ゲスト
(ka0000)
【血断】強襲~旗艦防衛任務~
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/07 07:30
- 完成日
- 2019/03/11 06:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「話は聞いてましたよ。
シュレディンガー様の命令ですから、助けはしますけど」
眼前にいる青年は、不満そうな顔を浮かべる。
急な呼び出しを受けたからか。
だが、その程度で機嫌を損ねても良いのか?
話よりもずっと子供だな。
「それより、急に力を貸せ、なんてどうしたんです? 今までは好き勝手に暴れてたじゃないですか。俺としては今後もそのまま自力で頑張ってくれた方がいいんですけど」
彼の質問は的確でもあり、愚かな問いだ。
事態は急速に変わっている。
今、ここで彼の者達に新たな試練を与える事こそが、すべてのおいて優先される。
早急な成長が必要なのだ。
「うーん? 何を言いたいのか良く分からないです。シュレディンガー様からもそういう言い方をするって聞いてましたけど……まあ、いいや!
とりあえず、シュレディンガー様のお願いですから言ってもらえれば手伝いますよ」
青年の言葉。
不満を抱えていようが構わない。
彼が後悔する頃には、もう時代の趨勢は決しているはずだ。
我々が向かうべきは――。
八重樫 敦(kz0056)は未だラズモネ・シャングリラの医務室で眠っていた。
月面基地『崑崙』の宙域で遭遇した純白のCAM――エンジェルダストと名付けられたその機体は、ハンター達と交戦。八重樫のR7エクスシアは被弾し、八重樫自身も重傷を負う形となった。
現在、ラズモネ・シャングリラはホープへ帰還。
ドックで改修を受けているが、クルー達の顔色は冴えない。
「情報を見る限り、とんでもねぇ機体だな」
ラズモネ・シャングリラのブリッジではジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉がエンジェルダストと交戦したハンターから聴取した情報に目を通していた。
一定距離へのジャミング機能。
無線誘導式攻撃端末による死角からのビーム攻撃。
偵察装備のCAMを葬り去る長距離スナイパーライフル。
純白の機体からは想像できない異様な性能を誇っている。
「この機体、マスティマって奴とは違うのか?」
「その情報は無いザマス。遠距離だった上、ジャミングのせいで充分な情報を得られなかったザマスから」
頭を振るのはラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子((kz0216)。
突如現れた強敵を前に、対策を立てようがない。
既に新兵一人が犠牲になり、八重樫も重傷を負っている。
今までの状況を鑑みれば、エンジェルダストはラズモネ・シャングリラを目標と見定めて攻撃を仕掛けている。だとすれば、エンジェルダストは再びラズモネ・シャングリラへちょっかいを掛けてくるはずだ。
「手詰まりか。……おっ、ビームシールドまで装備してんのか。こりゃヨルズで砲撃しようとしても簡単じゃねぇな」
「何か手を打たないとまずいザマスね」
腕を組み悩む恭子。
だが、恭子を悩ませるのはエンジェルダストだけではない。
「艦長!」
ブリッジに少年の声が木霊する。
先日、エンジェルダストによって殺されたブロックの同僚であるレオンだ。
その傍らにはシーツの姿もある。
声の主が恭子にはすぐに分かる。面倒そうな表情から何度も通信を受けている事が伺い知れる。
「またザマスか」
「艦長、ブロックの仇について教えて下さい!」
「ダメザマス。そもそも、教えたくても分からない事が沢山……」
「艦長!」
再び恭子を呼ぶ声。
しかし、今度はレオン達と異なる。
オペレーターが明らかに緊迫した感情を込める。
「今度は何ザマス?」
「南から信号不明の敵が急接近。多数は歪虚と思われますが、敵機の中に白い機体を確認!」
「な、何ザマスってーーー! あの機体がご登場ザマスか!」
思わず驚愕する恭子。
白い機体は十中八九エンジェルダストだろう。
何の備えもできないまま、敵から強襲を受ける形となった。おまけにラズモネ・シャングリラはドックで改修中。飛行して退避する事も叶わない。
「策は無しでもやるしかねぇか」
ドリスキルがガレージに向かって走り出す。
戦車型CAM『ヨルズ』の準備は万端だ。
出撃して敵を牽制できるなら良いのだが――。
「軍へ救援を要請するザマス。それまで持ちこたえて欲しいザマス!」
走り去るドリスキルへ呼び掛ける恭子。
だが、そのやり取りを通信中だったレオンとシーツは聞き逃さなかった。
「あの白い機体がブロックの仇ですね! 絶対に倒してやるんだ!」
「行こう、レオン!」
「……あ、待つザマス!」
恭子が止めるよりも先に、レオンとシーツはデュミナスで一足先に出撃。北上する敵に向かって発進してしまった。
慌ててオペレーターへ呼び掛ける。
「二人に通信。早く戻るよう伝えるザマス!」
「……だ、ダメです! ジャミングが発生。レオンさん達と通信できません!」
シュレディンガー様の命令ですから、助けはしますけど」
眼前にいる青年は、不満そうな顔を浮かべる。
急な呼び出しを受けたからか。
だが、その程度で機嫌を損ねても良いのか?
話よりもずっと子供だな。
「それより、急に力を貸せ、なんてどうしたんです? 今までは好き勝手に暴れてたじゃないですか。俺としては今後もそのまま自力で頑張ってくれた方がいいんですけど」
彼の質問は的確でもあり、愚かな問いだ。
事態は急速に変わっている。
今、ここで彼の者達に新たな試練を与える事こそが、すべてのおいて優先される。
早急な成長が必要なのだ。
「うーん? 何を言いたいのか良く分からないです。シュレディンガー様からもそういう言い方をするって聞いてましたけど……まあ、いいや!
とりあえず、シュレディンガー様のお願いですから言ってもらえれば手伝いますよ」
青年の言葉。
不満を抱えていようが構わない。
彼が後悔する頃には、もう時代の趨勢は決しているはずだ。
我々が向かうべきは――。
八重樫 敦(kz0056)は未だラズモネ・シャングリラの医務室で眠っていた。
月面基地『崑崙』の宙域で遭遇した純白のCAM――エンジェルダストと名付けられたその機体は、ハンター達と交戦。八重樫のR7エクスシアは被弾し、八重樫自身も重傷を負う形となった。
現在、ラズモネ・シャングリラはホープへ帰還。
ドックで改修を受けているが、クルー達の顔色は冴えない。
「情報を見る限り、とんでもねぇ機体だな」
ラズモネ・シャングリラのブリッジではジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉がエンジェルダストと交戦したハンターから聴取した情報に目を通していた。
一定距離へのジャミング機能。
無線誘導式攻撃端末による死角からのビーム攻撃。
偵察装備のCAMを葬り去る長距離スナイパーライフル。
純白の機体からは想像できない異様な性能を誇っている。
「この機体、マスティマって奴とは違うのか?」
「その情報は無いザマス。遠距離だった上、ジャミングのせいで充分な情報を得られなかったザマスから」
頭を振るのはラズモネ・シャングリラ艦長の森山恭子((kz0216)。
突如現れた強敵を前に、対策を立てようがない。
既に新兵一人が犠牲になり、八重樫も重傷を負っている。
今までの状況を鑑みれば、エンジェルダストはラズモネ・シャングリラを目標と見定めて攻撃を仕掛けている。だとすれば、エンジェルダストは再びラズモネ・シャングリラへちょっかいを掛けてくるはずだ。
「手詰まりか。……おっ、ビームシールドまで装備してんのか。こりゃヨルズで砲撃しようとしても簡単じゃねぇな」
「何か手を打たないとまずいザマスね」
腕を組み悩む恭子。
だが、恭子を悩ませるのはエンジェルダストだけではない。
「艦長!」
ブリッジに少年の声が木霊する。
先日、エンジェルダストによって殺されたブロックの同僚であるレオンだ。
その傍らにはシーツの姿もある。
声の主が恭子にはすぐに分かる。面倒そうな表情から何度も通信を受けている事が伺い知れる。
「またザマスか」
「艦長、ブロックの仇について教えて下さい!」
「ダメザマス。そもそも、教えたくても分からない事が沢山……」
「艦長!」
再び恭子を呼ぶ声。
しかし、今度はレオン達と異なる。
オペレーターが明らかに緊迫した感情を込める。
「今度は何ザマス?」
「南から信号不明の敵が急接近。多数は歪虚と思われますが、敵機の中に白い機体を確認!」
「な、何ザマスってーーー! あの機体がご登場ザマスか!」
思わず驚愕する恭子。
白い機体は十中八九エンジェルダストだろう。
何の備えもできないまま、敵から強襲を受ける形となった。おまけにラズモネ・シャングリラはドックで改修中。飛行して退避する事も叶わない。
「策は無しでもやるしかねぇか」
ドリスキルがガレージに向かって走り出す。
戦車型CAM『ヨルズ』の準備は万端だ。
出撃して敵を牽制できるなら良いのだが――。
「軍へ救援を要請するザマス。それまで持ちこたえて欲しいザマス!」
走り去るドリスキルへ呼び掛ける恭子。
だが、そのやり取りを通信中だったレオンとシーツは聞き逃さなかった。
「あの白い機体がブロックの仇ですね! 絶対に倒してやるんだ!」
「行こう、レオン!」
「……あ、待つザマス!」
恭子が止めるよりも先に、レオンとシーツはデュミナスで一足先に出撃。北上する敵に向かって発進してしまった。
慌ててオペレーターへ呼び掛ける。
「二人に通信。早く戻るよう伝えるザマス!」
「……だ、ダメです! ジャミングが発生。レオンさん達と通信できません!」
リプレイ本文
マリィア・バルデス(ka5848)は、顔を見上げた。
慌ただしいドックの中でも、マリィアには目の前の機体に意識が集中する。
――マスティマ『morte anjo』。
大精霊と契約を結ぶ事で与えられた特別な機体。マリィアはこの機体に乗り込んで襲撃する。
初陣であっても心地良い緊張感だけがある。これも『充電』のおかげか。
あとは、勝って帰還するだけだ。
「マリィアさん、出撃お願いします」
整備兵が声を掛ける。
既に仲間達は敵に向かって動き始めている。改めて機体を見上げるマリィア。
そっと口から言葉が漏れ出す。
「大精霊に誓って乗った貴方に無様は見せられない。共にいきましょう、私の死天使」
●
――怖い。
それが、率直な感想であった。
CAMでの実戦経験は初めてだが、白兵ならば経験済み。戦いの感覚は変わらない。
そういう考えが脳裏にあった。
しかし、現実は理想とは異なる。
戦場を支配する空気。
敵味方入り乱れる感情。
それらすべてが自分を取り巻く。
「なんで……あんなのが……」
共に戦うシーツの声が聞こえた気がする。
そうだ。報告書にあったじゃないか。
エンジェルダスト。白い機体のマスティマと噂される敵で、八重樫 敦(kz0056)が重傷を負った。
その相手が自分の前にいる。
独断専行した新兵達には、遅すぎる後悔が訪れていた。
●
「さて、私は私の役目を果たすとするか」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、グリフォン『ジュリア』と共に前へ出る。
今回依頼に参加したハンター達の多くがラズモネ・シャングリラ防衛に加えて独断専行した新兵の救出に心を砕いていた。弱者の為に戦う道を選ぶ事をアルトは否定しない。
ただ、アルトは自分が説得に向いていない事を自覚していた。
だからこそ――自分の役割は確実に、そして完璧に遂行する。
「ジュリア」
アルトの声を受け、上空からゲイルランパートを発動。
風の結界が周囲に展開。中型狂気擬人型の射撃からラズモネ・シャングリラを防衛する。
その隙にアルトは擬人型へ肉薄する。
「私とジュリアで先陣を切り、仲間が進むべき道を切り拓く」
擬人型のアサルトライフルを回避しながら進むアルト。
擬人化の足元まで到達した段階で膝を蹴って上へと移動する。立体攻撃で擬人型へ的確な攻撃を叩き込む為だ。
「ジュリア、そっちの敵は撒かせた。こっちは……私一人で充分だ」
飛び上がるアルト。
その手には試作法術刀「華焔」が握られている。大きく振りかぶったアルトは、その刃を擬人型へ振り下ろす。遠心力と重力が加わった強烈な一撃は擬人型の胸部へと叩き込まれる。
独特な金属の衝突音。
激しい衝撃が耳の奥にまでこびり付く。
だが、アルトの手には手応えがあった。
後方へ倒れる擬人型。だが――。
「分かってる。残りの奴も相手してやろう」
振り返るアルト。次の目標の品定めを始めていた。
一方、岩井崎 旭(ka0234)も擬人化の対応に追われていた。
「全く通信が効かねーってのは、思った以上に厄介だな!」
ワイバーン『ロジャック』の背中に乗る旭は、ハンター達が置かれた状況に面倒さを感じていた。
崑崙宙域のデブリ帯で遭遇した謎の機体『エンジェルダスト』。
その報告によれば、エンジェルダスト周辺で感知されたジャミング。通信機能が阻害され、ハンターのCAMとラズモネ・シャングリラがコンタクトを取れなくなっていた。
今回の状況も前回と同様。つまり、先行した新兵達と周辺のハンターは通信が阻害されている為に連絡が取れないのだ。
「まずは足止めだな。……ロジャック、モドキ達に教えてやれ!」
旭の指示でロジャックは上空から擬人型に向けて急降下。
距離を詰め、ファイアブレスで叩き込む。敵は上空に向けてアサルトライフルを放ってくるが、ロジャックはバレルロールで巧みに回避する。
「ビーム野郎はもっと後方か。まあ、いいか」
地面スレスレで飛行するロジャック。その背中の上で旭は魔槍「スローター」を構えた。縮まる距離。徐々に擬人型の機体が大きくなっていく。
「おらぁ!」
すれ違い様に放たれるスローターの突き。
貫かんばかりの一撃が、擬人型の腕を貫通する。
体躯が後方に押し込まれバランスを大きく崩す。
しかし、旭の狙いはこれで終わらない。
「そろそろ砲術組に敵の場所を教えてやらねぇとな」
旭はロジャックを再び上空へ上がるよう指示する。
敵の目標を目視で確認させる事で、おおよその砲撃地点を知らせる為だ。
そして、後方に陣取っていた面々も攻撃を開始する。
●
「ふむ、そこか。早々に馳走してやるかのう」
旭の知らせた敵の集合地点に向けてミグ・ロマイヤー(ka0665)のダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』が砲撃を開始する。
既にダインスレイブの原型を留めていない奇っ怪な機体となっているが、魔改造を繰り返すマッドな機導師であるミグにとっては傑作である。
「今回のレシピも最高じゃ」
ミグ回路「カートリッジフェアリー」により連続砲撃を集中使用。指定地点に向けて次々と徹甲榴弾の雨が降り注ぐ。地面を抉る勢いの砲撃に擬人型は回避する暇すら与えられない。
「踊れ踊れー、そうして気付いた時が死地なんじゃよ」
ミグは敢えて徹甲榴弾を着弾地点をずらしていた。
命中させるのではなく、敵を目標地点まで追い込む為である。
そしてヤクト・バウ・PCに装填されていたのは貫通徹甲弾。
「ほうれ、並んだ所で王手じゃ」
「奇遇だな」
ミグの傍らから聞こえてきたのはジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の声であった。
どうやらドリスキルの戦車型CAM『ヨルズ』も貫通徹甲弾を装填されていたようだ。
むっ、と気圧されるミグであったが、前を向き直り、砲身に込められた砲弾を撃ち出した。
激しい轟音。
次いでヨルズの155mm大口径滑空砲が大きく唸る。
発射された二発の貫通徹甲弾は擬人型の機体を貫き、機体を爆発させる。
「相変わらず見事なのじゃ。……そういえば」
「なんだ?」
「出撃前にマリィアと何をやっていたのじゃ? ……なんか、ジェイミーを補給とか聞こえてきたが?」
突然の問いかけに、ジェイミーはむせ返る。
まさかマリィアのやり取りを聞かれているとは思わなかった。
「き、気のせいじゃねぇのか?」
「ジェイミーが足りないとも聞こえてきたが、そなたが足りないとは意味が分からん」
首を捻るミグ。
わざとのようにも思えるが、下手にいじれば火傷するのは目に見えている。
「その話は後だ。今は、前線の連中に期待するしかねぇ」
話を逸らすようにミグへ話し掛けるドリスキル。
擬人型の相手はそれ程難しくは無い。問題は前線に取り残された新兵と――エンジェルダストだろう。
●
(強化された魔導型デュミナス……この機体でエンジェルダストと何処まで戦えるのか)
キヅカ・リク(ka0038)はフライトシールド「プリドゥエン」で上空から魔導型デュミナス『インスレーター・FF』を前線に進ませる。
目標は新兵達の保護であるが、そこへ赴く以上はエンジェルダストとの遭遇は避けられない。デブリ帯で遭遇したマスティマを彷彿とさせる純白の機体。その機体が放つ攻撃でR7エクスシアに乗った八重樫は重傷を負わされた。
(あれが本当にマスティマだとしたら……)
ふいにキヅカの脳裏に浮かぶ一つの未来。
それはキヅカにとって屈辱でもあり、絶望的な未来だ。
だが、それでもキヅカは新兵を救出する事を選んだ。
幸いにもアルトや旭が擬人型を対応してくれている。地上からの攻撃も最小限で済んでいる。後は、自分とインスレーター・FFを信じ抜くだけだ。
一方、キヅカ同様に上空からエンジェルダストを目指す機体があった。
同じ方角を目指す機体。だが、その理由はキヅカと少し異なっていた。
「……くそっ。想像よりも障害地域は広いな」
アーサー・ホーガン(ka0471)は魔導型デュミナス『ドゥン・スタリオン』の操縦席でトランシーバのスイッチを切った。
アーサーもまたデブリ帯でエンジェルダストと遭遇した機体であった。
その強さは身を持って知っている。キヅカと同じように血気盛んな新米をフォローするつもりである。
異なるのは、エンジェルダストに対して敵の能力を引き出す準備である。
「ラズモネ・シャングリラからの距離を考えれば……50M以上か。相変わらずデタラメな性能をしてやがる」
予想していたがアーサーの想像を遙かに超えている。上空でも影響を受けるという点を考えれば、エンジェルダストを中心に広範囲でジャミングが発生している事になる。
幸いにも魔導マイク「コルカネレ」は動作するようだが、手持ちマイクである以上常に持ち続ける訳にはいかない。
「そうか。戦いの中で可能な限り情報を集めるつもりか……ん?」
キヅカの呟きに気付いたのか、アーサーはドゥン・スタリオンの指で下を指し示した。
そこは予定されていた着地地点の近く。
つまり、あの純白の機体ともう一度相見えなければならないという事。
「第二戦だ。今度は本格的にやり合おうぜ」
エンジェルダストへ聞こえんばかりに、アーサーは声を張り上げる。
その傍らで飛行していたキヅカは、インスレーター・FFを着陸態勢へ移行させる。
(理想を追い続ける。おっさんにもそう誓った。けど……)
苦悩するキヅカを、あの機体が待ち受ける――。
●
「……ひっ!」
シーツはデュミナスの操縦席で声をもらした。
純白の機体が静かにこちらへ歩いてくるからだ。
傍らにはレオンもいるが、既にデュミナスの手足が破損して直立する事も難しい。
当のシーツの機体も胴体部分に何発もビームを受けてバランサーが破損している。
抵抗する術を失い、戦意も最底辺。機体性能も、操縦技術も違い過ぎる。
あれは――あれは白い悪魔か?
若さ故の過ちを許されるのは平時のみ。有事となれば、その代償は命を以て支払わされる。
「くっ」
レオンは目を瞑った。
次に下される一撃を反射的に耐える為に。
耐えられない事は分かってる。
でも、襲ってくる恐怖が勝手にそうさせるのだ。
純白の機体が腕を上げる。
それを受け、無線誘導式攻撃端末が複数デュミナスの周囲を取り囲む。
そして、一斉にビームによる攻撃を浴びせかける。
――だが。
「……!」
デュミナス二機の機体があった場所には、機体の存在は無くなっていた。
その後方から現れるのは、仲間達が斬り開いた道より現れる一機のCAM。
「始めましょうか、ダスト……その技が貴方だけの専売特許じゃないって教えてあげるわ」
エンジェルダストに歩み寄るのはmorte anjo。
マスティマを彷彿とされる白い機体に近づいていく死の天使。
それは、出会ってはいけない相手同士だったのかもしれない。
●
「ジュリア、回り込め」
アルトと対峙する敵の側面からジュリアが幻獣砲「狼炎」の一撃を浴びせかける。
だが、砲撃は敵に命中する事無く地面に衝突する。
巻き上がる砂埃と瓦礫。
中型狂気擬人型第三種は接近を察知してショートジャンプで攻撃を開始したようだ。
「そうか。他の機体とは訳が違うと言いたいようだな」
アルトは擬人型第三種に意識を向ける。
擬人化を抑えて道を拓いてきたアルトであるが、エンジェルダストとアルトの間に立ちはだかったのは擬人型第三種であった。遠距離ビームとビームソードを攻撃手段として持つ上、短時間の飛行とショートジャンプと呼ばれるワープが武器。
攻撃が来ると察知されれば、ショートジャンプで距離を置く作戦を取られている。
幸いにもショートジャンプでラズモネ・シャングリラやエンジェルダストへ接近させてはいないが、これで時間を浪費するのはアルトも面白くない。
「教えてやる」
一気にかけ出すアルト。
ビームを掻い潜り最接近した段階で華焔による散華。全速力で駆け抜けながらの強烈な一撃。擬人型第三種はバランスを崩して大きく倒れ込む。
その動きに連携したジュリアが側面から強襲。
至近距離から狼炎を放つ。
「!」
擬人型第三種がショートジャンプするよりも早く、胸部に攻撃がヒット。
後方へ大きく倒れ込む。
だが、アルトは切っ先を擬人型第三種へ向ける。
「まだ終わりではないだろう。立て。愚弄した事を後悔させてやる」
旭もロジャックと共にもう一機の擬人型第三種へ肉薄していた。
「逃がすかよ」
擬人型第三種の足をファントムハンドで引き寄せる旭。
大きな体躯全体を捕縛する事は叶わないが、ショートジャンプを封じるには充分だ。
だが、擬人型第三種を長くは捕縛するのは難しいようだ。
「ここまで引き寄せれば十分だ」
射程距離に擬人型第三種を捉えた旭は現界せしものを発言。幻影で体を覆い、その体躯を巨大化させる。そして踊り狂う乱気流による素早い連撃が擬人型第三種へと叩き込まれる。
激しい衝突音。
的確に、そして強烈な一撃が叩き込まれていく。
そして――。
「ロジャック」
旭に合わせて急接近していたロジャックは至近距離からファイアブレスを放った。
爆発と共に擬人型第三種の体は倒れ込む。
これでもまだ終わりじゃない。
そう直感した旭は次なる攻撃に向けて動き出す。
「もうちょっと付き合って貰うぜ。仲間があの白い奴の情報を引き出すまではな」
●
「一つだけはっきり言える事がある。君達、『仇討ちの本当の意味と覚悟』を知らないんでしょ」
後方へと転移した新兵達をラズモネ・シャングリラへと連れて行くキヅカ。
あのまま放置すれば再び最前線を目指して移動する事を想定していた。既にエンジェルダストに心を折られていたが、キヅカは新兵達に釘を刺しておく事にした。
「本当の仇討ち?」
「ああ。奪われた物を奪い返す為、仇に利益を一切与えず、確実に殺す事。
その為に例えどんなに負けようと生き延びて血の滲むような我慢をしいながら、討つ。……その一瞬の為だけの戦い」
レオンの問いに、キヅカは自らの中にあった思いを言葉にする。
彼らはまだ、本当の戦場を知らない。
彼らはまだ、本当の覚悟知らない。
キヅカを含め、歴戦のハンター達はそれを数多く見ていた。
正負の感情が入り交じり、清濁合わせた戦場で起きる数々の出来事。
その中で戦い抜き、悲願を達成する一瞬にすべてを賭ける。
「……分からない。それに、あんな化物とどう戦えばいいのか」
シーツは動かなくなったデュミナスの操縦席でそう呟いた。
感情が込められていない、無情の言葉。
それに対してキヅカは一言だけ返した。
「本当に仇を討つ『覚悟』があるなら、教えてやる。それは……」
キヅカは自らの経験談を交えて、新兵達に伝えた。
今は彼らに分からないかもしれない。
だが、命を賭けるべき時に賭けなければ、ただの無駄死にだと理解させられればいい。あとは戦いに身を投じれば嫌でも知る事になるから。
「おっさん、ミグ。後を頼む」
「任されたのじゃ。おぬしも最前線へ戻るのかえ?」
ミグの問いかけにキヅカは答える。
「ああ。新兵の二人に、下手な姿は見せられないからな」
●
「くっ。パイロットの腕の差とか……分かっていても、言われたくないわね……畜生」
マリィアはmorte anjoの放ったバズーカ「ロウシュヴァウスト」でエンジェルダストを狙い討つ。砲弾が着弾する瞬間にパラドックスを使い、因果律を操作して命中していないにも関わらずダメージを与えようとする。
――しかし。
砲弾はエンジェルダストに回避され、砲弾の爆発が後方で発生する。
「やっぱり。あいつは似ているんじゃないわ。エンジェルダストもマスティマだわ。
そして……これがマスティマ同士の戦い」
マリィアは実感していた。
マスティマ同士が戦う事によって発生する独特の駆け引きを。
傍目には分からないが、パラドックスを用いる事で生じる大きな問題があった。パラドックスは攻防の瞬間に因果律を操作してその結果を書き換える。命中していないにも関わらずダメージが発生したり、被弾したにも関わらずなかった事にできるのはこの為だ。
だが、相手もパラドックスを使用した場合、後から発動したパラドックスへ書き換える事が発生する。つまり、パラドックスの掛け合いによる後出しジャンケンだ。
「厄介ね。ジェイミーと違って危険な博打は趣味じゃないのに」
マリィアはエンジェルダストを見据えていた。
こちらもパラドックスの回数には自信がある。だが、エンジェルダストが何回保持残しているかはわからない。得体のしれない相手との駆け引き。結果的に敵の出方を見る戦いになっていく。
「またあの攻撃端末! この反応、自動じゃないわ。誰かが乗ってる」
morte anjoはブレイズウィングを射出してエンジェルダストの誘導式無線攻撃端末に対抗する。
エンジェルダストで厄介なのは本体から放たれる攻撃端末だ。下手をすれば全方位からビーム攻撃を叩き込まれる恐れもある。エンジェルダスト本体に加えてこれらの動きを無視する事はできない。
「おいおい。こっちの存在を忘れてんなよ」
アーサーはドゥン・スタリオンの魔銃「ダウロキヤ」で射撃を加える。
敢えて別方向から攻撃を仕掛けたのは、morte anjoへ攻撃端末による攻撃を加えている隙を突く為だ。先の戦いでは攻撃端末が形成していたビームシールドで攻撃が阻まれていた。
では、攻撃端末が離れていた場合はビームシールドをエンジェルダストは使えるのか。
そのアーサーの疑問に対してダウロキヤの弾丸はビームシールドに阻まれる事無く機体付近を通過した事で実証される。
「なるほどな。てめぇ、ビームシールドは出せねぇな?」
「それに攻撃端末にも限りがあるな」
後方から追いついたキヅカが戻ってきた。
増援が到着するまでの限られた時間、何処まで情報を引き出せるか。
「それよりひよっこ達を頭ごなしに責めてないよな?」
戻ってきたキヅカにアーサーは問いかけた。
エンジェルダストを押さえ込みながらも、後方の新兵を気にしていたようだ。
「……Lesson1『生き延びる』」
「は? なんだよそりゃ?」
「いや、何でもない。それよりエンジェルダストにご挨拶だ」
キヅカとアーサーは自機を前へと歩み出させる。
敵に自分の命を差し出す。それこそが向こうの利益になる。
与えてはならない。それが自分の命であっても。
新兵に与えた言葉の一つだ。
「マリィア。エンジェルダストへ攻撃を仕掛けてくれ」
「簡単に言ってくれるわね」
キヅカのオーダーに答える為に、morte anjoはショートジャンプ。
攻撃端末から逃れると同時にロウシュヴァウストの砲弾をエンジェルダスト浴びせかける。
エンジェルダストは攻撃端末を引き戻してビームシールドを展開。砲弾をシールドで防いだ。そしてこの瞬間こそ、アーサーとキヅカが狙っていたものである。
「接近戦がまだだったな。残りの手札を見せてもらうぜ」
ツインドリルランス「コスモ」を装備してエンジェルダストへ肉薄するドゥン・スタリオン。
攻撃端末とスナイパーライフルの特性を考えれば、中遠距離の攻撃を重要視している。では、接近すればどのような攻撃を仕掛けてくるのか。隙があれば刺突一閃で複数回ビームシールドを叩き込む準備も整っている。
だが、相手はマスティマ。距離を取るつもりならば別の手段もある。
「……!」
アーサーとキヅカの前から突如エンジェルダストが消失。
さらに後方からエンジェルダストが姿を見せる。
ショートジャンプ。距離を取るには充分な対応だ。
「おっ? さては接近して欲しくないか? だったら……」
「待て」
キヅカがアーサーを止める。
見れば二機の足元に五芒星のような文様が浮かんでいる。
見た事のない攻撃――それは二人に危険を予期させる。
「ちっ!」
早々にスラスターでその場から退避。
次の瞬間、五芒星から天に向けて放出される大型のビーム。トラップの一種と考えた方が良いのだろうか。
「誘い込まれたって訳か。くそっ」
「Lesson2『敵を知る』。強化機体ですら手に負えない仇がどれ程の実力や能力を備えているか。知れば知る程、嫌になるな」
キヅカは新兵に伝えた言葉を思い出す。
敵を知る事で自分との距離を知る事ができる。合わせてこちらの戦闘データも取らせて学習をさせる。しかし、キヅカはマスティマを相手にしなければならない状況が今後も増えると知っていた。ほんの少し戦っただけでもインスレーター・FFは大きな損傷を負っている。これで本当にエンジェルダストを越える事ができるのか――。
「見て」
マリィアの声に二人は前を向いた。
エンジェルダストが反転。南へ向かってスラスターを全開にして飛び去っていく。増援の存在に気付いたのだろう。早々に撤退を開始したようだ。
「厄介な相手を敵にしちまったかな。まあ、だとしてもやるしかねぇんだけどよ」
アーサーは操縦席のシートに身を横たえた。
少しずつではあるが、敵の戦い方が見えてきた。
だが、どう攻略するべきか。マスティマ同士の戦いは言ってみれば異次元の戦い。その中で割り込むには。
課題が見えてきたハンター達は、東から現れる増援を見つめていた。
「考えないとな。新兵達が俺達を見てる」
キヅカは、そう呟いた。
●
「手酷くやられたな」
ミグは収容される新兵達の機体を見つめた。
攻撃端末にやられたのだろう。機体の前後に容赦なく穿たれた穴。これも敵を調べる重要な研究資料だ。
「新兵達はどうしたのじゃ?」
「婆さんに絞られてる。当然だろうな。ハンターがいたから生きていられるんだ。その事実を奴らに教えてやらねぇといけねぇ」
ミグの問いかけにドリスキルは答えた。
新兵が生きているだけでも奇跡だ。次から馬鹿な真似をしないと考えたい所だ。
「そうか。それより今回はミグの勝ちじゃな。多く倒したぞ」
「言ってろ。次は勝ってやるからな」
「ジェイミー」
ミグとドリスキルのやり取りに横から口を出すマリィア。
軽くミグを一瞥したマリィアはドリスキルの手を取って引っ張っていく。
ドックの通路へと消えていく二人にミグは声を上げた。
「補給もほどほどにのう、二人とも」
慌ただしいドックの中でも、マリィアには目の前の機体に意識が集中する。
――マスティマ『morte anjo』。
大精霊と契約を結ぶ事で与えられた特別な機体。マリィアはこの機体に乗り込んで襲撃する。
初陣であっても心地良い緊張感だけがある。これも『充電』のおかげか。
あとは、勝って帰還するだけだ。
「マリィアさん、出撃お願いします」
整備兵が声を掛ける。
既に仲間達は敵に向かって動き始めている。改めて機体を見上げるマリィア。
そっと口から言葉が漏れ出す。
「大精霊に誓って乗った貴方に無様は見せられない。共にいきましょう、私の死天使」
●
――怖い。
それが、率直な感想であった。
CAMでの実戦経験は初めてだが、白兵ならば経験済み。戦いの感覚は変わらない。
そういう考えが脳裏にあった。
しかし、現実は理想とは異なる。
戦場を支配する空気。
敵味方入り乱れる感情。
それらすべてが自分を取り巻く。
「なんで……あんなのが……」
共に戦うシーツの声が聞こえた気がする。
そうだ。報告書にあったじゃないか。
エンジェルダスト。白い機体のマスティマと噂される敵で、八重樫 敦(kz0056)が重傷を負った。
その相手が自分の前にいる。
独断専行した新兵達には、遅すぎる後悔が訪れていた。
●
「さて、私は私の役目を果たすとするか」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、グリフォン『ジュリア』と共に前へ出る。
今回依頼に参加したハンター達の多くがラズモネ・シャングリラ防衛に加えて独断専行した新兵の救出に心を砕いていた。弱者の為に戦う道を選ぶ事をアルトは否定しない。
ただ、アルトは自分が説得に向いていない事を自覚していた。
だからこそ――自分の役割は確実に、そして完璧に遂行する。
「ジュリア」
アルトの声を受け、上空からゲイルランパートを発動。
風の結界が周囲に展開。中型狂気擬人型の射撃からラズモネ・シャングリラを防衛する。
その隙にアルトは擬人型へ肉薄する。
「私とジュリアで先陣を切り、仲間が進むべき道を切り拓く」
擬人型のアサルトライフルを回避しながら進むアルト。
擬人化の足元まで到達した段階で膝を蹴って上へと移動する。立体攻撃で擬人型へ的確な攻撃を叩き込む為だ。
「ジュリア、そっちの敵は撒かせた。こっちは……私一人で充分だ」
飛び上がるアルト。
その手には試作法術刀「華焔」が握られている。大きく振りかぶったアルトは、その刃を擬人型へ振り下ろす。遠心力と重力が加わった強烈な一撃は擬人型の胸部へと叩き込まれる。
独特な金属の衝突音。
激しい衝撃が耳の奥にまでこびり付く。
だが、アルトの手には手応えがあった。
後方へ倒れる擬人型。だが――。
「分かってる。残りの奴も相手してやろう」
振り返るアルト。次の目標の品定めを始めていた。
一方、岩井崎 旭(ka0234)も擬人化の対応に追われていた。
「全く通信が効かねーってのは、思った以上に厄介だな!」
ワイバーン『ロジャック』の背中に乗る旭は、ハンター達が置かれた状況に面倒さを感じていた。
崑崙宙域のデブリ帯で遭遇した謎の機体『エンジェルダスト』。
その報告によれば、エンジェルダスト周辺で感知されたジャミング。通信機能が阻害され、ハンターのCAMとラズモネ・シャングリラがコンタクトを取れなくなっていた。
今回の状況も前回と同様。つまり、先行した新兵達と周辺のハンターは通信が阻害されている為に連絡が取れないのだ。
「まずは足止めだな。……ロジャック、モドキ達に教えてやれ!」
旭の指示でロジャックは上空から擬人型に向けて急降下。
距離を詰め、ファイアブレスで叩き込む。敵は上空に向けてアサルトライフルを放ってくるが、ロジャックはバレルロールで巧みに回避する。
「ビーム野郎はもっと後方か。まあ、いいか」
地面スレスレで飛行するロジャック。その背中の上で旭は魔槍「スローター」を構えた。縮まる距離。徐々に擬人型の機体が大きくなっていく。
「おらぁ!」
すれ違い様に放たれるスローターの突き。
貫かんばかりの一撃が、擬人型の腕を貫通する。
体躯が後方に押し込まれバランスを大きく崩す。
しかし、旭の狙いはこれで終わらない。
「そろそろ砲術組に敵の場所を教えてやらねぇとな」
旭はロジャックを再び上空へ上がるよう指示する。
敵の目標を目視で確認させる事で、おおよその砲撃地点を知らせる為だ。
そして、後方に陣取っていた面々も攻撃を開始する。
●
「ふむ、そこか。早々に馳走してやるかのう」
旭の知らせた敵の集合地点に向けてミグ・ロマイヤー(ka0665)のダインスレイブ『ヤクト・バウ・PC』が砲撃を開始する。
既にダインスレイブの原型を留めていない奇っ怪な機体となっているが、魔改造を繰り返すマッドな機導師であるミグにとっては傑作である。
「今回のレシピも最高じゃ」
ミグ回路「カートリッジフェアリー」により連続砲撃を集中使用。指定地点に向けて次々と徹甲榴弾の雨が降り注ぐ。地面を抉る勢いの砲撃に擬人型は回避する暇すら与えられない。
「踊れ踊れー、そうして気付いた時が死地なんじゃよ」
ミグは敢えて徹甲榴弾を着弾地点をずらしていた。
命中させるのではなく、敵を目標地点まで追い込む為である。
そしてヤクト・バウ・PCに装填されていたのは貫通徹甲弾。
「ほうれ、並んだ所で王手じゃ」
「奇遇だな」
ミグの傍らから聞こえてきたのはジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉の声であった。
どうやらドリスキルの戦車型CAM『ヨルズ』も貫通徹甲弾を装填されていたようだ。
むっ、と気圧されるミグであったが、前を向き直り、砲身に込められた砲弾を撃ち出した。
激しい轟音。
次いでヨルズの155mm大口径滑空砲が大きく唸る。
発射された二発の貫通徹甲弾は擬人型の機体を貫き、機体を爆発させる。
「相変わらず見事なのじゃ。……そういえば」
「なんだ?」
「出撃前にマリィアと何をやっていたのじゃ? ……なんか、ジェイミーを補給とか聞こえてきたが?」
突然の問いかけに、ジェイミーはむせ返る。
まさかマリィアのやり取りを聞かれているとは思わなかった。
「き、気のせいじゃねぇのか?」
「ジェイミーが足りないとも聞こえてきたが、そなたが足りないとは意味が分からん」
首を捻るミグ。
わざとのようにも思えるが、下手にいじれば火傷するのは目に見えている。
「その話は後だ。今は、前線の連中に期待するしかねぇ」
話を逸らすようにミグへ話し掛けるドリスキル。
擬人型の相手はそれ程難しくは無い。問題は前線に取り残された新兵と――エンジェルダストだろう。
●
(強化された魔導型デュミナス……この機体でエンジェルダストと何処まで戦えるのか)
キヅカ・リク(ka0038)はフライトシールド「プリドゥエン」で上空から魔導型デュミナス『インスレーター・FF』を前線に進ませる。
目標は新兵達の保護であるが、そこへ赴く以上はエンジェルダストとの遭遇は避けられない。デブリ帯で遭遇したマスティマを彷彿とさせる純白の機体。その機体が放つ攻撃でR7エクスシアに乗った八重樫は重傷を負わされた。
(あれが本当にマスティマだとしたら……)
ふいにキヅカの脳裏に浮かぶ一つの未来。
それはキヅカにとって屈辱でもあり、絶望的な未来だ。
だが、それでもキヅカは新兵を救出する事を選んだ。
幸いにもアルトや旭が擬人型を対応してくれている。地上からの攻撃も最小限で済んでいる。後は、自分とインスレーター・FFを信じ抜くだけだ。
一方、キヅカ同様に上空からエンジェルダストを目指す機体があった。
同じ方角を目指す機体。だが、その理由はキヅカと少し異なっていた。
「……くそっ。想像よりも障害地域は広いな」
アーサー・ホーガン(ka0471)は魔導型デュミナス『ドゥン・スタリオン』の操縦席でトランシーバのスイッチを切った。
アーサーもまたデブリ帯でエンジェルダストと遭遇した機体であった。
その強さは身を持って知っている。キヅカと同じように血気盛んな新米をフォローするつもりである。
異なるのは、エンジェルダストに対して敵の能力を引き出す準備である。
「ラズモネ・シャングリラからの距離を考えれば……50M以上か。相変わらずデタラメな性能をしてやがる」
予想していたがアーサーの想像を遙かに超えている。上空でも影響を受けるという点を考えれば、エンジェルダストを中心に広範囲でジャミングが発生している事になる。
幸いにも魔導マイク「コルカネレ」は動作するようだが、手持ちマイクである以上常に持ち続ける訳にはいかない。
「そうか。戦いの中で可能な限り情報を集めるつもりか……ん?」
キヅカの呟きに気付いたのか、アーサーはドゥン・スタリオンの指で下を指し示した。
そこは予定されていた着地地点の近く。
つまり、あの純白の機体ともう一度相見えなければならないという事。
「第二戦だ。今度は本格的にやり合おうぜ」
エンジェルダストへ聞こえんばかりに、アーサーは声を張り上げる。
その傍らで飛行していたキヅカは、インスレーター・FFを着陸態勢へ移行させる。
(理想を追い続ける。おっさんにもそう誓った。けど……)
苦悩するキヅカを、あの機体が待ち受ける――。
●
「……ひっ!」
シーツはデュミナスの操縦席で声をもらした。
純白の機体が静かにこちらへ歩いてくるからだ。
傍らにはレオンもいるが、既にデュミナスの手足が破損して直立する事も難しい。
当のシーツの機体も胴体部分に何発もビームを受けてバランサーが破損している。
抵抗する術を失い、戦意も最底辺。機体性能も、操縦技術も違い過ぎる。
あれは――あれは白い悪魔か?
若さ故の過ちを許されるのは平時のみ。有事となれば、その代償は命を以て支払わされる。
「くっ」
レオンは目を瞑った。
次に下される一撃を反射的に耐える為に。
耐えられない事は分かってる。
でも、襲ってくる恐怖が勝手にそうさせるのだ。
純白の機体が腕を上げる。
それを受け、無線誘導式攻撃端末が複数デュミナスの周囲を取り囲む。
そして、一斉にビームによる攻撃を浴びせかける。
――だが。
「……!」
デュミナス二機の機体があった場所には、機体の存在は無くなっていた。
その後方から現れるのは、仲間達が斬り開いた道より現れる一機のCAM。
「始めましょうか、ダスト……その技が貴方だけの専売特許じゃないって教えてあげるわ」
エンジェルダストに歩み寄るのはmorte anjo。
マスティマを彷彿とされる白い機体に近づいていく死の天使。
それは、出会ってはいけない相手同士だったのかもしれない。
●
「ジュリア、回り込め」
アルトと対峙する敵の側面からジュリアが幻獣砲「狼炎」の一撃を浴びせかける。
だが、砲撃は敵に命中する事無く地面に衝突する。
巻き上がる砂埃と瓦礫。
中型狂気擬人型第三種は接近を察知してショートジャンプで攻撃を開始したようだ。
「そうか。他の機体とは訳が違うと言いたいようだな」
アルトは擬人型第三種に意識を向ける。
擬人化を抑えて道を拓いてきたアルトであるが、エンジェルダストとアルトの間に立ちはだかったのは擬人型第三種であった。遠距離ビームとビームソードを攻撃手段として持つ上、短時間の飛行とショートジャンプと呼ばれるワープが武器。
攻撃が来ると察知されれば、ショートジャンプで距離を置く作戦を取られている。
幸いにもショートジャンプでラズモネ・シャングリラやエンジェルダストへ接近させてはいないが、これで時間を浪費するのはアルトも面白くない。
「教えてやる」
一気にかけ出すアルト。
ビームを掻い潜り最接近した段階で華焔による散華。全速力で駆け抜けながらの強烈な一撃。擬人型第三種はバランスを崩して大きく倒れ込む。
その動きに連携したジュリアが側面から強襲。
至近距離から狼炎を放つ。
「!」
擬人型第三種がショートジャンプするよりも早く、胸部に攻撃がヒット。
後方へ大きく倒れ込む。
だが、アルトは切っ先を擬人型第三種へ向ける。
「まだ終わりではないだろう。立て。愚弄した事を後悔させてやる」
旭もロジャックと共にもう一機の擬人型第三種へ肉薄していた。
「逃がすかよ」
擬人型第三種の足をファントムハンドで引き寄せる旭。
大きな体躯全体を捕縛する事は叶わないが、ショートジャンプを封じるには充分だ。
だが、擬人型第三種を長くは捕縛するのは難しいようだ。
「ここまで引き寄せれば十分だ」
射程距離に擬人型第三種を捉えた旭は現界せしものを発言。幻影で体を覆い、その体躯を巨大化させる。そして踊り狂う乱気流による素早い連撃が擬人型第三種へと叩き込まれる。
激しい衝突音。
的確に、そして強烈な一撃が叩き込まれていく。
そして――。
「ロジャック」
旭に合わせて急接近していたロジャックは至近距離からファイアブレスを放った。
爆発と共に擬人型第三種の体は倒れ込む。
これでもまだ終わりじゃない。
そう直感した旭は次なる攻撃に向けて動き出す。
「もうちょっと付き合って貰うぜ。仲間があの白い奴の情報を引き出すまではな」
●
「一つだけはっきり言える事がある。君達、『仇討ちの本当の意味と覚悟』を知らないんでしょ」
後方へと転移した新兵達をラズモネ・シャングリラへと連れて行くキヅカ。
あのまま放置すれば再び最前線を目指して移動する事を想定していた。既にエンジェルダストに心を折られていたが、キヅカは新兵達に釘を刺しておく事にした。
「本当の仇討ち?」
「ああ。奪われた物を奪い返す為、仇に利益を一切与えず、確実に殺す事。
その為に例えどんなに負けようと生き延びて血の滲むような我慢をしいながら、討つ。……その一瞬の為だけの戦い」
レオンの問いに、キヅカは自らの中にあった思いを言葉にする。
彼らはまだ、本当の戦場を知らない。
彼らはまだ、本当の覚悟知らない。
キヅカを含め、歴戦のハンター達はそれを数多く見ていた。
正負の感情が入り交じり、清濁合わせた戦場で起きる数々の出来事。
その中で戦い抜き、悲願を達成する一瞬にすべてを賭ける。
「……分からない。それに、あんな化物とどう戦えばいいのか」
シーツは動かなくなったデュミナスの操縦席でそう呟いた。
感情が込められていない、無情の言葉。
それに対してキヅカは一言だけ返した。
「本当に仇を討つ『覚悟』があるなら、教えてやる。それは……」
キヅカは自らの経験談を交えて、新兵達に伝えた。
今は彼らに分からないかもしれない。
だが、命を賭けるべき時に賭けなければ、ただの無駄死にだと理解させられればいい。あとは戦いに身を投じれば嫌でも知る事になるから。
「おっさん、ミグ。後を頼む」
「任されたのじゃ。おぬしも最前線へ戻るのかえ?」
ミグの問いかけにキヅカは答える。
「ああ。新兵の二人に、下手な姿は見せられないからな」
●
「くっ。パイロットの腕の差とか……分かっていても、言われたくないわね……畜生」
マリィアはmorte anjoの放ったバズーカ「ロウシュヴァウスト」でエンジェルダストを狙い討つ。砲弾が着弾する瞬間にパラドックスを使い、因果律を操作して命中していないにも関わらずダメージを与えようとする。
――しかし。
砲弾はエンジェルダストに回避され、砲弾の爆発が後方で発生する。
「やっぱり。あいつは似ているんじゃないわ。エンジェルダストもマスティマだわ。
そして……これがマスティマ同士の戦い」
マリィアは実感していた。
マスティマ同士が戦う事によって発生する独特の駆け引きを。
傍目には分からないが、パラドックスを用いる事で生じる大きな問題があった。パラドックスは攻防の瞬間に因果律を操作してその結果を書き換える。命中していないにも関わらずダメージが発生したり、被弾したにも関わらずなかった事にできるのはこの為だ。
だが、相手もパラドックスを使用した場合、後から発動したパラドックスへ書き換える事が発生する。つまり、パラドックスの掛け合いによる後出しジャンケンだ。
「厄介ね。ジェイミーと違って危険な博打は趣味じゃないのに」
マリィアはエンジェルダストを見据えていた。
こちらもパラドックスの回数には自信がある。だが、エンジェルダストが何回保持残しているかはわからない。得体のしれない相手との駆け引き。結果的に敵の出方を見る戦いになっていく。
「またあの攻撃端末! この反応、自動じゃないわ。誰かが乗ってる」
morte anjoはブレイズウィングを射出してエンジェルダストの誘導式無線攻撃端末に対抗する。
エンジェルダストで厄介なのは本体から放たれる攻撃端末だ。下手をすれば全方位からビーム攻撃を叩き込まれる恐れもある。エンジェルダスト本体に加えてこれらの動きを無視する事はできない。
「おいおい。こっちの存在を忘れてんなよ」
アーサーはドゥン・スタリオンの魔銃「ダウロキヤ」で射撃を加える。
敢えて別方向から攻撃を仕掛けたのは、morte anjoへ攻撃端末による攻撃を加えている隙を突く為だ。先の戦いでは攻撃端末が形成していたビームシールドで攻撃が阻まれていた。
では、攻撃端末が離れていた場合はビームシールドをエンジェルダストは使えるのか。
そのアーサーの疑問に対してダウロキヤの弾丸はビームシールドに阻まれる事無く機体付近を通過した事で実証される。
「なるほどな。てめぇ、ビームシールドは出せねぇな?」
「それに攻撃端末にも限りがあるな」
後方から追いついたキヅカが戻ってきた。
増援が到着するまでの限られた時間、何処まで情報を引き出せるか。
「それよりひよっこ達を頭ごなしに責めてないよな?」
戻ってきたキヅカにアーサーは問いかけた。
エンジェルダストを押さえ込みながらも、後方の新兵を気にしていたようだ。
「……Lesson1『生き延びる』」
「は? なんだよそりゃ?」
「いや、何でもない。それよりエンジェルダストにご挨拶だ」
キヅカとアーサーは自機を前へと歩み出させる。
敵に自分の命を差し出す。それこそが向こうの利益になる。
与えてはならない。それが自分の命であっても。
新兵に与えた言葉の一つだ。
「マリィア。エンジェルダストへ攻撃を仕掛けてくれ」
「簡単に言ってくれるわね」
キヅカのオーダーに答える為に、morte anjoはショートジャンプ。
攻撃端末から逃れると同時にロウシュヴァウストの砲弾をエンジェルダスト浴びせかける。
エンジェルダストは攻撃端末を引き戻してビームシールドを展開。砲弾をシールドで防いだ。そしてこの瞬間こそ、アーサーとキヅカが狙っていたものである。
「接近戦がまだだったな。残りの手札を見せてもらうぜ」
ツインドリルランス「コスモ」を装備してエンジェルダストへ肉薄するドゥン・スタリオン。
攻撃端末とスナイパーライフルの特性を考えれば、中遠距離の攻撃を重要視している。では、接近すればどのような攻撃を仕掛けてくるのか。隙があれば刺突一閃で複数回ビームシールドを叩き込む準備も整っている。
だが、相手はマスティマ。距離を取るつもりならば別の手段もある。
「……!」
アーサーとキヅカの前から突如エンジェルダストが消失。
さらに後方からエンジェルダストが姿を見せる。
ショートジャンプ。距離を取るには充分な対応だ。
「おっ? さては接近して欲しくないか? だったら……」
「待て」
キヅカがアーサーを止める。
見れば二機の足元に五芒星のような文様が浮かんでいる。
見た事のない攻撃――それは二人に危険を予期させる。
「ちっ!」
早々にスラスターでその場から退避。
次の瞬間、五芒星から天に向けて放出される大型のビーム。トラップの一種と考えた方が良いのだろうか。
「誘い込まれたって訳か。くそっ」
「Lesson2『敵を知る』。強化機体ですら手に負えない仇がどれ程の実力や能力を備えているか。知れば知る程、嫌になるな」
キヅカは新兵に伝えた言葉を思い出す。
敵を知る事で自分との距離を知る事ができる。合わせてこちらの戦闘データも取らせて学習をさせる。しかし、キヅカはマスティマを相手にしなければならない状況が今後も増えると知っていた。ほんの少し戦っただけでもインスレーター・FFは大きな損傷を負っている。これで本当にエンジェルダストを越える事ができるのか――。
「見て」
マリィアの声に二人は前を向いた。
エンジェルダストが反転。南へ向かってスラスターを全開にして飛び去っていく。増援の存在に気付いたのだろう。早々に撤退を開始したようだ。
「厄介な相手を敵にしちまったかな。まあ、だとしてもやるしかねぇんだけどよ」
アーサーは操縦席のシートに身を横たえた。
少しずつではあるが、敵の戦い方が見えてきた。
だが、どう攻略するべきか。マスティマ同士の戦いは言ってみれば異次元の戦い。その中で割り込むには。
課題が見えてきたハンター達は、東から現れる増援を見つめていた。
「考えないとな。新兵達が俺達を見てる」
キヅカは、そう呟いた。
●
「手酷くやられたな」
ミグは収容される新兵達の機体を見つめた。
攻撃端末にやられたのだろう。機体の前後に容赦なく穿たれた穴。これも敵を調べる重要な研究資料だ。
「新兵達はどうしたのじゃ?」
「婆さんに絞られてる。当然だろうな。ハンターがいたから生きていられるんだ。その事実を奴らに教えてやらねぇといけねぇ」
ミグの問いかけにドリスキルは答えた。
新兵が生きているだけでも奇跡だ。次から馬鹿な真似をしないと考えたい所だ。
「そうか。それより今回はミグの勝ちじゃな。多く倒したぞ」
「言ってろ。次は勝ってやるからな」
「ジェイミー」
ミグとドリスキルのやり取りに横から口を出すマリィア。
軽くミグを一瞥したマリィアはドリスキルの手を取って引っ張っていく。
ドックの通路へと消えていく二人にミグは声を上げた。
「補給もほどほどにのう、二人とも」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
相談卓 アーサー・ホーガン(ka0471) 人間(リアルブルー)|27才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/03/06 21:39:22 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/02 19:15:41 |