• 陶曲

【陶曲】ヒドゥン・ガール

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
3日
締切
2019/03/12 07:30
完成日
2019/03/20 01:18

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●死にかけたひとは夢を見る
 ヴィルジーリオは花畑を歩いている。左手だけ妙に暖かい。
 かつて自分が助祭をしていた司祭……つまりは前任者だが、彼もこれくらいの庭を造っていたなあ、と思いながら。
 やがて、一つの影が見えた。
「おや、来るのが少し早すぎるのではないかな、司祭」
「何をおっしゃいますか。私はいつまでも、あなたの助祭ですよ」
「随分と痛い目に遭って来た様だね」
「ええ……滅多刺しにされましてね。預かっていた男の子を連れて行かれました」
 ため息を吐く。
「どうすれば防げたのか、何をすれば最善なのか、手探りですが一つも掴めませんね」
「そう言うでないよ、司祭」
「神の御心であることは承知しておりますが、少々疲れます」
 影でしかないかつての司祭の表情は見えない。
「まあ、そう言うでないよ。なに、せっかくだから、ゆっくりしなさい。誰も怪我人に鞭打ったりしないだろう。さ、帰りなさい。君を迎えに来た人がいるでしょう」
「え?」
 ヴィルジーリオは振り返った。その瞬間、左手が引っ張られた。

●あなたのいない世界
 いわゆる臨死体験をして目を覚ました時、彼は病院のベッドの上にいた。付き添って左手を握っていたC.J.(kz0273)が、居眠りしてこけたのが刺激になって目が覚めたらしい。
「ハンクは……」
「無事だよ! 君よりよっぽど無事だ! ていうか、至近距離ファイアーボール仕込んだの君だろ! ほんと脳筋だよね! でもおかげで彼は助かったんだけど!」
「良かった」
 ほう、と息を吐く。
「君やハンターたちとの関わりが活きたみたいだ。ちょっと前向きになったよ」
「良かった……」
 目を閉じて、枕に頭を沈める。無事ならそれに越したことはない。この前造り始めた庭は……まあ、サンドラがどうにかしてくれるだろう。あまり人に甘えるのも気が引けたが、この体では無理だ。正直休みたい。
「大丈夫?」
「ええ……大丈夫」
 正直敬語を保つ元気がない。アウグスタの蛮行によって剥がされた外面が戻って来ない。
「先生呼んでくる?」
「いや、眠いだけ……あの、うちの聖堂は?」
「町長さんがどうにかしてるみたい。ハンクはマシューとヴィクターが預かってるよ。君が寝てる間にお見舞いに来たんだけどね。意識が戻ったって聞いたらきっと来るよ。自分のせいで刺されたって、かなり気にしてたから」
「彼のせいじゃない」
「そのとおり。だから君から言ってあげて」

●お見舞い
「いやー、毎日お見舞いが来て羨ましいですねぇ」
 意識が戻ってから早々に大部屋に移された。同室患者である茶色い髪の男に言われて、ヴィルジーリオは曖昧に頷く。
「じゃあ僕があなたのお見舞いもしようか」
 と、丁度司祭の見舞いにも来ていたC.J.が林檎を剥きながら言う。
「どうせしばらく毎日来るし」
「優しい弟さんですねぇ」
「……僕の方が年上なんだけど」
「おや、これは失礼。お兄さんでしたか」
 そもそも血縁ですらないのである。
「いやあ、最近また歪虚事件が頻発してるじゃないですか? 危ないから子どもたちにも妻にも来るなって言ってるんですよ」
「お宅は遠いんですか?」
「いえ。この町の反対側にあります。ただ、町中に歪虚が来ないとも言い切れないし……もし家族が巻き込まれて、それが自分の見舞いに来る途中だったとしたら……」
「後悔するでしょうね」
 ヴィルジーリオはそれだけ言った。司祭という職業柄、どうしても他人の話には耳を傾けてしまう。猛烈に疲労感があったとしてもだ。
「お子さんはおいくつ?」
「八歳ですよ。可愛い盛りなんですけどね」
「そうですか……」
「ヴィルジーリオどうしたの? はい、お兄ちゃんが林檎を剥いてあげましたよー」
「どうも……」

●ハンドアウト
 あなたたちは、C.J.に誘われたか、個人的にヴィルジーリオを知っていてお見舞いに来たハンターです。
 C.J.がナースステーションで面会の手続きをしていると、看護師さんがあなたたちに近づいてきました。
「最近、八歳くらいで、長い茶髪の子が病院の周りをうろうろしている」
 その看護師はそう切り出します。あなたたちは顔を見合わせました。外見年齢八歳の茶髪の少女。それはアウグスタの特徴と一致するからです。
「それでね、声を掛けたんだけど、その子、びっくりしたのかすぐ逃げて行っちゃったんです」
 あなたたちの中で、アウグスタについて知っている人がいるなら首を傾げたでしょう。アウグスタなら、声を掛けた大人を話術なりなんなりで丸め込もうとするからです。
「蜘蛛はいませんでしたか? 小型犬くらいの」
 誰かが尋ねました。
「いや、そんな蜘蛛がいたら流石にオフィスへ通報しますから」
 それはそうです。
「最近、アウグスタでしたっけ……そんな感じの外見の歪虚がいるって言うし、今入院してる赤毛の人もその子にやられたって言うじゃないですか。もしかしてトドメを刺しに来たのかなって……でも歪虚にしては様子がおかしいし、確証がないからどうしようかなって悩んでて……」
 ヴィルジーリオ含めた患者さんに知られると、不安にさせてしまう。だから、こっそり内緒で調べてください、と看護師さんは言ったのでした。

リプレイ本文

●容疑者Aの除外
「なんだろうね、普通にアウグスタじゃないと思うんだけどな」
 フワ ハヤテ(ka0004)は笑みを浮かべながら首を傾げた。何も知らない人が見れば、既に犯人を看破している探偵の様に見えたかもしれない。
「彼女は押しが強いし何事にも積極的だからね。司祭が生きてるとわかればすぐにでも蜘蛛を差し向けそうなものだけど」
「例のお嬢さん本人と断定するには情報が足りないな」
 レオーネ・ティラトーレ(ka7249)も思案しながら頷いた。
「その子はいつも日陰に隠れてる感じでしたかぁ」
 星野 ハナ(ka5852)が看護師に尋ねる。
「いや、そう言う感じじゃなかったですね。普通にうろうろしてるって感じ」
「小さい娘がいるような患者は?」
 レオーネが尋ねる。
「たくさんいると思いますよ。配偶者は把握してますけど、具体的に小さな娘さんまでは……」
「そうかもね。無理もない。それじゃあ、娘がいそうな年齢の患者を教えてもらえるかい? これを正式な依頼にしてくれるなら、医療職の守秘義務は解除されると思うんだけど」
「できれば、それくらいの年頃の子どもの患者さんもお願いしますぅ。お友達と喧嘩して、引っ込みが付かなかったのかもしれませんしぃ」
「そうですね。ちょっと上に伝えてきます」
「ああ、それから通信機の使用許可も頼むよ」
 ハヤテが言い添えた。看護師は一度ステーションに戻った。その間に、レイア・アローネ(ka4082)も交えて話し合う。
「私も、多分アウグスタじゃないと思いますぅ」
 ハナはそう言って自分の意見を述べ始めた。
「寂しがりやのアウグスタが蜘蛛すら連れてこないのもぉ、殺したと思った相手の行き先を調べるのもぉ、普段ならしない行動ですぅ。陶器の肌を隠すためにぃ、日差しの強い所にもほぼ出てきませんしぃ」
「そうだな。アルトゥーロの方にも、あの後接触はないようだしな」
 先日、別件で殺されかけたアルトゥーロ司祭の救出に行ったレイアが頷いて見せると、ハナは一同を見渡す。
「ただぁ、別の理由で困ってる子は居るんじゃないかと思うのでぇ、解決してあげたいですぅ」
「もちろんさ」
 微笑んで同意したのはレオーネだ。
「小さなお嬢さんが困っているなら、一肌脱がないとね」
「お待たせしました。上から許可が出ましたので。これが、こちらで把握している限り、十歳前後のお嬢さんがいる患者様と、八歳前後の子どもの患者さんのリストです」
 そこに看護師が戻ってきた。彼女はそう言って手書きのリストを渡す。思ったよりも人数は少ない。部屋番号と名前が書かれている。
「あのさ、いつまでお話し合いしてんの? 見舞い行かないの?」
 手続きをしてからずっとハンターたちを待っていたC.J.が怪訝そうに声を掛けた。
「ああ、すまないね。今行くよ」
 ハヤテが立ち上がる。
「部屋番号はいくつだったかな?」
 C.J.が答える。その部屋番号は、リストに載っている一つと一致していた。

●家族の話
「チャオ、サチェルドーテ・ヴィルジーリオ」
「チャオ」
 ヴィルジーリオは眠たげに目を開けながら面会者たちを迎えた。
「生きてるようで何より。あの日我が家のプリンシア達の買い物のお供って大任があってオフィスに行ってなかった」
「ああ、それをすっぽかすのは親殺しに並ぶ大罪ですよ。あなたの行き先に祝福あらんことを」
「わあ、お見舞いがこんなに」
 と、にこにこしているのは、同室の骨折しているらしい男性だ。茶色い髪の毛をしている。C.J.も茶髪だが、彼はどちらかと言うと焦げ茶に近い。こちらは栗色と言うのが妥当か。
「彼は家族を遠ざけてるから一人なんだって。彼ともしゃべってあげて」
 C.J.が肩を竦める。
「へぇ? 何でまた?」
 レオーネが屈託なく尋ねる。
「そう言えば、司祭やきみの家族って話題に出たことないな」
「仕事に関係ないもん。僕は実家に母親がいるよ。あとは叔父夫婦と従妹」
「私は実家に両親と兄が健在ですね」
 視線は、同室の男に向いた。
「妻と、娘が一人います」
「そのお嬢さんはいくつくらいなんだ?」
 レイアが尋ねる。
「八歳ですよ」
 男は肩を竦めた。
「最近歪虚事件が頻発しているので、必要以上に出歩かないように、と」
「なるほどね。遠ざける、とはそう言うことか」
 ハヤテが窓から外を見ながら言う。それを怪訝そうにヴィルジーリオが見ていた。ハヤテはその視線に気付くと、
「ところで、最近茶色い髪で八歳くらいの女の子を見なかったかい」
「アウグスタ?」
「彼女以外でさ」
「ずっとここで寝てますからね……」
「アウグスタって? あなたの従妹?」
「うちの従妹はもっと育ってるよ。茶髪の八歳児って、アウグスタじゃなかったら誰なのさ」
「わからない」
 ハヤテがはめている金細工の指輪が、陽光に輝いた。
「それを探しているのさ」
「うちの娘と同じ特徴ですけど……まあ、茶髪でそれくらいの女の子なんてたくさんいますよね」
 男が肩を竦める。
「アウグスタで思い出したけど、ヴィルジーリオ、君に聞きたいことがあるんだ」
 ハヤテが微笑んで首を傾げると、司祭は目を瞬かせる。
「何でしょうか」
「君は、間違いなくアウグスタと面識があると思うんだけどね。何か覚えはないかな?」
 ハヤテは首を傾げる。ヴィルジーリオは首を横に振った。
「全く覚えがありませんが……一つ心当たりがあるとすれば、そうですね。あなたも来て下さった、ブリキの蜘蛛騒ぎ、覚えてますか?」
「ああ、覚えてるとも。ボクは花畑に行ったね」
「あの花畑で、アウグスタらしき少女の目撃証言がありました」
「なるほど」
「私と面識はなかったかもしれない。が、自分が行ったことのあるところを中心にしてハンクを探したのなら……あの花畑から来たのかと。あそこから蜘蛛が町に来たのは、馬車を追い掛けてのことだから……」
 元々は、町の近くにある花畑に蜘蛛が出たのだ。それに遭遇した商人の馬車が、ヴィルジーリオの町に逃げ込むことでブリキの蜘蛛もついてきてしまったのである。
「居場所を突き止めたけど、君が邪魔だった。だから戦闘準備を整えて出直したってところかな?」
「多分」
「まあ、正直ボクはその辺結構どうでもいいのだけど」
 ハヤテは微笑む。
「ボクの友人らしいエルフはおそらく気にするだろう」
「よろしく伝えてくれ……」
 その時だった。
「いましたぁ! 正門に行くと思いますぅ!」
 レイアのトランシーバーからハナの声がした。
「了解。レイアが追うよ」
 ハヤテはインカムにそう返すのだった。

●発見
「しらなーい」
 胃腸炎で入院してた十歳の少女は、ハナの問いに対して首を横に振った。
「そっかぁ。教えてくれてありがとうねぇ」
 これで三人。どの子どもも、心当たりはないようだった。患者で、十二歳の茶髪の少女はいたが、彼女は病衣を着ていたし、虫垂炎で動けそうにない。そもそも、看護師なら病衣とワンピースの区別はつくだろう。
「うーん、空振りですぅ」
 ハナは、唸った。そもそも、アウグスタが何故ここまで騒ぎを大きくできたのかと言うと、見た目だけならどこにでもいる少女だからである。そして、ハヤテも言うように、押しが強く、積極的だ。自分の話術に自信を持っているだろう。フリでも逃げたりはしないはずだ。
 ハナは司祭の病室に向かうことにした。何気なく、廊下の窓から下を見たその時だった。

 茶色い髪の少女と目が合った。

 ぱち、とハナが目を瞬かせる。向こうもハナに気付いた。
(あの子だ)
 そう直感したと同時に、少女は駆け出した。裏門とは反対方向だ。恐らく、律儀に正門から出ようとしている。ハナは反射的にトランシーバーを出した。病室の窓と、廊下の窓は反対にある。病室から見える筈だ。
「いましたぁ! 正門に行くと思いますぅ!」
 それだけで、ハンターたちには通じるだろう。
「了解。レイアが追うよ」
 ハヤテの涼しい声が応じる。ハナも階段を降りて玄関に向かった。

●La principessa
 ハナからの連絡を受けるや、レイアは覚醒した。C.J.が目を剥いて椅子ごとひっくり返る。
「レイア何してんの!?」
「話は後だ!」
 彼女は言うや、ハヤテがどいた窓から壁歩きで外に出る。
「え? 何? 何?」
「誰を探してるんだ、あんたたち」
 ヴィルジーリオも怪訝そうにしている。レオーネは肩を竦めて、男を見た。
「そのお姫様は冒険が好きか? 我が家の姫君は、皆その位の頃ブドウ畑で冒険してたぜ」
「え? ど、どう言う……」
「な、泣かないでくれ! 怪しい者ではない!」
 レイアのうろたえた声が外から聞こえた。レオーネが男に手を差し伸べる。
「きみのお姫様って言うのは、あんな感じかな?」
「え?」
 ぎょっとした男はレオーネの手を借りて窓から外を見た。
「驚かせちゃってごめんねぇ。入院中の誰かと喧嘩してお見舞いに行きづらくなっちゃってるのかなって思ってぇ。お姉さんは星野ハナって言ってぇ、友達のお見舞いに来たんですぅ。良ければ一緒にお見舞いに行きますぅ?」
 御霊符が棒立ちになっている様がまず目を引いた。その前で、ハナがしゃがみ込んでいる。レイアがおろおろしながらなだめているのが茶髪の少女で……。
「トスカ!」
 男が叫んだ。少女が怯えた様にこちらを見る。
「来ちゃいけないって言ったじゃないか!」
「うわーん! パパごめんなさいー!」
「……結局なんなの? オフィス職員として説明を求める。フワハヤテ。得意の話術でわかりやすく説明したまえ」
「いやいやとんでもない。ボクより当事者に聞いた方が早いって」
「ほんとかぁ!?」
「ああ、ほら、それより、レオーネ一人じゃ辛そうだよ。君も手を貸してあげたら?」
 ハヤテに言われて、C.J.は慌てて男の反対側に立って肩を貸したのだった。

●水色のワンピース
 ハナとレイアが少女を連れて談話スペースに来ると、松葉杖をついた父親、C.J.とレオーネ、ハヤテが病室からやって来る。
「トスカちゃんはパパのお見舞いに来たんだよねぇ? どうして隠れてたのかなぁ?」
「私が来ちゃいけないって言ったからですよ! ああ、もう! まさかハンターさんまで呼ばれるなんて!」
「私たちは偶然だ」
 レイアが首を横に振る。
「偶然、あなたの同室のお見舞いに来て、私たちがハンターだと言うことを知った看護師から依頼を受けたんだ。彼女が不審者だからと言ってわざわざ呼ばれたわけではない」
「いや、そんなことを言っても……娘がご迷惑をおかけしました」
「ええん……ごめんなさい」
 トスカもしょんぼりとしている。確かに、外見の特徴だけ単語で起こせばアウグスタだが、実際に前にすると間違えようがない。ワンピースは水色だった。瞳の色も茶色だ。父親に似ているらしい。何より、その肌は陶器ではない。
「それじゃあこれから毎日お昼頃お姉さんが迎えに行くからぁ、一緒に見舞いに行きますぅ? それならパパも心配しないと思いますぅ」
「えっ、ハナ、毎日ヴィルジーリオの見舞いに来る気か?」
 C.J.がまたひっくり返りそうになる。レイアがそれを見て頭を抱えた。
「自分の毎日を振り返ってくれ……」
「いやいや、それじゃ申し訳ないですよ。オフィスに依頼します」
「パパ……カホゴって言うのよ、そういうの……」
 トスカは力なく父親に言い返した。
「お姫様の身の安全は、男なら誰でも保証したいもんだぜ」
 レオーネがウィンクして見せる。トスカはその顔を見上げて、少し顔を赤くすると目を逸らしてしまった。
「仕方ないなぁ……来たい時は、ママと一緒に来なさい。その代わり、絶対に一人で来たら駄目だからな」
「はい、パパ」
「よしよし。いや、しかしパパもお前に会いたかったよ」
 父親は娘を抱きしめる。
(本来、八歳の女の子と言われて想像するのはこっちの方なんだがな……)
 レイアは首を横に振る。
 石割の娘、アウグスタ。二十年前、歪虚に襲われて滅んだ村の行方不明者。彼女は死者であった。もう、母親が迎えに来ることもなく、父親から抱擁されることもなくなった少女。
(それでも……いや、だからこそ、終わらせてやらないといけないのだろうな)

●親しみよこんにちは
 レオーネが病室に戻ると、ヴィルジーリオはうたた寝から目を覚ましていた。
「結局何だったんですか?」
「パパのことが大好きなお嬢さんの冒険さ」
「察しました」
「話は変わるんだが……ハナミズキって知ってるか?」
「何です藪から棒に。一応知ってますよ。耐久とかそう言う花言葉ですよね」
「そう。もう少ししたら木に薄いピンクの花を咲かせる花だ」
 レオーネは、先日ハンクが春を感じると言った花がそれなのではないかとあたりを付けている。
「永続、返礼や私を受け入れてくださいといった意味もある花だ。告白に使う花ではあるが自己肯定が低い受身にも受け取れる」
「どうでしょうね。受け入れてもらえることをわかってて、あえて頼むように言うのも手ですよ」
「案外悪い男だな。まあそれは置いといて、あまり知られてないこの花言葉がいい」
 横目でヴィルジーリオのぼんやりした緑の目を見た。にやりと笑う。
「『俺が君に関心がないとでも?』」
 その視線を受けて、緑の瞳の焦点が、澄んだ青い虹彩に合った。
「俺達がサチェル……いやヴィルジーリオ、君やシニョール・ハンク達に関心がないとでも? あるに決まってる。心配と友愛の対象という意味で……って、なんで胸押さえてるんだ?」
「友愛なのは理解するが、俺が女性だったら危なかった」
 外面が全て剥げていた。
「はっはっは」
 レオーネは笑う。
「あんた、言葉に気をつけないと刺されるぞ……新たにできた友人が刺されるのは良い気分じゃない」
「お気遣いありがとう。何にせよ、これから君がすることは身体を治してミ・ピアーチェと連呼して皆にハグと頬へ親愛のキスだぜ?」
 Mi piaceとは、イタリア語で「私は好きです」を意味する。つまり、周囲の人間に好意を伝えなさいと言うことだ。
「柄じゃないな」
 穏やかな午後の日差し。冬が去ろうとしている。
「でも嬉しいよ」
 春の足音が聞こえた。

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重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • セシアの隣で、華を
    レオーネ・ティラトーレ(ka7249
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/10 23:02:49
アイコン よく考えたら鬼ごっこだった
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/03/12 07:57:17