ゲスト
(ka0000)
対決!? 蒸気の巨人
マスター:まれのぞみ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/27 09:00
- 完成日
- 2019/04/05 01:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
汽笛がする。
まだ雪の残る大地に響き渡る蒸気の音。
線路の見えぬ雪原に音のみして、まるで夢幻かと思える。
だが――
それは現実であり、それがわかっていたからこそ、その場にいた者たちの間に、一斉に緊張が走った。
なぜならば、ここに人間たちの敷いた線路など通っていないのだ。
「準備よし」
「始めるぞ!?」
ハンターたちは雪原に掘った塹壕に身を隠した。
化け物鉄道に載った歪虚の部隊による侵攻。
世界の情勢を考えたとき、何かの陽動とも考えられるが、何もせぬまま無辜の民の住まう都市を襲われるわけにはいかない。
だから、迎撃の部隊が組まれ、派遣された。
すでに、いくつかの村々が襲われ破壊尽くされたという報告が入っている。
こうも対応が、後ろ手にまわってしまったのは、敵の強みが、なんといっても列車によるスピードと大量の人型歪虚の運搬による飽和攻撃であるからだ。
白の世界に静寂が戻ってきた。
鼓動が高まる。
雪をかき分けて、黒い列車が突っ込んできた。
突然、汽笛が鳴り、急ブレーキをかけたが、それは間にあわず、線路の先で山のように積もった雪にぶつかり、汽車は脱線して転がった。
そこへ弓矢、銃撃、魔法が襲う。
ハンターたちが、文字どうりの意味で狩人となって罠を仕掛けていたのだ。
動きが止まり、列車の中から、わらわらと出てきたマスク姿の歪虚たちが、それに対応できないでいるところへ、
「一番槍をいただく!」
槍や剣を手にハンターたちが斬りこんでいった。
ばっさ、ばっさと片付けられていく。
「笑止!?」
数のみの敵か。
「鎧袖一触、ぶつかってみればあっけいないものだ!?」
無双の業でハンターたちの一団が数倍はいる歪虚を屠っていく。
「そろそろ交代の時間か」
塹壕の中で、次に飛びかかっていく仲間たちが機を見計らっていた。
その時、
突然、歪虚たちの背後が赤く輝き、次の瞬間、歪虚たちとともに先陣をきったハンターたちを文字どうり、消し去った。
「なにが起きた?」
「わかりませ――あれ!?」
残った戦士たちが、巨大な手に捕まれていた。
「なんだ、これぇぇえ」
だが、その驚きも、最期は絶命となった。
鉄の拳に握りしめられ、体中の骨が砕けたか、内蔵が破裂したか、あるいはその両方か、その死因はわからぬまま、それっきり息をしなくなった。
「変形だと!?」
心の底からわき出る、バカだろという怒声。
その足で立ち上がった黒い機関車から、もう一方の腕と頭が飛び出てくる。
ハンターの一部にとって、いまや異世界となってしまった故郷で、幼い頃に見た子供向け番組に出てきた巨大ロボットそのものだ。
この世界に来て以来、さまざまな奇妙に出くわしているが、これほど恐怖の中にも不思議と笑いがこみ上げてくるイベントは滅多にない。
全長は十数メートルというところか――
列車の胴体に腕と足、頭は煙突。
歪虚ロボットが四つん這いになって、頭の煙突を大砲のように向けた。
塹壕の頭上を砲撃がかすめていき、数百メートル先で爆発した。
「うっ――」
そんな距離にもかかわらず、飛び散った土の中に砲弾の残骸でもまじっていたか、それをかぶった仲間が血を流す。あわてて四つん這いになりながら、ヒーラーが救護に向かった。
そっと頭を穴から出す。
巨大な鉄の歪虚を前衛において、生き残った歪虚たちが迫ってくる。
銃や魔法で迎撃をするが、ロボットが歩兵歪虚の盾となる。
「市街戦における戦車と歩兵の正しい運用方法だな」
塹壕に隠れながら、舌打ちする。
なかなか素敵な状況だ。
敵と戦わなくてはいけない時、注意するべきは精神的なプレッシャー、言い換えれば威圧感である。特に戦争においては、究極的には指揮官どうしの精神の削りあいであり、どちらが先に参ったと言わせるかが重要になってくる。
わかりやすくいえば、怯えた年少者に年上の戦士が叱咤しているように、
「びびったら負けだぞ」
ということになる。
目に見えぬ恐怖こそが戦場においては、最も忌むべき敵だ。
「どうします?」
仲間が問う。
「さて――」
あたりを見回せば、生き残った仲間の数は数人。
三分の一は生き残ったか。
対、人間サイズ歪虚の部隊ということでメンバーが選ばれ、実行された作戦であったが、状況は変わった――作戦は失敗――
「一時、撤退する」
「後方への前進ですか?」
ずたぼろになりながらも、仲間には、軽口を叩く余裕はある。
精神的にまいってはいまい。
ならば――
にっと笑って返す。
「逃げて帰って、態勢を立て直すぞ。列車相手に鉄砲で戦うのはバカだ。大砲のひとつでももってこなけりゃ、やってられないからな。生きて帰ることが出来れば、またここに戻ってこれるからな」
まだ雪の残る大地に響き渡る蒸気の音。
線路の見えぬ雪原に音のみして、まるで夢幻かと思える。
だが――
それは現実であり、それがわかっていたからこそ、その場にいた者たちの間に、一斉に緊張が走った。
なぜならば、ここに人間たちの敷いた線路など通っていないのだ。
「準備よし」
「始めるぞ!?」
ハンターたちは雪原に掘った塹壕に身を隠した。
化け物鉄道に載った歪虚の部隊による侵攻。
世界の情勢を考えたとき、何かの陽動とも考えられるが、何もせぬまま無辜の民の住まう都市を襲われるわけにはいかない。
だから、迎撃の部隊が組まれ、派遣された。
すでに、いくつかの村々が襲われ破壊尽くされたという報告が入っている。
こうも対応が、後ろ手にまわってしまったのは、敵の強みが、なんといっても列車によるスピードと大量の人型歪虚の運搬による飽和攻撃であるからだ。
白の世界に静寂が戻ってきた。
鼓動が高まる。
雪をかき分けて、黒い列車が突っ込んできた。
突然、汽笛が鳴り、急ブレーキをかけたが、それは間にあわず、線路の先で山のように積もった雪にぶつかり、汽車は脱線して転がった。
そこへ弓矢、銃撃、魔法が襲う。
ハンターたちが、文字どうりの意味で狩人となって罠を仕掛けていたのだ。
動きが止まり、列車の中から、わらわらと出てきたマスク姿の歪虚たちが、それに対応できないでいるところへ、
「一番槍をいただく!」
槍や剣を手にハンターたちが斬りこんでいった。
ばっさ、ばっさと片付けられていく。
「笑止!?」
数のみの敵か。
「鎧袖一触、ぶつかってみればあっけいないものだ!?」
無双の業でハンターたちの一団が数倍はいる歪虚を屠っていく。
「そろそろ交代の時間か」
塹壕の中で、次に飛びかかっていく仲間たちが機を見計らっていた。
その時、
突然、歪虚たちの背後が赤く輝き、次の瞬間、歪虚たちとともに先陣をきったハンターたちを文字どうり、消し去った。
「なにが起きた?」
「わかりませ――あれ!?」
残った戦士たちが、巨大な手に捕まれていた。
「なんだ、これぇぇえ」
だが、その驚きも、最期は絶命となった。
鉄の拳に握りしめられ、体中の骨が砕けたか、内蔵が破裂したか、あるいはその両方か、その死因はわからぬまま、それっきり息をしなくなった。
「変形だと!?」
心の底からわき出る、バカだろという怒声。
その足で立ち上がった黒い機関車から、もう一方の腕と頭が飛び出てくる。
ハンターの一部にとって、いまや異世界となってしまった故郷で、幼い頃に見た子供向け番組に出てきた巨大ロボットそのものだ。
この世界に来て以来、さまざまな奇妙に出くわしているが、これほど恐怖の中にも不思議と笑いがこみ上げてくるイベントは滅多にない。
全長は十数メートルというところか――
列車の胴体に腕と足、頭は煙突。
歪虚ロボットが四つん這いになって、頭の煙突を大砲のように向けた。
塹壕の頭上を砲撃がかすめていき、数百メートル先で爆発した。
「うっ――」
そんな距離にもかかわらず、飛び散った土の中に砲弾の残骸でもまじっていたか、それをかぶった仲間が血を流す。あわてて四つん這いになりながら、ヒーラーが救護に向かった。
そっと頭を穴から出す。
巨大な鉄の歪虚を前衛において、生き残った歪虚たちが迫ってくる。
銃や魔法で迎撃をするが、ロボットが歩兵歪虚の盾となる。
「市街戦における戦車と歩兵の正しい運用方法だな」
塹壕に隠れながら、舌打ちする。
なかなか素敵な状況だ。
敵と戦わなくてはいけない時、注意するべきは精神的なプレッシャー、言い換えれば威圧感である。特に戦争においては、究極的には指揮官どうしの精神の削りあいであり、どちらが先に参ったと言わせるかが重要になってくる。
わかりやすくいえば、怯えた年少者に年上の戦士が叱咤しているように、
「びびったら負けだぞ」
ということになる。
目に見えぬ恐怖こそが戦場においては、最も忌むべき敵だ。
「どうします?」
仲間が問う。
「さて――」
あたりを見回せば、生き残った仲間の数は数人。
三分の一は生き残ったか。
対、人間サイズ歪虚の部隊ということでメンバーが選ばれ、実行された作戦であったが、状況は変わった――作戦は失敗――
「一時、撤退する」
「後方への前進ですか?」
ずたぼろになりながらも、仲間には、軽口を叩く余裕はある。
精神的にまいってはいまい。
ならば――
にっと笑って返す。
「逃げて帰って、態勢を立て直すぞ。列車相手に鉄砲で戦うのはバカだ。大砲のひとつでももってこなけりゃ、やってられないからな。生きて帰ることが出来れば、またここに戻ってこれるからな」
リプレイ本文
青い空に、黒い一点。
大地の力に導かれ、それが向かっていく。
雪原にたたずむ蒸気機関車へと向かって自然の弧を描きながら落下していくと言ってもいい。
すでに本隊――という名の囮部隊――が機関車に張り付いていた有象無象の歪虚の群れを撤退――指揮官の技量によっては壊滅も免れない大博打の作戦である――を偽装することによって多くの歪虚を、そこから引き離している。
残っているモノは少数。
ならば――着弾……――そして、炸裂!?
閃光と爆風が、ひとときの静寂を破って、そこを再び戦場へと変えた。
最初の一滴となった鉄弾の破裂から、数秒と立たないうちに空から降り注ぐ鉄と炎の豪雨が雪原を春すら飛び越えて、一気に灼熱の大地へと一変させる。
空から降り注ぐ砲撃のさまは、まさに乱射乱撃雨霰。
リアルブルーの歴史に残る某大国の兵器のそれである。
異世界に独裁者のオルガンが奏でられ、破壊と殺戮の死の演奏曲を奏でる。
「さぁて、どうするかね。まあ、でかぶつだが、相手にとって不足なし」
操縦席でニヤリと笑って、指揮者が満面の笑みを浮かべている。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)。
多くの子供と孫がいる老婦人は、戦場のまっただなかにあってご機嫌である。
自慢の愛機、魔改造の末にベースとなった機体の後形を探すことも困難なほどとなった、ヤクトバウプラネットカノーネの調子は良好。
連射によって熱せられた二本の砲塔は雪原の冷気に冷やされ蒸気をあげている。その様子は白い煙を吐いているようで、ベースとなった機体では二本の塔と呼ばれていたそれは、ミグがなんと呼び習わそうとも、まるで二本の煙突のように見えた。
ヤクト・バウの背後にある巨大な弾薬コンテナからは補充の弾が自動で込められ、次弾をすぐに放っていく。
敵にダメージを与えることはもちろん、仲間たちと連携し、彼らがポジションにつくまでの時間稼ぎをしている。
他の仲間たちが攻撃距離に入るまで、まだすこし時間がかかるか。
だが、この威力ならば、あるいは――やったか?
雪と土と炎の煙が目の前を隠している。
「まだだ」
無線からアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の警告がとぶ。
「汽笛の音がしたと言うことは炭水車等がある蒸気機関車、なのだろうか? ならば、燃料の石炭を散弾のように噴射したり、水を広範囲にばらまいて来たりするのも警戒しておこ……――!?」
反撃がきた。
「しまった――」
煙の中からの号砲一発。
直撃。
ヤクト・バウの土手っ腹にもろにぶちあたる。
自慢の重装甲に深い傷がついたが、まだ重傷ではない。
「ひやひやさせるね」
面白くなってきたとつぶやいてミグは回避運動を始めた。敵からの反撃は土地の起伏を盾にかわすつもりだ。
仲間たちが接近戦に移るまでの間、チキンレーサーの相手として名乗りを上げたのだ。
時間を稼ぐことができれば目的は達成できる。
それは、側にいる仲間も同じだ。
「デカいだけならどうとでも出来るけどよ……変形までとなるとさすがにめんどくせぇ……」
アニス・テスタロッサ(ka0141)が目を細める。
レラージュ・ベナンディの強化した索敵モジュールが煙の中で、汽車から鉄人形形態へ変形している歪虚が確認できる
「そんだけデカいとさすがに動きは鈍いな。俺にしてみりゃいい的だ」
レラージュ・ベナンディのジェネレーターに直結されたマテリアルライフルから紫の光線を放ちつづける。間断のない射撃を加え、敵の行動を阻止し、前衛の接敵までの時間を稼ぐ。
しかし、その一撃、一撃を食らい、傷を各所に作りながら、その鉄の騎士は己の姿を変化していった。
(ついた)
連絡がきた。
「了解した」
仕事は一端、終わった。
もとより、制圧射撃は短時間しかできない。
次の機会に備え、クイックリロードして即座にリロードする。
●
煙が消える――
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の駆る刻令ゴーレム、紅蓮が鉄騎の周囲に残る雑魚を切り裂いていた。
すでに初弾の爆撃で満身創痍の巨人の周囲にいた歪虚どもは霧散。
「まさに、鎧袖一触ね!」
接近しなくては戦えないと悟り、早さを追求した技量を使っての作戦が功を奏する。
必要十分以上のスピードは、鉄巨人への攻撃の余力ではあっても、弱った歪虚を駆逐するには十二分であった。
一気に決めたい。
通信機に向かって叫ぶ。
「一気に攻撃を畳み掛けたい」
仲間に我が正義の侭を使うつもりだ。
(時間をかけて、陽動をしてくれてる人達に犠牲が増すようなことはしたくないし、こいつの超射程攻撃が何処に飛ぶか分かったもんじゃないからな)
では、それに応じよう。
「行くよ」
時音 ざくろ(ka1250)が一息をつき、愛機に声をかける。
脳裏にはギルドが想定した歪虚特急と歪虚の部隊の予想侵攻図がある。距離と空間から逆算して、この塹壕戦跡のポイントが最終防衛ラインとなっている。
(ここで策が失敗したら? そうだな、一都市を灰燼に帰してでも次のポイントでは破壊するさ。まあ、そうなってしまえばそれは防衛などとは呼べる代物ではなくなるがな)
作戦会議での説明は最終通告でもあった。
ならば――歪虚特急と歪虚の部隊によってこれ以上の被害を出さない為にも、その巨体今ここでざくろとグランソードが断つ!
「やるしかない。飛び上がれグランソード!」
ざくろの足に力が入る。
刻騎ゴーレムが、それに応じるように膝を折って、飛び上がる。
風を感じる――自分の体と一体となった感覚を覚える。
精神没入タイプと呼ばれる機体の特徴だ。
魔動冒険王グランソードが福音の風を使って飛翔する。
雪解けの泥沼を飛び越えて、機関車ロボットに向かって剣を振りおろす。
歪虚の巨大人形が左腕をあげて、それを防ぐ。
「やる!」
鉄仮面の無表情な顔がいらえ。
(……――!?)
理由のない寒気。
胸騒ぎがする。
反射的に右足で歪虚の肩を蹴って、後退。
だが、一歩、遅い。
煙突の姿をした砲塔が火を噴いた。
左足に火山から飛び出してきた岩のような物体が炸裂する。
岩がぶちあたりグランソードが空中でバランスを崩す。さらにスピードにのっていたのが悪かった。対応できぬまま、地上にぶつかり、ゴーレムが二度、三度と地面に回転しながらバウンドして雪の山を作って停止する。
「大丈夫ですか?」
狼に似た銀色の毛並みの幻獣、コーディに騎乗したアリア・セリウス(ka6424)が駆けつけてくる。幻獣の足には雪滑り止めの爪がついている。
「大丈夫だ」
という声に安堵を覚えるが、すぐに相棒が呻く。
「なるほど――」
乗り捨てられたように、あちこちらに置かれた客車から歪虚の眷属が出てきたのだ。
「何ともまた、これも難敵ね。けれど、どのような敵が相手でも同じこと。鉄の巨兵、強大なる竜、はたまた堅守なる城塞自体が相手だとしても――ただ、私自身を信じて――剣武をもって、斬り伏せるのみ」
信じて想い託した二つの刃が踊り、コーディの爪が世界の異物を切り裂く。
やはり、守りを抜けなくては堅牢な城塞へは近づけないようだ。
「いざ――!?」
戦いに身を投じた歌姫の姿は月光のような淡く、儚いマテリアルの白い光を纏う。同時に瞳の虹彩が猫を想わせる爬虫類のように縦長に伸びる。
戦いこそが目的であるハンターは、迫り来る歪虚の群れ駆け抜けていった。
●
蒸気機関車の煙突を頭に抱く、異形の黒巨人。
リアルブルーの子供番組の悪役こそ相応しい、その鉄の化け物の股をくぐる影が見えた。
「さすが、死角に弱点があるということはないか。いくぜ、シエル!」
リュー・グランフェスト(ka2419)の騎乗したワイバーン・シエルの影が、いちど上昇して巨人の手の届かない高度で、太陽をかすめてシルエットになる。
そして、ゆっくりと雪上に降りた。
インカムごしに混乱した仲間たちの声が飛び交っている。
接近戦に入ったので、さきほどのような飽和攻撃はしばらくないと、ロリバァさんが叫んでいる。
「しばらくねぇ……」
受けた攻撃のせいで弾込めの機械が逝かれたぁぁぁぁとも叫んでいる、次弾装填まで、どれほどの時間がかかるのだろうか。
さきほど、空から確認したが、客車から出てきた歪虚たちは、すでに一掃されている。
もはや雪上に残る敵は、変形が終わった歪虚の鉄巨人のみ。
ワイバーンには、しばらく空へ戻ってもらう。
「空から攻撃してくれ、時間稼ぎをするぞ」
歩きながら抜刀する。
伝説の聖剣の名を冠する星神器は黄金のかがやきを陽炎のように放ち、リューは背に赤い燐光を纏う。
ワイバーンが主の声に応じ、鉄の歪虚の頭の周囲をまとわりつきながら攻撃を加えると、蚊を払うように鉄巨人が腕をふるう。
「チャンス!」
だが、腕が払おうとする。
「まず――」
「射貫く」
インカムから声がした。
突然、目の前が爆発して、歪虚が姿勢を崩す。
レラージュ・ベナンディの一撃。
巨大なだけにバランスはよくないようだ。
「シエル、背を借りる!」
飛来したワイバーンの背中を蹴って、より高くジャンプをして一撃を加えようとする。
目の前に巨人の巨大な拳が目に入る。
まずい――
その時、アニスが放った次弾が鉄人形の頭で炸裂した。
再び、こんどは頭の煙突が崩れ、上半身がよろけた。
(いまだ!)
リューの渾身の一撃が鉄巨人の片腕を切り落とした。
「機剣超重斬・縦一文字斬り!」
さらに、グランソードの剣が、もう片方の腕も切り落とす。
鉄の巨人は両膝を落とす。
膝をつき、もはや動けぬままとなった。
残ったモノは、もはや首を落とされるのを待つ罪人。
そう見えた。
勝った――
多くの者が、そう考えたであろう。
だが、アルトだけは違った。
(そういえば、こいつさらに変形とかとかしないよな? よく知らんが、リアルブルーの玩具だと多段変形するようなヤツがあるらしいが、こいつなんかそんな感じがなんかするぞ?)
傭兵の勘が、なにかを告げる――そして、それを発見した――
●
突然、巨人の関節部分から熱い蒸気が漏れ出した。周囲の雪を溶かし、もわっとした雪煙となると、その巨人が回転を始めた。
ふたたび、雪と土が舞う。
ワイヤーが竜巻の中から飛び出て、二台の客車を雪の竜巻に巻き込む。
ヤバい状況なのは、事前に教えられた――リアルブルーの映像資料――情報からわかる。なんにしろ、自前の武器や装備よりもなぜか強力で、無敵にすらなる変形シーンだ。こうなってしまえば、変形のために可動している部分を狙い撃つことができない。
ちっ――
紅蓮はもちろん、レラージュ・ベナンディの熱線すら、その放った銃弾のことごとくが、竜巻の壁に阻まれている。
「みんな後退してくれ! ならば、これならば、どうだ!?」
撤退というには、あまりにも短時間で了解という返事が返ってきた。
しかし、いまのミグは、そんなことに気を配っている暇はなかった。。
「いけぇぇぇ!?」
オーバーキルな砲撃も、ことごとく無力となる。
それすらも効かない!?
局地的な嵐の中で客車が壊れた左右の腕となり、頭には車掌車を載せると、嵐がやんだとき、そこには新たな変形を終え、真紅の外装となったロボットがいた。
「おいおい」
「さしずめ歪虚特急という所? ……でも機関車からロボに変形、さらにグレート合体までしていいのは、勇者だけだっ!」
幼少の時代、リアルブルーで見ていた番組でも思い出したのか、ざくろの叫び声がインカムごしに聞こえてきた。
実際、他の仲間の声も混線しているように、驚き、あきれる、独り言ばかりだ。
「だが、やられる前にやるしかない!?」
あきらめることなく、ざくろが跳ぶ。
剣を振り下ろす。
巨人が顔を守るように、新たな腕をガードの態勢にする。
「もらい受ける」
片足の調子は悪いが、まだ動ける。
だが、心は否定する
……――まずい
(なにが、だ?)
自分の心がわからない。だが、なにかがひっかかる。
歪虚は防御の態勢をとっている――のではない。
客車の窓が一斉に開く。
反射的に、盾を構えながら体を後退させる。
(間に合うか――)
今度は間に合った。
(!?)
ミサイルが発射された。
いま、客車の窓という窓が発射口となって無数、あるいは無限にも思える数のミサイルが撃ち出されたのだ。
四方八方に撃ち込まれる。
まるで地上で爆発した花火のように、周囲に向かい破壊の矢が放たれる。
それは、ミクが撃ち込んだ砲撃の何倍であったろうか。
まさに地上で放たれた雷撃。
当てるということなど最初から考える必要のないほどの数、数、数。
無慈悲なまでの圧倒的な火力が、ハンターたちを襲う。
炸裂し、爆裂する。
腕から放たれたミサイルの、それはまさに海中を泳ぐ魚の群れにも似た、空を覆うミサイルの群れであった。
爆発と、破壊が繰り返され、地上を地獄へと変え、雪原を土塊の大地へと変えた。
「やるぅ」
地形すら変わってしまった。
「感心するくらいの、バ火力じゃねぇあか」
点としてではなく、面としてハンターを襲ってきた。
周囲をすべてに狙いを定めるのでは、周囲をすべて敵だと認識したのか。
「学習した?」
「可能性はあるな」
世界の戦いは佳境を迎えつつあるこの時代にあっても、ハンターたちは歪虚という存在のもつ可能性そのものをすべて知りきっているわけではない。
「なんともな」
アルトが見つけた塹壕があって助かった。
先の戦いの戦いで放棄されたここが、初期の砲撃の熱風によって解けた雪の下から見つかったのだ。
「だが、どうしたものだ?」
幻獣といっしょに、アリアは、そっと塹壕から顔をのぞく。
「動かない」
「動けないのか?」
「チャージに時間がかかるのかな?」
力を失ったように両膝をつき、腕もだらりとなっている。各所、接続部分から蒸気を噴き出ししている。
「しかし、これは」
「この攻撃の余波……誘導部隊は大丈夫なのかな? こいつの超射程攻撃が何処まで飛ぶか分かったもんじゃないからな」
誰かが、ぽつりとつぶやく。
!?
ぎゅっと手を握る。
「負けない……」
「えっ?」
「……――だから、負けないと断言して、詠えるの」
アリアが、相棒とともに駆け出す。
「おい!?」
「そうだな――」
インカムから声がする。
――今、攻勢に移れているのも、陽動の皆のお陰で、想いを受け継ぐからだ
アルトの紅蓮が、のっそりと動き出した歪虚の巨人に戦いを挑む。
「さてデカブツ、玩具のような外見してるんだ遊ぼうか」
火器をメインウェポンという機体だが、いまはそうは言っていられない。焔舞からの散華で敵へのダメージを狙う。
(可能なら敵の足を壊せれたら――)
アリアは気づいていた。
巨体の身体と質量を活かして強引になぎ払う。
ならばと、その基点と軸となる脚のバランスをこそ、斬り捨てる。
「強大であればある程、足下は掬われやすい。私達が、どんなに強くても、独りでは戦えない理由」
読みは正鵠を射ていた。。
ただですら二本足などという常にバランスをとり続けねば倒れてしまう形態、上半身ばかりに強化パーツが盛られた結果、それのバランスなど悪くなるに決まっているのだ。
しかも足下はすっかり雪が解けて、沼地状態となっていて、相応の備えをしていたハンターたちの機体すらバランスをとることに苦戦している。
その間を、軽やかに竜種が飛翔し、幻獣が駆けた。
アリアは両の手に剣を携える。
魔導機械が組み込まれた鍔が特徴的な、血色の刃を持つバスタードソードと質感は氷の結晶にも似た、分厚い刃と棍が備わった剣が踊る。
月下の妖精が舞い、鋭く、迅く、光を刃に宿しながら加速する。太刀筋は白銀のマテリアルの燐花を散らして残し、美しい幻の月を描く。
そして、足の関節を狙いつづける。
彼女にとっての最高の攻め。
一撃で決まらぬのならばと手数を繰り出す。
鋼であれ、奔り抜け、斬り裂きましょう――舞うが如く
謳い、詠い、斬りて舞えよ――祈ることは、戦の中で。鼓動を、歌と刃に伝えて
研ぎ澄ます。斬撃の基本であり、刃の極意――刃が通れば、岩も紙も鋼も、巨人であれ巨人でさえ、殺せる
絶え間なく、けれど、ひとつひとつの斬撃を苛烈に、熾烈。
もとより最終決戦ならば、出し惜しみなどなく、狙いは関節の一点のみ。
だが、一人の手だけでやりきるには力不足。
「――ならば、手を貸すぜ」
刀身に篝火を模した紋章が浮かんだ剣を振り払うリューが手を出す。
「騎士王の剣よ、分け与えの権能をいまここに!」
エクスカリバーの能力が解放された。
「力――」
が、みなぎってくる。
(これは?)
「ナイツ・オブ・ラウンズ。我が剣の力だ」
ならば――
最高の一撃!?
ついに、足の関節に亀裂が入って片膝から落ちた。
足がパージされ、つぶれた関節からワイヤーが飛び出る。
しかし、その先にはもはや何もひっかからない。
「終わっているよ」
操縦席でミグが危険な笑みを浮かべていた。
自機が遠隔砲撃タイプなので、仲間たちが近接戦モードに移行して手持ち無沙汰となっていたので、先ほどの二の舞にならないように残った客車は破壊していたのだ。
片足を失い、こんどこそ決着をつけよう。
シエルが上空から攻撃を見舞う。
ここは、勝負どころだ。
アニスが残弾を気にすることなく発砲を始めた。
「オウ、いいぜ。遊んでやんよ」
無防備状態となった巨人の頭部を狙ってマテリアルライフルの銃身が真っ赤になるほど、撃ち込みつづける。
あと一押しだ。
「遅ぇんだよ!」
ざくろが叫ぶ。
「超魔導パワーオン☆弾け飛べ」
今日は、幾度となく苦杯を呑まされたお返しだ。
跳び、はね、ついでに歪虚の頭を利用して、大きく跳躍。
剣を大きくかまえる。
懐に入った。
「応えよ、イフテラーム!?」
刻騎の武器に命ずる。
「燃え上がれ魔動の炎……」
落下スピードを武器の攻撃力に乗せる。
「ブレストヒートレイ!」
魔法紋が浮かび上がり、剣がマテリアルのオーラを纏う。
白銀の刃を持つ美しい両刃の大剣の黄金の鍔が羽を広げる。
勇者の剣というイメージそのままの壮大さを優美さを併せ持った剣は、蒸気機関車ロボットの数倍はあろうかという光の帯につつまれた。
「おおぅ!」
魔力に満ちた刃が、光の放流となって振りおろされた。
「満ちれ天空よりの光……一刀両断・リヒトカイザー!」
――光あれ
※
リューのインカムごしに報告をする。
歪虚の巨人を撃退した。
倒せたら、つぎに何をすべきか。
誘導部隊が気になったのだ。
可能なら撤退支援にも駆けつけるつもりだ。
「――わかった」
「なんだって?」
仲間たちが顔を見る。
大きくうなずく。
「歪虚どもは、全くいなくなったそうだ。帰って――」
次は決まった。
「祝杯でもあげようぜ!」
「どういうことです?」
たくさんの敵が残っていたのではないのか? という声がする。
誰かが、あっと叫ぶ。
「そうか、あの無尽蔵の銃弾の正体って――」
歪虚の力で兵と銃弾を作っていた巨人は、こうして破壊された。
大地の力に導かれ、それが向かっていく。
雪原にたたずむ蒸気機関車へと向かって自然の弧を描きながら落下していくと言ってもいい。
すでに本隊――という名の囮部隊――が機関車に張り付いていた有象無象の歪虚の群れを撤退――指揮官の技量によっては壊滅も免れない大博打の作戦である――を偽装することによって多くの歪虚を、そこから引き離している。
残っているモノは少数。
ならば――着弾……――そして、炸裂!?
閃光と爆風が、ひとときの静寂を破って、そこを再び戦場へと変えた。
最初の一滴となった鉄弾の破裂から、数秒と立たないうちに空から降り注ぐ鉄と炎の豪雨が雪原を春すら飛び越えて、一気に灼熱の大地へと一変させる。
空から降り注ぐ砲撃のさまは、まさに乱射乱撃雨霰。
リアルブルーの歴史に残る某大国の兵器のそれである。
異世界に独裁者のオルガンが奏でられ、破壊と殺戮の死の演奏曲を奏でる。
「さぁて、どうするかね。まあ、でかぶつだが、相手にとって不足なし」
操縦席でニヤリと笑って、指揮者が満面の笑みを浮かべている。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)。
多くの子供と孫がいる老婦人は、戦場のまっただなかにあってご機嫌である。
自慢の愛機、魔改造の末にベースとなった機体の後形を探すことも困難なほどとなった、ヤクトバウプラネットカノーネの調子は良好。
連射によって熱せられた二本の砲塔は雪原の冷気に冷やされ蒸気をあげている。その様子は白い煙を吐いているようで、ベースとなった機体では二本の塔と呼ばれていたそれは、ミグがなんと呼び習わそうとも、まるで二本の煙突のように見えた。
ヤクト・バウの背後にある巨大な弾薬コンテナからは補充の弾が自動で込められ、次弾をすぐに放っていく。
敵にダメージを与えることはもちろん、仲間たちと連携し、彼らがポジションにつくまでの時間稼ぎをしている。
他の仲間たちが攻撃距離に入るまで、まだすこし時間がかかるか。
だが、この威力ならば、あるいは――やったか?
雪と土と炎の煙が目の前を隠している。
「まだだ」
無線からアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の警告がとぶ。
「汽笛の音がしたと言うことは炭水車等がある蒸気機関車、なのだろうか? ならば、燃料の石炭を散弾のように噴射したり、水を広範囲にばらまいて来たりするのも警戒しておこ……――!?」
反撃がきた。
「しまった――」
煙の中からの号砲一発。
直撃。
ヤクト・バウの土手っ腹にもろにぶちあたる。
自慢の重装甲に深い傷がついたが、まだ重傷ではない。
「ひやひやさせるね」
面白くなってきたとつぶやいてミグは回避運動を始めた。敵からの反撃は土地の起伏を盾にかわすつもりだ。
仲間たちが接近戦に移るまでの間、チキンレーサーの相手として名乗りを上げたのだ。
時間を稼ぐことができれば目的は達成できる。
それは、側にいる仲間も同じだ。
「デカいだけならどうとでも出来るけどよ……変形までとなるとさすがにめんどくせぇ……」
アニス・テスタロッサ(ka0141)が目を細める。
レラージュ・ベナンディの強化した索敵モジュールが煙の中で、汽車から鉄人形形態へ変形している歪虚が確認できる
「そんだけデカいとさすがに動きは鈍いな。俺にしてみりゃいい的だ」
レラージュ・ベナンディのジェネレーターに直結されたマテリアルライフルから紫の光線を放ちつづける。間断のない射撃を加え、敵の行動を阻止し、前衛の接敵までの時間を稼ぐ。
しかし、その一撃、一撃を食らい、傷を各所に作りながら、その鉄の騎士は己の姿を変化していった。
(ついた)
連絡がきた。
「了解した」
仕事は一端、終わった。
もとより、制圧射撃は短時間しかできない。
次の機会に備え、クイックリロードして即座にリロードする。
●
煙が消える――
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の駆る刻令ゴーレム、紅蓮が鉄騎の周囲に残る雑魚を切り裂いていた。
すでに初弾の爆撃で満身創痍の巨人の周囲にいた歪虚どもは霧散。
「まさに、鎧袖一触ね!」
接近しなくては戦えないと悟り、早さを追求した技量を使っての作戦が功を奏する。
必要十分以上のスピードは、鉄巨人への攻撃の余力ではあっても、弱った歪虚を駆逐するには十二分であった。
一気に決めたい。
通信機に向かって叫ぶ。
「一気に攻撃を畳み掛けたい」
仲間に我が正義の侭を使うつもりだ。
(時間をかけて、陽動をしてくれてる人達に犠牲が増すようなことはしたくないし、こいつの超射程攻撃が何処に飛ぶか分かったもんじゃないからな)
では、それに応じよう。
「行くよ」
時音 ざくろ(ka1250)が一息をつき、愛機に声をかける。
脳裏にはギルドが想定した歪虚特急と歪虚の部隊の予想侵攻図がある。距離と空間から逆算して、この塹壕戦跡のポイントが最終防衛ラインとなっている。
(ここで策が失敗したら? そうだな、一都市を灰燼に帰してでも次のポイントでは破壊するさ。まあ、そうなってしまえばそれは防衛などとは呼べる代物ではなくなるがな)
作戦会議での説明は最終通告でもあった。
ならば――歪虚特急と歪虚の部隊によってこれ以上の被害を出さない為にも、その巨体今ここでざくろとグランソードが断つ!
「やるしかない。飛び上がれグランソード!」
ざくろの足に力が入る。
刻騎ゴーレムが、それに応じるように膝を折って、飛び上がる。
風を感じる――自分の体と一体となった感覚を覚える。
精神没入タイプと呼ばれる機体の特徴だ。
魔動冒険王グランソードが福音の風を使って飛翔する。
雪解けの泥沼を飛び越えて、機関車ロボットに向かって剣を振りおろす。
歪虚の巨大人形が左腕をあげて、それを防ぐ。
「やる!」
鉄仮面の無表情な顔がいらえ。
(……――!?)
理由のない寒気。
胸騒ぎがする。
反射的に右足で歪虚の肩を蹴って、後退。
だが、一歩、遅い。
煙突の姿をした砲塔が火を噴いた。
左足に火山から飛び出してきた岩のような物体が炸裂する。
岩がぶちあたりグランソードが空中でバランスを崩す。さらにスピードにのっていたのが悪かった。対応できぬまま、地上にぶつかり、ゴーレムが二度、三度と地面に回転しながらバウンドして雪の山を作って停止する。
「大丈夫ですか?」
狼に似た銀色の毛並みの幻獣、コーディに騎乗したアリア・セリウス(ka6424)が駆けつけてくる。幻獣の足には雪滑り止めの爪がついている。
「大丈夫だ」
という声に安堵を覚えるが、すぐに相棒が呻く。
「なるほど――」
乗り捨てられたように、あちこちらに置かれた客車から歪虚の眷属が出てきたのだ。
「何ともまた、これも難敵ね。けれど、どのような敵が相手でも同じこと。鉄の巨兵、強大なる竜、はたまた堅守なる城塞自体が相手だとしても――ただ、私自身を信じて――剣武をもって、斬り伏せるのみ」
信じて想い託した二つの刃が踊り、コーディの爪が世界の異物を切り裂く。
やはり、守りを抜けなくては堅牢な城塞へは近づけないようだ。
「いざ――!?」
戦いに身を投じた歌姫の姿は月光のような淡く、儚いマテリアルの白い光を纏う。同時に瞳の虹彩が猫を想わせる爬虫類のように縦長に伸びる。
戦いこそが目的であるハンターは、迫り来る歪虚の群れ駆け抜けていった。
●
蒸気機関車の煙突を頭に抱く、異形の黒巨人。
リアルブルーの子供番組の悪役こそ相応しい、その鉄の化け物の股をくぐる影が見えた。
「さすが、死角に弱点があるということはないか。いくぜ、シエル!」
リュー・グランフェスト(ka2419)の騎乗したワイバーン・シエルの影が、いちど上昇して巨人の手の届かない高度で、太陽をかすめてシルエットになる。
そして、ゆっくりと雪上に降りた。
インカムごしに混乱した仲間たちの声が飛び交っている。
接近戦に入ったので、さきほどのような飽和攻撃はしばらくないと、ロリバァさんが叫んでいる。
「しばらくねぇ……」
受けた攻撃のせいで弾込めの機械が逝かれたぁぁぁぁとも叫んでいる、次弾装填まで、どれほどの時間がかかるのだろうか。
さきほど、空から確認したが、客車から出てきた歪虚たちは、すでに一掃されている。
もはや雪上に残る敵は、変形が終わった歪虚の鉄巨人のみ。
ワイバーンには、しばらく空へ戻ってもらう。
「空から攻撃してくれ、時間稼ぎをするぞ」
歩きながら抜刀する。
伝説の聖剣の名を冠する星神器は黄金のかがやきを陽炎のように放ち、リューは背に赤い燐光を纏う。
ワイバーンが主の声に応じ、鉄の歪虚の頭の周囲をまとわりつきながら攻撃を加えると、蚊を払うように鉄巨人が腕をふるう。
「チャンス!」
だが、腕が払おうとする。
「まず――」
「射貫く」
インカムから声がした。
突然、目の前が爆発して、歪虚が姿勢を崩す。
レラージュ・ベナンディの一撃。
巨大なだけにバランスはよくないようだ。
「シエル、背を借りる!」
飛来したワイバーンの背中を蹴って、より高くジャンプをして一撃を加えようとする。
目の前に巨人の巨大な拳が目に入る。
まずい――
その時、アニスが放った次弾が鉄人形の頭で炸裂した。
再び、こんどは頭の煙突が崩れ、上半身がよろけた。
(いまだ!)
リューの渾身の一撃が鉄巨人の片腕を切り落とした。
「機剣超重斬・縦一文字斬り!」
さらに、グランソードの剣が、もう片方の腕も切り落とす。
鉄の巨人は両膝を落とす。
膝をつき、もはや動けぬままとなった。
残ったモノは、もはや首を落とされるのを待つ罪人。
そう見えた。
勝った――
多くの者が、そう考えたであろう。
だが、アルトだけは違った。
(そういえば、こいつさらに変形とかとかしないよな? よく知らんが、リアルブルーの玩具だと多段変形するようなヤツがあるらしいが、こいつなんかそんな感じがなんかするぞ?)
傭兵の勘が、なにかを告げる――そして、それを発見した――
●
突然、巨人の関節部分から熱い蒸気が漏れ出した。周囲の雪を溶かし、もわっとした雪煙となると、その巨人が回転を始めた。
ふたたび、雪と土が舞う。
ワイヤーが竜巻の中から飛び出て、二台の客車を雪の竜巻に巻き込む。
ヤバい状況なのは、事前に教えられた――リアルブルーの映像資料――情報からわかる。なんにしろ、自前の武器や装備よりもなぜか強力で、無敵にすらなる変形シーンだ。こうなってしまえば、変形のために可動している部分を狙い撃つことができない。
ちっ――
紅蓮はもちろん、レラージュ・ベナンディの熱線すら、その放った銃弾のことごとくが、竜巻の壁に阻まれている。
「みんな後退してくれ! ならば、これならば、どうだ!?」
撤退というには、あまりにも短時間で了解という返事が返ってきた。
しかし、いまのミグは、そんなことに気を配っている暇はなかった。。
「いけぇぇぇ!?」
オーバーキルな砲撃も、ことごとく無力となる。
それすらも効かない!?
局地的な嵐の中で客車が壊れた左右の腕となり、頭には車掌車を載せると、嵐がやんだとき、そこには新たな変形を終え、真紅の外装となったロボットがいた。
「おいおい」
「さしずめ歪虚特急という所? ……でも機関車からロボに変形、さらにグレート合体までしていいのは、勇者だけだっ!」
幼少の時代、リアルブルーで見ていた番組でも思い出したのか、ざくろの叫び声がインカムごしに聞こえてきた。
実際、他の仲間の声も混線しているように、驚き、あきれる、独り言ばかりだ。
「だが、やられる前にやるしかない!?」
あきらめることなく、ざくろが跳ぶ。
剣を振り下ろす。
巨人が顔を守るように、新たな腕をガードの態勢にする。
「もらい受ける」
片足の調子は悪いが、まだ動ける。
だが、心は否定する
……――まずい
(なにが、だ?)
自分の心がわからない。だが、なにかがひっかかる。
歪虚は防御の態勢をとっている――のではない。
客車の窓が一斉に開く。
反射的に、盾を構えながら体を後退させる。
(間に合うか――)
今度は間に合った。
(!?)
ミサイルが発射された。
いま、客車の窓という窓が発射口となって無数、あるいは無限にも思える数のミサイルが撃ち出されたのだ。
四方八方に撃ち込まれる。
まるで地上で爆発した花火のように、周囲に向かい破壊の矢が放たれる。
それは、ミクが撃ち込んだ砲撃の何倍であったろうか。
まさに地上で放たれた雷撃。
当てるということなど最初から考える必要のないほどの数、数、数。
無慈悲なまでの圧倒的な火力が、ハンターたちを襲う。
炸裂し、爆裂する。
腕から放たれたミサイルの、それはまさに海中を泳ぐ魚の群れにも似た、空を覆うミサイルの群れであった。
爆発と、破壊が繰り返され、地上を地獄へと変え、雪原を土塊の大地へと変えた。
「やるぅ」
地形すら変わってしまった。
「感心するくらいの、バ火力じゃねぇあか」
点としてではなく、面としてハンターを襲ってきた。
周囲をすべてに狙いを定めるのでは、周囲をすべて敵だと認識したのか。
「学習した?」
「可能性はあるな」
世界の戦いは佳境を迎えつつあるこの時代にあっても、ハンターたちは歪虚という存在のもつ可能性そのものをすべて知りきっているわけではない。
「なんともな」
アルトが見つけた塹壕があって助かった。
先の戦いの戦いで放棄されたここが、初期の砲撃の熱風によって解けた雪の下から見つかったのだ。
「だが、どうしたものだ?」
幻獣といっしょに、アリアは、そっと塹壕から顔をのぞく。
「動かない」
「動けないのか?」
「チャージに時間がかかるのかな?」
力を失ったように両膝をつき、腕もだらりとなっている。各所、接続部分から蒸気を噴き出ししている。
「しかし、これは」
「この攻撃の余波……誘導部隊は大丈夫なのかな? こいつの超射程攻撃が何処まで飛ぶか分かったもんじゃないからな」
誰かが、ぽつりとつぶやく。
!?
ぎゅっと手を握る。
「負けない……」
「えっ?」
「……――だから、負けないと断言して、詠えるの」
アリアが、相棒とともに駆け出す。
「おい!?」
「そうだな――」
インカムから声がする。
――今、攻勢に移れているのも、陽動の皆のお陰で、想いを受け継ぐからだ
アルトの紅蓮が、のっそりと動き出した歪虚の巨人に戦いを挑む。
「さてデカブツ、玩具のような外見してるんだ遊ぼうか」
火器をメインウェポンという機体だが、いまはそうは言っていられない。焔舞からの散華で敵へのダメージを狙う。
(可能なら敵の足を壊せれたら――)
アリアは気づいていた。
巨体の身体と質量を活かして強引になぎ払う。
ならばと、その基点と軸となる脚のバランスをこそ、斬り捨てる。
「強大であればある程、足下は掬われやすい。私達が、どんなに強くても、独りでは戦えない理由」
読みは正鵠を射ていた。。
ただですら二本足などという常にバランスをとり続けねば倒れてしまう形態、上半身ばかりに強化パーツが盛られた結果、それのバランスなど悪くなるに決まっているのだ。
しかも足下はすっかり雪が解けて、沼地状態となっていて、相応の備えをしていたハンターたちの機体すらバランスをとることに苦戦している。
その間を、軽やかに竜種が飛翔し、幻獣が駆けた。
アリアは両の手に剣を携える。
魔導機械が組み込まれた鍔が特徴的な、血色の刃を持つバスタードソードと質感は氷の結晶にも似た、分厚い刃と棍が備わった剣が踊る。
月下の妖精が舞い、鋭く、迅く、光を刃に宿しながら加速する。太刀筋は白銀のマテリアルの燐花を散らして残し、美しい幻の月を描く。
そして、足の関節を狙いつづける。
彼女にとっての最高の攻め。
一撃で決まらぬのならばと手数を繰り出す。
鋼であれ、奔り抜け、斬り裂きましょう――舞うが如く
謳い、詠い、斬りて舞えよ――祈ることは、戦の中で。鼓動を、歌と刃に伝えて
研ぎ澄ます。斬撃の基本であり、刃の極意――刃が通れば、岩も紙も鋼も、巨人であれ巨人でさえ、殺せる
絶え間なく、けれど、ひとつひとつの斬撃を苛烈に、熾烈。
もとより最終決戦ならば、出し惜しみなどなく、狙いは関節の一点のみ。
だが、一人の手だけでやりきるには力不足。
「――ならば、手を貸すぜ」
刀身に篝火を模した紋章が浮かんだ剣を振り払うリューが手を出す。
「騎士王の剣よ、分け与えの権能をいまここに!」
エクスカリバーの能力が解放された。
「力――」
が、みなぎってくる。
(これは?)
「ナイツ・オブ・ラウンズ。我が剣の力だ」
ならば――
最高の一撃!?
ついに、足の関節に亀裂が入って片膝から落ちた。
足がパージされ、つぶれた関節からワイヤーが飛び出る。
しかし、その先にはもはや何もひっかからない。
「終わっているよ」
操縦席でミグが危険な笑みを浮かべていた。
自機が遠隔砲撃タイプなので、仲間たちが近接戦モードに移行して手持ち無沙汰となっていたので、先ほどの二の舞にならないように残った客車は破壊していたのだ。
片足を失い、こんどこそ決着をつけよう。
シエルが上空から攻撃を見舞う。
ここは、勝負どころだ。
アニスが残弾を気にすることなく発砲を始めた。
「オウ、いいぜ。遊んでやんよ」
無防備状態となった巨人の頭部を狙ってマテリアルライフルの銃身が真っ赤になるほど、撃ち込みつづける。
あと一押しだ。
「遅ぇんだよ!」
ざくろが叫ぶ。
「超魔導パワーオン☆弾け飛べ」
今日は、幾度となく苦杯を呑まされたお返しだ。
跳び、はね、ついでに歪虚の頭を利用して、大きく跳躍。
剣を大きくかまえる。
懐に入った。
「応えよ、イフテラーム!?」
刻騎の武器に命ずる。
「燃え上がれ魔動の炎……」
落下スピードを武器の攻撃力に乗せる。
「ブレストヒートレイ!」
魔法紋が浮かび上がり、剣がマテリアルのオーラを纏う。
白銀の刃を持つ美しい両刃の大剣の黄金の鍔が羽を広げる。
勇者の剣というイメージそのままの壮大さを優美さを併せ持った剣は、蒸気機関車ロボットの数倍はあろうかという光の帯につつまれた。
「おおぅ!」
魔力に満ちた刃が、光の放流となって振りおろされた。
「満ちれ天空よりの光……一刀両断・リヒトカイザー!」
――光あれ
※
リューのインカムごしに報告をする。
歪虚の巨人を撃退した。
倒せたら、つぎに何をすべきか。
誘導部隊が気になったのだ。
可能なら撤退支援にも駆けつけるつもりだ。
「――わかった」
「なんだって?」
仲間たちが顔を見る。
大きくうなずく。
「歪虚どもは、全くいなくなったそうだ。帰って――」
次は決まった。
「祝杯でもあげようぜ!」
「どういうことです?」
たくさんの敵が残っていたのではないのか? という声がする。
誰かが、あっと叫ぶ。
「そうか、あの無尽蔵の銃弾の正体って――」
歪虚の力で兵と銃弾を作っていた巨人は、こうして破壊された。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 アニス・テスタロッサ(ka0141) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/03/25 12:26:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/22 22:02:50 |