ゲスト
(ka0000)
煌々アンダーグラウンド
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/20 19:00
- 完成日
- 2015/01/28 00:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
某所某日某時刻。
冷たい石造りの部屋に、西日が差し込み埃が細雪のようにまばらに照らし出される。
光の先では、首元を光に刺されて煩わしそうに爪で掻くリベルト=アンスリウムがいた。
「コリには温めるのがいいらしいね、神様のせめてもの労いだと思うよ」
「コリの原因を取り除いてくれるのが1番なんだがねぇ、師団長さん」
書類の山の向こうに埋もれている副師団長へ、からかうように声をかけるのは師団長のユウ=クヴァールだ。
彼等は帝国第九師団の執務室にて、ひたすらと書類へペンを走らせているところだった。
「しょうがないよ。僕らの仕事の性質上、どうしても大量の書類との縁は切れないよね。炊き出しや復興支援の場所と目的の策定レポート、実際に使用する消耗品等物資の調達、申請、予算承認、人の手配、結果報告、刃を振るう事だけが護る事じゃないって、これほど気づかされる事はないよ」
ため息をつきながら、文字がビッシリかかれた紙に大きくバツを描き、丁寧に折り畳んでいくユウ。
「どっちが楽って話でもねーけどな……そうじゃなくて、雇えばいいだろ、事務員」
「えー、ただでさえ外に出す予算でいっぱいいっぱいなんだし、それに……」
「それに?」
コツン、とユウが折り畳んでいた紙飛行機が、山なりにリベルトの頭部へと跳んで行き、床へ不時着する。
「二人だけの秘密、いっぱいあるじゃない?」
「気持ちわりー言い方すんな」
人差し指を口に当てて、リベルトの方を見ていたユウだが、リベルトは一瞥もせずに、落ちていた飛行機をくしゃくしゃに丸めてユウへと投げる。
「ま、確かに……師団長と副師団長でやっちまった方が機密も気にしないでいいし……あぶねー事に巻き込まれないでも済むしな」
彼等師団が拠点としている都市、ラオネンは平たくいえば歓楽街、夜と欲望の街だ。
一夜の甘い夢や一攫千金を求めてやってくる者もいて、それらを相手取る組織もいる。
もちろん、師団としても違法行為は認めていない、だが、師団と協力関係を結び夜の街を根城とする組織もいるのだ。
「そうだね。僕達は一部の『事務所』とは仲良くやらせてもらっているけど、そうじゃない所もあるし......」
この街は皮肉にも、そういう者達を帝国内のここに集中させておく、ラオネンという名前の檻としても機能しているのだ。
「さて、んでここに、そんな我々看守様に寄付がきた」
「どこから?」
「『穴熊』だ。大方これで前回の借りをチャラにする魂胆だろう」
『穴熊』とは、師団と協力関係を結んでいるこの街の『事務所』だ。
元々水商売等への人材の斡旋で生計を立てている組織だが、
以前、穴熊の一人が事務所に内密で人身売買を行おうとしたところを、
ハンターの活躍と師団の動きにより未然に防ぐという事があった。
「こいつの予算の使い道はどうする?とりあえず物資補填、に使うには割と桁が多いが」
「そうだね……せっかくだし、地下の開発に使わせてもらおうか」
ラオネンの地下には、夜の街の生活が馴染まずあぶれてしまった者達がひっそりと生活している区域がある。
だが、地下は依然として開発中の区域であり、下手をすれば地上のスラム街と同じぐらいうらさびれている場所がある事も否めなかった。
「そいつぁいいが……問題が二つある」
「聞かせて?」
書類の山を書き分けて、やっと顔をだしたリベルトの顔は、とても濃い目の下のクマをこしらえていた。
「ひとつ。地下には正式に居住している奴らだけでなく、夜の街で失敗した奴らやこの街に仕事を求めてきたがダメだった奴らがたむろってる。こいつらの対応が必要だ」
「そうだね……CAM関係で仕事も増えてるんじゃないかな、正式に師団として仕事の斡旋をしよう。仕事については各『事務所』にも情報提供の依頼をして」
「うし、で、二つめだ。こいつは昨日の実態調査であがってきた報告だが……どうも頑なに出ていこうとしない奴らがいるらしい」
「座り込みとか? 抗議活動なら正式に役所を通してやってほしいなぁ」
「そうじゃねぇ。仕事もねぇ、家もねぇ、金もねぇ、浮浪者同然の奴らが、衣食住付きの仕事をやるっていってんのに動かねーんだ」
黙り込むユウへのそのそと近づき、一枚の紙切れを渡すリベルト。
そこには一人の目を瞑った若い女性の裸の写真と、詳細なプロフィールのようなものが書かれていた。
「リベルトの好きそうな人だね」
「生きてりゃな」
死因、複数箇所の殴打によるショック死。
場所、地下4番区域A水路排水口、容疑者4名逮捕、およそ煌びやかな店に飾られるようなプロフィールとは掛け離れた言葉が、
ユウの目に飛び込んで来ていた。
「捕まえた4人がどうにも挙動不審だったんで体を調べた。出たぜ、薬の反応が」
「……穏やかじゃないね」
もちろんこの街であろうと薬は違法だ。
資料を机に置き、ユウがリベルトに向き直る。
「すぐに問題因子の掃討を。薬に依存して動けない人達がそのままいれば……薬を手に入れるお金の為に、今後何をするかわからない。こんなことが続く前に、根を断ち切ろう」
「うちの部隊で動くか?」
「いや、可及的速やかに行いたいな……流れ者に紛れて、売人を引き寄せよう。だからハンターにお願いした方が怪しまれなくて自然かも知れない。そこから先は、リベルトに任せるよ」
「了解だ。早速ハンターズオフィスいってくるぜ」
「待って」
ばさっ、と翻して羽織った外套の裾を、宙で捕まえてユウが引っ張る。
「……書類終えてからね」
「……可及的速やかとはなんだったんだ?」
地面に落ちた外套、その裏に既にリベルトの姿はなかったのを確認して、
ユウは頬を膨らませた。
冷たい石造りの部屋に、西日が差し込み埃が細雪のようにまばらに照らし出される。
光の先では、首元を光に刺されて煩わしそうに爪で掻くリベルト=アンスリウムがいた。
「コリには温めるのがいいらしいね、神様のせめてもの労いだと思うよ」
「コリの原因を取り除いてくれるのが1番なんだがねぇ、師団長さん」
書類の山の向こうに埋もれている副師団長へ、からかうように声をかけるのは師団長のユウ=クヴァールだ。
彼等は帝国第九師団の執務室にて、ひたすらと書類へペンを走らせているところだった。
「しょうがないよ。僕らの仕事の性質上、どうしても大量の書類との縁は切れないよね。炊き出しや復興支援の場所と目的の策定レポート、実際に使用する消耗品等物資の調達、申請、予算承認、人の手配、結果報告、刃を振るう事だけが護る事じゃないって、これほど気づかされる事はないよ」
ため息をつきながら、文字がビッシリかかれた紙に大きくバツを描き、丁寧に折り畳んでいくユウ。
「どっちが楽って話でもねーけどな……そうじゃなくて、雇えばいいだろ、事務員」
「えー、ただでさえ外に出す予算でいっぱいいっぱいなんだし、それに……」
「それに?」
コツン、とユウが折り畳んでいた紙飛行機が、山なりにリベルトの頭部へと跳んで行き、床へ不時着する。
「二人だけの秘密、いっぱいあるじゃない?」
「気持ちわりー言い方すんな」
人差し指を口に当てて、リベルトの方を見ていたユウだが、リベルトは一瞥もせずに、落ちていた飛行機をくしゃくしゃに丸めてユウへと投げる。
「ま、確かに……師団長と副師団長でやっちまった方が機密も気にしないでいいし……あぶねー事に巻き込まれないでも済むしな」
彼等師団が拠点としている都市、ラオネンは平たくいえば歓楽街、夜と欲望の街だ。
一夜の甘い夢や一攫千金を求めてやってくる者もいて、それらを相手取る組織もいる。
もちろん、師団としても違法行為は認めていない、だが、師団と協力関係を結び夜の街を根城とする組織もいるのだ。
「そうだね。僕達は一部の『事務所』とは仲良くやらせてもらっているけど、そうじゃない所もあるし......」
この街は皮肉にも、そういう者達を帝国内のここに集中させておく、ラオネンという名前の檻としても機能しているのだ。
「さて、んでここに、そんな我々看守様に寄付がきた」
「どこから?」
「『穴熊』だ。大方これで前回の借りをチャラにする魂胆だろう」
『穴熊』とは、師団と協力関係を結んでいるこの街の『事務所』だ。
元々水商売等への人材の斡旋で生計を立てている組織だが、
以前、穴熊の一人が事務所に内密で人身売買を行おうとしたところを、
ハンターの活躍と師団の動きにより未然に防ぐという事があった。
「こいつの予算の使い道はどうする?とりあえず物資補填、に使うには割と桁が多いが」
「そうだね……せっかくだし、地下の開発に使わせてもらおうか」
ラオネンの地下には、夜の街の生活が馴染まずあぶれてしまった者達がひっそりと生活している区域がある。
だが、地下は依然として開発中の区域であり、下手をすれば地上のスラム街と同じぐらいうらさびれている場所がある事も否めなかった。
「そいつぁいいが……問題が二つある」
「聞かせて?」
書類の山を書き分けて、やっと顔をだしたリベルトの顔は、とても濃い目の下のクマをこしらえていた。
「ひとつ。地下には正式に居住している奴らだけでなく、夜の街で失敗した奴らやこの街に仕事を求めてきたがダメだった奴らがたむろってる。こいつらの対応が必要だ」
「そうだね……CAM関係で仕事も増えてるんじゃないかな、正式に師団として仕事の斡旋をしよう。仕事については各『事務所』にも情報提供の依頼をして」
「うし、で、二つめだ。こいつは昨日の実態調査であがってきた報告だが……どうも頑なに出ていこうとしない奴らがいるらしい」
「座り込みとか? 抗議活動なら正式に役所を通してやってほしいなぁ」
「そうじゃねぇ。仕事もねぇ、家もねぇ、金もねぇ、浮浪者同然の奴らが、衣食住付きの仕事をやるっていってんのに動かねーんだ」
黙り込むユウへのそのそと近づき、一枚の紙切れを渡すリベルト。
そこには一人の目を瞑った若い女性の裸の写真と、詳細なプロフィールのようなものが書かれていた。
「リベルトの好きそうな人だね」
「生きてりゃな」
死因、複数箇所の殴打によるショック死。
場所、地下4番区域A水路排水口、容疑者4名逮捕、およそ煌びやかな店に飾られるようなプロフィールとは掛け離れた言葉が、
ユウの目に飛び込んで来ていた。
「捕まえた4人がどうにも挙動不審だったんで体を調べた。出たぜ、薬の反応が」
「……穏やかじゃないね」
もちろんこの街であろうと薬は違法だ。
資料を机に置き、ユウがリベルトに向き直る。
「すぐに問題因子の掃討を。薬に依存して動けない人達がそのままいれば……薬を手に入れるお金の為に、今後何をするかわからない。こんなことが続く前に、根を断ち切ろう」
「うちの部隊で動くか?」
「いや、可及的速やかに行いたいな……流れ者に紛れて、売人を引き寄せよう。だからハンターにお願いした方が怪しまれなくて自然かも知れない。そこから先は、リベルトに任せるよ」
「了解だ。早速ハンターズオフィスいってくるぜ」
「待って」
ばさっ、と翻して羽織った外套の裾を、宙で捕まえてユウが引っ張る。
「……書類終えてからね」
「……可及的速やかとはなんだったんだ?」
地面に落ちた外套、その裏に既にリベルトの姿はなかったのを確認して、
ユウは頬を膨らませた。
リプレイ本文
◆
狭く、くぐもった地下を、一定のリズムで水滴が垂れる音が響く。
懐の中で拳を握り、冷えた指先を掌に感じながら、
トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が光に誘われる羽虫のように、ふらりと明るみへと現れた。
「しかし俺好みの街だな。地上は勿論、地下街も悪くない」
地上の明るみとその地下の荒み具合、
普通にはないプラスにもマイナスにも尖がった感じは、トライフの琴線に触れるようだ。
情報収集で周っていた何件目かのバーで、トライフの目はある女に向いた。
壺のように芸術的な曲線のくびれ、発酵したてのパン生地のようなふっくらとした胸部、
確かに男なら誰でも目と理性を奪われるが、よく見れば、肌は荒れ、少し白すぎる。
隣に座れば、彼の煙草よりもキツい、独特の甘い匂い。
トライフが煙草の為に点けた火を見ても瞳孔の反応は鈍い。
間違いなく、薬物中毒の症状だった。
「私はもう店仕舞いよ。客が多すぎてまだ腰だけサーフィンしてる気分」
「君じゃないよ、君を心地よい気分にしてくれる別の物だ」
「おう兄ちゃん、欲しいのか?」
トライフの後ろからかかる声の主は、丸いサングラスに厳つい体格、暗闇の僅かな明かりが男の頭部に映えていた。
「いや、客ではない。金のアテを探していてな……」
「儲け話に噛みたいと?」
「その辺のチンピラよりは役に立つと思うんだがな」
「そうか……じゃあまずはこの街の事から教えてやらねぇとな」
うんうん、と同情するように頷くワンダ。そして、次の瞬間トライフの脇腹を重い衝撃が襲う。
「最近俺のシマで変なもん売ってるやつがいるみてーだし、いきなり信用するわけにはいかねぇな。この街で生きたきゃ、腕か金だよ」
「金ならない。そもそも男、ハゲ、いきなり蹴り飛ばしてくる奴に払う金は持ち合わせていないな」
パチン、と咄嗟にバタフライナイフを抜いたは良いが、まともにやり合う気は更々ない。一度ここは引いた方が……
だが敵は目の前だけではなかった。
後頭部から腹部まで突き抜けるような重い衝撃、そして、足の力が抜けて膝から崩れ落ちてゆく。
「おい、ボロ雑巾にして外に干しとけ。シマ荒らしの仲間なら見せしめぐらいにはなるだろ」
◆
ぼろぼろにしたローブの裾を引きずって、鬼百合(ka3667)が人の目が多い大衆的な酒場にひょっこり顔を覗かせていた。
「とーちゃんにおつかい頼まれてんでさ。クスリって、どこで買えんですかねぃ?」
「薬屋なら角を右だ」
「んー、とーちゃんのは、気分がよくなるもんでさ」
「そっちかよ……アテはないぜ」
「そうでやすか……たとえば、お酒をごちそうすれば話してくれるような人もいねーですかね?」
「子供が変な気使おうとすんじゃねーよ。確かに最近怪しい奴らが地下に出るらしいが」
「何処の世界にもやはりいるものなのですね、金儲けのやり方としては最悪……」
ちょうど隣に、入って来たばかりのライガ・ミナト(ka2153)が話を聞きに入った。
「そうでやすか。あ、それと、この辺で小道や裏道があったら教えて欲しいですよ」
鬼百合が地図を伸ばす。師団から支給された地図だが、師団の調査に使うものではなく一般的なものだ。
「それならここと……こんなの知ってどうすんだ?」
「かくれんぼに使うんでさ! ありがとーごぜぇやさ!」
乗っていた椅子からぴょんと降りて、てててと外へかけていく鬼百合。
ぺこ、と頭を下げてから、ライガも追うように店を出て行った。
◆
鬼百合は魔導短伝話で情報共有を図ろうとしたが、持っていたのは月護 幸雪(ka3465)と音桐 奏(ka2951)だけだったため、
全体との共有は諦める。
「場所の目星はついた?」
目の前を通り過ぎた2人に声をかけるのは浮浪者……に扮したイスフェリア(ka2088)だった。
彼女もまた、浮浪者相手に取引がありそうな場所を聞いて周っているところで、
彼らと情報を共有し、幾つかの場所に自分も赴く事にした。
入り組んだ場所だと、売人の方が土地勘があるし、逃走経路が少ない奥まった所がいいか、
という考えで動き、幾つかの場所で抜け道が無いか探し、事前に確認しておく。
工事用の小屋を見つけた場合は、尋問の場所として覚えておくことにした。
「やれやれ、腰にくるね。なるべく近場で取引相手を呼んで欲しいものだよ」
イスフェリアの背後から幸雪が現れる。
彼女と同じように、幾つかのポイントで逃げ道を塞いで周っていた。
人が通れるパイプには、その辺に放置された掘削道具や土嚢を積んで、簡単には通れないようにしておく。
次のポイントへ向かうと、そこにはラブリ”アリス”ラブリーハート(ka2915)がピッケルを持って立っていた。
「……追い剥ぎに転職したの?」
「ハートがピッカピカの私がそんなことするはずないじゃないの!」
武器になりそうなものを排除していただけだ。
彼女も綺麗な髪を茶色のかつらで隠し、ぼろぼろにしたフードから影のかかった顔を覗かせている。
「場所は多いし、人に見つかると何してるのか聞かれるし、もう私のハートはボッロボロよ……」
「次はゴミの中に売れるものがないか探してる、とでも言えばいいさ」
「わたしの場合、売りだろう? とか言われて襲われそうになったな……薬じゃなくてね」
「今出てきたら不埒な奴はギッタギタにしてやるわ」
「それは……ハートをかい? それとも体かい……?」
ため息交じりで話すイスフェリアと、気合充分でピッケルを振り回すラブリ。
その横で幸雪は足元にロープを結い始める。
「こんなのに引っかかるかは分からないけど、引っかかったらそれはそれで面白いなぁ」
無邪気なのか嘲笑なのか、判別しがたい口角の上げ方をする幸雪。
次の場所へ移動しようとすると、幸雪の短伝話に通信が入る。
「待って。様子がおかしい、暫く聞いたままにしましょう」
イスフェリアの制止で耳を潜める3人。伝話の向こうから流れてくるのは数人の話し声……
◆
「どれぐらい欲しいんだい?」
人の往来が少ない、建物と建物の間。
奏は不精髭で目つきと姿勢の悪い男と対峙していた。
ポケットの中の手は、仲間へ状況を知らせる為の短伝話のスイッチを入れ、マイクの部分を押さえて。
「あの、もう少し安くなりませんか……」
奏に隠れるように顔を覗かせて言うは水城もなか(ka3532)
おずおずと、別に気弱な訳ではない。目的は、相手を凄ませることによる覚醒者の把握だ。
「おいおい……初回のお客さんだから、好意で安くしてんだぜ?」
嘘だ。初めに安くしておくのは、依存性が高いからこそ入口のハードルを低くしておくのだ。
「別にいいさ。お前らじゃなくても買い手はいるんだぜ?」
「わかりました……お金ならちゃんと払いますから、取引させてくれませんか」
もなかのカマかけも潮時と判断し、結局覚醒者の判断は出来なかったが奏が本題を切り出した。
懐から薄汚れた包み紙を取り出す売人。
「待ってください。先ほどそこのターボラという酒場で、師団の者らしき人を見かけた。見られるとやっかいだから、ここから15分程西にいった68番水路の入口でやりとりしないか?」
奏のわざとらしい位置情報の説明。短伝話越しに届いていれば良いが。
一行がたどり着いた68番水路近く。
もともともなかの提案で中央から離れた場所での接触を図っていたが、
辺りを見るに、乱雑な様子はない。味方の手が入っているのだろうか。
薬を出そうと懐に視線を移した男の額に、ごりっと堅く冷たいものがあたる。
「取引の内容は変更です。私が得るのは情報、あなた方には法の鎖を提供しましょう」
「なろぉ……!!」
奏を囲むように2人の男がそれぞれ獲物を取り出す。
もなかもローブを脱ぎ捨て、両の手に銃を構えて残る2人の男へと向ける。
「顔を見られたからにはしょうがねぇ、やっちまえ!」
叫んだ男の手が光ると、奏の周りに風が吹き込み、銃口が少しだけ逸れる。
パスッ、と苦し紛れに放った弾丸は、男の頭部を大きく逸れた。
「ウィンドガスト……!」
奏達の攻防に視線を移した隙に、もなかとの距離を『一瞬』で詰める男、
もなかの耳を掠る刃、そのまま腕をつかみ、ぎりぎりと、宙で腕相撲をするようにナイフが頭部に近づいたり、逸れたりする。
「こっちも疾影士です!」
「そして俺は闘狩人ってね」
もなかが捉えていたもう1人の男が、手斧を思いきり振りかぶって襲い掛かる。
かろうじてマルチステップを発動。目の前の疾影士を引きこむように回転して、
体制を崩した疾影士の背中を転がるように回避。
「厳しいですね……こちらの味方は?」
「まだ見えません……しばらくもちこたえましょう」
威嚇射撃で魔術師から距離を取り、背中からもなかの元へ駆けつける奏。
もなかも回転弾倉を弾きだし、薬莢を地面に落としながら左手のオートマチックで近づこうとする敵を牽制する。
実際には、味方は来ていない訳ではなかった。
短伝話を持っていなかったライガは浮浪者に情報提供を呼び掛けていた事で鬼百合と共に場所を知る事が出来た。
が、奏ともなか以外は総じて『逃走阻止』か『周辺の見張り』に努めるスタンスだった為、初動が遅れているのだ。
2人だけでは攻勢に回れず、戦闘にも時間がかかっていく。
ナイフを取り出して接近する疾影士の刃を、奏もナイフで受け止める。
そのまま右手の銃は壁から突き出たパイプへ。
跳弾がもなかに斧を振り上げた男の足の甲を砕き、もなかはそのまま横へ飛ぶ。地面を転がりながら、起きざまに引き金を数回。
銃を撃ち尽くしたもなかへ、疾影士が奏の横をすり抜け凶刃が迫る。
男の刃が、とっさに頭部をかばったもなかの腕へと突き刺さる。
だが、もなかの体は淡い光に包まれていた。
「これで安心、あなたのハートはキッラキラですわ!」
逃走阻止要員として張っていたラブリが、急ぎもなかへプロテクションをかけたのだった。
目標を変えてラブリへ迫る男の足は、トランプのように振り投げられたラブリの手裏剣で膝から崩れ落ちてゆく。
急ぎ炎の矢を作り出す魔術師の背後からは、隠れていたライガが現れて日本刀を振り下ろす。
腿の筋繊維を断ち切る刃に苦悶の声をあげ、魔術師の詠唱は途切れた。
「殺しはしませんよ、聞きたいことが沢山ありますので、まあ死んだほうが楽かもしれませんけど」
物腰丁寧な印象ではあったが、ライガの丁寧な言葉遣いには、
どこか苛立った印象があった。
敵の疾影士が、口からは血を吐き、涙を零しながら、痛みをこらえて瞬脚を行う。
だが、通路に飛び込もうとしたその時、足を起点に頭から地面に倒れ込んでしまった。
「おいおい……俺は《役立たず》だぜ……? 出張猫の手拝借サービス、高くつくぜ……」
同じく傷だらけ、息も絶え絶えの地面に這いつくばっていたトライフが、疾影士の足を掴んでいた。
「だってさ。だから、こっから先には行かせられないな」
これ以上逃がすまいと、幸雪が駆け付けて倒れた疾影士の前に立ちはだかる。
その後ろにはもちろんロープ罠があるのだが、最早使う事はないだろう。
◆
縛りあげる瞬間、闘狩人が鬼百合へ噛み付きにかかったが、
鬼百合の覚醒により、本物のように蠢いた腕の目玉模様と至近距離で目が合い、顎の力が抜ける。
「目ぇがいっぱいあんのが『どどめき』っつー鬼でしてねぇ……逃がしゃしませんぜ、おにーさん」
血は腕の目を辿り、まるで涙を流すように地面に落ちて、その腕でぱたん、と簡素な扉を閉じた。
「一番最初に本当のことを話した人は、逃がしてあげる」
脂汗を垂らした男達は、イスフェリアの涼しい声にすがるように顔をあげる
「どこを撃てばすぐに死なないのかは心得ています。私の質問に答えない場合は一発撃ちます。全員が命を落とす前に……」
そして、微笑を浮かべてスライドを動かし、薬室へ弾を滑らせる奏の声に冷や汗を垂らす。
「待て! 言う! 俺達のバックは【雛罌粟】って事務所だ!」
「随分とあっさりですなぁ……おにーさん、嘘はいけねぇでさ。祟られますぜ?」
鬼百合はどこか哀しそうな顔でぼそっと伝える……子供の様相でする顔では、とてもない。
「嘘じゃねぇよ……元々俺達も落ちぶれ組で、でも逃げる根気すらなかった。立ち向かう為に、何かしら必要だった。それが、俺達には薬だった。必要悪なんだと思ったよ、丸裸で悲痛な現実に立ち向かえる奴なんて早々いねぇ……元に戻れるなら、汚れたってなんだっていいってな……」
男の一人がヒビの入ったグラスの水のように、少しずつ言葉を零していく。
「だろうと、人の弱さに浸けこんで、更に薬漬けして金儲けするような糞野郎どもは何が何でもぶっ潰す……!!」
ライガが声を荒げて掴みかかろうとする横から、
すっと幸雪が割り込み、男に平手打ちを放つ。
乾いた音と突然の行動に、売人も、ハンターも、目を奪われた。
「本当なら手討ちにしたいところだが、上はそれを望んでいないから……出来れば、改心して欲しいものだな」
微かな溜息と共に、幸雪が売人達を見下ろす。
外の見回りから戻ってきたもなかが他に仲間らしき者はいない事を告げる。
イスフェリアのパルムと犬も見張りをしていたが怪しい者を捉えなかった。
適当な事を言って話を引き延ばしている訳ではないとわかると、
ハンター達は売人の言葉通りの事を、師団へ報告した。
◆
「よう雛罌粟さん、儲かってるかい?」
「あ、あんたか……カジノ浸りはもう終わりか?」
「どうにも俺はダイスの女神のタイプじゃないらしくてな……」
「それで、わざわざ急に何の御用で? こちとら急ぎでね」
「なに……ちょっと花が見たくなったのさ」
「おい! 何を……!!」
「おやおや、旅行鞄に詰めるにしては、ちょいと物騒な粉だな」
「くそ、あんたの仕業か……何が欲しい、金か? 金なら……」
「いや……言っただろう?『花を見に来たんだ』」
白い粉の入った男と対峙する、雛罌粟の事務所長が訝しんだ顔をする。
窓から差し込む月の光は影に隠れ、数秒の後、開いた窓から差し込んだ光には、
事務所長の苦悶の顔が照らし出され、胸元には小さい一輪咲きのように血が広がっていた。
「なんとか間に合いましたな……にしても、相も変わらずお見事で」
「相変わりたいと思うには、塗れた血が既に固まっちまったよ」
「残党はどうしますかね?」
「全員捕えて聴取だ。そこは『師団で動けば』いいだろう」
「了解しました、ところで……」
「カードやスロットの席に変えても無駄だぞ。どうせお前はギャンブル運ないからな」
「あんたに言われたかないですぜ……リベルトさん」
帝国第九師団副師団長―――兼、第九師団暗部代表、リベルト。
彼の顔を照らした机の上の明かりは、命の灯のように揺らめいて消されてしまった。
狭く、くぐもった地下を、一定のリズムで水滴が垂れる音が響く。
懐の中で拳を握り、冷えた指先を掌に感じながら、
トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が光に誘われる羽虫のように、ふらりと明るみへと現れた。
「しかし俺好みの街だな。地上は勿論、地下街も悪くない」
地上の明るみとその地下の荒み具合、
普通にはないプラスにもマイナスにも尖がった感じは、トライフの琴線に触れるようだ。
情報収集で周っていた何件目かのバーで、トライフの目はある女に向いた。
壺のように芸術的な曲線のくびれ、発酵したてのパン生地のようなふっくらとした胸部、
確かに男なら誰でも目と理性を奪われるが、よく見れば、肌は荒れ、少し白すぎる。
隣に座れば、彼の煙草よりもキツい、独特の甘い匂い。
トライフが煙草の為に点けた火を見ても瞳孔の反応は鈍い。
間違いなく、薬物中毒の症状だった。
「私はもう店仕舞いよ。客が多すぎてまだ腰だけサーフィンしてる気分」
「君じゃないよ、君を心地よい気分にしてくれる別の物だ」
「おう兄ちゃん、欲しいのか?」
トライフの後ろからかかる声の主は、丸いサングラスに厳つい体格、暗闇の僅かな明かりが男の頭部に映えていた。
「いや、客ではない。金のアテを探していてな……」
「儲け話に噛みたいと?」
「その辺のチンピラよりは役に立つと思うんだがな」
「そうか……じゃあまずはこの街の事から教えてやらねぇとな」
うんうん、と同情するように頷くワンダ。そして、次の瞬間トライフの脇腹を重い衝撃が襲う。
「最近俺のシマで変なもん売ってるやつがいるみてーだし、いきなり信用するわけにはいかねぇな。この街で生きたきゃ、腕か金だよ」
「金ならない。そもそも男、ハゲ、いきなり蹴り飛ばしてくる奴に払う金は持ち合わせていないな」
パチン、と咄嗟にバタフライナイフを抜いたは良いが、まともにやり合う気は更々ない。一度ここは引いた方が……
だが敵は目の前だけではなかった。
後頭部から腹部まで突き抜けるような重い衝撃、そして、足の力が抜けて膝から崩れ落ちてゆく。
「おい、ボロ雑巾にして外に干しとけ。シマ荒らしの仲間なら見せしめぐらいにはなるだろ」
◆
ぼろぼろにしたローブの裾を引きずって、鬼百合(ka3667)が人の目が多い大衆的な酒場にひょっこり顔を覗かせていた。
「とーちゃんにおつかい頼まれてんでさ。クスリって、どこで買えんですかねぃ?」
「薬屋なら角を右だ」
「んー、とーちゃんのは、気分がよくなるもんでさ」
「そっちかよ……アテはないぜ」
「そうでやすか……たとえば、お酒をごちそうすれば話してくれるような人もいねーですかね?」
「子供が変な気使おうとすんじゃねーよ。確かに最近怪しい奴らが地下に出るらしいが」
「何処の世界にもやはりいるものなのですね、金儲けのやり方としては最悪……」
ちょうど隣に、入って来たばかりのライガ・ミナト(ka2153)が話を聞きに入った。
「そうでやすか。あ、それと、この辺で小道や裏道があったら教えて欲しいですよ」
鬼百合が地図を伸ばす。師団から支給された地図だが、師団の調査に使うものではなく一般的なものだ。
「それならここと……こんなの知ってどうすんだ?」
「かくれんぼに使うんでさ! ありがとーごぜぇやさ!」
乗っていた椅子からぴょんと降りて、てててと外へかけていく鬼百合。
ぺこ、と頭を下げてから、ライガも追うように店を出て行った。
◆
鬼百合は魔導短伝話で情報共有を図ろうとしたが、持っていたのは月護 幸雪(ka3465)と音桐 奏(ka2951)だけだったため、
全体との共有は諦める。
「場所の目星はついた?」
目の前を通り過ぎた2人に声をかけるのは浮浪者……に扮したイスフェリア(ka2088)だった。
彼女もまた、浮浪者相手に取引がありそうな場所を聞いて周っているところで、
彼らと情報を共有し、幾つかの場所に自分も赴く事にした。
入り組んだ場所だと、売人の方が土地勘があるし、逃走経路が少ない奥まった所がいいか、
という考えで動き、幾つかの場所で抜け道が無いか探し、事前に確認しておく。
工事用の小屋を見つけた場合は、尋問の場所として覚えておくことにした。
「やれやれ、腰にくるね。なるべく近場で取引相手を呼んで欲しいものだよ」
イスフェリアの背後から幸雪が現れる。
彼女と同じように、幾つかのポイントで逃げ道を塞いで周っていた。
人が通れるパイプには、その辺に放置された掘削道具や土嚢を積んで、簡単には通れないようにしておく。
次のポイントへ向かうと、そこにはラブリ”アリス”ラブリーハート(ka2915)がピッケルを持って立っていた。
「……追い剥ぎに転職したの?」
「ハートがピッカピカの私がそんなことするはずないじゃないの!」
武器になりそうなものを排除していただけだ。
彼女も綺麗な髪を茶色のかつらで隠し、ぼろぼろにしたフードから影のかかった顔を覗かせている。
「場所は多いし、人に見つかると何してるのか聞かれるし、もう私のハートはボッロボロよ……」
「次はゴミの中に売れるものがないか探してる、とでも言えばいいさ」
「わたしの場合、売りだろう? とか言われて襲われそうになったな……薬じゃなくてね」
「今出てきたら不埒な奴はギッタギタにしてやるわ」
「それは……ハートをかい? それとも体かい……?」
ため息交じりで話すイスフェリアと、気合充分でピッケルを振り回すラブリ。
その横で幸雪は足元にロープを結い始める。
「こんなのに引っかかるかは分からないけど、引っかかったらそれはそれで面白いなぁ」
無邪気なのか嘲笑なのか、判別しがたい口角の上げ方をする幸雪。
次の場所へ移動しようとすると、幸雪の短伝話に通信が入る。
「待って。様子がおかしい、暫く聞いたままにしましょう」
イスフェリアの制止で耳を潜める3人。伝話の向こうから流れてくるのは数人の話し声……
◆
「どれぐらい欲しいんだい?」
人の往来が少ない、建物と建物の間。
奏は不精髭で目つきと姿勢の悪い男と対峙していた。
ポケットの中の手は、仲間へ状況を知らせる為の短伝話のスイッチを入れ、マイクの部分を押さえて。
「あの、もう少し安くなりませんか……」
奏に隠れるように顔を覗かせて言うは水城もなか(ka3532)
おずおずと、別に気弱な訳ではない。目的は、相手を凄ませることによる覚醒者の把握だ。
「おいおい……初回のお客さんだから、好意で安くしてんだぜ?」
嘘だ。初めに安くしておくのは、依存性が高いからこそ入口のハードルを低くしておくのだ。
「別にいいさ。お前らじゃなくても買い手はいるんだぜ?」
「わかりました……お金ならちゃんと払いますから、取引させてくれませんか」
もなかのカマかけも潮時と判断し、結局覚醒者の判断は出来なかったが奏が本題を切り出した。
懐から薄汚れた包み紙を取り出す売人。
「待ってください。先ほどそこのターボラという酒場で、師団の者らしき人を見かけた。見られるとやっかいだから、ここから15分程西にいった68番水路の入口でやりとりしないか?」
奏のわざとらしい位置情報の説明。短伝話越しに届いていれば良いが。
一行がたどり着いた68番水路近く。
もともともなかの提案で中央から離れた場所での接触を図っていたが、
辺りを見るに、乱雑な様子はない。味方の手が入っているのだろうか。
薬を出そうと懐に視線を移した男の額に、ごりっと堅く冷たいものがあたる。
「取引の内容は変更です。私が得るのは情報、あなた方には法の鎖を提供しましょう」
「なろぉ……!!」
奏を囲むように2人の男がそれぞれ獲物を取り出す。
もなかもローブを脱ぎ捨て、両の手に銃を構えて残る2人の男へと向ける。
「顔を見られたからにはしょうがねぇ、やっちまえ!」
叫んだ男の手が光ると、奏の周りに風が吹き込み、銃口が少しだけ逸れる。
パスッ、と苦し紛れに放った弾丸は、男の頭部を大きく逸れた。
「ウィンドガスト……!」
奏達の攻防に視線を移した隙に、もなかとの距離を『一瞬』で詰める男、
もなかの耳を掠る刃、そのまま腕をつかみ、ぎりぎりと、宙で腕相撲をするようにナイフが頭部に近づいたり、逸れたりする。
「こっちも疾影士です!」
「そして俺は闘狩人ってね」
もなかが捉えていたもう1人の男が、手斧を思いきり振りかぶって襲い掛かる。
かろうじてマルチステップを発動。目の前の疾影士を引きこむように回転して、
体制を崩した疾影士の背中を転がるように回避。
「厳しいですね……こちらの味方は?」
「まだ見えません……しばらくもちこたえましょう」
威嚇射撃で魔術師から距離を取り、背中からもなかの元へ駆けつける奏。
もなかも回転弾倉を弾きだし、薬莢を地面に落としながら左手のオートマチックで近づこうとする敵を牽制する。
実際には、味方は来ていない訳ではなかった。
短伝話を持っていなかったライガは浮浪者に情報提供を呼び掛けていた事で鬼百合と共に場所を知る事が出来た。
が、奏ともなか以外は総じて『逃走阻止』か『周辺の見張り』に努めるスタンスだった為、初動が遅れているのだ。
2人だけでは攻勢に回れず、戦闘にも時間がかかっていく。
ナイフを取り出して接近する疾影士の刃を、奏もナイフで受け止める。
そのまま右手の銃は壁から突き出たパイプへ。
跳弾がもなかに斧を振り上げた男の足の甲を砕き、もなかはそのまま横へ飛ぶ。地面を転がりながら、起きざまに引き金を数回。
銃を撃ち尽くしたもなかへ、疾影士が奏の横をすり抜け凶刃が迫る。
男の刃が、とっさに頭部をかばったもなかの腕へと突き刺さる。
だが、もなかの体は淡い光に包まれていた。
「これで安心、あなたのハートはキッラキラですわ!」
逃走阻止要員として張っていたラブリが、急ぎもなかへプロテクションをかけたのだった。
目標を変えてラブリへ迫る男の足は、トランプのように振り投げられたラブリの手裏剣で膝から崩れ落ちてゆく。
急ぎ炎の矢を作り出す魔術師の背後からは、隠れていたライガが現れて日本刀を振り下ろす。
腿の筋繊維を断ち切る刃に苦悶の声をあげ、魔術師の詠唱は途切れた。
「殺しはしませんよ、聞きたいことが沢山ありますので、まあ死んだほうが楽かもしれませんけど」
物腰丁寧な印象ではあったが、ライガの丁寧な言葉遣いには、
どこか苛立った印象があった。
敵の疾影士が、口からは血を吐き、涙を零しながら、痛みをこらえて瞬脚を行う。
だが、通路に飛び込もうとしたその時、足を起点に頭から地面に倒れ込んでしまった。
「おいおい……俺は《役立たず》だぜ……? 出張猫の手拝借サービス、高くつくぜ……」
同じく傷だらけ、息も絶え絶えの地面に這いつくばっていたトライフが、疾影士の足を掴んでいた。
「だってさ。だから、こっから先には行かせられないな」
これ以上逃がすまいと、幸雪が駆け付けて倒れた疾影士の前に立ちはだかる。
その後ろにはもちろんロープ罠があるのだが、最早使う事はないだろう。
◆
縛りあげる瞬間、闘狩人が鬼百合へ噛み付きにかかったが、
鬼百合の覚醒により、本物のように蠢いた腕の目玉模様と至近距離で目が合い、顎の力が抜ける。
「目ぇがいっぱいあんのが『どどめき』っつー鬼でしてねぇ……逃がしゃしませんぜ、おにーさん」
血は腕の目を辿り、まるで涙を流すように地面に落ちて、その腕でぱたん、と簡素な扉を閉じた。
「一番最初に本当のことを話した人は、逃がしてあげる」
脂汗を垂らした男達は、イスフェリアの涼しい声にすがるように顔をあげる
「どこを撃てばすぐに死なないのかは心得ています。私の質問に答えない場合は一発撃ちます。全員が命を落とす前に……」
そして、微笑を浮かべてスライドを動かし、薬室へ弾を滑らせる奏の声に冷や汗を垂らす。
「待て! 言う! 俺達のバックは【雛罌粟】って事務所だ!」
「随分とあっさりですなぁ……おにーさん、嘘はいけねぇでさ。祟られますぜ?」
鬼百合はどこか哀しそうな顔でぼそっと伝える……子供の様相でする顔では、とてもない。
「嘘じゃねぇよ……元々俺達も落ちぶれ組で、でも逃げる根気すらなかった。立ち向かう為に、何かしら必要だった。それが、俺達には薬だった。必要悪なんだと思ったよ、丸裸で悲痛な現実に立ち向かえる奴なんて早々いねぇ……元に戻れるなら、汚れたってなんだっていいってな……」
男の一人がヒビの入ったグラスの水のように、少しずつ言葉を零していく。
「だろうと、人の弱さに浸けこんで、更に薬漬けして金儲けするような糞野郎どもは何が何でもぶっ潰す……!!」
ライガが声を荒げて掴みかかろうとする横から、
すっと幸雪が割り込み、男に平手打ちを放つ。
乾いた音と突然の行動に、売人も、ハンターも、目を奪われた。
「本当なら手討ちにしたいところだが、上はそれを望んでいないから……出来れば、改心して欲しいものだな」
微かな溜息と共に、幸雪が売人達を見下ろす。
外の見回りから戻ってきたもなかが他に仲間らしき者はいない事を告げる。
イスフェリアのパルムと犬も見張りをしていたが怪しい者を捉えなかった。
適当な事を言って話を引き延ばしている訳ではないとわかると、
ハンター達は売人の言葉通りの事を、師団へ報告した。
◆
「よう雛罌粟さん、儲かってるかい?」
「あ、あんたか……カジノ浸りはもう終わりか?」
「どうにも俺はダイスの女神のタイプじゃないらしくてな……」
「それで、わざわざ急に何の御用で? こちとら急ぎでね」
「なに……ちょっと花が見たくなったのさ」
「おい! 何を……!!」
「おやおや、旅行鞄に詰めるにしては、ちょいと物騒な粉だな」
「くそ、あんたの仕業か……何が欲しい、金か? 金なら……」
「いや……言っただろう?『花を見に来たんだ』」
白い粉の入った男と対峙する、雛罌粟の事務所長が訝しんだ顔をする。
窓から差し込む月の光は影に隠れ、数秒の後、開いた窓から差し込んだ光には、
事務所長の苦悶の顔が照らし出され、胸元には小さい一輪咲きのように血が広がっていた。
「なんとか間に合いましたな……にしても、相も変わらずお見事で」
「相変わりたいと思うには、塗れた血が既に固まっちまったよ」
「残党はどうしますかね?」
「全員捕えて聴取だ。そこは『師団で動けば』いいだろう」
「了解しました、ところで……」
「カードやスロットの席に変えても無駄だぞ。どうせお前はギャンブル運ないからな」
「あんたに言われたかないですぜ……リベルトさん」
帝国第九師団副師団長―――兼、第九師団暗部代表、リベルト。
彼の顔を照らした机の上の明かりは、命の灯のように揺らめいて消されてしまった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 6人 |
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質疑応答場所 音桐 奏(ka2951) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/19 20:32:03 |
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作戦相談所 音桐 奏(ka2951) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/01/20 18:48:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/16 11:14:10 |