ゲスト
(ka0000)
情景 しじまに吹く風
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/18 15:00
- 完成日
- 2015/01/25 15:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
父との思い出は、そう多くはない。
創設とほぼ同時に宇宙軍として勤めることになった父は、何もかもが新しいその事業の中でかなり忙しかったようで、家に戻れる日も、僕が起きている時刻に帰って来られる事はあまりなかった。
ただそれでも。
例えば、眠りの浅い夜に朧げに感じた、低く柔らかい声で呼ばれる己の名と、頭と頬を撫でる大きな掌の感触。
短い時間の中、不器用でも、残されたぬくもりはあった。
――愛されていたと、思う。
その推論が確信に変わる事は、もうないのだが。
父は、短い時間に語ってくれた夢もろとも。
火星へ向かう宙に砕け散ったからだ。
●
ハンターオフィスで、ぼんやりと掲示を見上げていたときだった。
「その依頼、受けるの?」
不意に掛けられた声に、振り向く。
一人の少女がそこにいた。服装と振る舞いからして、クリムゾンウェストの人と思われた。
「――……あなたは?」
「んーいや。あたしはなんとなく依頼探してるだけだから、まだ決めたわけじゃないけど」
「……。いえそうでなく。あなたは誰ですか?」
見覚えのない顔だった。もしかしていつかどこかの依頼で同行したのだろうかとも思ったが、引っ掛かる記憶はない。
「あーそうか。ごめんごめん、えっとあたしは――……」
てへ、と笑いながら少女が名乗る名は、やはり聞き覚えのないもの。
というか、改めて名乗るということはつまり。
「……初対面、ですよね?」
「うん、そうだよ」
「それでいきなり、声を掛けてきたと?」
「うん。なんか熱心に見てるなーと思って」
……。
いや、彼女の性格の良し悪しについて、ここで僕一人が判ずるのはよそう。
人によっては好ましく感じるものではあるのだろう。分け隔てなく振りまかれる愛想。それが、決して見た目も印象も悪くない少女からのものであればなおさら。
それが素直に受け止められない要因は、むしろどこかささくれ立った僕の気分のほうにある。
冷静になろうと、僕はそう分析して気持ちを落ち着けて――おや?
ささくれ立っている。
僕の気持ちは今、ささくれ立っているのか。
間の抜けたことに、そうして僕は今更、そのことを自覚した。
「それで、その依頼、何かあるの?」
お構い無しに、少女は再び話しかけてくる。……僕の心情はともかく、初対面の人間にいきなり声をかけたことについて、怪訝さを表明したことについてはもう少し構って欲しいのだが。
「……さあ」
ただ、僕がそっけなく返事をしたことは、別に意趣返しというわけではない。
傍目には熱心に見ていたように見えたのかも知れないが、実のところ、適当に視点を定めていただけで、内容などロクに頭に入っていなかったのだ。
改めて、依頼の内容を確認する。
最近良く見る、辺境での討伐依頼だった。
可もなく不可もない。だからこそ、これまでの僕であれば、こんなものかと応募していた依頼。
――今は即断できない。
要するに、今の生活にある程度余裕が出てきたということなのだろう。
突如異世界に飛ばされ、覚醒者とやらになり力に目覚めた結果、ひとまず生活の糧を得るためにハンターという生き方を選んだ。
思い返すそれだけで、眩暈がするような急転直下。……そんな激変にも、僕はいつの間にか慣れてしまったわけだ。
だから、考える余裕が生まれてしまった。
僕は今何をしているのか。
僕がすべきことは、今この世界で戦うことなのか。
そうして闘う先に、僕に何がある?
……気付いてしまった。
気づかないほうがよかったんだろうか。
だけど、いつかは考えなければならない問題。
そうして、暫くぼんやりと、僕はまだそこに佇んでいたと思う。
「でー、結局、どうするの?」
……先ほどの少女はまだ、そこにいた。
「僕がこの依頼に応じるか否かについて、あなたに何か関わりが?」
「あーうー。さっきから冷たいなー。スーパークールだなー。うん、何か悔しいから、君が参加するならあたしも参加するー」
……何故そうなる。何故。
溜息と共に、僕は告げた。
「……僕は、あなたと親しくなろうとは思いません」
分っている。
「別に、これまでのあなたの態度がどうというわけではありません。紅の世界に、深く立ち入るべきではないと、僕は考えます」
彼女が悪いわけでは、ないのだ。
目を丸くして、どうして、と視線で尋ねる彼女に、半ばやけにやって僕は答える。
先ほど浮かんだ、迷いの答えを。決意を、言葉にする。
「僕の目標は、地球へ帰ることです。帰って、父が目指した火星の空を掴む」
これから僕は、そのために闘う。ただそれだけを目指す。それはつまり。
「……もしその方法が発見された折には、いち早く地球へと帰還すべし、という態度をとることになるでしょう」
そう言って僕は少女を見る。案の定、あまり良く分っていないような顔をしていた。
「……つまり、いずれ帰ることになるから、仲良くしないってことなのかな?」
要はそういうことだが、それだけでは不足だ。
「……状況によっては、いずれ『見捨てて』帰るということになりえます」
災厄の十三魔、だったか。その脅威が喧伝されて喧しいこのごろだが、例えばその大半を残した状態で、地球への片道切符が手に入ったらどうするのだろうか?
あくまで仮定の話だが。
だけど、この先、目的を持って闘うならば。何かを決断しなければならないときは、くるのだろう。
「ふうん……」
少女が、そこで初めて、じっくり思案する顔を見せ、そして。
「なるほど。生真面目なんだねえ、君は」
それだけ言った。
……。
……。
暫く待った。
もしかして、それで終わり、なのか?
めまいを覚えながら、僕は無理矢理理解する。
「成程。天然なんですね、あなたは」
多分、この切り返しは半分くらいは意趣返しだろう。
ただまあ、結局はそういうことだ。この手の人間には、何を言っても通じない。
ならば、そう、僕に出来る最大の自衛は、さっさとこの場を切り上げることだ。
再びの溜息と共に、僕は所定の用紙を持って受付へと向かった。
「あ、結局応募するんだ」
「ひとまずは。出来ることからやっていくしか、当面の方針はありませんから」
なんのことはない雑魔退治だがCAM実験場からそう遠くはない。CAMを動かし、何れはロッソの動力を復活させる。現状、無理矢理目標を定めるとしたらこんなところだろう。
「あたしも応募していいかな?」
「……。止める権利は、僕にはありません」
めんどくさそうに僕は答えて。
決意はしたものの、まだ揺らいでいる己も自覚した。
これからはただ闘うのではなく、その中で己を見定めていかなければならない。
ちょうどそういう頃合で、機会なのだろう。
強引に、そう思うことに、した。
創設とほぼ同時に宇宙軍として勤めることになった父は、何もかもが新しいその事業の中でかなり忙しかったようで、家に戻れる日も、僕が起きている時刻に帰って来られる事はあまりなかった。
ただそれでも。
例えば、眠りの浅い夜に朧げに感じた、低く柔らかい声で呼ばれる己の名と、頭と頬を撫でる大きな掌の感触。
短い時間の中、不器用でも、残されたぬくもりはあった。
――愛されていたと、思う。
その推論が確信に変わる事は、もうないのだが。
父は、短い時間に語ってくれた夢もろとも。
火星へ向かう宙に砕け散ったからだ。
●
ハンターオフィスで、ぼんやりと掲示を見上げていたときだった。
「その依頼、受けるの?」
不意に掛けられた声に、振り向く。
一人の少女がそこにいた。服装と振る舞いからして、クリムゾンウェストの人と思われた。
「――……あなたは?」
「んーいや。あたしはなんとなく依頼探してるだけだから、まだ決めたわけじゃないけど」
「……。いえそうでなく。あなたは誰ですか?」
見覚えのない顔だった。もしかしていつかどこかの依頼で同行したのだろうかとも思ったが、引っ掛かる記憶はない。
「あーそうか。ごめんごめん、えっとあたしは――……」
てへ、と笑いながら少女が名乗る名は、やはり聞き覚えのないもの。
というか、改めて名乗るということはつまり。
「……初対面、ですよね?」
「うん、そうだよ」
「それでいきなり、声を掛けてきたと?」
「うん。なんか熱心に見てるなーと思って」
……。
いや、彼女の性格の良し悪しについて、ここで僕一人が判ずるのはよそう。
人によっては好ましく感じるものではあるのだろう。分け隔てなく振りまかれる愛想。それが、決して見た目も印象も悪くない少女からのものであればなおさら。
それが素直に受け止められない要因は、むしろどこかささくれ立った僕の気分のほうにある。
冷静になろうと、僕はそう分析して気持ちを落ち着けて――おや?
ささくれ立っている。
僕の気持ちは今、ささくれ立っているのか。
間の抜けたことに、そうして僕は今更、そのことを自覚した。
「それで、その依頼、何かあるの?」
お構い無しに、少女は再び話しかけてくる。……僕の心情はともかく、初対面の人間にいきなり声をかけたことについて、怪訝さを表明したことについてはもう少し構って欲しいのだが。
「……さあ」
ただ、僕がそっけなく返事をしたことは、別に意趣返しというわけではない。
傍目には熱心に見ていたように見えたのかも知れないが、実のところ、適当に視点を定めていただけで、内容などロクに頭に入っていなかったのだ。
改めて、依頼の内容を確認する。
最近良く見る、辺境での討伐依頼だった。
可もなく不可もない。だからこそ、これまでの僕であれば、こんなものかと応募していた依頼。
――今は即断できない。
要するに、今の生活にある程度余裕が出てきたということなのだろう。
突如異世界に飛ばされ、覚醒者とやらになり力に目覚めた結果、ひとまず生活の糧を得るためにハンターという生き方を選んだ。
思い返すそれだけで、眩暈がするような急転直下。……そんな激変にも、僕はいつの間にか慣れてしまったわけだ。
だから、考える余裕が生まれてしまった。
僕は今何をしているのか。
僕がすべきことは、今この世界で戦うことなのか。
そうして闘う先に、僕に何がある?
……気付いてしまった。
気づかないほうがよかったんだろうか。
だけど、いつかは考えなければならない問題。
そうして、暫くぼんやりと、僕はまだそこに佇んでいたと思う。
「でー、結局、どうするの?」
……先ほどの少女はまだ、そこにいた。
「僕がこの依頼に応じるか否かについて、あなたに何か関わりが?」
「あーうー。さっきから冷たいなー。スーパークールだなー。うん、何か悔しいから、君が参加するならあたしも参加するー」
……何故そうなる。何故。
溜息と共に、僕は告げた。
「……僕は、あなたと親しくなろうとは思いません」
分っている。
「別に、これまでのあなたの態度がどうというわけではありません。紅の世界に、深く立ち入るべきではないと、僕は考えます」
彼女が悪いわけでは、ないのだ。
目を丸くして、どうして、と視線で尋ねる彼女に、半ばやけにやって僕は答える。
先ほど浮かんだ、迷いの答えを。決意を、言葉にする。
「僕の目標は、地球へ帰ることです。帰って、父が目指した火星の空を掴む」
これから僕は、そのために闘う。ただそれだけを目指す。それはつまり。
「……もしその方法が発見された折には、いち早く地球へと帰還すべし、という態度をとることになるでしょう」
そう言って僕は少女を見る。案の定、あまり良く分っていないような顔をしていた。
「……つまり、いずれ帰ることになるから、仲良くしないってことなのかな?」
要はそういうことだが、それだけでは不足だ。
「……状況によっては、いずれ『見捨てて』帰るということになりえます」
災厄の十三魔、だったか。その脅威が喧伝されて喧しいこのごろだが、例えばその大半を残した状態で、地球への片道切符が手に入ったらどうするのだろうか?
あくまで仮定の話だが。
だけど、この先、目的を持って闘うならば。何かを決断しなければならないときは、くるのだろう。
「ふうん……」
少女が、そこで初めて、じっくり思案する顔を見せ、そして。
「なるほど。生真面目なんだねえ、君は」
それだけ言った。
……。
……。
暫く待った。
もしかして、それで終わり、なのか?
めまいを覚えながら、僕は無理矢理理解する。
「成程。天然なんですね、あなたは」
多分、この切り返しは半分くらいは意趣返しだろう。
ただまあ、結局はそういうことだ。この手の人間には、何を言っても通じない。
ならば、そう、僕に出来る最大の自衛は、さっさとこの場を切り上げることだ。
再びの溜息と共に、僕は所定の用紙を持って受付へと向かった。
「あ、結局応募するんだ」
「ひとまずは。出来ることからやっていくしか、当面の方針はありませんから」
なんのことはない雑魔退治だがCAM実験場からそう遠くはない。CAMを動かし、何れはロッソの動力を復活させる。現状、無理矢理目標を定めるとしたらこんなところだろう。
「あたしも応募していいかな?」
「……。止める権利は、僕にはありません」
めんどくさそうに僕は答えて。
決意はしたものの、まだ揺らいでいる己も自覚した。
これからはただ闘うのではなく、その中で己を見定めていかなければならない。
ちょうどそういう頃合で、機会なのだろう。
強引に、そう思うことに、した。
リプレイ本文
ザザ(ka3765)の眼前に広がる、辺境の景色。
厳しい自然と、歪虚との戦線の最前線。
苛酷な辺境の環境は、災厄の十三魔の介入により複雑化しつつあった。
ならば己は、故郷を守るために目前のことから解決していこう。
辺境を荒らす雑魔を片付ける。
CAM実験場が近いとあれば、尚のこと。
話に聞いていた巨体が四体。
発見と同時にちらりと後方に目をやると、同行する仲間も皆思い思いに行動を開始していた。
……ここに来る前、少し話をした少年もまた。
ザザが最初に求めたのは名乗りあうことだった。少女はもとより、少年もすんなりと己の名を告げる。
「負い目を感じているのか? 『紅の世界を見捨てる』と」
ついでのようにザザは問い、悪いように考えすぎだ、と苦笑気味に背中を叩く。
「俺は蒼だの紅だのは考えないな。少なくともこの場において、雑魔退治という共通目的があるならば皆同士で良いだろう。
主義や思惑が違っていても、共存出来ないとは限るまい」
「今回は協力できるという点に異論はありません。目的のために行動を最適化する意味で。僕が今回の件において紅の民を背中から撃つような懸念を抱かせたのならば訂正します」
ザザの言葉に、少年はそれだけ返す。
露悪的な物言いに、ザザはやはり苦笑するよりなかった。
……少なくとも初手を見る限り、協力できるといった彼の言葉に偽りはない。
ならば己もと、漲る祖霊の力を剣へと伝え、眼前へと距離を詰めた巨人に向け、一撃。
刃は巨人の脇腹に食い込み、血飛沫を上げる。
――戦える。
油断は許されないが、恐怖が身体を縛ることはない。
――今の俺は、戦える。
少年の言に彼にも思うところがあった。
『地球へ帰って、父が目指した火星の空を掴む』
故郷。
父親。
リアルブルーも歪虚の脅威にさらされていると聞く。
ならば当然、守るために戦い……散ったものも居るだろう。
かつての己の部族と同じように。
歪虚の襲撃にあい、全滅寸前へと陥った彼の部族。
少数の若い戦士と女子供が助かった代償は、熟練の戦士たちの命。
幼く非力だった彼は、「お前は生きろ。仲間達を守れ」という父の言葉に頷く事しか出来なくて――
巨人の反撃。剣で捌くが、威力は殺しきれなかった。衝撃が身体を貫いていき……足を踏みしめる。
今自分が引けば後ろに抜かれる。それは阻止しなければならない。
――今の俺は戦える。
そして同じ悲劇を繰り返さない為に、もっと強く。
●
背中には、いつも、弟の存在があった。
大人しい弟は、いつも私の背中に隠れていて。
(15歳とかそれくらいの歳かしら? 人生の先行きに悩んだりする年頃よね)
薛 夏湍(ka3721)は少年少女のやりとりに干渉しようとは思わなかった。
異世界から来たのだ。自分達のようにおいそれと故郷には戻れない。
望郷の念が晴らされようもない分、こちら側の自分達より悩みも多いだろう。
……敵を発見すると共に、マテリアルの力を借りて、駆ける。
――攻撃か、移動を封じるならば腕か脚。鋭く振り上げた刃を斜めに斬り下ろす。
刃は巨人の太腿に食い込んだ。
怒り狂う巨人の反撃が振り下ろされる。
すんでのところで回避した拳は大地に叩きつけられた。
威力に冷や汗が出る。
緊張が、脚に良くない硬直を生み出すのを、彼女は、自覚、して。
――ここに来るまでの間、彼女は弟のことを思い出していた。
弟があれくらいのときどうだっただろう。
……彼女が亡くなった父から受け継いだ族長を継いで数年経った程度の時だった。
弟がまだ若年ということで仕方なく彼女を族長と認めていた、そんな状況。
がむしゃらに日々を過ごしていくうちに、気付けば弟は一族で成人と見做される15歳となって。
(……族長を弟に譲って補佐も長老達に任せて退けなんて言われたっけ)
思いの外思い通りに動かない自分が邪魔になったのだろう。
対する自分の気持ちは簡単に固まった。大事な弟を長老達の傀儡になど出来るものか。
ここらで久しぶりに派手にかましてでも……。
そんな風に考えていたのだけど。結局は――
――長老を継ぐ気はない。姉の補佐は自分がする。
邪魔立てするやつは叩き切る位の気勢で言った、弟の言葉。
思い出したのは、そう、巨人の二撃目が風を唸らせながら迫る、そのときだった。
余分な力が抜ける。脚が軽くなる。
頭部を直撃するかと思った拳の旋回はしかし、眼前を通過して行った。
(大きくなったんだなぁって、思ったっけ)
思わずくすりと笑みが漏れそうになる。
背中には、いつも、弟の存在がある。
今は私を支えてくれる存在として。
今も無口なのは変わらないけど……親代わりに育てた弟が益々頼もしくなるのはうれしいものだ。
●
前衛は4。後衛は4。特に苦戦する人はなし。
なら今は目の前の人の援護射撃に徹するのが上策か。
あっと、あの人そろそろ回復に下がる必要があるかな? なら向こうへの射撃を厚くして……。
……いつの間に、こんなに冷静に判断できるようになったのか。
後衛とはいえ、少し前までキヅカ・リク(ka0038)は、普通の高校生だった、それが。
突如の異世界への転移。
生活の資金を稼ぐための仕事。
まずは簡単そうなものを、と引き受けた初めての戦闘依頼は、想像以上の敵の数で。
そして、その依頼の発注者は……帝国の、皇帝本人。
吃驚するよね、なんて彼は笑う。
彼は言う。あの日から、僕の生活は一変した、と。
異世界の景色と匂い。
殺される恐怖と、殺す手応え。
絢爛たる黄金との出会い。
そうした変化を、彼は幾つも重ねた。
同じ蒼の世界から飛ばされた仲間と出会い。
各地で起こるいろんな事件に関わり。
そして紅の世界の人々ともいろんな場所で交流した。
――ゲームなんじゃないかっていうくらいに目まぐるしく起こるイベントの数々。
いつしか、生活には困らなくなって。その頃にはそんなことはどうでも良くなっていた。
彼の射撃に合わせて、目の前に立つ仲間の刃が逆袈裟に大きく巨人の身体に食い込む。
大ダメージを受けた巨人はそこで崩れ落ち……そして黒い塵となって崩れていく。
この依頼はおそらく上手くいく。
ただの高校生だった、何にもない彼でも、どうにかなるもの――救えるものが、ある。
……幾つも受けてきた事件の中には、どうにもならないものもあった。それでも。
(皆が必死で生きているこの世界で、僕もやれるだけのことをしてみよう)
英雄みたいに強くなんかない、ヒーローみたいに格好良くなんかない。
……でも何もできないわけじゃない。
全ての敵が倒れるのはそれからそう先のことではなった。
目に見えていた敵が全て倒れたのを確認して、彼はもう一度戦場を見回して。
そして隣で同じように射撃を重ねていた、少年の姿が目に入る。
なんとなく、自分に似ている気がした。
だから今、彼に渡すとしたら。
「色んな処を見てきたらいいよ。それで心の声に沿って動けばいい。理由なんて後からついてくるから」
告げた言葉に、少年は……何も返さなかった。
●
戦いは、そこそこ上手くやれた。
初手、聖光で脚を狙うという考えが薛とかち合ったのも大きい。二体の敵の機動力を削げた結果、ほぼ敵を一箇所に封殺出来た。
戦いの後、聖導士であるエイル・メヌエット(ka2807)は、皆の怪我の状況の確認と治療に回る。
……そしてそれを口実に、例の少年の下へ。
「あの子との会話、聞こえちゃった。ごめんね」
「……聞こえるような場所で話していた事が聞こえたからと言ってそれを咎めるつもりもありません」
少年はそう言ってエイルの謝罪を振り払おうとした。その態度には、自分の言葉を実践しようとする強がりも見える。
「地球へ帰る方法が早く発見されること、私も願ってるわ。私にもね、蒼の世界へ帰してあげたい子がいるから。あなたは、どうか生きて帰って」
気付かぬ振りをして、エイルは続けた。
「でも、それはまだ見ぬ未来の話。その日までの間、あなたはきっと沢山の人に出逢う。そのときの自分を、今のあなたはまだ知らないわ。
――私もハンターになって知り合った大切な人達と歪虚に立ち向かっている今、数ヶ月前にはしなかっただろう選択を繰り返してる」
少年への呼びかけという形を取っているが、それは彼女自身の回想で、願い。
最近の連戦で心身共に疲弊気味の中、耳にした少年少女の声に思い出した存在と、見つめなおした自分のこと。
「未来の選択は、未来の自分がすること。そのときに悩むこと。今はただ、自分に眼を向けてくれる人をみつめ返す勇気を。
……それがきっと、自分が今ここにいる意味になる」
彼女が話す間無言だった彼が、そこで口を開いた。
「勇気を、というのは、今の僕が臆病だと?」
「――え?」
「あなたにはあなたの理想があることは理解します。ただ、その形と僕の態度が異なることで、僕が臆病で不見識とされるのは不服です」
少年は告げる。
「勇気を見せろ、というのならば、僕は」
……少し間があった。奥歯を噛み締める、ほんの少しの間。
「貴女を、正面から、拒絶します」
……ここまでの断絶は流石に予想外だった。
何故こうなったのか、咄嗟に口が、思考が、上手く回らない。
だから。
「この瞬間を待っていたぁ! 共犯sじゃなくて協力者のユーノ! めんどくさボーイを捕獲するのだ!」
そのあと荒野に響いたのは、別の声だった。
●
あっけにとられるエイルの前には、今。
「ちょっとごめんね。いや、何かしたい事があるらしくて、すぐ済むからさ」
そう言って少年を拘束するユーノ・ユティラ(ka0997)と。
「ふふふ、まさか味方に捕まるとは思うまい……」
そう言って勝ち誇るエハウィイ・スゥ(ka0006)、という光景が広がっていた。
「そして! 奴の! 腹に! パンツを! 違った! パンチを! ぶち込む! 略して腹パン!」
けほりと少年が――ついでにユーノが余波で――地面に崩れてむせた。
めんどいやつに制裁を。
そのために彼女はこの依頼に参加したのだ――つい、うっかりと。
忘れていたが、彼女は本来、外に出るとかは勘弁願いたい類の人種なのに。
……まあ、生活費という問題はあるので、今は何らかの仕事はしなければならないし。
――ヒキニートの道はまだまだ遠い。
というのはさておき。
かくして彼女は、あたしの任務は完了、とばかりにひとまず満足げだった。
「お疲れっしたー」
そう言って解散モードに入る彼女に対し、少年は……ただ黙って立ち上がり、土塗れになった身体を払う。
突っかかる様子はなかった。
――それならば私の気分が晴れやかになるからよし。
本気で彼女は、己の気分を解消するためにこの依頼に関わったのだ。
皆が皆誰かの為に戦ってるわけじゃない、むしろそんな人少ない、と彼女は思う。
――自分自分自分、全部自分の為。
少なくとも彼女は己の生活費のために戦っているし、うすいほんの新刊が出ればその為に戦うのだから。
「ええと、いいの?」
「主観の相違はあれど皆に悪意がないことは分かります。結果としてそれを踏みにじったのだから、嫌悪されることは言動の責任として受け止めます」
「ああ……うん……」
ユーノは戸惑いながらもそれ以上追及できなかった。
……嫌悪される。
ふとエイルは思う。
エハウィイは少年を嫌悪した?
100%間違いではないだろうがそれだけだろうか。あの子なりに、少年が篭っている殻を破ろうと試みたのではないか。
……でもそう思うのは、エイルがエハウィイという子を知っているから。
ぶつかり合い己を曝け出すのは、根底に相手への信頼がないと危険な賭けだ。知らない相手の厳しい態度は厳しい態度でしかない。その裏にある優しさや意図など分からない。
事実、少年はエハウィイの暴力のみ受け取りこれ以上関わるのを忌避した。
そして……エイルの事も、少年は知らない。
言葉が真っ直ぐに受け止められるかは、発言者への理解と信頼にも寄る。主義が異なる状態で多くを語れば語るほど、解釈のずれは大きくなる。
……少年も、己が望むものを皆に伝えられないように。
もし彼を導く必要があるのだとすれば。
それが出来るのは、時間をかけて寄り添う覚悟がある人だけ。
――かつてのエイルと『弟』が、そうだったように。
……彼も出会えるだろうか。あの、木漏れ日のような温もりに。
だとしたら嬉しいなと、今は願うしかない。
●
ユーノもまた、流れで依頼を受けてしまっていた。
討伐依頼など得手ではない。戦闘中も、後ろから魔法を放っているだけだった。
……故郷がどうの、という話を聞いていたら自分の境遇と重ねて、物思いに耽ってしまったのだ。
少年と違い、帰ろうと思えば帰れる距離。だからこそ、ずるずると機会を逃してしまうのか。
それとも。外で深く関わった人たちを見捨てられない、という気持ちがあるのか。
居心地の悪さから、逃げるように去った故郷。
――そんな自分にすら。
「大事なものとはいつの間にか出来てしまう物じゃないでしょうか」
話しかける意図は無かった。思わず零れた言葉。
少年が煩わしげな視線を向ける。
「いやほら。それに互いに大事にしておけば、急に帰らなければならなくなったとしても、きっと理解してくれるはずで……あ、いえ、そんな偉そうなことを言うつもりじゃなかったんですが」
慌てて、いいわけじみた何かをしどろもどろに紡ぐ。……が。
「あはは……はぁ、こういうのは柄じゃないんですよね」
最終的には半ば笑って誤魔化す形で、そう言って肩を落とした。
本当に、何から何まで、何を言って、何をやっているのか。
「私とは全然状況も似てないし、境遇も違うんですけれど、分かってほしかったのかもしれませんね……」
少年に同情したわけではない。諭そうとしたわけでもない。ただ、今の自分を分かって欲しかった。
逃げるように、細々と生きてきた自分にも。受け入れてくれる人達が出来た。そこが居場所なのかもしれない、と思える場所はあった。
「私がここに居る理由、居続ける理由を、誰かに話したかっただけかも……」
「そうですか」
ユーノの言葉が終わると、少年はそれだけ言って背中を向けて。
「……でもほら、やっぱり無視できていないように見えるんですけど……私も、彼女達も……」
それはやはり、ついうっかり零した言葉だった。
だけど、少年の表情が今日はじめて大きく歪んだ。恨めしげにユーノを睨む。
「あ、いや……あの……ゴメンナサイ」
「……現状において覚悟が定まりきっていないことは、僕自身認めます」
言い捨てて今度こそ、少年は立ち去っていった。
●
荒野から雑魔は消え。
何もなくなった場所では、風の音が少し煩く響く。
厳しい自然と、歪虚との戦線の最前線。
苛酷な辺境の環境は、災厄の十三魔の介入により複雑化しつつあった。
ならば己は、故郷を守るために目前のことから解決していこう。
辺境を荒らす雑魔を片付ける。
CAM実験場が近いとあれば、尚のこと。
話に聞いていた巨体が四体。
発見と同時にちらりと後方に目をやると、同行する仲間も皆思い思いに行動を開始していた。
……ここに来る前、少し話をした少年もまた。
ザザが最初に求めたのは名乗りあうことだった。少女はもとより、少年もすんなりと己の名を告げる。
「負い目を感じているのか? 『紅の世界を見捨てる』と」
ついでのようにザザは問い、悪いように考えすぎだ、と苦笑気味に背中を叩く。
「俺は蒼だの紅だのは考えないな。少なくともこの場において、雑魔退治という共通目的があるならば皆同士で良いだろう。
主義や思惑が違っていても、共存出来ないとは限るまい」
「今回は協力できるという点に異論はありません。目的のために行動を最適化する意味で。僕が今回の件において紅の民を背中から撃つような懸念を抱かせたのならば訂正します」
ザザの言葉に、少年はそれだけ返す。
露悪的な物言いに、ザザはやはり苦笑するよりなかった。
……少なくとも初手を見る限り、協力できるといった彼の言葉に偽りはない。
ならば己もと、漲る祖霊の力を剣へと伝え、眼前へと距離を詰めた巨人に向け、一撃。
刃は巨人の脇腹に食い込み、血飛沫を上げる。
――戦える。
油断は許されないが、恐怖が身体を縛ることはない。
――今の俺は、戦える。
少年の言に彼にも思うところがあった。
『地球へ帰って、父が目指した火星の空を掴む』
故郷。
父親。
リアルブルーも歪虚の脅威にさらされていると聞く。
ならば当然、守るために戦い……散ったものも居るだろう。
かつての己の部族と同じように。
歪虚の襲撃にあい、全滅寸前へと陥った彼の部族。
少数の若い戦士と女子供が助かった代償は、熟練の戦士たちの命。
幼く非力だった彼は、「お前は生きろ。仲間達を守れ」という父の言葉に頷く事しか出来なくて――
巨人の反撃。剣で捌くが、威力は殺しきれなかった。衝撃が身体を貫いていき……足を踏みしめる。
今自分が引けば後ろに抜かれる。それは阻止しなければならない。
――今の俺は戦える。
そして同じ悲劇を繰り返さない為に、もっと強く。
●
背中には、いつも、弟の存在があった。
大人しい弟は、いつも私の背中に隠れていて。
(15歳とかそれくらいの歳かしら? 人生の先行きに悩んだりする年頃よね)
薛 夏湍(ka3721)は少年少女のやりとりに干渉しようとは思わなかった。
異世界から来たのだ。自分達のようにおいそれと故郷には戻れない。
望郷の念が晴らされようもない分、こちら側の自分達より悩みも多いだろう。
……敵を発見すると共に、マテリアルの力を借りて、駆ける。
――攻撃か、移動を封じるならば腕か脚。鋭く振り上げた刃を斜めに斬り下ろす。
刃は巨人の太腿に食い込んだ。
怒り狂う巨人の反撃が振り下ろされる。
すんでのところで回避した拳は大地に叩きつけられた。
威力に冷や汗が出る。
緊張が、脚に良くない硬直を生み出すのを、彼女は、自覚、して。
――ここに来るまでの間、彼女は弟のことを思い出していた。
弟があれくらいのときどうだっただろう。
……彼女が亡くなった父から受け継いだ族長を継いで数年経った程度の時だった。
弟がまだ若年ということで仕方なく彼女を族長と認めていた、そんな状況。
がむしゃらに日々を過ごしていくうちに、気付けば弟は一族で成人と見做される15歳となって。
(……族長を弟に譲って補佐も長老達に任せて退けなんて言われたっけ)
思いの外思い通りに動かない自分が邪魔になったのだろう。
対する自分の気持ちは簡単に固まった。大事な弟を長老達の傀儡になど出来るものか。
ここらで久しぶりに派手にかましてでも……。
そんな風に考えていたのだけど。結局は――
――長老を継ぐ気はない。姉の補佐は自分がする。
邪魔立てするやつは叩き切る位の気勢で言った、弟の言葉。
思い出したのは、そう、巨人の二撃目が風を唸らせながら迫る、そのときだった。
余分な力が抜ける。脚が軽くなる。
頭部を直撃するかと思った拳の旋回はしかし、眼前を通過して行った。
(大きくなったんだなぁって、思ったっけ)
思わずくすりと笑みが漏れそうになる。
背中には、いつも、弟の存在がある。
今は私を支えてくれる存在として。
今も無口なのは変わらないけど……親代わりに育てた弟が益々頼もしくなるのはうれしいものだ。
●
前衛は4。後衛は4。特に苦戦する人はなし。
なら今は目の前の人の援護射撃に徹するのが上策か。
あっと、あの人そろそろ回復に下がる必要があるかな? なら向こうへの射撃を厚くして……。
……いつの間に、こんなに冷静に判断できるようになったのか。
後衛とはいえ、少し前までキヅカ・リク(ka0038)は、普通の高校生だった、それが。
突如の異世界への転移。
生活の資金を稼ぐための仕事。
まずは簡単そうなものを、と引き受けた初めての戦闘依頼は、想像以上の敵の数で。
そして、その依頼の発注者は……帝国の、皇帝本人。
吃驚するよね、なんて彼は笑う。
彼は言う。あの日から、僕の生活は一変した、と。
異世界の景色と匂い。
殺される恐怖と、殺す手応え。
絢爛たる黄金との出会い。
そうした変化を、彼は幾つも重ねた。
同じ蒼の世界から飛ばされた仲間と出会い。
各地で起こるいろんな事件に関わり。
そして紅の世界の人々ともいろんな場所で交流した。
――ゲームなんじゃないかっていうくらいに目まぐるしく起こるイベントの数々。
いつしか、生活には困らなくなって。その頃にはそんなことはどうでも良くなっていた。
彼の射撃に合わせて、目の前に立つ仲間の刃が逆袈裟に大きく巨人の身体に食い込む。
大ダメージを受けた巨人はそこで崩れ落ち……そして黒い塵となって崩れていく。
この依頼はおそらく上手くいく。
ただの高校生だった、何にもない彼でも、どうにかなるもの――救えるものが、ある。
……幾つも受けてきた事件の中には、どうにもならないものもあった。それでも。
(皆が必死で生きているこの世界で、僕もやれるだけのことをしてみよう)
英雄みたいに強くなんかない、ヒーローみたいに格好良くなんかない。
……でも何もできないわけじゃない。
全ての敵が倒れるのはそれからそう先のことではなった。
目に見えていた敵が全て倒れたのを確認して、彼はもう一度戦場を見回して。
そして隣で同じように射撃を重ねていた、少年の姿が目に入る。
なんとなく、自分に似ている気がした。
だから今、彼に渡すとしたら。
「色んな処を見てきたらいいよ。それで心の声に沿って動けばいい。理由なんて後からついてくるから」
告げた言葉に、少年は……何も返さなかった。
●
戦いは、そこそこ上手くやれた。
初手、聖光で脚を狙うという考えが薛とかち合ったのも大きい。二体の敵の機動力を削げた結果、ほぼ敵を一箇所に封殺出来た。
戦いの後、聖導士であるエイル・メヌエット(ka2807)は、皆の怪我の状況の確認と治療に回る。
……そしてそれを口実に、例の少年の下へ。
「あの子との会話、聞こえちゃった。ごめんね」
「……聞こえるような場所で話していた事が聞こえたからと言ってそれを咎めるつもりもありません」
少年はそう言ってエイルの謝罪を振り払おうとした。その態度には、自分の言葉を実践しようとする強がりも見える。
「地球へ帰る方法が早く発見されること、私も願ってるわ。私にもね、蒼の世界へ帰してあげたい子がいるから。あなたは、どうか生きて帰って」
気付かぬ振りをして、エイルは続けた。
「でも、それはまだ見ぬ未来の話。その日までの間、あなたはきっと沢山の人に出逢う。そのときの自分を、今のあなたはまだ知らないわ。
――私もハンターになって知り合った大切な人達と歪虚に立ち向かっている今、数ヶ月前にはしなかっただろう選択を繰り返してる」
少年への呼びかけという形を取っているが、それは彼女自身の回想で、願い。
最近の連戦で心身共に疲弊気味の中、耳にした少年少女の声に思い出した存在と、見つめなおした自分のこと。
「未来の選択は、未来の自分がすること。そのときに悩むこと。今はただ、自分に眼を向けてくれる人をみつめ返す勇気を。
……それがきっと、自分が今ここにいる意味になる」
彼女が話す間無言だった彼が、そこで口を開いた。
「勇気を、というのは、今の僕が臆病だと?」
「――え?」
「あなたにはあなたの理想があることは理解します。ただ、その形と僕の態度が異なることで、僕が臆病で不見識とされるのは不服です」
少年は告げる。
「勇気を見せろ、というのならば、僕は」
……少し間があった。奥歯を噛み締める、ほんの少しの間。
「貴女を、正面から、拒絶します」
……ここまでの断絶は流石に予想外だった。
何故こうなったのか、咄嗟に口が、思考が、上手く回らない。
だから。
「この瞬間を待っていたぁ! 共犯sじゃなくて協力者のユーノ! めんどくさボーイを捕獲するのだ!」
そのあと荒野に響いたのは、別の声だった。
●
あっけにとられるエイルの前には、今。
「ちょっとごめんね。いや、何かしたい事があるらしくて、すぐ済むからさ」
そう言って少年を拘束するユーノ・ユティラ(ka0997)と。
「ふふふ、まさか味方に捕まるとは思うまい……」
そう言って勝ち誇るエハウィイ・スゥ(ka0006)、という光景が広がっていた。
「そして! 奴の! 腹に! パンツを! 違った! パンチを! ぶち込む! 略して腹パン!」
けほりと少年が――ついでにユーノが余波で――地面に崩れてむせた。
めんどいやつに制裁を。
そのために彼女はこの依頼に参加したのだ――つい、うっかりと。
忘れていたが、彼女は本来、外に出るとかは勘弁願いたい類の人種なのに。
……まあ、生活費という問題はあるので、今は何らかの仕事はしなければならないし。
――ヒキニートの道はまだまだ遠い。
というのはさておき。
かくして彼女は、あたしの任務は完了、とばかりにひとまず満足げだった。
「お疲れっしたー」
そう言って解散モードに入る彼女に対し、少年は……ただ黙って立ち上がり、土塗れになった身体を払う。
突っかかる様子はなかった。
――それならば私の気分が晴れやかになるからよし。
本気で彼女は、己の気分を解消するためにこの依頼に関わったのだ。
皆が皆誰かの為に戦ってるわけじゃない、むしろそんな人少ない、と彼女は思う。
――自分自分自分、全部自分の為。
少なくとも彼女は己の生活費のために戦っているし、うすいほんの新刊が出ればその為に戦うのだから。
「ええと、いいの?」
「主観の相違はあれど皆に悪意がないことは分かります。結果としてそれを踏みにじったのだから、嫌悪されることは言動の責任として受け止めます」
「ああ……うん……」
ユーノは戸惑いながらもそれ以上追及できなかった。
……嫌悪される。
ふとエイルは思う。
エハウィイは少年を嫌悪した?
100%間違いではないだろうがそれだけだろうか。あの子なりに、少年が篭っている殻を破ろうと試みたのではないか。
……でもそう思うのは、エイルがエハウィイという子を知っているから。
ぶつかり合い己を曝け出すのは、根底に相手への信頼がないと危険な賭けだ。知らない相手の厳しい態度は厳しい態度でしかない。その裏にある優しさや意図など分からない。
事実、少年はエハウィイの暴力のみ受け取りこれ以上関わるのを忌避した。
そして……エイルの事も、少年は知らない。
言葉が真っ直ぐに受け止められるかは、発言者への理解と信頼にも寄る。主義が異なる状態で多くを語れば語るほど、解釈のずれは大きくなる。
……少年も、己が望むものを皆に伝えられないように。
もし彼を導く必要があるのだとすれば。
それが出来るのは、時間をかけて寄り添う覚悟がある人だけ。
――かつてのエイルと『弟』が、そうだったように。
……彼も出会えるだろうか。あの、木漏れ日のような温もりに。
だとしたら嬉しいなと、今は願うしかない。
●
ユーノもまた、流れで依頼を受けてしまっていた。
討伐依頼など得手ではない。戦闘中も、後ろから魔法を放っているだけだった。
……故郷がどうの、という話を聞いていたら自分の境遇と重ねて、物思いに耽ってしまったのだ。
少年と違い、帰ろうと思えば帰れる距離。だからこそ、ずるずると機会を逃してしまうのか。
それとも。外で深く関わった人たちを見捨てられない、という気持ちがあるのか。
居心地の悪さから、逃げるように去った故郷。
――そんな自分にすら。
「大事なものとはいつの間にか出来てしまう物じゃないでしょうか」
話しかける意図は無かった。思わず零れた言葉。
少年が煩わしげな視線を向ける。
「いやほら。それに互いに大事にしておけば、急に帰らなければならなくなったとしても、きっと理解してくれるはずで……あ、いえ、そんな偉そうなことを言うつもりじゃなかったんですが」
慌てて、いいわけじみた何かをしどろもどろに紡ぐ。……が。
「あはは……はぁ、こういうのは柄じゃないんですよね」
最終的には半ば笑って誤魔化す形で、そう言って肩を落とした。
本当に、何から何まで、何を言って、何をやっているのか。
「私とは全然状況も似てないし、境遇も違うんですけれど、分かってほしかったのかもしれませんね……」
少年に同情したわけではない。諭そうとしたわけでもない。ただ、今の自分を分かって欲しかった。
逃げるように、細々と生きてきた自分にも。受け入れてくれる人達が出来た。そこが居場所なのかもしれない、と思える場所はあった。
「私がここに居る理由、居続ける理由を、誰かに話したかっただけかも……」
「そうですか」
ユーノの言葉が終わると、少年はそれだけ言って背中を向けて。
「……でもほら、やっぱり無視できていないように見えるんですけど……私も、彼女達も……」
それはやはり、ついうっかり零した言葉だった。
だけど、少年の表情が今日はじめて大きく歪んだ。恨めしげにユーノを睨む。
「あ、いや……あの……ゴメンナサイ」
「……現状において覚悟が定まりきっていないことは、僕自身認めます」
言い捨てて今度こそ、少年は立ち去っていった。
●
荒野から雑魔は消え。
何もなくなった場所では、風の音が少し煩く響く。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 6人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/13 17:55:55 |
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考え中。【相談卓】 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/01/18 12:49:02 |