ゲスト
(ka0000)
新人引率っ!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/14 19:00
- 完成日
- 2019/03/17 17:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
強力な歪虚3つを8人で倒す。
そんな、全滅と引き替えに成し遂げても英雄扱いされるはずの依頼が次々に解決されていく。
その解決があまりにも鮮やかすぎて、自分もできると勘違いする者まででてきていた。
「駄目です」
依頼をうけようとしたハンターが拒否されている。
別に嫌がらせではない。
熟練ハンターの強さに麻痺したオフィス職員も、登録当日のハンターに任せるほど鬼畜外道ではないだけだ。
「なんで!」
アサルトライフルを買って所持金が尽きた青年が抗議する。
「私も受けたい!」
格好だけ熟練ハンターを真似た少女がカウンターを叩いている。
熟練ハンターの装備は布製に見えても魔術的錬金術的に強化されている。この少女のようなコスプレ衣装では断じてない。
「その依頼の無理でもこっちは駄目かのぅ」
見た目も中身も熟練の老僧侶が戸惑っている。
ただし喧嘩どころかランニングも数十年したことがなく、おまけにスキルの活性化も理解していないようだ。
すみません何か良い依頼ないですか。
あなたが別のオフィス職員に尋ねた瞬間、新人ハンターに絡まれ苦しんでいた受付嬢が艶やかに笑った。
危険を感じてダッシュ。
通りすがりの野良パルムを躱して最も遠くの窓口に向かうが、あなたの目の前で休憩中の札が掛けられてしまう。
「実は良い依頼があるのですよ。先輩ハンターの指導を受けながら戦闘を経験できるという、初心者推奨の戦闘依頼です」
受けるとは一言も言っていないのに話が進んでいる。
でも差し出された茶菓子は美味しいしお茶もいい茶葉でいい煎れ方だ。贅沢は素敵です。
「そんな簡単な依頼っ」
「うーん、格好いい人が来てくれるなら」
「報酬が多いのがいいんじゃが。手元不如意でのぅ」
客観的に見て雑魔相手に8対1で負けそうだ。
無論、ハンターが8で雑魔が1の場合であり、逆なら戦いが成立すらしない。
「練習相手……じゃなくて討伐対象は雑魔を引き連れた吸血鬼型歪虚です」
新人ハンター達は興味を持った。
相手の強さや性質について聞こうともしない。
覚醒者の資質は持っていてもハンターの資質はないのかもしれない。
「雑魔はゾンビ風ですが特殊な能力はありません。吸血鬼型の方は魅了の状態異常攻撃があるようですが……」
あなたであれば特にスキルがなくても耐えられるだろう。
具体的には行動操作強度1という奴だ。
「ちっ、分かったよ」
「ハンサムな人だといいなー」
「現地まで歩きじゃとっ」
あなたはこの依頼をうけてもいいし、うけなくてもいい。
とりあえず王都土産のクッキー美味しかったです。
●援護依頼
「真面目な話をします」
新人を別室に隔離しての、引率者向けの説明会である。
「新人向け依頼に相応しい案件は少数なのです。この場にいる皆さんなら単独で解決可能な案件でも、新人ハンターにとっては全滅確率9割のデスシナリオになる訳でして」
実際大変なのだ。
クリムゾンウェスト各地で暴れる歪虚に対応するため、実際に戦うハンターだけでなくその支援をするオフィスも非常に忙しい。
新人ハンター向けの講習等も開催されているが十分とは言い難いのが現状だ。
「先程の3人を見たでしょう。あの方達に実感として理解してもらうためには、時間か荒療治が必要です」
ハンターは多ければ多いほどいい。
なにしろ歪虚の勢力が強大過ぎる。
今使い物にならないとしても、覚醒者という貴重な資源を無駄遣いするのは人類に対する裏切りに等しい行為だ。
それは分かるがあの3人を指導するだけなら1人で足りるのではと尋ねると、退路を塞ぐ形で多数の立体ホロディスプレイが出現した。
「候補の依頼はいくつかありまして」
知性低めの吸血鬼型1体とゾンビ風の雑魔2体という依頼が1。
知性特化の狼型1体に率いられた狼型雑魔の群れ計10体という依頼が1。
東方風の脳味噌筋肉な鬼が2匹という依頼もあるが、これは罠にかければ初心者用で正面対決ならあなた用……になる可能性も微かにあるかもしれない。
「他には吸血鬼型の知性は同じでもゾンビが100近いとかそんな感じの依頼もありますが……」
新人の面倒を見る必要がないので難易度は非常に下がる。
歪虚の脅威の低く見ている訳ではない。
新人のお守りの難易度が非常に高いのだ。
「新人以外で相談して、行く先と連れて行く集団を選んで下さい。戦場はどれも避難が済んでいます。新人が死ぬか再起不能にならない限り問題なしとしますので、なんとかいい感じの結果を出して下さい」
実にふわっとした依頼ではあるが、重要な依頼であることは間違いなかった。
そんな、全滅と引き替えに成し遂げても英雄扱いされるはずの依頼が次々に解決されていく。
その解決があまりにも鮮やかすぎて、自分もできると勘違いする者まででてきていた。
「駄目です」
依頼をうけようとしたハンターが拒否されている。
別に嫌がらせではない。
熟練ハンターの強さに麻痺したオフィス職員も、登録当日のハンターに任せるほど鬼畜外道ではないだけだ。
「なんで!」
アサルトライフルを買って所持金が尽きた青年が抗議する。
「私も受けたい!」
格好だけ熟練ハンターを真似た少女がカウンターを叩いている。
熟練ハンターの装備は布製に見えても魔術的錬金術的に強化されている。この少女のようなコスプレ衣装では断じてない。
「その依頼の無理でもこっちは駄目かのぅ」
見た目も中身も熟練の老僧侶が戸惑っている。
ただし喧嘩どころかランニングも数十年したことがなく、おまけにスキルの活性化も理解していないようだ。
すみません何か良い依頼ないですか。
あなたが別のオフィス職員に尋ねた瞬間、新人ハンターに絡まれ苦しんでいた受付嬢が艶やかに笑った。
危険を感じてダッシュ。
通りすがりの野良パルムを躱して最も遠くの窓口に向かうが、あなたの目の前で休憩中の札が掛けられてしまう。
「実は良い依頼があるのですよ。先輩ハンターの指導を受けながら戦闘を経験できるという、初心者推奨の戦闘依頼です」
受けるとは一言も言っていないのに話が進んでいる。
でも差し出された茶菓子は美味しいしお茶もいい茶葉でいい煎れ方だ。贅沢は素敵です。
「そんな簡単な依頼っ」
「うーん、格好いい人が来てくれるなら」
「報酬が多いのがいいんじゃが。手元不如意でのぅ」
客観的に見て雑魔相手に8対1で負けそうだ。
無論、ハンターが8で雑魔が1の場合であり、逆なら戦いが成立すらしない。
「練習相手……じゃなくて討伐対象は雑魔を引き連れた吸血鬼型歪虚です」
新人ハンター達は興味を持った。
相手の強さや性質について聞こうともしない。
覚醒者の資質は持っていてもハンターの資質はないのかもしれない。
「雑魔はゾンビ風ですが特殊な能力はありません。吸血鬼型の方は魅了の状態異常攻撃があるようですが……」
あなたであれば特にスキルがなくても耐えられるだろう。
具体的には行動操作強度1という奴だ。
「ちっ、分かったよ」
「ハンサムな人だといいなー」
「現地まで歩きじゃとっ」
あなたはこの依頼をうけてもいいし、うけなくてもいい。
とりあえず王都土産のクッキー美味しかったです。
●援護依頼
「真面目な話をします」
新人を別室に隔離しての、引率者向けの説明会である。
「新人向け依頼に相応しい案件は少数なのです。この場にいる皆さんなら単独で解決可能な案件でも、新人ハンターにとっては全滅確率9割のデスシナリオになる訳でして」
実際大変なのだ。
クリムゾンウェスト各地で暴れる歪虚に対応するため、実際に戦うハンターだけでなくその支援をするオフィスも非常に忙しい。
新人ハンター向けの講習等も開催されているが十分とは言い難いのが現状だ。
「先程の3人を見たでしょう。あの方達に実感として理解してもらうためには、時間か荒療治が必要です」
ハンターは多ければ多いほどいい。
なにしろ歪虚の勢力が強大過ぎる。
今使い物にならないとしても、覚醒者という貴重な資源を無駄遣いするのは人類に対する裏切りに等しい行為だ。
それは分かるがあの3人を指導するだけなら1人で足りるのではと尋ねると、退路を塞ぐ形で多数の立体ホロディスプレイが出現した。
「候補の依頼はいくつかありまして」
知性低めの吸血鬼型1体とゾンビ風の雑魔2体という依頼が1。
知性特化の狼型1体に率いられた狼型雑魔の群れ計10体という依頼が1。
東方風の脳味噌筋肉な鬼が2匹という依頼もあるが、これは罠にかければ初心者用で正面対決ならあなた用……になる可能性も微かにあるかもしれない。
「他には吸血鬼型の知性は同じでもゾンビが100近いとかそんな感じの依頼もありますが……」
新人の面倒を見る必要がないので難易度は非常に下がる。
歪虚の脅威の低く見ている訳ではない。
新人のお守りの難易度が非常に高いのだ。
「新人以外で相談して、行く先と連れて行く集団を選んで下さい。戦場はどれも避難が済んでいます。新人が死ぬか再起不能にならない限り問題なしとしますので、なんとかいい感じの結果を出して下さい」
実にふわっとした依頼ではあるが、重要な依頼であることは間違いなかった。
リプレイ本文
●鬼退治
日差しも風も穏やかだ。
なのに臓腑の動きが鈍るほどに寒い。
6人の少年は負マテリアルの気配に気付かず怯え、現実逃避という形で爆発した。
つまり、スカートめくりである。
「待って、ざくろ、男! 男!」
細身の美形が真っ赤になって抗議している。
艶のある黒髪も細い腰もまさに美少女という外見だが、骨格はきちんと男のものである。
悪ガキ6人の気配があからさま過ぎて躱す必要すらなかった。
なお、スカート着用なのは込み入った事情があるだけで、時音 ざくろ(ka1250)は特に特殊性癖は無い。
「この馬鹿者どもが!」
空気が震えるほどの一喝が少年達を突き抜ける。
圧倒的な格の差で体が竦んで呼吸もできなくなる。
「こんなお子ちゃまがハンターなどとは世も末じゃな」
鼻を鳴らすミグ・ロマイヤー(ka0665)ではあるが、外見的には彼女の方が若い。
霊的な感覚がなくても実戦経験があればミグ達の武の気配に気付けたのだろうが、今の6人は平和ボケが残る子供でしか無い。
「歪虚の近くでのんびりしたら駄目だよ?」
星野 ハナ(ka5852)が優しく語りかける。
然るべき場所に行けば見合い的な意味でも軍へのスカウト的な意味でも大人気な彼女に対し、自らが怯えていることにも気付けない子供が暴言を吐く。
「うっせーおばは」
雷が落ちた。
並の雑魔なら群れごと焼き尽くす光が至近を通り抜ける。
呆然とした少年を閃光の如き拳骨が襲う。
視界の中に星が舞う。
殺す気かと怯える残り5人は勘違いをしている。
本気なら頭蓋骨が砕け中身がこのれているはずだからだ。
「お姉さんたちに逆らうとどんな目に遭うか教えてあげますよぅ、このク・ソ・ガ・キ☆」
爽やかな笑顔のまま非常に薄い殺気を向けると、子供達が硬直してバットが6本足下へ落ちた。
「逃げよう」
「待て兄弟。足がつって動けぬ」
雑魔が気付いたのは少年達と同じタイミングだった。
格好つけたポーズのまま体が動かず、熟練ハンターなら既に10度は滅ぼせる隙を晒している。
「鬼、何時から居るんだろう? 苔むしちゃってるよ」
ざくろが困惑している。
バットよりも遙かに重い魔導剣を威嚇代わりに巨大化させると、子供だけでなく鬼型歪虚2体が露骨に怯え始めた。
「待て人間よ。ここは休戦を」
生きとし生けるものに殺意を向ける歪虚でも、実力に天と地の差があればこういう反応をすることもある。
「双方待て!」
ミグが気合いのみで子供と鬼を抑える。
「正面から戦うのは愚策。その間守ってやるからまずは作戦を立てよ。お前達も3年以上待ったのじゃからもうちょっと待っておけ」
人間も歪虚も圧倒されて老ドワーフに従った。
「できました!」
作戦は穴掘りであった。
リアルブルーの思い出であるユニフォームを汗と土で汚し、足をひっかければ大怪我確実な程度の穴をいくつも完成させた。
「引っかからないといかんのかのー」
「言うな兄弟」
鬼2体は怯えて立ちすくんでいる。
「よかろう。始めるぞ」
ミグの宣言で、茶番に見えても生死のかかった戦いが始まった。
元野球少年より鬼の方が速く、しかしざくろ達の方が数段上手だ。
文字通り電じみた斬撃が鬼を襲う。
まとめて一刀両断できる威力があるのに何故か鬼に当たらない。
逃げないのなら当たらず、逃げるなら瞬時に殺すつもりの斬撃しか使っていないのだ。
「がんばれっ」
ざくろには少年を応援する余裕があり、鬼型雑魔は限界まで手を抜いた斬撃を防ぐので精一杯。
切なくなるほどの実力差があった。
「このっ」
「当たれぇっ」
バットがぶんぶん空ぶっている。
始めて接する殺意が刺激的すぎて、力の籠もりすぎたスイングは乱れに乱れて体力だけが消費されていく。
「息を吸え。心臓が動いているうちは死なんっ」
ミグの呼びかけも聞こえていない。
元野球少年よりはましな程度な棍棒が、しゃくり上げるような不規則の呼吸の子供に直撃した。
「ひぃっ」
今にも死にそうな声だ軽傷だ。
ミグにとっては誤差程度の防御が付与され、雑魔の一撃の半分以上が防がれ軽い打撲程度のダメージで済む。
ざくろに相手されている1体は諦めの表情だ。
「玉ついてるなら目の前の敵を睨み付けなさい!」
ハナが叱咤する。
根底に慈愛がある。
怒りの発露ではなく勇気づける叱咤だ。
虹色の翼を背負うハナは勝利あるいは慈愛の女神にも見える。男6人の性癖が固まった瞬間であった。
「分かりました!」
ハナが術で歪虚の闘争心を奪い混乱させる。
癒やしの波動を広げて少年達の傷を癒やす。
そこまでしてようやく五分と五分だ。
「お主等忘れておるぞ。増援がいるなら巧く使え。違うこっちを見るな」
振り向こうとした少年をミグがはたいて鬼に向かわせる。
「あ、え」
「そうかっ、鬼の後ろから攻撃してくださいっ」
上下関係を叩き込まれたため、言葉遣いがすっかり丁寧になっていた。
ざくろは庇うのに使っていた盾を自分の元へ戻す。
盾抜きで戦っていた訳だが、この程度の相手に後れをとる訳が無い。
「大丈夫?」
「はい!」
元気な返事が返ってくる。
顔にも胸にも打撲を浴びて血が滲んでいるが、しっかりと地面を踏みしめ生きるための戦いを続けている。
ザクロは優しく微笑み、絶望したままの鬼1体に止めを刺した。
●洞窟
パニック映画そのものであった。
溢れるゾンビ。
弾切れに気付かない新兵。
パニックに陥り逃げようとするがゾンビ型雑魔しがみつかれて動けない。
「9割足止めしたんだけど……」
通信機で呼びかけても答えてくれないので、リアリュール(ka2003)は介入することにした。
歩み寄る。
ゾンビ型雑魔に近づかれても回避しようとはせず、それを隙と認識したゾンビ型に3方から襲われる。
鼻歌を歌う余裕があった。
力場の盾で噛みつきも拳も受け流し、直径6メートルの範囲に大量の投擲武器を放つ。
止めは新人に刺させるつもりだたのに、生き残ったのは10分の1にも満たなかった。
「落ち着いて射撃すれば洞窟入り口で半分は倒せたわ」
穏やかに言うと、サバイバルゲーム限定であれば熟練兵の新人ハンターがようやく落ち着き落ち込んだ。
「灯り、食料、魔導スマホをもう一度確認して。スキルの活性化は大丈夫? うん、ヒールは早め早めで使ってあげて」
リアリュールは慰めない。
重要なのは生存と勝利だ。
慣れれば今見えていないことも見えるようになるし、生き残れば否応なく強くなり余裕もできる。
「来る。17」
追い詰められた顔で銃を構え直すサバイバルチーム。
今度は訓練時の8割程度まで命中率が上昇する。
「私も加わるけど、進路選びはそちらでね」
強ばった顔がばらばらにうなずき、新人達が吸血鬼の塒へ強襲を開始した。
●平常運転
待ち合わせ場所にはディーナ・フェルミ(ka5843)しか来なかった。
「あ、あれ? 新人さんの引率と聞いてきたのに新人さんが居ないの!?」
それだけならここまで驚かない
自主性を尊重してどこに行くかを選ばせたのだからこういうこともある。
「メーガンさんまでいないのっ」
だが約束していたはずの女騎士がいないのはどうかと思う。
王国では準貴族として扱われる立場で約束無視というのは大問題だ。
「……まさか」
ママチャリをキュコキュコこぎながら森へで進入すると、申し訳そうにする戦馬と地図を手に頭を抱える女騎士がいた。
それから20分後。
狼の群れが恐慌に陥っていた。
「新人さんも居ないし、逃げられても困るし……私達を餌だと思えば逃げないと思うの食うか食われるかなの」
美味そうな血の匂いがする。
不味そうな鉄の臭いがする。
そして、束になっても絶対に勝てない敵の気配がある。
獣としての本能を失った中途半端な知性の雑魔が息を殺し、敵がどこかに行くのを願った。
だが願いは叶わない。
「この辺に出ると聞いたの、だからこの辺で……出たのー」
茂みから現れたディーナと目が合った。
光が横切る。
群れの半分が一瞬で焼き尽くされる。
全てを見捨てて逃げる。
途中で鉄臭いものにぶつかり恐怖にせきたてられて齧り、牙が砕けて情けない鳴き声をあげた。
「言われたとおり着ていて良かったです」
猫科の肉食獣にも噛まれたまま大真面目にうなずくメーガン。
雑魔の処理より肉の臭み取りが大変でした。
●正攻法
説明が一段落したとき、日付が変わって1時間以上経過していた。
地形、気候、敵の目撃情報に類似敵についての報告など、内容自体はハンターが自分で調べるか職員に聞く内容だ。
「疲れました」
職員は疲れ果てている。
意義は分かるが、理解の前提となる知識を持たない新人にも分かるよう話すのは非常に手間がかかる。
「隣で依頼うけてた人達、みんなすぐに依頼うけてたじゃない!」
コスプレ娘が涙目で講義する。
他の2人は疲労の限界に達してソファーの上で就寝中だ。
「僕の知り合いにも、何人か……人間大の兵器かと言わんばかりの、強力なハンターさんはいます」
とうに用件を済ませた天央 観智(ka0896)が穏やかに諭す。
圧倒的武力で雑魔を粉砕するハンターは多数いる。
「けれど皆さん、最初から”そう”だった訳ではない……ですからね」
だがそれは脳味噌筋肉を意味しない。
短いやりとりから多くの情報を引き出す知識と経験と知性があるから短時間で説明が終わるのだ。
「僕みたいに、力押しが不得手ハンターも相応にいますし。英雄に憧れるのも悪くないし、夢を壊す気も無いですけれど、慢心にはいずれ重い代償が返って来ますよ」
じっと見つめるが納得していないようだ。
「いいでしょう」
観智は、職員の懇願じみた要請を受け入れ研修を担当することにした。
そして時間が過ぎた。
「あの」
「作戦会議は終わっていないぞ」
一見豪華な2階建ての屋敷を見下ろす丘で、3人の新人がレイア・アローネ(ka4082)を見上げている。
必要な情報は全て渡したのに突撃を……それも新人のみで突撃しようとしたりレイア達相手に大口を叩いたりと、職員が匙を投げるレベルの酷さだ。
レイアも昔は新人だった。
誰だってそうで未熟な時はある。だからこそ導くのは我々の役目と思ってはいたのだが……。
「酷過ぎんかこれは」
老僧侶は人格はまともだがこれまで生きてきた世界と業界と違い過ぎて足手纏い。
青年は何も考えず、コスプレ少女はレイアを仲間だと思っているらしい。
それから1時間以上が過ぎ、ハンターが助けに入る前に死ぬ酷さだった作戦が修正され、ようやくボロ屋敷攻略作戦が始まった。
「筋はいい」
ゾンビ型雑魔のまで空振り1回転をした青年に声をかける。
少なくとも体力はある。
ぎりぎりで致命傷を避けるセンスもある。
だがこの程度覚醒者ならあって当然だ。
「だが私は自分よりも遥かに才能溢れる連中が帰らぬ人となったのを何人も見てきた。ハンターに必要なのは才能よりも慎重さだ」
少女がゾンビパンチを受け損ない怯えて盾を取り落とし、青年が後衛を守ろうともせず棍棒を空振りし、無防備な熟練僧侶兼新人聖導士にゾンビ型雑魔が襲いかかる。
が、手を伸ばせが爪が届く距離で90度方向転換。
青年より若く少女より少し年上の女性ハンターに襲いかかろうとして全てを空振りする。
「猟撃士、聖導士、疾影士とバランスがとれてはいますが」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は既に1体のゾンビ型を受け持っている。
もう1体増えても雑魔の足の動きから数秒後の攻撃を予想し、予め当たらない場所へ移動することで回避する。
「本当に初心者ですね。少し減らして起きましょう」
本気を10分の1ほど出す。
微かな黄金色の燐光がヴァルナを覆い、背中の龍翼も目を凝らせば辛うじて視認可能な程度の薄さになる。
そして斬撃。
通常時ですら存在感のある赤い刀身にマテリアルの輝きが加わり、受けを試みた腕ごとゾンビの胴を両断した。
三者三様の悲鳴。
だがヴァルナは眉ひとつ動かさずよく見るように言う。
「長期間歪虚であったものは死体も残りません。稀に残りますが経験するのは皆さんが中堅になってからでしょう」
ゾンビ型雑魔の残骸は、この世界が架空世界であるかのように唐突に消滅する。
肉も骨も、腐臭すら残らない。
「これが歪虚です」
3人を別種の恐怖が襲う。
本当に何も残らないのだ。
歪虚に負ければ生だけでなく死までも奪われる。
情報として耳にはしても理解出来なかったことが、このとき初めて実感できた。
レイアとヴァルナが視線を交わす。
新人の集中力が増した今ならいける。
「見えていますよ」
集中し、術を強化し、攻撃のための術を発動する過程を初心者でも理解できる速度で見せる観智。
紫色の光を伴う重力波が2階の分厚い扉を破り、聞き耳を立てていた吸血鬼型歪虚が戦場へ引きずり出される。
吸血鬼はほとんど移動できない。
移動阻害の効果が100パーセント発揮されている。
「何故これほどの強者がっ」
魅了の力が初心者に向く。
だが静かな歌声により効果を発揮することもなく吹き消される。
歌い続けるヴァルナをその場に残し、人間離れした速度でレイアが階段を駆け上がった。
「万が一があるからな」
階下のゾンビ型なら不運が重なっても重傷で済む。
だがこの吸血鬼型は新人に再起不能や戦死級の傷を与える可能性がある。
それが計算上無視できる確率だとしても許容できはしない。だから滅ぼすのだ。
紅い刺突の一閃が雑魔の核を心臓ごと貫く。
断末魔も残せず、吸血鬼の姿をした雑魔が足下から薄れて消え去るった。
「気を抜くな。その雑魔でも君達を殺せる。敵を殺すまで一瞬も気を抜くな」
一瞬緩んだ新人3人に気合いが戻り、戦闘能力が最下級の雑魔との死闘を再開した。
決着まで、4分かかった。
●打ち上げ
「かんぱーい!」
ハナが予約した焼き肉店で、新人3パーティと一緒に打ち上げ会である。
肉がちょっと血生臭い。だが3パーティとも臭いが気にならないほど腹が減っている。
「依頼の後は打ち上げ必須ですよぅ」
ハナがどんどん食べろと勧めると、少年6人がきらきらとした目でハナを見つめながら肉に箸を伸ばす。
「初依頼はどうだったかしら」
リアリュールが担当した面々はビールを1杯飲んだ時点でふらふらだ。
年齢差もあるが、戦いが長時間で心身とも限界なのだ。
「なんとか」
「足りないものを実地で教えて貰え……」
眠りに落ち鉄板に突っ伏しそうになったのを、リアリュールが危なげなく助けていた。
「防具は大事です。生存力に係わります」
ヴァルナは上品にナイフを動かしつつ説明する。
「私も軽装ですけどそれなりに強化してあります。本当に重要ですよ?」
強化費用を聞いて冗談と受け取っていた新人達は、翌日錬成工房に行って絶望することになった。
日差しも風も穏やかだ。
なのに臓腑の動きが鈍るほどに寒い。
6人の少年は負マテリアルの気配に気付かず怯え、現実逃避という形で爆発した。
つまり、スカートめくりである。
「待って、ざくろ、男! 男!」
細身の美形が真っ赤になって抗議している。
艶のある黒髪も細い腰もまさに美少女という外見だが、骨格はきちんと男のものである。
悪ガキ6人の気配があからさま過ぎて躱す必要すらなかった。
なお、スカート着用なのは込み入った事情があるだけで、時音 ざくろ(ka1250)は特に特殊性癖は無い。
「この馬鹿者どもが!」
空気が震えるほどの一喝が少年達を突き抜ける。
圧倒的な格の差で体が竦んで呼吸もできなくなる。
「こんなお子ちゃまがハンターなどとは世も末じゃな」
鼻を鳴らすミグ・ロマイヤー(ka0665)ではあるが、外見的には彼女の方が若い。
霊的な感覚がなくても実戦経験があればミグ達の武の気配に気付けたのだろうが、今の6人は平和ボケが残る子供でしか無い。
「歪虚の近くでのんびりしたら駄目だよ?」
星野 ハナ(ka5852)が優しく語りかける。
然るべき場所に行けば見合い的な意味でも軍へのスカウト的な意味でも大人気な彼女に対し、自らが怯えていることにも気付けない子供が暴言を吐く。
「うっせーおばは」
雷が落ちた。
並の雑魔なら群れごと焼き尽くす光が至近を通り抜ける。
呆然とした少年を閃光の如き拳骨が襲う。
視界の中に星が舞う。
殺す気かと怯える残り5人は勘違いをしている。
本気なら頭蓋骨が砕け中身がこのれているはずだからだ。
「お姉さんたちに逆らうとどんな目に遭うか教えてあげますよぅ、このク・ソ・ガ・キ☆」
爽やかな笑顔のまま非常に薄い殺気を向けると、子供達が硬直してバットが6本足下へ落ちた。
「逃げよう」
「待て兄弟。足がつって動けぬ」
雑魔が気付いたのは少年達と同じタイミングだった。
格好つけたポーズのまま体が動かず、熟練ハンターなら既に10度は滅ぼせる隙を晒している。
「鬼、何時から居るんだろう? 苔むしちゃってるよ」
ざくろが困惑している。
バットよりも遙かに重い魔導剣を威嚇代わりに巨大化させると、子供だけでなく鬼型歪虚2体が露骨に怯え始めた。
「待て人間よ。ここは休戦を」
生きとし生けるものに殺意を向ける歪虚でも、実力に天と地の差があればこういう反応をすることもある。
「双方待て!」
ミグが気合いのみで子供と鬼を抑える。
「正面から戦うのは愚策。その間守ってやるからまずは作戦を立てよ。お前達も3年以上待ったのじゃからもうちょっと待っておけ」
人間も歪虚も圧倒されて老ドワーフに従った。
「できました!」
作戦は穴掘りであった。
リアルブルーの思い出であるユニフォームを汗と土で汚し、足をひっかければ大怪我確実な程度の穴をいくつも完成させた。
「引っかからないといかんのかのー」
「言うな兄弟」
鬼2体は怯えて立ちすくんでいる。
「よかろう。始めるぞ」
ミグの宣言で、茶番に見えても生死のかかった戦いが始まった。
元野球少年より鬼の方が速く、しかしざくろ達の方が数段上手だ。
文字通り電じみた斬撃が鬼を襲う。
まとめて一刀両断できる威力があるのに何故か鬼に当たらない。
逃げないのなら当たらず、逃げるなら瞬時に殺すつもりの斬撃しか使っていないのだ。
「がんばれっ」
ざくろには少年を応援する余裕があり、鬼型雑魔は限界まで手を抜いた斬撃を防ぐので精一杯。
切なくなるほどの実力差があった。
「このっ」
「当たれぇっ」
バットがぶんぶん空ぶっている。
始めて接する殺意が刺激的すぎて、力の籠もりすぎたスイングは乱れに乱れて体力だけが消費されていく。
「息を吸え。心臓が動いているうちは死なんっ」
ミグの呼びかけも聞こえていない。
元野球少年よりはましな程度な棍棒が、しゃくり上げるような不規則の呼吸の子供に直撃した。
「ひぃっ」
今にも死にそうな声だ軽傷だ。
ミグにとっては誤差程度の防御が付与され、雑魔の一撃の半分以上が防がれ軽い打撲程度のダメージで済む。
ざくろに相手されている1体は諦めの表情だ。
「玉ついてるなら目の前の敵を睨み付けなさい!」
ハナが叱咤する。
根底に慈愛がある。
怒りの発露ではなく勇気づける叱咤だ。
虹色の翼を背負うハナは勝利あるいは慈愛の女神にも見える。男6人の性癖が固まった瞬間であった。
「分かりました!」
ハナが術で歪虚の闘争心を奪い混乱させる。
癒やしの波動を広げて少年達の傷を癒やす。
そこまでしてようやく五分と五分だ。
「お主等忘れておるぞ。増援がいるなら巧く使え。違うこっちを見るな」
振り向こうとした少年をミグがはたいて鬼に向かわせる。
「あ、え」
「そうかっ、鬼の後ろから攻撃してくださいっ」
上下関係を叩き込まれたため、言葉遣いがすっかり丁寧になっていた。
ざくろは庇うのに使っていた盾を自分の元へ戻す。
盾抜きで戦っていた訳だが、この程度の相手に後れをとる訳が無い。
「大丈夫?」
「はい!」
元気な返事が返ってくる。
顔にも胸にも打撲を浴びて血が滲んでいるが、しっかりと地面を踏みしめ生きるための戦いを続けている。
ザクロは優しく微笑み、絶望したままの鬼1体に止めを刺した。
●洞窟
パニック映画そのものであった。
溢れるゾンビ。
弾切れに気付かない新兵。
パニックに陥り逃げようとするがゾンビ型雑魔しがみつかれて動けない。
「9割足止めしたんだけど……」
通信機で呼びかけても答えてくれないので、リアリュール(ka2003)は介入することにした。
歩み寄る。
ゾンビ型雑魔に近づかれても回避しようとはせず、それを隙と認識したゾンビ型に3方から襲われる。
鼻歌を歌う余裕があった。
力場の盾で噛みつきも拳も受け流し、直径6メートルの範囲に大量の投擲武器を放つ。
止めは新人に刺させるつもりだたのに、生き残ったのは10分の1にも満たなかった。
「落ち着いて射撃すれば洞窟入り口で半分は倒せたわ」
穏やかに言うと、サバイバルゲーム限定であれば熟練兵の新人ハンターがようやく落ち着き落ち込んだ。
「灯り、食料、魔導スマホをもう一度確認して。スキルの活性化は大丈夫? うん、ヒールは早め早めで使ってあげて」
リアリュールは慰めない。
重要なのは生存と勝利だ。
慣れれば今見えていないことも見えるようになるし、生き残れば否応なく強くなり余裕もできる。
「来る。17」
追い詰められた顔で銃を構え直すサバイバルチーム。
今度は訓練時の8割程度まで命中率が上昇する。
「私も加わるけど、進路選びはそちらでね」
強ばった顔がばらばらにうなずき、新人達が吸血鬼の塒へ強襲を開始した。
●平常運転
待ち合わせ場所にはディーナ・フェルミ(ka5843)しか来なかった。
「あ、あれ? 新人さんの引率と聞いてきたのに新人さんが居ないの!?」
それだけならここまで驚かない
自主性を尊重してどこに行くかを選ばせたのだからこういうこともある。
「メーガンさんまでいないのっ」
だが約束していたはずの女騎士がいないのはどうかと思う。
王国では準貴族として扱われる立場で約束無視というのは大問題だ。
「……まさか」
ママチャリをキュコキュコこぎながら森へで進入すると、申し訳そうにする戦馬と地図を手に頭を抱える女騎士がいた。
それから20分後。
狼の群れが恐慌に陥っていた。
「新人さんも居ないし、逃げられても困るし……私達を餌だと思えば逃げないと思うの食うか食われるかなの」
美味そうな血の匂いがする。
不味そうな鉄の臭いがする。
そして、束になっても絶対に勝てない敵の気配がある。
獣としての本能を失った中途半端な知性の雑魔が息を殺し、敵がどこかに行くのを願った。
だが願いは叶わない。
「この辺に出ると聞いたの、だからこの辺で……出たのー」
茂みから現れたディーナと目が合った。
光が横切る。
群れの半分が一瞬で焼き尽くされる。
全てを見捨てて逃げる。
途中で鉄臭いものにぶつかり恐怖にせきたてられて齧り、牙が砕けて情けない鳴き声をあげた。
「言われたとおり着ていて良かったです」
猫科の肉食獣にも噛まれたまま大真面目にうなずくメーガン。
雑魔の処理より肉の臭み取りが大変でした。
●正攻法
説明が一段落したとき、日付が変わって1時間以上経過していた。
地形、気候、敵の目撃情報に類似敵についての報告など、内容自体はハンターが自分で調べるか職員に聞く内容だ。
「疲れました」
職員は疲れ果てている。
意義は分かるが、理解の前提となる知識を持たない新人にも分かるよう話すのは非常に手間がかかる。
「隣で依頼うけてた人達、みんなすぐに依頼うけてたじゃない!」
コスプレ娘が涙目で講義する。
他の2人は疲労の限界に達してソファーの上で就寝中だ。
「僕の知り合いにも、何人か……人間大の兵器かと言わんばかりの、強力なハンターさんはいます」
とうに用件を済ませた天央 観智(ka0896)が穏やかに諭す。
圧倒的武力で雑魔を粉砕するハンターは多数いる。
「けれど皆さん、最初から”そう”だった訳ではない……ですからね」
だがそれは脳味噌筋肉を意味しない。
短いやりとりから多くの情報を引き出す知識と経験と知性があるから短時間で説明が終わるのだ。
「僕みたいに、力押しが不得手ハンターも相応にいますし。英雄に憧れるのも悪くないし、夢を壊す気も無いですけれど、慢心にはいずれ重い代償が返って来ますよ」
じっと見つめるが納得していないようだ。
「いいでしょう」
観智は、職員の懇願じみた要請を受け入れ研修を担当することにした。
そして時間が過ぎた。
「あの」
「作戦会議は終わっていないぞ」
一見豪華な2階建ての屋敷を見下ろす丘で、3人の新人がレイア・アローネ(ka4082)を見上げている。
必要な情報は全て渡したのに突撃を……それも新人のみで突撃しようとしたりレイア達相手に大口を叩いたりと、職員が匙を投げるレベルの酷さだ。
レイアも昔は新人だった。
誰だってそうで未熟な時はある。だからこそ導くのは我々の役目と思ってはいたのだが……。
「酷過ぎんかこれは」
老僧侶は人格はまともだがこれまで生きてきた世界と業界と違い過ぎて足手纏い。
青年は何も考えず、コスプレ少女はレイアを仲間だと思っているらしい。
それから1時間以上が過ぎ、ハンターが助けに入る前に死ぬ酷さだった作戦が修正され、ようやくボロ屋敷攻略作戦が始まった。
「筋はいい」
ゾンビ型雑魔のまで空振り1回転をした青年に声をかける。
少なくとも体力はある。
ぎりぎりで致命傷を避けるセンスもある。
だがこの程度覚醒者ならあって当然だ。
「だが私は自分よりも遥かに才能溢れる連中が帰らぬ人となったのを何人も見てきた。ハンターに必要なのは才能よりも慎重さだ」
少女がゾンビパンチを受け損ない怯えて盾を取り落とし、青年が後衛を守ろうともせず棍棒を空振りし、無防備な熟練僧侶兼新人聖導士にゾンビ型雑魔が襲いかかる。
が、手を伸ばせが爪が届く距離で90度方向転換。
青年より若く少女より少し年上の女性ハンターに襲いかかろうとして全てを空振りする。
「猟撃士、聖導士、疾影士とバランスがとれてはいますが」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は既に1体のゾンビ型を受け持っている。
もう1体増えても雑魔の足の動きから数秒後の攻撃を予想し、予め当たらない場所へ移動することで回避する。
「本当に初心者ですね。少し減らして起きましょう」
本気を10分の1ほど出す。
微かな黄金色の燐光がヴァルナを覆い、背中の龍翼も目を凝らせば辛うじて視認可能な程度の薄さになる。
そして斬撃。
通常時ですら存在感のある赤い刀身にマテリアルの輝きが加わり、受けを試みた腕ごとゾンビの胴を両断した。
三者三様の悲鳴。
だがヴァルナは眉ひとつ動かさずよく見るように言う。
「長期間歪虚であったものは死体も残りません。稀に残りますが経験するのは皆さんが中堅になってからでしょう」
ゾンビ型雑魔の残骸は、この世界が架空世界であるかのように唐突に消滅する。
肉も骨も、腐臭すら残らない。
「これが歪虚です」
3人を別種の恐怖が襲う。
本当に何も残らないのだ。
歪虚に負ければ生だけでなく死までも奪われる。
情報として耳にはしても理解出来なかったことが、このとき初めて実感できた。
レイアとヴァルナが視線を交わす。
新人の集中力が増した今ならいける。
「見えていますよ」
集中し、術を強化し、攻撃のための術を発動する過程を初心者でも理解できる速度で見せる観智。
紫色の光を伴う重力波が2階の分厚い扉を破り、聞き耳を立てていた吸血鬼型歪虚が戦場へ引きずり出される。
吸血鬼はほとんど移動できない。
移動阻害の効果が100パーセント発揮されている。
「何故これほどの強者がっ」
魅了の力が初心者に向く。
だが静かな歌声により効果を発揮することもなく吹き消される。
歌い続けるヴァルナをその場に残し、人間離れした速度でレイアが階段を駆け上がった。
「万が一があるからな」
階下のゾンビ型なら不運が重なっても重傷で済む。
だがこの吸血鬼型は新人に再起不能や戦死級の傷を与える可能性がある。
それが計算上無視できる確率だとしても許容できはしない。だから滅ぼすのだ。
紅い刺突の一閃が雑魔の核を心臓ごと貫く。
断末魔も残せず、吸血鬼の姿をした雑魔が足下から薄れて消え去るった。
「気を抜くな。その雑魔でも君達を殺せる。敵を殺すまで一瞬も気を抜くな」
一瞬緩んだ新人3人に気合いが戻り、戦闘能力が最下級の雑魔との死闘を再開した。
決着まで、4分かかった。
●打ち上げ
「かんぱーい!」
ハナが予約した焼き肉店で、新人3パーティと一緒に打ち上げ会である。
肉がちょっと血生臭い。だが3パーティとも臭いが気にならないほど腹が減っている。
「依頼の後は打ち上げ必須ですよぅ」
ハナがどんどん食べろと勧めると、少年6人がきらきらとした目でハナを見つめながら肉に箸を伸ばす。
「初依頼はどうだったかしら」
リアリュールが担当した面々はビールを1杯飲んだ時点でふらふらだ。
年齢差もあるが、戦いが長時間で心身とも限界なのだ。
「なんとか」
「足りないものを実地で教えて貰え……」
眠りに落ち鉄板に突っ伏しそうになったのを、リアリュールが危なげなく助けていた。
「防具は大事です。生存力に係わります」
ヴァルナは上品にナイフを動かしつつ説明する。
「私も軽装ですけどそれなりに強化してあります。本当に重要ですよ?」
強化費用を聞いて冗談と受け取っていた新人達は、翌日錬成工房に行って絶望することになった。
依頼結果
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Q&Aコーナー リアリュール(ka2003) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/03/14 13:24:34 |
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相談コーナー リアリュール(ka2003) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/03/14 13:16:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/10 23:50:17 |