ゲスト
(ka0000)
【王戦】ティオリオス阻止戦
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/28 09:00
- 完成日
- 2019/03/10 19:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
青の隊の騎士であり、アルテミス小隊の責任者であるノセヤは険しい顔で状況を知らせる報告書を読んでいた。
ハルトフォートに攻め寄せる敵だけではなく、王国西部にも傲慢歪虚が集いつつあるのだ。
「……間に合いませんでしたか……」
グッと報告書を握り締める。
フライング・システィーナ号を空に飛ばせれば、より柔軟に対応できる。
空の研究者所長のアメリア・マティーナ(kz0179)とハンター達と共に、船に雲を纏わせる魔法を調整した。
しかし、それだけだと、空に飛べない。補助推進となる刻令術式回転羽根の設置中であるし、なにより、水の精霊の試練を果たしていない。
おまけに、討伐対象である歪虚ティオリオスは、守護者すらも退ける実力者なのだ。
「……焦ってもダメだ。一つひとつ、解決していくしかない」
「ノセヤさん……実は、それの事ですが……」
水の精霊が申し訳なさそうに手を合わせていた。
こういう人間らしい表現をするようになったのだなと、ノセヤは思った。
「なんでしょうか?」
「依頼の報告書、読ませていただきました。その上で、プラトニス様に“私達”からもお願いしたのです」
「そ、それで、何と!?」
ノセヤは音を立てて席を立ち上がった。
「ティオリオスを必ず討伐するのであれば、助力は構わないと」
「ほ、本当ですか!?」
「……正直、今回の事は大変申し訳ないと思っています。まさか、あれ程の歪虚だったとは思わなかったので」
敵の情報を得てくる依頼で、まさかの事態となった。
最悪、全員が溺死していてもおかしくない依頼になっていたのだ。
「それに……ティオリオスが、あの海域から居なくなったので」
「居なくなった? それは確かなのですか?」
「はい。海域の精霊達に協力いただいて、足取りを追うつもりだったのですが……ハンター達との戦いで、ティオリオスも何か変化があったかもしれません」
ティオリオスが何処かに行ってしまったのは気になる所だが、とりあえず、水の精霊の助力を得られたのは大きい。
ホッとしたノセヤは椅子に座り直した。
「…………た、大変だ!!」
暫く、ボーと天井を見上げていたノセヤが突然叫んだ。
「ティオリオスは『傲慢王に近い存在』である事を言っていた。その話が本当であれば、今回の襲撃、絶対に出てくるはず!」
「ですが、対策無しでは、とても危険な相手ですよ」
空間そのものを水中に置き換えるのだ。
息継ぎできなければ、戦い続ける事は難しく、そして、短時間で倒せる程、敵が弱い訳ではない。
「核心はありませんが……水中戦を想定して調整を施したCAMで挑めばいいのです」
ノセヤの台詞に水の精霊はポンと手を叩いた。
「なるほどです。それなら、息継ぎしなくとも戦えますね」
「課題があるとすれば、どこにティオリオスが出現するか分からないという事です」
そう言ってノセヤは王国の地図を広げた。
北東の山岳の中にある湖から、古都アークエルス方面に流れる大河と王国西部からハルトフォート砦、王都イルダーナへと遡る大河は同一河川だ。
「ハルトフォート側に出るか……それとも、アークエルス側に出るか……ですしょうか」
ブツブツと呟くノセヤ。
あらゆる可能性を考えるが、相手が水や海に由来する力を使うのであれば、陸上よりも川かその近くに現れると推測した。
「……ハルトフォート側にCAMとハンターを送ります」
「そっちにティオリオスが居ると?」
水の精霊は首を傾げた。
これで空振りだったら、貴重な戦力を無駄にしてしまう事ぐらいは分かるからだ。
「色々と理由はありますけど。海を移動していたとすれば、見つけられなくとも不思議はありませんから」
「では、もしかして、今回で、討伐できるのでしょうか?」
「可能であれば倒して欲しいですが……大事なのは、ティオリオスが主戦場に向かうのを止める事です」
報告書にあったあの驚異的な歪虚が主戦場に乱入すればどのような事態になるか容易に想像できた。
生きている以上、息継ぎが出来ないと人間は戦えない。だが、既に死んでいる歪虚は別だ。
戦線は一瞬で崩壊するだろう。崩壊した箇所から敵が雪崩れ込めば、ハルトフォート砦は容易に陥落するかもしれない。
ノセヤは立ち上がると、アルテミス小隊の指揮官室へと向かうのであった。
●
ティベリス河は大河だ。大きな支流も数多く、豊かな水量を誇る。
ハルトフォートよりも手前、大河傍に形成された三日月湖で休んでいたティオリオスは何かの気配を感じて、川岸に視線を向けた。
「……偉大なる傲慢の王の幼き従者……の、使いよ。俺に何かようか?」
「ミュールから伝言だよぉ~、ティオリオス!」
湖岸に立っていたのはミュール(kz0259)の分体であった。
水の上で立ち止まったティオリオスは青く長い髪を手で抑える。
「いよいよ、か?」
「そういう事ぉ~! だから“タイミングを見て”だってぇ~!」
「いつも通り、大雑把な話だな」
呆れたようにティオリオスは返した。
ミュールといえば嬉しそうに飛び跳ねてる。
「えへへ~。それほどでもぉ~」
「言っておくが、褒めてないぞ」
「えぇぇ! そうなのぉ~。うぅ~、ティオリオスのいぢわる。ペットの癖に」
ぷくっと頬を膨らませるミュール。
イヴ様に言いつけてやる――と心の中で呟く。
一方のティオリオスは顔に掛かった前髪を手で払いのける。
「偉大なる傲慢の王に相応しい竜だと言っているだろう」
「……もう、異世界の変な本に影響されちゃってぇ……あれ? なんか、こっちに来るよぉ~」
「ふむ。このオレと一期一会の戦いを希望する戦士が現れたという事か」
ミュールの居る岸の反対側に、ハンター達が駆るCAMが姿を現したのだ。
「掛かってこい、ハンター共よ」
「面白そうだから、ミュールも手伝うよぉ~!」
嬉しそうに飛び跳ねながら、ミュールは立札に【変容】したのであった。
青の隊の騎士であり、アルテミス小隊の責任者であるノセヤは険しい顔で状況を知らせる報告書を読んでいた。
ハルトフォートに攻め寄せる敵だけではなく、王国西部にも傲慢歪虚が集いつつあるのだ。
「……間に合いませんでしたか……」
グッと報告書を握り締める。
フライング・システィーナ号を空に飛ばせれば、より柔軟に対応できる。
空の研究者所長のアメリア・マティーナ(kz0179)とハンター達と共に、船に雲を纏わせる魔法を調整した。
しかし、それだけだと、空に飛べない。補助推進となる刻令術式回転羽根の設置中であるし、なにより、水の精霊の試練を果たしていない。
おまけに、討伐対象である歪虚ティオリオスは、守護者すらも退ける実力者なのだ。
「……焦ってもダメだ。一つひとつ、解決していくしかない」
「ノセヤさん……実は、それの事ですが……」
水の精霊が申し訳なさそうに手を合わせていた。
こういう人間らしい表現をするようになったのだなと、ノセヤは思った。
「なんでしょうか?」
「依頼の報告書、読ませていただきました。その上で、プラトニス様に“私達”からもお願いしたのです」
「そ、それで、何と!?」
ノセヤは音を立てて席を立ち上がった。
「ティオリオスを必ず討伐するのであれば、助力は構わないと」
「ほ、本当ですか!?」
「……正直、今回の事は大変申し訳ないと思っています。まさか、あれ程の歪虚だったとは思わなかったので」
敵の情報を得てくる依頼で、まさかの事態となった。
最悪、全員が溺死していてもおかしくない依頼になっていたのだ。
「それに……ティオリオスが、あの海域から居なくなったので」
「居なくなった? それは確かなのですか?」
「はい。海域の精霊達に協力いただいて、足取りを追うつもりだったのですが……ハンター達との戦いで、ティオリオスも何か変化があったかもしれません」
ティオリオスが何処かに行ってしまったのは気になる所だが、とりあえず、水の精霊の助力を得られたのは大きい。
ホッとしたノセヤは椅子に座り直した。
「…………た、大変だ!!」
暫く、ボーと天井を見上げていたノセヤが突然叫んだ。
「ティオリオスは『傲慢王に近い存在』である事を言っていた。その話が本当であれば、今回の襲撃、絶対に出てくるはず!」
「ですが、対策無しでは、とても危険な相手ですよ」
空間そのものを水中に置き換えるのだ。
息継ぎできなければ、戦い続ける事は難しく、そして、短時間で倒せる程、敵が弱い訳ではない。
「核心はありませんが……水中戦を想定して調整を施したCAMで挑めばいいのです」
ノセヤの台詞に水の精霊はポンと手を叩いた。
「なるほどです。それなら、息継ぎしなくとも戦えますね」
「課題があるとすれば、どこにティオリオスが出現するか分からないという事です」
そう言ってノセヤは王国の地図を広げた。
北東の山岳の中にある湖から、古都アークエルス方面に流れる大河と王国西部からハルトフォート砦、王都イルダーナへと遡る大河は同一河川だ。
「ハルトフォート側に出るか……それとも、アークエルス側に出るか……ですしょうか」
ブツブツと呟くノセヤ。
あらゆる可能性を考えるが、相手が水や海に由来する力を使うのであれば、陸上よりも川かその近くに現れると推測した。
「……ハルトフォート側にCAMとハンターを送ります」
「そっちにティオリオスが居ると?」
水の精霊は首を傾げた。
これで空振りだったら、貴重な戦力を無駄にしてしまう事ぐらいは分かるからだ。
「色々と理由はありますけど。海を移動していたとすれば、見つけられなくとも不思議はありませんから」
「では、もしかして、今回で、討伐できるのでしょうか?」
「可能であれば倒して欲しいですが……大事なのは、ティオリオスが主戦場に向かうのを止める事です」
報告書にあったあの驚異的な歪虚が主戦場に乱入すればどのような事態になるか容易に想像できた。
生きている以上、息継ぎが出来ないと人間は戦えない。だが、既に死んでいる歪虚は別だ。
戦線は一瞬で崩壊するだろう。崩壊した箇所から敵が雪崩れ込めば、ハルトフォート砦は容易に陥落するかもしれない。
ノセヤは立ち上がると、アルテミス小隊の指揮官室へと向かうのであった。
●
ティベリス河は大河だ。大きな支流も数多く、豊かな水量を誇る。
ハルトフォートよりも手前、大河傍に形成された三日月湖で休んでいたティオリオスは何かの気配を感じて、川岸に視線を向けた。
「……偉大なる傲慢の王の幼き従者……の、使いよ。俺に何かようか?」
「ミュールから伝言だよぉ~、ティオリオス!」
湖岸に立っていたのはミュール(kz0259)の分体であった。
水の上で立ち止まったティオリオスは青く長い髪を手で抑える。
「いよいよ、か?」
「そういう事ぉ~! だから“タイミングを見て”だってぇ~!」
「いつも通り、大雑把な話だな」
呆れたようにティオリオスは返した。
ミュールといえば嬉しそうに飛び跳ねてる。
「えへへ~。それほどでもぉ~」
「言っておくが、褒めてないぞ」
「えぇぇ! そうなのぉ~。うぅ~、ティオリオスのいぢわる。ペットの癖に」
ぷくっと頬を膨らませるミュール。
イヴ様に言いつけてやる――と心の中で呟く。
一方のティオリオスは顔に掛かった前髪を手で払いのける。
「偉大なる傲慢の王に相応しい竜だと言っているだろう」
「……もう、異世界の変な本に影響されちゃってぇ……あれ? なんか、こっちに来るよぉ~」
「ふむ。このオレと一期一会の戦いを希望する戦士が現れたという事か」
ミュールの居る岸の反対側に、ハンター達が駆るCAMが姿を現したのだ。
「掛かってこい、ハンター共よ」
「面白そうだから、ミュールも手伝うよぉ~!」
嬉しそうに飛び跳ねながら、ミュールは立札に【変容】したのであった。
リプレイ本文
●
自信過剰というべきなのか、遠方から狙ってくれと言っているのか、ビシっと湖面に立つティオリオスの姿がモニター越しに確認できた。
青髪青瞳の好青年の姿はまるで一枚の風景画のようでもある。
「また、アイツかぁ……」
レベッカ・アマデーオ(ka1963)が呟いた。
彼女はゼーヴィント(魔導型デュミナス)(ka1963unit002)のコックピットの中で、対象を拡大する。
間違いない。ちょっと見た目イケメンの歪虚が、腕を組んで真っ直ぐな視線を向けていた。
その脇には直立している漆黒の象のような姿の傲慢歪虚の姿が見える。所謂、傲慢巨象だ。サイズもCAMに匹敵する大きさである。
「アレも立札経由なんでしょうけど……あんな大きいのも可能なんだね」
グラム(オファニム)(ka0370unit002)に乗る十色 エニア(ka0370)がそう言った。
ミュール(kz0259)が立札に【変容】し、異界への門が開くと、様々な傲慢歪虚が出現していた。
門を通れる大きさに制限があるのかないのか分からないが、少なくとも、CAMサイズまでは問題ないという事なのだろう。
「一応、ウォーターウォークは全機に掛けてあるけど……どうしようかな?」
「とりあえず……アレの片方を早めに仕留めちゃおう。他はそれからじゃないと、こっちがジリ貧になりそう」
エニアの質問にレベッカが答える。
数の上ではハンター達の方が多いが、油断は禁物。
特に、ティオリオスは守護者ですらも退けたのだ。騎士ノセヤからの言い付け通り、ハルトフォート周辺での野戦に合流させなければいい。
「こいつを主戦場に行かせたら大変な事になる。だから、絶対に進ませる訳にはいかないんだ!」
力強く宣言したのは時音 ざくろ(ka1250)だった。
魔動冒険機『アルカディア』(R7エクスシア)(ka1250unit002)が操縦者であるざくろの意思に沿って足を進める。
ざくろの声の大きさにエニアはスピーカーの音量を調整した。
「毎回思うけど、いつも、依頼の時、気合入ってない?」
「魔動冒険機『アルカディア』を駆って、ティオリオスの足止めをし、傲慢巨象を殲滅する冒険だからね!」
「そ、そう……だね」
冒険好きな青年の真っ直ぐな返答に、エニアは言葉を区切りながら答える。
ただ、ざくろの言っている事は間違いではない。ティオリオスの足止めは絶対だし、立札から出現したミュールの配下は殲滅しておかなければならないのだから。
一行の機体の中で最後尾を進む魔導型デュミナス(ka5754unit005)。
乗っているのは夜桜 奏音(ka5754)だった。戦闘前だというのに既に息が上がっているような気もしないでもない。
「CAMに乗るのは初めてですが、どうも、相性が悪いですね」
「大丈夫? 無理しなくてもいいからね」
女の子の不安に対し、咄嗟に言葉が出てくるあたり、流石、ざくろというべきか。
操縦方法自体については、まず、足を引っ張るという事はないだろう。奏音に問題があるとすれば――。
「……ぅ……っ」
重体ではないにせよ、大きなダメージを負ったままという事だ。
生身で戦う事になっていれば、間違いなく、仲間から止められていただろう。敵の一撃を受ければそれで戦闘不能。運が悪ければ重体どころか再起不能、最悪、戦死もあり得る。
「本当に大丈夫?」
機体の動きが安定しない奏音にエニアが心配する。
「い、一度くらいは、乗ってみたかったですし……これも、良い経験ですね」
痛みを堪えながら奏音は答える。
戦闘準備が整った所で、レベッカがゼーヴィントを操作し、傲慢虚像を指さした。
「始めよう。アイツ――ティオリオス――の御託聞いてると頭痛くなってくるし、ね!」
CAMがそれぞれ火器を構えた。
●
「ピールの一体に、皆で集中攻撃を仕掛けるよ!」
ざくろは仲間に声を掛けながら、アルカディアを操作する。
プラズマライフルの照準を合わせる。人型ユニット用に作られたライフルであり、遠く離れた位置からでも攻撃可能だ。
「アルカディアライフル冒険フォーメーションだ……マキシマムシュート!!」
衝撃と共に発射された弾丸は狙い通り、傲慢巨象の1体に直撃した。
直後、負のマテリアルが同じ軌道を描いて向かってきたが、イニシャライズフィールドの前に掻き消え去った。
傲慢歪虚特有の能力【懲罰】だ。その中でも抵抗するタイプのようだ。
「えーと、確かこれですかね」
キーを叩きながら奏音はデュミナスの電子装備を起動させる。
高速演算を使用しつつ、対歪虚用試作弾頭を発射した。冗談のように季節外れのクリスマスツリーみたいな弾頭が飛んでいく。
合わせるようにエニアの機体からも魔導エンジンに直結したキャノン砲を発射した。
「ざくろに【懲罰】を使ったなら、もう大丈夫だよね」
傲慢歪虚との戦い慣れしているだけはあって、エニアは冷静に敵の動きをみていた。
集中攻撃に激しい水柱が立つ中、目標を見失わずにゼーヴィントからもプラズマライフルが発射される。
紫電のようなオーラを纏った射撃は傲慢巨象を撃ち抜いた。
「集中攻撃で接近までピールを一体仕留め切れればそれでよし。そうでない、なら……ッ!」
レベッカは機体を敵に接近しつつ、射撃を繰り返す。
仲間の機体もそれに倣い、距離を詰める。マテリアルライフルを放つ為には、もう少し詰めないといけないという事もある為だ。
「ほぉ。兵器の長所に頼らず、俺に挑むつもりか……流石は我が宿敵共!」
仰々しくポーズと共にハンター達の機体に言い放つティオリオス。
長距離戦になるのであれば、早々に引き上げるつもりでいたようだ。
「倒しきれない……かな?」
マルチロックオンで傲慢巨象を2体攻撃しつつ、エニアは呟いた。
これだけの集中攻撃を受けて、なお、すぐには倒れないのだ。耐久力はある程度高いかもしれない。
「けれど、この【懲罰】なら怖くないって、分かったから!」
「そうだね! 合わせるよ、エニア!」
イニシャライズオーバーで仲間を援護しつつ、ざくろのアルカディアとエニアのグラムが並ぶ。
【懲罰】の怖い所は、与えた攻撃威力がそのまま返ってくることだが、回避手段があれば恐ろしくない。
それに、生身とは違ってCAMはそもそも耐久力が高い事もある。ここは強気に出る所だろう。
二機のマジックエンハンサーが起動し、マテリアル出力が高まった。粉雪のようにマテリアルが太陽の光を反射して煌めいた。
直後、二本の紫色光線が傷ついた傲慢巨象に追い打ちをかけた。
「レベッカさん、援護します」
「一気に距離を詰めるよっ!」
奏音機のガトリングガンから放たれる無数の弾丸の援護を受けつつ、レベッカの機体がブーストパックに点火。
本来は長距離移動用のものであるが、機体ごと傲慢巨象に突撃――体当たりで敵を粉砕する。
残った傲慢巨象がハンター達を迎撃しようと向かってくるのに対し、奏音は間合いを維持するように機体を動かした。
射撃武器が主体である彼女機体は一定の距離を保つことを意識しているからだ。
「近接戦闘はできないので、近づかれないように立ち回らないといけませんね」
湖面の水を跳ねながら迫る傲慢巨象の前に出たのは、ざくろの機体だった。
傲慢巨象が巨大な丸太のような棍棒を振り落としてきたのをフロートシールドが受け止める。
「ショック☆アルカディアバリアー」
スキルトレースで発動した攻性防壁が傲慢巨象の巨体を吹き飛ばした。
電撃を纏わせた反撃は、敵の動きを阻害させる。
「動きが鈍くなりましたね。これなら、私でも」
ズキンと痛んだ腕を堪えながら、奏音は操縦を続け、ガトリングガンを立て続けに撃ち込んだ。
相手は避ける事もできず、まるで的のように銃弾の雨を受け続けるだけだ。
おまけに敵は接近しようも、ざくろの機体が立ち塞がっている。弾倉が空になるまで引き金を引いた。ざくろ機の斬撃も容赦なく繰り返される。
「それにしても、風を感じながら戦えないのでやりづらいですね」
コックピットの中からは外の状況はモニターを通じて入ってくるだけだ。
戦場に流れる風や火器類の匂いも感じる事はない。体に響くような音も小さい気がする。
生身での戦いとは全然得られる感覚が違うという事なのだろうか。
「よし、ここで……チャージアップ……」
アルカディアが巨大な機剣を構えた。
そこにマテリアルが流し込まれる。不可思議な力の流れが機剣をより大きくさせた。
機導術の一つ“超重練成”だ。
「冒険機剣、真っ向唐竹割ぃ!」
ざくろは必殺技を叫びつつ、機体を操作する。
落雷でもあったのかのような轟音が響き渡り、傲慢巨象は文字通り真っ二つになったのであった。
残った肉体は塵と化して粉々に消え去っていく。耐久力は高い様子だが傲慢との戦い方に慣れていれば相手ではない。少なくとも、これなら傲慢貴族の方が手強いだろう。
●
ハンター達の初動は最善だったといえよう。接近しつつの射撃攻撃で傲慢巨象を1体倒し、さらに接近戦でティオリオスと分断したからだ。
そんな訳でティオリオスに対し、余裕を持ってハンター達は戦いに臨めた。
「こないだはしてやられたからね……借り、返させてもらうぞ!」
口を尖らせるレベッカ。
前回での戦いではティオリオスの【水棺】にやられてしまった。
もっとも、それはハンター達の責任ではない。その時は【水棺】の能力は分かっていなかったからだ。
「ん……その声は、俺の海を理解する者ではないか。その人形擬きに乗っているのか」
「海は誰のものでもないって、前にも言ってる!」
「……そうだったか……フ。海は俺と同義。残念な事だ」
長い髪に手を通しながら答えるティオリオスの反応にエニアは思わずジト目を浮かべる。
「あれは治癒魔法とかで治せないやつだね~」
治せないのであれば黙らせるしかない。
エニアは操作パネルをリズミカルに叩き、スキルトレースで水球の魔法を発動させた。
機体周辺に浮かんだ水球が一斉にティオリオスへと襲い掛かる。
「ならば、俺の水の力でそんなものを通さなければ済む話だ」
やはり水属性は効きが良いようだ。しかし、その状態のままでいるほど敵も馬鹿ではない。
ティオリオスは左腕を突き上げるとブツブツと何かを呟く。
そうすると、ティオリオスの周囲に水の壁が出現した。
「……海なのか水なのか、どっちよ」
「俺の心は海よりも広く、また、水のように清らかなのだ」
「そ、そうなんだ……」
かなりの重症だなと思いつつも、エニアは出現した【水壁】に対して攻撃を繰り出す。
【水壁】に対し有効な攻撃はないかと考えての事だ。
「属性は関係なく、ダメージが通ったかどうかなのかな」
攻撃した部位の【水壁】が消滅するのであれば、立て続けに同じ場所を狙えば、本体にダメージを与える事は可能なようだ。
もっとも、敵も黙って突っ立っている訳ではないので、ちょっとやそっとで出来る事ではないだろう。
敵の回避を抑えつつ連続して攻撃していく事が求められるようだ。
武器の間合いを維持しつつ、ゼーヴィントが機鎌を振るった。
エレクトリックショックを受け止め、魔力を帯びた雷撃に耐えるティオリオス。
「近接戦と見せかけての魔法攻撃のつもりか……だが、その程度の強度では、オレの動きを止められないぞ」
反撃に水の刃を幾つも放ってきた。
それに対し、防御障壁とライトブロッカーでその攻撃を防ぎ切るゼーヴィント。
「そっちの攻撃も通用しないけど!」
強気に言い放ったレベッカの言葉に、ティオリオスは唸る。
見れば、傲慢巨象は倒されたようで残りのCAMも向かってくる所だ。
「なるほど……良いだろう。ちょっと相手にしてやるつもりだったが……」
ティオリオスが腕を回し、ポーズを取りながら叫んだ。
その動きは前回も見たことがある通りだ。
「へ・ん・し・ん!」
全方位に発せられる水色のマテリアルの光が出現すると、収縮するようにティオリオスへと包み込む。
次の瞬間、直立したような竜の姿が現れた。
ゆっくりとした動きで腕を挙げ、指先をハンター達の機体へと向ける。
「広大なる海、清らかなる水、その深さを理解するといい」
「ここから、ここからが本番だよ!」
レベッカの言う通りだった。
一定の空間を水や海水に置き換える【水棺】の能力だ。
ざっとその大きさを確認する――少なくとも中心地から効果範囲外までは50メートル以上はありそうだ。
前回は海水だったが、今回は水のようだ。どちらにせよ、生身ではやはり、窒息してしまう可能性は高いだろう。しかし、今は――。
「こないだ見てるからビビるわけないだろ! そもそも、あたしの相棒は……」
機鎌を振り上げながら距離を詰めるゼーヴィント。
この機体はそもそも、水中戦を想定した改装が施されているのだ。追加装甲が整流板としての機能を持つ形状へと変形した。
CAMであれば呼吸の必要性はない。窒息を心配する事なく戦う事が出来る。
「こういう環境で全力出せるんだよ!」
「その魔法攻撃は通じないと言っているだろう」
水中では声は聞こえないはずなのだが、繰り出した攻撃に対し、ティオリオスはそのように答えた。
攻撃をあっさりと受け止められたが――レベッカの狙いはそこに無かった。
「エニア、クラッカー!」
敵の動きが水中で早くなるのは前回、確認済みだ。
連携を持った攻撃であれば、当てやすい……はず。
「あ、あれ? 射撃できない?」
一方のエニアは焦っていた。手甲部に内蔵した高出力プラズマ弾を発射するプラズマクラッカーは『射撃攻撃』だからだ。
発動しない機構に手間取っているエニア機の代わりに、アルカディアから光の筋が走った。
「水を斬り裂け、アルカディアビーム!」
ざくろの掛け声と共に放たれたデルタレイがティオリオスを直撃する。
そのまま機剣を構えて勇者ロボさながらに仁王立ちした。
「この輝きがお前の闇を打ち破る! お前がダークヒーローを気取るなら、ざくろとアルカディアは冒険の勇者! ヒーローだっ!」
「助かったよ、ざくろ……でも、水の中だから、もう相手に聞こえてないよ」
「あ。そっか……」
エニアの突っ込みにざくろはハッとする。
ティオリオスの声はどういう訳か水の中でも聞こえるので、つい、叫んでしまったようだ。
「まだ話したりしたいけど、会話手段がないのよね~……」
「水の中だと射撃攻撃もできないみたいですね」
奏音機が盾を構えて敵の出方を注意深く観察している。
水中対応の射撃ができなければ、銃火器は無用の存在だ。これからは近接専用の武器を装備してくるべきだろう。
あるいは、水中対応可能な武器を装備するか、だ。
「せめて、盾ぐらいにはなります」
「奏音さんは無理しないで、敵の動きを観察して欲しいかな」
スッと機体を割り込ませてエニアは言った。
ティオリオスからの反撃は水の刃を飛ばしてくるか、あるいは直接の斬撃が主体なのだ。いずれも高威力ではあるものの、CAMが簡単に落ちるものでもない。
戦闘状態になると幾ら気にしていても観察に見逃しがあるかもしれない。
ならば、誰か一人が離れた位置で観察・観測できていれば、残りの者は戦闘に集中できるはず。
「分かりました。他にも能力を隠していないか、確り見ています」
奏音機が後ろに下がった事を確認し、ざくろがアルカディアを前進させた。
並ぶようにゼーヴィントが横につく。後ろにはエニアの機体が魔法を唱えられるようにマジックエンハンサーを起動させていた。
「変身は出来ないけれど、ざくろ達には、ハンターの絆と勇気がある……今だっ!」
「……水よ、あらゆるものを押し通す激流となり、立ちはだかる者に洗礼を!」
まずはエニアの機体から魔法が放たれた。
水の中をマテリアルの輝きを残し水球が飛翔する――タイミングに合わせ、レベッカが自機を滑り込ませた。
「避けられるなら避けてみなよっ!」
「ぐぬぅぅぅ」
仕方なく【水壁】で攻撃を受け止める、ティオリオス。
防いでいた部位が消滅。【水壁】を再度、形成して穴を閉じるよりも、ざくろの攻撃が早かった。
「冒険大大大機剣!!」
巨大化した剣の剣先がティオリオスの胸板を貫く。
●
水の色よりも濃い蒼い血が【水棺】の中に広がった。
「いいぞ……いいぞ、流石はオレの宿命の敵! 良いだろう、全力で受けて立とう!」
よろめきつつもティオリオスは叫ぶ。
両手をバッと広げて負のマテリアルを解放する。オーラのように広がったそれは、ある輪郭を持っていた。
それは、後方で経過を観察していた奏音には、ぼんやりとある姿に見えた。
「あれは竜! そんな、まさかっ!?」
見間違う事があるはずがない。ドラゴンと呼ばれる大型龍種。
しかし、ドラゴンに変身する事は無かった。広がったオーラが急速に消えうせたからだ。
それはハンター達の攻撃によるものでも、ティオリオスに不都合があった訳でもなかった。
ティオリオス自身の意思がそうさせたようだった。
「戦線が移動しているようですね」
通信機を当てた耳に手を置き、奏音は聞こえてくる内容を呟いた。
ハルトフォート砦へと至る野戦は、王国軍の戦略的撤退か、あるいは、傲慢勢力の押し込みによってか、戦線が移動したのだ。
そして、その状況はティオリオスも分かったようだった。
「…………熱くなりすぎたようだ」
彼はふと我に返ったようだった。
すでに戦機は逃しているとティオリオスは感じたようで、ハンター達の機体を順に見渡す。
「今回はここまでだ、俺の海を理解する者達よ」
そんな捨て台詞と共に【水棺】の中を素早い速度で抜けて、ティオリオスはあっと言う間に【水棺】の効果範囲を飛び出すと、その勢いのまま、翼を広げ、大空へと消え去ったのであった。
どこまで追いかけられるかとエニアがフライトフレームの起動を試みるが――。
「水中だから飛行状態にはなれないみたい」
使用することで『飛行状態』となるが、そもそも水の中なので『飛行状態』は即、解除されたのだ。
そういえば、ティオリオスも『飛行状態』になるまで【水棺】の中を高速で泳いで行ったか。
「良い線まで行った気がするけど、何か一手足りない気がするかな」
【水棺】が解除され、湖面の上に降り立たせながら、ざくろは言った。
それに、水中戦闘自体、もう少し、慣れが必要だろうか。
「初めて乗って戦いましたが、やはり私には合わないですね……CAMはもうこれっきりにしたいです」
ホッと安堵しながら奏音はそんな感想を口にした。
符術の使い手である彼女の本領はやはり、符を使っての事だ。
CAMでもスキルトレースや装備を整えれば出来なくはないが、やはり、生身の方が色々と使える術が多い。
湖面の上で魔導エンジンの音を響かせながら、愛機ゼーヴィントのコックピットでレベッカはティオリオスが消え去った方角を見つめていた。
「……“理解する者達”って何よ」
そう呟きながら――。
ハンター達の活躍により、ティオリオスの本戦参加は阻止する事が出来た。
また、水中戦闘での注意事項や敵の持つ力の一端も分かったのであった。
おしまい
●
戦闘経過の報告を受けてノセヤは満足そうに頷いた。
CAMでの【水棺】対策は戦闘状態の継続という意味では有効だったからだ。
「刻騎ゴーレム『ルクシュヴァリエ』があれば、生身での戦闘に近い戦い方も出来るかもしれない……それに【水棺】の範囲外からの魔法攻撃や水中対応の射撃攻撃も通じるはず」
戦術を組み合わせれば有利に戦いを進める事も出来る可能性がある。
「不安な事があれば……」
ハンターの一人が見たという大型龍種の姿。
やはり、その正体を見極めなければと思うノセヤであった。
自信過剰というべきなのか、遠方から狙ってくれと言っているのか、ビシっと湖面に立つティオリオスの姿がモニター越しに確認できた。
青髪青瞳の好青年の姿はまるで一枚の風景画のようでもある。
「また、アイツかぁ……」
レベッカ・アマデーオ(ka1963)が呟いた。
彼女はゼーヴィント(魔導型デュミナス)(ka1963unit002)のコックピットの中で、対象を拡大する。
間違いない。ちょっと見た目イケメンの歪虚が、腕を組んで真っ直ぐな視線を向けていた。
その脇には直立している漆黒の象のような姿の傲慢歪虚の姿が見える。所謂、傲慢巨象だ。サイズもCAMに匹敵する大きさである。
「アレも立札経由なんでしょうけど……あんな大きいのも可能なんだね」
グラム(オファニム)(ka0370unit002)に乗る十色 エニア(ka0370)がそう言った。
ミュール(kz0259)が立札に【変容】し、異界への門が開くと、様々な傲慢歪虚が出現していた。
門を通れる大きさに制限があるのかないのか分からないが、少なくとも、CAMサイズまでは問題ないという事なのだろう。
「一応、ウォーターウォークは全機に掛けてあるけど……どうしようかな?」
「とりあえず……アレの片方を早めに仕留めちゃおう。他はそれからじゃないと、こっちがジリ貧になりそう」
エニアの質問にレベッカが答える。
数の上ではハンター達の方が多いが、油断は禁物。
特に、ティオリオスは守護者ですらも退けたのだ。騎士ノセヤからの言い付け通り、ハルトフォート周辺での野戦に合流させなければいい。
「こいつを主戦場に行かせたら大変な事になる。だから、絶対に進ませる訳にはいかないんだ!」
力強く宣言したのは時音 ざくろ(ka1250)だった。
魔動冒険機『アルカディア』(R7エクスシア)(ka1250unit002)が操縦者であるざくろの意思に沿って足を進める。
ざくろの声の大きさにエニアはスピーカーの音量を調整した。
「毎回思うけど、いつも、依頼の時、気合入ってない?」
「魔動冒険機『アルカディア』を駆って、ティオリオスの足止めをし、傲慢巨象を殲滅する冒険だからね!」
「そ、そう……だね」
冒険好きな青年の真っ直ぐな返答に、エニアは言葉を区切りながら答える。
ただ、ざくろの言っている事は間違いではない。ティオリオスの足止めは絶対だし、立札から出現したミュールの配下は殲滅しておかなければならないのだから。
一行の機体の中で最後尾を進む魔導型デュミナス(ka5754unit005)。
乗っているのは夜桜 奏音(ka5754)だった。戦闘前だというのに既に息が上がっているような気もしないでもない。
「CAMに乗るのは初めてですが、どうも、相性が悪いですね」
「大丈夫? 無理しなくてもいいからね」
女の子の不安に対し、咄嗟に言葉が出てくるあたり、流石、ざくろというべきか。
操縦方法自体については、まず、足を引っ張るという事はないだろう。奏音に問題があるとすれば――。
「……ぅ……っ」
重体ではないにせよ、大きなダメージを負ったままという事だ。
生身で戦う事になっていれば、間違いなく、仲間から止められていただろう。敵の一撃を受ければそれで戦闘不能。運が悪ければ重体どころか再起不能、最悪、戦死もあり得る。
「本当に大丈夫?」
機体の動きが安定しない奏音にエニアが心配する。
「い、一度くらいは、乗ってみたかったですし……これも、良い経験ですね」
痛みを堪えながら奏音は答える。
戦闘準備が整った所で、レベッカがゼーヴィントを操作し、傲慢虚像を指さした。
「始めよう。アイツ――ティオリオス――の御託聞いてると頭痛くなってくるし、ね!」
CAMがそれぞれ火器を構えた。
●
「ピールの一体に、皆で集中攻撃を仕掛けるよ!」
ざくろは仲間に声を掛けながら、アルカディアを操作する。
プラズマライフルの照準を合わせる。人型ユニット用に作られたライフルであり、遠く離れた位置からでも攻撃可能だ。
「アルカディアライフル冒険フォーメーションだ……マキシマムシュート!!」
衝撃と共に発射された弾丸は狙い通り、傲慢巨象の1体に直撃した。
直後、負のマテリアルが同じ軌道を描いて向かってきたが、イニシャライズフィールドの前に掻き消え去った。
傲慢歪虚特有の能力【懲罰】だ。その中でも抵抗するタイプのようだ。
「えーと、確かこれですかね」
キーを叩きながら奏音はデュミナスの電子装備を起動させる。
高速演算を使用しつつ、対歪虚用試作弾頭を発射した。冗談のように季節外れのクリスマスツリーみたいな弾頭が飛んでいく。
合わせるようにエニアの機体からも魔導エンジンに直結したキャノン砲を発射した。
「ざくろに【懲罰】を使ったなら、もう大丈夫だよね」
傲慢歪虚との戦い慣れしているだけはあって、エニアは冷静に敵の動きをみていた。
集中攻撃に激しい水柱が立つ中、目標を見失わずにゼーヴィントからもプラズマライフルが発射される。
紫電のようなオーラを纏った射撃は傲慢巨象を撃ち抜いた。
「集中攻撃で接近までピールを一体仕留め切れればそれでよし。そうでない、なら……ッ!」
レベッカは機体を敵に接近しつつ、射撃を繰り返す。
仲間の機体もそれに倣い、距離を詰める。マテリアルライフルを放つ為には、もう少し詰めないといけないという事もある為だ。
「ほぉ。兵器の長所に頼らず、俺に挑むつもりか……流石は我が宿敵共!」
仰々しくポーズと共にハンター達の機体に言い放つティオリオス。
長距離戦になるのであれば、早々に引き上げるつもりでいたようだ。
「倒しきれない……かな?」
マルチロックオンで傲慢巨象を2体攻撃しつつ、エニアは呟いた。
これだけの集中攻撃を受けて、なお、すぐには倒れないのだ。耐久力はある程度高いかもしれない。
「けれど、この【懲罰】なら怖くないって、分かったから!」
「そうだね! 合わせるよ、エニア!」
イニシャライズオーバーで仲間を援護しつつ、ざくろのアルカディアとエニアのグラムが並ぶ。
【懲罰】の怖い所は、与えた攻撃威力がそのまま返ってくることだが、回避手段があれば恐ろしくない。
それに、生身とは違ってCAMはそもそも耐久力が高い事もある。ここは強気に出る所だろう。
二機のマジックエンハンサーが起動し、マテリアル出力が高まった。粉雪のようにマテリアルが太陽の光を反射して煌めいた。
直後、二本の紫色光線が傷ついた傲慢巨象に追い打ちをかけた。
「レベッカさん、援護します」
「一気に距離を詰めるよっ!」
奏音機のガトリングガンから放たれる無数の弾丸の援護を受けつつ、レベッカの機体がブーストパックに点火。
本来は長距離移動用のものであるが、機体ごと傲慢巨象に突撃――体当たりで敵を粉砕する。
残った傲慢巨象がハンター達を迎撃しようと向かってくるのに対し、奏音は間合いを維持するように機体を動かした。
射撃武器が主体である彼女機体は一定の距離を保つことを意識しているからだ。
「近接戦闘はできないので、近づかれないように立ち回らないといけませんね」
湖面の水を跳ねながら迫る傲慢巨象の前に出たのは、ざくろの機体だった。
傲慢巨象が巨大な丸太のような棍棒を振り落としてきたのをフロートシールドが受け止める。
「ショック☆アルカディアバリアー」
スキルトレースで発動した攻性防壁が傲慢巨象の巨体を吹き飛ばした。
電撃を纏わせた反撃は、敵の動きを阻害させる。
「動きが鈍くなりましたね。これなら、私でも」
ズキンと痛んだ腕を堪えながら、奏音は操縦を続け、ガトリングガンを立て続けに撃ち込んだ。
相手は避ける事もできず、まるで的のように銃弾の雨を受け続けるだけだ。
おまけに敵は接近しようも、ざくろの機体が立ち塞がっている。弾倉が空になるまで引き金を引いた。ざくろ機の斬撃も容赦なく繰り返される。
「それにしても、風を感じながら戦えないのでやりづらいですね」
コックピットの中からは外の状況はモニターを通じて入ってくるだけだ。
戦場に流れる風や火器類の匂いも感じる事はない。体に響くような音も小さい気がする。
生身での戦いとは全然得られる感覚が違うという事なのだろうか。
「よし、ここで……チャージアップ……」
アルカディアが巨大な機剣を構えた。
そこにマテリアルが流し込まれる。不可思議な力の流れが機剣をより大きくさせた。
機導術の一つ“超重練成”だ。
「冒険機剣、真っ向唐竹割ぃ!」
ざくろは必殺技を叫びつつ、機体を操作する。
落雷でもあったのかのような轟音が響き渡り、傲慢巨象は文字通り真っ二つになったのであった。
残った肉体は塵と化して粉々に消え去っていく。耐久力は高い様子だが傲慢との戦い方に慣れていれば相手ではない。少なくとも、これなら傲慢貴族の方が手強いだろう。
●
ハンター達の初動は最善だったといえよう。接近しつつの射撃攻撃で傲慢巨象を1体倒し、さらに接近戦でティオリオスと分断したからだ。
そんな訳でティオリオスに対し、余裕を持ってハンター達は戦いに臨めた。
「こないだはしてやられたからね……借り、返させてもらうぞ!」
口を尖らせるレベッカ。
前回での戦いではティオリオスの【水棺】にやられてしまった。
もっとも、それはハンター達の責任ではない。その時は【水棺】の能力は分かっていなかったからだ。
「ん……その声は、俺の海を理解する者ではないか。その人形擬きに乗っているのか」
「海は誰のものでもないって、前にも言ってる!」
「……そうだったか……フ。海は俺と同義。残念な事だ」
長い髪に手を通しながら答えるティオリオスの反応にエニアは思わずジト目を浮かべる。
「あれは治癒魔法とかで治せないやつだね~」
治せないのであれば黙らせるしかない。
エニアは操作パネルをリズミカルに叩き、スキルトレースで水球の魔法を発動させた。
機体周辺に浮かんだ水球が一斉にティオリオスへと襲い掛かる。
「ならば、俺の水の力でそんなものを通さなければ済む話だ」
やはり水属性は効きが良いようだ。しかし、その状態のままでいるほど敵も馬鹿ではない。
ティオリオスは左腕を突き上げるとブツブツと何かを呟く。
そうすると、ティオリオスの周囲に水の壁が出現した。
「……海なのか水なのか、どっちよ」
「俺の心は海よりも広く、また、水のように清らかなのだ」
「そ、そうなんだ……」
かなりの重症だなと思いつつも、エニアは出現した【水壁】に対して攻撃を繰り出す。
【水壁】に対し有効な攻撃はないかと考えての事だ。
「属性は関係なく、ダメージが通ったかどうかなのかな」
攻撃した部位の【水壁】が消滅するのであれば、立て続けに同じ場所を狙えば、本体にダメージを与える事は可能なようだ。
もっとも、敵も黙って突っ立っている訳ではないので、ちょっとやそっとで出来る事ではないだろう。
敵の回避を抑えつつ連続して攻撃していく事が求められるようだ。
武器の間合いを維持しつつ、ゼーヴィントが機鎌を振るった。
エレクトリックショックを受け止め、魔力を帯びた雷撃に耐えるティオリオス。
「近接戦と見せかけての魔法攻撃のつもりか……だが、その程度の強度では、オレの動きを止められないぞ」
反撃に水の刃を幾つも放ってきた。
それに対し、防御障壁とライトブロッカーでその攻撃を防ぎ切るゼーヴィント。
「そっちの攻撃も通用しないけど!」
強気に言い放ったレベッカの言葉に、ティオリオスは唸る。
見れば、傲慢巨象は倒されたようで残りのCAMも向かってくる所だ。
「なるほど……良いだろう。ちょっと相手にしてやるつもりだったが……」
ティオリオスが腕を回し、ポーズを取りながら叫んだ。
その動きは前回も見たことがある通りだ。
「へ・ん・し・ん!」
全方位に発せられる水色のマテリアルの光が出現すると、収縮するようにティオリオスへと包み込む。
次の瞬間、直立したような竜の姿が現れた。
ゆっくりとした動きで腕を挙げ、指先をハンター達の機体へと向ける。
「広大なる海、清らかなる水、その深さを理解するといい」
「ここから、ここからが本番だよ!」
レベッカの言う通りだった。
一定の空間を水や海水に置き換える【水棺】の能力だ。
ざっとその大きさを確認する――少なくとも中心地から効果範囲外までは50メートル以上はありそうだ。
前回は海水だったが、今回は水のようだ。どちらにせよ、生身ではやはり、窒息してしまう可能性は高いだろう。しかし、今は――。
「こないだ見てるからビビるわけないだろ! そもそも、あたしの相棒は……」
機鎌を振り上げながら距離を詰めるゼーヴィント。
この機体はそもそも、水中戦を想定した改装が施されているのだ。追加装甲が整流板としての機能を持つ形状へと変形した。
CAMであれば呼吸の必要性はない。窒息を心配する事なく戦う事が出来る。
「こういう環境で全力出せるんだよ!」
「その魔法攻撃は通じないと言っているだろう」
水中では声は聞こえないはずなのだが、繰り出した攻撃に対し、ティオリオスはそのように答えた。
攻撃をあっさりと受け止められたが――レベッカの狙いはそこに無かった。
「エニア、クラッカー!」
敵の動きが水中で早くなるのは前回、確認済みだ。
連携を持った攻撃であれば、当てやすい……はず。
「あ、あれ? 射撃できない?」
一方のエニアは焦っていた。手甲部に内蔵した高出力プラズマ弾を発射するプラズマクラッカーは『射撃攻撃』だからだ。
発動しない機構に手間取っているエニア機の代わりに、アルカディアから光の筋が走った。
「水を斬り裂け、アルカディアビーム!」
ざくろの掛け声と共に放たれたデルタレイがティオリオスを直撃する。
そのまま機剣を構えて勇者ロボさながらに仁王立ちした。
「この輝きがお前の闇を打ち破る! お前がダークヒーローを気取るなら、ざくろとアルカディアは冒険の勇者! ヒーローだっ!」
「助かったよ、ざくろ……でも、水の中だから、もう相手に聞こえてないよ」
「あ。そっか……」
エニアの突っ込みにざくろはハッとする。
ティオリオスの声はどういう訳か水の中でも聞こえるので、つい、叫んでしまったようだ。
「まだ話したりしたいけど、会話手段がないのよね~……」
「水の中だと射撃攻撃もできないみたいですね」
奏音機が盾を構えて敵の出方を注意深く観察している。
水中対応の射撃ができなければ、銃火器は無用の存在だ。これからは近接専用の武器を装備してくるべきだろう。
あるいは、水中対応可能な武器を装備するか、だ。
「せめて、盾ぐらいにはなります」
「奏音さんは無理しないで、敵の動きを観察して欲しいかな」
スッと機体を割り込ませてエニアは言った。
ティオリオスからの反撃は水の刃を飛ばしてくるか、あるいは直接の斬撃が主体なのだ。いずれも高威力ではあるものの、CAMが簡単に落ちるものでもない。
戦闘状態になると幾ら気にしていても観察に見逃しがあるかもしれない。
ならば、誰か一人が離れた位置で観察・観測できていれば、残りの者は戦闘に集中できるはず。
「分かりました。他にも能力を隠していないか、確り見ています」
奏音機が後ろに下がった事を確認し、ざくろがアルカディアを前進させた。
並ぶようにゼーヴィントが横につく。後ろにはエニアの機体が魔法を唱えられるようにマジックエンハンサーを起動させていた。
「変身は出来ないけれど、ざくろ達には、ハンターの絆と勇気がある……今だっ!」
「……水よ、あらゆるものを押し通す激流となり、立ちはだかる者に洗礼を!」
まずはエニアの機体から魔法が放たれた。
水の中をマテリアルの輝きを残し水球が飛翔する――タイミングに合わせ、レベッカが自機を滑り込ませた。
「避けられるなら避けてみなよっ!」
「ぐぬぅぅぅ」
仕方なく【水壁】で攻撃を受け止める、ティオリオス。
防いでいた部位が消滅。【水壁】を再度、形成して穴を閉じるよりも、ざくろの攻撃が早かった。
「冒険大大大機剣!!」
巨大化した剣の剣先がティオリオスの胸板を貫く。
●
水の色よりも濃い蒼い血が【水棺】の中に広がった。
「いいぞ……いいぞ、流石はオレの宿命の敵! 良いだろう、全力で受けて立とう!」
よろめきつつもティオリオスは叫ぶ。
両手をバッと広げて負のマテリアルを解放する。オーラのように広がったそれは、ある輪郭を持っていた。
それは、後方で経過を観察していた奏音には、ぼんやりとある姿に見えた。
「あれは竜! そんな、まさかっ!?」
見間違う事があるはずがない。ドラゴンと呼ばれる大型龍種。
しかし、ドラゴンに変身する事は無かった。広がったオーラが急速に消えうせたからだ。
それはハンター達の攻撃によるものでも、ティオリオスに不都合があった訳でもなかった。
ティオリオス自身の意思がそうさせたようだった。
「戦線が移動しているようですね」
通信機を当てた耳に手を置き、奏音は聞こえてくる内容を呟いた。
ハルトフォート砦へと至る野戦は、王国軍の戦略的撤退か、あるいは、傲慢勢力の押し込みによってか、戦線が移動したのだ。
そして、その状況はティオリオスも分かったようだった。
「…………熱くなりすぎたようだ」
彼はふと我に返ったようだった。
すでに戦機は逃しているとティオリオスは感じたようで、ハンター達の機体を順に見渡す。
「今回はここまでだ、俺の海を理解する者達よ」
そんな捨て台詞と共に【水棺】の中を素早い速度で抜けて、ティオリオスはあっと言う間に【水棺】の効果範囲を飛び出すと、その勢いのまま、翼を広げ、大空へと消え去ったのであった。
どこまで追いかけられるかとエニアがフライトフレームの起動を試みるが――。
「水中だから飛行状態にはなれないみたい」
使用することで『飛行状態』となるが、そもそも水の中なので『飛行状態』は即、解除されたのだ。
そういえば、ティオリオスも『飛行状態』になるまで【水棺】の中を高速で泳いで行ったか。
「良い線まで行った気がするけど、何か一手足りない気がするかな」
【水棺】が解除され、湖面の上に降り立たせながら、ざくろは言った。
それに、水中戦闘自体、もう少し、慣れが必要だろうか。
「初めて乗って戦いましたが、やはり私には合わないですね……CAMはもうこれっきりにしたいです」
ホッと安堵しながら奏音はそんな感想を口にした。
符術の使い手である彼女の本領はやはり、符を使っての事だ。
CAMでもスキルトレースや装備を整えれば出来なくはないが、やはり、生身の方が色々と使える術が多い。
湖面の上で魔導エンジンの音を響かせながら、愛機ゼーヴィントのコックピットでレベッカはティオリオスが消え去った方角を見つめていた。
「……“理解する者達”って何よ」
そう呟きながら――。
ハンター達の活躍により、ティオリオスの本戦参加は阻止する事が出来た。
また、水中戦闘での注意事項や敵の持つ力の一端も分かったのであった。
おしまい
●
戦闘経過の報告を受けてノセヤは満足そうに頷いた。
CAMでの【水棺】対策は戦闘状態の継続という意味では有効だったからだ。
「刻騎ゴーレム『ルクシュヴァリエ』があれば、生身での戦闘に近い戦い方も出来るかもしれない……それに【水棺】の範囲外からの魔法攻撃や水中対応の射撃攻撃も通じるはず」
戦術を組み合わせれば有利に戦いを進める事も出来る可能性がある。
「不安な事があれば……」
ハンターの一人が見たという大型龍種の姿。
やはり、その正体を見極めなければと思うノセヤであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 レベッカ・アマデーオ(ka1963) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/02/25 23:14:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/22 23:57:27 |