• 陶曲

【陶曲】求めよ、さらば与えられん・2

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/03/10 22:00
完成日
2019/03/23 03:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ヴァリオスの同盟軍本部で見たものに、メリンダ・ドナーティ(kz0041)は思わず眉を寄せる。
「これは……どういうことですか」
「そんな顔してちゃ美人が台無しだぜ、女中尉さんよ」
 へらりと笑うのは、浅黒い肌、精悍な顔立ち、筋肉質の体の黒髪の男。名はサリムという。
 机の上に両足を上げて、椅子をギシギシ揺らしている。
「改めて、こういう形でお世話になります。よろしくお願いします」
 やや硬い笑顔を浮かべるアスタリスク(kz0234)は、サリムとよく似たデザインの服を身につけていた。
 黒地の、同盟軍の戦闘服を。
 メリンダは壁際の椅子に掛けているフィンツィ少佐を振り返り、更に説明を求めた。
「少佐、報道官としてお尋ねします。これはどういうことですか?」
「新設の特殊部隊『ヴォルペ・ヴィオラ』です。彼ら……他に3名ですね。もう少し増員する用意もあります」
 フィンツィ少佐は相変わらず軍服に袖を通さずに肩にひっかけた姿だ。
「バッシ名誉大将の要請により、特殊な事態に対応する部隊が設立されることになりました。今回のように、身元のはっきりした者ですら信用できないような事態ですね」
「部外者を金銭で雇用する……傭兵(コンドッティエーロ)ですか」
 メリンダの表情はますます険しくなっていた。

「そうです。ハンターを頼るのも結構ですが、常に同じ方が依頼を受けてくださるとは限りませんし、いざという場合には軍の指示に従っていただけない場合もあるでしょう。その為に、覚醒者による、ある程度の裁量を持たせた部隊が必要だと名誉大将が判断されたのです」
(あなたたちが、ね)
 メリンダは心中で皮肉をつぶやく。
 フィンツィはそれに気づいているだろうか、表面上は何事もない様子で続けた。
「元々は私が隊長を拝命する予定だったのですが、この状態ですので」
 珍しくフィンツィが冗談めかした風で肩をすくめた。
「腕が千切れかけたもので、リハビリにはまだかかりそうなのですよ。そこで、能力や性格など信用に値する方と思いましたので、アスタリスク”大尉”にお願いすることになりました」
(大尉……昇格待遇ね)
 メリンダはサリムに視線を向ける。
「貴方はそれでいいんですか?」
 以前からフィンツィとは縁があったようだが、メリンダにとっても何かと因縁のある男だ。
「充分な報酬があれば、雇われるってのも悪くないな」
 サリムの笑い声に、メリンダは頭を振った。
「お話はわかりました。もう充分です。本題に入りましょう」


 メリンダは集まったハンター達に、依頼の内容を説明する。
「今回は我が軍との共同での作戦をお願いいたします」

 ネスタ大佐達の存在が駐屯地で確認されてから、およそ3日が経過していた。
 人質の解放は多少無理をしても急がねばならない。
 そこで大々的に攻撃を仕掛けると共に、他の手段で人質の居場所を確認し、救出。ついでに【敵】の能力や行動を探ることができれば尚良し、ということになった。

「正面からの攻撃は、我が軍が担当します。別の部隊が裏口から潜入の予定です。ハンターの皆様は、担当者と打ち合わせの上、手薄と思われるほうをカバーしていただけますようお願いいたします」
 そうして、別部隊――『ヴォルペ・ヴィオラ』隊長が紹介される。


 駐屯地は相変わらず静まり返っていた。
 ネスタ大佐がこれまでの経験や判断力を持っている存在なら、こちらの手は予想しているだろう。
 黒い制服に身を包んだアスタリスクが、低い声で呟く。
「ネスタ大佐は自己の矛盾をどう考えているのでしょうね」
 己の目的のためには、多少の犠牲はやむを得ないと考えているのか。
 あるいは行動を共にする者との間に、既に亀裂が生じているのか。
 そしてこれからどうするつもりなのか。
「前は多少ぶっ飛んでたが、考えてることはまあわからんでもなかったぜ。当人に聞くしかないだろうが、さて。受け答えができるのかね」
 通信機を操作するサリムは、相変わらず皮肉な笑みを浮かべていた。

リプレイ本文


 紹介された『同盟軍の別部隊』の面々を、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)は複雑な思いで見る。
「サリムがいる……」
 ちらりとメリンダを見る目には「大丈夫?」という疑念が浮かんでいた。
「ま、そういうことなんでよろしくな」
 サリムのほうは笑顔でひらひらと手を振って、すぐに通信機に屈みこんだ。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしく頼む」
 リュー・グランフェスト(ka2419)は不穏な空気を払うように、何でもない調子で声をかけた。
「いくつか確認しておきたいこともあるからな、色々教えてくれ」
「こちらこそ、宜しくお願いいたします」
 アスタリスクが丁寧に会釈し、サリムの傍に膝をついた。

「新設の特殊部隊……ねえ。軍も混迷を極めているようじゃないか」
 ヴァージル・チェンバレン(ka1989)の低い呟きに、メリンダが業務用スマイルで応じる。
「ハンターの皆様には、これまで通り最良と思われる行動をお願いできれば、足を引っ張るようなことはありません」
 メリンダとしてもそう言うしかない。
 万歳丸(ka5665)は言いかけた言葉を飲み込む。
(大佐自身もそうだが、軍のやりくちもちィと強引に見えるよな……)
 契約者になったと思しき大佐。
 軍のやりようを見ていると、それすら内部の誰かの膳立てでは? と思えてくる。
(……まぁ、ソコは次の機会だな)

 ともあれ、突入まであまり猶予はない。それぞれが気になる点を洗い出しにかかる。
 アスタリスクが図面を広げる。
「前回、生命感知で反応があった場所は、会議室の近くだったな」
 ヴァージルは居住スペースになっている辺りと1階とを見比べる。
「今回は敵も対応を考える時間があったでしょう。前回の配置は白紙とみていいかと」
「まあそうだろうな。大佐が裏手に来る可能性だってあるわけだ」
 マチルダも頭をひとつ振って、相談に入る。
「遺体って、契約者の成れの果てみたいな?」
「契約者については詳しいことは分かっていません。ですが」
 アスタリスクは、今回の犠牲者は「契約」にまで至らない扱いだったのではないかと考えていた。
 契約者をろくに戦わせないまま捨てるようなことはないだろう……というのだ。
「そういえば、体調の変化を訴えた兵士がいたわよね」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)は言葉を選んで、状況を確認する。
「いつ遺棄したかは謎だけどね」
「先日の作戦直後で間違いないでしょう。その、様々な状況などから見て」
 アスタリスクは表現に困りながら、遺体や周辺の状況が荒れていなかったと説明する。

「どうして簡単に殺しちゃうのかな……」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が怒ったように眉をぎゅっと寄せた。
「だから今回は、人命第一です! 救出任務もニンジャにお任せなんだからっ!! あっでも、この騒動の目的なんかも知りたいから、ついでに手がかりも見つかるといいな」
「手がかりか。通信機器を妨害している原因は何かの機械だろうか。会議室辺りを探ってみるか」
 ヴァージルが考え込む。が、そこにサリムが口を挟んだ。
「歪虚が複雑な機械を使いだしたら、俺ら機導師は使い物にならなくなるぞ。どっちかっつーとスキル的なもんだろ」
「決めつけは危険ですが、大型の機械を持ち込んだ形跡はありません。仮に持ち込みを気取られないサイズなら、短時間の探索で見つけるのは難しいでしょうね」
 カーミンはそれなら、会議室に居ながら存在を感知できなかった「何か」が怪しいと踏む。
「あと歪虚三人衆のうち、小柄なのが異質よね。長身2体とは違う対応が必要そうね」
 マチルダがメモを読み返しながら、ふとつぶやいた。
「そういえば大佐も不満そうだったよね。遺体のこと話したら大佐もぷるぷるしちゃうんじゃ」
「大佐に睡眠が入った時点で、脇の2体とは異質なのは間違いないわね。どこまで元の人格が残っているかはわからないけど」
 続いて食事の件から推測する。
「5人分……歪虚なら食事無用だし、大佐と遺体の人が食べたのかな」
 マチルダの言葉に、メリンダが頷く。
「それにしては量が多いですが」
「大佐が死ぬほど大食らいになったか、フォークを使わねえ奴が食ったんだろ」
 サリムが通信機から顔を上げて、メリンダにトランシーバーを渡す。
「伝言ゲームになっちまうが、駐屯地を迂回して3人を配置した。念のために持ってな」
 一般人のメリンダには、魔導短伝話やスキルによる連絡手段が使えない。
 だが戦闘に入ったハンター達と傭兵達に何かあった場合には、メリンダが外部に連絡しなければならない。
「有難うございます。……では皆様、作戦の成功をお祈りします」
 メリンダは敬礼で一同に向き直る。


 同盟陸軍の持ち込んだ火器類が、駐屯地の建物に向けて銃口をそろえていた。
 リューはその場所から、駐屯地までの距離を測る。
 カーミンは制服を借りて、操作する兵士に紛れ込んでいた。
 彼らは正面側、つまり攻撃を担当する部隊のサポートに回っている。
(少なくとも大佐の『遺志』とやらは守ってやるわよ)
 敵がこちら側からの突破を図った場合、一般兵は犠牲を強いられる。
 初手で相手の目を欺き、出鼻をくじくことができれば少しは犠牲を減らせるだろう。
(仮に覚醒者と感知されても、それ自体が持ち帰るべき情報よ)
 カーミンは建物の壁の向こうの敵が見えるかのように、鋭い視線を向ける。
 リューも危険が迫るまでは、目立たないように動くつもりだ。
(兵士にも立場があるだろうしな。とはいえ、流れ次第ではそんなことも言ってられないが)
 ルンルンから託された口伝符を確認し、攻撃に備える。

 一方で、他の全員が裏門側から侵入を図る。
 上空を舞うフクロウの視点で、万歳丸が周囲を確認する。
 正面に展開する陸軍、静まり返った建物。今のところ動きはない。
 ルンルンは式符で建物付近を確認する。やはり誰もいない。
「見張りも出していないんですね。ニンジャとしては好都合です!」
 ルンルンは慣れた様子で裏門を越え、内部から解錠すると、一気に建物に接近。
 そこで皆が到着するのを待って、生命感知で内部を探る。
「ルンルン忍法ニンジャセンサー! ……今度こそ絶対助け出してくるんだからっ」
 少し時間をかければ、生命反応の動きから人間とそれ以外はある程度区別できる。
「あれ……? みんな、今回は会議室に集められてるみたいです」
「だろうな」
 万歳丸が頷いた。
 黒服の兵士2人は大佐に付き従うだろうが、残る1人がこの状況で、1人でいるとは考えにくい。
 人質にしろ監視にしろ、同じ部屋に置くのが普通だろう。
「司令室はどうだ」
 ヴァージルが確認すると、ルンルンが小首をかしげる。
「あまり動かないけど、ひとりぐらいはいそうです」
「そっちが大佐かもしれんな」
「おい、そろそろ攻撃開始の時間だぞ」
 サリムが低く呟く。
(なんだか変な感じ。落ち着かない……)
 マチルダはやっぱりサリムが「こちら側」にいることに慣れない。
 だが今はそんなことを言っている場合ではなかった。
「じゃあ入るって連絡するね」
 正面にいるカーミンに『エレメンタルコール』で突入を知らせると、内部に滑り込む。
 ほどなくして建物が揺れ始めた。


 マチルダは食堂など、人がいそうな場所を一応確認していく。
「あのお方って誰なのかな。そういう人がいるなら大佐はお飾りで……いなくなったお爺さんかな?」
「そもそも大佐は黒い兵士たちのことをどう思っているんだろうな」
 ヴァージルは魔法の箒を手に天井を見上げる。
「力を貰う代償に協力するにしても、既に犠牲者が出ているわけなんだが」
 万歳丸が顔をしかめながら口を開く。
「少なくとも黒服のヤツらにとって、『仲間にならない』兵士はいらねェだろうな。まず俺たちの目標は、大佐より兵士だぜ」
「それなら遠慮なくいくぞ」
 ヴァージルは魔箒に跨ると、天井へ突進。派手な物音と共に、2階へ突っ込んだ。
 その間にルンルンは階段で2階へ、会議室の扉が見える位置へ式符を向かわせる。その先に司令室があった。
 どちらからも誰かが出てくる気配はない。
 そのとき、奇妙なことに気づいた。
「正面の攻撃が止まってる?」
 物音を拾おうと、全員が息を潜める。


 砲撃は正確で、激しいものだった。
 それがひと段落したころ、突然司令室の窓が内部から破壊された。
 直後、内部から放たれた弾丸が、1台の魔導トラックを炎上させる。
 それでも火器にかじりつき、攻撃を続ける兵士たち。
「向こうも飛び道具があったんだな。ちょっとまずいぜ」
 リューは土埃の彼方、ぽっかりと口を開けた建物の2階に人影のようなものを見る。
「こっちだ!」
 リューは兵士たちの前に躍り出て、兵士に向かう攻撃を『ガウスジェイル』で無理やり自分に引き寄せる。
「今、中はどうなってるんだ?」
「向こうからの連絡がないとわからないわね」
 そのとき、軍用双眼鏡を覗いていたメリンダがあっと声を上げた。
 ネスタ大佐が両脇の黒衣の兵士を制止し、壊れかけたバルコニーに現れたのだ。
「勇敢なる同盟陸軍兵士諸君!」
 良く通る声だった。
「我々は諸君を必要以上に危険な任務から守るために行動している。邪魔をしない限り、諸君を傷つけるつもりはない」
 兵士たちは動揺し、攻撃が止む。
 カーミンはひとまずルンルンにもらった口伝符で、マチルダに状況を伝えた。
「大佐が司令室の窓から演説してるわ。両脇に黒い兵士がいる。奥までは1階からじゃ見えないわね」


 大佐の意識が外に向いているなら好都合だ。
 マチルダとヴァージル、万歳丸は、人質がいるらしい会議室へ向かう。
 シーブスツールで鍵を抉じ開け、入り込んだ先に見えた姿に、一瞬混乱する。
 会議室のテーブルには非常食らしきものが積みあがっている。
 テーブルの脇の椅子に陣取って、それを片端から掴んでは口に入れているのは、ネスタ大佐だったのだ。
「大佐は司令室じゃなかったのかよ」
 万歳丸は周囲を見回す。黒服の兵士はひとりもいない。
 部屋の奥にはぐったりと座り込む兵士の姿が見えた。
「おい、あんたは一般兵士の命と守りたいんじゃなかったのか?」
 ヴァージルの問いかけに、相手は無言のままだ。
 マチルダは相手がヴァージルを見ているのを確認し、『グラビティフォール』を仕掛ける。
 大佐が重みに耐えるように足を踏みしめた。
「今のうちに!」
 ヴァージルが盾を構え、万歳丸とマチルダが部屋の奥へ駆け込み、兵士たちを立たせる。
「助けに来たの。ちょっとだけ頑張って!」
 兵士たちがよろよろと立ち上がりかけたところで、大佐が動いた。いや、その姿は既に「大佐」ではなかった。
 しわがれた笑い声が響く。この前にも聞いた声だ。
「やれやれ、余計な力を使わせおる」
 その時、黒いマントが持ち上がる。隙間から見えたのは、金属質な輝きを放つ骸骨の姿だった。
 骨の腕が伸び、ヴァージルの腕をつかむ。
 駆け寄ろうとするマチルダと万歳丸を、ヴァージルは制止した。
「行け! 人質の救出が先だ!」
「くそっ……すぐ戻るからな!」
 人質を抱えるようにして猛然と駆け出す万歳丸の声が遠くなる。
 強烈な脱力感を覚えつつも、『カウンターアタック』での反撃でどうにか相手の腕を叩き落とした。

 外で監視していたルンルンも合流し、人質達を建物の外へ連れ出す。
 彼らが語るには、会議室の敵は通信妨害と、触れた人間に変身する能力を持つが、莫大なエネルギーを使うらしく、常に大量の食糧を要求した。
(食べ物だけじゃないのかも)
 人質たちの衰弱ぶりに先日遺体で見つかった兵士を思い出し、マチルダは寒気を覚えた。


 マチルダからの連絡に、リューとカーミンも合流を決意する。
「正面突破しかないな。フォローするから先に行ってくれ!」
 リューはすぐに飛び出し、超々重鞘「リミット・オーバー」を構え攻撃を引き付ける。
 高低差の分、こちらの不利は承知の上だ。
「飛び込んでしまえばこっちのものよ」
 カーミンは全速で建物の入口目指して駆け抜けた。
 建物の中に入ったことを確認し、リューも後を追った。さすがのリューも満身創痍だ。
 だがすぐに大佐は建物の中を移動してくるだろう。
「まだやれる?」
 カーミンは相手を尊重するからこそ、自由意思に任せることにした。
「大丈夫だ。大佐が下りて来る前に人質を逃がそう」
 ふたりが階段を転がるように降りてくる一行に合流する。
「来たか、脱出は任せるぜ!」
 万歳丸とマチルダはすぐに階段を駆け上がっていく。ルンルンがカーミンとリューを外へ促した。
「詳しくは後で説明しますね。とにかく皆を安全な場所に!」


 2階の廊下に出ると、会議室から飛び出してくるヴァージルが見えた。
 一方、司令室側からも激しい物音が聞こえてくる。
「被害者は、脱出できましたか!」
 叫ぶような声はアスタリスクのものだ。
 大佐と黒服の兵士が廊下に出ないよう、サリムとともに出口を塞いでいるのだ。
「ああ、もう大丈夫だ! こっちも撤退するぜ」
 万歳丸が吠えた。負傷が酷く、押され気味のアスタリスクを押しのけ、躍り出る。
 マテリアルを練り上げた連撃を黒衣の兵士に叩き込むと、硬質な音が響いた。
「こいつもガイコツなのかよ!」
「ごめん、ちょっと頑張ってね」
「うおおお!?」
 マチルダが『グラビティフォール』で敵を抑え込む。万歳丸が巻き込まれたが、『金剛不壊』のおかげで倒れることもなく、距離を取る。
 だが残る敵は動きを阻まれたとみるや、銃撃でマチルダの肩を抉った。
「おい、大丈夫か!」
 声を上げたのはサリムだった。
「これぐらい大丈夫よ。でも今は逃げるしかないわね」
 長居は無用だ。マチルダは魔箒に跨り、大佐のほうへ敢えて突っ込んでいくと、そのままバルコニーから飛び出した。
 敵がそちらに意識を取られるうちに、他のメンバーは順に階段を降りる。
 階下ではルンルンが待ち構えていた。
「追いかけてこられなくしちゃいますよ!」
 階段下に追っ手を遮る地縛陣を仕掛け、そのままルンルンも外に駆け出した。


 崩れ落ちる寸前のバルコニーに大佐の姿があった。
「なぜ貴様らは我らの邪魔をするのだ!」
 その声は、夕暮れの迫る平原にむなしく響く。
「敵なのだ。敵は排除せねばならん。あのお方もそれを望んでおられるぞ」
「敵……」
「次こそ思い知らせてやるがよい。大願の前に、余計な情けをかけることはない」
「敵……」
 ネスタの目には狂おしいほどの怒りが宿っていた。


 黒と白の格子に塗り分けられた盤面に、今、駒を動かす「指」はない。
 盤上にぽつんとひとつの駒。
 複雑な動きで盤をかき回す「ナイト」だ。
 ――混沌こそナイトの本領。後は好きに動くといいよ。取られるまではね――。
 くぐもった笑い声が、誰もいない部屋に響き渡った。

<続>

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重体一覧

参加者一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレン(ka1989
    人間(紅)|45才|男性|闘狩人
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 救出作戦会議室(相談所)
マチルダ・スカルラッティ(ka4172
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/03/10 21:19:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/10 16:51:15
アイコン 「しつもんばしょ」
万歳丸(ka5665
鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2019/03/10 21:29:41