ゲスト
(ka0000)
生きる糧が足りるとも
マスター:鹿野やいと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/20 19:00
- 完成日
- 2015/01/28 19:44
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
先年の歪虚との戦闘により兵力を大きく損失したブラックバーン伯爵は、領内の街の至るところに兵士募集を行う旨を記した高札を立てた。それは兵力増強の為でもあったが、離散した村の住民が賊に身をやつさぬ為の施策でもあった。高札を立てて2週間後、伯爵の居城の入り口に集団の希望者が現れる。人数は総勢30名。誰も彼も薄汚い身なりだったが、錆びた刀や槍で武装していた。驚く門番の兵士に彼らのリーダーは盗賊の「砂蛇団」を名乗った。
■
訓練にも使われる石造りの無骨な大広間の一室に砂蛇団の一堂は通された。周囲は慌てて駆けつけた兵士が囲んでいる。兵士達がその気になれば、武器を取り上げられた彼らは為す術も無いだろう。盗賊達が揃って神妙な顔で待っていると、護衛の騎士と兵士数名を伴って領主代理のハロルドが現れた。ハロルドは父ローレンスの騎士復帰に伴い、伯爵位と領地を継いだまだ若い領主だ。その性質は父と違い冷徹と恐れされてはいるが、父と同じく善政を敷くことで領民の信頼を集めていた。彼は騎士に復帰した父が正しい領主であると言い、国の公式な場以外では領主代理を名乗っている。先年の黒大公の騒乱の際も、言葉通り戻ってきた父に命令権を譲っている。
「父の不在を預かっている、領主代理のハロルドである」
ハロルドが名乗り集団の前に立つと、リーダーは真っ先にひざまづき頭を垂れる。部下達は慣れない仕草でそれに続いた。
「砂蛇団、首領のオイヴァにございます。ブラックバーン伯が兵士を集めていると聞き、雇っていただきたく馳せ参じました」
領主代理のハロルドは跪く首領オイヴァをしげしげと眺めた。首領を名乗るだけあり他の者よりも体格に優れ、動きもきびきびしている。ハロルドは分からなかったが、横に居る騎士のジェフリーは彼の武術の錬度も見抜いているだろう。
「盗賊のお前がか?」
「はっ。私どもは……」
オイヴァは一瞬ためらい、後方の部下達をちらりと見た。
「街道を通る商人を襲い、村の娘を拐かし、禁じられた品を運んだりしてきました。ですが…元は食い詰めて仕方なく、盗みに手をそめた者ばかりです」
盗賊になった理由としては少なくない話だ。いかに善政を敷こうとも、飢饉となれば食えなくなる者も出る。歪虚の被害があればなおさら。そして去年は黒大公の起こした騒乱で村そのものを失った者も居る。
「先の戦の後、私どもの生まれ故郷の村が領主様の手厚い助けにより離散を免れたと聞きました。私どもはもうまともな仕事はできませんが、戦ならお手伝いできます。どうか、私どもを使ってください。ほんの少しでも、これまでの償いをしたいのです」
ハロルドは無言だった。盗賊達に兵士達に緊張が走る。次の一言で、ここは凄惨な殺しの場になるかもしれないからだ。だが、幸いにもそうはならなかった。仮面のように感情の見えないハロルドだったが、司祭のような穏和で優しい笑みを作った。
「わかった。その方らを我らが兵士として迎えよう」
「ありがとうございます!!」
笑顔で言うハロルドに、オイヴァ達盗賊一同は深く頭を下げる。緊張が解けたせいか中には涙を流す者もいた。
ハロルドはその声が少し止むまで待ち、続きの沙汰を言い渡す。
「だが罪を許すわけではないぞ。戦で勲功をあげた者のみに恩赦を与えよう。罪が許されるまで、お前達に自由な行動は許されない。さし当たっては1週間後にゴブリン・コボルドの集落を討伐する。まずはそれに向け準備をするが良い。詳しいことは追って伝える。以上だ」
ハロルドは一同に背を向け、護衛を連れてその場を後にした。彼の背後では大きな声で喜びを分かち合う盗賊達の姿がある。護衛の1人、ハロルドの弟である騎士ジェフリーは、石で組まれた通路を進んで声が遠くなった頃、小さな声で兄を呼んだ。
「兄上」
「なんだ?」
「良いのか?」
ジェフリーの懸念も当然のものだ。条件付とはいえ賊をこうも簡単に信用していいものか。他の護衛達も不安そうにその答えに聞き耳を立てている。ハロルドは心配する弟に笑って返した。
「心配するなジェフリー。あれの半分も使えるとは思っておらんよ」
それは笑顔に似つかわしくない冷徹な宣言だった。
「おそらく首領と後何名かは本当に父の施政に感謝しておるのだろう。その者達は使う。だがそれに乗じてよからぬ事を考える連中は…」
死しても已む無し。長らく近辺を騒がせていた盗賊だ。順次討伐し皆殺しにする予定だったのだ。損得で言えば今全てを殺しても安い。
「3週間もして気が緩んだ頃には結果が出るだろう。ジェフリー、ハンターで使えそうな者に声をかけてくれ」
「わかった。こちらで手配する」
「……出来の良い弟がいると助かるよ」
本来の命令系統は王国直属の騎士団へ命令する権利は貴族には無い。弟は貴族からの要請があったものとしてそれを協力として処理。こうして余裕がある時は兄を助けに領地に戻っていた。ハロルドは本来は口うるさい人間だが、弟のジェフリーには一言も付け足すような事を言わなかった。
ジェフリーは小さく礼をするとその場を離れる。ハロルドはジェフリーの背中を見送り、硬く表情を引き締めた。
■
一方、盗賊達の喜びようは凄まじかった。微妙な顔の兵士達に囲まれた中で、飛び上がったり跳ねたり。それも当然と言えば当然だった。なにせ、死を覚悟してきたのだから。
「はは、良かった。良かった……」
盗賊団でもとびきり気の弱かったその男は、あまりのことに泣き止む気配が無い。周りはそれを茶化しながらも、その気持ちをバカにはしなかった。
「バカだな。これからが大変なんだぞ」
「そうだぞ。勲功をたてたらって言ってただろ。でぶでのろまなお前じゃ、いつまで経っても許してもらえないぞ」
「そ、そんなぁ……」
泣いてた男がおろおろとする様を見て一同にまた笑いが起こる。同じく笑っていたオイヴァは、男の背中をばしばしと思い切り叩いた。
「心配すんな! お前の分、俺が倍働いてやるさ」
「首領……」
そして一番喜んでいたのは首領のオイヴァだった。彼の故郷バストー村は前の領主の頃に散々な目にあった。それを忘れたことはない。貴族は敵だと今でも思ってる。だが今の領主は違う。黒大公の襲撃の中でも村々を守り、復興する手助けをしてくれた。村に残った幼馴染が、毎日楽しそうに働き汗を流すのを見て彼は確信した。仕えるべき相手がいるとするなら、伯爵以外はありえない。そして今日、めでたく念願叶ったのだ。
「お前らも、くれぐれも変な気起こすんじゃねえぞ! 今日で盗賊は廃業だ。
明日からは伯爵様の兵士として恥ずかしくないように生きるんだ」
周囲から「応」と答えが返る。オイヴァは喜びに目が眩み気付けなかった。そのうち何割かの笑みの裏に、悪意が隠されていることに。
■
訓練にも使われる石造りの無骨な大広間の一室に砂蛇団の一堂は通された。周囲は慌てて駆けつけた兵士が囲んでいる。兵士達がその気になれば、武器を取り上げられた彼らは為す術も無いだろう。盗賊達が揃って神妙な顔で待っていると、護衛の騎士と兵士数名を伴って領主代理のハロルドが現れた。ハロルドは父ローレンスの騎士復帰に伴い、伯爵位と領地を継いだまだ若い領主だ。その性質は父と違い冷徹と恐れされてはいるが、父と同じく善政を敷くことで領民の信頼を集めていた。彼は騎士に復帰した父が正しい領主であると言い、国の公式な場以外では領主代理を名乗っている。先年の黒大公の騒乱の際も、言葉通り戻ってきた父に命令権を譲っている。
「父の不在を預かっている、領主代理のハロルドである」
ハロルドが名乗り集団の前に立つと、リーダーは真っ先にひざまづき頭を垂れる。部下達は慣れない仕草でそれに続いた。
「砂蛇団、首領のオイヴァにございます。ブラックバーン伯が兵士を集めていると聞き、雇っていただきたく馳せ参じました」
領主代理のハロルドは跪く首領オイヴァをしげしげと眺めた。首領を名乗るだけあり他の者よりも体格に優れ、動きもきびきびしている。ハロルドは分からなかったが、横に居る騎士のジェフリーは彼の武術の錬度も見抜いているだろう。
「盗賊のお前がか?」
「はっ。私どもは……」
オイヴァは一瞬ためらい、後方の部下達をちらりと見た。
「街道を通る商人を襲い、村の娘を拐かし、禁じられた品を運んだりしてきました。ですが…元は食い詰めて仕方なく、盗みに手をそめた者ばかりです」
盗賊になった理由としては少なくない話だ。いかに善政を敷こうとも、飢饉となれば食えなくなる者も出る。歪虚の被害があればなおさら。そして去年は黒大公の起こした騒乱で村そのものを失った者も居る。
「先の戦の後、私どもの生まれ故郷の村が領主様の手厚い助けにより離散を免れたと聞きました。私どもはもうまともな仕事はできませんが、戦ならお手伝いできます。どうか、私どもを使ってください。ほんの少しでも、これまでの償いをしたいのです」
ハロルドは無言だった。盗賊達に兵士達に緊張が走る。次の一言で、ここは凄惨な殺しの場になるかもしれないからだ。だが、幸いにもそうはならなかった。仮面のように感情の見えないハロルドだったが、司祭のような穏和で優しい笑みを作った。
「わかった。その方らを我らが兵士として迎えよう」
「ありがとうございます!!」
笑顔で言うハロルドに、オイヴァ達盗賊一同は深く頭を下げる。緊張が解けたせいか中には涙を流す者もいた。
ハロルドはその声が少し止むまで待ち、続きの沙汰を言い渡す。
「だが罪を許すわけではないぞ。戦で勲功をあげた者のみに恩赦を与えよう。罪が許されるまで、お前達に自由な行動は許されない。さし当たっては1週間後にゴブリン・コボルドの集落を討伐する。まずはそれに向け準備をするが良い。詳しいことは追って伝える。以上だ」
ハロルドは一同に背を向け、護衛を連れてその場を後にした。彼の背後では大きな声で喜びを分かち合う盗賊達の姿がある。護衛の1人、ハロルドの弟である騎士ジェフリーは、石で組まれた通路を進んで声が遠くなった頃、小さな声で兄を呼んだ。
「兄上」
「なんだ?」
「良いのか?」
ジェフリーの懸念も当然のものだ。条件付とはいえ賊をこうも簡単に信用していいものか。他の護衛達も不安そうにその答えに聞き耳を立てている。ハロルドは心配する弟に笑って返した。
「心配するなジェフリー。あれの半分も使えるとは思っておらんよ」
それは笑顔に似つかわしくない冷徹な宣言だった。
「おそらく首領と後何名かは本当に父の施政に感謝しておるのだろう。その者達は使う。だがそれに乗じてよからぬ事を考える連中は…」
死しても已む無し。長らく近辺を騒がせていた盗賊だ。順次討伐し皆殺しにする予定だったのだ。損得で言えば今全てを殺しても安い。
「3週間もして気が緩んだ頃には結果が出るだろう。ジェフリー、ハンターで使えそうな者に声をかけてくれ」
「わかった。こちらで手配する」
「……出来の良い弟がいると助かるよ」
本来の命令系統は王国直属の騎士団へ命令する権利は貴族には無い。弟は貴族からの要請があったものとしてそれを協力として処理。こうして余裕がある時は兄を助けに領地に戻っていた。ハロルドは本来は口うるさい人間だが、弟のジェフリーには一言も付け足すような事を言わなかった。
ジェフリーは小さく礼をするとその場を離れる。ハロルドはジェフリーの背中を見送り、硬く表情を引き締めた。
■
一方、盗賊達の喜びようは凄まじかった。微妙な顔の兵士達に囲まれた中で、飛び上がったり跳ねたり。それも当然と言えば当然だった。なにせ、死を覚悟してきたのだから。
「はは、良かった。良かった……」
盗賊団でもとびきり気の弱かったその男は、あまりのことに泣き止む気配が無い。周りはそれを茶化しながらも、その気持ちをバカにはしなかった。
「バカだな。これからが大変なんだぞ」
「そうだぞ。勲功をたてたらって言ってただろ。でぶでのろまなお前じゃ、いつまで経っても許してもらえないぞ」
「そ、そんなぁ……」
泣いてた男がおろおろとする様を見て一同にまた笑いが起こる。同じく笑っていたオイヴァは、男の背中をばしばしと思い切り叩いた。
「心配すんな! お前の分、俺が倍働いてやるさ」
「首領……」
そして一番喜んでいたのは首領のオイヴァだった。彼の故郷バストー村は前の領主の頃に散々な目にあった。それを忘れたことはない。貴族は敵だと今でも思ってる。だが今の領主は違う。黒大公の襲撃の中でも村々を守り、復興する手助けをしてくれた。村に残った幼馴染が、毎日楽しそうに働き汗を流すのを見て彼は確信した。仕えるべき相手がいるとするなら、伯爵以外はありえない。そして今日、めでたく念願叶ったのだ。
「お前らも、くれぐれも変な気起こすんじゃねえぞ! 今日で盗賊は廃業だ。
明日からは伯爵様の兵士として恥ずかしくないように生きるんだ」
周囲から「応」と答えが返る。オイヴァは喜びに目が眩み気付けなかった。そのうち何割かの笑みの裏に、悪意が隠されていることに。
リプレイ本文
冬のブラックバーン領は比較的天候が穏やかになる。冷たい風は吹くが、その代わりとばかりに空は爽やかに晴れ渡っている。日差しがあれば十分なぬくもりも感じられる昼頃、城内では聞くに堪えない罵声が響き渡っていた。
「トロトロ走るなこのクズども! じじいみたいにヒィヒィ言いおって、恥ずかしいと思わないのか!?」
罵声の主は石橋 パメラ(ka1296)。空砲を撃ち威嚇しながら、元盗賊の新兵達を延々と丸太を担がせたまま走らせている。周りではそれ以外の兵士達が青い顔をしながら様子を見ていた。リアルブルーの軍隊式と興味津々だった年配の者達も、今は激しい罵声を浴びる盗賊達に同情的になっていた。本当は更に汚い言葉で罵っているのだが、ここでの記述は諸般の事情により意訳にとどめる
「いいか? 私の仕事はお前らの中から腰抜けを見つけて切り捨てることだ! ゴブリン退治ごときでお前らの罪が消えると思うな。マイナスがようやく0に近づき始めただけだ!」
まだまだパメラの罵声は続く。マラソンの前は匍匐前進。この後も別のメニューが待つという。
「みんなー! あと10周なの、がんばってー!」
変わらず応援してくれるのはアルナイル・モーネ(ka0854)ぐらいのものだった。暖かい声援に何人かが手を振って、やる気を出してさらに速度を増した。そして他の何人かは彼女の健康的な笑顔に釣られ、鼻の下を伸ばしながらアルナイルを眺めていたところ…。
「足を止めるな! もっと長く走りたいなら追加してやってもかまわんのだぞ!」
パメラに怒鳴られていそいそと走る速度を元に戻していた。城の応接室から中庭のその様子はよく見える。上から眺めるオイヴァは複雑な表情だった。
「あの訓練、効果はあるのか?」
「ありますよ。兵士が戦場の音で逃げ出さず、戦えるようにするのが目的です」
答えるテリー・ヴェランダル(ka0911)は集めたばかりの書類をまとめていた。書類の中身は盗賊達の個人面談の結果だ。かなりプライベートも含まれており、挑発的ともとられかねない内容ではあった。
「すまないね、これも仕事だ」
「わかってるよ」
Holmes(ka3813)に答えるオイヴァの返答はつっけんどんだ。理解したが納得していない、とありありと伝えている。依頼を受けた直後、ホームズ達はジェフリーを通じてオイヴァに接触した。ジェフリーの用意した城内の奥まった一室に呼び出され、オイヴァは彼女達の仕事の詳細を告げられる前に理解した。全ての質問を終えて、オイヴァは黙り込んでいる。ホームズの質問はずばり、盗賊達のオイヴァへの忠誠心と盗賊稼業への適正。冷静になったオイヴァは余すところなくホームズに答えたが、それは彼にとって仲間を切り捨てるに近しい行為でもあった。自分の招いた事態であり、それによって殺されて文句の言えない彼だが、それでも泰然とすることは出来ない。地上の喧噪は遠い。何も知らない部下達は今もパメラとアルナイルの監視を受けている。
(それにしても……)
ホームズは騎士ジェフリーをちらりと盗み見る。ジェフリーは壁に背を持たせかけ、腕組みしたまま微動だにしない。
(余計な離反者を招きかねない行為もあったはずだが、全て黙認とはね)
こちらはこちらで平然としすぎている。何も言わないというのは問題が無い、のではなく、最後まで見届けるという意思の表れだろう。これは信頼から来るものではない。であれば、一つ。
(私達もまた試されている、ということか)
しかしホームズは仲間に黙っていた。喋って得るものが何も無いからだ。
「……なるほど、オイヴァさんの挙げた名前は、面談結果の芳しくない人と一致します。ご協力感謝します」
テリーは資料の紙束を整え、すぐに席を立った。あとはこの結果を元に、もう一押しするだけだ。オイヴァは苦い表情でそれを見送る。制止の言葉はなかった。
「ここから先は心掛け次第だよ」
ホームズの言葉に、オイヴァからの返事はない。それも彼には覚悟の上で、わかりきったことだったからだ。
「しかし存外辛いものだね。こうしてキミが傷付く姿を眺めていなければならないのだから」
ホームズは仕事は終わりとばかりにパイプをくわえた。
■
訓練で疲れたからその日はすぐに眠って休む、というわけでもなかった。翌日が休日として割り振られてあるなら話は別である。それは仕組まれたタイミングではあったが、そうとは露とも知らず元盗賊達は酒を飲みに下町へ繰り出していた。
「おーし、じゃあ飲みに行こうぜ! オレちゃん気分良いから最初の一杯なら奢ってやらぁ!」
「ひゃほ~! 打ち上げっす~! 綺麗な姉ちゃんのいる店に飲みにいくっす~!」
lol U mad ?(ka3514)の提案に乗っかり神楽(ka2032)が騒いで飛び跳ねる。金をもらったばかりで衣食住も安定してしまった盗賊達にそれを断る者がいるはずもなく、2人は思惑通り多くの元盗賊を引っ張っていかがわしい店まで移動した。とはいえ貰えているのはそこまでの高給ではないし、行き過ぎれば咎められる。露出の多い衣装の女性が余興に舞を披露する、程度の店で落ち着いた。酒が入って酔っ払ったふりをする神楽は、早速酔った振りのまま色っぽい衣装の給仕の女性に声をかけていた。
「店が終わったらデートしようっす、姉ちゃん! 金はあるんで色々奢るからサービスしてくれっす!」
「ダメよ。貴方が大人になったらね」
あっさり子供扱いされた神楽を見て大きな笑いが起こった。店のサービスにそこから先も無いことは無いが節度が大事である。宴もたけなわと言ったところで、ロルは行動に移った。
「しっかしよぉ、何でてめぇの指図なんか受けねーといけねぇんだよ。好きにやらせろってんだよ、Screw you!!」
「え、何ですって?」
「クタバレって意味だよ。どうも調子狂うな」
一緒に飲んでいた男は愛想笑いを返す。ロルは酔っ払った振りを続けながら、気の無い返事をする男の様子を観察していた。ひとまず目の前の男にその気は無いようだ。テリーから預かったリストとも一致する。ロルはこの元盗賊の反応を見るために延々と指揮官の悪口を振りまいていた。隣に座った神楽も合いの手を入れるように「陰険っすよねー」などと同調する。
「そういやぁお前等元盗賊なんだってな? ココだけの話、実入りはどうだったんだよ?
「え……それは」
さすがに男達は答えを渋る。
「心配しなくても良い。俺も元盗賊だからな」
話を横で聞いていた叉(ka3525)も会話に混ざる。男の口はそれで一気に軽くなった。最初こそ話をぼかしながらだったが、神楽が調子良く賞賛するものだから、最後は武勇伝を語るように昔の仕事を話していた。
「へぇ~、盗賊って儲かるんすね~。いっそこんなきつい場所からは逃げて盗賊にでもなったほうがよさそうっすね」
「儲かるのもあるが、やっぱり止められねえよ」
盗賊の男はニヤニヤと笑みを深めていく。声は低く喧騒で聞き取りにくいが、そこには確実に愉悦の色があった。
「スリルがあるからっすか?」
「違う違う。普段ふんぞり返ってる商人や貴族連中を殺すのが最高にスカっとするんだよ」
そう言って男は昔手をかけた商人達の話を始めた。悪趣味な話に神楽は苦笑いだが、ロルは更に笑みを深くする。
「なあ、こんなシケた商売で終わるつもりはねぇんだろ? ……どーよ、条件次第じゃあオテツダイしてやるぜ?」
「なに……?」
男は周囲を見て、声を潜める。それは男達には魅力的な提案であった。逃亡の段取りはできていないが、協力者が居るなら話は大きく変わる。もちろん罠であるが、男達は酒で判断力を失い危機感を置いてきてしまっていた。そしてロルの台詞は誘惑の言葉であると同時に、仲間への合図でもあった。
■
都市の夜は明かりに満ちているが、それも日付が変わる頃にはその多くが消え去っている。宴会の解散の後、元盗賊の多くが宿舎に戻り、何名かは女を買いに街へ残った。そして残りは……
「な、なあ。ところでどこまで行くんだ?」
ロルの甘言にのった男が二人、ロルについて街の外れ近くまで移動していた。この近辺は治安が悪い、というより人が居ない。悪事を為すには絶好の場所だが、反面何があってもおかしくは無い場所だ。そのことに気づいてだろうか。だが遅すぎた。ロルは2人に見えないように邪な笑みを浮かべた。
「ドコまで行くかって?」
ロルは立ち止まり振り返る。月は雲間に消え、盗賊達から彼の表情は闇の中で判然としなかった。
「地獄だよ」
その意味を男が悟るよりも早く、潜んでいた叉の剣が男の背中を袈裟斬りにしていた。もう1人は騒ぎ出す前にロルがその頭をデリンジャーで撃ち抜く。あっという間の仕事であった。
「どうして、変われないんだろうな」
叉は斬った男の遺体を見ていた。
「そりゃ決まってんだろ、また甘い汁が吸いたくなったのさ。
一度楽することを覚えちまったらな、そう簡単に止められねえんだよ」
本当にそうだろうか。叉の内に疑問は消えない。盗賊と変わらない雰囲気を持つロルも、今はハンターとなり取り締まる側だ。
「HeyHey! なにぼさっとしてやがんだ? まだ仕事は残ってるんだぜ!」
叉はロルに促され、再び明かりの残る街へと戻っていった。一方ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は別行動を取っていた。本来はロルと組んで行動する予定だったが、事前調査の結果そうも行かなくなった。ヴァージルは1人、夜の街の陰から陰を歩く。そして、目当ての人物に背後から近寄った。
「こんな夜更けにどこへ行くんだ?」
「!!?」
声をかけた相手は、飲みに行くと言っていたはずの男だった。神楽やロル、叉達は酒を飲ませてボロが出ることを狙っていたが、それでは取りこぼしが発生する。それで捕まるのは、後先考えない程度の連中だ。もしも計画的に事を起こすのなら、金銭の浪費は良くない。浪費するのはそれしか楽しみが無いと割り切っている連中、つまり残る気のある者が過半数だ。そして逃亡の段取りをするなら他の者を信用せず、一人で段取りをするだろう。ヴァージルが狙ったのはそういう手合いだ。男はヴァージルを見るとすぐに事態を理解して走り出した。しかし街角を曲がったところで立ち止まる。銃を構えたテリーが待ち伏せていた。
「殺さなくて良いぞ」
ヴァージルが言うと男もテリーもわずかに緊張が解ける。
「良いんですか?」
「簡単に殺したらつまらんだろ?」
銃口は未だに男を捉えている。男は観念して、その場にへたり込んだ。
■
2名を殺害、4名を捕縛。リストアップされながらも行動を移さなかった者が相当数居たが、残りの者はいつにもましておとなしくなった。報告を読むハロルドの表情は相変わらず硬いままだった。
「よくやった、規定どおりの報酬を出そう」
報告書の評価は口にせず、ハロルドはジェフリーに紙束を手に渡す。ジェフリーからすぐさま報告書を手渡されたオイヴァは、恐る恐るページを開いて仲間の末路が記された部分をじっと眺めていた。
「下がって良いぞ。また何かあれば冒険者協会に依頼を出そう」
「……あ、あの!」
追い払われる前にと声をあげたのはアルナイルだった。他の書類に向かいかけていたハロルドの視線がゆっくりと戻る。
「何か?」
「捕まった人達、どうなりますか?」
「君にはかかわりないことだろう」
ハロルドの声は冷淡で取り付く島もない。確かに権限を越えた話だが、アルナイルは引き下がらなかった
「そうですけど……出来れば、殺すのは許してあげて欲しいかなって」
「俺も! 俺もそう思います」
叉も後を追うように言い募る。ハロルドはしばし2人を見つめたまま黙考した後、「考えておこう」とだけ返した。今度こそ退室を命じられる。ハンター達はおとなしくその場を退出し、思い思いに中庭に出た。そこでは変わらず兵士達が訓練を続けている。叉は1人、殺してしまった盗賊のことを考えていた。
「落ち込むなよ。ろくでなしが死んだだけだぜ」
ロルの言うとおりだ。そこに何の違いもありはしない。逃がせば再び罪の無い人々に害をなしただろう。それでも……。
「何を思い悩んでいる?」
歩みを止めた叉の肩をたたいたのはヴァージルだった。
「いや……その……もっと、他にやりようがなかったのかな……ってさ」
確かに更正しようの無い悪人も世の中には居る。だが、そうでなく人生の岐路で運悪く躓いただけの者も居る。自分達がしたのはそれをどちらも一緒に排除する乱暴な手段だ。
「盗賊になるぐらいだ。確かに覚悟が足りてないよ。でも、それだけなんだよ」
首領のオイヴァのように。まじめな元盗賊がそうであるように。そして自分のように。彼らは変われるはずだった。自分達はその可能性を摘み取った。
「ならば次は仲間を頼ることだな」
叉は顔を上げてヴァージルを見る。彼は面白くなさそうな顔をしていた。
「神楽が言っていただろう。加減を間違えれば心変わりする者も出てくるだろうと。逆もまた然りだ。見ろ」
指差す先には兵士達に囲まれるアルナイルとパメラの姿がある。今日で仕事収めということで、兵士達に見送られていた。その中には元盗賊だった兵士達の姿もあった。
「アルナイルは今回の仕事、担当の都合もあってさして大きな情報はもたらさなかったが、代わりにあの笑顔で連中の心変わりを止めたな」
それは望外の成果。だが、叉が心の端で求めていた成果でもあった。領主は殺して良いと言ったが殺せとは言わなかった。監視者である領主の弟はどんな方法も黙って見逃していた。だから望みさえすれば、それは手の中にあった。試されているとはこの事。ハンターがどのように解決するかを見定められていたのだ。
「叉、お前には欲望が足りないな。もっと貪欲になれ。成したいことがあるのならそれを口にしろ。それが欲しいのだと叫べ。望みを口にしない者は、いつまで経っても望みの物に出会えないぞ」
ヴァージルは軽く叉の肩を叩く。叉は小さくうなづくと、仲間たちの後を追って走り出した。
「トロトロ走るなこのクズども! じじいみたいにヒィヒィ言いおって、恥ずかしいと思わないのか!?」
罵声の主は石橋 パメラ(ka1296)。空砲を撃ち威嚇しながら、元盗賊の新兵達を延々と丸太を担がせたまま走らせている。周りではそれ以外の兵士達が青い顔をしながら様子を見ていた。リアルブルーの軍隊式と興味津々だった年配の者達も、今は激しい罵声を浴びる盗賊達に同情的になっていた。本当は更に汚い言葉で罵っているのだが、ここでの記述は諸般の事情により意訳にとどめる
「いいか? 私の仕事はお前らの中から腰抜けを見つけて切り捨てることだ! ゴブリン退治ごときでお前らの罪が消えると思うな。マイナスがようやく0に近づき始めただけだ!」
まだまだパメラの罵声は続く。マラソンの前は匍匐前進。この後も別のメニューが待つという。
「みんなー! あと10周なの、がんばってー!」
変わらず応援してくれるのはアルナイル・モーネ(ka0854)ぐらいのものだった。暖かい声援に何人かが手を振って、やる気を出してさらに速度を増した。そして他の何人かは彼女の健康的な笑顔に釣られ、鼻の下を伸ばしながらアルナイルを眺めていたところ…。
「足を止めるな! もっと長く走りたいなら追加してやってもかまわんのだぞ!」
パメラに怒鳴られていそいそと走る速度を元に戻していた。城の応接室から中庭のその様子はよく見える。上から眺めるオイヴァは複雑な表情だった。
「あの訓練、効果はあるのか?」
「ありますよ。兵士が戦場の音で逃げ出さず、戦えるようにするのが目的です」
答えるテリー・ヴェランダル(ka0911)は集めたばかりの書類をまとめていた。書類の中身は盗賊達の個人面談の結果だ。かなりプライベートも含まれており、挑発的ともとられかねない内容ではあった。
「すまないね、これも仕事だ」
「わかってるよ」
Holmes(ka3813)に答えるオイヴァの返答はつっけんどんだ。理解したが納得していない、とありありと伝えている。依頼を受けた直後、ホームズ達はジェフリーを通じてオイヴァに接触した。ジェフリーの用意した城内の奥まった一室に呼び出され、オイヴァは彼女達の仕事の詳細を告げられる前に理解した。全ての質問を終えて、オイヴァは黙り込んでいる。ホームズの質問はずばり、盗賊達のオイヴァへの忠誠心と盗賊稼業への適正。冷静になったオイヴァは余すところなくホームズに答えたが、それは彼にとって仲間を切り捨てるに近しい行為でもあった。自分の招いた事態であり、それによって殺されて文句の言えない彼だが、それでも泰然とすることは出来ない。地上の喧噪は遠い。何も知らない部下達は今もパメラとアルナイルの監視を受けている。
(それにしても……)
ホームズは騎士ジェフリーをちらりと盗み見る。ジェフリーは壁に背を持たせかけ、腕組みしたまま微動だにしない。
(余計な離反者を招きかねない行為もあったはずだが、全て黙認とはね)
こちらはこちらで平然としすぎている。何も言わないというのは問題が無い、のではなく、最後まで見届けるという意思の表れだろう。これは信頼から来るものではない。であれば、一つ。
(私達もまた試されている、ということか)
しかしホームズは仲間に黙っていた。喋って得るものが何も無いからだ。
「……なるほど、オイヴァさんの挙げた名前は、面談結果の芳しくない人と一致します。ご協力感謝します」
テリーは資料の紙束を整え、すぐに席を立った。あとはこの結果を元に、もう一押しするだけだ。オイヴァは苦い表情でそれを見送る。制止の言葉はなかった。
「ここから先は心掛け次第だよ」
ホームズの言葉に、オイヴァからの返事はない。それも彼には覚悟の上で、わかりきったことだったからだ。
「しかし存外辛いものだね。こうしてキミが傷付く姿を眺めていなければならないのだから」
ホームズは仕事は終わりとばかりにパイプをくわえた。
■
訓練で疲れたからその日はすぐに眠って休む、というわけでもなかった。翌日が休日として割り振られてあるなら話は別である。それは仕組まれたタイミングではあったが、そうとは露とも知らず元盗賊達は酒を飲みに下町へ繰り出していた。
「おーし、じゃあ飲みに行こうぜ! オレちゃん気分良いから最初の一杯なら奢ってやらぁ!」
「ひゃほ~! 打ち上げっす~! 綺麗な姉ちゃんのいる店に飲みにいくっす~!」
lol U mad ?(ka3514)の提案に乗っかり神楽(ka2032)が騒いで飛び跳ねる。金をもらったばかりで衣食住も安定してしまった盗賊達にそれを断る者がいるはずもなく、2人は思惑通り多くの元盗賊を引っ張っていかがわしい店まで移動した。とはいえ貰えているのはそこまでの高給ではないし、行き過ぎれば咎められる。露出の多い衣装の女性が余興に舞を披露する、程度の店で落ち着いた。酒が入って酔っ払ったふりをする神楽は、早速酔った振りのまま色っぽい衣装の給仕の女性に声をかけていた。
「店が終わったらデートしようっす、姉ちゃん! 金はあるんで色々奢るからサービスしてくれっす!」
「ダメよ。貴方が大人になったらね」
あっさり子供扱いされた神楽を見て大きな笑いが起こった。店のサービスにそこから先も無いことは無いが節度が大事である。宴もたけなわと言ったところで、ロルは行動に移った。
「しっかしよぉ、何でてめぇの指図なんか受けねーといけねぇんだよ。好きにやらせろってんだよ、Screw you!!」
「え、何ですって?」
「クタバレって意味だよ。どうも調子狂うな」
一緒に飲んでいた男は愛想笑いを返す。ロルは酔っ払った振りを続けながら、気の無い返事をする男の様子を観察していた。ひとまず目の前の男にその気は無いようだ。テリーから預かったリストとも一致する。ロルはこの元盗賊の反応を見るために延々と指揮官の悪口を振りまいていた。隣に座った神楽も合いの手を入れるように「陰険っすよねー」などと同調する。
「そういやぁお前等元盗賊なんだってな? ココだけの話、実入りはどうだったんだよ?
「え……それは」
さすがに男達は答えを渋る。
「心配しなくても良い。俺も元盗賊だからな」
話を横で聞いていた叉(ka3525)も会話に混ざる。男の口はそれで一気に軽くなった。最初こそ話をぼかしながらだったが、神楽が調子良く賞賛するものだから、最後は武勇伝を語るように昔の仕事を話していた。
「へぇ~、盗賊って儲かるんすね~。いっそこんなきつい場所からは逃げて盗賊にでもなったほうがよさそうっすね」
「儲かるのもあるが、やっぱり止められねえよ」
盗賊の男はニヤニヤと笑みを深めていく。声は低く喧騒で聞き取りにくいが、そこには確実に愉悦の色があった。
「スリルがあるからっすか?」
「違う違う。普段ふんぞり返ってる商人や貴族連中を殺すのが最高にスカっとするんだよ」
そう言って男は昔手をかけた商人達の話を始めた。悪趣味な話に神楽は苦笑いだが、ロルは更に笑みを深くする。
「なあ、こんなシケた商売で終わるつもりはねぇんだろ? ……どーよ、条件次第じゃあオテツダイしてやるぜ?」
「なに……?」
男は周囲を見て、声を潜める。それは男達には魅力的な提案であった。逃亡の段取りはできていないが、協力者が居るなら話は大きく変わる。もちろん罠であるが、男達は酒で判断力を失い危機感を置いてきてしまっていた。そしてロルの台詞は誘惑の言葉であると同時に、仲間への合図でもあった。
■
都市の夜は明かりに満ちているが、それも日付が変わる頃にはその多くが消え去っている。宴会の解散の後、元盗賊の多くが宿舎に戻り、何名かは女を買いに街へ残った。そして残りは……
「な、なあ。ところでどこまで行くんだ?」
ロルの甘言にのった男が二人、ロルについて街の外れ近くまで移動していた。この近辺は治安が悪い、というより人が居ない。悪事を為すには絶好の場所だが、反面何があってもおかしくは無い場所だ。そのことに気づいてだろうか。だが遅すぎた。ロルは2人に見えないように邪な笑みを浮かべた。
「ドコまで行くかって?」
ロルは立ち止まり振り返る。月は雲間に消え、盗賊達から彼の表情は闇の中で判然としなかった。
「地獄だよ」
その意味を男が悟るよりも早く、潜んでいた叉の剣が男の背中を袈裟斬りにしていた。もう1人は騒ぎ出す前にロルがその頭をデリンジャーで撃ち抜く。あっという間の仕事であった。
「どうして、変われないんだろうな」
叉は斬った男の遺体を見ていた。
「そりゃ決まってんだろ、また甘い汁が吸いたくなったのさ。
一度楽することを覚えちまったらな、そう簡単に止められねえんだよ」
本当にそうだろうか。叉の内に疑問は消えない。盗賊と変わらない雰囲気を持つロルも、今はハンターとなり取り締まる側だ。
「HeyHey! なにぼさっとしてやがんだ? まだ仕事は残ってるんだぜ!」
叉はロルに促され、再び明かりの残る街へと戻っていった。一方ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は別行動を取っていた。本来はロルと組んで行動する予定だったが、事前調査の結果そうも行かなくなった。ヴァージルは1人、夜の街の陰から陰を歩く。そして、目当ての人物に背後から近寄った。
「こんな夜更けにどこへ行くんだ?」
「!!?」
声をかけた相手は、飲みに行くと言っていたはずの男だった。神楽やロル、叉達は酒を飲ませてボロが出ることを狙っていたが、それでは取りこぼしが発生する。それで捕まるのは、後先考えない程度の連中だ。もしも計画的に事を起こすのなら、金銭の浪費は良くない。浪費するのはそれしか楽しみが無いと割り切っている連中、つまり残る気のある者が過半数だ。そして逃亡の段取りをするなら他の者を信用せず、一人で段取りをするだろう。ヴァージルが狙ったのはそういう手合いだ。男はヴァージルを見るとすぐに事態を理解して走り出した。しかし街角を曲がったところで立ち止まる。銃を構えたテリーが待ち伏せていた。
「殺さなくて良いぞ」
ヴァージルが言うと男もテリーもわずかに緊張が解ける。
「良いんですか?」
「簡単に殺したらつまらんだろ?」
銃口は未だに男を捉えている。男は観念して、その場にへたり込んだ。
■
2名を殺害、4名を捕縛。リストアップされながらも行動を移さなかった者が相当数居たが、残りの者はいつにもましておとなしくなった。報告を読むハロルドの表情は相変わらず硬いままだった。
「よくやった、規定どおりの報酬を出そう」
報告書の評価は口にせず、ハロルドはジェフリーに紙束を手に渡す。ジェフリーからすぐさま報告書を手渡されたオイヴァは、恐る恐るページを開いて仲間の末路が記された部分をじっと眺めていた。
「下がって良いぞ。また何かあれば冒険者協会に依頼を出そう」
「……あ、あの!」
追い払われる前にと声をあげたのはアルナイルだった。他の書類に向かいかけていたハロルドの視線がゆっくりと戻る。
「何か?」
「捕まった人達、どうなりますか?」
「君にはかかわりないことだろう」
ハロルドの声は冷淡で取り付く島もない。確かに権限を越えた話だが、アルナイルは引き下がらなかった
「そうですけど……出来れば、殺すのは許してあげて欲しいかなって」
「俺も! 俺もそう思います」
叉も後を追うように言い募る。ハロルドはしばし2人を見つめたまま黙考した後、「考えておこう」とだけ返した。今度こそ退室を命じられる。ハンター達はおとなしくその場を退出し、思い思いに中庭に出た。そこでは変わらず兵士達が訓練を続けている。叉は1人、殺してしまった盗賊のことを考えていた。
「落ち込むなよ。ろくでなしが死んだだけだぜ」
ロルの言うとおりだ。そこに何の違いもありはしない。逃がせば再び罪の無い人々に害をなしただろう。それでも……。
「何を思い悩んでいる?」
歩みを止めた叉の肩をたたいたのはヴァージルだった。
「いや……その……もっと、他にやりようがなかったのかな……ってさ」
確かに更正しようの無い悪人も世の中には居る。だが、そうでなく人生の岐路で運悪く躓いただけの者も居る。自分達がしたのはそれをどちらも一緒に排除する乱暴な手段だ。
「盗賊になるぐらいだ。確かに覚悟が足りてないよ。でも、それだけなんだよ」
首領のオイヴァのように。まじめな元盗賊がそうであるように。そして自分のように。彼らは変われるはずだった。自分達はその可能性を摘み取った。
「ならば次は仲間を頼ることだな」
叉は顔を上げてヴァージルを見る。彼は面白くなさそうな顔をしていた。
「神楽が言っていただろう。加減を間違えれば心変わりする者も出てくるだろうと。逆もまた然りだ。見ろ」
指差す先には兵士達に囲まれるアルナイルとパメラの姿がある。今日で仕事収めということで、兵士達に見送られていた。その中には元盗賊だった兵士達の姿もあった。
「アルナイルは今回の仕事、担当の都合もあってさして大きな情報はもたらさなかったが、代わりにあの笑顔で連中の心変わりを止めたな」
それは望外の成果。だが、叉が心の端で求めていた成果でもあった。領主は殺して良いと言ったが殺せとは言わなかった。監視者である領主の弟はどんな方法も黙って見逃していた。だから望みさえすれば、それは手の中にあった。試されているとはこの事。ハンターがどのように解決するかを見定められていたのだ。
「叉、お前には欲望が足りないな。もっと貪欲になれ。成したいことがあるのならそれを口にしろ。それが欲しいのだと叫べ。望みを口にしない者は、いつまで経っても望みの物に出会えないぞ」
ヴァージルは軽く叉の肩を叩く。叉は小さくうなづくと、仲間たちの後を追って走り出した。
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相談卓 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/01/20 18:00:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/14 19:04:49 |