よろしく、ヴァネッサ姐さん!

マスター:村井朋靖

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/25 19:00
完成日
2014/07/02 19:23

みんなの思い出

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オープニング

●目には目を
 港湾都市ポルトワールに存在する「ダウンタウン」とは、この都市に点在する裏街道の総称だ。
 リーダーのヴァネッサ(kz0030)は、いつもどこかに潜伏し、同盟海軍……いや「提督」こと、モデスト・サンテ少将を煙に巻く。今日も一仕事終え、どこぞのアジトでゆったりとくつろいでいた。

 今日は部下を引き連れ、ポルトワール都市統合本部で黒い噂となっている商店の積荷を奪う手筈になっている。
 ここは以前から「ご禁制の品を密輸している」という悪評が立っていたが、いくら調査しても肝心の証拠が出てこない。代表のロメオ・ガッディが「このままだと手詰まりだ」と頭を抱えているところに、ヴァネッサが気まぐれに尋ねてきた。これは数日前の出来事である。
「統治者が苦渋の表情を浮かべたところで、まぁ一銭にもならないね」
 普段はヴァリオス商工会のお偉方が言いそうな嫌味をダウンタウンのリーダーが言い放ち、「いったいどうしたね?」と続けた。
「ちゃっかり聞くんですね。ヴァネッサさんもご存知でしょうけど、噂のマルコ商店に抜き打ち検査をしたんですけど、また空振りで……」
 都市統合本部の調査した結果、マルコ商店の帳簿から不正の痕跡を見つけており、クロであることは間違いない。しかし誰もが納得するような証拠を握れず、しかも抜き打ち検査を3度も行ったため、もはや八方塞がりの状態だ。それでロメオは頭を抱えている。
「なんだ、そんなことか。それじゃ、いくつか積荷を失敬してやろうかね」
 これには、さすがのロメオも驚く。
「まさか、盗る気じゃないでしょうね?」
「ああ、今日は盗らない。3日くらい間を置く」
 ロメオは微妙に話が噛み合っていないのを気にして、頭を掻いた。
「そんな顔するな。私が積荷の検査を請け負うだけの話だろう」
「……………」
 今回の件とは関係のない違法で高価な荷がいくつか消えても、それは許容範囲だろ? ……ヴァネッサはそう訴えた。
 相変わらず渋い表情を見せるロメオだが、今回は条件を提示する。
「明確な悪事の証拠を掴んだら、必ずこっちに手渡してください。それをせずに盗んだら、同盟海軍に訴えます」
「その辺はわきまえてるつもりなんだけどね。まったく信用がないな、代表は」
 ヴァネッサは笑いながらその条件を飲み、作戦を決行する旨を伝える。そしてその帰り、なぜかハンターオフィスに立ち寄ってから、この日の根城に帰った。

●罠には罠を
 この日の夜。ヴァネッサはマルコ商店の積荷を収めた倉庫へと侵入。天井付近の窓からというあたり、手馴れた感がある。そして2人の部下と手分けし、問題の品の発見を目指す。
「お前たちは奥から探してくれ。私は手前から探す」
 彼女は小声で指示を伝え、さっそく仕事を開始しようと思いきや、いきなり見張りらしき女性と遭遇した。ヴァネッサはとっさにナイフを抜いて警戒するが、よく見れば「両家のお嬢様」としか見えない風貌ではないか。しかも目が合った瞬間、相手の顔がパアッと明るくなった。
「これで暗殺者ってなら、私はいろいろ諦めるよ。キミ、名前は?」
「は、はい! あたしマルコの娘で、マリカといいます!」
 彼女が勢いよく深々とお辞儀すると、軽やかに赤毛の長髪が揺れる。服は淡い桃色のロングワンピース姿だし、ひとまず自己紹介は信用できそうだ。
「で、マルコ商会の娘さんが、私を待ってる理由はないと思うけど」
「ヴァネッサさん。実は、見ていただきたいものがあります」
 マリカがおもむろに積荷を小刀で開くと、そこには魔導銃がギッシリ詰まっていた。ヴァネッサは一瞥しただけで、これらを本物と見抜く。
「小麦の袋に銃を入れてるとなれば、これは動かぬ証拠になるね。でも、これは証拠として使えるかな?」
 これを聞いたマリカは意外そうに「えっ?」と声を上げると、ヴァネッサは微笑みながらあごで周囲を指す。
「今頃、この倉庫の周りに、マルコ商会の雇った始末屋が手ぐすね引いて待ってるのさ。そいつらが、私らと証拠を始末するってわけ」
 相手は、今まで都市統合本部を騙してきた難敵。これくらいの用心と大胆さは持ち合わせているだろう。ヴァネッサはそう語った。もっとも、彼女が商会の立場ならほぼ同じことを考えるので、ここまでの推測は容易だったともいえる。
 だが、マリカの件は予想外だ。マルコ商会は娘の裏切りに気づいているだろうが、ヴァネッサにはまったく心当たりがない。
「ところで、なんで私の来るようなところで待ってたんだい?」
 疑問を抱くリーダーは、あえて本人に問い質す。
「あ、あの……あたし、ヴァネッサさんのファンなんです! 不正を働く父よりも、あなたの下で働きたくって、それで……」
「それでこんなところで待ってたってのかい? やれやれ、とんだおてんば娘ね」
 ヴァネッサが首を竦めて「悪人よか肝が据わってるね」と呟くと、不意に倉庫の外から悲鳴が響き渡る。何とも醜い、野太い男の声だ。それと同時に、喧騒が沸き起こる。
「そ、外で何が起こったんでしょうか……!」
「私は事前にこうなることを予想してたからね。前もって、ハンターオフィスに依頼を出しておいた。『マルコ商会の持つ倉庫の周辺にならず者が集まってるから、それを退治してくれ』ってね」
 ヴァネッサは「悪人の考えることはいつも同じさ」と笑った。
「さて、マリカは私にゾッコンのようだけど、今は自分の身を大切にしてほしいね。万が一この魔導銃が消されても、キミさえいればマルコ商会の不正を暴くことができる。たぶん最初から証言するつもりで、ここにいたんだろうけど」
 マリカは元気よく「そうです!」と答えるが、それを聞いたヴァネッサは、つい顔を俯かせた。
 彼女は今まさに自分の生まれ育ったであろう家を失うというのに、これだけ前向きでいられるとは……もしかしたら、サルヴァトーレ・ロッソという船に乗ってクリムゾンウェストに来た者たちも、今はそんな気持ちでいるのだろうか。
「ま、どこでだって生きていけるもんさ」
 ダウンタウンで力強く生きる者たちの姿を思い出し、ヴァネッサは微笑む。そして今は「生きること」だけを考えた。

リプレイ本文

●正面の騒ぎ
 周囲は薄暗いというのに、マルコ商会の倉庫だけは随分と賑やかだ。
 倉庫の中にはヴァネッサ一味が潜伏中。正面と裏口にならず者たちが取り囲んでいるが、さらにその外周にハンターが控えているという珍妙な光景だ。
 あまりに依頼の説明通りなので、正面付近に控えるオイレ・ミッターナハト(ka1796)は「これはなかなか」と舌を巻く。
「噂に違わず大胆なお嬢さんのようだね、ヴァネッサ嬢は」
 彼が依頼主に興味を示す一方で、辺境出身のエリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087)は、敵への興味を急速に失っていた。
「スーツの似合うポートマフィアを期待してたのですが、どこにでもいそうなチンピラですぅ」
 依頼へのやる気まで失われそうに見えたのか、隣に控えていたエヴリル・コーンウォリス(ka2206)は、まるで諭すかように話す。
「それでも、証拠と証人は何があっても護り通さなくてはなりません」
 そんな彼女の言葉に、巡間 切那(ka0583)が気だるそうに「はいはい」と答える。しかし、その顔は微笑んでいた。
「まぁ、俺としてはやりあえるんならどうだっていいけどさ」
 切那は「ひとり残らずぶっ飛ばす。これでオーケー、分かりやすいな」と続けると、エリセルも「なるほどですぅ」とショートソードを構えた。
「ヴァネッサ嬢との連絡は任せてくれ。前もって魔導短伝話を渡してある」
 オイレがそう言うと、エヴリルは「さすがは情報屋さんですね」と感心した。
 きっとエリセルは、敵にこういうスタイリッシュさを求めていたのだろうが、その辺はすべてハンターが抑えるという現実を目の当たりにし、ついには悲しい表情を見せるのであった。

 ともかく、準備は整った。
 まず正面側が派手に騒ぎ、すぐに裏口側も連動して動く手はずになっている。
 切那はダガーを袖の内側に隠し、一般人を装ってならず者に接近。少し距離を置き、オイレが続く。
「あんた、こんな時間に何してんだ?」
 人様の倉庫の出入口の前で、大の男が揃いも揃ってこんな時間に何を……そんなことを言いたげな彼女の表情を見た連中は「お前に関係ないだろ」とか「帰った帰った」とか言い、簡単に背を向ける。相手も仕事だ。これで離れないなら、武器を振るって脅すつもりだった。
 しかし、切那はその隙を見逃さない。
 素早くダガーを取り出すと同時に覚醒し、黒い気を纏った。そして飛燕を駆使し、油断しきった男の首筋を切る。
 勢いよく噴き出す血を見つめる彼女の目は、すでに紅蓮に染まっていた。
「な! あがが……お、お前……!」
「傷は手で押さえろ。たぶん死なないさ」
 相手がハンターだとわかり、ならず者たちもようやく状況の悪さに気づく。
 だが、初手を逃した代償は彼らの想像以上に大きい。オイレは瞬時にリボルバーを抜き、なるべく奥にいる敵を狙い撃つ。
 エリセルもランアウトを使い、手近な者を斬りつけるが、彼女の狙いはあくまでリーダー。敵を斬りつつ、存分に観察眼を発揮する。
「抵抗しないことをお勧めしますぅ。でないと、死んでも知りませんよぉ?」
 斬られた方は「何をぅ!」と叫んで突っ込んでくるが、エリセルは剣の柄を腹に当てて黙らせた。
「うるさいですぅ」
 エヴリルは、切那とエリセルにプロテクションを施し、自らもロッドを手にし、中衛として立ち塞がった。
「リアルブルーの諺でしたか、『憎まれっ子世に憚る』とはよく言ったものですね」
 敵の攻撃を避けながら、彼女はそんなことを口にする。
 そんな憎まれっ子のひとりが、戦闘の輪から離れようとしていた。どうやら裏口の仲間に状況を伝えるつもりだったらしいが、あえて別の場所に潜伏していたライル・ギルバート(ka2077)が路地から腕を伸ばして捕獲。余った手で口を塞ぎ、喉元をダガーで切って、再び道に放り出した。
「余計な悲鳴をあげられちゃたまんないからな」
 彼は朱に染まる路上を見向きもせず、またいいポジションを探し、暗い路地を縫うように移動する。

 一度掴んだチャンスは、決して手放さない。
 今後も戦況を有利に運ぶべく、正面に陣取った誰もが、自分の役割を果たそうと奮闘した。

●裏口の3人
 正面での騒ぎが派手なおかげで、裏口に詰めていたハンターたちも速やかに行動を開始できた。
「んじゃま、チンピラどもの鎮圧といきますかね」
 アニス・テスタロッサ(ka0141)はリボルバーを準備し、合図を出した。
 その後ろでは、ロープを振り回して遊んでいるヤナギ・エリューナク(ka0265)が「指揮官はできれば捕縛と行きたいトコロかねェ」と呟く。
「それは俺に任せろ。すぐにそのロープで遊ばせてやるよ」
 そんなアニスの心強い言葉に、ヤナギは「今日の仕事はロックだねぇ」と評する。自分のリズムを敵に刻み込むライブの幕開けは、まもなくだ。

「こんなところで何やってんだ。この辺りに人が集まるって話は聞いてないぞ」
 アニスはやや威圧感のある物言いを浴びせ、敵の動向を探る。
 ならず者たちの耳にも正面での騒ぎは届いており、今まさに手勢を移動させようとする瞬間の出来事だ。誰の顔にも動揺が見られたが、この場はひとりの男が前に出る。もはや立ち振る舞いから軽薄で、いかにもハズレの匂いが漂ってきた。
「それは海軍の兵隊さんにでも聞いてくださいよぉ~」
「おーおー止めときな、そういう薄っぺらいの。そいつ、ジョーダン通じねェから」
 ヤナギのアシストを受け、アニスは「責任者は誰だ」と続ける。すると、まだマシな表情をした男が「俺だ」と前に出た。
「仲間が無礼を働いたことについては詫びよう。だが、我々にも留まる理由があってだな」
「解散する気はないのか、お前等?」
 アニスがそう言うが早いか、いきなりリボルバーを抜き、マシな男の右胸に遠慮なくぶっ放す!
「ブボッ!」
「な、な……兄貴に何しやがんだ、このアマぁ!」
 この反応を見て「撃たれた男がリーダーだ」と確信したヤナギは、先端を輪にしたロープをひょいと投げて捕獲。あっさりと男の身柄を押さえた。
「だから止めとけっつったのに……」
 ヤナギはそう言いながらも、実にいい笑顔を浮かべる。
 敵はこれに腹を立てる元気があり、誰もが武器を抜いて応戦の構えを取った。
 そんな威勢のいい奴は、ミスティ・メイフィールド(ka0782)の放つウィンドスラッシュに身を切られ、あっという間に地面へと転がされる。
「ぐわっ! 痛てぇ、痛てぇー!」
「ま、まだ敵がいたのか……!」
「悪りィ、キュートなメンバーの紹介を忘れてたゼ」
 口笛をヒューと鳴らし、ミスティの登場を演出するヤナギ。
「ま、ならず者に対して名乗りなどしませんわ。聞かせてる時間が惜しいですもの」
 ミスティなる少女、見た目や言葉遣いから得られる高貴なエルフの印象と、言葉の端々から尊大さがにじみ出るギャップがとても印象的だ。
「この辺りを血風呂(ブラッドバス)に変えたくなけりゃ、大人しく解散しとけ」
 アニスはそう宣言するなり、容赦なく敵の急所を狙って射撃。雑魚はこれを受けた反動で倉庫の壁まで体が吹っ飛ばされ、ついにはピクリとも動かなくなった。
「次にこうなりたい奴、来いよ。さもなきゃケツまくって消えな」
「いちおうロープは人数分用意してるンだが、こりゃ必要なくなるかなァ?」
「下っ端さんは大人しくしていれば、命までは取りませんわ」
 恐怖のハンター3人に凄まれ、裏口の敵は戦意喪失まであと一押し。はたして指揮官を失ったならず者に勝ち目はあるのか?

●指揮官を狙え
 一方、正面での展開は依然として有利だ。
 切那はわざと倉庫の壁を背にして敵の攻撃を誘い、それを器用に壁走りで回避した後にスラッシュエッジを乗せた斬撃で脇腹を抉る。
「ぐえっ!」
「ったく、女相手になさけねぇな?」
 ここまでコケにされては、敵も頭に血が上るというもの。今度は集団で囲もうとするが、エリセルが再度の急接近でそれを阻み、豪快に急所を蹴り上げる。
「ンンガゥアアァァーーー!」
「……またつまらぬものを蹴ってしまいましたぁ」
 その後もあまりにやかましいので、エリセルは剣の柄で頭を殴って気絶させた。敵はしばらく、股の辺りを警戒しながら戦うハメに。
「ま、悲哀を感じずにはいられないね。同じ男としては」
 口では同情するものの、オイレは容赦しない。倉庫の入口を目指す素振りを見せる敵に牽制すべく、何度も銃声を響かせた。
 とはいえ、目的意識を持って中に突入しようという敵はまだ見当たらず、これにはエヴリルも首を傾げる。
「敵も半数を切ろうかという頃ですので、そろそろ動きがあるでしょうか……」
 オイレは「だろうね」と短く答え、ヴァネッサに預けてある魔導短伝話を使い、連絡を入れる。
「もしもしヴァネッサ嬢、裏の勝手口の方に回れますか?」
「了解、向かおう」
 倉庫内からも騒動が聞こえているだろうが、相手はそういう確認をまったくせずに伝話を切った。
 このオイレの動作を見た敵のひとりが、慌てて入口へ駆け込もうと動き出す。その後を2人ほど追うが、このまま中に入ってしまうと厄介だ。
「行かせません!」
 その先頭を行くのは、エヴリルが探していたリーダーだ。
 彼女はロッドを天に掲げ、光の弾で突入を阻もうとする。それが目標の背中で弾けると、追いかけた手下が大いに驚いた。
「うひゃあぁぁ~~~!」
「大声出すな。やかましい」
 ライルは突入を見越して倉庫の壁伝いに移動し、すでに先回りしていた。
 まずは雑魚とダガーで応戦。もうひとりにはナイフを投げて牽制し、同じ目標に向けてオイレが銃撃でカバーする。
「それじゃあ、私はリーダーを狙いますぅ」
 打ち合わせ通り、エリセルがリーダーを抑える。
 さすがに手下と違って武器の扱いには馴れているが、もはや大勢が決した今では脅威とはならない。
 エリセルはうまく身を捻って攻撃を避けるも、予期せぬ連撃で手傷を負わされた。しかしエヴリルが即座にヒールを施す。
「マリカさんの元へは行かせません!」
 そして再びのホーリーライトでリーダーの腹を穿つと、エリセルも同じ場所に剣の柄を突き立てた。
「グボアッ! ぐはっ……」
「さて、リーダーは縛り上げておきますかぁ」
 エリセルがロープで縛る間、ライルが雑魚ひとりを片付け、敵の数はガクンと減った。
 その状況を見定めて、後衛のオイレが前に出る。そして場違いなほどいい笑顔を浮かべ、リーダーの頭に銃を突きつけた。
「俺、まだコレ持ち慣れてなくて。うっかり暴発しちゃわないうちに、さっさと引いてくれないかな」
 これを見た手下は捨て台詞すら吐かず、さっさとその場から逃げていった。

●ハンターズハーモニー
 ヴァネッサたちが倉庫の裏へ移動を済ませると、不意に勝手口が開いた。
 一味の連中がとっさに身構えるが、そこに姿を現したのは味方のヤナギである。
「おぅ、援護に来たゼ。お姫さん方?」
 ウインクを交えての登場に、ヴァネッサは「いいセンスだ」と微笑む。マリカはお姫様扱いを素直に喜んだ。
「こっちはだいたい片付いたが……ん?」
「あれがヴァネッサだ! やっちまえー!」
 そこへ敵がふたりほど突入してくると、ヤナギは「おいおい、これじゃカッコつかねぇゼ」と頭を掻く。
「しょうがねぇ、デュエットお願いできるかい?」
 彼がヴァネッサに申し出ると、相手はフッと笑う。
「ちゃんとエスコートしてもらえるんだろうね?」
 ヤナギは敵を十分に引きつけた後、振り返りざまに飛燕を繰り出し、一気に先頭の敵を黙らせた。
 ヴァネッサは彼を飛び越えるほどのジャンプを披露し、後ろの敵を狙う。着地の段階で身を屈め、がら空きの脇腹に滑り込んでナイフを刺し、一気に沈めた。
「ぐあっ……」
「へぇ、ツインヴォーカルもイケるねェ」
 開かれた勝手口の向こうから、アニスが顔を覗かせた。勝手口の始末が終わったらしい。
「あんたらはともかく、マリカは無事か?」
 これを聞いたヴァネッサは、思わずヤナギと顔を見合わせる。そこへミスティもやってきた。
「ヴァネッサさんの機転を考慮すると、心配が杞憂に終わるのは明白ですの」
「それは褒め言葉だね」
 彼女は悪びれもせず、胸を張ってそう言った。

 そして正面からもハンターの応援が駆けつけ、事件は無事に解決した。


●依頼の後で
 犯行を指揮していたリーダーの口から、目的が「禁制品とヴァネッサ一味の始末、ならびにマリカの保護」だったことが判明した。
 彼らを同盟海軍に引き渡せば、マルコ商会の悪事も白日の下に晒され、逃げた手下までまとめて御用になるという寸法である。マリカも証言を希望しており、事件はスピード解決となるだろう。

 ライルはヴァネッサに挨拶しておこうと思い、彼女と対面。そこで「なかなかの美人だな」と驚いた。
「人は見かけによらないものだな」
「また何かあれば、ダウンタウンに来ればいい。ま、大した歓迎はできないけどさ」
 そんなことを言うヴァネッサの元へ、今度はオイレがやってきて、挨拶と売り込みを始める。
「俺はオイレ・ミッターナハト、君のファン兼しがない情報屋だよ。どうぞお見知りおきを」
「今日は私のファンと出会う日のようだ。今後ともよろしく頼むよ。短伝話、助かった」
 彼女はオイレに魔導短伝話を返すと、ポンポンと肩を叩く。
「そういえばヴァネッサさん、荷物の検査をするとか言ってた気がしますぅ。私も見ていいですかぁ?」
 珍しい物の蒐集が趣味のエリセルが尋ねると、ヴァネッサが「いいね、それ」と微笑んだ。エリセルは他の証拠を探すつもりなのだが、ヴァネッサには別の目的があるようで……
 その意図に気づいたアニスと切那は、ジト目で義賊の動作を見守る。
「アレ、いいもんあったら盗る気だよな?」
「たぶんな。わかりやすいな、ヴァネッサも……」
 しかし、傍には検査に興味を持ったミスティーとエヴリルもいるので、露骨に盗ったりはしないだろう。ふたりは腕組みのポーズのまま、黙ってヴァネッサの様子を伺った。

 そんな最中、ライルがヴァネッサに再び声をかけた。
「マリカはどうする? この街に住めなくなるぞ」
 自分と似た境遇の女性の身を案じたのか、彼はそう切り出した。
 ヴァネッサも「わかってる」と真顔になって頷くが、すぐにライルへ微笑み返す。
「どこでだって生きていけるもんさ。私だって、ライルだって……そうだろう?」
 彼女はすでに、腹の内で「マリカを自分のところで預かる」と決めていたらしい。さすがに義賊の一味としては無理だろうから、別の方法で働いてもらうと。
 それを聞いたライルは「安心したよ」とだけ答え、報酬の入った小袋を手にし、いずこかへと去っていった。
 このやり取りを聞いていたエヴリルは、「ここにいる皆の未来に光あらんことを」と祈る。そう、みんなの冒険はまだ始まったばかりだ。

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MVP一覧

  • 豪気の女傑
    巡間 切那ka0583
  • 挫けぬ守護者
    エヴリル・コーンウォリスka2206

重体一覧

参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ブラッド・ロック・ブルー
    ヤナギ・エリューナク(ka0265
    人間(蒼)|24才|男性|疾影士
  • 豪気の女傑
    巡間 切那(ka0583
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士
  • ※ツンは割と剥がれます
    ミスティ・メイフィールド(ka0782
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • 毒花摘み説き者
    オイレ・ミッターナハト(ka1796
    人間(紅)|34才|男性|猟撃士
  • 炎からの生還者
    ライル・ギルバート(ka2077
    ドワーフ|27才|男性|闘狩人
  • 珍品ハンター
    エリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087
    人間(紅)|22才|女性|疾影士
  • 挫けぬ守護者
    エヴリル・コーンウォリス(ka2206
    人間(紅)|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/22 02:13:33
アイコン 相談
エリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/06/25 16:31:29