ゲスト
(ka0000)
【王戦】傲慢に降伏した村
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/28 09:00
- 完成日
- 2019/04/01 20:17
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●犯罪者の隠れ里
とあるハンターオフィスに張られた依頼。
それは犯罪者共の隠れ里を壊滅させるという内容だった。
「王国騎士団は傲慢歪虚との戦いに集中していますし、衛兵も守ることで精一杯で、犯罪集団の拠点を攻めている余裕はないのです」
そんな風に受付嬢が説明する。
カウンターの上に置かれた資料には、犯罪集団が引き起こした凶悪犯罪の数々が記してあった。
強盗や誘拐、殺人……歪虚の仕業と見せかけて犯罪を行っているケースもある。
「……残念ですが、こんな世界情勢の中でも、極悪人は極悪人のようです」
両肩を落として受付嬢は言った。
世界破滅の危機が迫っている……それなのに、人は一つになりきれない。
「依頼内容としては、目標となる隠れ里を壊滅させればいいです。抵抗した者の生死は問いませんし、捕縛して法の裁きを受けさせる事もできます」
ハンター達の後に王国兵の一隊が検分に出向くという事なので、里の者を多数捕縛しても、ハンター達が連れて帰る必要はない。
誘拐された幼い子供もいるかもしれないと資料には書かれていた。
「不安なのは、王国西部で傲慢歪虚の動きが活発化している事にありますので、ご注意頂ければと思います」
場合によっては傲慢歪虚との遭遇戦もあり得るという事だろう。
そして、その不安は的中する事になるとは、この時、誰も思わなかった。
●王国西部のとある場所
ハルトフォートを舞台とした攻防戦が続いている頃、王国西部では傲慢歪虚であるミュール(kz0259)が着実に兵力を召喚していた。
「もっともっと、いっぱい呼ばないとね、ミュール」
「うん。そう思うよ、ミュール」
「ミュール、頑張りますぅ」
幾人もの分体が跳ねるように飛び回っている。
簡易版ゲートというべき立札に【変容】し、幼女達は自己の存在と引き換えにして兵力を呼んでいるのだ。
全ては、傲慢の王であるイヴ様の為――。
「ねぇねぇ、ミュール。聞いた? ここからちょっと離れた場所に、小さい村があるんだって」
「え? なになに、それ?」
「その村の住民がね、降伏してきたの」
「ふーん。良いと思うよ。だって、イヴ様はお許しになるもん」
集合場所付近は人里から離れている。そうでなければ、兵力を集合させるのは難しい事だっただろう。
それでも、完全に人間と接しないという事はない。ここは王国領内なのだ。だから、集合場所から程ほどの距離の所に村があっても不思議でもない。
「ミュール、見てきてよ。その村」
「忙しいんだけどな~」
口を尖らせながら、一人の分体がドレスの裾を揺らしながら飛んだ。
降伏すると言っておきながら、罠の可能性もあるし、村を確認する必要はあるのだ。
●降伏した村にて
ミュールが到着した時、村では武装解除がされていた。
剣や槍、弓矢といったものがシートの上に並べられている。
「思ったより、沢山だね~」
興味津々に武器をみつめるミュール。
そこに、先に現地入りしていた傲慢歪虚がやって来た。ミュールの立札から出現した歪虚ではない。
「誰かと思ったらミュールの使いか。何の用だ?」
「何の用って、ミュールが来ちゃいけないの?」
「聞いているのは我だ。答えないのであれば邪魔だから消えろ」
その傲慢歪虚は煌びやかな衣服のようなものに身を包んだ人型の姿をしていた。
豊満な胸のラインに沿って宝石が散りばめられ、やはり、眩しい装飾がされたベルトが、キュっとくびれを強調している。
真っ白な肌。背には禍々しい黒い翼。整った顔立ちは、自分が高貴な存在だと主張しているようだった。
「集合の邪魔になるようなら、壊しちゃうからだよ!」
「そんな所に集合場所を作ったミュールが悪い。この村は、とても有益な村なのだ」
「うーん……どんな風に?」
首を傾げたミュールに傲慢歪虚は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「ここは人間共の悪人が集まった村だ。恐喝・強盗・誘拐・略奪・殺人……何でもありだ」
一応、村には長がおり、一定のルールは設けられているようだが、それ以外は自由だった。
人里離れた場所に村が存在していたのも、為政者に見つからないようにした為だろう。
その時、二体の歪虚の傍を、滴る真っ赤な血を残して一台の荷車が抜けていった。
「なにあれ?」
「村の決め事に反対した者や、堕落者にしても戦力にならないガキを処分した」
どこか村はずれに捨てられにいく所だったのだろうか。
ミュールも子供な姿だが、それよりも小さい子の、小さい手が肉塊の中から見えていた。
「…………分かったよ。ミュールね、この村を壊すね」
「は? 何言ってるんだ。戦力になるのだぞ」
全員を堕落者にすれば、それなりの戦力にはなるだろう。
しかも使い捨てにしたって構わないのだ。
しかし、ミュールはそんな事は気にしなかった。戦力など、もともと、溢れるほどあるのだから。
「だって、勝手に処分したよね。この村はイヴ様に降伏したんだから、全部、イヴ様のものだよ!」
「全くもって意味不明だな。お前が村を壊すというのも勝手な行動だろ」
「違うよ。だって、ミュールの行動はぜーんぶ、イヴ様のためだもん!」
負のマテリアルを噴出させてミュールは叫ぶ。
それを交戦意思と傲慢歪虚は受け取ったようだった。
「分体如きが、我に勝てると? お前を喰らってやるわ!」
そんなやり取りがされている、まさにその時、ハンター達は村に到着したのであった――。
とあるハンターオフィスに張られた依頼。
それは犯罪者共の隠れ里を壊滅させるという内容だった。
「王国騎士団は傲慢歪虚との戦いに集中していますし、衛兵も守ることで精一杯で、犯罪集団の拠点を攻めている余裕はないのです」
そんな風に受付嬢が説明する。
カウンターの上に置かれた資料には、犯罪集団が引き起こした凶悪犯罪の数々が記してあった。
強盗や誘拐、殺人……歪虚の仕業と見せかけて犯罪を行っているケースもある。
「……残念ですが、こんな世界情勢の中でも、極悪人は極悪人のようです」
両肩を落として受付嬢は言った。
世界破滅の危機が迫っている……それなのに、人は一つになりきれない。
「依頼内容としては、目標となる隠れ里を壊滅させればいいです。抵抗した者の生死は問いませんし、捕縛して法の裁きを受けさせる事もできます」
ハンター達の後に王国兵の一隊が検分に出向くという事なので、里の者を多数捕縛しても、ハンター達が連れて帰る必要はない。
誘拐された幼い子供もいるかもしれないと資料には書かれていた。
「不安なのは、王国西部で傲慢歪虚の動きが活発化している事にありますので、ご注意頂ければと思います」
場合によっては傲慢歪虚との遭遇戦もあり得るという事だろう。
そして、その不安は的中する事になるとは、この時、誰も思わなかった。
●王国西部のとある場所
ハルトフォートを舞台とした攻防戦が続いている頃、王国西部では傲慢歪虚であるミュール(kz0259)が着実に兵力を召喚していた。
「もっともっと、いっぱい呼ばないとね、ミュール」
「うん。そう思うよ、ミュール」
「ミュール、頑張りますぅ」
幾人もの分体が跳ねるように飛び回っている。
簡易版ゲートというべき立札に【変容】し、幼女達は自己の存在と引き換えにして兵力を呼んでいるのだ。
全ては、傲慢の王であるイヴ様の為――。
「ねぇねぇ、ミュール。聞いた? ここからちょっと離れた場所に、小さい村があるんだって」
「え? なになに、それ?」
「その村の住民がね、降伏してきたの」
「ふーん。良いと思うよ。だって、イヴ様はお許しになるもん」
集合場所付近は人里から離れている。そうでなければ、兵力を集合させるのは難しい事だっただろう。
それでも、完全に人間と接しないという事はない。ここは王国領内なのだ。だから、集合場所から程ほどの距離の所に村があっても不思議でもない。
「ミュール、見てきてよ。その村」
「忙しいんだけどな~」
口を尖らせながら、一人の分体がドレスの裾を揺らしながら飛んだ。
降伏すると言っておきながら、罠の可能性もあるし、村を確認する必要はあるのだ。
●降伏した村にて
ミュールが到着した時、村では武装解除がされていた。
剣や槍、弓矢といったものがシートの上に並べられている。
「思ったより、沢山だね~」
興味津々に武器をみつめるミュール。
そこに、先に現地入りしていた傲慢歪虚がやって来た。ミュールの立札から出現した歪虚ではない。
「誰かと思ったらミュールの使いか。何の用だ?」
「何の用って、ミュールが来ちゃいけないの?」
「聞いているのは我だ。答えないのであれば邪魔だから消えろ」
その傲慢歪虚は煌びやかな衣服のようなものに身を包んだ人型の姿をしていた。
豊満な胸のラインに沿って宝石が散りばめられ、やはり、眩しい装飾がされたベルトが、キュっとくびれを強調している。
真っ白な肌。背には禍々しい黒い翼。整った顔立ちは、自分が高貴な存在だと主張しているようだった。
「集合の邪魔になるようなら、壊しちゃうからだよ!」
「そんな所に集合場所を作ったミュールが悪い。この村は、とても有益な村なのだ」
「うーん……どんな風に?」
首を傾げたミュールに傲慢歪虚は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「ここは人間共の悪人が集まった村だ。恐喝・強盗・誘拐・略奪・殺人……何でもありだ」
一応、村には長がおり、一定のルールは設けられているようだが、それ以外は自由だった。
人里離れた場所に村が存在していたのも、為政者に見つからないようにした為だろう。
その時、二体の歪虚の傍を、滴る真っ赤な血を残して一台の荷車が抜けていった。
「なにあれ?」
「村の決め事に反対した者や、堕落者にしても戦力にならないガキを処分した」
どこか村はずれに捨てられにいく所だったのだろうか。
ミュールも子供な姿だが、それよりも小さい子の、小さい手が肉塊の中から見えていた。
「…………分かったよ。ミュールね、この村を壊すね」
「は? 何言ってるんだ。戦力になるのだぞ」
全員を堕落者にすれば、それなりの戦力にはなるだろう。
しかも使い捨てにしたって構わないのだ。
しかし、ミュールはそんな事は気にしなかった。戦力など、もともと、溢れるほどあるのだから。
「だって、勝手に処分したよね。この村はイヴ様に降伏したんだから、全部、イヴ様のものだよ!」
「全くもって意味不明だな。お前が村を壊すというのも勝手な行動だろ」
「違うよ。だって、ミュールの行動はぜーんぶ、イヴ様のためだもん!」
負のマテリアルを噴出させてミュールは叫ぶ。
それを交戦意思と傲慢歪虚は受け取ったようだった。
「分体如きが、我に勝てると? お前を喰らってやるわ!」
そんなやり取りがされている、まさにその時、ハンター達は村に到着したのであった――。
リプレイ本文
●
「犯罪者の隠れ里か……こう言ったものが無くなることはないんだろうな」
抜き身の法術刀を構える事もせず、拠点の正面から堂々と踏み入るアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
全身から発せられる物々しい雰囲気に、悪党どももただならぬ気配を感じたようだ。
悪者ほど、そういう勘は鋭い。ただ、間抜けな事にアルトの力量は計り間違ったようだ。
「やっちまえぇぇぇ!」
十数人近い堕落者と悪党が一斉に掛かってきた。
これほどの人数を捌けるはずがない……というのは少なくとも、アルトには適用しなかった。
「話にもならないな」
どうしても避けられない攻撃――クリティカル――というものが存在するが、全く、問題にならない。
当たるか当たらないかという微妙な状態を維持し、押せば倒せるかもしれないという認識を持たせながら、アルトは戦う。
「侵入者は3、4人だ! 逃がさないように囲め!」
家々からも扉が開き、犯罪者共が次々に飛び出してくる。
それはアルトの後ろから着いてきたトリプルJ(ka6653)にも襲い掛かって来た。
「野盗と歪虚が居なくなりゃ、ここはまだ隠れ里的に使えそうだけどな……」
拠点の状況を観察しつつ、トリプルJは古代大剣を振るう。
それだけで、堕落者ではない悪党は吹き飛ぶ。
高レベルのハンターと一般人の力量さは圧倒的だ。
「お前が親玉か! どこの組織の者だ!」
悪党の一人が見た目の風貌からトリプルJを侵入者のボスと見たようだ。
アルトはどちらかというと傭兵らしい雰囲気なので、そう思われたのだろう。
「馬鹿か、戦闘中だろ!」
ぶっきらぼうに答えると、グググっと柄を力強く握る。
込められるマテリアルが大剣から放たれる禍々しいオーラをより一層強くする。
刹那、踏み込みと同時に、身体を大回転して大剣を振り回した。それは単純ながらも恐るべき範囲を薙ぎ払い、次々に敵を文字通り粉砕した。
「覚醒者だ。遠くから弓矢でねr……う、うわぁぁぁ!」
屋根の上で弓を構えていた堕落者が台詞の途中で落下した。
ドサっと地面に落ちると、塵となって消えていく。
「今更、人殺しに躊躇いもないわね……」
冷めた目で大鎌をクルクルと回しながら、十色 エニア(ka0370)が呟く。
エニアは屋根に上がっていた。この方が犯罪者集団の動きもよく見えるし、それに、飛び道具を使う敵や逃げ出そうとする敵を早く発見できる。
「乱戦になる前に、もう一度唱える事ができそうかな」
「あそこだ! 屋根の上だ!」
粗末な屋根に出現した死神の存在に気が付いた堕落者がナイフを投げてくるがエニアは難なく避ける。
妖精の幻影がエニアの周囲を飛び回る中、彼の詠唱は続く。
「……無限の彼方より至る、破滅を呼ぶ永遠の旅人よ。その姿を現し、我が敵に劫火の鉄槌を与えよ!」
幾個の火球が生み出されると、それらが敵に向かって放たれる。
メテオスウォームの魔法が再び降り注ぎ、アルトやトリプルJを狙っていた飛び道具持ちは次々に倒れた。
「まぁ、こんな所かしらね」
この後は乱戦気味になるだろうと判断し、エニアはフォースリングを煌めかせた。
派手な魔法を使った為、敵が集まってくるが、その方が“都合”が良かった。
「わらわらと出てきやがって!」
多少の攻撃は防具に任せ、トリプルJは変わらず大剣を振り回す。
手強いとみた敵が一瞬、怯んだ所をアルトが見逃すはずがない。炎の花びらのような残滓を残し、拠点内を疾走しつつ法術刀を振るった。
「手加減する方が難しいな」
彼女が通過した後に、立っている者はいなかった。
●
幾枚かの符をめくる、真剣な表情の夜桜 奏音(ka5754)。
「犯罪者たちに誘拐された人がいるか占ってみますかね」
一応、事前情報では拉致や誘拐された人がいるとの事だ。
依頼内容には入っていなかったが、そうした人がいるのなら、救助しておきたい所だ。
「ルンルン忍法を駆使して、囚われの人達を救出しつつ、犯罪者集団の拠点を壊滅させちゃいます!」
いつも通り、元気な様子で身体を揺らしながら、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が宣言していた。
そして、得意そうに人差し指を立てると言う。
「相手は極悪犯罪者集団らしいし、そういう人の所には、囚われの人がいるとお約束で決まっているものです」
「そうですね。万が一の時に人質にする可能性もあります」
頷いて答える奏音の言う通り、相手は人間のクズの中のクズなのだ。
人質を取って対抗してきそうな事ぐらいは容易に想像ができた。
「反応があるのは奥の方ですね」
「エニアさんからの連絡によると、奥の方に塀に囲まれた家があるみたいだから、きっと、そこです!」
目星が決まれば早いものだ。
敵に見つからないように二人は移動する。
その辺りは忍者だと自称するだけあって、ルンルンが率先していた。
「発見迄は交戦を避けたいもの……ニンジャの腕の見せ所です」
「目標となる家の近くに到着したら、生命感知を使いますね」
万が一、敵と遭遇した時に備えて符を構えていた奏音は、滑り込むように拠点奥の建物横へと到着した。
意識を集中させ、結界を構築する――と、すぐに反応があった。幾人かの生命を感じる。
犯罪者共は別動隊との戦いに集中しているようで、見張りもいない。建物に踏み込むのは今が好機といえよう。
「どうやら、中に居るのは保護しないといけない感じの人達みたいですね。今、入口の鍵を開けます!」
式符を建物の中に入り込ませたルンルンが状況を確認し、シーブスツールを取り出した。
奏音はルンルンの準備の良さに感心した。鍵は最悪壊せばいいが、無駄な物音を立てなくて済むのは良い事だ。
「助けに来たと告げて、まずは安心させたいですね」
ホッとしながらも周囲を警戒しつつ、奏音はそう言った。
拠点から脱出するかどうかは、状況によるだろうが、一先ず、保護ができそうだ。
●
アルトが双眼鏡で確認した情報と事前情報を照らし合わせ、ヴァイス(ka0364)とUisca Amhran(ka0754)の二人は村の塀沿いに奥へと移動していた。
「受付嬢の不安が的中したようだな……しかし、様子が変だな」
これだけの規模で堕落者がいるのであれば、契約元となる歪虚だっているはずだ。
だが、正面から乗り込んだ仲間達から、歪虚は姿を見せていないという。
「地図上だと、この辺りで広場になるはずです」
Uiscaが箒に跨った。飛び越えるつもりのようだ。
一方のヴァイスは大鎌を最上段に構える。物理的に塀を破壊して突破するのだろう。
マテリアルのオーラを噴出するヴァイスよりも一足早く、広場に到着したUiscaは、二体の歪虚の姿を確認した。
「ミュールちゃん!?」
「イスカお姉ちゃん!?」
「隙ありだ!」
驚くミュール(kz0259)分体に対し、傲慢美女が負のマテリアルの刃を容赦なく振り下ろす。
それを、Uiscaは割って入り、盾で受け止めた。
歪虚同士の仲間割れのようにも見えるが、戸惑いもせずにUiscaは言う。
「ミュールちゃん、ひとまず、この傲慢美女さんを倒すまでは、お互いに手出ししないって事でどう?」
「ふーん。ミュールは良いよ~」
「……人間なぞと手を組むとは、所詮は堕落者だな!」
傲慢美女が両手を掲げると巨大な火球を作り出す。
しかし、放たれる前に塀をぶっ壊して突撃してきたヴァイスの鎌先が背中を抉るように貫く。
「【強制】や【懲罰】だけではなく、【変容】にも注意だ。何に変わるか油断するな!」
貫いた鎌を器用に二転三転させ、姿勢を入れ替えつつ、ヴァイスは追撃を叩き込んだ。
傲慢美女は怒りに満ちた瞳をヴァイスへと向ける。
「よほど死にたいようね!」
猛烈な負のマテリアルが無数の刃となってヴァイスに襲い掛かる。
受けたダメージをそのまま返す【懲罰】だ。だが、強い抵抗心を持って備えていたヴァイスの前に消え失せた。
「だったら、直接貫いてあげるわ!」
負のマテリアルの穂先を作り出した傲慢美女が高々と掲げると、その胴体に魔導銃の銃弾が突き刺さった。
瀬崎・統夜(ka5046)が放ったものだった。
「またミュールか。最近良く目立つな……だが、今は……」
長大なライフルのような魔導銃を抱えて、統夜は次の狙撃ポイントへと向かう。
他の堕落者や悪党共の姿は見えないのは幸いだった。
傲慢美女にとってはハンターの襲撃は予想外だった。分体とはいえ、ミュールを喰らう所を他の存在に見られたくないと、配下を遠ざけていたのだ。
「遠くに離れたからって狙われないとでも思ったのかしら! さっさと仲間を撃ち殺しなさい!」
【懲罰】とは違う負のマテリアルの流れがオーラとなって、統夜へと向かう。
抵抗できなった者を命令通りに行動させる【強制】だ。
この能力には単体と範囲と分かれる。一般的には単体の方は強度が強い。
「そんなものが来るとは予想済みだ」
統夜のサークレットから法術陣の光が放たれると、向かってくる負のマテリアルを弾け返した。
対強制精神防壁という極めて強力な能力をアイテムから解放したのだ。
「人間如きが!」
「それなりの強度のようだったが、残念だったな。こっちは傲慢との戦いに慣れているんだ」
再び銃撃。その残数を確認しながら統夜は言った。
この好機をUiscaとヴァイスは見逃さない。Uiscaの闇爪とヴァイスの大鎌が傲慢美女を切り裂く。
「おじさんの背中、借りるよぉ~」
ミュールがヴァイスの背を踏み台にして高く跳躍した。
棍棒のようなものを振り落とす瞬間、避けようとした傲慢美女の動きを統夜の銃弾が牽制。
「ぐぎゃぁぁぁ!」
絶叫を響かせながら、ミュールの棍棒と統夜のトリガーエンドがトドメとなり、傲慢美女は消滅していった。
●
傲慢美女は倒した。Uiscaは油断なくミュールへと視線を向ける。
「このままだと他のハンターと戦うことになるから……今日の所は引いて」
「それは……ないよ。だって、イスカお姉ちゃんは怒らせちゃったでしょ」
ニッコリと笑うと分体は棍棒を無造作に掲げる。
「……やはり、倒さなければならないか」
統夜は拳銃の銃口を向ける。だが、すぐには撃たない。
Uiscaがまだ、諦めていないようにも、何かを話そうとしていると分かったからだ。
「立札の召喚って絶望した人も触媒にしていたけれど、最近は自分も犠牲にしているのはなんで?」
「触媒でもなんでもないよ。だって、その人の願いを聞いていただけだから」
絶望した人が最後に願った復讐の場まで移動する為に立札を持たせたのだろう。
「今は立札の能力は取っておいて。殺された人達と同じ様に貴女が消えてしまうのは悲しいから……」
「ミュール達は最初からそのつもりだから。それにいつかは消えるから」
そう言いながら分体は棍棒で殴ってきた。
盾で受け止めるUisca。視界の片隅に、死体が満載された荷車が見えた。
「仕方ない、か」
大鎌にマテリアルを流しながらヴァイスは呟くと間合いを詰める。
それほど強そうな分体ではない。幾度か集中攻撃すれば容易には倒せるだろう。
「油断はできない。立札に【変容】する可能性もある」
銃撃しながら統夜は警戒する。
立札が開いたら、強力な傲慢歪虚が出てくる可能性があるからだ。
そこに堕落者や悪党共を殲滅させたアルトとトリプルJ、エニアが広場に到着する。
「手助けは……必要なさそうか」
「そうみたいだね」
トリプルJとエニアが見ても、戦況は一方的だった。
分体といっても、その能力は色々のようだ。強い個体もいれば、今回みたいな個体もいるのだろう。
アルトは守護者としての技を使おうとして――やめた。覚醒はしているが、次の一撃で決着が付くと判断しての事だ。
「終わったか」
統夜は拳銃を降ろす。
最後のトドメはUiscaの攻撃魔法だった。闇の爪や牙を浴びたのだ。
分体は動く事も出来ず、ボロボロと崩れ始める。
安全を確認する為、ルンルンと奏音の二人も奴隷小屋から出てきた。
「一先ずは、任務達成です!」
「この荷車……酷い事を……」
奏音の台詞に、死体を満載した荷車の存在にルンルンは気が付き、小さな悲鳴を上げる。
人がした事なのか、歪虚がした事かは分からないが、酷い事に代わりはない。
分体が荷車の方に視線を向けながら、か細い声で言う。
「……可哀想な子が、絶望する子が、いつまで経っても苦しんでる。けど、イヴ様は全てを救ってくれるの」
「私達は――」
「この子達が救える世界を、お姉ちゃん達は作れるの? そんな事できるの? できるんだったら……教えてよ……」
Uiscaの言葉を遮って分体はそう言い残しながら、塵となって消え去った。
視界の先に、荷車が見えている。幼い子供の手がまるで救いを求めているようにも見えた。
「こんなのを見てしまうと……人と歪虚の違いって何でしょうね……」
「……せめて、私達の手で荼毘しようか」
悲しそうな表情でエニアが言った。
出来る事といえば、最後は人らしく見届ける事だろう。
「俺も手伝おう。王国から検分が来るまでは、ここに居ないといけないからな」
ヴァイスが応えて荷車へと向かった。
その様子を見守りながら、トリプルJが奴隷小屋を指さす。
「帰れる奴らは町まで送るが、帰れなさそうな奴の選択肢も残した方が良いんじゃねぇか」
「一応、全員保護して、帰還するという話らしいがな」
統夜が両肩を竦めて言った。
奴隷の中には滞在を望む者もいるかもしれないが、統治できる範囲を越えている所に居させる理由もないというのが為政者の考えのようだ。
不便な場所でなければ、村を興す事も、傲慢に対する拠点として利用できたかもしれないが……。
最後まで周囲を警戒していたアルトが無言で法術刀を鞘に納める。
「……歪虚は倒す。それが、私の出来る事だ」
解のように呟く。
歪虚を倒せばそれで世界が救われるかもしれないし、少なくとも、彼女の目が届く範囲は、救えるだろう。
そして、ミュールが求めていた答えは、そこには無いという事も、アルトも、この場の誰しもが分かっていた。
「困っている子は一人でも助けたいです!」
「それが分かっていても、私達に出来る事も、また、限られています。それでも……」
ルンルンの想いも、奏音の台詞の続きも、分かっているからこそ、安易に割り切りたくはないと思う。
もし、非情に切り捨てるなら、それは、傲慢王の救済にも劣る事になりかねないから。
「……立札も使えたのに、ミュールちゃんはそうしなかった……それに、最後、あの子の顔は……」
Uiscaは涙を湛えながら思い出す。
消えゆくミュールの表情には微笑が浮かんでいた事を。
幼い少女が求める解を、きっといつかどこかで再び求められる時が来る――そう感じずにはいられなかった。
おしまい
「犯罪者の隠れ里か……こう言ったものが無くなることはないんだろうな」
抜き身の法術刀を構える事もせず、拠点の正面から堂々と踏み入るアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
全身から発せられる物々しい雰囲気に、悪党どももただならぬ気配を感じたようだ。
悪者ほど、そういう勘は鋭い。ただ、間抜けな事にアルトの力量は計り間違ったようだ。
「やっちまえぇぇぇ!」
十数人近い堕落者と悪党が一斉に掛かってきた。
これほどの人数を捌けるはずがない……というのは少なくとも、アルトには適用しなかった。
「話にもならないな」
どうしても避けられない攻撃――クリティカル――というものが存在するが、全く、問題にならない。
当たるか当たらないかという微妙な状態を維持し、押せば倒せるかもしれないという認識を持たせながら、アルトは戦う。
「侵入者は3、4人だ! 逃がさないように囲め!」
家々からも扉が開き、犯罪者共が次々に飛び出してくる。
それはアルトの後ろから着いてきたトリプルJ(ka6653)にも襲い掛かって来た。
「野盗と歪虚が居なくなりゃ、ここはまだ隠れ里的に使えそうだけどな……」
拠点の状況を観察しつつ、トリプルJは古代大剣を振るう。
それだけで、堕落者ではない悪党は吹き飛ぶ。
高レベルのハンターと一般人の力量さは圧倒的だ。
「お前が親玉か! どこの組織の者だ!」
悪党の一人が見た目の風貌からトリプルJを侵入者のボスと見たようだ。
アルトはどちらかというと傭兵らしい雰囲気なので、そう思われたのだろう。
「馬鹿か、戦闘中だろ!」
ぶっきらぼうに答えると、グググっと柄を力強く握る。
込められるマテリアルが大剣から放たれる禍々しいオーラをより一層強くする。
刹那、踏み込みと同時に、身体を大回転して大剣を振り回した。それは単純ながらも恐るべき範囲を薙ぎ払い、次々に敵を文字通り粉砕した。
「覚醒者だ。遠くから弓矢でねr……う、うわぁぁぁ!」
屋根の上で弓を構えていた堕落者が台詞の途中で落下した。
ドサっと地面に落ちると、塵となって消えていく。
「今更、人殺しに躊躇いもないわね……」
冷めた目で大鎌をクルクルと回しながら、十色 エニア(ka0370)が呟く。
エニアは屋根に上がっていた。この方が犯罪者集団の動きもよく見えるし、それに、飛び道具を使う敵や逃げ出そうとする敵を早く発見できる。
「乱戦になる前に、もう一度唱える事ができそうかな」
「あそこだ! 屋根の上だ!」
粗末な屋根に出現した死神の存在に気が付いた堕落者がナイフを投げてくるがエニアは難なく避ける。
妖精の幻影がエニアの周囲を飛び回る中、彼の詠唱は続く。
「……無限の彼方より至る、破滅を呼ぶ永遠の旅人よ。その姿を現し、我が敵に劫火の鉄槌を与えよ!」
幾個の火球が生み出されると、それらが敵に向かって放たれる。
メテオスウォームの魔法が再び降り注ぎ、アルトやトリプルJを狙っていた飛び道具持ちは次々に倒れた。
「まぁ、こんな所かしらね」
この後は乱戦気味になるだろうと判断し、エニアはフォースリングを煌めかせた。
派手な魔法を使った為、敵が集まってくるが、その方が“都合”が良かった。
「わらわらと出てきやがって!」
多少の攻撃は防具に任せ、トリプルJは変わらず大剣を振り回す。
手強いとみた敵が一瞬、怯んだ所をアルトが見逃すはずがない。炎の花びらのような残滓を残し、拠点内を疾走しつつ法術刀を振るった。
「手加減する方が難しいな」
彼女が通過した後に、立っている者はいなかった。
●
幾枚かの符をめくる、真剣な表情の夜桜 奏音(ka5754)。
「犯罪者たちに誘拐された人がいるか占ってみますかね」
一応、事前情報では拉致や誘拐された人がいるとの事だ。
依頼内容には入っていなかったが、そうした人がいるのなら、救助しておきたい所だ。
「ルンルン忍法を駆使して、囚われの人達を救出しつつ、犯罪者集団の拠点を壊滅させちゃいます!」
いつも通り、元気な様子で身体を揺らしながら、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が宣言していた。
そして、得意そうに人差し指を立てると言う。
「相手は極悪犯罪者集団らしいし、そういう人の所には、囚われの人がいるとお約束で決まっているものです」
「そうですね。万が一の時に人質にする可能性もあります」
頷いて答える奏音の言う通り、相手は人間のクズの中のクズなのだ。
人質を取って対抗してきそうな事ぐらいは容易に想像ができた。
「反応があるのは奥の方ですね」
「エニアさんからの連絡によると、奥の方に塀に囲まれた家があるみたいだから、きっと、そこです!」
目星が決まれば早いものだ。
敵に見つからないように二人は移動する。
その辺りは忍者だと自称するだけあって、ルンルンが率先していた。
「発見迄は交戦を避けたいもの……ニンジャの腕の見せ所です」
「目標となる家の近くに到着したら、生命感知を使いますね」
万が一、敵と遭遇した時に備えて符を構えていた奏音は、滑り込むように拠点奥の建物横へと到着した。
意識を集中させ、結界を構築する――と、すぐに反応があった。幾人かの生命を感じる。
犯罪者共は別動隊との戦いに集中しているようで、見張りもいない。建物に踏み込むのは今が好機といえよう。
「どうやら、中に居るのは保護しないといけない感じの人達みたいですね。今、入口の鍵を開けます!」
式符を建物の中に入り込ませたルンルンが状況を確認し、シーブスツールを取り出した。
奏音はルンルンの準備の良さに感心した。鍵は最悪壊せばいいが、無駄な物音を立てなくて済むのは良い事だ。
「助けに来たと告げて、まずは安心させたいですね」
ホッとしながらも周囲を警戒しつつ、奏音はそう言った。
拠点から脱出するかどうかは、状況によるだろうが、一先ず、保護ができそうだ。
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アルトが双眼鏡で確認した情報と事前情報を照らし合わせ、ヴァイス(ka0364)とUisca Amhran(ka0754)の二人は村の塀沿いに奥へと移動していた。
「受付嬢の不安が的中したようだな……しかし、様子が変だな」
これだけの規模で堕落者がいるのであれば、契約元となる歪虚だっているはずだ。
だが、正面から乗り込んだ仲間達から、歪虚は姿を見せていないという。
「地図上だと、この辺りで広場になるはずです」
Uiscaが箒に跨った。飛び越えるつもりのようだ。
一方のヴァイスは大鎌を最上段に構える。物理的に塀を破壊して突破するのだろう。
マテリアルのオーラを噴出するヴァイスよりも一足早く、広場に到着したUiscaは、二体の歪虚の姿を確認した。
「ミュールちゃん!?」
「イスカお姉ちゃん!?」
「隙ありだ!」
驚くミュール(kz0259)分体に対し、傲慢美女が負のマテリアルの刃を容赦なく振り下ろす。
それを、Uiscaは割って入り、盾で受け止めた。
歪虚同士の仲間割れのようにも見えるが、戸惑いもせずにUiscaは言う。
「ミュールちゃん、ひとまず、この傲慢美女さんを倒すまでは、お互いに手出ししないって事でどう?」
「ふーん。ミュールは良いよ~」
「……人間なぞと手を組むとは、所詮は堕落者だな!」
傲慢美女が両手を掲げると巨大な火球を作り出す。
しかし、放たれる前に塀をぶっ壊して突撃してきたヴァイスの鎌先が背中を抉るように貫く。
「【強制】や【懲罰】だけではなく、【変容】にも注意だ。何に変わるか油断するな!」
貫いた鎌を器用に二転三転させ、姿勢を入れ替えつつ、ヴァイスは追撃を叩き込んだ。
傲慢美女は怒りに満ちた瞳をヴァイスへと向ける。
「よほど死にたいようね!」
猛烈な負のマテリアルが無数の刃となってヴァイスに襲い掛かる。
受けたダメージをそのまま返す【懲罰】だ。だが、強い抵抗心を持って備えていたヴァイスの前に消え失せた。
「だったら、直接貫いてあげるわ!」
負のマテリアルの穂先を作り出した傲慢美女が高々と掲げると、その胴体に魔導銃の銃弾が突き刺さった。
瀬崎・統夜(ka5046)が放ったものだった。
「またミュールか。最近良く目立つな……だが、今は……」
長大なライフルのような魔導銃を抱えて、統夜は次の狙撃ポイントへと向かう。
他の堕落者や悪党共の姿は見えないのは幸いだった。
傲慢美女にとってはハンターの襲撃は予想外だった。分体とはいえ、ミュールを喰らう所を他の存在に見られたくないと、配下を遠ざけていたのだ。
「遠くに離れたからって狙われないとでも思ったのかしら! さっさと仲間を撃ち殺しなさい!」
【懲罰】とは違う負のマテリアルの流れがオーラとなって、統夜へと向かう。
抵抗できなった者を命令通りに行動させる【強制】だ。
この能力には単体と範囲と分かれる。一般的には単体の方は強度が強い。
「そんなものが来るとは予想済みだ」
統夜のサークレットから法術陣の光が放たれると、向かってくる負のマテリアルを弾け返した。
対強制精神防壁という極めて強力な能力をアイテムから解放したのだ。
「人間如きが!」
「それなりの強度のようだったが、残念だったな。こっちは傲慢との戦いに慣れているんだ」
再び銃撃。その残数を確認しながら統夜は言った。
この好機をUiscaとヴァイスは見逃さない。Uiscaの闇爪とヴァイスの大鎌が傲慢美女を切り裂く。
「おじさんの背中、借りるよぉ~」
ミュールがヴァイスの背を踏み台にして高く跳躍した。
棍棒のようなものを振り落とす瞬間、避けようとした傲慢美女の動きを統夜の銃弾が牽制。
「ぐぎゃぁぁぁ!」
絶叫を響かせながら、ミュールの棍棒と統夜のトリガーエンドがトドメとなり、傲慢美女は消滅していった。
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傲慢美女は倒した。Uiscaは油断なくミュールへと視線を向ける。
「このままだと他のハンターと戦うことになるから……今日の所は引いて」
「それは……ないよ。だって、イスカお姉ちゃんは怒らせちゃったでしょ」
ニッコリと笑うと分体は棍棒を無造作に掲げる。
「……やはり、倒さなければならないか」
統夜は拳銃の銃口を向ける。だが、すぐには撃たない。
Uiscaがまだ、諦めていないようにも、何かを話そうとしていると分かったからだ。
「立札の召喚って絶望した人も触媒にしていたけれど、最近は自分も犠牲にしているのはなんで?」
「触媒でもなんでもないよ。だって、その人の願いを聞いていただけだから」
絶望した人が最後に願った復讐の場まで移動する為に立札を持たせたのだろう。
「今は立札の能力は取っておいて。殺された人達と同じ様に貴女が消えてしまうのは悲しいから……」
「ミュール達は最初からそのつもりだから。それにいつかは消えるから」
そう言いながら分体は棍棒で殴ってきた。
盾で受け止めるUisca。視界の片隅に、死体が満載された荷車が見えた。
「仕方ない、か」
大鎌にマテリアルを流しながらヴァイスは呟くと間合いを詰める。
それほど強そうな分体ではない。幾度か集中攻撃すれば容易には倒せるだろう。
「油断はできない。立札に【変容】する可能性もある」
銃撃しながら統夜は警戒する。
立札が開いたら、強力な傲慢歪虚が出てくる可能性があるからだ。
そこに堕落者や悪党共を殲滅させたアルトとトリプルJ、エニアが広場に到着する。
「手助けは……必要なさそうか」
「そうみたいだね」
トリプルJとエニアが見ても、戦況は一方的だった。
分体といっても、その能力は色々のようだ。強い個体もいれば、今回みたいな個体もいるのだろう。
アルトは守護者としての技を使おうとして――やめた。覚醒はしているが、次の一撃で決着が付くと判断しての事だ。
「終わったか」
統夜は拳銃を降ろす。
最後のトドメはUiscaの攻撃魔法だった。闇の爪や牙を浴びたのだ。
分体は動く事も出来ず、ボロボロと崩れ始める。
安全を確認する為、ルンルンと奏音の二人も奴隷小屋から出てきた。
「一先ずは、任務達成です!」
「この荷車……酷い事を……」
奏音の台詞に、死体を満載した荷車の存在にルンルンは気が付き、小さな悲鳴を上げる。
人がした事なのか、歪虚がした事かは分からないが、酷い事に代わりはない。
分体が荷車の方に視線を向けながら、か細い声で言う。
「……可哀想な子が、絶望する子が、いつまで経っても苦しんでる。けど、イヴ様は全てを救ってくれるの」
「私達は――」
「この子達が救える世界を、お姉ちゃん達は作れるの? そんな事できるの? できるんだったら……教えてよ……」
Uiscaの言葉を遮って分体はそう言い残しながら、塵となって消え去った。
視界の先に、荷車が見えている。幼い子供の手がまるで救いを求めているようにも見えた。
「こんなのを見てしまうと……人と歪虚の違いって何でしょうね……」
「……せめて、私達の手で荼毘しようか」
悲しそうな表情でエニアが言った。
出来る事といえば、最後は人らしく見届ける事だろう。
「俺も手伝おう。王国から検分が来るまでは、ここに居ないといけないからな」
ヴァイスが応えて荷車へと向かった。
その様子を見守りながら、トリプルJが奴隷小屋を指さす。
「帰れる奴らは町まで送るが、帰れなさそうな奴の選択肢も残した方が良いんじゃねぇか」
「一応、全員保護して、帰還するという話らしいがな」
統夜が両肩を竦めて言った。
奴隷の中には滞在を望む者もいるかもしれないが、統治できる範囲を越えている所に居させる理由もないというのが為政者の考えのようだ。
不便な場所でなければ、村を興す事も、傲慢に対する拠点として利用できたかもしれないが……。
最後まで周囲を警戒していたアルトが無言で法術刀を鞘に納める。
「……歪虚は倒す。それが、私の出来る事だ」
解のように呟く。
歪虚を倒せばそれで世界が救われるかもしれないし、少なくとも、彼女の目が届く範囲は、救えるだろう。
そして、ミュールが求めていた答えは、そこには無いという事も、アルトも、この場の誰しもが分かっていた。
「困っている子は一人でも助けたいです!」
「それが分かっていても、私達に出来る事も、また、限られています。それでも……」
ルンルンの想いも、奏音の台詞の続きも、分かっているからこそ、安易に割り切りたくはないと思う。
もし、非情に切り捨てるなら、それは、傲慢王の救済にも劣る事になりかねないから。
「……立札も使えたのに、ミュールちゃんはそうしなかった……それに、最後、あの子の顔は……」
Uiscaは涙を湛えながら思い出す。
消えゆくミュールの表情には微笑が浮かんでいた事を。
幼い少女が求める解を、きっといつかどこかで再び求められる時が来る――そう感じずにはいられなかった。
おしまい
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/26 17:21:27 |
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【相談卓】傲慢に降伏した村にて Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/03/28 02:11:04 |