ゲスト
(ka0000)
【陶曲】TOYS STRIKE:前編
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/03/24 19:00
- 完成日
- 2019/03/28 00:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
嫉妬王ラルヴァ。
大地の精霊アメンスィ。
ほどなく両者の間に最後の衝突が始まる。
サイゴンはむろんラルヴァに勝ってほしい。それこそが歪虚である彼の望みで喜びだから。だからそのための行動をしたいと常々思っている。
しかし残念ながら彼の頭は鈍く出来ていた。本来なら新しく作り上げたオートマトンの分身がそこを補ってくれるはずだったのだが……つい最近ハンターの手により消滅させられてしまった(とはいえ、そのすべてが消えたわけではない。かのオートマトンが感じ考えたことは支配という形を通じて、サイゴンの中に蓄積されている)。
とにかくこの先どういう手を打ったらいいのか。
『うーん……まず面倒なのは、ハンターは壊してもすぐ直っちまうってことだべ。なんで直っちまうかというと、直すやつがいるからだべ。ラルヴァ様に聞いたけんど、そいつらはクルセイダーって奴らしいべ。えーとえーと、だから戦う時にはクルセイダーから壊さなきゃなんねえ。これ大事なところだど』
目の奥にある巻ネジがきりきり回り、鼻から蒸気が吹き上がる。
『あいつらはいつも、複数で来るど。だから、バラバラにしておかなくちゃなんねえど……そんだ。あいつらは人間を連れて行かれると取り返そうとするべ。せばたくさん捕まえて、1匹ずつバラバラの場所に持って行くちうのはどうだんべ。そしたらバラバラに追いかけねばならなくなるど。固まって向かって来ることが出来ねえど』
我ながら非常にいい考えだと思ったサイゴンは、膝を打った。
『だども、そうすっとまずどこから集めたらいいべが』
そこにケラケラというぶしつけな笑い声。
サイゴンが足元に顔を向ければ、いつの間にかピクスドールの同属歪虚が群れていた。全部同じ型。数は11。
サイゴンはジロリと彼女らを睨みつける。
『おめえたち、なにを笑ってるべ』
対しピクスドールたちは、怖じけもせず言った。
「襲ウニピッタリノ場所、教エテアゲルノヨ」
「学校狙エバイイノヨ」
『ガッコウてなんだべ』
「人間ガ子供ヲタクサン入レトク建物ヨ」
『なぬ。そんな便利なところがあるべか。どこにあるべ、教えるべ』
「マア待チナサイヨ」
「学校トイウモノハ、世ノ中タクサンアルノ」
「ダケド、ドコデモ襲エバイイッテモノジャナイワ。金持チノ子供ガイッパイイル学校デナイト駄目」
『何故だべ』
「金持チノ子ヲ人間タチハ守ロウトスルノ」
「ダカラ人質トシテトテモ有効」
「貧乏人ノ子ハ人質トシテ価値ナシ。人間タチハソレヲ守ロウトシナイモノ。殺シタトコロデセイゼイ『カワイソ』言ッテ終ワリダワ」
『そうだべか。じゃあ金持ちの子供狙ったほうがよかんべ。そういうガッコウ知ってるべか』
「モチロン。知ッテルカラ声カケタゲタノヨ。デモ、教エルニハ条件ガアルワ」
ピクスドールたちはガラスの目玉をクルクル動かし、再度笑った。カンに触るような高い声で。
「私タチニ襲撃サセテチョーダイ」
「私タチノウチノ1人ガ、ソノ学校デヤラレチャッタノヨネ」
「コノママ放置シテオクノハ、全体ノ面子ニ拘ルノ」
「コノ機会ニ、リベンジナノヨ」
●ベレン学院寮の夜
マルコ・ニッティは参考書を閉じ、顔を上げた。
誰かが階段を下りて行く音が聞こえた。数人分。
(……門限は過ぎてるよな)
こんな時間にどこへ行こうというのだろうか。
少し迷った後マルコは、席を立った。扉を開き、廊下に出る。とりあえず誰が何をしているのか確かめるために。
すると、同級ら数人と鉢合わせした。皆表情がこわばっている。顔色も蒼白だ。
一体どうしたのかマルコは尋ねようとした。そして次の瞬間、後ずさった。同級生の後ろから、ピクスドールが顔を出したのだ。
「大人シクスルノヨ。声ヲ出シタラ殺シチャ――」
相手の警告が終わる前にマルコは、壁を殴って大声を出した。
「皆、起きろ、歪虚――」
次の瞬間彼の意識は途切れた。背後から近づいてきていたもう1体のピクスドールが、バットで激しく殴りつけたのだ。
「声ヲ出スナト言ウノニ」
ルイ・ラデュロは相変わらずマルコ・ニッティにムカついている。
あの一件以来自分の発言力というか、クラスにおける順位が下降したことは否めない。
自業自得と言えばそれまでだが、ルイは素直にそれを受け止め即座に行動を改めるほど出来た人間ではなかった――大体出来た人間ならあんな事件起こしていない。
機会があれば足を引っ張ってやりたい。
今だにそう思ってはいるのだが、マルコの側が一切隙を見せず寛大に友好関係を保つがごとき振る舞いをしてきているので手が出せない――そもそも手を出したら倍返しされる。
そして今回の定期テスト。自分は1位上がったが奴は3位上がった。よって抜かれた。
「くそおおお、あの野郎ぉ!」
そこに声が。
「ナンダカ、オ悩ミノヨウネ」
振り向けばいつか見たのとそっくり同じピクスドール。
「人間サン、困ッテルナラ、ワタシ助ケテアゲテモイイノヨ?」
ルイは確かに根性が悪い。しかし同じ過ちを二度も繰り返す馬鹿ではない。
「……ちょっと……ご遠慮しておきたいかなって……」
と言って廊下に逃げ出す。
そしたらぶつかった。もう1体のピクスドールに。右手でバットを持ち、左手で引きずっている。頭から血を流しているマルコを。
「ドコヘオ出掛ケ?」
思わずすくむ所に、部屋から出てきたピクスドールが言った。
「アンタ、ソレドーシタノ」
「ウン、騒ゴウトシタカラ大人シクサセタノ」
そこに外から窓を叩く音。見ればピクスドールがもう1体。
「早ク乗セルノヨ。長居ハ無用ヨ」
寮の玄関先には、いつの間にか複数の馬車が停まっている。
妙に可愛らしいデザインの車体に、ピンク、赤、青色、黄色といったあり得ない色の馬。
よく見たらそれは、メリーゴーランドに使われるまがい物の馬車であり馬であった。
●ハンターオフィスに届いた情報
ニケ・グリークは組んだ手を額に押し当て、重い息をついた。
「ベレン学院寮に襲撃があったことは、オフィスで聞いていますね?」
カチャを筆頭としたハンターたちは頷いた。
ベレン学院の寮に夜中何者かが押し入り、子供たちを誘拐したのだ。
侵入者を防ぐべき管理人や警備員といった人々は軒並み意識不明の状態で情報が取れない。だからまだはっきりしたことは言えないが、歪虚絡みではあることだけは確実視されている。
誘拐された子供の親たちは皆、社会的地位の高い者ばかり。
彼らから火のようにせっつかれた警察は全身全霊を挙げ、子供たちの行方を追っている次第。ハンターオフィスの助けも借りて。
しかしニケはそれだけを当てにして待つようなことはしない。この際打てる手はすべて打っておきたいと思った。後で悔やむことがないように。
「マルコ・ニッティの行方を突き止めてください。それが私の依頼内容です」
大地の精霊アメンスィ。
ほどなく両者の間に最後の衝突が始まる。
サイゴンはむろんラルヴァに勝ってほしい。それこそが歪虚である彼の望みで喜びだから。だからそのための行動をしたいと常々思っている。
しかし残念ながら彼の頭は鈍く出来ていた。本来なら新しく作り上げたオートマトンの分身がそこを補ってくれるはずだったのだが……つい最近ハンターの手により消滅させられてしまった(とはいえ、そのすべてが消えたわけではない。かのオートマトンが感じ考えたことは支配という形を通じて、サイゴンの中に蓄積されている)。
とにかくこの先どういう手を打ったらいいのか。
『うーん……まず面倒なのは、ハンターは壊してもすぐ直っちまうってことだべ。なんで直っちまうかというと、直すやつがいるからだべ。ラルヴァ様に聞いたけんど、そいつらはクルセイダーって奴らしいべ。えーとえーと、だから戦う時にはクルセイダーから壊さなきゃなんねえ。これ大事なところだど』
目の奥にある巻ネジがきりきり回り、鼻から蒸気が吹き上がる。
『あいつらはいつも、複数で来るど。だから、バラバラにしておかなくちゃなんねえど……そんだ。あいつらは人間を連れて行かれると取り返そうとするべ。せばたくさん捕まえて、1匹ずつバラバラの場所に持って行くちうのはどうだんべ。そしたらバラバラに追いかけねばならなくなるど。固まって向かって来ることが出来ねえど』
我ながら非常にいい考えだと思ったサイゴンは、膝を打った。
『だども、そうすっとまずどこから集めたらいいべが』
そこにケラケラというぶしつけな笑い声。
サイゴンが足元に顔を向ければ、いつの間にかピクスドールの同属歪虚が群れていた。全部同じ型。数は11。
サイゴンはジロリと彼女らを睨みつける。
『おめえたち、なにを笑ってるべ』
対しピクスドールたちは、怖じけもせず言った。
「襲ウニピッタリノ場所、教エテアゲルノヨ」
「学校狙エバイイノヨ」
『ガッコウてなんだべ』
「人間ガ子供ヲタクサン入レトク建物ヨ」
『なぬ。そんな便利なところがあるべか。どこにあるべ、教えるべ』
「マア待チナサイヨ」
「学校トイウモノハ、世ノ中タクサンアルノ」
「ダケド、ドコデモ襲エバイイッテモノジャナイワ。金持チノ子供ガイッパイイル学校デナイト駄目」
『何故だべ』
「金持チノ子ヲ人間タチハ守ロウトスルノ」
「ダカラ人質トシテトテモ有効」
「貧乏人ノ子ハ人質トシテ価値ナシ。人間タチハソレヲ守ロウトシナイモノ。殺シタトコロデセイゼイ『カワイソ』言ッテ終ワリダワ」
『そうだべか。じゃあ金持ちの子供狙ったほうがよかんべ。そういうガッコウ知ってるべか』
「モチロン。知ッテルカラ声カケタゲタノヨ。デモ、教エルニハ条件ガアルワ」
ピクスドールたちはガラスの目玉をクルクル動かし、再度笑った。カンに触るような高い声で。
「私タチニ襲撃サセテチョーダイ」
「私タチノウチノ1人ガ、ソノ学校デヤラレチャッタノヨネ」
「コノママ放置シテオクノハ、全体ノ面子ニ拘ルノ」
「コノ機会ニ、リベンジナノヨ」
●ベレン学院寮の夜
マルコ・ニッティは参考書を閉じ、顔を上げた。
誰かが階段を下りて行く音が聞こえた。数人分。
(……門限は過ぎてるよな)
こんな時間にどこへ行こうというのだろうか。
少し迷った後マルコは、席を立った。扉を開き、廊下に出る。とりあえず誰が何をしているのか確かめるために。
すると、同級ら数人と鉢合わせした。皆表情がこわばっている。顔色も蒼白だ。
一体どうしたのかマルコは尋ねようとした。そして次の瞬間、後ずさった。同級生の後ろから、ピクスドールが顔を出したのだ。
「大人シクスルノヨ。声ヲ出シタラ殺シチャ――」
相手の警告が終わる前にマルコは、壁を殴って大声を出した。
「皆、起きろ、歪虚――」
次の瞬間彼の意識は途切れた。背後から近づいてきていたもう1体のピクスドールが、バットで激しく殴りつけたのだ。
「声ヲ出スナト言ウノニ」
ルイ・ラデュロは相変わらずマルコ・ニッティにムカついている。
あの一件以来自分の発言力というか、クラスにおける順位が下降したことは否めない。
自業自得と言えばそれまでだが、ルイは素直にそれを受け止め即座に行動を改めるほど出来た人間ではなかった――大体出来た人間ならあんな事件起こしていない。
機会があれば足を引っ張ってやりたい。
今だにそう思ってはいるのだが、マルコの側が一切隙を見せず寛大に友好関係を保つがごとき振る舞いをしてきているので手が出せない――そもそも手を出したら倍返しされる。
そして今回の定期テスト。自分は1位上がったが奴は3位上がった。よって抜かれた。
「くそおおお、あの野郎ぉ!」
そこに声が。
「ナンダカ、オ悩ミノヨウネ」
振り向けばいつか見たのとそっくり同じピクスドール。
「人間サン、困ッテルナラ、ワタシ助ケテアゲテモイイノヨ?」
ルイは確かに根性が悪い。しかし同じ過ちを二度も繰り返す馬鹿ではない。
「……ちょっと……ご遠慮しておきたいかなって……」
と言って廊下に逃げ出す。
そしたらぶつかった。もう1体のピクスドールに。右手でバットを持ち、左手で引きずっている。頭から血を流しているマルコを。
「ドコヘオ出掛ケ?」
思わずすくむ所に、部屋から出てきたピクスドールが言った。
「アンタ、ソレドーシタノ」
「ウン、騒ゴウトシタカラ大人シクサセタノ」
そこに外から窓を叩く音。見ればピクスドールがもう1体。
「早ク乗セルノヨ。長居ハ無用ヨ」
寮の玄関先には、いつの間にか複数の馬車が停まっている。
妙に可愛らしいデザインの車体に、ピンク、赤、青色、黄色といったあり得ない色の馬。
よく見たらそれは、メリーゴーランドに使われるまがい物の馬車であり馬であった。
●ハンターオフィスに届いた情報
ニケ・グリークは組んだ手を額に押し当て、重い息をついた。
「ベレン学院寮に襲撃があったことは、オフィスで聞いていますね?」
カチャを筆頭としたハンターたちは頷いた。
ベレン学院の寮に夜中何者かが押し入り、子供たちを誘拐したのだ。
侵入者を防ぐべき管理人や警備員といった人々は軒並み意識不明の状態で情報が取れない。だからまだはっきりしたことは言えないが、歪虚絡みではあることだけは確実視されている。
誘拐された子供の親たちは皆、社会的地位の高い者ばかり。
彼らから火のようにせっつかれた警察は全身全霊を挙げ、子供たちの行方を追っている次第。ハンターオフィスの助けも借りて。
しかしニケはそれだけを当てにして待つようなことはしない。この際打てる手はすべて打っておきたいと思った。後で悔やむことがないように。
「マルコ・ニッティの行方を突き止めてください。それが私の依頼内容です」
リプレイ本文
●ドールズからサイゴンへの提案
「アナタ、イツモウマクハンターヲ倒セナイノヨネ」
「ドウシテソウナノカ分カル?」
「アナタガイツモアウェイデ戦ウカラヨ」
「向コウヲアウェイニ引キ込マナイトダメネー」
「ソーユー場所、作ルノヨ」
「私タチガ、プロデューススルノヨ」
●依頼内容確認
メイム(ka2290)はニケに確認を取った。
「ニケさん、親御さん達は騒がしいけど、今回マルコ君優先でいいんだよね? ついでに把握できれば儲けの種だろうけどさ」
「そうです、マルコさんが優先です。彼の行方を知るために私はあなた達を呼んだのです」
優先順位をはっきりさせることに異を唱えるわけではない。だけどディーナ・フェルミ(ka5843)は今回の依頼を、それだけで終わらせたくなかった。攫われた子供は皆一様に、かけがえのないものだ。
「まずマルコ君を探して、そこに全員いなさそうなら他の攫われた子も捜す、で良いんだよね? 依頼はマルコ君1人分だけど、攫われた子達全員探してあげないとマルコ君も親御さんたちも悲しむんじゃないかなって思うの」
「ほかの生徒達を探すなとは言いません。ですがそれはあくまでもマルコさんの居場所が知れてからにしてください。この依頼において最優先すべきは彼です」
「……分かったの。ではそのようにさせていただくの」
●足跡捜査
ポルトワールの町外れ。数日前崖崩れが起き塞がれたままになっている山間の旧道。
入り乱れた小さい轍と蹄の跡が、そこでぽつんと途切れている。
天竜寺 舞(ka0377)は、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)のもふらと一緒に地面を嗅ぎ回っているゴエモンを見下ろす。
「どうだ、それっぽい匂いどこかに続いてないか?」
ゴエモンともふらは顔を上げた。困ったように鼻を鳴らし尻尾を振る。
ルンルンはどこかの名探偵よろしく、頭をがりがり掻いた。
「歪虚が身代金目的の誘拐をするとは思えないし、一体何が目的で……やっぱり纏めて捕らわれてるのかな? でも、それにしては轍の数が多い様な? 馬車は小型? だから1台に沢山は乗せられない? それとも別の目的が?」
ゴースロンに乗ったメイムは桜妖精に話しかける。ファミリアズアイを発動させて。
「飛んで、あんず」
メイムの目に、周辺の鳥瞰図が映し出される。
山また山、木また木、若葉生え染める季節とあって地表は見透かしやすいのだが、警察の報告文書にあった木馬と馬車の残骸は見当たらない。ため息をつき、手にした本で肩を叩く。
「それが見つかれば楽だと思ったんだけどなー」
カチャは疑わしげに彼女の手元を見る。
「メイムさん、その本なんですか?」
「ん? 今度大々的に刊行しよーかなって思ってる自費出版本第二弾『辺境の奇祭2草本』」
そこでルンルンがくわっと目を見開いた。
「馬車の跡が消え、しかもその残骸も見つからない……ということはそう、犯人たちはここから馬車を抱えて移動したのです! きっとまだ、徒歩で動ける圏内にいるはずなのです!」
舞もその見解には賛成の立場だ。歪虚なら、人間1人抱えて移動するくらい余裕なはず。
「だとすると、そう遠くへはいけないはずだな。朝には捜査も始まっただろうし」
と言って警察から借りた周辺地図を広げる。
だが見る限り、周辺に11人も隠せそうな場所などはなし。複数の轍が同じところで途切れているのだ。ここからまた改めてバラバラに隠すなど、二度手間なことはしないと思うのだが……。
(人がいない山小屋とか利用してるのかも)
試しに魔箒を使い上空からの偵察を試みる。
しかしそういう建造物は見当たらない。
早くも行き詰まりかけたところへ、リュー・グランフェスト(ka2419)が戻ってきた。
彼は、この界隈周辺で食料品店の聞きこみをしていたのである。11人も攫ったのなら、食料が入り用になるはずだと踏んで。
「お帰りリューさん、何か情報つかめた?」
と聞くメイム。
リューは首を振る。
「いや、買い付けとかは全然なかった。ただ」
「ただ?」
「駄菓子屋で万引きがあったとか」
●被害者現状
もう昼になっているはずだのに、あたりは闇の中。
開いたままの窓から引っ切りなし風が吹き込む。
ドールたちが御者台ではしゃぐ。その声が湿布を貼ったきりの痛む頭にワンワン響く。
「私ノ馬車ガ一番ヨ!」
「イーエ、私ヨ!」
「サイゴンノオデカサン、チャント準備出来テルカシラ!」
恐ろしい速さで可愛い馬車は駆け続ける。
マルコは力の籠もらない手でポケットを探り、ハンカチを引き出した。
●証言
「治癒してくださるんですか? それはもう是非お願い致します」
意識不明者の治癒を申し出たロニ・カルディス(ka0551)とディーナは、早速医者から病室へ案内された。
並んだベッドに寝ているのは、ミイラのごとき包帯の塊。顔もほとんど見えやしない。
「全身複雑骨折でして。何か棒状のものでめった打ちされたようですな」
「……来てよかったの。話は聞けないかもしれないけど、怪我したまま放置するのも嫌だなって思ったの」
まずディーナがフルリカバリーを施す。
続いてロニもフルリカバリーを施す。
包帯の下で傷口が閉じて行く。体の内側で砕けていた骨が接がれ、再生する。
ディーナは比較的包帯の少ない人を軽くゆすってみた。
その人はうっすら目を開け、次いで全身をこわばらせる。
「うあ、あ」
ディーナはベッドから飛び出そうとする体を押さえ、サルヴェイションをかけた。
「大丈夫、大丈夫なの、ここは病院なの、あなたは助かったの」
次いでポーションを差し出す。
それからロニと一緒に改めて、襲撃を受けた際のことを聞き出す。
そして以下のことを仲間たちに伝える。
1:襲ってきたのは以前学院を騒がしたビスクドールと全く同じもの。
2:ビスクドールは1体ではなかった。少なくとも5体以上はいたような気がする。
3:それ以上のことは分からない。何を聞くひまも無く意識を失ってしまったから。
●推理
なんでわざわざ金持ちの子ばかりが集うという学校の寮を狙ったのか。歪虚が営利誘拐なんてするはずもないのに。一体何が目的か。
このカーミン・S・フィールズ(ka1559)の疑問は、警察の調査結果を追っていくうちに氷解した。
すでに一度歪虚がらみの事件が起きているのだ。外でもないこの学院の、この寮で。
(ただの怨恨、仕返しなら可愛いものね。ただ、ピグマリオはしつこいから)
加えて陰険だ。
そんなことを考えていた時ロニが、重体者回復について連絡してきた。彼らの証言内容も。
『――ということだ。とりあえず俺はこれから、現地に赴こうと思う』
「そう。分かった。私も今から現地に行くわ」
カーミンは足を速める。頭の中で情報を整理し、まとめながら。
(これは-―かつて強化人間が起こした離反や、同盟区域であった陶器を使った暗示とは質が違う事件。でも危険なことに変わりはない――リューの情報では、食料も集めていないらしいし――生徒達を生かしておく気があるの?)
最悪の事態を思い浮かべつつも彼女は、悲観しない。今はただ行動あるのみだと割り切る。
「もう、そんなことを許すわけにはいかないもの」
そこに再び連絡が入ってきた。星野 ハナ(ka5852)からだ。
『当たるも八卦当たらぬも八卦ですけどぉ、まず8人分の子供の居る可能性がある地図を作りましたぁ。集まって軽食取りながらみんなで集めた情報の摺合せをしませんかぁ。少なくとも最初に占ったマルコ君の分はそこそこ精度が高いと思いますぅ』
●全体会議
ポルトワール近郊の地図の模写、11枚。
地図の1枚1枚に、攫われた生徒の名が掻いてある。
そのうち8枚の地図に、違う色の円が描かれている。
「その円の中に、攫われた生徒がいる可能性が高いです」
とルンルンは言う。
誰もが変だなと思った。円が一つの線上にあるのだ。そして占った順に、ポルトワールから遠ざかっているように見える。
メイムが顎に手をやる。
「監禁する場所があるとして、わざわざそれを一直線上に作る?」
舞も首をひねる。
「メイムとあたしがこの最初の円の近くを偵察したけど……何も見つからなかったな」
そこでカーミンが口を開いた。
「もしかして、土の下に何かが作ってあるってことはない? ほら、ラルヴァの腕やマテリアルが地中を移動・吸収された例もあることだし」
なるほど。言われてみればそうかもしれない、と一同は納得した。
手を打つカチャ。
「そういえば、そもそもラルヴァの本拠地自体地下にあるようなものですよね」
その彼女に、カーミンが言った。
「友人に聞いたんだけど、ジェオルジの近くにはもぐやんという地霊がいるそうね? 協力要請出来ないかしら?」
「う、うーん……まあ、会えればなんとかなるとは思いますが……あまり期待しないでください。最近はあちこち出掛けられてるみたいですから」
この後カチャは、いったん捜査から抜けた。もぐやんの意向を聞いてくるために。
●発見
ハンターたちは、再度轍が潰えた場所に行ってみる。
カーミンの推理を念頭に置き崩れた箇所をよくよく確かめれば、新しく崩れている箇所がある。
ハナは早速マルコの分の地図を広げ、この方角で間違いがないか占ってみた。
出てきた結果は『間違いなし』というもの。
ルンルンはふっふっふと含み笑いを漏らす。
「ルンルン忍法ともふらちゃんの鼻、そして捜査の基本の美脚をもってすれば、歪虚風情の悪巧みなんて全部まるっとお見通し、失礼こかせていただくのです!」
ハンターは掘る。適当に借りてきたシャベルで。犬たちも掘る。たくましき前足で。
ほどなくしてがばっと土壁が崩れた。トンネルと言っていいほどの広い空間が現れる。
奥が――深い。日の光も吸い込まれ途中で消えてしまう。
地面を見れば轍と蹄の跡がくっきり。
ロニは肩の力を緩める。この分ならすぐ人質の居場所を突き止められるだろうと思って。
「足跡を残してくれるとは、ご親切なことで」
灯火の水晶球とスマホの照明を頼りに、穴の中へ入って行く。何かに騎乗出来るものは騎乗して。そうでないものは、そのまま。
ほどなくして、ハナの占いが指し示した場所に到達した。
だが何もないし誰もいない。
ルンルンが生命感知を行ってみたが、これまた何も引っ掛からなかった。
そこで犬たちが急に駆け出す。壁際まで行き、しきりと匂いを嗅ぎ始める。
何事かと思えばくしゃくしゃに丸められたハンカチが落ちていた。
カーミンが拾い上げ、イニシャルと模様を確かめる。
「これは――マルコ・ニッティくんのものね」
ハンカチの表面には血で記した文字が記してあった。かすれているが、何とか読めた。
『11・イキテル』
……轍の跡は延々闇の中へ続いている。
全ての情報を併せて導き出された結論。それは『歪虚たちは人質を連れ、現在進行形で移動し続けている』というもの。
『近辺にアジトがあるのでは』という読みは外れだったのだ。
ロニ、ハナ、ディーナは、魔導ママチャリを全力でこぐ。メイムは馬を走らせる。舞、リュー、ルンルン、カーミンは走る。犬たちが後に続く。何とか馬車に追いつこうと。
●地霊の事情
『むうう、おらは今アメンスィ様に、微力ながら大地のパワーをずんどこどっこい送ってるところだべ。ラルヴァとの戦いのためだべ。だからさっぱり身動きとれんべ。すまんけんど、アドバイスだけでもええべか?』
「あ、はい、もうそれで十分です。何か知っていることがあるなら、教えてくださると助かります」
『うんむ、ここんとこ大きな嫉妬の歪虚がのう、あっちこっち地面の下に穴あけとるべ。そこを小さい歪虚が行き来してるべ。けしからんことだべが、おらたち地の精霊は今この通りの状態で動きがとれんで、対処することが出来ねえべ……ふがいないことで申し訳ねえ……とりあえず地面伝いに聞いたところによると、その大きな歪虚は大地の裂け目に向かう道の途中に、何やらでっかい派手なものをおっ立てたらしいべ』
●発見また発見
メイムは汗を飛び散らせている馬の首を叩き、励ます。
「頑張れ、後少しだから」
ロニ、ハナ、ディーナは自分たち自身が汗だくになって自転車をこぎ続ける。
行く手がうっすら明るくなってくる。
トンネルが尽きた。
そこには、枯れ果てた景色が広がっている。
うねるように起伏した大地の上にあるのは、色あせ枯れた草ばかり。風に乗って吹き付けてくるのは負の気配。
足元は崖と言ってもいいのではないかというくらい急な坂だ。
そこを降り引き続き轍を追っていけば、かなり広い平地があった。
四方を壁で囲まれた何かがある。悪い食品添加物みたいな色合いだ。
「……城?」
呟くリューに、鋭敏視角を持つディーナが言う。
「違うの、お城じゃないの。観覧車が見えるの」
カーミンは鋭敏視角に加え双眼鏡を使用した。
建造物にピントを合わせ、断言する。
「そうね、遊園地的なものってことで間違いなさそうよ。コースターらしいのも見えるし。作りかけみたいだけど」
●かしましドールズ帰還
「私ガイーチバン!」
「私ヨ!」
「イーエ、私!」
きゃらきゃら言いながらドールたちは馬車の扉を開け、生徒達を引きずり出す。。
「サー、降リタ降リタ。目的地ニ着イタノヨ」
皆ぐったりしていた。
それもそのはずだ。何しろ捕まってからこっち、ほとんど飲み食いしていない。口に入ったのはドールがどこからかとってきた菓子とジュースだけだ。
彼女らは人質の健康状態に興味がないらしい。死んでないならそれでいいというスタンスなんだろうな、とマルコは推測した――彼はそろそろ、立っていることさえしんどくなってきている。
地響きを立てサイ型CAMが近づいてきた。
『おお、戻ったべかちぃこいの』
CAMは四角い鼻面を脅える少年たちに寄せ、フンっと鼻息を吹き散らす。
『で、これからどうするべ?』
「ココカラハ」
「人間デ遊ンデ待ッテレバイイノヨ」
「勝手ニ向コウカラコッチニ来ル」
「テイウカモウ来テルノネ」
1体のドールが跳び上がり、馬車の陰に隠れ浮遊していた式を切り裂いた。
続けてもう1体のドールが近くで回っている観覧車を足掛かりにし、もっと高い位置を飛んでいた妖精を切り裂く――幸い妖精はすっとんで逃げ、羽を少し切られたくらいで終わった。
憎憎しげに舌打ちしたドールはサイゴンの頭に飛び乗り、ぺちぺち叩く。
「ボートシテナイデ、オデカサン! 侵入者ナノヨ。兵隊ニメーレーシナイト!」
『おお、そうだべな。お前達、動くべ!』
マルコは誰かの声を聞いた気がした。
「絶対助け出してやるからな!」
この人数では救出が難しい。そう悟ったハンターたちは偵察を切り上げ一旦退いた。
改めて仲間を集い直してから、救出に赴くために。
「アナタ、イツモウマクハンターヲ倒セナイノヨネ」
「ドウシテソウナノカ分カル?」
「アナタガイツモアウェイデ戦ウカラヨ」
「向コウヲアウェイニ引キ込マナイトダメネー」
「ソーユー場所、作ルノヨ」
「私タチガ、プロデューススルノヨ」
●依頼内容確認
メイム(ka2290)はニケに確認を取った。
「ニケさん、親御さん達は騒がしいけど、今回マルコ君優先でいいんだよね? ついでに把握できれば儲けの種だろうけどさ」
「そうです、マルコさんが優先です。彼の行方を知るために私はあなた達を呼んだのです」
優先順位をはっきりさせることに異を唱えるわけではない。だけどディーナ・フェルミ(ka5843)は今回の依頼を、それだけで終わらせたくなかった。攫われた子供は皆一様に、かけがえのないものだ。
「まずマルコ君を探して、そこに全員いなさそうなら他の攫われた子も捜す、で良いんだよね? 依頼はマルコ君1人分だけど、攫われた子達全員探してあげないとマルコ君も親御さんたちも悲しむんじゃないかなって思うの」
「ほかの生徒達を探すなとは言いません。ですがそれはあくまでもマルコさんの居場所が知れてからにしてください。この依頼において最優先すべきは彼です」
「……分かったの。ではそのようにさせていただくの」
●足跡捜査
ポルトワールの町外れ。数日前崖崩れが起き塞がれたままになっている山間の旧道。
入り乱れた小さい轍と蹄の跡が、そこでぽつんと途切れている。
天竜寺 舞(ka0377)は、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)のもふらと一緒に地面を嗅ぎ回っているゴエモンを見下ろす。
「どうだ、それっぽい匂いどこかに続いてないか?」
ゴエモンともふらは顔を上げた。困ったように鼻を鳴らし尻尾を振る。
ルンルンはどこかの名探偵よろしく、頭をがりがり掻いた。
「歪虚が身代金目的の誘拐をするとは思えないし、一体何が目的で……やっぱり纏めて捕らわれてるのかな? でも、それにしては轍の数が多い様な? 馬車は小型? だから1台に沢山は乗せられない? それとも別の目的が?」
ゴースロンに乗ったメイムは桜妖精に話しかける。ファミリアズアイを発動させて。
「飛んで、あんず」
メイムの目に、周辺の鳥瞰図が映し出される。
山また山、木また木、若葉生え染める季節とあって地表は見透かしやすいのだが、警察の報告文書にあった木馬と馬車の残骸は見当たらない。ため息をつき、手にした本で肩を叩く。
「それが見つかれば楽だと思ったんだけどなー」
カチャは疑わしげに彼女の手元を見る。
「メイムさん、その本なんですか?」
「ん? 今度大々的に刊行しよーかなって思ってる自費出版本第二弾『辺境の奇祭2草本』」
そこでルンルンがくわっと目を見開いた。
「馬車の跡が消え、しかもその残骸も見つからない……ということはそう、犯人たちはここから馬車を抱えて移動したのです! きっとまだ、徒歩で動ける圏内にいるはずなのです!」
舞もその見解には賛成の立場だ。歪虚なら、人間1人抱えて移動するくらい余裕なはず。
「だとすると、そう遠くへはいけないはずだな。朝には捜査も始まっただろうし」
と言って警察から借りた周辺地図を広げる。
だが見る限り、周辺に11人も隠せそうな場所などはなし。複数の轍が同じところで途切れているのだ。ここからまた改めてバラバラに隠すなど、二度手間なことはしないと思うのだが……。
(人がいない山小屋とか利用してるのかも)
試しに魔箒を使い上空からの偵察を試みる。
しかしそういう建造物は見当たらない。
早くも行き詰まりかけたところへ、リュー・グランフェスト(ka2419)が戻ってきた。
彼は、この界隈周辺で食料品店の聞きこみをしていたのである。11人も攫ったのなら、食料が入り用になるはずだと踏んで。
「お帰りリューさん、何か情報つかめた?」
と聞くメイム。
リューは首を振る。
「いや、買い付けとかは全然なかった。ただ」
「ただ?」
「駄菓子屋で万引きがあったとか」
●被害者現状
もう昼になっているはずだのに、あたりは闇の中。
開いたままの窓から引っ切りなし風が吹き込む。
ドールたちが御者台ではしゃぐ。その声が湿布を貼ったきりの痛む頭にワンワン響く。
「私ノ馬車ガ一番ヨ!」
「イーエ、私ヨ!」
「サイゴンノオデカサン、チャント準備出来テルカシラ!」
恐ろしい速さで可愛い馬車は駆け続ける。
マルコは力の籠もらない手でポケットを探り、ハンカチを引き出した。
●証言
「治癒してくださるんですか? それはもう是非お願い致します」
意識不明者の治癒を申し出たロニ・カルディス(ka0551)とディーナは、早速医者から病室へ案内された。
並んだベッドに寝ているのは、ミイラのごとき包帯の塊。顔もほとんど見えやしない。
「全身複雑骨折でして。何か棒状のものでめった打ちされたようですな」
「……来てよかったの。話は聞けないかもしれないけど、怪我したまま放置するのも嫌だなって思ったの」
まずディーナがフルリカバリーを施す。
続いてロニもフルリカバリーを施す。
包帯の下で傷口が閉じて行く。体の内側で砕けていた骨が接がれ、再生する。
ディーナは比較的包帯の少ない人を軽くゆすってみた。
その人はうっすら目を開け、次いで全身をこわばらせる。
「うあ、あ」
ディーナはベッドから飛び出そうとする体を押さえ、サルヴェイションをかけた。
「大丈夫、大丈夫なの、ここは病院なの、あなたは助かったの」
次いでポーションを差し出す。
それからロニと一緒に改めて、襲撃を受けた際のことを聞き出す。
そして以下のことを仲間たちに伝える。
1:襲ってきたのは以前学院を騒がしたビスクドールと全く同じもの。
2:ビスクドールは1体ではなかった。少なくとも5体以上はいたような気がする。
3:それ以上のことは分からない。何を聞くひまも無く意識を失ってしまったから。
●推理
なんでわざわざ金持ちの子ばかりが集うという学校の寮を狙ったのか。歪虚が営利誘拐なんてするはずもないのに。一体何が目的か。
このカーミン・S・フィールズ(ka1559)の疑問は、警察の調査結果を追っていくうちに氷解した。
すでに一度歪虚がらみの事件が起きているのだ。外でもないこの学院の、この寮で。
(ただの怨恨、仕返しなら可愛いものね。ただ、ピグマリオはしつこいから)
加えて陰険だ。
そんなことを考えていた時ロニが、重体者回復について連絡してきた。彼らの証言内容も。
『――ということだ。とりあえず俺はこれから、現地に赴こうと思う』
「そう。分かった。私も今から現地に行くわ」
カーミンは足を速める。頭の中で情報を整理し、まとめながら。
(これは-―かつて強化人間が起こした離反や、同盟区域であった陶器を使った暗示とは質が違う事件。でも危険なことに変わりはない――リューの情報では、食料も集めていないらしいし――生徒達を生かしておく気があるの?)
最悪の事態を思い浮かべつつも彼女は、悲観しない。今はただ行動あるのみだと割り切る。
「もう、そんなことを許すわけにはいかないもの」
そこに再び連絡が入ってきた。星野 ハナ(ka5852)からだ。
『当たるも八卦当たらぬも八卦ですけどぉ、まず8人分の子供の居る可能性がある地図を作りましたぁ。集まって軽食取りながらみんなで集めた情報の摺合せをしませんかぁ。少なくとも最初に占ったマルコ君の分はそこそこ精度が高いと思いますぅ』
●全体会議
ポルトワール近郊の地図の模写、11枚。
地図の1枚1枚に、攫われた生徒の名が掻いてある。
そのうち8枚の地図に、違う色の円が描かれている。
「その円の中に、攫われた生徒がいる可能性が高いです」
とルンルンは言う。
誰もが変だなと思った。円が一つの線上にあるのだ。そして占った順に、ポルトワールから遠ざかっているように見える。
メイムが顎に手をやる。
「監禁する場所があるとして、わざわざそれを一直線上に作る?」
舞も首をひねる。
「メイムとあたしがこの最初の円の近くを偵察したけど……何も見つからなかったな」
そこでカーミンが口を開いた。
「もしかして、土の下に何かが作ってあるってことはない? ほら、ラルヴァの腕やマテリアルが地中を移動・吸収された例もあることだし」
なるほど。言われてみればそうかもしれない、と一同は納得した。
手を打つカチャ。
「そういえば、そもそもラルヴァの本拠地自体地下にあるようなものですよね」
その彼女に、カーミンが言った。
「友人に聞いたんだけど、ジェオルジの近くにはもぐやんという地霊がいるそうね? 協力要請出来ないかしら?」
「う、うーん……まあ、会えればなんとかなるとは思いますが……あまり期待しないでください。最近はあちこち出掛けられてるみたいですから」
この後カチャは、いったん捜査から抜けた。もぐやんの意向を聞いてくるために。
●発見
ハンターたちは、再度轍が潰えた場所に行ってみる。
カーミンの推理を念頭に置き崩れた箇所をよくよく確かめれば、新しく崩れている箇所がある。
ハナは早速マルコの分の地図を広げ、この方角で間違いがないか占ってみた。
出てきた結果は『間違いなし』というもの。
ルンルンはふっふっふと含み笑いを漏らす。
「ルンルン忍法ともふらちゃんの鼻、そして捜査の基本の美脚をもってすれば、歪虚風情の悪巧みなんて全部まるっとお見通し、失礼こかせていただくのです!」
ハンターは掘る。適当に借りてきたシャベルで。犬たちも掘る。たくましき前足で。
ほどなくしてがばっと土壁が崩れた。トンネルと言っていいほどの広い空間が現れる。
奥が――深い。日の光も吸い込まれ途中で消えてしまう。
地面を見れば轍と蹄の跡がくっきり。
ロニは肩の力を緩める。この分ならすぐ人質の居場所を突き止められるだろうと思って。
「足跡を残してくれるとは、ご親切なことで」
灯火の水晶球とスマホの照明を頼りに、穴の中へ入って行く。何かに騎乗出来るものは騎乗して。そうでないものは、そのまま。
ほどなくして、ハナの占いが指し示した場所に到達した。
だが何もないし誰もいない。
ルンルンが生命感知を行ってみたが、これまた何も引っ掛からなかった。
そこで犬たちが急に駆け出す。壁際まで行き、しきりと匂いを嗅ぎ始める。
何事かと思えばくしゃくしゃに丸められたハンカチが落ちていた。
カーミンが拾い上げ、イニシャルと模様を確かめる。
「これは――マルコ・ニッティくんのものね」
ハンカチの表面には血で記した文字が記してあった。かすれているが、何とか読めた。
『11・イキテル』
……轍の跡は延々闇の中へ続いている。
全ての情報を併せて導き出された結論。それは『歪虚たちは人質を連れ、現在進行形で移動し続けている』というもの。
『近辺にアジトがあるのでは』という読みは外れだったのだ。
ロニ、ハナ、ディーナは、魔導ママチャリを全力でこぐ。メイムは馬を走らせる。舞、リュー、ルンルン、カーミンは走る。犬たちが後に続く。何とか馬車に追いつこうと。
●地霊の事情
『むうう、おらは今アメンスィ様に、微力ながら大地のパワーをずんどこどっこい送ってるところだべ。ラルヴァとの戦いのためだべ。だからさっぱり身動きとれんべ。すまんけんど、アドバイスだけでもええべか?』
「あ、はい、もうそれで十分です。何か知っていることがあるなら、教えてくださると助かります」
『うんむ、ここんとこ大きな嫉妬の歪虚がのう、あっちこっち地面の下に穴あけとるべ。そこを小さい歪虚が行き来してるべ。けしからんことだべが、おらたち地の精霊は今この通りの状態で動きがとれんで、対処することが出来ねえべ……ふがいないことで申し訳ねえ……とりあえず地面伝いに聞いたところによると、その大きな歪虚は大地の裂け目に向かう道の途中に、何やらでっかい派手なものをおっ立てたらしいべ』
●発見また発見
メイムは汗を飛び散らせている馬の首を叩き、励ます。
「頑張れ、後少しだから」
ロニ、ハナ、ディーナは自分たち自身が汗だくになって自転車をこぎ続ける。
行く手がうっすら明るくなってくる。
トンネルが尽きた。
そこには、枯れ果てた景色が広がっている。
うねるように起伏した大地の上にあるのは、色あせ枯れた草ばかり。風に乗って吹き付けてくるのは負の気配。
足元は崖と言ってもいいのではないかというくらい急な坂だ。
そこを降り引き続き轍を追っていけば、かなり広い平地があった。
四方を壁で囲まれた何かがある。悪い食品添加物みたいな色合いだ。
「……城?」
呟くリューに、鋭敏視角を持つディーナが言う。
「違うの、お城じゃないの。観覧車が見えるの」
カーミンは鋭敏視角に加え双眼鏡を使用した。
建造物にピントを合わせ、断言する。
「そうね、遊園地的なものってことで間違いなさそうよ。コースターらしいのも見えるし。作りかけみたいだけど」
●かしましドールズ帰還
「私ガイーチバン!」
「私ヨ!」
「イーエ、私!」
きゃらきゃら言いながらドールたちは馬車の扉を開け、生徒達を引きずり出す。。
「サー、降リタ降リタ。目的地ニ着イタノヨ」
皆ぐったりしていた。
それもそのはずだ。何しろ捕まってからこっち、ほとんど飲み食いしていない。口に入ったのはドールがどこからかとってきた菓子とジュースだけだ。
彼女らは人質の健康状態に興味がないらしい。死んでないならそれでいいというスタンスなんだろうな、とマルコは推測した――彼はそろそろ、立っていることさえしんどくなってきている。
地響きを立てサイ型CAMが近づいてきた。
『おお、戻ったべかちぃこいの』
CAMは四角い鼻面を脅える少年たちに寄せ、フンっと鼻息を吹き散らす。
『で、これからどうするべ?』
「ココカラハ」
「人間デ遊ンデ待ッテレバイイノヨ」
「勝手ニ向コウカラコッチニ来ル」
「テイウカモウ来テルノネ」
1体のドールが跳び上がり、馬車の陰に隠れ浮遊していた式を切り裂いた。
続けてもう1体のドールが近くで回っている観覧車を足掛かりにし、もっと高い位置を飛んでいた妖精を切り裂く――幸い妖精はすっとんで逃げ、羽を少し切られたくらいで終わった。
憎憎しげに舌打ちしたドールはサイゴンの頭に飛び乗り、ぺちぺち叩く。
「ボートシテナイデ、オデカサン! 侵入者ナノヨ。兵隊ニメーレーシナイト!」
『おお、そうだべな。お前達、動くべ!』
マルコは誰かの声を聞いた気がした。
「絶対助け出してやるからな!」
この人数では救出が難しい。そう悟ったハンターたちは偵察を切り上げ一旦退いた。
改めて仲間を集い直してから、救出に赴くために。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/23 20:52:12 |
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質問卓 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/03/18 20:40:36 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/03/24 18:40:30 |