懲りない団長をどうにかしよう

マスター:笹村工事

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/19 07:30
完成日
2015/01/23 10:12

みんなの思い出

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オープニング

●懲りない団長
 同盟領、ヴァリオスの大衆商店区。そこはヴァリオスの中でも魔術師が特に多く行き交う、雑多で賑やかな区域。
 その大衆商店区の小さな家で、アモレア盗賊団の団長、ビブリオ・ボッコ(今年30歳、独身)は憤慨していた。
「おのれ魔術師協会!」
 握り拳を作り、怒りよ届けとばかりに続ける。
「我が愛しのジルダ・アマートを未だ会長職に縛り付けているばかりか、我らが団員の自由を奪い労働させるとは!」
 事情を知らない者が聞けば、恋人と仲間を捕えられた悲劇の男といった所ではあるが、実際は違う。全く違う。
 何故なら、団員は今この場に全員が居るからだ。
「団長、トマトグミ食べる? ビビとキティがくれたの」
「甘酸っぱくて美味しいっす」
「今日の晩御飯は貰ったトマトソースでスパゲッティ♪」
「御駄賃で買ったベーコンも入れる~♪」
「くっ、お前達。俺に心配させまいと健気に振る舞って」
「いや、純粋に順応してんだと思うよ、みんな」
 脱力感を滲ませながら、ビブリオの弟にして唯一の肉親であるジュール・ボッコは突っ込みを入れる。
 それもしかたがない。
 魔術師協会会長職に縛られたジルダ・アマートを解放する、という勘違い全開の思いに従って魔術師協会に卸される品物を強奪していたアモレア盗賊団は、団長と副団長の2人を除き全員がハンター達の尽力により一度捕まっている。
 その後、さすがにそのままにしておく訳にはいかない団員達は、アモレア盗賊団に関わる事になったカタリーナとビアンカという双子少女が面倒を見ていた。
 二人が直接関わったアモレア盗賊団は三人であったが、他の事件で捕まった団員も商会からの要請で一時的に引き受けている。
 また、警察機構でもある同盟陸軍との間でも、商会の後押しもあり盗賊団の件については委任されていた。
 軍としては、放置するのも問題だが関わるのも面倒という事で、ある意味丸投げである。
 現在は、双子が自分達の仕事を団員達に手伝わせながら、強盗で発生した損害の賠償金を団員達の給金から引いていた。
 賠償金を払い終えた暁には、それぞれが今回の強盗騒ぎで関わった商会などに働きに行くことも決まっている。
 とはいえ毎日タダ働きをさせるのが好きではなかった双子は、自分達が所属しているクルキャット商連合が売り出している商品を分け与えたり、あるいは毎日お駄賃程度ではあったが自分達の儲けの内の幾らかを分け与え、暗くなる前には団員達を住んでいる場所に返していた。
 朝の8時から夕方4時まで勤務でお昼賄い付き。賠償金払い終えるまでは給金お駄賃程度。
 強盗騒ぎを起こした相手への対応としては破格であった。
「俺の方で調べてみたけど、団員の皆が働きに出てる所は良い所だよ。だろう、みんな」
 ジュールの呼び掛けに団員達は次々に返す。
「ビビもキティも好い子だよ」
「おやつ奢ってくれるっす」
「お仕事大変だけど楽しいよ、団長」
 口々に返される肯定的な言葉。これにビブリオは目頭を押さえる。
 自分の思い違いに気付いたのか?
 そう思えそうな態度であったが、ビブリオの勘違いと思い込みはある意味突き抜けていた。
「何てことだ……魔術師協会め、いたいけな少女達まで騙すとは!」
「……兄さん?」
 脱力感一杯に聞き返すジュール。しかしビブリオは止まらない。
「魔術師協会め、奴ら自分達の非道を隠しいたいけな少女達を利用しているのだ!
 そうとも知らず双子達は協力しているに違いない!」
 誰か止めろこの馬鹿。そう突っ込みを入れたくなる所ではあったが、ビブリオ大好きな団員達は一緒になって盛り上がる。
「そうなの!」
「ビビとキティかわいそう!」
「団長どうしよう!」
「心配するなお前達!」
 盛り上がる団員にビブリオは宣言する。
「魔術師協会には思い知らせてやる必要がある! 奴らの非道な行いを正す者達が居るのだと。
 その為に必要な策は既に考えている!」
 言葉を区切り、皆の注目を集める間を作ってから、ビブリオ・ボッコは彼の言う策を口にする。
「魔術師協会に挑戦状を叩き付ける!」
 無謀以外の何物でもないその言葉に団員達は盛り上がり、ジュールは小さく息をつき呟く。
「……これはこれで、巧く行けば良い方向に持って行けるかな?」
 頭痛を堪えるような気持ちで考えをまとめ始めた。
 
 そして頭痛を堪えるような気持ちになっているのは、彼だけではなかった。

●挑戦状

『親愛なる我が仇、ドメニコ・カファロ(及び魔術師協会)へ

 貴殿が私のジルダ・アマートを
 魔術学院に……そして協会会長職にまで縛りつけ、その尊い自由を奪ったこと、私は忘れない。
 彼女を今こそ救い出し、魔術師協会を壊滅に追い込む。
 彼女の心は既に私のものだ。
 貴殿らは解き放たれる彼女をおとなしく見送るべし。
 その始まりとして、貴様らに騙された少女達を諭し解放する!
 覚悟するべし!

 アモレア盗賊団 団長 ビブリオ・ボッコ』

 複数の経路で魔術師協会に多数送られてきた挑戦状に、魔術師協会宣伝部長であるドメニコ・カファロは頭を抱えていた。

「何を書いてるんだ、あいつらは……」
 頭痛を堪えるようにしてこめかみを揉みながら、挑戦状の全てを、ジルダ・アマートの目に留まる前に握り潰したドメニコは独り呟く。
 アモレア盗賊団その物はどうでも良い。
 問題なのは、ジルダ・アマートの反応である。
 かつての大嵐騒動は、彼女にとっては若気の至りであり、気紛れではあるが穏やかな彼女が今さら反応するとは思ってはいない。というか、そう思いたい。
 だが、それでも万が一という事がある。その万が一すら細心の注意を持って避けねばならないのが彼女である。
 かつての狂気の歪虚騒動では、彼女は他の魔術師協会の理事達とヴァリオスの防衛の為に人知れず待機していた。
 それは彼女の『規格外』と言っても良いほどの強力な『力』ゆえだ。
 それほどの『力』が、万が一にでも解き放たれる事は絶対に防がなければならない。
 どれだけおバカな原因だったとしても。だからこそドメニコは決断する。
「……止むを得ん。下手にわしらが動いて刺激するより、あの双子に任せるか」
 こうして新たなる厄介事がカタリーナとビアンカ、そして彼女達の所属するクルキャット商連合に舞い込んだのであった。

 そして今、対決の時は近付いた。

 時は朝の8時。場所はとある飲食店予定の店内。
 双子が所属しているクルキャット商連合が進めている、メイド執事ファミレス店舗の開店準備をしている双子と、双子に開店準備を依頼されたアナタ達ハンターの前にビブリオと団員達はやってきました。
 ドメニコからの伝達でビブリオの事を知っていた双子は、それもあって依頼していたアナタ達に頼みます。
 ビブリオを説き伏せる助けをして欲しいと。これにアナタ達は――?

リプレイ本文

●団長をどうにかしよう
 団員を引き連れて意気込んでやって来た団長に、手違いで用意されていた試着服が何故かメイド服だった為、それを泣く泣く着ていた時音 ざくろ(ka1250)が思わず声を上げる。
「あっ、ラブラブの人だ!」
 言葉の間に「だと思い込んでいる」が抜けていた事もあり、団長は上機嫌で返す。
「良く知っているなメイド少女よ!」
「ざくろ、男だよ!」
 慌てて返すざくろに団長は驚いて返す。
「馬鹿な……魔術師協会め、いたいけな少女になんてことを言わせてるんだ。安心しろ! お前も助けてやるからな!」
「いやっ、違う、ざっ、ざくろ男、今こんな服を着てるけど、男だから!」
「大丈夫だ、安心しろ。全て分かっている!」
「絶対分かってないよ!」
 真っ赤な顔で言い返すざくろに意気込む団長。この場に来て早々、思い込みの激しさを見せる団長にハンター達は思わず声を上げる。
「ぬぅ、思い込みだけで行動するとは非常に行動力があって羨ましい限りではあるが、ちと面倒くさい奴じゃのぅ……わらわの最も苦手とする人種の一人じゃ……」
「やる気というか熱意というか、色々と空回りしていますね」
 カエデ・グリーンフィールド(ka3568)の言葉に返すように、エルバッハ・リオン(ka2434)は呟く。
 ハンター達の間には微妙な空気が漂っていた。
 だが、それを感じ取れる繊細さの無い団長は勢いよく言う。
「双子よ、助けに来たぞ!」
「団長頑張れーっ!」
「え~っと、頑張って、兄さん」
 団長の意気込みに対し、団員はノリノリだが、副団長である弟・ジュールはハンター達と同じく微妙な表情で返す。
 そんな彼の様子に気付いた天央 観智(ka0896)は、ジュールに向かって言う。
「双子のお二人を助けると言われていますが、助けなければならない状況だと思っていますか?」
 これにジュールは応えず、困ったように眉をひそめる。代わりに応えたのは、団長だ。
「魔術師協会にそそのかされ、利用されているのだ。ウチの団員にも良くしてくれている相手、そのままにしておけん!」 
 完全に勘違いした挙句、自己完結している団長であったが、自分以外の誰かを大事にし行動できる人間である事だけは伝わってくる。
 場合によっては実力行使も考えていたルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、ひとまず質問した。
「団長さん。それなら貴方は、何をどうするつもりなのかな?」
「魔術師協会の魔の手から双子を守り愛しき私のジルダも助け出す! 今日はそれを双子に伝え安心させに来たのだ!
 双子達よ、もう安心するが良い! あとは私が魔術師協会と戦おう!」
 団長の応えに、団員以外の間に脱力感が漂う。
 反面、団員達は盛り上がっている。勘違い全開の団長、それを盛り上げる団員。相乗効果で勢いを増す、ブレーキの壊れたノンストップ状態。
 それを切り崩すように口を開いたのはアカーシャ・ヘルメース(ka0473)。彼女は店の厨房に置いてあったカモミールティの入ったカップをテーブルに置いていく。
 ふんわりと、優しい香りが周囲に漂い場の雰囲気が僅かに和む。それを更に広げるようにアカーシャは言った。
「長話になると思うし、とりあえず座ろか?」
 これに団長は返す。
「これはすまん。気を使わせたな。お前達、折角だからごちそうになるぞ」
 お茶と共にトマトグミなどのお菓子を双子が用意していた事もあり、団員達は喜んで座ろうとする。
 だが、団長と副団長のテーブルにハンター達が座るせいで、団員達は傍には座れない。
 それに他のテーブルの席を持って行こうとした団員達だったが、ざくろとカエデが止めるように誘導する。
「こっちに座ろう。向こうにみんな集まると狭くなっちゃうよ。それに、ざくろみんなとお話したいんだ。いいでしょう?」
 にこりと笑顔を浮かべるざくろに団員達の一部が従い、残りも迷うようなそぶりを見せる。それを後押しするようにカエデは言った。
「わらわもぬしらとは話をしたいのじゃ。団長さんのやったことはジルダさんの為を思ってやったことだし、わらわも誰かの為に何かを出来るのは素敵なことだと思う。じゃがの、やり方が悪かったのじゃ。それはぬしらも気付いておるのじゃろう? じゃからこそ、今ここで償いをしておるのじゃし。
 なに、団長さんを悪いようにするつもりはない。その為にも話をせねばならぬのじゃ。分かるじゃろう?」
 これに、今までハンター達の活躍により説得を受けていた団員の大半は団長から離れた席に着く。最後に一人、団長を心配そうに見つめる団員が居たが、彼にリオンが近づき説得する。
「団長さんは視野狭窄に陥っているようですから、冷静になって貰う為にしばらく一人にした方が良いと思います。ですから、協力して貰えませんか?」
 甘やかな、耳に心地好い声。そして、すっと腕を絡めると、ふにんと柔らかで大きな胸を軽く押しつけるようにして、更に囁いた。
「ね? いいでしょう?」
 これに顔を真っ赤にした団員は、何かを口にしようとするが出来ず、リオンに誘導されるまま席に着く。それにリオンは優しげな笑みを浮かべると言う。
「よかったです、話の分かる人達で。分からない人達なら、最悪握り潰す所でしたから。大事な物を」
 そう言うと、笑顔のまま何かを握り潰す仕草をする。
「ひぃっ、この子怖い! 可愛いのに」
「飴と鞭だ!」
「でも、この子からのだと思うと悩む」
 どこか楽しそうに言う男性団員達に、女性団員達は白い目で見た。

 こんな騒動はありつつも、団長と団員達は離され説得できる態勢が整う。そして本格的に説得は始まった。
「先に断っておくで、ビビとキティは脅されてない。団長さんは二人の為に来た言うとったけど、そっちの意見は全くの言い掛かりやで?」
 アカーシャの言葉に団長は何か言おうとするが、更に畳み掛けるように続ける。
「それに、二人は団員らの為に無理しとるんやで。団員の人ら、毎日お駄賃や商品貰って帰っとるみたいやけど、それどこから出とると思っとるん? ビビとキティの自腹や。知らんかったやろ」
 今回の依頼を受けるに当たって、双子から事情を聞いていたアカーシャは団員達説得の為に事実を告げる。
 これに団員達は慌てて口を開いた。
「え、えっ、聞いてないよ!」
「本当?」
 これにビビとキティは返した。
「本当やけど、気にせんでええんよ。ウチらがそうしたいからしとるだけやし。折角仕事して貰っとるのに、タダ働きさせるのは嫌なんよ」
「働いたら、その分得られるもんがある。やから頑張れるし続けられるんよ。皆にはこれからも続けて働いて欲しいからしとるだけなんよ」
「言ってみれば先行投資やね。やからこれは、ウチら自身の意志でしとる事なんよ」
「そうなんよ。ウチらは自分自身の意志で、そうしたいからしとるんよ。それだけは、信じて欲しいんよ」
 切々と双子は団員と団長達に語り掛ける。それはアカーシャが話の糸口を導いてくれたからこそ、この場で口にする事の出来た言葉であったが、双子達本心の言葉でもある。
 だからこそ、その言葉には真実が宿り聞く者に実感させた。
 これにより団長がこの場に来た理由が否定される。団長がこの場に来た理由は、双子が自分の意志とは異なる事をさせられていると思っていたからだ。
 この時、団員達が団長を盛り上げるような動きを見せれば話は変わって来たが、ハンター達により切り離され、それぞれが説得される流れになっている。
 そうしたハンター達の行動が説得を良い方向へと導く。
「前の依頼で団員の人達に言ったから分かってくれていると思うけれど、今回みたいなことを繰り返していたら、団員の人達は取り返しのつかない事になると思うんです。団長さんは、それでも良いんですか?」
 ルーエルが想いを促すように問い掛ける。それに団長は応えた。
「良くない! 団員達は私の為に動いてくれたのだ! ならその全ては私に責任がある!」
「責任、ですか」
 団長の言葉に、自由を第一に考えながらも他者との関わり合いの大切さを意識する天央は、語り掛けるように言う。
「団長さん、団員の事を考えられる貴方の優しさは良いものだと思います。それは認められるべきものです。
 ですが貴方は今、責任と言いました。責任なんてものは、自分勝手を働いた後の言い訳でしかありません。その事を、貴方は自覚しているのではありませんか?」
 天央の言葉に団長は即座に反論できない。それは団長が自分の事をどこかで自覚しているからだ。
 その自覚をさらに促すように天央は続けた。
「貴方はジルダさんの事を愛しておられると言う。それは、ジルダさんの事を認めているという事でもあるのでしょう? そんなジルダさんは、魔術師協会会長職に就き、今も職務をこなしています。もし、それが本人の望みで無ければ、自分自身の意志で彼女は職を辞しているのではありませんか? 貴方の愛する人は、そういう方ではないのですか?」
 ジルダ自身の自由意思を尊重する言葉に団長は返せない。だが未練を見せるように団長は何かを言おうとした。
 しかしそれよりも、ざくろの問い掛けの方が速かった。
「そう言えば団長は、ジルダさんのどの辺りに惚れてて、団長は何処に惚れられてると思っているの?」
 これに団長は表情を明るくし勢い良く返した。
「ジルダの素晴らしい所が聞きたいのか! そんな物決まっている。輝いている所だ!」
 この世で一番嬉しい事を口にするように団長は続ける。
「彼女は自由なんだ。私が彼女に初めて会ったのは子供の頃だが、その頃から彼女は何からも自由で、大人にも誰にも負けていなかった」
 それは団長の最も輝かしい想い出。孤児として弟と二人、大人達相手に子供故の力の無さを噛み締める中、その大人達に一歩も引くことなく退けたジルダの姿。
 団長にとってジルダは、ヒロインであると同時にヒーローでもあった。
 その想いは声に込められ、言葉にするだけで周囲の皆に伝わってくる。だからこそ団長がジルダを好きなのはハンター達も実感できた。が、肝心のジルダも団長が好きという部分は余計に分からない。
 それが気になったルーエルは更に聞いた。
「団長さんがジルダさんの事を好きなのは分かったけれど、ジルダさんも本当にそうなの? さっき『私のジルダ』って言い切ってたし」
 これに団長は返した。
「当然だ。いいか、聞いてくれ。私は子供の頃、友人達と一緒にジルダを浚った事があってな」
 堂々と言う団長に思わずハンター達は突っ込みを入れる。
「それ、犯罪やろ!」
「ぬぅ、堂々と言うとは。ある意味清々しいのぅ。余計に苦手になるが……」
「……潰した方が良いでしょうか?」
 アカーシャはキレ良く、カエデは呆れた様に、リオンは右手で何かを握り潰すような仕草をしながら突っ込みを入れる。
 が、そんな事はお構いなしに団長は更に続けた。
「考えてみてくれ。彼女ほど凛々しく力のある素晴らしい女性が、子供の集団にむざむざ浚われる訳が無い! あれは彼女の意志で付いて来てくれたのだ!
 その後に恥ずかしがってちょっと嵐を巻き起こしたがそこがまたかわいい! 分かるだろう!」
「えっと、無理、かな」
「勘違いだと思います」
「ざくろもそう思うよ」
 ルーエルは苦笑いしながら、天央は諭すように、そしてざくろは苦笑しながら突っ込みを入れる。
「馬鹿な、なぜ分からない」
 本気で心外そうに言う団長に、弟のジュールは困ったように眉を寄せる。それに、ジュールのこれまでの表情から団員の中で苦労しているのだと判断した天央が、真実を促すように問い掛けた。
「本当に、そうなのですか?」
 もしこの時、これまでハンター達が団員達を力尽くで従わせようとしたり、団長の想いを問答無用で否定するようなことをしていればジュールは何も言わなかっただろう。
 だがハンター達の対応に、信用してもいいのだと判断したジュールは真実を口にする。
「兄さんごめん。あれ、単純に運が良かったから成功しただけだと思うよ」
 ジュールの言葉に体を固まらせた団長へ更に続ける。
「あの時、ジルダさんの乗ってた馬車を奪って連れ去ったけど、中でジルダさん寝てたんだよ。兄さん、馬を走らせてたから気付いてなかったかもしれないけど。その後アジトに運んで目を覚ました時に、兄さん勢い込んで入って来たでしょ。それでジルダさん驚いて、アジトとか吹っ飛ばしちゃったし。
 だから、ね、兄さん。その、勘違い、だと思うよ。ジルダさんが兄さんに好意持ってるっての」
 言葉を重ねるごとにジュールは苦しそうに、そして団長はピクリとも動かず黙って聞いていた。
 だが全てを聞き終えた後、団長は滝のように涙を流す。
「か、勘違い、勘違いだったのか……ぅ、ううっ、あ――」
 人目もはばからず、団長は本気で泣き出す。それは滑稽であり無様であったが、同時に団長のジルダへの本気の想いを感じさせた。
「ジ、ジルダは、うぅ、好き、じゃなくて……それに、なら、今でも……あの時みたいに、自由でいるのかなぁ……」
 失恋に泣きながら、それでも団長はジルダの事を想い声を上げる。それに返すようにカエデは言った。
「ここだけの話……伝え聞く所じゃと、ジルダさんは会長といっても割と好き勝手やってるようでのう……決して会長職に無理やりされてるわけじゃないのじゃ……その辺を理解してやってはくれぬかのう……?」
 これに団長は涙でグチャグチャの顔を向けながら聞き返す。
「本当、なのか?」
 これに双子が返した。
「そうみたいなんよ。前に、ジェオルジでお祭りがあったんやけど、会長さんそこでお祭り楽しんどったみたいなんよ」
「会長の仕事もちゃんとしとるみたいやけど、それと同じぐらい、自由に動いて楽しんどるみたいやね」
「そうか……今でも、彼女は自由なんだな……よかったぁ……」
 失恋で泣き顔をグチャグチャにしながら、それでもジルダの事を想い団長は笑顔を浮かべた。

 こうして依頼は解決を迎えた。双子の災難をアカーシャが労いそれに双子は感謝の言葉を返し、ジュールの苦労を天央が同情し労いの言葉を掛ける中、団長は団員達に慰められたという。
 その後、事の顛末を双子は魔術師協会へと伝えたのだが、それがその後どういう物語へと繋がったかは、またのお話。

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MVP一覧

  • 星の慧守
    アカーシャ・ヘルメースka0473
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智ka0896

重体一覧

参加者一覧

  • 星の慧守
    アカーシャ・ヘルメース(ka0473
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士

  • カエデ・グリーンフィールド(ka3568
    人間(紅)|13才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アカーシャ・ヘルメース(ka0473
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/01/18 20:48:30
アイコン 質問掲示板なんよ~
カタリーナ(kz0071
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/01/17 09:27:59
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/15 01:11:17