• 王戦

【王戦】武辺に一片の悲哀を

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/03/14 15:00
完成日
2019/03/23 11:41

みんなの思い出

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オープニング

 『百万の兵』と宣った傲慢王イヴの言葉通り、ハルトフォート周辺地域への敵兵の流入は止むことはなかった。
 騎士団や戦士団、ハンターたちが奮起して各地での対応に当たるが、本流となるダンテ指揮下のハルトフォート侵攻軍の勢いは止まらない。


 戦功を求める敵兵は、新参者であるダンテの指揮下に入ることなく、さりとて要衝として疑いようもないハルトフォートへの攻略に我先へと乗り出していく。王国騎士団、加えてハンターたちの各局面での勝利はあるものの、戦術的に戦線後退を余儀なくされ――遂には、ハルトフォートでの籠城戦にまで、押し込まれていく。


 幸いなことは、これまでの局面で勝利を得てきたこと。それにより、騎士団戦力はおおよそ健在であり、万全に近い状態でこの戦いに臨めること。また、転移門のおかげで物資面での憂いはないことだ。一方で、不安材料もあった。圧倒的な敵数を前にした防衛戦はこの砦の得意とするところであるが――仮想敵として、『多大』な航空戦力を想定してはいなかった。


 ――当然のことながら、敵将、ダンテ・バルカザール(gz0153)はそのことをよく識る立場にあった。かくして、不安を孕んだまま、戦況はハルトフォート籠城戦へと移行していく。





 歪虚の将軍となったダンテ・バルカザール。将軍として最初の仕事とはーーー。
「流石、貴殿の軍勢は精強だ。私の部下達ではこうはいかない」
 お世辞。
「お会い出来て光栄だ。貴殿のような古今無双の将が居れば戦は勝ったも同然」
 ごますり。
「遠く知恵者と知られる貴方の言葉を頼りにさせてほしい」
 おべっか。
「人間に及ばない怪力と鎧に勝る皮膚。まさしく貴殿こそ人にとって恐怖の象徴だ」
 リップサービス。まあそんなところだった。
「おかしいだろ、絶対に」
 ダンテは戦場を見渡せる陣屋で椅子にふんぞり帰りつつ、何度目かになるぼやきをつぶやいた。戦闘が始まってなお口にしているのだから、よほど納得が行ってないらしい。目の前で王国軍の砲撃が雨霰と降り注いでいたというのに、そちらには言及すらしていない。しかしその調整こそが今回事前準備で最大の仕事であった事も事実ではある。気前の良いリップサービスを振り撒いて、どうにかこうにか作戦と呼ぶのもおこがましいただの段取りを認めさせた。むしろよくもまあそれっぽくまとめられた物だと称賛されるべきところである。
「半分ぐらいは見下してましたけどね!!」
 騎竜のドーピスが唾を飛ばす勢いで無慈悲に事実を突きつける。ダンテはうんざりした顔で盛大に溜息を吐いた。
「砲撃の注意もしたはずなんだがなあ」
「あの言い方じゃダメでしょ」
「まあ、そうだな」
 侮蔑の混じった苦笑いのような顔を浮かべ、ようやくダンテは機嫌を少し直した。「王国の新兵器は非力な歪虚には脅威となる」という伝え方をしたのはわざとだ。傲慢の歪虚がそれをどう受け取るかは自明である。
「隊長。それ以外でなら反応の良かった者も居たのでしょう?」
「…………」
 部下は話題の転換のつもりで発言したのだが、ダンテは今度こそ見た事の無いような渋い顔を作った。健康に良いと言われて苦いだけの茶を飲まされた時よりもはるかに苦い顔している。
「え……あの」
「もういい。各隊に連絡、第二波を投入しろ!」
「わっかりましたー!」
 ドーピスが気前よく返事して、スピーカーよろしく「第二波投入ー!!」と叫びながら戦場に駆け出して行った。ダンテは椅子から立ち上がり戦場を見渡す。ここから先が腕の見せ所。多くを殺すにはこの詰めこそが肝要とダンテは心得ていた。





 人と機材をいくら更新しても、入れ物が古いのは如何ともしがたい。ハルトフォートは今目の前で起きている砲撃を主力とする以前、鎧を着て馬に乗る騎士達が守る前提の砦だ。空に対する備えは万全とはいいがたかった。
「砲兵士官を守れ! 何を盾にしても構わん!」
 ジェフリー・ブラックバーン(gz0092)はハルトフォート内を走り周りながら、声を枯らして周囲の騎士達に素早く指示をまわしていく。地上に比べれば空からの攻撃は歪虚全体から見れば手薄とは言え、あくまで比較の上の話でしかない。岩を落とし来る者、炎を吐いて旋回する者などをはじめ、歪虚は各々好き勝手に地上に破壊の手を伸ばしてくる。それが一段落した頃には次の手が打たれていた。
「とおおおーーーーーう!!」
けたたましい声を響かせて人型の何かが空から降ってくる。ジェフリーは咄嗟に狙われた士官を突き飛ばし、代わってハルバードで振り下ろされた戦斧を受け止めた。
「ぬ!?」
「ふんっ!」
 重い一撃を放った歪虚は人型になった虎が鎧を着たような姿をしていた。虎の顔の歪虚は一撃をかわされたとみるやすぐさま飛びのき、ジェフリーと距離をとった。その後方、同じように狼・鹿・熊など種々雑多な獣の顔を持つ戦士が次々に飛び降りてくる。空には翼竜のような歪虚が旋回しており、そこから飛び降りて来たらしい。
「よくぞ我が一撃を受け切った。誉めてやろう、人の将よ!」
 先頭の虎の顔の歪虚は柄の長い戦斧を派手に振り回して見せ、ジェフリーに見栄を切って見せた。
「我こそは新生ダンテ戦闘団、突撃隊3番隊隊長、ブランガ!」
「は?」
 ジェフリーから強烈な侮蔑のこもった声が漏れた。正確に言えば、彼の周囲の反応は概ねそんなものだった。
「もはや戦において騎士の時代は終わった。よって我らの一撃は慈悲である。正々堂々一騎打ちにて武勇を示し、華々しく戦場に散る最後の機会をくれてやろう。さあ、返答やいかに!?」
 歪虚の声は自分勝手ながらも思いやりと慈悲に溢れていた。本心から敵である騎士に見せ場をくれてやろうという意図なのだろう。自分達が負けないという前提であれば歪虚でもここまで優しくなれるのである。
「副長、アホが来てますけどどうしましょう?」
「ぶち殺せ!!」
「よっしゃぁーーー!!」
 切れたジェフリーの怒号に周囲の騎士達が気勢を上げる。話の内容以前に、ダンテの名前を出したあたりが大いに彼らの逆鱗に触れていた。
「行け! 殺せ!!」
「おわあっ!!? 一騎討ちだぞ! 一騎討ちしなくていいのか!? 騎士の最後の見せ場だぞ!!?」
 虎の顔の歪虚の声は赤の隊の怒号にかき消され、あれよあれよという間に乱戦になっていた。
 幸いな事が一つ。赤の隊は誰も彼もが怒りで目を爛々と輝かせていたが、その表情は諸外国への遠征に乗り込んでいた頃のような溢れるような生気で満ちていた。

リプレイ本文

 怒号と悲鳴、血飛沫と剣戟。解き放たれた野獣達が土煙を上げて相打つ。外征でその本質を伝え聞くだけだった友軍の士官達は恐怖した。これが赤の隊、戦場の鬼達なのかと。遠巻きに見守る者は居たが誰もがそこに集まろうとはしなかった。周囲の士官達に限れば、その話である。
「おいこらぁ! 俺を除け者にして何楽しいことしてんだ! 俺も混ぜろよ!」
 後方からがなり立てるような大声で呼ばわりながらギャラリーを押しのけ、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が前に出た。不穏な空気を察した人が周囲から逃げ出そうとするが、暴風はそれよりも早くに巻き起こる。ボルディアは斧を腰だめに構え、乱闘の収まらない一団に向けて躊躇なく飛び込んだ。
「おらぁぁーーっっ!!!」
 裂帛の気合をあらん限りに声にのせ、炎をまとった斧が横薙ぎに振るわれ、彼女に反応出来なかった歪虚の一人が胴体を寸断された。星神器「ペルナクス」の破壊力とボルディア本人の膂力が合わさり、驚異的な威力を発揮していた。ボルディアは斧を肩にかけ、獰猛な笑みを作って歪虚の戦士に歩み寄る。歪虚の一団はそれだけでじりっと一歩後ろに下がっていた。
「あぶねえだろ!」「危うく腕が飛ぶとこだったぞ!」「周りのこと考えろ!」
「うっせえな。ちゃんと避けてたから良いだろ」
 気分に水を差すかのようにギャースカうるさく常識をのたまい始めたのは赤の隊の騎士達だった。普段のお行儀が良くない自分達を完全に棚上げにしている。益体の無い言い合いは延々と続くかと思われたが、歪虚の部隊にも変化があった。動きを止めた歪虚の戦士の中から身の丈3mを越す熊の顔の獣人が姿を現した。金属の全身鎧と巨大なハルバードを持つその個体は、周囲の個体とは明らかに格が違った。
「部下では相手にならんようだな。中々の強者と見た。良かろう、名を名乗れ」
「あ? なんだお前、喋れるのか。中々のモンじゃねぇか。猿真似にしちゃあ上出来だぜ?」
「なんだと……?」
 歪虚の顔が見る見る険しくなる。怒りが膨れ上がる気配は誰にも明らかだが、相対するボルディアはどこ吹く風である。
「お前んとこの部下はたかが人間がちょっと凄んだくれぇでビビっちまう腰抜けばっかりだな。大したもんだよ。これならダンテもさぞ心強いだろうぜぇ!」
「殺すぅぅぅぅ!!」
 開始の合図も何も無い。怒りに任せた一撃がボルディアの脳天目掛けて振り下ろされた。速さも重さも人間の振るう物とは比較にならない。平凡な騎士なら、熟練の覚醒者でも即死しかねない一撃だ。それをボルディアはーーーー。
「ふんっ!」
 いとも簡単に盾で受け流し、平然とその場に立っていた。
「何!?」
「温いぜ!」
 踏み込んだボルディアは斧を歪虚の股下から振り上げる。振りぬいた斧は臓腑を抉り、その胸部までを半分に裂いた。身長差で頭は届かなかったが、歪虚が命を落とすには十分な損傷であった。
「あ、死んだ」
 何か奥の手で再生でもするかと思ったが、仁王立ちよろしく立ったまま絶命した歪虚は黒い粉のような何かに変わっていった。そしてそれを見逃すほど騎士達は腑抜けてはいない。
「守護者殿が目に物見せたぞ!!!」
「続け!! 殺せ!!」
 周囲の騒音に負けない怒号を上げて赤の隊の騎士達が再び戦闘を始める。予定と少々違った上に後の出番は取られてしまったが、結果オーライとするしかない。ボルディアは斧を肩に担ぎ直し、死んだ歪虚が最初に出した名前を思い出していた。
「フン…こんな奴等が部下だと、アイツも相当苦労してそうだな」
 哀れみを込めてそう呟く。ダンテが敵になった時点でっ彼女の感情は断絶していた。目の前で武器を振るう騎士達の何割が、同じような切り分けが出来ているのか。声に出さないままに疑問を飲み込んだ。



 歪虚は本質的な部分で破壊を指向する。過程や結果に好みがある以外は共通しているおり、目の前の傲慢の歪虚達も共通している。彼らの行動は常にその欲望に忠実である。今回の敵の行動もある程度は同じ理屈で説明することが出来る。
「要するに一騎打ちしたいのはそっちじゃん」
 ゾファル・G・初火(ka4407)は戦場のど真ん中で寝そべったまま指摘した。
「何を言い出すかと思えば」
 相手は傲慢の歪虚。それが事実であれ言動不一致とあれば素直に認めることはない。本人達も自己暗示同様にそう思ってるのだからある意味で嘘でもない。一騎打ちした上で相手を一方的にいたぶってから殺す、というのが最終的な希望なのだからとてもわかりやすいが。
「それよりも貴様ぁ……」
 歪虚は話を切って姿勢の変わらないゾファルに槍を突き付けた。先程からゾファルは凄まれても怒鳴られても、まったく意に介さず敵の真ん中で寝そべったままの姿勢を崩さない。
「さっさと立ち上がって武器を構えんかぁ!」
「要らないって言ってるじゃん?」
舐められていると思うからこそ余計に歪虚側も威嚇でもって言う事を聞かせることに固執し始めていた。これには流石に隣に立っていたロニ・カルディス(ka0551)もこれには一言口を挟まずにはいられなかった。
「挑発するのも良いですが、ほどほどにしないと……」
「だから真面目にやってるじゃん?」
 真面目の定義とは。一方のロニは2体目の敵と戦っている。
(少しでも長く、少しでも多くの敵を引き付けねば)
 その一心で一騎打ちをこちらから指名、あるいは焚きつけて敵の動きを誘導している。敵の個体にそれほど大きな差はないが強力な個体は多い。ロニも優秀な覚醒者には違いないが、連戦となれば相性は悪い。
「ええい、もう良い! そこで寝転がったまま死ね!」
 切れた獣人は槍斧をゾファル目掛けて振り下ろす。十分に速度と威力の乗った一撃だ。しかしというか当然というか、ゾファルの動きに注意を払ってのことではなかった。振り下ろされた斧を転がってかわしたゾファルは転がりながらも歪虚の足元に移動。転がった勢いのまま足払いをかけていた。
「おおおおおっ!!??」
 見事に歪虚がすっころぶ。本来であれば転倒しても逃げたり立ち上がったりと対応が早いはずだが、戦うという心構えを失っていた歪虚は反応が遅れた。その隙にゾファルが獣人の腕をとって背に回し、そのまま体重をかけてうつ伏せの姿勢に押し倒した。
「おごごご……。な、なにが?」
「ふぁぁ」
 眠そうに欠伸をするゾファルだが、力は十分にかかっている。
「この……虚仮にしおって!」
 獣人は腕力に任せて立ち上がろうとする。体格差のあるゾファルではこれは抑えきれないと思えたが、優位な位置を掴んでいることには違いない。ゾファルは慌てず立ち上がろうとする歪虚の後頭部に、全力の一撃を叩き込んだ。
「ぐべっ」
 と気の抜けた声を出して歪虚は今度こそ動かなくなった。
「真面目だって言ったじゃん?」
 何をどうやって信じればよかったのか。次に戦う歪虚は油断はしないだろうが、どうにも変則的な敵であることは変わらない。
(あれでやられて死ぬのはイヤだろうなあ)
 ロニは歪虚に若干の同情はしつつも、ゾファルが真面目にやってるという一点は信じることにした。



 騒ぎは至る所で起きていた。奇襲の利を生かして殺戮に注力しないのは彼らの「傲慢」な性質ゆえだろうか。それは先手を取ることが出来ない今の環境では人類側にとって有利に働いた。ボルディアと同じく星神器持ちのレイア・アローネ(ka4082)もボルディアと同じく歪虚達の遊びに付き合うことにした。薄氷の勝利ではあっても、重ねた分だけ値千金の時間が積みあがっていく。そう信じてレイアは3体目となる挑戦者を鋭利な剣閃でもって制した。
「次は俺だ。降参するなら早めに良いなよ」
 戦槌を持つサイのような顔の獣人がレイアの前に立つ。獣人は余裕ぶって下卑た顔で戦槌を振りまして見せた。
「飽きないな。良いだろう、受けて立つ」
 個人の能力ではレイアが勝っていたが連戦となれば話は変わる。レイアも強力な戦士には違いないが彼女の剣には隙がある。一騎打ちの過程でわずかであるが傷を受けてしまったことで、歪虚達に違う意味での欲を出させてしまった。順番に当たれば星神器持ちを殺せる。あわよくばその功績で持って高い地位が得られる。周囲ではやし立てる歪虚の顔には同じような目論見が浮かんでいた。
(舐められたものだ。しかし……)
 疲労が蓄積している事は隠しようもない。業腹だが歪虚の目論見はもう何戦かの内に叶ってしまうだろう。フェリア(ka2870)はその状況を城壁の上からつぶさに観察していた。彼女の位置から見える戦況は中々に芳しくない。空挺として降りて来た部隊は乱戦となるかレイアの周囲のような騒ぎを始めるか、どちらにしても範囲攻撃でまとめて焼き払うにはよろしくない。元よりそういう計算だろう。
「私と会話する余裕はなさそうですね」
 フェリアは自身も近くに降りてきた敵に対処しつつ、行動を移すタイミングをうかがっていた。範囲攻撃を十分に生かせる状況を。しかし状況は混沌の度合いを増す一方だ。ならば状況を変えるために一手打つ必要がある。それが迷う味方の標となるだろう。
「始めます。30秒後に追撃を」
 フェリアはエレメンタルコールでレイアに呼びかける。レイアから返事は無いが、ちらりと視線だけが一瞬こちらを向いていた。フェリアはそれを了承とみなし、彼女の周囲に集まる敵に目掛け、メテオスウォームを放った。一騎打ちに興じていた歪虚にとって頭上からの攻撃は奇襲となり、なんの対処もできないまま焼かれていった。
「魔法!?」
「余所見は良くないぞ!」
 レイアの刺突一閃が一騎打ちの相手と、その後方にいた別の歪虚諸共に貫いた。血を吹いて消滅する歪虚達。レイアはわらって剣を構え直す。
「さあ、遊びの時間は終わりだ」
 歪虚の群れにレイアが飛び込んでいく。押し包み殺そうとする歪虚だったが既に王国軍も態勢を立て直している。集まった騎士を交えて乱戦が始まった。最初の状況とは変わって王国軍にはまとまりが既にあり、一方的に殺戮されるだけの状況は既に終わっている。こうなれば星神器を持つレイアもその一撃の鋭さを存分に生かせるだろう。それ以外の覚醒者も同様だ。
「……そういえば?」
 フェリアは全体の戦況と友軍の配置を把握していたが、何名か見当たらない人物がいる。敵が砦の内部に侵攻していることも合わせると良くない兆候だ。フェリアは余裕の在る仲間に自身の目の届かない範囲を抑えてもらうように連絡を取る事にした。



 覚醒者もピンキリである。守護者・星神器所持者を基準にすれば敵に回した歪虚は大した敵ではないだろう。だがそれ以外の覚醒者にとっては十分な脅威である。戦闘を主任務としていない者にとっては猶更に厳しい。それでもサクラ・エルフリード(ka2598)は敵の中央に立つ指揮官級を名指しして一騎打ちをしかけた。それ以外の方法では、逃げ遅れた傷病兵を連れ出す時間を稼げなかったからだ。一騎打ちが始まると歪虚は逃げる兵士を追わなかった。逃げたところで砦の外に行けるわけではないことを、よく理解しているからだ。サクラの立ちふさがった通路の奥は居住区画で、これ以上の後ろは存在しない。非戦闘諸共に皆殺しにされるだけだ。
「ほほう。小兵だがよく鍛えているようだな」
 数合打ち合ったのちに歪虚はサクラをそう評した。言外に「だが俺より弱い」という一言が付いているのは誰の目にも明らかだったが。
「それはどうも、ありがとうございます!」
「おお!?」
 サクラは唐突に剣を投げつけた。プルガトリオで足止めされていた上で、数合打って普通の剣士と思い込んでいた歪虚はこの一撃をかわせなかった。見事に太腿に剣が刺さった。だが致命傷ではない。サクラはこの剣を引き抜こう飛び込むが、歪虚はサクラを槍で薙ぎ払って牽制する。サクラは剣を取るのは諦め、盾をもっている腕を横薙ぎに振った。盾はヨーヨーのように光の紐で繋がれたまま中空を舞った。
「おおおおお!?」
 驚いた歪虚は咄嗟に飛んできた盾を槍で受けた。見慣れない戦法や見慣れない武器で驚いてばかりである。
「正々堂々と私らしく戦っているので問題ないですよね、多分…。私、エクラ教徒で聖導士ではありますが、騎士ではないですし…」
「ほっ! とっ! おわわ!」
 一応の弁解をしてみたが歪虚は盾の迎撃で忙しく聞こえちゃいない。とはいえ驚きも最初のうちだけ、目はいつか慣れるもの。歪虚はプルガトリオを振りほどくと、太腿にささっていた剣を抜いて投げ捨てる。これで足も動く。万全の状態となった歪虚はサクラと距離を詰めるべく突進した。
「バカが! 何度も同じ手にかかるか!」
 歪虚は飛来した盾をはねのけつつ飛び込み、サクラの左腕を掴み上げた。腕力差に質量差があり、まともな方法では抜け出せないだろう。
「捕まえたぞ。このままこの腕を捻り潰してやる!」
「そうですね」
 地面に転がっていたルーンソードが紐に引かれたようにサクラの手に戻る。サクラは歪虚が状況を把握するよりも早く、自身を掴んでいた右腕の切り落とした。
「ぬあああああああっ!!??」
 何が起こったのか歪虚は欠片も理解出来ない。腕を失った歪虚はもんどりを打ってのたうち回る。歪虚は混乱から立ち上がることもなく、サクラに首をはねられて消滅した。小隊長を滅ぼせたのは良かったが、この数を相手にするのは難しい。ついでに種が割れてしまっては残りを同じ手で倒すのは難しいだろう。観戦した誰もが彼女の攻撃をよく見ていた。
「………あら?」
「え?」
 サクラは歪虚達の後ろを見る。同じく不穏な空気を感じて歪虚達が後ろを振り返った。後方からは悲鳴や何かが聞こえてくる。赤い光が通路の向こうで振るわれ、人の物でない血しぶきがいたるところで吹きあがる。広場で戦っていたボルディアが敵を求めて追いついてきたのだ。狭い通路で個別に戦う以上は、かの戦士に勝てる歪虚はここにはいない。可能性のあった戦士は今しがたサクラが打倒したばかりだ。
「これで袋の鼠ですね」
 やはり歪虚は聞こえていない。差し迫った滅びに恐れおののきながらも、わずかな可能性に賭けて来た道を戻っていく。その結果は惨憺たるものであった。



 程なくして上空より侵入した敵は全てが討ち取られた。突発的な事態でありながらも多くの者の奮闘で被害は比較的軽微に済み、戦線の再構築は速やかに始まった。しかしこの間に砲撃が止まってしまった事は取り戻しようがなく、砦の外に展開した部隊に少なくない損害が出ていた。空襲に対する備えの少なさをついた戦力投入はこの後も執拗に繰り返され、ハルトフォートは徐々にその戦力を失っていく。この戦争の終わりはすぐそこまで近づいていた。

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参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人

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ゾファル・G・初火(ka4407
人間(リアルブルー)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/03/14 10:24:14
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/10 12:53:51