王都第七街区 【王戦】王都避難余聞

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/03/23 19:00
完成日
2019/03/30 20:16

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国王都イルダーナ、難民街。通称『第七街区』──
 地区の自治を担う『地域の実力者』、ドゥブレー一家とネトルシップ一家の間で繰り広げられていた抗争は、決着がつく前に『その時』を迎えていた。
 『その時』──即ち、傲慢王イヴの『宣戦』と。それに伴い、女王システィーナにより発せられた、全ての王都の民に対する避難命令である。
 『最前線』ハルトフォート砦では、その避難の時間を稼ぐ為の絶望的な籠城戦が始まった。
 状況はいよいよ、『抗争』なんてものに拘ずり合ってる場合じゃなくなっていた。

「っていうか、街そのものをおっぽり出して逃げろ、ってえんだ。利権も何も皆すっ飛んじまう。抗争なんて続けても、得られるものは何も無ぇ」
 第七街区、ドゥブレー地区。『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーの事務所── デスクに山程積まれた書類や羊皮紙の束に埋もれながら、ドニは呼び集めたハンターたちにそう告げた。
 ドニの事務所は抗争により半壊していたが、場所を移している暇もなかった。ドニの部下たちは中庭にテントを張って、地区住民全員の避難作業に対応していた。とは言え、そこは素人仕事──街の人々の取り纏めに関しては、トトムら各町内会長や、シスターマリアンヌ、シスターメレーヌといった教会関係者たちに任せておいた。というか、丸投げした。そうして捻り出した貴重な時間を使って、ドニはこれまでの伝手を頼ってハンターたちを呼び出していた。
「そう、得られるものなんて何も無ぇ……が、抗争を続ける利が無くなっても理まで消えちまったわけでもねぇ。落とし前はつけておかねぇと、いつ背中から撃たれるかわからない。お前さんたちにはその手伝いをしてもらいたい」
 ……一時間後。ドニはハンターたちと共にネトルシップ地区の花街の目抜き通りにいた。気付いたネトルシップ一家の人間が、抗争相手のボスの登場に愕然とした。
「ドゥブレー地区代表、ドニ・ドゥブレーだ。此度の避難計画について、自治区長として話を詰めに来た。ノエルのとこまで案内しろ」

 勿論、ネトルシップ一家の人間は、無邪気に仇敵をノエルの元へと案内したりはしなかった。
 連れて来られたのは第七街区の外縁に広がる畑の中── 周囲に誰も隠れられない、だだっ広い場所だった。
「ここで待て」
 そう言ってノエルの部下は街へ複数の使いを走らせた。
 今にも雨の降り出しそうな曇天の下、複数の男に睨まれながら待つこと暫し── やがて、大勢の手下を引き連れたノエルがやって来た。
 ドニが連れて来た人数は少ないが、そのいずれもがハンターだった。大勢の手下を描き分けてノエルを討つことは容易い。
 一方、ノエルの部下に覚醒者はいなかったが、とにかく数が多かった。ハンターたちの守りを飽和し、ドニを討つ事が出来るくらいに──つまりはそういったバランスだった。
 10m以上離れた場所に、ノエルたちは足を止めた。
 ドニとノエル、両者が実際に顔を合わせるのは、実のところ初めてのことだった。
「お前がドニか。話に聞いた限りじゃ飢えた野良犬みたいな野郎を想像していたが、思っていたよりは男前じゃねえか。うちの店でケツを掘らせる気はないか?」
「ご丁寧な挨拶ありがとよ、ノエル。俺の方も、もっと酒と女と金とクスリでパンパンに膨れて詰まったラードの塊みたいな中年オヤジを想像していた。……いや、そんなに変わらんか?」
 寒々しい空の下で、寒々しい挨拶が交わされた。笑う者も、激昂する者もない。
「……で? いったい、何をしに来た、ドニ? お手々繋いで逃げるわけでもなし、今更、避難について話し合うような事など無いと思うが?」
「互いに背中から撃たれない、ってぇのも立派な『協力』だと思うわけさ、俺は。……つまりな、今回の抗争の発端──高利貸しと『白の牝鹿』を襲撃したのはウチじゃない」
 ドニはそう言うと、ハンターたちが調べ上げたことを伝えた。
 犯人の名はジェイミー・スタッブズ。テスカ教団事件で大きな被害を受けた第七街区北西部から、景気の良かったドゥブレー地区へ出稼ぎに来ていた青年だった。
 必死に働き、家族を呼び寄せ……そうして得た全てを、第六城壁の戦いの戦災で失った。年老いた両親が半ば騙される形でネトルシップ一家の高利貸しから金を借り、『妹』──スタッブス家に引き取られていた身寄りを失くした幼馴染──カロルを借金のカタに取られてしまった。ジェイミーは大金を得る為に強盗を働き、捕まった。そして、いくつかの偶然が重なって『力』に目覚めた。本人も忘れていたことだが、ジェイミーは第七街区北西部に住んでいた頃、『庭師』と呼ばれる歪虚から『力』の『種子』を埋め込まれていた。
「その『力』を使って牢を破ったジェイミーは、実は『娘を自ら売り払っていた』両親を惨殺し、高利貸しを襲い、花街の高級店『白い牝鹿』を潰し、ノエルの愛人として囲われていたカロルを救い出した。……それが一連の事件の真相だ」
 ドニが説明を終えても、ノエルは眉一つ動かさなかった。(こいつ、知ってやがったな……)と、ドニも表情を変えずに理解した。
「……話は分かった。が、それで手打ちというわけにもいかん。今回の避難騒ぎで戦う必要は無くなったかもしれんが、戦う理由まで消えちまったわけじゃない」
 ……4年前。ドニはノエルのシマを奪う形でドゥブレー地区の自治を担うことになった。ノエルにとってドニは殺しても飽き足らない程の因縁のある相手だ。
「そいつはお互い様だぜ、ノエル。……と言いてぇところだが、正直、今はそれどころじゃねぇだろう、お互いに…… もし、それで気が済まねぇってえんなら、この第七街区に帰って来てから相手をしてやる。決着はその時まで取っておけ」
 ドニがそう答えると、ノエルの表情が初めて動いた。
「戻れって来れると思っているのか、ドニ。お前ぇは、この街に……」
「戻って来るさ。ったりめぇだろうが。ここは俺たちの街だ」
 ……ノエルはフンと鼻を鳴らすと、ドニが申し出た『休戦提案』に同意した。去り際に、ただ一つ条件を課して。
「お前ぇんとこのハンターたちに、件のジェイミー何某の首を取らせろ。奴は第七街区北西部──お前の地区に来る前に暮らしていた街にいる」
 ドニは驚いた。さしものハンターたちも、ジェイミーの居場所だけは掴むことが出来ていなかったからだ。
「……カロルから手紙が届いた。綺麗な服を着て、美味いもんがたらふく食べれる生活に戻りたいから、早く助けに来てくれ、ってな」
「……!」
「なに、不思議な話じゃねぇだろ。信じていた『両親』に売り払われ、男は自分を助ける為に人外になっちまったんだ。……カロルを救い出して俺のところに連れて来い。そうしたら休戦を飲んでやる」

リプレイ本文

 ジェイミーは既に人外の化け物になってしまっている── カロルから届いたという手紙の内容をノエルから聞かされて、レイア・アローネ(ka4082)はピクリとその身を震わせた。
 友人であるセレスティア(ka2691)がハッとしてレイアの横顔を振り返った。彼女は、ジェイミーの事情を知ったレイアが手を尽くして彼の捜索に当たっていたのを知っていた。
(ジェイミー……!)
 レイアは俯き、爪が喰い込む程にギュッと拳を握り締めた。……こうなる前に見つけ出したかった。救い出してやりたかった。生きて罪を償って自分の人生を取り戻して欲しかった。なのに……
「それで、カロルの件だが……」
「ええ、連れては来やがります。エクラの名に懸けて」
 にっこりと笑みさえ浮かべて、シレークス(ka0752)がノエルに請け負った。サクラ・エルフリード(ka2598)はそれを黙って見ていた。
 シレークスの笑みが営業スマイルに過ぎない事を、友人のサクラは分かっていた。彼女からすれば、今のシレークスは帯電した嵐雲にしか見えない……
 ……会談は終了し、ハンターたちはジェイミーのいるという第七街区北西部に向かって移動を開始した。
 大規模な避難準備でてんやわんやの王都を抜け、第六城壁北西門を通って再び第七街区へと入る。
 その一画は、既に住民の避難が完了していた。バラックや掘っ立て小屋が並んだ無人の難民街を、ハンターたちは目的地──ジェイミーとカロルの旧家へ向けて歩き続けた。
「しかし、話を聞くだに……なんとも言えない話だよな」
 沈黙が続く中、リュー・グランフェスト(ka2419)が呟いた。彼は『強敵』との戦いを前に増援としてレイアとセレスティアに呼び出され、合流したばかりだった。
「……それはジェイミーがカロルを助ける為に化け物になっちまったことが、かい? それとも、そんなジェイミーをカロルが『裏切った』ことが、かい?」
 沈黙したリューに、J・D(ka3351)は続けた。
「ジェイミーに関しては、気の毒な野郎なのは確かさ。だが、事情と罪状は別物だ」
 J・Dの言葉に、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)もまた内心で首肯した。強盗未遂こそ起こしたものの、ジェイミー自身もまた歪虚の被害者ではある。だが、歪虚化した時点で既に倒す以外の選択肢は存在しない。
「カロルに関しては……まぁ、そういうこともあらァさ。……もっとも、今の時点じゃ何が本当かも分からんが」
「……。そのカロルさんだけど……まだ無事でいるのかな……?」
 シアーシャ(ka2507)が暗い表情で皆に訊ねた。普段はいつも元気で快活な彼女だったが、今は見る影もない。
「ジェイミーさんが今、どれくらいカロルさんのことを認識できているのか分からないけど、手紙を出したりできる状況なのかな? 手紙を出す余裕があるなら逃げることもできるはずだし、そもそも食べ物とかだって……」
「……それは、直接確かめてみればいいだろう」
 コーネリアが銃に装弾しながら淡々と言葉を返した。その視線の先に、カロルの手紙に記されていたという廃屋が佇んでいた。
 ハンターたちは頷き合うと、手信号でやり取りしながらその廃屋に取りついた。木窓は締め切られていたが、傷んだ板の隙間から中の様子を窺うことができた。
 寝台らしきものに、カロルと思しき若い女性が横たわっていた。呼吸する様子も確認できた。
(カロルさんは生きている……! もしかしたら、ジェイミーさんもまだ……だって、かつて家族で住んでいた所にいるってことは、少しは記憶があるってことだし……!)
 シアーシャの淡い期待は、だが、脆くも崩れ去った。
 カロルから少し離れた壁にもたれて座り込んだジェイミーの右腕は、既に人のそれではなかった。
(……嘆くのは後だ。今選べる少しでもマシな結末を迎える──その為に私たちはいるのだ)
(……『助け』ましょう。彼を)
 決意を固めたレイアの視線を真っ直ぐ受け止め、セレスティアもまた力強く頷いた。
 そんな友人に目礼し、レイアはジェレミーに視線を移した。
(……せめて眠らせてやる。それしかできない私たちを恨んでくれ……)

 そんなハンターたちの気配に、ジェレミーが気が付いた。警戒しつつ立ち上がり、カロルの方へ歩き出す半蟷螂。それを確認したハンターたちもまた突入を開始する。
「貴様に恨みはないが、歪虚となってしまった以上、野放しにするわけにはいかないんでな。ここできっちり始末させてもらうぞ」
 コーネリアは跳ね上げた木窓の外から半蟷螂へ魔導拳銃を向け、発砲を開始した。その支援の下、玄関から突入していくレイアとリュー。シレークスもそれに後続しながら、身捧の腕輪に手を添え、「光よ、憐みたまえ。そう、あれかし」と両腕に己の魔力を纏わせ始める。
「どうせ無茶するでしょうから、先に使っておきます……」
 サクラはそのシレークスに『アンチボディ』の加護を与えた。セレスティアも胸元のロザリオを手に取って祈りを捧げ、同様の加護をレイアへ付与をした。
「カロルだな? 君を助けに来た。ついて来てくれないか?」
 不意の突入に驚いて起き上がっていたカロルは、だが、そんなレイアの言葉に頭を振ってジェイミーの方へと駆け出した。
 驚くリューの後ろでJ・Dは舌を打つと、半蟷螂へスペルライフルを向けて『Cooler』を撃ち放った。全身を霜に包まれ、一瞬、動きが止まる半蟷螂。カロルもまたその『冷気の爆発』に驚き、「キャッ!?」と足を竦ませる。
「今だ、リュー、間に割り込め!」
「ええい、お前の相手はこの俺だあ!」
 リューは『ソウルトーチ』を焚いて炎のマテリアルをその身に纏うと、剛刀を振るって半蟷螂の接近を牽制した。その後ろでリューにも加護を与えるセレスティア。得物を引き抜いたシアーシャとサクラも敵を半包囲するように回り込む。
 その間に、レイアとJ・Dはカロルの元へと駆け寄った。刺激せぬよう距離を取ったまま、床に膝つき、話し掛ける。
「やはり手紙の内容と様子が違う…… 事情を聞かせてくれないか?」
「ノエルに送った手紙の話は本当なのかい、お嬢ちゃん?」
 カロルはジェイミーの方を見たままコクリと頷いた。
「本当です。そう書けばノエルは信じて討ち手を寄越すと思ったから…… だって、ジェイミーは私の為に、あんな怪物になってしまったから……!」
 レイアとJ・Dは顔を見合わせた。混乱しているのだろうか? カロルの言っていることは、どうにも支離滅裂だった。
「あっ……!」
 カロルが声を漏らした。ジェイミーの側方へと回り込んだシアーシャとサクラが半蟷螂に斬りつけたからだ。
 マテリアルを込めたサクラの刃が半蟷螂の胴を薙ぎ、それに対して振るわれた反撃へシアーシャがカウンターを叩き込んだ。
「く、想像以上に硬いですね…… 今までの『種子』持ちとは違う感じがしますが……!」
「なら、魔力の拳ならどうでやがりますかね!」
 両の拳に魔力を纏わせたシレークスがサクラと入れ替わるように前に出た。シレークスの打撃(の出目)は(なんと一発目から)半蟷螂の頭部を捉えた。
「歯ァ食いしばれ!」
 魔力の乗った拳が半蟷螂の頭部を揺らした。ジェイミーの意識が失われ、次の瞬間、獣じみた雄叫びを上げた彼の人間の左腕部が破れ、中から瞬間的に蟷螂の腕が生えてきた。
 狂ったように両腕の鎌を振り回す半蟷螂。とっさに光の防御幕を展開したサクラが盾ごと吹き飛ばされ、シレークスとシアーシャもまた同様に後ろへ弾き飛ばされた。
 攻撃は無差別だった。小屋の柱や壁、天井なども当たるに任せて斬り裂かれた。カロルに向かった斬撃は、リューが因果操作の結界によって自身へ引き付けた。
 ダメージは大きかった。セレスティアは手早くミサンガに手をやると、その力を引き出して魔力を高め、敵の範囲攻撃に巻き込まれた全員に対して、回復量を倍近くまで増大させた広域回復の光を飛ばした。
「こいつは…… おい、皆。頭は狙わない方が良さそうだぞ。僅かに残っていたジェイミーの理性まで吹き飛びかねない」
 崩れる小屋から離れながら、慌てて退避を始めた皆に対してコーネリアが淡々と警告する。
「ジェイミー!」
 混乱の最中、カロルが半蟷螂の前に飛び出した。そして……
「私を殺して!」
 と化け物に向かって叫んだ。
 彼女の望みは、果たされなかった。カロルの言葉にハッと我に返ったジェイミーが、振り下ろし掛けていた左腕を止めてカロルを抱え込んだからだ。
「……これで左腕にも攻撃が出来なくなったな」
 冷静に見極め、呟くコーデリア。だが、敵もこれで先程の凶悪な範囲攻撃は放てなくなった。
「追い込むぞ」
 コーネリアは小屋から外へ出た半蟷螂に対して牽制の銃撃を浴びせ掛けた。カロルを抱えたジェイミーは反撃せず、ハンターたちから逃れるべく逃走を開始した。
「辛くとも、逃がすわけには……!」
 その行く先に、リューとレイア、そして、後衛のセレスティアが回り込んだ。半蟷螂は鎌を振って彼らの接近を牽制しつつ、人として残っていた両脚部分をバッタの様に変形させると、後続に追い付かれて囲まれる前に小屋の屋根へと跳躍した。
 そのまま隣りのバラックの屋根へと跳んで引き離しに掛かる飛蝗脚蟷螂。サクラが自分の頭上を跳び過ぎていったそれを振り仰ぎつつ脚を止め、手を振り、闇の刃を振るって足止めを試みた。
「あまり動き回らないでください……攻撃が当てづらいですよ……」
 慎重にカロルを避けて放たれた闇の刃が、一瞬、蟷螂を空中に固着した。その間にシレークスが剛力で以って着地点のバラックを魔力の拳で破壊した。
「……ッ!」
 その瓦礫の只中に蟷螂が突っ込んだ。右手で柄、左手で柄を掴んで腰溜めに剣を構えたシアーシャがそのまま雄叫びと共にその場へ突撃。桜吹雪の目くらましと共に、柄まで抜けよとの気迫と共に戦乙女の聖銀剣を突き入れる。
 装甲にぶち当たった剣先が、反動で宙へと跳ね上がった。だが、シアーシャの一撃は、蟷螂の表皮の『装甲』に大きくヒビを入れる起点となった。
 J・Dは魔導銃「アクケルテ」を引き抜くと、そのひび割れを更に広げるべく立て続けに銃撃を浴びせ掛けた。その反対側からは盾に身を隠しながら突進したサクラは、突き出した剣の先に、振り返った蟷螂が抱えたカロルを見出し、慌てて剣を引っ込めた。
 体勢を崩したサクラに生じた隙に、だが、蟷螂の反撃は来なかった。
 ジェイミーはカロルを盾にせず、むしろ守るように抱え込んでいた。
「……ッ!」
 リューは泣きそうな表情で奥歯を噛み締めた。──この場に来た時、カロルはまだ無事だった。それは即ち、この歪虚に……いや、ジェレミーに、まだ人の心が残っているということを意味していたはず……
「せめて、人として……それが残っている内に終わりにしてやる……!」
「『すまない』と言うにも罪深い……が、せめて私の手で終わらせよう」
 レイアは蟷螂の正面で守りの構えを取ると、魔導剣と天羽羽斬の刃に魔力を纏わせ、蟷螂と二刀同士で正面から殴り合った。リューもまた篝火の紋章を剛刀へと付与して武器と自身のマテリアルを一と為すと、無数の星を軌跡に振り散りばめつつ、剛刀と超々重鞘の斬撃と殴打で敵を削りゆく。
 彼我の間に星と火花と魔力の残滓が吹き荒れた。蟷螂と前衛二人が織りなす壮絶な削り合いを、セレスティアは回復に専念して支え続けた。
 目の前で繰り広げられる目にも止まらぬ剣戟の応酬に、カロルの表情が引きつった。気付いたシアーシャが『ジェイミーに』呼び掛けた。
「お願い、カロルさんを放してあげて! よく見て、ジェイミーさん! カロルさん、戦いを怖がっている!」
 両腰の脇に構えた両拳に魔力を注ぎ込みながら、シレークスもまたカロルに魂の叫びをぶつける。
「そこの男はおめーの為に命を張ってやがるのですよ?! 何か言ってやるべきことはねーんですか?!」
 シレークスに呼び掛けられて、カロルは蟷螂の頭部に辛うじて残った人の部分に指をやった。
「……ごめんね。私も一緒に逝くから……」
 ……カロルのその言葉を聞いた瞬間、蟷螂は全力で下半身が埋まった瓦礫を吹き飛ばした。そのまま抜け出さんとする蟷螂に対してサクラが魔剣をブーメランのように投擲し…… 頭部目掛けて飛んで来たそれを蟷螂が仰け反って躱し。そうして身体が開いたところへ、『溜め』(準備)を終えたシレークスが彼女の最大最強の奥義を放った。
 シレークスの両拳とそこから放たれた魔力の一斉放射によって右脚部を消し飛ばされた蟷螂が転倒し、その左腕からカロルの身体が零れ落ちた。或いは、わざと手放したようにも見えた。
「悲しいかな、私にはお前を救うことは出来ん。最後まで人としてありたいのなら、ここで果てろ」
「すまねぇ、以外に俺があんたに掛けられる言葉は無ぇよ…… お前ェさんの無念は『あの男』とやらに有り丈ぶつけてやるさ。だから、もう休んでおきな」
 そこへコーネリアとJ・Dの猛烈な銃撃が浴びせられた。ドリルの様に高速回転を与えられた銃弾が、蟷螂の装甲を穿って砕き、ひび割れが無数の点と点に線を繋いだ。
 レイアが二刀から放った魔力の刃が、蟷螂の右腕と左腕を斬り裂いた。
「『星竜』……!」
 リューが放った光の竜が、宙舞う星を喰らいながら蟷螂の胴に大穴を開け、呑み込んだ。
「次は……二度と間違えるんじゃねーですよ……」
 シレークスがポツリと呟き、闇色の粒子と化して消えたジェイミーに祈りの言葉を捧げた。


 なぜ共に死なせてくれなかったのか── 幼馴染が消えた空に向かって、カロルはそう問うて泣いた。
 ジェイミーを斃した当人であるハンターたちには、掛けるべき慰めの言葉もなかった。
 半刻後──カロルが落ち着くのを待って、ハンターたちは彼女の今後について話を訊いた。
「ノエルの元に戻りたいというのであればそうします。ですが、そうでないのなら……」
「あんたが拒むってェなら、こちとら意地でも渡さんよ。なに、人様の足下ォ見て巻き上げた質草だ。諦め時くれえは弁えてるタマだろうさ」
 サクラとJ・Dの言葉に、カロルは俯いたまま答えなかった。
 実の両親に先立たれ、育ての親には売り払われた。幼馴染の恋人はそんな自分を助けようとして人外と化し、命を落とした。
「こんな私に、今後も生きていく意味と価値なんて……」
「あります」
 シレークスがカロルの襟首を掴んで断言した。
「弔いは、おめーがやりやがるです」

 ジェイミーの討伐を、ハンターたちはノエルに報告した。
 カロルは既に死んでいた、と報告を受けたノエルは、「そうか……」とだけ呟いて肩を落とした。

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参加者一覧

  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士

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J・D(ka3351
エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2019/03/23 13:21:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/22 00:27:50