ゲスト
(ka0000)
トラ・トラ・トラ
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/20 07:30
- 完成日
- 2015/01/28 02:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
とある館に呼ばれた一人の学者。
相手をやり込めることに定評のある、トンチなる技を使うことができるという。
館までは数人の衛士に伴われ、切り開かれた道を行く。
「広い庭と呼べばいいのでしょうか。歩き疲れますね」
つるっぱげの頭を撫でながら、学者イックウは皮肉を述べる。
衛士は苦笑しながら、もうすぐですと答えるしかない。
「おやおや、館の裏には山ですか。ほうほう、これは珍しい」
同じ姿の植物が鬱蒼と生い茂る山、その植物の姿がイックウには珍しい。
枝がほとんどなく、まっすぐと直立に伸びている。
緑の幹には、ところどころ節がはいっているようだった。
「竹、ですな」
「ご存じですか」
衛士が感心したように言う。
これでも学者ですからとイックウはにまりと笑うのだった。
館に着いたイックウは、すぐさま館主に面会するよう促された。
通されたのは、館の大広間。豪奢な照明器具に、高そうな家具類。館主の男の腹はでっぷりとしていて、いかにもらしい風格がある。
髭をなでつける男の後ろには、幕のかかった大きな絵画があった。
「イックウ殿ですね。私が館主です」
挨拶もそこそこに、イックウは早速呼ばれた理由を尋ねた。
「なに、君のトンチとやらを見てみたくてね」
館主が執事に絵画の幕を外させた。イックウは思わず口笛を吹きそうになった。
裏山に生える竹林が、館主の数倍あろうキャンパス全体に描かれていた。
その真ん中には2匹の虎。そのうち、一匹は白虎である。
東の技術であろうか。見たことのない筆致で描かれている。
荒々しいが洗練された印象を受けた。
「この絵がどうかされたのでしょうか?」
「うむ。実はこの虎が暴れておってな。安心して眠れぬのだ」
つまり、この絵の虎を退治してほしいということなのだろう。
絵の中の虎退治とは、また難題だと頭をこねくり回す。
「どうか、得意のトンチで退治してはくれないだろうか」
館主の言葉に、それきたと両手の人差し指で禿頭を撫でる。
どこかから軽妙な打音が聞こえるような気がした。
「チーン!」と鈴のような音が懐中時計から鳴った。
「わかりました。それでは、まず絵の中から虎をお出しください。さすれば、このイックウめが退治してしんぜましょう」
難題には難題で返せば良い。
これぞ、72あるトンチ技の中の一つ。難題返しである。
イックウの言葉を聞いた館主は、喜んで告げた。
「そうか! それでは裏山にだな……」
「待って」
「ん? どうした」
「いえ、虎というのは絵の中の……」
「だから、この虎が裏山に出おってな」
「絵から察するに牛の倍はありますよね」
「そうだぞ?」
これはとんだ思い違い。
イックウは慌ててできないと告げると、トンチの説明に苦慮するのであった。
「ならば、どうすればいいのだ」と食い下がる館主に、イックウはにこやかに言う。
「専門の業者に委託いたしましょう」
●
「虎退治の専門業者ハンターオフィスでーす」
誰に向かってこのスタッフは言っているのだろうか。
それは、決して気にしてはいけない。
「というわけで、竹林に現れた虎退治の依頼です。雷撃撃ってくるらしいです」
参考資料に視線を落とし、淡々と述べていく。
館の裏山、竹林の奥の方に三体確認されている。そのうち一体は、白虎だ。
「ところで、竹林ってチクリンっていうモンスターみたいですよね」
〆にそんなことをいうスタッフの明日はどっちだ。
とある館に呼ばれた一人の学者。
相手をやり込めることに定評のある、トンチなる技を使うことができるという。
館までは数人の衛士に伴われ、切り開かれた道を行く。
「広い庭と呼べばいいのでしょうか。歩き疲れますね」
つるっぱげの頭を撫でながら、学者イックウは皮肉を述べる。
衛士は苦笑しながら、もうすぐですと答えるしかない。
「おやおや、館の裏には山ですか。ほうほう、これは珍しい」
同じ姿の植物が鬱蒼と生い茂る山、その植物の姿がイックウには珍しい。
枝がほとんどなく、まっすぐと直立に伸びている。
緑の幹には、ところどころ節がはいっているようだった。
「竹、ですな」
「ご存じですか」
衛士が感心したように言う。
これでも学者ですからとイックウはにまりと笑うのだった。
館に着いたイックウは、すぐさま館主に面会するよう促された。
通されたのは、館の大広間。豪奢な照明器具に、高そうな家具類。館主の男の腹はでっぷりとしていて、いかにもらしい風格がある。
髭をなでつける男の後ろには、幕のかかった大きな絵画があった。
「イックウ殿ですね。私が館主です」
挨拶もそこそこに、イックウは早速呼ばれた理由を尋ねた。
「なに、君のトンチとやらを見てみたくてね」
館主が執事に絵画の幕を外させた。イックウは思わず口笛を吹きそうになった。
裏山に生える竹林が、館主の数倍あろうキャンパス全体に描かれていた。
その真ん中には2匹の虎。そのうち、一匹は白虎である。
東の技術であろうか。見たことのない筆致で描かれている。
荒々しいが洗練された印象を受けた。
「この絵がどうかされたのでしょうか?」
「うむ。実はこの虎が暴れておってな。安心して眠れぬのだ」
つまり、この絵の虎を退治してほしいということなのだろう。
絵の中の虎退治とは、また難題だと頭をこねくり回す。
「どうか、得意のトンチで退治してはくれないだろうか」
館主の言葉に、それきたと両手の人差し指で禿頭を撫でる。
どこかから軽妙な打音が聞こえるような気がした。
「チーン!」と鈴のような音が懐中時計から鳴った。
「わかりました。それでは、まず絵の中から虎をお出しください。さすれば、このイックウめが退治してしんぜましょう」
難題には難題で返せば良い。
これぞ、72あるトンチ技の中の一つ。難題返しである。
イックウの言葉を聞いた館主は、喜んで告げた。
「そうか! それでは裏山にだな……」
「待って」
「ん? どうした」
「いえ、虎というのは絵の中の……」
「だから、この虎が裏山に出おってな」
「絵から察するに牛の倍はありますよね」
「そうだぞ?」
これはとんだ思い違い。
イックウは慌ててできないと告げると、トンチの説明に苦慮するのであった。
「ならば、どうすればいいのだ」と食い下がる館主に、イックウはにこやかに言う。
「専門の業者に委託いたしましょう」
●
「虎退治の専門業者ハンターオフィスでーす」
誰に向かってこのスタッフは言っているのだろうか。
それは、決して気にしてはいけない。
「というわけで、竹林に現れた虎退治の依頼です。雷撃撃ってくるらしいです」
参考資料に視線を落とし、淡々と述べていく。
館の裏山、竹林の奥の方に三体確認されている。そのうち一体は、白虎だ。
「ところで、竹林ってチクリンっていうモンスターみたいですよね」
〆にそんなことをいうスタッフの明日はどっちだ。
リプレイ本文
●
さわさわと笹の擦れる音が、耳につく。
竹やぶの中をハンターたちが隊列を組んで進んでいた。
「リアルブルーにいたころじゃ、虎と戦うなんて思いもしなかったよなー」
「そういうものか」
岩井崎 旭(ka0234)が何気なく呟いた一言に、クリスティン・ガフ(ka1090)が反応した。
「私は雷を使う虎もどきの……ぬえだったかを竹やりで退治する話を読んだことがある」
あれは何の本だったかと思いを巡らし、ぽんと手を打つ。
「確か、チクリン・シバレルブリーダーの『ライトニングタイガー・タイジジツ・バクハツシサン・ヘン』だったか」
怪しげな書物の題名をきりっとした顔で語る。
心半ばに旭は聞きながら、目を凝らす。鬱蒼とした竹林では、視界が悪い。
「だが、害のないもふもふなら大歓迎だが、物理的に痺れるほどのもふもふは勘弁だな」
もふもふとまじめに口にするクリスティンを、旭は思わず見やるのだった。
「まったく……あれだけの財を成しながら、自身の責任の重さをわかっていないのか。そう思うよね?」
旭らのやや後方、イーディス・ノースハイド(ka2106)は依頼主に対する愚痴を語っていた。
自身や使用人の安全を確保せず、悠々としていた館主に対して緊張感が足りないという。
「まあまあ、色々と理由もあるんだろう」
「そうはいっても……」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)に宥められ、イーディスは嘆息を零す。
「とはいえ、今回は私達が決着をつけるからね」
「とんちをきかせることは出来ないが、虎退治だからな」
後ろを見れば、目があった夢路 まよい(ka1328)が無邪気に手を降っていた。
「さて、山狩りか」
手を振るまよいの横で、堂島 龍哉(ka3390)が低く呟く。
まよいと合わせ周囲を見渡す。竹の背は高く、日差しが乏しい。
「虎さんはどこかな?」
薄暗い中で目を凝らせど、そよぐ笹の葉が見えるばかり。
二人の周囲を歩く、水雲 エルザ(ka1831)と武神 守悟(ka3517)もあたりを警戒する。
特にエルザは、何らかの痕跡が残っていないか、竹や茂みにも気を配る。
気になることがあれば、他の三人へ伺いを立てる。
「あれは、爪痕でしょうか」
「古そうだし……虎だった頃のじゃねーか?」
「そうかもしれませんね」
「一応、気に留めておこう」
ふと、まよいが守悟の頭をじっと見た。
視線に気づき、まよいを見下ろして言う。
「俺の頭は、虎じゃないからな?」
●
竹やぶの中を進むうち、藪の一部に真新しい踏み跡を見つけた。
「より、警戒が必要ですね」とエルザが警戒を強める。
次の方向を決めるべく、集まろうとした矢先、
「あれ、何か光った?」
まよいの視覚が眩いものを捉えた。
それが雷撃だと気づいた時には、目前にまで迫っていた。咄嗟に防ぐが頭をかすめていった。
同時に、旭が強烈な雷撃に打たれて跳んだ。
「大丈夫っ。あっちだ!」
受け身をとって剣を抜く、視線の先に白虎が見えた。
「よし、俺達の出番だな。任せてときな!」
エヴァンスが駈け出し、イーディスが続く。
旭は身を反転させ、まよいを狙った虎を見た。
「私達も行くぞ」
キリッとした表情でクリスティンが告げ、旭と併走する。
壁役を見送り、立ち上がったまよいも杖を構えた。
「大勢だから見つかっちゃったのかな?」
「どうだろうな。いずれにせよ、思索は後だ」
龍哉も弓を手に、虎を睨めつける。
その周囲をエルザと守悟が固め、最後の一体を探る。
「護衛は任せとけ。白いのは頼むぞ―」
虎柄頭から、黒髪へ覚醒し守悟は日本刀を抜くのだった。
●
白虎を逃がすまいとエヴァンスは、竹の間をすり抜けると白虎の後ろを取った。
一方でイーディスは、接敵を目指す。が、突如視界が白に染まる。
「くっ」
間を縫った白虎の雷撃。盾で咄嗟に身を隠そうとするが、間に合わず。
かろうじて姿勢を屈めつつ、受け流せた。
隙を見て再び地を蹴った。
旭とクリスティンは、白虎とは逆方向に向かう。
白虎より体格は小さく見えるが、それでも歪虚と化した虎である。
巨躯から繰り出される爪撃は、竹をへし折る威力は見せる。
「当たらなければ、どうということはないな」
間合いすれすれで足を止めたクリスティンの前に、竹が倒れてきた。
足元に転がった竹を拾い上げ、距離を取ろうとする虎の行く手に投擲する。
「早々、逃さないぜ」
旭も圧を強めつつ、立ち位置を動かす。
開けたところへ、石つぶてが放たれた。しかし、虎はこれを回避。鋭い視線を竹やぶの奥へ向ける。
「避けられちゃった」
まよいは考える仕草を見せ、
「確か電気のビリビリって、アースがあればどうこうできちゃうんでしょ」
と集中し直す。
「アルケミストの人から教えてもらったよ」
楽しげにいう隣で龍哉が弓を引き絞る。
後方へ虎の意識が向かないよう、旭が武器を大きく振りかざす。
「どうした、猫ちゃんよー。隙だらけだぜ!」
視線がまよいから外れた瞬間、矢から手を離した。
龍哉の下を離れた矢が、風切り音を奏で飛来する。
縫い付けるように虎の脚元を穿った。
「龍哉さん、私達も出番のようです」
一言声をかけるやいなや、エルザが動き出した。
守悟も気づいたらしく、エルザの後を追う。
「お出ましか。一気に詰めてやる」
全力でエルザを追い抜き、刀で顔めがけて斬りつける。
辛くも避けられたが、逃さぬようピッタリと追いすがる。
最後の一匹には、雷撃を放つ隙を与えなかった。
●
石つぶてと弓矢を避けて、虎は一歩後ずさり、雷撃を放とうとする。
それを阻むべく、竹を軸にクリスティンがくるりと回る。
さらに一歩踏み込み、剣を振るう。流れた刃が虎の脚元を切り裂いた。
「もう、逃げられない。ハイクを……コホン」
何か決めようとし、咳払いでごまかす。
「そろそろ、どうか……なっ」
矢が狙うは手負いならぬ、足負いの虎。
だが、その動きは未だに疾く。雷撃を収め、さっと身を引く。
その手前を石つぶてが穿つ。
「逃さない、ぞ」
旭の振りかぶった一撃は空を切り、竹を割る。
反撃とばかりに、虎が跳びかかる。だが、踏み込みが甘い。
脚の乱れたところへ、旭が刃を虎の土手っ腹に叩き込む。
続けざまにクリスティンが逆側から突き上げた。
「……っ」
辛うじて立ち上がった虎から、飛び退く。その瞬間、大きな石と矢が同時に着弾した。
痛切な唸り声を発し、虎がその場に崩れる。
「アワレ、ライトニングタイガーはバクハツシサン!」
「え?」
唐突に宣言したクリスティンに旭がみみずくの顔を向けた。
またもや咳払いでなかったことにし、キリッとした顔を見せる。
「……いや、なんでもない。次へ行くぞ」
一匹目の慟哭が響く前、白虎に肉薄したイーディスは守りを堅める。
逆にエヴァンスは白虎の注意がイーディスに向き、攻勢に出る・
「さあさあ、白虎! 俺が相手をさせてもらおうじゃねえか」
気合を入れ、側面に潜り込み渾身の力で槍を放つ。白虎は避けると、声を荒らげて威嚇を見せる。
イーディスが剣をちらつかせ、
「次は私だ」と白虎をそそのかす。
白虎の後ろ足が地を蹴り、身体が跳んだ。
胸元に盾を構えたイーディスは、加重のかかった白虎を受け止めてみせた。後ろ足で地面を削り、耐え切ると盾で押し返す。
堂々と立ちふさがるイーディスに、白虎は咆哮するのであった。
白虎の咆哮は、まよいたちを挟んで逆側にいるエルザたちにも届いていた。
振り返ることなく、エルザは祈りによって己のマテリアルを高め、虎に対峙する。
「ふっ」と一息に脚元を狙って日本刀で突く。
偶然にも脇腹の毛皮を刃は裂いた。
「一つ、かましてやるとするか」
意気込んで回り込んだ守悟が、一閃。鋭い斬撃は、竹を切り落とすのみ。
二撃、三撃と刀を振るうが、空を切り、竹を断つ。
「だが、当たらなければお互い様だな」
一方で虎の爪も、地面を抉るのみ。エルザと二人、虎相手に一進一退の攻防を見せていた。
均衡を破ったのは、風切り音。
矢が虎の腹部を射抜く。続けざまに石の弾丸が襲いかかる。
いきり立った虎は、跳躍。一気に竹の間を駆け抜けようとする。
「しまった」
守悟も全力で追いかけるが、間に合わない。
「舐めるなよ、野獣風情が甚だしい……!」
声を荒らげ、龍哉は銃を手にする。
向かって来る虎から距離を取るように、やや後退しつつ引き金を引く。
弾丸に屈せず前へ向かう虎を阻んだのは、門前に深く突き刺さった竹だった。
「きかん坊なもふもには、お仕置きが必要だな」
一閃、剣を振るったのはクリスティンだった。
虎の後方からは。エルザと守悟も追いつく。
「助かりました」
すぐさまエルザは一撃を虎の脚元へ叩き込む。
身を捩り辛くも虎は避けるが、命運はそこで尽きた。
飛来した矢が片目を貫き、痛切な悲鳴を上げた。
「終わりだな」
素早く回り込んだ守悟が、鋭く胴を切り払いとどめを刺す。
ドッと倒れこんだ虎を一瞥すると、
「残るは白虎か。フッ、いい毛並みだ。剥ぎとって飾り付けてやろう」
残る白虎へ視線を移した。
●
白虎と対するイーディスは、エヴァンスを庇うように立ちまわっていた。
雷撃を打つ間合いを取らせず、肉薄したまま守りを堅める。
他の虎と違い、白虎の体躯は大きく、竹を壁のように用いていた。
「っせい!」
動きを止めた白虎へ、気合を入れエヴァンスが槍を振るう。
白虎の慟哭に負けず劣らず、咆哮し放たれた一撃は白虎の背を大きく裂いた。
背骨をへし折られたような斬撃に、白虎はたじろぐ。
「仲間はどうやら倒されたみたいよ」
白虎の視線を誘導しながら、イーディスが白虎に告ぐ。
言葉はわからずとも、状況の不利を悟ることはできた。
「うぉおおおおおおおお!」
そこへ咆哮を上げ、人間大のミミズクが迫る。
白虎の思考回路は混乱をきたし、一種の思考停止状態へ陥った。
まよいが放った石の弾丸を避け、エヴァンスの重い一撃にも意地で耐える。
「どうしたの、攻撃してこないの?」
だが、攻勢に身体が移れない。
白虎の瞳は怯えを見せ、吠え散らかすのみ。
接近を果たした旭が、剣を振り切り白虎の体勢を崩した。
立て直すことなく、そのまま前足を繰り出すが、イーディスが受けきった。
「さあ、これで幕引きだ」
ガスっと鈍い音が響く。白虎は小さく痙攣すると、地面に倒れた。
槍を地面につきたて、エヴァンスは豪快に笑う。
「竹林に虎、槍で退治……伝承みたいってのは気持ちが良いな」
●
「次からはもう少し緊張感を持つべきだよ」
招かれた席でイーディスは館主を前に、きっぱりと言い放っていた。
苦笑いをする館主に生真面目に告げるイーディスの肩をエヴァンスがつかむ。
「まぁまぁ。今回は片が付いたんだ。今は、たけのこご飯をいただこうじゃないか」
「しかし……」
他のハンターの様子を見れば、すでにご馳走を頂いていた。
思わずため息が漏れる。
一礼して、イーディスは観衆の前を去った。
エヴァンスも後に続く。
「向こうに居た時以来だなー」
ぽつりと懐かしむように、守悟がいう。
目の前にはほかほかのたけのこご飯が盛られていた。
「こっちでもたけのこがあるとはな」
龍哉が同意するように頷く。
その隣では旭が、たけのことご飯の塩梅を調整していた。
「たけのこ大盛りで! いや、むしろたけのこで!」
「たけのこだけ?」
戻ってきたエヴァンスの疑問に、旭は恥ずかしげに答える。
「少食だから、ご飯よりたけのこ多めが食べたいんだ」
盛られたたけのこマシましのご飯を、噛みしめるように食べていく。
一息ついて、うんうんと何度も頷く。
「そうそう、これだよ!」
「確かに美味しいな」
「美味しいよね―」
クリムゾンウェスト出身のまよいやクリスティンも、たけのこの美味に舌鼓を打つ。
シャクシャクとした食感と、ほんのり苦味がありつつも、甘い味わい。
「でも、リアルブルーに比べて癖がありますね」
エルザがシャクりとたけのこを食べながら、感想を述べる。
調味料がすべてそのままでないからか、独特な味付けがなされていた。
「それでも、懐かしい味わいにかわりはないなー」
「懐かしいといえば……」
エルザが思い出したように、辺りを見渡す。
あ、と小さく声を出したエルザの視線の先に坊主頭の男性が居た。
利発そうな顔立ちは、どこか人を喰ったような表情を見せる。
「イックウさん……世の中に似た人はいるといいますけど」
じぃっと見ていると、気づいたのか不思議そうな顔を男性は見せた。
視線をそらし、天を仰ぐ。
「世界が違ってもいるんですね」
竹に、たけのこ、イックウさん。
懐かしさを感じながら、たけのこご飯を口に運ぶ。
「おかわり! たけのこマシマシで!」
元気な声が、館に響くのであった。
さわさわと笹の擦れる音が、耳につく。
竹やぶの中をハンターたちが隊列を組んで進んでいた。
「リアルブルーにいたころじゃ、虎と戦うなんて思いもしなかったよなー」
「そういうものか」
岩井崎 旭(ka0234)が何気なく呟いた一言に、クリスティン・ガフ(ka1090)が反応した。
「私は雷を使う虎もどきの……ぬえだったかを竹やりで退治する話を読んだことがある」
あれは何の本だったかと思いを巡らし、ぽんと手を打つ。
「確か、チクリン・シバレルブリーダーの『ライトニングタイガー・タイジジツ・バクハツシサン・ヘン』だったか」
怪しげな書物の題名をきりっとした顔で語る。
心半ばに旭は聞きながら、目を凝らす。鬱蒼とした竹林では、視界が悪い。
「だが、害のないもふもふなら大歓迎だが、物理的に痺れるほどのもふもふは勘弁だな」
もふもふとまじめに口にするクリスティンを、旭は思わず見やるのだった。
「まったく……あれだけの財を成しながら、自身の責任の重さをわかっていないのか。そう思うよね?」
旭らのやや後方、イーディス・ノースハイド(ka2106)は依頼主に対する愚痴を語っていた。
自身や使用人の安全を確保せず、悠々としていた館主に対して緊張感が足りないという。
「まあまあ、色々と理由もあるんだろう」
「そうはいっても……」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)に宥められ、イーディスは嘆息を零す。
「とはいえ、今回は私達が決着をつけるからね」
「とんちをきかせることは出来ないが、虎退治だからな」
後ろを見れば、目があった夢路 まよい(ka1328)が無邪気に手を降っていた。
「さて、山狩りか」
手を振るまよいの横で、堂島 龍哉(ka3390)が低く呟く。
まよいと合わせ周囲を見渡す。竹の背は高く、日差しが乏しい。
「虎さんはどこかな?」
薄暗い中で目を凝らせど、そよぐ笹の葉が見えるばかり。
二人の周囲を歩く、水雲 エルザ(ka1831)と武神 守悟(ka3517)もあたりを警戒する。
特にエルザは、何らかの痕跡が残っていないか、竹や茂みにも気を配る。
気になることがあれば、他の三人へ伺いを立てる。
「あれは、爪痕でしょうか」
「古そうだし……虎だった頃のじゃねーか?」
「そうかもしれませんね」
「一応、気に留めておこう」
ふと、まよいが守悟の頭をじっと見た。
視線に気づき、まよいを見下ろして言う。
「俺の頭は、虎じゃないからな?」
●
竹やぶの中を進むうち、藪の一部に真新しい踏み跡を見つけた。
「より、警戒が必要ですね」とエルザが警戒を強める。
次の方向を決めるべく、集まろうとした矢先、
「あれ、何か光った?」
まよいの視覚が眩いものを捉えた。
それが雷撃だと気づいた時には、目前にまで迫っていた。咄嗟に防ぐが頭をかすめていった。
同時に、旭が強烈な雷撃に打たれて跳んだ。
「大丈夫っ。あっちだ!」
受け身をとって剣を抜く、視線の先に白虎が見えた。
「よし、俺達の出番だな。任せてときな!」
エヴァンスが駈け出し、イーディスが続く。
旭は身を反転させ、まよいを狙った虎を見た。
「私達も行くぞ」
キリッとした表情でクリスティンが告げ、旭と併走する。
壁役を見送り、立ち上がったまよいも杖を構えた。
「大勢だから見つかっちゃったのかな?」
「どうだろうな。いずれにせよ、思索は後だ」
龍哉も弓を手に、虎を睨めつける。
その周囲をエルザと守悟が固め、最後の一体を探る。
「護衛は任せとけ。白いのは頼むぞ―」
虎柄頭から、黒髪へ覚醒し守悟は日本刀を抜くのだった。
●
白虎を逃がすまいとエヴァンスは、竹の間をすり抜けると白虎の後ろを取った。
一方でイーディスは、接敵を目指す。が、突如視界が白に染まる。
「くっ」
間を縫った白虎の雷撃。盾で咄嗟に身を隠そうとするが、間に合わず。
かろうじて姿勢を屈めつつ、受け流せた。
隙を見て再び地を蹴った。
旭とクリスティンは、白虎とは逆方向に向かう。
白虎より体格は小さく見えるが、それでも歪虚と化した虎である。
巨躯から繰り出される爪撃は、竹をへし折る威力は見せる。
「当たらなければ、どうということはないな」
間合いすれすれで足を止めたクリスティンの前に、竹が倒れてきた。
足元に転がった竹を拾い上げ、距離を取ろうとする虎の行く手に投擲する。
「早々、逃さないぜ」
旭も圧を強めつつ、立ち位置を動かす。
開けたところへ、石つぶてが放たれた。しかし、虎はこれを回避。鋭い視線を竹やぶの奥へ向ける。
「避けられちゃった」
まよいは考える仕草を見せ、
「確か電気のビリビリって、アースがあればどうこうできちゃうんでしょ」
と集中し直す。
「アルケミストの人から教えてもらったよ」
楽しげにいう隣で龍哉が弓を引き絞る。
後方へ虎の意識が向かないよう、旭が武器を大きく振りかざす。
「どうした、猫ちゃんよー。隙だらけだぜ!」
視線がまよいから外れた瞬間、矢から手を離した。
龍哉の下を離れた矢が、風切り音を奏で飛来する。
縫い付けるように虎の脚元を穿った。
「龍哉さん、私達も出番のようです」
一言声をかけるやいなや、エルザが動き出した。
守悟も気づいたらしく、エルザの後を追う。
「お出ましか。一気に詰めてやる」
全力でエルザを追い抜き、刀で顔めがけて斬りつける。
辛くも避けられたが、逃さぬようピッタリと追いすがる。
最後の一匹には、雷撃を放つ隙を与えなかった。
●
石つぶてと弓矢を避けて、虎は一歩後ずさり、雷撃を放とうとする。
それを阻むべく、竹を軸にクリスティンがくるりと回る。
さらに一歩踏み込み、剣を振るう。流れた刃が虎の脚元を切り裂いた。
「もう、逃げられない。ハイクを……コホン」
何か決めようとし、咳払いでごまかす。
「そろそろ、どうか……なっ」
矢が狙うは手負いならぬ、足負いの虎。
だが、その動きは未だに疾く。雷撃を収め、さっと身を引く。
その手前を石つぶてが穿つ。
「逃さない、ぞ」
旭の振りかぶった一撃は空を切り、竹を割る。
反撃とばかりに、虎が跳びかかる。だが、踏み込みが甘い。
脚の乱れたところへ、旭が刃を虎の土手っ腹に叩き込む。
続けざまにクリスティンが逆側から突き上げた。
「……っ」
辛うじて立ち上がった虎から、飛び退く。その瞬間、大きな石と矢が同時に着弾した。
痛切な唸り声を発し、虎がその場に崩れる。
「アワレ、ライトニングタイガーはバクハツシサン!」
「え?」
唐突に宣言したクリスティンに旭がみみずくの顔を向けた。
またもや咳払いでなかったことにし、キリッとした顔を見せる。
「……いや、なんでもない。次へ行くぞ」
一匹目の慟哭が響く前、白虎に肉薄したイーディスは守りを堅める。
逆にエヴァンスは白虎の注意がイーディスに向き、攻勢に出る・
「さあさあ、白虎! 俺が相手をさせてもらおうじゃねえか」
気合を入れ、側面に潜り込み渾身の力で槍を放つ。白虎は避けると、声を荒らげて威嚇を見せる。
イーディスが剣をちらつかせ、
「次は私だ」と白虎をそそのかす。
白虎の後ろ足が地を蹴り、身体が跳んだ。
胸元に盾を構えたイーディスは、加重のかかった白虎を受け止めてみせた。後ろ足で地面を削り、耐え切ると盾で押し返す。
堂々と立ちふさがるイーディスに、白虎は咆哮するのであった。
白虎の咆哮は、まよいたちを挟んで逆側にいるエルザたちにも届いていた。
振り返ることなく、エルザは祈りによって己のマテリアルを高め、虎に対峙する。
「ふっ」と一息に脚元を狙って日本刀で突く。
偶然にも脇腹の毛皮を刃は裂いた。
「一つ、かましてやるとするか」
意気込んで回り込んだ守悟が、一閃。鋭い斬撃は、竹を切り落とすのみ。
二撃、三撃と刀を振るうが、空を切り、竹を断つ。
「だが、当たらなければお互い様だな」
一方で虎の爪も、地面を抉るのみ。エルザと二人、虎相手に一進一退の攻防を見せていた。
均衡を破ったのは、風切り音。
矢が虎の腹部を射抜く。続けざまに石の弾丸が襲いかかる。
いきり立った虎は、跳躍。一気に竹の間を駆け抜けようとする。
「しまった」
守悟も全力で追いかけるが、間に合わない。
「舐めるなよ、野獣風情が甚だしい……!」
声を荒らげ、龍哉は銃を手にする。
向かって来る虎から距離を取るように、やや後退しつつ引き金を引く。
弾丸に屈せず前へ向かう虎を阻んだのは、門前に深く突き刺さった竹だった。
「きかん坊なもふもには、お仕置きが必要だな」
一閃、剣を振るったのはクリスティンだった。
虎の後方からは。エルザと守悟も追いつく。
「助かりました」
すぐさまエルザは一撃を虎の脚元へ叩き込む。
身を捩り辛くも虎は避けるが、命運はそこで尽きた。
飛来した矢が片目を貫き、痛切な悲鳴を上げた。
「終わりだな」
素早く回り込んだ守悟が、鋭く胴を切り払いとどめを刺す。
ドッと倒れこんだ虎を一瞥すると、
「残るは白虎か。フッ、いい毛並みだ。剥ぎとって飾り付けてやろう」
残る白虎へ視線を移した。
●
白虎と対するイーディスは、エヴァンスを庇うように立ちまわっていた。
雷撃を打つ間合いを取らせず、肉薄したまま守りを堅める。
他の虎と違い、白虎の体躯は大きく、竹を壁のように用いていた。
「っせい!」
動きを止めた白虎へ、気合を入れエヴァンスが槍を振るう。
白虎の慟哭に負けず劣らず、咆哮し放たれた一撃は白虎の背を大きく裂いた。
背骨をへし折られたような斬撃に、白虎はたじろぐ。
「仲間はどうやら倒されたみたいよ」
白虎の視線を誘導しながら、イーディスが白虎に告ぐ。
言葉はわからずとも、状況の不利を悟ることはできた。
「うぉおおおおおおおお!」
そこへ咆哮を上げ、人間大のミミズクが迫る。
白虎の思考回路は混乱をきたし、一種の思考停止状態へ陥った。
まよいが放った石の弾丸を避け、エヴァンスの重い一撃にも意地で耐える。
「どうしたの、攻撃してこないの?」
だが、攻勢に身体が移れない。
白虎の瞳は怯えを見せ、吠え散らかすのみ。
接近を果たした旭が、剣を振り切り白虎の体勢を崩した。
立て直すことなく、そのまま前足を繰り出すが、イーディスが受けきった。
「さあ、これで幕引きだ」
ガスっと鈍い音が響く。白虎は小さく痙攣すると、地面に倒れた。
槍を地面につきたて、エヴァンスは豪快に笑う。
「竹林に虎、槍で退治……伝承みたいってのは気持ちが良いな」
●
「次からはもう少し緊張感を持つべきだよ」
招かれた席でイーディスは館主を前に、きっぱりと言い放っていた。
苦笑いをする館主に生真面目に告げるイーディスの肩をエヴァンスがつかむ。
「まぁまぁ。今回は片が付いたんだ。今は、たけのこご飯をいただこうじゃないか」
「しかし……」
他のハンターの様子を見れば、すでにご馳走を頂いていた。
思わずため息が漏れる。
一礼して、イーディスは観衆の前を去った。
エヴァンスも後に続く。
「向こうに居た時以来だなー」
ぽつりと懐かしむように、守悟がいう。
目の前にはほかほかのたけのこご飯が盛られていた。
「こっちでもたけのこがあるとはな」
龍哉が同意するように頷く。
その隣では旭が、たけのことご飯の塩梅を調整していた。
「たけのこ大盛りで! いや、むしろたけのこで!」
「たけのこだけ?」
戻ってきたエヴァンスの疑問に、旭は恥ずかしげに答える。
「少食だから、ご飯よりたけのこ多めが食べたいんだ」
盛られたたけのこマシましのご飯を、噛みしめるように食べていく。
一息ついて、うんうんと何度も頷く。
「そうそう、これだよ!」
「確かに美味しいな」
「美味しいよね―」
クリムゾンウェスト出身のまよいやクリスティンも、たけのこの美味に舌鼓を打つ。
シャクシャクとした食感と、ほんのり苦味がありつつも、甘い味わい。
「でも、リアルブルーに比べて癖がありますね」
エルザがシャクりとたけのこを食べながら、感想を述べる。
調味料がすべてそのままでないからか、独特な味付けがなされていた。
「それでも、懐かしい味わいにかわりはないなー」
「懐かしいといえば……」
エルザが思い出したように、辺りを見渡す。
あ、と小さく声を出したエルザの視線の先に坊主頭の男性が居た。
利発そうな顔立ちは、どこか人を喰ったような表情を見せる。
「イックウさん……世の中に似た人はいるといいますけど」
じぃっと見ていると、気づいたのか不思議そうな顔を男性は見せた。
視線をそらし、天を仰ぐ。
「世界が違ってもいるんですね」
竹に、たけのこ、イックウさん。
懐かしさを感じながら、たけのこご飯を口に運ぶ。
「おかわり! たけのこマシマシで!」
元気な声が、館に響くのであった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 堂島 龍哉(ka3390) 人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/19 20:35:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/15 10:07:12 |