ゲスト
(ka0000)
【血断】私は最先端オートマトンっ!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/23 09:00
- 完成日
- 2019/03/29 08:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
夢うつつが3日続いたとき、目覚めを途中で邪魔されているのに気付いた。
それから1週間のことはよく覚えている。
どんな文句を言ってやろうか、どんな人間がパートナーになるのか上機嫌で考えていた。
次の1ヶ月は最悪だった。
怒りと憎しみが抑えきれず、自分が歪虚になってしまう気すらした。
次の1年は思い出したくない。
目覚めを妨げられたまま朽ち果てるのでは無いかと、無駄に強固に出来た己を呪ったりもした。
次の10年は途切れ途切れにしか覚えていない。
開放されなくても、新たな刺激を与えてくれるなら喜んで奴隷になるつもりだった。
次の100年、あるいは1000年かそれ以上は時間の感覚がない。
何故か回線が繋がっていた、図書館のサーバを見つけた。
途中から更新されなくなったのに気づかないほど夢中になって、英知に耽溺し娯楽を賞味していた。
だから、真に目覚めて五感を得たときは天国から地獄に放り出された気分だった。
●トマーゾの困惑
エバーグリーンでの回収作業が進行している。
最近では神仏呼ばわりされることすらある男のもとにも、当然のように報告書が届く。
驚くべき速さで目を通してから作業に戻ろうとして、微かな違和感に気付き1枚の報告書をディスプレイに再表示させる。
そこそこの能力と飛び抜けた畜生さの研究チームがいた場所だ。
当然だが全員死んでいる。
研究成果どころか、メモ1枚も残っていないはずだが……。
「気のせいか」
研究所跡近くを通過したハンターによるレポートだ。
違和感ともいえぬ微かなものだが、直感が囁いている。
キーを数回叩く。
緊急調査の必要なし。時間が余っているなら調査して欲しい。手当も少量ならつける。
そう指示を出した直後にこの件は脳裏から消える。
解決すべき課題は無数にあり、些事に意識を向けるのはこの程度で限界だった。
●最先端オートマトン
「ビームっぽいソードッ!!」
全身を使って大剣を振り回す。
実体剣の延長線上にマテリアルの刃が伸び、狂気の鉄クラゲVOIDが焼かれ砕かれ風化した道路に転がる。
「目覚めたらポストアポカリプスなんてっ、何がどうなってんのよっ」
青に近い緑の髪が正面からの合成風で揺れる。
薄いドレスアーマーにレーザーが着弾。
焼かれた箇所がほどけて消えることで健康的な白い肌への被害を軽微にとどめる。
「どけどけどけーっ、私様のお通りだいっ」
剣を振るのが面倒臭くなったので跳躍し踵を揃える。
異様な強度の金属が中型に近い狂気にめり込み、音を伴わない悲鳴をあげさせる。
「ふぅ……痛っ」
着地失敗。
道路に打ち付けた尻を撫でながら後ろへ跳んで追撃を回避する。
「最新最強オートマトンをなめるなぁっ!」
片手で大剣を1回転。
左右に両断された小型鉄クラゲから爆発が発生。
ドレスアーマーを薄ら汚して艶のある髪にパーマをかけた。
「これは新作ドラマではありません」
遠距離から撮られた粗い動画を見せながら説明するのは、ハンターズソサエティーのオフィス職員。
説明を受けているのはあなたを含むハンター達だ。
「ドラマならもっと華のある方か強い方が起用されます」
画面のオートマトンは弱くは無いが中堅ハンターレベルですらない。
一線級のオートマトンハンターなら100戦して99勝出来る程度の相手だ。
「すみません。話が横道に逸れましたね」
この職員もオートマトンらしい。
そして、映像の少女よりも強い気配を感じる。
邪神を始めとする歪虚に追い詰められ、複数世界の多種族が生き残りに全力を出す現在、鍛錬と実戦の密度も武装の強化速度も以前とは別次元だ。
「問題のオートマトンは戦力的には大したことがありません」
能力的には駆け出し霊闘士の少し上程度だ。
武装も派手なだけでショップの未強化品と同程度。
歪虚相手に事実上の総力戦を行っている現在、彼女1人を救うために大戦力を派遣することはできない。
ユニットなしの条件で最大8人を送り込むのが精一杯だ。
「しかし歪虚相手に戦う同胞です。無傷で連れ帰って欲しいとは言いませんし、拒否されても連れて帰れとも言いません」
クリムゾンウェストの現状を知らせた上で、どうするか選ばせてあげて欲しい。
そう言って、オートマトンの職員は深く頭を下げるのだった。
●機能停止まで後少し
記憶にある地図を元に、瓦礫を掘って金庫扉の前へ辿り着く。
気合いを入れて剣のビームをぶっ放すと、長い時に耐えた装甲が焼け落ち埃っぽい空気か吹き出てきた。
中へ踏み込む。
エネルギー切れの剣を捨て、棚から同型の剣をとる。
胸と腰しか隠していないアーマーを脱ぎ捨て同型のものを探す。残念ながら胸がぶかぶかの物しか見つからない。
着替えようとしたのに手が動かなくなる。
滑り落ちたドレスの華やかな色遣いと、無機質な床の対比が心を削ってくる。
分かってはいるのだ。
人類も精霊も歪虚に負けた。
今ここにあるのは残骸だけだ。
彼女自身も、精霊と技術の残滓でしかない。
「まだよ」
歯を食いしばる。
「まだ私は負けてないっ!」
大剣を掴んで鼻息荒く宣言する。
その背後10メートル。
どう声をかけようかと考える貴方達に気付く気配は全くなかった。
●半日前の光景
「どうなると思います?」
問われたトマーゾの脳内で膨大な計算が行われた。
「筋金入りの趣味人に情報を詰め込まれた箱入り娘のはずだ」
問答無用で捕縛して連れ帰らない場合、不測の事態が起きる確率9割との答えが返ってきた。
「了解です。ハンターの皆さんに伝えておきます。擬人型の目撃情報が新たに届いたのでこれも……難易度もう1つ上げた方がいいのかしら」
残念ながら、ユニット使用許可は出なかった。
擬人型の目撃者もこの職員も、それがリアルブルーで一時猛威を振るった短距離ワープ可能なCAM型大火力VOIDであることに気付けていなかった。
・地図(1文字縦横1キロ。上が北)
礫礫礫礫 礫:瓦礫の山
礫現礫礫 現:ハンターと問題児の現在地
礫礫礫礫 2:瓦礫の山。中型狂気が2機北上中
2礫礫1 1:瓦礫の山。中型狂気が1機、高速で西進中
それから1週間のことはよく覚えている。
どんな文句を言ってやろうか、どんな人間がパートナーになるのか上機嫌で考えていた。
次の1ヶ月は最悪だった。
怒りと憎しみが抑えきれず、自分が歪虚になってしまう気すらした。
次の1年は思い出したくない。
目覚めを妨げられたまま朽ち果てるのでは無いかと、無駄に強固に出来た己を呪ったりもした。
次の10年は途切れ途切れにしか覚えていない。
開放されなくても、新たな刺激を与えてくれるなら喜んで奴隷になるつもりだった。
次の100年、あるいは1000年かそれ以上は時間の感覚がない。
何故か回線が繋がっていた、図書館のサーバを見つけた。
途中から更新されなくなったのに気づかないほど夢中になって、英知に耽溺し娯楽を賞味していた。
だから、真に目覚めて五感を得たときは天国から地獄に放り出された気分だった。
●トマーゾの困惑
エバーグリーンでの回収作業が進行している。
最近では神仏呼ばわりされることすらある男のもとにも、当然のように報告書が届く。
驚くべき速さで目を通してから作業に戻ろうとして、微かな違和感に気付き1枚の報告書をディスプレイに再表示させる。
そこそこの能力と飛び抜けた畜生さの研究チームがいた場所だ。
当然だが全員死んでいる。
研究成果どころか、メモ1枚も残っていないはずだが……。
「気のせいか」
研究所跡近くを通過したハンターによるレポートだ。
違和感ともいえぬ微かなものだが、直感が囁いている。
キーを数回叩く。
緊急調査の必要なし。時間が余っているなら調査して欲しい。手当も少量ならつける。
そう指示を出した直後にこの件は脳裏から消える。
解決すべき課題は無数にあり、些事に意識を向けるのはこの程度で限界だった。
●最先端オートマトン
「ビームっぽいソードッ!!」
全身を使って大剣を振り回す。
実体剣の延長線上にマテリアルの刃が伸び、狂気の鉄クラゲVOIDが焼かれ砕かれ風化した道路に転がる。
「目覚めたらポストアポカリプスなんてっ、何がどうなってんのよっ」
青に近い緑の髪が正面からの合成風で揺れる。
薄いドレスアーマーにレーザーが着弾。
焼かれた箇所がほどけて消えることで健康的な白い肌への被害を軽微にとどめる。
「どけどけどけーっ、私様のお通りだいっ」
剣を振るのが面倒臭くなったので跳躍し踵を揃える。
異様な強度の金属が中型に近い狂気にめり込み、音を伴わない悲鳴をあげさせる。
「ふぅ……痛っ」
着地失敗。
道路に打ち付けた尻を撫でながら後ろへ跳んで追撃を回避する。
「最新最強オートマトンをなめるなぁっ!」
片手で大剣を1回転。
左右に両断された小型鉄クラゲから爆発が発生。
ドレスアーマーを薄ら汚して艶のある髪にパーマをかけた。
「これは新作ドラマではありません」
遠距離から撮られた粗い動画を見せながら説明するのは、ハンターズソサエティーのオフィス職員。
説明を受けているのはあなたを含むハンター達だ。
「ドラマならもっと華のある方か強い方が起用されます」
画面のオートマトンは弱くは無いが中堅ハンターレベルですらない。
一線級のオートマトンハンターなら100戦して99勝出来る程度の相手だ。
「すみません。話が横道に逸れましたね」
この職員もオートマトンらしい。
そして、映像の少女よりも強い気配を感じる。
邪神を始めとする歪虚に追い詰められ、複数世界の多種族が生き残りに全力を出す現在、鍛錬と実戦の密度も武装の強化速度も以前とは別次元だ。
「問題のオートマトンは戦力的には大したことがありません」
能力的には駆け出し霊闘士の少し上程度だ。
武装も派手なだけでショップの未強化品と同程度。
歪虚相手に事実上の総力戦を行っている現在、彼女1人を救うために大戦力を派遣することはできない。
ユニットなしの条件で最大8人を送り込むのが精一杯だ。
「しかし歪虚相手に戦う同胞です。無傷で連れ帰って欲しいとは言いませんし、拒否されても連れて帰れとも言いません」
クリムゾンウェストの現状を知らせた上で、どうするか選ばせてあげて欲しい。
そう言って、オートマトンの職員は深く頭を下げるのだった。
●機能停止まで後少し
記憶にある地図を元に、瓦礫を掘って金庫扉の前へ辿り着く。
気合いを入れて剣のビームをぶっ放すと、長い時に耐えた装甲が焼け落ち埃っぽい空気か吹き出てきた。
中へ踏み込む。
エネルギー切れの剣を捨て、棚から同型の剣をとる。
胸と腰しか隠していないアーマーを脱ぎ捨て同型のものを探す。残念ながら胸がぶかぶかの物しか見つからない。
着替えようとしたのに手が動かなくなる。
滑り落ちたドレスの華やかな色遣いと、無機質な床の対比が心を削ってくる。
分かってはいるのだ。
人類も精霊も歪虚に負けた。
今ここにあるのは残骸だけだ。
彼女自身も、精霊と技術の残滓でしかない。
「まだよ」
歯を食いしばる。
「まだ私は負けてないっ!」
大剣を掴んで鼻息荒く宣言する。
その背後10メートル。
どう声をかけようかと考える貴方達に気付く気配は全くなかった。
●半日前の光景
「どうなると思います?」
問われたトマーゾの脳内で膨大な計算が行われた。
「筋金入りの趣味人に情報を詰め込まれた箱入り娘のはずだ」
問答無用で捕縛して連れ帰らない場合、不測の事態が起きる確率9割との答えが返ってきた。
「了解です。ハンターの皆さんに伝えておきます。擬人型の目撃情報が新たに届いたのでこれも……難易度もう1つ上げた方がいいのかしら」
残念ながら、ユニット使用許可は出なかった。
擬人型の目撃者もこの職員も、それがリアルブルーで一時猛威を振るった短距離ワープ可能なCAM型大火力VOIDであることに気付けていなかった。
・地図(1文字縦横1キロ。上が北)
礫礫礫礫 礫:瓦礫の山
礫現礫礫 現:ハンターと問題児の現在地
礫礫礫礫 2:瓦礫の山。中型狂気が2機北上中
2礫礫1 1:瓦礫の山。中型狂気が1機、高速で西進中
リプレイ本文
●
肌も髪も無機物なのに、豊富なマテリアルにより生気に満ちている。
不気味の谷など感じさせない、整った容姿の少女だ。
表情だけはぎこちない。
永い間表情を浮かべなかったので、角度によってはマネキンじみて見えた。
「敵っ」
棚からビーム剣を引き抜く。
その身のこなしは雑ではあるが華があり、淡く光る緑の髪が彼女を彩る。
色の薄い瞳にハンターの姿が映った。
驚愕、猜疑、忍耐の感情が目まぐるしく入れ替わり、最終的に人見知りを発症して思考と体が静止した。
「こんにちわ、迎えに来たよ」
美形過ぎて女物の衣装が似合うという、2次元ならともかく3次元ならほぼ存在しないはずの人間がにこりと笑う。
「ざくろは、時音ざくろ、よろしくね」
時音 ざくろ(ka1250)は朗らかかつ爽やかだ。
釣られるようにオートマトンの瞳が穏やかになりかけ、しかし体が再起動するより早く警戒心一色に染まる。
「だ、だまひゃれないんだからっ」
噛んだ。
整った顔を羞恥で歪め、循環するマテリアルが全身を温める。
「人間は死んだっ。もういないっ」
瞳が冷えていく。
「私を弄んで楽しいか歪虚め」
激情のまま突きを放つ。
放った瞬間、ひょっとしてホントに人間かもという迷いが浮かぶがもう剣は止まらない。
キヅカ・リク(ka0038)が無造作に剣の進路上に出る。
咄嗟に逸らそうとするが、高位覚醒者でもない彼女にそんな能力は無い。
人型の雑魔なら両断できるはずのビーム刃が、黒白の機械鎧を切り裂く……ことはなく表面に引っ掻き傷をつけただけで終わる。
健康的な細さの腹から、唐突に可愛らしい音が響いた。
土と鉄と埃の臭いしかなかった空気に、芳醇な甘さが漂っているのが原因だった。
「た、食べる?」
襲われているときも平然と食べていたチョコレートを割って差し出すキヅカ。
自らの会心の一撃が子猫のじゃれつきでしかなかったことを悟り、彼女は絶望とそれ以外の思考に襲われかつてない混乱状態に陥る。
体の制御に失敗して剣を取り落とす。
起動したままの刃が、右の爪先を切り落としたようにも見えた。
「痛……く、ない。そっか、これ私の夢なんだ。そっか」
エネルギー刃が消えて後も爪先は無事だ。
瞳の感情が死んでいく。
全身のマテリアルが内側に引っ込み暖かさも柔らかさも消えていく。
とすんとその場に尻餅をついて、悲鳴とも嗚咽ともつかぬか細い息が漏れた。
「わっふー」
空気など読まぬ。
むしろ空気を己の色に染める。
「あ、こんにちはです。はじめましてですー? 僕、アルマって言いますっ」
身の内から微かに零れるマテリアルだけで、アルマ・A・エインズワース(ka4901)は紅い吸血鬼じみた姿に変わっている。
獣っぽい大きな耳も、彼女からは捕食者の耳にしか見えない。
そういう内心の動きを正確に洞察し、アルマは態度を変えずアルマなりに誠実に説得を始めた。
「わぅ。もし仮にですけど……僕らが歪虚さんならみんなで協力して、君を奇襲で殺してからマテリアルを食べた方がお得だったと思うですよ?」
「ちがうもん。人間死んでるもん。いるならもっと早く来てくれたもん。だからこれ、夢……いやぁ」
女戦士にしては小柄な体が震え涙が零れた。
ただ、アルマの言動で緊張感はとけたらしく腹の音が大きくなった。
「わふっ、僕もいいの持ってるです!」
近くの作業台に包み紙を広げてテーブルクロス代わりにし、中に入っていたお菓子をアルマが並べる。
添えられた童話本は、破滅の気配を否定する良いアクセントだ。
「ゆめじゃ、ない?」
先程負傷しなかったよう見えたのはアルマの治癒術のお陰であったことに、ようやく気付いた。
「私達の話を聞いてくれ」
剣と刀を鞘に収めたままレイア・アローネ(ka4082)が語りかける。
「私達は人間だ。お前を助けたいと思っている」
目の力が強い。
暴力を使わぬ魂と魂の真剣勝負だ。レイアの目も横顔も凜々しく美しい。
オートマトンは何も言わない。
口の中のチョコをなめ回すので忙しい。
そして、鎧の上からでも分かるレイアの胸を見て、困惑と驚愕で面白い表情になっている。
「天然物っ! それにこの気配、どこかで……」
魂は精霊のはずなのに守護者の気配に気付けない。
永い時間を引きこもっていた弊害というより本人の気質のせいだろう。
今もキヅカの手にあるお徳用チョコ袋に気を取られている。
アルマが用意したものはとっくに口の中に消えていた。
こほん、と咳払いが響いた。
歪虚蠢く外への扉を警戒している岩井崎 旭(ka0234)が、視線をこちらに向けずに小声で言う。
「あー、わりぃ。とりあえず、装備を着替えるんだったらさっさとしてくれ。お外で脱ぐ素敵な趣味があるってんなら別だけど」
融けたチョコで唇を汚した彼女が小首を傾げ、視線を下に向けて胸も腹も出ていないなだらかな体前面を見下ろす。ドレスは腹までずり落ちている。
肌はしっとりとして指でつつくと吸い付くようだ。
性格最悪な技術者達の遺品であり今は私のもの、と考えて唐突に気付く。
「私、裸っ」
男性陣は紳士的に目を逸らし、レイアはいつの間にか成功した説得に脱力しそうになっている。
慌てて胸を押さえるが既に手遅れだ。
貴重な水分で目を潤ませながら新しいドレスを手に取ろうとして、武器が並んだ棚にぶつかり長い髪が引っかかる。
レイアは一度だけ自分の眉間を揉んでから黙って手を貸してやった。
「あの啖呵は心に響いたぜ」
旭は外への警戒を続けながら話しかける。
同情も下心もない言葉ではあるのだが、動揺しすぎたオートマトンは半分も理解していない。
「まだ負けてない」
邪神の姿を思い浮かべる。
一部のみでも時間を稼ぐのが精一杯。
本体がクリムゾンウェストに現れたら戦いにすらならないかもしれない。
「そうだ、そのとおり! まだヒトは負けちゃあいない!」
それがなんだと言うのだ。
絶望的な戦いなら何度あった。
それに生き延び勝利したから超高位の覚醒者に成り上がり、それ故にまだ戦える。
「これからどうするつもりから知らないけどよ。どこにいても戦友だぜ」
気配だけを頼りにポーションを投げ渡す。
彼女が脱ぎ捨てた半壊ドレスの上に、複数のポーションの瓶がヒビが入ることもなく着地した。
「なんでだろこの感じ。お父さん?」
せめて妻帯者と言ってあげて欲しい。
「あ、ごめん」
隣から渡された白い装甲をうんしょうんしょと身につける。
肩以外を包む黒いドレス、純白の装甲、青みがかった緑の長髪が見事に調和している。
「ありが……と?」
装甲を渡してくれたものに例を言おうとして、表情を操作する信号が激しく乱れる。
気にしないでー、とのんきに身振りで答えるのはミニトリクス。
大精霊エバーグリーンの極一部が機械の体を手に入れ独立した妖精である。
「大精霊様がちっちゃくなってるっ」
あまり動かぬ表情とは逆に、戦闘型の筋力があるため細くはない手足が勢いよく上下する。
ミニトリクスはさっと離れてテンシ・アガート(ka0589)の後頭部に隠れた。
「俺はリアルブルーから来た人間のテンシ・アガート! どうぞよろしく!」
元気である。
真っ直ぐである。
一生懸命である。
これを疑い出すようなら人間として終わりだ。
「そしてこっちはミニトリクス、合わせてよろしく!」
妖精が身を乗り出して元気に手を振った。
「あまり時間がないから急ぎ足でごめんね。歪虚と戦う為に君の力を貸してほしい」
超ミニ大精霊がうんうんうなずいている。
「もし戦うのが嫌なら強制はしないし、脱出する手助けはさせてもらおうと思ってる。脱出先は君の知らない世界だけど……オートマトンもいるし、今のここよりは生きやすいと思うよ」
8人とも装備は整備され健康状態にも問題はなく、破滅一歩手前という世界でないのが実感として分かる。
「何より俺は、君に俺達がいる世界を見てほしい」
「それは、疑いませんが」
ミニトリクスの目があるせいか、言葉遣いが少し丁寧になった。
「ここまでされて拒絶するのは申し訳ないと思います。ですが私は」
この世界でオートマトンとして生まれ戦い壊れるまで戦うつもりだったのだ。
感謝は強烈にしているがついて行く決断はできない。
「詳しい説明は省くけど、クリムゾンウェストって世界から迎えに来たんだ」
レイアに着替えの済んだことを確かめてからざくろが振り返る。
小柄で凜々しいテンシとはまた違う魅力を持つざくろを見て、対歪虚の戦士の要素が引っ込み筋金入りの箱入り娘の面が表に出る。
「僕は別の、リアルブルーの出身なんだけど」
出発前にオフィスで借りてきた漫画を開いて見せる。
特に有名な作品でもない、よくある冒険物だ。
ただの印刷物ではあるのだが、細かな書き込みが現実感を与え、時折ある勢いあるコマが狂気に近い情熱を感じさせる。
映像の鮮明さは脳に保管された作品データの方が上だ。
しかし、質と量はあってもこれ以上変化しない作品より、連載中の真新しい本の方がどうしようもなく刺激的だ。
「続きは向こうに行けば読めるよ。脱線しちゃったね。その力を見込んで、君も一緒に、君の世界をこんなにした邪神と戦おうよ」
ざくろにだって怒りはある。恐怖だってある。
それでも、歪虚に対する戦意は彼女以上にあった。
「とりあず外に出ようぜ。お客さんだ」
旭が歪虚の接近を告げ、9人と妖精が表情を引き締めた。
●
全高8メートルの絶望に幻の腕が絡みついた。
負マテリアルが燃え上がり短距離跳躍を発動。
腕は引きはがせたものの跳躍に数倍の負マテリアルを消費してしまう。
腕部のレーザーを使えないだけでなく、身動きもできないように見えた。
「馬鹿者! 油断はするな」
迂闊に大技を繰り出そうとした彼女をレイアが守る。
VOIDに走り寄り結界に巻き込むことで、不意打ちを狙った負マテリアルレーザーを斬り飛ばしてみせる。
「お前は私が守る!」
オートマトンがぐらりと揺れた。
永い時の間にある意味で健全な不健全作品にも触れており、そういう意味で受け取ってしまい激しく動揺する。
だって格好よくて力のあるひとが口先だけでなく尽くしてくれるのだ。どんな木石でも少しは影響を受ける。レイア自身には庇護欲しかなくてもだ。
「ちょっと待てそこのヒロイン! オートマトンのお前のことだ、お前の。本当にチョロイな!」
わははと笑って鎧徹しをVOIDの巨体に撃ち込むのはルベーノ・バルバライン(ka6752)。
実力と実績を兼ね備えた夢追い人である。
「侮辱には断固抗議するっ」
単独で突っ込むのは止め、レイアに援護されながらレーザー刃でちまちま突き刺す。
「1人で戦ってきた最強ヒロインが絶体絶命の危機に陥った時に現れる謎の協力者! ヒロインの窮地を救い新たな道標を与え新天地に送り届ける! どうだ、このシチュエーションを聞いてもお前は自身がヒロインでないと言い切れるのか!」
「夢と現実をごっちゃにする人嫌いだっ」
「自分自身を嫌うのはどうかと思うぞ」
ルベーノが赤心からたしなめ、彼女は興奮し過ぎて地団駄を踏んだ。
ルベーノはこういう人間は嫌いではない。
一般的に荒唐無稽とされる目標に向かっているのは彼自身も同じだからだ。もっとも彼女とは違い一部は実力で実現させているが。
「ルベーノ殿、新人をからかうのはそこまでだ。2機、敵の増援が来るぞ」
戦馬を駆る軍人貴族然としたツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が注意を促すと、ルベーノは平然と、彼女は愕然としてこちらに急行してくる同型2機をちらりと見た。
「嘘、これってここ一帯のボスじゃないの?」
「雑魚とは言わぬが大量にいる歪虚の1つに過ぎぬ。やれ!」
CAM級の擬人型の突撃を生身のルベーノが受け止める。
「加速装置……超機導マキシマム、超重剣・真っ向唐竹割り!」
ざくろの巨大化した剣がVOID1体を切り裂き、そして無傷の2体が現れた。
「この動きの雑さ、ハンターを知らないのか」
雷撃纏う障壁を目の前に出現させる。
キヅカに向かって来たレーザーが跳ね返され、鉄触手で形付かれたCAM級VOIDに直撃して体勢を大きく崩させる。
「楽に済むならそれでいい」
機導師の初歩中の初歩である機導砲を使う。
ただし威力は戦艦の装甲を抜けるほど、しかも貫通性能も極めて高い。
薄い卵が割れるのにも似た乾いた音が響く。膨大な命を手にかけたVOIDがあっさり芯まで殺しきられる。
「時間がかかり過ぎたか」
ツィスカは己を引き戻そうとする力を感じた。
クリムゾンウェストの精霊にとっての武器であり鎧でもあるハンターを連れ戻そうとする力だ。
「ルベーノ殿」
「うむ」
放置すると1時間ももたず無駄死にしそうなので、強行手段に出ることにした。
具体的には注連縄でルベーノと一緒にぐるぐる巻きだ。
類似品に比べると携帯性で劣り引き戻される位置も不安定な欠陥品だが、クリムゾンウェストの人類領域に連れて行くことだけは確実だ。
「今は稼働可能なオートマトンやオートソルジャーを回収しCWで目覚めさせている。ヒロイン、最後のこの地への御奉公を一緒にせんか」
「離せっ、ひっどいネーミングセン……体に登録されてるじゃない馬鹿っ、筋肉っ」
逃げようとした中型擬人型にデルタレイが着弾する。
細い光の線が艦砲射撃であるかのように有無を言わさずVOIDを削りに削る。
攻撃をするのはキヅカだけではない。
彼女がこの世界から去る瞬間、五体を砕かれた擬人型をにレイアが止めを刺すのが見えた。
名工の作のティーカップが静かに皿に戻される。
オートマトンが真似をしようとして大きな音を立てる。
「零れたお茶を吸ったらマナー講義1週間だ」
少女が慌てて上半身を起こした。
「昨日はよく寝られたか」
「ベッドが気持ちよすぎてすぐ……ありがと」
「ならいい。そういえば、貴公には講談のみが癒やしだったのだな」
「講談って、動画だよ三次元の」
サクサクしたクッキーを囓って顔を綻ばせ、行儀悪く饅頭をつまもうとしてツィスカに目で叱られる。
「この世界思っていたのと違うんだけど。自然豊かなのにエバーグリーン並の技術があったり……」
「近世やそれ以前の国や人間もいる、か」
ツィスカが柔らかく笑う。
濡羽色の豊かな髪は、そう作られた訳でもないのに美しい。
「過渡期だからな。いずれせよ」
目を細める。
「私もあなたも歪虚と戦う身、信じきれずとも敵の敵だ。それは国同士にも、国と人の間にもいえること」
激動のここ数年を思い出して遠くを見るような目をする。
「猜疑に囚われていては、明日の生すら掴めぬぞ」
実感の籠もったその言葉に、ヒロイン・ソングライトと名乗るようになったオートマトンは神妙にうなずくのだった。
肌も髪も無機物なのに、豊富なマテリアルにより生気に満ちている。
不気味の谷など感じさせない、整った容姿の少女だ。
表情だけはぎこちない。
永い間表情を浮かべなかったので、角度によってはマネキンじみて見えた。
「敵っ」
棚からビーム剣を引き抜く。
その身のこなしは雑ではあるが華があり、淡く光る緑の髪が彼女を彩る。
色の薄い瞳にハンターの姿が映った。
驚愕、猜疑、忍耐の感情が目まぐるしく入れ替わり、最終的に人見知りを発症して思考と体が静止した。
「こんにちわ、迎えに来たよ」
美形過ぎて女物の衣装が似合うという、2次元ならともかく3次元ならほぼ存在しないはずの人間がにこりと笑う。
「ざくろは、時音ざくろ、よろしくね」
時音 ざくろ(ka1250)は朗らかかつ爽やかだ。
釣られるようにオートマトンの瞳が穏やかになりかけ、しかし体が再起動するより早く警戒心一色に染まる。
「だ、だまひゃれないんだからっ」
噛んだ。
整った顔を羞恥で歪め、循環するマテリアルが全身を温める。
「人間は死んだっ。もういないっ」
瞳が冷えていく。
「私を弄んで楽しいか歪虚め」
激情のまま突きを放つ。
放った瞬間、ひょっとしてホントに人間かもという迷いが浮かぶがもう剣は止まらない。
キヅカ・リク(ka0038)が無造作に剣の進路上に出る。
咄嗟に逸らそうとするが、高位覚醒者でもない彼女にそんな能力は無い。
人型の雑魔なら両断できるはずのビーム刃が、黒白の機械鎧を切り裂く……ことはなく表面に引っ掻き傷をつけただけで終わる。
健康的な細さの腹から、唐突に可愛らしい音が響いた。
土と鉄と埃の臭いしかなかった空気に、芳醇な甘さが漂っているのが原因だった。
「た、食べる?」
襲われているときも平然と食べていたチョコレートを割って差し出すキヅカ。
自らの会心の一撃が子猫のじゃれつきでしかなかったことを悟り、彼女は絶望とそれ以外の思考に襲われかつてない混乱状態に陥る。
体の制御に失敗して剣を取り落とす。
起動したままの刃が、右の爪先を切り落としたようにも見えた。
「痛……く、ない。そっか、これ私の夢なんだ。そっか」
エネルギー刃が消えて後も爪先は無事だ。
瞳の感情が死んでいく。
全身のマテリアルが内側に引っ込み暖かさも柔らかさも消えていく。
とすんとその場に尻餅をついて、悲鳴とも嗚咽ともつかぬか細い息が漏れた。
「わっふー」
空気など読まぬ。
むしろ空気を己の色に染める。
「あ、こんにちはです。はじめましてですー? 僕、アルマって言いますっ」
身の内から微かに零れるマテリアルだけで、アルマ・A・エインズワース(ka4901)は紅い吸血鬼じみた姿に変わっている。
獣っぽい大きな耳も、彼女からは捕食者の耳にしか見えない。
そういう内心の動きを正確に洞察し、アルマは態度を変えずアルマなりに誠実に説得を始めた。
「わぅ。もし仮にですけど……僕らが歪虚さんならみんなで協力して、君を奇襲で殺してからマテリアルを食べた方がお得だったと思うですよ?」
「ちがうもん。人間死んでるもん。いるならもっと早く来てくれたもん。だからこれ、夢……いやぁ」
女戦士にしては小柄な体が震え涙が零れた。
ただ、アルマの言動で緊張感はとけたらしく腹の音が大きくなった。
「わふっ、僕もいいの持ってるです!」
近くの作業台に包み紙を広げてテーブルクロス代わりにし、中に入っていたお菓子をアルマが並べる。
添えられた童話本は、破滅の気配を否定する良いアクセントだ。
「ゆめじゃ、ない?」
先程負傷しなかったよう見えたのはアルマの治癒術のお陰であったことに、ようやく気付いた。
「私達の話を聞いてくれ」
剣と刀を鞘に収めたままレイア・アローネ(ka4082)が語りかける。
「私達は人間だ。お前を助けたいと思っている」
目の力が強い。
暴力を使わぬ魂と魂の真剣勝負だ。レイアの目も横顔も凜々しく美しい。
オートマトンは何も言わない。
口の中のチョコをなめ回すので忙しい。
そして、鎧の上からでも分かるレイアの胸を見て、困惑と驚愕で面白い表情になっている。
「天然物っ! それにこの気配、どこかで……」
魂は精霊のはずなのに守護者の気配に気付けない。
永い時間を引きこもっていた弊害というより本人の気質のせいだろう。
今もキヅカの手にあるお徳用チョコ袋に気を取られている。
アルマが用意したものはとっくに口の中に消えていた。
こほん、と咳払いが響いた。
歪虚蠢く外への扉を警戒している岩井崎 旭(ka0234)が、視線をこちらに向けずに小声で言う。
「あー、わりぃ。とりあえず、装備を着替えるんだったらさっさとしてくれ。お外で脱ぐ素敵な趣味があるってんなら別だけど」
融けたチョコで唇を汚した彼女が小首を傾げ、視線を下に向けて胸も腹も出ていないなだらかな体前面を見下ろす。ドレスは腹までずり落ちている。
肌はしっとりとして指でつつくと吸い付くようだ。
性格最悪な技術者達の遺品であり今は私のもの、と考えて唐突に気付く。
「私、裸っ」
男性陣は紳士的に目を逸らし、レイアはいつの間にか成功した説得に脱力しそうになっている。
慌てて胸を押さえるが既に手遅れだ。
貴重な水分で目を潤ませながら新しいドレスを手に取ろうとして、武器が並んだ棚にぶつかり長い髪が引っかかる。
レイアは一度だけ自分の眉間を揉んでから黙って手を貸してやった。
「あの啖呵は心に響いたぜ」
旭は外への警戒を続けながら話しかける。
同情も下心もない言葉ではあるのだが、動揺しすぎたオートマトンは半分も理解していない。
「まだ負けてない」
邪神の姿を思い浮かべる。
一部のみでも時間を稼ぐのが精一杯。
本体がクリムゾンウェストに現れたら戦いにすらならないかもしれない。
「そうだ、そのとおり! まだヒトは負けちゃあいない!」
それがなんだと言うのだ。
絶望的な戦いなら何度あった。
それに生き延び勝利したから超高位の覚醒者に成り上がり、それ故にまだ戦える。
「これからどうするつもりから知らないけどよ。どこにいても戦友だぜ」
気配だけを頼りにポーションを投げ渡す。
彼女が脱ぎ捨てた半壊ドレスの上に、複数のポーションの瓶がヒビが入ることもなく着地した。
「なんでだろこの感じ。お父さん?」
せめて妻帯者と言ってあげて欲しい。
「あ、ごめん」
隣から渡された白い装甲をうんしょうんしょと身につける。
肩以外を包む黒いドレス、純白の装甲、青みがかった緑の長髪が見事に調和している。
「ありが……と?」
装甲を渡してくれたものに例を言おうとして、表情を操作する信号が激しく乱れる。
気にしないでー、とのんきに身振りで答えるのはミニトリクス。
大精霊エバーグリーンの極一部が機械の体を手に入れ独立した妖精である。
「大精霊様がちっちゃくなってるっ」
あまり動かぬ表情とは逆に、戦闘型の筋力があるため細くはない手足が勢いよく上下する。
ミニトリクスはさっと離れてテンシ・アガート(ka0589)の後頭部に隠れた。
「俺はリアルブルーから来た人間のテンシ・アガート! どうぞよろしく!」
元気である。
真っ直ぐである。
一生懸命である。
これを疑い出すようなら人間として終わりだ。
「そしてこっちはミニトリクス、合わせてよろしく!」
妖精が身を乗り出して元気に手を振った。
「あまり時間がないから急ぎ足でごめんね。歪虚と戦う為に君の力を貸してほしい」
超ミニ大精霊がうんうんうなずいている。
「もし戦うのが嫌なら強制はしないし、脱出する手助けはさせてもらおうと思ってる。脱出先は君の知らない世界だけど……オートマトンもいるし、今のここよりは生きやすいと思うよ」
8人とも装備は整備され健康状態にも問題はなく、破滅一歩手前という世界でないのが実感として分かる。
「何より俺は、君に俺達がいる世界を見てほしい」
「それは、疑いませんが」
ミニトリクスの目があるせいか、言葉遣いが少し丁寧になった。
「ここまでされて拒絶するのは申し訳ないと思います。ですが私は」
この世界でオートマトンとして生まれ戦い壊れるまで戦うつもりだったのだ。
感謝は強烈にしているがついて行く決断はできない。
「詳しい説明は省くけど、クリムゾンウェストって世界から迎えに来たんだ」
レイアに着替えの済んだことを確かめてからざくろが振り返る。
小柄で凜々しいテンシとはまた違う魅力を持つざくろを見て、対歪虚の戦士の要素が引っ込み筋金入りの箱入り娘の面が表に出る。
「僕は別の、リアルブルーの出身なんだけど」
出発前にオフィスで借りてきた漫画を開いて見せる。
特に有名な作品でもない、よくある冒険物だ。
ただの印刷物ではあるのだが、細かな書き込みが現実感を与え、時折ある勢いあるコマが狂気に近い情熱を感じさせる。
映像の鮮明さは脳に保管された作品データの方が上だ。
しかし、質と量はあってもこれ以上変化しない作品より、連載中の真新しい本の方がどうしようもなく刺激的だ。
「続きは向こうに行けば読めるよ。脱線しちゃったね。その力を見込んで、君も一緒に、君の世界をこんなにした邪神と戦おうよ」
ざくろにだって怒りはある。恐怖だってある。
それでも、歪虚に対する戦意は彼女以上にあった。
「とりあず外に出ようぜ。お客さんだ」
旭が歪虚の接近を告げ、9人と妖精が表情を引き締めた。
●
全高8メートルの絶望に幻の腕が絡みついた。
負マテリアルが燃え上がり短距離跳躍を発動。
腕は引きはがせたものの跳躍に数倍の負マテリアルを消費してしまう。
腕部のレーザーを使えないだけでなく、身動きもできないように見えた。
「馬鹿者! 油断はするな」
迂闊に大技を繰り出そうとした彼女をレイアが守る。
VOIDに走り寄り結界に巻き込むことで、不意打ちを狙った負マテリアルレーザーを斬り飛ばしてみせる。
「お前は私が守る!」
オートマトンがぐらりと揺れた。
永い時の間にある意味で健全な不健全作品にも触れており、そういう意味で受け取ってしまい激しく動揺する。
だって格好よくて力のあるひとが口先だけでなく尽くしてくれるのだ。どんな木石でも少しは影響を受ける。レイア自身には庇護欲しかなくてもだ。
「ちょっと待てそこのヒロイン! オートマトンのお前のことだ、お前の。本当にチョロイな!」
わははと笑って鎧徹しをVOIDの巨体に撃ち込むのはルベーノ・バルバライン(ka6752)。
実力と実績を兼ね備えた夢追い人である。
「侮辱には断固抗議するっ」
単独で突っ込むのは止め、レイアに援護されながらレーザー刃でちまちま突き刺す。
「1人で戦ってきた最強ヒロインが絶体絶命の危機に陥った時に現れる謎の協力者! ヒロインの窮地を救い新たな道標を与え新天地に送り届ける! どうだ、このシチュエーションを聞いてもお前は自身がヒロインでないと言い切れるのか!」
「夢と現実をごっちゃにする人嫌いだっ」
「自分自身を嫌うのはどうかと思うぞ」
ルベーノが赤心からたしなめ、彼女は興奮し過ぎて地団駄を踏んだ。
ルベーノはこういう人間は嫌いではない。
一般的に荒唐無稽とされる目標に向かっているのは彼自身も同じだからだ。もっとも彼女とは違い一部は実力で実現させているが。
「ルベーノ殿、新人をからかうのはそこまでだ。2機、敵の増援が来るぞ」
戦馬を駆る軍人貴族然としたツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)が注意を促すと、ルベーノは平然と、彼女は愕然としてこちらに急行してくる同型2機をちらりと見た。
「嘘、これってここ一帯のボスじゃないの?」
「雑魚とは言わぬが大量にいる歪虚の1つに過ぎぬ。やれ!」
CAM級の擬人型の突撃を生身のルベーノが受け止める。
「加速装置……超機導マキシマム、超重剣・真っ向唐竹割り!」
ざくろの巨大化した剣がVOID1体を切り裂き、そして無傷の2体が現れた。
「この動きの雑さ、ハンターを知らないのか」
雷撃纏う障壁を目の前に出現させる。
キヅカに向かって来たレーザーが跳ね返され、鉄触手で形付かれたCAM級VOIDに直撃して体勢を大きく崩させる。
「楽に済むならそれでいい」
機導師の初歩中の初歩である機導砲を使う。
ただし威力は戦艦の装甲を抜けるほど、しかも貫通性能も極めて高い。
薄い卵が割れるのにも似た乾いた音が響く。膨大な命を手にかけたVOIDがあっさり芯まで殺しきられる。
「時間がかかり過ぎたか」
ツィスカは己を引き戻そうとする力を感じた。
クリムゾンウェストの精霊にとっての武器であり鎧でもあるハンターを連れ戻そうとする力だ。
「ルベーノ殿」
「うむ」
放置すると1時間ももたず無駄死にしそうなので、強行手段に出ることにした。
具体的には注連縄でルベーノと一緒にぐるぐる巻きだ。
類似品に比べると携帯性で劣り引き戻される位置も不安定な欠陥品だが、クリムゾンウェストの人類領域に連れて行くことだけは確実だ。
「今は稼働可能なオートマトンやオートソルジャーを回収しCWで目覚めさせている。ヒロイン、最後のこの地への御奉公を一緒にせんか」
「離せっ、ひっどいネーミングセン……体に登録されてるじゃない馬鹿っ、筋肉っ」
逃げようとした中型擬人型にデルタレイが着弾する。
細い光の線が艦砲射撃であるかのように有無を言わさずVOIDを削りに削る。
攻撃をするのはキヅカだけではない。
彼女がこの世界から去る瞬間、五体を砕かれた擬人型をにレイアが止めを刺すのが見えた。
名工の作のティーカップが静かに皿に戻される。
オートマトンが真似をしようとして大きな音を立てる。
「零れたお茶を吸ったらマナー講義1週間だ」
少女が慌てて上半身を起こした。
「昨日はよく寝られたか」
「ベッドが気持ちよすぎてすぐ……ありがと」
「ならいい。そういえば、貴公には講談のみが癒やしだったのだな」
「講談って、動画だよ三次元の」
サクサクしたクッキーを囓って顔を綻ばせ、行儀悪く饅頭をつまもうとしてツィスカに目で叱られる。
「この世界思っていたのと違うんだけど。自然豊かなのにエバーグリーン並の技術があったり……」
「近世やそれ以前の国や人間もいる、か」
ツィスカが柔らかく笑う。
濡羽色の豊かな髪は、そう作られた訳でもないのに美しい。
「過渡期だからな。いずれせよ」
目を細める。
「私もあなたも歪虚と戦う身、信じきれずとも敵の敵だ。それは国同士にも、国と人の間にもいえること」
激動のここ数年を思い出して遠くを見るような目をする。
「猜疑に囚われていては、明日の生すら掴めぬぞ」
実感の籠もったその言葉に、ヒロイン・ソングライトと名乗るようになったオートマトンは神妙にうなずくのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談 ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/03/22 17:17:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/21 20:38:53 |