ゲスト
(ka0000)
鎮座するもの
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/22 12:00
- 完成日
- 2015/01/28 21:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●四足の魔物
でん!!
という擬音が似合うかのようにそれはいた。
とある村と村とを結ぶ道の上。
まるでとおせんぼをするかのように、四つの足で地に伏せる姿。
一言で表すならば、頑丈そうな鱗が全身に生えた巨大なトカゲ。
全長10mはあろう。
もちろん雑魔である。
「へっ! ただでかいだけのトカゲだろ? それくらい俺達が追い払ってやるよ!」
その話を聞いた血気盛んな村の若者数人が、粗末な得物を手にトカゲ退治に出ていった。
他の村人達の止める声も聞かずに。
●代償
「おい……本当にやるのか?」
一人の男が隣に立つ友人に小声で聞いた。
彼らの視線の先には、寝ているのか地面にうずくまって動かない巨大なトカゲがいる。
――話には聞いていたが、こんなにでかいとは思わなかった。
男の目がそんな言葉を雄弁に語っていた。
「そ、そうだな……どうしたもんかな……」
男達は声をひそめ、トカゲの方をちらちらと見ながら打ち合わせをする。
打ち合わせといっても、それはもはや、誰かが「あきらめて帰ろうぜ」と言い出すのを待つだけの消極的な話し合いにすぎなかったが。
準備してきた武器があの化け物に通用するとは思えない。遠く離れた彼らから見てもそんな感想が自然に浮かんでくるほどの威圧感が、このトカゲの化け物にはあったのである。
そう。彼らは雑魔から十分離れた距離でそうした行為を行っていた。少なくとも彼らは安全な場所にいると思っていた……。
「! お、おい! 動いたぞ!」
一人が怯えた声を出し、皆が一斉に振り向く。
「……って嘘だろもうあんなに近くっ……!!」
先程まで寝ていたとは思えないほどの速度でトカゲは瞬く間に彼らの側へと近づいた。
そして悲鳴をあげた男の頭の側であぎとを開け、閉じる。
その瞬間、男の声がぱったりと止んだ。
トカゲはもぐもぐと口を動かしている。
他の男達が事態を理解するのに2秒。
「う、うわああああああああああああ!!」
すぐさま連鎖のように新たな悲鳴が生まれ、男達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ハンターオフィスに巨大なトカゲ型雑魔の討伐依頼が出されたのは、その悲劇が起きてすぐのことだった……。
でん!!
という擬音が似合うかのようにそれはいた。
とある村と村とを結ぶ道の上。
まるでとおせんぼをするかのように、四つの足で地に伏せる姿。
一言で表すならば、頑丈そうな鱗が全身に生えた巨大なトカゲ。
全長10mはあろう。
もちろん雑魔である。
「へっ! ただでかいだけのトカゲだろ? それくらい俺達が追い払ってやるよ!」
その話を聞いた血気盛んな村の若者数人が、粗末な得物を手にトカゲ退治に出ていった。
他の村人達の止める声も聞かずに。
●代償
「おい……本当にやるのか?」
一人の男が隣に立つ友人に小声で聞いた。
彼らの視線の先には、寝ているのか地面にうずくまって動かない巨大なトカゲがいる。
――話には聞いていたが、こんなにでかいとは思わなかった。
男の目がそんな言葉を雄弁に語っていた。
「そ、そうだな……どうしたもんかな……」
男達は声をひそめ、トカゲの方をちらちらと見ながら打ち合わせをする。
打ち合わせといっても、それはもはや、誰かが「あきらめて帰ろうぜ」と言い出すのを待つだけの消極的な話し合いにすぎなかったが。
準備してきた武器があの化け物に通用するとは思えない。遠く離れた彼らから見てもそんな感想が自然に浮かんでくるほどの威圧感が、このトカゲの化け物にはあったのである。
そう。彼らは雑魔から十分離れた距離でそうした行為を行っていた。少なくとも彼らは安全な場所にいると思っていた……。
「! お、おい! 動いたぞ!」
一人が怯えた声を出し、皆が一斉に振り向く。
「……って嘘だろもうあんなに近くっ……!!」
先程まで寝ていたとは思えないほどの速度でトカゲは瞬く間に彼らの側へと近づいた。
そして悲鳴をあげた男の頭の側であぎとを開け、閉じる。
その瞬間、男の声がぱったりと止んだ。
トカゲはもぐもぐと口を動かしている。
他の男達が事態を理解するのに2秒。
「う、うわああああああああああああ!!」
すぐさま連鎖のように新たな悲鳴が生まれ、男達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ハンターオフィスに巨大なトカゲ型雑魔の討伐依頼が出されたのは、その悲劇が起きてすぐのことだった……。
リプレイ本文
八人の男女は皆、息を潜めていた。
いや。潜めていたのは息だけではない。気配、衣擦れの音、足音、様々なものだ。
彼らの前にうずくまるのは一体の巨大なトカゲ。いや、トカゲ型の雑魔であった。
全長は10mはあるだろう。巨大な胴体を支える強靭な四肢を持ち、全身には鎧のような鱗がびっしりと生えている。今は閉じられているが、大きな口は人間を丸呑みしてしまいそうなほどだ。実際、一人の村人がそのあぎとの犠牲となっている。だからこそ彼らが呼ばれたのだ。巨大な化け物を倒す力を秘めた、八人のハンターが。
その中で、二人の女性がトカゲの側にそろりそろりと近づいている。
一人はルリ・エンフィールド(ka1680)。
自身の背よりも格段に長い剣、ツヴァイハンダーを手にしたドワーフの少女。
一人はアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
トカゲの背後から静かに接近する彼女の得物は試作振動刀「オートMURAMASA」。剣戟の際は超音波振動により切れ味が増す武器だが、もちろん今は物いわぬ刀だ。
己に近づく影を知ってか知らずか、四肢を伏せ、まぶたを閉じている大きなトカゲは動かない。
不意打ちがうまくいけば、戦闘が優位に運ぶのは間違いない。危険な役目を行う二人を、残りの六人はさまざまな心情と共に見守っている。
ダラントスカスティーヤ(ka0928)は、
(強敵だが落ち着いて冷静にやれば勝機は見えてくる。何時もどおりやるだけだ)
と恐ろしい敵を前に新たな決意を固め。
屋外(ka3530)は、
(勇気ある命達を蹂躙した歪虚。赦しはしない)
と犠牲となった村人への鎮魂を胸に、戦いに望んでいた。
屋外は戦闘を優位に運ぶため、とある計画を立てていたのだが、必要な物資が集まらず、今回は断念せざるを得なかった。もちろん、そのことで彼の戦意が鈍るようなことは一片もなかったが。
ハンター達が見守る中、ルリとアルトが少しずつ敵へと接近していく。
メープル・マラカイト(ka0347)はそんな時、日に当たるトカゲの全身から出ている大きな影に目をやり、内心呟いた。
(トカゲと影……ふふ)
その瞬間、大きなトカゲのまぶたがぱちりと開き、視線がメープルのオッドアイと交差した。もちろんメープルの声なき言葉が聞こえたわけではないだろうが。
トカゲは頭を巡らせ、ルリを睨みつける。目覚めたのはメープルが心の中で呟いた洒落のせいではなく、接近するものの気配に気付いたからのようだ。
「やばっ! 起きちまった!」
近くに寄っていたルリがトカゲの反応に気付き、味方に注意を促す。もちろんその頃にはもう仲間達は動いていた。皆、敵の一挙手一投足を見逃すまいとしていたのだ。不意を突くことはできなかったが、逆に不意を突かれることもなかった。
「さて、サイズの大小のみが勝負を決定付ける要素ではない事を教えてやろう」
ついに首をもたげてこちらを見下ろす巨大な雑魔。
しかしロイド・ブラック(ka0408)はそんな大きな姿を前に、自信満々に言い放った。
(速度に重さ……密着すれば卸金、ですかね……付かず離れずでいきましょう)
月架 尊(ka0114)は敵の側面へと回り込み、ショートソード「クラウンナイツ」を繰り出した。狙いは腹部。この部位は弱いはずとの見込みと共に振るわれた一撃だったが、無念にも突如駆け出したトカゲの動きによって狙いが狂い、鱗が覆う場所に命中してしまう。彼の手には強固な手ごたえだけが返ってきた。多少の傷は入ったようだが、それはあくまで鱗の表面を削り取っただけに過ぎない。
尊は攻撃を終えると素早く距離を取る。相手は重量のある巨大な敵だ。鱗がかするだけでも深い傷になりかねない。
ロイドも接近し、『エレクトリックショック』による雷撃を放った。
「敵が長所を押さえ込み、敵が短所を衝く……先ずは、その機動力を殺ぐ」
まばゆい光がトカゲの鱗を焼く。魔法によるダメージは多少あるようだったが、ロイドの目論見に反してトカゲの動きは鈍らない。巨体に似合わぬスピードで駆ける雑魔の正面に立ちふさがるのは上泉 澪(ka0518)。
澪は雷神斧を構え、気合の声を発しながらトカゲを睨みつけた。相手を萎縮させる『ブロウビート』。しかし、トカゲも負けじと目をそらさず、そのまま突っ込んできた。
「臆しませんか。やりますね」
澪は呟きながら、間近まで来た敵の咬み付き攻撃をひらりと避ける。はじめから回避することに専念していたからこその結果であり、そうでなかったらその牙が体をかすめていたかもしれない。それだけの速さを持った動きだった。
身をかわした澪の代わりに、ダランが剣を構えて巨大な魔物の正面へと挑む。
『踏込』と『強打』を併せた全力の一撃。
存分に威力の乗ったロングソードがトカゲの雑魔を襲う。しかし、その攻撃は強靭な鱗に阻まれ、刃が滑ってしまった。ダランももちろん比較的防御が薄そうな鱗の隙間を狙ったのだが、トカゲは偶然か否か、身を動かして己の鎧が完全に生かせる角度でダランの一撃を受けたのである。
トカゲの視線がダランへと移り、爪の生えた前足を振り上げたその時、屋外の持つアサルトライフルが火を吹いた。
鱗を破壊し、中身をむき出しにしてやらんとの意思、そして屋外の無事を祈るある者の想い、それぞれが篭った銃弾は、その目論見どおりいくつかの鱗を使い物にならなくし、中の肉を抉る。雑魔はうるさそうに身をよじった。
ルリもやや間合いを取り、剣の長さを生かしたアウトレンジからの攻撃を繰り出す。命中はするものの、回避を主眼においた攻撃ではあまり大きな傷はつけられない。
とはいえ、トカゲ雑魔の意識を逸らすには十分だった。ダランも彼らの援護の間に敵から離れ、恐るべき前足の脅威から逃れることに成功する。
まだまだ戦いは始まったばかりだ。
(一撃一撃が重いと思いますし、ここは魔法の援護を……重いと思い……ふふ……)
そう考えながら『ウィンドガスト』を用いようとしたメープル。そんな彼女に雑魔は視線を投げ、体の向きを変える。一人遠くにいる敵が組みし易い相手だと思ったのかもしれない。
無事魔法はかかり、彼女の髪と同じ緑色の風がルリの周囲を渦巻く。しかし、トカゲの視線がメープルの方を向いているのは由々しき事態である。魔術師である彼女が巨大な雑魔に襲われてはひとたまりもない。
仲間の危機にアルトが『瞬脚』を用い、素早く周り込む。
トカゲの雑魔は立ちふさがった敵へと顔を突き出した。噛み付こうというのだろう。ここでアルトは驚きの行動に出た。盾をトカゲの下顎へと突きつけたのである。
「ワニの様に噛む力は強くても開ける力は弱いとかないかな同じ爬虫類だし」
なかった。
アルトは圧し掛かってくる雑魔に力負けし、片膝をつく。
「させないぜ!」
機会をうかがっていたルリは一気に間合いを詰め、両手剣を逆袈裟に振り上げた。『踏込』による斬撃はトカゲの防護が薄い腹部を切り裂く。
反対側でも尊がその手にダガー「ドゥダール」を持ち、勢いよく振り下ろす。
「こんなナリでも一応元軍人ですからね……?」
尊の言葉を示すように、刃は見事、鱗の隙間を縫うように突き刺さった。『スラッシュエッジ』による洗練された一撃は、間違いなく効果をあげている。
左右でちょこまかと動く敵、どちらを狙うかトカゲは迷う。
それをチャンスと見たか、ロイドがトカゲの尻尾の上に乗り、そのまま背中へと駆け上がる。なぜかその手には大きめの布が準備されていた。
「さて、どの感覚で相手を探知しているのか……テストさせてもらうとしよう」
目隠し、もしくは鼻隠しを行おうとするロイド。
ロイドの発言を理解できた訳でもないだろうが、トカゲは異物を払いのけるかのように蠢き、ロイドは目的を果たせず地へと落ちる。彼は空中で『防御障壁』による防壁を作ってことなきを得た。
周りを囲む敵に業を煮やしたか、トカゲは突然体を大きく回転させた。それと共に尻尾が鞭のように唸りを上げて、ハンター達へと襲い掛かる。
巻き込まれたのはダラン、ロイド、ルリ。
尻尾の動きに注意していたルリはとっさに回避行動を取る。『ウィンドガスト』の効果も働き、彼女はからくも避けることに成功した。
しかしダラン、着地の衝撃で態勢を崩していたロイドは大木のような太い尻尾の一撃をまともに受けてしまう。吹き飛ぶ二人。
追撃に移ろうとしたトカゲを遮るべく、澪とアルトが武器を繰り出す。澪は『クラッシュブロウ』を、アルトは『スラッシュエッジ』を用い、威力を向上させる。
両者の重い斬撃は鱗の防御をも打ち破り、内部への深刻なダメージを与えた。
トカゲは怒りの鳴き声と共に、二人に向かって前足を振るった。アルトは『瞬脚』の助けもあって回避したものの、澪は鋭利な爪をその身に受けてしまう。着物の袖が破けて血が滲む。
体勢を崩した澪をさらに狙おうとしたトカゲの頭に火の矢が命中、炸裂した。メープルの『ファイアアロー』である。屋外も味方に当たらないようにアサルトライフルを撃ちまくり、銃弾の雨が鱗を削っていく。
雑魔がひるんでいる隙に、澪は『自己治癒』を、ダランは『マテリアルヒーリング』を用いて傷を癒す。ロイドも痛みをこらえながらなんとか立ち上がった。
メープルはロイドを見つめ、『マテリアルヒーリング』を他者にも使うことが出来ればと無念に思う。そんな気持ちを知ってか知らずか、ロイドは己に『防性強化』をかけた。怪我を押して前に出るつもりらしい。メープルは、せめてもの力になればと『ウィンドガスト』をロイドに使った。
「やあっ!」
尊はダガーを敵の側面から突き立てた。屋外の射撃により、鱗もまばらにしか残っていない部分を狙って。スキルを用いた剣閃は肉を抉る。
ダランもさきほど手痛い一撃を受けた尻尾を狙って剣を振るう。初撃と同じく『踏込』と『強打』を併用した斬撃だ。尻尾の鱗はそれほど強靭ではなかったのか、今度は見事に防壁を打ち破る。ダランとしては尻尾を切り落とすつもりの攻撃だったとはいえ、負傷させただけでもまずまずの戦果だろう。
ルリもダランと同じように尻尾を狙って大きな剣を振りかぶる。力強い踏み込みと共に振り下ろされるツヴァイハンダー。命中するかどうかは二の次と言ってもいいほどの、全身全霊を込めた『渾身撃』がトカゲの尻尾へと勢いよく落下した。
鈍い音と共に刃がめり込み、鱗がはじけ飛ぶ。
彼女もダランと同じく尻尾を切断する気満々であったが、ルリの渾身の一撃を持ってしてもそれは叶わなかった。
少しだけ見えた尻尾の断面に、ルリは残念そうに一人ごちる。
「かってぇ……中の肉もまずそうだなあ……こりゃさっさと終わらせて村で宴会に限るぜ!」
痛みにトカゲは暴れ、ダランとルリは慌てて雑魔から距離を取った。また尻尾が鞭のように襲ってきたら叶わない。
ロイドもナックルを構え、トカゲの注意が逸れている間に肉迫し、攻撃する。しかし思ったほどの効果はなく、行動を仲間への援護に切り替える為に間合いを取った。
屋外は射撃を続け、前足の爪、後ろ足の関節などを的確に狙っていく。
トカゲの雑魔は首を左右にひねり、誰を狙うべきかを逡巡する。そんなトカゲの気を引くように一人の女性が正面に立つ。トカゲは先程からの痛みに対する怒りを込めて、その敵へと噛み付こうと首を伸ばした。だが、それは彼女が狙っていた瞬間であった。
食いつこうとした雑魔へと女性の得物が振りぬかれる。肉を切らせて骨を断つかのごとく、捨て身の一撃はトカゲの頭部へと命中する。鱗をものともせず、刃は深い傷をその頭部へと穿った。雑魔は目もくらむほどの一撃に悲鳴をあげた。
「いくら固くとも衝撃までは殺せないでしょう? その首貰いますよ」
女性――澪は雷神斧を手にささやいた。
チャンスとばかりにハンター達は思い思いに武器と魔法とを見舞った。白刃が陽光にきらめき、魔法の輝きが宙を踊る。それらは巨大なトカゲの命を着実に奪っていった。強大な雑魔とはいえ、その生命力も無尽蔵ではない。
かつてない猛攻に雑魔は悟った。このままでは死んでしまうことを。
雑魔は向きを変え、足を懸命に動かしてハンター達から逃れようと走りだす。小さなトカゲがよく行うような、尻尾を自ら切るようなことはしなかったが、それでも一目散に逃げようとしたことは変わらない。しかし、雑魔を囲んでいたのはただの人間ではなく、歴戦のハンター達だった。
「逃がさねえっての!」
ルリ、ダランは咄嗟に尻尾に向かって剣を振り下ろす。それはうまい具合に先程傷をつけていた部分に食い込んだ。しかし、トカゲは二人を引きずりながら止まらない。とはいえ、多少動きが鈍ったのは事実だ。そこに、アルトが『瞬脚』によって正面へと回り込む。手には試作振動刀「オートMURAMASA」。
「悪いけど、ボクの目が黒いうちは雑魔は1匹たりとも逃がさないよ」
言葉と共に下から突き上げられた刃はトカゲの顎を貫いた。ついに力尽きたのか、トカゲのまぶたがゆっくりと閉じる。雑魔はやがて、さっきまでの存在感が嘘のように消滅した。辺りに残るのは「オートMURAMASA」の振動音のみ。
「まあ、ボクの目は紅いんだけど」
アルトの言葉が、強敵との戦いが終わったことを告げていた。
●
澪、ダランはまだ残る自分の傷を癒すべくスキルを用いる。ロイドも痛みに顔をしかめてはいたものの、動くことに支障はないらしい。
アルトは雑魔が消滅したあたりでかがみこみ、何かを摘み上げた。
「どうしました?」
尋ねる屋外に、アルトは手にしたものをそっと差し出した。彼女が手にしているのはペンダントトップ。犠牲となった村人のものかもしれない。
屋外はそれを見て小さく頷き、村へ報告に行こうと主張した。屋外は戦いが終わった後に村を訪れ、トカゲと戦った村人達に敬意を捧げたいと思っていたのだ。遺品となってしまったペンダントも多少の慰みにはなるだろう。
同じように村人を早く安心させてやりたいと考えていたダランも、屋外の言葉に強く頷く。無口な彼らしく、こんな時でも口は閉じたままに。もちろん他のハンター達もそれに同意した。
村人達は危険が去ったことに喜ぶだろう。もちろん同胞の仇が討てたことにも。通行を遮る魔物がいなくなったことで、この辺りにも活気が戻ってくるはずだ。
ハンター達は村への一歩を踏み出した。
「腹も減ったしなんか美味いもんでも食いてーな! もちろんトカゲじゃなくて!」
村での宴会を期待しているのか、ルリが元気一杯の声をだす。メープルも依頼が完遂して街に帰ったら、今回の仲間を誘ってワインでも飲もうかと考えた。
皆の無事と、仕事の成功を祝って。
いや。潜めていたのは息だけではない。気配、衣擦れの音、足音、様々なものだ。
彼らの前にうずくまるのは一体の巨大なトカゲ。いや、トカゲ型の雑魔であった。
全長は10mはあるだろう。巨大な胴体を支える強靭な四肢を持ち、全身には鎧のような鱗がびっしりと生えている。今は閉じられているが、大きな口は人間を丸呑みしてしまいそうなほどだ。実際、一人の村人がそのあぎとの犠牲となっている。だからこそ彼らが呼ばれたのだ。巨大な化け物を倒す力を秘めた、八人のハンターが。
その中で、二人の女性がトカゲの側にそろりそろりと近づいている。
一人はルリ・エンフィールド(ka1680)。
自身の背よりも格段に長い剣、ツヴァイハンダーを手にしたドワーフの少女。
一人はアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
トカゲの背後から静かに接近する彼女の得物は試作振動刀「オートMURAMASA」。剣戟の際は超音波振動により切れ味が増す武器だが、もちろん今は物いわぬ刀だ。
己に近づく影を知ってか知らずか、四肢を伏せ、まぶたを閉じている大きなトカゲは動かない。
不意打ちがうまくいけば、戦闘が優位に運ぶのは間違いない。危険な役目を行う二人を、残りの六人はさまざまな心情と共に見守っている。
ダラントスカスティーヤ(ka0928)は、
(強敵だが落ち着いて冷静にやれば勝機は見えてくる。何時もどおりやるだけだ)
と恐ろしい敵を前に新たな決意を固め。
屋外(ka3530)は、
(勇気ある命達を蹂躙した歪虚。赦しはしない)
と犠牲となった村人への鎮魂を胸に、戦いに望んでいた。
屋外は戦闘を優位に運ぶため、とある計画を立てていたのだが、必要な物資が集まらず、今回は断念せざるを得なかった。もちろん、そのことで彼の戦意が鈍るようなことは一片もなかったが。
ハンター達が見守る中、ルリとアルトが少しずつ敵へと接近していく。
メープル・マラカイト(ka0347)はそんな時、日に当たるトカゲの全身から出ている大きな影に目をやり、内心呟いた。
(トカゲと影……ふふ)
その瞬間、大きなトカゲのまぶたがぱちりと開き、視線がメープルのオッドアイと交差した。もちろんメープルの声なき言葉が聞こえたわけではないだろうが。
トカゲは頭を巡らせ、ルリを睨みつける。目覚めたのはメープルが心の中で呟いた洒落のせいではなく、接近するものの気配に気付いたからのようだ。
「やばっ! 起きちまった!」
近くに寄っていたルリがトカゲの反応に気付き、味方に注意を促す。もちろんその頃にはもう仲間達は動いていた。皆、敵の一挙手一投足を見逃すまいとしていたのだ。不意を突くことはできなかったが、逆に不意を突かれることもなかった。
「さて、サイズの大小のみが勝負を決定付ける要素ではない事を教えてやろう」
ついに首をもたげてこちらを見下ろす巨大な雑魔。
しかしロイド・ブラック(ka0408)はそんな大きな姿を前に、自信満々に言い放った。
(速度に重さ……密着すれば卸金、ですかね……付かず離れずでいきましょう)
月架 尊(ka0114)は敵の側面へと回り込み、ショートソード「クラウンナイツ」を繰り出した。狙いは腹部。この部位は弱いはずとの見込みと共に振るわれた一撃だったが、無念にも突如駆け出したトカゲの動きによって狙いが狂い、鱗が覆う場所に命中してしまう。彼の手には強固な手ごたえだけが返ってきた。多少の傷は入ったようだが、それはあくまで鱗の表面を削り取っただけに過ぎない。
尊は攻撃を終えると素早く距離を取る。相手は重量のある巨大な敵だ。鱗がかするだけでも深い傷になりかねない。
ロイドも接近し、『エレクトリックショック』による雷撃を放った。
「敵が長所を押さえ込み、敵が短所を衝く……先ずは、その機動力を殺ぐ」
まばゆい光がトカゲの鱗を焼く。魔法によるダメージは多少あるようだったが、ロイドの目論見に反してトカゲの動きは鈍らない。巨体に似合わぬスピードで駆ける雑魔の正面に立ちふさがるのは上泉 澪(ka0518)。
澪は雷神斧を構え、気合の声を発しながらトカゲを睨みつけた。相手を萎縮させる『ブロウビート』。しかし、トカゲも負けじと目をそらさず、そのまま突っ込んできた。
「臆しませんか。やりますね」
澪は呟きながら、間近まで来た敵の咬み付き攻撃をひらりと避ける。はじめから回避することに専念していたからこその結果であり、そうでなかったらその牙が体をかすめていたかもしれない。それだけの速さを持った動きだった。
身をかわした澪の代わりに、ダランが剣を構えて巨大な魔物の正面へと挑む。
『踏込』と『強打』を併せた全力の一撃。
存分に威力の乗ったロングソードがトカゲの雑魔を襲う。しかし、その攻撃は強靭な鱗に阻まれ、刃が滑ってしまった。ダランももちろん比較的防御が薄そうな鱗の隙間を狙ったのだが、トカゲは偶然か否か、身を動かして己の鎧が完全に生かせる角度でダランの一撃を受けたのである。
トカゲの視線がダランへと移り、爪の生えた前足を振り上げたその時、屋外の持つアサルトライフルが火を吹いた。
鱗を破壊し、中身をむき出しにしてやらんとの意思、そして屋外の無事を祈るある者の想い、それぞれが篭った銃弾は、その目論見どおりいくつかの鱗を使い物にならなくし、中の肉を抉る。雑魔はうるさそうに身をよじった。
ルリもやや間合いを取り、剣の長さを生かしたアウトレンジからの攻撃を繰り出す。命中はするものの、回避を主眼においた攻撃ではあまり大きな傷はつけられない。
とはいえ、トカゲ雑魔の意識を逸らすには十分だった。ダランも彼らの援護の間に敵から離れ、恐るべき前足の脅威から逃れることに成功する。
まだまだ戦いは始まったばかりだ。
(一撃一撃が重いと思いますし、ここは魔法の援護を……重いと思い……ふふ……)
そう考えながら『ウィンドガスト』を用いようとしたメープル。そんな彼女に雑魔は視線を投げ、体の向きを変える。一人遠くにいる敵が組みし易い相手だと思ったのかもしれない。
無事魔法はかかり、彼女の髪と同じ緑色の風がルリの周囲を渦巻く。しかし、トカゲの視線がメープルの方を向いているのは由々しき事態である。魔術師である彼女が巨大な雑魔に襲われてはひとたまりもない。
仲間の危機にアルトが『瞬脚』を用い、素早く周り込む。
トカゲの雑魔は立ちふさがった敵へと顔を突き出した。噛み付こうというのだろう。ここでアルトは驚きの行動に出た。盾をトカゲの下顎へと突きつけたのである。
「ワニの様に噛む力は強くても開ける力は弱いとかないかな同じ爬虫類だし」
なかった。
アルトは圧し掛かってくる雑魔に力負けし、片膝をつく。
「させないぜ!」
機会をうかがっていたルリは一気に間合いを詰め、両手剣を逆袈裟に振り上げた。『踏込』による斬撃はトカゲの防護が薄い腹部を切り裂く。
反対側でも尊がその手にダガー「ドゥダール」を持ち、勢いよく振り下ろす。
「こんなナリでも一応元軍人ですからね……?」
尊の言葉を示すように、刃は見事、鱗の隙間を縫うように突き刺さった。『スラッシュエッジ』による洗練された一撃は、間違いなく効果をあげている。
左右でちょこまかと動く敵、どちらを狙うかトカゲは迷う。
それをチャンスと見たか、ロイドがトカゲの尻尾の上に乗り、そのまま背中へと駆け上がる。なぜかその手には大きめの布が準備されていた。
「さて、どの感覚で相手を探知しているのか……テストさせてもらうとしよう」
目隠し、もしくは鼻隠しを行おうとするロイド。
ロイドの発言を理解できた訳でもないだろうが、トカゲは異物を払いのけるかのように蠢き、ロイドは目的を果たせず地へと落ちる。彼は空中で『防御障壁』による防壁を作ってことなきを得た。
周りを囲む敵に業を煮やしたか、トカゲは突然体を大きく回転させた。それと共に尻尾が鞭のように唸りを上げて、ハンター達へと襲い掛かる。
巻き込まれたのはダラン、ロイド、ルリ。
尻尾の動きに注意していたルリはとっさに回避行動を取る。『ウィンドガスト』の効果も働き、彼女はからくも避けることに成功した。
しかしダラン、着地の衝撃で態勢を崩していたロイドは大木のような太い尻尾の一撃をまともに受けてしまう。吹き飛ぶ二人。
追撃に移ろうとしたトカゲを遮るべく、澪とアルトが武器を繰り出す。澪は『クラッシュブロウ』を、アルトは『スラッシュエッジ』を用い、威力を向上させる。
両者の重い斬撃は鱗の防御をも打ち破り、内部への深刻なダメージを与えた。
トカゲは怒りの鳴き声と共に、二人に向かって前足を振るった。アルトは『瞬脚』の助けもあって回避したものの、澪は鋭利な爪をその身に受けてしまう。着物の袖が破けて血が滲む。
体勢を崩した澪をさらに狙おうとしたトカゲの頭に火の矢が命中、炸裂した。メープルの『ファイアアロー』である。屋外も味方に当たらないようにアサルトライフルを撃ちまくり、銃弾の雨が鱗を削っていく。
雑魔がひるんでいる隙に、澪は『自己治癒』を、ダランは『マテリアルヒーリング』を用いて傷を癒す。ロイドも痛みをこらえながらなんとか立ち上がった。
メープルはロイドを見つめ、『マテリアルヒーリング』を他者にも使うことが出来ればと無念に思う。そんな気持ちを知ってか知らずか、ロイドは己に『防性強化』をかけた。怪我を押して前に出るつもりらしい。メープルは、せめてもの力になればと『ウィンドガスト』をロイドに使った。
「やあっ!」
尊はダガーを敵の側面から突き立てた。屋外の射撃により、鱗もまばらにしか残っていない部分を狙って。スキルを用いた剣閃は肉を抉る。
ダランもさきほど手痛い一撃を受けた尻尾を狙って剣を振るう。初撃と同じく『踏込』と『強打』を併用した斬撃だ。尻尾の鱗はそれほど強靭ではなかったのか、今度は見事に防壁を打ち破る。ダランとしては尻尾を切り落とすつもりの攻撃だったとはいえ、負傷させただけでもまずまずの戦果だろう。
ルリもダランと同じように尻尾を狙って大きな剣を振りかぶる。力強い踏み込みと共に振り下ろされるツヴァイハンダー。命中するかどうかは二の次と言ってもいいほどの、全身全霊を込めた『渾身撃』がトカゲの尻尾へと勢いよく落下した。
鈍い音と共に刃がめり込み、鱗がはじけ飛ぶ。
彼女もダランと同じく尻尾を切断する気満々であったが、ルリの渾身の一撃を持ってしてもそれは叶わなかった。
少しだけ見えた尻尾の断面に、ルリは残念そうに一人ごちる。
「かってぇ……中の肉もまずそうだなあ……こりゃさっさと終わらせて村で宴会に限るぜ!」
痛みにトカゲは暴れ、ダランとルリは慌てて雑魔から距離を取った。また尻尾が鞭のように襲ってきたら叶わない。
ロイドもナックルを構え、トカゲの注意が逸れている間に肉迫し、攻撃する。しかし思ったほどの効果はなく、行動を仲間への援護に切り替える為に間合いを取った。
屋外は射撃を続け、前足の爪、後ろ足の関節などを的確に狙っていく。
トカゲの雑魔は首を左右にひねり、誰を狙うべきかを逡巡する。そんなトカゲの気を引くように一人の女性が正面に立つ。トカゲは先程からの痛みに対する怒りを込めて、その敵へと噛み付こうと首を伸ばした。だが、それは彼女が狙っていた瞬間であった。
食いつこうとした雑魔へと女性の得物が振りぬかれる。肉を切らせて骨を断つかのごとく、捨て身の一撃はトカゲの頭部へと命中する。鱗をものともせず、刃は深い傷をその頭部へと穿った。雑魔は目もくらむほどの一撃に悲鳴をあげた。
「いくら固くとも衝撃までは殺せないでしょう? その首貰いますよ」
女性――澪は雷神斧を手にささやいた。
チャンスとばかりにハンター達は思い思いに武器と魔法とを見舞った。白刃が陽光にきらめき、魔法の輝きが宙を踊る。それらは巨大なトカゲの命を着実に奪っていった。強大な雑魔とはいえ、その生命力も無尽蔵ではない。
かつてない猛攻に雑魔は悟った。このままでは死んでしまうことを。
雑魔は向きを変え、足を懸命に動かしてハンター達から逃れようと走りだす。小さなトカゲがよく行うような、尻尾を自ら切るようなことはしなかったが、それでも一目散に逃げようとしたことは変わらない。しかし、雑魔を囲んでいたのはただの人間ではなく、歴戦のハンター達だった。
「逃がさねえっての!」
ルリ、ダランは咄嗟に尻尾に向かって剣を振り下ろす。それはうまい具合に先程傷をつけていた部分に食い込んだ。しかし、トカゲは二人を引きずりながら止まらない。とはいえ、多少動きが鈍ったのは事実だ。そこに、アルトが『瞬脚』によって正面へと回り込む。手には試作振動刀「オートMURAMASA」。
「悪いけど、ボクの目が黒いうちは雑魔は1匹たりとも逃がさないよ」
言葉と共に下から突き上げられた刃はトカゲの顎を貫いた。ついに力尽きたのか、トカゲのまぶたがゆっくりと閉じる。雑魔はやがて、さっきまでの存在感が嘘のように消滅した。辺りに残るのは「オートMURAMASA」の振動音のみ。
「まあ、ボクの目は紅いんだけど」
アルトの言葉が、強敵との戦いが終わったことを告げていた。
●
澪、ダランはまだ残る自分の傷を癒すべくスキルを用いる。ロイドも痛みに顔をしかめてはいたものの、動くことに支障はないらしい。
アルトは雑魔が消滅したあたりでかがみこみ、何かを摘み上げた。
「どうしました?」
尋ねる屋外に、アルトは手にしたものをそっと差し出した。彼女が手にしているのはペンダントトップ。犠牲となった村人のものかもしれない。
屋外はそれを見て小さく頷き、村へ報告に行こうと主張した。屋外は戦いが終わった後に村を訪れ、トカゲと戦った村人達に敬意を捧げたいと思っていたのだ。遺品となってしまったペンダントも多少の慰みにはなるだろう。
同じように村人を早く安心させてやりたいと考えていたダランも、屋外の言葉に強く頷く。無口な彼らしく、こんな時でも口は閉じたままに。もちろん他のハンター達もそれに同意した。
村人達は危険が去ったことに喜ぶだろう。もちろん同胞の仇が討てたことにも。通行を遮る魔物がいなくなったことで、この辺りにも活気が戻ってくるはずだ。
ハンター達は村への一歩を踏み出した。
「腹も減ったしなんか美味いもんでも食いてーな! もちろんトカゲじゃなくて!」
村での宴会を期待しているのか、ルリが元気一杯の声をだす。メープルも依頼が完遂して街に帰ったら、今回の仲間を誘ってワインでも飲もうかと考えた。
皆の無事と、仕事の成功を祝って。
依頼結果
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相談場 ロイド・ブラック(ka0408) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/01/21 21:06:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/16 23:16:39 |