ゲスト
(ka0000)
【王戦】【空の研究】風巻く竜
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/28 22:00
- 完成日
- 2019/04/07 18:11
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
フライングシスティーナ号には、砲がない。
船に雲を纏わせる研究を成功させて以来、アメリア・マティーナ(kz0179)はそのことをずっと考えていた。
(なんとか、船を改造することなく防御機能を得ることはできないものでしょうかねーえ)
アメリアがそう考えるのと同じように、防御機能を懸念している者がいた。ノセヤである。
「このままではいけないと思って、対策をしたいのですが……」
ノセヤは、その対策方法について、アメリアに相談しに来た。雲を船に纏わせたように、こちらもアメリアの空の魔法でなんとかならないかと考えたのである。
「はい、私も同じ思いですよーお」
アメリアが、黒いローブを目深にかぶった相変わらずの様子でそう頷くと、ノセヤは嬉しそうに微笑んだ。
「よかった! ええと、それでですね、ご相談させていただきたいのが……、雷の魔法なのですが。雲を船に纏わせることができたのですから、その要領で雷雲を発生させ、雷で防御するような魔法がないものかと……」
「ふーむ。雷、ねーえ……」
ノセヤが身を乗り出して提案すると、アメリアはあまり芳しい返事をしなかった。フードの下の表情は見えないが、晴れやかなものではないだろうことはわかる。
「雷を呼ぶ魔法は、あるにはありますがねーえ。あまりおススメはできないのですよーお。なかなか、危険な魔法でしてねーえ。術者にも大きなリスクがありますし、船を危険にさらす可能性も高い。なにせ、海上ですからねーえ、船丸ごと感電、などという事態は、ノセヤさんだって嫌でしょう?」
船丸ごと感電、という言葉に、ノセヤは顔を青くした。そんなことは絶対にごめんだ。
「フライングシスティーナ号を守る、という観点で考えれば、攻撃性に優れていなくともよいわけですよねーえ」
「ええ、まあそうですね」
「でしたら、雷よりも運用しやすい魔法がございますよーお」
アメリアが何やら思いついたらしく、楽しそうな声を出した。
その後、ハンターオフィスを訪れたアメリアは、受付嬢にハンター募集をかけたい旨を説明した。
「ふむふむ。魔法の研究のお手伝い、ですね。差支えなければ、どのような魔法の研究なのかご説明願えますか?」
「ええ。水上で竜巻を起こす魔法なのですがねーえ」
「ほうほう。その竜巻、殺傷力はありますか?」
「まあ、なくはない、ですかねーえ。一撃必殺、というほどではありませんが、直撃すればなかなか重い傷を負うとは思いますよーお」
「なるほど! でしたら、ぴったりの依頼があるんですけれど、一口乗ってみませんか?」
受付嬢が両目をきらりと輝かせた。
なんでも、水鳥型の雑魔が湖に出て近寄れず、困っているから退治してほしいという依頼が、つい先ほど持ち込まれたらしい。
「研究のついでに雑魔退治、なんていかがですか? ふたつの依頼をセットにすれば、報酬も多めになりますし、ハンターも集まりやすいのではと思いますが」
「あなた、なかなかやり手ですねーえ」
にこにこと提案する受付嬢に、アメリアは笑った。
船に雲を纏わせる研究を成功させて以来、アメリア・マティーナ(kz0179)はそのことをずっと考えていた。
(なんとか、船を改造することなく防御機能を得ることはできないものでしょうかねーえ)
アメリアがそう考えるのと同じように、防御機能を懸念している者がいた。ノセヤである。
「このままではいけないと思って、対策をしたいのですが……」
ノセヤは、その対策方法について、アメリアに相談しに来た。雲を船に纏わせたように、こちらもアメリアの空の魔法でなんとかならないかと考えたのである。
「はい、私も同じ思いですよーお」
アメリアが、黒いローブを目深にかぶった相変わらずの様子でそう頷くと、ノセヤは嬉しそうに微笑んだ。
「よかった! ええと、それでですね、ご相談させていただきたいのが……、雷の魔法なのですが。雲を船に纏わせることができたのですから、その要領で雷雲を発生させ、雷で防御するような魔法がないものかと……」
「ふーむ。雷、ねーえ……」
ノセヤが身を乗り出して提案すると、アメリアはあまり芳しい返事をしなかった。フードの下の表情は見えないが、晴れやかなものではないだろうことはわかる。
「雷を呼ぶ魔法は、あるにはありますがねーえ。あまりおススメはできないのですよーお。なかなか、危険な魔法でしてねーえ。術者にも大きなリスクがありますし、船を危険にさらす可能性も高い。なにせ、海上ですからねーえ、船丸ごと感電、などという事態は、ノセヤさんだって嫌でしょう?」
船丸ごと感電、という言葉に、ノセヤは顔を青くした。そんなことは絶対にごめんだ。
「フライングシスティーナ号を守る、という観点で考えれば、攻撃性に優れていなくともよいわけですよねーえ」
「ええ、まあそうですね」
「でしたら、雷よりも運用しやすい魔法がございますよーお」
アメリアが何やら思いついたらしく、楽しそうな声を出した。
その後、ハンターオフィスを訪れたアメリアは、受付嬢にハンター募集をかけたい旨を説明した。
「ふむふむ。魔法の研究のお手伝い、ですね。差支えなければ、どのような魔法の研究なのかご説明願えますか?」
「ええ。水上で竜巻を起こす魔法なのですがねーえ」
「ほうほう。その竜巻、殺傷力はありますか?」
「まあ、なくはない、ですかねーえ。一撃必殺、というほどではありませんが、直撃すればなかなか重い傷を負うとは思いますよーお」
「なるほど! でしたら、ぴったりの依頼があるんですけれど、一口乗ってみませんか?」
受付嬢が両目をきらりと輝かせた。
なんでも、水鳥型の雑魔が湖に出て近寄れず、困っているから退治してほしいという依頼が、つい先ほど持ち込まれたらしい。
「研究のついでに雑魔退治、なんていかがですか? ふたつの依頼をセットにすれば、報酬も多めになりますし、ハンターも集まりやすいのではと思いますが」
「あなた、なかなかやり手ですねーえ」
にこにこと提案する受付嬢に、アメリアは笑った。
リプレイ本文
アメリア・マティーナ ( kz0179 )は湖を見渡した。湖の上空は快晴で、風もほとんどない穏やかな気候だ。実験にはまたとない好条件であると言えた。これならば、風雨に影響されることなく、魔法で作り出した風……竜巻の様子をきちんと観測することができる。そんな恰好のロケーションであるというのに、それを台無しにしなければ気が済まないとでもいうように、無数の水鳥がギャアギャアと威嚇している。アメリアは少々苦笑した。騒がしいだけであるのならば放置してもよさそうなものだと思ってしまうが、ただの水鳥ではなく雑魔である以上、そうはいかない。
「前回は雲。今回は風。なんだか、魔術師っぽい事している気がします!」
アシェ-ル(ka2983)がはしゃいだような声を出すと、レイア・アローネ(ka4082)が微笑んで頷いた。
「魔法を使って雑魔退治なんて初めてだ。不謹慎かもしれないが、少し楽しみだな」
「魔法よりは、剣の方が得意なんだけどね」
そう言いながら肩をすくめて見せるのは鞍馬 真(ka5819)だ。
「とはいえ、純粋な術師じゃない私だからこそ試せることもあるよね」
「そうだな。術士でない私と鞍馬はいいサンプルになるだろう」
真とレイアが頷き合うと、アメリアは深くかぶったフードの下で嬉しそうに笑った。
「おふたりとも、期待しておりますよーお。もちろん、他の皆様にもねーえ」
そしてアメリアは、今回の魔法の発動に不可欠なアイテム……リボンを取り出して見せた。エステル・ソル(ka3983)が目を輝かせる。
「リボンで術が使えるようになるのですか? すごいのです!」
「魔法陣を描く、スタンダードな方法の方が、実は威力が大きいことがわかっているのですがねーえ、船上にいくつも魔法陣を描くわけにはいきませんからねーえ」
アメリアの言葉に、数名が頷いた。フライングシスティーナ号を飛ばすために必要な雲の魔法において、魔法陣を描くことは必須だ。同じだけの手間をこの魔法にも強いられるとすると、細かな考察をするまでもなく面倒であり、実戦での使用は諦めなければならない。
「リボンで誰でも竜巻使いね」
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が微笑み、雨を告げる鳥(ka6258)は感慨深そうに呟いた。
「気象現象を操る。空の研究所を設立したことで公にできた魔法であろう」
長きに渡り「空の研究所」の活動を助けてきたふたりは、至極落ち着いている……ように見えた。しかし実際は、新しい魔法に触れられる喜びに誰よりも心を浮き立たせていたのだった。
リボンは短いものと長いものの二種類。どう使い分けていくかも、実験のポイントのひとつだと誰もが考えていたようだ。
「最初は長いリボンは錬金杖に、短いリボンはマイヤワンドに……」
エステルがそう呟きながら丁寧にリボンを結んでいる。後でリボンを付け替え、使用感の変化を確認するつもりでいた。
まずは、短いリボンを結んだマイヤワンドを湖に向かって構え、呪文を唱えた。
「あっ、すごーい! 本当に竜巻が起きました!」
水面に渦を作りながら、竜巻がまさしく風の竜のようにひょおおお、と立ちのぼった。エステルはパッと笑顔になって感動を示したが、すぐにマイヤワンドを操って操作感を確かめにかかった。
「ふむふむ、小回りはききますね、確かに」
エステルは、湖上で竜巻の向きをくるくると変えさせた。特に大きな抵抗感はなく、手にも負担はほとんどない。
「そういえば、リボンには使用回数があるのでしょうか? 回数を数えておくのです」
回数は大切なデータになる。エステルが忘れないようにしないと、と呟いたとき。
「……海を揺らし、大地を削り、森を騒めかせる、世界を廻る力。今ここに姿を現し、我が敵を砕け!」
すぐ隣から、アシェールの気合の入った呪文が聞こえてきた。
「で、できてます? ちゃんと竜巻出てます?」
エステルの視線に気が付いて、アシェールは不安げな表情を向ける。
「大丈夫ですよ! ちゃんと竜巻できてます!」
エステルが安心させるように大きく頷き、湖上を指差した。エステルが出したものよりも一回り大きな竜巻が水しぶきを上げながら水面を走ってゆく。
「よかった……! ようし、これでとりあえずは雑魔退治ですね!」
アシェールはエステルの言葉と目の前の光景にホッと息をついてから、キッと表情をひきしめてギャアギャアと騒ぐ水鳥たちに狙いを定めた。
「雑魔退治……? わ、わたくし忘れてません、ちゃんと覚えてます。雑魔に向かってGOなのです」
エステルはハッとして自分が先ほど発生させた竜巻を見た。すでにそれは消えかかっていて、新たに発生させる必要がありそうだった。次は長いリボンを、と思い、マイヤワンドを錬金杖に持ち替える。
「よかったら、協力して雑魔を退治しませんか? 竜巻をふたつ合わせる動きの確認にもなりますし」
「! はい、是非! お仲間と竜巻を合わせることについては、わたくしも考えていたのです!」
アシェールからの協力の申し出に、エステルはこくこくと頷いた。
「私は『術者やアイテムの能力によって制御に違いが出るか』を重点的に確かめたい」
真はそう宣言し、マギステルであるマチルダに比較の協力を頼みに行った。
「フライングシスティーナ号の防御に使うのなら、誰が使うと上手く制御できるかとか、緊急時に誰が使えるのかを知っておく必要があるかなと思って」
「うん、そうだね。ちゃんと知っておかないとだよね。それにしても……、魔法のオーダーメイドって贅沢」
マチルダがふふふ、と笑った。フライングシスティーナ号を守るための魔法、という要求をしたノセヤには「オーダーメイド」などという大げさな意識はきっとなかったであろうことを考えるとなお、おかしな気持ちになる。
「ホントにね。……ところで、それは何をしているのかな」
真が、マチルダの手元を覗き込んだ。何か袋の中に突っ込んで作業しているのが見える。
「これはね、煙をためてるの。手榴弾を使って。気流を見るのに少しづつ袋から煙を出して使うのよ」
「ああ、なるほど……! 気流には色がついていないからね」
「そういうこと」
マチルダの考えに感心しつつ、真はまず、短いリボンを敢えて魔術具ではない仕込み杖に結び、魔法を試してみた。
「うーん?」
水面がわずかに揺らいだような気がするが、竜巻と呼べるようなものは発生しない。マチルダに手渡し、同じように試してもらうと、揺らぎは真よりも大きくなり、渦らしきものが出来上がってきた。
「マギステルなら、仕込み杖でも発動は可能そうだね。でも、あっちで発生しているものと比べると、明らかに威力が劣るな」
真はアシェールたちが発生させている竜巻と見比べてそう言った。マチルダは手にしていたフルートを見下ろして苦笑する。
「ということは、フルートも同じ結果になりそうだね」
「スペルワンドに変えて、同じように試そう」
「私にも、手伝わせてくれ」
真と同じく術者ではないレイアが申し出て、真からスペルワンドを受け取った。三人で頷き合い、比較実験をいくつも開始する。
「試したいことはたくさんあるから、どんどんやろう。雑魔にはスリープクラウドをまずかけて……、悪いけどサンプルになってもらうね」
マチルダは逃げまどう水鳥に、狙いを定めた。
水鳥は、ハンターたちがそこここで放つ竜巻によってどんどん吹っ飛ばされていた。しかし、一撃で消えるものは少なく、吹き飛んだ先でギャアギャアと威嚇を続けている。
「やっぱり、殺傷の威力は低いみたいですね……、威力を上げるにはどうしたらいいか試しましょう」
アシェールがむう、と唸っている。リボンで棒状アイテムを二本まとめて結んでみる、リボンを結ぶ位置を変える、というのはすでに試したが、これはどちらもはかばかしい変化を見ることはできなかった。
「ふむ……」
そうした、他のハンターの実験の様子を注意深く観察していたのは、鳥である。彼女が一番に気にしていたのは、竜巻の射程と、どの程度の時間をかけて竜巻が大きくなるのか、ということだった。自らも竜巻を発生させつつ、他のハンターが発生させた竜巻とも比べて、数値を取ってゆく。
「二種の竜巻を合体させることは可能か。それも試してみたい」
「あ、是非わたくしと試しましょう!」
鳥の呟きに、エステルが笑顔を向ける。
「先ほど、アシェールさんと協力攻撃を試したんですが、そのときは竜巻で挟み撃ちにする形だったのです。合体は、まだ試していませんから、是非!」
「それは是非ともお願いしたい。しかし、私は問う。実験の前に。挟み撃ちにする方法の結果がどのようなものであったのかを」
鳥がぐっと身を乗り出した。それもまた、鳥が試してみたいことのひとつだったのである。エステルは釣られて少し身をのけ反らせつつ、結果について話し出した。
「は、はい。水鳥たちは、逃げ場を失うような形になりました。両側からバチバチと竜巻に弾かれて、なんと言えばいいでしょう……、ドリルにえぐられるようにして消えました。ひとつだけでは殺傷能力の低い小さな竜巻でも、挟み撃ちにしたときには他の魔法でトドメを刺す必要もなく倒すことができましたよ」
「水鳥が消えた後は、そのふたつの竜巻もお互いを弾き合って消えてしまいましたけどねー!」
エステルの説明に、アシェールが補足として口を挟んだ。なるほど、と鳥は考えこんだ。
「竜巻がお互いを弾き合ってしまうということは、合体は不可能であろうか」
「それ、たぶん、竜巻の渦の方向が逆だったからなんじゃないかな?」
鳥の後ろから、マチルダが現れてそう言った。
「マチルダさんの言う通りだと思うのです! ここに、記録を取ってありますよ」
エステルが自作の表を見せた。縦欄には大きさ、横には風の巻いている向きを掻きこめるようになっており、非常にわかりやすかった。
「竜巻の合体をやるの? それは私も興味があるな」
「ああ、私もだ」
真とレイアも集まってきた。竜巻の合体は、真にとっても試してみたいことのひとつだったようだ。いつの間にか、アメリアも来ていて、わくわくとした様子で立っていた。完全に、見学の様相だ。
「では、やってみるとするか」
鳥は霊杖を構え、風の吹く流れを取り込むようにして風が渦巻くイメージを念じた。涼やかな声の呪文詠唱がそのイメージを昇華し、『風巻く竜』を華麗に出現させる。エステルが、その鳥の発生させた竜巻の向きを確認しながら、少し離れたところに同じ向きの竜巻を出現させた。
「ゆっくりといきましょう」
「ああ」
ふたりは目配せをし、頷き合って、少しずつ竜巻を近づけて行った。上部から順番に、ふたつの竜巻が触れ合ってゆくと。
「融合しはじめましたねーえ」
アメリアの嬉しそうな言葉通り、ふたつの竜巻はどんどんひとつになっていった。渦の大きさが、ぐっと広がる。
「大きくなります!」
アシェールが叫ぶ。マチルダが、袋の中から煙を流しながら言う。
「大きさだけじゃないよ、回転速度……、風の速さも増してる! つまり、威力も大きくなってるってことだね」
「どんどん水鳥が巻きこまれて、消えていく……、殺傷能力も上がってるってことか」
マチルダの言葉に頷きながら、真も呟く。
「ぐ……、でも、凄く、重い、ですっ」
腕をぷるぷるさせて、エステルが呻いた。鳥も少々苦しそうな表情で頷く。
「私は言わざるを得ない。この竜巻をコントロールすることは難しいと」
ふたりの言葉の通り、巨大な竜巻は移動することなくその場でぐるぐると回転を続けていた。湖水が風に押され、まるで深くえぐれているようになっている。移動のできないままの竜巻は、次第に細くなり……、消えた。
「ふーむ、合体させ、大きくて威力のある竜巻にすることはできても、移動と維持は難しいようですねーえ。いやいいデータが取れました、ありがとうございます」
アメリアがほくほくした口調で言った。
「おや。随分と湖も静かになったではありませんか」
今の、合体竜巻で一掃されたらしい。水鳥の雑魔は、すっかり、姿を消していた。
「私は、動かし方による竜巻との連動具合を主に試したんだけど……、杖で鍋をかき混ぜるみたいにしてみたりとか……、でも、回転速度とか威力については、あまり動きが関係ないみたい」
実験がひと段落し、マチルダが丁寧に作成したメモを見せながら結果をアメリアに報告していた。他のハンターたちもそれぞれしっかり記録を取っていて、順次アメリアに提出していく。それらすべてを、アメリアはとても嬉しそうに眺めた。
「皆さん、ありがとうございます。ふむ、やはり移動は杖を動かしたい方に平行移動でよいようですね。杖の傾きに対して竜巻が傾くかどうか、それは私も気にしていたのですが、ふむ、この様子だと傾きはあまり反映されないのですねーえ」
熱心にメモを読んでいくアメリアの姿は、研究者というよりも新しい遊びに夢中になる子どものようだった。なんだか微笑ましいとすら思えてしまって、アシェールはこっそりと笑う。その笑いを隠しながら、アシェールはアメリアに質問した。
「アメリアさんも私も魔術師ではありますが……例えば、符術や法術、機導術なんか、他の術と組み合わせての研究とかもできるのですか?」
「はい、可能だと考えていますよーお。実はもう進めている研究もあるのですがねーえ、まだ具体的な実験には移せない段階のものが多いですねーえ」
アメリアは深くフードをかぶった頭を何度も動かして答えた。
「実験段階になったらまた是非、皆さんにご協力願いたいものですねーえ」
「是非!」
「もちろん!」
この言葉に、あちらこちらから挙手があり、アメリアはフードの下で破顔した。そのためには。研究を続けるためには、この竜巻でなんとしても、未来を守らねばならないと、そう思いながら。
アメリアの心にも、強く激しい風の竜が、住んでいるかのようだった。
「前回は雲。今回は風。なんだか、魔術師っぽい事している気がします!」
アシェ-ル(ka2983)がはしゃいだような声を出すと、レイア・アローネ(ka4082)が微笑んで頷いた。
「魔法を使って雑魔退治なんて初めてだ。不謹慎かもしれないが、少し楽しみだな」
「魔法よりは、剣の方が得意なんだけどね」
そう言いながら肩をすくめて見せるのは鞍馬 真(ka5819)だ。
「とはいえ、純粋な術師じゃない私だからこそ試せることもあるよね」
「そうだな。術士でない私と鞍馬はいいサンプルになるだろう」
真とレイアが頷き合うと、アメリアは深くかぶったフードの下で嬉しそうに笑った。
「おふたりとも、期待しておりますよーお。もちろん、他の皆様にもねーえ」
そしてアメリアは、今回の魔法の発動に不可欠なアイテム……リボンを取り出して見せた。エステル・ソル(ka3983)が目を輝かせる。
「リボンで術が使えるようになるのですか? すごいのです!」
「魔法陣を描く、スタンダードな方法の方が、実は威力が大きいことがわかっているのですがねーえ、船上にいくつも魔法陣を描くわけにはいきませんからねーえ」
アメリアの言葉に、数名が頷いた。フライングシスティーナ号を飛ばすために必要な雲の魔法において、魔法陣を描くことは必須だ。同じだけの手間をこの魔法にも強いられるとすると、細かな考察をするまでもなく面倒であり、実戦での使用は諦めなければならない。
「リボンで誰でも竜巻使いね」
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が微笑み、雨を告げる鳥(ka6258)は感慨深そうに呟いた。
「気象現象を操る。空の研究所を設立したことで公にできた魔法であろう」
長きに渡り「空の研究所」の活動を助けてきたふたりは、至極落ち着いている……ように見えた。しかし実際は、新しい魔法に触れられる喜びに誰よりも心を浮き立たせていたのだった。
リボンは短いものと長いものの二種類。どう使い分けていくかも、実験のポイントのひとつだと誰もが考えていたようだ。
「最初は長いリボンは錬金杖に、短いリボンはマイヤワンドに……」
エステルがそう呟きながら丁寧にリボンを結んでいる。後でリボンを付け替え、使用感の変化を確認するつもりでいた。
まずは、短いリボンを結んだマイヤワンドを湖に向かって構え、呪文を唱えた。
「あっ、すごーい! 本当に竜巻が起きました!」
水面に渦を作りながら、竜巻がまさしく風の竜のようにひょおおお、と立ちのぼった。エステルはパッと笑顔になって感動を示したが、すぐにマイヤワンドを操って操作感を確かめにかかった。
「ふむふむ、小回りはききますね、確かに」
エステルは、湖上で竜巻の向きをくるくると変えさせた。特に大きな抵抗感はなく、手にも負担はほとんどない。
「そういえば、リボンには使用回数があるのでしょうか? 回数を数えておくのです」
回数は大切なデータになる。エステルが忘れないようにしないと、と呟いたとき。
「……海を揺らし、大地を削り、森を騒めかせる、世界を廻る力。今ここに姿を現し、我が敵を砕け!」
すぐ隣から、アシェールの気合の入った呪文が聞こえてきた。
「で、できてます? ちゃんと竜巻出てます?」
エステルの視線に気が付いて、アシェールは不安げな表情を向ける。
「大丈夫ですよ! ちゃんと竜巻できてます!」
エステルが安心させるように大きく頷き、湖上を指差した。エステルが出したものよりも一回り大きな竜巻が水しぶきを上げながら水面を走ってゆく。
「よかった……! ようし、これでとりあえずは雑魔退治ですね!」
アシェールはエステルの言葉と目の前の光景にホッと息をついてから、キッと表情をひきしめてギャアギャアと騒ぐ水鳥たちに狙いを定めた。
「雑魔退治……? わ、わたくし忘れてません、ちゃんと覚えてます。雑魔に向かってGOなのです」
エステルはハッとして自分が先ほど発生させた竜巻を見た。すでにそれは消えかかっていて、新たに発生させる必要がありそうだった。次は長いリボンを、と思い、マイヤワンドを錬金杖に持ち替える。
「よかったら、協力して雑魔を退治しませんか? 竜巻をふたつ合わせる動きの確認にもなりますし」
「! はい、是非! お仲間と竜巻を合わせることについては、わたくしも考えていたのです!」
アシェールからの協力の申し出に、エステルはこくこくと頷いた。
「私は『術者やアイテムの能力によって制御に違いが出るか』を重点的に確かめたい」
真はそう宣言し、マギステルであるマチルダに比較の協力を頼みに行った。
「フライングシスティーナ号の防御に使うのなら、誰が使うと上手く制御できるかとか、緊急時に誰が使えるのかを知っておく必要があるかなと思って」
「うん、そうだね。ちゃんと知っておかないとだよね。それにしても……、魔法のオーダーメイドって贅沢」
マチルダがふふふ、と笑った。フライングシスティーナ号を守るための魔法、という要求をしたノセヤには「オーダーメイド」などという大げさな意識はきっとなかったであろうことを考えるとなお、おかしな気持ちになる。
「ホントにね。……ところで、それは何をしているのかな」
真が、マチルダの手元を覗き込んだ。何か袋の中に突っ込んで作業しているのが見える。
「これはね、煙をためてるの。手榴弾を使って。気流を見るのに少しづつ袋から煙を出して使うのよ」
「ああ、なるほど……! 気流には色がついていないからね」
「そういうこと」
マチルダの考えに感心しつつ、真はまず、短いリボンを敢えて魔術具ではない仕込み杖に結び、魔法を試してみた。
「うーん?」
水面がわずかに揺らいだような気がするが、竜巻と呼べるようなものは発生しない。マチルダに手渡し、同じように試してもらうと、揺らぎは真よりも大きくなり、渦らしきものが出来上がってきた。
「マギステルなら、仕込み杖でも発動は可能そうだね。でも、あっちで発生しているものと比べると、明らかに威力が劣るな」
真はアシェールたちが発生させている竜巻と見比べてそう言った。マチルダは手にしていたフルートを見下ろして苦笑する。
「ということは、フルートも同じ結果になりそうだね」
「スペルワンドに変えて、同じように試そう」
「私にも、手伝わせてくれ」
真と同じく術者ではないレイアが申し出て、真からスペルワンドを受け取った。三人で頷き合い、比較実験をいくつも開始する。
「試したいことはたくさんあるから、どんどんやろう。雑魔にはスリープクラウドをまずかけて……、悪いけどサンプルになってもらうね」
マチルダは逃げまどう水鳥に、狙いを定めた。
水鳥は、ハンターたちがそこここで放つ竜巻によってどんどん吹っ飛ばされていた。しかし、一撃で消えるものは少なく、吹き飛んだ先でギャアギャアと威嚇を続けている。
「やっぱり、殺傷の威力は低いみたいですね……、威力を上げるにはどうしたらいいか試しましょう」
アシェールがむう、と唸っている。リボンで棒状アイテムを二本まとめて結んでみる、リボンを結ぶ位置を変える、というのはすでに試したが、これはどちらもはかばかしい変化を見ることはできなかった。
「ふむ……」
そうした、他のハンターの実験の様子を注意深く観察していたのは、鳥である。彼女が一番に気にしていたのは、竜巻の射程と、どの程度の時間をかけて竜巻が大きくなるのか、ということだった。自らも竜巻を発生させつつ、他のハンターが発生させた竜巻とも比べて、数値を取ってゆく。
「二種の竜巻を合体させることは可能か。それも試してみたい」
「あ、是非わたくしと試しましょう!」
鳥の呟きに、エステルが笑顔を向ける。
「先ほど、アシェールさんと協力攻撃を試したんですが、そのときは竜巻で挟み撃ちにする形だったのです。合体は、まだ試していませんから、是非!」
「それは是非ともお願いしたい。しかし、私は問う。実験の前に。挟み撃ちにする方法の結果がどのようなものであったのかを」
鳥がぐっと身を乗り出した。それもまた、鳥が試してみたいことのひとつだったのである。エステルは釣られて少し身をのけ反らせつつ、結果について話し出した。
「は、はい。水鳥たちは、逃げ場を失うような形になりました。両側からバチバチと竜巻に弾かれて、なんと言えばいいでしょう……、ドリルにえぐられるようにして消えました。ひとつだけでは殺傷能力の低い小さな竜巻でも、挟み撃ちにしたときには他の魔法でトドメを刺す必要もなく倒すことができましたよ」
「水鳥が消えた後は、そのふたつの竜巻もお互いを弾き合って消えてしまいましたけどねー!」
エステルの説明に、アシェールが補足として口を挟んだ。なるほど、と鳥は考えこんだ。
「竜巻がお互いを弾き合ってしまうということは、合体は不可能であろうか」
「それ、たぶん、竜巻の渦の方向が逆だったからなんじゃないかな?」
鳥の後ろから、マチルダが現れてそう言った。
「マチルダさんの言う通りだと思うのです! ここに、記録を取ってありますよ」
エステルが自作の表を見せた。縦欄には大きさ、横には風の巻いている向きを掻きこめるようになっており、非常にわかりやすかった。
「竜巻の合体をやるの? それは私も興味があるな」
「ああ、私もだ」
真とレイアも集まってきた。竜巻の合体は、真にとっても試してみたいことのひとつだったようだ。いつの間にか、アメリアも来ていて、わくわくとした様子で立っていた。完全に、見学の様相だ。
「では、やってみるとするか」
鳥は霊杖を構え、風の吹く流れを取り込むようにして風が渦巻くイメージを念じた。涼やかな声の呪文詠唱がそのイメージを昇華し、『風巻く竜』を華麗に出現させる。エステルが、その鳥の発生させた竜巻の向きを確認しながら、少し離れたところに同じ向きの竜巻を出現させた。
「ゆっくりといきましょう」
「ああ」
ふたりは目配せをし、頷き合って、少しずつ竜巻を近づけて行った。上部から順番に、ふたつの竜巻が触れ合ってゆくと。
「融合しはじめましたねーえ」
アメリアの嬉しそうな言葉通り、ふたつの竜巻はどんどんひとつになっていった。渦の大きさが、ぐっと広がる。
「大きくなります!」
アシェールが叫ぶ。マチルダが、袋の中から煙を流しながら言う。
「大きさだけじゃないよ、回転速度……、風の速さも増してる! つまり、威力も大きくなってるってことだね」
「どんどん水鳥が巻きこまれて、消えていく……、殺傷能力も上がってるってことか」
マチルダの言葉に頷きながら、真も呟く。
「ぐ……、でも、凄く、重い、ですっ」
腕をぷるぷるさせて、エステルが呻いた。鳥も少々苦しそうな表情で頷く。
「私は言わざるを得ない。この竜巻をコントロールすることは難しいと」
ふたりの言葉の通り、巨大な竜巻は移動することなくその場でぐるぐると回転を続けていた。湖水が風に押され、まるで深くえぐれているようになっている。移動のできないままの竜巻は、次第に細くなり……、消えた。
「ふーむ、合体させ、大きくて威力のある竜巻にすることはできても、移動と維持は難しいようですねーえ。いやいいデータが取れました、ありがとうございます」
アメリアがほくほくした口調で言った。
「おや。随分と湖も静かになったではありませんか」
今の、合体竜巻で一掃されたらしい。水鳥の雑魔は、すっかり、姿を消していた。
「私は、動かし方による竜巻との連動具合を主に試したんだけど……、杖で鍋をかき混ぜるみたいにしてみたりとか……、でも、回転速度とか威力については、あまり動きが関係ないみたい」
実験がひと段落し、マチルダが丁寧に作成したメモを見せながら結果をアメリアに報告していた。他のハンターたちもそれぞれしっかり記録を取っていて、順次アメリアに提出していく。それらすべてを、アメリアはとても嬉しそうに眺めた。
「皆さん、ありがとうございます。ふむ、やはり移動は杖を動かしたい方に平行移動でよいようですね。杖の傾きに対して竜巻が傾くかどうか、それは私も気にしていたのですが、ふむ、この様子だと傾きはあまり反映されないのですねーえ」
熱心にメモを読んでいくアメリアの姿は、研究者というよりも新しい遊びに夢中になる子どものようだった。なんだか微笑ましいとすら思えてしまって、アシェールはこっそりと笑う。その笑いを隠しながら、アシェールはアメリアに質問した。
「アメリアさんも私も魔術師ではありますが……例えば、符術や法術、機導術なんか、他の術と組み合わせての研究とかもできるのですか?」
「はい、可能だと考えていますよーお。実はもう進めている研究もあるのですがねーえ、まだ具体的な実験には移せない段階のものが多いですねーえ」
アメリアは深くフードをかぶった頭を何度も動かして答えた。
「実験段階になったらまた是非、皆さんにご協力願いたいものですねーえ」
「是非!」
「もちろん!」
この言葉に、あちらこちらから挙手があり、アメリアはフードの下で破顔した。そのためには。研究を続けるためには、この竜巻でなんとしても、未来を守らねばならないと、そう思いながら。
アメリアの心にも、強く激しい風の竜が、住んでいるかのようだった。
依頼結果
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面白かった! | 8人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/03/28 19:49:19 |
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相談卓 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/03/28 21:18:39 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/27 00:05:52 |