ゲスト
(ka0000)
【王戦】マンハント
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/02/28 19:00
- 完成日
- 2019/04/18 19:40
みんなの思い出
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オープニング
●
傲慢王イヴの宣言と同時に、王国各地に黒波の如く敵兵が押し寄せるようになった。戦禍はミュールが率いる王国西部、および歪虚と化した元"赤の隊"隊長のダンテ・バルカザールが率いるハルトフォートを中心に急速に広がっていく。
イヴ直属の部下であることを権威として数多の【傲慢】兵をまとめ王都への進軍を優先するミュール方面では、未だ大軍同士の交戦は少なく、どちらかというと交戦は同軍から遊撃的に――あるいは散逸する形で散った兵との戦闘が多い。
一方で、ダンテ・バルカザールは早期にハルトフォート攻略を目標に据え、一定の兵が集まった時点で明確にハルトフォートへと向かって進軍を開始。周囲の要衝を襲撃しながら攻略に乗り出した。
――応じる王国首脳はここに意図を見た。
歪虚としては新参のダンテは、【傲慢】の特性上、命令系統に不安が残る。故に、意図的に戦場を作ることで【傲慢】勢の兵を同地域に集結させる作戦をとったのでは、と。
ダンテの狙いがどこにあるかはさておき――事実として、戦火に包まれつつあるハルトフォートを中心に戦闘が激化していく。
こうして、王国史上でも最大量の砲弾消費を記録した防衛戦が、始まったのである。
●
「くっ、はははっ! ははははっ!! 圧倒的ではないか! 我がゴーレム部隊は!」
押し寄せてくる敵集団を、10体からなるVolcaniusの掃射で蹴散らした様をみて、貴族、アドル男爵は喝采をあげた。ハルトフォートへの帰投中に見つけた一団であったが、こちらのほうが手が長い。先手をうっての砲撃で接近をゆるすことなく撃退。わずかにうち漏らしが逃げ出したが、十二分の戦果といえよう。
「ゴブリンの歪虚でしたな……傲慢王がまさか亜人まで飼っているとは」
「王とはいえ所詮は歪虚、ということだろう。上級士官といえる存在が策に溺れたメフィストに、あのベリアル……いまとなっては残るのはミュールとかいう小娘のみだ。亜人を使わねばならぬというという事情でもあるのだろうよ。たかが知れておるなぁ」
砲撃部隊の観測手からの報告を受けた副官の言葉に、意気軒昂たるアドルは鼻を鳴らした。
――チリ、と。
殺気を感じたのは、その時のことだった。アドルは怪訝げに視線をさまよわせるが、当然、気配のもとを示すような異常は見当たらない。
「……」
調子づいてはいたが、アドルもまた戦場に立つ武人には違いなかった。腰にはいた剣を抜きながら腰だめに構える。副官もそれにならい、その背を守るように立つ。
「――何も、見当たりませんが」
「……だが……」
先程、突き刺さるように感じていた殺気は霧消していた。ただし、アドルの直観が、あれがまやかしなどではなかったのだと絶叫している。
「――――連絡だ。付近の部隊に連絡を。誰でもいい。応援もだ!」
「は……はっ!」
副官はその反応を、怯懦と取ることはなかった。理屈の上では錯覚と取るべき状況だが、傲慢王の発言を借りれば、「百万の兵」が相手となる。例えそれが小さなモノであったとしても、許されないのだから。
副官が地点の連絡をしている様を見届けながら、アドルはVolcaniusとGnomeからなるゴーレム混成部隊の指揮官を呼び寄せると、
「我々はこの地の警戒にあたる。貴様らは至急ハルトフォートへ発て。全速力でだ!」
「……閣下は、よろしいのですか?」
「無論だ」
仮に、先程の殺気の主がこの場にいたとするならば、この状況、【傲慢】の兵にほかなるまい。思い返しつつ思考するに、【傲慢王】への暴言が先程の殺気の引き金だとするならば――アドルがゴーレム部隊についていった場合、そちらに禍が及ぶこととなる。対多数戦闘においてVolcaniusとGnomeの価値は計り知れない。故に、アドル自身はこちらに残る必要があった。
――それに、こうすれば万が一のことがあったとしても、王国の対応力が完全に損なわれるわけでは、ない。
「さて」
出立するゴーレム部隊と直衛の兵士たちを見送ったアドルは、護衛に残った兵たちを振り返った。周囲を警戒し続けてはいるものの、背筋を貫く氷柱の如き恐怖は、時間が経つにつれて強くなっていく。周囲は未だ、牧歌的な光景のままなのだが……。
――どこにいる?
付近で連絡が取れたハンター部隊がこちらに到達するまで最短で一〇分ほど。その間を、どうにか耐えねばならない。
同時に、予感は強まっていくばかりだ。
おそらくアドルは罠に掛けられた。しかし、その種はなんだ……?
「……エクラよ。光の加護を、私どもに」
アドルは祈りとともに、周囲を警戒し――、
――勿論、アドルの願いは光の元には届かなかった。
そのわずか10数秒後にアドルの右腕が弾け飛び、アカイロを飛び散らすこととなる。応戦しようとした八名の兵士たちは頭部を落とされ絶命。どぼりと血液と肢体が地に落ちる。
「ひ、あ、イ……っ!」
窮迫した呼吸のなかで、最後にアドルが目にしたものは……。
傲慢王イヴの宣言と同時に、王国各地に黒波の如く敵兵が押し寄せるようになった。戦禍はミュールが率いる王国西部、および歪虚と化した元"赤の隊"隊長のダンテ・バルカザールが率いるハルトフォートを中心に急速に広がっていく。
イヴ直属の部下であることを権威として数多の【傲慢】兵をまとめ王都への進軍を優先するミュール方面では、未だ大軍同士の交戦は少なく、どちらかというと交戦は同軍から遊撃的に――あるいは散逸する形で散った兵との戦闘が多い。
一方で、ダンテ・バルカザールは早期にハルトフォート攻略を目標に据え、一定の兵が集まった時点で明確にハルトフォートへと向かって進軍を開始。周囲の要衝を襲撃しながら攻略に乗り出した。
――応じる王国首脳はここに意図を見た。
歪虚としては新参のダンテは、【傲慢】の特性上、命令系統に不安が残る。故に、意図的に戦場を作ることで【傲慢】勢の兵を同地域に集結させる作戦をとったのでは、と。
ダンテの狙いがどこにあるかはさておき――事実として、戦火に包まれつつあるハルトフォートを中心に戦闘が激化していく。
こうして、王国史上でも最大量の砲弾消費を記録した防衛戦が、始まったのである。
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「くっ、はははっ! ははははっ!! 圧倒的ではないか! 我がゴーレム部隊は!」
押し寄せてくる敵集団を、10体からなるVolcaniusの掃射で蹴散らした様をみて、貴族、アドル男爵は喝采をあげた。ハルトフォートへの帰投中に見つけた一団であったが、こちらのほうが手が長い。先手をうっての砲撃で接近をゆるすことなく撃退。わずかにうち漏らしが逃げ出したが、十二分の戦果といえよう。
「ゴブリンの歪虚でしたな……傲慢王がまさか亜人まで飼っているとは」
「王とはいえ所詮は歪虚、ということだろう。上級士官といえる存在が策に溺れたメフィストに、あのベリアル……いまとなっては残るのはミュールとかいう小娘のみだ。亜人を使わねばならぬというという事情でもあるのだろうよ。たかが知れておるなぁ」
砲撃部隊の観測手からの報告を受けた副官の言葉に、意気軒昂たるアドルは鼻を鳴らした。
――チリ、と。
殺気を感じたのは、その時のことだった。アドルは怪訝げに視線をさまよわせるが、当然、気配のもとを示すような異常は見当たらない。
「……」
調子づいてはいたが、アドルもまた戦場に立つ武人には違いなかった。腰にはいた剣を抜きながら腰だめに構える。副官もそれにならい、その背を守るように立つ。
「――何も、見当たりませんが」
「……だが……」
先程、突き刺さるように感じていた殺気は霧消していた。ただし、アドルの直観が、あれがまやかしなどではなかったのだと絶叫している。
「――――連絡だ。付近の部隊に連絡を。誰でもいい。応援もだ!」
「は……はっ!」
副官はその反応を、怯懦と取ることはなかった。理屈の上では錯覚と取るべき状況だが、傲慢王の発言を借りれば、「百万の兵」が相手となる。例えそれが小さなモノであったとしても、許されないのだから。
副官が地点の連絡をしている様を見届けながら、アドルはVolcaniusとGnomeからなるゴーレム混成部隊の指揮官を呼び寄せると、
「我々はこの地の警戒にあたる。貴様らは至急ハルトフォートへ発て。全速力でだ!」
「……閣下は、よろしいのですか?」
「無論だ」
仮に、先程の殺気の主がこの場にいたとするならば、この状況、【傲慢】の兵にほかなるまい。思い返しつつ思考するに、【傲慢王】への暴言が先程の殺気の引き金だとするならば――アドルがゴーレム部隊についていった場合、そちらに禍が及ぶこととなる。対多数戦闘においてVolcaniusとGnomeの価値は計り知れない。故に、アドル自身はこちらに残る必要があった。
――それに、こうすれば万が一のことがあったとしても、王国の対応力が完全に損なわれるわけでは、ない。
「さて」
出立するゴーレム部隊と直衛の兵士たちを見送ったアドルは、護衛に残った兵たちを振り返った。周囲を警戒し続けてはいるものの、背筋を貫く氷柱の如き恐怖は、時間が経つにつれて強くなっていく。周囲は未だ、牧歌的な光景のままなのだが……。
――どこにいる?
付近で連絡が取れたハンター部隊がこちらに到達するまで最短で一〇分ほど。その間を、どうにか耐えねばならない。
同時に、予感は強まっていくばかりだ。
おそらくアドルは罠に掛けられた。しかし、その種はなんだ……?
「……エクラよ。光の加護を、私どもに」
アドルは祈りとともに、周囲を警戒し――、
――勿論、アドルの願いは光の元には届かなかった。
そのわずか10数秒後にアドルの右腕が弾け飛び、アカイロを飛び散らすこととなる。応戦しようとした八名の兵士たちは頭部を落とされ絶命。どぼりと血液と肢体が地に落ちる。
「ひ、あ、イ……っ!」
窮迫した呼吸のなかで、最後にアドルが目にしたものは……。
リプレイ本文
●
乾いた風が丘陵を撫でていく。同地域では各地が戦火に包まれているが、此処は静かなものだった。
マッシュ・アクラシス(ka0771)は無感動な瞳で周囲を眺めた。何もかもが手探りな現状、危険が伴うとしても調査を優先する意向は諒解できる。
「……間に合わなかった、のか」
クローディオ・シャール(ka0030)の暗い声が落ちる。先程まで急行すべく駆けていた"乗馬"が荒く息を吐くその傍らで、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は強く舌打ちをした。未だ生死不明ではあると訂正しなかったことが、曇った心中を表すようだった。叶うことならば急ぎたい。しかし、それを強弁できない程度には、風向きの悪さを自覚していた。
「遺体は、回収しなくては」
「――そうだな」
周囲を見回しながらのクローディオの決意の言葉に、ジャックはなんとか言葉を返す。
「うーん……さっぱり何がなんだかわかんないが」
丘陵の高みから双眼鏡を手に周囲を見下ろすフワ ハヤテ(ka0004)はのんきな口調だった。戦時でなければ牧歌的な光景ともいえよう。すくなくとも周囲に動体は見当たらず、息を吐く。
「まぁ、罠なんだろうねぇ」
「……そうだね」
誠堂 匠(ka2876)もまた、周囲を見渡しながらそう応じた。同じことを考えたであろう男爵が、自ら殿を務めたことに思いを馳せる。歪虚との争いの中で、決してあうことのない帳尻を、こうして誰かがつけている。
だからこそ、と。匠は己の務めを強く想うのだった。
●
ジュード・エアハート(ka0410)の表情に、少しばかりの陰りが差した。
「……死んでるね」
500メートルほど。丘陵の最も高い位置から見下ろし、双眼鏡で観察したジュードの断言に一同の動きが鈍る。
「首が落ちてる遺体が多いけど……それ以上は、ここからじゃちょっとわからない。多分、斬撃だと思う。周囲には亜人……ゴブリンがいるね。遺体で戯れてる」
「よく見えるな……ボクのこれでは難しいか」
思わず呻いたハヤテの視界では、驚くほど小さい人の姿しか見えない。35メートルほど先の人体を検分するようなものだった。体はともかく、傷となると爪の先ほどにも見えない。猟撃士の本領、というべきだった。
成る程、たしかに見えはしない。けれども、過るものはある。
「何で今もそこに留まってやがる……」
遠目に亜人達を見つめるジャック。たしかに、遺体を嬲ってはいる。しかし、と思う。歩を進める前に、思索を深めたい。ウロウロと彷徨う亜人達。あちこちに戦場があるなか、意義の乏しいこの場で待機する理由は、何だ?
「アドルが死んだのは……罵倒が理由じゃねぇ。あいつらに亜人歪虚に手を出したのが引き金か?」
ちらちらと眺め見れば、あたりには木々が生えている。背の低い木々ではあるが――と、ここで舌打ちをこぼした。男は金髪を雑に掻きながら歩を進めていく。
「俺は此処で見張っとく。何かあれば知らせるから……通話できるようにだけよろしく。武運を祈ってるからね!!」
進むジャックの姿から滲む、怒気。その背に、ジュードは言葉を投げた。
●
一方。
(ふぉーーーー……っ)
アシェ-ル(ka2983)は紅潮しかける頬を頭を振って空冷。紅一点(風)なジュードが離れたことで、ドキドキイケメンパラダイスが完成してしまった。乙女色の気配に、アシェールの少女回路が暴走している。以前は岩っぽい鎧を着込んでいたアシェールも、それなりに乙女らしく見えないこともない鎧を着用している。うん。
――これなら後衛で魔術師ムーヴに徹しても問題ないはず……あわよくば……!
●
"何事もないまま”ハンターたちは亜人の元にたどり着く。いよいよ罠らしくなってきた。
「急場しのぎの罠、といったところでしょうかね」
ぽつ、と。代弁するようなマッシュの声に、
「だろうねえ」
気怠げに応じつつ、ハヤテは魔術を紡いだ。眠りへと誘う魔術が亜人たちを包み込む――が、すぐに眉根を寄せた。無効、であった。
「歪虚か」
いよいよ待機を捨てたゴブリンたちが特攻してくる様を見て、大きく息を吐いた。楽に処理できれば上々であったのだが。
「いやはや」
言葉は軽く。しかし、意思だけは明確に、ハヤテの傍らにいた男が疾駆。あわせてハンター達も動く。マッシュに続き、クローディオ、匠が前へ。ジャックは数歩踏み込んだところで馬を止め、「かかってこいやァ!」と金色のマテリアルと共に咆哮。クローディオは友人の援護に回るべく同じく中衛に残った。
残るマッシュ、匠は遅滞も恐れもなく応戦の構え。
「はは。楽でいいな」
気を取り直したハヤテには笑みを浮かべる余裕すらあった。こちらも手練たちだ。奇声と雑な足取りで迫る敵ごときに、遅れを取る理由がない。
ざぶ、と黒金の剣光が奔り、音が落ちる。リーチの差で最前の亜人を叩き切ったマッシュは目を細めた。武装、脅威度。いずれをとっても状況と合わない。消える死体に膨れ上がる殺意を抑制し、手を抜くことを己に律した。
「……それが良さそうだ」
やや先行するマッシュの様を目に止めつつ並走していた匠が投具を放つ。交戦が、呼び水になる可能性もある。手は見せぬに越したことはない――という目論見は、思わぬところで水泡に帰した。
「や……っ、……あれ?」
匠の後方から、生き残りのゴブリンにマテリアルの矢が突き立った。熟達といっていい高火力は、アシェールの一撃。後衛らしい仕事、と張り切って放った一撃であっという間に消え失せた亜人たち。
呆然とする少女の言葉だけが、手向けとなった。
●
どれどれ、と何故か嬉しそうに遺体に近づくハヤテをよそに、アシェールは持参したゴムボートをふうふうと吹き込んで膨らませている。
ちらっ。
「これ、結構、肺活量、入りますね……」
ちらっ。ちらっ。
「ちょっと誰か手が空いてたら手伝ってもらっていいですか? 間接なんちゃらになりますが」
「いやはや……」「ごめん……」「ふふふふふざっ!??」
無表情のマッシュ、何かを察した匠、動転のあまり警戒を忘れそうになるジャックの順で否定が差し込まれる。対して、クローディオ・シャールは格が違った。
「……? 別にいいのではないか? では私が……」
「クローディオ……いやお前そりゃだめだろ! そういうのは! 無理絶対駄目!!」
「……ふむ。まあ、お前がいうなら」
「お、おう! 分かりゃいいんだ分かりゃ!」
などとガチャガチャやっているのをよそに。
――チッ……。
という舌打ちが、人知れず響いた。賢明なる諸氏にはお分かりいただけるだろうが、無論、歪虚のものではなく、とある少女の舌打ちであったが……。
さておき。遺体の検分が始まった。ハヤテが遺体をカメラで撮影する一方で、匠は周囲をカメラで撮影している。
幻影などの対策として、であったが、映る景色に変わりはなかった。
「張り合いのないことこの上ないが、ずいぶん鮮やかな手並みだ。首を一撫で。応戦の気配は殆どなし。鎧に傷がないのは、彼らがゴーレム部隊の運用だけで戦果を上げたから、というところかな……ある意味好都合だったね」
言外に亜人の手練手管では実現不可能、というのを滲ませながら、ハヤテは遺体を検めている。出血の具合から、遺体を動かした形跡もあるが、こちらは亜人に好きにさせた結果だろう。
――僕たちの接近が想定外、というのはそのとおりなのだろうな。
と、ハヤテは結論づけた。
「ふむ……」
対して。同じものを眺め、マッシュは武技によるものと見た。切りかかった方向は、利き手や位置一つで異なるだろうが、概ねの大きさにはあたりがつく。ヒト――マッシュの背丈とそう変わることはないとみてまず間違いはない。相応に強力な存在だろう。それとなく面々同士で視線を交わすと、夫々の位置が寄りはじめた。アシェールはもともと遺体のそばでボートを膨らましているが、その傍らにジャックがついた。その体からは濛々たるマテリアルが吹き上がり続け、要るならば来い、と示すよう。マッシュ、匠は遊兵として待機している。
ハヤテはそれとなく力仕事――つまり、遺体の積み込みを無視。なんなら、残ったアシェールを謎の微笑みと共に見つめてすらいる。
(あ、これ、結局私が持つやつ……ですか……っ? お、乙女扱いは……うぐ……ぅ……)
無念を感じながらも、アシェールはいそいそと遺体をゴムボートに積み込もうとする、と。
「……ほらよ」
「!!!」
ジャックが、手伝ってくれた。もちろん、他意はなく、いっそこれが"スキ"になれば、程度の考えであったのだが。
●
ハヤテが遺体の検分を終え、アドル男爵の遺体と断定したうえでアシェールとジャックが麻製の袋で遺体を包むと、アシェールが膨らませきったゴムボートに積み込んでいく。ハンターたちは奇妙な緊迫を覚えながら――同時に、推察するところもあった。
アドル達を討滅しえた時点で、"彼ら"の目的は叶っているのではないか。亜人を餌にハンター達を『帰せる』のであれば、それでいい……という可能性。いよいよ積み込みが終わった段まで何もなかったとなると、一層濃厚となってくる。
「……まさか、傲慢王を褒め称えたら良いことあったりするのでしょうか?」
ぽつり、とアシェールが零すと、匠は小さく苦笑を浮かべた。
そろそろ、"頃合い"だろうか。
「まさか。傲慢王のどこに称賛の余地があるというんだい」
「いまや俺様達に蹴散らされるだけの王だしなー」
匠の軽口に、ジャックは不敵に笑って応じた。
転瞬。
北方の二箇所から斬撃が撃ち放たれた。いつのまにか周辺に生えていた木々が、どこか辺境のそれに似た衣服のヒト型二人――の歪虚――に変じていた。手にはカトラスのような幅広の長剣。斬撃はまっすぐに、匠とジャックへと向かっている。
「――させるものか」
クローディオのガウスジェイルが、その斬撃を絡め取る。リスクを取るジャックの背を支える形に、クローディオは我知らず笑みを浮かべている。己の生き方の変容を、まざまざと感じてのことだった。痛みすら、生の実感と断言できるほどに。
「全く、扱いやすい……これも【傲慢】の性質といえましょうかね」
待機していたマッシュが往った。二人の歪虚のもとにマッシュは一足で間合いにいたると、ソウルエッジを載せて一閃。敵もさるもので、受け止められた。なれば、と。更に踏み込んで戦線を押し上げた。アシェールとハヤテといった後衛を守護する意味合いだ。
何せ。
"敵が、これだけのはずがない"。
はたして。
『南方! 木から敵が湧いた……っ!!!』
「ナイス……っ!!!」
ジュードの声が響く。看破の声に対しては、ジャックと匠が応じてみせた。
遅れて届いた斬撃に対して、ジャックは鎧で弾き、さらに匠に向かった斬撃をガウスジェイルで絡め取る。
「てめぇらの思い通りにはさせねえ……!」
鋭い斬撃に、無傷とはいかなかったジャックが吼えた。行け、と、仲間の背を押すように。
残像を残して疾駆する匠。相対している姿をはっきりと両の目に捉えた。ヒト。そう、人だ。此方を睨むその目には、ジャックのそれと似た怒りの色。距離にして14メートルを、一息に詰め、さらに加速。マテリアルを全身に巡らせ、対傲慢試作刀で右の歪虚を撫で切る。致命には至らず。残る左の一体からの応撃が迫るが、半身になることで回避――そして匠はさらに加速した。上段にかざしていた刀をそのまま振り下ろし、反撃とした。
「が、ァ……っ!」
手応えはあるが、しかし、頑強だ。深追いはせずに後退。
――時間稼ぎは、十二分に果たしたから。
その後方。男は魔導書を掲げ、途端に渦巻くマテリアルをいっそ抑え込みながら、笑みを深める。探求者たる彼――ハヤテをしても御すのに労苦を強いられる星の器を広げ。
「ようやくのお出ましだ」
言葉と同時、結果は成った。魔導書から吐き出される莫大なマテリアルが、匠が相対していた歪虚二体を絡め取る。
「死者の掟」と名付けられた星の秘奥に、歪虚たちは抗うことが出来なかった。
「な、っ、」
身動きを取れずに跪く歪虚を睥睨したハヤテはくつくつと笑い、"それ"を見送った。
「今ならっ!」
アシェールが撃ち放った魔導。目もくらむほどの石礫と水流が、身動きも取れない歪虚二体を飲み込む。敵は【傲慢】の歪虚。高火力、低耐久の魔術師にとっての鬼門である『懲罰』の権能を警戒していたが、こうなれば話は別。
憐れむべきは歪虚のほうか……否、歪虚であったことを良しとすべきかもしれない。高速の液体に轢弾に晒された歪虚達の体が濁音を残し、跡形もなく"消え失せた"。生在るものであれば直視しかねるほどの光景であったことは想像に難くない。
残るは、マッシュが相対する歪虚のみ――となる、が。
「逃しはしない」
クローディオのはなった暗色の刃が、マッシュと切り結んでいた歪虚の一体を捉えていた。体は動く。しかし、その足を縫い止める、煉獄の名を持つ法術が。
「……王国の敵を逃がすつもりはない」
周囲を警戒するジュードからは、親手の報告は無し。王への侮蔑で引き出されない、という性質があれば別だが――この場にいる敵は、もはや二体のみ。うち一体は足を止められ、うち一体は、
「ち、ィ……っ! 王意を理解せぬ蛮人ごときが……!」
「その蛮人に、討たれるんですよ」
マッシュが、その逃げ足を封じている。後ろを見せたら斬る、と。
無論、そうしている間にも、匠は包囲するように動いているし、ハヤテ、アシェールは次の魔術を編んでいる。
彼らの終わりは、そう間をおかずに訪れたのだった。
●
流石に帰り道は男衆は手伝ってくれた。
アシェールは野花を摘み、馬が曵くゴムボートに添えた。
「化けてでませんように……」
祈り手を切りながら、呟いた。敵として出てきたら厄介ですし、という辺り、乙女というよりはハンターが適職すぎるきらいはあるけれども。
「ゴブリン達を囮に、暗殺した……っつー感じか……汚え奴らだ」
クローディオの法術で治療を施してもらったジャックは鎧の傷を撫でながら吐き捨てる。
「十中八九、そうだろうね。此方の知識がなかったせいか、対応が後手だったようだったけれど……しかし、【変容】、か」
匠は応じつつ、思う。隠密性、奇襲時の火力に重きを置いた彼らのような兵種は、ベリアルやメフィストといった歪虚とは嗜好が異なる。それが今後、どのような被害をもたらすか……については、騎士団を通じて周知を求めたほうがいいか、と。
そこに。
「おつかれさまー!」
遠くから、ジュードの声が響く。"生き残り"を警戒していた彼の言葉が、戦場の終わりを告げていた。
乾いた風が丘陵を撫でていく。同地域では各地が戦火に包まれているが、此処は静かなものだった。
マッシュ・アクラシス(ka0771)は無感動な瞳で周囲を眺めた。何もかもが手探りな現状、危険が伴うとしても調査を優先する意向は諒解できる。
「……間に合わなかった、のか」
クローディオ・シャール(ka0030)の暗い声が落ちる。先程まで急行すべく駆けていた"乗馬"が荒く息を吐くその傍らで、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は強く舌打ちをした。未だ生死不明ではあると訂正しなかったことが、曇った心中を表すようだった。叶うことならば急ぎたい。しかし、それを強弁できない程度には、風向きの悪さを自覚していた。
「遺体は、回収しなくては」
「――そうだな」
周囲を見回しながらのクローディオの決意の言葉に、ジャックはなんとか言葉を返す。
「うーん……さっぱり何がなんだかわかんないが」
丘陵の高みから双眼鏡を手に周囲を見下ろすフワ ハヤテ(ka0004)はのんきな口調だった。戦時でなければ牧歌的な光景ともいえよう。すくなくとも周囲に動体は見当たらず、息を吐く。
「まぁ、罠なんだろうねぇ」
「……そうだね」
誠堂 匠(ka2876)もまた、周囲を見渡しながらそう応じた。同じことを考えたであろう男爵が、自ら殿を務めたことに思いを馳せる。歪虚との争いの中で、決してあうことのない帳尻を、こうして誰かがつけている。
だからこそ、と。匠は己の務めを強く想うのだった。
●
ジュード・エアハート(ka0410)の表情に、少しばかりの陰りが差した。
「……死んでるね」
500メートルほど。丘陵の最も高い位置から見下ろし、双眼鏡で観察したジュードの断言に一同の動きが鈍る。
「首が落ちてる遺体が多いけど……それ以上は、ここからじゃちょっとわからない。多分、斬撃だと思う。周囲には亜人……ゴブリンがいるね。遺体で戯れてる」
「よく見えるな……ボクのこれでは難しいか」
思わず呻いたハヤテの視界では、驚くほど小さい人の姿しか見えない。35メートルほど先の人体を検分するようなものだった。体はともかく、傷となると爪の先ほどにも見えない。猟撃士の本領、というべきだった。
成る程、たしかに見えはしない。けれども、過るものはある。
「何で今もそこに留まってやがる……」
遠目に亜人達を見つめるジャック。たしかに、遺体を嬲ってはいる。しかし、と思う。歩を進める前に、思索を深めたい。ウロウロと彷徨う亜人達。あちこちに戦場があるなか、意義の乏しいこの場で待機する理由は、何だ?
「アドルが死んだのは……罵倒が理由じゃねぇ。あいつらに亜人歪虚に手を出したのが引き金か?」
ちらちらと眺め見れば、あたりには木々が生えている。背の低い木々ではあるが――と、ここで舌打ちをこぼした。男は金髪を雑に掻きながら歩を進めていく。
「俺は此処で見張っとく。何かあれば知らせるから……通話できるようにだけよろしく。武運を祈ってるからね!!」
進むジャックの姿から滲む、怒気。その背に、ジュードは言葉を投げた。
●
一方。
(ふぉーーーー……っ)
アシェ-ル(ka2983)は紅潮しかける頬を頭を振って空冷。紅一点(風)なジュードが離れたことで、ドキドキイケメンパラダイスが完成してしまった。乙女色の気配に、アシェールの少女回路が暴走している。以前は岩っぽい鎧を着込んでいたアシェールも、それなりに乙女らしく見えないこともない鎧を着用している。うん。
――これなら後衛で魔術師ムーヴに徹しても問題ないはず……あわよくば……!
●
"何事もないまま”ハンターたちは亜人の元にたどり着く。いよいよ罠らしくなってきた。
「急場しのぎの罠、といったところでしょうかね」
ぽつ、と。代弁するようなマッシュの声に、
「だろうねえ」
気怠げに応じつつ、ハヤテは魔術を紡いだ。眠りへと誘う魔術が亜人たちを包み込む――が、すぐに眉根を寄せた。無効、であった。
「歪虚か」
いよいよ待機を捨てたゴブリンたちが特攻してくる様を見て、大きく息を吐いた。楽に処理できれば上々であったのだが。
「いやはや」
言葉は軽く。しかし、意思だけは明確に、ハヤテの傍らにいた男が疾駆。あわせてハンター達も動く。マッシュに続き、クローディオ、匠が前へ。ジャックは数歩踏み込んだところで馬を止め、「かかってこいやァ!」と金色のマテリアルと共に咆哮。クローディオは友人の援護に回るべく同じく中衛に残った。
残るマッシュ、匠は遅滞も恐れもなく応戦の構え。
「はは。楽でいいな」
気を取り直したハヤテには笑みを浮かべる余裕すらあった。こちらも手練たちだ。奇声と雑な足取りで迫る敵ごときに、遅れを取る理由がない。
ざぶ、と黒金の剣光が奔り、音が落ちる。リーチの差で最前の亜人を叩き切ったマッシュは目を細めた。武装、脅威度。いずれをとっても状況と合わない。消える死体に膨れ上がる殺意を抑制し、手を抜くことを己に律した。
「……それが良さそうだ」
やや先行するマッシュの様を目に止めつつ並走していた匠が投具を放つ。交戦が、呼び水になる可能性もある。手は見せぬに越したことはない――という目論見は、思わぬところで水泡に帰した。
「や……っ、……あれ?」
匠の後方から、生き残りのゴブリンにマテリアルの矢が突き立った。熟達といっていい高火力は、アシェールの一撃。後衛らしい仕事、と張り切って放った一撃であっという間に消え失せた亜人たち。
呆然とする少女の言葉だけが、手向けとなった。
●
どれどれ、と何故か嬉しそうに遺体に近づくハヤテをよそに、アシェールは持参したゴムボートをふうふうと吹き込んで膨らませている。
ちらっ。
「これ、結構、肺活量、入りますね……」
ちらっ。ちらっ。
「ちょっと誰か手が空いてたら手伝ってもらっていいですか? 間接なんちゃらになりますが」
「いやはや……」「ごめん……」「ふふふふふざっ!??」
無表情のマッシュ、何かを察した匠、動転のあまり警戒を忘れそうになるジャックの順で否定が差し込まれる。対して、クローディオ・シャールは格が違った。
「……? 別にいいのではないか? では私が……」
「クローディオ……いやお前そりゃだめだろ! そういうのは! 無理絶対駄目!!」
「……ふむ。まあ、お前がいうなら」
「お、おう! 分かりゃいいんだ分かりゃ!」
などとガチャガチャやっているのをよそに。
――チッ……。
という舌打ちが、人知れず響いた。賢明なる諸氏にはお分かりいただけるだろうが、無論、歪虚のものではなく、とある少女の舌打ちであったが……。
さておき。遺体の検分が始まった。ハヤテが遺体をカメラで撮影する一方で、匠は周囲をカメラで撮影している。
幻影などの対策として、であったが、映る景色に変わりはなかった。
「張り合いのないことこの上ないが、ずいぶん鮮やかな手並みだ。首を一撫で。応戦の気配は殆どなし。鎧に傷がないのは、彼らがゴーレム部隊の運用だけで戦果を上げたから、というところかな……ある意味好都合だったね」
言外に亜人の手練手管では実現不可能、というのを滲ませながら、ハヤテは遺体を検めている。出血の具合から、遺体を動かした形跡もあるが、こちらは亜人に好きにさせた結果だろう。
――僕たちの接近が想定外、というのはそのとおりなのだろうな。
と、ハヤテは結論づけた。
「ふむ……」
対して。同じものを眺め、マッシュは武技によるものと見た。切りかかった方向は、利き手や位置一つで異なるだろうが、概ねの大きさにはあたりがつく。ヒト――マッシュの背丈とそう変わることはないとみてまず間違いはない。相応に強力な存在だろう。それとなく面々同士で視線を交わすと、夫々の位置が寄りはじめた。アシェールはもともと遺体のそばでボートを膨らましているが、その傍らにジャックがついた。その体からは濛々たるマテリアルが吹き上がり続け、要るならば来い、と示すよう。マッシュ、匠は遊兵として待機している。
ハヤテはそれとなく力仕事――つまり、遺体の積み込みを無視。なんなら、残ったアシェールを謎の微笑みと共に見つめてすらいる。
(あ、これ、結局私が持つやつ……ですか……っ? お、乙女扱いは……うぐ……ぅ……)
無念を感じながらも、アシェールはいそいそと遺体をゴムボートに積み込もうとする、と。
「……ほらよ」
「!!!」
ジャックが、手伝ってくれた。もちろん、他意はなく、いっそこれが"スキ"になれば、程度の考えであったのだが。
●
ハヤテが遺体の検分を終え、アドル男爵の遺体と断定したうえでアシェールとジャックが麻製の袋で遺体を包むと、アシェールが膨らませきったゴムボートに積み込んでいく。ハンターたちは奇妙な緊迫を覚えながら――同時に、推察するところもあった。
アドル達を討滅しえた時点で、"彼ら"の目的は叶っているのではないか。亜人を餌にハンター達を『帰せる』のであれば、それでいい……という可能性。いよいよ積み込みが終わった段まで何もなかったとなると、一層濃厚となってくる。
「……まさか、傲慢王を褒め称えたら良いことあったりするのでしょうか?」
ぽつり、とアシェールが零すと、匠は小さく苦笑を浮かべた。
そろそろ、"頃合い"だろうか。
「まさか。傲慢王のどこに称賛の余地があるというんだい」
「いまや俺様達に蹴散らされるだけの王だしなー」
匠の軽口に、ジャックは不敵に笑って応じた。
転瞬。
北方の二箇所から斬撃が撃ち放たれた。いつのまにか周辺に生えていた木々が、どこか辺境のそれに似た衣服のヒト型二人――の歪虚――に変じていた。手にはカトラスのような幅広の長剣。斬撃はまっすぐに、匠とジャックへと向かっている。
「――させるものか」
クローディオのガウスジェイルが、その斬撃を絡め取る。リスクを取るジャックの背を支える形に、クローディオは我知らず笑みを浮かべている。己の生き方の変容を、まざまざと感じてのことだった。痛みすら、生の実感と断言できるほどに。
「全く、扱いやすい……これも【傲慢】の性質といえましょうかね」
待機していたマッシュが往った。二人の歪虚のもとにマッシュは一足で間合いにいたると、ソウルエッジを載せて一閃。敵もさるもので、受け止められた。なれば、と。更に踏み込んで戦線を押し上げた。アシェールとハヤテといった後衛を守護する意味合いだ。
何せ。
"敵が、これだけのはずがない"。
はたして。
『南方! 木から敵が湧いた……っ!!!』
「ナイス……っ!!!」
ジュードの声が響く。看破の声に対しては、ジャックと匠が応じてみせた。
遅れて届いた斬撃に対して、ジャックは鎧で弾き、さらに匠に向かった斬撃をガウスジェイルで絡め取る。
「てめぇらの思い通りにはさせねえ……!」
鋭い斬撃に、無傷とはいかなかったジャックが吼えた。行け、と、仲間の背を押すように。
残像を残して疾駆する匠。相対している姿をはっきりと両の目に捉えた。ヒト。そう、人だ。此方を睨むその目には、ジャックのそれと似た怒りの色。距離にして14メートルを、一息に詰め、さらに加速。マテリアルを全身に巡らせ、対傲慢試作刀で右の歪虚を撫で切る。致命には至らず。残る左の一体からの応撃が迫るが、半身になることで回避――そして匠はさらに加速した。上段にかざしていた刀をそのまま振り下ろし、反撃とした。
「が、ァ……っ!」
手応えはあるが、しかし、頑強だ。深追いはせずに後退。
――時間稼ぎは、十二分に果たしたから。
その後方。男は魔導書を掲げ、途端に渦巻くマテリアルをいっそ抑え込みながら、笑みを深める。探求者たる彼――ハヤテをしても御すのに労苦を強いられる星の器を広げ。
「ようやくのお出ましだ」
言葉と同時、結果は成った。魔導書から吐き出される莫大なマテリアルが、匠が相対していた歪虚二体を絡め取る。
「死者の掟」と名付けられた星の秘奥に、歪虚たちは抗うことが出来なかった。
「な、っ、」
身動きを取れずに跪く歪虚を睥睨したハヤテはくつくつと笑い、"それ"を見送った。
「今ならっ!」
アシェールが撃ち放った魔導。目もくらむほどの石礫と水流が、身動きも取れない歪虚二体を飲み込む。敵は【傲慢】の歪虚。高火力、低耐久の魔術師にとっての鬼門である『懲罰』の権能を警戒していたが、こうなれば話は別。
憐れむべきは歪虚のほうか……否、歪虚であったことを良しとすべきかもしれない。高速の液体に轢弾に晒された歪虚達の体が濁音を残し、跡形もなく"消え失せた"。生在るものであれば直視しかねるほどの光景であったことは想像に難くない。
残るは、マッシュが相対する歪虚のみ――となる、が。
「逃しはしない」
クローディオのはなった暗色の刃が、マッシュと切り結んでいた歪虚の一体を捉えていた。体は動く。しかし、その足を縫い止める、煉獄の名を持つ法術が。
「……王国の敵を逃がすつもりはない」
周囲を警戒するジュードからは、親手の報告は無し。王への侮蔑で引き出されない、という性質があれば別だが――この場にいる敵は、もはや二体のみ。うち一体は足を止められ、うち一体は、
「ち、ィ……っ! 王意を理解せぬ蛮人ごときが……!」
「その蛮人に、討たれるんですよ」
マッシュが、その逃げ足を封じている。後ろを見せたら斬る、と。
無論、そうしている間にも、匠は包囲するように動いているし、ハヤテ、アシェールは次の魔術を編んでいる。
彼らの終わりは、そう間をおかずに訪れたのだった。
●
流石に帰り道は男衆は手伝ってくれた。
アシェールは野花を摘み、馬が曵くゴムボートに添えた。
「化けてでませんように……」
祈り手を切りながら、呟いた。敵として出てきたら厄介ですし、という辺り、乙女というよりはハンターが適職すぎるきらいはあるけれども。
「ゴブリン達を囮に、暗殺した……っつー感じか……汚え奴らだ」
クローディオの法術で治療を施してもらったジャックは鎧の傷を撫でながら吐き捨てる。
「十中八九、そうだろうね。此方の知識がなかったせいか、対応が後手だったようだったけれど……しかし、【変容】、か」
匠は応じつつ、思う。隠密性、奇襲時の火力に重きを置いた彼らのような兵種は、ベリアルやメフィストといった歪虚とは嗜好が異なる。それが今後、どのような被害をもたらすか……については、騎士団を通じて周知を求めたほうがいいか、と。
そこに。
「おつかれさまー!」
遠くから、ジュードの声が響く。"生き残り"を警戒していた彼の言葉が、戦場の終わりを告げていた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/02/28 01:11:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/02/23 21:23:16 |