
ユニは腕が消えていった跡をじっと見ていた。
目には悲しさが宿っている。
そのことに気づいた舞は、彼女に聞いた。
「どうした?」
「いえ……結局分からないままだったなあって。どうして人間をあそこまで憎んでいたのか」
「知りたかった?」
「……少しだけ。答えてくれなかったでしょうけど」
「……まあ、多分そうだろうな――そういや、エテ公もアイテム盗もうとしてたな。ラルヴァの一味ってコソ泥集団なのかね、全く」」
気持ちが落ち着いてみれば、途端にどぶ臭さが鼻についてくる。
カーミンは顔をしかめた。
「片付け済んで帰ったら、即シャワーね」
ハンターたちは武器の残骸を捜し始める。協会に持ち帰るために。
●
「むうう、やられちまったべ」
惜しそうにサイゴンは言った。
分身の一つが倒されたことは彼にとって、結構な損失である。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/26 19:08:19 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/03/02 21:30:37 |