ゲスト
(ka0000)
【血断】黒き巫女
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/18 07:30
- 完成日
- 2019/03/21 09:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
暗がりに人影。白き衣を守った女性。
その衣のデザインは、辺境巫女によく見られるものだ。
傍らには男性。衣装から神父である事が見て取れる。女性は男性の前に傅き、祈りを捧げる。
男性は手にしていた本を開き、片腕を女性の頭へと翳す。
「灰は灰に……塵は塵に……。
偽りの神を捨て、真なる神を受け入れる。祝福があなたの罪を流し、贖罪を与える。
神は寛大です。あなたは神にその愛を捧げると誓いますか?」
「……誓います」
女性の言葉。
男性の手は鈍い光を放ち、女性の頭を照らし出す。
数秒後、光は消える。
男性は女性へ笑顔を向ける。
その笑顔には温もりがあった。
「ようこそ。共に歩みましょう。……楽園、フロンティアへ」
●
それは大巫女ディエナ(kz0219)の一言から始まった。
「あの娘は、何処へ行ったんだい?」
あの娘。
それは辺境巫女の事だ。
辺境巫女は白龍信仰を崇め、辺境でも絶対中立を掲げる存在である。白龍は消えてしまったが、マテリアルの流れの中で必ず聖地リタ・ティトへ降臨すると信じられている。
それまでの間、巫女は伝承と伝統を守り、幻獣らと共に生活をしている。
「まったく、何処で何をやっているんだか。若い巫女がサボるとは嘆かわしいよ」
大巫女は愚痴をこぼす。
辺境巫女は『素養』のある者が選ばれ、巫女が選出された部族は誉れとされた。
その誉れ高い辺境巫女達が何処かでサボっているのだから、愚痴の一つも零したくなる。
――しかし。
「あれ? でも、昨日見掛けましたよ。森の方へと歩いて行きました」
近くにいた辺境巫女が大巫女へ答える。
大巫女は大きなため息をついた。
「森で隠れて一休みかい? 随分長い休みだねぇ」
「でも、隣に誰かいました。黒い服……あれは神父様じゃないかしら」
「神父……」
言葉を繰り返す大巫女。
その言葉にある予感が過る。
ハンター達から聞いた事がある。東方で攘夷を掲げる者達や龍園を追放された龍騎士達の心の隙間に入り込み、契約者へ変えてしまう歪虚の存在を。
その歪虚は神父の姿で現れる。
もし、巫女と共にいた歪虚が件の神父だとすれば――。
「マズい!」
「大巫女、どうされました?」
突如大声を上げた大巫女に、近くの辺境巫女が驚く。
しかし、大巫女の表情から大きな事件が起こったことを察したようだ。
「急いで全員を大霊堂に集めるんだ」
「全員って、巫女全員ですか?」
「そうだよ、時間がない。急いでみんなに声をかけて……」
焦る大巫女。
額から玉のような汗が流れ落ちる。
杞憂であってほしい。
大巫女にとって辺境巫女は部族からの預かり物であり、家族だ。それを歪虚に奪われたとあっては部族にも顔向けできない。
いや、それ以上に大巫女にとっては娘を奪われるかのような感覚。身を割かれるような思いだ。
だが、大巫女の焦りとは裏腹に事態は既に大きく動きだしていた。
「大巫女! 大変です!
聖地が……聖地が……奪われました! それも辺境巫女達に!」
駆け込んでくる辺境巫女。
その報告こそ、大巫女の予感を的中させた凶報であった。
●
「偽りの神の住処。捧げるべき祈りの相手を間違える罪に気付かず、届かぬ願いは虚空をさ迷うばかり」
歪虚ブラッドリー(z0252)は、大霊堂に足を踏み入れた。
その背後には新たに信徒とした元辺境巫女達。既に巫女達は白龍信仰を捨て、ブラッドリーの崇める神へ改宗。
つまり――契約者となっていた。
「私達の神は、すべての苦難から解き放ってくれる。苦しみも哀しみも、限られた命からも解き放ち、私達をフロンティアへと誘って下さいます。偽りの神には行えません」
辺境巫女達の前で教えを伝えるブラッドリー。
その教えに沈黙を守り耳を傾ける巫女達。そこにはかつて白き衣を着て純白と純心さを感じさせた巫女はいない。
契約者となりブラッドリーと共に楽園の門を開かんとする黒き巫女達がいた。
「ファーザー」
一人歩み出た黒き巫女。
かつては辺境巫女としてこの白龍の為に働いていたが、今はブラッドリーに仕えて彼の神の為に働く事を誓った身だ。
「キルトですか。何でしょう?」
「ファーザーはハンターを気に掛けられておいですが、何故彼らを特別扱いされるのでしょう? 私はファーザーの為に、神の為にこの身を捧げる覚悟です」
「キルト。彼らは選ぶ権利を有しているのです。この先にある未来を。
天使達が騎士と共に引き起こした終末はこの地へ到来しました。ですが、この終末を乗り越えた先に彼らが為すべき事があります。その為には、彼らは更に強くあらねばなりません」
「その為にファーザーは彼らに……」
そう言い掛けたキルトは、慌てて口を塞いだ。
ブラッドリーの射貫くような視線が向けられていたからだ。
「そして、強くなるのは私達もです。神は試されます。
間もなくここにあの終焉を司る天使達が現れるでしょう。
……戦いなさい。戦って神に力を捧げるのです。仮に命を落としても、その魂はきっと神の元へと還ります」
ブラッドリーの言葉に従い、辺境巫女達は武器を手にする。
己の信じるものの為に――。
●
大巫女は項垂れていた。
いつもの元気な大巫女の影はなく、悲嘆にくれる大巫女。
切り株の上に腰掛け、背中は丸くなっている。
「あたしは、何をやってたんだろうね」
大巫女の言葉を耳にしたハンターは、祖の言葉の裏に無力感を感じていた。
「巫女達を、家族を守りたい。そういう思いはあったんだ。白龍に会えない巫女も大勢いるだろう。それでも白龍を信じて人々に希望を与える。それが活力になるって思ってた」
大巫女の頬から伝う涙。
それは、悔し涙か。
それとも、悲しみの涙か。
「私が不甲斐ないばかりに……あの娘達は奪われちまった。あたしの家族が……大勢、拐かされた……。
伝わってなかったのかねぇ。あたしが教えた事も、思いって奴も」
大巫女と呼ばれ、慕われてきた。
巫女としての経験も長く、白龍が消滅するギリギリまで大霊堂を守ってきた。
その大巫女が、泣く。
他人の目を気にせず、ただ感情を露わにしていた。
「あんた達……頼んだよ。最悪の場合も、あたしは覚悟を決める。もし、どうしようもない時は楽にしてやっておくれ」
ハンターの肩を掴む大巫女。
その力の強さに、ハンターは大きく頷く他なかった。
その衣のデザインは、辺境巫女によく見られるものだ。
傍らには男性。衣装から神父である事が見て取れる。女性は男性の前に傅き、祈りを捧げる。
男性は手にしていた本を開き、片腕を女性の頭へと翳す。
「灰は灰に……塵は塵に……。
偽りの神を捨て、真なる神を受け入れる。祝福があなたの罪を流し、贖罪を与える。
神は寛大です。あなたは神にその愛を捧げると誓いますか?」
「……誓います」
女性の言葉。
男性の手は鈍い光を放ち、女性の頭を照らし出す。
数秒後、光は消える。
男性は女性へ笑顔を向ける。
その笑顔には温もりがあった。
「ようこそ。共に歩みましょう。……楽園、フロンティアへ」
●
それは大巫女ディエナ(kz0219)の一言から始まった。
「あの娘は、何処へ行ったんだい?」
あの娘。
それは辺境巫女の事だ。
辺境巫女は白龍信仰を崇め、辺境でも絶対中立を掲げる存在である。白龍は消えてしまったが、マテリアルの流れの中で必ず聖地リタ・ティトへ降臨すると信じられている。
それまでの間、巫女は伝承と伝統を守り、幻獣らと共に生活をしている。
「まったく、何処で何をやっているんだか。若い巫女がサボるとは嘆かわしいよ」
大巫女は愚痴をこぼす。
辺境巫女は『素養』のある者が選ばれ、巫女が選出された部族は誉れとされた。
その誉れ高い辺境巫女達が何処かでサボっているのだから、愚痴の一つも零したくなる。
――しかし。
「あれ? でも、昨日見掛けましたよ。森の方へと歩いて行きました」
近くにいた辺境巫女が大巫女へ答える。
大巫女は大きなため息をついた。
「森で隠れて一休みかい? 随分長い休みだねぇ」
「でも、隣に誰かいました。黒い服……あれは神父様じゃないかしら」
「神父……」
言葉を繰り返す大巫女。
その言葉にある予感が過る。
ハンター達から聞いた事がある。東方で攘夷を掲げる者達や龍園を追放された龍騎士達の心の隙間に入り込み、契約者へ変えてしまう歪虚の存在を。
その歪虚は神父の姿で現れる。
もし、巫女と共にいた歪虚が件の神父だとすれば――。
「マズい!」
「大巫女、どうされました?」
突如大声を上げた大巫女に、近くの辺境巫女が驚く。
しかし、大巫女の表情から大きな事件が起こったことを察したようだ。
「急いで全員を大霊堂に集めるんだ」
「全員って、巫女全員ですか?」
「そうだよ、時間がない。急いでみんなに声をかけて……」
焦る大巫女。
額から玉のような汗が流れ落ちる。
杞憂であってほしい。
大巫女にとって辺境巫女は部族からの預かり物であり、家族だ。それを歪虚に奪われたとあっては部族にも顔向けできない。
いや、それ以上に大巫女にとっては娘を奪われるかのような感覚。身を割かれるような思いだ。
だが、大巫女の焦りとは裏腹に事態は既に大きく動きだしていた。
「大巫女! 大変です!
聖地が……聖地が……奪われました! それも辺境巫女達に!」
駆け込んでくる辺境巫女。
その報告こそ、大巫女の予感を的中させた凶報であった。
●
「偽りの神の住処。捧げるべき祈りの相手を間違える罪に気付かず、届かぬ願いは虚空をさ迷うばかり」
歪虚ブラッドリー(z0252)は、大霊堂に足を踏み入れた。
その背後には新たに信徒とした元辺境巫女達。既に巫女達は白龍信仰を捨て、ブラッドリーの崇める神へ改宗。
つまり――契約者となっていた。
「私達の神は、すべての苦難から解き放ってくれる。苦しみも哀しみも、限られた命からも解き放ち、私達をフロンティアへと誘って下さいます。偽りの神には行えません」
辺境巫女達の前で教えを伝えるブラッドリー。
その教えに沈黙を守り耳を傾ける巫女達。そこにはかつて白き衣を着て純白と純心さを感じさせた巫女はいない。
契約者となりブラッドリーと共に楽園の門を開かんとする黒き巫女達がいた。
「ファーザー」
一人歩み出た黒き巫女。
かつては辺境巫女としてこの白龍の為に働いていたが、今はブラッドリーに仕えて彼の神の為に働く事を誓った身だ。
「キルトですか。何でしょう?」
「ファーザーはハンターを気に掛けられておいですが、何故彼らを特別扱いされるのでしょう? 私はファーザーの為に、神の為にこの身を捧げる覚悟です」
「キルト。彼らは選ぶ権利を有しているのです。この先にある未来を。
天使達が騎士と共に引き起こした終末はこの地へ到来しました。ですが、この終末を乗り越えた先に彼らが為すべき事があります。その為には、彼らは更に強くあらねばなりません」
「その為にファーザーは彼らに……」
そう言い掛けたキルトは、慌てて口を塞いだ。
ブラッドリーの射貫くような視線が向けられていたからだ。
「そして、強くなるのは私達もです。神は試されます。
間もなくここにあの終焉を司る天使達が現れるでしょう。
……戦いなさい。戦って神に力を捧げるのです。仮に命を落としても、その魂はきっと神の元へと還ります」
ブラッドリーの言葉に従い、辺境巫女達は武器を手にする。
己の信じるものの為に――。
●
大巫女は項垂れていた。
いつもの元気な大巫女の影はなく、悲嘆にくれる大巫女。
切り株の上に腰掛け、背中は丸くなっている。
「あたしは、何をやってたんだろうね」
大巫女の言葉を耳にしたハンターは、祖の言葉の裏に無力感を感じていた。
「巫女達を、家族を守りたい。そういう思いはあったんだ。白龍に会えない巫女も大勢いるだろう。それでも白龍を信じて人々に希望を与える。それが活力になるって思ってた」
大巫女の頬から伝う涙。
それは、悔し涙か。
それとも、悲しみの涙か。
「私が不甲斐ないばかりに……あの娘達は奪われちまった。あたしの家族が……大勢、拐かされた……。
伝わってなかったのかねぇ。あたしが教えた事も、思いって奴も」
大巫女と呼ばれ、慕われてきた。
巫女としての経験も長く、白龍が消滅するギリギリまで大霊堂を守ってきた。
その大巫女が、泣く。
他人の目を気にせず、ただ感情を露わにしていた。
「あんた達……頼んだよ。最悪の場合も、あたしは覚悟を決める。もし、どうしようもない時は楽にしてやっておくれ」
ハンターの肩を掴む大巫女。
その力の強さに、ハンターは大きく頷く他なかった。
リプレイ本文
ハンス・ラインフェルト(ka6750) は、前へ出る。
着物の裾から見える足。
軽く身を屈め、力を抜いた手で聖罰刃「ターミナー・レイ」 の柄に触れる。
眼前には黒い衣を纏った数名の女性。鈍器を手に敵意を示している。
「宗教で身を立てることに不安を感じた方々が、あっさり歪虚の甘言に乗った。
それだけの話じゃありませんか。
今回に限っては、言葉を尽くすより、斬った方が早いと思いますよ」
かつては辺境巫女であった彼女達を前にハンスはターミナー・レイを抜き放つ。
防御の姿勢を見せず、前へ踏み出る黒き巫女達。
(……なるほど)
ハンスは躊躇無く刃を振り行く。それは『人斬り』特有の一刀。
活人剣を使っていなければ、確実に斬り伏せていただろう。
辺境巫女がブラッドリーに狙われていると知った大巫女ディエナ(kz0219)は、辺境巫女を守るように動き出した。だが、時既に遅く、既に辺境巫女の一部はブラッドリーを信奉。大巫女はハンターへ事態の収拾を託していた。
「斬ってない、よな? ……安心したじゃん」
ハンスの戦い振りを見ていたヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、巫女の振り回す棍棒を魔導銛「グラナティエーレ」で防ぎながら呟いた。
ヴォーイに限らず、辺境巫女を救出に赴いた多くのハンターが説得や捕縛を考えていた。ハンスは説得よりも捕縛を優先していたが、ヴォーイの目からはハンスが本気で斬っているように見えたからだ。
「油断、しない方がいいですよ」
ハンスはヴォーイへ振り向く事無く声をかける。
「え? ちょっと戦って見たけど、それ程強いようには見えないじゃん?」
ヴォーイはハンスの言葉の意味を理解できなかった。
少々戦って見たが、どう考えても歴戦のハンターよりも力が下回っている。これはリアルブルーにおける強化人間を相手にしているに等しい。契約者である以上、身体能力は向上しているのだが、ハンスが危惧しているのは肉体的な強さの話だけではない。
「ファーザーの為に!」
辺境巫女の二人は同時に襲い掛かる。
ヴォーイは距離を取って回避を心がける。下手に反撃して巫女に余計な怪我を負わせたくないからだ。適度に攻撃してハンスの活人剣で確実に倒していく事を狙っていた。
(罠を仕掛けている様子もない。けど、この感じは……)
ヴォーイの背中に汗が流れる。
迫る巫女を前に一瞬だけ目を奪われる。
鬼気迫る巫女。
その表情はまさに必死。覚悟を決めた者の顔だったからだ。
「……ちっ!」
ヴォーイはグラナティエーレで巫女を突き押す。
銛を撃たず、銃身を使って巫女を押し返す。
倒れ込む巫女。だが、立ち上がると再び襲い掛かって来る。下手に攻撃をすれば巫女に不要な怪我を負わせるかもしれないというジレンマがヴォーイに降り掛かる。
「下手な歪虚よりも厄介な相手じゃん」
「これが信仰ですよ。本当に、厄介な敵を生み出してくれます」
ハンスは巫女の奥にいるブラッドリーに視線を向けた。
●
「巫女を大量に洗脳してハーレムでも作るつもりか?」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は敢えてブラッドリーを挑発した。
黒き巫女達が大霊堂から出て応戦を開始する最中、アルトは焔舞と踏鳴を駆使して真っ直ぐにブラッドリーを目指した。青木燕太郎(kz0166)や前怠惰王ビックマーに関わる不穏な動きを知っていたアルトだが、それ以上にブラッドリーが戦闘中の巫女を感電死させる可能性もあった。
下手な動きを封じる意味でも早々にブラッドリーを押さえ込む事が有効とハンター達が判断していたのだ。
「違うっていうなら言い訳でもしてみろ、この変態が」
「ファーザーへの無礼、許しません!」
アルトへ反論したのは、ブラッドリーではなくキルトと呼ばれる黒き巫女であった。
多くの辺境巫女がハンター対応に向かったのだが、キルトだけはブラッドリーの身を案じて護衛に回っていた。
(厄介だな。戦いに巻き込めば怪我をさせる)
アルトが一気にブラッドリーへ初手の攻撃を控えたのは、キルトの存在だ。
ここでアルトが踏鳴で接近し、飛燕による居合を繰り出せばキルトを巻き込むかもしれない。ブラッドリーの動きが読めない以上、ブラッドリーと交戦するにも隙を窺う必要があった。
「神よ。この者は何も知らないのです。お許し下さい」
「神か。祈って何か救われるというのか?」
「はい、救いはあります。ですが、今は楽園へと向かう道程」
そう言いながらブラッドリーは一歩前に出てキルトを腕で制した。
「キルト。下がっていなさい。あなたにはまだ役目があります」
(役目? ……まあいい)
アルトはブラッドリーの動きに合わせて少しだけ前に出る。
一気に間合いを詰めるだけの距離を確保する為だ。
「俺にも講釈してくんねぇか、神父様よ」
リュー・グランフェスト(ka2419)はアルトの後方からブラッドリーへ呼び掛けた。
ブラッドリーが巫女へ接近する事を考え、敢えて抜かれない為に二人は前後に布陣していた。その事を悟られない為にも、リューは敢えてブラッドリーと言葉を交わす。
「あんた、あの巫女に何を伝えた? 神の声とやらをあんたは聞いた事があるのかよ?
無いってんなら妄想で口説いて回る変態と認識するぜ」
「天使達は巫女達を洗脳したと考えているようですが、違います。私はただ『真実』を語っただけです」
「なに?」
リューは、聞き返した。
「天使たるあなた方はあなた方の正義に従って剣を取ります。ですが、その正義が誤っていると考えた事は無いのですか? 根本が間違っていれば、その正義は単なる力に過ぎません」
「…………」
真実とは何だ?
仮に洗脳していないとすれば、巫女達は何を言われた?
リューは脳裏に言葉を浮かべながら、更なる問いかけを試みる。
「もう一つ聞かせて欲しいんだ。ラッパはいくつ鳴ったんだ? 全部鳴るならファナティックブラッドは降臨するのか?」
敢えてリューはブラッドリーの言葉に乗った。
興味を惹ければそれだけ時間を稼げる。
リューの問いに対してブラッドリーは静かに笑みを浮かべる。
「もうラッパはすべて鳴りました」
●
ブラッドリーの語った真実。
それが何なのか。それは思わぬ形で露見する。
「何故、こんな事を……? 何が目的なの?」
Uisca Amhran(ka0754)は対峙した黒き巫女へ説得を試みる。
かつては自身も巫女として各地で活動していた時期がある。大巫女の元を離れ、黒き巫女となった彼女達は、きっと今でも家族。ならば、Uiscaも家族を取り戻す為に説得を試みていたのだ。
「…………」
「白龍様がいない今、その信仰に疑問を持つのも仕方ない。でもっ、共に暮らしてきた家族を裏切ってまで辿り着く先が本当に楽園だとは思えないっ……貴方達は本当にそう思っているのっ?」
「あなたに何が分かるの!?」
「えっ……」
突然の反論にUiscaは一瞬、言葉が詰まる。
確かにハンターとして活動をするUiscaと黒き巫女になった者達とは立場が異なる。だが、Uiscaも巫女である以上、彼女達の気持ちを理解していると考えていた。
それが彼女達に否定されるとは考えていなかったのだ。
「巫女には愛が必要だと大巫女様からも教わったでしょう。今の貴女達は自分だけ助かればいいって自己愛……それでいいの?」
「じゃあ、その愛は何処へ行けばいいの? 消えてしまった白龍? それとも何百年も先に来るかも分からない白龍?」
溢れ出る黒き巫女の言葉。
Uiscaはここで他の龍と白龍の違いに気付く。
青龍に仕える者は青龍と共に歩む。
黒龍は帝一人にその責を負わせる。
だが、白龍は多くの巫女が従うが、龍の成長と人の一生が異なるが故に白龍と一度も出会わずに生涯を終える巫女もいる。それは果たして白龍に仕える巫女と称して良いのか。
Uiscaの口にした愛は、自分の役目が迷った時の標としては弱い。
「じゃあ、故郷の部族や同じ巫女達は……」
「辺境の巫女に選ばれた時点で私達は部族から送り出された。帰る故郷なんて無い。幻獣の世話をして巫女としての知識を蓄え……でも、その努力に意味はあるの? 白龍もいないのに……」
Uiscaは辺境巫女が抱える苦悩に触れた。
仮にヘレが白龍へと成長するとしてもそれは一体、何百年先か。その頃には今の巫女達はすべて寿命を迎えている。
白龍も見た事がない白龍の巫女として――。
「でも、楽園に行けば私達は苦しむ事も悲しく事もなく静かに暮らせるの。ファーザーはそう仰っていた。終末の天使達が選び、門を開けばきっと楽園へ行けるって」
「私は問う。赤き大地の同胞よ。知っているか。終末の惨状を」
雨を告げる鳥(ka6258)は苦悩を垂れ流す黒き巫女を前に問いかけた。
雨を告げる鳥は神霊樹ライブラリで古代文明の滅びを目にしていた。
王の為に最後まで戦うと誓った戦士達が、剣を振るう事無く地面へ倒れて死んでいく様を。
それは戦いにすべてを賭けた者達にとって『愚弄』であった。
「終末は迎えさせてはならない物。誇り高き戦士の末路は不遇。
剣と握る事もできず、ただ呼吸を止まるまで呆けた顔で死んでいく。
そのような惨状を、辺境に満たしても良いものか。
死は尊いもの。しかし、それは生あってのもの。共に生き、そうして紡がれた絆こそが掛け替えのないものだ」
雨を告げる鳥は、終末の惨状を提示しながら大巫女が語ってきた言葉を喚起させるように心がけた。
辺境巫女が黒き巫女となった理由は分かってきた。
ブラッドリーは今の辺境巫女が抱える悩みにつけ込み、自らの教えを広めた。
雨を告げる鳥は、真実を語ればその教えを否定できると考えていた。
――しかし。
「すべてを受け入れればいい。ファーザーがそう仰っていたもの」
「……! 私は気付いた」
雨を告げる鳥は信仰を甘く見ていた。
下手な洗脳よりも厄介なそれは、真実から目を背けさせる代物だ。
おそらくニガヨモギで迎えるのは死ではなく、楽園へ一足先に行くとでも言っているのだろう。
死を恐れない信仰は、厄介だ。
「力づくで止めるしかないわ。やりたくは無いけど、この場で解り合えないから」
Uiscaは錬金杖「ヴァイザースタッフ」を構える。
言葉での説得が不可能と考えたのだ。
それは雨を告げる鳥も同様のようだ。
「私は決意する。巫女は無理矢理にでも連れて帰ると」
雨を告げる鳥は集団で戦いを挑む巫女達へ青白い雲状のガスを放った。
●
戦闘へ以降したハンター達は瞬く間に黒き巫女を捕縛していった。
雨を告げる鳥の静謐の霧、ハンスの活人剣で確実に黒き巫女の身柄を拘束していった。元々戦闘能力では大きな差を持っている相手だ。その気になれば捕縛自体は難しくない。
「大変なのは、これからじゃん」
ヴォーイは巫女の手を縄で縛りながら、ポツリと呟いた。
黒き巫女は契約者である為、新たに覚醒者として契約すれば契約者ではなくなる。だが、問題の根本が解決した訳ではない。このまま辺境巫女に戻って今まで通り生活が送れるとは限らない。
「一度は改宗していますから。戻る戻らないは、自分で決めなければなりません」
ハンスは淡々と事実を口にした。
ハンターとして出来るのはここまで。後は大巫女とよく話して貰うしかない。大巫女ならば快く受け入れてくれるだろうが、彼女達自身が送る巫女としての生活は何も変わらない。
「私は問う。この者達が辺境巫女で無くなれば部族はこの者達を受け入れるのか」
「……難しいでしょうね」
雨を告げる鳥の問いにUiscaは答えた。
黒き巫女となった者達は部族の誉れとして送り出されたのだ。それが途中で巫女辞めて帰ってくると知ればどうなるか。親子は受け入れるかもしれないが、同じ部族の者からは冷たく当たるだろう。それは彼女達の心を蝕んでいく。
「私は考える。龍に仕えるとはどういう事か。龍に仕えるのは犠牲なのか。西方諸国や東方と交わる事で他の龍を知った事から苦悩が始まったとも解釈できる」
「犠牲か。でも、それって制度が生んだ犠牲って奴じゃん」
ヴォーイが口にした犠牲という言葉が、Uiscaの心に深く突き刺さった。
さらにヴォーイは続ける。
「でも神父の目的は何? なんか、強いハンターを生み出して邪神の配下に加える実験でもしているみたいじゃん」
●
「これ以上、人を弄ぶな」
アルトは試作法術刀「華焔」を横に薙いだ。
ブラッドリーは、光の盾で一撃を防ぐ。
強烈な一撃が光球を消滅させ、光の盾を打ち消した。
既に後方のハンター達は巫女の捕縛に成功。後はブラッドリーとキルトだけである。
だが、アルトは戦いの中で妙な違和感を感じていた。
(なんだ……この戦い方。別の場所でも見た記憶が……)
「さすがにやりますね」
ブラッドリーの残る光球は三つ。
あと一つ破壊すれば光の盾は形成できなくなる。
「さっさと消えやがれ!」
隙を突いてリューは竜貫を放つ。
星神器「エクスカリバー」から繰り出された突きは、光の盾を砕き光球を消滅させる。歴戦のハンターである二人が連携してブラッドリーを追い詰めていく。
あとはブラッドリーの傍らにいるキルトを奪い返すだけだ。
「そこのお嬢ちゃんも返して貰うぜ」
「取り返してどうするのです? 辺境巫女に戻っても問題は何も変わらない。辺境巫女を捨てても行く場所もないではありませんか。これが神を愚弄した天使の望んだ正義の結果です」
「……だからってお前が行き先を決めて良い訳ねぇだろ」
「私は、ただ導くだけです」
ブラッドリーは残っていた二つの光球から閃光を生み出した。
強烈な光が二人の視界を奪う。
「逃げたか」
リューの視界が戻る頃、ブラッドリーとキルトの姿がなかった。
ホワイトアウトしている隙に二人は逃走したと見るべきだ。
「まあ、巫女は大半を取りもどして……どうした?」
押し黙っているアルトに気付いたリュー。
先程からアルトは何かを気にしている様子だ。
「あの戦い方……」
そうアルトが呟いた瞬間、突如二人の上空が暗くなる。
見上げる二人。
そこには一機のCAMが現れる。手にはキルトの姿。
その機体は――二人に見覚えのある『白い機体』だった。
「あれは!」
「そうか。そういう事か」
アルトには記憶があった。
光球で盾を生み出す戦い方。それを別の戦闘で目撃していた。
――エンジェルダスト。
白い機体はスラスターを全開にして北へと飛び去っていった
●
「ファーザー。よろしかったのですか? 機体をハンターに見せて」
「構いません。いずれ分かる事です。それよりも巫女達のおかげで目的を果たせました」
地上に降りた白い機体は、森の奥で静寂に包まれていた。
その静けさは次なる動乱へ繋がっていく。
「天使達に犠牲と苦悩を示しました。次は……」
着物の裾から見える足。
軽く身を屈め、力を抜いた手で聖罰刃「ターミナー・レイ」 の柄に触れる。
眼前には黒い衣を纏った数名の女性。鈍器を手に敵意を示している。
「宗教で身を立てることに不安を感じた方々が、あっさり歪虚の甘言に乗った。
それだけの話じゃありませんか。
今回に限っては、言葉を尽くすより、斬った方が早いと思いますよ」
かつては辺境巫女であった彼女達を前にハンスはターミナー・レイを抜き放つ。
防御の姿勢を見せず、前へ踏み出る黒き巫女達。
(……なるほど)
ハンスは躊躇無く刃を振り行く。それは『人斬り』特有の一刀。
活人剣を使っていなければ、確実に斬り伏せていただろう。
辺境巫女がブラッドリーに狙われていると知った大巫女ディエナ(kz0219)は、辺境巫女を守るように動き出した。だが、時既に遅く、既に辺境巫女の一部はブラッドリーを信奉。大巫女はハンターへ事態の収拾を託していた。
「斬ってない、よな? ……安心したじゃん」
ハンスの戦い振りを見ていたヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、巫女の振り回す棍棒を魔導銛「グラナティエーレ」で防ぎながら呟いた。
ヴォーイに限らず、辺境巫女を救出に赴いた多くのハンターが説得や捕縛を考えていた。ハンスは説得よりも捕縛を優先していたが、ヴォーイの目からはハンスが本気で斬っているように見えたからだ。
「油断、しない方がいいですよ」
ハンスはヴォーイへ振り向く事無く声をかける。
「え? ちょっと戦って見たけど、それ程強いようには見えないじゃん?」
ヴォーイはハンスの言葉の意味を理解できなかった。
少々戦って見たが、どう考えても歴戦のハンターよりも力が下回っている。これはリアルブルーにおける強化人間を相手にしているに等しい。契約者である以上、身体能力は向上しているのだが、ハンスが危惧しているのは肉体的な強さの話だけではない。
「ファーザーの為に!」
辺境巫女の二人は同時に襲い掛かる。
ヴォーイは距離を取って回避を心がける。下手に反撃して巫女に余計な怪我を負わせたくないからだ。適度に攻撃してハンスの活人剣で確実に倒していく事を狙っていた。
(罠を仕掛けている様子もない。けど、この感じは……)
ヴォーイの背中に汗が流れる。
迫る巫女を前に一瞬だけ目を奪われる。
鬼気迫る巫女。
その表情はまさに必死。覚悟を決めた者の顔だったからだ。
「……ちっ!」
ヴォーイはグラナティエーレで巫女を突き押す。
銛を撃たず、銃身を使って巫女を押し返す。
倒れ込む巫女。だが、立ち上がると再び襲い掛かって来る。下手に攻撃をすれば巫女に不要な怪我を負わせるかもしれないというジレンマがヴォーイに降り掛かる。
「下手な歪虚よりも厄介な相手じゃん」
「これが信仰ですよ。本当に、厄介な敵を生み出してくれます」
ハンスは巫女の奥にいるブラッドリーに視線を向けた。
●
「巫女を大量に洗脳してハーレムでも作るつもりか?」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は敢えてブラッドリーを挑発した。
黒き巫女達が大霊堂から出て応戦を開始する最中、アルトは焔舞と踏鳴を駆使して真っ直ぐにブラッドリーを目指した。青木燕太郎(kz0166)や前怠惰王ビックマーに関わる不穏な動きを知っていたアルトだが、それ以上にブラッドリーが戦闘中の巫女を感電死させる可能性もあった。
下手な動きを封じる意味でも早々にブラッドリーを押さえ込む事が有効とハンター達が判断していたのだ。
「違うっていうなら言い訳でもしてみろ、この変態が」
「ファーザーへの無礼、許しません!」
アルトへ反論したのは、ブラッドリーではなくキルトと呼ばれる黒き巫女であった。
多くの辺境巫女がハンター対応に向かったのだが、キルトだけはブラッドリーの身を案じて護衛に回っていた。
(厄介だな。戦いに巻き込めば怪我をさせる)
アルトが一気にブラッドリーへ初手の攻撃を控えたのは、キルトの存在だ。
ここでアルトが踏鳴で接近し、飛燕による居合を繰り出せばキルトを巻き込むかもしれない。ブラッドリーの動きが読めない以上、ブラッドリーと交戦するにも隙を窺う必要があった。
「神よ。この者は何も知らないのです。お許し下さい」
「神か。祈って何か救われるというのか?」
「はい、救いはあります。ですが、今は楽園へと向かう道程」
そう言いながらブラッドリーは一歩前に出てキルトを腕で制した。
「キルト。下がっていなさい。あなたにはまだ役目があります」
(役目? ……まあいい)
アルトはブラッドリーの動きに合わせて少しだけ前に出る。
一気に間合いを詰めるだけの距離を確保する為だ。
「俺にも講釈してくんねぇか、神父様よ」
リュー・グランフェスト(ka2419)はアルトの後方からブラッドリーへ呼び掛けた。
ブラッドリーが巫女へ接近する事を考え、敢えて抜かれない為に二人は前後に布陣していた。その事を悟られない為にも、リューは敢えてブラッドリーと言葉を交わす。
「あんた、あの巫女に何を伝えた? 神の声とやらをあんたは聞いた事があるのかよ?
無いってんなら妄想で口説いて回る変態と認識するぜ」
「天使達は巫女達を洗脳したと考えているようですが、違います。私はただ『真実』を語っただけです」
「なに?」
リューは、聞き返した。
「天使たるあなた方はあなた方の正義に従って剣を取ります。ですが、その正義が誤っていると考えた事は無いのですか? 根本が間違っていれば、その正義は単なる力に過ぎません」
「…………」
真実とは何だ?
仮に洗脳していないとすれば、巫女達は何を言われた?
リューは脳裏に言葉を浮かべながら、更なる問いかけを試みる。
「もう一つ聞かせて欲しいんだ。ラッパはいくつ鳴ったんだ? 全部鳴るならファナティックブラッドは降臨するのか?」
敢えてリューはブラッドリーの言葉に乗った。
興味を惹ければそれだけ時間を稼げる。
リューの問いに対してブラッドリーは静かに笑みを浮かべる。
「もうラッパはすべて鳴りました」
●
ブラッドリーの語った真実。
それが何なのか。それは思わぬ形で露見する。
「何故、こんな事を……? 何が目的なの?」
Uisca Amhran(ka0754)は対峙した黒き巫女へ説得を試みる。
かつては自身も巫女として各地で活動していた時期がある。大巫女の元を離れ、黒き巫女となった彼女達は、きっと今でも家族。ならば、Uiscaも家族を取り戻す為に説得を試みていたのだ。
「…………」
「白龍様がいない今、その信仰に疑問を持つのも仕方ない。でもっ、共に暮らしてきた家族を裏切ってまで辿り着く先が本当に楽園だとは思えないっ……貴方達は本当にそう思っているのっ?」
「あなたに何が分かるの!?」
「えっ……」
突然の反論にUiscaは一瞬、言葉が詰まる。
確かにハンターとして活動をするUiscaと黒き巫女になった者達とは立場が異なる。だが、Uiscaも巫女である以上、彼女達の気持ちを理解していると考えていた。
それが彼女達に否定されるとは考えていなかったのだ。
「巫女には愛が必要だと大巫女様からも教わったでしょう。今の貴女達は自分だけ助かればいいって自己愛……それでいいの?」
「じゃあ、その愛は何処へ行けばいいの? 消えてしまった白龍? それとも何百年も先に来るかも分からない白龍?」
溢れ出る黒き巫女の言葉。
Uiscaはここで他の龍と白龍の違いに気付く。
青龍に仕える者は青龍と共に歩む。
黒龍は帝一人にその責を負わせる。
だが、白龍は多くの巫女が従うが、龍の成長と人の一生が異なるが故に白龍と一度も出会わずに生涯を終える巫女もいる。それは果たして白龍に仕える巫女と称して良いのか。
Uiscaの口にした愛は、自分の役目が迷った時の標としては弱い。
「じゃあ、故郷の部族や同じ巫女達は……」
「辺境の巫女に選ばれた時点で私達は部族から送り出された。帰る故郷なんて無い。幻獣の世話をして巫女としての知識を蓄え……でも、その努力に意味はあるの? 白龍もいないのに……」
Uiscaは辺境巫女が抱える苦悩に触れた。
仮にヘレが白龍へと成長するとしてもそれは一体、何百年先か。その頃には今の巫女達はすべて寿命を迎えている。
白龍も見た事がない白龍の巫女として――。
「でも、楽園に行けば私達は苦しむ事も悲しく事もなく静かに暮らせるの。ファーザーはそう仰っていた。終末の天使達が選び、門を開けばきっと楽園へ行けるって」
「私は問う。赤き大地の同胞よ。知っているか。終末の惨状を」
雨を告げる鳥(ka6258)は苦悩を垂れ流す黒き巫女を前に問いかけた。
雨を告げる鳥は神霊樹ライブラリで古代文明の滅びを目にしていた。
王の為に最後まで戦うと誓った戦士達が、剣を振るう事無く地面へ倒れて死んでいく様を。
それは戦いにすべてを賭けた者達にとって『愚弄』であった。
「終末は迎えさせてはならない物。誇り高き戦士の末路は不遇。
剣と握る事もできず、ただ呼吸を止まるまで呆けた顔で死んでいく。
そのような惨状を、辺境に満たしても良いものか。
死は尊いもの。しかし、それは生あってのもの。共に生き、そうして紡がれた絆こそが掛け替えのないものだ」
雨を告げる鳥は、終末の惨状を提示しながら大巫女が語ってきた言葉を喚起させるように心がけた。
辺境巫女が黒き巫女となった理由は分かってきた。
ブラッドリーは今の辺境巫女が抱える悩みにつけ込み、自らの教えを広めた。
雨を告げる鳥は、真実を語ればその教えを否定できると考えていた。
――しかし。
「すべてを受け入れればいい。ファーザーがそう仰っていたもの」
「……! 私は気付いた」
雨を告げる鳥は信仰を甘く見ていた。
下手な洗脳よりも厄介なそれは、真実から目を背けさせる代物だ。
おそらくニガヨモギで迎えるのは死ではなく、楽園へ一足先に行くとでも言っているのだろう。
死を恐れない信仰は、厄介だ。
「力づくで止めるしかないわ。やりたくは無いけど、この場で解り合えないから」
Uiscaは錬金杖「ヴァイザースタッフ」を構える。
言葉での説得が不可能と考えたのだ。
それは雨を告げる鳥も同様のようだ。
「私は決意する。巫女は無理矢理にでも連れて帰ると」
雨を告げる鳥は集団で戦いを挑む巫女達へ青白い雲状のガスを放った。
●
戦闘へ以降したハンター達は瞬く間に黒き巫女を捕縛していった。
雨を告げる鳥の静謐の霧、ハンスの活人剣で確実に黒き巫女の身柄を拘束していった。元々戦闘能力では大きな差を持っている相手だ。その気になれば捕縛自体は難しくない。
「大変なのは、これからじゃん」
ヴォーイは巫女の手を縄で縛りながら、ポツリと呟いた。
黒き巫女は契約者である為、新たに覚醒者として契約すれば契約者ではなくなる。だが、問題の根本が解決した訳ではない。このまま辺境巫女に戻って今まで通り生活が送れるとは限らない。
「一度は改宗していますから。戻る戻らないは、自分で決めなければなりません」
ハンスは淡々と事実を口にした。
ハンターとして出来るのはここまで。後は大巫女とよく話して貰うしかない。大巫女ならば快く受け入れてくれるだろうが、彼女達自身が送る巫女としての生活は何も変わらない。
「私は問う。この者達が辺境巫女で無くなれば部族はこの者達を受け入れるのか」
「……難しいでしょうね」
雨を告げる鳥の問いにUiscaは答えた。
黒き巫女となった者達は部族の誉れとして送り出されたのだ。それが途中で巫女辞めて帰ってくると知ればどうなるか。親子は受け入れるかもしれないが、同じ部族の者からは冷たく当たるだろう。それは彼女達の心を蝕んでいく。
「私は考える。龍に仕えるとはどういう事か。龍に仕えるのは犠牲なのか。西方諸国や東方と交わる事で他の龍を知った事から苦悩が始まったとも解釈できる」
「犠牲か。でも、それって制度が生んだ犠牲って奴じゃん」
ヴォーイが口にした犠牲という言葉が、Uiscaの心に深く突き刺さった。
さらにヴォーイは続ける。
「でも神父の目的は何? なんか、強いハンターを生み出して邪神の配下に加える実験でもしているみたいじゃん」
●
「これ以上、人を弄ぶな」
アルトは試作法術刀「華焔」を横に薙いだ。
ブラッドリーは、光の盾で一撃を防ぐ。
強烈な一撃が光球を消滅させ、光の盾を打ち消した。
既に後方のハンター達は巫女の捕縛に成功。後はブラッドリーとキルトだけである。
だが、アルトは戦いの中で妙な違和感を感じていた。
(なんだ……この戦い方。別の場所でも見た記憶が……)
「さすがにやりますね」
ブラッドリーの残る光球は三つ。
あと一つ破壊すれば光の盾は形成できなくなる。
「さっさと消えやがれ!」
隙を突いてリューは竜貫を放つ。
星神器「エクスカリバー」から繰り出された突きは、光の盾を砕き光球を消滅させる。歴戦のハンターである二人が連携してブラッドリーを追い詰めていく。
あとはブラッドリーの傍らにいるキルトを奪い返すだけだ。
「そこのお嬢ちゃんも返して貰うぜ」
「取り返してどうするのです? 辺境巫女に戻っても問題は何も変わらない。辺境巫女を捨てても行く場所もないではありませんか。これが神を愚弄した天使の望んだ正義の結果です」
「……だからってお前が行き先を決めて良い訳ねぇだろ」
「私は、ただ導くだけです」
ブラッドリーは残っていた二つの光球から閃光を生み出した。
強烈な光が二人の視界を奪う。
「逃げたか」
リューの視界が戻る頃、ブラッドリーとキルトの姿がなかった。
ホワイトアウトしている隙に二人は逃走したと見るべきだ。
「まあ、巫女は大半を取りもどして……どうした?」
押し黙っているアルトに気付いたリュー。
先程からアルトは何かを気にしている様子だ。
「あの戦い方……」
そうアルトが呟いた瞬間、突如二人の上空が暗くなる。
見上げる二人。
そこには一機のCAMが現れる。手にはキルトの姿。
その機体は――二人に見覚えのある『白い機体』だった。
「あれは!」
「そうか。そういう事か」
アルトには記憶があった。
光球で盾を生み出す戦い方。それを別の戦闘で目撃していた。
――エンジェルダスト。
白い機体はスラスターを全開にして北へと飛び去っていった
●
「ファーザー。よろしかったのですか? 機体をハンターに見せて」
「構いません。いずれ分かる事です。それよりも巫女達のおかげで目的を果たせました」
地上に降りた白い機体は、森の奥で静寂に包まれていた。
その静けさは次なる動乱へ繋がっていく。
「天使達に犠牲と苦悩を示しました。次は……」
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/03/17 23:14:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/17 07:48:45 |